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  • 特許-水性樹脂組成物及び成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20221021BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221021BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/02
C08L75/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019529122
(86)(22)【出願日】2018-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2018025816
(87)【国際公開番号】W WO2019013147
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2017135605
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大松 一喜
(72)【発明者】
【氏名】安井 未央
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
(72)【発明者】
【氏名】高市 賢志
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043647(JP,A)
【文献】特開2017-043648(JP,A)
【文献】特開2017-043750(JP,A)
【文献】特開2017-043751(JP,A)
【文献】特開2017-115047(JP,A)
【文献】特開平06-218878(JP,A)
【文献】特開2012-051991(JP,A)
【文献】特開2013-104045(JP,A)
【文献】特許第5733761(JP,B2)
【文献】特開2016-148044(JP,A)
【文献】特許第5976249(JP,B1)
【文献】特開2016-188353(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006997(WO,A1)
【文献】特開2017-025283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子とナノファイバーと水性媒体とを含む水性樹脂組成物であって、
前記樹脂粒子の濃度が30質量%である樹脂エマルションの光線透過率が、波長600nmにおいて80%以上であるとともに、波長400nmにおいて40%以上であり、
前記ナノファイバーは、平均アスペクト比が10以上であるとともに、平均繊維径が1nm以上500nm以下であり、
前記樹脂粒子及び前記ナノファイバーは、負電荷を有し、
前記樹脂粒子は、前記樹脂粒子を含む評価用試料(Sp)のゼータ電位ζ particle が、-20mV以下であり、
前記ナノファイバーは、前記ナノファイバーを含む評価用試料(Sf)のゼータ電位ζ fiber が、-20mV以下であり、
前記ゼータ電位ζ particle 及び前記ゼータ電位ζ fiber は、下記式(1)の関係を満たす、水性樹脂組成物。
0.930≦ζ particle /ζ fiber ≦1.600 (1)
【請求項2】
前記樹脂粒子は、1次粒子径が1nm以上60nm以下である、請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂粒子は、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体系樹脂、エポキシ系樹脂、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の粒子である、請求項1又は2に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ナノファイバーは、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上のファイバーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ナノファイバーは、セルロースナノファイバーを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂粒子は、ポリウレタン系樹脂であり、
前記ナノファイバーは、セルロースナノファイバーである、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂粒子は、アニオン性基を有するポリウレタン系樹脂であり
前記ナノファイバーは、カルボキシレート基含有セルロースナノファイバーである
請求項1~6のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物を用いて作製された成形体。
【請求項9】
厚み300μmのフィルム形状とした場合の光線透過率が、波長400nmにおいて50%以上であるとともに、波長600nmにおいて85%以上である、請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
樹脂粒子とナノファイバーとを含む成形体であって、
前記樹脂粒子及び前記ナノファイバーは、負電荷を有し、
250μmの領域を走査型電子顕微鏡で観察したときに、1μm以上の前記ナノファイバーの凝集体が1個以下であり、
4μmの領域を走査型電子顕微鏡で観察したときに、前記ナノファイバー間の距離が10nm以上1000nm以下である、成形体。
【請求項11】
前記樹脂粒子は、ポリウレタン系樹脂であり、
前記ナノファイバーは、セルロースナノファイバーである、請求項10に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバーを含有する水性樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー等のナノファイバーは、樹脂等の他の材料と複合化した複合材料として用いることにより、機械的特性等を向上できることが知られている(例えば、特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5976249号公報
【文献】特許第5733761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、透明性に優れ、線膨張率が低い成形体を得ることができるナノファイバーを含有する水性樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す水性樹脂組成物及び成形体を提供する。
〔1〕 樹脂粒子とナノファイバーと水性媒体とを含む水性樹脂組成物であって、
前記樹脂粒子の濃度が30質量%である樹脂エマルションの光線透過率が、波長600nmにおいて80%以上であるとともに、波長400nmにおいて40%以上であり、
前記ナノファイバーは、平均アスペクト比が10以上であるとともに、平均繊維径が1nm以上500nm以下である、水性樹脂組成物。
【0006】
〔2〕 前記樹脂粒子は、1次粒子径が1nm以上60nm以下である、〔1〕に記載の水性樹脂組成物。
【0007】
〔3〕 前記樹脂粒子は、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体系樹脂、エポキシ系樹脂、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の粒子である、〔1〕又は〔2〕に記載の水性樹脂組成物。
【0008】
〔4〕 前記ナノファイバーは、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上のファイバーである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【0009】
〔5〕 前記ナノファイバーは、セルロースナノファイバーを含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【0010】
〔6〕 前記樹脂粒子及び前記ナノファイバーは、負電荷を有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【0011】
〔7〕 前記樹脂粒子は、前記樹脂粒子を含む評価用試料(S)のゼータ電位ζparticleが、-20mV以下であり、
前記ナノファイバーは、前記ナノファイバーを含む評価用試料(S)のゼータ電位ζfiberが、-20mV以下であり、
前記ゼータ電位ζparticle及び前記ゼータ電位ζfiberは、下記式(1)の関係を満たす、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【0012】
0.930≦ζparticle/ζfiber≦1.600 (1)
〔8〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の水性樹脂組成物を用いて作製された成形体。
【0013】
〔9〕 厚み300μmのフィルム形状とした場合の光線透過率が、波長400nmにおいて50%以上であるとともに、波長600nmにおいて85%以上である、〔8〕に記載の成形体。
【0014】
〔10〕 樹脂粒子とナノファイバーとを含む成形体であって、
250μmの領域を走査型電子顕微鏡で観察したときに、1μm以上の前記ナノファイバーの凝集体が1個以下であり、
4μmの領域を走査型電子顕微鏡で観察したときに、前記ナノファイバー間の距離が10nm以上1000nm以下である、成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透明性に優れ、線膨張率が低い成形体を得ることができるナノファイバーを含有する水性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例2で得たフィルム状の成形体から得た観察用サンプルの電子顕微鏡画像であり、(a)は、倍率5000倍の電子顕微鏡画像であり、(b)は、倍率50000倍の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水性樹脂組成物は、樹脂粒子とナノファイバーと水性媒体とを含み、
樹脂粒子の濃度が30質量%である樹脂エマルションの光線透過率は、波長600nmにおいて80%以上であるとともに、波長400nmにおいて40%以上であり、
ナノファイバーは、平均アスペクト比が10以上であるとともに、平均繊維径が1nm以上500nm以下である。
【0018】
(水性樹脂組成物)
水性樹脂組成物は、樹脂粒子とナノファイバーと水性媒体とを含む。水性樹脂組成物に含まれる樹脂粒子は、水性樹脂組成物の固形分100質量部中、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、また、通常99質量部以下であり、97質量部以下であることが好ましい。
【0019】
(樹脂粒子)
樹脂粒子は、樹脂粒子の濃度が30質量%である樹脂エマルション(以下、「樹脂エマルション(A)」ということがある。)において、波長600nmにおける光線透過率が80%以上であり、83%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、87%以上であることがさらに好ましく、通常100%未満である。また、樹脂粒子は、樹脂エマルション(A)において、波長400nmにおける光線透過率が40%以上であり、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、通常100%未満である。樹脂エマルション(A)が上記範囲であることにより、水性樹脂組成物を用いて作製された成形体の光線透過率を向上することができ、線膨張率を低減することができる。光線透過率は、後述の実施例で説明する測定方法によって測定することができる。
【0020】
水性樹脂組成物に含まれる樹脂粒子は、1次粒子径(平均粒子径)の下限値が1nm以上であり、5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、また、上限値が60nm以下であり、55nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。樹脂粒子の1次粒子径を小さくすることにより、水性樹脂組成物を用いて得られる成形体の光線透過率を向上し、線膨張率を低減させやすい。樹脂粒子の1次粒子径は、水性樹脂組成物中における樹脂粒子について、動的光散乱式粒径分布測定装置(FPAR-1000、大塚電子(株)製)を用いて測定された値である。
【0021】
樹脂粒子は、この樹脂粒子を含む評価用試料(S)のゼータ電位ζparticleが、-20mV以下であることが好ましく、-25mV以下であることがより好ましく、-30mV以下であることがさらに好ましい。ゼータ電位は、分散安定性の指標として知られており、一般にその絶対値が大きいほど分散安定性に優れていることを示す。
【0022】
樹脂粒子を含む評価用試料(S)のゼータ電位ζparticleと、後述するナノファイバーを含む評価用試料(S)のゼータ電位ζfiberとは、下記式(1):
0.930≦ζparticle/ζfiber≦1.600 (1)
の関係にあることが好ましい。ζparticle/ζfiberで表されるゼータ電位の比の値は、式(1)に示すように0.930以上であることが好ましく、0.950以上であることがより好ましく、0.960以上であることがさらに好ましく、0.970以上であることがさらにより好ましい。また、上記ゼータ電位の比の値は、式(1)に示すように1.600以下であることが好ましく、1.500以下であることがより好ましく、1.400以下であることがさらに好ましく、1.300以下であることがさらにより好ましい。
【0023】
上記ゼータ電位の比の値が上記の範囲内であることにより、水性樹脂組成物を用いて得られる成形体の光線透過率を向上し、線膨張率を低減させやすい。この理由は次のように考えられる。すなわち、上記したゼータ電位の比の値が上記の範囲内であることにより、水性媒体中に樹脂粒子とナノファイバーとを分散させたときの、樹脂粒子の電荷とナノファイバーの電荷とを同程度の大きさとすることができると考えられる。これにより、樹脂粒子とナノファイバーとの間に適度な反発力が生じるため、水性樹脂組成物中において樹脂粒子とナノファイバーとが凝集しにくく、両者の分散安定性を向上することができ、成形体の光線透過率を向上し、線膨張率を低減させやすくなると考えられる。樹脂粒子を含む評価用試料(S)の調製方法、及び、評価用試料(S)のゼータ電位ζparticleは、後述の実施例で説明する測定方法によって測定することができる。
【0024】
樹脂粒子は負電荷を有することが好ましい。樹脂粒子に負電荷を付与する方法としては、樹脂粒子をなすモノマー成分として、アニオン性の置換基を有するモノマーを用いる方法;樹脂粒子が水等の分散媒に分散したものである場合、樹脂エマルションを得る際に乳化剤等の界面活性剤が用いられると樹脂粒子表面に界面活性剤が吸着した状態にあるため、この界面活性剤として負電荷を有する界面活性剤を用いて樹脂粒子に負電荷を付与する方法;等を挙げることができる。これにより、後述するように、樹脂粒子が負電荷を有し、ナノファイバーが負電荷を有することにより、樹脂粒子とナノファイバーとの間に斥力が働くため、水性樹脂組成物中においてナノファイバー及び樹脂成分の分散安定性を高めることができると考えられる。
【0025】
樹脂粒子は、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体系樹脂、エポキシ系樹脂、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の粒子であることが好ましい。樹脂粒子は、ポリウレタン系樹脂であることがより好ましい。「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルから選択される少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイルオキシ基」、「(メタ)アクリロイル基」等というときについても同様である。
【0026】
ポリウレタン系樹脂は、ポリイソシアナート化合物とポリオール化合物と、さらに必要に応じて他の化合物とを反応させることで得ることができる。ポリウレタン系樹脂の樹脂粒子を樹脂エマルションとして得る場合には、公知のアセトン法、プレポリマーミキシング法、ケチミン法、ホットメルトディスパージョン法等によって上記の化合物を反応させて得ることができる。
【0027】
ポリイソシアナート化合物としては、通常のポリウレタンの製造に使用される、分子内にイソシアナート基を2個以上有する有機ポリイソシアナート化合物が挙げられる。例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアナート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアナート、メチルシクロヘキシル-2,4-ジイソシアナート、メチルシクロヘキシル-2,6-ジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート(XDI)、1,3-ビス(イソシアナート)メチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアナート、リジンジイソシアナート等の脂肪族ジイソシアナート類;2,4-トルイレンジイソシアナート(TDI)、2,6-トルイレンジイソシアナート(TDI)、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアナート(MDI)、1,5’-ナフテンジイソシアナート、トリジンジイソシアナート、ジフェニルメチルメタンジイソシアナート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアナート、4,4’-ジベンジルジイソシアナート、1,3-フェニレンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート類;リジンエステルトリイソシアナート、トリフェニルメタントリイソシアナート、1,6,11-ウンデカントリイソシアナート、1,8-イソシアナート4,4-イソシアナートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアナート、ビシクロヘプタントリイソシアナート、トリメチロールプロパンとトルイレンジイソシアナートとのアダクト体、トリメチロールプロパンと1,6-ヘキサメチレンジイソシアナートとのアダクト体等のトリイソシアナート類等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ポリオール化合物としては、通常のポリウレタンの製造に使用される、分子内に水酸基を2個以上有する化合物が挙げられる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール類;アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸等のジカルボン酸類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオール化合物とから得られるポリエステルポリオール類;ポリカプロラクトンポリオール、ポリβ-メチル-δ-バレロラクトン等のポリラクトン系ポリエステルポリオール類;ポリブタジエンポリオール又はその水添物、ポリカーボネートポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリアクリル酸エステルポリオール等が挙げられる。
【0029】
ポリウレタン系樹脂は、水性媒体中での分散安定性を向上させるために、分子内に親水基を有することが好ましい。親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基のいずれであってもよいが、上記したように樹脂粒子が負電荷を有することが好ましい場合には、アニオン性基であることが好ましい。アニオン性基としては、スルホニル基、カルボキシ基等が好ましく、通常、中和剤によって中和されることが好ましい。中和剤としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン化合物;水酸化ナトリウム等の無機アルカリ化合物;アンモニア等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーを主な構成モノマーとする樹脂である。
【0031】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマー、分子内に2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する2官能(メタ)アクリレートモノマー、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0032】
単官能(メタ)アクリレートモノマーの一例は、アルキル(メタ)アクリレートである。アルキル(メタ)アクリレートの具体例を挙げると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、ベンジル(メタ)アクリレートのようなアラルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレートのようなテルペンアルコールの(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートのようなテトラヒドロフルフリル構造を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートのようなアルキル基部位にシクロアルキル基を有する(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのようなアミノアルキル(メタ)アクリレート;2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのようなアルキル部位にエーテル結合を有する(メタ)アクリレートも単官能(メタ)アクリレートモノマーとして用いることができる。
【0033】
さらに、アルキル部位に水酸基を有する単官能アルキル(メタ)アクリレートや、アルキル部位にカルボキシル基を有する単官能アルキル(メタ)アクリレートも用いることができる。アルキル部位に水酸基を有する単官能アルキル(メタ)アクリレートの具体例は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-又は3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレートを含む。アルキル部位にカルボキシル基を有する単官能アルキル(メタ)アクリレートの具体例は、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n≒2)モノ(メタ)アクリレート、1-[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]フタル酸、1-[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]ヘキサヒドロフタル酸、1-[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]コハク酸(2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、A-SA)、4-[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]トリメリット酸、N-(メタ)アクリロイルオキシ-N’,N’-ジカルボキシメチル-p-フェニレンジアミンを含む。
【0034】
2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ハロゲン置換アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、脂肪族ポリオールのジ(メタ)アクリレート、水添ジシクロペンタジエン又はトリシクロデカンジアルカノールのジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコール又はジオキサンジアルカノールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA又はビスフェノールFのアルキレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA又はビスフェノールFのエポキシジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
2官能(メタ)アクリレートモノマーのより具体的な例を挙げれば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、シリコーンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルのジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシシクロヘキシル]プロパン、水添ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,3-ジオキサン-2,5-ジイルジ(メタ)アクリレート〔別名:ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート〕、ヒドロキシピバルアルデヒドとトリメチロールプロパンとのアセタール化合物〔化学名:2-(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン〕のジ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、グリセリントリ(メタ)アクリレート、アルコキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の脂肪族ポリオールのポリ(メタ)アクリレート;3官能以上のハロゲン置換ポリオールのポリ(メタ)アクリレート;グリセリンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート;1,1,1-トリス[(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ]プロパン;トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリルアミドモノマーは、好ましくはN-位に置換基を有する(メタ)アクリルアミドであり、そのN-位の置換基の典型的な例はアルキル基であるが、(メタ)アクリルアミドの窒素原子とともに環を形成していてもよく、この環は、炭素原子及び(メタ)アクリルアミドの窒素原子に加え、酸素原子を環構成員として有してもよい。さらに、その環を構成する炭素原子には、アルキルやオキソ(=O)のような置換基が結合していてもよい。
【0038】
N-置換(メタ)アクリルアミドの具体例は、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-i-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-i-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミドのようなN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドのようなN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドを含む。また、N-位の置換基は水酸基を有するアルキル基であってもよく、その例として、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド等がある。さらに、上述のN-位の置換基が環を形成する場合として、5員環又は6員環を形成するN-置換(メタ)アクリルアミドを挙げることができ、その具体例としては、N-アクリロイルピロリジン、3-(メタ)アクリロイル-2-オキサゾリジノン、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン等がある。
【0039】
アクリロニトリル-スチレン共重合体系樹脂は、アクリロニトリルと、スチレン系モノマーとを構成モノマーとする樹脂である。アクリロニトリル-スチレン共重合体系樹脂は、共重合体をなす全モノマー100質量部に対し、アクリロニトリルが25~75質量部、スチレン系モノマーが75~25質量部であることが好ましい。
【0040】
スチレン系モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、フルオロスチレン、ニトロスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、アセトキシスチレン、p-ジメチルアミノメチルスチレン等がある。
【0041】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体系樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン系モノマーを構成モノマーとする樹脂である。アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体系樹脂は、共重合体をなす全モノマー100質量部に対し、アクリロニトリルが20~40質量部、ブタジエンが25~50質量部、スチレン系モノマーが25~50質量質量部であることが好ましい。スチレン系モノマーとしては、上記した具体例に挙げたものを用いることができる。
【0042】
エポキシ系樹脂は、一分子あたりグリシジル基が2個以上有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、ビスフェノ-ルA、ビスフェノ-ルF、1,1’-ビス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、テトラメチルビフェノ-ル、ナフタレンジオ-ル等の二価フェノ-ル類から誘導されるグリシジルエ-テル化合物、p-オキシ安息香酸、m-オキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族カルボン酸から誘導されるグリシジルエステル化合物、あるいはトリグリシジルイソシアヌレ-ト等を挙げることができる。また、フェノ-ル、o-クレゾ-ル、m-クレゾ-ル、p-クレゾ-ル等のフェノ-ル類とホルムアルデヒドの反応生成物であるノボラック樹脂から誘導されるノボラック系エポキシ樹脂、フロログリシン、トリス-(4-ヒドロキシフェニル)-メタン、1,1,2,2,-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)等の3価以上のフェノ-ル類から誘導されるグリシジルエ-テル化合物等を挙げることができる。これらの中から1種類乃至2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
樹脂粒子を樹脂エマルションとして得る場合、樹脂エマルションは、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造することができる。
【0044】
(ナノファイバー)
ナノファイバーは、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10以上であり、通常10000以下である。また、ナノファイバーは、平均繊維径の下限値が1nm以上であり、2nm以上であることが好ましく、また、上限値が500nm以下であり、200nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。ナノファイバーの平均繊維長は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることがさらに好ましく、また、100μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることがさらに好ましい。平均アスペクト比は、得られた平均繊維長及び平均繊維径に基づいて算出する。
【0045】
ナノファイバーの平均繊維長は、次のようにして算出することができる。ナノファイバーをマイカ切片上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、マイカ切片上に固定された200本の繊維長を測定し、長さ(加重)平均繊維長を算出する。なお、繊維長の測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて、任意の長さの範囲で行う。
【0046】
また、ナノファイバーの平均繊維径は、次のようにして算出することができる。ナノファイバーの濃度が0.001質量%となるように希釈したナノファイバー分散液を調製する。この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、加熱乾燥させて観察用試料を作製する。この観察用試料を原子間力顕微鏡(AFM)によって観察して形状像の断面高さを計測し、加重平均繊維径を算出することができる。
【0047】
ナノファイバーとしては、例えば、セルロースナノファイバー等の天然高分子系ナノファイバー、ポリアミド樹脂ナノファイバー等合成高分子系ナノファイバー等の有機ナノファイバー;水酸化アルミニウムナノファイバー、アルミナナノファイバー、シリカナノファイバー、ケイ酸アルミニウムナノファイバー、チタニアナノファイバー、ジルコニアナノファイバー、カーボンナノファイバー等の無機ナノファイバー;これらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上のファイバーであることが好ましい。ナノファイバーは、セルロースナノファイバー及び水酸化アルミニウムナノファイバーのうち少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0048】
セルロースナノファイバーをなすセルロースは、多数のβ-グルコースの縮合重合により、β-グルコースの1位の水酸基と4位の水酸基とが結合したβグルコース単位を有する。セルロースナノファイバーとしては、カルボキシレート基を有するセルロースナノファイバー、カルボキシレート基を有しないセルロースナノファイバー、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0049】
カルボキシレート基含有セルロースナノファイバーとしては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシルラジカル)等のニトロキシラジカル種を触媒とする酸化反応によって、セルロースのミクロフィブリル表面のβ-グルコース単位の6位がカルボキシル基(-COOH)又はカルボキシナトリウム基(-COONa)に酸化されたもの(以下、「酸化セルロースナノファイバー」ということがある。)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。CMCは、セルロースのミクロフィブリル表面のβ-グルコース単位の2位、3位、6位の少なくともいずれかの位置の水酸基が、カルボキシメチル基(-CH-COOH)又はカルボキシメチルナトリウム基(-CH-COONa)に置換されたものである。また、カルボキシレート基を有しないセルロースナノファイバーは、化学処理を行わず、物理処理のみで微細化することによって得ることができる。
【0050】
セルロースナノファイバーは、還元型酸化セルロースナノファイバーであってもよい。還元型酸化セルロースナノファイバーは、例えば、上記した酸化セルロースナノファイバーを還元処理することによって得ることができる。この還元処理により、β-グルコース単位の2位及び3位にケトン基を有する酸化セルロースナノファイバーや、このケトン基に加えてβ-グルコース単位の6位にアルデヒド基を有する酸化セルロースナノファイバーにおける、ケトン基及び/又はアルデヒド基の少なくとも一部をアルコール性水酸基に変換した還元型酸化セルロースナノファイバーが得られる。なお、上記のケトン基は、酸化セルロースナノファイバーを得る際の酸化反応の副反応により生成するものであり、上記のアルデヒド基は、酸化反応の条件によって生成するものである。還元型酸化セルロースナノファイバーにおけるケトン基の量、又は、ケトン基及びアルデヒド基の量は、還元工程前の酸化セルロースナノファイバーにおける上記量よりも少なくなる。還元型酸化セルロースナノファイバーは、例えば、特開2017-2135号公報に記載の方法によって製造することができる。
【0051】
ポリアミド樹脂ナノファイバー、水酸化アルミニウムナノファイバー、アルミナナノファイバー、シリカナノファイバー、ケイ酸アルミニウムナノファイバー、チタニアナノファイバー、ジルコニアナノファイバーは、例えば、公知のエレクトロスピニング法等によって製造したものを用いることができる。また、カーボンナノファイバーは、例えば、遷移金属のナノ粒子を触媒として用いて、炭化水素からCVD法によって製造する方法等の公知の方法によって製造したものを用いることができる。
【0052】
ナノファイバーは負電荷を有することが好ましい。負電荷を有するナノファイバーとしては、カルボキシレート基含有セルロースナノファイバーや、ナノファイバーに公知の方法によって負電荷を導入したものを挙げることができる。ナノファイバーが負電荷を有し、樹脂粒子が負電荷を有することにより、ナノファイバーと樹脂粒子との間に斥力が働くため、水性樹脂組成物中においてナノファイバー及び樹脂成分の分散安定性を高めることができると考えられる。
【0053】
ナノファイバーを含む評価用試料(S)のゼータ電位ζfiberは、-20mV以下であることが好ましく、-23mV以下であることがより好ましく、-25mV以下であることがさらに好ましく、-30mV以下であることがさらにより好ましい。ナノファイバーを含む評価用試料(S)のゼータ電位ζfiberと、樹脂粒子を含む評価用試料(S)のゼータ電位ζparticleとは、上記した式(1)の関係にあることが好ましい。ナノファイバーの水分散体のpHは、水酸化ナトリウム水溶液等によって調整することができる。ナノファイバーを含む評価用試料(S)、及び、評価用試料(S)ゼータ電位ζfiberは、後述の実施例で説明する測定方法によって測定することができる。
【0054】
(水性媒体)
水性媒体は、水単独、又は、水を主成分とし水と混和性のある成分を含む混合溶媒である。混和性のある成分としては、アルコール系溶媒等の有機溶媒を挙げることができる。なお、「主成分」とは、溶媒をなす成分のうち最も含有量(質量%)の多い成分をいう。
【0055】
(その他の成分)
水性樹脂組成物には、必要に応じて一般的な添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃剤、可塑剤、難燃助剤、耐光性改良剤、スリップ剤、無機充填剤、有機充填剤、強化材、顔料や染料等の着色剤、離型剤、抗菌剤、抗かび剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を、単独で又は2種以上を混合して添加することができる。
【0056】
(水性樹脂組成物の製造方法)
水性樹脂組成物は、樹脂粒子とナノファイバーと水性媒体とを混合することによって得ることができる。樹脂粒子は、水性媒体に分散した樹脂エマルションの形態であってもよく、ナノファイバーは、水性媒体に分散したナノファイバー分散体の形態であってもよい。この場合、樹脂エマルションに用いる水性媒体と、ナノファイバー分散体に用いる水性媒体とは、同じであってもよく異なっていてもよい。水性樹脂組成物は、例えば、ナノファイバー分散体に、樹脂エマルション又は樹脂粒子を添加する方法、樹脂エマルションにナノファイバー又はナノファイバー分散体を添加する方法等を挙げることができるが、ナノファイバーの水分散体に樹脂エマルジョンを添加することが好ましい。樹脂粒子とナノファイバーと水性媒体との混合は、公知の撹拌機を使用して行うことができ、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、グラインダー、超音波装置等によって行うことができる。
【0057】
樹脂粒子とナノファイバーと水性媒体とを撹拌するときの温度は、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、60℃以上であることが最も好ましく、また、90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。また、上記した3成分の撹拌は、通常100rpm以上であり、300rpm以上であることが好ましく、500rpm以上であることがより好ましく、1000rpm以上であることがさらに好ましく、また、通常10000rpm以下であり、7000rpm以下であることが好ましく、5000rpm以下であることがより好ましく、4000rpm以下であることがさらに好ましい。
【0058】
(成形体)
成形体は、水性樹脂組成物を用いて作製することができる。成形体は、例えば、水性樹脂組成物を乾燥し、水性媒体を除去して得ることができる。
【0059】
また、成形体は、樹脂粒子とナノファイバーとを含み、
樹脂粒子の濃度が30質量%である樹脂エマルションの光線透過率は、波長600nmにおいて80%以上であるとともに、波長400nmにおいて40%以上であり、
ナノファイバーは、平均アスペクト比が10以上であるとともに、平均繊維径が1nm以上50nm以下であるものであってもよい。樹脂粒子は、1次粒子径が1nm以上60nm以下であることが好ましい。樹脂粒子及びナノファイバーの説明については、上記した説明と同様である。
【0060】
成形体は、粒子状、顆粒状、ペレット状、フィルム状、板状、球状、円柱状、角柱状、円錐状、角錐状等の所望の形状に成形した成形体とすることができる。成形体は、例えば、水性樹脂組成物を基板表面にスプレー等により塗布し、乾燥してフィルム状の成形体を形成する方法、水性樹脂組成物を成形型に投入し、乾燥して所定形状の成形体を形成する方法、水性樹脂組成物を脱揮押出機に投入して製膜してフィルム状の成形体を形成する方法等によって作製することができる。
【0061】
成形体は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造を有する成形体では、水性樹脂組成物を用いて作製された層を複数積層したものであってもよく、水性樹脂組成物を用いて作製された層と水性樹脂組成物以外の他の樹脂組成物を用いた層とを積層したものであってもよい。多層構造の成形体を製造する際には、ディッピング法、スプレー法、スピンコート法、バーコート法等によって他の層を形成してもよく、共押出し法により多層構造の成形体を製造してもよい。
【0062】
成形体は、厚み300μmのフィルム形状とした場合の波長400nmにおける光線透過率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。また、成形体は、厚み300μmのフィルム形状とした場合の波長600nmにおける光線透過率が85%以上であることが好ましく、87%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。これにより、光線透過率に優れた成形体を得ることができる。成形体の光線透過率は、成形体の厚み方向の光線透過率を分光光度計を用いて測定することができる。
【0063】
上記の成形体は、室温~200℃の範囲で測定した線膨張率が小さいため、温度変化を伴う環境下において使用された場合にも、形状変化や寸法変化を抑制することができる。特に、樹脂エマルション(A)の光線透過率が、波長600nmにおいて80%以上であるとともに波長400nmにおいて40%以上である水性樹脂組成物を用いることにより、光線透過率及び線膨張率に優れる成形体を得ることができる。また、樹脂粒子として1次粒子径が1nm以上60nm以下であるものを用いることにより、高い光線透過率を有し、線膨張率が小さい成形体を製造しやすくなる。さらに、樹脂粒子を含む評価用試料(S)のゼータ電位ζparticle、及び、ナノファイバーを含む評価用試料(S)のゼータ電位ζfiberが-20mV以下であるとともに、上記した式(1)の関係を満たす水性樹脂組成物により、高い光線透過率を有し、線膨張率が小さい成形体を製造しやすくなる。
【0064】
また、成形体は、250μmの領域を走査型電子顕微鏡で観察したときに、1μm以上のナノファイバーの凝集体が1個以下であることが好ましい。ナノファイバーの凝集体の大きさの上限値は、例えば100μm以下であり、好ましくは50μm以下である。これよりも大きな凝集体が存在すると、透明性が損なわれることがある。したがって、100μm超の凝集体は0個であることが好ましく、50μm超の凝集体は0個であることがより好ましい。
【0065】
ナノファイバーの凝集体は、250μmの領域を走査型電子顕微鏡で観察したときに、0.75μm以上の凝集体が1個以下であることが好ましく、0.50μm以上の凝集体が1個以下であることがより好ましく、0.40μm以上のナノファイバーの凝集体が1個以下であることがさらに好ましい。この場合の凝集体の大きさの上限値も、上記のとおり、例えば100μm以下であり、好ましくは50μm以下である。
【0066】
成形体は、4μmの領域を走査型電子顕微鏡で観察したときに、ナノファイバー間の距離が、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、また、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることがさらにより好ましく、400nm以下であってもよいし、300nm以下であってもよい。ナノファイバー間の距離が大きくなると線膨張率を低減しにくくなり、ナノファイバー間の距離が小さすぎると成形体が脆くなることがある。
【0067】
さらに、成形体は、樹脂粒子とナノファイバーとを含み、成形体の線膨張率が、温度90℃以上100℃以下の範囲において50ppm/K以下であり、温度190℃以上200℃以下の範囲において70ppm/K以下であるものであってもよい。成形体の線膨張率は、温度90℃以上100℃以下の範囲において45ppm/K以下であることが好ましく、40ppm/K以下であることがより好ましく、また、温度190℃以上200℃以下の範囲において、60ppm/K以下であることが好ましく、50ppm/K以下であることがより好ましい。成形体の線膨張率は、後述する実施例で説明する測定方法によって測定することができる。
【実施例
【0068】
以下の実施例及び比較例では、次のように評価を行った。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特に断りのない限り質量基準である。
【0069】
[樹脂エマルションの光線透過率の測定]
樹脂粒子の濃度が30質量%となるように水に分散した樹脂エマルションを用意した。用意した樹脂エマルションを光路長1cmの石英セルに入れ、波長300nm~800nmにおける光線透過率を分光光度計U-4100((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。
【0070】
[樹脂粒子の1次粒子径の測定]
動的光散乱式粒径分布測定装置(「FPAR-1000」大塚電子(株)製)を用い、水性樹脂組成物中の粒子の1次粒子径が測定できるように水性樹脂組成物を水で希釈して、水性樹脂組成物中の粒子の1次粒子径(平均粒子径)を測定した。
【0071】
[ナノファイバーの平均繊維径(nm)の測定]
セルロースナノファイバーの濃度が0.001質量%となるように希釈したセルロースナノファイバー水分散液を調製した。この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作製した。この観察用試料を原子間力顕微鏡(AFM)で観察して形状像の断面高さを計測し、加重平均繊維径(nm)を算出した。
【0072】
[ナノファイバーの平均アスペクト比の測定]
ナノファイバーの平均繊維長(nm)は、次のようにして測定した。セルロースナノファイバーをマイカ切片上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、マイカ切片上に固定された200本の繊維長を測定し、長さ(加重)平均繊維長を算出した。なお、繊維長の測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて行った。得られたナノファイバーの平均繊維長(nm)と上記で測定したナノファイバーの平均繊維径(nm)とから、ナノファイバーの平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を算出した。
【0073】
[樹脂粒子を含む評価用試料(S)のゼータ電位ζparticleの測定]
(評価用試料(S)の準備)
約pH6の超純水に塩化ナトリウムを加えて10mMの塩化ナトリウム水溶液を調製した。この塩化ナトリウム水溶液に、0.1N又は0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを7に調整したpH調整液を得た。このpH調整液10mLに対し、樹脂粒子の濃度が0.12質量%となるように樹脂エマルションを混合して調製した電気泳動液を作製し評価用試料(S)とした。
【0074】
(ゼータ電位ζparticleの測定)
評価用試料(S)を用いて、下記の測定条件でゼータ電位ζparticleを測定した。
・測定装置:Nano Particle Analyzer SZ-100(HORIBA製)
・測定セル:フローセルユニット
・測定法:レーザードップラー法
・平均電場:約16V/cm
・移動度測定:測定セルの下端から、0.15mm、0.325mm、0.5mm、0.675mm、0.85mmの5ポイントにおいて測定
・積算:移動度測定の各ポイントで3回
・真の移動度:森・岡本の式より計算
・ゼータ電位計算:Smoluchowski法
・測定温度:約25℃。
【0075】
[ナノファイバーのゼータ電位ζfiberの測定]
pH調整液に添加する成分を、樹脂エマルションに代えて、ナノファイバーの濃度が1質量%であるナノファイバーの水分散体として、ナノファイバーの濃度が0.12質量%となるように調製した電気泳動液を作製したこと以外は、上記(評価用試料(S)の準備)と同様の手順で評価用試料(S)を得た。得られた評価用試料(S)を用いて、上記(ゼータ電位ζparticleの測定)に記載した測定条件でゼータ電位ζfiberを測定した。
【0076】
[成形体の光線透過率]
作製した厚み300μmの成形体を縦50mm、横50mmの大きさにカットし、分光光度計U-4100((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、カットした成形体の厚み方向における波長600nm及び400nmの光線透過率を測定した。
【0077】
[成形体の線膨張率の測定]
作製した厚み300μmの成形体を縦20mm、横5mmの大きさにカットし、70℃の真空乾燥オーブンにて24時間以上真空乾燥した。真空乾燥した成形体について、セイコーインスツル(株)社製 TMA6100型を用い、引張モードにて、90~100℃(90℃以上100℃以下)及び190~200℃(190℃以上200℃以下)の範囲における線膨張率を測定した。この際、昇温速度を5℃/minとし、50mL/minの流量で窒素を供給しながら窒素雰囲気下で測定を行った。
【0078】
[成形体中のナノファイバーの観察]
作製した厚み300μmの成形体を適当な大きさに切り出した切片を、0.5%四酸化ルテニウム水溶液に室温で12時間浸漬して、成形体中のナノファイバーを染色した後、ミクロトームを用いて厚み約100nmとなるように成形体の透過電子顕微鏡観察用薄片を作製して、観察用サンプルを得た。観察用サンプルを、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(S-4800、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、加速電圧30kV、倍率5000倍及び50000倍の条件で、それぞれ10視野について撮影を行い、電子顕微鏡画像を得た。得られた電子顕微鏡画像を用いて、次の手順でナノファイバーの凝集体の個数を算出し、ナノファイバー間の距離を測定した。
【0079】
(ナノファイバーの凝集体の個数)
倍率5000倍で、250μmの領域を観察した10視野の電子顕微鏡画像において、面積1μm以上のナノファイバーの凝集体の個数を数えた。なお、凝集体の面積は、電子顕微鏡画像において黒く表れた部分の面積であり、面積の算出にあたっては、この黒く表れた部分が円形状であると仮定し、画像中の黒く表れた部分において最大径及び最小径となる部分の長さを測定し、両者の長さを足し合わせて2で除したものが直径であると仮定して、面積を算出した。
【0080】
(ナノファイバー間の距離)
倍率50000倍で、4μmの領域を観察した10視野の電子顕微鏡画像のそれぞれに対し、画像中のナノファイバーとして現れた部分の割合が、その添加割合に等しくなるように二値化処理を施した。次いで、二値化処理を施した画像において、ナノファイバーが最も配向している方向に対して直交する線(以下、「直交線」という。)を任意の箇所に、任意の本数引き、それぞれの直交線と交わるナノファイバーについて、各直交線上で隣り合うナノファイバー同士の間の距離を、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて算出した。このとき、隣り合うナノファイバー同士の間の距離は、ナノファイバーの直交線の方向の長さ(ナノファイバーの幅)の中点間の距離として算出した。1つの直交線上において少なくとも任意の10箇所を含むようにして、合計100箇所について隣り合うナノファイバー同士の間の距離を算出し、その平均値をナノファイバー間の距離とした。
【0081】
〔実施例1〕
(ナノファイバーの製造)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gとを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。次いで次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムが消費され、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。
【0082】
上記の工程で得られた酸化パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、カルボキシレート基含有セルロースナノファイバーの水分散体1(以下、「ナノファイバーの水分散体1」ということがある。)を得た。得られた繊維について、上記した手順で、平均繊維径、平均アスペクト比、ゼータ電位ζfiberを測定した。その結果、平均繊維径が4nm、平均繊維長500nm、平均アスペクト比が125、ζfiberが-36.3mVであった。
【0083】
(水性樹脂組成物の製造)
上記で得られたナノファイバーの水分散体1を温度80℃で1時間撹拌した後、ナノファイバーの水分散体1の撹拌を行いながら、ウレタン系樹脂の樹脂粒子を含む樹脂エマルション(a)(ユーコートUWS-145、三洋化成社製)を滴下した。その後、さらに温度80℃で1時間撹拌して、室温に冷却して水性樹脂組成物を得た。上記ナノファイバーの水分散体1及び上記樹脂エマルションは、水性樹脂組成物の固形分100質量部に対して、ナノファイバーが5質量部、樹脂粒子が95質量部となるように用いた。用いた樹脂エマルション(a)の1次粒子径、光線透過率、及びゼータ電位ζparticleを、上記した手順で測定し、ζparticle/ζfiberを算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0084】
(成形体の製造)
得られた水性樹脂組成物をシャーレに投入し、温度50℃で水性媒体を除去し、厚み300μmのフィルム状の成形体を得た。得られた成形体について、上記した手順で、光線透過率及び線膨張率を測定した。その結果を表2に示す。
【0085】
〔実施例2〕
水性樹脂組成物の固形分100質量部に対して、ナノファイバーが10質量部、樹脂粒子が90質量部となるように、上記ナノファイバーの水分散体1及び上記樹脂ラテックス(a)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水性樹脂組成物及び成形体を得た。用いた樹脂エマルションの1次粒子径、光線透過率、及びゼータ電位ζparticle、成形体の光線透過率及び線膨張率を、上記した手順で測定し、ζparticle/ζfiberを算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0086】
また、実施例2で得られた成形体を用い、上記した[成形体中のナノファイバーの観察]の手順にしたがって電子顕微鏡画像を撮影を行った。10視野から得られた電子顕微鏡画像は、いずれもほぼ同じ画像であることを確認した。得られた電子顕微鏡画像のうち代表的な画像を、図1(a)及び(b)(それぞれ倍率は、5000倍及び50000倍)に示す。また、上記した手順にしたがって算出した直径が1μm以上のナノファイバーの凝集体の個数は0個であり、ナノファイバー間の距離は、140nmであった。
【0087】
〔比較例1~4〕
樹脂ラテックスとして表2に示す樹脂ラテックス(b)~(e)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性樹脂組成物及び成形体を得た。用いた樹脂エマルションの1次粒子径、光線透過率、及びゼータ電位ζparticle、成形体の光線透過率及び線膨張率を、上記した手順で測定し、ζparticle/ζfiberを算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0088】
〔実施例3〕
(ナノファイバーの製造)
実施例1で得た「ナノファイバーの水分散体1」のpHを、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10に調整した後、セルロースナノファイバーの固形分100質量%に対して2.5質量%の水素化ホウ素ナトリウムを加え、室温(20~25℃)で撹拌しながら反応を24時間行い、還元型セルロースナノファイバー分散体を得た。この還元型セルロースナノファイバー分散体を、105℃の恒温乾燥機中で3~4時間乾燥させ、還元型セルロースナノファイバーの乾燥固形物を得た。さらにこの還元型セルロースナノファイバーの乾燥固形物を水に懸濁して、固形分含量が1質量%のスラリーを調製した。得られたスラリーを、ホモミキサーを用いて6000rpmで10分間撹拌し、固形分含量が1質量%の再分散後の還元型セルロースナノファイバー分散体(ナノファイバーの水分散体2)を得た。得られた繊維について、上記した手順で、平均繊維径、平均アスペクト比、ゼータ電位ζfiberを測定した。その結果、平均繊維径が4nm、平均繊維長が500nm、アスペクト比が125、ζfiberが-42.7mVであった。
【0089】
(水性樹脂組成物の製造)
ナノファイバーの水分散体として、上記で得られた還元されたセルロースナノファイバーの水分散体を用いこと以外は実施例2と同様にして水性樹脂組成物及び成形体を得た。用いた樹脂エマルションの1次粒子径、光線透過率、及びゼータ電位ζparticle、成形体の光線透過率及び線膨張率を、上記した手順で測定し、ζparticle/ζfiberを算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0090】
〔比較例5〕
実施例3で得られた還元されたセルロースナノファイバーの水分散体を用い、樹脂ラテックスとして表2に示す樹脂ラテックス(b)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性樹脂組成物及び成形体を得た。用いた樹脂エマルションの1次粒子径、光線透過率、及びゼータ電位ζparticle、成形体の光線透過率及び線膨張率を、上記した手順で測定し、ζparticle/ζfiberを算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0091】
なお、表1及び表2中の樹脂エマルション(a)~(e)は、いずれもウレタン系樹脂を含む樹脂エマルションであり、それぞれ、
樹脂エマルション(a):ユーコートUWS-145、三洋化成社製、アニオン性
樹脂エマルション(b):スーパーフレックス460、第一工業製薬社製、アニオン性
樹脂エマルション(c):パーマリンUA-150、三洋化成社製、アニオン性
樹脂エマルション(d):スーパーフレックス420NS、第一工業製薬社製、アニオン性
樹脂エマルション(e):スーパーフレックス300、第一工業製薬社製、アニオン性を表す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表2に示すように、実施例1~3では、600nm及び400nmにおける光線透過率に優れ、90~100℃の範囲及び190~200℃の範囲における線膨張率に優れた成形体が得られることがわかる。また、電子顕微鏡画像(図1(a),(b)を参照。)を用いて成形体を観察した結果から、実施例2で得られた成形体は、成形体中でのナノファイバーの分散性に優れていることがわかる。
図1