(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】薄膜製造方法、対向ターゲット式スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20221024BHJP
【FI】
C23C14/34 D
(21)【出願番号】P 2018225667
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中光 豊
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-335924(JP,A)
【文献】特開2010-013724(JP,A)
【文献】特開平01-102925(JP,A)
【文献】特表2013-521410(JP,A)
【文献】特開2009-114510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離間して互いに対向配置された第一、第二のターゲットに交流電圧であるスパッタリング電圧をそれぞれ印加し、前記第一、第二のターゲットの間の空間であるスパッタ空間の側方に位置する基板表面に薄膜を形成する薄膜製造方法であって、
前記基板とは反対側の前記スパッタ空間の側方に配置されたアノード電極と接地電位の間を低インピーダンス値で接続して、前記第一、第二のターゲットのスパッタリングを開始して前記基板の表面に薄膜を成長させ、
前記薄膜が所定膜厚に形成された後、前記アノード電極と接地電位との間を、前記低インピーダンス値よりも大きな高インピーダンス値で接続し、前記第一、第二のターゲットをスパッタリングして前記薄膜を成長させる薄膜製造方法。
【請求項2】
前記スパッタ空間に導入されるスパッタリングガスには、酸素ガスと窒素ガスのうちのいずれか一方のガスから成り又は両方のガスから成る添加ガスと希ガスとを含有させ、
前記第一、第二のターゲットのスパッタリングを開始して、前記第一、第二のターゲットの表面に露出する金属原子と前記添加ガスとの反応生成物の薄膜を前記基板の表面に前記所定膜厚に成長させる請求項1記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記第一、第二のターゲットは同じ材料であり、
前記第一、第二のターゲットは酸化アルミニウムと金属アルミニウムのうちのいずれか一方を用い、
形成される前記薄膜は酸化アルミニウム薄膜であり、
形成される前記酸化アルミニウム薄膜が4nm以上6nm以下の厚みに形成された後、前記アノード電極と接地電位との間を、前記高インピーダンス値で接続する請求項2記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
離間して互いに対向配置された第一、第二のターゲットと、
前記第一、第二のターゲットに交流電圧であるスパッタリング電圧を印加する交流電源と、
前記第一、第二のターゲットの間のスパッタ空間が内部に配置され、二個の開口を有する筒形形状を前記第一、第二のターゲットと共に構成するスパッタ槽と、
前記スパッタ空間の側方であって、二個の前記開口のうちの一方の前記開口と対面する位置の成膜空間が配置される成膜槽と、
前記スパッタ空間の側方であって、他方の開口と対面する位置に配置されたアノード電極と、
前記アノード電極を接地電位に電気的に接続する切替装置と、を有し、
前記切替装置は、前記スパッタリング電圧の周波数において、前記アノード電極と前記接地電位との間を低インピーダンスで接続する低インピーダンス装置と高インピーダンスで接続する高インピーダンス装置とを有し、前記第一、第二のターゲットをスパッタリングして前記成膜槽内に配置された基板に薄膜を形成するスパッタリング装置。
【請求項5】
前記低インピーダンス装置は、リアクタンス値を変更可能で、前記リアクタンス値を変更することで共振周波数の値を変更可能なLC直列接続回路であり、
前記LC直列接続回路のリアクタンス値を制御する制御装置を有する請求項4記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
第一のインダクタンス素子と、前記制御装置によってキャパシタンス値が変更される第一のキャパシタンス素子とを有し、
前記第一のインダクタンス素子と前記第一のキャパシタンス素子とが直列接続されて前記LC直列接続回路が構成され、
前記第一のキャパシタンス素子の変更可能なキャパシタンス値には、前記スパッタリング電圧の周波数において前記LC直列接続回路を直列共振させる値が含まれる請求項5記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記第一のインダクタンス素子に並列接続された第二のキャパシタンス素子を有し、
前記高インピーダンス装置は前記第二のキャパシタンス素子と前記第一のインダクタンス素子とが並列接続された第一のLC並列接続回路であり、
前記第二のキャパシタンス素子は前記制御装置によってキャパシタンス値が変更可能であり、前記第二のキャパシタンス素子の変更可能なキャパシタンス値の範囲には、前記スパッタリング電圧の周波数において前記第一のLC並列接続回路を並列共振させる値が含まれている請求項6記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記第一のインダクタンス素子に並列接続された第二のキャパシタンス素子を有し、
前記高インピーダンス装置は前記第二のキャパシタンス素子と前記第一のインダクタンス素子とが並列接続された第一のLC並列接続回路であり、
前記第一のLC並列接続回路は前記スパッタリング電圧の周波数において並列共振にされた請求項6記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記
第一のキャパシタンス素子に並列接続された第二のインダクタンス素子を有し、
前記高インピーダンス装置は前記第一のキャパシタンス素子と前記第二のインダクタンス素子とが並列接続された第二のLC並列接続回路であり、前記第一のキャパシタンス素子の変更可能なキャパシタンス値の範囲には、前記第二のLC並列接続回路を並列共振させる値が含まれている請求項6記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記第一、第二のターゲットは同じ材料であり、酸化アルミニウムと金属アルミニウムのうちのいずれか一方であり、
スパッタリングガス中には酸素が含有され、
形成される前記薄膜は酸化アルミニウム薄膜である請求項4乃至請求項9のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング技術にかかり、特に、対向ターゲット式のスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や太陽電池等に使用されるデバイスの中には、真空雰囲気中で形成される薄膜が形成されており、デバイスの高性能化には高品質な薄膜を形成することだけではなく、薄膜を形成する下地と薄膜との間の界面が良好に形成されることも重要となる。
【0003】
しかしながら基板とターゲットとが対面するマグネトロン式スパッタ法では、薄膜の形成中に数百eV程度の高い運動エネルギーを持った粒子が基板表面に衝突するため、薄膜の膜質を悪化させ、また、界面の特性を低下させる場合がある。
【0004】
特に、酸化物ターゲットを用いて酸素ガスが添加されたスパッタリングガスによって酸化物薄膜を形成する場合や、金属ターゲットを用いて酸素ガスが添加されたスパッタリングガスによって反応性スパッタを行って酸化物薄膜を形成する場合には、ターゲット表面付近で発生した酸素の負イオンが、カソードシースによってターゲット表面に対して垂直方向に数百eV程度に加速され、基板表面と衝突することで膜質および界面特性の低下を引き起こす。
【0005】
一方、ターゲット表面に形成されるプラズマの電位(プラズマポテンシャル)と基板表面の電位差によって数十eV程度の低い運動エネルギーに加速された粒子(Arイオンなど)が基板表面に照射されると、形成中の薄膜の膜質が向上する場合があり、一般的にはイオンアシスト効果として知られている。
【0006】
ただし、基板表面や下地膜の表面等が下地となり、下地上に酸化物薄膜を形成する場合は、下地と酸化物薄膜との間の界面が形成されるときに数十eV程度と小さい運動エネルギーの粒子が入射しても、界面に下地表面と酸化物薄膜とが混じった中間層が形成され、界面特性が低下する場合がある。
【0007】
例えば、シリコン基板の表面に酸化アルミニウム薄膜を形成する場合はスパッタリングガス中に酸素ガスが含まれており、界面に酸素ガスの正イオンが入射するとシリコン酸化膜が形成され、形成する酸化アルミニウム薄膜の電気的特性が悪化する。
【0008】
それに対し、二個のターゲットが対向して配置されると共に各ターゲットの間の空間の側方に配置された基板に薄膜が形成される構造の対向ターゲット式スパッタ法では、酸化膜形成時に発生した高エネルギーの負イオンは、ターゲットからターゲット表面に対して垂直な方向に放出されるため、基板表面には入射しない。従って、基板にはダメージが与えられず、高品質な酸化物薄膜を形成することができる。
【0009】
一方、カソードとなるターゲット周囲にアノードを設置する構造や、ミラー磁場を設けてプラズマを閉じ込める構造は、対向するターゲット間にプラズマを拘束するためイオンアシスト効果を得ることはできない。
アノード電極を工夫した発明は下記の公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-37566号公報
【文献】実開平7-19361号公報
【文献】特開2006-199989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の問題点を解決するために創作された発明であり、界面と薄膜とを、良好な特性で形成できるスパッタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
対向ターゲット式スパッタ装置においては、界面形成時期はイオンアシスト効果を抑制し、薄膜形成時期では運動エネルギーの高い負イオンのダメージを抑制しつつ、低エネルギーのイオンアシスト効果を用いることで膜質を向上させることができることを発見した。
【0013】
本発明は上記知見に基づいて創作されたものであり、本発明は、離間して互いに対向配置された第一、第二のターゲットに交流電圧であるスパッタリング電圧をそれぞれ印加し、前記第一、第二のターゲットの間の空間であるスパッタ空間の側方に位置する基板表面に薄膜を形成する薄膜製造方法であって、前記基板とは反対側の前記スパッタ空間の側方に配置されたアノード電極と接地電位の間を低インピーダンス値で接続して、前記第一、第二のターゲットのスパッタリングを開始して前記基板の表面に薄膜を成長させ、前記薄膜が所定膜厚に形成された後、前記アノード電極と接地電位との間を、前記低インピーダンス値よりも大きな高インピーダンス値で接続し、前記第一、第二のターゲットをスパッタリングして前記薄膜を成長させる薄膜製造方法である。
また、本発明は、前記スパッタ空間に導入されるスパッタリングガスには、酸素ガスと窒素ガスのうちのいずれか一方のガスから成り又は両方のガスから成る添加ガスと希ガスとを含有させ、前記第一、第二のターゲットのスパッタリングを開始して、前記第一、第二のターゲットの表面に露出する金属原子と前記添加ガスとの反応生成物の薄膜を前記基板の表面に前記所定膜厚に成長させる薄膜製造方法である。
また、本発明は、前記第一、第二のターゲットは同じ材料であり、前記第一、第二のターゲットは酸化アルミニウムと金属アルミニウムのうちのいずれか一方を用い、形成される前記薄膜は酸化アルミニウム薄膜であり、形成される前記酸化アルミニウム薄膜が4nm以上6nm以下の厚みに形成された後、前記アノード電極と接地電位との間を、前記高インピーダンス値で接続する薄膜製造方法である。
また、本発明は、離間して互いに対向配置された第一、第二のターゲットと、前記第一、第二のターゲットに交流電圧であるスパッタリング電圧を印加する交流電源と、前記第一、第二のターゲットの間のスパッタ空間が内部に配置され、二個の開口を有する筒形形状を前記第一、第二のターゲットと共に構成するスパッタ槽と、前記スパッタ空間の側方であって、二個の前記開口のうちの一方の前記開口と対面する位置の成膜空間が配置される成膜槽と、前記スパッタ空間の側方であって、他方の開口と対面する位置に配置されたアノード電極と、前記アノード電極を接地電位に電気的に接続する切替装置と、を有し、前記切替装置は、前記スパッタリング電圧の周波数において、前記アノード電極と前記接地電位との間を低インピーダンスで接続する低インピーダンス装置と高インピーダンスで接続する高インピーダンス装置とを有し、前記第一、第二のターゲットをスパッタリングして前記成膜槽内に配置された基板に薄膜を形成するスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記低インピーダンス装置は、リアクタンス値を変更可能で、前記リアクタンス値を変更することで共振周波数の値を変更可能なLC直列接続回路であり、前記LC直列接続回路のリアクタンス値を制御する制御装置を有するスパッタリング装置である。
また、本発明は、第一のインダクタンス素子と、前記制御装置によってキャパシタンス値が変更される第一のキャパシタンス素子とを有し、前記第一のインダクタンス素子と前記第一のキャパシタンス素子とが直列接続されて前記LC直列接続回路が構成され、前記第一のキャパシタンス素子の変更可能なキャパシタンス値には、前記スパッタリング電圧の周波数において前記LC直列接続回路を直列共振させる値が含まれるスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記第一のインダクタンス素子に並列接続された第二のキャパシタンス素子を有し、前記高インピーダンス装置は前記第二のキャパシタンス素子と前記第一のインダクタンス素子とが並列接続された第一のLC並列接続回路であり、前記第二のキャパシタンス素子は前記制御装置によってキャパシタンス値が変更可能であり、前記第二のキャパシタンス素子の変更可能なキャパシタンス値の範囲には、前記スパッタリング電圧の周波数において前記第一のLC並列接続回路を並列共振させる値が含まれているスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記第一のインダクタンス素子に並列接続された第二のキャパシタンス素子を有し、前記高インピーダンス装置は前記第二のキャパシタンス素子と前記第一のインダクタンス素子とが並列接続された第一のLC並列接続回路であり、前記第一のLC並列接続回路は前記スパッタリング電圧の周波数において並列共振にされたスパッタリング装置。
また、本発明は、前記一のキャパシタンス素子に並列接続された第二のインダクタンス素子を有し、前記高インピーダンス装置は前記第一のキャパシタンス素子と前記第二のインダクタンス素子とが並列接続された第二のLC並列接続回路であり、前記第一のキャパシタンス素子の変更可能なキャパシタンス値の範囲には、前記第二のLC並列接続回路を並列共振させる値が含まれているスパッタリング装置である。
また、本発明は、前記第一、第二のターゲットは同じ材料であり、酸化アルミニウムと金属アルミニウムのうちのいずれか一方であり、スパッタリングガス中には酸素が含有され、形成される前記薄膜は酸化アルミニウム薄膜であるスパッタリング装置である。
【発明の効果】
【0014】
界面に不要な薄膜が形成されず、特性のよい薄膜を得ることができる。特に、下地と酸化物薄膜との間にも不要な薄膜は形成されず、特性の良い薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】(a)~(e):切替装置の内部回路を説明するための図
【
図3】アノード電極と接地電位の間のインピーダンスが異なるときのスパッタリング電圧と基板ホルダに流れる電流値の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
<スパッタリング装置>
図1の符号2は本発明のスパッタリング装置であり、スパッタ槽14と成膜槽17とを有している。
【0017】
スパッタ槽14は、四角筒体形形状であり、長方形または正方形の四個の側面と、二個の開口34、35とを有している。
【0018】
四個の側面のうち互いに対向する二面に取付孔13a、13bがそれぞれ設けられており、各取付孔13a、13bには、第一のターゲット装置11aと第二のターゲット装置11bの一部がそれぞれ挿入されている。
【0019】
第一、第二のターゲット装置11a、11bは第一、第二のバッキングプレート42a、42bをそれぞれ有しており、第一、第二のバッキングプレート42a、42bの片面には、第一、第二のターゲット5a、5bがそれぞれ固定されている。
【0020】
第一、第二のバッキングプレート42a、42bの第一、第二のターゲット5a、5bが配置された部分は、第一、第二のターゲット装置11a、11bが取付孔13a、13bの縁に接触せず、第一、第二のターゲット5a、5bがスパッタ槽14の内部に露出するように取付孔13a、13bにはめ込まれている。
【0021】
その状態で、第一、第二のバッキングプレート42a、42bの縁付近の部分は、電気絶縁性を有するターゲット側絶縁部材12a、12bを介してスパッタ槽14にそれぞれ取り付けられている。
【0022】
スパッタ槽14の内部に露出する第一、第二のターゲット5a、5bの表面は一定距離離間して互いに対向しており、第一、第二のターゲット5a、5bの表面で挟まれる空間をスパッタ空間18と呼ぶと、開口34、35は、スパッタ空間18の側方のうち、スパッタ槽14の壁面や第一、第二のターゲット5a、5bが配置されていない部分である。
【0023】
ここで、一方の開口34と他方の開口35とは、スパッタ空間18を間にして互いに反対側に位置しており、一方の開口34の側方位置には、成膜槽17の内部空間である成膜空間19が配置されており、他方の開口35側の側方位置にはアノード電極15が配置されており、アノード電極15は、スパッタ空間18を介して、成膜空間19と対面する。
成膜槽17は、槽間絶縁部材46を介してスパッタ槽14に取り付けられており、アノード電極15は、ターゲット側絶縁部材12a、12bを介して第一、第二のバッキングプレート42a、42bに取り付けられている。
【0024】
この例では成膜空間19には基板ホルダ45が配置されており、基板ホルダ45には成膜対象物である基板10が配置されている。符号51は基板バイアス装置である。他の例として、成膜空間19には、成膜空間19の中を、表面がスパッタ空間18に向けられた基板を保持しながら移動させる移動装置が設けられるスパッタリング装置も本発明に含まれる。
【0025】
第一、第二のバッキングプレート42a、42bの両面のうち、第一、第二のターゲット5a、5bが取り付けられた面とは反対側の面にはリング形形状の磁石装置43a、43bがそれぞれ配置されている。
【0026】
一方の磁石装置43aと他方の磁石装置43bとは、互いに異なる極性の磁極がスパッタ空間18側にそれぞれ向けられており、二個の磁石装置43a、43b間には第一、第二のターゲット5a、5bを貫通する筒形形状の磁束が形成されており、スパッタ空間18は、筒形形状の磁束と互いに対向する第一、第二のターゲット5a、5bとで取り囲まれている。磁石装置43a、43bのスパッタ空間18とは反対側には、ヨーク44a、44bが取り付けられている。
【0027】
スパッタ槽14と第一、第二のターゲット装置11a、11bとは、金属製の筺体16で覆われている。
【0028】
筺体16の外部にはスパッタ電源31が配置されており、スパッタ電源31の電圧出力端子33は第一、第二のターゲット装置11a、11bの第一、第二のバッキングプレート42a、42bに接続されている。電圧出力端子33は、第一、第二のバッキングプレート42a、42bに接続されており、スパッタ電源31は、電圧出力端子33に交流電圧であるスパッタリング電圧を出力し、スパッタリング電圧は第一、第二のバッキングプレート42a、42bに印加される。スパッタリング電圧の周波数は1MHz~100MHzである。
【0029】
<薄膜製造の手順>
スパッタ槽14または成膜槽17の一方又は両方にはガス源52が接続されており、また、スパッタ槽14または成膜槽17の一方又は両方には真空排気装置53が接続されている。真空排気装置53を動作させ、スパッタ槽14の内部と成膜槽17の内部とを真空排気して真空雰囲気を形成した後、真空雰囲気を維持しながら基板10を成膜槽17の内部に搬入し、スパッタ空間18と対面させる。ここでは基板10は基板ホルダ45に配置され静止されているが、上述したように移動させても良い。
【0030】
成膜槽17と筺体16は電気的に接続され接地電位にされている。アノード電極15とスパッタ槽14は、切替装置20を介して接地電位に接続されている。
アノード電極15とスパッタ槽14とを電気的に接続させないこともできる。
【0031】
切替装置20は電極側端子25と接地側端子26とを有しており、電極側端子25と接地側端子26との間は、切替装置20の内部回路のインピーダンスによって接続されている。切替装置20には制御装置28が接続されており、制御装置28によって内部のインピーダンス値が変更される。
【0032】
アノード電極15は電極側端子25に接続され、接地側端子26は直接または筺体16を介して接地電位に接続されており、ここでは、筺体16は、接地電位であるスパッタ電源31の接地端子に接続されているものとする。
【0033】
図2(a)~(e)は、切替装置20、20
1~20
4の内部を示す回路図であり、
図2(a)では、電極側端子25と接地側端子26との間を、オン状態では低インピーダンスで接続する低インピーダンス回路になり、オフ状態では高インピーダンスで接続する高インピーダンス回路になるスイッチ素子S
1を内部回路として有する切替装置20が模式的に示されている。
【0034】
このスイッチ素子S1は制御装置28によってオンとオフとが切り替えられており、スイッチ素子S1がオンにされるとアノード電極15は低インピーダンスで接地電位に接続される。切替装置20の接地側端子26が筺体16に機械的・電気的に接続された部分は、スパッタ電源31の接地端子が筺体16に接続された部分と近い場所であり、従って、スイッチ素子S1がオンにされると、アノード電極15は短絡に近い状態で接地電位に電気的に接続される。
【0035】
成膜槽17は、筺体16の端の位置で筺体16に電気的に接続されており、成膜槽17は、筺体16がスパッタ電源31の接地端子に接続された部分から遠い場所で筺体16に機械的・電気的に接続されており、従って、成膜槽17は、筺体16のインピーダンスによって接地電位に電気的に接続されており、筺体16のインピーダンスよりもスイッチ素子S1がオン状態のときのインピーダンスは小さい値である。
【0036】
それぞれ真空雰囲気にされたスパッタ槽14の内部と成膜槽17の内部とに、ガス源52からスパッタリングガスを導入する。ガス源52から導入されるスパッタリングガスには、アルゴンガス等の希ガスと、酸素ガスと窒素ガスのうち、いずれか一方のガス又は両方のガスとが含有されている。
【0037】
制御装置28はスイッチ素子S1をオンの状態にしてスパッタ電源31を動作させ、第一、第二のバッキングプレート42a、42bを介して第一、第二のターゲット5a、5bにスパッタリング電圧を印加し、スパッタ空間18にプラズマを発生させる。
【0038】
スパッタ空間18には、アノード電極15の表面と成膜槽17の壁面とが対面しており、成膜槽17よりもアノード電極15の方が低インピーダンスで接地電位に接続されているときには、スパッタ空間18の中のプラズマは、接地電位に近いアノード電極15に引きつけられ、成膜空間19に位置する基板10まで広がるプラズマの量は少ない。
【0039】
この状態で第一、第二のターゲット5a、5bがスパッタリングされ、基板10の表面には、第一、第二のターゲット5a、5bの表面に露出する金属原子と添加ガスとが化学反応して得られた反応生成物の薄膜が成長する。
【0040】
成膜槽17よりもアノード電極15の方が低インピーダンスで接地電位に接続された状態で基板10の表面に薄膜が成長する際には、基板10の表面や成長中の薄膜に入射するプラズマ中の正イオンは少ないため、基板10と薄膜の間の界面に正イオンに影響された薄膜が形成されることはない。
【0041】
この例では、第一、第二のターゲット5a、5bはアルミニウム板または酸化アルミニウム板であり、スパッタリングガスにはアルゴンガス等の希ガスと酸素ガスとが含有されており、例えば基板10がシリコン基板の場合、その表面に酸化シリコンが形成されずに、基板10の表面に酸化アルミニウム薄膜が成長する。
【0042】
基板10の表面の薄膜が所定膜厚に成長したところで、制御装置28はスイッチ素子S1をオフにさせ、アノード電極15と接地電位との間のインピーダンス値を成膜槽17と接地電位との間のインピーダンス値よりも大きくすると、スパッタ空間18に形成されたプラズマは成膜槽17の壁面に引き寄せられ、その結果、壁面とスパッタ空間18との間に位置する基板10の表面に成長中の薄膜にプラズマ中の正イオンが入射する。
【0043】
この例では、酸化アルミニウム薄膜が4nm以上6nm以下の範囲の所定膜厚に成長したところで、制御装置28によってスイッチ素子S1がオン状態からオフ状態に変更され、切替装置20のインピーダンスが低インピーダンスから高インピーダンスに変更されており、高インピーダンスに変更された後は正イオンが成長中の薄膜に入射するイオンアシスト効果によって緻密な酸化アルミニウム薄膜が形成される。
【0044】
酸化アルミニウム薄膜が所定膜厚に成長したところで、スパッタリング電圧は停止されてプラズマが消滅され、酸化アルミニウム薄膜が形成された基板10は成膜槽17から他の真空処理装置の真空槽内に移動される。
【0045】
スパッタリング電圧の停止後、スイッチ素子S1はオン状態にされて切替装置20が高インピーダンスから低インピーダンスに変更され新しく成膜槽17の内部に搬入された基板10の表面への薄膜の成長が開始される。
【0046】
なお、第一、第二のターゲット5a、5bの表面に露出する金属原子と添加ガスとの反応生成物は、添加ガスが窒素ガスから成る場合は窒化金属であり、添加ガスが酸素ガスと窒素ガスとから成る場合は酸窒化金属である。
【0047】
上記スイッチ素子S
1は、高インピーダンスと低インピーダンスの切替を模式的に示す素子であり、具体的には、例えば
図2(b)、(c)の切替装置20
1、20
2が挙げられる。この切替装置20
1、20
2は第一、第二のキャパシタンス素子C
1、C
2と第一のインダクタンス素子L
1とを有しており、第一のインダクタンス素子L
1と第二のキャパシタンス素子C
2とは並列接続されて高インピーダンス回路であるLC並列接続回路21
1を構成している。
【0048】
そして
図2(b)の切替装置20
1では、LC並列接続回路21
1の一端が接地側端子26に接続され、他端が第一のキャパシタンス素子C
1によって電極側端子25に接続され、
図2(c)の切替装置20
2では、LC並列接続回路21
1の一端が電極側端子25に接続され、他端が第一のキャパシタンス素子C
1によって接地側端子26に接続されており、
図2(b)、(c)の切替装置20
1,20
2では、第一のキャパシタンス素子C
1と第一のインダクタンス素子L
1とは直列接続されて低インピーダンス回路であるLC直列接続回路22が構成されている。
【0049】
第一のキャパシタンス素子C1と第二のキャパシタンス素子C2とは、入力される制御信号によってキャパシタンスの値が変更される電子装置であり、例えば可変コンデンサと制御回路とから成り、制御信号が制御回路に入力されると、可変コンデンサのキャパシタンス値は、制御回路により、入力された制御信号の内容に応じた値に変更される例が挙げられる。
【0050】
第一のキャパシタンス素子C1の変更可能なキャパシタンス値には、スパッタリング電圧の周波数に於いてLC直列接続回路22を直列共振させる値が含まれており、スパッタリング電圧がスパッタ電源31から出力される前に、第一のキャパシタンス素子C1に制御信号が入力され、第一のキャパシタンス素子C1は、スパッタリング電圧の周波数に於いてLC直列接続回路22が共振状態になるキャパシタンス値に変更される。
【0051】
電極側端子25と接地側端子26とはLC直列接続回路22によって接続されているので、アノード電極15は共振状態となった低インピーダンスのLC直列接続回路22によって接地電位に接続される。
【0052】
なお、このとき、第二のキャパシタンス素子C2にも制御信号を入力して、第二のキャパシタンス素子C2を、スパッタリング電圧の周波数に於いてLC並列接続回路211が共振状態にならないキャパシタンス値に設定しておくことができる。
【0053】
LC直列接続回路22が共振状態にされた後、第一、第二のスパッタリングターゲット5a、5bのスパッタリングが開始され、プラズマがアノード電極15に引きつけられた状態で薄膜が成長する。
【0054】
第二のキャパシタンス素子C2の変更可能なキャパシタンス値には、スパッタリング電圧の周波数に於いてLC並列接続回路211を並列共振させるキャパシタンス値が含まれている。
【0055】
薄膜が所定膜厚に成長すると第一のキャパシタンス素子C1に制御信号が入力され、第一のキャパシタンス素子C1は、LC直列接続回路22の共振状態を解除される値のキャパシタンス値に変更されると共に、第二のキャパシタンス素子C2にも制御信号が入力され、第二のキャパシタンス素子C2はLC並列接続回路211が並列共振状態になるキャパシタンス値に設定され、アノード電極15は、共振状態になった高インピーダンスのLC並列接続回路211によって接地電位に接続される。そのため、プラズマが基板10側に移動し、基板10に正イオンが入射する状態で薄膜が成長する。
【0056】
なお、第二のキャパシタンス素子C2には、キャパシタンス値が可変ではなく、スパッタリング電圧の周波数に於いてLC並列接続回路211を並列共振させるキャパシタンス値を有するコンデンサを用いれば、アノード電極15はLC直列接続回路22が直列共振状態のときはLC直列接続回路22の低インピーダンスで接地電位に接続され、LC直列接続回路22が直列共振を解除されると、並列共振状態のLC並列接続回路211の高インピーダンス値で接地電位に接続される。
【0057】
また、
図2(b)、(c)の切替装置20
1,20
2では、少なくとも第一のキャパシタンス素子C
1のキャパシタンス値を変更したが、第一、第二のキャパシタンス素子C
1、C
2にキャパシタンス値固定のコンデンサを用い、第一のインダクタンス素子L
1に、インダクタンス値可変の電子装置を用い、第一のインダクタンス素子L
1のインダクタンス値を変更することで、LC直列接続回路22とLC並列接続回路21
1とを別々に共振状態にさせてもよい。
【0058】
この場合、LC直列接続回路22が共振状態になる第一のインダクタンス素子L1のインダクタンス値と、LC並列接続回路211が共振状態になる第一のインダクタンス素子L1のインダクタンス値とは異なる値になるキャパシタンス値の第一、第二のキャパシタンス素子C1、C2を用いれば良い。
【0059】
次に、
図2(d)、(e)の切替装置20
3,20
4は第一のキャパシタンス素子C
1と第一、第二のインダクタンス素子L
1、L
2とを有しており、第一のキャパシタンス素子C
1と第二のインダクタンス素子L
2とは並列接続されてLC並列接続回路21
2を構成している。
【0060】
図2(d)では、LC並列接続回路21
2の一端が接地側端子26に接続され、他端が第一のインダクタンス素子L
1によって電極側端子25に接続され、
図2(e)では、LC並列接続回路21
2の一端が電極側端子25に接続され、他端が第一のインダクタンス素子L
1によって接地側端子26に接続されている。
図2(d)、(e)の切替装置20
3,20
4では、第一のキャパシタンス素子C
1と第一のインダクタンス素子L
1とは直列接続されてLC直列接続回路22が構成されている。
【0061】
スパッタリング電圧がスパッタ電源31から出力される前に、第一のキャパシタンス素子C1に制御信号が入力され、第一のキャパシタンス素子C1は、スパッタリング電圧の周波数に於いて、LC直列接続回路22が共振状態になるキャパシタンス値に設定され、アノード電極15は共振状態となった低インピーダンスのLC直列接続回路22によって接地電位に接続される。
【0062】
LC直列接続回路22が共振状態にされて第一、第二のターゲット5a、5bのスパッタリングが開始され、所定膜厚に薄膜が形成された後、第一のキャパシタンス素子C1に制御信号が入力され、第一のキャパシタンス素子C1は、スパッタリング電圧の周波数に於いて、LC直列接続回路22の直列共振状態が解除されると共に、LC並列接続回路212が並列共振状態にされる。
【0063】
並列共振状態のLC並列接続回路212のインピーダンス値は直列共振状態のLC直列接続回路22のインピーダンス値よりも大きいから、アノード電極は高インピーダンス値で接地電位に接続され、イオンアシスト効果がある雰囲気中で薄膜が成長される。
【0064】
図2(d)、(e)の切替装置20
3,20
4では、少なくとも第一のキャパシタンス素子C
1のキャパシタンス値を変更したが、第一のキャパシタンス素子C
1にキャパシタンス値固定のコンデンサを用い、少なくとも第一のインダクタンス素子L
1のインダクタンス値を制御して、LC直列接続回路22とLC並列接続回路21
2とを、スパッタリング電圧の周波数に於いて、異なるインダクタンス値で共振状態にさせることもできる。第一のインダクタンス素子L
1のインダクタンス値だけを制御する場合は、第一のキャパシタンス素子C
1と第二のインダクタンス素子L
2とに、LC並列接続回路21
2がスパッタリング電圧の周波数に於いて並列共振状態になるキャパシタンス値とインダクタンス値を有する素子を用いればよい。
【0065】
図3は、スパッタリングの際に第一、第二のターゲット5a、5bに印加した13.56MHzの交流電圧(0.5Pa、200W)と、基板ホルダに流れる電流値との関係を示すグラフであり、アノード電極15と接地電位との間のインピーダンス値は、符号Aを付したグラフを測定したときは、符号Bを付したグラフを測定したときのインピーダンス値の1/3にされている。
【0066】
アノード電極15と接地電位との間のインピーダンス値が小さいグラフAは、インピーダンス値が大きいグラフBよりも電流が少なくなっており、アノード電極15に多くの電流が流れていることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
2……スパッタリング装置
5a……第一のターゲット
5b……第二のターゲット
15……アノード電極
18……スパッタ空間
19……成膜空間
20……切替装置
211、212……LC並列接続回路
22……LC直列接続回路
31……スパッタ電源
34,35……開口
C1……第一のキャパシタンス素子
C2……第二のキャパシタンス素子
L1……第一のインダクタンス素子
L2……第二のインダクタンス素子