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特許7162292セルロースアセテート、セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、セルロースアセテートの製造方法、及びセルロースアセテート組成物の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】セルロースアセテート、セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、セルロースアセテートの製造方法、及びセルロースアセテート組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/06 20060101AFI20221021BHJP
   C08B 1/02 20060101ALI20221021BHJP
   D01F 2/28 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C08B3/06
C08B1/02
D01F2/28 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018111930
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019214658
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦木 康光
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
(72)【発明者】
【氏名】島本 周
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155054(WO,A1)
【文献】特開2013-044076(JP,A)
【文献】特開2013-043984(JP,A)
【文献】国際公開第2010/023707(WO,A1)
【文献】特開2013-049867(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038051(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 3/06
C08B 1/02
D01F 2/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、
窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で加熱したとき、100℃における重量に対する重量減少率が5%となる温度が200℃以上である、セルロースアセテート。
【請求項2】
前記重量減少率が5%となる温度が220℃以上である、請求項1に記載のセルロースアセテート。
【請求項3】
前記重量減少率が5%となる温度が250℃以上である、請求項1に記載のセルロースアセテート。
【請求項4】
結合硫酸量が20ppm以上500ppm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロースアセテート。
【請求項5】
平均置換度が2.0以上3.0以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のセルロースアセテート。
【請求項6】
粘度平均重合度が50以上2,500以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のセルロースアセテート。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のセルロースアセテートからなるセルロースアセテート繊維。
【請求項8】
請求項に記載のセルロースアセテート繊維、及び樹脂を含む、セルロースアセテート組成物。
【請求項9】
繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程、
前記アセチル化により得られたセルロースアセテートを固形物として分離する工程、
前記固形物を洗浄及び乾燥する工程、並びに
前記洗浄及び乾燥により得られた繊維状セルロースアセテートを、酸性条件下、水中に分散する工程を有する、セルロースアセテートの製造方法。
【請求項10】
前記洗浄及び乾燥により得られた繊維状セルロースアセテートを水中に分散した後、この繊維状セルロースアセテートの分散液に酸性水溶液を添加して、分散液中のプロトン濃度が0.1mM以上100mM以下となるように調整する、請求項9に記載のセルロースアセテートの製造方法。
【請求項11】
前記アセチル化する工程の前に、前記原料セルロースを、水、酢酸、または水及び酢酸と接触させて前処理する工程を有する、請求項9又は10に記載のセルロースアセテートの製造方法。
【請求項12】
請求項に記載のセルロースアセテート繊維の存在下で樹脂を溶融混練する工程を有する、セルロースアセテート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテート、セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、セルロースアセテートの製造方法、及びセルロースアセテート組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然セルロース繊維は、単結晶繊維が集合した直径約3nmのミクロフィブリルを最小単位とする繊維である。そして、このミクロフィブリルを化学的及び物理的処理で取り出すことにより得られる繊維を所謂セルロースナノファイバーという。このセルロースナノファイバーは鋼鉄に対し5分の1の密度を有するにもかかわらず、鋼鉄の5倍の弾性率、ガラスの1/50の低線熱膨張係数を有すると考えられ、樹脂材料などの他材料と複合化して当該他の材料の強度を高め得る強化用繊維としての用途が期待されている。
【0003】
さらに、セルロースナノファイバーそのものを、また、樹脂材料などの他材料と複合化して得られる複合材料を透明材料として機能させることも期待もされている。しかし、天然セルロースは水酸基に富み、親水性であるため、疎水性で極性の無い汎用性樹脂との親和性に劣り、その樹脂に対する分散性に劣ることから樹脂材料の強度向上にはそれほど貢献しない。このため、天然セルロースの水酸基を疎水性に化学変性し、樹脂との親和性を改善することが検討されてきた。
【0004】
特許文献1には、(A)化学修飾セルロースナノファイバー及び(B)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物であって、化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上、78.8%以下であり、セルロースナノファイバーを構成する糖鎖の水酸基の水素原子がアセチル基で置換されており、その置換度が0.56以上、2.52以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6091589号公報
【文献】特開2017-165946号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Takashi Nishinoら、Elastic modulus of the crystalline regions of cellulose triesters、Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics、1995年3月、pp 611-618
【文献】Junji Sugiyamaら、Electron diffraction study on the two crystalline phases occurring in native cellulose from an algal cell wall、Macromolecules、1991年、24(14)、pp 4168-4175
【文献】E. Rocheら、Three-Dimensional Crystalline Structure of Cellulose Triacetate II、Macromolecules、1978年、11(1)、pp 86-94
【文献】Stipanovic AJら、Molecular and crystal structure of cellulose triacetate I: A parallel chain structure、Polymer、1978年19(1)、pp 3-8.
【文献】Masahisa Wadaら、X-ray diffraction study of the thermal expansion behavior of cellulose triacetate I、Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics、2009年1月21日、pp 517-523
【文献】Takanori Kobayashiら、Investigation of the structure and interaction of cellulose triacetate I crystal using ab initio calculations、Carbohydrate Research、2014年3月31日、Volume 388、pp 61-66
【文献】Pawel Sikorskiら、Crystal Structure of Cellulose Triacetate I、Macromolecules、2004年、37 (12)、pp 4547-4553
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には上記の記載があるが、天然セルロースの結晶構造を残しながら天然セルロースの水酸基を高度に化学変性することは一般的には不可能である。
【0008】
特許文献1の化学修飾セルロースナノファイバーは、アセチル基による置換度が0.56以上、2.52以下であるということは、水酸基の80%以上がアセチル化されたものも含まれるということであり、高度に化学変性されたものが含まれている。しかしながら、このような化学変性が分子レベルで行われれば、全ての水酸基のうち80%以上をアセチル化しながら、42.7%以上の天然セルロース結晶化度を留めることは不可能であるので、特許文献1の化学修飾セルロースナノファイバーは、高度にアセチル化されたセルロースと、未反応で高結晶性のセルロースの混合物と理解する他ない。
【0009】
高度にアセチル化されたセルロースは、セルローストリアセテートI型結晶構造は取りえない。アシル化反応溶媒として使用するN-メチルピロリドンが、セルローストリアセテートI型結晶を溶解するためである。つまり、特許文献1の化学修飾セルロースナノファイバーのうち、分子レベルでアセチル化された部分のほとんどは、天然セルロース結晶構造も有しなければ、セルローストリアセテートI型の結晶構造も有しないと理解され、また、天然セルロースのミクロフィブリル構造は留めていないと理解される。
【0010】
結局、樹脂との親和性を求めて高度にセルロースを化学変性すれば、天然セルロースのミクロフィブリルをそのまま留めることは不可能である。
【0011】
特許文献2には、天然セルロースと同じ平行鎖構造を有する唯一の化学変性セルロース結晶であるセルローストリアセテートI型結晶構造を有し、天然セルロースミクロフィブリル構造に由来する繊維形態を留めたセルロースアセテート繊維が記載されている。
【0012】
特許文献2の開示は、セルロースを高度に化学修飾しながら天然セルロースミクロフィブリル構造を材料創製に活かす試みとして巧妙である。しかしながら、本発明者らの研究によれば、アセチル化の触媒として硫酸を使う場合には、副反応として硫酸がセルロースにエステル結合で導入され、これが後に遊離することで、材料の熱安定性が著しく損なわれる。また、硫酸以外の触媒を使う場合には、熱安定性の問題は無いものの、水などの媒質中でホモジナイザーで解繊処理を行う際には解繊処理が難しいか、長い処理時間、多くの処理エネルギー、または長い処理時間及び多くの処理エネルギーの両方を要する。さらに、ホモジナイザーで解繊処理を行わずに樹脂と混練することで樹脂中で解繊を行う場合には、やはり解繊し難いか、長い処理時間、多くの処理エネルギー、または長い処理時間及び多くの処理エネルギーの両方を要する。
【0013】
硫酸を触媒としながらも結合硫酸量を低減したセルロースアセテートを得る技術は、従来複数知られているが、これらはセルローストリアセテートI型結晶は留めていない。
【0014】
以上のとおり、樹脂との親和性に優れ、樹脂を強化することができ、熱安定性に優れたセルロースアセテートは知られていない。
【0015】
本発明は、樹脂との親和性に優れ、樹脂を強化することができ、熱安定性にも優れるセルロースアセテートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第一は、セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で加熱したとき、100℃における重量に対する重量減少率が5%となる温度が200℃以上である、セルロースアセテートに関する。
【0017】
前記セルロースアセテートにおいて、前記重量減少率が5%となる温度が220℃以上であってよい。
【0018】
前記セルロースアセテートにおいて、前記重量減少率が5%となる温度が250℃以上であってよい。
【0019】
前記セルロースアセテートにおいて、結合硫酸量が20ppm以上500ppm以下であってよい。
【0020】
本発明の第二は、前記セルロースアセテートからなるセルロースアセテート繊維に関する。
【0021】
本発明の第三は、前記セルロースアセテート繊維、及び樹脂を含む、セルロースアセテート組成物に関する。
【0022】
本発明の第四は、繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程、前記アセチル化により得られたセルロースアセテートを固形物として分離する工程、前記固形物を洗浄及び乾燥する工程、並びに前記洗浄及び乾燥により得られた繊維状セルロースアセテートを、酸性条件下、水中に分散する工程を有する、セルロースアセテートの製造方法に関する。
【0023】
前記セルロースアセテートの製造方法において、前記アセチル化する工程の前に、前記原料セルロースを、水、酢酸、または水及び酢酸と接触させて前処理する工程を有してよい。
【0024】
本発明の第五は、前記セルロースアセテート繊維の存在下で樹脂を溶融混練する工程を有する、セルロースアセテート組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、樹脂との親和性に優れ、樹脂を強化することができ、熱安定性にも優れるセルロースアセテートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】セルロースアセテートのX線回折結果を示す図面である。
図2】セルロースアセテートの加熱重量を示す図面である。
図3(a)】フィルム試験片を枠型に挟んで材料試験機に固定した状態の一例を示す図面である。
図3(b)】引張試験中におけるフィルム試験片の状態の一例を示す図面である。
図4】セルロースアセテート繊維及び樹脂を含むセルロースアセテート組成物の応力-ひずみ曲線を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、好ましい実施の形態の一例を具体的に説明する。
【0028】
[セルロースアセテート]
本開示のセルロースアセテートは、セルローストリアセテートI型結晶構造を有し、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で加熱したとき、100℃における重量に対する重量減少率が5%となる温度が200℃以上である。
【0029】
(セルローストリアセテートI型結晶構造)
セルロースアセテートがセルローストリアセテートI(以下、CTA Iとも称する)型結晶構造を有していることは、CuKα(λ=1.542184Å)を用いたX線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=7.6°付近(7.2~8.0°)及び2θ=15.9°付近(15.5~16.3°)の2か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。このような典型的なピークの例として、図1の「CTA I型結晶 標品」のデータが参照できる。
【0030】
また、同様にセルローストリアセテートII型結晶構(以下、CTA IIとも称する)を有していることは、2θ=7.9~8.9°付近、2θ=9.9~10.9°付近及び2θ=12.6~13.6°付近の3か所の位置に典型的なピークを有することにより同定することができる。このような典型的なピークの例として、図1の「CTA II型結晶 標品」のデータが参照できる。
【0031】
本開示のセルロースアセテートは、セルローストリアセテートI型結晶構造を有することにより、小さな比重と共に優れた強度を有することができる。
【0032】
ここで、セルロース及びセルロースアセテートの結晶構造について述べる。セルロースの結晶構造としては、セルロースI型結晶構造やセルロースII型結晶構造が存在する(非特許文献1及び3)。セルロースをアセチル基で修飾したセルロースアセテートの結晶構造としては、セルローストリアセテートI(CTA I)型結晶構造やセルローストリアセテートII型結晶構造(CTA II)が存在することが知られている(非特許文献1、3乃至7)。セルローストリアセテートI型結晶構造は、セルロースI型結晶構造と似た平行鎖構造を(非特許文献4)、セルローストリアセテートII型結晶構造は、逆平行鎖構造をとるとされている(非特許文献3)。そして、セルローストリアセテートI型結晶構造が、一旦セルローストリアセテートII型結晶構造へ変化すると、セルローストリアセテートI型結晶構造への変化は生じないとされている(非特許文献3)。
【0033】
天然のセルロースから得られる繊維であるセルロースナノファイバーの優れた比重、強度及び低線熱膨張係数は、そのセルロースナノファイバーが、全てのセルロース分子鎖が同じ方向を向き、平行鎖構造を有するセルロースI型結晶構造(cellulose I。なお、より正確にはcellulose Iα及びcellulose Iβが存在する(非特許文献2))、さらには、そのセルロース分子鎖が36本程度平行に並んで集合した、セルロースI型結晶構造を含むミクロフィブリル繊維構造に起因すると考えられる。
【0034】
(重量減少率が5%となる温度)
本開示のセルロースアセテートは、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で加熱したとき、100℃における重量に対する重量減少率が5%となる温度が200℃以上である。前記重量減少率が5%となる温度は、220℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。セルロースアセテートがより熱安定性に優れるためである。なお、前記重量減少率が5%となる温度は、350℃以下であってよい。
【0035】
重量減少率は、熱天秤(マックサイエンス社製 TG-DTA2000-S)を用いて測定することができる。具体的には、セルロースアセテートを、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で加熱して、その重量変化(温度と重量との関係)を測定すればよい。そして、100℃におけるセルロースアセテートの重量に対する各温度における重量減少率(%)を算出する。
【0036】
(平均置換度)
本開示のセルロースアセテートの平均置換度は、2.0以上3.0以下であることが好ましい。平均置換度を2.0以上3.0以下とすることにより、セルロースアセテート分子表面の疎水性が高く、ポリプロピレン等の疎水性の樹脂との親和性に優れる。セルロースアセテートをポリプロピレン等の疎水性の樹脂に分散させようとする場合、その樹脂との親和性の観点からは、セルロースアセテートの平均置換度は、より高い方が好ましく、2.2以上がより好ましく、2.8以上がさらに好ましく、3.0であることが最も好ましい。
【0037】
また、セルロースアセテートを、ポリエチレンテレフタレート等に分散させようとする場合は、平均置換度の上限としては、3.0以下が好ましく、2.9以下がより好ましい。また、下限としては、2.0以上がより好ましく、2.2以上がさらに好ましい。
【0038】
セルロースアセテートの平均置換度は、酢酸セルロースを水に溶解し、酢酸セルロースの置換度を求める公知の滴定法により測定することができる。例えば、以下の方法である。ASTM:D-817-91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度を下記式で換算することにより求められる。これは、最も一般的なセルロースアセテートの平均置換度の求め方である。
平均置換度(DS)=162.14×酢化度(%)/{6005.2-42.037×酢化度(%)}
【0039】
まず、乾燥したセルロースアセテート(試料)1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶液(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N-水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N-硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また、同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を計算する。
酢化度(%)={6.5×(B-A)×F}/W
(式中、Aは試料の1N-硫酸の滴定量(ml)を、Bはブランク試験の1N-硫酸の滴定量(ml)を、Fは1N-硫酸の濃度ファクターを、Wは試料の重量を示す)
【0040】
(結合硫酸量)
本開示のセルロースアセテートは、結合硫酸量が500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましく、100ppm以下が最も好ましい。セルロースアセテートがより熱安定性に優れるためである。また、本開示のセルロースアセテートは、結合硫酸量が20ppm以上であることが好ましく、50ppm以上がより好ましい。結合硫酸量が20ppmを下回ると、水や有機溶媒などの媒質または樹脂中におけるセルロースアセテートの分散性が劣るためである。言い換えれば、媒質または樹脂中における本開示のセルロースアセテートの分散性を特に優れたものとしようとする場合、そのセルロースアセテートの製造過程で、アセチル化の触媒として硫酸を使うことが好ましく、アセチル化の触媒として効果的な量の硫酸を使用する場合には、得られるセルロースアセテートの結合硫酸量は20ppm以上となる為である。
【0041】
結合硫酸量は、以下の方法により求めることができる。乾燥したセルロースアセテートを1,300℃の電気炉で焼き、昇華した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、規定水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、SO 2-換算の量として測定する。測定値は絶乾状態のセルロースエステル1g中の硫酸含有量としてppm単位で表される。
【0042】
(粘度平均重合度)
本開示のセルロースアセテートの粘度平均重合度は、50以上2,500以下であることが好ましく、400以上2,000以下であることがより好ましく、1,000以上1,500以下であることがさらに好ましい。粘度平均重合度が50未満であると、セルロースアセテートの強度が劣る傾向にある。粘度平均重合度が2,500を超えると、数平均繊維径が2nm以上400nm以下のセルロースアセテート繊維となるように解繊することが困難となる。
【0043】
粘度平均重合度(DP)は、以下に示すように、上出ら、Polym J., 11,523-538 (1979)に記載の方法を用いて求めることができる。
【0044】
セルロースアセテートをジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、濃度0.002g/mlの溶液とする。次に、オストワルド型粘度管を用いて25℃におけるこの溶液の比粘度(ηrel、単位:ml/g)を定法で求める。より具体的には、オストワルド粘度管はブランク測定において90秒~210秒のものとし、25±0.2℃の恒温水槽中で測定に供する溶液を120分以上整温し、ホールピペットを用いて10mlの溶液をオストワルド粘度管に計り取り、溶液の流下時間を2回以上の計測し平均して測定結果とする。測定結果は同様にして計測したブランクの流下時間で除して比粘度とする。このようにして得られた比粘度の自然対数(自然対数比粘度)を濃度(単位:g/ml)で除し、これを近似的に極限粘度数([η]、単位:ml/g)とする。
ηrel=T/T
〔η〕=(ln ηrel)/C
(式中、Tは測定試料の落下秒数を、Tは溶媒単独の落下秒数を、Cは濃度(g/ml)を示す)
【0045】
粘度平均分子量は、次式で求めることができる。
粘度平均分子量=([η]/K1/α
ここで、K及びαは定数である。セルローストリアセテートの場合、Kは0.0264であり、αは0.750である。
【0046】
粘度平均重合度は、次式で求めることができる。
粘度平均重合度=粘度平均分子量/(162.14+42.037×平均置換度(DS))
【0047】
[セルロースアセテート繊維]
本開示のセルロースアセテート繊維は、上記セルロースアセテートからなるものである。
【0048】
(数平均繊維径)
本開示のセルロースアセテート繊維の数平均繊維径は、2nm以上400nm以下であってよい。数平均繊維径は、4nm以上300nm以下であることが好ましく、6nm以上100nm以下であることがより好ましい。
【0049】
ここで、セルロースアセテート繊維の数平均繊維径は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n≧6)から算出した値である。
【0050】
[セルロースアセテート組成物]
本開示のセルロースアセテート組成物は、本開示のセルロースアセテート繊維を含むものである。本開示のセルロースアセテート組成物としては、本開示のセルロースアセテート繊維を含んでいれば特に制限されないが、例えば、本開示のセルロースアセテート繊維を液体(液相)状または固体(固相)状の種々の分散媒に分散させることにより得られる分散液または分散体の他、本開示セルロースアセテート繊維を母材に含ませることにより得られる複合材料が挙げられる。
【0051】
本開示のセルロースアセテート組成物に用いられる液体(液相)状または固体(固相)状の分散媒または母材としては、本開示のセルロースアセテート繊維を分散できるものであれば特に制限されず、樹脂、特にナイロン樹脂微粒子等の微粒子状樹脂、有機溶媒、油性塗料、水性塗料等が挙げられる。
【0052】
本開示のセルロースアセテート組成物の分散媒または母材となる樹脂としては、モノマー、オリゴマー、及びポリマーのいずれであってもよい。ポリマーの場合、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても、いずれも使用することができる。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、酢酸セルロース樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、及び環状ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。熱可塑性樹脂は溶融した液相でもよく、また例えば微粒子状の固相であってもよい。
【0054】
熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、及び熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。また、本発明の樹脂の主成分が熱可塑性樹脂の場合、熱可塑性樹脂の特性を損なわない範囲で少量の熱硬化性樹脂を添加することや、逆に主成分が熱硬化性樹脂の場合に熱硬化性樹脂の特性を損なわない範囲で少量の熱可塑性樹脂やアクリル、スチレン等のモノマーを添加することも可能である。
【0055】
本開示のセルロースアセテート繊維は疎水性に優れるため、上記樹脂の中でも特に、疎水性樹脂に対する分散性に優れ、均一で強度の高い複合材料または分散体を得ることができる。
【0056】
有機溶媒としては、例えばメタノール、プロパノール及びエタノール等のアルコール;並びに、ベンゼン、トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0057】
[セルロースアセテートの製造]
本開示のセルロースアセテートの製造方法について詳述する。本開示のセルロースアセテートの製造方法は、繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程、前記アセチル化により得られたセルロースアセテートを固形物として分離する工程、前記固形物を洗浄及び乾燥する工程、並びに前記洗浄及び乾燥により得られた繊維状セルロースアセテートを、酸性条件下、水中に分散する工程を有する。
【0058】
なお、従来のセルロースアセテートの製造方法としては、特許第5543118号公報、及び「木材化学」(上)(右田ら、共立出版(株)1968年発行、第180頁~第190頁)を参照できる。上記「木材化学」(上)に記載される均一法(言い換えれば、溶解法)により得られるセルロースアセテートは、セルロースアセテートを溶解し溶液とした後に乾式紡糸で得られる繊維であり、結晶構造を有する場合にはセルローストリアセテートII型となり、前述の通り高い弾性率は期待できない。また、このような方法で調製するセルロースアセテートをセルローストリアセテートI型結晶構造に導く方法は知られていない。さらに、このような方法で調製するセルロースアセテート繊維の繊維径は一般の乾式紡糸では数十μmである。
【0059】
(原料セルロース)
本開示のセルロースアセテートの原料セルロースとしては、木材パルプや綿花リンターなどの繊維状の物が使用でき、特にセルロースI型結晶構造を有するものが使用できる。これらの原料セルロースは単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0060】
綿花リンターについて述べる。リンターパルプは、セルロース純度が高く、着色成分が少ないことから、得られるセルロースアセテートを樹脂等と合せて組成物とした場合に、その組成物の透明度が高くなるため、好ましい。
【0061】
次に、木材パルプについて述べる。木材パルプは、原料の安定供給が可能で、綿花リンターに比べコスト的に有利であるため好ましい。
【0062】
木材パルプとしては、例えば、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等が挙げられ、針葉樹漂白クラフトパルプ、広葉樹漂白クラフトパルプ、針葉樹前加水分解クラフトパルプ、広葉樹前加水分解クラフトパルプ、広葉樹サルファイトパルプ、針葉樹サルファイトパルプ等を用いることができる。また、後述するように、木材パルプは、綿状に解砕して解砕パルプとして用いることができ、解砕は、例えば、ディスクリファイナーを用いて行うことができる。
【0063】
本開示のセルロースアセテートを透明材料として機能させる場合、不溶解残渣を少なくし、組成物の透明性を損なわないことを考慮すると、原料セルロースのα-セルロース含有率は、90重量%以上であることが好ましい。
【0064】
ここで、α-セルロース含有率は、以下のようにして求めることができる。重量既知のパルプを25℃で17.5%と9.45%の水酸化ナトリウム水溶液で連続的に抽出し、その抽出液の可溶部分に対して重クロム酸カリウムで酸化し、酸化に要した重クロム酸カリウムの容量からβ,γ-セルロースの重量を決定する。初期のパルプの重量からβ,γ-セルロース重量を引いた値を、パルプの不溶部分の重量、つまりα-セルロースの重量とする(TAPPI T203)。初期のパルプの重量に対する、パルプの不溶部分の重量の割合が、α-セルロース含有率(重量%)である。
【0065】
(解砕)
本開示のセルロースアセテートの製造方法は、原料セルロースを解砕する工程(以下、解砕工程とも称する)を有していることが好ましい。これにより、短時間に一様にアセチル化反応(酢化反応)を行うことができる。解砕工程は、特に、木材パルプ等がシート状の形態で供給されるような場合に有効である。
【0066】
解砕工程において、原料セルロースを解砕する方法としては、湿式解砕法と乾式解砕法とがある。湿式解砕法は、パルプシートとした木材パルプ等に水または水蒸気などを添加して解砕する方法である。湿式解砕法としては、例えば、蒸気による活性化と反応装置中での強い剪断攪拌を行う方法や、希酢酸水溶液中で離解してスラリーとした後、脱液と酢酸置換を繰り返す、いわゆるスラリー前処理を行う方法等が挙げられる。また、乾式解砕法は、パルプシートなどの木材パルプを乾燥状態のまま解砕する方法である。乾式解砕法としては、例えば、ピラミッド歯を有するディスクリファイナーで粗解砕したパルプを、線状歯を有するディスクリファイナーで微解砕する方法や、内壁にライナーを取付けた円筒形の外箱と、外箱の中心線を中心として高速回転する複数の円板と、各円板の間に前記中心線に対して放射方向に取り付けられた多数の翼とを備えたターボミルを用い、翼による打撃と、ライナーへの衝突と、高速回転する円板、翼及びライナーの三者の作用で生じる高周波数の圧力振動とからなる三種類の衝撃作用により、外箱の内部に供給される被解砕物を解砕する方法等が挙げられる。
【0067】
本開示のセルロースアセテートの製造方法においては、これらの解砕方法をいずれも適宜使用することができるが、特に、湿式解砕法が、短時間でアセチル化反応を完結させ、高重合度のセルロースアセテートを得ることができるため好ましい。
【0068】
(前処理)
本開示のセルロースアセテートの製造方法は、解砕または解砕しない繊維状の原料セルロースを、水、酢酸、または水及び酢酸と接触させる前処理工程を有していることが好ましい。原料セルロースと接触させる水と共に酢酸を用いても良く、または水を使わずに酢酸のみを用いても良い。この時、酢酸は、1~100重量%の濃度のものを用いることができる。酢酸は水溶液であってもよい。水、酢酸、または水及び酢酸は、例えば、原料セルロース100重量部に対して、それぞれ好ましくは10~8,000重量部添加することにより接触させることができる。
【0069】
原料セルロースを酢酸と接触させる方法としては、原料セルロースに直接酢酸を接触させてもよく、または、原料セルロースを水と接触させ含水ウェットケーキ状とし、ここに酢酸を加えることでもよい。
【0070】
原料セルロースに直接酢酸を接触させる場合において、例えば、酢酸もしくは1~10重量%の硫酸を含む酢酸(含硫酢酸)を一段階で添加する方法、または、酢酸を添加して一定時間経過後、含硫酢酸を添加する方法、含硫酢酸を添加して一定時間経過後、酢酸を添加する方法等の酢酸または含硫酢酸を2段階以上に分割して添加する方法等が挙げられる。添加の具体的手段としては、噴霧してかき混ぜる方法が挙げられる。
【0071】
そして、前処理活性化は、原料セルロースに酢酸及び/または含硫酢酸を添加した後、17~40℃下で0.2~48時間静置する、または17~40℃下で0.1~24時間密閉及び攪拌すること等により行うことができる。
【0072】
原料セルロースを酢酸と接触させる前に、原料セルロースをウェットケーキ状とする場合について述べる。ここで、ウェットケーキ状の原料セルロースを単にウェットケーキと称する。ウェットケーキは、原料セルロースに水を加え、撹拌し、水をろ別することにより製造することができる。このウェットケーキに酢酸を加え、撹拌し、酢酸をろ別する操作を、数回、例えば3回程度繰り返すことにより前処理を行うことができる。水または酢酸をろ別した直後、ウェットケーキの固形分濃度は、5~50重量%とすることが好ましい。
【0073】
原料セルロースをウェットケーキ状とする場合、原料セルロースとしては、針葉樹漂白クラフトパルプや針葉樹漂白サルファイトパルプを用いることが好ましい。比較的重合度が高く強度に優れた繊維を得やすいためである。
【0074】
ここで、ウェットケーキの固形分濃度は、次のようにして測定することができる。ウェットケーキの一部(試料)をアルミ皿に約10g秤量し(W2)、60℃の減圧乾燥機で3時間乾燥し、デシケーター中で室温まで冷却後に秤量(W3)し、下記の式に従って固形分濃度を求めることができる。
固形分濃度(%)=(W3-W1)/(W2-W1)×100
W1はアルミ皿の重量(g)、W2は乾燥前の試料を入れたアルミ皿の重量(g)、W3は乾燥後の試料を入れたアルミ皿の重量(g)
【0075】
原料セルロースをウェットケーキ状としてから、酢酸と接触させることにより、後述するアセチル化工程において、比較的低温及び比較的短時間でアセチル化を行うことができるため、温度条件及び時間条件の管理がしやすく、取扱いも容易となり、さらにセルロースアセテートの製造効率を高めることができる。
【0076】
(アセチル化)
本開示のセルロースアセテートの製造方法においては、繊維状である原料セルロースを、セルロースアセテートに対する貧溶媒と酢酸とを含む溶媒中で無水酢酸と反応させてアセチル化する工程(以下、アセチル化工程とも称する)を有する。アセチル化工程において、原料セルロースには、解砕工程及び前処理工程をそれぞれを経た、または経ない原料セルロースを含む。
【0077】
アセチル化は、具体的には、例えば、i)繊維状である原料セルロースに、セルロースアセテートに対する貧溶媒、酢酸、無水酢酸、硫酸を順次添加することにより開始することができる。その添加順序は、異なっていてもよい。その他、ii)セルロースアセテートに対する貧溶媒、酢酸、無水酢酸、及び硫酸からなる混合物に、繊維状である原料セルロースを添加すること、またはiii)繊維状である原料セルロースに、酢酸、セルロースアセテートに対する貧溶媒、及び無水酢酸の混合物並びに硫酸のように、先に調製した混合物を用いて、それを添加すること等により開始することができる。ここで、酢酸は、99重量%以上のものを用いることが好ましい。硫酸は、98重量%以上の濃度のもの、言い換えれば濃硫酸を用いることが好ましい。
【0078】
セルロースアセテートに対する貧溶媒を用いることで、繊維状の原料セルロースのミクロフィブリル繊維構造を壊すことなく、アセチル化を行うことができる。貧溶媒を用いない場合には、生成するセルロースアセテートはアセチル化反応の希釈剤である酢酸に溶解するため原料セルロースのミクロフィブリル構造は崩壊する。
【0079】
セルロースアセテートに対する貧溶媒としては、言うまでも無くセルロースアセテートを溶解しないか、極めて溶解度が低いことに加え、無水酢酸の溶解度が高い溶媒であることが好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;酢酸アミルなどのエステル;並びにこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0080】
これらのなかでも、廃液の分離回収において工程数を軽減できるため、また、回収に要するエネルギーを低減できるためトルエン、シクロヘキサンが好ましく、ベンゼンがより好ましい。
【0081】
アセチル化工程において用いる原料セルロースと、酢酸、セルロースアセテートに対する貧溶媒、及び無水酢酸との割合について場合を分けて述べる。
【0082】
原料セルロースに直接酢酸を接触させて前処理を行う場合について述べる。セルロースアセテートに対する貧溶媒は、原料セルロース100重量部に対し、100~5,000重量部であることが好ましく、1,000~2,000重量部であることがより好ましい。酢酸は、原料セルロース100重量部に対し、0~2,000重量部であることが好ましく、50~1,000重量部であることがより好ましい。無水酢酸は、原料セルロース100重量部に対し、200~1,000重量部であることが好ましく、300~700重量部であることがより好ましい。触媒として用いる場合、硫酸は、原料セルロース100重量部に対し、1~30重量部であることが好ましく、5~20重量部であることがより好ましい。
【0083】
原料セルロースを酢酸と接触させる前に、原料セルロースを水で前処理し、ウェットケーキ状とする場合について述べる。ウェットケーキの固形分濃度は、5~50重量%の場合、酢酸は、ウェットケーキ100重量部に対し、100~4,000重量部であることが好ましく、200~3,000重量部であることがより好ましく、1,000~2,000重量部であることがさらに好ましい。セルロースアセテートに対する貧溶媒は、ウェットケーキ100重量部に対し、5~2,500重量部であることが好ましく、50~1,000重量部であることがより好ましい。無水酢酸は、ウェットケーキ100重量部に対し、5~1,000重量部であることが好ましく、10~500重量部であることがより好ましく、15~350重量部であることがさらに好ましい。硫酸は、ウェットケーキ100重量部に対し、0.05~15重量部であることが好ましく、5~10重量部であることがより好ましい。
【0084】
アセチル化工程の反応系内の温度は5~90℃であることが好ましく、10~75℃であることがより好ましい。アセチル化反応系内の温度が高すぎると原料セルロースの解重合が進みやすくなるため、粘度平均重合度が低くなりすぎ、得られるセルロースアセテート繊維の強度が低くなる。またアセチル化反応系内の温度が低すぎるとアセチル化反応が進まず、反応に膨大な時間を要するか、あるいはセルロースをセルロースアセテートに変換することが出来なくなる。
【0085】
アセチル化反応系内の温度の調整は、撹拌条件下、外部から反応系の内外には一切の熱は加えず行うこと、または併せて、撹拌条件下、反応系を温媒または冷媒により加熱または冷却して中温に調整することにより行うことができる。また、酢酸、セルロースアセテートに対する貧溶媒、無水酢酸、及び硫酸を予め加温または冷却しておくことによって行うこともできる。
【0086】
また、アセチル化反応にかかる時間は、0.5~20時間であることが望ましい。ここで、アセチル化反応にかかる時間とは、原料セルロースが、溶媒、無水酢酸、及び触媒と接触して反応を開始した時点から、ろ過などにより反応混合物から生成物(セルロースアセテート)を分離するまでの時間をいう。ただし、原料セルロースとしてTEMPO酸化パルプなどの化学変性パルプを用いる場合には、アセチル化反応にかかる時間は、0.5~60時間であることが望ましい。
【0087】
アセチル化反応初期は、解重合反応を抑えつつアセチル化反応を進ませ未反応物を減らすため、反応温度を5℃以下にしてもよく、その場合は可能な限り時間を掛けて昇温するのが良いが、生産性の観点からは、45分以下、さらに好ましくは30分以下で昇温を行うことが好ましい。
【0088】
平均置換度の調整は、アセチル化反応の温度、時間、無水酢酸量や硫酸量などの反応浴組成を調整することによって行うことができる。例えば、温度を高くすること、時間を長くすること、硫酸量を増やすこと、無水酢酸量を増やすことで平均置換度を高くすることができる。
【0089】
(分離)
本開示のセルロースアセテートの製造方法は、前記アセチル化により得られたセルロースアセテートを固形物として分離する工程(以下、分離工程とも称する)を有する。分離は、アセチル化反応の反応混合物をろ過する等により行うことができる。ろ過は吸引ろ過であってよい。
【0090】
(洗浄及び乾燥)
本開示のセルロースアセテートの製造方法は、前記固形物を洗浄及び乾燥する工程(以下、洗浄及び乾燥工程とも称する)を有する。洗浄は、トルエンなどのセルロースアセテートに対する貧溶媒、酢酸、無水酢酸、硫酸、及び硫酸塩を少しでも取り除くことができれば、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、固形物として得られるセルロースアセテートをろ過し、分離した後、その固形物を、セルロースアセテートに対する貧溶媒、アルコール、及び水で順次洗浄することにより行うことが好ましい。このような順で洗浄を行うと、洗浄後のウェットケーキに含まれる揮発分は主に水となり、最終生成物に残留する不要な有機溶媒を低減できるためである。なお、貧溶媒を使わずにアルコールや水を使えば、固形物に残存する無水酢酸が硫酸と反応することとなり、発熱などに対する対策が必要となるし、アルコールを使わなければセルロースアセテートの貧溶媒は水と混ざらないため、固形物から貧溶媒を十分に除くことが出来ない。
【0091】
洗浄工程で用いる、セルロースアセテートに対する貧溶媒としては、アセチル化工程において用いたセルロースアセテートに対する貧溶媒と同じものを用いることが廃液の回収、分離において工程数を低減できることから好ましい。
【0092】
アルコールとしては、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール等の何れであってもよく、また1価アルコール、2価アルコール、3価以上の多価アルコールの何れであってもよい。アルコールのなかでも、最終生成物に残留する有機溶媒の危険有害性の観点から、エタノールが好ましい。
【0093】
乾燥の方法としては特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、及び凍結乾燥等により乾燥を行うことができる。これらの中でも、特に凍結乾燥が不要な熱分解を回避できるため好ましい。
【0094】
(酸性条件下の水中への分散)
本開示のセルロースアセテートの製造方法は、前記洗浄及び乾燥により得られた繊維状セルロースアセテートを、酸性条件下、水中に分散する工程を有する。
【0095】
酸性条件下の水のpHは7未満であればよい。例えば、pH1.5以上6以下であることが好ましい。
【0096】
具体的には、例えば、硫酸、塩酸、及び酢酸等の強酸または弱酸を用いて、繊維状セルロースアセテートの分散液中のプロトン濃度が0.1mM以上100mM以下となるように調整すればよい。繊維状セルロースアセテートを水中で撹拌して分散した後、高濃度の硫酸水溶液等の酸性水溶液を添加して、プロトン濃度を調整してもよい。
【0097】
水の量としては、10重量部のセルロースアセテートに対し、10重量部以上1,000重量部以下であってよい。
【0098】
繊維状セルロースアセテートの分散液の温度は、例えば、20℃以上100℃以下に調整することが好ましい。また、分散液の撹拌時間は、例えば、0.1時間以上100時間以下であってよい。
【0099】
(解繊)
本開示のセルロースアセテートの製造方法においては、繊維状セルロースアセテートを水中に分散する工程の後、前記分離工程と、前記洗浄及び乾燥工程とを有してもよく、また、さらに、水、有機溶媒、または水を含む有機溶媒に懸濁し、ホモジナイザーを用いて解繊する工程を有してよい。解繊により、セルロースアセテートを微細化できる。
【0100】
水、有機溶媒、または水を含む有機溶媒への懸濁について述べる。懸濁は、例えば、セルロースアセテートに水を添加し、ホモディスパーを用いて3000回転で、10~60分間撹拌することにより行うことができる。このとき、水、有機溶媒、または水を含む有機溶媒に対し、セルロースアセテートは0.1~10重量%とすることが好ましく、0.5~5.0重量%とすることがより好ましい。後述する解繊工程において、固形分濃度が0.1重量%以下では処理液量が多くなりすぎ、工業的に生産効率が悪く、同10重量%以上では解繊装置に閉塞が生じるなどして解繊工程が進行しない場合があるためである。
【0101】
ここで、解繊工程で用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル等を用いることができる。また、これら有機溶媒と水との混合物を用いることもできる。
【0102】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの強力なせん断力を印加できる装置が好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、上記のセルロースアセテートに予備処理を施すことも可能である。
【0103】
ここで、前記圧力を50MPa以上とすることにより、得られるセルセルロースアセテート繊維の数平均繊維径を400nm以下とすることができ、圧力を100MPa以上とすることにより、数平均繊維径をより小さくすることができる。
【0104】
本開示のセルロースアセテートの製造方法においては、繊維状の原料セルロースをセルロースアセテートに対する貧溶媒を含む溶媒中アセチル化した後、ホモジナイザーを用いて解繊することにより、天然のセルロースが有するミクロフィブリル繊維構造を保持することができる。
【0105】
[セルロースアセテート組成物の製造]
本開示のセルロースアセテート組成物の製造方法について詳述する。本開示のセルロースアセテート組成物は、例えば、本開示のセルロースアセテート繊維を、母材や分散媒と混合することにより得られる。母材または分散媒として樹脂を用いた複合材料または分散体の調製は、セルロースアセテート繊維の存在下で樹脂を溶融混練することにより行うことができる。液体状の分散媒にセルロースアセテート繊維を分散させた分散液の調製は、セルロースアセテート繊維及び分散媒を混合した後、分散液が形成されるまで、分散機によって処理することにより行うことができる。
【0106】
セルロースアセテートを前記解繊により、微細化してから樹脂に混合等してよく、微細化せずに樹脂中に混合し、適当なせん断力、温度、及び時間で処理することで樹脂に混合した後で微細化してもよい。
【0107】
本開示のセルロースアセテート、セルロースアセテート繊維、セルロースアセテート組成物、並びに本開示の製造方法により製造されたセルロースアセテート及び組成物は、例えば、繊維;紙おむつ、生理用品などの衛生用品;たばこフィルター;塗料;化粧品等広範囲に使用することができる。
【実施例
【0108】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。なお、以下「部」とは特に断りのない限り、「重量部」を意味する。
【0109】
後述する実施例及び比較例に記載の各物性は、以下の方法で評価した。
【0110】
<結合硫酸量>
結合硫酸量は、乾燥したセルロースアセテートを1,300℃の電気炉で焼き、昇華した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、規定水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、SO 2-換算の量として測定した。測定値は絶乾状態のセルロースエステル1g中の硫酸含有量としてppm単位で表した。
【0111】
<平均置換度>
ASTM:D-817-91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法により求めた。乾燥したセルロースアセテート(試料)1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N-水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化した。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N-硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を算出した。
酢化度(%)=[6.5×(B-A)×F]/W
(式中、Aは試料の1N-硫酸の滴定量(ml)を、Bはブランク試験の1N-硫酸の滴定量(ml)を、Fは1N-硫酸の濃度ファクターを、Wは試料の重量を示す)。
次に、算出した酢化度を下記式で換算することにより、平均置換度を求めた。
平均置換度(DS)=162.14×酢化度(%)/{6005.2-42.037×酢化度(%)}
【0112】
<粘度平均重合度>
セルロースアセテートをジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、濃度0.002g/mlの溶液とした。次に、オストワルド型粘度管を用いて25℃におけるこの溶液の比粘度(ηrel、単位:ml/g)を定法で求めた。自然対数比粘度を濃度(単位:g/ml)で除し、これを近似的に極限粘度数([η]、単位:ml/g)とした。
ηrel=T/T
〔η〕=(ln ηrel)/C
(式中、Tは測定試料の落下秒数を、Tは溶媒単独の落下秒数を、Cは濃度(g/ml)を示す)
【0113】
粘度平均分子量は、次式で求めた。
粘度平均分子量=([η]/K1/α
ここで、K=0.0264、α=0.750を用いた。
【0114】
<重量減少率が5%となる温度>
加熱による重量変化を熱天秤(マックサイエンス社製 TG-DTA2000-S)を用いて測定した。具体的には、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で重量変化を調べた。重量減少率が5%となる温度は、100℃における重量に対して5%の重量減少が観察された温度である。
【0115】
<X線回折>
解繊工程を経たセルロースアセテート繊維の分散液から固形分をろ別し凍結乾燥した。リガク製X線回折測定装置SmartLab、無反射型シリコン板を用いて粉末X線回折を測定した。
【0116】
<比較例1>
(前処理)
前処理として、40重量部の針葉樹漂白サルファイトパルプ(SP、日本製紙(株)製)に、2,000重量部の水を加え、室温で1時間攪拌した。吸引ろ過で脱液し、固形分濃度約20重量%のウェットケーキ(SP)とした。このウェットケーキを2,000重量部の氷酢酸に分散し、室温で10分間攪拌し、吸引ろ過で脱液し、酢酸で湿潤したウェットケーキ(SP)を得た。この酢酸で湿潤したウェットケーキ(SP)の固形分濃度は約35重量%であった。この酢酸で湿潤したウェットケーキ(SP)を再度氷酢酸に分散し、脱液する操作をさらに2回行った。このようにして得られた酢酸で湿潤したウェットケーキ(SP)の固形分濃度は約40重量%であった。なお、ウェットケーキの固形分濃度は、上記の方法により測定した。
【0117】
(アセチル化)
セルロースアセテートに対する貧溶媒としてトルエン648重量部、酢酸72重量部、無水酢酸240重量部、及び濃硫酸6重量部を混合し、混合物(混合溶媒)とした。この混合物を25℃に整温して、当該混合物に前記ウェットケーキ(SP)を添加し、25℃で3時間攪拌して反応混合物を得た。この反応混合物を室温まで冷却し、得られた固形物を吸引ろ過し、固形物を回収した。この固形物をただちに800重量部のトルエンで洗浄する操作を2回繰り返し、固形物に付随する無水酢酸及び硫酸を除去することでアセチル化反応を停止させた。
【0118】
(洗浄)
前記固形物として得られた繊維状の粗製セルロースアセテート、さらに800重量部のエタノールで2回、800重量部の蒸留水で4回洗浄し、湿潤した繊維状セルロースアセテートを得た。
【0119】
(乾燥)
前記湿潤した繊維状セルロースアセテートを恒量まで凍結乾燥して、繊維状セルロースアセテートを得た。得られたセルロースアセテートの結合硫酸量、平均置換度、粘度平均重合度、及び重量減少率が5%となる温度をそれぞれ評価した結果は表1に示す。X線回折の結果は図1に示す。加熱による重量変化を測定した結果は図2に示す。
【0120】
<実施例1>
10重量部の比較例1で得られたセルロースアセテートを300重量部の水に分散し、分散液を調製した。1M硫酸を添加し、前記分散液のプロトン濃度を3mMに調製した。前記分散液を攪拌しながら25分を要して90℃に昇温した。昇温後に少量の分散液を採取しプロトン濃度を測定したところ15mMであった。プロトン濃度の上昇は、セルロースに結合していた硫酸の脱離によるものである。分散液をさらに90℃で6時間攪拌した。6時間攪拌後に少量の分散液を採取しプロトン濃度を測定したところ、45mMであった。分散液を室温付近まで冷却し、吸引ろ過で脱液し、300重量部の蒸留水で洗浄し、80℃で恒量まで減圧乾燥した。得られたセルロースアセテートの結合硫酸量、平均置換度、粘度平均重合度、及び重量減少率が5%となる温度をそれぞれ評価した結果は表1に示す。X線回折の結果は図1に示す。加熱による重量変化を測定した結果は図2に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
平行鎖構造を有するセルローストリアセテートI型結晶はX線回折において、2θ=7.6°及び15.9°に高強度の回折を示すことがわかっている。逆平行鎖構造を有するセルローストリアセテートII型結晶は、2θ=8.4°、10.4°及び13.1°に高強度の回折を示すことがわかっている。
【0123】
図1から明らかなように、比較例1のセルロースアセテートのX線回折を測定したところ、2θ=7.9及び15.8°に高強度の回折を示し、セルローストリアセテートI型結晶構造を有すると考えられた。実施例1のセルロースアセテートは、2θ=7.9及び15.8°に高強度の回折を示し、セルローストリアセテートI型結晶構造を有すると考えられた。実施例1のセルロースアセテートの結晶構造をより観察しやすくするため、実施例1のセルロースアセテートをガラス状態とし結晶化を促進させ、結晶性を高める処理を行った。具体的には、実施例1のセルロースアセテートを窒素雰囲気下で230℃で10分間処理した後、X線回折を測定した。その結果、2θ=7.8及び15.8°に高強度の回折を示し、やはりセルローストリアセテートI型結晶構造を有すると考えられた。
【0124】
図2に示すように、実施例1のセルロースアセテートは、比較例1に比べ、加熱による重量変化が明らかに小さい。100℃における重量に対する重量減少率が5%となる温度は、実施例1では284℃であり、比較例1では163℃であった。このように、実施例1のセルロースアセテートは、非常に熱安定性に優れる。
【0125】
<樹脂の強度>
樹脂の強度は、以下の(1)から(4)までの手順により樹脂成型物を調製し、(5)引張試験を行うことにより評価した。
(1)セルロースアセテートの解繊
実施例1で得られたセルロースアセテートは、比較例1で得られたセルロースアセテートに対し脱硫酸処理を行ったものである。実施例1で得られた脱硫酸処理済のセルロースアセテート100重量部を10,000重量部の水に懸濁した。分散させたサンプルをエクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製)にて予備解繊した後、高圧式ホモジナイザー(吉田機械興業株式会社製:製品名L-AS))でストレートノズルにて2回処理(100MPa)、クロスノズルで3回処理(140MPa)で解繊を行った。このようにして、脱硫酸処理済のセルロースアセテート解繊物の1重量%分散液を得た。さらにこれを蒸留水で希釈し、脱硫酸処理済のセルロースアセテート解繊物の0.5重量%分散液を得た。
【0126】
(2)PEG-リグニン(PEGL)の調製
240重量部のスギチップを1200重量部の分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)に浸漬し、PEG400に対して0.3重量%濃度となるよう濃硫酸を添加し、160℃で4時間加熱することで蒸解した。蒸解後、直ちに室温まで冷却して反応を停止させ、反応物を固形物(パルプ)と濾液に濾別した。パルプを1,4-ジオキサン濃度80重量%の1,4-ジオキサン水溶液4800重量部で洗浄し、洗浄液に濾液を加えた後、1,4-ジオキサンを減圧留去した。残った黒液を140℃で2.5時間加熱した後、16000重量部の蒸留水に注いだ。上清が透明になるまで遠心分離(11,590×g(8,000rpm)、15分、4℃)と蒸留水の交換を繰り返した後、回収した沈殿部を凍結乾燥に供して、粉末状のPEGLを得た。
【0127】
(3)リグニン樹脂と無水マレイン酸混合物の調製
蒸留水50重量部と上記(1)セルロースアセテートの解繊にて得られた脱硫酸処理済のセルロースアセテート解繊物の0.5重量%分散液8重量部を混合した。さらに1.2重量部の分子量50万のポリエチレングリコール(PEG500kDa)を加えて攪拌した。撹拌は、室温で1日間行った。さらに上記(2)PEG-リグニン(PEGL)の調製にて得られたPEGL1.66重量部を加え、室温で1日間攪拌した後、凍結乾燥に供した。凍結乾燥物をブレンダーで粉砕して、セルロースアセテート解繊物、PEGL、および、PEG500kDaの混合粉末を得た。この混合粉末0.145重量部と無水マレイン酸0.057重量部とを乳鉢中でよく混合し、リグニン樹脂と無水マレイン酸混合物を得た。
【0128】
(4)リグニン樹脂成型物の調製
油圧プレス機(ユーカリ技研(株)製、HP-300TL-S型)のプレス板上に、厚さ0.05mmのテフロンシート(ニチアス(株)製、ナフロンテープ)を敷き、同様のテフロンシートから作製した枠型(枠内寸法:50mmx50mm)を置いた。この枠型の中心に上記(3)リグニン樹脂成型物と無水マレイン酸混合物の調製にて得られたリグニン樹脂と無水マレイン酸混合物0.15gを円盤状に広げ、テフロンシートを被せた。これを室温から昇温し、150℃に達した時点で5MPaの圧力でプレスした。その後昇温を続け、温度が170℃に達した時点から6時間、この温度を保持した。これを室温付近に冷却しすることで、テフロンシート間にフィルム状で自立性のセルロースアセテートを含むリグニン樹脂成型物を得た。
【0129】
(5)引張試験
前記フィルム状のリグニン樹脂成型物から50mmx10mmの短冊状試験体を切り出した。なお、この切り出した試験体をフィルム試験体ともいう。試験体の厚さをデジタル外側マイクロメータ(新潟精機(株)製、MCD130-25)で測定した後、試験体の両端を図3(a)のように紙の枠型で挟んで固定した。この状態の試験体に対し、紙の枠型を切断した後、材料試験機((株)島津製作所製、オートグラフAGS-500D)を用いて図3(b)のように引張試験を行い、応力-ひずみ曲線を得た。試験速度を10mm/min、つかみ間隔を30mmとし、50Nのロードセルを用いた。結果は、図4に示す。実施例1のセルロースアセテートを含む成型物は、後述の参考例1の成型物に対して、約180%の最大応力を示した。
【0130】
(参考例1)
上記(3)リグニン樹脂と無水マレイン酸混合物の調製において、蒸留水50重量部と脱硫酸処理済の繊維状セルロースアセテート解繊物の0.5重量%分散液8重量部との混合液に替えて、蒸留水58重量部を用いた以外は、上記の(2)PEG-リグニン(PEGL)の調製、(3)リグニン樹脂と無水マレイン酸混合物の調製、及び(4)リグニン樹脂成型物の調製に示す手順にて、同様にフィルム状で自立性のリグニン樹脂成型物を得た。また、上記(5)引張試験と同様にして引張試験を行い、応力-ひずみ曲線を得た。結果は、図4に示す。
【0131】
図4に示すように、実施例1のセルロースアセテートを含む樹脂組成物は、非常に優れた強度を有する。このように、実施例1のセルロースアセテートは、優れた樹脂強化の効果を有する。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4