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特許7163119タイヤ用インナーライナーおよび空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】タイヤ用インナーライナーおよび空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20221024BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20221024BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221024BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L23/26
C08L67/00
B60C5/14 A
B60C5/14 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018177498
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020045472
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】友井 修作
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕太
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104819(JP,A)
【文献】特開2018-123247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性樹脂成分とエラストマー成分からなる熱可塑性エラストマー組成物を含む材料からなるタイヤ用インナーライナーであって、熱可塑性樹脂成分が脂肪族ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体を含み、エラストマー成分がエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体を含み、前記材料がさらに170℃以上の融点を有する第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーを含み、第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーがポリブチレンテレフタレート樹脂またはポリブチレンテレフタレートエラストマーであり、前記材料のtanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在することを特徴とするタイヤ用インナーライナー。
【請求項2】
前記材料の50℃におけるtanδに対する-30℃におけるtanδの比が1より小さいことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項3】
熱可塑性エラストマー組成物が連続相と分散相からなり、熱可塑性樹脂成分が連続相を形成し、エラストマー成分が分散相を形成していることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のタイヤ用インナーライナーを含む空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用インナーライナーおよび空気入りタイヤに関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物を含む材料からなるタイヤ用インナーライナーおよび前記タイヤ用インナーライナーを含む空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドなどの熱可塑性樹脂とエラストマー成分とを溶融混練して動的加硫させることによりエラストマー成分が不連続相を形成したポリマー組成物を、タイヤ用インナーライナーとして用いる技術が知られている(特許第3217239号公報)。
【0003】
ポリアミドおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体に酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴムが分散してなる熱可塑性樹脂組成物を、タイヤ用インナーライナーとして用いる技術が知られている(特許第5909846号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3217239号公報
【文献】特許第5909846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリアミドやエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いたインナーライナーに比べ、タイヤ走行時の耐屈曲疲労性と高温での剥離故障を抑制でき、低温での転がり抵抗を低減できるインナーライナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、tanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値をもつ材料を用いて作製したインナーライナーが、タイヤ走行時の耐屈曲疲労性と高温での剥離故障を抑制でき、低温での転がり抵抗を低減できることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分からなる熱可塑性エラストマー組成物を含む材料からなるタイヤ用インナーライナーであって、前記材料のtanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在することを特徴とする。
本発明は、また、前記タイヤ用インナーライナーを含む空気入りタイヤである。
【0008】
本発明は、次の実施態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分からなる熱可塑性エラストマー組成物を含む材料からなるタイヤ用インナーライナーであって、前記材料のtanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在することを特徴とするタイヤ用インナーライナー。
[2]前記材料の50℃におけるtanδに対する-30℃におけるtanδの比が1より小さいことを特徴とする[1]に記載のタイヤ用インナーライナー。
[3]熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分が変性エチレン-ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする[1]または[2]に記載のタイヤ用インナーライナー。
[4]変性エチレン-ビニルアルコール共重合体がポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする[3]に記載のタイヤ用インナーライナー。
[5]熱可塑性エラストマー組成物が連続相と分散相からなり、熱可塑性樹脂成分が連続相を形成し、エラストマー成分が分散相を形成していることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ用インナーライナー。
[6]前記材料が、さらに、170℃以上の融点を有する第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のタイヤ用インナーライナー。
[7]第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーが、ポリエステル樹脂またはポリエステルエラストマーであることを特徴とする[6]に記載のタイヤ用インナーライナー。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のタイヤ用インナーライナーを含む空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ用インナーライナーを用いてタイヤを作製すれば、タイヤ走行時の耐屈曲疲労性と高温での剥離故障を抑制でき、低温での転がり抵抗を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分からなる熱可塑性エラストマー組成物を含む材料からなるタイヤ用インナーライナーであって、前記材料のtanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在することを特徴とする。
【0011】
本発明のタイヤ用インナーライナーは、tanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在する材料からなる。tanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在する材料で作製したインナーライナーを含むタイヤは、通常走行でインナーライナーの温度が上がりやすく柔軟化するため、屈曲疲労によるクラックが起きにくくなる。さらに、タイヤが十分温まった後は発熱が比較的小さく、過度な温度上昇が抑えられ、インナーライナーの剥離が抑制される。また、一般的に、ゴムのような粘弾性体における変形について、変形の周波数は温度に換算できることが知られている(温度-時間換算則)。周波数が高い変形は低温、周波数の低い変形は高温に相当し、例えばタイヤのトレッド部材の変形の場合、通常走行時の変形はタイヤの回転数に相当する数十Hzの低周波数であり、温度換算すると50~60℃に相当する。一方で、濡れた路面でブレーキを掛けた際の変形は10~10Hzの高周波数であり、温度換算すると0℃付近の低温に相当する。このような関係から、通常、トレッド部材に用いられるゴム組成物は、通常走行時に対応する50~60℃におけるtanδを下げることで転がり抵抗係数(RRC)を下げ、濡れた路面でのブレーキングに対応する0℃におけるtanδを上げることでブレーキ性能(ウェットスキッド抵抗)を向上させるような配合設計がなされる。しかし近年、低燃費化の潮流から、低温における転がり抵抗についても重要視される傾向があり、ウェットスキッド抵抗を確保しながら低温での転がり抵抗係数を低減するには、低温でのトレッドの発熱を維持した上で、トレッド以外の部材の発熱を下げることが効果的である。すなわち、本発明のタイヤ用インナーライナーは低温下で発熱が小さいため、トレッドでは調整の難しい温度領域で転がり抵抗係数を低減するのに有効である。
【0012】
tanδとは、損失正接ともいい、振動応力と振動ひずみの位相差δ(0°≦δ≦90°)の正接で、損失弾性率と貯蔵弾性率の比に等しい。δは粘性があるために生じ、1周期あたりのエネルギー損失に関係する量である。
tanδは、JIS K7198に記載の方法に準拠して求めることができる。具体的には、試料に初期伸張を加えた上で、加振機により周期的振動である正弦波の動歪を与え、その際の応力と変位を測定することで複素弾性率を求め、その実数部から貯蔵弾性率(E′)、虚数部から損失弾性率(E″)を求め、その比tanδ=E″/E′から求めることができる。本発明においては、初期伸張5%、周波数20Hz、動歪0.1%にて雰囲気温度を-80℃から160℃の範囲で測定を行った。
【0013】
本発明のタイヤ用インナーライナーを構成する材料は、50℃におけるtanδに対する-30℃におけるtanδの比が1より小さいことが好ましい。
50℃におけるtanδを「tanδ(50℃)」と称し、-30℃におけるtanδを「tanδ(-30℃)」と称する。すなわち、50℃におけるtanδに対する-30℃におけるtanδの比は、tanδ(-30℃)/tanδ(50℃)と表すことができる。
tanδ(-30℃)/tanδ(50℃)は、より好ましくは0.01~0.90であり、さらに好ましくは0.02~0.85である。tanδ(-30℃)/tanδ(50℃)が大きすぎると、低温での転がり抵抗係数を低減する効果が小さく、通常走行におけるインナーライナーのクラック発生を抑制する効果も小さい。tanδ(-30℃)/tanδ(50℃)が小さすぎると、通常走行時のtanδが大きく、転がり抵抗係数が悪化する。
【0014】
本発明のタイヤ用インナーライナーは、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物を含む材料からなる。熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分からなる。
【0015】
熱可塑性樹脂は、tanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在する材料を調製することができる限りにおいて限定されないが、好ましくは変性エチレン-ビニルアルコール共重合体である。
【0016】
変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「変性EVOH」ともいう。)とは、主たる反復単位がエチレン単位(-CHCH-)およびビニルアルコール単位(-CH-CH(OH)-)であるが、これらの反復単位以外の反復単位を含む共重合体をいう。変性エチレン-ビニルアルコール共重合体は、好ましくはエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」ともいう。)に変性用化合物を反応させて得られるものである。変性エチレン-ビニルアルコール共重合体は、好ましくはポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体である。ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体とは、エチレン-ビニルアルコール共重合体の水酸基にポリエステルがグラフトしたものをいう。ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体は、好ましくは脂肪族ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体である。脂肪族ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体とは、エチレン-ビニルアルコール共重合体の水酸基に脂肪族ポリエステルがグラフトしたものをいう。
【0017】
ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体の幹を形成するEVOH単位の含有量と、この幹にグラフトされたポリエステル単位の含有量の比率(EVOH単位の含有量/ポリエステル単位の含有量)は、質量比で、好ましくは40/60~99/1、より好ましくは60/40~95/5、さらに好ましくは80/20~90/10である。EVOH単位の含有量が低すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、EVOH単位の含有量とポリエステル単位の含有量の比率は、グラフト反応時のEVOHとポリエステルの仕込み比でコントロールすることができる。
【0018】
ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法は、幹を形成するEVOHに、ポリエステルをグラフトさせる公知の方法を用いることができるが、特に、EVOHの存在下にラクトン類を開環重合させる方法が好ましく用いられる。
【0019】
用いられるラクトン類としては、炭素原子の数が3~10であるラクトン類であれば特に制限されない。このようなラクトン類は、置換基を有さない場合には、式(1)で表される。ここで、nは2~9の整数であり、好ましくはnは4~5である。
【0020】
【化1】
【0021】
具体的には、β-プロピオンラクトン、γ―ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトンなどを挙げることができ、ε-カプロラクトンおよびδ-バレロラクトンが好ましく、安価かつ容易に入手できる点から、ε-カプロラクトンがより好ましい。
これらのラクトン類は、2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
また、開環重合反応の際には、従来公知の開環重合触媒を添加することが好ましく、たとえば、チタン系化合物、錫系化合物などを挙げることができる。具体的には、テトラ-n-ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどのチタニウムアルコキシド、ジブチルジブトキシスズなどのスズアルコキシド、ジブチルスズジアセテートなどのスズエステル化合物などが挙げられるが、これらの中でも安価かつ容易に入手できる点からテトラ-n-ブトキシチタンが好ましい。
【0023】
EVOHにラクトン類を開環重合させてグラフト化する方法としては、たとえば、両者を混練機中で溶融混練する方法が挙げられ、その際の混練機としては、一軸および二軸押し出し機、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーなどが挙げられる。
【0024】
溶融混練の時間および温度は、特に限定されず、両物質が溶融する温度、およびグラフト化が完了する時間を適宜選べばよいが、通常50~250℃で10秒~24時間、特に150~230℃で5分~10時間の範囲が好ましく用いられる。
【0025】
原料として用いるEVOHのエチレン含有量は、特に限定されないが、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、さらに好ましくは30~45モル%である。エチレン含有量が多すぎるとガスバリア性が低下し、逆に少なすぎるとラクトン類との開環重合の反応性が低下する傾向がある。
【0026】
また、EVOHのケン化度は、特に限定されないが、通常80モル%以上であり、好ましくは90~99.99モル%、特に好ましくは99~99.9モル%である。ケン化度が低すぎるとガスバリア性が低下する傾向がある。
【0027】
また、EVOHにおいて分子量の指標として用いられるメルトフローレート(MFR)は、210℃,荷重2160g条件下で、通常0.1~100g/10分であり、好ましくは0.5~50g/10分、特に好ましくは1~25g/10分である。MFR値が低すぎるとラクトン類との開環重合の反応性が低下する傾向がある。
【0028】
EVOHとしては、その平均値が、上記要件を充足するEVOHの組合せであれば、エチレン含有量、ケン化度、MFRが異なる2種以上のEVOHを混合して用いてもよい。
【0029】
熱可塑性エラストマー組成物は熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分からなる。熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、連続相(マトリックス)と分散相からなる相構造(いわゆる海島構造)を有し、熱可塑性樹脂成分が連続相を形成し、エラストマー成分が分散相を形成しているものである。
【0030】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂成分は、tanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在する材料を調製することができる限りにおいて限定されないが、好ましくは前述の熱可塑性樹脂と同様である。すなわち、熱可塑性樹脂成分は、好ましくは変性エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、より好ましくはエチレン-ビニルアルコール共重合体に変性用化合物を反応させて得られるものであり、さらに好ましくはポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、さらに好ましくは脂肪族ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体である。
【0031】
熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマー成分は、tanδの温度依存性曲線において20~70℃の間にtanδの最大値が存在する材料を調製することができる限りにおいて限定されないが、ジエン系ゴムおよびその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴムなどを例示することができる。
ジエン系ゴムおよびその水添物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBRなどが挙げられる。
オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマーなどが挙げられる。
含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)などのハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体(たとえば臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体(BIMS))、ハロゲン化イソブチレン-イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)などが挙げられる。
シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴムなどが挙げられる。含イオウゴムとしては、ポリスルフィドゴムなどが挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴムなどが挙げられる。
なかでも、ハロゲン化イソモノオレフィン-p-アルキルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体が、空気遮断性の観点から、好ましい。
【0032】
エラストマー成分には、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの、ゴム組成物に一般的に配合される配合剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、配合してもよい。
【0033】
熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とを、たとえば二軸混練押出機などで、溶融混練し、連続相を形成する熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分を分散相として分散させることにより、製造することができる。熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分の質量比率は、限定するものではないが、好ましくは10/90~90/10であり、より好ましくは15/85~90/10である。
【0034】
タイヤ用インナーライナーを構成する材料は、好ましくは、さらに、170℃以上の融点を有する第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーを含む。
170℃以上の融点を有する第二の熱可塑性樹脂または170℃以上の融点を有する熱可塑性エラストマーを含めることにより、インナーライナーに耐熱性を付与することができる。
【0035】
第二の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール樹脂などが挙げられるが、好ましくはポリエステル樹脂である。ポリエステル樹脂としては、ポリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂などが挙げられるが、好ましくはポリブチレンテレフタレート樹脂である。ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下「PBT樹脂」ともいう。)は、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールの重縮合体である。ポリブチレンテレフタレート樹脂は市販品を用いることができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の市販品としては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン」(登録商標)、東レ株式会社製「トレコン」(登録商標)、ウィンテックポリマー製「ジェラネックス」(登録商標)などが挙げられる。
【0036】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーなどが挙げられるが、好ましくはポリエステルエラストマーである。ポリエステルエラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレートエラストマーが挙げられる。ポリブチレンテレフタレートエラストマー(以下「PBTエラストマー」ともいう。)は、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントが脂肪族ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルである熱可塑性エラストマーである。ポリブチレンテレフタレートエラストマーは市販品を用いることができる。ポリブチレンテレフタレートエラストマーの市販品としては、東洋紡株式会社製「ペルプレン」(登録商標)Pタイプ、「ペルプレン」(登録商標)Sタイプ、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)などが挙げられる。
【0037】
第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーの含有量は、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物100質量部を基準として、好ましくは0~50質量部であり、より好ましくは2~45質量部であり、さらに好ましくは5~40質量部である。含有量が多すぎると、インナーライナーとしての空気圧保持性が十分得られない虞がある。
【0038】
タイヤ用インナーライナーを構成する材料は、さらに、酸変性エラストマーを含むことができる。酸変性エラストマーを含めることにより、疲労耐久性を向上させること、およびタイヤ成形時に隣接するゴムとの追従性を向上させること等のメリットが得られる。酸変性エラストマーとしては、酸変性ポリオレフィン系エラストマー、酸変性スチレン系エラストマーなどが挙げられる。
【0039】
酸変性ポリオレフィン系エラストマーとしては、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物で変性されたエチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体などが挙げられる。不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物で変性されたエチレン-α-オレフィン共重合体としては、たとえば、エチレン-プロピレン共重合体の無水マレイン酸グラフト変性物、エチレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸グラフト変性物、エチレン-ヘキセン共重合体の無水マレイン酸グラフト変性物、エチレン-オクテン共重合体の無水マレイン酸グラフト変性物などが挙げられる。不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物で変性されたエチレン-不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体としては、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物で変性されたエチレン-アクリル酸共重合体、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物で変性されたエチレン-メタクリル酸共重合体、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物で変性されたエチレン-アクリル酸メチル共重合体、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物で変性されたエチレン-メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。なかでも、好ましい酸変性ポリオレフィン系エラストマーは、エチレン-プロピレン共重合体の無水マレイン酸変性物およびエチレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸変性物である。酸変性ポリオレフィン系エラストマーは市販品を用いることができる。酸変性ポリオレフィン系エラストマーの市販品としては、三井化学株式会社製「タフマー」(登録商標)MH7010、MP7020、MP0610などが挙げられる。
【0040】
酸変性スチレン系エラストマーとしては、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-エチレンプロピレン-スチレン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-イソプレン-スチレン共重合体などが挙げられるが、好ましくは無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体である。酸変性スチレン系エラストマーは市販品を用いることができる。無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体の市販品としては、旭化成株式会社製「タフテック」(登録商標)M1943、M1913、M1911、クレイトンポリマージャパン株式会社製「クレイトン」(登録商標)FG1924などが挙げられる。
【0041】
酸変性エラストマーの含有量は、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物100質量部を基準として、好ましくは0~70質量部であり、より好ましくは10~68質量部であり、さらに好ましくは15~65質量部である。含有量が多すぎると、インナーライナーとしての空気圧保持性が十分得られない虞がある。
【0042】
タイヤ用インナーライナーを構成する材料は、さらに、エポキシ基含有エラストマーを含むことができる。エポキシ基含有エラストマーを含めることにより、疲労耐久性を向上させること、およびタイヤ成形時に隣接するゴムとの追従性を向上させることに加え、熱可塑性樹脂と第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーとの相溶性を向上させることのメリットが得られる。
エポキシ基含有エラストマーとは、エポキシ基を有するエラストマーをいう。
エポキシ基含有エラストマーを構成するエラストマーとしては、特に限定するものではないが、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体などが挙げられる。すなわち、エポキシ基含有エラストマーは、好ましくは、エポキシ基を有するエチレン-α-オレフィン共重合体、エポキシ基を有するエチレン-不飽和カルボン酸共重合体、エポキシ基を有するエチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体である。エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体などが挙げられる。エチレン-不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体などが挙げられる。エチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体などが挙げられる。
【0043】
エポキシ基含有エラストマーは、たとえば、エラストマーにグリシジルメタクリレートなどのエポキシ化合物を共重合することによって、または不飽和結合を有するエラストマーの不飽和結合の一部またはすべてをエポキシ化剤でエポキシ化することによって得ることができる。エポキシ基含有エラストマー中のエポキシ基の含有量は、好ましくは0.01~5モル/kg、より好ましくは0.1~1.5モル/kgである。エポキシ基の含有量が少なすぎると、熱可塑性樹脂に分散しにくくなり、所望の疲労耐久性を得られにくい。エポキシ基の含有量が多すぎると、熱可塑性樹脂との相互作用が強くなり溶融粘度が増大するため、溶融成形時の加工性が悪化する。エポキシ基含有エラストマーは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、住友化学株式会社製エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体「ボンドファースト」(登録商標)BF-2C、住友化学株式会社製エポキシ変性エチレン-アクリル酸メチル共重合体「エスプレン」(登録商標)EMA2752、株式会社ダイセル製エポキシ変性スチレン-ブタジエン系ブロック共重合体「エポフレンド」(登録商標)AT501、CT310などがある。
【0044】
エポキシ基含有エラストマーの含有量は、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物100質量部を基準として、好ましくは0~70質量部であり、より好ましくは10~68質量部であり、さらに好ましくは15~65質量部である。含有量が多すぎると、熱可塑性樹脂との相互作用が強くなり溶融粘度が増大するため、溶融成形時の加工性が悪化する。
【0045】
タイヤ用インナーライナーを構成する材料は、前記熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物、第二の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー、酸変性エラストマー、およびエポキシ基含有エラストマー以外のポリマー、ならびに各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。添加剤としては、架橋剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、架橋促進助剤、架橋促進剤、補強剤(フィラー)、スコーチ防止剤、素練促進剤、有機改質剤、軟化剤、粘着付与剤などが挙げられる。
【0046】
タイヤ用インナーライナーの厚さは、タイヤ用インナーライナーとしての機能を有することができる限りにおいて限定されないが、好ましくは10~400μmであり、より好ましくは15~350μmであり、さらに好ましくは20~300μmである。厚さが薄すぎると、取り扱い性が悪く、タイヤ作製時にインナーライナーに皺が入りやすく、完成したタイヤを走行させた際に皺を起点としてクラック等の故障が発生する虞がある。厚さが厚すぎると、タイヤ作製時に隣接するゴム組成物への追従性が悪く、インナーライナーが剥がれ落ちる問題が発生する。
【0047】
本発明のタイヤ用インナーライナーは、前記材料を、インフレーション成形法、Tダイ押出成形法などの成形法によりフィルム状に成形することにより製造することができる。
【0048】
本発明のタイヤ用インナーライナーは、タイヤを構成するゴム部材との接着性を向上させるために、ゴム組成物の層を積層し、積層体として用いてもよい。
【0049】
本発明は、また、前記タイヤ用インナーライナーを含む空気入りタイヤである。
本発明の空気入りタイヤは、常法により製造することができる。たとえば、本発明のタイヤ用インナーライナーまたは本発明のタイヤ用インナーライナーとゴム組成物との積層体を、タイヤ成形用ドラムの上に置き、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例
【0050】
(1)原料
以下の実施例および比較例において使用した原料は次のとおりである。
EVOH: 日本合成化学工業株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)H4815B(融点:158℃)
ナイロン6/66: 宇部興産株式会社製ポリアミド6/66共重合体「UBEナイロン」(登録商標)5023B(融点:195℃)
変性EVOH(1): 日本合成化学工業株式会社製「ソアノール」(登録商標)SG743(脂肪族ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体、低変性品、融点:110℃)
変性EVOH(2): 日本合成化学工業株式会社製「ソアノール」(登録商標)SG931(脂肪族ポリエステル変性エチレン-ビニルアルコール共重合体、高変性品、融点:95℃)
PBT樹脂: 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン」(登録商標)5010R5(ポリブチレンテレフタレート樹脂、融点:224℃)
PBTエラストマー: 東洋紡株式会社製「ペルプレン」(登録商標)E450B(ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントがポリエーテルの共重合体、融点:222℃)
酸変性エラストマー: 三井化学株式会社製「タフマー」(登録商標)MH7020(無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体)
エポキシ基含有エラストマー: 住友化学株式会社製「BONDFAST」(登録商標)2C(グリシジルメタクリレート含有率が6質量%のエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体)
【0051】
(2)熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性エラストマー組成物の調製
表1に示す配合にて原料を、ポリマー成分のうち最も融点の高い原料の融点より20℃高いシリンダー温度に設定した二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に導入し、滞留時間約3~6分間に設定された混練ゾーンに搬送して溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の材料を得た。
【0052】
(3)tanδの測定
(2)の手順で調製したペレット状の材料を200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を材料中の最も融点の高い原料の融点+10℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度1m/minの押出条件で、平均厚み1mmのシートに成形した。
得られたシートを用いて、幅5mm、長さ60mmの短冊状に切り出し、東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメータを用い、静的歪み5%、動的歪み±0.1%、周波数20Hz、温度-80℃~160℃の範囲でtanδを測定した。
tanδが最大値を示す温度を求め、tanδ最大値温度とした。tanδ最大値温度を表1に示す。20~70℃の範囲に最大値があれば、タイヤでの耐クラック性が認められた。
50℃におけるtanδに対する-30℃におけるtanδの比すなわちtanδ(-30℃)/tanδ(50℃)を求めた。その比の値を表1に示す。その比が1より小さければタイヤでのインナーライナー剥離故障を抑制する効果が見られた。
【0053】
(4)粘接着剤組成物の調製
粘接着剤組成物の原料として、次のものを用いた。
エポキシ化SBS: ダイセル化学工業株式会社製エポキシ化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「エポフレンド」(登録商標)AT501
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸: 日油株式会社製ビーズステアリン酸
加硫促進剤: 大内新興化学工業株式会社製「ノクセラー」(登録商標)TOT-N
粘着付与剤: ヤスハラケミカル株式会社製YSレジンD105
表2に示す各原料のペレットを二軸混練押出機(日本製鋼所製TEX44)に投入し、120℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、ストランド状押出物を水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状の粘接着剤組成物を得た。
【0054】
(5)フィルムの作製
前記(2)で調製した熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性エラストマー組成物および前記(4)で調製した粘接着剤組成物をインフレーション成形装置(プラコー製)を使用して240℃で熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性エラストマー組成物が内側、粘接着剤組成物が外側になるように2層のチューブ状に押出し、空気を吹き込んで膨張させ、ピンチロールで折りたたみ、巻き取ることにより、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物層または熱可塑性エラストマー組成物層の厚さは50μmであり、粘接着剤組成物層の厚さは10μmであった。
【0055】
(6)タイヤ作製
(5)の手順で得られたフィルムをタイヤ最内面に配置しグリーンタイヤを作製後、180℃に設定された金型に挿入し、常法によって加硫を行いラジアルタイヤ195/65R15を作製した。
【0056】
(7)タイヤ試験
(7-1)クラック個数(耐クラック性の確認)
(6)で作製したタイヤを15×6.0JJのリムに勘合させ、外径1707mmのドラム上で、雰囲気温度0℃、空気圧120kPa、荷重5kN、速度80km/hの条件で走行させ、距離20km走行毎に停止、走行を繰り返し、100サイクル走行させた。その後、タイヤをリムから外し、内面を観察し、インナーライナーのクラック個数をカウントした。比較例1のクラック個数を100とした指数で表示し、100以上を効果なし、80以上100未満を可、60以上80未満を良、60未満を優とし、可、良、優をクラック低減効果があるものと判定した。評価結果を表1に示す。
【0057】
(7-2)最高到達温度および剥がれ面積(剥離抑制効果の確認)
(6)で作製したタイヤを用いて、タイヤ内面ショルダー部に非可逆式サーモラベルを貼るとともに、同じくショルダー部のインナーライナーに剃刀でメスカットを入れた後、15×6.0JJのリムに勘合させ、外径1707mmのドラム上で、雰囲気温度70℃、空気圧120kPa、荷重5kN、速度80km/hの条件で20000km走行させた。走行後、タイヤをリムから外し、サーモラベルの表示温度を最高到達温度として記録するとともにインナーライナーの剥がれを観察した。
最高到達温度については、比較例1の最高到達温度を100として指数で表示し、100以上を効果なし、95以上100未満を可、90以上95未満を良、90未満を優と等級分けし、可、良、優はタイヤ内面の最高到達温度を下げる効果があると判定した。評価結果を表1に示す。
インナーライナーの剥がれ面積については、比較例1のインナーライナーの剥がれた面積を100として指数で表示し、100以上を効果なし、90以上100未満を可、80以上90未満を良、80未満を優と等級分けし、可、良、優はインナーライナーの剥離を抑制する効果があると判定した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(7-3)低温転がり抵抗
(6)で作製したタイヤについて、雰囲気温度-20℃、ドラム径1707mm、荷重2725kgf、速度50km/hr時の抵抗力を測定し、低温転がり抵抗とした。比較例1における低温転がり抵抗を100とした指数で表示し、100以上を効果なし、98以上100未満を可、95以上98未満を良、95未満を優と等級分けし、可、良、優は低温での転がり抵抗を低減する効果があると判定した。評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のタイヤ用インナーライナーは、空気入りタイヤの製造に好適に利用することができる。