(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】マヨネーズ様食品
(51)【国際特許分類】
A23L 27/60 20160101AFI20221021BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20221021BHJP
【FI】
A23L27/60 A
A23L27/00 D
(21)【出願番号】P 2018206927
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-06-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼ ウェブサイトの掲載日 平成30年3月21日 ▲2▼ ウェブサイトのアドレス http://achems.org/2018/AChemS%202018%20Abstract%20Program.pdf ▲3▼ 公開者 西村知紗、柳澤琢也、守矢大介、Yiseul Kim、柳美羅
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】西村 知紗
(72)【発明者】
【氏名】守矢 大介
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】柳 美羅
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148692(JP,A)
【文献】特開2000-308469(JP,A)
【文献】特開2000-125802(JP,A)
【文献】特開平10-330747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄、油脂、及び水を含有する乳化状のマヨネーズ様食品
(但し、全光透過率が40%以上のマヨネーズ様食品を除く)であって、
マヨネーズ様食品中のタンパク質全体の60質量%以上が前記卵黄由来であり、
分子量100以上3000以下
の卵黄タンパク質分解物
(但し、脱脂卵黄加水分解物を除く)の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の0.05質量%以上であることを特徴とする、
マヨネーズ様食品。
【請求項2】
前記卵黄が、液卵黄であることを特徴とする、
請求項1に記載のマヨネーズ様食品。
【請求項3】
卵黄脂質の含有量が、生換算で、前記卵黄全体の20質量%以上であることを特徴とする、
請求項1または2に記載のマヨネーズ様食品。
【請求項4】
前記分子量100以上3000以下の卵黄タンパク質分解物
(但し、脱脂卵黄加水分解物を除く)の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の0.1質量%以上5質量%以下であることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載のマヨネーズ様食品。
【請求項5】
前記卵黄の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載のマヨネーズ様食品。
【請求項6】
前記油脂の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の5質量%以上85質量%以下であることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載のマヨネーズ様食品。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のマヨネーズ様食品の製造方法であって、
卵黄として殺菌済みの液卵黄を準備する工程と、
前記殺菌済みの液卵黄に、pH2以上5以下及び25℃以上55℃以下の条件で後処理を行って、前記液卵黄中の分子量100以上3000以下
の卵黄タンパク質分解物
(但し、脱脂卵黄加水分解物を除く)の量を増大させる工程と、
少なくとも、前記後処理を施した液卵黄と油脂とを用いて、マヨネーズ様食品を製造する工程と、
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マヨネーズ様食品に関し、より詳細には、卵黄、油脂、及び水を含有する乳化状のマヨネーズ様食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マヨネーズ様食品の代表的製品としてマヨネーズやサラダドレッシング等が知られている。また、近年、マヨネーズ様食品は料理にコク味を付与できることから、調理の下味や味付け用の万能調味料として使用の幅が広がっている。そのため、コク味をより向上させたマヨネーズ様食品が求められている。
【0003】
通常、マヨネーズ様食品は容器に充填され、常温で流通されているため、流通過程で風味が劣化し易い。そのため、賞味期限を短く設定せざるを得なかった。一方、近年、充填技術等の進歩により、風味の劣化を防止すべくヘッドスペースを窒素置換する方法が採られ、以前よりは風味安定性に優れた容器詰めマヨネーズ様食品が得られるようになった。
【0004】
しかし、それでもなお風味の劣化は徐々に進行するため、より一層好ましい風味を長く維持することが要望されてきた。そこで、特許文献1ではマヨネーズ様食品に脱脂卵黄の加水分解物を含有させることで、製造直後の風味が長期間維持された容器詰めマヨネーズ様食品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、特許文献1に開示のマヨネーズ様食品において、脱脂卵黄は卵黄から卵黄脂質を脱脂しているものであるため、油のコク味に劣る上、さらに脱脂の過程でタンパク質が変性して、卵黄由来の複雑で厚みのあるコク味が乏しいものになるという技術的課題を知見した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、卵黄由来の複雑で厚みのあるコク味の向上したマヨネーズ様食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、マヨネーズ様食品において特定の分子量の卵黄タンパク質分解物を特定量含有させることで、上記の技術的課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一態様によれば、
卵黄、油脂、及び水を含有する乳化状のマヨネーズ様食品であって、
マヨネーズ様食品中のタンパク質全体の60質量%以上が前記卵黄由来であり、
分子量100以上3000以下の前記卵黄タンパク質分解物の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の0.05質量%以上であることを特徴とする、
マヨネーズ様食品が提供される。
【0010】
本発明の態様においては、前記卵黄が、液卵黄であることが好ましい。
【0011】
本発明の態様においては、卵黄脂質の含有量が、生換算で、前記卵黄全体の20質量%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、前記分子量100以上3000以下の卵黄タンパク質分解物の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、前記卵黄の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、前記油脂の含有量が、前記マヨネーズ様食品全体の5質量%以上85質量%以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の他の態様によれば、
上記のマヨネーズ様食品の製造方法であって、
卵黄として殺菌済みの液卵黄を準備する工程と、
前記殺菌済みの液卵黄に、pH2以上5以下及び25℃以上55℃以下の条件で後処理を行って、前記液卵黄中の分子量100以上3000以下の前記卵黄タンパク質分解物の量を増大させる工程と、
少なくとも、前記後処理を施した液卵黄と油脂とを用いて、マヨネーズ様食品を製造する工程と、
を含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、卵黄由来の複雑で厚みのあるコク味の向上したマヨネーズ様食品を提供することができる。また、本発明によれば、このようなマヨネーズ様食品の製造方法を提供することができる。このようなマヨネーズ様食品は消費者の食欲を惹起することができ、マヨネーズ様食品のさらなる市場拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<マヨネーズ様食品>
本発明における「マヨネーズ様食品」とは、マヨネーズやドレッシング等を挙げることができる。日本農林規格(JAS)では、ドレッシングのうち粘度が30Pa・s以上が半固体状ドレッシングと呼ばれる。その中で卵黄等決められた原料を用い、水分含量が30質量%以下、油脂含量が65質量%以上のものがマヨネーズである。本発明におけるマヨネーズ様食品には、JAS規格で定めるマヨネーズと類似の性状を有しながら成分組成がJAS規格に合致しない類似商品群及び乳化タイプの調味料も含まれる。
【0018】
マヨネーズ様食品は、少なくとも、卵黄及び油脂、水を含む乳化状のものであり、その他の原料を配合してもよい。マヨネーズ様食品は、連続相として水相を含むものであり、水中油型(O/W型)エマルションやW/O/W型複合エマルションの構成を有するものであり、水中油型(O/W型)エマルションの構成がより好ましい。マヨネーズ様食品中の水分含量は特に限定されずに他の成分の配合量に応じて適宜設定することができるが、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、また、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。
【0019】
マヨネーズ様食品は、25℃で測定した粘度が、好ましくは1Pa・s以上500Pa・s以下であり、より好ましくは10Pa・s以上400Pa・s以下であり、さらに好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下であり、さらにより好ましくは100Pa・s以上250Pa・s以下である。
なお、マヨネーズ様食品の粘度は、BH型粘度計を用いて、品温25℃、回転数2rpmの条件で、粘度が1Pa・s以上15Pa・s未満の時にローターNo.2、粘度が15Pa・s以上37.5Pa・s未満の時にローターNo.3、粘度が37.5Pa・s以上75Pa・s未満の時にローターNo.4、粘度が75Pa・s以上150Pa・s未満の時にローターNo.5、粘度が150Pa・s以上375Pa・s未満の時にローターNo.6、粘度が375Pa・s以上500Pa・s以下の時にローターNo.7を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により算出した値である。
【0020】
マヨネーズ様食品は、タンパク質全体の60質量%以上が卵黄由来である。タンパク質全体の80質量%以上が卵黄由来であることが好ましく、タンパク質全体の90質量%以上が卵黄由来であることがより好ましく、タンパク質全体の100質量%が卵黄由来であることがさらに好ましい。マヨネーズ様食品中のタンパク質全体に対する卵黄由来のタンパク量が上記数値範囲内であれば、卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを十分に感じることができる。
【0021】
(油脂)
マヨネーズ様食品に配合する油脂は、特に限定されず従来公知の油脂を用いることができ、食用油脂を用いることが好ましい。具体的には、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル等を用いることができる。また、例えば、魚油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を用いることができる。好ましくは、油脂として菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、またはこれらの混合油を50質量%以上含むことが好ましい。
【0022】
油脂の含有量は、マヨネーズ様食品全体の好ましくは5質量%以上85質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以上77質量%以下であり、さらにより好ましくは50質量%以上75質量%以下である。マヨネーズ様食品中の油脂の含有量が上記数値範囲内であれば、油由来のコク味を十分に感じることができる。
【0023】
(卵黄)
マヨネーズ様食品に配合する卵黄としては、分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物が含まれる加工卵黄を用いることができる。通常の未加工の卵黄には、分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物は極微量であるか、検出限界以下の量である。本発明においては、卵黄中に分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物を増加させて、マヨネーズ全体における分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物量を高めることで、卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを十分に感じることができる。
【0024】
(分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物)
分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物の含有量は、マヨネーズ様食品全体の0.05質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.15質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。マヨネーズ様食品中の分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物の含有量が上記数値範囲内であれば、卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを十分に感じることができ、マヨネーズ様食品全体の味のバランスに優れる。
【0025】
[分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物の含有量の定義]
本発明の「分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物の含有量」は、マヨネーズ様食品から分離した水溶性画分を限外濾過することによって分子量100~3000の画分を得た後、そのアミノ酸濃度を測定することによって求められる値を指す。ただし、グルタミン酸ナトリウム、卵白加水分解物、脱脂卵黄加水分解物等の分子量100~3000のアミノ酸原料を含有する場合にはそれらを差し引いて本発明の「分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物量」を算出する。
【0026】
[分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物の含有量の測定方法]
本発明の「分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物の含有量」の具体的な測定方法は以下の通りである。
まず、マヨネーズ様食品に10倍量の水を添加し振とう撹拌後、15500×G、30分遠心分離を行い、油相と水相を分離する。次に、水相に対し、1/5倍量のヘキサンを加え、脱脂を行う。続いて、No.2ろ紙と0.45μmメンブレンフィルターでろ過を行った後、透析膜を用いて脱塩を行う。その後、限外濾過を行い、分子量100~3000に分画を行う。得られた画分を凍結乾燥し、分子量100~3000画分を得る。得られた分子量100~3000画分を酸加水分解し、全自動アミノ酸分析装置(日本電子株式会社)を用いてアミノ酸濃度を求めた後、タンパク質量を算出する。
【0027】
卵黄中の分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物を増加させる方法としては、例えば、殺菌処理済みの液卵黄に後処理(変質処理)を施すことが挙げられる。後処理とは、卵黄を酸性状態に、好ましくはpH2以上5以下、より好ましくはpH2.2以上4.8以下、より好ましくはpH2.5以上4.5以下に調節した上で、温度を好ましくは25℃以上55℃以下、より好ましくは30℃以上50℃以下、さらに好ましくは33℃以上45℃以下の状態に保ち、適切な時間経過させることで、高分子量のタンパク質を低分量量(100~3000)のタンパク質へと変質させる工程である。
【0028】
上記の分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物量が増加した加工卵黄の原料卵黄としては、一般的に用いる卵黄であれば特に限定されない。例えば、鶏卵を割卵し卵白と分離して得られた生卵黄(液卵黄)を用いることが好ましい。さらに、当該液卵黄に殺菌処理や、ホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施してもよい。なお、卵黄中の脂質含有量を減らさないために、脱脂処理が含まれないことがより好ましい。
【0029】
卵黄中の脂質の含有量は、生換算で、卵黄全体の20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であることがさらに好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。卵黄脂質の含有量が上記数値範囲内であれば、卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを十分に感じることができ、マヨネーズ様食品全体の味のバランスに優れる。
【0030】
マヨネーズ様食品中の卵黄の含有量は、生換算で、マヨネーズ様食品全体の好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、さらにより好ましくは12質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。マヨネーズ様食品中の卵黄の含有量が上記数値範囲内であれば、卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを十分に感じることができる。また、マヨネーズ様食品全体の味のバランスに優れ、良好な乳化状態を維持することもできる。
【0031】
マヨネーズ様食品中の卵白の含有量は、マヨネーズ様食品全体の好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。マヨネーズ様食品中の卵白の含有量を抑えることで、卵黄由来の複雑で厚みのあるコクが薄まらずに、より感じることができる。
【0032】
(酸材)
本発明のマヨネーズ様食品は、酸材を配合することで、酸性のマヨネーズ様食品にすることができる。本発明のマヨネーズ様食品のpHは、特に限定されないが、例えば、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは3.3以上であり、さらに好ましくは3.8以上であり、また好ましくは6.5以下であり、より好ましくは5.5以下であり、さらに好ましくは4.6以下である。pHが上記範囲内であれば、酸味によりマヨネーズ様食品の風味を引き立てることができる。
【0033】
酸材としては、例えば、食酢(酢酸)、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸等の有機酸及びそれらの塩、燐酸、塩酸等の無機酸及びそれらの塩、レモン果汁、リンゴ果汁、オレンジ果汁、乳酸発酵乳等を用いることができる。
【0034】
酸材の配合量は、目的とするpHに応じて適宜調節することができる。例えば、酸材として食酢(酸度4%)を用いる場合、食酢の配合量は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。食酢の配合量が上記範囲内であれば、酸味によりマヨネーズ様食品の風味を引き立てることができる。
【0035】
(他の原料)
本発明のマヨネーズ様食品は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲でマヨネーズ様食品に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、食塩、アミノ酸等の調味料、はちみつ、香辛料抽出物、たん白加水分解物、着色料および着香料、レモン汁、タマネギ、ピーマン、刻んだ茹で卵、パセリ、ケッパー、チャイブ、きゅうり等のピクルス、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、およびアラビアガム等の増粘剤、マスタード、からし粉、胡椒等の香辛料、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等乳化剤、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、静菌剤等が挙げられる。
【0036】
<マヨネーズ様食品の製造方法>
本発明のマヨネーズ様食品の製造方法は、準備工程と、後処理工程と、製造工程とを含むものである。以下、各工程について説明する。
【0037】
(準備工程)
準備工程とは、殺菌済みの液卵黄を準備する工程である。原料となる卵黄については、一般的に用いる卵黄であれば特に限定されない。例えば、鶏卵を割卵し卵白と分離して得られた生卵黄(液卵黄)を用いることが好ましい。この液卵黄に法定殺菌処理(61℃で3.5分)を施して、殺菌済みの液卵黄を準備することができる。また、液卵黄には、ホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施してもよい。
【0038】
(後処理工程)
後処理工程とは、殺菌済みの液卵黄に変質処理を行い、卵黄中の分子量100以上3000以下の卵黄タンパク質分解物の量を増大させる工程である。具体的には、液卵黄を酸性状態に、好ましくはpH2以上5以下、より好ましくはpH2.2以上4.8以下、より好ましくはpH2.5以上4.5以下に調節した上で、温度を好ましくは25℃以上55℃以下、より好ましくは30℃以上50℃以下、さらに好ましくは33℃以上45℃以下の状態に保ち、適切な時間経過させることで、高分子量のタンパク質を低分量量(100~3000)のタンパク質へと変質させる工程である。液卵黄を酸性状態にする方法としては、上記の酸材を添加する方法が挙げられる。酸材の量は、目的とするpHや酸材の種類に応じて適宜調節することができる。また、温度や時間は、目的とする卵黄タンパク質分解物の量に応じて適宜設定することができる。
【0039】
(製造工程)
製造工程とは、少なくとも、後処理を施した液卵黄と油脂とを用いて、マヨネーズ様食品を製造する工程である。例えば、後処理済みの液卵黄に、食酢等の酸材、食塩やグルタミン酸ナトリウム等の調味料、香辛料、水を加えて、ミキサー等で均一に混合して水相原料混合液を調製する。その後、当該水相原料混合液をミキサー等撹拌しながら、食用油脂を徐々に注加して乳化し、水相中に油相を乳化分散させたマヨネーズ様食品を製造することができる。
【0040】
本発明のマヨネーズ様食品の製造には、通常のマヨネーズ様食品の製造に使われる装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、一般的な攪拌機、スティックミキサー、スタンドミキサー、ホモミキサー、ホモディスパー等が挙げられる。撹拌機の撹拌羽形状としては、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、アンカー翼等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0042】
[実施例1~9]
<マヨネーズ様食品の製造>
まず、61℃で3.5分の法定殺菌処理を施した液卵黄(卵黄脂質:30質量%)を準備した。続いて、殺菌処理済みの液卵黄に、食酢(酸度4%)を加えて、pH(2以上5以下の範囲内)、加熱温度(25℃以上55℃以下の範囲内)、加熱時間等の条件を適宜変更して、表1に記載の分子量100以上3000以下の卵黄タンパク質分解物量の割合になるように調整した。得られた後処理済みの液卵黄に、食酢、食塩、グルタミン酸ナトリウム(アミノ酸濃度45%)、香辛料、水を加えて、ミキサーで均一に混合して水相原料混合液を調製した。その後、当該水相原料混合液を撹拌しながら、大豆油を徐々に注加して乳化し、水相中に油相を乳化分散させたマヨネーズ様食品を製造した。マヨネーズ様食品中の各原料の配合割合は表1に示した。マヨネーズ食品中のタンパク質の80%以上が卵黄由来であった。また、マヨネーズ様食品のpHは3.8~4.6であり、25℃で測定した粘度は、100~250Pa・sであった。なお、表1中の「分子量100-3000の卵黄タンパク質分解物量」は、本願明細書の上記[分子量100~3000の卵黄タンパク質分解物の含有量の測定方法]の欄に記載の測定方法によって算出した値である。
【0043】
[比較例1]
殺菌処理済みの液卵黄に上記の後処理を施さなかった以外は、実施例4と同様の配合及び手順で、マヨネーズ様食品を製造した。また、マヨネーズ様食品のpH及び25℃で測定した粘度は、実施例4と同様であった。
【0044】
<マヨネーズ様食品の評価1>
上記で得られた実施例1~9及び比較例1のマヨネーズ様食品について、下記の基準でコク味を官能評価した。評価結果を表1に示した。なお、評価が3点以上であれば、良好な結果であると言える。
[コク味(風味)の評価基準]
5:卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを非常に良く感じた。
4:卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを十分に感じた。
3:卵黄由来の複雑で厚みのあるコクを感じた。
2:卵黄由来の複雑で厚みのあるコクをやや感じた。
1:卵黄由来の複雑で厚みのあるコクが乏しかった。
【0045】
【0046】
<マヨネーズ様食品の評価2>
上記で得られた実施例1及び比較例1のマヨネーズ様食品について、下記の通り測定試料を調製した後、下記に記載のCaSR活性測定方法によってコク味活性を測定した。評価結果を表2に示した。なお、ΔF/F0の値が高い程、コク味に優れるものであると言える。
(測定試料の調製方法)
マヨネーズ様食品に10倍量の水を添加し振とう撹拌後、15500×G、30分遠心分離を行い、油相と水相を分離した。次に、水相に対し、1/5倍量のヘキサンを加え、脱脂を行った。続いて、No.2ろ紙と0.45μmメンブレンフィルターでろ過を行った後、透析膜を用いて脱塩を行った。その後、限外濾過を行い、分子量100~3000に分画を行った。得られた画分を凍結乾燥し、分子量100~3000画分を得て、測定試料とした。
(CaSR活性測定方法)
hCaSR(Human Calcium Sensing Receptor)をG16/gust44発現プラスミドと共にHEK293T細胞にコトランスフェクトした。18~24時間後、細胞応答を測定するために使用した。対照にはモック細胞を用いた。アッセイバッファー(pH7.4、37℃)中で、細胞にカルシウム応答性指示薬Ca-4及び上記で調製した測定試料(濃度0.1mg/mL)を45分間負荷した。細胞質Ca2+濃度は、Flex Station 3マイクロプレートリーダー(Molecular devices)を用いて、485、525、515nmの波長を測定した。応答はΔF/ F0として示され、ΔFは刺激後のCa-4の蛍光強度の変化量、F0は初期蛍光強度である。
【0047】