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特許7162143音響整合層材、音響整合層材用組成物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、及び音響波プローブの製造方法
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  • 特許-音響整合層材、音響整合層材用組成物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、及び音響波プローブの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-19
(45)【発行日】2022-10-27
(54)【発明の名称】音響整合層材、音響整合層材用組成物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、及び音響波プローブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021542706
(86)(22)【出願日】2020-08-11
(86)【国際出願番号】 JP2020030554
(87)【国際公開番号】W WO2021039374
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019159043
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 和博
(72)【発明者】
【氏名】中井 義博
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-515439(JP,A)
【文献】特開2013-192113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂成分と、金属粒子と、セラミックス粒子とを含有し、音速が3500m/sec未満であり、音響インピーダンスが18Mrayl以上である音響整合層材。
【請求項2】
更に、硬化剤成分を含む、請求項1に記載の音響整合層材。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂成分及びビスフェノールF型エポキシ樹脂成分の少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の音響整合層材。
【請求項4】
前記硬化剤成分が、一級アミン成分及び二級アミン成分の少なくとも1種を含む、請求項2に記載の音響整合層材。
【請求項5】
前記金属粒子が、周期表第4~12族の少なくとも1種の金属を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の音響整合層材。
【請求項6】
前記金属粒子の比重が9以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の音響整合層材。
【請求項7】
前記セラミックス粒子が、周期表第1~3族及び13~17族の少なくとも1種の原子を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の音響整合層材。
【請求項8】
前記セラミックス粒子が、Mg、Ca、Ba、B、Al、Y及びSiの少なくとも1種と、O、C、N及びSの少なくとも1種とを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の音響整合層材。
【請求項9】
前記セラミックス粒子が、コージェライト、炭化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素及び酸化イットリウムの少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の音響整合層材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の音響整合層材を製造するための組成物であって、
ポキシ樹脂と、前記金属粒子と、前記セラミックス粒子とを含有する、音響整合層材用組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の音響整合層材からなる音響整合シート。
【請求項12】
請求項11に記載の音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ。
【請求項13】
請求項12に記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
【請求項14】
前記音響波測定装置が超音波診断装置である、請求項13に記載の音響波測定装置。
【請求項15】
ポキシ樹脂と、前記金属粒子と、前記セラミックス粒子と、を含有する組成物を自転公転撹拌機で撹拌する工程を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の音響整合層材の製造方法。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか1項に記載の音響整合層材を用いて音響整合層を形成する工程を含む音響波プローブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響整合層材、音響整合層材用組成物、音響整合シート、音響波プローブ、音響波測定装置、及び音響波プローブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音響波測定装置には、音響波を生体等の被検対象に照射し、その反射波(エコー)を受信して信号を出力する音響波プローブが用いられる。この音響波プローブにより受信した反射波は電気信号に変換され、画像として表示される。したがって、音響波プローブを用いることにより、被検対象内部を映像化して観察することができる。
【0003】
音響波としては、超音波、光音響波などが、被検対象に応じて、また測定条件に応じて適宜に選択される。
例えば、音響波測定装置の1種である超音波診断装置は、被検対象内部に向けて超音波を送信し、被検対象内部の組織で反射された超音波を受信し、画像として表示する。
また、音響波測定装置の1種である光音響波測定装置は、光音響効果によって被検対象内部から放射される音響波を受信し、画像として表示する。光音響効果とは、可視光、近赤外光又はマイクロ波等の電磁波パルスを被検対象に照射したときに、被検対象が電磁波を吸収して発熱し、熱膨張することにより音響波(典型的には超音波)が発生する現象である。
【0004】
音響波測定装置は、被検対象との間で音響波の送受信を行うため、音響波プローブには被検対象(典型的には人体)と音響インピーダンスの整合させることが要求される。この要求を満たすために、音響波プローブには音響整合層が設けられる。このことを音響波プローブの1種である超音波診断装置用探触子(超音波プローブとも称される)を例に説明する。
超音波プローブは、超音波を送受信する圧電素子と、生体に接触する音響レンズとを備え、圧電素子と音響レンズとの間には音響整合層が配されている。圧電素子から発振される超音波は音響整合層を透過し、さらに音響レンズを透過して生体に入射される。音響レンズと生体との間の音響インピーダンス(密度×音速)には通常は差がある。この差が大きいと、超音波が生体表面で反射されやすく、超音波の生体内への入射効率が低下してしまう。そのため、音響レンズには生体に近い音響インピーダンス特性が求められる。
他方、圧電素子と生体との間の音響インピーダンスの差は一般に大きい。それゆえ、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスの差も通常は大きなものとなる。したがって、圧電素子と音響レンズとの積層構造とした場合には、圧電素子から発せられた超音波は音響レンズ表面で反射し、超音波の生体への入射効率は低下する。この超音波の反射を抑制するために、圧電素子と音響レンズとの間には上記の音響整合層が設けられる。音響整合層の音響インピーダンスは生体又は音響レンズの音響インピーダンスと圧電素子の音響インピーダンスとの間の値をとり、これにより圧電素子から生体への超音波の伝播が効率化する。また、近年では、音響整合層を、音響整合シート(シート状の音響整合層材)を複数積層させた複層構造として、圧電素子側から音響レンズ側に向けて音響インピーダンスに傾斜を設けることにより、超音波の伝播をより効率化した音響整合層の開発が進められている。
【0005】
音響整合層の音響インピーダンスは、音響整合層の形成材料に金属粒子等のフィラーを配合することにより調整することができる。例えば特許文献1及び特許文献2には、エポキシ樹脂等の樹脂に、金属、アルミナ及び炭化ケイ素等を分散させたシートを音響整合層として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-169397号公報
【文献】特開2017-60196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複層構造の音響整合層では、上述の音響インピーダンスの傾斜は、圧電素子に近いほど音響整合シートの音響インピーダンスが大きく、音響レンズに近いほど音響整合シートの音響インピーダンスが小さくなるように設計される。すなわち、圧電素子側では圧電素子の音響インピーダンス(通常は、25Mrayl程度)に近く、音響レンズ側では生体の音響インピーダンス(人体では、1.4~1.7Mrayl)に近い音響整合シートが、それぞれ求められる。傾斜をよりスムーズにする点からは、音響インピーダンスの異なる音響整合シートの積層数を、より増やすことが求められる。この場合、各音響整合シートはより薄膜化することが求められる。
音響整合シートの音響インピーダンスは、シート構成材料の密度と音速とを乗じて決定される。したがって、圧電素子側に用いる音響整合シートの音響インピーダンスを高めようとした場合、高密度で、高音速の材料を用いることが考えられる。この条件を満たす材料として金属材料が挙げられる。しかし、金属材料をそのまま音響整合シートとした場合には、音速が速すぎるために、音響波も長波長となり(波長=音速/周波数)、シートの薄膜化が制約される。
また、金属材料をシート状に加工するに当たっては金属の延性が制約となり、金属材料をそのまま音響整合シートとするには加工性の観点でも問題がある。
そこで、上述のように、金属粒子を樹脂中に分散させて音響インピーダンスを調整することが行われている(例えば特許文献1及び2)。しかし本発明者らが検討したところ、金属粒子を樹脂中に配合する形態では、(I)金属粒子の配合量の増加が音速の著しい低下を招き、所望の高い音響インピーダンスを実現するには金属粒子の配合量をかなりの高配合とする必要があること、(II)このように金属粒子を高配合すると、金属粒子を樹脂中に均一分散させること自体が困難であることがわかってきた。金属粒子の樹脂中への分散が不均一であると、音響整合シートの面内における音響波特性のばらつきが大きくなる。
【0008】
本発明は、層内の音響波特性のばらつきが少なく、さらに適度に早い音速を示し、薄膜でかつ高い音響インピーダンスを示す音響整合シートを形成することができる音響整合層材、及びこの音響整合層材の調製に好適な音響整合層材用組成物を提供することを課題とする。
また本発明は、シート内の音響波特性のばらつきが少なく、さらに適度に早い音速を示し、薄膜状でかつ高い音響インピーダンスを示す音響整合シートを提供することを課題とする。
また本発明は、上記音響整合シートを用いた音響波プローブ、及びこれを用いた音響波測定装置を提供することを課題とする。
また本発明は、上記音響整合層材を用いた音響波プローブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題に鑑みさらに検討を進めたところ、硬化前のエポキシ樹脂と多量の金属粒子との混合に当たり、通常用いられるニーダー、ミキサー等に代えて自転公転撹拌機を用いることにより、エポキシ樹脂中への金属粒子の分散性を効果的に高めることができること、さらに金属粒子の一部をセラミックス粒子に置き換えることにより、これを硬化して得られるシート(層材)は金属粒子による高密度化の利点を享受しながら、その音速を適度に高めることができ、十分に高い音響インピーダンスを示す、所望の薄膜状の音響整合シートを実現できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決された。
<1>
エポキシ樹脂成分と、金属粒子と、セラミックス粒子とを含有し、音速が3500m/sec未満であり、音響インピーダンスが18Mrayl以上である音響整合層材。
<2>
更に、硬化剤成分を含む、<1>に記載の音響整合層材。
<3>
上記エポキシ樹脂成分が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂成分及びビスフェノールF型エポキシ樹脂成分の少なくとも1種を含む、<1>又は<2>に記載の音響整合層材。<4>
上記硬化剤成分が、一級アミン成分及び二級アミン成分の少なくとも1種を含む、<2>に記載の音響整合層材。
<5>
上記金属粒子が、周期表第4~12族の少なくとも1種の金属を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の音響整合層材。
<6>
上記金属粒子の比重が9以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の音響整合層材。
<7>
上記セラミックス粒子が、周期表第1~3族及び13~17族の少なくとも1種の原子を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の音響整合層材。
<8>
上記セラミックス粒子が、Mg、Ca、Ba、B、Al、Y及びSiの少なくとも1種と、O、C、N及びSの少なくとも1種とを含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の音響整合層材。
<9>
上記セラミックス粒子が、コージェライト、炭化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素及び酸化イットリウムの少なくとも1種を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の音響整合層材。
【0011】
<10>
<1>~<9>のいずれか1つに記載の音響整合層材を製造するための組成物であって、
エポキシ樹脂と、金属粒子と、セラミックス粒子とを含有する、音響整合層材用組成物。
<11>
<1>~<9>のいずれか1つに記載の音響整合層材からなる音響整合シート。
<12>
<11>に記載の音響整合シートを音響整合層として有する音響波プローブ。
<13>
<12>に記載の音響波プローブを備える音響波測定装置。
<14>
上記音響波測定装置が超音波診断装置である、<13>に記載の音響波測定装置。
<15>
エポキシ樹脂と、金属粒子と、セラミックス粒子と、を含有する組成物を自転公転撹拌機で攪拌する工程を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の音響整合層材の製造方法。
<16>
<1>~<9>のいずれか1つに記載の音響整合層材を用いて音響整合層を形成する工程を含む音響波プローブの製造方法。
【0012】
本発明の説明において「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の音響整合層材は、層内の音響波特性のばらつきが少なく、さらに適度に早い音速を示し、薄膜でかつ高い音響インピーダンスを示す音響整合シートを形成することができる。
本発明の音響整合層材用組成物は、これを硬化させることにより、上記音響整合層材を得ることができる。
本発明の音響整合シートは、シート内の音響波特性のばらつきが少なく、さらに適度に早い音速を示し、薄膜状でかつ高い音響インピーダンスを示す。
また本発明の音響波プローブは、上記音響整合シートを有する。
本発明の音響波測定装置は、音響波プローブを有する。
また本発明の音響波プローブの製造方法によれば、上記音響整合層材を用いた音響波プローブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】音響波プローブの一態様であるコンベックス型超音波プローブの一例についての斜視透過図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[音響整合層材]
本発明の音響整合層材(以下、単に「本発明の層材」とも称す。)は、エポキシ樹脂成分(エポキシ樹脂由来の成分)と、金属粒子と、セラミックス粒子とを含有し、音速(25℃)が3500m/sec未満であり、音響インピーダンス(25℃)が18Mrayl以上である。
本発明の層材は、エポキシ樹脂成分をマトリックスとして、このマトリックス中に金属粒子及びセラミックス粒子が均一分散した形態の材料である。この均一分散状態は、例えば、後述する特定の撹拌方法により実現することができる。
音速の下限は2000m/secであることが実際的である。音速を2000m/sec以上とすることにより、層材を用いて形成する音響整合シートを薄膜にしながらも音響インピーダンスをより高めることができる。好ましい音速の下限は2300m/secである。さらに好ましい音速は、2300m/sec以上、2750m/sec未満である。
音響インピーダンスの上限は30Mraylであることが実際的である。
上記音速及び音響インピーダンスは、後述する実施例に記載の方法により決定されるものである。なお、実施例では厚さ1mmのシートを用いて測定しているが、音速と密度の測定値は厚さの影響を事実上受けない。したがって、層材を適宜に測定に適したシート状に加工し、このシート中の独立した3か所について音速と密度を測定し、各算術平均値を得て、層材の音速と音響インピーダンスを決定することができる。
本発明の層材の形状は特に制限されず、例えば、シート状、円柱状及び角柱状が挙げられ、シート状が好ましい。
【0016】
以下、エポキシ樹脂成分を「結着材」と称することがある。この場合、本発明の層材が後述の硬化剤成分を含む場合、エポキシ樹脂成分と硬化剤成分とを合わせて「結着材」と称す。
【0017】
(エポキシ樹脂)
本発明の層材が含有するエポキシ樹脂成分を導くエポキシ樹脂としては、通常のエポキシ樹脂を用いることができ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、音響波特性のばらつきの点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0018】
本発明に用いられるビスフェノールA型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER825、jER828及びjER834(いずれも商品名)、三菱化学社製)及びビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製)が挙げられる。
【0019】
本発明に用いられるビスフェノールF型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。好ましい具体例として、ビスフェノールFジグリシジルエーテル(商品名:EPICLON830、DIC社製)及び4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)が挙げられる。
【0020】
本発明に用いられるフェノールノボラック型エポキシ樹脂は特に制限されず、エポキシ系接着剤の主剤として一般的に用いられるものを広く用いることができる。このようなフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、シグマアルドリッチ社から製品番号406775(ポリ[(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド])として販売されている。
【0021】
エポキシ樹脂は、上記のエポキシ樹脂からなるものでもよいし、上記エポキシ樹脂以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、他のエポキシ樹脂(例えば、脂肪族型エポキシ樹脂)を含んでいてもよい。エポキシ樹脂中の上記3種のエポキシ樹脂の含有量(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂の総含有量)は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明の層材中、エポキシ樹脂成分は、エポキシ樹脂が単独で硬化したものでもよく、硬化剤と反応して硬化したものであってもよい。すなわち、本発明の層材は、硬化剤成分(硬化剤由来の成分)を含有してもよい。
【0024】
(硬化剤)
硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、酸無水物、フェノール樹脂などが挙げられる。
架橋密度を高めて、得られる層材の音響特性のばらつきをより少なくする観点からは、一級アミン及び二級アミンの少なくとも1種を用いることが好ましい。なかでも、1分子中に一級アミンと二級アミンを有する化合物が好ましく、その具体例としては、ポリアミドアミン、トリエチレンテトラミン等を挙げることができる。
【0025】
(金属粒子)
本発明の層材は金属粒子を含有する。層材中、この金属粒子の含有量を調整することにより、層材の密度を調整することができ、層材の音響インピーダンスを所望のレベルに調整することが可能になる。金属粒子は表面処理されていてもよい。この表面処理は、例えば、国際公開第2019/088148号を参照して行うことができる。
【0026】
金属粒子を構成する金属は特に制限されない。金属原子単独でもよく、金属の炭化物、窒化物、酸化物、又はホウ素化物でもよい。また合金を形成していてもよい。合金の種類としては高張力鋼(Fe-C)、クロムモリブデン鋼(Fe-Cr-Mo)、マンガンモリブデン鋼(Fe-Mn-Mo)、ステンレス鋼(Fe-Ni-Cr)、42アロイ、インバー(Fe-Ni)、バーメンデュール(Fe-Co)、ケイ素鋼(Fe-Si)、丹銅、トムバック(Cu-Zn)、洋白(Cu-Zn-Ni)、青銅(Cu-Sn)、白銅(Cu-Ni)、赤銅(Cu-Au)、コンスタンタン(Cu-Ni)、ジェラルミン(Al-Cu)、ハステロイ(Ni-Mo-Cr-Fe)、モネル(Ni-Cu)、インコネル(Ni-Cr-Fe)、ニクロム(Ni-Cr)、フェロマンガン(Mn-Fe)、超硬合金(WC/Co)などが挙げられる。
【0027】
金属粒子を構成する金属は、周期表第4~12族の金属の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0028】
また、音速を低下させ音響インピーダンスを高める観点から、金属粒子を構成する金属の比重(25℃、g/cm)は、9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、Mo及びWを用いることが好ましい。
【0029】
本発明に用いられる金属粒子の粒径は、後述の音響整合層材用組成物の粘度、音響整合層材の音響波特性のばらつきの観点から0.01~100μmが好ましく、1~10μmがより好ましい。ここで、金属粒子の「粒径」は平均一次粒子径を意味する。なお、金属粒子が表面処理されている場合、表面処理された金属粒子の平均一次粒子径が上記範囲内にあることが好ましい。
ここで、平均一次粒子径とは、体積平均粒子径を意味する。この体積平均粒子径は、次のように決定される。
メタノールに金属粒子を、0.5質量%となるように添加し、10分間超音波にかけることにより、金属粒子を分散させる。このように処理した金属粒子の粒度分布を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA950V2)により測定し、その体積基準メジアン径を体積平均粒子径とする。なお、メジアン径とは粒径分布を累積分布として表したときの累積50%に相当する。
【0030】
(セラミックス粒子)
本発明に用いられるセラミックス粒子は特に制限されず、音響整合層材のフィラーとして一般的に用いられるものを広く用いることができる。
本発明に用いられるセラミックス粒子は、周期表第1~3族及び13~17族の少なくとも1種の原子を含むことが好ましく、Mg、Ca、Ba、B、Al、Y及びSiの少なくとも1種(好ましくは1~3種)と、O、C、N及びSの少なくとも1種(好ましくは1種)を含む物質であることがより好ましい。
本発明に用いられるセラミックス粒子として、Mg、Ba、B、Al、Y及びSiの少なくとも1種(好ましくは1~3種)を含む、炭化物、窒化物又は酸化物が好ましく、具体的には、マグネシウム-アルミニウムスピネル(アルミン酸マグネシウムスピネル、MgO・Al)、ウォラストナイト(CaSiO)、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)、炭化ホウ素(BC)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)及び酸化イットリウム(Y)が挙げられる。音速を低下させ音響インピーダンスを高める観点から、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)、炭化ホウ素(BC)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)及び酸化イットリウム(Y)の少なくとも1種を用いることが好ましく、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)、炭化ホウ素(BC)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ケイ素(Si)、及び窒化ホウ素(BN)の少なくとも1種を用いることがさらに好ましい。
【0031】
本発明に用いられるセラミックス粒子の粒径(平均一次粒子径)は、音響整合層材用組成物の粘度、音響整合層材の音響波特性のばらつきの観点から0.01~100μmが好ましく、1~15μmがより好ましい。セラミックス粒子の粒径は上記金属粒子の粒径と同様にして測定することができる。
【0032】
本発明の層材中、結着材と金属粒子とセラミックス粒子の各含有量は、目的の音速及び音響インピーダンス(音速が3500m/sec未満、音響インピーダンスが18Mrayl以上)に応じて適宜に調整される。
本発明の層材中の結着材の含有量は1~10質量%であることが好ましく、3~7質量%がより好ましい。本発明の層材中の金属粒子の含有量は、80~98質量%が好ましく、85~95質量%がより好ましく、86~93質量%がさらに好ましく、87~92質量%が特に好ましい。本発明の層材中のセラミックス粒子の含有量は、1~18質量%が好ましく、2~12質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましく、3~8質量%が特に好ましい。
【0033】
本発明の層材は、結着材と金属粒子とセラミックス粒子から構成されていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外の成分を含有していてもよい。結着材以外で金属粒子及びセラミックス粒子以外の成分(他の成分)としては、例えば、硬化遅延剤、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤および熱伝導性向上剤等が挙げられる。
本発明の層材中、結着材と金属粒子とセラミックス粒子の各含有量の合計は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0034】
本発明の層材は、シート状にした場合の面内の音響波特性のばらつきを抑えることができる。例えば、シート状にした場合の面内における音響インピーダンス(Mrayl)の標準偏差(Mrayl)が、0.7未満が好ましく、0.5未満がより好ましい。この標準偏差の下限は0でもよく、標準偏差は通常は0.1以上である。この標準偏差は、後述する実施例に記載の方法に準じて決定される。具体的には、シート状に加工した層材を厚さ方向に3等分し、得られた3枚のシートの各々について、独立した3か所の音響インピーダンスを測定し、合計9カ所の音響インピーダンスの標準偏差として決定されるものである。なお、シートの厚さは音速と密度に事実上影響しない。
【0035】
<音響整合層材用組成物>
本発明の音響整合層材用組成物(本発明の音響整合層材に用いられる組成物、以下、「本発明の組成物」とも称する。)は、エポキシ樹脂と金属粒子とセラミックス粒子とを含有する。
また、本発明の組成物は、上述した硬化剤を含有してもよく、上記他の成分を含有してもよい。
【0036】
本発明の組成物が結着材としてエポキシ樹脂と硬化剤とを含む場合、おだやかな条件でも、組成物中において、経時的にエポキシ樹脂の硬化反応が進む場合がある。したがって、この組成物の性状は経時的に変化し安定でない場合がある。しかし、例えば、上記組成物を-10℃以下の温度で保存することにより、硬化反応を生じずに又は十分に抑制して各成分が安定に維持された状態の組成物とすることができる。
また、エポキシ樹脂と金属粒子とを含む樹脂組成物を主剤とし、この主剤と硬化剤とを別々により分けた音響整合層用材料セットの形態とすることも好ましい。音響整合層材の調製に当たり、主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を調製し、この組成物を硬化反応させることにより、音響整合層材を調製することができる。
結着材を構成するエポキシ樹脂と硬化剤の質量比は、用いる硬化剤の種類等に応じて適宜に調整すればよい。例えば、エポキシ樹脂/硬化剤=99/1~20/80とすることができ、90/10~40/60が好ましい。
また、上記の音響整合層用材料セットを用いて、層材調製時に主剤と硬化剤とを混合して本発明の組成物を使用する場合においては、エポキシ樹脂と硬化剤との質量比がエポキシ樹脂/硬化剤=99/1~20/80となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることが好ましく、90/10~40/60となるように主剤と硬化剤とを混合して用いる形態とすることがより好ましい。
【0037】
<音響整合層材用組成物の調製>
本発明の音響整合層材用組成物は、例えば、音響整合層材用組成物を構成する成分を混合することにより得ることができる。この混合方法は各成分を実質的に均一混合できれば特に制限されないが、例えば、自転公転撹拌機を用いて混練りすることにより、均一混合ができ、好ましい。
なお、自転公転撹拌機とは、材料を入れた容器を傾け、高速で自転と公転(太陽の周りを惑星が回るような動き、惑星運動、遊星運動)をさせることで発生した遠心力による材料対流とせん断応力で混合する機械である。
【0038】
また、エポキシ樹脂と金属粒子とセラミックス粒子とを含む樹脂組成物からなる主剤と、このエポキシ樹脂の硬化剤とを含む音響整合層用材料セットとする場合には、エポキシ樹脂と金属粒子とセラミックス粒子とを混合することにより主剤を得ることができる。音響整合層材の作製時に、この主剤と硬化剤とを混合することにより本発明の音響整合層材用組成物を得る。この組成物を成形しながら硬化することにより、音響整合層材又はその前駆体を調製することができる。
【0039】
[音響整合シート(音響整合層)]
本発明の層材は、これを必要により所望の厚さ又は形状へと切削、ダイシング等することにより、音響整合シートを得ることができる。また、この音響整合シートを常法によりさらに所望の形状へと加工することもできる。
具体的には、例えば、本発明の組成物を、硬化反応を生じない低温域、あるいは硬化速度が十分に遅い低温域で所望のシート状に成形する。次いで、必要により加熱等することにより成形物に架橋構造を形成させて硬化し、これを必要により所望の厚さ又は形状へと切削、ダイシング等することにより、音響整合シート又はその前駆体シートとする。つまり、形成される音響整合シートは、好ましくは、本発明の組成物を硬化して三次元網状構造を形成させた硬化物である。この音響整合シートは音響波プローブの音響整合層として用いられる。音響整合層を含む音響波プローブの構成については後述する。
【0040】
[音響波プローブ]
本発明の音響波プローブは、本発明の音響整合シートを音響整合層の少なくとも1層として有する。
本発明の音響波プローブの構成について、その一例を図1に示す。図1に示す音響波プローブは、超音波診断装置における超音波プローブである。なお、超音波プローブとは、音響波プローブにおける音響波として、特に超音波を使用するプローブである。そのため、超音波プローブの基本的な構造は音響波プローブにそのまま適用することができる。
【0041】
<超音波プローブ>
超音波プローブ10は、超音波診断装置の主要構成部品であって、超音波を発生するとともに、超音波ビームを送受信する機能を有するものである。超音波プローブ10の構成は、図1に示すように、先端(被検対象である生体に接する面)部分から音響レンズ1、音響整合層2、圧電素子層3、バッキング材4の順に設けられている。なお、近年、高次高調波を受信することを目的に、送信用超音波振動子(圧電素子)と、受信用超音波振動子(圧電素子)を異なる材料で構成し、積層構造としたものも提案されている。
【0042】
(圧電素子層)
圧電素子層3は、超音波を発生する部分であって、圧電素子の両側に電極が貼り付けられており、電圧を加えると圧電素子が伸縮と膨張を繰り返し振動することにより、超音波が発生する。
【0043】
圧電素子を構成する材料としては、水晶、LiNbO、LiTaOおよびKNbOなどの単結晶、ZnOおよびAlNなどの薄膜ならびにPb(Zr,Ti)O系などの焼結体を分極処理した、いわゆるセラミックスの無機圧電体が広く利用されている。一般的には、変換効率のよいPZT:チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電セラミックスが使用されている。
また、高周波側の受信波を検知する圧電素子には、より広い帯域幅の感度が必要である。このため、高周波、広帯域に適した圧電素子として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの有機系高分子物質を利用した有機圧電体が使用されている。
さらに、特開2011-071842号公報等には、優れた短パルス特性および広帯域特性を示し、量産性に優れ、特性ばらつきの少ないアレイ構造が得られる、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したcMUTが記載されている。
本発明においては、いずれの圧電素子材料も好ましく用いることができる。
【0044】
(バッキング材)
バッキング材4は、圧電素子層3の背面に設けられており、余分な振動を抑制することにより超音波のパルス幅を短くし、超音波診断画像における距離分解能の向上に寄与する。
【0045】
(音響整合層)
音響整合層2は、圧電素子層3と被検対象間での音響インピーダンスの差を小さくし、超音波を効率よく送受信するために設けられる。
【0046】
(音響レンズ)
音響レンズ1は、屈折を利用して超音波をスライス方向に集束し、分解能を向上させるために設けられる。また、被検対象である生体と密着し、超音波を生体の音響インピーダンス(人体では、1.4~1.7Mrayl)と整合させること、および、音響レンズ1自体の超音波減衰量が小さいことが求められている。
すなわち、音響レンズ1の材料としては、音速が人体の音速よりも十分小さく、超音波の減衰が少なく、また、音響インピーダンスが人体の皮膚の値に近い材料を使用することで、超音波の送受信感度が高められる。
【0047】
このような構成の超音波プローブ10の動作を説明する。圧電素子の両側に設けられた電極に電圧を印加して圧電素子層3を共振させ、超音波信号を音響レンズから被検対象に送信する。受信時には、被検対象からの反射信号(エコー信号)によって圧電素子層3を振動させ、この振動を電気的に変換して信号とし、画像を得る。
【0048】
[音響波プローブの製造]
本発明の音響波プローブは、本発明の音響整合シートを用いること以外は、常法により作製することができる。すなわち、本発明の音響波プローブの製造方法は、圧電素子上に、本発明の音響整合シートを用いて音響整合層を形成する工程を含む。圧電素子はバッキング材上に常法により設けることができる。
また、音響整合層上には、音響レンズの形成材料を用いて常法により音響レンズが形成される。
【0049】
[音響波測定装置]
本発明の音響波測定装置は、本発明の音響波プローブを有する。音響波測定装置は、音響波プローブで受信した信号の信号強度を表示したり、この信号を画像化したりする機能を備える。
本発明の音響波測定装置は、超音波プローブを用いた超音波測定装置であることも好ましい。
【実施例
【0050】
以下に本発明を、音響波として超音波を用いた実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は超音波に限定されるものではなく、被検対象及び測定条件等に応じて適切な周波数を選択してさえいれば、可聴周波数の音響波を用いてもよい。以下、室温とは25℃を意味する。
【0051】
[合成例]
<1>音響整合層材用組成物の調製
(1)実施例1で用いる音響整合層材用組成物の調製
金属粒子(鉄粉(Fe)(EW-I(粒径:2μm)(商品名、BASF社製))90質量部と、セラミックス粒子(合成コージェライト微粒品 SS-400(粒径:4.5μm)(商品名、丸ス釉薬合資社製))5質量部と、エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER825」(商品名)、エポキシ当量170))4質量部と、硬化剤(D-1)イソホロンジアミン(富士フイルム和光純薬製)1質量部とを、自転公転装置(商品名:ARV-310、シンキー社製)により混合して、実施例1で用いる音響整合層材用組成物を調製した。
【0052】
(2)実施例2~33及び比較例1~10で用いる音響整合層材用組成物の調製
下記表1に記載の組成に変えたこと以外は、実施例1で用いる音響整合層材用組成物の調製と同様にして、実施例2~33及び比較例1~10で用いる音響整合層材用組成物を調製した。
【0053】
(3)比較例11で用いる音響整合層材用組成物の調製
下記表1に記載された組成の原料を、ニーダー(商品名:TDR100-3、トーシン社製)を用いて30℃、20rpmの条件で混合しようとしたところブレードが回転しなくなってしまい混合できなかった。
【0054】
(4)比較例12で用いる音響整合層材用組成物の調製
下記表1に記載された組成で原料を、加圧ニーダー(商品名:TD0.3-3、トーシン社製)を用いて30℃、20rpmの条件で混合しようとしたところ、ブレードが回転しなくなってしまい混合できなかった。
【0055】
(5)比較例13で用いる音響整合層材用組成物の調製
下記表1に記載された組成で原料を、バンバリーミキサー(商品名:BR600、東洋精機社製)を用いて30℃、20rpmの条件で混合しようとしたところ、ブレードが回転しなくなってしまい混合できなかった。
【0056】
(6)比較例14で用いる音響整合層材用組成物の調製
下記表1に記載された組成で原料を、3本ロール(商品名:BR-100VIII、アイメックス社製)を用いて83rpmの条件で混合して、比較例14で用いる音響整合層材用組成物を調製した。
【0057】
<2>音響整合層材(音響整合シート)の作製
(1)実施例1の音響整合シートの作製
直径40mm、深さ3mmの円形の型に、実施例1で用いる音響整合層材用組成物を流し込み、80℃で18時間、その後150℃で1時間硬化させることにより、直径40mm、厚さ3mmの円形の音響整合シートを作製した。このシートを、ダイサーで直径40mm、厚さ1mmの円形の音響整合シート3枚に切り分け、中央の1枚の音響整合シート(厚さ1mm)を下記測定に用いた。
【0058】
(2)実施例2~25、27~36、比較例1~10及び14の音響整合シートの作製
実施例1で用いる音響整合層材用組成物に代えて、実施例2~25、27~36及び比較例1~10及び14で用いる音響整合層材用組成物を用いたこと以外は、実施例1で用いる音響整合シートと同様にして音響整合シート(厚さ1mm)を作製し、下記測定に用いた。
【0059】
(3)実施例26の音響整合シートの作製
直径40mm、深さ3mmの円形の型に、実施例33で用いる音響整合層材用組成物を流し込み、150℃で1時間硬化させることにより直径40mm、厚さ3mmの円形の音響整合シートを作製した。このシートを、ダイサーで直径40mm、厚さ1mmの円形の音響整合シート3枚に切り分け、中央の1枚の音響整合シート(厚さ1mm)を下記測定に用いた。
【0060】
[試験例1]音速の測定
超音波音速は、JIS Z2353(2003)に従い、シングアラウンド式音速測定装置(超音波工業株式会社製、商品名「UVM-2型」)を用いて25℃において測定した。上記で得た直径40mm、厚さ1mmの円形の音響整合シートについて、互いに重ならない直径1.5cmの3つの円形領域について、これら円形領域3カ所の内部全体(単チャンネルの小プローブサイズ)を測定対象とした。上記3つの円形領域の音速の算術平均値を算出し、下記評価基準に当てはめ評価した。A~Cが本試験の合格である。Dであると、音響整合層として機能させるにはシートを厚くする必要があり、音響波の減衰、プローブ設計の点で好ましくない。評価がBであると、高い音響インピーダンスとシートの薄膜化の両立をより高いレベルで実現でき、実用上、より好ましい。
-評価基準-
A:2000[m/sec]以上、2300[m/sec]未満
B:2300[m/sec]以上、2750[m/sec]未満
C:2750[m/sec]以上、3500[m/sec]未満
D:3500[m/sec]以上
【0061】
[試験例2]密度の測定及び音響インピーダンスの算出
上記で得た直径40mm、厚さ1mmの円形の音響整合シートについて、上記で音速を測定した3つの円形領域内の各々から10mm×10mmの試験片を切り出した。各切り出しサンプルの25℃における密度をJIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準拠して、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD-200L」)を用いて測定し、3つの円形領域の密度の算術平均値を得た。このようにして得た密度と上記音速の積(密度の算術平均値×音速の算術平均値)から音響インピーダンスを算出し、下記評価基準に当てはめ評価した。A及びBが本試験の合格である。
-評価基準-
A:22Mrayl以上
B:18Mrayl以上、22Mrayl未満
C:15Mrayl以上、18Mrayl未満
D:15Mrayl未満
【0062】
[試験例3]音響インピーダンス(AI)のばらつき
上記で得た直径40mm、厚さ3mmの円形の音響整合シートから切り分けた直径40mm、厚さ1mmの円形の音響整合シート3枚を用いた。各3枚のシート各々について、互いに重ならない直径1.5cmの3つの円形領域ごとに音響インピーダンスを算出した。各実施例及び比較例について、合計9か所の円形領域から得られた9つの音響インピーダンスの標準偏差を求め、下記評価基準に当てはめ音響特性のばらつきを評価した。A及びBが本試験の合格である。
<音速>
超音波音速は、JIS Z2353(2003)に従い、シングアラウンド式音速測定装置(超音波工業株式会社製、商品名「UVM-2型」)を用いて25℃において測定した。各シートについて、直径1.5cmの3つの円形領域の内部全体(単チャンネルの小プローブサイズ)を音速測定対象とした。
<密度>
上記の音速測定対象(直径1.5cmの円形)から、10mm×10mmの試験片を切り出した。25℃における試験片の密度を、JIS K7112(1999)に記載のA法(水中置換法)の密度測定方法に準じて、電子比重計(アルファミラージュ社製、商品名「SD-200L」)を用いて測定した。
-評価基準-
A:0.5Mrayl未満
B:0.5Mrayl以上、0.7Mrayl未満
C:0.7Mrayl以上
【0063】
【表1-1】
【0064】
【表1-2】
【0065】
<表の注>
「-」:該当する成分を含有しないこと等を意味する。
【0066】
[エポキシ樹脂]
(C-1)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER825」(商品名)、エポキシ当量170)
(C-2)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER828」(商品名)、エポキシ当量190)
(C-3)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER834」(商品名)、エポキシ当量230)
(C-4)ビスフェノールFジグリシジルエーテル(DIC社製「EPICLON830」(商品名)、エポキシ当量170)
(C-5)ビスフェノールAプロポキシレートジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ社製、エポキシ当量228)
(C-6)4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)(東京化成工業社製、エポキシ当量106)
(C-7)ポリ[(フェニルグリシジルエーテル)-co-ホルムアルデヒド](シグマアルドリッチ社製、エポキシ当量172)
【0067】
[硬化剤]
(D-1)イソホロンジアミン(富士フイルム和光純薬社製)
(D-2)トリエチレンテトラミン(東京化成工業社製)
(D-3)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ナカライテスク社製、商品名「ルベアックDMP-30」)
(D-4)ポリアミドアミン(DIC社製、商品名「ラッカマイドEA-330」)
(D-5)メンセンジアミン(アルドリッチ社製)
(D-6)m-フェニレンジアミン(富士フイルム和光純薬社製)
(D-7)ポリエーテルアミン T-403(商品名、BASF社製)
(D-8)2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業製)
(D-9)ヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化工業社製、商品名「リカシッドHH」)
【0068】
[触媒]
(E-1)2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ナカライテスク社製、商品名「ルベアック DMP-30」)
【0069】
[金属粒子]
Fe:EW-I(粒径:2μm、比重:7.9)(BASF社製)
Co:コバルト粉末 S-シリーズ(4μm、比重:8.9)(フリーポートコバルト社製)
Zr:RC-100酸化ジルコニウム(粒径:1~4μm、比重:5.7)(第一稀元素化学工業社製)
Mo:モリブデン粉 Mo-6(粒径:6μm、比重:10.3)(商品名、日本新金属社製)
WC:均粒タングステンカーバイド粉(粒径:9μm、比重:15.6)(アライドマテリアル社製)
W:均粒タングステン粉(粒径:5μm、比重:19.3)(アライドマテリアル社製)
【0070】
[セラミック粒子]
コージェライト:合成コージェライト微粒品 SS-400(粒径:4.5μm)(商品名、丸ス釉薬合資社製)
スピネル:TATEMIC SN-1形状(粒径:3μm)(商品名、タテホ化学社製)
ウォラストナイト:KGP-H40(粒径:4μm)(商品名、丸東社製)
C:ボロンカーバイド粉末 F1000(粒径:1~10μm)(商品名、ESK SERAMICS社製)
SiC:SiCパウダー β―SiC1200(粒径:6μm)(商品名、スーペリアル・グラファイト社製)
Al:DAM-03(粒径:8μm)(商品名、デンカ社製)
AlN:窒化アルミニウム FAN-f05-A1(粒径:4μm)(商品名、松尾産業社製)
MgO:SMO-5(粒径:5μm)(堺化学工業社製)
Si:UBE窒化珪素 高純度品 SN-XLF(粒径:2μm)(商品名、宇部興産社製)
BN:デンカボロンナイトライド粉 HGP(粒径:5μm)(商品名、宇部興産社製)
:標準品 3N(粒径:4μm)(商品名、日本イットリウム社製)
【0071】
表1から明らかなように、本発明の音響整合シートは、適度な音速を示し音響整合層の薄膜化の実現と音響インピーダンスの向上を両立することができ、また、層内の音響波特性のばらつきが少ないことが分かる。
【符号の説明】
【0072】
1 音響レンズ
2 音響整合層
3 圧電素子層
4 バッキング材
7 筐体
9 コード
10 超音波探触子(プローブ)
図1