(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】漁網具設計支援装置、漁網具設計支援方法、および、漁網具設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
A01K 75/00 20060101AFI20221024BHJP
【FI】
A01K75/00 J
(21)【出願番号】P 2021116791
(22)【出願日】2021-07-15
(62)【分割の表示】P 2017048834の分割
【原出願日】2017-03-14
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591018877
【氏名又は名称】日東製網株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 力
(72)【発明者】
【氏名】五味 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】棚田 法男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝也
(72)【発明者】
【氏名】西山 義浩
(72)【発明者】
【氏名】白木 里香
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特許第3870359(JP,B2)
【文献】特開2003-090888(JP,A)
【文献】特開2015-121439(JP,A)
【文献】特開2005-245207(JP,A)
【文献】データ同化の考え方とその方法,MTI-HandBook,平成21年度MTI研究会サイエンスセッション,p.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 69/00-77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網の目合の長さと網糸の直径を含む設計対象漁網具のパラメータ
、および、前記漁網具の水中の運動方程式を用いて、数値シミュレーションによって、前記漁網具の水中動態の数値シミュレーションに供する計算用モデルを構成する質点の位置
および速度を算出する数値シミュレーション部と、
前記漁網具の操業時の網地質点の目標位置、目標速度を含む目標値を設定する目標値設定部と、
システムモデルおよび観測モデルの未知数として、前記網地質点の位置および速度とともに、前記設計対象漁網具のパラメータを設定し、観測モデルの既知数である観測値として前記目標値を設定して、データ同化処理を実行することで、前記網地質点の位置および速度の状態推定値とともに設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を算出し、前記設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を前記数値シミュレーション部にフィードバックするデータ同化処理部と、
を備える、漁網具設計支援装置。
【請求項2】
網の目合の長さと網糸の直径を含む設計対象漁網具のパラメータ
、および、前記漁網具の水中の運動方程式を用いて、数値シミュレーションによって、前記漁網具の水中動態の数値シミュレーションに供する計算用モデルを構成する質点の位置
および速度を算出し、
前記漁網具の操業時の網地質点の目標位置、目標速度を含む目標値を設定し、
システムモデルおよび観測モデルの未知数として、前記網地質点の位置および速度とともに、前記設計対象漁網具のパラメータを設定し、観測モデルの既知数である観測値として前記目標値を設定して、データ同化処理を実行することで、前記網地質点の位置および速度の状態推定値とともに設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を算出し、前記設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を前記数値シミュレーションにフィードバックする、
漁網具設計支援方法。
【請求項3】
網の目合の長さと網糸の直径を含む設計対象漁網具のパラメータ
、および、前記漁網具の水中の運動方程式を用いて、数値シミュレーションによって、前記漁網具の水中動態の数値シミュレーションに供する計算用モデルを構成する質点の位置
および速度を算出する処理と、
前記漁網具の操業時の網地質点の目標位置、目標速度を含む目標値を設定する処理と、
システムモデルおよび観測モデルの未知数として、前記網地質点の位置および速度とともに、前記設計対象漁網具のパラメータを設定し、観測モデルの既知数である観測値として前記目標値を設定して、データ同化処理を実行することで、前記網地質点の位置および速度の状態推定値とともに設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を算出し、前記設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を前記数値シミュレーションにフィードバックする処理と、
を情報処理装置に実行させる、漁網具設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中での漁網具の動態を推定する漁網具動態推定技術、および、この漁網具動態推定技術を用いた操業支援技術、および、漁網具設計技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中での漁網具の動態は、直接把握することが難しかった。このため、従来では、漁業者は、個々の経験や勘に頼って、水中において漁網具を所望の動態とするように、操業制御を行っていた。
【0003】
この問題に対して、特許文献1、2、3には、水中の漁網具の動態を数値シミュレーションによって算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3870359号明細書
【文献】特許第5203252号明細書
【文献】特開2005-245300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2、3に示すような従来の数値シミュレーションによる漁網具の動態の算出では、操業条件等の数値シミュレーションに与える条件によっては、実際の水中の漁網具の動態と大きく異なってしまうことがある。したがって、水中で所望の形状および動態を生じる漁網具を高精度に設計することは難しい。
【0006】
本発明の目的は、水中で所望の形状および動態を生じる漁網具を高精度に設計することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の漁網具設計支援装置は、数値シミュレーション部、事前状態推定値算出部、目標値設定部、および、状態推定値算出部を備える。数値シミュレーション部は、漁網具の部材の設計仕様を示すパラメータ、および、漁網具の水中の運動方程式を用いて、数値シミュレーションによって、漁網具の水中動態の数値シミュレーションに供する計算用モデルを構成する質点の位置または速度を算出する。事前状態推定値算出部は、質点の位置または速度が入力され、漁網具の水中の運動方程式を用いて、質点の次時刻の位置または速度、および、漁網具の部材の設計仕様を示すパラメータの事前状態推定値を算出する。目標値設定部は、漁網具の水中形状または部材への作用荷重の目標値を設定する。状態推定値算出部は、目標値と事前状態推定値とを用いて、質点の次時刻の位置または速度の状態推定値と、漁網具の部材の設計仕様を示すパラメータの状態推定値と、を算出する。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、水中で所望の形状および動態を生じる漁網具を高精度に設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置のデータ同化処理部の機能ブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置を含むシステムの機能ブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置が取り付けられた船舶および漁網具の一状態を示す外観斜視図である。
【
図4】(A)は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置の推定値と実測値とを示すグラフであり、(B)は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置の推定値と、従来の推定値と、実測値とを示すグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定方法のメイン処理を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定方法であって、数値シミュレーションを含む場合のフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る漁網具動態推定装置を含むシステムの機能ブロック図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る漁網具動態推定方法のフローチャートである。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係る操業支援装置の機能ブロック図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係る操業支援方法のフローチャートである。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る漁網具設計支援装置の機能ブロック図である。
【
図12】本発明の第4の実施形態に係る漁網具設計支援方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置、漁網具動態推定方法、および、漁網具動態推定プログラムについて、図を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置のデータ同化処理部の機能ブロック図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置を含むシステムの機能ブロック図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置が取り付けられた船舶および漁網具の一状態を示す外観斜視図である。
【0011】
図2に示すように、漁網具動態推定装置10は、データ同化処理部11、観測値取得部12、操業条件取得部13、および、数値シミュレーション部14を備える。漁網具動態推定装置10は、表示部20およびセンサ30に接続されている。センサ30は、複数の深度センサ311、312、313と、受信機32とを備える。
【0012】
このような漁網具動態推定装置10、表示部20、および、センサ30からなる動態推定システムは、
図3に示すように、漁網具91を備える船舶90に装備されている。漁網具91は、金属等からなる網状のワイヤと該網状のワイヤを操作するためのワイヤロープ等からなり、船舶90から水中に投下され、利用される。漁網具91の形状は、潮流等の水中状態、船舶90による操業条件等に応じて変化する。
【0013】
漁網具動態推定装置10、表示部20、および、受信機32は、船舶90に装着されている。複数の深度センサ311、312、313は、それぞれ漁網具91に装着されている。より具体的には、
図3に示すように、複数の深度センサ311、312、313は、それぞれに漁網具91における異なる箇所に装着されている。複数の深度センサ311、312、313が装着されている位置は、漁網具動態推定方法に用いる網地質点の特定位置に対応する。
【0014】
複数の深度センサ311、312、313は、観測時刻k毎に、自装置の深度を計測し、受信機32に送信する。受信機32は、複数の深度センサ311、312、313の深度を受信する。受信機32は、例えば、複数の深度センサ311、312、313の深度、複数の深度センサ311、312、313と受信機32との各距離、受信機32の位置等を用いて、観測時刻k毎の深度センサ311、312、313の観測位置xy(k)および観測速度vy(k)を算出する。これらの深度センサ311、312、313の観測位置xy(k)および観測速度vy(k)は、漁網具動態推定方法に用いる特定の網地質点における漁網具の観測値に対応する。受信機32は、深度センサ311、312、313の観測位置xy(k)および観測速度vy(k)、すなわち、漁網具の観測値を、漁網具動態推定装置10の観測値取得部12に出力する。なお、漁網具の観測値は逐次出力されても、複数の観測時刻分がまとめて出力されてもよいが、逐次出力が用いられることによって、状況に対する追従性の高い漁網具動態推定を行うことができる。
【0015】
観測値取得部12は、漁網具の観測値を取得して、データ同化処理部11に出力する。
【0016】
操業条件取得部13は、船舶90が漁網具91を用いて操業を行う際の操業条件を、船舶90の操業制御部(図示を省略している。)から取得する。操業条件取得部13は、操業条件を、数値シミュレーション部14に出力する。
【0017】
なお、操業条件とは、例えば、旋網の場合、船舶90の位置、速度、針路、漁網具91のワイヤロープの繰り出し長さ、巻き取り長さ、潮流の流向、流速、漁網具91を用いた操業に加わる他の船舶の位置等からなる。操業条件は、センサ30とは異なる各種のセンサ等を用いて、図示していないが既知の方法で取得できる。
【0018】
数値シミュレーション部14は、操業条件を用いて、網地質点の位置x(k)および速度v(k)を、網地質点の運動方程式に基づく数値シミュレーションを用いて算出する。これら網地質点の位置および速度が、本発明の「計算用モデルを構成する値」に対応する。
【0019】
このような数値シミュレーションは、詳細の記載は省略するが、例えば、特許第3870359号の記載に基づく方法によって実行できる。そして、この数値シミュレーションに用いる運動方程式は、漁網具の水中動態を表現するための物理定数、例えば、慣性力、付加質量力、抗力、浮力、重力、張力等を用いて、既知の方法によって設定されている。そして、これらの力学的諸量は、上述の操業条件によって設定されており、固定値である。
【0020】
数値シミュレーション部14は、網地質点の位置x(k)および速度v(k)を、データ同化処理部11に出力する。
【0021】
図1に示すように、データ同化処理部11は、事前状態推定値算出部111と、状態推定値算出部112とを備え、拡張カルマンフィルタを実現している。
【0022】
事前状態推定値算出部111は、上述の網地質点の運動方程式に基づいて、時間更新行列A(θ)を含むシステムモデルを設定する。
【0023】
システムモデルは、(式1)で表される。
【0024】
xx(k+1)=A(θ)・xx(k)+B・vv(k) -(式1)
xx(k)は、網地質点の位置x(k)および速度v(k)を含む時刻kにおける状態ベクトル(既知数)であり、xx(k+1)は、網地質点の位置x(k+1)および速度v(k+1)を含む時刻k+1における状態ベクトル(未知数:事前状態推定値)である。
【0025】
A(θ)は、時間更新行列であり、上述の運動方程式に用いる物理定数、例えば、抗力係数Cd、付加質量係数Cmに基づいて設定されている。vv(k)は、時刻kにおけるシステム雑音であり、Bは、その誤差係数行列である。時間更新行列A(θ)、システム雑音vv(k)、および、誤差係数行列Bは既知数である。
【0026】
事前状態推定値算出部111は、(式1)を用いて、状態ベクトルxx(k)から、事前状態推定値である状態ベクトルxx(k+1)を算出する。
【0027】
事前状態推定値算出部111は、このシステムモデルによる事前状態推定値の算出とともに、時間更新行列A(θ)、誤差係数行列Bを用いて、事前誤差共分散行列Pを算出する。
【0028】
事前状態推定値算出部111は、事前状態推定値である状態ベクトルxx(k+1)と、事前誤差共分散行列Pとを、状態推定値算出部112に出力する。
【0029】
状態推定値算出部112は、状態推定値に対する観測モデルを設定する。
【0030】
観測モデルは、(式2)で表される。
【0031】
xyy(k)=C(θ)・xx(k)+ww(k) -(式2)
xyy(k)は、漁網具の観測値の位置および速度を含む時刻kにおける観測ベクトルである。xx(k)は、上述の時刻kにおける状態ベクトルである。ww(k)は、時刻kにおける観測雑音である。C(θ)は、変換行列である。観測ベクトルxyy(k)は、観測値取得部12で取得した漁網具の観測値からなる。観測雑音ww(k)、および、変換行列C(θ)は既知数である。
【0032】
状態推定値算出部112は、事前状態推定値算出部111から入力された各値と(式2)とを用いて、網地質点の位置の状態推定値x’(k+1)、網地質点の速度の状態推定値x’(k+1)を含む状態推定ベクトルxx’(k+1)を算出する。この際、状態推定値算出部112は、事前誤差共分散行列Pから算出されたカルマンゲインGを用いる。言い換えれば、状態推定値算出部112は、事前状態推定値算出部111で算出された網地質点に関する事前状態推定値を、漁網具の観測値、および、カルマンゲインを用いて補正(修正)することで、網地質点に関する状態推定値を算出する。
【0033】
このような処理を行うことによって、データ同化処理部11は、網地質点の位置および速度を、高精度に推定できる。
【0034】
このようにデータ同化処理部11で算出された位置の状態推定値、および、速度の状態推定値は、数値シミュレーション部14にフィードバックされ、上述の推定処理が繰り返される。これにより、網地質点の位置および速度を、観測時刻に基づく時系列で、順次、高精度に推定できる。
【0035】
また、データ同化処理部11は、網地質点の位置の状態推定値および速度の状態推定値を、表示部20に出力する。表示部20は、網地質点の位置の状態推定値および速度の状態推定値から、漁網具91の状態を画像化して表示する。これにより、操業者は、漁網具91の動態を、容易に且つ正確に把握できる。
【0036】
なお、上述の説明では詳細を省略したが、漁網具91の網地質点の動態は、一般的に非線形である。しかしながら、位置および速度のそれぞれに対して、1次テーラー級数展開を採用することによって、カルマンフィルタを適用できる。すなわち、データ同化処理部11は、拡張カルマンフィルタを実行できる。
【0037】
また、上述の説明では、拡張カルマンフィルタを適用する網地質点は、漁網具の観測値が得られる特定位置の網地質点のみである。しかしながら、数値シミュレーション部14では、特定位置の網地質点以外にも複数の網地質点に対する位置および速度を推定している。この場合、特定位置の網地質点以外の他の網地質点に対しては、数値シミュレーションの前段処理として、特定位置に対する拡張カルマンフィルタによる補正量(漁網具の観測値による補正量)を算出し、この補正量に基づく補正を、他の網地質点に対しても行えばよい。
【0038】
以上のように、漁網具動態推定装置10は、観測値と推定値とのデータ同化処理を行うことによって、漁網具91の動態を高精度に推定できる。すなわち、漁網具動態推定装置10は、漁網具の動態を、実際の水中の漁網具の動態に対してより少ない誤差で推定できる。
【0039】
図4(A)は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置の推定値と実測値とを示すグラフであり、
図4(B)は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置の推定値と、従来の推定値と、実測値とを示すグラフである。
図4(A)、
図4(B)の横軸は観測時刻であり、縦軸は、漁網具の特定位置の網地質点の深度である。従来の推定値とは、特許文献1に示す方法での推定値であり、データ同化処理を行わない場合の推定値である。
【0040】
図4(A)、
図4(B)に示すように、本実施形態に係る漁網具動態推定装置10を用いることによって、深度に影響されることなく、実測値に対して誤差の少ない推定値を得ることができる。また、
図4(B)に示すように、本実施形態に係る漁網具動態推定装置10を用いることによって、従来の推定方法よりも高精度な推定値を算出できる。
【0041】
なお、上述の説明では、漁網具動態推定装置10で実現する複数の処理を、それぞれに個別の機能部で実現する態様を示した。しかしながら、漁網具動態推定装置10で実現する複数の処理をプログラム化して記憶手段に記憶しておき、CPU等の情報処理装置で当該プログラムを読み出して実行してもよい。この場合、次に示すフローチャートに示す方法をプログラム化すればよい。
【0042】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定方法のメイン処理を示すフローチャートである。
【0043】
図5に示すように、本実施形態の漁網具動態推定方法では、情報処理装置は、上述のシステムモデルを用いて、網地質点の動態に関する事前状態推定値を算出する(S101)。次に、情報処理装置は、網地質点の動態に関する観測値を取得する(S102)。なお、観測値の取得と事前状態推定値の算出とは、この順に限るものではない。
【0044】
次に、情報処理装置は、上述の観測モデルを用いて、事前状態推定値と観測値とから、網地質点の動態に関する状態推定値を算出する(S103)。
【0045】
また、数値シミュレーションを用いる場合には、
図6に示す処理を行えばよい。
図6は、本発明の第1の実施形態に係る漁網具動態推定方法であって、数値シミュレーションを含む場合のフローチャートである。
【0046】
図6に示すように、本実施形態の漁網具動態推定方法では、情報処理装置は、上述の数値シミュレーションを用いて、網地質点の動態に関する値を算出する(S201)。次に、情報処理装置は、上述のシステムモデルを用いて、網地質点の動態に関する値から網地質点の動態に関する事前状態推定値を算出する(S202)。次に、情報処理装置は、網地質点の動態に関する観測値を取得する(S203)。なお、観測値の取得と事前状態推定値の算出とは、この順に限るものではない。
【0047】
次に、情報処理装置は、上述の観測モデルを用いて、事前状態推定値と観測値とから、網地質点の動態に関する状態推定値を算出する(S204)。情報処理装置は、状態推定値を、数値シミュレーションの入力値としてフィードバックする(S205)。
【0048】
以下、情報処理装置は、上述のステップS201からステップS205の処理を繰り返し実行する。
【0049】
このような処理を実行することで、時系列に変化する漁網具の動態を、高精度に推定できる。
【0050】
次に、本発明の第2の実施形態に係る漁網具動態推定装置、漁網具動態推定方法、および、漁網具動態推定プログラムについて、図を参照して説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る漁網具動態推定装置を含むシステムの機能ブロック図である。
【0051】
図7に示すように、第2の実施形態に係る漁網具動態推定装置10Aは、第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置10に対して、データ同化処理部11A、および、数値シミュレーション部14Aにおいて異なる。漁網具動態推定装置10Aの他の構成は、漁網具動態推定装置10の構成と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0052】
データ同化処理部11Aは、システムモデルおよび観測モデルの未知数として、網地質点の位置および速度とともに、上記の運動方程式に用いる物理定数を設定する。具体的には、物理定数における少なくとも抗力係数Cdおよび付加質量係数Cmを未知数に設定する。そして、データ同化処理部11Aは、上述と同様のデータ同化処理(拡張カルマンフィルタ)を実行する。これにより、データ同化処理部11Aは、網地質点の位置および速度の状態推定値とともに物理定数の状態推定値を算出する。データ同化処理部11Aは、物理定数の状態推定値を、数値シミュレーション部14Aにフィードバックする。
【0053】
数値シミュレーション部14Aは、フィードバックされた物理定数の状態推定値を用いて、運動方程式を更新し、数値シミュレーションを実行する。
【0054】
なお、物理定数の状態推定値は、データ同化処理部11A内の処理において、運動方程式に基づいて設定される箇所、例えば、システムモデルの時間更新行列の更新にも利用される。
【0055】
このような構成を用いることによって、物理定数が実際の水中の状態に応じて適正に調整される。したがって、漁網具の動態を、より高精度に推定できる。
【0056】
なお、上述の説明では、漁網具動態推定装置10Aで実現する複数の処理を、それぞれに個別の機能部で実現する態様を示した。しかしながら、漁網具動態推定装置10Aで実現する複数の処理をプログラム化して記憶手段に記憶しておき、CPU等の情報処理装置で当該プログラムを読み出して実行してもよい。この場合、次に示すフローチャートに示す方法をプログラム化すればよい。
図8は、本発明の第2の実施形態に係る漁網具動態推定方法のフローチャートである。なお、
図8では、数値シミュレーションも含むフローチャートであり、第1の実施形態と同様に、データ同化処理の部分、すなわち、
図8のステップS302からステップS304のだけを用いてもよい。
【0057】
図8に示すように、本実施形態の漁網具動態推定方法では、情報処理装置は、上述の数値シミュレーションを用いて、網地質点の動態に関する値を算出する(S301)。この際、情報処理装置は、初回を除き、前回の状態推定値によって更新された物理定数を用いて、数値シミュレーションを実行する。
【0058】
次に、情報処理装置は、上述のシステムモデルを用いて、網地質点の動態に関する値から網地質点の動態に関する事前状態推定値と物理定数の事前状態推定値とを算出する(S302)。次に、情報処理装置は、網地質点の動態に関する観測値を取得する(S303)。なお、観測値の取得と事前状態推定値の算出とは、この順に限るものではない。
【0059】
次に、情報処理装置は、上述の観測モデルを用いて、事前状態推定値と観測値とから、網地質点の動態に関する状態推定値と物理定数の状態推定値とを算出する(S304)。情報処理装置は、網地質点の動態に関する状態推定値を、数値シミュレーションの入力値としてフィードバックし、物理定数の状態推定値を数値シミュレーションの設定値としてフィードバックする(S305)。
【0060】
次に、本発明の第3の実施形態に係る操業支援装置、操業支援方法、および、操業支援プログラムについて、図を参照して説明する。
図9は、本発明の第3の実施形態に係る操業支援装置の機能ブロック図である。
【0061】
図9に示すように、第3の実施形態に係る漁網具動態推定装置10Bは、第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置10に対して、データ同化処理部11B、数値シミュレーション部14B、および、目標網裾深度設定部15において異なる。データ同化処理部11Bおよび数値シミュレーション部14Bで実行する基本的な処理の概念は、漁網具動態推定装置10の構成と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0062】
操業支援装置110は、漁網具動態推定装置10B、表示部20、センサ30、および、操業制御部40を備える。表示部20およびセンサ30は、第1の実施形態に示した表示部20およびセンサ30とそれぞれ同様の構成である。
【0063】
操業制御部40は、船舶90の操業制御を実行する。操業条件取得部13は、操業制御部40から、数値シミュレーション部14Bで用いる操業条件を取得する。
【0064】
目標網裾深度設定部15は、漁網具91の目標到達深度等の目標値を設定する。目標網裾深度設定部15は、網裾深度の目標値をデータ同化処理部11Bに出力する。
【0065】
データ同化処理部11Bは、システムモデルおよび観測モデルの未知数として、網地質点の位置および速度とともに、操業条件を設定する。具体的には、操業条件における漁網具91のワイヤロープの繰り出し長さ、巻き取り長さに関連する値、例えば、特定位置の網地質点に対する張力およびワイヤロープに作用する張力を未知数に設定する。また、観測モデルでは、既知数である観測値として、漁網具の観測値と網裾深度の目標値とを設定する。
【0066】
そして、データ同化処理部11Bは、上述と同様のデータ同化処理(拡張カルマンフィルタ)を実行する。これにより、データ同化処理部11Bは、網地質点の位置および速度の状態推定値とともに操業条件の状態推定値を算出する。データ同化処理部11Bは、操業条件の状態推定値を、操業条件取得部13を介して、数値シミュレーション部14Bにフィードバックする。
【0067】
数値シミュレーション部14Bは、フィードバックされた操業条件の状態推定値を用いて、数値シミュレーションを実行する。このような構成を用いることによって、操業条件が実際の操業制御に応じて適正に調整される。したがって、数値シミュレーションによる漁網具の動態の算出精度が向上する。
【0068】
また、操業条件の状態推定値は、操業制御部40に出力される。操業制御部40は、操業条件の状態推定値を用いて、漁網具91の自動操業制御を行う。これにより、漁網具91を効率的に目標形状に変化させることができる。また、操業条件の状態推定値は、表示部20に出力される。表示部20は、操業条件の状態推定値を画像化して表示する。これにより、操業者は、実際の操業条件を正確に把握できる。また、このように画像化することによって、実際の操業状態と目標とする操業状態との差を容易に把握できる。この際、操業支援装置110は、この差に応じて通知を行ってもよい。例えば、操業支援装置110は、この差が注意勧告閾値を超えたことを検出すると、注意勧告の通知を行ってもよい。
【0069】
なお、上述の説明では、操業支援装置110で実現する複数の処理を、それぞれに個別の機能部で実現する態様を示した。しかしながら、操業支援装置110で実現する複数の処理をプログラム化して記憶手段に記憶しておき、CPU等の情報処理装置で当該プログラムを読み出して実行してもよい。この場合、次に示すフローチャートに示す方法をプログラム化すればよい。
図10は、本発明の第3の実施形態に係る操業支援方法のフローチャートである。
【0070】
図10に示すように、本実施形態の操業支援方法では、情報処理装置は、上述の数値シミュレーションを用いて、網地質点の動態に関する値を算出する(S401)。この際、情報処理装置は、初回を除き、前回の状態推定値によって更新された操業条件を用いて、数値シミュレーションを実行する。
【0071】
次に、情報処理装置は、上述のシステムモデルを用いて、網地質点の動態に関する値から網地質点の動態に関する事前状態推定値と操業条件の事前状態推定値とを算出する(S402)。次に、情報処理装置は、網地質点の動態に関する観測値を取得する(S403)。また、情報処理装置は、網裾深度の目標値を設定する(S404)。なお、観測値の取得、事前状態推定値の算出、および、網裾深度の目標値の設定は、この順に限るものではない。
【0072】
次に、情報処理装置は、上述の観測モデルを用いて、事前状態推定値と観測値とから、網地質点の動態に関する状態推定値と操業条件の状態推定値とを算出する(S405)。情報処理装置は、網地質点の動態に関する状態推定値を、数値シミュレーションの入力値としてフィードバックする(S406)。情報処理装置は、操業条件の状態推定値を数値シミュレーションの設定値としてフィードバックするとともに自動操業制御にフィードバックする(S407)。
【0073】
次に、本発明の第4の実施形態に係る漁網具設計支援装置、漁網具設計支援方法、および、漁網具設計支援プログラムについて、図を参照して説明する。
図11は、本発明の第4の実施形態に係る漁網具設計支援装置の機能ブロック図である。
【0074】
図11に示すように、第4の実施形態に係る漁網具動態推定装置10Cは、第1の実施形態に係る漁網具動態推定装置10に対して、データ同化処理部11C、数値シミュレーション部14C、漁網具パラメータ設定部16、および、目標値設定部17において異なる。データ同化処理部11Cおよび数値シミュレーション部14Cで実行する基本的な処理の概念は、漁網具動態推定装置10と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0075】
漁網具設計支援装置120は、漁網具動態推定装置10C、および、表示部20を備える。表示部20は、第1の実施形態に示した表示部20と同様の構成である。
【0076】
漁網具パラメータ設定部16は、設計対象漁網具のパラメータ(漁網具の部材の設計仕様)を設定する。設計対象漁網具のパラメータとしては、例えば、網の目合の長さ、網糸の直径等である。漁網具パラメータ設定部16は、設計対象漁網具のパラメータを、数値シミュレーション部14Cに出力する。
【0077】
目標値設定部17は、設計対象漁網具の動態に関する目標値を設定する。設計対象漁網具の動態に関する目標値としては、例えば、操業時の網地質点の目標位置、目標速度等である。また、設計対象漁網具の動態に関する目標値としては、漁網具の水中形状または部材への作用荷重の目標値を含む。目標値設定部17は、目標値をデータ同化処理部11Cに出力する。
【0078】
データ同化処理部11Cは、システムモデルおよび観測モデルの未知数として、網地質点の位置および速度とともに、上述の設計対象漁網具のパラメータを設定する。また、観測モデルでは、既知数である観測値として、設計対象漁網具の目標値を設定する。
【0079】
そして、データ同化処理部11Cは、上述と同様のデータ同化処理(拡張カルマンフィルタ)を実行する。これにより、データ同化処理部11Cは、網地質点の位置および速度の状態推定値とともに設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を算出する。データ同化処理部11Cは、設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を、漁網具パラメータ設定部16にフィードバックする。
【0080】
数値シミュレーション部14Cは、フィードバックされた設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を用いて、数値シミュレーションを実行する。
【0081】
以下、上述の処理が繰り返される。これにより、設計対象漁網具のパラメータが設計対象漁網具の目標値を満たすように、設計対象漁網具のパラメータが逐次更新される。そして、データ同化処理部11Cは、設計対象漁網具の目標位置および目標速度と網地質点の位置および速度の状態推定値と差が閾値未満になったことを検出すると、設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を、表示部20に出力する。表示部20は、この設計対象漁網具のパラメータの状態推定値を画像化して表示する。
【0082】
このような構成を用いることによって、水中で所望の形状および動態を生じる漁網具を高精度に設計することができる。
【0083】
なお、上述の説明では、漁網具設計支援装置120で実現する複数の処理を、それぞれに個別の機能部で実現する態様を示した。しかしながら、漁網具設計支援装置120で実現する複数の処理をプログラム化して記憶手段に記憶しておき、CPU等の情報処理装置で当該プログラムを読み出して実行してもよい。この場合、次に示すフローチャートに示す方法をプログラム化すればよい。
図12は、本発明の第4の実施形態に係る漁網具設計支援方法のフローチャートである。
【0084】
図12に示すように、本実施形態の漁網具設計支援方法では、情報処理装置は、上述の数値シミュレーションを用いて、網地質点の動態に関する値を算出する(S501)。この際、情報処理装置は、初回を除き、前回の状態推定値によって更新された漁網具のパラメータを用いて、数値シミュレーションを実行する。
【0085】
次に、情報処理装置は、上述のシステムモデルを用いて、網地質点の動態に関する値から網地質点の動態に関する事前状態推定値と漁網具のパラメータの事前状態推定値とを算出する(S502)。次に、情報処理装置は、設計対象漁網具の目標値を設定する(S503)。なお、観測値の取得、事前状態推定値の算出、および、設計対象漁網具の目標値の設定は、この順に限るものではない。
【0086】
次に、情報処理装置は、上述の観測モデルを用いて、事前状態推定値と観測値とから、網地質点の動態に関する状態推定値と漁網具のパラメータの状態推定値とを算出する(S504)。情報処理装置は、漁網具のパラメータの状態推定値が目標値を満たしていなければ(S505:NO)、網地質点の動態に関する状態推定値を、数値シミュレーションの入力値としてフィードバックし、漁網具のパラメータの状態推定値を、数値シミュレーションの設定値としてフィードバックする(S406)。情報処理装置は、漁網具のパラメータの状態推定値が目標値を満たしていれば(S505:YES)、漁網具のパラメータの状態推定値を、表示部等に出力する(S507)。
【0087】
なお、上述の説明では、データ同化処理として、拡張カルマンフィルタを用いる態様を示したが、推定値を観測値で補正する他のデータ同化処理を用いてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10、10A、10B、10C:漁網具動態推定装置
11、11A、11B、11C:データ同化処理部
12:観測値取得部
13:操業条件取得部
14、14A、14B、14C:数値シミュレーション部
15:目標網裾深度設定部
16:漁網具パラメータ設定部
17:目標値設定部
20:表示部
30:センサ
32:受信機
40:操業制御部
90:船舶
91:漁網具
110:操業支援装置
111:事前状態推定値算出部
112:状態推定値算出部
120:漁網具設計支援装置
311、312、313:深度センサ