(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】めっき装置およびめっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/10 20060101AFI20221019BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20221019BHJP
C25D 17/00 20060101ALI20221019BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20221019BHJP
C25D 19/00 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
C25D17/10 Z
C25D17/10 B
C25D17/10 C
C25D21/12 J
C25D17/00 H
C25D21/00 J
C25D19/00 B
(21)【出願番号】P 2022523945
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2021020855
【審査請求日】2022-04-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【氏名又は名称】大房 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直人
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特公昭32-002655(JP,B1)
【文献】特開2021-011624(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0041227(KR,A)
【文献】特開2007-308783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持するように構成された基板ホルダと、
前記基板を保持した前記基板ホルダを収容するように構成されためっき槽であって、前記基板の第1面側の第1槽と前記基板の第2面側の第2槽を備え、前記第1槽と前記第2槽はギャップを介して連通する、めっき槽と、
前記めっき槽の前記第1槽に配置された第1アノード電極と、
前記基板と前記第1アノード電極の間にめっき電流を供給するように構成された第1電源と、
前記ギャップの前記第1槽側に配置された補助アノード電極と、
前記ギャップの前記第2槽側に配置された補助カソード電極と、
前記補助アノード電極と前記補助カソード電極の間に
直流の補助電流を供給するように構成された補助電源と、
を備えるめっき装置。
【請求項2】
前記補助電流は、前記基板の前記第1面における過電圧を、前記補助アノード電極と前記補助カソード電極の間の電解液の抵抗値で除した電流値に設定される、請求項1に記載のめっき装置。
【請求項3】
前記めっき槽の前記第2槽に配置された第2アノード電極と、
前記基板と前記第2アノード電極の間にめっき電流を供給するように構成された第2電源であって、前記第2電源からの電流は、前記基板の前記第2面における過電圧が前記基板の前記第1面における過電圧よりも小さくなるように設定される、第2電源と、
をさらに備える、請求項1に記載のめっき装置。
【請求項4】
前記補助電流は、前記基板の前記第1面における過電圧と前記基板の前記第2面における過電圧との差を、前記補助アノード電極と前記補助カソード電極の間の電解液の抵抗値で除した電流値に設定される、請求項3に記載のめっき装置。
【請求項5】
前記基板の前記第1面近傍に配置された、前記基板の前記第1面における過電圧を計測するための第1参照電極と、
前記基板の前記第2面近傍に配置された、前記基板の前記第2面における過電圧を計測するための第2参照電極と、
をさらに備え、前記補助電流は、前記第1参照電極を用いて計測された過電圧と前記第2参照電極を用いて計測された過電圧に基づいて制御される、
請求項4に記載のめっき装置。
【請求項6】
前記補助電流は、前記第1電源から供給される電流の測定値と前記第2電源から供給される電流の測定値に基づいて制御される、請求項4に記載のめっき装置。
【請求項7】
前記補助電流は、前記基板の前記第1面における電流密度と前記基板の前記第2面における電流密度との差に基づいて制御される、請求項6に記載のめっき装置。
【請求項8】
前記補助アノード電極と前記めっき槽の前記第1槽の間および前記補助カソード電極と前記めっき槽の前記第2槽の間に、イオンを選択的に透過させるように構成された隔膜を備える、請求項1から7のいずれか1項に記載のめっき装置。
【請求項9】
前記ギャップは、屈曲した通路によって前記第1槽と前記第2槽を連通する、請求項1から8のいずれか1項に記載のめっき装置。
【請求項10】
前記基板は前記第1面と前記第2面が導通した基板である、請求項1から9のいずれか1項に記載のめっき装置。
【請求項11】
めっき装置において基板をめっきするための方法であって、
前記めっき装置は、
前記基板を保持するように構成された基板ホルダと、
前記基板を保持した前記基板ホルダを収容するように構成されためっき槽であって、前記基板の第1面側の第1槽と前記基板の第2面側の第2槽を備え、前記第1槽と前記第2槽はギャップを介して連通する、めっき槽と、
を備え、前記方法は、
前記めっき槽の前記第1槽に配置された第1アノード電極と前記基板との間に、第1電源からめっき電流を供給すること、および
前記ギャップの前記第1槽側に配置された補助アノード電極と前記ギャップの前記第2槽側に配置された補助カソード電極との間に、補助電源から
直流の補助電流を供給すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき装置およびめっき方法に関し、より具体的には、めっき膜厚を均一化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや電子素子用基板の表面にCu等の金属めっき膜を形成することが行われている。たとえば、基板ホルダにめっき対象である基板を保持し、めっき液を収容しためっき槽中に基板ホルダごと基板を浸漬させて電気めっきを行うことがある。基板ホルダは、基板のめっき面を露出するように基板を保持する。めっき液中において、基板の露出面に対応するようにアノードが配置され、基板とアノードとの間に電圧を付与して基板の露出面に電気めっき膜を形成することができる。
【0003】
基板の両方の面にめっきを施すため表裏の両面に開口部が設けられている基板ホルダが存在する。たとえば、1枚の基板の表面および裏面の両方が露出するように基板を保持する基板ホルダがある。
【0004】
この様に表裏の両面に開口部が設けられている基板ホルダを使用してめっき処理を行う場合、基板ホルダとめっき槽との間に大きな隙間が存在することがある。基板ホルダとめっき槽との間に大きな隙間が存在すると、アノードから基板へ向かう電場に回り込みが発生し得る。たとえば、アノードから、該アノードに対向する基板ホルダに保持された基板の表面へ向かう電場の一部が、基板ホルダに保持された基板の裏面へ回り込むことがある。電場の回り込みが発生すると、基板に均一な厚さのめっき膜を形成することが困難になる。特許文献1には、このような電場の回り込みを、物理的・機械的な構造を用いて遮蔽するように構成されためっき装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、物理的・機械的な構造によらずに電場の回り込みを防止または緩和するめっき装置およびめっき方法を提供することを1つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、基板を保持するように構成された基板ホルダと、前記基板を保持した前記基板ホルダを収容するように構成されためっき槽であって、前記基板の第1面側の第1槽と前記基板の第2面側の第2槽を備え、前記第1槽と前記第2槽はギャップを介して連通する、めっき槽と、前記めっき槽の前記第1槽に配置された第1アノード電極と、前記基板と前記第1アノード電極の間にめっき電流を供給するように構成された第1電源と、前記ギャップの前記第1槽側に配置された補助アノード電極と、前記ギャップの前記第2槽側に配置された補助カソード電極と、前記補助アノード電極と前記補助カソード電極の間に補助電流を供給するように構成された補助電源と、を備えるめっき装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るめっき装置の全体配置図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る1つのめっき槽の構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る1つのめっき槽の構成を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る1つのめっき槽の構成を示す模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るめっき槽内を流れるめっき電流を模式的に表した図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るめっき槽内を流れるめっき電流と補助電流を模式的に表した図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るめっき槽の等価回路を表す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るめっき槽の等価回路を表す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るめっき槽の等価回路を表す図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るめっき槽の等価回路を表す図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るめっき槽の等価回路を表す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係るめっき槽の等価回路を表す図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係るめっき槽における、隔壁とギャップを含む部分の一構成例を示す図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係るめっき槽における、隔壁とギャップを含む部分の別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する図面において、同一の又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るめっき装置100の全体配置図である。めっき装置100は、基板ホルダ(不図示)に基板をロードし、又は基板ホルダから基板をアンロードするロード/アンロードモジュール110と、基板を処理する処理モジュール120と、洗浄モジュール50aとに大きく分けられる。処理モジュール120は、さらに、基板の前処理及び後処理を行う前処理・後処理モジュール120Aと、基板にめっき処理を行うめっき処理モジュール120Bとを含む。
【0011】
ロード/アンロードモジュール110は、ハンドリングステージ26と、基板搬送装置27と、フィキシングステーション29とを有する。一例として、本実施形態では、ロード/アンロードモジュール110は、処理前の基板を取り扱うロード用のハンドリングステージ26Aと、処理後の基板を取り扱うアンロード用のハンドリングステージ26Bとの、2つのハンドリングステージ26を有している。本実施形態では、ロード用のハンドリングステージ26Aと、アンロード用のハンドリングステージ26Bとは、構成は同一であり、互いに180°向きが異なって配置されている。なお、ハンドリングステージ26は、ロード用、アンロード用のハンドリングステージ26A,26Bが設けられるものに限定されず、それぞれロード用、アンロード用と区別されずに使用されてもよい。また、本実施形態では、ロード/アンロードモジュール110は、2つのフィキシングステーション29を有している。2つのフィキシングステーション29は、同一の機構であり、空いている方(基板を取り扱っていない方)が使用される。なお、ハンドリングステージ26とフィキシングステーション29とのそれぞれは、めっき装置100におけるスペースに応じて、1つ、又は3つ以上が設けられてもよい。
【0012】
ハンドリングステージ26(ロード用のハンドリングステージ26A)には、ロボット24を通じて複数(一例として
図1では3つ)のカセットテーブル25から基板が搬送される。カセットテーブル25は、基板が収容されるカセット25aを備える。カセットは例えばフープである。ハンドリングステージ26は、載置された基板の位置および向きを調整(アライメント)するように構成される。ハンドリングステージ26とフィキシングステーション29との間には、これらの間で基板を搬送する基板搬送装置27が配置されている。基板搬送装置27は、ハンドリングステージ26、フィキシングステーション29、および洗浄モジュール50aの間で、基板を搬送するように構成されている。また、フィキシングステーション29の近傍には基板ホルダを収容するためのストッカ30が設けられる。
【0013】
洗浄モジュール50aは、めっき処理後の基板を洗浄して乾燥させる洗浄装置50を有する。基板搬送装置27は、めっき処理後の基板を洗浄装置50に搬送し、洗浄された基板を洗浄装置50から取り出すように構成される。そして、洗浄後の基板は、基板搬送装置27によってハンドリングステージ26(アンロード用のハンドリングステージ26B)に渡され、ロボット24を通じてカセット25aへ戻される。
【0014】
前処理・後処理モジュール120Aは、プリウェット槽32と、プリソーク槽33と、プリリンス槽34と、ブロー槽35と、リンス槽36と、を有する。プリウェット槽32では、基板が純水に浸漬される。プリソーク槽33では、基板の表面に形成したシード層等の導電層の表面の酸化膜がエッチング除去される。プリリンス槽34では、プリソーク後の基板が基板ホルダと共に洗浄液(純水等)で洗浄される。ブロー槽35では、洗浄後の基板の液切りが行われる。リンス槽36では、めっき後の基板が基板ホルダと共に洗浄液で洗浄される。なお、このめっき装置100の前処理・後処理モジュール120Aの構成は一例であり、めっき装置100の前処理・後処理モジュール120Aの構成は限定されず、他の構成を採用することが可能である。
【0015】
めっき処理モジュール120Bは、例えば、オーバーフロー槽38の内部に複数のめっき槽39を収納して構成されている。各めっき槽39は、内部に1つの基板を収納し、内部に保持しためっき液中に基板を浸漬させて基板表面に銅めっき等のめっきを施すように構成される。
【0016】
めっき装置100は、前処理・後処理モジュール120Aとめっき処理モジュール120Bとの側方に位置して基板ホルダを基板とともに搬送する、例えばリニアモータ方式を採用したトランスポータ37を有する。このトランスポータ37は、フィキシングステーション29、ストッカ30、プリウェット槽32、プリソーク槽33、プリリンス槽34、ブロー槽35、リンス槽36、及びめっき槽39の間で基板ホルダを搬送するように構成される。
【0017】
このめっき装置100による一連のめっき処理の一例を説明する。まず、カセットテーブル25に搭載したカセット25aから、ロボット24で基板を1つ取出し、ハンドリングステージ26(ロード用のハンドリングステージ26A)に基板を搬送する。ハンドリングステージ26は、搬送された基板の位置および向きを所定の位置および向きに合わせる。このハンドリングステージ26で位置および向きを合わせた基板を基板搬送装置27でフィキシングステーション29まで搬送する。
【0018】
一方、ストッカ30内に収容されていた基板ホルダが、トランスポータ37によってフィキシングステーション29まで搬送され、フィキシングステーション29の上に水平に載置される。そして、この状態の基板ホルダの上に、基板搬送装置27によって搬送されてきた基板が載置され、基板と基板ホルダが接続される。
【0019】
次に、基板を保持した基板ホルダをトランスポータ37で把持し、プリウェット槽32に収納する。次に、プリウェット槽32で処理された基板を保持した基板ホルダを、トランスポータ37でプリソーク槽33に搬送し、プリソーク槽33で基板上の酸化膜をエッチングする。続いて、この基板を保持した基板ホルダを、プリリンス槽34に搬送し、このプリリンス槽34に収納された純水で基板の表面を水洗する。
【0020】
水洗が終了した基板を保持した基板ホルダは、トランスポータ37により、プリリンス槽34からめっき処理モジュール120Bに搬送され、めっき液を満たしためっき槽39に収納される。トランスポータ37は、上記の手順を順次繰り返し行って、基板を保持した基板ホルダを順次めっき処理モジュール120Bの各々のめっき槽39に収納する。
【0021】
各々のめっき槽39では、めっき槽39内のアノード(図示せず)と基板との間にめっき電圧を印加することで、基板の表面にめっきを行う。
【0022】
めっきが終了した後、めっき後の基板を保持した基板ホルダをトランスポータ37で把持し、リンス槽36まで搬送し、リンス槽36に収容された純水に浸漬させて基板の表面を純水洗浄する。次に、基板ホルダを、トランスポータ37によってブロー槽35に搬送し、エアーの吹き付け等によって基板ホルダに付着した水滴を除去する。その後、基板ホルダを、トランスポータ37によってフィキシングステーション29に搬送する。
【0023】
フィキシングステーション29では、基板搬送装置27によって基板ホルダから処理後の基板が取り出され、洗浄モジュール50aの洗浄装置50に搬送される。洗浄装置50は、めっき処理後の基板を洗浄して乾燥させる。乾燥した基板は、基板搬送装置27によってハンドリングステージ26(アンロード用のハンドリングステージ26B)に渡され、ロボット24を通じてカセット25aに戻される。
【0024】
図2~
図4は、めっき処理モジュール120Bにおける1つのめっき槽39の構成を示す模式図である。
図3は、めっき槽39を
図2中のAA面で切断し矢印A方向から見た様子を示し、
図4は、めっき槽39を
図2中のBB面で切断し矢印B方向から見た様子を示している。めっき処理モジュール120Bにおける各めっき槽39は、
図2~
図4に示されているのと同じ構成を有している。
【0025】
前述したように、基板Wを保持した基板ホルダ30は、トランスポータ37(
図1参照)によって搬送されて、めっき槽39に収容される。めっき槽39において、基板Wおよび基板ホルダ30はめっき液(電解液)Q中に浸漬される。
図3および
図4に示す水平な線QSはめっき液Qの液面を表している。めっき槽39の内壁および内底部には、基板Wの面と平行に、かつ基板Wおよび基板ホルダ30と同一平面をなすように、隔壁39aが設けられている。隔壁39aは、基板Wおよび基板ホルダ30と一体となって、めっき槽39の内側を2つの部分、すなわち第1槽39-1と第2槽39-2に区画する。
【0026】
隔壁39aの一方の端部は、めっき槽39の内壁および内底部に連結している(例えば、隔壁39aとめっき槽39の内壁および内底部は隙間無く繋がっている)。一方、隔壁39aの反対側の端部と基板ホルダ30の外周との間には、ギャップGPが存在する。例えば、基板ホルダ30は、隔壁39aと接触しないように不図示の支持機構によって支持または懸架され、それによって、
図3および4に示されるような、基板ホルダ30の外周全体にわたるギャップGPが形成されるのであってよい。あるいは、隔壁39aは、その一部が基板ホルダ30と接触するような形状を有してもよく、その場合には、基板ホルダ30の外周に部分的にギャップGPが形成される。
【0027】
めっき槽39内の基板ホルダ30と隔壁39aの間にこのようなギャップGPが存在することにより、めっき槽39の第1槽39-1と第2槽39-2は互いに完全には隔離されていない。換言すれば、めっき槽39の第1槽39-1は、ギャップGPを介して第2槽39-2と連通しており、これにより、めっき液Qおよびめっき液Qに含まれるイオンが、ギャップGPを通って第1槽39-1と第2槽39-2の間を移動し得るようになっている。
【0028】
めっき槽39の第1槽39-1には、不図示のアノードホルダに保持された第1アノード電極221が配置される。第1アノード電極221は、第1電源231の正極に電気的に接続され、第1電源231の負極は、基板Wの第1槽39-1側を向いた面(以下、第1面W1と記す)に電気的に接続される。基板Wの第1面W1には、シード層などの導電性材料が形成されていてもよい。第1電源231は、第1アノード電極221と基板Wの第1面W1の間にめっき電流を供給するように構成される。
【0029】
同様に、めっき槽39の第2槽39-2には、不図示のアノードホルダに保持された第2アノード電極222が配置される。第2アノード電極222は、第2電源232の正極に電気的に接続され、第2電源232の負極は、基板Wの第2槽39-2側を向いた面(以下、第2面W2と記す)に電気的に接続される。基板Wの第2面W2には、シード層などの導電性材料が形成されていてもよい。第2電源232は、第2アノード電極222と基板Wの第2面W2の間にめっき電流を供給するように構成される。
【0030】
図5は、めっき槽39の第1槽39-1および第2槽39-2においてめっき液Q中を流れるめっき電流を模式的に表した図である。第1槽39-1において、第1アノード電極221から基板Wの第1面W1に向かって矢印IQ1で示すようにめっき電流が流れ、また第2槽39-2において、第2アノード電極222から基板Wの第2面W2に向かって矢印IQ2で示すようにめっき電流が流れる。ここで、基板Wの第1面W1と第2面W2が基板内部で導通している(例えば、基板Wの第1面W1と第2面W2がビアで接続されている)場合には、電流が基板ホルダ30とめっき槽39の隔壁39aの間のギャップGPを通って流れる電流経路が、めっき槽39内に形成され得る。例えば、第1槽39-1におけるめっき液Q中の電流密度が第2槽39-2におけるめっき液Q中の電流密度よりも大きければ、
図5に矢印IQ12で示すように、第1槽39-1側からギャップGPを通って第2槽39-2側へ回り込む電流が発生する。電流密度の大小関係が逆であれば
図5とは反対に第2槽39-2から第1槽39-1へ電流が漏れ出ることになるが、以下では
図5のような状況を想定して説明を行う。
【0031】
本実施形態に係るめっき装置100は、上記のような電流の回り込みを低減または防止するために、めっき槽39内に補助アノード電極241と補助カソード電極242を備えている。補助アノード電極241は、
図2および
図3に示されるように、ギャップGPの近傍であって、隔壁39aの第1槽39-1側の表面に設けられている。また、補助カソード電極242は、
図2および
図4に示されるように、ギャップGPの近傍であって、隔壁39aの第2槽39-2側の表面に設けられている。補助アノード電極241および補助カソード電極242は、
図3および
図4に示されるように、基板ホルダ30と隔壁39aの間に形成されたギャップGPの全周に沿うように配置されるのであってよい。しかしこのような配置は必須ではなく、補助アノード電極241と補助カソード電極242の一方または両方は、例えば、ギャップGPの一部分のみに沿って配置されてもよいし、あるいはギャップGPに沿って複数に分割して配置されてもよい。
【0032】
補助アノード電極241は、補助電源243の正極に電気的に接続され、補助カソード電極242は、補助電源243の負極に電気的に接続される。補助電源243は、ギャップGPを介して補助アノード電極241と補助カソード電極242の間に補助電流を供給するように構成される。
図6は、めっき槽39内を流れるめっき電流(
図5参照)と補助電流を模式的に表した図であり、この図に示されるように、補助電流は、基板ホルダ30と隔壁39aの間のギャップGP部分において、第1槽39-1側から第2槽39-2側に向かって流れる(矢印IQ3)。また補助電流は、ギャップGPの外側では、補助アノード電極241から基板Wの第1面W1に向かって(矢印IQ31)、および第2アノード電極222から補助カソード電極242に向かって(矢印IQ32)も流れる。この補助電流の成分IQ31およびIQ32の向きはめっき電流の回り込み成分IQ12の向きと反対方向であるため、両者が弱め合うまたは打ち消し合うことによって、第1槽39-1から第2槽39-2への正味の電流の流れ(すなわちめっき電流の回り込み)を低減または防止することができる。以下、めっき槽39の第1槽39-1から第2槽39-2へギャップGPを通って回り込むめっき電流を打ち消すことが可能な最適な補助電流の大きさについて説明する。
【0033】
図7および
図8は、本実施形態に係るめっき装置100におけるめっき槽39の等価回路を表す図である。この等価回路は、
図2に示された各要素が電気的にどのように互いに接続されているかの関係を示す。このうち
図7は、説明および理解の便宜のため、補助電流に関与する一部の要素を省略して描いた等価回路であり、一方
図8は、補助電流に関与する要素を含んだ完全な等価回路である。
【0034】
図7を参照して、第1アノード電極221における分極抵抗をR
A1、第1アノード電極221と基板Wの第1面W1との間におけるめっき液Qの抵抗をR
E1、基板Wの第1面W1(すなわちカソード)における分極抵抗をR
C1、基板Wの第1面W1の(例えばシード層の)抵抗をR
S1、ギャップGPの第1槽39-1側開口から第2槽39-2側開口までのめっき液Qの抵抗をR
IC、基板Wの第1面W1と第2面W2をつなぐ(例えばビアの)内部接続抵抗をR
IS、第2アノード電極222における分極抵抗をR
A2、第2アノード電極222と基板Wの第2面W2との間におけるめっき液Qの抵抗をR
E2、基板Wの第2面W2(すなわちカソード)における分極抵抗をR
C2、基板Wの第2面W2の(例えばシード層の)抵抗をR
S2とおく。また、第1電源231からの出力電流をI
1、I
1のうち基板Wの第1面W1へ流れる電流をI
1-1、I
1のうちギャップGPを通って第2槽39-2側へ流れる電流をI
1-2、第2電源232からの出力電流をI
2、I
2のうち基板Wの第2面W2へ流れる電流をI
2-1、I
2のうちギャップGPを通って第1槽39-1側へ流れる電流をI
2-2とする。ただしI
1=I
1-1+I
1-2、I
2=I
2-1+I
2-2である。
【0035】
このとき、
図7中に示す閉回路Cにおいて、キルヒホッフの法則より次式が成り立つ。
V
C1=V
C2+(R
IC+R
IS)・(I
1-2-I
2-2) ……(1)
【0036】
ただしVC1およびVC2はそれぞれ、基板Wの第1面W1と第2面W2におけるカソード反応(還元反応)の過電圧であり、VC1>VC2の関係があるものとする。なお、過電圧が小さい場合には過電圧は電流に比例するので、VC1=RC1・(I1-1+I2-2)、VC2=RC2・(I2-1+I1-2)と表せる。
【0037】
次に
図8に示されるように、補助電源243から補助アノード電極241と補助カソード電極242を介して補助電流I
auxを供給する。I
auxのうち、補助アノード電極241から基板Wの第1面W1へ向かう電流をI
aux-1、補助アノード電極241からギャップGPを通って第2槽39-2へ流れる電流をI
aux-2とする。ただしI
aux=I
aux-1+I
aux-2である。このとき、第1槽39-1からギャップGPへ流れ込む電流(およびギャップGPから第2槽39-2へ流れ出る電流)はI
1-2-I
2-2-I
aux-1と表すことができ、この電流がゼロであれば、第1槽39-1から第2槽39-2への正味の電流の流れは生じないことになる。すなわち、ギャップGPを介して第1槽39-1側から第2槽39-2側へ回り込むめっき電流を、補助電流I
auxを用いて打ち消すことができる条件は、次式のようになる。
I
1-2-I
2-2=I
aux-1 ……(2)
【0038】
上記の条件が満たされるとき、
図8の等価回路の各箇所における電流は、
図9に示した等価回路のように表される。上記の式(1)と同様に、
図9の閉回路Cにおいて、キルヒホッフの法則より次式が得られる。
V
C1-V
C2=R
IC・I
aux ……(3)
【0039】
したがって、式(3)が満たされるように補助電流Iauxを設定することにより、すなわち、基板Wの第1面W1における過電圧VC1と第2面W2における過電圧VC2との差を、補助アノード電極241と補助カソード電極242間の抵抗値RICで除した値に補助電流Iauxを設定することにより、めっき電流がギャップGPを通って第1槽39-1側から第2槽39-2側へ回り込むのを防止することができる。換言すれば、めっき電流の回り込みを防止できる補助電流Iauxの最適値は、(VC1-VC2)/RICと表される。式(3)は補助電流Iauxの最適値を示しているが、補助電流がこの最適値から多少ずれたとしても、めっき電流の回り込みを一定程度低減することは可能である。
【0040】
なお、式(3)において、基板Wの第1面W1における過電圧VC1と第2面W2における過電圧VC2の値は、基板Wの第1面W1と第2面W2の近傍にそれぞれ設置した参照電極(電位測定プローブ)を用いて、めっき電流を流さない時の平衡電位とめっき電流を流した時の反応中の電位を測定し、その電位の差から求めることができる。過電圧VC1およびVC2は、あらかじめテスト用基板に対して電位測定を行うことで求めた値をその後も永続的に用いることとしてもよいし、あるいは実際の製品用基板に対してリアルタイムで電位を測定することで時々刻々の過電圧VC1およびVC2を算出し、これを用いて補助電流Iauxをリアルタイムで調整するのであってもよい。
【0041】
また、式(3)における補助アノード電極241と補助カソード電極242間の抵抗値RICは、例えば、ギャップGPの寸法とめっき液Qの導電率を用いて算出することが可能である。
【0042】
過電圧VC1およびVC2が小さい場合は、過電圧は電流に比例するので、式(3)は次のように変形できる。ただし、Rp1、Rp2は単位面積当たりの分極抵抗であり、i1、i2は電流密度である。
Iaux=(RC1・I1-RC2・I2)/RIC ……(4)
=(Rp1・i1-Rp2・i2)/RIC ……(4’)
【0043】
さらに、単位面積当たりの分極抵抗Rp1、Rp2が等しい場合には、Rp=Rp1=Rp2とおくと、式(4’)は次のようになる。
Iaux=Rp/RIC・(i1-i2) ……(5)
【0044】
したがって、式(4)または式(5)を用いることにより、電流I1、I2または電流密度i1、i2の測定値から補助電流Iauxの最適値を決定することができる。なお、式(4)および(5)において、分極抵抗RC1、RC2、Rpの値は、例えば、あらかじめ参照電極を用いた測定により得られたIV曲線から導出することが可能である。
【0045】
以上の説明では、第1電源231から電流I1が出力され、第2電源232から電流I2が出力されるものとしたが、第2電源232からの出力電流はゼロであってもよい(すなわちI2=I2-1=I2-2=0)。例えば、第2電源232の出力が単に停止されてもよいし、あるいは、第2電源232および第2アノード電極222自体がめっき槽39から省略されてもよい。本実施形態に係るめっき装置100は、このように基板Wの片面(第1面W1)にのみめっき処理を行う場合にも適用し得る。
【0046】
図10~
図12は、第2電源232からの出力電流がゼロである場合のめっき槽39の等価回路を表す図であり、それぞれ前述の
図7~
図9に対応している。この場合、上記の式(1)(2)(3)(4)(5)はそれぞれ次の式(6)(7)(8)(9)(10)のようになる。
V
C1=V
C2+(R
IC+R
IS)・I
1-2 ……(6)
I
1-2=I
aux-1 ……(7)
V
C1=R
IC・I
aux ……(8)
I
aux=R
C1・I
1/R
IC ……(9)
I
aux=R
p1/R
IC・i
1 ……(10)
【0047】
したがって、第2電源232からの出力電流がゼロである場合は、上記の式(8)、(9)、または(10)に従って補助電流Iauxを設定することにより、めっき電流がギャップGPを通って第1槽39-1側から第2槽39-2側へ回り込むのを防止することができる。
【0048】
図13は、本実施形態に係るめっき装置100のめっき槽39における、隔壁39aとギャップGPを含む部分の一構成例を示す図である。
図13の例において、補助アノード電極241と補助カソード電極242は隔壁39aの凹部に収容して配置され、バス・バー245に固定されている。隔壁39aの凹部には隔膜246が備えられ、この隔膜246により、補助アノード電極241および補助カソード電極242が収容されている凹部の内側と、めっき槽39の第1槽39-1および第2槽39-2とが仕切られている。隔膜246は、特定のイオンだけを選択的に透過させる機能を有した膜である。
【0049】
隔膜246によって補助アノード電極241および補助カソード電極242が第1槽39-1および第2槽39-2から隔離されていることにより、補助アノード電極241および補助カソード電極242が溶解性の電極である場合は、電極から溶け出した金属イオンまたは微粒子が第1槽39-1および第2槽39-2へ拡散することを抑制することができる。補助アノード電極241が不溶解性の電極である場合には、補助アノード電極241で生じた活性酸素が第1槽39-1へ拡散することを抑制することができる。
【0050】
凹部の内側を満たす液体は、めっき液Qとは異なる電解液であってもよい。この場合、補助カソード電極242への金属の析出を抑制または防止することができる。まためっき液Qに添加剤が含まれている場合には、添加剤が補助アノード電極241または補助カソード電極242側へ移動し電極表面で分解されるのを抑制することができる。
【0051】
図14は、本実施形態に係るめっき装置100のめっき槽39における、隔壁39aとギャップGPを含む部分の別の構成例を示す図である。
図14の例において、基板ホルダ30は、隔壁39aと対向する面に凸部を有する形状に構成され、めっき槽39の隔壁39aは、基板ホルダ30と対向する面に凹部を有する形状に構成されている。基板ホルダ30と隔壁39aの間のギャップGPは、基板ホルダ30の凸部と隔壁39aの凹部が組み合うことによって、めっき槽39の第1槽39-1と第2槽39-2の間に屈曲した通路を形成している。
【0052】
この屈曲した通路により、第1槽39-1と第2槽39-2間のイオンの移動距離が長くなるため、ギャップGP内のめっき液Qの抵抗値RICが増大する。ここで上述の式(3)~(5)および(8)~(10)によれば、めっき電流の回り込みを防止できる補助電流Iauxの最適値はRICに反比例するので、ギャップGPをこのような屈曲した通路の構造とすることで、補助電流Iauxの最適値を小さくすることができ、めっき電流の回り込みを防止するのに必要な電力を低減することができる。
【0053】
以上、いくつかの例に基づいて本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【要約】
物理的・機械的な構造によらずに電場の回り込みを防止または緩和するめっき装置およびめっき方法を提供する。
一実施形態によれば、基板を保持するように構成された基板ホルダと、前記基板を保持した前記基板ホルダを収容するように構成されためっき槽であって、前記基板の第1面側の第1槽と前記基板の第2面側の第2槽を備え、前記第1槽と前記第2槽はギャップを介して連通する、めっき槽と、前記めっき槽の前記第1槽に配置された第1アノード電極と、前記基板と前記第1アノード電極の間にめっき電流を供給するように構成された第1電源と、前記ギャップの前記第1槽側に配置された補助アノード電極と、前記ギャップの前記第2槽側に配置された補助カソード電極と、前記補助アノード電極と前記補助カソード電極の間に補助電流を供給するように構成された補助電源と、を備えるめっき装置が提供される。