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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】顆粒状角膜変性症に対する遺伝子治療薬
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20221020BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221020BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20221020BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221020BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221020BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221020BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20221020BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20221020BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20221020BHJP
   C07K 14/495 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
C12N15/113 120Z
C12N15/09 110
C12N9/16 Z
A61K48/00 ZNA
A61P27/02
A61P43/00 105
A61K31/7105
A61K31/711
A61K38/46
C07K14/495
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019523958
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2018021797
(87)【国際公開番号】W WO2018225807
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2017112406
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】臼井 智彦
(72)【発明者】
【氏名】竹渓 友佳子
(72)【発明者】
【氏名】大内 靖夫
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/083852(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133554(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/139139(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021973(WO,A1)
【文献】特表2016-501036(JP,A)
【文献】国際公開第2016/210271(WO,A1)
【文献】特表2019-524149(JP,A)
【文献】日本眼科学会雑誌,2016年,Vol.120,pp.246-263,p.259, 図18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00- 9/99
A61K 48/00
A61K 38/00-38/58
A61K 31/33-33/44
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)顆粒状角膜変性症に関連する、トランスフォーミング増殖因子β誘発(TGFBI)遺伝子のR124変異部位を含む標的配列を標的とする、ガイドRNA分子であって、当該変異部位の2~4bp下流に位置するCGGをTGFBI遺伝子のスペーサー前隣接モチーフ(PAM)配列とし、その発現がU6プロモーターによって駆動され、
標的配列と相補的な、少なくとも17~18塩基から成る領域を含む、アデニン又はグアニンから始まる22塩基の配列から成るガイド配列であって、spCas9と複合体を形成し、それにより標的配列を切断することができるガイド配列を含、ガイドRNA分子と、
2)R124変異を野生型のアミノ酸に相当する塩基に置き換えるノックイン配列であって、
制限酵素部位BsiWIを有するノックイン配列と、ノックイン配列の両端に、各アームが40~60塩基の相同性アームとを有するドナーDNAとを含む、
キット
【請求項2】
R124変異がR124H、R124C及びR124Lからなる群から選択される、請求項に記載のキット
【請求項3】
顆粒状角膜変性症が顆粒状角膜ジストロフィー2型(GCD2)である、請求項1又は2に記載のキット
【請求項4】
ガイド配列が配列番号1の塩基配列を有し、ドナーDNAが相同性配向型修復(HDR)の鋳型ドナーとしてのssODN分子であり、ssODN分子が配列番号2の塩基配列を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のキット
【請求項5】
ガイド配列が、trans-activating crRNA(tracr RNA)配列と結合している、請求項1~のいずれか1項に記載のキット
【請求項6】
更にベクターを含み、ガイドRNAとU6プロモーターが当該ベクター上で作用可能に連結している、請求項1~5のいずれか一項に記載のキット
【請求項7】
野生型のアミノ酸に相当する塩基がCGT又はCGCである、請求項1~6のいずれか一項にに記載のキット。
【請求項8】
SpCas9を更に含む請求項1~7のいずれか一項に記載のキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顆粒状角膜変性症に対する遺伝子治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は、その透明性が視力維持に極めて重要であり、角膜が混濁すると視力が著しく低下する。角膜については種々の遺伝性疾患が知られている。例えば、角膜変性症に罹患すると、角膜に白い沈着物が生じ、加齢とともにますます混濁が多くなり、徐々に前が見えなくなる。角膜変性症の中でも日本人に最も頻度の高い疾患が顆粒状角膜変性症である。顆粒状角膜変性症に罹患した患者においては、本来透明である角膜が年齢とともに混濁が強くなり、また、60歳前後でかなり視力が低下してくる。
【0003】
このような角膜混濁疾患として、常染色体優性の遺伝性疾患である顆粒角膜ジストロフィー(Granular corneal dystrophy(GCD))が知られている。GCDは、染色体5q31上に位置するトランスフォーミング増殖因子β誘発(TGFBI)遺伝子における点突然変異によって引き起こされ、角膜実質に複数の不規則な形の顆粒状不透明性さをもたらす。TGFBI関連角ジストロフィーの一つである顆粒状角膜ジストロフィー2型(Granular corneal dystrophy type 2(GCD2))は、TGFBIタンパク質の124番目アミノ酸のアルギニンがヒスチジンに置換されることで生じる。韓国ではおよそ870人に1人がGCD2に罹患しているとされ、その患者数は5万人以上であると推定されている。
【0004】
角膜混濁疾患の治療方法として、角膜移植や、フッ化アルコンガスのエキシマレーザー(波長193nm)を用いた角膜表層切除術による角膜混濁除去が知られている。近年採用されている角膜移植には大きく分けて、角膜上皮層、ボーマン膜、角膜実質層、デスメ層、角膜内皮層の五層全てを移植する全層角膜移植(Penetrating Keratoplasty(PKP))と、表面の三層を入れ替える深層層状角膜移植(Deep Anterior Lamellar Keratoplasty(DALK))の2つがある。いずれも移植成績に優れており、数年にわたり混濁を除去した状態を維持できるという利点がある。しかしながら、侵襲性が高く、移植に伴う合併症が生じる場合があり、再発のリスクもある。
【0005】
エキシマレーザーによる角膜切除にも種々の利点があり、例えば、角膜移植と比べて比較的低侵襲であること、繰り返しの手術が可能であること、そして角膜移植までの期間を延長できることなどが挙げられる。しかしながら、角膜が薄くなることで屈折が変化し、遠視化する場合がある。また、術後不快感を伴うことがあり、角膜移植と同様に再発性の問題も存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Mannis MJ and Holland EJ. Cornea-fundamentals, diagnosis and management- Fourth edition, volume1, P781-785, Elsevier
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、GCD2を完治できる治療方法は確立されていない。また、角膜移植やエキシマレーザーによる角膜切除には上述したような改善すべき欠点が多く存在する。
【0008】
かかる事情に鑑み、本発明は、顆粒角膜ジストロフィーなどの角膜における遺伝性疾患、特にGCD2を従来より更に低侵襲で、尚且つ治療後は症状が再発しないような新規なアプローチにより解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
根本的な治療を実現するには、TGFBIタンパク質の124番目のヒスチジンに対応する遺伝子配列の変異を正常な遺伝子配列に修復する必要がある(図1)。従来、遺伝子改変を行うには遺伝子導入部位に相同的な配列を両端に含んだ外来遺伝子を細胞内に導入することで、偶発的に起きる遺伝子相同組換えを利用する方法が胚性幹細胞に対する発生工学を中心に行われてきたが、細胞のクロマチンの状態とDNAのメチル化の状態に強く影響されることが知られている(Feng Liang, et al., “Studies on the influence of cytosine methylation on DNA recombination and end-joining in mammalian cells., J Biol Chem. 1995 Oct 6;270(40):23838-44(http://www.jbc.org/content/270/40/23838.full.pdf))。このことから、一般にクロマチン構造が凝縮した状態にある分化後の体細胞では、遺伝子相同組換えを利用した遺伝子導入は非常に困難であり、事実、角膜実質細胞では本手法による遺伝子導入の報告は存在しない。
【0010】
近年、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN、CRISPR/Cas9等を利用したゲノム編集技術と呼ばれる新しい遺伝子改変技術の登場により、容易に標的遺伝子配列を切断することが可能となってきた。これらのゲノム編集ツールによって得られたゲノムDNAの二本鎖切断(DSB)領域は、非相同性末端結合(Non-Homologous End Joining (NHEJ))と相同性配向型修復(HDR)という、2種類の修復機能のいずれかによって修復されるが、切断部位に相同的な配列を持った鋳型核酸を細胞内に導入し、HDRを誘導することで切断部位の遺伝子配列を置換することが可能である。HDR技術はゲノム上の特定配列を標的として、自由に遺伝子配列を編集することを可能とする画期的な技術である。
【0011】
しかしながら、高効率、高い特異性、且つ再現性の良いゲノム編集技術を実現するには、ゲノム編集ツールの高効率での細胞内導入と、ゲノム編集ツールの精緻な設計が必要となる。
【0012】
特にRNA誘導型のゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9は、一般的に用いられている化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のRNA誘導型ヌクレアーゼであるCas9(SpCas9)を利用した場合、ガイドRNA(gRNA)と呼ばれる20塩基の標的配列の認識に必要な配列を持った約120塩基ほどのRNAとSpCas9タンパク質の複合体を用いてgRNAと相補的に結合した任意のDNA配列を二本鎖切断するが、PAM配列(スペーサー前隣接モチーフ)と呼ばれるNGGの3塩基が20塩基の標的配列の直後に存在しないと切断は不可能である。
【0013】
またSpCas9による二本鎖切断は、このPAM配列の3-4塩基の上流で起こることから、切断したい部位が決まっている場合、その下流にPAM配列がなければ、SpCas9を用いた当該部位の二本鎖切断は不可能となる。さらにはgRNAの塩基配列におけるGC含有量は40-80%の範囲で、GC含有率が高い方が切断効率が良いことが知られている。またオフターゲット効果による非特異的な切断も報告されており、標的配列に対して3塩基ミスマッチまでの配列が切断されてしまう可能性があることから、gRNAの設計の際にはミスマッチとなる配列を可能な限り減らす必要がある。
【0014】
通常プラスミドベクターを用いたCRISPR/Cas9ゲノム編集ツールの細胞内導入の際には、gRNAを発現させるプロモーターとして通常U6プロモーターが用いられる。このU6プロモーターの転写開始点はプリン塩基(GもしくはA)でないと十分な発現レベルでgRNAが発現されないことから、標的配列の設計が制限される。
【0015】
一方、HDR技術を用いた標的遺伝子配列の編集は、通常一本鎖オリゴDNA(ssODN)、二本鎖DNA(dsDNA)、プラスミドなどをHDR鋳型ドナーとして用いて行われるが、その効率は非常に効率が低く(20%以下)、鋳型ドナーの相同性アームの配列の設計もHDRでのゲノム編集を行う上で重要な要素となることが明らかとなっている。
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。まず、ゲノム編集技術としてCRISPR/Cas9システムを利用し、一般的な設計手法では不可能であった変異TGFBI遺伝子を標的とする特殊なgRNAを設計し、HDR鋳型ドナーとして再切断による影響を防ぎ、かつTGFBI遺伝子の正常化と遺伝子修復の容易な確認を実現できる全長100ntのssODNを開発することに成功した。その結果、本発明者らは、角膜変性症患者由来の細胞のTGFBIタンパク質の124番目に位置するアミノ酸の変異に対して、高効率、高い特異性、且つ再現性よく変異遺伝子を修復し、正常なTGFBIアミノ酸配列に修復する手段を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本願発明は以下の発明を包含する:
(1)対象における顆粒状角膜変性症を治療する方法であって、
顆粒状角膜変性症に関連するトランスフォーミング増殖因子β誘発(TGFBI)遺伝子の変異を修復するために、対象の角膜実質細胞とCas9及びガイドRNAとを接触させる工程を含む、方法。
(2)TGFBI遺伝子の変異が点変異である、(1)に記載の方法。
(3)顆粒状角膜変性症が顆粒状角膜ジストロフィー2型(GCD2)である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)点変異がTGFBIタンパク質の124位におけるアミノ酸置換である、(2)に記載の方法。
(5)アミノ酸置換がR124H、R124C及びR124Lからなる群から選択される、(4)に記載の方法。
(6)ガイドRNAが、TGFBI遺伝子のスペーサー前隣接モチーフ(PAM)配列の上流側に隣接した22塩基の配列から成る標的配列とハイブリダイズすることができるガイド配列を含む、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)PAM配列がCGGから成る、(6)に記載の方法。
(8)ガイド配列が、標的配列と相補的な、少なくとも17~18塩基から成る領域を含む、(6)又は(7)に記載の方法。
(9)ガイド配列が、アデニン又はグアニンから始まる22塩基の配列から成る、(6)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)ガイド配列が配列番号1の塩基配列を有する、(9)に記載の方法。
(11)ガイド配列が、trans-activating crRNA(tracr RNA)配列と結合している、(6)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)ガイドRNAの発現がU6プロモーターによって駆動される、(1)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)ガイドRNAとU6プロモーターが同一又は異なるベクター上に位置する、(12)に記載の方法。
(14)ガイドRNAとU6プロモーターが同一のベクター上で作用可能に連結している、(13)に記載の方法。
(15)TGFBI遺伝子の変異の修正が、Cas9により切断された配列の相同性配向型修復(HDR)を介して行われる、(1)~(14)のいずれかに記載の方法。
(16)HDRの鋳型ドナーとして一本鎖オリゴDNA(ssODN)が使用される、(15)に記載の方法。
(17)ssODNが、点変異を野生型のアミノ酸に相当する塩基に置き換えるノックイン配列を有する、(16)に記載の方法。
(18)野生型のアミノ酸に相当する塩基がCGT又はCGCである、(17)に記載の方法。
(19)ノックイン配列が制限酵素部位を有する、(18)に記載の方法。
(20)野生型のアミノ酸に相当する塩基がCGTであり、制限酵素部位がBsiWI部位である、(19)に記載の方法。
(21)ssODNが更に、切断部位の両端に相同的な50塩基の相同性アームをノックイン配列の両端に有する、(17)~(20)のいずれかに記載の方法。
(22)細胞との接触の際にCas9とgRNAとがリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成している、(1)~(21)のいずれかに記載の方法。
(23)顆粒状角膜変性症に関連する、TGFBI遺伝子の変異部位を含む標的配列とハイブリダイズする、ガイドRNA分子。
(24)TGFBI遺伝子の変異が点変異である、(23)に記載のガイドRNA分子。
(25)顆粒状角膜変性症がGCD2である、(23)又は(24)に記載のガイドRNA分子。
(26)点変異がTGFBIタンパク質の124位におけるアミノ酸置換である、(23)~(25)のいずれかに記載のガイドRNA分子。
(27)アミノ酸置換がR124H、R124C及びR124Lからなる群から選択される、(26)に記載のガイドRNA分子。
(28)TGFBI遺伝子のPAM配列の上流側に隣接した22塩基の配列から成る標的配列とハイブリダイズすることができるガイド配列を含む、(23)~(28)のいずれかに記載のガイドRNA分子。
(29)PAM配列がCGGから成る、(28)に記載のガイドRNA分子。
(30)ガイド配列が、標的配列と相補的な、少なくとも17~18塩基から成る領域を含む、(28)又は(29)に記載のガイドRNA分子。
(31)ガイド配列が、アデニン又はグアニンから始まる22塩基の配列から成る、(28)~(30)のいずれかに記載のガイドRNA分子。
(32)ガイド配列が配列番号1の塩基配列を有する、(28)~(31)のいずれかに記載のガイドRNA分子。
(33)ガイド配列が、tracr RNA配列と結合している、(28)~(32)のいずれかに記載のガイドRNA分子。
(34)(23)~(33)のいずれかに記載のガイドRNA分子をコードする、核酸。
(35)(23)~(33)のいずれかに記載のガイドRNA分子を発現する、ベクター。
(36)ガイドRNAの発現がU6プロモーターによって駆動される、(35)に記載のベクター。
(37)ガイドRNAとU6プロモーターが同一又は異なるベクター上に位置する、(36)に記載のベクター。
(38)ガイドRNAとU6プロモーターが同一のベクター上で作用可能に連結している、(36)に記載のベクター。
(39)(35)~(38)のいずれかに記載のベクターと、HDRの鋳型ドナーとしてのssODN分子とを含む、キット。
(40)ssODNが、点変異を野生型のアミノ酸に相当する塩基に置き換えるノックイン配列を有する、(39)に記載のキット。
(41)野生型のアミノ酸に相当する塩基がCGT又はCGCである、(40)に記載のキット。
(42)ノックイン配列が制限酵素部位を有する、(40)又は(41)に記載のキット。
(43)野生型のアミノ酸に相当する塩基がCGTであり、制限酵素部位がBsiWI部位である、(42)に記載のキット。
(44)ssODNが更に、切断部位の両端に相同的な50塩基の相同性アームをノックイン配列の両端に有する、(39)~(43)のいずれかに記載のキット。
(45)ssODN分子が配列番号2の塩基配列を有する、(39)~(44)のいずれかに記載のキット。
(46)(23)~(33)のいずれかに記載のガイドRNA分子と、Cas9タンパク質とを含む、キット。
(47)ガイドRNA分子とCas9タンパク質とがリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成している、(46)に記載のキット。
(48)以下のいずれか1つ以上:
(23)~(33)のいずれかに記載のガイドRNA分子;
(34)に記載のガイドRNA分子をコードする、核酸;あるいは
配列番号2の塩基配列を有する、HDRの鋳型ドナーとしてのssODN分子、
を含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明者らは特に、変異したTGFBI遺伝子の124番目アミノ酸に対応する遺伝子配列を切断する為に、その切断部位の4bp下流に存在するCGGの配列をPAM配列として利用し、変異配列特異的な核酸配列を有する22ntのgRNAを開発した。また通常、SpCas9に用いられるgRNAは20ntの長さで設計されるが、124番目アミノ酸に対応する遺伝子配列を切断する場合、PAM配列の制約からgRNAの転写開始点の配列がTとなり、gRNAの発現量と切断効率の低下を引き起こす問題が存在する。さらにはこの従来の20ntの長さで設計したgRNAに対しては、3ntミスマッチのオフターゲットとなる標的配列が多く存在することから、非特異的な配列を切断する問題も考えられる。このことから、従来技術において、CRISPR/Cas9システムを用いて当該遺伝子配列を高効率、高い特異性で切断することは不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は角膜変性症におけるTGFBI遺伝子の変異例を野生型との比較で示す(Wild type/Wild type:野生型のアミノ酸配列を配列番号3、塩基配列を配列番号4とする;Wild type/R124H:ヘテロ変異型のアミノ酸配列を配列番号5、塩基配列を配列番号6とする)。同図では、TGFBI遺伝子の124番目アミノ酸に対応する遺伝子が変異している。
図2図2は、hTGFBI R124H gRNAと、BsiWI部位(C/GTACG)が導入されたhTGFBI R124H修復ssODNの各配列とその近傍の配列を示す。
図3図3は、変異TGFBI遺伝子特異的CRISPR/Cas9ターゲティングプラスミドベクターの構造を模式した図を示す。
図4図4は、BsiWIを用いたPCR-RFLPによるノックインの確認結果を示す。
図5図5は、ノックイン後の配列の遺伝子解析結果を示す。
図6図6は、ノックインにより、63クローン中13クローン(20.6%)で片アレルの編集が認められ、26クローン(41.3%)で両アレルの編集が確認された結果を示す。
図7図7aは、オフターゲットの候補となるゲノム配列の解析結果を示す。図7bはオフターゲット候補となるゲノム配列を示す。図7cはオフターゲット配列に対して、PCR法にてゲノム配列を増幅し、T7エンドヌクレアーゼI法を用いて解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(顆粒状角膜変性症の治療方法)
一態様において、本発明は、ゲノム編集の機構を通じて、TGFBI遺伝子の変異を修復することにより顆粒状角膜変性症を治療する方法を提供する。本発明においては、顆粒状角膜変性症に関与する、あらゆるTGFBI遺伝子の変異、例えば点変異を修復することが意図される。
【0021】
顆粒状角膜変性症の一つである顆粒状角膜ジストロフィー2型(GCD2)においては、TGFBIタンパク質の124番目に位置するアルギニンが、ヒスチジンなどの他のアミノ酸に置換されている。このようなR124Hの点変異以外にも、GCD2の原因となる点変異にはR124CやR124Lなどが知られている。
【0022】
理論的には、ゲノム編集ツールを用いて、TGFBI遺伝子における点変異に対応する塩基配列の変異を正常な塩基配列に置き換えることにより、顆粒状角膜変性症を治療することができる。しかしながら、高効率、高い特異性、且つ再現性の良いゲノム編集技術を実現し、延いては、顆粒状角膜変性症を確実に治療するには、ゲノム編集ツールの高効率での細胞内導入と、ゲノム編集ツールの精緻な設計が必要となる。
【0023】
ゲノム編集ツールの中でも、特にRNA誘導型のCRISPR/Cas9について、一般的に用いられている化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のRNA誘導型ヌクレアーゼであるCas9(SpCas9)を利用した場合を例に説明する。このようなRNA誘導型のCRISPR/Cas9では、ガイドRNA(gRNA)と呼ばれる20塩基の標的配列の認識に必要な配列を持った約120塩基ほどのRNAとSpCas9タンパク質の複合体を用いてgRNAと相補的に結合した任意のDNA配列が二本鎖切断される。
【0024】
本発明においては、顆粒状角膜変性症に関与するTGFBI遺伝子における標的配列を切断するために、顆粒状角膜変性症に罹患した対象から得られた角膜実質細胞と、Casタンパク質及びgRNAとが接触される。Casタンパク質とgRNAは別々に添加してもよいが、オフターゲット効果を抑制するため、リボ核タンパク質(RNP)複合体の状態で使用するのが好ましい。
【0025】
本発明で使用されるCasタンパク質は、CRISPRシステムに属するものであれば限定されないが、Cas9が好ましい。Cas9としては、例えば化膿性連鎖球菌由来のCas9(SpCas9)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来のCas9(StCas9)等が挙げられる。中でも標的部位の切断にはPAM配列の制限があるため、一般的にゲノム編集に用いられるSpCas9が好ましい。細胞内へのCasタンパク質及びgRNAの送達は、それらをコードするベクターを介して、当業者に公知の方法、例えば標準的なトランスフェクション法、エレクトロポレーション、レンチウイルスのトランスダクションなどを使用することができる。Casを発現するためのベクター及びgRNAを発現するためのベクターは、同一のベクターであっても、互いに異なるベクターであってもよい。また、リコンビナントCas9タンパク質、gRNAの複合体(RNP、リボ核タンパク質)を形成させ、当業者に公知の方法、すなわちトランスフェクション法、エレクトロポレーションなどにて直接、RNPを細胞内に送達することもできる。
【0026】
角膜実質細胞は、角膜の透明性を保つのに重要な角膜実質層内に存在する扁平な細胞である。それぞれの細胞は突起を有し、隣接する角膜実質細胞とその突起を介して接触し、網目状の構造を呈している。顆粒状角膜変性症の角膜実質細胞においては、変異TGFBIタンパク質が蓄積することで、透明性が障害される。角膜実質細胞は、深層層状角膜移植などの外科処置の際に、角膜上皮を除去後、間質から採取し、コラゲナーゼ処理を施すことで得られる。
【0027】
被験者の角膜実質細胞への遺伝子導入は、当業者に公知の方法、例えば標準的なトランスフェクション法、エレクトロポレーション法、アデノ随伴ウイルスなどのウイルスベクターを用いた方法を利用する。角膜はNaked DNA delivery法によって、特殊な導入試薬を用いることなくDNAを細胞内導入できることができる組織であり、DNAの直接注入による細胞内伝達も可能である(Brain Res Bull. 2010 Feb 15; 81(2-3): 256-261)。また、リコンビナントCas9タンパク質とgRNAの複合体を形成させたのちに、当業者に公知の方法、すなわちトランスフェクション法、エレクトロポレーション法を用いることで細胞内に送達する。
【0028】
対象は、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類に限定されず、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の偶蹄類、ウマ等の奇蹄類、イヌ、ネコ等のペットが意図される。しかしながら、対象はヒト角膜変性症患者であることが好ましい。
【0029】
DNA切断酵素であるCas9は、DNAエンドヌクレアーゼとして機能し、標的DNAが存在する部位でDNAを切断することができる。gRNAは、その5’末端に標的DNAに相補的な配列を有し、該相補的な配列を介して標的DNAに結合することにより、Cas9を標的DNAに導く機能を有する。なお、Cas9タンパク質とgRNAは、室温条件下、10分程度で複合体を形成し、即座に標的DNAの切断能を発揮する。
【0030】
高効率で標的配列の二本鎖切断を行うためには、gRNAの設計が重要になる。例えば、PAM配列(スペーサー前隣接モチーフ)と呼ばれるNGGの3塩基が20塩基の標的配列の直後に存在する必要がある。またSpCas9による二本鎖切断は、このPAM配列の3-4塩基の上流で起こることから、切断したい部位が決まっている場合、その下流にPAM配列がなければ、SpCas9を用いた当該部位の二本鎖切断は不可能となる。切断すべき箇所がTGFBI遺伝子の124番目アミノ酸に対応する遺伝子配列である場合、その遺伝子配列の4塩基下流に存在するCGGの配列をPAM配列として利用することができる。
【0031】
gRNAを設計するにあたり、当業者は、塩基配列におけるGC含有量を40-80%の範囲から適宜選択することができる。切断効率を向上させる観点からは、GC含有率が高い方が好ましく、例えば50%以上であることが好ましい。
【0032】
gRNAは更に、オフターゲット効果による非特異的な切断を極力減らすよう設計される。例えば、塩基長は通常採用される20塩基としてもよいが、オフターゲット候補が多数見つかることがある。この場合、塩基長を22に増大することで、オフターゲットとなる配列を大幅に低減させ、3塩基ミスマッチまでのオフターゲット配列がヒトゲノム上に存在しないという、高い特異性を持ったgRNAを提供することができる。
【0033】
十分量のgRNAを発現させるためには、その駆動に適切なプロモーターを選択する必要がある。このようなプロモーターとして、通常、RNAポリメラーゼIII依存型のU6プロモーター又はT7プロモーターなどが使用されるが、使用するプロモーターに応じてgRNAを設計する必要もある。例えば、U6プロモーターを使用する場合、転写開始点はプリン塩基(G又はA)でないと十分な発現レベルでgRNAが発現されないことから、U6プロモーターの存在下でgRNAを発現させる場合、gRNAはアデニン又はグアニンから始まる塩基配列とするのが好ましい。
【0034】
gRNAは通常、適切なプロモーターとともに、1又は複数のプラスミドベクターに配置された状態で細胞内に導入され得る。この場合、ガイドRNAとプロモーターは同一のベクター上で作用可能に連結していてもよいし、あるいは異なるベクター上に存在していてもよい。
【0035】
ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズできるよう、標的配列と相補的な、少なくとも17~18塩基から成る領域を含むように設計される。本明細書において、標的配列とはTGFBI遺伝子の変異部位を含む領域、例えば、PAM配列の上流側に隣接した22塩基の配列を意味する。
【0036】
より好ましい態様において、gRNAは、配列番号1の塩基配列:
5′- acucagcuguacacggaccaca -3′を有するように設計される。このようなgRNAは化学的に合成することができる。
【0037】
Casタンパク質をリクルートするために、gRNAを更にtrans-activating crRNA(tracr RNA)配列と結合してもよい。
【0038】
変異部位を含む標的配列の二本鎖を切断した後、切断箇所に正常配列を含むドナーDNAをノックインすることで変異部位を修復することができる。ドナーDNAはCas9 mRNA及びgRNAと同時に細胞内に導入することができる。二本鎖切断(DSB)形成時にドナーが存在することで、相同性配向型修復(HDR)が可能になる。
【0039】
様々なノックインの方法が存在するが、修正精度の高い相同組換え(HR)を介したノックインが好ましい。正常配列をコードするドナーDNA存在下で相同組換えを行うことにより、変異部位を含む染色体上の遺伝的情報がドナー由来の新規情報へと置換される。ドナーDNAは、ssODN、dsDNA又はプラスミドのいずれでもよいが、R124Hのような一塩基多型を置換する場合、正常配列を含むssODNを利用して変異箇所を修復するのが好ましい。
【0040】
点変異を修復するためのドナーDNAは、1)点変異を野生型のアミノ酸に相当する塩基に置き換えるノックイン配列と、2)置き換えられるべき配列の両端に隣接する配列と同一の「左腕」と「右腕」の相同性アームを有する。相同性アームの塩基長は50塩基程度が好ましいが、40前後又は60前後の長さの塩基長を排除することを意図しておらず、当業者は相同性アームの長さを適宜変更することができる。
【0041】
任意に、ドナーDNAは更に制限酵素部位を有する。ドナーDNA中に制限酵素部位を設けることで、遺伝子改変効率の確認を簡便化することができる。TGFBIタンパク質の124番目に位置する点変異を修復する場合を例に説明すると、野生型のアミノ酸に相当する塩基はCGCであるが、例えば、CGCの代わりにCGTをノックイン配列に含めることで、制限酵素部位としてのBsiWI部位(C/GTACG)の導入が可能になる。
【0042】
制限酵素部位以外の必要な配列、例えばレポーター遺伝子や薬剤耐性遺伝子をドナーDNA中に挿入してもよい。例えば、正常配列のC末端にレポーター遺伝子をインフレームで連結させると、正常配列の検出が容易になる。レポーター遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ヒト化ウミシイタケ緑色蛍光タンパク質(hrGFP)、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子や、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼなどの生物発光タンパク質をコードする遺伝子などが挙げられる。
【0043】
配列番号2で表されるssODNは、制限酵素部位としてのBsiWI部と各アームが50塩基の相同性アームを有しており、相同性組換え修復HDR鋳型ドナーとして再切断による影響を防ぎ、且つTGFBI遺伝子の正常化と遺伝子修復の容易な確認を実現することができる。
【0044】
(ガイドRNA及びその用途)
一態様において、本発明は更に、TGFBI遺伝子の変異部位を含む標的配列とハイブリダイズする、ガイドRNA分子及び/又はそれをコードする核酸、あるいはそれらの用途を提供する。ガイドRNA分子が有するガイド配列等の詳細は上述したとおりである。
【0045】
別の態様において、本発明はガイドRNA分子をコードする核酸等を含むベクターを提供する。本発明によって提供されるベクターは、環状のベクターであってもよく、直鎖状のベクターであってもよい。好ましくは、本発明によって提供されるベクターは環状ベクターである。本発明のベクターとしては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。人工染色体ベクターとしては、酵母人工染色体ベクター(YAC)、細菌人工染色体ベクター(BAC)、P1人工染色体ベクター(PAC)、マウス人工染色体ベクター(MAC)、ヒト人工染色体ベクター(HAC)が挙げられる。
【0046】
ガイドRNAをコードするベクターと、Casエンドヌクレアーゼを発現するためのベクターは、同一のベクターであっても互いに異なるベクターであってもよい。また、これらのベクターとssODN等のドナーDNAをコードするベクターも、同一でも異なっていてもよい。
【0047】
一態様において、本発明は、上記ガイドRNA分子若しくはそれをコードする核酸、及び/又は鋳型ドナー分子(例えばssODN)若しくはそれをコードする核酸、をコードする1又は複数のベクターを含むキットを提供する。本発明のキットは顆粒状角膜変性症を治療するために好適に使用することができる。また、変異TGFBI遺伝子に対してゲノム編集を行った後に、当該配列を含む領域をPCRなどで増幅し、HDRにて遺伝子導入したBsiWI制限酵素切断配列を利用してBsiWIによる消化を行うことで、修復したTGFBI遺伝子の検出による診断技術にも利用が可能である。
【0048】
別の態様において、本発明は、上記ガイドRNA分子若しくはそれをコードする核酸、及び/又は鋳型ドナー分子(例えばssODN)若しくはそれをコードする核酸を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は顆粒状角膜変性症を治療するために好適に使用することができる。
【0049】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0050】
上述したようなgRNAの設計上の留意点を考慮し、本件特許発明のgRNAを設計した(配列番号1)。例えば、塩基長を通常採用される20塩基とすると、オフターゲット候補が多数見つかったため、塩基長を22に増大してオフターゲットとなる配列を大幅に低減させた。配列番号1のgRNAはGC含有率が50%以上となっており、spCas9と複合体を形成し、標的配列を切断する上で理想的な値となっている。
【0051】
また、HDR鋳型ドナーとして、切断領域に対して相同的な50bpの相同性アームを両端に持ったssODN(5′-GAGACCCTGGGAGTCGTTGGATCCACCACCACTCAGCTGTACACGGACCGTACGGAGAAGCTGAGGCCTGAGATGGAGGGGCCCGGCAGCTTCACCATCT-3′(配列番号2))を設計した。また本HDR鋳型ドナーは、TGFBI遺伝子変異部位に導入する塩基配列を野生型TGFBIのアルギニン(CGC)とは異なるコドン(CGT)を導入できるように設計してあり、遺伝子配列の正常化、遺伝子改変効率の確認の簡便化(BsiWI制限酵素サイトの導入)、遺伝子配列正常化後の再切断の防止を可能とした(図2)。
【0052】
変異TGFBI遺伝子特異的gRNAの配列(配列番号1)を、gRNAとSpCas9-2A-GFP遺伝子の同時発現を可能とするpX458ベクター(Addgene社製:カタログ番号48138)に導入し、変異TGFBI遺伝子特異的CRISPR/Cas9ターゲティングプラスミドベクターを作成した(図3)。プラスミドのDNA塩基配列を配列番号7とし、下記のガイドRNAのRNA塩基配列を配列番号とする。
pX458-hTGFBI(R124H)gRNA, RNA塩基配列(全長):
5-ACUCAGCUGUACACGGACCACAguuuuagagcuaGAAAuagcaaguuaaaauaaggcuaguccguuaucaacuugaaaaaguggcaccgagucggugcuuuu-3′
【0053】
続いて、上記プラスミドベクターをヒト角膜変性症患者由来角膜実質細胞に対して、ssODN HDR鋳型ドナー(配列番号2)とともに共遺伝子導入を行い、1週間後遺伝子導入細胞をGFP遺伝子の発現を指標に細胞分離した。得られた細胞を培養して増幅後、ゲノム編集効率の確認をRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism、制限酵素断片長多型)法および遺伝子配列の解析を行うことで確認した。
【0054】
その結果、変異TGFBI遺伝子特異的CRISPR/Cas9ターゲティングプラスミドベクター及びHDR鋳型ssODNを導入することによって、ヒト角膜変性症患者由来角膜実質細胞におけるTGFBI遺伝子の変異を正常な配列に修復することに成功した(図4、5)。
【0055】
TGFBI遺伝子R124H変異部位に対応する遺伝子配列をPCRにて増幅し、RFLP法、遺伝子配列解析を行うことで、ゲノム編集効率の確認を行った。TGFBI変異部位のPCRによる遺伝子配列解析に用いたPCRプライマー配列を以下に示す。
フォワード: 5′-GTTGAGTTCACGTAGACAGGC-3′(配列番号9)
リバース: 5′-GACTCCCATTCATCATGCCCA-3’(配列番号10)
【0056】
その結果、コントロールのTGFBI野生型角膜実質細胞では461bpのバンドが検出されたのに対して、ゲノム編集を行ったヒト角膜変性症患者由来角膜実質細胞では、ゲノム編集によりBsiWI制限酵素サイトが導入され、BsiWIにて消化することにより、288bpと173bpのバンドに切断された。遺伝子導入細胞全89クローンに対して、本解析を行ったところ、63クローン中13クローン(20.6%)で片アレルの編集が認められ、26クローン(41.3%)で両アレルの編集が確認された。この結果から、本発明を利用することにより、合計61.9%という極めて高いゲノム編集効率で、ヒト角膜変性症患者由来角膜実質細胞におけるTGFBI遺伝子の変異を正常に修復できることが分かる(図6)。
【0057】
さらには本発明により、従来技術で設計したgRNAよりもオフターゲットとなる配列候補の数を減少させることができた。一般にgRNAはその標的配列に対して3塩基異なる配列に対しては切断活性を持たなくなることが報告されているが(Nature Biotechnology 31, 822-826 (2013))、設計したgRNAに対してオフターゲット配列の解析を行った結果、設計したgRNAに対する1~3塩基ミスマッチの配列は存在しないことが明らかとなった(図7a)。一方、3箇所の染色体領域内に(染色体20番24871179-24871203、2番98321072-98321097、8番1150445-1150469)に4、5塩基ミスマッチの配列が確認された(図7a、b)。当該配列を含むゲノム領域をPCRにて増幅し、一般的なT7エンドヌクレアーゼI法にて解析を行った。
Off target解析に用いたPCRプライマー一式を以下に示す。
OTS1
5′-ATGTCAGAAGTCCCGCTGTG-3′(配列番号11)
5′-TGATGGGGTCAGAGGGCATA-3′(配列番号12)
【0058】
OTS2
5′-CTTCCTGCTCTGTGTTTAGCCA-3′(配列番号13)
5′-ACCTCCAAGTTGAGCAGTGTC-3′(配列番号14)
【0059】
OTS3
5′-GCAGCAAAGCACTCAAGAGG-3′(配列番号15)
5′-CAAACTTCTGCCTGGGCATC-3′(配列番号16)
【0060】
T7エンドヌクレアーゼIはオフターゲット切断に由来のPCR増副産物と野生型産物との二本鎖のミスマッチを認識し、ヘテロ二本鎖のミスマッチ部分を切断する。その結果、全てのPCR産物において、T7エンドヌクレアーゼIによる切断は検出されなかった。すなわち、どの配列に対してもオフターゲット効果による非特異的な切断は認められなかった(図7c)
【0061】
上記結果からこのことから本発明に係る変異TGFBI遺伝子特異的gRNAは、実際にオフターゲット効果による切断を低減できることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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