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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】蒸着装置及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20221024BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C23C14/24 U
C23C14/54 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019023631
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020132898
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-306763(JP,A)
【文献】特開2015-078391(JP,A)
【文献】特表2014-524975(JP,A)
【文献】特開2004-091858(JP,A)
【文献】特開2004-018903(JP,A)
【文献】特開2013-204101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
H01L 21/00-21/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容し、前記蒸着材料を加熱する加熱機構を備える蒸発源と
前記チャンバの内部圧力を計測するチャンバ内圧力センサと、
前記蒸着材料の蒸着対象物への蒸着速度を計測する蒸着速度センサと、
前記内部圧力を調整する圧力調整機構と、
前記内部圧力と前記蒸着速度に基づいて前記圧力調整機構および前記加熱機構を制御し、前記加熱機構による加熱温度が前記蒸着材料の劣化温度より低い場合は前記加熱温度によって前記蒸着速度を調整し、前記加熱温度が前記蒸着材料の劣化温度に到達すると前記内部圧力によって前記蒸着速度を調整する制御部と
を具備する蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着装置であって、
前記制御部は、前記蒸着速度が予め設定された設定値となるように前記圧力調整機構を制御する
蒸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸着装置であって、
前記制御部は、前記蒸着速度が前記設定値より小さい場合には前記内部圧力を減少させ、前記蒸着速度が前記設定値より大きい場合には前記内部圧力を増加させる
蒸着装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の蒸着装置であって、
前記圧力調整機構は、前記内部空間に接続された調圧バルブである
蒸着装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の蒸着装置であって、
前記圧力調整機構は、前記内部空間に不活性ガスを供給するガス源である
蒸着装置。
【請求項6】
請求項1に記載の蒸着装置であって、
前記蒸発源は、前記蒸着材料を収容する室内空間を形成する圧力室と、前記チャンバ内における前記圧力室の外部空間である室外空間に前記室内空間を連通させるノズルとを有し、
前記チャンバ内圧力センサは前記室外空間の圧力である室外圧力を計測し、
前記蒸着速度センサは前記室内空間の圧力である室内圧力を計測し、
前記制御部は、前記蒸着速度が予め設定された設定値より小さい場合、または前記チャンバ内における前記蒸着材料の流れを粘性流にする場合には前記内部圧力を減少させ、前記蒸着速度が前記設定値より大きい場合、または前記チャンバ内における前記蒸着材料の流れを分子流にする場合には、前記内部圧力を増加させる
蒸着装置。
【請求項7】
チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容し、前記蒸着材料を加熱する加熱機構を備える蒸発源を用い、前記チャンバの内部圧力と、前記蒸着材料の蒸着対象物への蒸着速度に基づいて前記内部圧力と前記加熱機構による加熱温度を調整し、前記加熱温度が前記蒸着材料の劣化温度より低い場合は前記加熱温度によって前記蒸着速度を調整し、前記加熱温度が前記蒸着材料の劣化温度に到達すると前記内部圧力によって前記蒸着速度を調整する
蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料を蒸発させ、蒸着対象物に付着させる蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着材料を蒸発させ、蒸着対象物に付着させる蒸着装置は、有機EL(electro-luminescence)ディスプレイやイメージセンサ等の各種製品の製造に利用されている。蒸着装置は、チャンバ内に配置された蒸発源を備え、ディスプレイのパネル等の蒸着対象物が蒸発源に対向して配置される。
【0003】
蒸発源は、固体又は液体である蒸着材料を収容可能であり、加熱機構を備える。加熱機構によって蒸着材料を加熱し、発生した蒸気を蒸着対象物に供給する。蒸発源からの蒸着材料の単位時間当たりの放出量、即ち蒸着速度は蒸着材料の加熱温度によって調整することが可能である。
【0004】
例えば、特許文献1には、加熱温度によって蒸着速度を調整する蒸着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-176126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のように、加熱温度によって蒸着速度を調整する場合、蒸着速度の調整が困難となる場合がある。蒸着材料の種類によっては蒸発温度と劣化温度が近接しているものもあり、加熱温度を変更すると蒸着材料が蒸発せず、あるいは劣化するおそれがある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、蒸着材材料の劣化を防止しながら蒸着速度の制御が可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着装置は、チャンバと、蒸発源と、チャンバ内圧力センサと、蒸着速度センサと、圧力調整機構と、制御部とを具備する。
上記蒸発源は、上記チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容し、上記蒸着材料を加熱する加熱機構を備える。
上記チャンバ内圧力センサは、上記チャンバの内部圧力を計測する。
上記蒸着速度センサは、上記蒸着材料の蒸着対象物への蒸着速度を計測する。
上記圧力調整機構は、上記内部圧力を調整する。
上記制御部は、上記内部圧力と上記蒸着速度に基づいて上記圧力調整機構を制御する。
【0009】
この構成によれば、制御部がチャンバの内部圧力と蒸着速度に基づいて圧力調整機構を制御し、チャンバの内部圧力を調整する。これにより、蒸着材料の加熱温度を変更することなく蒸着速度を制御することが可能であり、熱による蒸着材料の劣化を防止することができる。さらに、蒸着速度によって蒸着対象物に向かう蒸着材料の分布を制御することも可能となる。
【0010】
上記制御部は、上記蒸着速度が予め設定された設定値となるように上記圧力調整機構を制御してもよい。
【0011】
上記制御部は、上記蒸着速度が上記設定値より小さい場合には上記内部圧力を減少させ、上記蒸着速度が上記設定値より大きい場合には上記内部圧力を増加させてもよい。
【0012】
上記圧力調整機構は、上記内部空間に接続された調圧バルブであってもよい。
【0013】
上記圧力調整機構は、上記内部空間に不活性ガスを供給するガス源であってもよい。
【0014】
上記制御部は、さらに、上記内部圧力と上記蒸着速度に基づいて上記加熱機構を制御してもよい。
【0015】
上記蒸発源は、上記蒸着材料を収容する室内空間を形成する圧力室と、上記チャンバ内における上記圧力室の外部空間である室外空間に上記室内空間を連通させるノズルとを有し、
上記チャンバ内圧力センサは上記室外空間の圧力である室外圧力を計測し、
上記蒸着速度センサは上記室内空間の圧力である室内圧力を計測し、
上記制御部は、上記室外圧力と上記室内圧力から上記蒸着速度を算出してもよい。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着方法は、チャンバ内に配置され、蒸着材料を収容し、上記蒸着材料を加熱する加熱機構を備える蒸発源を用い、上記チャンバの内部圧力と、上記蒸着材料の蒸着対象物への蒸着速度に基づいて上記内部圧力を調整する。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば蒸着材材料の劣化を防止しながら蒸着速度の制御が可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る蒸着装置の模式図である。
図2】同蒸着装置の一部構成の斜視図である。
図3】同蒸着装置が備える蒸発源の模式図である。
図4】同蒸着装置が備える蒸着源における蒸着材料の経路を示す模式図である。
図5】同蒸着装置の動作を示す模式図である。
図6】同蒸着装置の動作を示す模式図である。
図7】同蒸着装置における蒸着材料の指向性を示す模式図である。
図8】同蒸着装置が備える蒸発源の他の構成を示す模式図である。
図9】同蒸着装置が備える蒸発源の他の構成を示す模式図である。
図10】同蒸着装置が備える蒸発源の他の構成を示す模式図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る蒸着装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
本技術の第1の実施形態に係る蒸着装置について説明する。
【0020】
[蒸着装置の構成]
図1は、本実施形態に係る蒸着装置100の構成を示す模式図であり、図2は、蒸着装置100の一部構成の斜視図である。以下の図において相互に直交する三方向をそれぞれX方向、Y方向及びZ方向とする。X方向及びY方向は例えば水平方向、Z方向は例えば鉛直方向である。
【0021】
これらの図に示すように、蒸着装置100は、チャンバ101、支持機構102、蒸発源103、温度調整器104、蒸着速度センサ105、チャンバ内圧力センサ106、圧力調整機構107及び制御部108を備える。
【0022】
チャンバ101は、図示しない真空ポンプに接続され、内部を所定の圧力に維持する。支持機構102及び蒸発源103はチャンバ101内に収容されている。
【0023】
支持機構102は、チャンバ101内に配置され、蒸着対象物Sを支持する。支持機構102は、図2に示すように蒸着対象物Sを蒸発源103に対向する位置と対向しない位置の間でX方向において移動させることが可能に構成されている。蒸着対象物Sは例えばディスプレイのパネルである。
【0024】
蒸着対象物Sの表面には、マスクMが設けられている。マスクMには所定のパターンで開口が設けられ、蒸着対象物Sの表面に蒸着材料のパターンを形成する。なお、蒸着対象物Sの全面に蒸着を行う場合にはマスクMは設けられなくてもよい。
【0025】
蒸発源103は、チャンバ101内に配置され、蒸着対象物Sに蒸着材料を供給する。
【0026】
図3は、蒸発源103の構造を示す断面図であり、図4は蒸発源103における蒸着材料の流れを矢印で示す模式図である。図3に示すように、蒸発源103は、圧力室111、加熱機構112及びノズル113を備える。
【0027】
圧力室111は、蒸着材料Rを収容する。蒸着材料Rは、金属や有機物等であり特に限定されない。以下、圧力室111の内部空間を室内空間K1とし、圧力室111の外部空間であってチャンバ101内の空間を室外空間K2とする。
【0028】
室内空間K1には、第1分散板114、第2分散板115及びメッシュ板116が設けられている。これらの部材は、蒸発した蒸着材料Rの流れを分散させ、各ノズル113から蒸着材料Rを均等に放出させるためのものである。
【0029】
第1分散板114には複数個所に開口114aが設けられ、第2分散板115には第1分散板114の開口114aとは対向しない位置に開口115aが設けられている。
【0030】
図4に示すように、開口114aを通過した蒸着材料Rは開口115aに向かって第1分散板114と第2分散板115の間を流れ、分散される。このような構造はトーナメント方式と呼ばれる。なお、蒸発源103は必ずしもトーナメント方式の構造を有するものでなくてもよい。
【0031】
加熱機構112は、圧力室111の周囲に設けられ、蒸着材料Rを加熱し、蒸発させる。加熱機構112は、抵抗加熱又は誘導加熱等によって発熱するものとすることができる。加熱機構112には温度調整器104が接続され、温度調整器104によって加熱機構112の加熱温度が調整される。
【0032】
ノズル113は、蒸発した蒸着材料Rを放出するノズルであり、室内空間K1を室外空間K2に連通させる。ノズル113は複数が設けられ、図2に示すように、複数のノズル113がY方向に沿って配列するものとすることができる。なお、ノズル113の数は特に限定されず、1つであってもよい。
【0033】
蒸着装置100は、1つの蒸発源103を備えるものであってもよく、複数の蒸発源103を備えるものであってもよい。複数の蒸発源103を備える場合、互いに異なる蒸着材料Rを蒸着対象物Sに供給するものとすることができる。
【0034】
温度調整器104は、加熱機構112に接続され、予め設定された温度となるように加熱機構112の温度を調整する。温度調整器104は例えば、加熱機構112に供給する電力を増減させることにより、加熱機構112の温度を調整することができる。
【0035】
蒸着速度センサ105は、蒸着速度を計測する。蒸着速度センサ105は、水晶振動子を所定の周波数で発振させ、蒸着材料の付着による周波数変動に基づいて蒸着速度を計測する水晶振動子センサとすることができる。
【0036】
この他にも蒸着速度センサ105は、蒸着速度の計測が可能なものであればよい。蒸着速度センサ105は、計測した蒸着速度を制御部108に出力する。
【0037】
チャンバ内圧力センサ106は、室外空間K2内の気体の圧力(以下、チャンバ内圧力Pc)を測定するセンサである。チャンバ内圧力センサ106は、イオンゲージとすることができる。また、チャンバ内圧力センサ106は他の圧力センサを用いてもよいが、長寿命とするために蒸着材料Rの付着を防止できるものが好適であり、例えば蒸着防止加工を施した圧力計とすることも可能である。
【0038】
チャンバ内圧力センサ106の配置は、チャンバ内圧力を測定できる位置であれば限定されない。チャンバ内圧力センサ106は図1に示すように制御部108に接続され、測定したチャンバ内圧力Pcを制御部108に出力する。
【0039】
圧力調整機構107は、チャンバ内圧力Pcを調整する。圧力調整機構107は、チャンバ101と真空ポンプの間に接続された調圧バルブとすることができる。また、圧力調整機構107は、チャンバ101内に不活性ガスを供給することが可能なガス源であってもよい。さらに、圧力調整機構107は調圧バルブとガス源の両方を備えるものであってもよい。この他にも圧力調整機構107はチャンバ内圧力Pcを調整可能な構成であればよい。
【0040】
制御部108は、チャンバ内圧力センサ106から出力されるチャンバ内圧力Pcと、蒸着速度センサ105から出力される蒸着速度に基づいて圧力調整機構107を制御し、チャンバ内圧力Pcを制御する。制御部108は例えば、PLC(programmable logic controller)とすることができる。制御部108の動作については後述する。
【0041】
[蒸着装置の動作について]
蒸着装置100の動作について説明する。図5乃至図6は蒸着装置100の動作を示す模式図である。
【0042】
図5に示すように、蒸発源103において加熱機構112(図3参照)により蒸着材料Rを加熱し、蒸着材料Rをノズル113から放出させる。加熱機構112は、温度調整器104によって所定の温度に加熱されている。
【0043】
蒸着開始前には図5に示すように蒸着対象物Sは蒸発源103から離間した待機位置に位置している。蒸着材料Rが所定の温度に到達すると、支持機構102を駆動し、図6に示すように蒸着対象物Sを蒸発源103に対向する位置に移動させる。
【0044】
蒸着材料Rはノズル113から蒸着対象物Sに向かって飛散し、蒸着対象物Sに付着する。また、一部はマスクMによって遮蔽され、パターニングされる。
【0045】
蒸着対象物Sが終端位置(図中、左端)に到達すると、支持機構102は蒸着対象物Sを図5に示す待機位置に戻す。
【0046】
蒸着材料Rは、蒸着対象物Sの待機位置から終端位置への往路と終端位置から待機位置への復路の両方で蒸着対象物Sに蒸着される。これにより、蒸着対象物Sの表面に蒸着材料Rからなる膜が成膜される。
【0047】
なお、蒸着対象物Sをチャンバ101に対して固定し、蒸発源103を蒸着対象物Sに対して移動させながら蒸着を行ってもよく、蒸着対象物Sと蒸発源103の相対位置を固体して蒸着を行ってもよい。
【0048】
[制御部による制御について]
上述のように蒸着材料Rが所定の温度に到達すると制御部108による圧力調整機構107の制御が実施される。
【0049】
具体的には、制御部108が蒸着速度センサ105から蒸着速度を取得し、チャンバ内圧力センサ106からチャンバ内圧力Pcを取得する。
【0050】
制御部108は、蒸着速度が予め設定された値より小さい場合、圧力調整機構107をチャンバ内圧力Pcが減少するように制御する。これにより、蒸着材料Rが室内空間K1から室外空間K2に流れ易くなり、蒸着速度が上昇する。
【0051】
また、制御部108は、蒸着速度が予め設定された値より大きい場合、圧力調整機構107をチャンバ内圧力Pcが増加するように制御する。これにより、蒸着材料Rが室内空間K1から室外空間K2に流れ難くなり、蒸着速度が低下する。
【0052】
このように、制御部108は、圧力調整機構107によってチャンバ内圧力Pcを調整することにより、蒸着速度を制御することが可能である。なお、蒸着速度の設定値は、その蒸着材料について予め蒸着試験を行うことによって求めることが可能である。
【0053】
さらに、制御部108はチャンバ内圧力Pcを調整することによって、蒸着材料Rの指向性を制御することが可能である。図7は、蒸着材料Rの指向性を示す模式図である。
【0054】
チャンバ内圧力Pcが大きく、蒸着速度が小さいと、蒸着材料Rの流れは分子流となり、図7(a)に示すようにシャープな分布となって流れる。このため、蒸着材料Rの飛散経路はノズル113の形状による幾何学的な制限を大きく受ける。
【0055】
一方、チャンバ内圧力Pcが小さく、蒸着速度が大きいと、蒸着速度Rの流れは粘性流となり、図7(b)に示すようにブロードな分布となって流れる。このため、蒸着材料Rの飛散経路はノズル113の形状による幾何学的な制限を受け難くなる。
【0056】
このように制御部108は、チャンバ内圧力Pcによって蒸着速度Rの指向性を制御することも可能である。
【0057】
[蒸着装置による効果について]
蒸着装置100では上述のように、蒸着速度及びチャンバ内圧力Pcに基づいてチャンバ内圧力Pcを調整し、蒸着速度を調整する。加熱機構112の温度によって蒸着速度を調整する必要がないため、加熱機構112は蒸着材料Rの蒸発に適した温度に維持するこことが可能であり、蒸着材料Rの劣化を防止することができる。
【0058】
さらに、蒸着装置100では、上述のようにチャンバ内圧力Pcを調整することによって、蒸着材料Rの指向性を調整することができる。蒸着では、蒸着材料Rの種類やマスクMのパターン等に応じて適切な蒸着材料Rの指向性が異なる場合があるが、蒸着装置100では必要に応じて指向性の調整が可能である。
【0059】
[変形例]
上記説明において蒸着装置100は、水晶振動子センサ等である蒸着速度センサ105を備えるものとしたが、蒸着速度センサ105は、室内空間K1(図3参照)の圧力(以下、室内圧力)を計測する圧力センサであってもよい。制御部108は、室外空間K2の圧力であるチャンバ内圧力Pcと室内圧力の圧力差から、蒸着速度を算出することが可能である。
【0060】
また、蒸発源103の構造は上述のものに限られない。図8乃至図10は他の構造を有する蒸発源103の模式図である。
【0061】
図8に示すように、圧力室111には蒸着材料Rを収容するポット部121が設けられてもよい。加熱機構112はポット部121の周囲に設けられ、蒸着材料Rを加熱する。また、図9に示すように、圧力室111には分散板が設けられなくてもよい。
【0062】
さらに、図10に示すように、蒸発源103は圧力室111に代えて槽117を有するものであってもよい。槽117は蒸着材料Rを収容し、蒸着対象物S側が開放された構造を有する。この構造であってもチャンバ内圧力Pcを増減させることによって蒸着速度の調整が可能である。
【0063】
(第2の実施形態)
本技術の第2の実施形態に係る蒸着装置について説明する。
【0064】
[蒸着装置の構成]
図11は、本実施形態に係る蒸着装置200の構成を示す模式図である。なお、蒸着装置200の構成において、第1の実施形態に係る蒸着装置100と同一の構成については蒸着装置100と同一の符号を付し、説明を省略する。
【0065】
図11に示すように、蒸着装置200は、チャンバ101、支持機構102、蒸発源103、温度調整器204、蒸着速度センサ105、チャンバ内圧力センサ106、圧力調整機構107及び制御部208を備える。温度調整器204及び制御部208以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0066】
温度調整器204は、加熱機構112の加熱温度を調整する。ここで、本実施形態に係る温度調整器204は、制御部208に接続され、加熱温度が制御部208によって指示された温度となるように加熱機構112を制御する。
【0067】
制御部208は、チャンバ内圧力センサ106から出力されるチャンバ内圧力Pcと、蒸着速度センサ105から出力される蒸着速度に基づいて圧力調整機構107を制御部し、チャンバ内圧力Pcを制御する。
【0068】
さらに制御部208は、蒸着速度センサ105から出力される蒸着速度に応じて温度調整器204を制御し、加熱機構112の加熱温度を調整する。
【0069】
[制御部による制御について]
蒸着装置200においても、第1の実施形態と同様に蒸着材料Rが所定温度まで加熱され、蒸着が行われる。蒸着材料Rが所定の温度に到達すると制御部208による温度調整器204及び圧力調整機構107の制御が実施される。
【0070】
具体的には、制御部108が蒸着速度センサ105から蒸着速度を取得し、チャンバ内圧力センサ106からチャンバ内圧力Pcを取得する。
【0071】
制御部108は、蒸着速度が予め設定された値より小さい場合、圧力調整機構107をチャンバ内圧力Pcが減少するように制御する。これにより、蒸着材料Rが室内空間K1から室外空間K2に流れ易くなり、蒸着速度が上昇する。
【0072】
さらに制御部208は、温度調整器204に加熱機構112の加熱温度を上昇させるように指示する。これにより、蒸着材料Rの加熱温度が上昇し、蒸着速度が上昇する。
【0073】
また、制御部208は、蒸着速度が予め設定された値より大きい場合、圧力調整機構107をチャンバ内圧力Pcが増加するように制御する。これにより、蒸着材料Rが室内空間K1から室外空間K2に流れ難くなり、蒸着速度が低下する。
【0074】
さらに制御部208は、温度調整器204に加熱機構112の加熱温度を低下させるように指示する。これにより、蒸着材料Rの加熱温度が低下し、蒸着速度が低下する。
【0075】
このように、制御部208は、圧力調整機構107によってチャンバ内圧力Pcを調整し、かつ温度調整器204によって蒸着材料Rの加熱温度を調整することにより、蒸着速度を制御することが可能である。なお、蒸着速度の設定値は、その蒸着材料について予め蒸着試験を行うことによって求めることが可能である。
【0076】
[蒸着装置による効果について]
蒸着装置200では、圧力調整機構107によるチャンバ内圧力Pcの調整に加え、温度調整器204による加熱温度の調整によって、蒸着速度を制御することができる。このため制御部208は、蒸着材料Rの劣化温度より低い温度では加熱機構112による加熱温度によって蒸着速度を調整し、加熱温度が同劣化温度に到達するとチャンバ内圧力Pcによって蒸着速度を調整するような制御が可能である。
【0077】
[変形例]
本実施形態においても、蒸発源203の構造は上述のものに限られず、図8乃至図10に示したような蒸発源203とすることができる。また、蒸着速度センサ105は、室内空間K1(図3参照)の圧力(室内圧力)を計測する圧力センサであってもよい。制御部208は、室外空間K2の圧力であるチャンバ内圧力Pcと室内圧力の圧力差から、蒸着速度を算出することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
100、200…蒸着装置
101…チャンバ
102…支持機構
103…蒸発源
104、204…温度調整器
105…蒸着速度センサ
106…チャンバ内圧力センサ
107…圧力調整機構
108、208…制御部
111…圧力室
112…加熱機構
113…ノズル
114…第1分散板
115…第2分散板
116…メッシュ板
121…ポット部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11