(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】多層絶縁電線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20221024BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221024BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20221024BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20221024BHJP
H01B 13/14 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
H01B7/295
C08K3/22
C08L23/00
H01B7/02 G
H01B7/02 Z
H01B13/14 A
H01B13/14 B
(21)【出願番号】P 2018020156
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2020-08-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 周
(72)【発明者】
【氏名】中村 孔亮
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】佐藤 智康
【審判官】小田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-004798(JP,A)
【文献】特開2015-021120(JP,A)
【文献】特開2013-147586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の周囲に設けられた内層と、
前記内層の周囲に設けられた外層と、
を有する多層絶縁電線であって、
前記内層はポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体及びこれらの酸変性物を単独又は組み合わせたものを主成分とするベースポリマを含有する樹脂組成物からなり、
前記外層は
無水マレイン酸変性エチレンブテン共重合体15質量部及びエチレン酢酸ビニル共重合体85質量部とするベースポリマを含有し、該ベースポリマ100質量部に対して、金属水酸化物を80質量部以上250質量部以下、発泡剤を1質量部以上10質量部以下含有する樹脂組成物からなり、
前記外層
を形成する樹脂組成物からなるサンプルシートに接触荷重1Nをかけ、周波数10Hz、歪1%を与え、昇温速度55℃/minで温度を上昇させたときに、
250℃以上の温度における貯蔵弾性率が増加し始める温度である膨張開始温度が344℃以下であり、
前記発泡剤が膨張黒鉛である、多層絶縁電線。
【請求項2】
請求項1に記載の多層絶縁電線において、
前記金属水酸化物のBEТ比表面積が、1m
2/g以上10m
2/g以下である、多層絶縁電線。
【請求項3】
多層絶縁電線の製造方法であって、
導体の周囲に、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体及びこれらの酸変性物を単独又は組み合わせたものを主成分とするベースポリマを含有する樹脂組成物からなる内層を成形するステップと、
前記内層の周囲に、
無水マレイン酸変性エチレンブテン共重合体15質量%及びエチレン酢酸ビニル共重合体85質量%とするベースポリマを含有し、該ベースポリマ100質量部に対して、金属水酸化物を80質量部以上250質量部以下、発泡剤を1質量部以上10質量部以下含有する樹脂組成物からなる外層を成形するステップと、
前記外層
を形成する樹脂組成物からなるサンプルシートに接触荷重1Nをかけ、周波数10Hz、歪1%を与え、昇温速度55℃/minで温度を上昇させたときに、
250℃以上の温度における貯蔵弾性率が増加し始める温度である膨張開始温度が344℃以下になるように前記外層を架橋するステップと、を含み、
前記発泡剤が膨張黒鉛である、多層絶縁電線の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の多層絶縁電線の製造方法において、
前記金属水酸化物のBEТ比表面積が、1m
2/g以上10m
2/g以下である、多層絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンフリー難燃性多層絶縁電線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類の内部配線に使用される絶縁電線は、機器の発火事故などに際して電線を伝わって火が広がらないように難燃性を有することが求められている。内部配線材の難燃性の基準は、例えば米国のUL758規格等で定められている。
【0003】
一方で、鉄道車両網が発達している欧州では、EN規格(欧州規格)と呼ばれる地域統一規格の採用が広がっており、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、耐摩耗性、低発煙性を備え、ハロゲンを含有しないハロゲンフリー材料を被覆材料に用いた電線やケーブルが求められている。
【0004】
ハロゲンフリー材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂が挙げられる。しかし、ポリオレフィン系樹脂だけでは難燃性に乏しいため、ハロゲンフリー難燃剤を添加する手法が使われている。ハロゲンフリー難燃剤としては、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムといった金属水酸化物がある(特許文献1)。
【0005】
また、ハロゲンフリー架橋性樹脂組成物を架橋させることにより得られる架橋物は、難燃性及び機械特性を備えるとともに、耐燃料性、耐寒性及び常温保管性に優れるため、絶縁電線の絶縁層やシースに好適に使用できることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-109638号公報
【文献】特開2015-21120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属水酸化物を充填した樹脂組成物を被覆材料として用いた電線を架橋すると、特にBET比表面積が小さい金属水酸化物を用いた場合は、加工性は良くなるものの、垂直燃焼試験(VFT)が不合格となるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ハロゲンフリー難燃剤として、BET比表面積が小さい金属水酸化物を用いた場合であっても、優れた難燃性を有する多層絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、多層絶縁電線の外層材料として、ポリオレフィンを主成分とし、金属水酸化物をベースポリマ100質量部に対して80質量部以上250質量部以下含有する樹脂組成物を用い、外層の膨張開始温度を344℃以下にすることにより、EN60332-1-2準拠の難燃性試験である垂直燃焼試験(VFТ)に合格する優れた難燃性を有する多層絶縁電線が得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の多層絶縁電線を提供するものである。
[1]導体と、前記導体の周囲に設けられた内層と、前記内層の周囲に設けられた外層と、を有する多層絶縁電線であって、前記内層はポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体及びこれらの酸変性物を単独又は組み合わせたものを主成分とするベースポリマを含有する樹脂組成物からなり、前記外層は無水マレイン酸変性エチレンブテン共重合体及びエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とするベースポリマを含有し、該ベースポリマ100質量部に対して、金属水酸化物を80質量部以上250質量部以下、発泡剤を1質量部以上10質量部以下含有する樹脂組成物からなり、前記外層に接触荷重1Nをかけ、周波数10Hz、歪1%を与え、昇温速度55℃/minで温度を上昇させたときに、貯蔵弾性率が増加し始める温度である膨張開始温度が344℃以下であり、前記発泡剤が膨張黒鉛である、多層絶縁電線。
[2][1]に記載の多層絶縁電線において、前記金属水酸化物のBEТ比表面積が、1m2/g以上10m2/g以下である、多層絶縁電線。
[3]多層絶縁電線の製造方法であって、導体の周囲に、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体及びこれらの酸変性物を単独又は組み合わせたものを主成分とするベースポリマを含有する樹脂組成物からなる内層を成形するステップと、前記内層の周囲に、無水マレイン酸変性エチレンブテン共重合体及びエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とするベースポリマを含有し、該ベースポリマ100質量部に対して、金属水酸化物を80質量部以上250質量部以下、発泡剤を1質量部以上10質量部以下含有する樹脂組成物からなる外層を成形するステップと、前記外層に接触荷重1Nをかけ、周波数10Hz、歪1%を与え、昇温速度55℃/minで温度を上昇させたときに、貯蔵弾性率が増加し始める温度である膨張開始温度が344℃以下になるように前記外層を架橋するステップと、を含み、前記発泡剤が膨張黒鉛である、多層絶縁電線の製造方法。
[4][3]に記載の多層絶縁電線において、前記金属水酸化物のBEТ比表面積が、1m
2
/g以上10m
2
/g以下である、多層絶縁電線の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハロゲンフリー難燃剤として、BET比表面積が小さい金属水酸化物を用いた場合であっても、難燃性に優れたハロゲンフリー多層絶縁電線およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の多層絶縁電線の一例を示す横断面図である。
【
図2】膨張開始温度評価における貯蔵弾性率の測定装置の模式図である。
【
図3】本発明による貯蔵弾性率の温度依存性の測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかる多層絶縁電線について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる多層絶縁電線の長さ方向に対して垂直な断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態にかかる多層絶縁電線10は、導体1と、導体1の周囲に設けられた内層2と、内層2の周囲に設けられた外層3とを有する。
【0015】
(導体)
導体1としては、通常用いられる金属線、例えば銅線、銅合金線の他、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、金属線の外周に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、金属線を撚り合わせた撚り線、例えば集合撚り導体を用いることもできる。導体1の断面積や外径は、多層絶縁電線10に求められる電気特性に応じて適宜変更することが可能であり、例えば断面積が1mm2以上10mm2以下で、外径が1.20mm以上2.30mm以下のものを挙げることができる。
【0016】
(内層)
内層2は、多層絶縁電線10の絶縁層としての機能を果たし、ポリオレフィンを主成分とするベースポリマを含有する樹脂組成物からなる。本明細書において「主成分」とは、ポリオレフィンの含有量がベースポリマ100質量%のうち、50質量%以上を意味する。本発明において内層のベースポリマとは内層に含まれるポリマ成分を意味する。
【0017】
内層2に用いられるポリオレフィンの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体及びこれらの酸変性物などを挙げることができ、これらの成分は、単独でも組み合わせて用いてもよい。これらのポリオレフィン樹脂のなかでは、好ましくは、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンαオレフィン共重合体等を挙げることができる。本発明の樹脂組成物には、その効果を発揮する限り、上記のポリオレフィン以外のポリマ成分を含有させてもよいが、上記のポリオレフィンをベースポリマ100質量%中の60質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは70質量%以上、90質量%以上含有することがさらに好ましく、100質量%含有することが最も好ましい。
【0018】
また、これらの成分のほかに、必要に応じて酸化防止剤、シランカップリング剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、界面活性剤、軟化剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などの添加剤を添加することもできる。また、
図1において、多層絶縁電線の内層2は単層の構成として説明したが、これに限定されるものではなく、複数の内層の積層構造であってもよい。
【0019】
(外層)
外層3は、ポリオレフィンを主成分とするベースポリマを含有し、金属水酸化物を含有する樹脂組成物からなる。
【0020】
なお、本発明において外層のベースポリマとは、外層3に含まれるポリマ成分を意味する。
【0021】
外層3に用いられるポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等が挙げられる。中でも、難燃剤を多量に添加することができるため、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンブテンアクリレート共重合体、エチレンメチルアクリレート共重合体を単独または併用して用いることが好ましい。
【0022】
金属水酸化物には分散性を考慮して、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸などの脂肪酸などによって表面処理を施すこともできる。金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどを挙げることができる。
【0023】
金属水酸化物の含有量は、難燃性を考慮すると、樹脂組成物を構成するベースポリマ100質量部に対して、80質量部以上250質量部以下が好ましく、150質量部以上250質量部以下であることがより好ましく、150質量部以上200質量部以下であることがさらに好ましい。
【0024】
なお、本発明で用いられる金属水酸化物のBET比表面積としては、例えば、1m2/g以上10m2/g以下、好ましくは3m2/g以上8m2/g以下、より好ましくは5m2/g以上7m2/g以下のものを挙げることができる。ここで、金属水酸化物のBET比表面積が小さいほど、MFIなどの加工性が良好となることが知られている。
【0025】
外層3に用いられる樹脂組成物には、必要に応じて、その他の難燃剤、難燃助剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、金属キレート剤、軟化剤、補強剤、界面活性剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑材、酸化防止剤、着色剤、加工性改良剤、無機充填剤、相溶化剤、発泡剤、発泡核剤、帯電防止剤などの添加剤を加えることも可能である。
図1において多層絶縁電線の外層3は単層の構成として説明したが、これに限定されるものではなく、複数の外層の積層構造であってもよい。
【0026】
(架橋度)
本発明者らは、EN60332-1-2準拠の難燃性試験である垂直燃焼試験(VFТ)において、外層3に用いられる樹脂組成物の架橋度が低いほど合格率が高くなる傾向にあることを見出した。さらに、その難燃性の指標として、外層3に用いられる樹脂組成物の膨張開始温度が344℃以下になるように、架橋度を制御することが良いことを見出した。
【0027】
ここで、架橋方法は特に限定されず、電子線照射による架橋法、熱加硫法や水架橋法等の公知の方法で行うことができる。これらの中では、電子線照射による架橋法が、架橋速度が速く、また、照射線量を変えることで架橋度を自在に制御できるため好ましい。
【0028】
発泡剤を添加しない樹脂組成物に対して、電子線照射による架橋法を用いる場合、照射線量は通常10KGy以上70KGy未満、好ましくは20KGy以上65KGy以下を挙げることができる。
【0029】
(発泡剤)
上述のように、外層3に用いられる樹脂組成物の架橋度を下げ、膨張開始温度を344℃以下とすることにより多層絶縁電線の難燃性を向上させることができるが、ある程度の架橋度を維持したまま、多層絶縁電線の難燃性を向上させることが有利な場合がある。
【0030】
例えば、一般に、樹脂組成物の架橋度を上げることにより樹脂の強度が高くなることが知られている。このため、外層3に用いられる樹脂組成物の架橋度を上げることにより、外層3の強度が増し、ひいては多層絶縁電線の耐熱性や耐摩耗性などの強度が増すこととなる。
【0031】
本発明者らは、外層3に用いられる樹脂組成物に発泡剤を添加することにより、架橋度を高くしても、膨張開始温度を344℃以下に維持し、EN60332-1-2準拠の難燃性試験である垂直燃焼試験(VFТ)に合格するという、特有の効果が得られることを見出した。
【0032】
本発明に用いられる発泡剤としては、膨張黒鉛などを挙げることができる。
【0033】
発泡剤の含有量としては、外層3に用いられる樹脂組成物の膨張開始温度を344℃以下とすることができる量であれば特に制限はないが、例えば、ベースポリマ100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下、好ましくは3質量部以上8質量部以下、より好ましくは4質量部以上6質量部以下を挙げることができる。
【0034】
発泡剤を用いた場合の電子線照射量としては、例えば、70KGy以上150KGy以下、好ましくは75KGy以上100KGy以下を挙げることができる。
【0035】
(膨張開始温度)
本発明において、膨張開始温度とは、外層3に所定の接触荷重をかけ、所定の周波数で所定の歪を与え、所定の昇温速度で温度を上昇させたときに、貯蔵弾性率が増加し始める温度をいう。
【0036】
具体的には、膨張開始温度とは、以下の実施例において示す通り、接触荷重1Nの下、周波数10Hz、歪1%、昇温速度55℃/minとした場合に、外層3の貯蔵弾性率が増加し始める温度を意味する。
【0037】
本発明において、外層3に用いられる樹脂組成物の膨張開始温度を344℃以下に抑えることにより、優れた難燃性を有する多層絶縁電線を得ることができる。
【0038】
膨張開始温度の上限は、344℃である。難燃性を考慮すると、例えば342℃以下、好ましくは340℃以下、より好ましくは337℃以下を挙げることができる。
【0039】
膨張開始温度の下限については、必要とする難燃性が得られる範囲であれば特に制限はないが、例えば、200℃以上、250℃以上、300℃以上などを挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[多層絶縁電線の作製方法]
40mm押出機を用い、外径1.23mmの錫めっき導体1(0.18mmの素線を37本撚り合わせた撚り線導体)の周囲に、内層2を押出成形し、内層2の周囲に外層3を押出成形した。内層2の材料としては、予めロール混練した表1に示す配合の樹脂組成物を使用した。外層3の材料としては、予めロール混練した表2に示す配合の樹脂組成物を使用した。各層の厚さは、内層0.3mm、外層0.4mmとなるように押出成形した。その後、電子線照射により架橋させ、多層絶縁電線10を作製した。
【0042】
[難燃性の評価方法]
作製した多層絶縁電線10の難燃性評価は、EN60332-1-2に準拠した難燃性試験として垂直燃焼試験(VFТ)を行った。長さ600mmの多層絶縁電線10を垂直に保ち、多層絶縁電線10に炎を60秒間当てた。炎を取り去った後、60秒以内に消火するか否かを評価した。試験を3回行い、3回とも60秒以内に消火したものを合格(◎)とし、2回以下のものを不合格(×)とした。
【0043】
[膨張開始温度の評価方法]
次に、外層3に用いられる樹脂組成物の膨張開始温度の評価方法について述べる。表2に示した配合の材料をロール混練後に、厚さ1mmでプレス成型したシートサンプルを用意した。測定装置にはAnton Paar社製のレオメータMCR302を用い、70℃から530℃までの貯蔵弾性率の温度依存性を測定した。
図2に、測定装置の模式図を示す。測定条件は、プレート外径25mm、昇温速度55℃/min、歪1%、周波数10Hz、接触荷重1Nとした。プレートには、アルミニウム製のパラレルプレートを用いた。
【0044】
図3に、貯蔵弾性率の温度依存性の測定結果の一例を示す。難燃剤などのフィラーを高充填したシートサンプルでは、剛性が高く、プレートに完全には密着しない。そのため、試験中、サンプルの発泡膨張によりサンプルとプレートの接触面積が増加し、貯蔵弾性率が見かけ上、増加することが分かっている。そこで、この貯蔵弾性率が増加し始める温度を膨張開始温度として評価した。
【0045】
【0046】
【0047】
[評価結果]
表2に示すように、実施例1~5については、いずれも垂直燃焼試験(VFT)に合格し、難燃性は良好であった。BET比表面積が小さい6m2/gの水酸化マグネシウムを用いたが、電子線の照射線量を65KGy以下としたことにより膨張開始温度が344℃以下と低くなった。
【0048】
これらの結果は、必ずしも以下の理論に拘束されるものではないが、次にように考えることができる。すなわち、電子線の照射線量を少なくしたことにより外層の架橋度が抑えられ、より低い温度で外層の膨張が開始されたものと考えられる。そして、難燃剤の金属水酸化物の脱水による外層材料の膨張が、より低い温度で開始したことにより、多層絶縁電線内部への伝熱が抑制され、ポリオレフィンからなる内層材料のガス化による燃焼が抑えられ、多層絶縁電線全体として難燃性が増加したものと考えられる。
【0049】
比較例1については、垂直燃焼試験(VFT)に不合格となった。これは、発泡剤を添加しない樹脂組成物においては、75KGy以上の電子線の照射線量は高すぎるため、架橋反応が過剰となり、膨張開始温度が高くなったためと考えられる。
【0050】
一方、実施例6については、比較例1と同様に75KGyの電子線照射量としたが、垂直燃焼試験(VFT)に合格した。これは、発泡剤を添加しため膨張開始温度が317℃と低くなり、上述と同様の機構により高い難燃性を示したものと考えられる。
【0051】
以上に示したとおり、多層絶縁電線の外層に用いる樹脂組成物の膨張開始温度を344℃以下に抑えることにより、高い難燃性を有する多層絶縁電線が得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0052】
10:多層絶縁電線
1:導体
2:内層
3:外層