(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】内視鏡用接着剤及びその硬化物、並びに内視鏡及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 163/02 20060101AFI20221020BHJP
C09J 163/04 20060101ALI20221020BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221020BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20221020BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C09J163/02
C09J163/04
C09J11/06
C08G59/50
C08G59/68
(21)【出願番号】P 2021502091
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006543
(87)【国際公開番号】W WO2020175278
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019032974
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中井 義博
(72)【発明者】
【氏名】古川 和史
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204012(WO,A1)
【文献】特開2015-117283(JP,A)
【文献】特開2016-130307(JP,A)
【文献】特開2004-231869(JP,A)
【文献】国際公開第2002/083806(WO,A1)
【文献】特開平06-239964(JP,A)
【文献】特開昭60-094419(JP,A)
【文献】特開2001-059013(JP,A)
【文献】特開2005-036080(JP,A)
【文献】特開2001-288244(JP,A)
【文献】特開平08-100107(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 ー 201/10
C08G 59/50
C08G 59/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(c)を含む内視鏡用接着剤:
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含むエポキシ樹脂;
(b)分子内に酸素原子を有しアミド結合を有しないポリアミン化合物;
(c)
オキシラン環が縮合してなる脂環を有するケイ素アルコキシド化合物。
【請求項2】
下記(a)~(c)を含む内視鏡用接着剤:
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含むエポキシ樹脂;
(b)分子内に酸素原子を有しアミド結合を有しないポリアミン化合物;
(c)アルミニウムアルコキシド化合物。
【請求項3】
下記(a)~(c)を含む内視鏡用接着剤:
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含むエポキシ樹脂;
(b)分子内に酸素原子を有しアミド結合を有しないポリアミン化合物;
(c)ジルコニウムアルコキシド化合物。
【請求項4】
前記アルミニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含む、請求項
2に記載の内視鏡用接着剤。
【請求項5】
前記ジルコニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造、アセタト構造及びラクタト構造の少なくとも1種を含む、請求項
3に記載の内視鏡用接着剤。
【請求項6】
前記ポリアミン化合物がオキシアルキレン構造を有する、請求項1
~5のいずれか1項に記載の内視鏡用接着剤。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の内視鏡用接着剤を硬化してなる硬化物。
【請求項8】
請求項
7に記載の硬化物により構成部材が固定された内視鏡。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の内視鏡用接着剤を用いて構成部材を固定することを含む、内視鏡の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用接着剤及びその硬化物、並びに内視鏡及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の体腔内、消化管内、食道等を観察するための内視鏡は繰り返し使用される。そのため、内視鏡の挿入部を構成する可撓管は使用のたびに洗浄され、また薬品を用いて消毒される。特に気管支等の感染可能性の高い部位に挿入する場合には、消毒を越える滅菌レベルの清浄性が求められる。したがって、内視鏡には消毒ないし滅菌処理の繰り返しにも耐える高度な耐久性が求められる。
【0003】
内視鏡の挿入部は、口腔ないし鼻腔を通して体内に挿入される。挿入時における患者の異物感および痛みを軽減するため、内視鏡の挿入部をより細径化することが望まれる。そのため、挿入部を構成する部材の結合に、ネジ、ビス等の嵩張る部材に代えて、主として接着剤が用いられている。
【0004】
接着剤のなかでもエポキシ系接着剤は作業性に優れ、その硬化物の接着性、耐熱性、耐湿性等にも優れるため、内視鏡の構成部材の接着にも使用されている。
例えば特許文献1には、エポキシ樹脂にゴムおよび/またはプラスチックを1~50重量%添加した主剤と、脂肪族アミン、ポリアミドアミン、芳香族アミン、環状アミン、および脂肪芳香族アミンからなる群から選ばれた少なくとも1種のアミンからなる硬化剤を、10:1~10:7の配合比で混合して得た2液反応型接着剤を用いて、内視鏡を構成する部品同士を接合してなることを特徴とする内視鏡装置が記載されている。特許文献1によれば、この内視鏡は、様々な消毒方法によっても接着強度が低下することがなく、長期にわたり性能を維持できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内視鏡は長期に亘り繰り返し使用されるため、接着剤による内視鏡部材の固定化状態は、内視鏡を長期間、繰り返し使用しても十分に維持できることが要求される。すなわち、体内に挿入したり消毒液に浸漬したりして湿潤状態に繰り返し曝されても、上記固定化状態を十分に維持できることが求められる。また、滅菌処理に繰り返し曝されても、上記固定化状態を十分に維持できる耐久性も重要である。しかし、本発明者らが上記特許文献記載の接着剤をはじめ従来のエポキシ系接着剤について検討したところ、内視鏡への適用において要求される湿潤耐久性と滅菌耐久性の両立を十分に高いレベルで実現するには至っていないことがわかってきた。
【0007】
本発明は、内視鏡の構成部材を固定するのに好適な内視鏡用接着剤であって、部材の固定化に用いた状態(硬化物の状態)で湿潤状態に長期間曝しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、十分な接着力を維持することができる内視鏡用接着剤、及びその硬化物を提供することを課題とする。また、本発明は、湿潤状態に長期間曝しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、性能の低下を生じにくい内視鏡及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、エポキシ系接着剤において、主剤のエポキシ樹脂と組合せる硬化成分として特定のポリアミン化合物を用い、さらに金属アルコキシド化合物を配合することにより、この接着剤を用いて接合した部材の固定化状態を、湿潤状態に長期間曝しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、十分に維持できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
〔1〕
下記(a)~(c)を含む内視鏡用接着剤:
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含むエポキシ樹脂;
(b)分子内に酸素原子を有しアミド結合を有しないポリアミン化合物;
(c)金属アルコキシド化合物。
〔2〕
上記ポリアミン化合物がオキシアルキレン構造を有する、〔1〕に記載の内視鏡用接着剤。
〔3〕
上記金属アルコキシド化合物としてケイ素アルコキシド化合物を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の内視鏡用接着剤。
〔4〕
上記金属アルコキシド化合物として、オキシラン環を有するケイ素アルコキシド化合物を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の内視鏡用接着剤。
〔5〕
上記金属アルコキシド化合物として、オキシラン環が縮合してなる脂環を有するケイ素アルコキシド化合物を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の内視鏡用接着剤。
〔6〕
上記金属アルコキシド化合物として、チタンアルコキシド化合物、アルミニウムアルコキシド化合物及びジルコニウムアルコキシド化合物の少なくとも1種を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の内視鏡用接着剤。
〔7〕
上記チタンアルコキシド化合物が、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含み、又はアセタト構造を有する、〔6〕に記載の内視鏡用接着剤。
〔8〕
上記アルミニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含む、〔6〕に記載の内視鏡用接着剤。
〔9〕
上記ジルコニウムアルコキシド化合物が、アセトナト構造、アセタト構造及びラクタト構造の少なくとも1種を含む、〔6〕に記載の内視鏡用接着剤。
〔10〕
〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の内視鏡用接着剤を硬化してなる硬化物。
〔11〕
〔10〕に記載の硬化物により構成部材が固定された内視鏡。
〔12〕
〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の内視鏡用接着剤を用いて構成部材を固定することを含む、内視鏡の製造方法。
【0010】
本発明の説明において「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書において置換又は無置換を明記していない置換基(連結基についても同様)については、所望の効果を奏する範囲で、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同じである。
本明細書において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内視鏡用接着剤は、内視鏡部材の固定化に用いた状態(硬化物の状態)で湿潤状態に長期間曝しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、十分な接着力を維持することができる。また、本発明の硬化物は、長期の湿潤耐久性に優れ、また、滅菌処理の繰り返しに対する耐久性にも優れる。また、本発明の内視鏡は、湿潤状態に長期間曝しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、性能の低下を生じにくい。さらに、本発明の内視鏡の製造方法によれば、湿潤状態に長期間曝しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、性能の劣化を生じにくい内視鏡を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の内視鏡の一実施形態の構成を示す外観図である。
【
図2】
図1に示す内視鏡の挿入部の構成を示す部分断面図である。
【
図4】上記先端部の一部切り欠き部分断面図である。レンズ及びプリズムの断面を示すハッチングは省略した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[内視鏡用接着剤]
本発明の内視鏡用接着剤の好ましい実施形態について説明する。
【0014】
本発明の内視鏡用接着剤(以下、「本発明の接着剤」とも称す。)は、下記成分(a)~(c)を含む。
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含むエポキシ樹脂;
(b)分子内に酸素原子を有しアミド結合を有しないポリアミン化合物;
(c)金属アルコキシド化合物。
上記(a)のエポキシ樹脂(以下、単に「成分(a)」とも称す。)は接着剤の主剤であり、上記(b)のポリアミン化合物(以下、単に「成分(b)」とも称す。)はエポキシ樹脂と反応して接着剤を硬化させる硬化成分である。本発明の接着剤は、上記主剤と硬化成分に加え、上記(c)の金属アルコキシド化合物(以下、単に「成分(c)」とも称す。)を含有する。
【0015】
本発明の接着剤は、上記各成分を含んでいれば、その形態は制限されない。例えば、本発明の内視鏡用接着剤は上記成分(a)~(c)の混合物を含有する形態でもよく(1液型)、上記成分(a)~(c)の一部の成分が他の成分とより分けられた状態で、成分(a)~(c)を含んでいてもよい(2液型)。また、本発明の内視鏡用接着剤は、成分(a)~(c)の各々が互いにより分けられた状態で、成分(a)~(c)を含んでいてもよい(3液型)。これらのいずれの形態も本発明の接着剤に包含される。
本明細書において接着剤中における各成分の含有量を説明したり、本発明において接着剤中における各成分の含有量を規定したりする場合、2液型及び3液型等の形態においては、使用時の成分(a)~(c)の混合を、混合物中において各成分が上記の所望の含有量を満たすように行うことを意味する。すなわち、成分がより分けられた状態においては、成分(a)~(c)の各含有量は、本明細書で説明された含有量、あるいは本発明で規定する含有量を満たしている必要はない。つまり、2液型及び3液型等の形態においては、使用時に成分(a)~(c)を混合した時点において、本明細書で説明された含有量、あるいは本発明で規定する含有量を満たすことを意味する。
【0016】
本発明の内視鏡用接着剤が1液型の場合、及び2液型等でも互いに反応し得る成分が混合されている場合(例えば、エポキシ樹脂とポリアミン化合物とが混合されている場合)には、成分同士の反応を生じずに又は十分に抑制して各成分が安定に維持された状態を保つため、上記接着剤が反応を事実上生じないレベルまで低温で保存することが好ましい。例えば、-20℃以下で保存することができ、好ましくは-30℃以下、より好ましくは-40℃以下、さらに好ましくは-50℃以下で保存する。また、必要により遮光して保存することができる。
【0017】
本発明の接着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、溶媒、可塑剤、密着向上剤(シランカップリング剤等)、界面活性剤、着色剤(顔料、染料等)、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、離型剤、導電剤、粘度調節剤、充填剤(シリカ、炭酸カルシウム等)、チキソ性付与剤、希釈剤、及び難燃剤等を含むことができる。
【0018】
本発明の接着剤を硬化して得られる硬化物は、湿潤条件に長期間曝しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、十分な接着力を維持することができる。この理由は定かではないが、成分(b)が分子中に酸素原子を有しかつアミド結合を有しないことにより、硬化物にほどよく柔軟性が付与されてより強靭な物性となること、成分(c)が接着界面において化学的な接合を生じたり、他の成分と反応ないし相互作用したりすることなどが複合的に作用しているものと推定される。
【0019】
本発明の接着剤は、内視鏡を構成する各種の部材(内視鏡構成部材)の固定化に好適である。すなわち、本発明の接着剤は、内視鏡構成部材を内視鏡の別の構成部材と接着(接合)して固定するために好適に用いられる。内視鏡構成部材の固定に用いた接着剤は硬化物となって内視鏡の接着部を構成する。
本発明の接着剤を用いて固定される部材に特に制限はなく、好ましくは金属部材、ガラス部材、樹脂部材等を挙げることができる。内視鏡構成部材の「固定」は、内視鏡構成部材を、内視鏡を構成する別の部材(支持部材)と接着することにより行われる。なお、支持部材は内視鏡の管壁等又は管壁等に固定された非可動部材であってもよく、チューブのように内視鏡内における相対的な位置が移動しうる部材であってもよい。また、本発明において「固定」との用語は、内視鏡構成部材と、この部材が組み込まれる支持部材との間の空間を接着剤の硬化物で埋めること、すなわち封止することを含む意味に用いる。
本発明の接着剤を構成する各成分について以下に説明する。
【0020】
<(a)エポキシ樹脂>
本発明の接着剤は成分(a)としてエポキシ樹脂を含み、このエポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種を含む。本発明の接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂から選ばれるエポキシ樹脂を1種含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
本発明の接着剤に含まれるエポキシ樹脂の総量に占める、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の総量の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。さらに好ましくは、本発明の接着剤に含まれる上記エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種である。
本発明の接着剤に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、10~1000が好ましく50~500がより好ましく、80~400がさらに好ましく、100~300が特に好ましい。本発明の接着剤に含まれるエポキシ樹脂は、通常は1分子中にエポキシ基を2つ以上有する。
エポキシ当量は、エポキシ化合物の分子量を、エポキシ化合物が有するエポキシ基のモル数で除した値である。
【0021】
本発明の接着剤に用い得るビスフェノールA型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER825、jER828及びjER834(いずれも商品名)、三菱化学社製)及びビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製)が挙げられる。
【0022】
本発明の接着剤に用い得るビスフェノールF型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールFジグリシジルエーテル(商品名:EPICLON830、DIC社製)及び4,4'-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が挙げられる。
【0023】
本発明の接着剤に用い得るフェノールノボラック型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。このようなフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、シグマアルドリッチ社から製品番号406775として販売されている。
【0024】
本発明の接着剤に含まれるエポキシ樹脂の含有量は、例えば5~90質量%とすることができ、10~90質量%がより好ましい。また、20~90質量%とすることも好ましく、30~90質量%とすることも好ましく、40~90質量%とすることも好ましく、50~85質量%とすることも好ましく、60~85質量%とすることも好ましい。
【0025】
<(b)ポリアミン化合物>
本発明の接着剤は、成分(b)として1種又は2種以上のポリアミン化合物を含有する。成分(b)のポリアミン化合物は分子内に酸素原子を有する。また、成分(b)のポリアミン化合物は分子内にアミド結合(-NH-CO-)を有さず、この点においてポリアミドアミンと区別される。成分(b)のポリアミン化合物は、活性水素を有するアミノ基を1分子中に2つ以上有する化合物である。このポリアミン化合物は無置換アミノ基(-NH2)を有することが好ましく、無置換アミノ基を2つ以上有することがより好ましい。このポリアミン化合物は、さらに好ましくは第一級ポリアミン化合物(アミノ基のすべてが無置換アミノ基であるポリアミン化合物)である。
成分(b)のポリアミン化合物1分子が有する、活性水素を有するアミノ基の数は、2~10が好ましく、2~8がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~4がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。なかでもジアミン化合物及びトリアミン化合物から選ばれる少なくとも1種を好適に用いることができる。
成分(b)のポリアミン化合物の活性水素当量(アミノ基が有する活性水素の当量)は10~2000が好ましく、20~1000がより好ましく、30~900がさらに好ましく、40~800がさらに好ましく、60~700がさらに好ましく、65~600が特に好ましい。
活性水素当量は、ポリアミン化合物の分子量を、ポリアミン化合物が有するアミノ基の活性水素のモル数で除した値である(ポリアミン化合物におけるアミノ基の活性水素1つ当たりの分子量を意味する)。
【0026】
成分(b)のポリアミン化合物の分子量は100~6000が好ましく、100~3000がより好ましい。ポリアミン化合物がポリマーである場合(例えば後述のポリオキシアルキレン基を有する場合)には、上記分子量は数平均分子量である。
【0027】
なかでも成分(b)のポリアミン化合物は、硬化物により柔軟性を与え、より強靭な物性となることから、分子中にオキシアルキレン構造を有することが好ましく、ポリオキシアルキレン構造を有することがより好ましい。
オキシアルキレン構造を有するポリアミン化合物は、ポリオキシアルキレンジアミン化合物、又はポリオキシアルキレントリアミン化合物であることがより好ましい。
上記オキシアルキレン構造のアルキレン基は、直鎖アルキレン基でもよく、分岐を有するアルキレン基でもよい。また、上記オキシアルキレン構造のアルキレン基は、炭素数が1~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。
上記オキシアルキレン構造は、より好ましくは、オキシエチレン構造、又はオキシプロピレン構造である。
成分(b)のポリアミン化合物がポリオキシアルキレン構造を有する場合、このポリオキシアルキレン構造を構成する複数のオキシアルキレン基は、互いに同一でもよく、異なってもよい。また、上記のポリオキシアルキレン構造が有するオキシアルキレン基の平均繰り返し数は、2~1000が好ましく、3~500がより好ましい。また、この平均繰り返し数は、2~100であることも好ましく、2~50であることも好ましく、2~35であることも好ましく、2~25であることも好ましい。成分(b)のポリアミン化合物は、ポリオキシアルキレン構造を複数有していてもよい。
【0028】
本発明に用い得るポリアミン化合物の好ましい具体例を以下に示す。括弧に付した数は括弧内の繰り返し単位の平均繰り返し数である。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
成分(b)のポリアミン化合物は常法により合成することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0035】
本発明の接着剤において、成分(b)のポリアミン化合物の含有量は、活性水素当量、分子量等を考慮して適宜に設定することができる。例えば、エポキシ樹脂100質量部に対し、5~300質量部とすることができ、10~250質量部がより好ましく、15~220質量部がさらに好ましい。また、エポキシ樹脂100質量部に対し、成分(b)のポリアミン化合物の含有量を5~200質量部とすることも好ましく、10~150質量部とすることも好ましく、10~100質量部とすることも好ましく、15~70質量部とすることも好ましく、15~50質量部とすることも好ましい。また、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するポリアミン化合物の活性水素当量(活性水素当量/エポキシ当量)を0.05~1.5として用いることが好ましく、0.05~1.2とすることがより好ましく、0.06~1.0とすることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の接着剤は、成分(b)のポリアミン化合物以外の硬化成分を含有してもよく、硬化成分に占める成分(b)のポリアミン化合物の割合は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。また、硬化成分のすべてが成分(b)のポリアミン化合物であることも好ましい。本発明の接着剤がポリアミン化合物以外の硬化成分を含む場合、この硬化成分として、エポキシ系接着剤の硬化成分として知られている種々の硬化剤ないし硬化助剤を用いることができる。例えば、酸無水物系化合物、イミダゾール系化合物、リン系化合物、チオール系化合物、ジシアンジアミド系化合物及びフェノール系化合物の少なくとも1種を、ポリアミン化合物と併用することができる。
【0037】
<(c)金属アルコキシド化合物>
本発明の接着剤は、成分(c)として1種又は2種以上の金属アルコキシド化合物を含有する。本発明において「金属アルコキシド化合物」とは、金属原子にアルコキシ基が少なくとも1つ結合した構造を有する化合物を意味する。このアルコキシ基は置換基を有していてもよい。この置換基は1価でもよく、2価(例えばアルキリデン基)でもよい。また、1つの金属原子に結合する2つのアルコキシ基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0038】
成分(c)の金属アルコキシド化合物を構成する金属としては、例えば、Si、Al、B、Ba、Bi、Ca、Ga、Ge、Hf、In、La、Mg、Nb、P、Sr、Sn、Ta、Ti、V、Y、及びZrが挙げられ、なかでもSi、Ti,Al又はZrが好ましい。
本発明の接着剤は、金属アルコキシド化合物としてケイ素アルコキシド化合物を含むことが好ましい。また、ケイ素アルコキシド化合物に代えて、又はケイ素アルコキシド化合物に加えて、チタンアルコキシド化合物、アルミニウムアルコキシド化合物及びジルコニウムアルコキシド化合物の少なくとも1種を含むことも好ましい。
【0039】
上記ケイ素アルコキシド化合物は、オキシラン環を有するケイ素アルコキシド化合物を含むことが好ましく、オキシラン環が縮合してなる脂環を有するケイ素アルコキシド化合物を含むことがより好ましい。
また、ケイ素アルコキシド化合物はアミノ基、イソシアネート基、チオール基、エチレン性不飽和基、及び酸無水物基から選ばれる基を有することも好ましい。
上記のオキシラン環、アミノ基、イソシアネート基、チオール基、エチレン性不飽和基、及び酸無水物基は、ケイ素アルコキシド化合物が有する非加水分解性の基(例えばアルキル基)が有する置換基として、又は非加水分解性の基が有する置換基中に存在していることが好ましい。
【0040】
上記チタンアルコキシド化合物は、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。また、上記チタンアルコキシド化合物はアセタト構造を有することも好ましい。また、上記アルミニウムアルコキシド化合物は、アセトナト構造及びアセタト構造の少なくとも1種を含むことが好ましい。また、上記ジルコニウムアルコキシド化合物は、アセトナト構造、アセタト構造及びラクタト構造の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0041】
成分(c)の金属アルコキシド化合物を、一般式を用いてより詳細に説明する。
成分(c)の金属アルコキシド化合物は、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0042】
一般式(1): R1
m-M-(OR2)n-m
一般式(2): O-[M-(OR2)n-1]2
【0043】
一般式(1)及び(2)中、MはSi、Al、B、Ba、Bi、Ca、Ga、Ge、Hf、In、La、Mg、Nb、P、Sr、Sn、Ta、Ti、V、Y、又はZrを示す。MはSi、Ti、Al、又はZrであることが好ましい。
【0044】
R1は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基、又は不飽和脂肪族基を示す。
R1として採り得るアルキル基は、直鎖アルキル基及び分岐アルキル基並びにアラルキル基を含む。このアルキル基の炭素数は1~20の整数が好ましく、1~15がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~8が特に好ましいが、アラルキル基の場合は7~30が好ましい。このアルキル基の好ましい具体例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル、n-トリデシル、n-オクタデシル、ベンジル、及びフェネチルが挙げられる。
R1として採り得るアルキル基はオキシラン環を有していることも好ましい。この場合、MはSiが好ましい。すなわち、MがSiで、かつR1がエポキシアルキル基である金属アルコキシドは、成分(c)として好適である。また、MがSiで、かつR1がエポキシシクロアルキルアルキル基である金属アルコキシドもまた、成分(c)として好適である。R1として採り得るエポキシシクロアルキルアルキル基におけるシクロアルキル基(オキシラン環が縮合した構造のシクロアルキル基)の環員数は4~8が好ましく、5又は6がより好ましく、6であること(すなわちエポキシシクロヘキシル基であること)がさらに好ましい。
また、R1として採り得るアルキル基はアミノ基、イソシアネート基、チオール基、エチレン性不飽和基、及び酸無水物基から選ばれる基を有することも好ましい。
【0045】
R1として採り得るシクロアルキル基は、炭素数が3~20の整数が好ましく、3~15がより好ましく、3~10がさらに好ましく、3~8が特に好ましい。このシクロアルキル基の好ましい具体例としては、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0046】
R1として採り得るアシル基は、炭素数が2~40の整数が好ましく、2~30がより好ましく、2~20がさらに好ましく、2~18が特に好ましい。
【0047】
R1として採り得るアリール基は、炭素数が6~20の整数が好ましく、6~15がより好ましく、6~12がさらに好ましく、6~10が特に好ましい。このアリール基の好ましい具体例としては、例えば、フェニル及びナフチルが挙げられ、フェニルがさらに好ましい。
【0048】
R1として採り得る不飽和脂肪族基は、炭素-炭素不飽和結合の数が1~5であることが好ましく、1~3がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1であることが特に好ましい。不飽和脂肪族基はヘテロ原子を含んでもよく、炭化水素基であることも好ましい。不飽和脂肪族基が炭化水素基の場合、炭素数は2~20が好ましく、2~15がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~8がさらに好ましく、2~5であることも好ましい。不飽和脂肪族基はより好ましくはアルケニル基又はアルキニル基である。
【0049】
R1は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基が好ましく、アルキル基、又はシクロアルキル基がより好ましい。
一般式(1)の化合物がR1を2つ以上有する場合、2つのR1は互いに連結して環を形成していてもよい。
【0050】
R2は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基、ホスホネート基(ホスホン酸基)、又は-SO2RSを示す。RSは置換基を示す。
R2として採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、及びアリール基は、それぞれ、R1として採り得るアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、及びアリール基と同義であり、各基の好ましい形態も同じである。また、R2として採り得るアルキル基は、置換基としてアミノ基を有することも好ましい。
【0051】
R2として採り得るアルケニル基は、直鎖アルケニル基及び分岐アルケニル基を含む。このアルケニル基の炭素数は好ましくは2~18の整数であり、より好ましくは2~7、さらに好ましくは2~5である。このアルケニル基の好ましい具体例として、例えば、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル及びヘキセニルが挙げられる。このアルケニル基は置換アルケニル基が好ましい。
【0052】
R2として採り得るホスホネート基は、-P(=O)(-ORP1)ORP2で表される基である。RP1及びRP2は水素原子又は置換基を示し、この置換基はアルキル基、又はホスホネート基が好ましい。RP1及びRP2として採り得るアルキル基は上述したR1として採り得るアルキル基と同義であり、アルキル基の好ましい形態も同じである。RP1及びRP2として採り得るホスホネート基は、R2として採り得るホスホネート基と同義であり、好ましい形態も同じである。RP1又はRP2がホスホネート基の場合、このホスホネート基を構成するRP1及びRP2はアルキル基が好ましい。
R2として採り得るホスホネート基は、RP1及びRP2がともにアルキル基であるか、又は、RP1が水素原子で、RP2がホスホネート基であることが好ましい。
なお、ホスホネート基はホスファイト基(亜リン酸基)と互変異性であるため、本発明においてホスホネート基は、ホスファイト基を含む意味である。
【0053】
R2として採り得る-SO2RSにおいて、置換基RSとしてはアルキル基又はアリール基が好ましい。RSとして採り得るアルキル基及びアリール基の好ましい形態として、それぞれ、上述したR1として採り得るアルキル基及びアリール基の好ましい形態を挙げることができる。なかでもRSはアルキル基を置換基として有するフェニルが好ましい。このアルキル基の好ましい形態は、上述したR1として採り得るアルキル基の好ましい形態と同じである。
【0054】
一般式(1)の化合物又は一般式(2)の化合物がR2を2つ以上有する場合、2つのR2は互いに連結して環を形成していてもよい。
【0055】
mは0~3の整数であり、nはMの価数である。また、n>mを満たす。mは0又は1が好ましく、より好ましくは0である。
【0056】
MがTiの場合、上記の一般式(1)又は(2)で表される化合物は、N、P及びSの少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。一般式(1)又は(2)で表される化合物がNを有する場合、このNをアミノ基として有することが好ましい。
一般式(1)又は(2)で表される化合物がPを有する場合、このPをホスフェート基(リン酸基)ないしホスホネート基(ホスホン酸基)として有することが好ましい。
一般式(1)又は(2)で表される化合物がSを有する場合、このSをスルホニル基(-SO2-)として有することが好ましい。
また、MがTiの場合、上記の一般式(1)又は(2)で表される化合物は、R2としてアシル基を有すること、すなわち、OR2として後述するアセタト構造を有することも好ましい。
Tiは通常は4価である。
【0057】
MがAlの場合、上記の一般式(1)又は(2)において、OR2の少なくとも1つがアセトナト構造を有することが好ましい。このアセトナト構造は、アセトン又はアセトンが置換基を有した構造の化合物から水素イオンが1つ除かれてMに配位している構造を意味する。このMに配位する配位原子は通常は酸素原子である。このアセトナト構造は、アセチルアセトン構造(「CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-CH3」)を基本構造とし、そこから水素イオンが1つ除かれて、酸素原子を配位原子としてMに配位している構造(すなわちアセチルアセトナト構造)が好ましい。上記の「アセチルアセトン構造を基本構造とする」とは、上記アセチルアセトン構造の他、上記アセチルアセトン構造の水素原子が置換基で置換された構造を含む意味である。MがAlで、かつOR2がアセトナト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物A-2及びA-3が挙げられる。
また、MがAlの場合、上記の一般式(1)又は(2)において、OR2の少なくとも1つがアセタト構造を有することが好ましい。本発明において、アセタト構造は、酢酸もしくは酢酸エステル又はこれらが置換基(酢酸のメチル基が置換基としてアルキル基を有する形態を含む)を有した構造の化合物から水素イオンが1つ除かれてMに配位している構造を意味する。
このMに配位する配位原子は通常は酸素原子である。このアセタト構造は、アルキルアセトアセタート構造(「CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-O-Ralk」(Ralkはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。)を示す。))を基本構造とし、そこから水素イオンが1つ除かれて、酸素原子を配位原子としてMに配位している構造(すなわちアルキルアセトアセタト構造)が好ましい。上記の「アルキルアセトアセタート構造を基本構造とする」とは、上記アルキルアセトアセタート構造の他、上記アルキルアセトアセタート構造の水素原子が置換基で置換された構造を含む意味である。MがAlで、かつOR2がアセタト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物A-3、A-4、及びA-5が挙げられる。
Alは通常は3価である。
【0058】
MがZrの場合、上記の一般式(1)又は(2)において、OR2の少なくとも1つがアセトナト構造を有することが好ましい。このアセトナト構造は、MがAlの形態で説明したアセトナト構造と同義である。MがZrで、かつOR2がアセトナト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物Z-3及びZ-6が挙げられる。
また、MがZrの場合、上記の一般式(1)又は(2)において、OR2の少なくとも1つがアセタト構造を有することが好ましい。このアセタト構造は、MがAlの形態で説明したアセタト構造と同義である。MがZrで、かつOR2がアセタト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物Z-7が挙げられる。
また、MがZrの場合、上記の一般式(1)又は(2)において、OR2の少なくとも1つがラクタト構造を有することが好ましい。このラクタト構造は、乳酸イオン(ラクタート)を基本構造とし、そこから水素イオンが1つ除かれてMに配位している構造を意味する。上記の「乳酸イオンを基本構造とする」とは、上記乳酸イオンの他、上記乳酸イオンの水素原子が置換基で置換された構造を含む意味である。このMに配位する配位原子は通常は酸素原子である。MがZrで、かつOR2がラクタト構造を有する形態として、例えば、後述する化合物Z-4が挙げられる。
また、MがZrの場合、上記の一般式(1)又は(2)において、R2の少なくとも1つがアシル基である形態も好ましい。MがZrで、かつR2がアシル基の形態として、例えば、後述する化合物Z-5が挙げられる。
Zrは通常は4価である。
【0059】
上記R1又はR2として採り得る各基は、対カチオンを有するアニオン性基(塩型の置換基)を置換基として有していてもよい。アニオン性基とは、アニオンを形成し得る基を意味する。上記対カチオンを有するアニオン性基としては、例えば、アンモニウムイオンを対カチオンとするカルボン酸イオンの基が挙げられる。この場合、上記対カチオンは、上記の一般式(1)又は(2)で表される化合物中において、化合物全体の電荷が0となるように存在していればよい。
【0060】
一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(MがSiの例)
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、
5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン、
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、
(3-メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、
3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、
アリルトリメトキシシラン、
テトラエトキシシラン、
ビニルトリメトキシシラン、
p-スチリルトリメトキシシラン、
トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、
3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、
4-アミノ-3,3-ジメチルブチルトリメトキシシラン、
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、
ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、
3-アセトキシプロピルトリメトキシシラン、
N-(ヒドロキシエチル)-N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン。
【0062】
(MがTiの例)
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、
イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、
イソプロピルトリオクタノイルチタネート、
イソプロピルトリ(ジオクチルホスファイト)チタネート、
イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、
イソプロピルトリ(ジオクチルスルフェート)チタネート、
イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、
イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、
イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、
イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、
イソブチルトリメチルチタネート、
ジイソステアロイルエチレンチタネート、
ジイソプロピルビス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、
ジオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、
ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、
ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、
ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート、
ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、
テトライソプロピルチタネート、
テトラn-ブチルチタネート、
テトラオクチルチタネート、
テトラステアリルチタネート、
テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、
テトラオクチルビス(ジ-トリデシルホスファイト)チタネート、
テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ-トリデシル)ホスファイトチタネート、
ブチルチタネートダイマー、
チタンテトラアセチルアセトネート、
チタンエチルアセトアセテート、
チタンオクチレングリコレート、
チタニウムジ-2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)。
【0063】
(MがAlの例)
アルミニウムトリエチレート、
アルミニウムトリイソプロピレート、
アルミニウムトリsec-ブチレート、
アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、
アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、
アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)
ジイソプロポキシアルミニウム-9-オクタデセニルアセトアセテート、
アルミニウムジイソプロボキシモノエチルアセトアセテート、
アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、
アルミニウムトリスアセチルアセトネート、
モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、
ジエチルアセトアセテートアルミニウムイソプロピレート、
アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、
アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、
アルミニウムオクタデシルアセトアセテートジイソプロピレート。
【0064】
(MがZrの例)
テトラ-n-プロポキシジルコニウム(別名 ジルコニウムテトラn-プロポキシド)、
テトラ-n-ブトキシジルコニウム(別名 ジルコニウムテトラn-ブトキシド)、
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、
ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、
ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、
ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、
ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、
ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、
ジルコニウムトリブトキシモノステアレート(別名 ステアリン酸ジルコニウムトリn-ブトキシド)、
ステアリン酸ジルコニウム、
ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、
ジルコニウムモノアセチルアセトネート。
【0065】
また、MがBの例としてホウ酸トリエチル、MがBaの例としてバリウムアセチルアセトネート水和物、MがBiの例としてビスマストリtert-アミロキシド、MがCaの例としてカルシウムtert-ブトキシド、MがGaの例としてガリウムトリイソプロポキシド、MがGeの例としてゲルマニウムテトラエトキシド、MがHfの例としてハフニウムテトラn-ブトキシド、MがInの例としてインジウムトリトリイソプロポキシド、MがLaの例としてランタリウムトリイソプロポキシド、MがMgの例としてマグネシウムビス(2-メチル-2-プロパノラート)、MがNbの例としてニオブペンタn-ブトキシド、MがPの例としてリン酸トリメチル、MがSrの例としてストロンチウムイソプロポキシド、MがSnの例としてスズn-ブトキシド、MがTaの例としてタンタルペンタn-ブトキシド、MがVの例としてバナジウムトリ-n-ブトキシドオキシド、MがYの例としてイットリウムn-ブトキシドを挙げることができる。
【0066】
本発明において、接着剤が成分(c)の金属アルコキシド化合物を含むとは、成分(c)の金属アルコキシド化合物がそのまま含まれている形態の他、成分(c)の金属アルコキシド化合物が接着剤中で加水分解した状態で含まれている形態や、接着剤中で加水分解してエポキシ樹脂、ポリアミン化合物等と反応ないし相互作用した状態で含まれている形態を包含する意味である。
【0067】
本発明の接着剤中、成分(c)の含有量は目的に応じて適宜に調整することができる。例えば、エポキシ樹脂100質量部に対し、0.05~30質量部とすることができ、0.1~20質量部がより好ましく、0.2~10質量部がさらに好ましく、0.2~6質量部がさらに好ましく、0.3~4質量部がさらに好ましく、0.3~2質量部が特に好ましく、0.3~1.2質量部とすることも好ましく、0.3~1.0質量部とすることも好ましく、0.3~0.9質量部としてもよく、0.35~0.8質量部としてもよい。
【0068】
[硬化物]
本発明の硬化物は、本発明の接着剤を硬化することにより生じる硬化物である。すなわち、本発明の硬化物は、内視鏡の接着部を構成する部材として用いられる。本発明の接着剤の硬化温度は特に制限されず、被接着部材の耐熱性、硬化時間等を考慮し、目的に応じて適宜に調整される。各成分の混合は気泡を除去しながら行うことが好ましく、そのため通常は減圧下で行われる。上記硬化温度は100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。また、硬化反応を十分に行わせるために、硬化温度は0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。硬化反応時間は目的に応じて適宜に設定することができる。通常は1.5~200時間、硬化反応させて硬化物を得る。
【0069】
[内視鏡]
本発明の内視鏡は、本発明の硬化物により構成部材が固定されている。「本発明の硬化物により構成部材が固定される」とは、内視鏡を構成する少なくとも一部の部材が本発明の硬化物を介して支持部材に固定されていることを意味する。
【0070】
本発明の内視鏡(電子内視鏡)の一例を説明する。電子内視鏡には内視鏡用可撓管が組み込まれており(以下、内視鏡用可撓管を単に「可撓管」と称することもある)、医療用機器として広く用いられる。
図1に示した例において、電子内視鏡2は、体腔内に挿入される挿入部3と、挿入部3の基端部分に連設された本体操作部5と、プロセッサ装置や光源装置に接続されるユニバーサルコード6とを備えている。挿入部3は、本体操作部5に連設される可撓管3aと、そこに連設されるアングル部3bと、その先端に連設され、主に金属(例えば、ステンレス)部材で構成された先端部3cとから構成される。この先端部3cには、体腔内撮影用の撮像装置(図示せず)が内蔵されている。挿入部3の大半の長さを占める可撓管3aは、そのほぼ全長にわたって可撓性を有し、特に体腔等の内部に挿入される部位はより可撓性に富む構造となっている。
図1において、本体操作部5から、先端部3cの先端面には、挿入部3の軸線方向に貫通するチャンネル(チューブ、図示せず)が複数形成されている。
【0071】
図1における可撓管3aは、
図2に示すように、可撓管基材14の外周面に樹脂層15が被覆された構成となっている。
14aが先端側(先端部3c側)であり、14bが基端側(本体操作部5側)である。
可撓管基材14は、最内側に金属帯片11aを螺旋状に巻回することにより形成される螺旋管11に、金属線を編組してなる筒状網体12を被覆してなる。その両端には口金13がそれぞれ嵌合されている。この樹脂層15は接着剤硬化物層17を介して可撓管基材14と接着されている。この接着剤硬化物層17は、本発明の接着剤を適用してこれを硬化させることにより形成することができる。接着剤硬化物層(接着部)17は図示の便宜のために均一な厚みのある層として図示したが、必ずしもその形態でなくてもよく、不定形に樹脂層15と可撓管基材14との間に介在されていてもよい。むしろ厚みがほとんどなく、樹脂層15と可撓管基材14とが実質的に接した形で接着されていてもよい。
樹脂層15の外面には、耐薬品性のある例えばフッ素等を含有したコート層16をコーティングしている。なお、接着剤硬化物層17、樹脂層15及びコート層16は、層構造を明確に図示するため、可撓管基材14の径に比して厚く描いている。
【0072】
図3に示すように、先端部3cの先端面には、照明窓31、観察窓32および鉗子口33が形成されている。また、必要に応じて先端面を洗浄するため、水および空気を送り出すノズル34が形成されている。照明窓31、観察窓32、鉗子口33およびノズル34は、チャンネルにより、本体操作部5と連接している。
【0073】
図4に示すように、先端部3cは、金属からなる先端部本体35と、電気絶縁性部材からなる先端キャップ36とから構成される。
【0074】
観察窓32に、光学系装置である観察ユニット43が設置されている。観察ユニット43は、レンズホルダ37内に、レンズL1~L5から構成される対物光学系が、接着剤硬化物41および42により固定されている。この接着剤硬化物41および42は、本発明の接着剤を適用してこれを硬化させることにより形成することができる。この対物光学系において、Aは空気層である。レンズホルダ37の端面にはプリズム38が接着され固定されている。このプリズム38により対物光学系の光軸が直角に曲げられる。このプリズム38は、固体撮像素子40に固定されている。固体撮像素子40は基板39に固定されている。これらの固定にも本発明の接着剤を適用することができる。
【0075】
<内視鏡の製造方法>
本発明の内視鏡の製造方法は、本発明の接着剤を用いて、内視鏡構成部材を固定することを含む限り特に制限はなく、内視鏡構成部材の固定以外の工程は、通常の製造工程を採用して本発明の内視鏡を製造することができる。
固定される内視鏡構成部材の材質に特に制限はなく、例えば、樹脂部材、金属部材及びガラス部材が挙げられる。内視鏡構成部材は、例えば、本発明の接着剤に含まれる各成分を好ましくは減圧下混合した後、この混合物を適用箇所に注入ないし塗布し、-10~60℃(好ましくは0~60℃、より好ましくは10~50℃)で1.5~200時間加熱することにより、内視鏡を構成する支持部材等に固定することができる。
以下、本発明の内視鏡の製造方法における接着剤の使用形態について具体例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0076】
本発明の接着剤により固定される内視鏡構成部材のうち、樹脂部材としては、例えば、内視鏡の挿入部内に挿通されるチューブが挙げられる。上記チューブを構成する樹脂材料としては、テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエステル、ポリオレフィン、シリコーンなどが挙げられる。本発明の接着剤は、例えば、内視鏡の挿入部を構成する金属部材またはガラス部材と上記チューブとの接着(金属部材またはガラス部材の上記チューブへの固定)に用いることができる。
また、上述のように、
図2における接着剤硬化物層17を形成するために用いることもできる。また、
図2における樹脂層15とコート層16の接着に用いることもできる。
【0077】
本発明の接着剤は、可撓性外皮チューブ(樹脂層15)の端部(可撓管3aの先端側(アングル部3b側)の端部)の外面仕上げ及び固定に用いることができる。具体的には、可撓管3aの樹脂層15の端部を外側から糸で緊縛してその内側の部材に固定した後、その糸を被覆するように接着剤を塗布し、硬化させる。可撓管3aの先端側端部の最外層を本発明の接着剤で構成することにより、この先端側端部の糸をほつれにくくし、挿入部を体腔内に挿入しやすくするためである。
また、本発明の接着剤は、先端部3cとアングル部3bとの接着および/または挿入部3と本体操作部5との接着に用いることができる。例えば、先端部3cとアングル部3bとを本発明の接着剤を用いて接着し、次いで先端部3cとアングル部3bとの接着部及びその近傍を糸で巻き締め接着を補強し、その糸を被覆するように接着剤を塗布し、硬化させる。挿入部3と本体操作部5との接着についても同様である。
また、本発明の接着剤は、内視鏡の挿入部内に挿通される各種チューブの、先端部3cおよび/または本体操作部5への固定に使用することもできる。
【0078】
また、本発明の接着剤は、先端部3cにおいて、照明窓31および観察窓32の封止(ガラス部材の固定)に用いることも好ましい。接着剤を厚塗りすることにより、レンズ外周の角部を滑らかにすることができ、また、レンズ横方向からの光の入射を遮ることができる。
また、本発明の接着剤は、先端部3cに内蔵される撮像装置の組立て、部品の接着、固体撮像素子40の封止等の、部材の固定に用いることができる。撮像装置は、レンズL1~L5およびプリズム38等の複数個の光学部品からなる光学系と、この光学系によって結像された光学画像を撮像信号に光電変換するCCD(Charge Coupled Device)等の固体撮像素子40とを有する。本発明の接着剤は、ガラス等の材料からなるレンズL1~L5およびプリズム38等の光学部品どうしの接着、並びに、レンズL1~L5、プリズム38等と、樹脂または金属からなる基板39との接着等に用いることができ、この接着により、ガラス部材を固定することができ、また金属部材を固定することができる。
また、本発明の接着剤は、固体撮像素子40と基板39の接着固定、封止に用いることができる。この接着により、固体撮像素子、基板等を構成する金属部材を固定することができる。
このように本発明の内視鏡の製造方法は、本発明の接着剤を用いて、内視鏡構成部材を固定する工程を含むものである。
【実施例】
【0079】
実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が下記実施例により限定して解釈されるものではない。下記実施例において、「室温」は25℃を意味する。また、成分の配合量は、成分そのものの配合量を意味する。すなわち、原料が溶媒を含む場合には、溶媒を除いた量である。
【0080】
[調製例] 接着剤の調製
下表に示す成分(a)~(c)を下表に示す配合比(質量部)で混合し、この混合物を「泡とり練太郎 ARV-310(商品名、シンキー社製)」により、室温下、1.0Paに減圧した状態で、2000rpmで撹拌しながら5分間脱泡し、接着剤を得た。なお、下記の各試験例では、調製直後の接着剤を用いた。
【0081】
[試験例]
<湿潤耐久性>
フッ素ゴムシート(長さ30mm×幅25mm×厚さ5mm)を2枚用意し、各々の長さ方向の一方の端部3mm×幅25mmを、上記調製例で得られた各接着剤を介して重ね合わせた後、この接着剤を80℃で12時間加熱することにより硬化して試験体を作製した。この試験体を用いて、JIS K6852-1994に準拠して、引張速度100mm/分、温度25℃の条件下でせん断強度(初期)を測定した。せん断強度が大きいほど接着性に優れている。
また、上記と同様に作製した試験体を、50℃、相対湿度95%の環境下で10日間放置した。なお、50℃という高温にしているのは加速試験の意味合いである。この試験体を用いて、上記と同様にせん断強度(湿熱劣化後)を測定した。せん断強度保持率(%)を下記式から算出し、得られたせん断強度保持率の値を下記評価基準に当てはめ評価した。せん断強度保持率が高いほど湿潤耐久性に優れている。
せん断強度保持率(%)=(湿熱劣化後のせん断強度/初期のせん断強度)×100
-評価基準-
A:せん断強度保持率が80%以上100%未満
B:せん断強度保持率が60%以上80%未満
C:せん断強度保持率が40%以上60%未満
D:せん断強度保持率が40%未満
結果を下表に示す。
【0082】
<過酸化水素プラズマ滅菌耐久性試験>
上記の調製例で得られた接着剤を、縦100mm×横20mm×厚さ0.4mmのテフロン(登録商標)製の型に流し込み、30℃で170時間静置し、シート状サンプル(硬化物)を得た。
ステラッド(登録商標)NX(ジョンソンアンドジョンソン社製)、アドバンスコースを用いて、このシート状サンプルを室温で過酸化水素プラズマ滅菌処理に付した。滅菌処理前のシート状サンプル(I)と、過酸化水素プラズマ滅菌処理に100回繰り返し付したシート状サンプル(II)を試験片として、オートグラフAGS-X(商品名、島津製作所社製)を用いて、引張速度を20mm/min、つかみ具間距離を20mmとして、縦軸方向に引っ張る引張試験を行った。
シート状サンプル(I)の破断強度に対するシート状サンプル(II)の破断強度の割合(100×[シート状サンプル(II)の破断強度]/[シート状サンプル(I)の破断強度])を破断強度の維持率として、下記評価基準に当てはめ滅菌処理耐久性を評価した。
【0083】
-評価基準-
AA:破断強度の維持率が90%以上
A :破断強度の維持率が80%以上90%未満
B :破断強度の維持率が60%以上80%未満
C :破断強度の維持率が40%以上60%未満
D :破断強度が滅菌処理前の40%未満、又は過酸化水素プラズマ滅菌処理を行っている間にサンプルが劣化破損して引張試験ができなかった。
結果を下表に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
[成分(a):エポキシ樹脂]
(a-1):
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名「jER825」、三菱化学社製、エポキシ当量170)
(a-2):
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名「jER828」、三菱化学社製、エポキシ当量190)
(a-3):
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名「jER834」、三菱化学社製、エポキシ当量230)
(a-4):
ビスフェノールFジグリシジルエーテル(商品名「EPICLON830」、DIC社製、エポキシ当量170)
(a-5):
エポキシノボラック樹脂(製品番号406775、シグマアルドリッチ社製、エポキシ当量170)
【0088】
[成分(b):ポリアミン]
(b-1):
ポリオキシアルキレントリアミン(商品名:T403、三井化学ファイン社製、活性水素当量73)
(b-2):
ポリオキシアルキレンジアミン(商品名:D400、三井化学ファイン社製、活性水素当量100)
(b-3):
ポリオキシアルキレンジアミン(商品名:D2000、三井化学ファイン社製、活性水素当量500)
(b-4):
ポリアミドアミン(商品名:ST13、三菱ケミカル社製)
(b-5):
m-キシレンジアミン(商品名:MXDA、三菱ガス化学社製)
(b-6):
テトラエチレンペンタミン(東京化成工業社製)
(b-7):
1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(商品名:1,3-BAC、三菱ガス化学社製)
(b-8):
イソホロンジアミン(東京化成工業社製)
(b-9):
m-フェニレンジアミン(東京化成工業社製)
【0089】
[成分(c):金属アルコキシド]
<ケイ素アルコキシド>
(c-1):
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(商品名:KBM-303、信越化学工業社製)
(c-2):
5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン(商品名:SIE4675.0、Gelest社製)
(c-3):
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-403、信越化学工業社製)
(c-4):
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-903、信越化学工業社製)
(c-5):
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBM-9007N、信越化学工業社製)
(c-6):
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-803、信越化学工業社製)
(c-7):
(3-メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン(商品名:KBM-503、信越化学工業社製)
(c-8):
3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物(商品名:X-12-967C、信越化学工業社製)
(c-9):
アリルトリメトキシシラン(商品名:SIA0540.0、Gelest社製)
(c-10):
テトラエトキシシラン(東京化成工業社製)
【0090】
<チタンアルコキシド>
(c-11):
テトラn-ブチルチタネート(商品名:オルガチックスTA-21、マツモトファインケミカル社製、下記T-1)
【化6】
【0091】
(c-12):
n-ブチルチタネートダイマー(商品名:オルガチックスTA-23、マツモトファインケミカル社製、下記T-2)
【化7】
【0092】
(c-13):
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート(商品名:プレンアクトTTS、味の素ファインテクノ社製、下記T-3)
【化8】
【0093】
(c-14):
ジオクチルビス(ジトリデシル)ホスフェートチタネート(商品名:プレンアクト46B、味の素ファインテクノ社製、T-4)
【化9】
【0094】
(c-15):
ジイソプロピルビス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート(商品名:プレンアクト38S、味の素ファインテクノ社製、下記T-5)
【化10】
【0095】
(c-16):
ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート(商品名:プレンアクト138S、味の素ファインテクノ社製、下記T-6)
【化11】
【0096】
(c-17):
ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート(商品名:プレンアクト238S、味の素ファインテクノ社製、下記T-7)
【化12】
【0097】
(c-18):
イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート(商品名:プレンアクト44、味の素ファインテクノ社製、下記T-8)
【化13】
【0098】
(c-19):
イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート(商品名:プレンアクト9SA、味の素ファインテクノ社製、下記T-9)
【化14】
【0099】
(c-20):
チタニウムジ-2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)(商品名:オルガチックスTC-201、マツモトファインケミカル社製、下記T-10)
【化15】
【0100】
(c-21):
アルミニウムsec-ブトキシド(商品名:ASBD、川研ファインケミカル社製、下記A-1)
【化16】
【0101】
(c-22):
アルミニウムトリスアセチルアセトネート(商品名:オルガチックスAL-3100、マツモトファインケミカル社製、下記A-2)
【化17】
【0102】
(c-23):
アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート(商品名:オルガチックスAL-3200、マツモトファインケミカル社製、下記A-3)
【化18】
【0103】
(c-24):
アルミニウムトリスエチルアセトアセテート(商品名:オルガチックスAL-3215、マツモトファインケミカル社製、下記A-4)
【化19】
【0104】
(c-25):
アルミニウムオクタデシルアセトアセテートジイソプロピレート(商品名:プレンアクトAL-M、味の素ファインテクノ社製、A-5)
【化20】
【0105】
(c-26):
ジルコニウムテトラn-プロポキシド(商品名:オルガチックスZA-45、マツモトファインケミカル社製、下記Z-1)
【化21】
【0106】
(c-27):
ジルコニウムテトラn-ブトキシド(商品名:オルガチックスZA-65、マツモトファインケミカル社製、下記Z-2)
【化22】
【0107】
(c-28):
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート(商品名:オルガチックスZC-150、マツモトファインケミカル社製、下記Z-3)
【化23】
【0108】
(c-29):
ジルコニウムラクテートアンモニウム塩(商品名:オルガチックスZC-300、マツモトファインケミカル社製、下記Z-4)
【化24】
【0109】
(c-30):
ステアリン酸ジルコニウムトリn-ブトキシド(商品名:オルガチックスZC-320、マツモトファインケミカル社製、下記Z-5)
【化25】
【0110】
(c-31):
ジルコニウムトリn-ブトキシモノアセチルアセトネート(商品名:オルガチックスZC-540、マツモトファインケミカル社製、下記Z-6)
【化26】
【0111】
(c-32):
ジルコニウムジn-ブトキシビス(エチルアセトアセテート)(商品名:オルガチックスZC-580、マツモトファインケミカル社製、下記Z-7)
【化27】
【0112】
上記表に示されるように、接着剤成分として、成分(a)のエポキシ樹脂と成分(b)のポリアミン化合物を組合せて用いても、成分(c)を含有しない場合、得られる接着剤の硬化物は湿潤耐久性に劣る結果となった(比較例1~5)。また、ポリアミン化合物の構造が成分(b)の規定を満たさない場合には、滅菌耐久性に劣る結果となった(比較例6~12)。
これに対し、成分(a)~(c)のすべてを含有してなる接着剤は、湿潤条件下で長期間放置しても、また滅菌処理に繰り返し付しても、劣化しにくいものであった(実施例1~49)。
【0113】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0114】
本願は、2019年2月26日に日本国で特許出願された特願2019-032974に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0115】
2 電子内視鏡(内視鏡)
3 挿入部
3a 可撓管
3b アングル部
3c 先端部
5 本体操作部
6 ユニバーサルコード
11 螺旋管
11a 金属帯片
12 筒状網体
13 口金
14 可撓管基材
14a 先端側
14b 基端側
15 樹脂層
16 コート層
17 接着剤硬化物層
31 照明窓
32 観察窓
33 鉗子口
34 ノズル
35 先端部本体
36 先端キャップ
37 レンズホルダ
38 プリズム
39 基板
40 固体撮像素子
41 接着剤硬化物
42 接着剤硬化物
43 観察ユニット
L1~L5 レンズ