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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】新規の高分子化合物
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/06 20060101AFI20221020BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C08F283/06
C08G81/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018048302
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019157038
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100188064
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 真衣
(72)【発明者】
【氏名】中井 祐賀子
(72)【発明者】
【氏名】味村 裕
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】網代 広治
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジェヨン
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103396521(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101284885(CN,A)
【文献】特開2002-370003(JP,A)
【文献】特開平03-221501(JP,A)
【文献】特表2009-515838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00
C08F 283/06
C08G 69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
包摂能を有する環状ユニットと、該環状ユニットに化学的に結合した両親媒性高分子ユニットとを有する高分子化合物であって、
前記環状ユニットが、内側に疎水的な場を有し、且つ外側に親水性基を有し、
前記両親媒性高分子ユニットが、N-ビニル-ε-カプロラクタム及びN-ビニルピロリドンから選択される少なくとも一種のモノマーのみが重合してなるポリマー由来である、高分子化合物。
【請求項2】
包摂能を有する環状ユニットと、該環状ユニットに化学的に結合した両親媒性高分子ユニットとを有する高分子化合物であって、
前記環状ユニットが、内側に疎水的な場を有し、且つ外側に親水性基を有し、
前記両親媒性高分子ユニットが、N-ビニル-ε-カプロラクタムが重合してなるポリマー由来である、高分子化合物。
【請求項3】
前記環状ユニットが、シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビットウリル及びこれらの誘導体から選択される少なくとも一種の環状化合物由来である、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
前記両親媒性高分子ユニットが、前記環状ユニット1単位に対し、1単位以上8単位以下結合してなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
両親媒性高分子は、1つの分子内に水(水相)になじむ「親水基」と、油(有機相)になじむ「親油基」(疎水基)の両方を併せ持つ高分子化合物であり、親水性と疎水性の両立が求められる使用環境において広く用いられている(例えば特許文献1~4)。
【0003】
一方、包摂能を有する環状化合物は、他の分子をゲストとして包摂する機能を有する化合物である。このような環状化合物によれば、通常、ある環境下で安定に分散させることが困難な化合物についても、ゲストとして選択的に取り込ませることにより、該化合物を単独で使用する場合に比べて分散の安定性を向上できること等が知られている(例えば特許文献5)。
【0004】
このような特殊な機能を有する両親媒性高分子と環状化合物とを化学的な結合で一体化させた新規の高分子化合物は、更なる機能の向上や、特異な機能の発揮により、新たな用途の開拓等が期待できる。
しかしながら、そのような高分子化合物を新たに合成する、あるいは既存の高分子化合物を修飾して新たな高分子化合物を作製するということは、容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-356088号公報
【文献】特開2002-308946号公報
【文献】特開2006-096933号公報
【文献】特開2015-224223号公報
【文献】特開2017-014431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、両親媒性高分子と包摂能を有する環状化合物とを化学的な結合で一体化させた新規の高分子化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、環状化合物の親水性基を利用することで、包摂能を有する環状ユニットと、該環状ユニットに化学的に結合した両親媒性高分子ユニットとを有する高分子化合物であって、前記環状ユニットが、内側に疎水的な場を有し、且つ外側に親水性基を有する、新規の高分子化合物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] 包摂能を有する環状ユニットと、該環状ユニットに化学的に結合した両親媒性高分子ユニットとを有する高分子化合物であって、
前記環状ユニットが、内側に疎水的な場を有し、且つ外側に親水性基を有する、
高分子化合物。
[2] 前記環状ユニットが、シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビットウリル及びこれらの誘導体から選択される少なくとも一種の環状化合物由来である、上記[1]に記載の高分子化合物。
[3] 前記両親媒性高分子ユニットが、N-ビニル-ε-カプロラクタム及びN-ビニルピロリドンから選択される少なくとも一種のモノマーが重合してなるポリマー由来である、上記[1]又は[2]に記載の高分子化合物。
[4] 前記両親媒性高分子ユニットが、前記環状ユニット1単位に対し、1単位以上8単位以下結合してなる、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の高分子化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、両親媒性高分子と包摂能を有する環状化合物とを化学的な結合で一体化させた新規の高分子化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に従う高分子化合物の実施形態について、以下で詳細に説明する。
【0011】
本発明の高分子化合物は、包摂能を有する環状ユニットと、該環状ユニットに化学的に結合した両親媒性高分子ユニットとを有し、前記環状ユニットが、内側に疎水的な場を有し、且つ外側に親水性基を有する。
以下、高分子化合物の構成について、各ユニット毎に詳しく説明する。
【0012】
(環状ユニット)
本発明の高分子化合物は、包摂能を有する環状ユニットをもつ。このような環状ユニットは、内側に疎水的な場を有し、且つ外側に親水性基を有する。ここでいう「包摂能」とは、環状ユニットの内側にある疎水的な場に、疎水性の分子を取り込み、環状ユニットの内部に包摂する機能を指す。
【0013】
環状ユニットは、その内側に疎水的な場を有し、且つその外側に親水性基を有する、環状化合物由来のものであれば特に限定されないが、例えば次のような環状化合物が挙げられる。
環状化合物としては、シクロデキストリン、カリックスアレーン、レゾルシンアレーン、ピラーアレーン、ククルビットウリル、及びこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビットウリル及びこれらの誘導体から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0014】
シクロデキストリン(環状オリゴ糖)は、D-グルコースが連なってできたオリゴ糖の両端がつながって輪(環)になった構造をもち、D-グルコースの連結数(環員数)は5以上のものが知られており、Dグルコースが6つ結合してなるα-シクロデキストリン(環員数6)、D-グルコースが7つ結合してなるβ-シクロデキストリン(環員数7)、ブドウ糖が8つ結合してなるγ-シクロデキストリン(環員数8)が一般的である。中でも、β-シクロデキストリンが好ましい。
【0015】
カリックスアレーンは、フェノールの2,6位がメチレン基を介して、数個環状につながった構造を持つオリゴマーである。カリックスアレーンは、一般にカリックス[n]アレーンと表記され、ここで[n]はフェノール単位の数(環員数)を表す。フェノール単位[n]は3~20程度が知られており、好ましくは3~10である。
【0016】
レゾルシンアレーンは、カリックスアレーンのフェノールをレゾルシノール(1,3-ジヒドロキシベンゼン)に置き換えた環状分子である。レゾルシンアレーンは、一般にレゾルシン[n]アレーンと表記され、ここで[n]はレゾルシノール単位の数(環員数)を表す。レゾルシノール単位[n]は4,6が知られている。
【0017】
ピラーアレーンは、一般的にピラー[n]アレーンと表記され、ここで[n]はアレーン単位の数(環員数)を表す。アレーン単位[n]は、5、6が知られており、より高次なピラーアレーンも合成可能であるが、本発明においては好ましくは5~6である。例えば、ジアルコキシピラーアレーンは、1,4-ジアルコキシベンゼン同士を、それぞれの2及び5位をメチレンで架橋した環状縮合体である。ここでアルコキシ基の炭素数は、1~8が好ましい。
【0018】
ククルビットウリルは、メチレン基(-CH-)でつなげられたグリコールウリル(=C)モノマーからなる大環状分子である。ククルビットウリルは、一般的にククルビット[n]ウリルと表記され、ここで[n]はグリコールウリル単位の数(環員数)を表す。グリコールウリル単位[n]は、5、6、7、8、10、14個が知られており、好ましくは6~8である。
【0019】
環状化合物の環員数は、特に限定されないが、環員数によって疎水的な場の空間的な大きさが異なるため、包摂対象とするゲストの大きさに応じて、所定の環員数の環状化合物を選択することが好ましい。
【0020】
(両親媒性高分子ユニット)
本発明の高分子化合物は、両親媒性高分子ユニットをもつ。このような両親媒性高分子ユニットは、両親媒性高分子由来のものであればよい。
【0021】
上記のような両親媒性高分子としては、以下のようなモノマーが重合してなるポリマーであることが好ましい。
両親媒性高分子を構成するモノマーとしては、例えば、N-ビニルアミド誘導体(N-ビニルラクタム、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-アルキル-N-ビニルアルキルアミド等)、アクリルアミド及びその誘導体(N-アルキルアクリルアミド等)等が挙げられる。
【0022】
N-ビニルアミド誘導体としては、例えば下記式(1)で表されるものが挙げられる。
【化1】

上記式(1)中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基を表す。ただし、RとRとは互いに連結して炭素数2~6のアルキレン基を構成してもよい。また、具体例としては、Rが水素原子でRがイソプロピル基、Rが水素原子でRがプロピル基、Rが水素原子でRが2-ブテニル基、Rがイソプロピル基でRが水素原子、R及びRが共に水素原子、Rがメチル基でRがプロピル基、Rがメチル基でRがイソブチル基、Rがメチル基でRがイソペンチル基、Rがメチル基でRがメチル基、Rがメチル基でRがエチル基、Rが水素原子でRがシクロヘキシルメチル基、Rが水素原子でRが2-シクロペンチルエチル基であるものが挙げられる。
【0023】
特に、両親媒性高分子を構成するモノマーとしては、N-ビニル-ε-カプロラクタム及びN-ビニルピロリドンから選択される少なくとも一種が好ましい。
【0024】
また、上記のような両親媒性高分子としては、重量平均分子量が500~30000であるものが好ましく、1000~10000のものがより好ましい。
【0025】
このような両親媒性高分子ユニットは、環状ユニットに化学的に結合している。環状ユニットとの化学的な結合は、特に限定されず、共有結合又はイオン結合が挙げられ、高分子化合物としての安定性の観点で共有結合であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の高分子化合物は、両親媒性高分子ユニットが、環状ユニット1単位に対し、1単位以上8単位以下結合してなることが好ましく、1単位以上5単位以下結合してなることがより好ましい。ここで、各単位数は、各構造ユニットにあたる部分ごとにカウントする。例えば、本発明の高分子化合物が、1分子中に、環状ユニットに当たる部分を1つと、両親媒性高分子ユニットにあたる部分を2つと、を含んでいる場合、この高分子化合物は、環状ユニット1単位に対し、両親媒性高分子ユニットが2単位結合してなる、とみる。なお、このような構成ユニットの単位数は、例えば公知の方法で、本発明の高分子化合物の各構造ユニット間の結合部分を切断し、環状ユニットに由来する化合物と両親媒性高分子ユニットに由来する高分子化合物のそれぞれについて分子量を求め、そこから各構造ユニットのモル数を算出し、それらの比として見積もることができる。
【0027】
本発明の高分子化合物の重量平均分子量は、1000~30000であることが好ましく、1500~10000であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、高分子ユニットの絡み合い等による失活が起きにくく、目的物質の包摂に十分な長さの高分子鎖を確保することができる。
【0028】
(効果・用途)
本発明の高分子化合物は、両親媒性の機能を維持しつつ、疎水性の分子をゲストとして包摂する機能を発揮する。このような高分子化合物は、例えば従来、両親媒性高分子や、環状化合物が用いられてきた分野において好適に用いることができる。
具体的には、両親媒性高分子は、例えば、ガスハイドレート生成阻害剤、難水溶性薬物担持剤、増粘剤、保水剤、DDS、細胞シート等に用いられてきた。
また、環状化合物は、薬物担持剤、吸着材、分子基認識材料、テンプレート重合、ロタキサン高分子等に用いられてきた。
中でも、本発明の高分子化合物はガスハイドレート生成阻害剤として好適に用いることができる。
【0029】
<ガスハイドレート生成阻害剤>
従来、両親媒性を有する高分子は、ガスハイドレートの生成阻害剤として広く用いられてきた(特開2001-139966号公報参照)。
ガスハイドレートは、メタン、エタン等の炭化水素や炭酸ガス等の種々の気体分子が溶解した水性媒体を特定の温度と圧力下におくことによって、溶解している気体分子を水分子が取り囲んだ氷状の結晶として生成することが知られている。このようなガスハイドレートの生成は、例えば天然ガス等の輸送管に詰まりを発生させる等の問題を引き起こすとして、その生成の抑制が望まれている。
【0030】
このようなガスハイドレートの生成を抑制する上では、疎水性であるガス分子と水分子との間の相互作用の制御が重要となる。両親媒性高分子は、その親水性と疎水性の両方の性質を活かすことにより、ガス分子と水分子間との相互作用をより適当にコントロールすることができることが知られている。しかし、両親媒性高分子は、ガスハイドレートの結晶成長部位に接近しても離れやすい問題があり、ガスハイドレートの生成阻害の効果は未だ十分ではなかった。そのため、近年、より生成阻害効果に優れた高分子化合物の開発が求められていた。
【0031】
これに対し、本発明の高分子化合物は、従来の両親媒性高分子由来の両親媒性を活かしつつ、さらに、環状ユニットの包摂能により、さらに優れたガスハイドレートの生成阻害効果を発揮し得る。このような効果が発揮される詳しい機構は明らかではないが、本発明者らは以下のように考察する。
【0032】
まず、本発明の高分子化合物を構成する環状ユニットは、その内側に疎水的な場を有し、且つその外側に親水性基を有しているため、外側の親水性基により水溶液中では安定に存在でき、且つその内側にある疎水的な場により、ガスハイドレートの生成核となる疎水性のガス分子(例えばメタンやエタン等)に容易に接近できる。さらに、近くに接近したガス分子を環状ユニットの疎水的な場において包摂することで、ガスハイドレートの結晶成長部位に本発明の高分子化合物を固定でき、離れ難くすることができると考えられる。その結果、このような環状ユニットに化学的に結合した両親媒性高分子ユニットは、ガスハイドレートの結晶成長部位において、ガスハイドレートの生成阻害効果を十分に発揮できると考えられる。
【0033】
このような本発明の高分子化合物は、従来の両親媒性高分子に比べ、少量の使用で同等以上の生成阻害効果を発揮し得る。
【0034】
特に、ガスハイドレートの生成阻害剤として用いられる本発明の高分子化合物は、環状ユニットが、シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビットウリル及びこれらの誘導体から選択される少なくとも一種の環状化合物由来であることが好ましく、中でもシクロデキストリン由来であることがより好ましい。また、このような高分子化合物は、両親媒性高分子ユニットが、N-ビニル-ε-カプロラクタム及びN-ビニルピロリドンから選択される少なくとも一種のモノマーが重合してなるポリマー由来であることが好ましく、中でもN-ビニル-ε-カプロラクタムが重合してなるポリマー由来であることがより好ましい。
【0035】
(高分子化合物の合成方法)
本発明の高分子化合物の合成方法は、特に限定されないが、例えば次のような方法により合成することができる。
なお、以下では、環状化合物としてはシクロデキストリン(CD)を、両親媒性高分子としてはポリビニルカプロラクタム(PVCap)をそれぞれ用いて説明するが、いずれもこれらに限定されるものではなく、上述の各種環状化合物及び両親媒性高分子を用いても、基本的には同様に行うことができる。
【0036】
<方法1:CDとエステル結合を形成する方法>
まず、下記式(I)で示されるように、アゾ系ラジカル重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、重合用溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)及び連鎖移動剤としてのメルカプト酢酸の存在下で、ビニルカプロラクタム(VCap)を重合反応させ、末端にカルボキシ基を有するPVCap[高分子(A)]を合成する。
次に、下記式(II)で示されるように、チオニルクロライド(SOCl)を用いて、高分子(A)のカルボキシ基を塩素化し、末端に酸クロライド構造を有するPVCap[高分子(B)]を得る。
さらに、下記式(III)で示されるように、トリエタノールアミン(TEA)及びDMFの存在下で、高分子(B)とCDとを反応させ、エステル結合を形成して、新規の高分子化合物(X)を得る。なお、CDの複数(2~5箇所)の6位の水酸基が修飾される場合は、該修飾はランダムに行われてもよいし、ブロックで行われてもよい(以下のCDの修飾においても同じ。)。
【0037】
【化2】
【0038】
<方法2:CDとアミド結合を形成する方法>
まず、下記式(IV)~(V)で示されるように、CDの6位の水酸基をアミノ基に置換した化合物(E)を得る。
さらに、下記式(VI)で示されるように、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)及び水溶性カルボジイミド(WSC)の存在下で、化合物(E)と、上記式(I)で得た末端にカルボキシ基を有するPVCap[高分子(A)]を反応させ、アミド結合を形成させ、新規の高分子化合物(Y)を得る。
【0039】
【化3】
【0040】
<方法3:CDを連鎖移動剤に変換して使用する方法>
例えば、以下のいずれかの方法で行うことができる。
<方法3-1>
下記式(VII)で示されるように、上記式(V)で得た化合物(E)と、ジチオグリコール酸とを反応させ化合物(F)を作製し、下記式(VIII)で示されるように、化合物(F)を還元して-SHを有するCD[化合物(G)]を得る。
そして、下記式(IX)で示されるように、アゾ系ラジカル重合開始剤であるAIBNの存在下で、化合物(G)を連鎖移動剤として用いて、VCapを重合反応させ、新規の高分子化合物(Y)を得る。
【0041】
【化4】
【0042】
<方法3-2>
下記式(X)で示されるように、上記式(IV)の化合物(C)と、チオ尿素とを反応させ化合物(H)を作製し、下記式(XI)で示されるように、化合物(H)を還元して-SHを有するCD[化合物(I)]を得る。
そして、下記式(XII)で示されるように、アゾ系ラジカル重合開始剤であるAIBNの存在下で、化合物(I)を連鎖移動剤として用いて、VCapを重合反応させ、新規の高分子化合物(Z)を得る。
【0043】
【化5】
【0044】
なお、本発明の化合物は、例えば上記のような方法により合成することができるが、上記以外の方法で合成してもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
(製造例1)
反応容器にβ-シクロデキストリン(東京化成工業株式会社製)12gを入れ、172mLのイオン交換水に溶解させ、反応溶液を得た。0℃にて、反応溶液に、水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)4.5mol/L水溶液12mLを、2分かけてゆっくりと加えた。続けて、この反応溶液に、p-トルエンスルホニルクロライド(東京化成工業株式会社製)2.89gをアセトニトリル(ナカライテスク株式会社製)6.6mLに溶解させた溶液を、滴下させながらゆっくりと加えた。この反応溶液を、室温にて4時間反応させた後、塩酸(和光純薬工業株式会社製)3mol/L溶液を用いて、反応溶液のpHを6に調製した。その後、沈殿物を回収し、トシル化CD(上記化合物(C))を得た。
【0048】
合成した上記トシル化CD3.01gと、チオ尿素(ナカライテスク株式会社製)1.78gとを、DMF(関東化学株式会社製、無水)120mLに溶解させ、窒素ガス雰囲気下、75℃で48時間撹拌させた。この反応溶液を空冷後、ジエチルエーテル(ナカライテスク株式会社製)に、生成物を再沈殿させ、沈殿物を回収し、さらにアセトンを用いた再結晶により、沈殿物を回収した。得られた沈殿物を、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na、ナカライテスク株式会社製)を用いて還元し、凍結乾燥法により精製し、CD誘導体である連鎖移動剤(上記化合物(I))を得た。
【0049】
合成した上記連鎖移動剤103mgと、N-ビニルカプロラクタム(東京化成工業株式会社製)1.106gと、DMF1.11mLと、AIBN(和光純薬工業株式会社製)3.68mgとをフラスコに入れ、窒素ガスバブリングを2分間行った後、80℃にて、反応を開始した。16時間後、反応溶液を空冷させ、ジエチルエーテルに再沈殿させ、遠心分離により、目的物である高分子化合物を分離精製した。
【0050】
得られた化合物の同定は、核磁共鳴装置(株式会社JEOL RESONANCE製、JNM-ECX400)を用いたH-NMR測定と、MALDI-TOF/MS装置(BRUKER社製、AutoflexII)を用いた質量分析と、GPC測定装置(株式会社島津製作所、ProminenceGPCシステム、検出器:RI、UV)を用いた分子量測定とにより行った。同定の結果、CDに分子量が約1300~4000のPVCapが直接結合した、本発明の高分子化合物(上記化合物(Z))の合成を確認した。
【0051】
[評価]ガスハイドレートの生成阻害性能の評価方法
阻害剤のガスハイドレートの生成阻害性能は、以下の方法で評価した。
(1)まず、食塩(NaCl)26.28gと、テトラヒドロフラン(THF、99.9%、関東化学株式会社製)170gとを混合し、更に水を加えて、最終的に900mLになるようにTHF/NaCl水溶液を調製する。このTHF/NaCl水溶液80mLを100mLのガラス製のビーカーに入れる。
(2)次に、阻害剤0.16gを上記ビーカーのTHF/NaCl水溶液に加え、阻害剤の濃度が0.2質量%の溶液を調製する。なお、阻害剤は、下記実施例1、比較例1及び2のとおりである。
(3)上記(2)で調製した阻害剤/THF/NaCl水溶液のビーカーを、-0.5℃(±0.05℃)に設定された冷却槽内に設置する。
(4)そして5分おきに溶液を攪拌し、20分間冷却する。
【0052】
(5)次に、ガラスチューブ(径7mm)に、-10℃に保たれた氷を充填する。
(6)このガラスチューブの先を、上記冷却された阻害剤/THF/NaCl水溶液の少なくとも半分まで浸して、30分間冷却する。冷却槽としては、高低温サーキュレーター(F12-ED、ユラボ社製)を使用した。
【0053】
(7)そして、チューブの端で、30分間、THFハイドレートを結晶成長させる。その後、チューブを取り出し、THFハイドレートの形態の確認とその生成量を測定し、生成速度(g/分)を算出する。生成速度が小さいほど、阻害剤の阻害効果が大きいことを意味する。
【0054】
(実施例1)
評価1の阻害剤として、製造例1で作製した高分子化合物を使用した。このとき、生成物の形態はシャーベット状で、生成速度は0.89g/分であった。
【0055】
ここで、シャーベット状とは、完全に固形化した結晶物ではなく、細かな結晶の集まりで、流動性のある状態を指す(以下においても同じ)。通常、阻害剤を用いない場合は、生成物の結晶成長が進み、生成物は塊となって固形化し、ガスパイプ等の詰まりの要因となる。しかし、生成物がシャーベット状であれば、適度な流動性を確保できるため、ガスパイプ等のつまりが抑制される。
【0056】
なお、シャーベット状の生成物は、固形の結晶物と違い、結晶と水とを完全に分離することはできない。そのため、生成速度を算出した際の生成量は、シャーベット状の生成物を回収した際に、薬さじを用いてビーカーの淵で適度に水切りを行い、そのまま水を含んだ状態で測定した値を用いた(以下においても同じ)。
【0057】
(比較例1)
評価1の阻害剤として、下記の方法で合成したPVCapを使用した。このとき、生成物はシャーベット状で生成速度は1.40g/分であった。
【0058】
比較例1で用いたPVCapは、以下の方法で合成した。
まず、メルカプト酢酸(和光純薬工業株式会社製)1.26mLと、N-ビニルカプロラクタム21.0gと、DMF102mLと、AIBN0.342gとをフラスコに入れ、窒素ガスバブリングを2分間行った後、80℃にて、反応を開始した。8時間後、反応溶液を空冷させ、ジエチルエーテルに再沈殿させ、遠心分離により、PVCapを分離精製した。
なお、上記と同様の方法で化合物の同定を行った結果、分子量が約2000のPVCap(上記化合物(A))の合成を確認した。
【0059】
(比較例2)
評価1の阻害剤として、比較例1で用いたPVCapとβ-シクロデキストリンの混合物(混合比は、重量比で1:1)を使用した。このとき、生成物はシャーベット状で生成速度は1.61g/分であった。
【0060】
本発明の高分子化合物は、THFハイドレートの生成を抑制する阻害剤として効果的であることが確認された(実施例1)。これに対し、従来阻害剤として用いられていたPVCapは、本発明の高分子化合物に比べて、THFハイドレートの生成を抑制する効果が劣ることが確認された(比較例1及び2)。
【0061】
特に、実施例1と比較例2との対比からもわかるように、THFハイドレートの生成阻害効果は、PVCapとβ-シクロデキストリンとが化学的な結合により一体となっている場合の方が、PVCapとβ-シクロデキストリンとを単に混ぜ合わせただけの場合に比べて、大きくなることが確認された。