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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】ハイブリッド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20221020BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C08J3/20 D
C08L101/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018111534
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019214653
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤本 公三
(72)【発明者】
【氏名】福本 信次
(72)【発明者】
【氏名】溝上 陽介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】上島 稔
(72)【発明者】
【氏名】市川 龍
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】菅 武
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-316302(JP,A)
【文献】特開2008-007618(JP,A)
【文献】特開2000-248158(JP,A)
【文献】特開2002-069203(JP,A)
【文献】特開昭57-125244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを混合するハイブリッド樹脂の製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂を前記熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱する工程と、
前記熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度の前記熱硬化性樹脂に前記熱可塑性樹脂を添加し、攪拌混合して第1混合物を得る工程と、
前記第1混合物を冷却する工程と、
冷却した前記第1混合物に硬化剤を添加した後、前記熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度に加熱し、攪拌混合して第2混合物を得る工程と、
前記第2混合物を冷却する工程と、
冷却した前記第2混合物に硬化促進剤を添加し、攪拌混合する工程と、
を有し、
前記熱硬化性樹脂は、硬化剤の存在下で加熱することにより硬化する熱硬化性樹脂であり、
前記硬化促進剤が、イミダゾール系化合物、第三級アミン、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、及びアルカリ金属塩から選択される1以上からなる、ハイブリッド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂と前記熱可塑性樹脂の合計質量を100質量部とした際、前記熱硬化性樹脂の量を50~95質量部、前記熱可塑性樹脂の量を5~50質量部にする、請求項1に記載のハイブリッド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の両方を含むハイブリッド樹脂の製造方法及びハイブリッド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は、高い接着強度が得られやすいため、封止材や接着剤等の用途に広く使用されている。しかし、熱硬化性樹脂が硬化した硬化物は、架橋構造を形成するため、ひずみに対する応力が大きくなる傾向にある。そのため、密着する他の部品との熱膨張の差が大きい場合、硬化物が加熱された際に剥離が生じることがある。また、硬化物に内部応力が生じた際にクラックが発生することがある。
ひずみに対する応力を小さくする方法として、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を配合したハイブリッド樹脂を使用することが考えられる。ハイブリッド樹脂の製造方法としては、液状の熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を常温で添加し、攪拌混合する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-288336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のハイブリッド樹脂の製造方法によって製造されたハイブリッド樹脂においても、その硬化物は、ひずみに対する応力を充分に小さくすることはできなかった。
本発明は、ハイブリッド樹脂の製造方法において、硬化後の硬化物が高い接着強度を有し且つひずみに対する応力が小さいハイブリッド樹脂を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のハイブリッド樹脂の製造方法は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを混合するハイブリッド樹脂の製造方法であって、前記熱硬化性樹脂を前記熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱する工程と、前記熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度の前記熱硬化性樹脂に前記熱可塑性樹脂を添加し、攪拌混合して第1混合物を得る工程と、前記第1混合物を冷却する工程と、冷却した前記第1混合物に硬化剤を添加した後、前記熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度に加熱し、攪拌混合して第2混合物を得る工程と、前記第2混合物を冷却する工程と、冷却した前記第2混合物に硬化促進剤を添加し、攪拌混合する工程と、を有する。
本発明のハイブリッド樹脂の製造方法においては、前記熱硬化性樹脂と前記熱可塑性樹脂の合計質量を100質量部とした際、前記熱硬化性樹脂の量を50~95質量部、前記熱可塑性樹脂の量を5~50質量部にすることが好ましい。
本発明のハイブリッド樹脂は、前記ハイブリッド樹脂の製造方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のハイブリッド樹脂の製造方法によれば、硬化物が高い接着強度を有し且つひずみに対する応力が小さいハイブリッド樹脂を製造できる。
本発明のハイブリッド樹脂は、その硬化物が高い接着強度を有し且つひずみに対する応力が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1のハイブリッド樹脂を硬化した硬化物における、ひずみ-圧縮応力曲線である。
図2】比較例1のエポキシ樹脂組成物を硬化した硬化物における、ひずみ-圧縮応力曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のハイブリッド樹脂の製造方法の一態様について説明する。
本態様のハイブリッド樹脂の製造方法は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを混合するハイブリッド樹脂の製造方法であり、下記の第1工程、第2工程、第3工程、第4工程、第5工程及び第6工程を有する。
【0009】
第1工程は、熱硬化性樹脂を加熱する工程である。
第1工程における熱硬化性樹脂の加熱温度は、第2工程にて添加する熱可塑性樹脂の軟化点Ts以上にし、(前記軟化点Ts+20℃)以上にすることがより好ましい。第1工程における熱硬化性樹脂の加熱温度を前記下限値以上にすることにより、熱硬化性樹脂の粘度を充分に低下させることができ、第2工程において熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂に充分に分散させることができる。
第1工程における熱硬化性樹脂の加熱温度は、(前記軟化点Ts+150℃)以下にすることが好ましく、(前記軟化点Ts+100℃)以下にすることがより好ましい。第1工程における加熱温度を前記上限値以下にすれば、第1工程において汎用的な加熱装置を使用できる。
第1工程における熱硬化性樹脂の加熱方法としては特に制限はなく、例えば、容器と前記容器を加熱する加熱器とを備える加熱槽を使用できる。加熱槽における容器は、耐熱性が高いことから、金属製であることが好ましい。加熱槽における加熱器は、例えば、電熱ヒータ、加熱した熱媒体を含むジャケット等が挙げられる。
本発明における熱可塑性樹脂の軟化点は、JIS K7206:2016(B50法)により測定されるビカット軟化点である。
【0010】
本態様のハイブリッド樹脂の製造方法に使用する熱硬化性樹脂としては、熱硬化性を有する公知の樹脂を使用できる。
熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、アルキッド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン等が挙げられる。前記熱硬化性樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本態様においては、目的の効果を容易に発現できることから、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。前記エポキシ樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂を混合した際の熱可塑性樹脂の分散性が向上することから、使用する熱可塑性樹脂の軟化点において液状になることが好ましく、常温で液状であることがより好ましい。
第2工程における熱硬化性樹脂の硬化を防ぐことから、熱硬化性樹脂は、その硬化温度Tcが熱可塑性樹脂の軟化点Tsより高いことが好ましく、(前記軟化点Ts+10℃)以上であることがより好ましい。実用上、熱硬化性樹脂の硬化温度Tcは300℃以下であることが好ましい。
熱硬化性樹脂の硬化温度Tcは、示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。具体的には、熱硬化性樹脂を一定昇温速度で昇温した際、硬化に伴う発熱を検知した際の温度が硬化温度Tcとなる。
【0011】
第2工程は、前記軟化点Ts以上の温度の熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を添加し、攪拌混合して第1混合物を得る工程である。第2工程においても、熱硬化性樹脂の温度を前記軟化点Ts以上に維持することが好ましい。
熱可塑性樹脂の軟化点Ts以上に加熱した熱硬化性樹脂は粘度が低くなり、液状となっている。この液状の熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を添加する。熱硬化性樹脂の温度は熱可塑性樹脂の軟化点Ts以上となっているから、熱硬化性樹脂に添加された熱可塑性樹脂は軟化し、攪拌混合されることによって、熱硬化性樹脂中に容易に分散する。
攪拌混合に使用する攪拌機としては特に制限されず、例えば、攪拌翼を備えるものが挙げられる。攪拌翼としては、例えば、パドル翼、プロペラ翼、タービン翼、アンカー翼、リボン翼、門形翼等が挙げられる。攪拌機は、第1工程において使用する加熱槽に設置すればよい。
第2工程においては、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を添加しながら攪拌混合してもよいし、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を添加し終わってから攪拌混合を開始してもよい。
【0012】
本態様のハイブリッド樹脂の製造方法に使用する熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を使用できる。
熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、飽和ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱可塑性樹脂は、ひずみ-応力特性がより良くなることから、飽和ポリエステル(ポリエステル樹脂)を含むことが好ましい。飽和ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリメチレンテレフタレート等が挙げられる。これらポリエステルは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
熱可塑性樹脂の軟化点Tsは、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の軟化点Tsが前記下限値以上であれば、常温における粘度が低く、固体状となり、取り扱いやすい。
熱可塑性樹脂の軟化点Tsは、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の軟化点Tsが前記上限値以下であれば、第1工程及び第2工程において、汎用的な加熱装置を使用できる。
【0014】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との組み合わせに特に制限はない。前記熱硬化性樹脂のいずれか1種以上と前記熱可塑性樹脂のいずれか1種以上とを制限なく組み合わせることができる。
本態様におけるハイブリッド樹脂を半導体デバイスの封止材として使用する場合には、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用し、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0015】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との配合割合は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との合計質量を100質量部とした際、熱硬化性樹脂の量が50~95質量部、熱可塑性樹脂の量が5~50質量部であることが好ましい。また、熱硬化性樹脂の量が70~90質量部、熱可塑性樹脂の量が10~30質量部であることがより好ましい。
【0016】
第3工程は、第1混合物を冷却する工程である。
第1混合物を冷却する方法としては、例えば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を含む第1混合物を収容した容器を、冷却器を用いて冷却する方法、自然冷却する方法等が挙げられる。
第1混合物を冷却することによって、第1混合物の温度を50℃以下にするにすることが好ましく、常温にすることが好ましい。第1混合物を常温になるまで冷却しても、第1混合物は液状を保ったままとなる。
本発明における「常温」は、JIS Z8703に規定される温度、20℃±15℃、より具体的には5~35℃のことである。よって、「常温になるまで冷却する」とは、35℃以下になるまで冷却するという意味である。
【0017】
第4工程は、冷却した第1混合物に硬化剤を添加した後に加熱し、攪拌混合して第2混合物を得る工程である。第4工程においては、硬化剤を添加した第1混合物が少なくとも常温の状態から加熱されるため、常温を超える温度となる。また、第4工程における加熱温度は、熱硬化性樹脂の硬化温度Tc未満の温度にし、(前記硬化温度Tc-10℃)以下にすることが好ましい。第4工程における加熱温度を熱硬化性樹脂の硬化温度Tc未満にすることにより、熱硬化性樹脂の硬化を防止できる。
第4工程における加熱温度は、(前記硬化温度Tc-50℃)以上にすることが好ましく、(前記硬化温度Tc-70℃)以上にすることがより好ましい。第4工程における加熱温度を前記下限値以上にすれば、硬化剤を添加した第1混合物の粘度を充分に低下させることができ、熱硬化性樹脂中に硬化剤を充分に分散させることができる。
第4工程における第2混合物の加熱方法としては特に制限はなく、例えば、第1工程と同様の加熱槽を使用することができる。第4工程において使用する加熱槽は第1工程において使用する加熱槽と同一であってもよい。
第4工程における攪拌混合の際には、第2工程における攪拌混合の際に使用した攪拌機と同様の攪拌機を使用できる。
第4工程においては、第1混合物に硬化剤を添加しながら攪拌混合してもよいし、第1混合物に硬化剤を添加し終わってから攪拌混合を開始してもよい。
【0018】
本態様のハイブリッド樹脂の製造方法に使用する硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択される。硬化剤としては、例えば、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤等が挙げられる。
酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
アミン系硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
前記硬化剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
硬化剤の添加量としては、熱硬化性樹脂の固形分100質量部に対して、0.1~1000質量部にすることが好ましく、0.1~500質量部にすることがより好ましく、10~300質量部にすることがさらに好ましい。硬化剤の添加量を前記下限値以上にすれば、熱硬化性樹脂を速やかに硬化させることができ、前記上限値以下にすれば、硬化反応に使用されずに残留する硬化剤の含有量を少なくできる。
【0020】
第5工程は、第2混合物を冷却する工程である。
第2混合物を冷却する方法としては、例えば、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂と硬化剤とを含む第2混合物を収容した容器を、冷却器を用いて冷却する方法、自然冷却する方法等が挙げられる。
第2混合物を冷却することによって、第2混合物の温度を50℃以下にするにすることが好ましく、常温にすることが好ましい。第2混合物を常温になるまで冷却しても、第2混合物は液状を保ったままとなる。
【0021】
第6工程は、冷却した第2混合物に硬化促進剤を添加し、攪拌混合する工程である。
冷却した第2混合物に硬化促進剤を添加し、攪拌混合することにより、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂と硬化剤と硬化促進剤とを含有するハイブリッド樹脂を得ることができる。
第6工程における攪拌混合の際には、第2工程における攪拌混合の際に使用した攪拌機と同様の攪拌機を使用できる。
第6工程においては、第2混合物に硬化促進剤を添加しながら攪拌混合してもよいし、第2混合物に硬化促進剤を添加し終わってから攪拌混合を開始してもよい。
【0022】
本態様のハイブリッド樹脂の製造方法に使用する硬化促進剤は、前記硬化剤とは異なる化合物からなり、触媒のような機能を果たす。
硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系化合物、第三級アミン、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。
イミダゾール系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、テトラ(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が挙げられる。
第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
第四級ホスホニウム塩としては、例えば、トリフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が挙げられる。
前記硬化促進剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
硬化促進剤の添加量としては、熱硬化性樹脂の固形分100質量部に対して0.1~20質量部にすることが好ましく、0.2~15質量部にすることがより好ましく、0.3~10質量部にすることがさらに好ましい。硬化促進剤の添加量を前記下限値以上にすれば、熱硬化性樹脂の硬化をより促進でき、前記下限値以下であれば、硬化物の物性が良好になる。
【0024】
本態様のハイブリッド樹脂の製造方法によって得られるハイブリッド樹脂には、ハイブリッド樹脂の用途に応じて、前記の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化剤及び硬化促進剤以外の他の成分を添加してもよい。
他の成分としては、例えば、無機充填剤、カップリング剤、離型剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤、可塑剤、有機充填剤、帯電防止剤、着色顔料、染料等が挙げられる。前記他の成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。他の成分の添加量は、他の成分に応じて適宜決められる。
【0025】
上記のように製造されたハイブリッド樹脂は、トランジスタ、IC、LSI等の半導体デバイスを製造する際に半導体素子を封止する封止材として好適に使用できる。また、ハイブリッド樹脂は、半導体デバイス以外の他の電子部品における素子の封止材、電子部品用接着剤、精密機器用の接着剤等としても使用できる。
本態様におけるハイブリッド樹脂は、通常、熱硬化性樹脂が硬化されて硬化物にされる。ハイブリッド樹脂を封止材又は成形材として使用する場合には、ハイブリッド樹脂を金型内に充填し、加熱して硬化する。ハイブリッド樹脂を接着剤として使用する場合には、接着する部品の間にハイブリッド樹脂を塗布し、加熱して硬化する。硬化の際の加熱温度(硬化温度)は、使用する熱硬化性樹脂、硬化剤及び硬化促進剤の種類及び配合量に応じて異なり、例えば、50~300℃とされる。
【0026】
本態様におけるハイブリッド樹脂を半導体デバイス用封止材として使用する場合には、無機充填剤を添加することが好ましい。以下、ハイブリッド樹脂に無機充填剤を配合した組成物のことを「ハイブリッド樹脂組成物」という。
無機充填剤としては、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコニア、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、チタニア、タルク等が挙げられる。前記無機充填剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
無機充填剤は粉状又は粒状である。無機充填剤の体積平均粒子径は1~50μmであることが好ましく、2~40μmであることがより好ましく、3~30μmであることがさらに好ましい。無機充填剤の体積平均粒子径が前記下限値以上であれば、ハイブリッド樹脂の流動性が低下しにくく、前記上限値以下であれば、金型へのハイブリッド樹脂の充填性が高くなる。無機充填剤の体積平均粒子径は、レーザ回折光散乱法により測定される。
ハイブリッド樹脂組成物における無機充填剤の含有量は、半導体デバイスを構成するリードフレーム等の他の部材の線膨張係数、機械的物性等に応じて適宜決められ、例えば、30~95質量%の範囲とされる。
【0027】
ハイブリッド樹脂組成物には、成形の際の金型に対する離型性を向上させる離型剤が含まれてもよい。
離型剤としては、ワックス類を使用できる。ワックス類としては、例えば、脂肪酸系ワックス、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックスが挙げられる。
脂肪酸系ワックスとしては、例えば、ステアリン酸、パルチミン酸等の脂肪酸、及びこれらの金属塩が挙げられる。
エステル系ワックスとしては、例えば、ナバワックス、モンタンワックス等が挙げられる。
ポリオレフィン系ワックスとしては、例えば、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレン等が挙げられる。
前記離型剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ハイブリッド樹脂組成物が離型剤を含有する場合、離型剤の含有量は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。離型剤の含有量が前記下限値以上であれば、離型性をより向上させることができ、前記上限値以下であれば、ハイブリッド樹脂組成物の接着性の低下を防止できる。
【0028】
ハイブリッド樹脂組成物には、熱硬化性樹脂の硬化物及び熱可塑性樹脂に対する無機充填剤の接着性を高めることを目的として、カップリング剤が含まれてもよい。
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。前記カップリング剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ハイブリッド樹脂組成物がカップリング剤を含有する場合、カップリング剤の含有量は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の合計100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましい。
【0029】
以上説明したハイブリッド樹脂の製造方法によれば、熱硬化性樹脂中に熱可塑性樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を高い分散性で分散させることができる。特に、本態様のハイブリッド樹脂の製造方法においては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を溶解又は分散させる溶剤を使用しなくても或いは溶剤の使用量が少なくても、熱硬化性樹脂中に熱可塑性樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を高い分散性で分散させることができる。
溶剤を使用して製造したハイブリッド樹脂では、たとえ沸点の低い溶剤を使用した場合でも残留溶剤が残ってしまい、その溶剤の揮発によってハイブリッド樹脂の硬化物の内部にボイドが生じることがある。しかし、本態様のハイブリッド樹脂の製造方法では、溶剤を使用せずにハイブリッド樹脂を製造するため、ハイブリッド樹脂の硬化物の内部におけるボイドの発生を抑制できる。
熱硬化性樹脂中に熱可塑性樹脂が高い分散性で分散し、しかもボイドの発生が抑制されていることにより、ハイブリッド樹脂を硬化させた硬化物は、熱硬化性樹脂が有する特性及び熱可塑性樹脂が有する特性の両方を充分に発揮することができる。したがって、ハイブリッド樹脂の硬化物は高い接着強度を有し、また、ひずみが生じた際に生じる応力を小さくできる。特に、高い温度(例えば70~100℃等)において、ひずみに対する応力を小さくできる。しかも、本態様におけるハイブリッド樹脂は、その硬化物が硬化後に繰り返し再加熱されても、ひずみ-応力特性を維持できる。
硬化後に再加熱された際でもひずみ-応力特性を維持できる特性を有することにより、再加熱された際にハイブリッド樹脂の硬化物に内部応力が生じても、クラックの発生を防止できる。
前記ハイブリッド樹脂組成物においても前記と同様の効果を発揮する。
【0030】
前記のようなハイブリッド樹脂は半導体デバイス用封止材として特に有用である。すなわち、半導体デバイスにおける半導体チップ、ダイパッド、リードフレーム及び封止材は、各々、線膨張係数が異なる。そのため、半導体デバイスが加熱されると、線膨張係数の違いから、封止材と、半導体チップ、ダイパッド及びリードフレームとが剥離することがある。本態様におけるハイブリッド樹脂は、その硬化物の接着強度が高いことに加え、硬化物が加熱されてもひずみに対する追従性が高いため、線膨張係数が異なる他の部品に対して接着を維持できる。そのため、本態様におけるハイブリッド樹脂を封止材として使用すれば、半導体デバイス製造における材料設計が容易になる。
【実施例
【0031】
<ハイブリッド樹脂の製造方法>
(実施例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER834)49.7gを170℃に加熱し、その温度にてポリエステル(ユニチカ株式会社製、エリーテルUE-3220、軟化点:120℃、ガラス転移点:5℃、粘度平均分子量:25000)15を添加し、攪拌混合して第1混合物を得た。
前記第1混合物を冷却して常温に戻し、その温度にて硬化剤として無水フタル酸50gを添加し、80℃まで昇温し、攪拌混合して第2混合物を得た。
前記第2混合物を冷却して常温に戻し、その温度にて硬化促進剤としてイミダゾール(四国化成株式会社製、2P4MHZ)0.3gを添加し、攪拌混合して、ハイブリッド樹脂を得た。ハイブリッド樹脂に含まれるエポキシ樹脂の硬化温度は150℃である。
【0032】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER834)に無水フタル酸及びイミダゾールを配合したエポキシ樹脂組成物を得た。
【0033】
<評価>
実施例のハイブリッド樹脂の硬化物及び比較例のエポキシ樹脂組成物の硬化物について、高温動的強度試験機(株式会社レスカ製)を用い、80℃にて圧縮試験をおこなった。この圧縮試験により圧縮応力-ひずみ曲線を得た。実施例1のハイブリッド樹脂の硬化物における圧縮応力-ひずみ曲線を図1に、比較例1のエポキシ樹脂組成物の硬化物における圧縮応力-ひずみ曲線を図2に示す。
【0034】
圧縮試験に使用した試験片は、ハイブリッド樹脂又はエポキシ樹脂組成物を直径5mm且つ高さ4mmの円柱体となるように成形すると共に150℃で硬化させることにより作製した。試験片の両方の端面は、平行研磨機を用いて研磨した。
圧縮試験では、水平な平面台の上に試験片を配置し、圧縮速度0.05mm/sで圧縮子を試験片に押圧することにより試験片を圧縮した。圧縮の荷重が5000Nになるまで試験片の圧縮を継続した。
圧縮試験に際しては、事前に、試験片に対して圧縮子が偏って接触しないことを、感圧紙を用いて確認した。
【0035】
図1から明らかなように、実施例のハイブリッド樹脂の硬化物においては、ひずみが大きくなっても圧縮応力の上昇が抑制されていた。
これに対し、比較例のエポキシ樹脂組成物の硬化物においては、ひずみが大きくなった際の圧縮応力の上昇を抑制できていなかった。
図1
図2