(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-20
(45)【発行日】2022-10-28
(54)【発明の名称】アノード室の液管理方法、及びめっき装置
(51)【国際特許分類】
C25D 21/00 20060101AFI20221021BHJP
C25D 17/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C25D21/00 D
C25D17/00 H
C25D17/00 C
(21)【出願番号】P 2022548586
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2022024506
【審査請求日】2022-08-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【氏名又は名称】小野 達己
(72)【発明者】
【氏名】富田 正輝
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰之
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0138471(US,A1)
【文献】特開2017-125251(JP,A)
【文献】特開平09-264000(JP,A)
【文献】特開2014-234538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/00
C25D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、前記アノードの上面に接触又は密着する隔膜とが配置され、前記隔膜によって仕切られた上方のカソード室及び下方のアノード室と、前記アノード室に連通し前記アノード室から前記めっき槽の外部に気泡を排出するための排気通路と、を備えるめっき槽を準備するステップと、
前記アノード室のめっき液の液面である前記排気通路内のめっき液の液面が、前記カソード室のめっき液の液面よりも低くなるように、前記アノード室及び前記カソード室にめっき液を保持するステップと、
前記排気通路内に配置された液面センサの出力に基づいて、前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であるか判別するステップと、
前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であると判別したとき、前記アノード室に純水又は電解液を供給するステップと、
を含むアノード室の液管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記アノード室のめっき液の液面の高さが、前記アノード室のめっき液がオーバーフロー高さよりも低い高さになるように、前記アノード室にめっき液を保持する、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記アノード室のめっき液の液面の高さが、前記アノード室のめっき液がオーバーフロー高さよりも低い高さになるように、前記アノード室に純水又は電解液を供給する、方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記アノード室のめっき液の液面が上昇したとき、前記カソード室のめっき液がオーバーフローする高さよりも低い高さで、前記アノード室のめっき液をオーバーフローさせるステップを含む、方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記アノード室のめっき液を循環させず、前記カソード室のめっき液を循環させるステップを更に含む、方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記アノード室及び前記カソード室に同一組成のめっき液を導入するステップを含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記アノード室及び前記カソード室に同一のめっき液供給源から同一組成のめっき液を導入する、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
めっき液の供給源と、純水又は電解液の供給源との一方を、選択的に前記アノード室に接続する、方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の方法において、
濃度センサ及び/又は電気伝導率センサで前記アノード室の濃度及び/又は電気伝導率を検出するステップと、
前記濃度及び/又は電気伝導率が所定の閾値に到達したか否かの判定結果に基づいて、アラームを発報するステップと、を更に含む、方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の方法において、
基板のめっき処理の終了後に、前記液面センサの出力に基づいて、前記アノード室に純水又は電解液を供給する、方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記アノード室のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であると判別したとき、前記アノード室に純水を供給する、方法。
【請求項12】
基板を保持する基板ホルダと、
前記基板に対向して配置されるアノードと、
前記アノードの上面に密着して配置された隔膜と、
めっき液を保持するめっき槽であって、前記隔膜によって、前記基板が配置されるカソード室と、前記アノードが配置されるアノード室とに仕切られ、前記アノード室に連通し前記アノード室から前記めっき槽の外部に気泡を排出するための排気通路を備えるめっき槽と、
前記めっき槽の前記排気通路内に配置され、前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であるか検出する液面センサと、
前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であることを前記液面センサが検出したことに応答して、前記アノード室に純水又は電解液を供給する制御装置と、
を備えるめっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード室の液管理方法、特にめっき装置のアノード室の液管理方法、及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ等の基板にめっき処理を施すことが可能なめっき装置として、米国特許出願公開第2020-0017989号明細書(特許文献1)に記載されたようなめっき装置が知られている。このめっき装置は、めっき液を貯留するとともにアノードが配置されためっき槽と、アノードと対向して配置されるようにカソードとしての基板を保持する基板ホルダと、前記アノードと前記基板ホルダとの間に配置されめっき槽内部をアノード室とカソード室とに仕切る隔膜とを備え、基板の表面に沿ってめっき液を流動させるものである。隔膜は、めっき槽内に固定されたフレームの下側に配置されるが、カソード室の圧力がアノード室の圧力より高くなると、隔膜がフレームから離れて下方に伸び、フレームと隔膜の間に気泡をトラップするポケットを形成することがある。このような現象を防止するために、米国特許出願公開第2020-0017989号明細書(特許文献1)の装置では、アノード室の圧力がカソード室の圧力より高くなるようにアノード室へのめっき液の供給を調整し、隔膜が下方に伸びることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2020-0017989号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人により提出された[国際特許出願第PCT/JP2022/016809号]に記載のめっきモジュールのように、隔膜(メンブレン)とアノードを密着させる構造において、カソード室とアノード室の圧力差で隔膜とアノードの密着を保証するためには、常にアノード室のめっき液(アノード液)の液面をカソード室のめっき液(カソード液)の液面より低く制御する必要がある。また、アノード液の枯渇を防止する必要がある。
【0005】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、めっき装置において、アノード液の液面をカソード液の液面より低く制御すると共に、アノード液の減少又は枯渇を防止することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、アノードと、前記アノードの上面に接触又は密着する隔膜とが配置され、前記隔膜によって仕切られた上方のカソード室及び下方のアノード室と、前記アノード室に連通し前記アノード室から前記めっき槽の外部に気泡を排出するための排気通路と、を備えるめっき槽を準備するステップと、 前記アノード室のめっき液の液面である前記排気通路内のめっき液の液面が、前記カソード室のめっき液の液面よりも低くなるように、前記アノード室及び前記カソード室にめっき液を保持するステップと、 前記排気通路内に配置された液面センサの出力に基づいて、前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であるか判別するステップと、 前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であると判別したとき、前記アノード室に純水又は電解液を供給するステップと、を含むアノード室の液管理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係るめっき装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係るめっき装置の全体構成を示す平面図である。
【
図3】一実施形態に係るめっきモジュールの構成を説明するための断面図である。
【
図4】めっきモジュールの一部を拡大した断面図である。
【
図6】アノード41への隔膜71の固定構造の例を示す断面図である。
【
図7】アノード41への隔膜71の固定構造の例を示す断面図である。
【
図8】アノード室液管理制御のフローチャートである。
【
図9】実験用のめっきモジュール(隔膜無)の写真である。
【
図10】実験用のめっきモジュール(隔膜有)の写真である。
【
図11】めっき中のアノード電圧の測定結果である。
【
図12A】めっき前のめっきモジュール(隔膜無)の写真である。
【
図12B】めっき中のめっきモジュール(隔膜無)の写真である。
【
図13A】めっき前のめっきモジュール(隔膜有)の写真である。
【
図13B】めっき中のめっきモジュール(隔膜有)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係るめっき装置1000について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面は、物の特徴の理解を容易にするために模式的に図示されており、各構成要素の寸法比率等は実際のものと同じであるとは限らない。また、いくつかの図面には、参考用として、X-Y-Zの直交座標が図示されている。この直交座標のうち、Z方向は上方に相当し、-Z方向は下方(重力が作用する方向)に相当する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のめっき装置1000の全体構成を示す斜視図である。
図2は、本実施形態のめっき装置1000の全体構成を示す平面図である。
図1及び
図2に示すように、めっき装置1000は、ロードポート100、搬送ロボット110、アライナ120、プリウェットモジュール200、プリソークモジュール300、めっきモジュール400、洗浄モジュール500、スピンリンスドライヤ600、搬送装置700、及び、制御モジュール800を備える。
【0010】
ロードポート100は、めっき装置1000に図示していないFOUPなどのカセットに収容されたウェハ(基板)を搬入したり、めっき装置1000からカセットに基板を搬出するためのモジュールである。本実施形態では4台のロードポート100が水平方向に並べて配置されているが、ロードポート100の数及び配置は任意である。搬送ロボット110は、基板を搬送するためのロボットであり、ロードポート100、アライナ120、プリウェットモジュール200及びスピンリンスドライヤ600の間で基板を受け渡すように構成される。搬送ロボット110及び搬送装置700は、搬送ロボット110と搬送装置700との間で基板を受け渡す際には、仮置き台(図示せず)を介して基板の受け渡しを行うことができる。
【0011】
アライナ120は、基板のオリエンテーションフラットやノッチなどの位置を所定の方向に合わせるためのモジュールである。本実施形態では2台のアライナ120が水平方向に並べて配置されているが、アライナ120の数及び配置は任意である。プリウェットモジュール200は、めっき処理前の基板の被めっき面を純水または脱気水などの処理液で濡らすことで、基板表面に形成されたパターン内部の空気を処理液に置換する。プリウェットモジュール200は、めっき時にパターン内部の処理液をめっき液に置換することでパターン内部にめっき液を供給しやすくするプリウェット処理を施すように構成される。本実施形態では2台のプリウェットモジュール200が上下方向に並べて配置されているが、プリウェットモジュール200の数及び配置は任意である。
【0012】
プリソークモジュール300は、例えばめっき処理前の基板の被めっき面に形成したシード層表面等に存在する電気抵抗の大きい酸化膜を硫酸や塩酸等の処理液でエッチング除去してめっき下地表面を洗浄または活性化するプリソーク処理を施すように構成される。本実施形態では2台のプリソークモジュール300が上下方向に並べて配置されているが、プリソークモジュール300の数及び配置は任意である。めっきモジュール400は、基板にめっき処理を施す。本実施形態では、上下方向に3台かつ水平方向に4台並べて配置された12台のめっきモジュール400のセットが2つあり、合計24台のめっきモジュール400が設けられているが、めっきモジュール400の数及び配置は任意である。
【0013】
洗浄モジュール500は、めっき処理後の基板に残るめっき液等を除去するために基板に洗浄処理を施すように構成される。本実施形態では2台の洗浄モジュール500が上下方向に並べて配置されているが、洗浄モジュール500の数及び配置は任意である。スピンリンスドライヤ600は、洗浄処理後の基板を高速回転させて乾燥させるためのモジュールである。本実施形態では2台のスピンリンスドライヤ600が上下方向に並べて配置されているが、スピンリンスドライヤ600の数及び配置は任意である。搬送装置700は、めっき装置1000内の複数のモジュール間で基板を搬送するための装置である。制御モジュール800は、めっき装置1000の複数のモジュールを制御するように構成され、例えばオペレータとの間の入出力インターフェースを備える一般的なコンピュータまたは専用コンピュータから構成することができる。
【0014】
めっき装置1000による一連のめっき処理の一例を説明する。まず、ロードポート100にカセットに収容された基板が搬入される。続いて、搬送ロボット110は、ロードポート100のカセットから基板を取り出し、アライナ120に基板を搬送する。アライナ120は、基板のオリエンテーションフラットやノッチなどの位置を所定の方向に合わせる。搬送ロボット110は、アライナ120で方向を合わせた基板をプリウェットモジュール200へ受け渡す。
【0015】
プリウェットモジュール200は、基板にプリウェット処理を施す。搬送装置700は、プリウェット処理が施された基板をプリソークモジュール300へ搬送する。プリソークモジュール300は、基板にプリソーク処理を施す。搬送装置700は、プリソーク処理が施された基板をめっきモジュール400へ搬送する。めっきモジュール400は、基板にめっき処理を施す。
【0016】
搬送装置700は、めっき処理が施された基板を洗浄モジュール500へ搬送する。洗浄モジュール500は、基板に洗浄処理を施す。搬送装置700は、洗浄処理が施された基板をスピンリンスドライヤ600へ搬送する。スピンリンスドライヤ600は、基板に乾燥処理を施す。搬送ロボット110は、スピンリンスドライヤ600から基板を受け取り、乾燥処理を施した基板をロードポート100のカセットへ搬送する。最後に、ロードポート100から基板を収容したカセットが搬出される。
【0017】
なお、
図1や
図2で説明しためっき装置1000の構成は、一例に過ぎず、めっき装置1000の構成は、
図1や
図2の構成に限定されるものではない。
【0018】
制御モジュール800は、例えば、CPUと、揮発性のメモリ及び/又は不揮発性のメモリを有する。メモリは、記憶媒体又は記録媒体とも称する。メモリは、各種プログラム、各種パラメータ等を記憶する。CPUは、各種プログラム、各種パラメータ等を読み出し、各種プログラムを実行する。
【0019】
[めっきモジュール]
続いて、めっきモジュール400について説明する。なお、本実施形態に係るめっき装置1000が有する複数のめっきモジュール400は同様の構成を有しているので、1つのめっきモジュール400について説明する。
【0020】
図3は、一実施形態に係るめっきモジュールの構成を説明するための断面図である。
図4は、めっきモジュールの一部を拡大した断面図である。
【0021】
本実施形態に係るめっき装置1000は、基板の被めっき面を下向きにしてめっき液に接触させる、いわゆるフェースダウン式又はカップ式と称されるタイプのめっき装置である。本実施形態に係るめっき装置1000のめっきモジュール400は、主として、めっき槽10と、めっき槽10内に配置されるアノード41と、アノード41と対向して配置されるように、カソードとしての基板Wfを保持する基板ホルダ31と、を備えている。めっきモジュール400は、基板ホルダ31を回転、傾斜及び/又は昇降させる回転機構、傾斜機構及び/又は昇降機構(図示略)を備えることができる。また、めっき槽10は、カソード室Cc及びアノード室Caを含む内槽10aと、オーバーフロー槽(オーバーフロー室)20としての外槽10bと、を備えることができる。
【0022】
めっき槽10は、上方に開口を有する有底の容器によって構成されている。めっき槽10(内槽10a)は、底壁と、この底壁の外周縁から上方に延在する側壁とを有しており、この側壁の上部が開口している。めっき槽10(内槽10a)は、めっき液Psを貯留する円筒形状の内部空間を有する。めっき液としては、めっき皮膜を構成する金属元素のイオンを含む溶液であればよく、その具体例は特に限定されるものではない。本実施形態においては、めっき処理の一例として、銅めっき処理を用いており、めっき液の一例として、硫酸銅溶液を用いている。また、本実施形態において、めっき液には所定の添加剤が含まれている。但し、この構成に限定されるものではなく、めっき液は添加剤を含んでいない構成とすることもできる。めっき槽10(内槽10a)は、隔膜71によって、上方のカソード室Ccと、下方のアノード室Caとに仕切られている。本実施形態では、アノード室Caのめっき液(アノード液)Psと、カソード室Ccのめっき液(カソード液)Psとは、同一の供給源から供給され、同一の組成を有する。但し、めっき液中の水分の蒸発等に起因するアノード室Ca及びカソード室Ccのめっき液Psの経時変化に基づく差異は生じ得るとする。また、めっき槽10には、アノード室Caに連通して大気に開放される排気通路11が設けられている。排気通路11は、アノード室Ca内のアノード液中の気泡61を排出する。本実施形態では、排気通路11の少なくとも一部は、オーバフロー槽20(外槽10b)の外側で上下方向に延びて排気通路出口で大気に開口している。
【0023】
オーバーフロー槽20は、めっき槽10の内槽10aの外側に配置された、有底の容器を構成している。オーバーフロー槽20は、オーバーフロー面OFc(この例では、めっき槽10の内槽10aの上端)を超えためっき液を一時的に貯留する。一例では、オーバーフロー槽20のめっき液は、オーバーフロー槽20用の排出口から排出されて、流路95を通ってリザーバタンク81に送られ、リザーバータンク81に一時的に貯留された後に、再び、めっき槽10のカソード室Ccに戻される。
【0024】
アノード41は、めっき槽10の内部の下部に配置されている。アノード41の具体的な種類は特に限定されるものではなく、溶解アノードや不溶解アノードを用いることができる。本実施形態においては、アノード41として不溶解アノードを用いている。この不溶解アノードの具体的な種類は特に限定されるものではなく、白金、チタン、酸化イリジウム等(例えば、IrO2/Ti、Pt/Ti)を用いることができる。アノード41の表面には、めっき液中の添加剤の分解を抑制する等の目的で、さらにトップコート層を有していてもよい。
【0025】
本実施形態では、アノード41の上面側(基板Wf側)にアノードマスク43が設けられている。アノードマスク43は、アノード41を露出する開口部を有し、開口部によってアノード41が露出する範囲を調節することにより、アノード41から基板Wfに向かう電場を調節する電場調節部材である。アノードマスク43は、所定の開口寸法を有するアノードマスクでも、開口寸法を変更可能な可変アノードマスクでもよい。アノードマスク43は、例えば、複数のブレードを備え、カメラの絞りと同様の機構により開口部の開口寸法を調整するものでもよい。アノードマスク43は、省略される場合もある。
【0026】
めっき槽10の内部において隔膜71よりも上方には、多孔質の抵抗体51が配置されている。具体的には、抵抗体51は、複数の孔(細孔)を有する多孔質の板部材によって構成されている。抵抗体51よりも下方側のめっき液は、抵抗体51を通過して、抵抗体51よりも上方側に流動することができる。この抵抗体51は、アノード41と基板Wfとの間に形成される電場の均一化を図るために設けられている部材である。このような抵抗体51がめっき槽10に配置されることで、基板Wfに形成されるめっき皮膜(めっき層)の膜厚の均一化を容易に図ることができる。なお、抵抗体51は本実施形態において必須の構成ではなく、本実施形態は抵抗体51を備えていない構成とすることもできる。
【0027】
めっき槽10の内部において基板Wfの近傍(本実施形態では、抵抗体51と基板Wfとの間)にパドル(図示略)を配置してもよい。パドルは、基板Wfの被めっき面に対して概ね平行方向に往復運動して、基板Wf表面に強いめっき液の流れを発生させる。これにより、基板Wfの表面近傍のめっき液中のイオンを均一化し、基板Wf表面に形成されるめっき膜の面内均一性を向上させることができる。
【0028】
[アノード及び隔膜の構成]
本実施形態において、アノード41は、
図5から
図7に示すように、多数の貫通孔41Aを有する板状部材である。アノード41は、ラス(金網)構造、その他、複数の貫通孔が設けられた板状部材とすることができる。アノード41の厚さは、特に限定されないが、アノード41自体の強度、及びアノード41表面で発生した酸素が貫通孔内からアノード41の裏面へ排出されやすい観点から、0.5mm~3mm程度であることが好ましい。貫通孔の形状やサイズも特に限定されないが、加工の容易性や、めっき時の電圧の安定性の観点から、開口のサイズ(円形の場合は直径、四角形の場合は1辺の長さ)は、1mm~5mm程度であることが好ましい。アノード41は、アノード押さえとも称されるアノードホルダ42によってめっき槽10内で支持されている。
【0029】
図3及び
図4に示すように、アノード41の前面(カソード/基板側の面、この例では上面)には、めっき液が浸透・湿潤可能なイオン透過性を有する隔膜71(Nafion(登録商標)、多孔質膜等)が接合又は密着されている。本実施形態では、この隔膜71によって、めっき槽10の内槽10aの内部がアノード室Caとカソード室Ccとに分離される。隔膜71は、めっき液中の陽イオン(例えば、水素イオンH+)を透過させる一方、めっき液中の気泡(例えば、酸素ガス)及び添加剤を透過させない膜である。不溶解アノードを使用する場合、アノード表面でめっき液中に水素イオンH+が発生する。隔膜71は、例えば、中性膜、イオン交換膜、又はそれらの組み合わせとすることができる。隔膜71は、複数の膜又は層を重ねたものでもよい。隔膜71の構成は、一例であり、他の構成をとることができる。
【0030】
図5は、アノード41近傍の拡大断面図である。アノード41は多数の貫通孔41Aを有するため、アノード41の表面は、電極反応中においても貫通孔41Aより供給されるめっき液で常に湿潤した状態に保たれる。隔膜71は、めっき液が浸透・湿潤可能なイオン透過性を有する膜であるので、同図に示すように、アノード41は、基板側の面(隔膜71が密着した箇所又はその近傍)において、めっき液と反応し、陽イオン(例えば水素イオンH+)が隔膜71を通してカソード室Cc、つまり基板側に伝達される。従って、アノード41の基板側の面(隔膜71が密着した箇所又はその近傍)から隔膜71の内部を通って基板Wfに至るイオン伝導パス(電流パス)が形成される。一方、アノード41の表面で発生したガス(例えば、酸素O2)の気泡61は、同図に示すように、隔膜71を通過することができず、アノード41の多数の貫通孔41Aを通じてアノード41の裏面(前面と反対側の面)側へ移動する。アノード41の裏面側に移動した気泡61は、隔膜71の外側に設けられた排気通路11(
図3、
図4)を通じて、めっき槽10外部へ排出される。
【0031】
この構成では、隔膜71がアノード41の基板側の面に密着しているので、アノード41の表面で発生した気泡61が基板Wf側へ拡散するのを抑制することができる。これにより、気泡61が基板側に拡散し、抵抗体51、基板Wf等に気泡61が付着することを抑制することができる。また、隔膜71がアノード41に密着しているので、隔膜71とアノード41との間に気泡61が蓄積することが防止される。特に、隔膜71がアノード41から離間している場合のように、隔膜71の裏面に気泡61が蓄積する問題を回避することができる。なお、気泡61の排出経路となるアノード41の裏面側は、アノード41と基板Wf間の主要なイオン伝導パスではないため、ここに気泡61が存在しても、気泡61がアノード-基板間のイオン伝導抵抗成分とはならず、アノード-基板間のイオン伝導(めっき電流)への影響は殆どない。この構成では、アノード41の基板側の面(隔膜71が密着した箇所又はその近傍)から隔膜71を通じて陽イオン(H+)を基板Wf側に伝導させることができるので、気泡61の影響を回避しつつ、アノード41と基板Wfとの間のイオン伝導パスを確実に確保することができる。
【0032】
以上より、この構成によれば、アノード-カソード間のイオン伝導パスが安定して確保されると共に、アノード-カソード間のイオン伝導パス上に気泡61が蓄積してイオン伝導に悪影響を与えることを回避することができる。この結果、アノードで発生する気泡の影響を抑制して、基板上のめっきを安定して行うことができ、めっき膜厚の均一性を向上し得る。
【0033】
図6及び
図7は、アノード41への隔膜71の固定構造の例を示す断面図である。これらの図において、アノード41の裏面の中心部には、アノード41に給電するための給電用ボス44が設けられていることが示されている。給電用ボス44は、アノード41と一体に形成されてもよく、アノード41に取り付けられても良い。なお、
図3及び
図4は、押さえ板72(
図6)を採用した例に対応する。
【0034】
図6の例では、隔膜71は、多数の貫通孔72Aを有する押さえ板72によってアノード41の基板側の面に押し付けられ、アノード41の上面に密着した状態で固定される。押さえ板72は、アノード41、隔膜71を上から押さえるようにアノードホルダ42に対して、螺子等の締結部材74で固定されている。この構成では、押さえ板72とアノード41とで隔膜71を挟持して、隔膜71をアノード41に密着させる。また、押さえ板72と隔膜71のとの間には、これらの間をシールするシール部材75(例えば、Oリング)が設けられている。アノードホルダ42及び押さえ板72は、めっき液で腐食されない材質とすることが好ましく、例えば、塩化ビニル等の樹脂、Pt、Ti等の金属で構成することができる。
【0035】
図7の例では、隔膜71は、アノード41の基板側の面に接合されて固定されている。隔膜71をアノード41に接合する接合層75は、イオン透過性を有することが好ましい。例えば、イオン交換基を有する樹脂や、樹脂及びフィラーを含む多孔質接合層とすることができ、一例ではスルホン酸基を有する、パーフルオロカーボン材料とすることができる。また、隔膜71の外周部は、押さえリング73によってアノードホルダ42に対して押し付けられて固定されている。また、押さえリング73と隔膜71との間には、これらの間をシールするシール部材75(例えば、Oリング)が設けられている。アノードホルダ42及び押さえリング73は、めっき液で腐食されない材質とすることが好ましく、例えば、塩化ビニル等の樹脂、Pt、Ti等の金属で構成することができる。
【0036】
図3及び
図4に示すように、アノード室Caにおいてアノード41の下方には、アノード41の下面と対向するように気泡調節プレート(裏面プレート)140が設けられている。気泡調節プレート140とアノード41との間には、スペーサ等によってギャップが設けられている。但し、気泡調節プレート140とアノード41との間の空間と、その外側のアノード室内の空間とは、1又は複数の箇所で連通するように構成さえている。気泡調節プレート140は、アノード41の下面上に蓄積される気泡(
図5参照)の厚みをアノード41と気泡調節プレート140との間の距離以内に制限して、アノード41の下面上の気泡の蓄積量を少なくし、めっき中において、アノード41の下面上の気泡の離脱に伴う気泡蓄積量の変化を抑制する。これにより、アノード41の下面近傍のめっき液の圧力変化を抑制し、アノード41における電極電位の変動を抑制できる。めっき中のアノードの電極電位の変動を抑制して、めっき膜厚の均一性の劣化を抑制することができる。
【0037】
なお、気泡調節プレート140の代わりに、アノード41の周囲を囲みアノード下面から所定高さで下方に突出する気泡バッファ用リング(図示略)を配置してもよい。この場合、気泡バッファ用リングの端面の高さまでアノード下面に気泡を常に蓄積させ、アノード下面全体に常に気泡が存在するようにすることで、めっき中におけるアノード下面上の気泡の排出に伴う気泡蓄積量の変化を抑制することができる。なお、気泡調節プレート140及び気泡バッファ用リングを備えない構成とすることもできる。
【0038】
[アノード室液面管理の構成]
アノード室Caに連通する排気通路11には、
図3及び
図4に示すように、アノード室Caのめっき液(アノード液)が入り込むようになっており、排気通路11内のめっき液の液面Saが、アノード室Caのめっき液の液面となる。アノード41の裏面側に移動した気泡61は、排気通路11からめっき槽10の外部に排出される。この構成では、排気通路11を介して、アノード41で発生した気泡61を自然に排出することが可能であり、アノード室Caのめっき液を循環させて気泡を排出する必要がない。
【0039】
排気通路11には、オーバーフロー槽20に連通するオーバーフロー通路11Aが設けられており、このオーバーフロー通路11Aの下面が、アノード室Caのオーバーフロー面OFaを構成する。オーバーフロー通路11A(オーバーフロー面OFa)の高さは、カソード室Ccのオーバーフロー面OFcより低くなるように、オーバーフロー通路11Aが設けられている。
【0040】
排気通路11(アノード室Ca)のめっき液面Saは、オーバーフロー通路11A(オーバーフロー面OFa)より下方になるように、言い換えれば、排気通路11(アノード室Ca)内のめっき液がオーバーフロー槽20にオーバーフローしないように設定されている。つまり、アノード室Caで発生した気泡の体積が増加して液面Saが上昇しても、カソード室Cc側、即ちオーバーフロー槽20にオーバーフローしないように設定されている。これにより、添加剤が消費されたアノード室Caのめっき液が、オーバーフロー槽20を介してカソード室Ccに混入して、カソード室Ccのめっき液が劣化することを防止できる。
【0041】
なお、隔膜71の破損等によりカソード室Ccのめっき液がアノード室Caに漏れて、排気通路11内のめっき液面が上昇するような緊急時には、排気通路11内のめっき液はオーバーフロー通路11Aを介してオーバーフロー槽20にオーバーフローする。この場合も、アノード室Caのめっき液のオーバーフロー面OFaは、カソード室Ccのめっき液のオーバーフロー面OFcより低く設定されているため、カソード室Ccの圧力をアノード室Caの圧力より高く保つことができ、この圧力差によって隔膜71をアノード41に押し付けて密着させることができる。
【0042】
排気通路11内のめっき液中には、液面センサ12が配置されている。液面センサ12は、排気通路11内のめっき液の液面Saが所定の高さ以上か否か(所定の高さ未満か否か)を検出する。液面センサ12は、電極式、フロート式(フロートスイッチ等)、静電容量式、超音波式、振動式、その他任意の液面センサを採用することができる。液面センサ12は、例えば、めっき液の液面Saが所定の高さ以上である場合にON信号を出力し、めっき液の液面Saが所定の高さ未満の場合にOFF信号を出力するものとすることができる。液面センサ12は、例えば、液面までの距離を計測するものとすることができる。液面センサ12は有線又は無線により制御モジュール800に接続されており、制御モジュール800は液面センサ12の出力を受け取る。
【0043】
また、排気通路11内のめっき液中には、濃度センサ(電気伝導率センサ)13が配置されている。電気伝導率及び電気伝導率センサを導電率及び導電率センサと称する場合もある。濃度センサ(電気伝導率センサ)13は、アノード室Ca内に配置されてもよい。濃度センサ(電気伝導率センサ)13は、有線又は無線により制御モジュール800に接続されている。濃度センサ(電気伝導率センサ)13は、濃度センサ又は電気伝導率センサの何れか一方が設けられることを示す。但し、濃度センサ及び電気伝導率センサの両方が設けられてもよい。濃度センサ及び電気伝導率センサ13の両方が、省略されてもよい。
【0044】
図3に示すように、カソード室Cc及びアノード室Caは、リザーバ81からめっき液の供給を受ける。カソード室Ccは、流路83、82を介してリザーバ81に接続されている。アノード室Caは、流路85、84、82を介してリザーバ81に接続されている。流路82には、ポンプ86、フィルタ87が配置されている。流路83にはバルブ88が配置され、流路84にはバルブ89が配置されている。バルブ88を開くと、リザーバ81からカソード室Ccにめっき液が供給される。バルブ89を開くと、リザーバ81からアノード室85にめっき液が供給される。カソード室Ccのオーバフロー面OFcを超えてオーバーフローしためっき液は、オーバーフロー槽20に回収され、流路95を介してリザーバ88に戻される。リザーバ81、流路82、83、オーバーフロー槽20、流路95は、カソード室Ccの循環経路80を構成する。めっき中、カソード室Ccのめっき液は、循環経路80を介して循環される。
【0045】
アノード室Caには、排気通路11内にめっき液が所定の高さまで充填されるように、リザーバ81からめっき液を充填した後、バルブ89を閉鎖し、アノード室Caのめっき液の循環は行わない。
図3に示すめっきモジュール400では、カソード室に供給するめっき液と同じめっき液をアノード室に供給し、カソード室及びアノード室からオーバフローしためっき液は、共通のオーバフロー槽20に入り、共通のリザーバ81に戻された後に、再びカソード室及びアノード室に供給される構成となっている。そのため、めっき中にめっき液をアノード側で循環すると、アノード室Caで高価な添加剤が分解(消費)され続けることになる。このため、アノード室Caを満たすときのみ、めっき液をアノード室Caに供給し、アノード室Caのめっき液の循環は行わない。
【0046】
また、アノード室Caには、流路85、92を介して液体供給源91が接続されており、流路92にはバルブ93が配置されている。この例では、液体供給源91は、純水(例えば、DIW)を供給する供給源である。バルブ93を開くと、液体供給源91から純水がアノード室Caに供給される。流路85、92、液体供給源91は、液体補給経路90を構成する。本実施形態では、アノード室Caのめっき液の液面Saが所定の高さH0未満になったことが液面センサ12により検出されると、バルブ93を開いて液体供給源91から流路92、85を介してアノード室Caに純水を供給する。また、アノード室Caのめっき液の濃度(電気伝導率)が、所定の濃度(電気伝導率)を超えたことが濃度センサ(電気伝導率センサ)13によって検出されると、制御モジュール800は、アラームを発報する。ここで、アノード室Caのめっき液の水分が蒸発してめっき液面Saが下がると、蒸発した水分に応じてめっき液の濃度(電気伝導率)が上昇するため、所定の濃度(電気伝導率)を超えることは、めっき液の液面Saが特定の高さ未満になることに対応する。一例では、所定の濃度(電気伝導率)は、めっき液の液面Saの所定の高さH0に対応する値に設定することができる。
【0047】
[アノード室液管理制御のフローチャート]
図8は、アノード室液管理制御のフローチャートを示す。この処理は、制御モジュール800により実行される。
【0048】
ステップS11では、基板Wfのめっき処理を実行する。ステップS12では、めっき処理が終了したか否かを判別し、めっき処理が終了していなければ、ステップS11に戻りめっき処理を継続する。ステップS11においてめっき処理が終了したことが判定されると、ステップS13に移行する。
【0049】
ステップS13では、液面センサ12の出力を確認する。ステップS14では、液面センサの出力に基づいて、アノード室Caのめっき液の液面Saの高さが下限値(所定の高さ)H0以上であるか否かを判定する。
【0050】
ステップS14において、アノード室Caのめっき液の液面Saの高さが下限値H0未満であること(例えば、センサ出力OFF)を、液面センサ12の出力が示す場合には、ステップS15に移行する。
【0051】
ステップS15では、バルブ93を開いて液体供給源91からアノード室Caに純水を補給する。純水の補給は、例えば、液面センサ12の出力に基づいて、アノード室Caのめっき液の液面Saの高さが下限値H0以上(液面センサ出力ON)となるまで行う。初期状態でアノード室Caに供給しためっき液の液面Saの高さと、液面センサ12がOFFになる時点のめっき液の液面Saの高さの差が分かる場合には、その差に相当する量のめっき液を補給するように純水を供給してもよい。
【0052】
ステップS14において、アノード室Caのめっき液の液面Saの高さが下限値H0以上であること(例えば、液面センサ出力ON)を液面センサ12の出力が示す場合には、ステップS16に移行する。
【0053】
ステップS16では、濃度センサ(電気伝導率センサ)13の出力を確認する。ステップS17では、濃度センサ(電気伝導率センサ)13の出力に基づいて、アノード室Caのめっき液の濃度(電気伝導率)が、濃度(電気伝導率)の上限値以下か否かを判定する。
【0054】
ステップS17において、アノード室のめっき液の濃度(電気伝導率)が、濃度上限値(電気伝導率上限値)を超えていることを、濃度センサ(電気伝導率センサ)13の出力が示す場合には、ステップS18に移行し、アラームを発報する。ステップS17において濃度(電気伝導率)が正常範囲外となる場合、液面センサ12が故障しておりステップS14で液面Saの高さが下限値H0以上と判定されたが、実際には液面Saの高さが下限値H0未満となっている可能性があるため、ステップS18でアラームを発報する。ユーザは、アラームの発報に応じて液面センサ12の故障の有無を確認することができる。濃度センサ及び電気伝導率センサの両方がある場合には、濃度センサ又は電気伝導率センサの一方が上限値を超えた場合にアラームを発報するようにしてもよいし、濃度センサ及び電気伝導率センサの両方が上限値を超えた場合にアラームを発報するようにしてもよい。濃度センサ又は電気伝導率センサの一方が設置されている場合には、設置されているセンサの出力が上限値を超えた場合にアラームを発報する。
【0055】
ステップS17において、アノード室のめっき液の濃度(電気伝導率)が、濃度上限値(電気伝導率上限値)以下であることを、濃度センサ(電気伝導率センサ)13の出力が示す場合には、ステップS19において、アノード室液管理制御のフローを終了し、次の基板のめっき処理(ステップS11)に移行する。濃度センサ及び電気伝導率センサの両方がある場合には、濃度センサ及び電気伝導率センサの両方が上限値以下である場合に正常としてもよいし、濃度センサ又は電気伝導率センサの一方が上限値以下である場合に正常としてもよい。濃度センサ又は電気伝導率センサの一方が設置されている場合には、設置されているセンサの出力が上限値以下である場合に正常と判断する。ここで、正常とは、めっき液面が下限値H0以上であることに対応するものとする。
【0056】
[めっきモジュールの実験例]
上記実施形態の構成を用いてめっき液中に発生する気泡を観察した実験例を以下に説明する。
図9は、実験用のめっきモジュール(隔膜無)の写真である。
図10は、実験用めっきモジュール(隔膜有)の写真である。
図9では、めっき液を保持するめっき槽10内に、アノード41と、アノード41から所定の間隔で上方に離間したカソード32(基板Wfに相当)とが配置されている(
図12A、
図12Bも参照)。
図10では、めっき液を保持するめっき槽10内に、アノード41と、アノード41の上面に密着した隔膜71と、隔膜71を押さえる押さえ板72と、押さえ板72から所定の間隔で上方に離間したカソード32とが配置されている(
図13A、
図13Bも参照)。各図において、アノード41は、電源(図示略)の正極端子に接続され、カソード32は、電源の負極端子に接続される。カソード32は、めっき液による浮力により押さえ板72から離間するが、適宜、スペーサ等の上にカソード32を配置して押さえ板72から離間させてもよい。
【0057】
実験に使用した各種パラメータは、以下の通りである。尚、実験ではアノードでの気泡発生の様子を観察するのを容易にする目的で、めっき液の代わりに、金属イオンを含まない電解液を使用した。アノードにおける電極反応は、めっき液を用いた場合と同一である。アノード、カソード、電解液(めっき液)、カソードに対向するアノードとして機能するアノード面積、及び電流密度は、以下の通りである。
アノード:IrO2/Tiのラス(金網)
カソード:Pt/Tiのラス(金網)
隔膜:Yumicron Y-9207TA (micro-porous membrane)(ユアサメンブレインシステム社)
電解液:100g/L-H2SO4
アノード面積(Anode area):0.24dm2(60mm×40mm)
電流密度:5ASD
【0058】
図11は、めっき中のアノード電圧の測定結果である。この測定結果に示すように、隔膜71を用いた場合も、通電時のアノード41の電圧は安定しており、隔膜無の場合と同様の電圧の変化を示すことが分かった。この結果から、隔膜71をアノード41に密着させても、アノード-カソード間の電圧が正常な変化を示し、正常なめっき処理を行えることが予想される。
【0059】
図12Aは、めっき前のめっきモジュール(隔膜無)の写真である。
図12Bは、めっき中のめっきモジュール(隔膜無)の写真である。これらの図に示すように、めっきモジュール(隔膜無)では、アノード41で発生した多量の気泡が、アノード41の上下両側に蓄積することが観測された。イオン伝導パスとなるアノード41-カソード32の間に多量の気泡が蓄積するため、めっき膜厚の均一性に悪影響を与えることが予想される。
【0060】
図13Aは、めっき前のめっきモジュール(隔膜有)の写真である。
図13Bは、めっき中のめっきモジュール(隔膜有)の写真である。これらの図に示すように、隔膜有のめっきモジュールでは、アノード41で発生した気泡が、アノード41の下側に存在するものの、イオン伝導パスとなるアノード41-カソード32の間に気泡が蓄積することが抑制されることが観測された。従って、めっき膜厚の均一性を向上し得ることが予想される。
【0061】
上述した実施形態によれば、以下の作用効果のうち1又は複数を奏する。
(1)上記実施形態よれば、アノード室の液面を常にカソード室の液面より低くするため、アノード室の圧力よりも高いカソード室の圧力によって隔膜をアノードに押し付けて密着させることができる。
(2)上記実施形態によれば、アノード室の液面の高さを液面センサで監視し、アノード室の液面の高さが所定の高さ(下限値)未満となったときに、アノード室に純水を補給するため、アノード室のめっき液の枯渇を抑制又は防止することができる。
(3)上記実施形態によれば、アノード室のめっき液を循環することなく、アノードで発生したガスを自然に排出可能となるため、めっき槽の構造及び/又は運用がシンプルとなる。
(4)上記実施形態によれば、アノードと基板との間のイオン伝導パス上に気泡(抵抗成分)が蓄積し、めっき膜厚の均一性に影響を及ぼすことを抑制できる。また、アノードに密着した隔膜を通じて陽イオンを基板側に伝導させることができるので、気泡の影響を回避しつつ、アノード-基板間のイオン伝導パスを確実に確保することができる。よって、アノードと基板との間のイオン伝導パス上に、アノードからの気泡によるイオン伝導抵抗が生じることを抑制しつつ、基板上のめっきを安定して行うことができ、めっき膜厚の均一性を向上し得る。
(5)上記実施形態によれば、アノードとして不溶解アノードが使用可能となる為、アノードのメンテナンス性向上、ランニングコスト低減が可能となる。
(6)上記実施形態によれば、気泡調節プレート又は気泡バッファ用リングにより、アノード裏面上に蓄積した気泡の離脱によるアノード表面(貫通孔内壁、裏面)近傍での急激な圧力変化を抑制することができる。これにより、アノード表面(貫通孔内壁、裏面)近傍における飽和溶存酸素濃度の変動、ひいてはアノードの電極電圧の変動を抑制し、めっき膜厚の面内均一性の低下を抑制することができる。
【0062】
[変形例]
(1)上記実施形態では、めっき処理後に、液面センサの出力に基づいてアノード室に純水を補給するが、めっき処理前、めっき処理中、及びめっき処理後の少なくとも1つの時期に、液面センサの出力に基づいて純水を補給してもよい。
(2)上記実施形態では、液面センサに加えて濃度センサ及び/又は電気伝導度センサを使用する例を挙げて説明したが、濃度センサ及び電気伝導度センサを省略してもよい。
(3)上記実施形態では、液面センサの出力に基づいてアノード室に純水を補給するが、電解液を補給するようにしてもよい。電解液は、アノード室及び/又はカソード室のめっき液よりも低い濃度の電解液であってよい。アノード室のめっき液の濃度の変化を抑制するには、電解液は、アノード室及び/又はカソード室のめっき液よりも低い濃度の電解液であることが好ましい。
なお、電解液を補給する場合には、電解液を補給する度にアノード室のめっき液の濃度/電気伝導度が上昇するため、濃度センサ/電気伝導度センサの検出値を評価するための上限値は、電解液の濃度を考慮して設定する。また、濃度センサ/電気伝導度センサ、並びにそれらのセンサに基づく制御(
図8のS16-S18)を省略してもよい。
(4)上記実施形態では、アノード室のめっき液(アノード液)を循環させない構成としたが、カソード液の循環経路とは別のアノード液用の循環経路を設けてもよい。この場合、アノード室のめっき液中の気泡をより積極的に外部に排出することができる。
(5)上記実施形態では、アノード液及びカソード液は同一組成の電解液を使用したが、アノード液及びとカソード液は異なる組成の電解液を使用してもよい。例えば、アノード液とカソード液とで、添加剤の有無、濃度が互いに異なってもよい。例えば、アノード液として、添加剤が添加されていないめっき液の基本組成液(VMS:Virgin Makeup Solution)を使用してもよい。この場合、カソード室とアノード室とで別々のめっき液供給経路を設ける。
(6)上記実施形態では、カソード液とアノード液とに共通のオーバーフロー槽を設けているが、カソード液用とアノード液用のオーバーフロー槽を別々に設けてもよい。この場合、高価な添加剤を含むめっき液がアノード室に供給されて添加剤が消費されることを防止できる。
【0063】
上述した実施形態から少なくとも以下の形態が把握される。
【0064】
[1]一形態によれば、 アノードと、前記アノードの上面に接触又は密着する隔膜とが配置され、前記隔膜によって仕切られた上方のカソード室及び下方のアノード室と、前記アノード室に連通し前記アノード室から前記めっき槽の外部に気泡を排出するための排気通路と、を備えるめっき槽を準備するステップと、 前記アノード室のめっき液の液面である前記排気通路内のめっき液の液面が、前記カソード室のめっき液の液面よりも低くなるように、前記アノード室及び前記カソード室にめっき液を保持するステップと、 前記排気通路内に配置された液面センサの出力に基づいて、前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であるか判別するステップと、 前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であると判別したとき、前記アノード室に純水又は電解液を供給するステップと、を含むアノード室の液管理方法が提供される。
電解液は、アノード室及び/又はカソード室のめっき液と同一組成の電解液とすることができ、アノード室及び/又はカソード室のめっき液よりも低い濃度の電解液であってよい。アノード室のめっき液の濃度の変化を抑制するには、電解液は、アノード室及び/又はカソード室のめっき液よりも低い濃度の電解液であることが好ましい。
【0065】
この形態によれば、アノード室の液面をカソード室の液面より低く制御することで、アノード室の圧力よりも高いカソード室の圧力によって隔膜をアノードに押し付けて密着させることができると共に、アノード室(排気通路)内の液面の高さが所定の高さ未満にならないように純水又は電解液をアノード室に補給することにより、アノード室のめっき液の枯渇を抑制又は防止することができる。
【0066】
[2]一形態によれば、 前記アノード室のめっき液の液面の高さが、前記アノード室のめっき液がオーバーフロー高さよりも低い高さになるように、前記アノード室にめっき液を保持する。
【0067】
この形態によれば、添加剤が消費されたアノード室のめっき液がオーバーフロー槽に流入して、カソード室に循環されることを抑制又は防止できる。これにより、カソード室のめっき液中の添加剤の濃度低下や劣化を抑制又は防止できる。
【0068】
[3]一形態によれば、前記アノード室のめっき液の液面の高さが、前記アノード室のめっき液がオーバーフロー高さよりも低い高さになるように、前記アノード室に純水又は電解液を供給する。
【0069】
この形態によれば、添加剤が消費されたアノード室のめっき液がオーバーフロー槽に流入して、カソード室に循環されることを抑制又は防止できる。これにより、カソード室のめっき液中の劣化を抑制又は防止できる。
【0070】
[4]一形態によれば、 前記アノード室のめっき液の液面が上昇したとき、前記カソード室のめっき液がオーバーフローする高さよりも低い高さで、前記アノード室のめっき液をオーバーフローさせるステップを含む。
【0071】
この形態によれば、何らかの原因でアノード室の液面が上昇した場合(緊急時)にも、アノード室の液面をカソード室の液面より低く保持することができ、隔膜とアノードとの密着を維持することができる。例えば、隔膜の劣化等に起因してカソード室のめっき液がアノード室に流入してアノード室の液面が上昇したとしても、アノード室の液面をカソード室の液面より低い範囲に抑制できる。
【0072】
[5]一形態によれば、 前記アノード室のめっき液を循環させず、前記カソード室のめっき液を循環させるステップを更に含む。
【0073】
この形態によれば、アノード室のめっき液を循環させないことで、添加剤の消費を抑制することができる。同一のめっき液の供給源(リザーバ)を用いてめっき液をカソード室及びアノード室に供給、循環する場合、めっき中にめっき液をアノード側で循環すると、アノード室で高価な添加剤が分解(消費)され続けることになる。アノード室を満たすときのみめっき液をアノード室に供給し、アノード室のめっき液を循環させないことで、添加剤の消費を抑制できる。
【0074】
[6]一形態によれば、 前記アノード室及び前記カソード室に同一組成のめっき液を導入するステップを含む。
【0075】
この形態によれば、アノード室及びカソード室に同一組成のめっき液を導入するため、めっき液の供給するための構成を簡易な構成とすることができる。
【0076】
[7]一形態によれば、 前記アノード室及び前記カソード室に同一のめっき液供給源から同一組成のめっき液を導入する。
【0077】
この形態によれば、同一のめっき供給源からアノード室及びカソード室に同一組成のめっき液を導入するため、アノード室に接続される流路の構成を簡易にすることができる。
【0078】
[8]一形態によれば、 めっき液の供給源と、純水又は電解液の供給源との一方を、選択的に前記アノード室に接続する。
【0079】
この形態によれば、アノード室に接続される流路の構成を更に簡易にすることができる。
【0080】
[9]一形態によれば、 濃度センサ及び/又は電気伝導率センサで前記アノード室の濃度及び/又は電気伝導率を検出するステップと、 前記濃度及び/又は電気伝導率が所定の閾値に到達したか否かの判定結果に基づいて、アラームを発報するステップと、を更に含む。
【0081】
この形態によれば、アノード室においてめっき液中の水分が蒸発して、めっき液の濃度及び/又は電気伝導率が上昇した場合に、めっき液の濃度及び/又は電気伝導率を介して液面の下降をチェックすることができる。即ち、液面センサによる液面の監視に加えて、濃度センサ及び/又は電気伝導率センサにより液面の監視を二重に行うことができる。従って、液面センサが故障した場合等に、濃度センサ及び/又は電気伝導率センサにより液面の異常を検知することができる。これにより、アノード室の液面管理の制御の冗長性を向上し得る。
【0082】
[10]一形態によれば、 前記基板のめっき処理の終了後に、前記液面センサの出力に基づいて、前記アノード室に純水又は電解液を供給する。
【0083】
この形態によれば、めっき処理中の制御の複雑化を抑制することができる。
【0084】
[11]一形態によれば、前記アノード室のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であると判別したとき、前記アノード室に純水を供給する。
【0085】
この形態によれば、アノード室で減少した分の純水を供給することによりアノード室のめっき液の濃度の変化を抑制又は防止することができる。また、補給する液体のコストを抑制することができる。
【0086】
[12]一形態によれば、 基板を保持する基板ホルダと、 前記基板に対向して配置されるアノードと、 前記アノードの上面に密着して配置された隔膜と、 めっき液を保持するめっき槽であって、前記隔膜によって、前記基板が配置されるカソード室と、前記アノードが配置されるアノード室とに仕切られ、前記アノード室に連通し前記アノード室から前記めっき槽の外部に気泡を排出するための排気通路を備えるめっき槽と、 前記めっき槽の前記排気通路内に配置され、前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であるか検出する液面センサと、 前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であることを前記液面センサが検出したことに応答して、前記アノード室に純水又は電解液を供給する制御装置と、を備えるめっき装置が提供される。
【0087】
この形態によれば、[1]に関して上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、実施形態および変形例の任意の組み合わせが可能であり、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【0089】
米国特許出願公開第2020-0017989号明細書(特許文献1)、並びに、2022年3月31日出願の国際特許出願第PCT/JP2022/016809号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書を含む全ての開示は、参照により全体として本願に組み込まれる。
【符号の説明】
【0090】
10 めっき槽
10a 内槽
10b 外槽
11 排気通路
11A オーバーフロー通路
12 液面センサ
13 濃度センサ(電気伝導率センサ)
20 オーバーフロー槽
31 基板ホルダ
41 アノード
41A 貫通孔
42 アノードホルダ
43 アノードマスク
51 抵抗体
61 気泡
71 隔膜
72 押さえ板
72A 貫通孔
74 締結部材
75 シール
80 循環経路
81 リザーバータンク
82~85 流路
86 ポンプ
87 フィルタ
88 バルブ
89 バルブ
90 循環経路
91 液体供給源
92 流路
93 バルブ
95 流路
400 めっきモジュール
Ca アノード室
Cc カソード室
OFa オーバーフロー面
OFc オーバーフロー面
Sa、Sc 液面
【要約】
アノードと、前記アノードの上面に接触又は密着する隔膜とが配置され、前記隔膜によって仕切られた上方のカソード室及び下方のアノード室と、前記アノード室に連通し前記アノード室から前記めっき槽の外部に気泡を排出するための排気通路と、を備えるめっき槽を準備するステップと、 前記アノード室のめっき液の液面である前記排気通路内のめっき液の液面が、前記カソード室のめっき液の液面よりも低くなるように、前記アノード室及び前記カソード室にめっき液を保持するステップと、 前記排気通路内に配置された液面センサの出力に基づいて、前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であるか判別するステップと、 前記排気通路内のめっき液の液面の高さが所定の高さ未満であると判別したとき、前記アノード室に純水又は電解液を供給するステップと、を含むアノード室の液管理方法。