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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】液体噴霧システム
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20221020BHJP
   B05B 17/00 20060101ALI20221020BHJP
   B05B 12/32 20180101ALI20221020BHJP
   B05B 14/30 20180101ALI20221020BHJP
   B05B 5/025 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A01M7/00 P
B05B17/00 101
B05B12/32
B05B14/30
B05B5/025 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018226994
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020089283
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】吉永 慶太
(72)【発明者】
【氏名】太田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】深津 時広
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕貴
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04893755(US,A)
【文献】特表2015-501725(JP,A)
【文献】特開2005-013037(JP,A)
【文献】特開2016-163882(JP,A)
【文献】特開昭59-071636(JP,A)
【文献】特開2017-153434(JP,A)
【文献】実開昭55-035267(JP,U)
【文献】実公昭49-019465(JP,Y1)
【文献】実開昭51-102024(JP,U)
【文献】特開平08-089862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
B05B 17/00
B05B 12/32
B05B 14/30
B05B 5/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に沿って植物が植えられた畝又は高設栽培ベッドを跨ぐ状態で圃場に配置され、前記所定方向に沿って前記畝又は前記高設栽培ベッドに対して相対移動するフレーム部と、
前記フレーム部に設けられ、前記畝又は前記高設栽培ベッドの上方と前記畝又は前記高設栽培ベッドの幅方向両側を取り囲み、空間を形成する空間形成部材と、
記空間内において前記植物に向けて帯電した液体を噴霧する静電噴霧装置と、を備え
前記空間形成部材は、導電性を有し、接地されていることを特徴とする、液体噴霧システム。
【請求項2】
前記空間の前記所定方向の一側の境界部分と他側の境界部分の少なくとも一方に設けられ、前記畝又は前記高設栽培ベッドに植えられた前記植物と干渉しない形状を有する、又は前記植物と干渉したときに変形する、境界形成部材を更に備える、請求項に記載の液体噴霧システム。
【請求項3】
前記境界形成部材は、前記フレーム部に吊り下げられた、複数の紐状部材又は複数のチェーン状部材であることを特徴とする請求項に記載の液体噴霧システム。
【請求項4】
前記空間形成部材に付着した前記液体を回収する回収機構を更に備える、請求項1~のいずれか一項に記載の液体噴霧システム。
【請求項5】
前記回収機構が回収した前記液体を前記静電噴霧装置において再利用することを特徴とする請求項に記載の液体噴霧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴霧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
温室などの施設栽培においては、病害虫が発生しやすく、一旦病害虫が発生すると施設全体へ短期間で蔓延するおそれがあるため、頻繁に農薬散布が行われている。
【0003】
農薬の散布作業は、作業者の農薬被爆の危険性が高い。特に草丈が1m以上になったり、イチゴなどのように高設栽培が行われている場合には、農薬が飛散する高さが作業者の鼻孔や口の近傍となることから、作業者の吸入量が多くなる。これを避けるために、作業者はレインコートやゴーグル、マスクなどを装着して圃場内を歩きながら散布作業を行わなければならず、夏場などにおいては、非常に過酷な作業となる。
【0004】
従来、薬液の目的外飛散(ドリフト)を低減するための技術として、カバー枠体と屋根カバーを有しカバー枠体の内側面に設けられた薬液噴霧ノズルから薬液を噴霧する薬液散布装置が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-89862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
農薬を作物に万遍なく付着させるためには、噴霧する農薬の粒径をなるべく小さくすることが好ましい。しかしながら、農薬の粒径を小さくすると、空気中を漂うように農薬が浮遊するため、特許文献1等のような薬液散布装置を用いたとしても、薬液散布装置が移動した後の空気中に農薬が目的外飛散(ドリフト)するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、液体を噴霧したときにドリフトが生じるのを抑制することが可能な液体噴霧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴霧システムは、所定方向に沿って植物が植えられた畝又は高設栽培ベッドを跨ぐ状態で圃場に配置され、前記所定方向に沿って前記畝又は前記高設栽培ベッドに対して相対移動するフレーム部と、前記フレーム部に設けられ、前記畝又は前記高設栽培ベッドの上方と前記畝又は前記高設栽培ベッドの幅方向両側を取り囲み、空間を形成する空間形成部材と、記空間内において前記植物に向けて帯電した液体を噴霧する静電噴霧装置と、を備え、前記空間形成部材は、導電性を有し、接地されている
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体噴霧システムは、液体を噴霧したときにドリフトが生じるのを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る農薬噴霧システムが利用される温室内を概略的に示す図である。
図2】2つの高設栽培ベッドの間に設置されているレールの一部を上方から見た状態を示す図である。
図3図3(a)は、レールに沿って移動する農薬噴霧システムを-Y方向から見た状態を概略的に示す図であり、図3(b)は、図3(a)の農薬噴霧システムを+X方向から見た状態を概略的に示す図である。
図4図4(a)、図4(b)は、図3(a)、図3(b)の農薬噴霧システムから側壁部材やチェーン部材を取り除いた状態を示す図である。
図5】側壁部材、チェーン部材、農薬回収樋及び農薬タンクを取り出して示す斜視図である。
図6】温室内の一部を拡大して、農薬噴霧システムの動きを模式的に示す図である。
図7】変形例(チェーン部材の一部を板状部材に変更する例)について説明するための図である。
図8図8(a)、図8(b)は、変形例(チェーン部材に代えて板状部材を用いる例)について説明するための図である。
図9】レールの変形例について、説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、液体噴霧システムの一実施形態である農薬噴霧システム10について、図1図6に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、一実施形態に係る農薬噴霧システム10が利用される圃場(本実施形態では温室)100内を概略的に示す図である。図1に示すように、温室100内には、多数の高設栽培ベッド90が設けられている。高設栽培ベッド90では、例えばイチゴなどの農作物が栽培される。本実施形態では、高設栽培ベッド90の長手方向をX軸方向とし、高設栽培ベッド90が近接して配列されている方向(高設栽培ベッド90の短手方向であり、幅方向)をY軸方向とし、X軸及びY軸に直交する方向(鉛直方向)をZ軸方向としている。温室100内においてX軸方向に隣接する高設栽培ベッド90間のスペースは、作業道として利用される。
【0013】
図2には、Y軸方向に沿って配置された2つの高設栽培ベッド90の間に設置されているレール(軌道)80の一部を上方(+Z方向)から見た状態が示されている。レール80としては、例えば直径50mmのアルミパイプなどを用いることができる。レール80としてパイプを用いた場合、内部にお湯を通すことで、温室100内の暖房設備(温湯管)として利用することができる。ただし、レール80としては、パイプ以外の案内体を用いることとしてもよい。レール80は、温室100内の地面G上にX軸方向に所定間隔をあけて設置された枕木部材82に固定されている。なお、枕木部材82の材料としては、アルミニウムなどの導電性部材が用いられているものとする。
【0014】
図3(a)には、レール80に沿って移動する農薬噴霧システム10を-Y方向から見た状態が概略的に示され、図3(b)には、図3(a)の農薬噴霧システム10を+X方向から見た状態が概略的に示されている。農薬噴霧システム10は、図3(b)に示すように、高設栽培ベッド90を跨ぐような状態で、高設栽培ベッド90の+Y側及び-Y側に位置するレール80に沿ってX軸方向に移動する。また、農薬噴霧システム10は、レール80上から離脱した状態では、温室100の地面G上を移動する。
【0015】
図3(a)、図3(b)に示すように、農薬噴霧システム10は、レール80上又は地面G上を走行可能な一対の台車部12A、12Bと、台車部12A、12B上に設けられたフレーム部14と、フレーム部14に設けられた農薬噴霧・回収装置20と、を備える。
【0016】
(台車部12A、12B)
台車部12Aは、2つの車輪22A、22Bと、2つの軌道輪24A、24Bと、ベース部材26と、を有する。車輪22Aと軌道輪24Aは、ベース部材26に設けられたY軸方向に延びる第1軸28Aに設けられている。また、車輪22Bと軌道輪24Bは、ベース部材26に設けられたY軸方向に延びる第2軸28Bに設けられている。したがって、車輪22A、22Bと、2つの軌道輪24A、24Bは、Y軸回りに回転可能となっている。なお、ベース部材26や、軌道輪24A、24B、第1軸28A、第2軸28Bの材料としては、アルミニウムなどの導電性部材が用いられている。
【0017】
台車部12Aは、図3(b)に示すようにレール80上に載った状態では、軌道輪24A、24Bの回転により、レール80に沿って移動する。また、台車部12Aは、地面G上においては、車輪22A、22Bの回転により、地面G上を移動する。なお、不図示ではあるが、農薬噴霧システム10には、車輪22Aと軌道輪24A、車輪22Bと軌道輪24Bの少なくとも一方を回転駆動する駆動装置が設けられている。
【0018】
台車部12Bは、台車部12Aと左右対称であるが、同様の構成を有している。したがって、台車部12Bの構成のうち、台車部12Aと対応する構成には、同一の符号を付すものとする。
【0019】
(フレーム部14)
フレーム部14は、台車部12Aのベース部材26上に設けられた2本の柱部材30と、台車部12Bのベース部材26上に設けられた2本の柱部材32と、4本の柱部材30、32によって支持する天井部枠体34とを有する。これら柱部材30、32及び天井部枠体34の材料は、アルミニウムなどの導電性部材となっている。天井部枠体34は、矩形枠状の部材であり、矩形の4つの角部において、4本の柱部材30、32それぞれによって支持されている。
【0020】
また、フレーム部14は、2本の柱部材30の間を連結するような状態で設けられた側壁部材36Aと、2本の柱部材32の間を連結するような状態で設けられた側壁部材36Bとを有する。更に、フレーム部14は、天井部枠体34の+Z側の面において、矩形枠の中央開口をふさぐような状態で設けられた天井部材38を有する。側壁部材36A、36B、天井部材38は、例えば、カーボン入りのプラスチック段ボールなどの導電性の板状部材である。
【0021】
本実施形態においては、側壁部材36A、36B及び天井部材38は、農薬噴霧システム10がレール80に載った状態では、導電性部材(柱部材30、32、台車部12A、12Bのベース部材26、第1軸28A、第2軸28B、軌道輪24A、24B、レール80、及び枕木部材82)を介して接地(アース)されている。
【0022】
また、フレーム部14は、図3(a)、図3(b)に示すように、天井部枠体34の-X側端部及び+X側端部において、Y軸方向(高設栽培ベッド90の幅方向)に沿って多数設けられた、チェーン部材40を有する。チェーン部材40は、アルミニウムなどの導電性部材を目の細かいチェーン状に形成したものである。チェーン部材40は、高設栽培されているイチゴの葉などに接触した場合であっても滑らかに変形するため、チェーン部材40が葉などに引っ掛かり、傷つけたりすることはほとんどない(図3(a)の-X側のチェーン部材40参照)。このチェーン部材40についても、フレーム部14の導電性部材を介して接地されている。
【0023】
本実施形態においては、側壁部材36A、36Bと、天井部材38が、農薬を噴霧する空間(以下、「農薬噴霧空間」と呼ぶ)を形成する空間形成部材として機能している。また、チェーン部材40は、農薬噴霧空間の境界部分に設けられる境界形成部材として機能している。
【0024】
(農薬噴霧・回収装置20)
図4(a)、図4(b)には、図3(a)、図3(b)の農薬噴霧システム10から側壁部材36A、36Bやチェーン部材40を取り除いた状態が示されている。
【0025】
農薬噴霧・回収装置20は、図4(a)、図4(b)に示すように、静電噴霧装置としての噴霧ノズル50A、50B、50Cと、回収機構としての農薬回収樋52A、52Bと、農薬タンク54A、54Bと、天井部材38上に設けられたポンプ56と、農薬タンク54Aとポンプ56を連結する配管58Aと、農薬タンク54Bとポンプ56を連結する配管58Bと、を有する。
【0026】
噴霧ノズル50A、50B、50Cは、天井部材38及び側壁部材36A、36Bに設けられている。噴霧ノズル50A、50B、50Cとポンプ56との間には、不図示の配管が接続されている。したがって、ポンプ56が農薬タンク54A、54Bから吸い上げた農薬が当該配管を介して噴霧ノズル50A、50B、50Cに送られることで、噴霧ノズル50A、50B、50Cから農薬が噴霧されるようになっている。
【0027】
噴霧ノズル50A、50B、50Cは、静電ノズルと呼ばれるノズルである。静電ノズルは、ノズル近傍にプラスに印加された環状の電極が設けられたものであり、環状の電極の内側に対して霧状の農薬を通過させることで、マイナスに帯電した農薬を噴霧することができる。このように、マイナスに帯電した農薬を噴霧することで、静電気力により、農薬の粒子をイチゴの葉などに付着させやすくすることができる。ここで、本実施形態では、噴霧ノズル50A、50B、50Cから噴霧される農薬の粒径が60~80μm程度となっており、噴霧される農薬は霧状になっている。これにより、農薬の粒子が空中を浮遊するため、葉の裏側にも効率的に農薬を付着させることができる。また、イチゴの葉などに付着しなかった農薬(余剰液滴)の多くは、静電気力により、接地されている天井部材38や側壁部材36A、36B、チェーン部材40に付着する。
【0028】
図5は、側壁部材36A、36B、チェーン部材40、農薬回収樋52A、52B及び農薬タンク54A、54Bを取り出して示す斜視図である。なお、図5において、紙面手前側に位置する側壁部材36A及び農薬回収樋52A、農薬タンク54Aについては、破線にて示している。
【0029】
図5に示すように、一方の農薬回収樋52Aは、側壁部材36Aの下端部に設けられている。農薬回収樋52AのY軸方向の長さは、側壁部材36AのY軸方向の長さよりも大きく設定されている。側壁部材36Aに付着した農薬は、側壁部材36Aを伝って、農薬回収樋52A内に流れ落ちるようになっている。また、農薬回収樋52Aの上方には、チェーン部材40の一部(-Y側端部近傍に位置するチェーン部材40)の下端部が位置している。したがって、農薬回収樋52Aの上方に位置するチェーン部材40に付着した農薬は、当該チェーン部材40を伝って、農薬回収樋52A内に流れ落ちるようになっている。
【0030】
他方の農薬回収樋52Bは、側壁部材36Bの下端部に設けられている。農薬回収樋52BのY軸方向の長さは、側壁部材36BのY軸方向の長さよりも大きく設定されている。側壁部材36Bに付着した農薬は、側壁部材36Bを伝って、農薬回収樋52B内に流れ落ちるようになっている。また、農薬回収樋52Bの上方には、チェーン部材40の一部(+Y側端部近傍に位置するチェーン部材40)の下端部が位置している。したがって、農薬回収樋52Bの上方に位置するチェーン部材40に付着した農薬は、当該チェーン部材40を伝って、農薬回収樋52B内に流れ落ちるようになっている。
【0031】
ここで、農薬回収樋52A、52Bの上方に位置していないチェーン部材40は、高設栽培ベッド90の上方に位置するようになっている。したがって、これらのチェーン部材40に付着した農薬は、高設栽培ベッド90上又はイチゴの葉などの上に流れ落ちるようになっている。なお、高設栽培ベッド90に設けられるマルチを大きめにし、農薬回収樋52A、52Bと上下方向において重なるようにすれば、高設栽培ベッド90(マルチ)上に流れ落ちた農薬を農薬回収樋52A、52Bにおいて回収することができる。
【0032】
農薬回収樋52A、52B内に流れ落ちた農薬は、農薬タンク54A、54Bに集められる(回収される)。
【0033】
なお、天井部材38の下方には、農薬回収樋52A、52Bや高設栽培ベッド90が位置している。したがって、天井部材38に付着して、重力によって落下した農薬は、農薬回収樋52A、52Bを介して農薬タンク54A、54Bで回収されるか、高設栽培ベッド90上又はイチゴの葉などの上に落下する。
【0034】
(農薬噴霧システム10の動作について)
次に、農薬噴霧システム10の動作について、図6に基づいて説明する。図6は、温室100内の一部を拡大して、農薬噴霧システム10の動きを模式的に示す図である。
【0035】
作業者は、図6に示すように、農薬噴霧システム10を作業道の位置P1に位置させた状態から作業を開始するものとする。
【0036】
まず、作業者は、コントローラを操作して、農薬噴霧システム10を矢印A方向に移動させる。この移動により、農薬噴霧システム10が高設栽培ベッド90の+Y側及び-Y側に位置する2本のレール80上に乗り移った段階で、農薬散布を開始する。この場合、作業者は、農薬噴霧システム10から離れた位置(温室100の外など)からコントローラを操作して、農薬噴霧システム10を矢印B方向(-X方向)に移動させる。この移動の間に、農薬噴霧システム10では、ポンプ56により農薬タンク54A、54Bから農薬を吸い上げ、噴霧ノズル50A、50B、50Cへ農薬を供給する。これにより、噴霧ノズル50A、50B、50Cからは、マイナスに帯電した農薬が、側壁部材36A、36B、天井部材38、チェーン部材40により形成された農薬噴霧空間内に噴霧されるようになっている。
【0037】
そして、図6の位置P2(レール80の-X端部)まで農薬噴霧システム10が移動した後は、作業者がコントローラを操作するなどして農薬噴霧システム10を矢印C方向(+X方向)に移動させる。この移動の間にも、噴霧ノズル50A、50B、50Cからは、マイナスに帯電した農薬が農薬噴霧空間内に噴霧される。その後、農薬噴霧システム10がレール80の+X端部まで移動すると、作業者は農薬噴霧システム10を更に+X方向に駆動し(矢印D参照)、不図示の台車に農薬噴霧システム10を乗せる。そして、作業者は、台車を-Y方向に押すことで、農薬噴霧システム10を作業道において矢印E方向に移動させて、位置P3に位置決めする。なお、農薬噴霧システム10を台車に乗せ、台車を-X方向に移動させる動作は、自動で行うこととしてもよい。
【0038】
その後は、上述した動作の繰り返しにより、温室100内全体のイチゴに対する農薬散布を行うことができるようになっている。
【0039】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、農薬噴霧システム10は、X軸方向に沿ってイチゴが植えられた高設栽培ベッド90を跨ぐ状態で温室100内に配置され、高設栽培ベッド90に対してX軸方向に移動するフレーム部14と、フレーム部14に設けられ、高設栽培ベッド90の上方と幅方向両側を取り囲み、農薬噴霧空間を形成する天井部材38及び側壁部材36A、36Bとを備えている。そして、農薬噴霧システム10は、農薬噴霧空間内においてイチゴの葉などに向けてマイナスに帯電した農薬を噴霧する噴霧ノズル50A、50B、50Cを備えている。これにより、本実施形態では、マイナスに帯電した農薬を農薬噴霧空間内に噴霧するため、農薬は、イチゴの葉に付きやすくなるとともに、天井部材38や側壁部材36A、36Bにも付きやすくなる。これにより、農薬の目的外飛散(ドリフト)を低減することができる。例えば、作業者がノズルを振りながら圃場を歩き回って農薬を散布する場合には、農作物への付着率は30%程度であり、残り70%は地表面等に落下していた。これに対し、本実施形態のような農薬噴霧システム10を用いることで、農作物に付着しなかった農薬の約25~30%を天井部材38や側壁部材36A、36Bにより捕捉することができる。
【0040】
また、本実施形態では、農薬のドリフトを低減することができることから、農薬の粒径を極力小さくすることができる。この場合、農薬を噴霧した際に農薬噴霧空間内に農薬の粒子を浮遊させることができるため、葉の裏側にも万遍なく農薬を付着させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、天井部材38や側壁部材36A、36Bが導電性を有しており、接地されているため、天井部材38や側壁部材36A、36Bに、マイナスに帯電した農薬の粒子を付着させやすくすることができる。これにより、農薬の粒子を捕捉しやすくなるため、ドリフトを低減することが可能である。
【0042】
また、本実施形態では、農薬噴霧空間の+X側及び-X側の境界部分に、イチゴの葉と接触したときに変形するチェーン部材40が設けられている。これにより、農薬が農薬噴霧空間の+X側や-X側からドリフトしそうになっても、チェーン部材40に農薬が付着することで、農薬を捕捉することができるため、ドリフトを低減することが可能となる。また、チェーン部材40に付着した農薬は、農薬回収樋52A、52Bやイチゴの葉などに流れ落ちるため、農薬の利用効率を向上することができる。また、本実施形態では、チェーン部材40がイチゴやイチゴの葉と接触したときに変形するため、チェーン部材40がイチゴやイチゴの葉を傷つけるのを極力抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、農薬噴霧・回収装置20が、農薬回収樋52A、52Bにより、天井部材38や側壁部材36A、36B、チェーン部材40に付着した農薬を回収する。これにより、農薬の利用効率を向上することができる。また、本実施形態では、農薬噴霧・回収装置20が、農薬回収樋52A、52Bを用いて回収した農薬を再利用するため、農薬の利用量を低減することができる。
【0044】
また、本実施形態では、農薬噴霧システム10を一定速度で移動させることができ、噴霧ノズル50A、50B、50Cから一定量の農薬を噴霧させることができるため、作業者が圃場内を歩きながら農薬を散布するような場合と比べ、農薬の散布ムラを低減することができる。また、農薬噴霧システム10を用いることで、作業者の労働負担を軽減し、作業効率を向上することができる。
【0045】
また、本実施形態では、農薬タンク54A、54Bを農薬噴霧システム10に搭載していることから、農薬タンクを外部に設置する場合のようにホース等の配管を行う必要がなくなる。
【0046】
なお、上記実施形態では、側壁部材36A、36Bや天井部材38は、必ずしも導電性を有していなくてもよい。側壁部材36A、36Bや天井部材38が導電性を有していない場合には、農薬を散布する前に、側壁部材36A、36Bや天井部材38を予め水道水等で濡らしておく。これにより、表面の水道水等が導電体と同様の機能を発揮するため、側壁部材36A、36Bや天井部材38が導電性を有する場合と同様に、農薬を捕捉することが可能となる。
【0047】
なお、上記実施形態では、農薬噴霧空間の+X側及び-X側の境界部分にチェーン部材40を設ける場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、図7に示すように、チェーン部材40の一部に代えて、イチゴやイチゴの葉と接触しない箇所に、板状部材36C、36D、36E、36Fを設けることとしてもよい。なお、板状部材36C、36D、36E、36Fとしては、カーボン入りのプラスチックダンボールなどの導電性部材を用いることができる。板状部材36C、36D、36E、36Fに付着した農薬は、板状部材36C、36D、36E、36Fの表面を伝って、農薬回収樋52A、52B内に流れ落ちるため、再利用することが可能である。
【0048】
なお、上記実施形態では、図8(b)に示すように、チェーン部材40に代えて、イチゴやイチゴの葉と干渉(接触)しないように切り欠き74が形成された板状部材72を設けることとしてもよい。この場合、切り欠き74が狭いため、切り欠き74から排出される空気の勢いが強くなり、農薬のドリフトが多くなるおそれがある。このため、図8(a)に示すように、側壁部材36A、36Bには、農薬散布空間内の空気を排出するための空気穴70を設けることとしてもよい。また、図8(a)に示すように、空気穴70にチェーンを配列したり、パンチングメタルを設けるようにすれば、チェーンやパンチングメタルにおいて農薬の粒子を捕捉することができるようになる。これにより、空気穴70から農薬がドリフトするのを抑制し、農薬の回収効率を向上することが可能となる。
【0049】
なお、上記実施形態では、側壁部材36A、36Bや天井部材38をプラスチック段ボールなどの板状部材とする場合について説明したが、これに限られるものではない。側壁部材36A、36Bや天井部材38は、例えば、パンチングメタルやチェーン部材であってもよい。このようにしても側壁部材36A、36Bや天井部材38においてマイナスに帯電した農薬を捕捉することができるため、農薬の利用効率を向上することができる。
【0050】
なお、上記実施形態では、天井部材38が板状部材(下面が水平面)である場合について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、天井部材38の下面が水平面に対して傾斜していてもよい。例えば、天井部材38が図3(b)において逆V字状の形状を有していれば、天井部材38に付着した農薬が、天井部材38の下面及び側壁部材36A、36Bを伝って、農薬回収樋52A、52Bに流れ落ちるため、農薬を効率的に回収することができる。また、天井部材38が図3(b)において左下がり又は右下がりに傾斜していてもよく、この場合にも同様に、農薬を効率的に回収することが可能となる。
【0051】
なお、上記実施形態では、側壁部材36A、36B及び天井部材38、チェーン部材40をプラスに帯電させてもよい。これにより、より効果的に農薬を捕捉することが可能となる。
【0052】
なお、上記実施形態では、図3(b)や図7のチェーン部材40に代えて、紐状の部材を用いることとしてもよい。また、チェーン部材40は、農薬散布空間の+X側の境界部分及び-X側の境界部分のいずれかに設けられてもよい。また、農薬散布空間の+X側及び-X側の境界部分に、チェーン部材40を設けないこととしてもよい。
【0053】
なお、上記実施形態では、図6を用いて説明したように、農薬噴霧システム10をY軸方向(矢印E方向)に移動する際に不図示の台車を用いることとしたが、これに限られるものではない。例えば、農薬噴霧システム10がY軸方向にも移動可能な場合には、台車を用いないこととしてもよい。また、図9に示すように、農薬噴霧システム10が、Y軸方向に並ぶ高設栽培ベッド90に次々とアクセスできるように、レール80が敷設されているような場合にも、農薬噴霧システム10をY軸方向に移動するための台車は不要となる。
【0054】
なお、上記実施形態では、農薬噴霧システム10が、車輪22Aと軌道輪24A、車輪22Bと軌道輪24Bの少なくとも一方を回転駆動する駆動装置を有する場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、農薬噴霧システム10を別の装置でけん引したり、農薬噴霧システム10を人手で移動させたりする場合には、駆動装置は不要となる。
【0055】
なお、上記実施形態では、高設栽培ベッド90に対して、農薬噴霧システム10が移動する場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、高設栽培ベッド90がX軸方向に沿って移動できるような場合には、農薬噴霧システム10に対して高設栽培ベッド90をX軸方向に移動させてもよい。
【0056】
なお、上記実施形態では、農薬噴霧システム10を高設栽培ベッド90で栽培されているイチゴなどの農作物に対する農薬噴霧に用いる場合について説明したがこれに限られるものではない。例えば、圃場において整列形成された畝において栽培されている農作物(例えばキャベツなど)に対して、農薬噴霧システム10を用いて農薬を噴霧することとしてもよい。この場合、圃場にレール80を敷設して、農薬噴霧システム10を移動させてもよいし、圃場内で農薬噴霧システム10を自走させたり、牽引したりしてもよい。
【0057】
なお、上記実施形態では、農薬噴霧システム10と同様の構成を有するシステムを利用して、農薬以外の液体(例えば肥料など)を噴霧するようにしてもよい。
【0058】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 農薬噴霧システム(液体噴霧システム)
14 フレーム部
36A、36B 側壁部材(空間形成部材)
38 天井部材(空間形成部材)
40 チェーン部材(境界形成部材、チェーン状部材)
50A、50B、50C 噴霧ノズル(静電噴霧装置)
52A、52B 農薬回収樋(回収機構)
90 高設栽培ベッド
100 温室(圃場)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9