(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221020BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221020BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550C
C09K3/14 550M
H01L21/304 622X
(21)【出願番号】P 2018165036
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】角橋 祐介
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-518091(JP,A)
【文献】特開2017-197590(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057156(WO,A1)
【文献】特開2015-128135(JP,A)
【文献】国際公開第2007/060869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、
前記研磨用組成物は、砥粒、水、および有機酸を含み、
前記研磨用組成物中の前記砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の前記高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは正であり、かつY-X≦-5であ
り、
前記砥粒は、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、およびN-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種のシランカップリング剤が表面に固定化されたコロイダルシリカである、研磨用組成物。
【請求項2】
前記有機酸は、下記化学式(1)で表される化合物、および下記構造(2)を満たす化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【化1】
【請求項3】
前記酸基は、カルボン酸基、ホスホン酸基、およびスルホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記酸基は、カルボン酸基である、請求項2または3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記高誘電率層は、非晶質金属酸化物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物の製造方法であって、
砥粒と、水と、有機酸と、を混合することを有し、
前記研磨用組成物中の前記砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の前記高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは正であり、かつY-X≦-5であ
り、
前記砥粒は、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、およびN-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種のシランカップリング剤が表面に固定化されたコロイダルシリカである、研磨用組成物の製造方法。
【請求項7】
高誘電率層を有する研磨対象物を準備する工程と、
請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、前記研磨対象物を研磨する工程と、
を有する、研磨方法。
【請求項8】
高誘電率層を有する半導体基板を、請求項7に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【請求項9】
高誘電率層を有する研磨対象物、研磨パッド、および研磨用組成物を含む研磨システムであって、
前記研磨用組成物は、砥粒、水、および有機酸を含み、
前記研磨用組成物中の前記砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の前記高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは正であり、かつY-X≦-5であり、
前記砥粒は、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、およびN-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種のシランカップリング剤が表面に固定化されたコロイダルシリカであり、
前記研磨対象物の表面を前記研磨パッドおよび前記研磨用組成物と接触させる、研磨システム。
【請求項10】
前記有機酸は、下記化学式(1)で表される化合物、および下記構造(2)を満たす化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の研磨システム。
【化2】
上記化学式(1)中、R
1およびR
3は、それぞれ独立して、酸基であり、
R
2は、単結合、または置換もしくは非置換のメチレン基である。
【請求項11】
前記高誘電率層は、非晶質金属酸化物を含む、請求項9または10に記載の研磨システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および研磨システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化物(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMPの一般的な方法は、円形の研磨定盤(プラテン)上に研磨パッドを貼り付け、研磨パッド表面を研磨剤で浸し、基板の配線層を形成した面を押し付けて、その裏面から所定の圧力(研磨圧力)を加えた状態で研磨定盤を回し、研磨剤と配線層との機械的摩擦によって、配線層を除去するものである。例えば、特許文献1には、酸化ケイ素(TEOS膜)向けのCMP技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体基板を構成する材料として、高誘電率材料の使用が検討されている。これに伴い、高誘電率材料向けのCMP技術の需要が高まっている。
【0006】
したがって、本発明は、高誘電率層を高い研磨速度で研磨できる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の新たな課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、前記研磨用組成物は、砥粒、水、および有機酸を含み、前記研磨用組成物中の前記砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の前記高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは正であり、かつY-X≦-5である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る研磨用組成物によれば、高誘電率層を高い研磨速度で研磨することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、前記研磨用組成物は、砥粒、水、および有機酸を含み、前記研磨用組成物中の前記砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の前記高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは正であり、かつY-X≦-5である、研磨用組成物である。当該研磨用組成物によれば、高誘電率層を高い研磨速度で研磨することができる。
【0010】
Xが正であり、かつY-X≦-5であると、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際、研磨用組成物に含まれる砥粒と、研磨対象物が有する高誘電率層との間で、静電的相互作用が十分に働く。ゆえに、砥粒の高誘電率層への接触頻度が高くなり、高誘電率層を高い研磨速度で研磨することができると考えられる。
【0011】
なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0013】
また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。なお、本明細書において、ゼータ電位の測定は、以下の方法により行う。
【0014】
<ゼータ電位の測定方法>
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位X[mV]は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0015】
研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位Y[mV]は、高誘電率層が成膜されたシリコンウェーハを大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定して得られる。具体的には、測定温度25℃の条件下で平板試料用セルユニット(大塚電子株式会社製)のセル上面に高誘電率層を成膜したシリコンウェーハを取り付ける。研磨用組成物(上記測定によりゼータ電位既知である砥粒をモニター粒子とする)でセルを満たし、モニター粒子の電気泳動を行い、セル上下面間の7点においてモニター粒子の電気移動度を測定する。得られた電気移動度のデータを森・岡本の式、およびSmoluchowskiの式で解析することにより、ゼータ電位Y[mV]を算出する。
【0016】
本発明において、Y-X≦-5である。Y-X>-5の場合、研磨用組成物に含まれる砥粒と、研磨対象物が有する高誘電率層との間で、静電的相互作用が十分に働かない。よって、砥粒の高誘電率層への接触頻度が低くなり、高誘電率層の研磨速度が低下する。
【0017】
本発明において、Y-X≦-13であることが好ましく、Y-X≦-16であることがより好ましい。
【0018】
また、Y-Xの下限値は、特に制限されないが、例えば、Y-X≧-50であることが好ましく、Y-X≧-40であることがより好ましく、Y-X≧-30であることがさらに好ましく、Y-X≧-25であることが特に好ましい。Y-Xの値は、例えば、後述する有機酸の種類や添加量を調節することにより、所望の範囲に制御することができる。
【0019】
<研磨対象物>
[高誘電率層]
本発明に係る研磨対象物は、高誘電率層(高誘電率材料を主成分として含む層)を有する。ここで、「高誘電率材料を主成分として含む層」は、層中の高誘電率材料の含有量が、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であることをいう(上限値:100質量%)。
【0020】
高誘電率材料は、酸化ケイ素(SiO2、比誘電率3.9)よりも比誘電率が高い材料を指し、より具体的には、比誘電率が5.0以上である材料を指す。高誘電率材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、比誘電率は、水銀プローブ法により得られる値である。
【0021】
比誘電率が5.0以上である材料としては、例えば、酸化アルミニウム(AlOX、比誘電率9~10)、酸化マグネシウム(MgOX、比誘電率9~10)、酸化ガリウム(GaOX、比誘電率9~10)、酸化ハフニウム(HfOX、比誘電率20~30)、酸化ランタン(LaOX、比誘電率20~30)、酸化ジルコニウム(ZrOX、比誘電率20~30)、酸化セリウム(CeOX、比誘電率約20)、酸化チタン(TiOX、比誘電率約100)等の金属酸化物が挙げられる。上記金属酸化物はpH5.0未満で正のゼータ電位を満たすため、高誘電率層が上記金属酸化物を主成分として含むことで、上記パラメータYは正となりうる。上記金属酸化物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記金属酸化物は、結晶質または非晶質のいずれであってもよいが、結晶粒界に起因するリーク電流の発生を抑制する観点から、好ましくは非晶質である。したがって、本発明の好ましい一実施形態において、高誘電率層は、非晶質金属酸化物を含む。なお、「高誘電率層が非晶質金属酸化物を含む」とは、金属酸化物を含む高誘電率層のX線回折像において、金属酸化物の結晶構造に由来する最大ピークの半値幅が1°以上であることをいう。
【0023】
なお、X線回折像は、具体的には下記の装置および条件によって得ることができる:
X線回折装置 :株式会社リガク製
型式 :SmartLab
測定方法 :XRD法(2θ/ωスキャン)
X線発生部 :対陰極 Cu
:出力 45kV 200mA
検出部 :半導体検出器
入射光学系 :平行ビーム法(スコットコリメーション)
ソーラースリット:入射側 5.0°
:受光側 5.0°
スリット :入射側 IS=1(mm)
:長手制限 5(mm)
:受光側 RS1=1 RS2=1.1(mm)
走査条件 :走査軸 2θ/ω
:走査モード 連続走査
:走査範囲 20~90°
:ステップ幅 0.02°
:走査速度 2°/min。
【0024】
高誘電率層は、蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、ゾルゲル法等の公知の方法で形成することができる。
【0025】
[低誘電率層]
本発明に係る研磨対象物は、高誘電率層の他に、低誘電率層(低誘電率材料を主成分として含む層)をさらに有していてもよい。ここで、「低誘電率材料を主成分として含む層」とは、層中の低誘電率材料の含有量が、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であることをいう(上限値:100質量%)。
【0026】
低誘電率材料は、酸化ケイ素(SiO2、比誘電率3.9)、および酸化ケイ素よりも比誘電率が低い材料(具体的には、比誘電率が3.5以下である材料)を指す。比誘電率が3.5以下である材料としては、例えば、炭素含有シリコン酸化物(SiOC)、フッ素含有シリコン酸化物(SiOF)等が挙げられる。低誘電率材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
低誘電率層は、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)等を出発原料として、CVD法(化学気相蒸着法)等の公知の方法により形成することができる。
【0028】
<研磨用組成物>
[砥粒]
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒は、研磨用組成物中において正のゼータ電位を示すものである。かような砥粒としては、カチオン性基を有するシリカが好ましい。またシリカとしては、コロイダルシリカが好ましい。すなわち、本発明で用いられる砥粒は、カチオン性基を有するコロイダルシリカ(カチオン変性コロイダルシリカ)が好ましい。
【0029】
ここで、コロイダルシリカは、例えば、ゾルゲル法によって製造されたものでありうる。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0030】
カチオン性基を有するコロイダルシリカとして、アミノ基または第4級アンモニウム基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤またはN-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム等の第4アンモニウム基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基または第4級アンモニウム基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0031】
砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0032】
砥粒の大きさは特に制限されないが、砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、120nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0033】
本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の上限は、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0034】
砥粒の平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒の平均会合度は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0035】
砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。砥粒のアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0036】
砥粒のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比であるD90/D10の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比D90/D10の上限は特に制限されないが、2.04以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。
【0037】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D10等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0038】
本発明の研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の下限は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の上限は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.8質量%以下であることが特に好ましい。上限がこのようであると、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じるのをより抑えることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0039】
[水]
本発明に係る研磨用組成物は、分散媒または溶媒として、水を含む。水は、研磨対象物の汚染を抑制するという観点や他の成分の作用を阻害しないという観点から、不純物をできる限り含有しないことが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0040】
[有機酸]
本発明の研磨用組成物は、有機酸を含む。当該有機酸は、高誘電率層のゼータ電位を下げ、Y-Xを-5以下の値となるようにして、高誘電率層の研磨速度を向上させる。
【0041】
Y-X≦-5となるようにする有機酸の種類としては、特に制限されないが、下記化学式(1)で表される化合物、および下記構造(2)を満たす化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
【0043】
上記化学式(1)中のR1およびR3で表される酸基、ならびに上記構造(2)中の酸基の例としては、カルボン酸基(カルボキシ基)、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基(スルホ基)等が挙げられる。なお、本明細書において、酸基とは、遊離の酸基のみならず、塩になっている形態の基も指称するものである。ただし、Y-Xの絶対値をより大きくし、高誘電率層の研磨速度を向上させやすいという観点から、当該酸基は遊離の酸基であることが好ましい。
【0044】
さらに酸基の中でも、高誘電率層のゼータ電位を下げやすく、高誘電率層の研磨速度を向上させやすいという観点から、上記酸基は、カルボン酸基、ホスホン酸基、およびスルホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、研磨用組成物の安定性向上の観点から、カルボン酸基がより好ましい。
【0045】
上記化学式(1)中のR2で表されるメチレン基は、置換されていてもよい。置換基の例としては、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、アルキル基(好ましくは炭素数1~20)、ヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数1~20)、カルボキシアルキル基(好ましくは炭素数2~20)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20)、アリール基(好ましくは炭素数6~20)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20)、アシル基(好ましくは炭素数2~20)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2~20)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~15)、ヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数1~20)、アルキルカルボニル基(好ましくは炭素数2~20)、シクロアルキルカルボニル基(好ましくは炭素数5~20)、アリールカルボニル基(好ましくは炭素数7~20)等が挙げられる。
【0046】
上記構造(2)は、有機酸において、分子中に酸基を少なくとも1個有し、かつ分子中の酸基とヒドロキシ基との合計個数が3個以上である構造を指す。構造(2)を満たす化合物は、必ずしもヒドロキシ基を有さなくてよく、例えば、酸基を3個以上有しかつヒドロキシ基を有しない化合物は、構造(2)を満たす化合物に包含される。
【0047】
なお、上記化学式(1)中のR2がメチレン基であって、当該メチレン基が、置換基として、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、またはカルボキシアルキル基を有する化合物である場合、当該化合物は、上記化学式(1)で表される化合物にも該当するし、上記構造(2)の「分子中に酸基を少なくとも1個有し、かつ分子中の酸基とヒドロキシ基との合計個数が3個以上である化合物」にも該当する。
【0048】
有機酸のさらに具体的な例を以下に挙げる。上記化学式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、メチルエチルマロン酸、エチルマロン酸、プロピルマロン酸、メチルプロピルマロン酸、ブチルマロン酸、メチルブチルマロン酸、ペンチルマロン酸、ヘキシルマロン酸、ジメチルマロン酸、ジエチルマロン酸、ジプロピルマロン酸、ジブチルマロン酸、フェニルマロン酸、2-ヒドロキシマロン酸(タルトロン酸、構造(2)にも該当)、1,1,3-プロパントリカルボン酸(構造(2)にも該当)、メチレンジホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(エチドロン酸、構造(2)にも該当)、メタンジスルホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジスルホン酸(構造(2)にも該当)等が挙げられる。
【0049】
上記構造(2)に該当する化合物の具体的な例としては、例えば、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、メタ酒石酸、ジヒドロキシ酒石酸、グルコン酸、グリセリン酸、グルクロン酸、リンゴ酸、シトラマル酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルコハク酸、ガラクタル酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、3-ヒドロキシ-3,4-ジカルボキシペンタデカン酸、2-ヒドロキシ-1,2,3-ノナンデカントリカルボン酸、1,6,11-ペンタデカントリカルボン酸、1,10,11-ペンタトリカルボン酸、5,6,11-ペンタデカントリカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、3-ヒドロキシアスパラギン酸、ヒドロキシグルタミン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンビス(ニトリロ)テトラホスホン酸等が挙げられる。
【0050】
これら有機酸は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。また、これら有機酸は、合成品でもよいし市販品でもよい。
【0051】
なお、該有機酸は、アミノ基を有しないほうが好ましい。その理由は、アミノ基は、高誘電率層のゼータ電位を下げる効果が小さいからである。このような観点と、高誘電率層の研磨速度をより高めやすいという観点等から、該有機酸は、マロン酸、メチルマロン酸、メチルエチルマロン酸、エチルマロン酸、プロピルマロン酸、メチルプロピルマロン酸、ブチルマロン酸、ジメチルマロン酸、ジエチルマロン酸、ジプロピルマロン酸、ジブチルマロン酸、2-ヒドロキシマロン酸(タルトロン酸)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(エチドロン酸)、メタンジスルホン酸、trans-アコニット酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、メタ酒石酸、ジヒドロキシ酒石酸、リンゴ酸、ガラクタル酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸が好ましく、マロン酸、メチルマロン酸、2-ヒドロキシマロン酸(タルトロン酸)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(エチドロン酸)、メタンジスルホン酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸、ガラクタル酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸がより好ましく、マロン酸、メチルマロン酸、2-ヒドロキシマロン酸(タルトロン酸)、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(エチドロン酸)、trans-アコニット酸、酒石酸、ガラクタル酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸がさらに好ましく、マロン酸、メチルマロン酸、2-ヒドロキシマロン酸(タルトロン酸)、trans-アコニット酸、酒石酸、ガラクタル酸が特に好ましい。
【0052】
当該有機酸は、本発明の研磨用組成物において、pH調整剤としても機能する。よって、本発明の研磨用組成物中の有機酸の含有量(濃度)は、研磨用組成物が所望のpHとなる量を適宜選択すればよい。このような含有量(濃度)の範囲であれば、高誘電率層の研磨速度を向上させる効果が効率よく発揮されうる。
【0053】
[研磨用組成物のpH]
本発明の研磨用組成物のpHは、特に制限されない。しかしながら、高誘電率層の研磨速度をより向上させるという観点から、5.0未満であることが好ましい。この範囲であれば、高誘電率層のゼータ電位が下がり、砥粒とのゼータ電位差(すなわちY-X)の絶対値が大きくなるため、高誘電率層の研磨速度がより向上する。一方、研磨用組成物のpHの下限は、2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることが特に好ましい。上記の下限pH以上であれば、研磨対象物が低誘電率層を有する場合、高誘電率層の研磨速度を維持しつつ、低誘電率層の研磨速度を向上させることができる。その結果、低誘電率層に対する高誘電率層の選択比を小さくすることができる。ゆえに、高誘電率層および低誘電率層の同時研磨において有利となりうる。
【0054】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(例えば、株式会社堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番:F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0055】
本発明に係る研磨用組成物のpHは、上記有機酸の添加により調整することができるが、必要によりpH調整剤を適量添加してもよい。pH調整剤は、酸およびアルカリのいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0056】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、公知の酸または塩基を使用することができる。
【0057】
pH調整剤として使用できる上記有機酸以外の酸としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、乳酸などのカルボン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸等の有機スルホン酸;等が挙げられる。
【0058】
pH調整剤として使用できる塩基としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。
【0059】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、本発明の研磨用組成物のpHが所望の範囲内となるように、適宜選択すればよい。
【0060】
[その他の添加剤]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、公知の錯化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、還元剤、ノニオン性界面活性剤、水溶性高分子、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等をさらに含んでもよい。
【0061】
ただし、高誘電率層が非晶質金属酸化物を主成分として含む層である場合、酸化剤を含む研磨用組成物で研磨すると、高誘電率層の研磨速度が低下する場合がある。したがって、本発明の研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態において、高誘電率層は非晶質金属酸化物を含み、研磨用組成物は酸化剤を実質的に含まない。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。ここで、「研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しない」とは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。例えば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.005モル/L以下、好ましくは0.001モル/L以下、より好ましくは0.0005モル/L以下である。
【0062】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、有機酸、および必要に応じて他の添加剤を、水中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物の製造方法であって、砥粒と、水と、有機酸と、を混合することを有し、前記研磨用組成物中の前記砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の前記高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは正であり、かつY-X≦-5である、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0063】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0064】
<研磨方法および半導体基板の製造方法>
上述のように、本発明の研磨用組成物は、高誘電率層を有する研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、高誘電率層を有する研磨対象物を準備する工程と、本発明の研磨用組成物を用いて前記研磨対象物を研磨する工程と、を含む研磨方法を提供する。また、本発明は、高誘電率層を有する研磨対象物を上記研磨方法で研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法を提供する。
【0065】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0066】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0067】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0068】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0069】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0070】
<研磨システム>
本発明は、高誘電率層を有する研磨対象物、研磨パッド、および研磨用組成物を含む研磨システムであって、前記研磨用組成物は、砥粒、水、および有機酸を含み、前記研磨用組成物中の前記砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の前記高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは正であり、かつY-X≦-5であり、前記研磨対象物の表面を前記研磨パッドおよび前記研磨用組成物と接触させる、研磨システムを提供する。
【0071】
本発明の研磨システムに適用される研磨対象物および研磨用組成物については、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0072】
本発明の研磨システムに使用される研磨パッドは、特に制限されず、例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等を使用することができる。
【0073】
本発明の研磨システムは、研磨対象物の両面を研磨パッドおよび研磨用組成物と接触させて、研磨対象物の両面を同時に研磨するものであってもよいし、研磨対象物の片面のみを研磨パッドおよび研磨用組成物と接触させて、研磨対象物の片面のみを研磨するものであってもよい。
【0074】
本発明の研磨システムでは、上記の研磨用組成物を含むワーキングスラリーを用意する。次いで、その研磨用組成物を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0075】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【実施例】
【0076】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行われた。
【0077】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
砥粒として表面にアミノ基が固定化されたカチオン変性コロイダルシリカ(平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度2.0)を、研磨用組成物の総質量を100質量%として0.5質量%の濃度となるように水に添加した。また、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸を、研磨用組成物のpHが4.5となる量で、砥粒と水との混合物に添加した。その後、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。
【0078】
なお、砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリティックス社製の“Flow Sorb II 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。さらに、研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社 堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0079】
(実施例2~12、比較例1~16)
有機酸または無機酸の種類を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各研磨用組成物を調製した。
【0080】
<砥粒のゼータ電位測定>
上記で調製した各研磨用組成物を、大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、各研磨用組成物中のカチオン変性コロイダルシリカのゼータ電位X[mV]を算出した。
【0081】
<高誘電率層のゼータ電位測定>
研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位Y[mV]は、以下のように測定した。高誘電率層として非晶質金属酸化物(AlOX)が厚さ1000Åで成膜されたシリコンウェーハ(300mmウェーハを15×35mmに切断)について、大塚電子株式会社製ELS-Z2を使用してレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。具体的には、測定温度25℃の条件下で平板試料用セルユニット(大塚電子株式会社製)のセル上面に、上記シリコンウェーハを取り付けた。上記で調製した各研磨用組成物(上記測定によりゼータ電位既知であるスルホン酸固定コロイダルシリカをモニター粒子とする)でセルを満たし、モニター粒子の電気泳動を行い、セル上下面間の7点においてモニター粒子の電気移動度を測定した。得られた電気移動度のデータを森・岡本の式、およびSmoluchowskiの式で解析することにより、ゼータ電位Y[mV]を算出した。
【0082】
各研磨用組成物を用いて得られたX、YおよびY-Xの値を、表1に示す。
【0083】
<研磨性能評価>
高誘電率層として非晶質金属酸化物(AlOX)が厚さ1000Åで成膜されたシリコンウェーハ(300mmウェーハを60×60mmに切断)を準備し、上記で得られた研磨用組成物を用いて、各ウェーハを以下の研磨条件で研磨し、研磨レートを測定した。
【0084】
(研磨条件)
研磨機:卓上研磨機
研磨パッド:IC1010パッド(ダウケミカル社製)
圧力:1.4psi(1psi=6894.76Pa)
プラテン(定盤)回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の流量:100ml/min
研磨時間:15sec。
【0085】
(研磨速度(研磨レート))
研磨レート(Removal Rate;RR)は、以下の式により計算した。
【0086】
【0087】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA-Tencor)株式会社製 型番:ASET-f5x)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨レートを評価した。結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
上記表1から明らかなように、Y-X≦-5となる有機酸を含む実施例の研磨用組成物研磨用組成物を用いた場合、比較例の研磨用組成物と比べて、高誘電率層を有する研磨対象物の研磨速度が増大した。