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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】単相誘導電動機
(51)【国際特許分類】
   H02P 1/42 20060101AFI20221024BHJP
   H02P 25/04 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
H02P1/42
H02P25/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019008636
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020120469
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】ニナウェ プラティク
(72)【発明者】
【氏名】大山 敦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊哉
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-054887(JP,A)
【文献】特開平10-005483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00-1/58
H02P 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主巻線と、
前記主巻線と並列に接続された補助巻線と、
前記補助巻線と直列に接続されたコンデンサと、
前記補助巻線及び前記コンデンサと直列に接続されたスイッチング素子と、
前記スイッチング素子への制御信号を生成して前記補助巻線に流れる電流を制御する制御回路と、
を備える単相誘導電動機であって、
前記制御回路は、前記主巻線及び前記補助巻線に供給される電源電圧の半周期毎に前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させ再び非導通状態に遷移させる始動制御のための制御信号を生成し、
前記制御回路は、前記始動制御において前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させる導通開始タイミングを前記制御信号で制御することによって、前記単相誘導電動機の回転速度を増加させる加速インターバルと前記単相誘導電動機の回転速度を減少させる減速インターバルを交互に繰り返すように前記単相誘導電動機を動作させ、
前記制御回路は、前記加速インターバルの各々においてそれぞれ異なる導通開始タイミングで前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させ、
前記制御回路は、前記加速インターバルの各々における前記単相誘導電動機のそれぞれの回転速度増加率に基づいて、前記補助巻線に対する最適な導通開始タイミングを決定する、
単相誘導電動機。
【請求項2】
前記制御回路は、前記加速インターバルの各々において前記単相誘導電動機の回転速度を第1回転速度から第2回転速度まで増加させ、前記減速インターバルの各々において前記単相誘導電動機の回転速度を前記第2回転速度から前記第1回転速度まで減少させる、請求項1に記載の単相誘導電動機。
【請求項3】
前記制御回路は、前記加速インターバルにおいて前記単相誘導電動機の回転速度が前記第1回転速度から前記第2回転速度まで増加するのに要する時間に基づいて、前記単相誘導電動機の前記回転速度増加率を決定する、請求項2に記載の単相誘導電動機。
【請求項4】
前記制御回路は、前記加速インターバルのうち、前記単相誘導電動機の回転速度が前記第1回転速度から前記第2回転速度まで増加するのに要する時間が最短となる加速インターバルにおける導通開始タイミングを、前記最適な導通開始タイミングとする、請求項2又は3に記載の単相誘導電動機。
【請求項5】
前記制御回路は、前記加速インターバルの各々における前記それぞれの導通開始タイミングを、前記電源電圧がゼロから最大値まで、及びゼロから最小値まで変移する期間の範囲内に設定する、請求項1から4のいずれか1項に記載の単相誘導電動機。
【請求項6】
前記制御回路は、前記減速インターバルの各々における前記導通開始タイミングを、前記電源電圧が最大値からゼロまで、及び最小値からゼロまで変移する期間の範囲内に設定する、請求項1から5のいずれか1項に記載の単相誘導電動機。
【請求項7】
前記制御回路は、前記決定した最適な導通開始タイミングをメモリに記憶し、前記単相誘導電動機を次回起動する際に、前記メモリに記憶された最適な導通開始タイミングを用いることで、前記単相誘導電動機の回転速度が所定の定常回転速度に達するまで始動制御を行う、請求項1から6のいずれか1項に記載の単相誘導電動機。
【請求項8】
主巻線と、
前記主巻線と並列に接続された補助巻線と、
前記補助巻線と直列に接続されたコンデンサと、
前記補助巻線及び前記コンデンサと直列に接続されたスイッチング素子と、
前記スイッチング素子への制御信号を生成して前記補助巻線に流れる電流を制御する制御回路と、
メモリと、
を備える単相誘導電動機であって、
前記制御回路は、前記主巻線及び前記補助巻線に供給される電源電圧の半周期毎に前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させ再び非導通状態に遷移させる始動制御のための制御信号を生成し、
前記制御回路は、前記始動制御において前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させる導通開始タイミングを前記制御信号で制御し、
前記制御回路は、前記単相誘導電動機の各回の始動の際に、その回に対応する前記導通開始タイミングと前記単相誘導電動機の回転速度増加率とを始動履歴情報として前記メモリに記憶し、
前記制御回路は、前記メモリから前々回と前回の始動時における前記始動履歴情報を読み出し、前々回の回転速度増加率よりも前回の回転速度増加率が大きい場合、前々回の導通開始タイミングに対する前回の導通開始タイミングの変化方向と前回の導通開始タイミングに対する今回の導通開始タイミングの変化方向が同じになるように、今回の導通開始タイミングを設定する、
単相誘導電動機。
【請求項9】
前記制御回路は、前々回の回転速度増加率よりも前回の回転速度増加率が小さい場合、前々回の導通開始タイミングに対する前回の導通開始タイミングの変化方向と前回の導通開始タイミングに対する今回の導通開始タイミングの変化方向が反対になるように、今回の導通開始タイミングを設定する、請求項8に記載の単相誘導電動機。
【請求項10】
前記制御回路は、前記単相誘導電動機の回転速度が第1回転速度から第2回転速度まで増加するのに要する時間に基づいて、前記単相誘導電動機の前記回転速度増加率を決定する、請求項8又は9に記載の単相誘導電動機。
【請求項11】
前記スイッチング素子はトライアックであり、
前記制御信号は前記トライアックのゲートに供給されるゲート信号である、
請求項1から10のいずれか1項に記載の単相誘導電動機。
【請求項12】
前記制御回路は、前記補助巻線の非導通状態における端子電圧に基づいて前記単相誘導電動機の回転速度を検出する、請求項1から11のいずれか1項に記載の単相誘導電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相誘導電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサラン単相誘導電動機は、主巻線と並列に補助巻線とコンデンサからなる直列回路が接続された構成を有し、コンデンサを介して補助巻線に電流が常時(即ち始動時及び定常運転時のいずれにおいても)流れるようにその動作が制御される。コンデンサラン単相誘導電動機の性能は、定常運転効率は良いが始動トルクが低いという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-322185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、補助巻線と直列に接続されたトライアックを用いて、補助巻線に流れる電流を制御する構成が開示されているが、始動トルクを増大させることが可能な制御方法については開示されていない。また、特許文献1のようなトライアックを備えた単相誘導電動機の構成において、トライアックへ入力する制御信号のタイミングを最適化することで、始動トルクを大きくすることができるが、従来は、始動トルクをモニタしながら制御信号のタイミングを手動で調整するという方法がとられていた。
【0005】
したがって、大きな始動トルクを得るための調整の手間が不要な単相誘導電動機が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[形態1]形態1によれば、主巻線と、前記主巻線と並列に接続された補助巻線と、前記補助巻線と直列に接続されたコンデンサと、前記補助巻線及び前記コンデンサと直列に接続されたスイッチング素子と、前記スイッチング素子への制御信号を生成して前記補助巻線に流れる電流を制御する制御回路と、を備える単相誘導電動機であって、前記制御回路は、前記主巻線及び前記補助巻線に供給される電源電圧の半周期毎に前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させ再び非導通状態に遷移させる始動制御のための制御信号を生成し、前記制御回路は、前記始動制御において前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させる導通開始タイミングを前記制御信号で制御することによって、前記単相誘導電動機の回転速度を増加させる加速インターバルと前記単相誘導電動機の回転速度を減少させる減速インターバルを交互に繰り返すように前記単相誘導電動機を動作させ、前記制御回路は、前記加速インターバルの各々においてそれぞれ異なる導通開始タイミングで前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させ、前記制御回路は、前記加速インターバルの各々における前記単相誘導電動機のそれぞれの回転速度増加率に基づいて、前記補助巻線に対する最適な導通開始タイミングを決定する、単相誘導電動機が提供される。形態1の単相誘導電動機によれば、複数の加速インターバルの各々においてそれぞれ異なる導通開始タイミングを使用し、各加速インターバルにおける単相誘導電動機の回転速度増加率に基づいて最適な導通開始タイミングを決定する。したがって、手動調整の手間を必要とすることなく、最適な導通開始タイミングを決定することができ、これにより大きな始動トルクを得ることができる。
【0007】
[形態2]形態2によれば、形態1の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記
加速インターバルの各々において前記単相誘導電動機の回転速度を第1回転速度から第2回転速度まで増加させ、前記減速インターバルの各々において前記単相誘導電動機の回転速度を前記第2回転速度から前記第1回転速度まで減少させる。形態2の単相誘導電動機によれば、第1回転速度と第2回転速度の間で加速インターバルと減速インターバルを繰り返すことで、最適な導通開始タイミングを決定することができ、これにより大きな始動トルクを得ることができる。
【0008】
[形態3]形態3によれば、形態2の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記加速インターバルにおいて前記単相誘導電動機の回転速度が前記第1回転速度から前記第2回転速度まで増加するのに要する時間に基づいて、前記単相誘導電動機の前記回転速度増加率を決定する。形態3の単相誘導電動機によれば、第1回転速度から第2回転速度までの加速時間に基づいて、最適な導通開始タイミングを決定することができ、これにより大きな始動トルクを得ることができる。
【0009】
[形態4]形態4によれば、形態2又は形態3の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記加速インターバルのうち、前記単相誘導電動機の回転速度が前記第1回転速度から前記第2回転速度まで増加するのに要する時間が最短となる加速インターバルにおける導通開始タイミングを、前記最適な導通開始タイミングとする。形態4の単相誘導電動機によれば、最短となる加速時間から最適な導通開始タイミングを決定することができ、これにより大きな始動トルクを得ることができる。
【0010】
[形態5]形態5によれば、形態1から形態4のいずれか1つの形態の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記加速インターバルの各々における前記それぞれの導通開始タイミングを、前記電源電圧がゼロから最大値まで、及びゼロから最小値まで変移する期間の範囲内に設定する。形態5の単相誘導電動機によれば、加速インターバルにおいて単相誘導電動機の回転速度を増加させることができる。
【0011】
[形態6]形態6によれば、形態1から形態5のいずれか1つの形態の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記減速インターバルの各々における前記導通開始タイミングを、前記電源電圧が最大値からゼロまで、及び最小値からゼロまで変移する期間の範囲内に設定する。形態6の単相誘導電動機によれば、減速インターバルにおいて単相誘導電動機の回転速度を減少させることができる。
【0012】
[形態7]形態7によれば、形態1から形態6のいずれか1つの形態の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記決定した最適な導通開始タイミングをメモリに記憶し、前記単相誘導電動機を次回起動する際に、前記メモリに記憶された最適な導通開始タイミングを用いることで、前記単相誘導電動機の回転速度が所定の定常回転速度に達するまで始動制御を行う。形態7の単相誘導電動機によれば、次回起動時に最適な導通開始タイミングを用いて大きな始動トルクを得ることができる。
【0013】
[形態8]形態8によれば、主巻線と、前記主巻線と並列に接続された補助巻線と、前記補助巻線と直列に接続されたコンデンサと、前記補助巻線及び前記コンデンサと直列に接続されたスイッチング素子と、前記スイッチング素子への制御信号を生成して前記補助巻線に流れる電流を制御する制御回路と、メモリと、を備える単相誘導電動機であって、前記制御回路は、前記主巻線及び前記補助巻線に供給される電源電圧の半周期毎に前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させ再び非導通状態に遷移させる始動制御のための制御信号を生成し、前記制御回路は、前記始動制御において前記補助巻線を非導通状態から導通状態に遷移させる導通開始タイミングを前記制御信号で制御し、前記制御回路は、前記単相誘導電動機の各回の始動の際に、その回に対応する前記導通開始タイミングと前記単相誘導電動機の回転速度増加率とを始動履歴情報として前記メモリに記憶し、前記
制御回路は、前記メモリから前々回と前回の始動時における前記始動履歴情報を読み出し、前々回の回転速度増加率よりも前回の回転速度増加率が大きい場合、前々回の導通開始タイミングに対する前回の導通開始タイミングの変化方向と前回の導通開始タイミングに対する今回の導通開始タイミングの変化方向が同じになるように、今回の導通開始タイミングを設定する、単相誘導電動機が提供される。形態8の単相誘導電動機によれば、前々回の始動時における始動履歴情報と前回の始動時における始動履歴情報との比較に基づいて、導通開始タイミングを更新する。したがって、単相誘導電動機を起動するたびに、導通開始タイミングを最適な値に近づけていくことができる。これにより、手動調整の手間を必要とすることなく、最適な導通開始タイミングを決定することができ、大きな始動トルクを得ることができる。
【0014】
[形態9]形態9によれば、形態8の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前々回の回転速度増加率よりも前回の回転速度増加率が小さい場合、前々回の導通開始タイミングに対する前回の導通開始タイミングの変化方向と前回の導通開始タイミングに対する今回の導通開始タイミングの変化方向が反対になるように、今回の導通開始タイミングを設定する。形態9の単相誘導電動機によれば、前々回の始動時における始動履歴情報と前回の始動時における始動履歴情報との比較に基づいて、導通開始タイミングを更新する。したがって、単相誘導電動機を起動するたびに、導通開始タイミングを最適な値に近づけていくことができる。これにより、手動調整の手間を必要とすることなく、最適な導通開始タイミングを決定することができ、大きな始動トルクを得ることができる。
【0015】
[形態10]形態10によれば、形態8又は形態9の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記単相誘導電動機の回転速度が第1回転速度から第2回転速度まで増加するのに要する時間に基づいて、前記単相誘導電動機の前記回転速度増加率を決定する。形態10の単相誘導電動機によれば、第1回転速度から第2回転速度までの加速時間に基づいて、最適な導通開始タイミングを決定することができ、単相誘導電動機を起動するたびに、導通開始タイミングを最適な値に近づけていくことができる。
【0016】
[形態11]形態11によれば、形態1から形態10のいずれか1つの形態の単相誘導電動機において、前記スイッチング素子はトライアックであり、前記制御信号は前記トライアックのゲートに供給されるゲート信号である。
【0017】
[形態12]形態12によれば、形態1から形態11のいずれか1つの形態の単相誘導電動機において、前記制御回路は、前記補助巻線の非導通状態における端子電圧に基づいて前記単相誘導電動機の回転速度を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態による単相誘導電動機の構成を示す図である。
図2】制御回路によって実施される第1実施形態の始動制御を説明するためのタイミングチャートである。
図3】加速インターバルにおける制御信号の時間的配置を示すタイミングチャートである。
図4】減速インターバルにおける制御信号の時間的配置を示すタイミングチャートである。
図5】単相誘導電動機の次回の起動時における始動制御を説明するためのタイミングチャートである。
図6】制御回路によって実施される第2実施形態の始動制御方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る単相誘導電動機の実施形態を添付図面とともに説明する。添付図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、一実施形態による単相誘導電動機10の構成を示す図である。単相誘導電動機10は、主巻線1、補助巻線2、コンデンサ3、トライアック(スイッチング素子)4、回転子5、固定子(不図示)、制御回路6、及びメモリ7を備える。単相誘導電動機10は、単相商用電源20に接続される。
【0021】
図1に示されるように、主巻線1の一方の端子は、単相商用電源20の一方の電源端子に接続され、主巻線1の他方の端子は、単相商用電源20の他方の電源端子に接続される。また、主巻線1の一方の端子は更に、トライアック4の一方の端子にも接続される。トライアック4の他方の端子は、コンデンサ3の一方の端子に接続され、コンデンサ3の他方の端子は、補助巻線2の一方の端子に接続され、補助巻線2の他方の端子は、主巻線1の他方の端子及び単相商用電源20の他方の電源端子に接続される。このように、補助巻線2、コンデンサ3、及びトライアック4の3つの要素は直列に接続され、これら3つの要素からなる直列回路は主巻線1と並列に接続されている。
【0022】
主巻線1は、ドーナツ形状を有した鉄心からなる不図示の固定子に巻回され、補助巻線2は、主巻線1に対して所定角度(例えば直角)を有する向きに当該固定子に巻回される。この固定子の内側の円筒状の空洞には、回転軸が当該空洞を貫く向きに回転子5が配置される。コンデンサ3の容量は、単相誘導電動機10の運転効率が定常運転時に最大となるような値に選択される。
【0023】
制御回路6は、トライアック4のゲートに制御信号を供給する。制御回路6からの制御信号に応答して、トライアック4がターンオンし、補助巻線2が導通状態となる。これにより、補助巻線2に、コンデンサ3及びトライアック4を介して電流が流れる。制御回路6は、補助巻線2に流れる電流を制御信号によって制御する。制御回路6による電流制御は、単相誘導電動機10の始動時に回転子5の回転が所定の回転速度に達するまでの始動制御と、単相誘導電動機10の始動が完了した後、即ち回転子5の回転が所定の回転速度に達した後の定常運転制御とを含む。始動制御において、制御回路6は、単相商用電源20の出力電圧(以下、電源電圧と称する)を監視し、電源電圧のゼロクロス点(交流の電源電圧の値がゼロになる瞬間)をタイミングの基準として制御信号を生成する。また制御回路6は、補助巻線2の両端電圧を監視し、この電圧に基づいて、回転子5の回転速度を測定する。
【0024】
図2は、制御回路6によって実施される第1実施形態の始動制御を説明するためのタイミングチャートである。図2において、横軸は時間を示し、縦軸は単相誘導電動機10の回転子5の回転速度を示す。図示されるように、制御回路6による始動制御は、回転子5の回転速度を増加させる加速インターバルT、T、T、…と、回転子5の回転速度を減少させる減速インターバルT、T、T、…とからなる。制御回路6は、加速インターバルと減速インターバルが交互に繰り返されるように、トライアック4への制御信号を生成する。
【0025】
図2のタイミングチャートの例では、回転子5の第1回転速度Nと第2回転速度N(ただしN<N)の間で、加速インターバルと減速インターバルが繰り返される。単相誘導電動機10が起動する(例えば電源スイッチがオンになる)と、制御回路6はまず
、加速インターバルTを実施する。回転子5の回転速度がゼロから上昇していき第2回転速度Nに達すると、制御回路6は、次に減速インターバルTを実施する。減速インターバルTにおいて回転速度が第1回転速度Nまで低下すると、制御回路6は、回転速度を再び第2回転速度Nまで上昇させるために、加速インターバルTを実施する。以降同様に、制御回路6は、回転子5の回転速度が第2回転速度Nから減少して第1回転速度Nになるまで減速インターバルを実施し、回転子5の回転速度が第1回転速度Nから増加して第2回転速度Nになるまで加速インターバルを実施する。
【0026】
加速インターバルと減速インターバルの切り換えは、補助巻線2に発生する逆起電圧に基づいて行われる。補助巻線2の逆起電圧は、回転子5の回転速度に伴って増加する。制御回路6は、補助巻線2の両端電圧(逆起電圧)を計測し、この電圧が第1回転速度Nに対応する閾値電圧又は第2回転速度Nに対応する閾値電圧に達すると、加速インターバルと減速インターバルの切り換えを実施する。
【0027】
図3は、加速インターバルにおける制御信号の時間的配置を示すタイミングチャートである。図3において、単相商用電源20から供給される電源電圧Vsが正弦波として示されている。制御回路6は、電源電圧Vsの半周期毎に、電源電圧Vsのゼロクロス点から時間tだけ遅れたタイミングで信号レベルがローからハイに立ち上がるパルス信号Spを生成し、これを制御信号としてトライアック4のゲートに供給する。すると、この制御信号Spの立ち上がりのタイミングで、補助巻線2が非導通状態から導通状態に遷移する。本明細書では、このタイミング(即ち電源電圧Vsのゼロクロス点から時間tだけ遅れたタイミング)を導通開始タイミングと称する。こうして補助巻線2には、コンデンサ3の容量と補助巻線2のインダクタンスによる共振電流Iaが、制御信号Spの立ち上がりと同期して流れる。
【0028】
加速インターバルにおいて、導通開始タイミングtは、0<t<T/4(ただしTは電源電圧Vsの周期)の範囲に設定される。即ち、加速インターバルにおけるパルス信号Spの立ち上がりは、電源電圧Vsのゼロクロス点のタイミングからピーク電圧(最大電圧又は最小電圧)のタイミングまでの区間にある。そのため加速インターバルでは、補助巻線に流れる電流Iaの位相あるいは電流Iaの基本波成分Ia(1)の位相は、図3に示されるように電源電圧Vsの位相に対して進んでいる。これにより、回転子5の回転は徐々に加速されていく。
【0029】
図4は、減速インターバルにおける制御信号の時間的配置を示す、図3と同様のタイミングチャートである。減速インターバルでは、導通開始タイミングtは、T/4<t<T/2の範囲に設定される。即ち、減速インターバルにおけるパルス信号Spの立ち上がりは、電源電圧Vsのピーク(最大又は最小)電圧のタイミングからゼロクロス点のタイミングまでの区間にある。そのため減速インターバルでは、補助巻線に流れる電流Iaの位相あるいは電流Iaの基本波成分Ia(1)の位相は、図4に示されるように電源電圧Vsの位相に対して遅れている。これにより、回転子5の回転は徐々に減速されていく。
【0030】
図2に戻り、制御回路6は、各加速インターバルにおける導通開始タイミングtをそれぞれ異なる値に設定する。例えば、加速インターバルTでは導通開始タイミングtd1=t、加速インターバルTでは導通開始タイミングtd3=t+Δt、加速インターバルTでは導通開始タイミングtd5=t+2Δt、…、加速インターバルT(nは奇数)では導通開始タイミングtdn=t+{(n-1)/2}Δtのように、各加速インターバルの導通開始タイミングは、Δtずつインクリメントする値に設定することができる。ただしt、Δt、nの各値は、いずれの導通開始タイミングも上述した条件0<t<T/4を満たすように、適宜選択されるものとする。一つの数値例として
、電源電圧Vsの周波数が50Hz(即ちT=20ms)の場合、td1=0.1ms、td3=0.2ms、td5=0.3ms、…、td95=4.8ms、td97=4.9msのように各導通開始タイミングを設定することができる。別の数値例として、もし高トルクを発生することが可能な最適な導通開始タイミングが例えば2.0msから3.0msの範囲にあることがあらかじめ判明しているのであれば、td1=2.0ms、td3=2.1ms、td5=2.2ms、…、td19=2.9ms、td21=3.0msのように各導通開始タイミングを設定することもできる。このように設定された複数の導通開始タイミングを用いて、前者の数値例では、TからT97までの加速及び減速インターバルによる始動制御が行われ、後者の数値例では、TからT21までの加速及び減速インターバルによる始動制御が行われる。
【0031】
制御回路6は、各加速インターバルにおいて、回転子5の回転速度が第1回転速度Nから第2回転速度Nになるまでにかかる加速時間を測定する。この測定は、補助巻線2の逆起電圧に基づいて行うことができる。加速インターバルにおける導通開始タイミングtに応じて、回転子5に発生するトルクの大きさが変化し、その結果、回転子5の回転速度が第1回転速度Nから第2回転速度Nになるまでにかかる加速時間も変化する。制御回路6は、始動制御における複数の加速インターバルの中から、最大のトルクが得られる加速インターバル、即ち、回転子5の回転速度が第1回転速度Nから第2回転速度Nになるまでにかかる加速時間が最短となる加速インターバルを選択し、その加速インターバルに対応する導通開始タイミングを、最適な導通開始タイミングtd_optとしてメモリ7に記憶させる。なお、各加速インターバルについて、測定した加速時間を用いて回転子5の回転速度の単位時間当りの増加率を求め、この増加率の比較に基づいて、最適な導通開始タイミングを決定してもよい。
【0032】
図2に示されるように、制御回路6は、複数の加速インターバルと減速インターバルからなる始動制御における最後の加速インターバルでは、回転子5の回転速度を所定の定常回転速度N(>N)まで上昇させる。その後、制御回路6は始動制御を終了し、定常運転制御を実施する。定常運転制御への切り換えタイミングの決定は、始動制御における加速インターバルと減速インターバルの切り換えと同様に、補助巻線2に発生する逆起電圧に基づいて行うことができる。定常運転制御では、制御回路6は、常時オン(ハイレベル)の制御信号をトライアック4のゲートに供給する。これにより、主巻線1に加えて補助巻線2とコンデンサ3を併用した、単相誘導電動機10の定常運転が行われる。
【0033】
図5は、単相誘導電動機10の次回の起動時における始動制御を説明するためのタイミングチャートである。単相誘導電動機10の次回の起動時には(例えば、定常運転中に電源スイッチがオフにされた後、再び電源スイッチがオンにされると)、制御回路6は、上述した前回の始動制御においてメモリ7に記憶した最適な導通開始タイミングtd_optをメモリ7から読み出し、当該最適な導通開始タイミングtd_optに従って制御信号Spを生成してトライアック4のゲートに供給する。図5に示されるように、この次回起動時の始動制御では、前回の始動制御で決定した最適な導通開始タイミングtd_optを用いて、回転子5の回転速度をゼロから定常回転速度Nまで一気に上昇させる。このように、最適な導通開始タイミングtd_optを用いることにより、単相誘導電動機10が起動してから定常運転に移行するまでの時間を短縮することができる。
【0034】
<第2実施形態>
図6は、制御回路6によって実施される第2実施形態の始動制御方法200を説明するためのフローチャートである。単相誘導電動機10が起動する(例えば電源スイッチがオンにされる)と、最初にステップ201において、制御回路6は、メモリ7に最新の2つの始動履歴情報が記憶されているか否かを判定する。始動履歴情報は、過去に単相誘導電動機10を始動させた際に用いた導通開始タイミングtの値と、その始動の際に回転子
5の回転速度が所定の第1回転速度Nから第2回転速度Nまで上昇するのに要した加速時間とを含む。始動履歴情報は、もし既にこの始動制御方法200によって単相誘導電動機10の定常運転が行われたことがあるならば、後述するステップ206及び207においてメモリ7に記憶されている。
【0035】
ステップ201の判定結果がNoである場合、ステップ202へ進む。ステップ202において、制御回路6は、メモリ7に1つの始動履歴情報が記憶されているか否かを判定する。始動制御方法200が初めて実施される場合は、ステップ202の判定結果はNoとなり、ステップ203へ進む。ステップ203において、制御回路6は、導通開始タイミングtを初期値t(例えば0.1ms)に設定して制御信号Spを生成し、トライアック4に供給する。
【0036】
次にステップ204において、制御回路6は、トライアック4への制御信号Spの供給により回転子5が回転したか否かを判定する。導通開始タイミングtの値によっては、トルクが不足して回転子5が回転しないことがある。そのような場合、ステップ205へ進む。ステップ205において、制御回路6は、現在の導通開始タイミングの値に増分ΔT(例えば0.1ms)を加算した値を新たな導通開始タイミングtとして制御信号Spを生成し、トライアック4に供給する。その後、再びステップ204へ進み、回転子5が回転したか否かが判定される。
【0037】
ステップ204の判定結果がYesであれば、即ちトライアック4への制御信号Spの供給によって回転子5が回転すると、ステップ211へ進む。ステップ211において、制御回路6は、現時点の導通開始タイミングtの値を始動履歴情報としてメモリ7に記憶させる。次にステップ212において、制御回路6は、トライアック4への制御信号Spの供給を継続して行い、回転子5の回転速度が所定の第1回転速度Nから第2回転速度Nまで上昇するのに要した加速時間を測定する。この測定は、第1実施形態に関連して説明したように、補助巻線2の逆起電圧に基づいて行うことができる。また制御回路6は、測定により得られた加速時間を始動履歴情報として更にメモリ7に記憶させる。
【0038】
回転子5の回転速度が所定の定常回転速度N(>N)に達すると、制御回路6は、ステップ213において定常運転制御に移行する。その後、例えば電源スイッチがオフにされることにより、ステップ214において制御回路6は動作を停止する。
【0039】
単相誘導電動機10が2回目に起動したときは、ステップ202の判定結果はYesとなり、ステップ205へ進む。そして上述のように、値がΔT増加した新たな導通開始タイミングtが設定された後、ステップ204を経由して、ステップ211及び212において2回目の始動履歴情報がメモリ7に記憶される。
【0040】
このようにしてメモリ7に2つの始動履歴情報が記憶された後、3回目以降に単相誘導電動機10が起動したときは、ステップ201の判定結果はYesとなり、ステップ206へ進む。ステップ206において、制御回路6は、メモリ7から最新の2つの(即ち前回と前々回の)始動履歴情報を読み出し、前回の加速時間が前々回の加速時間よりも短くなっているか否か、即ち回転子5の前回の加速が前々回の加速に比べて改善した(回転速度の増加率が大きくなった)か否かを判定する。ステップ206の判定結果がYesである場合、回転子5の加速を更に改善させることが可能であるかどうかを試行して確認するために、ステップ207へ進む。
【0041】
ステップ207において、制御回路6は、前回使用した導通開始タイミングが前々回使用した導通開始タイミングよりも増加したか否かを判定する。ステップ207の判定結果がYesであれば、ステップ209へ進み、制御回路6は、前回の導通開始タイミングの
値に増分ΔTを加算した値を今回使用する新たな導通開始タイミングtとして制御信号Spを生成し、トライアック4に供給する。一方、ステップ207の判定結果がNoであれば、ステップ210へ進み、制御回路6は、前回の導通開始タイミングの値からΔTを減じた値を今回使用する新たな導通開始タイミングtとして制御信号Spを生成し、トライアック4に供給する。
【0042】
一つの数値例として、前々回の導通開始タイミングが1.2msであり、前回の導通開始タイミングが1.3msである場合において、回転子5が第1回転速度Nから第2回転速度Nまで加速する加速時間が、前々回よりも前回の方が短くなっているならば、ステップ209において、今回の導通開始タイミングは1.4msに設定される。そしてこの今回の導通開始タイミングによる今回の始動履歴情報が、次のステップ211及び212においてメモリ7に記憶される。このようにして、前回の導通開始タイミングよりも増加した導通開始タイミング(1.4ms)を使用することで回転子5の加速を更に改善させられるか、が試行される。
【0043】
別の数値例として、前々回の導通開始タイミングが2.3msであり、前回の導通開始タイミングが2.2msである場合において、回転子5が第1回転速度Nから第2回転速度Nまで加速する加速時間が、前々回よりも前回の方が短くなっているならば、ステップ210において、今回の導通開始タイミングは2.1msに設定される。そしてこの今回の導通開始タイミングによる今回の始動履歴情報が、次のステップ211及び212においてメモリ7に記憶される。このようにして、前回の導通開始タイミングよりも減少した導通開始タイミング(2.1ms)を使用することで回転子5の加速を更に改善させられるか、が試行される。
【0044】
一方、3回目以降に単相誘導電動機10が起動したときのステップ206の判定結果がNoである場合、即ち前回の加速時間が前々回の加速時間よりも長くなっていた場合は、導通開始タイミングを元に戻すために、ステップ208へ進む。
【0045】
ステップ208において、制御回路6は、前回使用した導通開始タイミングが前々回使用した導通開始タイミングよりも増加したか否かを判定する。ステップ208の判定結果がYesであれば、ステップ210へ進み、制御回路6は、前回の導通開始タイミングの値からΔTを減じた値を今回使用する新たな導通開始タイミングtとして制御信号Spを生成し、トライアック4に供給する。一方、ステップ208の判定結果がNoであれば、ステップ209へ進み、制御回路6は、前回の導通開始タイミングの値に増分ΔTを加算した値を今回使用する新たな導通開始タイミングtとして制御信号Spを生成し、トライアック4に供給する。
【0046】
一つの数値例として、前々回の導通開始タイミングが2.2msであり、前回の導通開始タイミングが2.3msである場合において、回転子5が第1回転速度Nから第2回転速度Nまで加速する加速時間が、前々回よりも前回の方が長くなっているならば、ステップ210において、今回の導通開始タイミングは2.2msに設定される(即ち前々回の値に戻される)。そしてこの今回の導通開始タイミングによる今回の始動履歴情報が、次のステップ211及び212においてメモリ7に記憶される。
【0047】
別の数値例として、前々回の導通開始タイミングが1.3msであり、前回の導通開始タイミングが1.2msである場合において、回転子5が第1回転速度Nから第2回転速度Nまで加速する加速時間が、前々回よりも前回の方が長くなっているならば、ステップ209において、今回の導通開始タイミングは1.3msに設定される(即ち前々回の値に戻される)。そしてこの今回の導通開始タイミングによる今回の始動履歴情報が、次のステップ211及び212においてメモリ7に記憶される。
【0048】
こうして、単相誘導電動機10が起動するたびにステップ206~212が繰り返されることで、導通開始タイミングが徐々に最適な値に近づいていく。したがって、本実施形態の始動制御方法200によれば、単相誘導電動機10の始動特性を自動的に改良することができる。
【0049】
以上、いくつかの例に基づいて本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 主巻線
2 補助巻線
3 コンデンサ
4 トライアック(スイッチング素子)
5 回転子
6 制御回路
7 メモリ
10 単相誘導電動機
20 単相商用電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6