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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20221021BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021514762
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2019016720
(87)【国際公開番号】W WO2020213145
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 諒
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-294185(JP,A)
【文献】特開2001-256480(JP,A)
【文献】特開2008-124625(JP,A)
【文献】特開2015-094973(JP,A)
【文献】特開2016-178037(JP,A)
【文献】特開2019-008599(JP,A)
【文献】国際公開第2003/044821(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射し、前記試料の情報を画像化する撮像装置と、
前記撮像装置を用いて同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像を記憶するメモリ、および画像処理を実行するプロセッサを備えたコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像について、教師無しの機械学習によって、画像群に分類し、基準画像を含む画像群を、劣化を含まない画像群とし、
前記劣化を含まない画像群を画像積算し、
前記画像積算によって得られた画像を出力する、
荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
ユーザーの入力を受けつける操作装置、およびグラフィカル・ユーザー・インタフェースを表示する表示装置を備え、
前記コンピュータは、前記画像群の各画像群についての識別情報を付与して、前記画像群および前記識別情報を前記表示装置の画面に表示する、
荷電粒子線装置。
【請求項3】
荷電粒子線を試料に照射し、前記試料の情報を画像化する撮像装置と、
前記撮像装置を用いて同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像を記憶するメモリ、および画像処理を実行するプロセッサを備えたコンピュータと、
ユーザーの入力を受けつける操作装置、およびグラフィカル・ユーザー・インタフェースを表示する表示装置と、
を備え、
前記コンピュータは、
前記同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像について、教師有りの機械学習によって、劣化を含む画像と、劣化を含まない画像と、に分類し、
前記劣化を含まない画像を画像積算し、
前記画像積算によって得られた画像を出力し、
前記教師有りの機械学習に係わる誤り訂正を行うための情報を前記表示装置の画面に表示し、
前記画面に対する前記ユーザーの操作に基づいて、または、前記機械学習のモデルによる判断に基づいて、過去に得た前記劣化を含む画像と、前記劣化を含まない画像と、を入力とした前記教師有りの機械学習を行わせる、
荷電粒子線装置。
【請求項4】
荷電粒子線を試料に照射し、前記試料の情報を画像化する撮像装置と、
前記撮像装置を用いて同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像を記憶するメモリ、および画像処理を実行するプロセッサを備えたコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像について、劣化を含む画像と、劣化を含まない画像と、に分類し、
前記劣化を含まない画像を画像積算し、
前記画像積算によって得られた画像を出力し、
前記コンピュータは、ユーザーの操作に依らずに、前記同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像について、全て選択して前記画像積算をして生成した積算画像と、前記各画像を選択や非選択とする各パターンに応じて前記画像積算をして生成した各積算画像とを比較して画質を評価し、前記評価に基づいて、これらの複数の積算画像から選択した積算画像を出力する、
荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項3に記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータは、前記分類によって得られた、基準画像を含む画像群について、前記ユーザーの操作に基づいて、前記基準画像を含む画像群における画像を再選択する機能を有する、
荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項3記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータは、前記教師有りの機械学習を用いて前記画像積算を行う機能について、一定期間を超えても、前記劣化を含む画像と前記劣化を含まない画像との分類が更新されない場合には、前記機能をオフにするように切り替える、
荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置の技術に関し、撮像技術に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置として、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置等がある。荷電粒子線装置は、対象とする試料に荷電粒子線を照射することにより、試料の観察や分析を行う。例えば、走査型電子顕微鏡は、荷電粒子線として電子線を用い、細く絞った電子線(プローブ)を試料上に走査することで発生する2次電子及び反射電子等の検出信号を画像化する装置である。
【0003】
上記荷電粒子線装置の画像化に用いる検出信号(例えば試料の照射面から放出された2次電子を収集、増幅した後の信号)は、その特性によりノイズ成分が多くなる。そのため、同じ領域の画像を複数枚積算して、不規則に生じるノイズ(ランダムノイズ)を抑制する技術が知られている。先行技術例として、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、ランダムノイズを抑制する積算過程で違和感をなくすために、積算画像の濃淡値を正規化して、観察している視野の明るさを保つ正規化積算を実行する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/090204号公報
【文献】特許第4301385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、SEMにおける撮影(記録媒体へ画像を記録すること)では、同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像(走査画像と記載する場合がある)を積算することで、ランダムノイズを抑制した目的画像を得ることができる。この複数回走査する時間は、検出信号量に寄与するため、ダイナミックレンジが広く、数十ミリ秒~数百秒を要する。積算画像を生成する間、SEMおよび対象とする試料ともに、高い精度で安定した状態を維持しなければ、目的画像には、シャープネス(鮮鋭度)に関して画質劣化が生じる。
【0006】
しかし、SEMおよび対象とする試料ともに、ビーム照射による試料の状態遷移や、据付環境下の外乱によって、疎外される。例えば、ビーム照射による試料の状態遷移の場合、チャージアップ(帯電)やコンタミネーション(汚染)によって、電子やガス分子が集まり、ビーム照射を妨げる。据付環境下の外乱の場合、外乱(音波や電磁波を含む据付環境の振動)が鏡筒やステージに伝わり、試料上を走査するプローブの位置がずれる。他にも、熱ドリフトやステージドリフトによって、走査の度に視野位置が移動する。プローブ電流の低下によって、2次電子の信号量が減少する。真空度の低下によって、プローブが大気中に存在するガスと衝突することにより散乱する。上記のような各種の現象が発生しうる。
【0007】
操作者であるユーザーは、良好な画質の目的画像を得るために、トライアンドエラーにより、画質劣化要因が現れにくい荷電粒子線装置の撮影条件を探索する。このトライアンドエラーは、想定以上の操作時間を要してしまうこともあり、試料の損傷やスループット低下を引き起こしている。
【0008】
これらの現象の影響を受けた画像を含む走査画像を、積算して得られる積算画像は、ランダムノイズに関しては抑制されるものの、鮮鋭度に関して画質劣化が生じる。特許文献2では、同一の視野から順次取得したある画像と、次の画像とで一致する位置を計算し、計算された位置で積算することが述べられている。この技術は、画像毎のドリフトによる積算画像の画質劣化防止に有効である。しかし、この技術は、1枚の画像中に生じた微小なドリフトによる積算画像の画質劣化防止には、有効ではない。
【0009】
以降、これらのような積算画像の画質を劣化させる要因を、画質劣化要因と呼称する。また、画質劣化要因の影響を受けた画像を劣化画像と呼称する。
【0010】
本発明の目的は、荷電粒子線装置によって撮影する目的画像について、積算によりランダムノイズを抑制しつつ、画質劣化要因による鮮鋭度に関する画質劣化防止を図ることである。また、本発明の目的は、S/Nと鮮鋭度の高い目的画像を撮影することである。上記以外の課題、構成および効果等については、発明を実施するための形態の説明において明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のうち代表的な実施の形態は、以下に示す構成を有する。一実施の形態の荷電粒子線装置は、荷電粒子線を試料に照射し、前記試料の情報を画像化する撮像装置と、前記撮像装置を用いて同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像(走査画像)を記憶するメモリ、および画像処理を実行するプロセッサを備えたコンピュータと、を備え、前記コンピュータは、前記同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像について、劣化画像を含む第一の画像と、劣化画像を含まない第二の画像とに分類し、前記劣化画像を含まない前記第二の画像を画像積算し、前記画像積算によって得られた第三の画像を目的画像として保存する。
【0012】
また、荷電粒子線装置は、データベース(DB)を備え、前記データベースは、前記各画像と、前記各画像に伴い前記撮像装置から得られる情報(環境情報を含む)と、前記各画像の分類に係わる選択状態と、前記第三の画像とを含むデータが格納されている。
【0013】
前記コンピュータは、前記分類を含む選択処理や、前記データベースへのデータの記憶等を行う。もしくは、前記データベースは、前記コンピュータに接続された外部装置への分散としてもよい。
【0014】
操作者であるユーザーは、前記選択処理の結果を訂正することができる。前記ユーザーは、特に、画質劣化要因が発生している時の、選択処理の結果を確認する必要がある。画質劣化要因のうち、環境情報の推移から発生を特定できる要因がある。そのため、前記コンピュータは、前記走査画像と、前記環境情報のグラフと、前記選択処理の結果(選択状態)とを関連付けて画面に表示する。前記グラフで表示する項目は、前記ユーザーが劣化画像を判断できる項目が好ましい。前記項目は、例えば、撮影タイミング、プローブ電流、真空度が挙げられる。
【0015】
前記ユーザーは、荷電粒子線装置によって撮影する目的画像の画質劣化の有無を確認できる。画質劣化の目視判定が難しいものがあるため、前記コンピュータは、前記目的画像の画質評価指標値を算出し、前記目的画像と画質評価指標値とを並べて画面に表示する。画像評価値は、グラフで表示しても良い。以降、画像の品質を評価するために用いられる、客観評価法に基づいて得られる値を、画質評価指標値と呼称する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のうち代表的な実施の形態によれば、荷電粒子線装置によって撮影する目的画像について、積算によりランダムノイズを抑制しつつ、画質劣化要因による鮮鋭度に関する画質劣化防止または画質改善を図ることができる。また、本発明のうち代表的な実施の形態によれば、S/Nと鮮鋭度の高い目的画像を撮影することができる。さらに、本発明のうち代表的な実施の形態によれば、観察中の操作者の撮影条件探索による試料の損傷やスループット低下の抑制に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1の荷電粒子線装置の構成を示す図である。
図2】実施の形態1の荷電粒子線装置で、選択処理を含む画質劣化防止を図る撮影機能の処理フローを示す図である。
図3】実施の形態1の荷電粒子線装置で、走査前の設定について、ユーザーインタフェースとして表示装置に表示される画面例を示す図である。
図4】実施の形態1の荷電粒子線装置で、走査画像の表示について、ユーザーインタフェースとして表示装置に表示される画面例を示す図である。
図5】実施の形態1の荷電粒子線装置で、積算画像の表示について、ユーザーインタフェースとして表示装置に表示される画面例を示す図である。
図6】実施の形態1で、データベースの構成例を示す図である。
図7】実施の形態1の荷電粒子線装置における、画質劣化防止を図る撮影機能のデータフローを示す図である。
図8】実施の形態1の荷電粒子線装置で、選択処理について、特徴量と機械学習による分類の例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態2の荷電粒子線装置における、画質劣化防止を図る観察機能のデータフローを示す図である
図10】実施の形態2の荷電粒子線装置で、誤り訂正について、ユーザーインタフェースとして表示装置に表示される画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、全図面において同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0019】
(実施の形態1)
図1図8を用いて、本発明の実施の形態1の荷電粒子線装置について説明する。
【0020】
[荷電粒子線装置]
図1は、実施の形態1の荷電粒子線装置1の構成を示す。この荷電粒子線装置1は、SEMの場合を示す。荷電粒子線装置1は、撮像装置10、コンピュータ20、表示装置21、および操作装置22等から構成されている。ユーザーである操作者は、表示装置21および操作装置22等を通じて、荷電粒子線装置1を操作する。ユーザーは、表示装置21の画面で、例えば試料110の表面の形状や構造を観察することができる。
【0021】
撮像装置10は、SEM本体であり、公知技術による構成を適用可能である。図1の構成例では、撮像装置10は、電子銃101、コンデンサーレンズ102、偏向コイル103、対物レンズ104、検出器105、試料室のステージ106、真空ポンプ107、環境センサ108等を有する。
【0022】
真空ポンプ107によって試料室内は真空状態にされる。環境センサ108は、真空度、温度、振動、電磁波等の試料室内の状態を計測するセンサ群であり、試料室内の到達真空度の確認などに用いられる。ステージ106上には、試料110が配置される。ステージ106は、少なくとも荷電粒子線L1と垂直な面内の2方向(図示のX方向、Y方向)への移動することができ、視野位置の移動が可能である。電子銃101は、荷電粒子線L1を発生し鉛直方向(図示のZ方向)に照射する。コンデンサーレンズ102と対物レンズ104は、荷電粒子線L1を集光する。偏向コイル103は、荷電粒子線L1を図示のX方向およびY方向に偏向させることで、試料110の表面に対する荷電粒子線L1の走査を実現する。検出器105は、試料110からの2次電子L2の信号を検出し、信号増幅器で増幅した後、コンピュータ20へ転送する。
【0023】
コンピュータ20は、SEMの制御装置であり、撮像装置10の各部に対する駆動等の制御を行う。コンピュータ20は、プロセッサ201、メモリ202、入出力インタフェース部203等を備え、それらがバスに接続されている。
【0024】
入出力インタフェース部203には表示装置21や操作装置22等が接続されている。コンピュータ20は、表示装置21の画面に、SEMの機能を利用するためのグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を表示する。荷電粒子線装置1は、操作装置22を通じて、ユーザーの入力操作を受け付ける。操作装置22は、キーボードやマウス等がある。
【0025】
撮像装置10から入出力インタフェース部203へ信号が転送される度に、プロセッサ201はメモリ202に2次元画像を構成する。荷電粒子線装置1は、GUIに最新の2次元画像(観察画像と記載する場合がある)を表示する観察機能を有する。また、プロセッサ201は、目的画像の記憶に適した条件を撮像装置10に設定し、画像処理や情報付加等を行う。荷電粒子線装置1は、これによって得られた目的画像をメモリ202(記憶媒体)に保存する撮影機能を有する。
【0026】
なお、上記構成に限らず、入出力インタフェース部203に対し、外部のストレージやサーバ等の装置が通信で接続され、各々のコンピュータ資源を利用して演算、制御、データの記憶等を行う構成としてもよい。また、複数のユーザーや複数の表示装置21が存在してもよい。
【0027】
[処理フロー]
図2は、実施の形態1の荷電粒子線装置1のコンピュータ20による、選択処理を含む画質劣化防止を図る撮影機能の処理フローを示し、ステップS1~S9を有する。以下、ステップの順に説明する。
【0028】
ステップS1で、コンピュータ20は、ユーザーの操作に基づいて、予め、走査前の設定を受け付ける。この設定は、例えば、後述の図3のGUIを用いる。この設定は、デフォルト設定値を利用してもよい。この設定は、走査画像を得るための走査回数Nの設定を含む。荷電粒子線装置1は、ユーザーの指示により、走査を開始する。コンピュータ20は、走査前の設定に従い、撮像装置10の走査を制御する。なお、撮像装置10に走査前に設定しなければならない項目については、このステップS1で設定する。この設定では、例えば、後述のステップS5とステップS7のスキップを設定し、走査を開始してから、目的画像を保存するまで、操作者であるユーザーが介在しないことを指定できる。
【0029】
ステップS2で、コンピュータ20は、1回の走査で得られた画像と環境情報を保存する。図1の撮像装置10は、コンピュータ20からの制御に従って、試料110の表面に対する荷電粒子線L1の走査をし、検出器105で得られた信号が、コンピュータ20へ転送される。プロセッサ201は、信号が転送される度に2次元画像を構成し、メモリ202に記憶する。プロセッサ201は、走査画像について、ID等の管理用の情報、および、撮像装置10から得られる環境情報を紐づけてデータベース(後述の図6の走査画像DB)とし、メモリ202に記憶する。
【0030】
ステップS3で、コンピュータ20は、走査回数Nに基づいて、荷電粒子線L1の走査の終了を判定する。コンピュータ20は、ステップS2の実施回数がN回に達しているか判定する。N回に達していると判定された場合(Y)にはステップS4へ進み、撮像装置10の走査を終了させる。N回に達していないと判定された場合(N)にはステップS2へ戻り、撮像装置10の走査を続行させる。
【0031】
ステップS4で、コンピュータ20は、選択処理の実行により、走査画像を、劣化画像を含むものとそうでないものに分類する。プロセッサ201は、走査画像DBを参照し、ステップS2で得た走査画像に対して、選択処理を実行する。選択処理の結果は、ID等の管理用の情報を紐づけてデータベース(後述の図6の選択状態DB)とし、メモリ202に記憶する。選択処理の具体的な実施例は、後述の[撮影機能におけるデータフロー]で記載する。
【0032】
ステップS5で、コンピュータ20は、ステップS2~ステップS4で得られた結果を表示装置21に表示する。ここでの結果とは、主に、走査画像と走査中の環境情報、そして、選択処理の出力である選択状態を指し、走査画像DBと選択状態DBを参照することで得られる。この表示には、例えば、後述の図4のGUIを用いる。
【0033】
また、操作者であるユーザーは、ステップS4の選択処理によって決定された選択状態のうち適切でない項目があれば、操作装置22を通じて、GUIに訂正の入力が可能である。コンピュータ20は、訂正の入力に応じて、選択状態DBを更新する。
【0034】
ステップS6で、コンピュータ20は、積算処理の実行により、ランダムノイズを抑制した積算画像を得る。プロセッサ201は、選択状態DBを参照し、選択状態が選択である画像に対して、積算処理を実行する。積算処理の結果は、ID等の管理用の情報、および、積算画像を評価するための画質評価指標値を紐づけてデータベース(後述の図6の積算画像DB)とし、メモリ202に記憶する。画質評価指標値は、例えば、ラインプロファイル、鮮鋭度、粒状度であり、プロセッサ201は、積算画像に対して、それぞれを得るため画像処理を実行する。積算処理の具体的な実施例は、後述の[撮影機能におけるデータフロー]で記載する。
【0035】
ステップS7で、コンピュータ20は、ステップS6で得られた結果を表示装置21に表示する。ここでの結果とは、主に、積算処理の出力である積算画像、そして、積算画像を評価するための画質評価指標値を指し、積算画像DBを参照することで得られる。この表示には、例えば、後述の図5のGUIを用いる。
【0036】
ステップS8で、コンピュータ20は、ステップS6で得られた結果に、操作者であるユーザーが満足しているかそうでないか入力を受け付ける。言い換えると、ステップS8は、ユーザーによる再選択が不要かどうかの確認である。ここでの結果は、ステップS7で表示装置21に表示してある。満足している場合(Y)にはステップSへ進み、満足していない場合(N)にはステップS5へ戻って、選択状態を訂正し直すことが可能である。この表示には、例えば、後述の図5のGUIを用いる。
【0037】
ステップS9で、コンピュータ20は、ステップS6で得られた積算画像を目的画像として記録媒体へ記録し、一連の処理フローを終了する。目的画像は、ユーザーが任意に指定した場所、名称で保存することができる。記録媒体として、例えば、コンピュータ20に内蔵されているメモリ202がある。もしくは、入出力インタフェース部203を通じて、外部ストレージ(DVD、フラッシュメモリ等)やネットワーク上のストレージへ記録することができる。なお、荷電粒子線装置1は、記録するデータに対し、トレーサビリティを確保できるように積算画像DBと紐づけた情報を付加する(その情報は必要であれば走査画像DBと選択状態DBの情報も含む)。
【0038】
[撮影機能におけるGUI]
図3は、実施の形態1の荷電粒子線装置1の走査前の設定について、ユーザーインタフェースとして表示装置21に表示される画面の一例である。この「走査前の設定」の画面は、「走査の設定」の項目(対応する各設定部)として、回数設定部302、間隔設定部303、解像度設定部304、画素滞在時間設定部305を有する。
【0039】
走査開始ボタン301は、ユーザーが走査開始を指示できるボタンである。走査開始ボタン301の押下により、荷電粒子線装置1は、走査前の設定となるよう撮像装置10を制御し、ステップS1からステップS2へ移行する。また、ステップS4まで終了すると、荷電粒子線装置1は、図4の画面を表示する。
【0040】
回数設定部302は、走査画像を得るための走査回数を指定できる項目である。回数設定部302で設定したNは、ステップS3の判定に用いるNである。間隔設定部303は、複数回の走査について、各走査の間隔を指定できる項目である。荷電粒子線装置1は、走査が1回完了した際に、図1の試料110の表面に荷電粒子線L1が照射されないように制御し、間隔設定部303で設定した間隔だけ休止する。この後、荷電粒子線装置1は、再び走査をはじめ、走査と休止を繰り返して、走査画像を得る。解像度設定部304は、走査によって得られる画像の解像度を指定できる項目である。画素滞在時間設定部305は、走査によって得られる画像について、1画素当たりに荷電粒子線L1が照射される時間を指定できる項目である。荷電粒子線装置1は、画素滞在時間設定部305で設定した時間で走査できるように、偏向コイル103の制御信号を設定する。
【0041】
図3の各設定部は、GUIの例としてコンボボックスで記載しているが、スライダーやプリセットボタン等でも代用できる。
【0042】
図4は、実施の形態1の荷電粒子線装置1の走査画像の表示について、ユーザーインタフェースとして表示装置21に表示される画面の一例である。この画面の特徴としては、走査画像と環境情報のグラフを関連付けて表示する点がある。さらに、特徴としては、同視野における変化を確認するために、コマ送りの表示が可能な点がある。以上のように、荷電粒子線装置1によれば、画質劣化要因を監視できる。
【0043】
図4の「選択状態の確認」の画面は、画像表示部01、コマ送りボタン402、選択部403、番号表示部404、サムネイル表示部405、グラフ表示部406、スクロールバー407、選択数ラベル408、非選択数ラベル409、先頭設定部410、末尾設定部411、全選択ボタン412、全解除ボタン413、自動選択ボタン414、画像積算ボタン415を有する。
【0044】
画像表示部401は、走査画像のうち、1枚の画像について、細部が確認できる大きさで表示する部分である。図示の例では、画像表示部401は、#4の画像を表示しており、これに限らず、画像を特定できる情報を付加しても良い。コマ送りボタン402は、コマ送り表示をするためのボタンである(なおコマは画像に対応する)。コマ送りボタン402は、左矢印のボタンおよび右矢印のボタンがある。荷電粒子線装置1は、ユーザーが左矢印のボタンを押下すると1コマ戻り、右矢印のボタンを押下すると1コマ進み、となるように、画像表示部401の画像を更新する。汚染しやすい試料が撮影された場合、一定の走査回数に達すると、画像のコントラストが低下する。汚染の影響がない目的画像を得るためには、ユーザーは、コマ送りボタン402によって、画像表示部401の画像をコマ送りで更新し、コントラストが低下するタイミングを確認する。これにより、ユーザーは、試料汚染の影響がない画像を選択でき、所望の目的画像を得ることができる。
【0045】
選択部403は、画像の分類に関する選択状態を示し、ステップS4の選択処理によって決定された選択状態を訂正するためのコントロール(GUI部品)である。例えば、各画像について、チェックがあるものを「選択」、チェックがないものを「非選択」とし、ユーザーが選択部403を押下することで、選択部403のチェックの状態が反転する。図示の例では、#2と#3の選択状態は「選択」、#1と#4の選択状態は「非選択」となっている。番号表示部404は、画像を取得した順番(例えば#1等で示す)を示す部分である。サムネイル表示部405は、走査画像のサムネイルを、取得した順番に並べて表示する部分である。
【0046】
グラフ表示部406は、撮像装置10から得た環境情報を、画像に関連させたグラフにして表示する部分である。図示の例では、グラフ表示部406は、エミッション電流を四角で、真空度を丸でプロットしている。サムネイル表示部405では取得した順番に画像を並べているので、グラフ表示部406の横軸は時間を表し、縦軸は環境情報それぞれの数値を表している。
【0047】
画質劣化要因をとり除き、SEMおよび対象とする試料ともに、高い精度で安定した状態を維持することは難しく、実際には、撮像装置10の環境情報が一定にならないことがある。上記のように環境情報をグラフで表示することで、操作者であるユーザーが、環境情報の変化を参考に、選択状態を最適化することができる。
【0048】
スクロールバー407は、サムネイル表示部405とグラフ表示部406について、図4の画面に収まりきらない情報を必要に応じて表示するためのものである。スクロールバー407にあるつまみの位置と、サムネイル表示部405およびグラフ表示部406等の表示位置とが連動している。サムネイル表示部405とグラフ表示部406は、取得した順番に並んでおり、ユーザーがつまみを左に動かすと古い情報を、つまみを右に動かすと新しい情報を、表示する。
【0049】
選択数ラベル408は、走査画像のうち、選択状態が「選択」である枚数を示す。ランダムノイズを抑制するためには、積算処理に用いる画像の枚数が寄与する。そのため、ユーザーは、選択数ラベル408を参考にすることで、積算画像となった際に画像に現れるランダムノイズを積算処理の前に想定することができる。非選択数ラベル409は、走査画像のうち、選択状態が「非選択」である枚数を示す。ユーザーは、非選択数ラベル409によって、選択状態を「非選択」から「選択」に変更できる残り枚数が予想できる。
【0050】
先頭設定部410は、積算処理の対象となる範囲のうちの先頭を指定できる項目である。例えば、一定の走査回数に達するまでの間では、視野がドリフトしてしまうことがある。ユーザーは、一定の走査回数に達する前の劣化画像を積算処理の対象外とするために、この範囲の先頭の指定を用いることができる。末尾設定部411は、積算処理の対象となる範囲のうちの末尾を指定できる項目である。例えば、一定の走査回数に達すると、帯電によって白く浮き上がってしまうことがある。または、汚染によってコントラストが低下してしまうことがある。ユーザーは、一定の走査回数に達した後の劣化画像を積算処理の対象外とするために、この範囲の末尾の指定を用いることができる。
【0051】
全選択ボタン412は、選択状態を一括で更新できるボタンである。ユーザーが全選択ボタン412を押下すると、荷電粒子線装置1は、選択部403に表示される全ての選択状態を「選択」にする。全解除ボタン413は、選択状態を一括で更新できるボタンである。ユーザーが全解除ボタン413を押下すると、荷電粒子線装置1は、選択部403に表示される全ての選択状態を「非選択」にする。自動選択ボタン414は、選択状態を一括で更新できるボタンである。ユーザーが自動選択ボタン414を押下すると、荷電粒子線装置1は、選択処理により、劣化画像を含むものは選択状態を「非選択」にし、そうでないものは選択状態を「選択」にする。この処理は、図2のステップS4と同様であり、選択状態を戻すときに用いられる。
【0052】
画像積算ボタン415は、画像積算を実行できるボタンである。ユーザーが画像積算ボタン415を押下すると、荷電粒子線装置1は、新たに選択状態ID(後述の選択状態DBで記録される選択状態を管理する情報)を取得し、選択部403の選択状態で更新する。ただし、先頭設定部410の先頭の画像から末尾設定部411の末尾の画像までの範囲外は「非選択」とする。荷電粒子線装置1は、ステップS5からステップS6へ移行し、選択状態DBを参照して積算処理を実行する。また、荷電粒子線装置1は、積算処理の終了時に、図4の画面を閉じ、図5の画面を開く。
【0053】
図5は、実施の形態1の荷電粒子線装置1の積算画像の表示について、ユーザーインタフェースとして表示装置21に表示される画面の一例を示す。この画面の特徴は、画質を判断する指標として画質評価指標値をグラフで表示し、定量的に評価できる点と、さらに、参考データを記録し、比較することにより、相対的に評価できる点とがある。参考データとは、同じ走査画像から選択状態を変えて生成した積算画像、およびその積算画像の画質評価指標値であり、画質を判断する参考に用いるデータである。画質評価指標値は、例として、ラインプロファイル、鮮鋭度、粒状度を用いる場合で説明する。
【0054】
図5の「積算画像の表示」の画面は、参考データ501、生成データ502、保存ボタン503、積算画像504、プロファイル位置505、ラインプロファイル506、鮮鋭度507、粒状度508、更新ボタン509、再選択ボタン510、終了ボタン511を有する。
【0055】
参考データ501は、あらかじめ選択状態の違う積算画像を参考データに設定しておき、後述の生成データ502と比較して評価するための表示領域である。荷電粒子線装置1は、後述の積算画像DBから、参考データに設定されているデータを読み込み、GUIの各コントロールに表示する。また、荷電粒子線装置1は、後述の更新ボタン509により参考データが設定されていない時、全ての画像の選択状態を「選択」、かつ、積算処理の対象となる範囲も全ての画像として、画像積算したものを生成しておいて、参考データに設定しても良い。
【0056】
生成データ502は、ステップS6の積算処理で生成した積算画像が、目的画像としてユーザーの要求を満足しているか確認するための表示領域である。荷電粒子線装置1は、後述の積算画像DBから、最後の積算処理で生成したデータを読み込み、GUIの各コントロールに表示する。
【0057】
保存ボタン503は、目的画像として積算画像を保存することができるボタンである。保存ボタン503は、参考データ501および生成データ502にそれぞれ備えており、それぞれの積算画像を保存の対象とすることができる。例えば、ユーザーは、像質の評価が高い積算画像を設定しておくことで、最後の積算処理で生成したデータが、目的画像として十分な画質とならなかった場合でも、それまでに設定しておいた参考データ501から像質の評価が高い積算画像を、目的画像として保存することができる。
【0058】
積算画像504は、積算画像を表示する領域である。図示の例では、参考データ501に積算画像IDがC1、生成データ502に積算画像IDがC2の積算画像を表示しており、画像を特定できる情報(積算画像ID)を付加している。また、画像を特定できる情報を描画する位置は、積算画像504上でなくても良い。
【0059】
プロファイル位置505は、後述のラインプロファイル506の位置を指定するコントロールである。図示の例では、プロファイル位置505は、SEMで一般的なラスター方式の走査に合わせて、上下に移動して指定させるものである。ラインプロファイル506の位置の指定方法は、他にもマウスドラッグなどによる指定方法が適用できる。
【0060】
ラインプロファイル506は、積算画像504上に引かれている線上にある画素について、横軸が画素の位置、縦軸が画素の濃淡値を示したグラフである。図示の例では、文字A形状(黒)では最小値、反対に背景領域(白)では最大値を示している。最大値から最小値までの画素数が少ない生成データの方が、シャープネスが高いと判断できる。また、最大値と最小値の差が大きい生成データの方が、コントラストが高いと判断できる。
【0061】
鮮鋭度507は、積算画像504から計算されたシャープネスの評価値が棒状形式で表示されている。例えば、シャープネスの評価方法としてDR法を用いる。SEMにおけるプローブの強度分布の標準偏差をσとすると、シャープネスRは、R=√2×σで表される。
【0062】
粒状度508は、積算画像504から計算された粒状度の評価値が棒状形式で表示されている。例えば、粒状度の評価方法としてRMS粒状度を用いる。この場合、粒状度は、下記の式1で表される。
【数1】
【0063】
更新ボタン509は、参考データ501を更新できるボタンである。ユーザーが更新ボタン509を押下すると、荷電粒子線装置1は、参考データ501に紐づけた後述の積算画像IDに、生成データ502に紐づけた後述の積算画像IDを設定する。
【0064】
再選択ボタン510は、ステップS5へ戻ることができるボタンである。ユーザーが再選択ボタン510を押下すると、荷電粒子線装置1は、図5の画面を閉じ、図4の画面を再び表示する。例えば、ステップS6の積算処理で生成した積算画像に、ユーザーにより画質劣化が認められた時には、選択状態を変えて、再び積算画像を生成するために、再選択ボタン510を用いることができる。
【0065】
ここでは、ユーザーに画質劣化の有無を判断させているが、ユーザーの判断が介在せず、プロセッサ201が画質劣化の有無を判定することも可能である。例えば、プロセッサ201は、複数の画像(走査画像)を全て選択して画像積算した画像である基準の積算画像と、現状の積算画像とを比較しての画質評価指標値が、20%以上向上している場合には、積算画像に画質劣化がないものとし、処理フローを終了させる。
【0066】
また、例えば、以下のようにしてもよい。プロセッサ201は、ユーザーの操作に依らずに、複数の画像を全て選択して画像積算した積算画像を生成し、また、複数の画像から各画像を選択や非選択とした各パターンに応じた各積算画像を生成する。プロセッサ201は、それらの複数の積算画像を比較して画質を評価する。プロセッサ201は、評価の結果に基づいて、複数の積算画像から選択した積算画像を保存し、処理フローを終了させる。
【0067】
終了ボタン511は、図5の画面を閉じ、実施の形態1の荷電粒子線装置1のコンピュータ20による、選択処理を含む画質劣化防止を図る撮影機能の処理フローを終了できるボタンである。
【0068】
[データベース]
図6は、実施の形態1の荷電粒子線装置1に備えるデータベースを示す。このデータベースは、走査画像DB610、選択状態DB620、および積算画像DB630の3つで構成されている。
【0069】
走査画像DB610は、走査画像と、走査の度に撮像装置10から得られる環境情報を含む情報と、管理用の情報とを紐づけておくためのデータベースであり、以下の属性を持つ。走査画像DB610は、走査画像ID611、番号612、画像ファイル613、撮影タイミング614、プローブ電流615、真空度616を持つ。
【0070】
走査画像ID611は、走査画像を管理する情報である。図2のステップS1で、荷電粒子線装置1は、新たな固有の値を割り振り、走査画像を特定するキーである走査画像ID611とする。このキーにより、選択状態DB620に関連づける。番号612は、画像を得た順番である。番号612は、走査画像の中から、1回の走査で得られた画像を特定するための管理用の情報である。荷電粒子線装置1は、ステップS2で画像を得る度に、カウントアップした値を割り振り、番号612とする。選択状態DB620にも同様の属性を持つ。画像ファイル613は、ステップS2で得られた各画像(走査画像)である。図示の例では、画像ファイル613は、画像の実態ではなく、記録媒体への保存先の情報であるファイルのパス情報としている。これに限らず、画像ファイル613は、画像の実態、または、それを圧縮したものでも良い。
【0071】
撮影タイミング614は、画像を得た時間を示す。図示の例では、撮影タイミング614は、最初に得た画像を基準(0)とし、同じ領域を複数回走査することにより得られる各画像(走査画像)を得たタイミングを経過時間で示している。これに限らず、撮影タイミング614は、時刻で表現しても良い。プローブ電流615は、図1の荷電粒子線装置1が試料110に照射する荷電粒子線L1の電流量である。プローブ電流615は、電子銃101、コンデンサーレンズ102、および対物レンズ104のそれぞれの制御値等から算出することができる。真空度616は、真空ポンプ107によって真空状態にされている試料室内の大気圧である。真空度616は、試料室内に取り付けられている環境センサ108で計測できる。
【0072】
撮影タイミング614、プローブ電流615、および真空度616は、撮像装置10で画像を取得した際の環境情報の例である。例えば、プローブ電流615が低下すると、2次電子L2の信号量が減少し、画像が暗くなる。または、真空度616が低下すると、集光している荷電粒子線L1が大気により散乱し、画像がボケる。このように、像質に関係する環境情報は、選択処理に用いることができる。そのため、荷電粒子線装置1は、環境情報を画像と紐づけてデータベースに記録する。撮像装置10により、他にも像質に関係する環境情報がある場合、荷電粒子線装置1は、環境センサ108と走査画像DB610の属性に、対応する項目を追加して、記録等を行う。
【0073】
選択状態DB620は、前述の分類に係わる選択状態と、管理用の情報とを紐づけておくためのデータベースであり、以下の属性を持つ。選択状態DB620は、選択状態ID621、走査画像ID611、番号612、選択状態62を持つ。
【0074】
選択状態ID621は、選択状態を管理する情報である。図2のステップS4では、荷電粒子線装置1は、選択処理の実行に際して、新たな固有の値を割り振り、選択状態を特定するキーである選択状態ID621とする。ステップS5では、荷電粒子線装置1は、選択状態の訂正を確定した際に、新たな固有の値を割り振る。このため、走査画像ID611に対して、複数の選択状態ID621が存在しうる。この選択状態ID621により積算画像DB630に関連づける。選択状態622は、状態として、積算処理の入力を示す「選択」、もしくは、そうでないことを示す「非選択」を持ち、各状態は判別できる値で表現されてもよい。図示の例では、「選択」を1、「非選択」を0としている。
【0075】
積算画像DB630は、積算画像と、積算画像を評価するための画質評価指標値と、管理用の情報とを紐づけておくためのデータベースであり、以下の属性を持つ。積算画像DB630は、積算画像ID631、選択状態ID621、画像ファイル632、ラインプロファイル633、鮮鋭度634、粒状度635を持つ。
【0076】
積算画像ID631は、積算画像を管理する情報である。図2のステップS6で、荷電粒子線装置1は、新たな固有の値を割り振り、積算画像を特定するキーである積算画像ID631とする。画像ファイル632は、ステップS6で得られた積算画像である。図示の例では、画像ファイル632は、画像の実態ではなく、記録媒体への保存先の情報であるファイルのパス情報としている。これに限らず、画像ファイル632は、画像の実態、または、それを圧縮したものでも良い。
【0077】
ラインプロファイル633は、濃淡値による数値列の集合である。図示の例では、ラインプロファイル633は、集合の実態ではなく、記録媒体への保存先の情報であるファイルのパス情報としている。これに限らず、ラインプロファイル633は、集合の実態、または、それを圧縮したものでも良い。鮮鋭度634は、計算されたシャープネスの指標値である。粒状度635は、計算された粒状度の指標値である。
【0078】
ラインプロファイル633、鮮鋭度634、および粒状度635は、積算画像を評価するための画質評価指標値である。例えば、構造物のエッジを画像の目視によって評価することが難しい場合に、ラインプロファイルを用いることで、評価できる場合がある。積算画像DB630には、他にも像質の判断に適切な画質評価指標値があれば、属性を追加して記録する。必要であれば、図5の画面に、追加した画質評価指標値に対応させて、グラフで表示できるコントロールを追加する。
【0079】
[撮影機能におけるデータフロー]
図7は、実施の形態1の荷電粒子線装置1の画質劣化防止を図る撮影機能におけるデータベースと、選択処理と、積算処理との関係を表すデータフローを示す。
【0080】
環境情報701は、走査画像DB610に記録されている撮影タイミング614、プローブ電流615、および真空度616の集合データである。走査画像702は、走査画像DB610に記録されている画像ファイル613の集合データである。非選択画像703は、選択状態DB620に記録されている選択状態622が「非選択」(0)となっている画像ファイルの集合データである。選択画像704は、選択状態DB620に記録されている選択状態622が「選択」(1)となっている画像ファイルの集合データである。積算画像705は、積算画像DB630に記録されている画像ファイル632の1つである。
【0081】
選択処理706は、図2におけるステップS4に該当し、プロセッサ201によって実行される。選択処理706は、環境情報701と走査画像702を入力し、目的画像を生成するために必要な画像である選択画像704と、そうでない画像である非選択画像703との2つに分類する処理である。ここで、目的画像を生成するために必要な画像は、劣化画像が含まれていない走査画像702を指す。実施の形態1では、与えられたデータセットを、閾値等の基準もなしに、自動的な分類を行うために、この選択処理706には、教師無しの機械学習を適用する。例えば、教師無しの機械学習のうち、k平均法を適用する。k平均法は、クラスターの平均を用い、与えられたクラスター数k個に分類できる。コンピュータ20は、まず、2つのクラスターをランダムに設定し、走査画像702それぞれを類似度が高い方のクラスターに所属させ、クラスター毎に重心をクラスターに設定する。コンピュータ20は、再び、走査画像702それぞれを類似度が高い方のクラスターに所属させ、クラスター毎に重心をクラスターに設定する。コンピュータ20は、これを繰り返すことで、性質が近い2つのクラスターに収束させ、2つのクラスターを選択画像704と非選択画像703とする。類似度や重心は、走査画像それぞれから求めた特徴量から算出できる。
【0082】
また、複数の画質劣化要因が発生している場合には、k平均法の拡張アルゴリズムを用いる。この拡張アルゴリズムは、定義してある全ての特徴空間の分布について、クラスター数を自動推定する方法である。この方法では、得られた走査画像702毎に、発生した画質劣化要因に対応する特徴のみで分類され、分類した3つ以上のクラスターのうち、基準画像を含んだクラスターを、劣化画像が含まれていない走査画像702とする。コンピュータ20は、ステップS2を開始してから撮像装置10が安定するまでの時間をパラメーターとして記憶しておき、安定したタイミングで得た画像を、基準画像とする。もしくは、ユーザーがGUIによって基準画像を指定してもよい。
【0083】
例えば、一定の走査回数に達すると、帯電によって画像全域が白くなる場合がある。または、汚染によって画像全域が黒くなる場合がある。これらの現象により1回の走査で得られる画像のコントラストは低下している。そのため、コントラストを特徴量としたk平均法により、コントラストを維持している画像と、コントラストが低下してしまった画像とに分類できる。
【0084】
図8の(a)の上側には、走査画像を、取得した時間t1~t5で並べてあり、走査画像を取得し終えた時間が時間t5である。下側には、並べた画像から算出されたコントラストを縦軸にしたグラフを示す。走査画像の推移をみると、時間t1~t3で黒だった構造物(本例では文字A形状を持つ構造物)が、時間t4からだんだん白くなっている。このグラフでは、時間t4からコントラストが低下していく推移が示されており、コントラストを特徴量としたk平均法により、クラスターC1とクラスターC2で示す2つのクラスターに分類できる。なお、十字は各クラスターの重心を表し、クラスターに所属するものを破線で囲っている。図示の例では時間t1に取得した画像を基準画像としており、その基準画像を含むクラスターC1を、劣化画像が含まれていない走査画像と判断できる。このように、実施の形態1によれば、走査画像を得る毎に変動するコントラストにも、閾値などの設定が必要なく分類できる。
【0085】
他にも、走査完了までに振動によって画像が歪んでしまった場合、走査画像のうち歪み無く構造を捉えられた画像と各画像との相関値を特徴量とすることで、k平均法により、歪みの無い構造に類似する画像と歪んでしまった画像とに分類できる。
【0086】
図8の(b)は、図8の(a)におけるグラフの縦軸を相関値にしたものである。時間t1の相関値は、同じ画像の相関であるため、最大値となる。時間t2と時間t4と時間t5の相関値は、構造物に歪みもないため、同程度の値となる。時間t3の構造物だけ歪んでしまっているため、相関値が低くなることが示されており、相関値を特徴量としたk平均法により、クラスターC3とクラスターC4の2つのクラスターに分類できる。図示の例では、時間t1に取得した画像を基準画像としており、その基準画像を含むクラスターC3を、劣化画像が含まれていない走査画像と判断できる。
【0087】
上記の例では、1回の走査で得られる画像に含まれる情報から特徴量を求めたが、環境情報701に含まれる、撮影タイミング614、プローブ電流615、および真空度616等を特徴量と定義しても良い。同様に1回の走査で得られる画像および環境情報と、その次の1回の走査で得られる画像および環境情報との関係性、例えば、プローブ電流の微分値等を、特徴量と定義しても良い。
【0088】
このように、プロセッサ201は、図7の選択処理706に、画質劣化要因毎に適した特徴を定義した機械学習を用いることで、劣化画像が含まれていない走査画像702のみ選択画像704とすることができる。
【0089】
図7の積算処理707は、図2におけるステップS6に該当し、プロセッサ201によって実行される。積算処理707は、選択画像704を入力し、積算画像705を出力する。積算処理707は、入力となる画像の集合データに関して、画素毎の濃淡値を積算し、積算画像705の該当する画素の濃淡値とする。これにより、ランダムノイズを抑制した目的画像である積算画像705が得られる。積算処理707は、これに限らず、特許文献1に記載の正規化積算も適用可能である。
【0090】
また、積算処理707は、特許文献2に記載のドリフト補正処理と呼ばれる、画像の位置合わせをしながら、画素毎の濃淡値を積算することを含む。画質劣化防止を図る撮影機能において、ドリフト補正処理により誤った位置に位置合わせされてしまう場合、荷電粒子線装置1は、図2のステップS5で、原因となる画像の選択状態622を変更し、積算処理707の入力から外すことで、精度を向上できる。
【0091】
(実施の形態2)
図9および図10を用いて、本発明の実施の形態2の荷電粒子線装置について説明する。実施の形態2における基本的な構成は実施の形態1と同様であり、以下では、実施の形態2における実施の形態1とは異なる構成部分について説明する。実施の形態2の荷電粒子線装置は、従来通りの観察機能とは別に、ユーザーが現在観察している試料110(図1)の観察画像に関して、画像選択および画像積算を適用した観察機能を有する。これにより、モニタ(表示装置21)に表示される観察画像について、画質劣化防止を図る。
【0092】
[観察機能におけるデータフロー]
図9は、実施の形態2の荷電粒子線装置の構成として、実施の形態1の荷電粒子線装置1との差異であるデータフローを示す。実施の形態2では、図9の環境情報701と、走査画像702と、積算画像705とは、リアルタイムに更新する観察機能について示すため、集合データではなく、現在(最新)の値、もしくは、画像としている。例えば、環境情報701は、現在の取得値を黒枠で、過去の取得値をグレー枠で示している。そして、実施の形態2では、前述の図7の積算画像705は、観察画像としてリアルタイムに更新するため、更新前の画像をデータベースで長期間記憶しておく必要はない。さらに、実施の形態2における観察機能のデータフローでは、ユーザーに対して、観察画像の表示や、撮像装置10への条件の設定等を求めるため、コンピュータ20と、表示装置21と、操作装置22との関連を追加している。
【0093】
図9の選択処理901は、実施の形態1の選択処理701と同様の役割を持ち、劣化画像が含まれていない走査画像702と、それ以外の画像とに分類する。動的に様々な視野をとりうる観察画像において、現在の走査画像702である1枚を分類するためには、過去の走査画像702と正しい選択状態622とが必要となる。そこで、実施の形態2の荷電粒子線装置は、後述の学習データDB903をあらかじめ学習し、過去の走査画像702に基づいて分類する教師有りの機械学習を、選択処理901に適用する。例えば、教師有りの機械学習のうち、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いる方式を適用する。この方式は、CNNを用いて、画像等のデータから特徴を見出し、教師に従った分類を行う。この場合、選択処理901は、現在の走査画像702である1枚の濃淡値を入力し、選択画像704および非選択画像703に対応する各ユニットから出力が得られる。CNNの学習では、過去の走査画像702である1枚の濃淡値を順番に入力し、得られるユニットからの出力と、正しい選択状態622に対応するユニットからの出力との誤差に基づいて、重みを更新する。CNNの学習は、これを繰り返すことで、画像から特徴を見出し、選択画像704と非選択画像703との分類が可能となる。なお、非選択画像703に対応するユニットは、画像劣化要因毎に存在しても良い。
【0094】
図9の積算処理902は、実施の形態1の選択処理701と同様の役割を持ち、選択画像704から、ランダムノイズを抑制した積算画像705を得る。動的に様々な視野をとりうる観察画像において、視野の違う画像の集合データとなった場合に、実施の形態1と同様の処理をしてしまうと、応答性を損なってしまう。そこで、一般にリカーシブフィルタと呼ばれる、蛍光体の残光特性を模擬したようなフィルタを適用する。これは、画素の濃淡値を積算する際に、新しい画像ほどその比重が大きくなるように、比重を変えて積算する手法である。これにより、応答性を損なわず、ランダムノイズを抑制した積算画像705が得られる。
【0095】
学習データDB903は、選択状態DB620と同様の形式のデータを持つDBである。学習データDB903は、後述の誤り訂正904によって、正しい選択状態622と過去の走査画像702とを紐づけてある。精度向上のため、学習データDB903は、撮像装置10で観察している試料110、偏向コイル103などで決まる光学条件、および検出器105の種類、等で分割しても良い。この場合、選択処理901には、分割された学習データDB903のうち、一致する条件で学習した機械学習を用いる。
【0096】
誤り訂正904は、実施の形態2の画質劣化防止を図る観察機能の使用後、停止した状態で実行される。誤り訂正904の処理は、ユーザーによる誤りの訂正の操作に基づいて実行される。荷電粒子線装置は、この観察機能の使用中に追加された選択状態DB620の非選択画像703と、選択画像704とを入力とし、操作装置22等からのユーザー入力によって、誤りがある選択状態622を訂正し、学習データDB903に追加する。誤り訂正904を行ったうえで、実施の形態2の観察機能を再度起動する度に、学習データDB903が蓄積され、精度と汎用性が高まることが、期待できる。
【0097】
また、この観察機能の使用中に追加された選択状態DB620の非選択画像703と、選択画像704とを入力とすることで、学習データDB903の作成の作業は、誤りがある選択状態622の訂正のみとなる。つまり、実施の形態2によれば、積算処理902の精度に依存するものの、学習データDB903の作成の作業を減らすことが、期待できる。
【0098】
[観察機能におけるGUI]
図10は、実施の形態2の荷電粒子線装置における図9の誤り訂正904について、ユーザーインタフェースとして表示装置21に表示される画面の一例を示す。図10の「誤りの訂正」の画面は、選択画像欄1001、非選択画像欄1002、画像表示部1003、訂正部1004、番号表示部1005、更新ボタン1006、キャンセルボタン1007を有する。
【0099】
選択画像欄1001は、入力である選択画像704(図9)を列挙して表示する欄である。非選択画像欄1002は、入力である非選択画像703(図9)を列挙して表示する欄である。画像表示部1003は、非選択画像703または選択画像704である各画像を表示する領域である。
【0100】
訂正部1004は、画像の選択状態の誤りに対してユーザーによる訂正の入力が可能である部分である。例えば、訂正部1004におけるバツ印(×)は、選択状態が誤っているため訂正するものを示し、無印は、選択状態を訂正しないものを示す。ユーザーが訂正部1004を押下することで、バツ印と無印が反転する。図示の例では、#5と#6の画像は、訂正部1004がバツ印の状態であり、訂正することを示す。番号表示部1005は、その画像を取得した順番を示す。
【0101】
更新ボタン1006は、図9の学習データDB903を新しいデータで更新できるボタンである。ユーザーが更新ボタン1006を押下すると、荷電粒子線装置は、選択状態DB620から学習データDB903に追加されていない分のデータを複製し、訂正部1004への入力の状態に従って、選択状態622を訂正する。荷電粒子線装置は、作成したデータを学習データDB903に追加して、図10の画面を閉じる。荷電粒子線装置は、学習データDB903を更新する際には、撮像装置10で観察している試料110、偏向コイル103などで決まる光学条件、および検出器105の種類、等で分割するために、カテゴリを設定する画面を表示し、ユーザーに入力を促しても良い。キャンセルボタン1007は、更新をキャンセルできるボタンである。ユーザーがキャンセルボタン1007を押下すると、荷電粒子線装置は、学習データDB903を更新せずに、図10の画面を閉じる。
【0102】
[画質劣化防止を図る観察機能]
実施の形態2の荷電粒子線装置について、例えば重量物の運搬による床振動が、撮像装置10に伝わった仮定とする。この場合、試料上を走査するプローブの位置がずれ、現在の走査画像702(図9)である1枚の画像には、歪みが生じる。ここで、従来通りの観察機能の場合では、リカーシブフィルタが適用された積算処理902(図9)により、現在の走査画像702である1枚の画像の比重を大きくして積算するので、モニタ(表示装置21)には、微細構造の輪郭が二重である観察画像が表示される。
【0103】
一方、実施の形態2における上記画像選択および画像積算を適用した観察機能の場合では、学習データDB903をあらかじめ学習し、過去の走査画像702(図9)に基づいて、現在の走査画像702である1枚の画像を、劣化画像と分類できる。これにより、現在の走査画像702である1枚の画像は、積算処理902の対象外となるため、モニタ(表示装置21)には、微細構造の輪郭が二重でない観察画像が表示される。
【0104】
操作者であるユーザーは、微細構造の輪郭が二重でない観察画像を表示したい場合、従来通りの観察機能から、実施の形態2の画像選択および画像積算を適用した観察機能に、切り替え操作905(図9)を行う。
【0105】
選択処理901により、選択状態622が非選択にしかならない場合、モニタ(表示装置21)の観察画像が更新されなくなるので、ユーザーは、画像選択および画像積算を適用した観察機能から、従来通りの観察機能に、切り替え操作905を行う。もしくは、一定の期間を超えて、選択状態622が非選択にしかならない場合、プロセッサ201は、画像選択および画像積算を適用した観察機能から、従来通りの観察機能に、自動的に切り替えを行っても良い。
【符号の説明】
【0106】
1…荷電粒子線装置、10…撮像装置、20…コンピュータ、201…プロセッサ、202…メモリ、21…表示装置、22…操作装置。
図1
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図10