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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】生体圧迫櫛歯状クリップ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/122 20060101AFI20221021BHJP
   A61B 34/20 20160101ALI20221021BHJP
【FI】
A61B17/122
A61B34/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021215081
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-01-04
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】319016932
【氏名又は名称】ニレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】隅田 哲雄
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-069802(JP,A)
【文献】米国特許第09220507(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0226206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/122
A61B 34/20
A61B 90/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を挟持する金属製のアーム部を有するクリップ本体を備えたクリップであって、アーム部は先端部にクリップ本体の内向きに起立した爪部を有し、爪部の先端部から爪部を超えてアーム部の後端部側に伸びて生体組織を挟持する先端部側領域が複数本の櫛歯が並列した櫛歯状であり、櫛歯間スペースはアーム部の先端部で閉じておらず、アーム部の先端部側領域に該アーム部の先端部から該アーム部の長手方向に突出した圧迫片を有し、圧迫片は弾性を有する可撓性樹脂で形成されると共に蛍光色素を保持し、アーム部が生体組織を挟持している状態で圧迫片が屈曲し、該屈曲を戻そうとする弾性力で生体組織を圧迫する生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項2】
アーム部の先端部側領域において、圧迫片が櫛歯間スペースを埋めている請求項1記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項3】
圧迫片が、アーム部の背側に位置する背側部分と内側に位置する内側部分を有し、背側部分と内側部分が櫛歯間スペースで連続している請求項1又は2記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項4】
アーム部の櫛歯状部分において、櫛歯の歯数が2本又は3本である請求項1~3のいずれかに記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項5】
部は、クリップ本体が閉じた状態でクリップ本体の中心軸から離間するように設けられている請求項1~4のいずれかに記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項6】
圧迫片のショアA硬度(JIS K 6253)がA10~A90または、ショアD硬度(JIS K 6253)がD40~D70である請求項1~5のいずれかに記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項7】
圧迫片の曲げ弾性率(ASTM D790)が4~200MPaである請求項記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項8】
圧迫片の突出長が2~10mmである請求項1~のいずれかに記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【請求項9】
蛍光色素が、励起光の照射により赤色乃至近赤外光を発光する請求項1~のいずれかに記載の生体圧迫櫛歯状クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患部の位置を特定するマーカーとして有用なクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、止血クリップや外科手術時に患部の位置を特定するマーカー用クリップとして、内視鏡用クリップ装置に装着して用いる金属製のクリップが広く使用されている。例えば、ステンレス等の金属製の板バネをく字型に折り曲げ成形したものや、く字型に成形した金属製のクリップ本体と、クリップ本体に外嵌し、締着する締結具からなるものがある(特許文献1)。
【0003】
本発明者は、このようなクリップで管腔臓器の粘膜組織を挟持した後、そのクリップの位置を漿膜側から確認できるようにするため、クリップの締結具を、蛍光色素を含有した樹脂(以下、蛍光樹脂ともいう)で形成すること(特許文献2)や、クリップ本体それ自体を蛍光樹脂で形成すること(特許文献3)を提案している。これらのクリップで粘膜組織を挟持すると粘膜組織が圧迫され、粘膜下層の血管網の血液が排除されるので、クリップに漿膜側から励起光を照射し、蛍光色素を発光させると、発光した蛍光が血管網の血液で殆ど吸収されず、蛍光を漿膜側から観察できることにより、クリップの位置を明確に確認することが可能となる。
【0004】
蛍光色素を利用したクリップとしては、蛍光樹脂で形成した可動部材をヒンジで回動可能にクリップの先端に取り付けたものも提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6572229号公報
【文献】特許第6161096号公報
【文献】特許第6675674号公報
【文献】特開2021-69802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のクリップでは、蛍光樹脂で形成された締結具が、該締結具で粘膜組織を圧迫できるように特定の形状であることを要し、また、特許文献3に記載のクリップでは、蛍光樹脂で形成されたクリップ本体が、クリップの開閉機能を担えるように特定の形状であることを要する。そのため、これらのクリップでは、従来の金属製のクリップに対して製造方法を大きく変えることが必要とされる。また、特許文献3に記載のクリップは、金属製の従来のクリップに比して生体組織を挟持する力が弱いという問題もある。
【0007】
特許文献4に記載のクリップでは、粘膜組織を挟持した場合に蛍光樹脂で形成した可動部材がヒンジで回動することにより粘膜に当接した位置をとるだけであり、可動部材で粘膜組織を圧迫し、血管網の血液を排除することができないため、可動部材が発した蛍光は漿膜側で観察されにくい。
【0008】
これに対し、本発明は、内視鏡用クリップ装置に装着して使用されるクリップを金属製のクリップ本体と蛍光樹脂で形成された部材とから形成するにあたり、蛍光樹脂で形成された部材をクリップ本体に容易に固定できるようにすると共に、観察される蛍光強度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、生体組織を挟持する金属製のクリップ本体のアーム部の先端部に、可撓性の蛍光樹脂で形成された圧迫片をアームの長手方向に突出するように取り付けると、クリップで生体組織を挟持した状態では圧迫片の突出部分で生体組織を圧迫できるので、観察される蛍光強度が向上すること、また、圧迫片を取り付けるアーム部の先端部側領域を櫛歯状にすると圧迫片のアーム部への固定が容易になること、さらに櫛歯間スペースを圧迫片で埋めると観察方向の圧迫片の樹脂厚が増すため、観察される蛍光強度が格段に向上することを想到し、本発明を想到した。
【0010】
即ち、本発明は、生体組織を挟持する金属製のアーム部を有するクリップ本体を備えたクリップであって、アーム部の先端部側領域が櫛歯状であり、アーム部の先端部側領域に該アーム部の先端部から該アーム部の長手方向に突出した圧迫片を有し、圧迫片は可撓性樹脂で形成されると共に蛍光色素を保持し、アーム部が生体組織を挟持している状態で圧迫片が生体組織を圧迫する生体圧迫櫛歯状クリップを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生体圧迫櫛歯状クリップによれば蛍光色素を保持した圧迫片が、アーム部の先端部側領域に設けられており、この圧迫片はアーム部の先端部から突出した部分を有し、可撓性を有するので、アーム部が生体組織を挟持している状態では、圧迫片の突出部分が屈曲し、その屈曲した部分が生体組織を該生体組織の厚み方向に圧迫する。特に、圧迫片が弾性を有する場合には、屈曲を戻そうとする弾性力によって圧迫片が生体組織を圧迫する。したがって、例えば、アーム部が管腔臓器の粘膜組織を挟持すると圧迫片の突出部分が屈曲して粘膜を圧迫し、粘膜の厚みが薄くなる。よって、圧迫片に励起光を照射し、圧迫片に保持された蛍光色素に蛍光を発光させると、その蛍光の発光を漿膜側から良好に確認することが可能となる。
【0012】
即ち、粘膜組織が圧迫されると粘膜下層の動脈及び静脈の血管網の血管が虚脱し、血管から血液が排除され、それによりヘモグロビンも排除される。したがって、蛍光色素として、励起光の照射により赤色乃至近赤外光を発光するものを使用すると、励起光がヘモグロビンでほとんど吸収されることなく、圧迫片の蛍光色素に吸収され、蛍光色素が発光した蛍光もヘモグロビンでほとんど吸収されることなく漿膜側に出射する。よって、管腔臓器の粘膜に取り付けられた生体圧迫櫛歯状クリップの圧迫片の発光を、管腔臓器の外側から良好に観察することが可能となる。
【0013】
また、本発明の生体圧迫櫛歯状クリップでは、圧迫片が設けられているアーム部の先端部側領域が櫛歯状であるため、圧迫片をインサート成形や接着等により容易にアーム部に固定することができる。
【0014】
さらに、アーム部の先端部側領域において、櫛歯間スペースを圧迫片で埋めることができ、クリップの内側(挟持面側)にも圧迫片を形成する蛍光樹脂を配置することができるので、観察方向から見た圧迫片の樹脂厚が厚くなり、観察される蛍光強度が格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの開いている状態の斜視図である。
図2A図2Aは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの閉じている状態の斜視図である。
図2B図2Bは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの閉じている状態の側面図である。
図2C図2Cは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの閉じている状態の上面図である。
図3図3は、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップで使用するクリップ本体の開いている状態の斜視図である。
図4A図4Aは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップで使用するクリップ本体が締結具により閉じた状態の上面図である。
図4B図4Bは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップで使用するクリップ本体が締結具により閉じた状態のA方向前面図である。
図4C図4Cは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップで使用するクリップ本体が締結具により閉じた状態のB方向側面図である。
図5A図5Aは、内視鏡装置を用いた実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの使用方法の説明図である。
図5B図5Bは、内視鏡装置を用いた実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの使用方法の説明図である。
図5C図5Cは、内視鏡装置を用いた実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの使用方法の説明図である。
図5D図5Dは、内視鏡装置を用いた実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの使用方法の説明図である。
図6A図6Aは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの粘膜に対する作用を説明する断面図である。
図6B図6Bは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの粘膜に対する作用を説明する断面図である。
図6C図6Cは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの粘膜に対する作用を説明する断面図である。
図6D図6Dは、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップの粘膜に対する作用を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0017】
<生体圧迫櫛歯状クリップの全体構成>
図1は、本発明の一実施例の生体圧迫櫛歯状クリップ100の開いている状態の斜視図であり、図2Aは、生体圧迫櫛歯状クリップ100が閉じている状態の斜視図である。また、図3は、実施例の生体圧迫櫛歯状クリップ100で使用するクリップ本体1の開いている状態の斜視図である。
【0018】
この生体圧迫櫛歯状クリップ100は、金属製のクリップ本体1と、クリップ本体1のアーム部3a、3bの先端部側領域に設けられる圧迫片20と、締結具(カシメリング)2を備えている。図面上わかりやすいように、圧迫片20にはドットの塗りつぶしが付され、締結具は半透明に描かれている。
以下、本発明の生体圧迫櫛歯状クリップ100をクリップ100と略する。
【0019】
<クリップ本体>
本実施例のクリップ100は、内視鏡用クリップ装置(アプライヤ)に装着されて生体組織のクリップに使用されるもので、クリップ本体1は、1枚の帯状の金属板を湾曲させることで得られる一対のアーム部3a、3bで形成されている。アーム部3a、3bは板バネとして作用する。
【0020】
アーム部3a、3bの一方の端部(後端部)は細幅で、他方の端部(前端部)は広幅に形成されている。細幅の後端部では一対のアーム部3a、3bが連続しており、U字型に湾曲している。この連続部分4に、アプライヤの操作ワイヤーが係止される。
【0021】
本発明において、クリップ本体1は1枚の帯状の金属板をU字型に湾曲させて得られるものに限られず、例えば、特許第6572229号公報(特許文献1)の図3に記載されているように、帯状の1枚の金属板の中央部を屈曲させることによりV字型に成形した板バネを使用してもよい。特許6694893号の図7に記載のように、後端部をL字型に屈曲させた2枚の板バネからクリップ本体を形成してもよく、その場合に2枚の板バネの後端部近傍には、それらを繋ぐ補強部材を設けてもよい。また、特許4145149号公報に記載のように一対のアーム部が交差するようにクリップ本体1を構成してもよい。
【0022】
一対のアーム部3a、3bは、クリップが開いた状態でそれぞれ背側に湾曲することにより、それらの先端部側領域5同士の距離が大きく広がっている。
【0023】
(櫛歯状の先端部側領域)
本発明では、アーム部3a、3bの先端部側領域5が、複数本の櫛歯6が並列する櫛歯状になっていることが主要な構成となっており、本実施例では一対のアーム部3a、3bの先端部側領域5のそれぞれにおいて2本の櫛歯6が並列している。ここで、アーム部3a、3bの先端部側領域5とは、アーム部3a、3bの先端部から後端部側に伸びた領域であって、生体組織を挟持する部分である。なお、本発明では先端部側領域の少なくとも一部が櫛歯状であればよく、また、櫛歯状部分は先端部側領域より後端部側に延設されていてもよい。アーム部3a、3bの先端部側領域5を櫛歯状とすることにより、アーム部の先端部側領域5に圧迫片20を固定することが容易となる。また、櫛歯間スペース7を、圧迫片20を形成する蛍光樹脂で埋めることができ、さらにアーム部3a、3bの先端部側領域5の内側部分に蛍光樹脂を配置することも容易になるので、後述するように、粘膜に本発明のクリップを取り付け、漿膜側から観察するときの観察方向の圧迫片の樹脂厚が増し、蛍光強度を格段に向上させることができる(図6D)。
【0024】
これに対し、アーム部3a、3bの先端部側領域5において櫛歯間スペース7がアーム部の先端部で閉じて穴部となり、アーム部3a、3bが櫛歯状になっていない場合には、圧迫片を形成する蛍光樹脂で穴部を埋めても、その穴部の蛍光樹脂から観察方向に出射された蛍光がアーム部の先端部で遮られてしまう。また、圧迫片を形成する蛍光樹脂をアーム部3a、3bの内側に配置することも難しくなる。
【0025】
各アーム部3a、3bの先端部側領域5における櫛歯6の歯数は2本以上とし、2~3本とすることが好ましい。
【0026】
各アーム部3a、3bにおいて、櫛歯6の形成領域よりも連続部分4側には、圧迫片20のアーム部3a、3bへの固定を確実にするため、必要に応じて穴部8が設けられ、この穴部8に圧迫片20の凸部を突出させる。穴部8の数は、1個に限定されるものではない。
【0027】
なお、本実施例においてアーム部3a、3bの側辺9は平坦に形成されているが、必要に応じて側辺9をL字型にクリップの内側へ屈曲させることで起立させてもよい。これによりアーム部3a、3bの剛性を高めることができる。
【0028】
(爪部)
クリップ本体1は櫛歯6の先端部にクリップ本体1の内向きに起立した爪部10を有する(図4C)。爪部10は生体組織に直接的に食い込み、生体組織を挟持する部分である。本実施例では、生体組織への爪部10の食い込みを良好にするため、爪部10を三角形状にしている。
【0029】
なお、本発明において、爪部10は三角形状に限られず、矩形でもよい。三角形状を連続させた三角波形状としてもよく、矩形波形状でもよい。
【0030】
爪部10は、クリップ本体1が閉じた状態でクリップ本体1の中心軸Xから離間するように設けられている(図4B)。ここで、クリップ本体1の中心軸Xとは、クリップ本体1の上面図においてクリップ本体の幅W1を二等分し(図4A)、かつクリップ本体1の側面図において一対のアーム部3a、3bと等距離にある軸である(図4C)。
これにより、クリップ100で粘膜組織を挟持して励起光を照射し、漿膜側から観察した場合に、圧迫片20の内側部分23から出射する蛍光が爪部10で遮られることを抑制でき、観察できる蛍光強度を向上させることができる。
【0031】
また、本実施例では一対のアーム部3a、3bの爪部10がクリップ本体1を閉じた状態で図4Cに示すように前後方向にずれて重なり合う。これにより、爪部10を生体組織への食い込みに十分な長さとしつつ、爪部10をクリップ本体1の中心軸Xから離間させて設けることができる。なお、必要に応じて、一対のアーム部3a、3bの爪部10の先端同士が当接するようにしてもよい。
【0032】
<締結具>
締結具2は、クリップ本体1の連続部分4側に位置することでクリップ本体1を開いた状態とし(図3)、爪部10側に位置することでクリップ本体1を閉じた状態とするもので(図4C)、カシメリングとも言われる。本実施例の締結具2は、金属製の筒状部材で形成されている。締結具2として、線材をコイル状に巻き回した物、長手方向に垂直な断面がC字型のもの等を用いても良い。
【0033】
<圧迫片>
圧迫片20は、クリップ本体1のアーム部3a、3bの先端部側領域5に設けられる。圧迫片20は可撓性樹脂で形成される。また、圧迫片20は蛍光色素を保持している。
【0034】
圧迫片20も本発明の主要な構成である。圧迫片20は、アーム部3a、3bの先端部から該アーム部3a、3bの長手方向に突出している。
【0035】
圧迫片20は可撓性樹脂で形成されると共に蛍光色素を保持する。このような圧迫片20は、例えば、蛍光色素を含有する可撓性樹脂で形成することができる。あるいは、可撓性樹脂で形成した圧迫片の表面に蛍光色素を含有する塗布膜を形成してもよい。
圧迫片20は可撓性樹脂で形成されていることにより、アーム部3a、3bの先端部から突出している圧迫片20の突出部分21は図2Bに破線で示すように屈曲する。このため、後述するように、クリップ本体1のアーム部3a、3bが生体組織を挟持している状態では、圧迫片20の突出部分21が屈曲し、その屈曲した部分が生体組織を該生体組織の厚み方向(生体組織を挟持している状態でのアーム部3a、3bの長手方向)に圧迫する(図6D)。圧迫片20は、好ましくは弾性を有し、圧迫片20の屈曲を戻そうとする弾性力によって生体組織はその厚み方向に強く圧迫される。よって、粘膜下層の血管網の血液が排除され、圧迫片20に漿膜側から励起光を照射し、圧迫片に保持されている蛍光色素に蛍光を発光させると、その蛍光を漿膜側から良好に確認することが可能となる。
【0036】
(圧迫片の形状)
本実施例の圧迫片20は、概略短冊状の形状を有しているが、アーム部3a、3bの先端部から突出した突出部分21と、アーム部3a、3bの背側に位置する背側部分22と内側に位置する内側部分23とを有し、アーム部3a、3bの先端部側領域5の背側部分22と内側部分23とが櫛歯間スペース7で連続している。
【0037】
突出部分21の厚さD1は、クリップ100を閉じた状態で一対のアーム部3a、3bに取り付けられた圧迫片20同士が当接するように定められている。
【0038】
また、圧迫片20はアーム部3a、3bの穴部8を充填して該穴部8から突出した補強部分24も有する。したがって、圧迫片20では、アーム部3a、3bの先端部側領域5に強固に取り付けられたものとなっている。
【0039】
このような形状の圧迫片は、アーム部3a、3bの先端部側領域5をインサート品とするインサート成形により容易に形成することができる。
【0040】
なお、本発明では必要に応じて、アーム部3a、3bと別個に形成した圧迫片20をアーム部3a、3bの先端部側領域の背側又は内側から櫛歯間スペース7を埋めるように接着してもよい。その場合にも、必要に応じてアーム部の穴部8を埋め込む凸部を形成することができる。
【0041】
また、本発明においては、クリップ100が生体組織を挟持した場合の、屈曲した圧迫片20による生体組織への圧迫力を調整するため、必要に応じて、アーム部の先端部近傍の圧迫片20にアーム部の幅方向(短手方向)にくびれや切れ込み等を設けても良い。
【0042】
圧迫片20のアーム部3a、3bの先端部からの突出長L1(図2B)は、長すぎるとクリップ本体で生体組織を挟持しにくくなることから、2~10mmとすることが好ましい。圧迫片20の全長L2は、短すぎると圧迫片20のアーム部3a、3bに対する取り付け強度が不足し、長すぎると内視鏡用クリップ装置でクリップ100を使用しにくくなることから5~13mmとすることが好ましい。
【0043】
圧迫片20の突出部分21の上面視の幅W2(図2C)は、短すぎると圧迫片20による圧迫力を得にくく、長すぎるとクリップ100を内視鏡用クリップ装置に装着しにくくなることから、クリップ本体1の幅W1よりも0.4~1.0mm大きく、又は圧迫片20の突出部分の上面視の幅W2を1.4~2.6mmとすることが好ましい。
【0044】
(圧迫片を形成する可撓性樹脂)
圧迫片20を形成する可撓性樹脂としては、消化管内に長期に留置しても変性することなく、胃酸に耐える耐酸性を有しているものが好ましい。このような可撓性樹脂としては、軟質ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン、シリコーン、エチレン酢酸ビニル共重合体等の医療器具に用いられる樹脂を挙げることができる。
【0045】
また、圧迫片20を形成する可撓性樹脂は、クリップ本体1のアーム部3a、3bが生体組織を挟持している状態で、屈曲した圧迫片20の突出部分21が生体組織を効果的に圧迫できるように適度な硬さと弾性を有していることが好ましい。
【0046】
圧迫片20の硬さとしては、デュロメータで計測したショアA(JIS K 6253)としてA10~A90、または、ショアD(JIS K 6253)としてD40~D70の範囲が好ましい。また、圧迫片20の硬さは、圧迫片20の形状、大きさ等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0047】
圧迫片20の弾性としては、曲げ弾性率(ASTM D790)が4~200MPaであることが好ましく、10~100MPaがより好ましい。
【0048】
(蛍光色素)
圧迫片20に保持させる蛍光色素としては、600~1400nmの赤色光乃至近赤外光の波長域、好ましくは700~1100nmの赤色光又は近赤外光の波長域で蛍光を発するものが好ましい。この波長域の光は、皮膚、脂肪、筋肉等の人体組織に対して透過性が高く、例えば、直腸等の管状の人体組織の粘膜から漿膜面まで良好に到達することができる。
【0049】
上述の波長域の蛍光を発する蛍光色素としては、リボフラビン、チアミン、NADH(nicotinamide adenine dinucleotide)、インドシアニングリーン(ICG)、特開2011-162445号公報に記載のアゾ-ホウ素錯体化合物、WO2016/132596号公報に記載の縮合環構造を有する色素、特許5177427号公報に記載のボロンジピロメテン骨格を有する色素、特開2020-74905号公報に記載のシリカ粒子と化学結合する色素、特開2020-105170号公報に記載のフタロシアニン系色素等をあげることができる。
【0050】
圧迫片20に蛍光色素を保持させる具体的な態様としては、圧迫片20を形成する可撓性樹脂に蛍光色素を含有させたり、可撓性樹脂で形成した圧迫片の表面に蛍光色素を含有する塗布膜を形成したりすることができる。アーム部の先端部側領域を櫛歯状とし、櫛歯間スペースやアーム部の内側にも圧迫片を存在させることにより、クリップ100で生体組織を挟持した場合に観察される蛍光強度を向上させるという本発明の効果がより発揮されるようにするには、圧迫片を形成する可撓性樹脂に蛍光色素を含有させることが好ましい。
【0051】
圧迫片20を形成する可撓性樹脂に蛍光色素を含有させる場合、蛍光色素の好ましい濃度は当該蛍光色素や樹脂の種類等に応じて設定することができ、通常、0.001~1質量%とすることが好ましい。
【0052】
可撓性樹脂に蛍光色素を含有させる方法としては、例えば、二軸混練機を使用して可撓性樹脂に蛍光色素を混練すればよい。
【0053】
可撓性樹脂には、必要に応じて硫酸バリウム等の造影剤を添加してもよい。これにより、生体内で粘膜を挟持していたクリップ100が粘膜から外れても、生体内のクリップ100を、X線を用いて撮影することにより追跡することが可能となる。
【0054】
(圧迫片の形成方法)
圧迫片20の形成方法としては、例えば、クリップ本体1とインサート成形することによりクリップ本体1に固着した圧迫片20を得ることが好ましい。あるいは、蛍光色素を混練りした可撓性樹脂を、押出成形または射出成形にて所定形状に成形し、定尺カット、角取り、くぼみ形成等の加工を施すことで得ることができる。得られた圧迫片は接着剤によってクリップ本体1に接着すればよい。
【0055】
<生体圧迫櫛歯状クリップの使用方法>
生体圧迫櫛歯状クリップ100の使用方法としては、まず、図5Aに示すように、圧迫片20を有するクリップ本体1と締結具2とを備えたクリップ100を、内視鏡用アプライヤのクリップ用シース30に取り付ける。クリップ用シース30としては、例えば、特許4388324号公報、特許5045484号公報等に記載されているインナーシース33とアウターシース34と操作ワイヤー31を有するものを使用することができ、市販のものを使用することができる。クリップ100のクリップ用シース30への取り付け方法としては、例えば、図5Aに示すように操作ワイヤー31の連結部32をクリップ本体1の後端部(連続部分4)に掛合させればよい。また、クリップ本体1を、V字型、U字型等に屈曲させた板バネから形成する場合には、特許第5781347号公報等に記載されているようにフックを用いても良い。
【0056】
アプライヤの操作によりクリップ100をアウターシース34内に引込むと、図5Bに示すようにクリップ本体1が閉じ、クリップ本体1をアウターシース34から突出させると、図5Cに示すようにクリップ本体1の挟持面12側が開く。また、図5Cに示すようにインナーシース33を締結具2に当接させて操作ワイヤー31を引き込むことにより締結具2を先端部側に摺動させると次第にクリップ本体1が閉じ、ついには図5Dに示すように開いていたクリップ本体1が完全に閉じる。
【0057】
このようなクリップ100の開閉機構を使用し、クリップ100で管腔臓器の粘膜の患部を挟持する場合を説明すると、クリップ本体1を操作ワイヤー31に取り付け、クリップ100をアウターシース34内に引き込み、クリップ本体1が閉じた状態でクリップ用シース30を管腔臓器の内部に挿入する。アプライヤを操作してアウターシース34からクリップ100を突出させ、患部41近傍でクリップ本体1のアーム部3a、3bの先端部側を開く(図6A)。次に、クリップ100を粘膜40に接触させ、締結具2を先端部側に移動させる。この移動量に応じてクリップ本体1が閉じ、圧迫片20の突出部分21が屈曲していく(図6B図6C)。クリップ本体1が完全に閉じると挟持面12で患部41近傍の粘膜40が挟持される(図6D)。このとき、圧迫片20の突出部分21は図6Dに示したように屈曲しており、圧迫片20が粘膜40を、該粘膜40の厚みが薄くなる方向に圧迫する。特に、圧迫片20が弾性を有すると圧迫片20の屈曲を戻す方向の弾性力が粘膜40の厚さを薄くする方向に作用する。したがって、粘膜下層の血管網42が虚脱し、血管から血液が排除され、ヘモグロビンも排除される。
【0058】
よって、管腔臓器の外側(漿膜側)に赤色乃至近赤外の波長域の励起光を照射すると、その励起光は、圧迫片20を形成する可撓性樹脂に含まれる蛍光色素に、ヘモグロビンで殆ど吸収阻害されることなく吸収され、蛍光色素が赤色乃至近赤外の波長域の蛍光を発する。この蛍光もヘモグロビンで殆ど吸収阻害されることなく管腔臓器の外側に出射する。したがって、この蛍光を管腔臓器の外側から良好に観察することができ、管腔臓器の内部に挟持させたクリップ100の位置がわかり、患部41の位置を特定することができる。
【0059】
この場合、図6Dに示すように本実施例のクリップ100の観察方向の圧迫片20の平均厚さには、圧迫片20の突出部分21だけでなく、圧迫片の背側部分22、内側部分23、及び櫛歯間スペース7を埋めている櫛歯間部分25も寄与する。したがって、本実施例のクリップ100によれば、アーム部3a、3bの先端部側領域を櫛歯状にすることなくアーム部の先端部側領域に短冊状の圧迫片を接着した場合に比して管腔臓器の外側から観察される蛍光強度を格段に強くすることができる。
【0060】
管腔臓器の漿膜側に励起光を照射する方法としては、開胸又は開腹により管腔臓器の漿膜を露出させ、そこに励起光を照射してもよく、また、ラパロスコープ(手術用内視鏡)を胸壁又は腹壁に開けた孔より挿入し、管腔臓器の漿膜面あるいは腹膜面を観察しながら、赤色乃至近赤外の波長域の励起光を管腔臓器の漿膜面あるいは腹膜面に照射してもよい。
【0061】
なお、管腔臓器の外側から観察する蛍光が可視光でない場合には、公知の赤外可視変換ガラスを通して観察することにより、あるいは、管腔臓器を外側から撮影し、画像処理で蛍光を可視化することにより、容易に発光部位を特定することができる。
【0062】
本発明のクリップ100は、食道、胃、大腸等の消化管粘膜、気管粘膜、膀胱粘膜、子宮粘膜等に取り付け可能であり、これらの管腔臓器の疾患部位を確実にマークすることが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 クリップ本体
2 締結具(カシメリング)
3a、3b アーム部
4 連続部分
5 アーム部の先端部側領域
6 櫛歯
7 櫛歯間スペース
8 穴部
9 アーム部の側辺
10 爪部
12 挟持面
20 圧迫片
21 突出部分
22 背側部分
23 内側部分
24 補強部分
25 櫛歯間部分
30 クリップ用シース
31 操作ワイヤー
32 連結部
33 インナーシース
34 アウターシース
40 粘膜
41 患部
42 血管網
100 生体圧迫櫛歯状クリップ
D1 圧迫片の突出部分の厚さ
D2 圧迫片の背側部分の厚さ
L1 圧迫片の突出長
L2 圧迫片の全長
W1 クリップ本体の幅
W2 圧迫片の突出部分の幅
X 中心軸
【要約】
【課題】内視鏡用クリップ装置に装着して使用されるクリップを金属製のクリップ本体と蛍光樹脂で形成された部材とから形成するにあたり、蛍光樹脂で形成された部材をクリップ本体に容易に固定できるようにすると共に、観察される蛍光強度を向上させる。
【解決手段】生体圧迫櫛歯状クリップ100が、生体組織を挟持する金属製のアーム部3a、3bを有するクリップ本体1を備え、該クリップ100は、アーム部の先端部側領域5が櫛歯状であり、アーム部3a、3bの先端部側領域5に該アーム部3a、3bの先端部から該アーム部3a、3bの長手方向に突出した圧迫片20を有する。圧迫片20は可撓性樹脂で形成され、蛍光色素を保持する。生体圧迫櫛歯状クリップ100は、アーム部3a、3bが生体組織を挟持している状態で圧迫片20が血管網を圧迫し、虚脱させる。
【選択図】図1
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D