IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ファイバシート 図1
  • 特許-ファイバシート 図2
  • 特許-ファイバシート 図3
  • 特許-ファイバシート 図4
  • 特許-ファイバシート 図5
  • 特許-ファイバシート 図6
  • 特許-ファイバシート 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-21
(45)【発行日】2022-10-31
(54)【発明の名称】ファイバシート
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/728 20120101AFI20221024BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20221024BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20221024BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20221024BHJP
   D01F 2/28 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
D04H1/728
D04H1/425
D04H1/4382
D01D5/04
D01F2/28 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020505723
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006504
(87)【国際公開番号】W WO2019176490
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2018046734
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018229385
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001988
【氏名又は名称】特許業務法人小林国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】金村 一秀
(72)【発明者】
【氏名】竹上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】神長 邦行
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/073958(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003357(WO,A1)
【文献】特開2015-199062(JP,A)
【文献】特開2013-139652(JP,A)
【文献】特開2011-162588(JP,A)
【文献】特開2013-109116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01D 1/00-13/02
D01F 2/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバで形成されており、空孔があるファイバシートにおいて、
前記空孔の平均孔径が6.1μm以上20μm以下の範囲内であり、
前記平均孔径をDAとするときに、前記空孔のうち、DA×0.80以上DA×1.20以下の範囲内の孔径をもつ前記空孔の割合が少なくとも90%であり、
前記ファイバは、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレートで形成されるファイバシート。
【請求項2】
前記ファイバと前記ファイバシートのシート面とのなす角をθとし、0°≦θ≦90°とするときに、θが20°以下である請求項1に記載のファイバシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバシート及びファイバシート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバで形成されているファイバシートが知られている。ファイバとしては、例えば数nm以上1000nm未満のナノオーダの径を有するいわゆるナノファイバ、及び、数μm以上1000μm未満のマイクロメートルオーダの径を有するいわゆるミクロンファイバがある。
【0003】
ファイバシートとして、例えば特許文献1には、熱可塑性樹脂(熱可塑性ポリマー)からなる複数のナノファイバと、ナノファイバ同士の接着により生じた塊部とを有し、所定の条件を満たす塊部が、単位面積当たり所定量以上含まれているナノファイバシートが記載されている。このナノファイバシートは、ナノファイバ間に、直径が5μm以下の空孔が形成されている。
【0004】
こうしたファイバシートは、種々の分野における用途開発が盛んに行われている。期待される用途には例えばフィルタがあり、フィルタとしては、固体と気体とを分離する固気分離フィルタ、及び、固体と液体とを分離する固液分離フィルタ、などが挙げられる。
【0005】
ところで、ナノファイバなどのファイバ、及び、ファイバシートを製造する方法として、電界紡糸法が知られている。電界紡糸法は、特許文献1に記載されるように、エレクトロスピニング法とも呼ばれ、例えばノズルとコレクタと電源とを有する電界紡糸装置(エレクトロスピニング装置とも呼ばれる)を用いて行われる。この電界紡糸装置では、電源によりノズルとコレクタとの間に電圧を印加し、例えば、ノズルをマイナス、コレクタをプラスに帯電させる。
【0006】
電圧を印加した状態でノズルから原料である溶液を出した場合には、ノズルの先端の開口にテイラーコーンと呼ばれる溶液で構成される円錐状の突起が形成される。印加電圧を徐々に増加し、クーロン力が溶液の表面張力を上回ると、テイラーコーンの先端から溶液が飛び出し、紡糸ジェットが形成される。紡糸ジェットはクーロン力によってコレクタまで移動し、コレクタ上でファイバとして捕集され、コレクタ上にはファイバで構成されたファイバシートが形成される。このように得られたファイバシートを加熱処理に供することもあり、特許文献1でも加熱処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-199828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フィルタには、分離性能であるろ過精度が要求されるが、特許文献1に記載されるファイバシートは、ろ過に用いた場合にはろ過精度が不十分である。また、フィルタには、耐久性も要求されるが、特許文献1に記載されるファイバシートは、ろ過に用いた場合にはファイバ片が脱離する場合がある。
【0009】
そこで本発明は、ろ過精度に優れ、ファイバ片の脱離が抑制されたファイバシートと、そのファイバシートを製造するファイバシート製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のファイバシートは、ファイバで形成されており、空孔がある。空孔の平均孔径は6.1μm以上20μm以下の範囲内である。平均孔径をDAとするときに、空孔のうち、DA×0.80以上DA×1.20以下の範囲内の孔径をもつ空孔の割合が少なくとも90%であり、ファイバは、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレートで形成される。
【0011】
ファイバとファイバシートのシート面とのなす角をθとし、0°≦θ≦90°とするときに、θが20°以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、ろ過精度に優れ、ファイバ片の脱離が抑制されたファイバシートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態であるファイバシートの概略斜視図である。
図2】なす角θの説明図である。
図3】シート材形成設備の概略図である。
図4】シート材形成装置の概略図である。
図5】温度調整装置の概略図である。
図6】実施例1で得られたファイバシートのSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)画像である。
図7】比較例2で得られたファイバシートのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示す本実施形態のファイバシート10は、ファイバ11で形成されている。ただし、ファイバシートは、ファイバ11を含んでいればよく、ファイバ11に加えて、素材が異なる他のファイバを備えてもよい。図1では、XY平面をファイバシート10のフィルム面とし、Zをファイバシート10の厚み方向としている。
【0019】
ファイバ11の径は、本実施形態では概ね1.8μmであるが、特に限定されない。ファイバシート10を、固気分離用または固液分離用のフィルタとして用いる場合には、ファイバ11の径は0.1μm以上5μm以下の範囲内が好ましい。ファイバ片の脱離がより抑制されるからである。ファイバ片の脱離の抑制とは、ファイバシート10からのファイバ片の脱離が抑制されることを意味し、ファイバ片の脱離が抑制されていることは優れた耐久性につながる。なお、図1には、図の煩雑化を避けるために、ファイバシート10の厚み方向Zにおいて一方のシート面側の一部のみを描いてある。したがって、ファイバシート10は、ファイバ11が厚み方向Zにさらに多数重なった構造となっている。
【0020】
ファイバシート10の厚みは、5μm以上5000μm以下の範囲内であることが好ましく、10μm以上3000μm以下の範囲内であることがより好ましく、20μm以上1000μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、本例では、50μmとしている。
【0021】
ファイバシート10には空孔12が複数ある。空孔12は、ファイバ11によって画定された空間領域としての空隙のうち、ファイバシート10の厚み方向Zに貫通している状態に形成されているものである。したがって、空隙の中には、厚み方向Zに貫通した空孔12を形成せずに、厚み方向Zで非貫通、例えばファイバ11によって閉じられた空間領域として存在しているものもある。
【0022】
ここで、複数の空孔12の平均孔径をDA(単位はμm)とする。平均孔径DAは、2μm以上20μm以下の範囲内である。平均孔径DAが2μm以上であることにより、2μm未満である場合に比べて、ファイバシート10を例えばろ過用のフィルタとして用いた場合に、単位時間当たりの処理量が多くなる。単位時間の処理量が多いとは、すなわちろ過効率がよいということである。平均孔径DAが20μm以下であることにより、20μmよりも大きい場合に比べて、例えばろ過用のフィルタとして用いた場合に、ファイバ片の脱離が抑制される。平均孔径DAは、3μm以上15μm以下の範囲内がより好ましく、4μm以上10μm以下の範囲内がさらに好ましい。
【0023】
平均孔径DAは、以下の方法で求めることができる。まず、ファイバシート10から5cm角(5cm×5cm)に切り出し、サンプルとする。このサンプルを、表面張力が15.3mN/mのGALWICK(POROUS MATERIAL社製)に浸漬した後、パームポロメーター(POROUS MATERIAL社製)を用いて、バブルポイント法で測定することにより平均孔径DAは得られる。
【0024】
複数の空孔12のうち、DA×0.80以上DA×1.20以下の範囲内の孔径をもつ空孔12の割合(以下、所定空孔割合と称する)が少なくとも90%、すなわち90%以上である。このように、空孔12の孔径の分布が非常に小さいから、ろ過用のフィルタとして用いた場合には、優れたろ過精度で分離する。所定空孔割合(単位は%)は、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、このように100%に近いほど好ましい。
【0025】
所定空孔割合は、パームポロメーター(POROUS MATERIAL社製)から得られた孔径分布に対して、DA×0.80以上DA×1.20以下である空孔12の和(量)から算出した。具体的には、パームポロメーターが出力した孔径分布(孔径とその孔径をもつ空孔の存在量との相関関係データ)を用い、DA×0.80以上DA×1.20以下の範囲内の孔径をもつ空孔量の、全ての空孔量に対する割合を、所定空孔割合として求めた。
【0026】
ファイバ11同士は、厚み方向Zで重なる部分、及び/または、ファイバシート10のシート面方向(XY平面内)において接している部分で、接着していることが好ましく、本例でもそのようにしている。このようにファイバ11同士は固定されている。この固定により、ファイバシート10は、ファイバ片の脱離がより抑制される。
【0027】
ファイバ11は、ポリマーで形成されており、さらに具体的には熱可塑性樹脂(ポリマー)で形成されている。本例の熱可塑性樹脂はセルロース系ポリマー15(図3参照)である。セルロース系ポリマー15はセルロースアシレートであることが好ましい。セルロースアシレートは、セルロースのヒドロキシ基を構成する水素原子の一部または全部がアシル基で置換されているセルロースエステルである。
【0028】
セルロースアシレートは、セルロースアセテートプロピオネート(以下、CAPと称する、融点Tmは188℃以上210℃以下、ガラス転移点Tgは147℃)と、セルロースアセテートブチレート(以下、CABと称する、融点Tmは195℃以上205℃以下、ガラス転移点Tgは141℃)と、セルローストリアセテート(以下、TACと称する、融点Tmは290℃、ガラス転移点Tgは200℃)とのいずれかひとつであることが好ましい。これにより、例えば100℃以上140℃以下の高温条件下においても、ろ過精度が高く、耐久性の高いフィルタとして用いることができる。
【0029】
図2において、ファイバ11a,11b,11c,・・・は一方のシート面(以下、第1シート面と称する)10Aに沿った方向に延びている。沿った方向とは、第1シート面10Aに平行な面内成分をもって延びていればよく、その面内で曲がっていてもよい。なお、他方のシート面(図示無し、以下第2シート面と称する)と第1シート面10Aとは平行と見なしてよい。したがって、ファイバ11a,11b,11c,・・・は第2シート面に沿った方向にも延びている。なお、ファイバ11a,11b,11c,・・・を区別しない場合には、ファイバ11と記載する。
【0030】
ファイバ11と第1シート面10Aとのなす角をθ(単位は°)とする。ただし、なす角θは0°以上90°以下の範囲内で定義し、すなわち0°≦θ≦90°とする。なす角θは、20°以下であることが好ましく、このように、第1シート面10Aに沿った方向に延びている。なお、図2においては、図の煩雑化を避けるためになす角θは、ファイバ11bにおいてのみ示しているが、他のファイバ11b,11c,・・・についても同様である。なす角θは、15°以下であることがより好ましく、10°以下であることがさらに好ましい。
【0031】
なす角θは、SEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)画像を用いて求めることができ、本例でもその方法で求めている。まずファイバシート10を厚み方向で切断し、SEMでの画像を観察する。画像を観察した場合には、1本のファイバ11のうちの長手方向の一部分が線分状に観察される。その線分状のファイバ部分を、任意に20本選び、それら各々のなす角θ1,θ2,θ3,・・・,θ20(単位は°)を測定する。測定したこれら20個のなす角の平均値を、(θ1+θ2+θ3+・・・+θ20)/20の算出式で求め、これをなす角θとする。なお、画像から選び出す20本は、観察されるファイバ部分の中のうち、できるだけなす角θが大きいものを選ぶことが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、ろ過精度に優れ、ファイバ片の脱離が抑制されているので、固体と液体との混合物(固体液体混合物)から目的とする物質を分離または除去するためのフィルタとして好適に利用することができる。そのようなフィルタの中でも、特に好ましく用いることができるフィルタは、ファイバ片の混入(コンタミネーション)が懸念され、高精度な分離性能が要求される、食品(飲料を含む)用、医療用、超純水用、及び高純度薬液用のフィルタである。具体的には、飲料から微粒子及び/または微生物を除去する除去用フィルタ、工業用純水の前処理ろ過フィルタ、血液や唾液などの体液から特定の細胞を捕集する検査用フィルタなどが挙げられる。検査用フィルタとしては、例えば、血糖値検査、尿糖検査、生活習慣病検査、遺伝子検査、腫瘍マーカー検査、及び、血液検査などの検査用フィルタなどがある。
【0033】
ファイバシート10は、シート材形成工程と、ファイバシート形成工程とを有する製造方法により製造される。シート材形成工程は、シート材16(図3参照)を形成する。シート材16は、ファイバシート10の前駆体である。ファイバシート形成工程は、シート材16からファイバシート10を形成する。
【0034】
図3に示すシート材形成設備20は、電界紡糸法を用いてシート材16を形成するためのものである。シート材形成設備20は、溶液調製部21とシート材形成装置22とを備える。なお、シート材形成装置22の詳細は別の図面に図示しており、図3においては、シート材形成装置22の一部のみを図示している。
【0035】
溶液調製部21は、ファイバ11を形成する溶液25を調製するためのものである。溶液調製部21は、セルロース系ポリマー15をセルロース系ポリマーの溶媒26に溶解することにより、溶液25を調製する。
【0036】
本実施形態では、溶媒26としてジクロロメタンとメタノールとの混合物を用いている。セルロース系ポリマー15としてセルロースアシレートを用いる場合には、溶媒26としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1-メトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。これらは、セルロースアシレートの種類に応じて、単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。
【0037】
この例において、シート材形成設備20は、溶液調製部21とシート材形成装置22とを接続する配管33a~33cを備え、シート材形成装置22は、互いに離間した状態に配されたノズル36a~36cを有する。配管33a~33cは、溶液25を案内するためのものである。配管33aは溶液調製部21とノズル36aとを接続し、配管33bは溶液調製部21とノズル36bとを接続し、配管33cは溶液調製部21とノズル36cとを接続する。これにより、ノズル36a~36cのそれぞれから溶液25が出される。ノズル36a~36cから出た溶液25は、それぞれファイバ11を形成する。なお、以降の説明において、配管33aと配管33bと配管33cとを区別しない場合には、配管33と記載する。また、ノズル36aとノズル36bとノズル36cとを区別しない場合には、ノズル36と記載する。
【0038】
なおこの例では、ファイバ11の集積及びシート材16の支持に長尺の支持体37を用いており、この支持体37を長手方向に移動させている。支持体37の詳細については別の図面を用いて後述するが、図3における横方向は支持体37の幅方向であり、図3の紙面奥行方向が支持体37の移動方向である。ノズル36a~36cはこの順で、支持体37の幅方向に並べて配してある。この例では、ノズル36を3本としているが、ノズル36の本数はこれに限られない。なお、配管33a~33cのそれぞれには溶液25をノズル36へ送るポンプ38が設けられている。ポンプ38の回転数を変えることにより、ノズル36a~36cから出る溶液25の各流量が調節される。
【0039】
ノズル36a~36cは保持部材41により保持されている。この保持部材41とノズル36とにより、シート材形成装置22のノズルユニット42が構成されている。
【0040】
シート材形成装置22について、図4を参照しながら説明する。図4には、図3のノズル36a側から見た場合を図示しており、図の煩雑化を避けるために、ノズル36についてはノズル36aのみを図示している。シート材形成装置22は、紡糸室45と、前述のノズルユニット42と、集積部50と、電源51等を備える。紡糸室45は、例えば、ノズルユニット42と、集積部50の一部などを収容しており、密閉可能に構成されることにより溶媒ガスが外部に洩れることを防止している。溶媒ガスは、溶液25の溶媒26が気化したものである。
【0041】
ノズルユニット42は紡糸室45内の上部に配される。ノズル36の溶液25が出る先端は、図4におけるノズル36の下方に配したコレクタ52へ向けてある。溶液25がノズル36の先端に形成されている開口(以下、先端開口と称する)から出る際に、先端開口には溶液25によって概ね円錐状のテイラーコーン53が形成される。
【0042】
集積部50は、ノズル36の下方に配される。集積部50は、コレクタ52と、コレクタ回転部56と、支持体供給部57と、支持体巻取部58とを有する。コレクタ52はノズル36から出た溶液25を誘引し、形成されたファイバ11をシート材16として捕集するためのものであり、本実施形態では、後述の支持体37上に捕集する。
【0043】
コレクタ52は、金属製の帯状物で形成された無端ベルトで構成されている。コレクタ52は、電源51によって電圧が印加されることにより帯電する素材から形成されていればよく、例えばステンレス製とされる。コレクタ回転部56は、一対のローラ61,62と、モータ60などから構成されている。コレクタ52は、一対のローラ61,62に水平に掛け渡されている。一方のローラ61の軸には紡糸室45の外に配されたモータ60が接続されており、ローラ61を所定速度で回転させる。この回転によりコレクタ52は移動し、ローラ61とローラ62との間で循環する。本実施形態においては、コレクタ52の移動速度は、例えば0.2m/分としているが、これに限定されない。
【0044】
コレクタ52には、支持体供給部57によって、帯状のアルミニウムシートからなる支持体37が供給される。支持体37は、ファイバ11を集積させ、シート材16として得るためのものである。支持体供給部57は送出軸57aを有する。送出軸57aには支持体ロール63が装着される。支持体ロール63は支持体37が巻芯64に巻き取られて構成されている。支持体巻取部58は巻取軸67を有する。巻取軸67はモータ(図示無し)により回転され、セットされる巻芯68に、シート材16が形成された支持体37を巻き取る。このように、このシート材形成装置22は、ファイバ11を形成する機能と、シート材16を形成する機能とをもち、電界紡糸法によるファイバ及びシート材の製造が実施される。なお、支持体37は、コレクタ52上に載せ、コレクタ52の移動によって移動させてもよい。
【0045】
なお、コレクタ52の上にファイバ11を直接集積することによりシート材16を形成してもよいが、コレクタ52を形成する素材またはコレクタ52の表面状態等によってはファイバシート10が貼り付いてこれを剥がしにくい場合がある。このため、本実施形態のように、シート材16が貼り付きにくい支持体37をコレクタ52上に案内し、この支持体37上にファイバ11を集積することが好ましい。
【0046】
電源51は、ノズル36とコレクタ52とに電圧を印加し、これにより、ノズル36を第1の極性に帯電させ、コレクタ52を第1の極性と逆極性の第2の極性に帯電させる電圧印加部である。帯電したノズル36内を通過することにより、溶液25が帯電し、帯電した状態でノズル36から出る。なお、この例では保持部材41とノズル36とを導通させており、電源51を保持部材41に接続することにより、保持部材41を介してノズル36に電圧を印加しているが、ノズル36への電圧の印加の手法はこれに限られない。例えばノズル36の各々に電源51を接続することにより各ノズル36に電圧を印加してもよい。本実施形態ではノズル36をプラス(+)に帯電させ、コレクタ52をマイナス(-)に帯電させているが、ノズル36とコレクタ52との極性は逆であってもよい。なお、コレクタ52側をアースして電位を0としても良い。電圧の印加による帯電により、テイラーコーン53からは溶液25が紡糸ジェット69としてコレクタ52に向かって噴出される。なお、この例ではノズル36に電圧を印加することにより溶液25を帯電させているが、配管33において溶液25を帯電させ、帯電した状態の溶液2をノズル36に案内してもよい。
【0047】
ノズル36とコレクタ52との距離Lは、セルロース系ポリマー15と溶媒26との種類と、溶液25における溶媒26の質量割合等によって適切な値が異なるが、30mm以上500mm以下の範囲内が好ましく、本実施形態では例えば150mmとしている。
【0048】
ノズル36とコレクタ52とにかける電圧は、5kV以上200kV以下が好ましく、ファイバ11を細く形成する観点では電圧はこの範囲内でなるべく高いほうが好ましい。本実施形態では例えば40kVとしている。
【0049】
シート材形成設備20の作用を説明する。ノズル36と、循環移動するコレクタ52とには、電源51により電圧が印加される。これにより、ノズル36は第1の極性としてのプラスに帯電し、コレクタ52は第2の極性としてのマイナスに帯電する。ノズル36には、溶液調製部21から溶液25が連続的に供給され、移動するコレクタ52上には、支持体37が連続的に供給される。溶液25は、ノズル36a~36cのそれぞれを通過することにより第1の極性であるプラスに帯電し、帯電した状態で、ノズル36a~36cの各先端開口から出る。
【0050】
コレクタ52は、第1の極性に帯電した状態で先端開口から出た溶液25を誘引する。これにより、先端開口にはテイラーコーン53が形成され、このテイラーコーン53から紡糸ジェット69がコレクタ52に向けて噴出される。第1の極性に帯電している紡糸ジェット69は、コレクタ52に向かう間に、自身の電荷による反発でより細い径に分裂し、及び/または螺旋状の軌道を描きながらより細い径に伸びていき、支持体37上にファイバ11がシート材16として捕集される(捕集工程)。
【0051】
この例では溶液25をノズル36から出すことにより支持体37へ向けて飛ばしているが、ノズルを用いない方法で溶液25を飛ばしてもよい。例えば、エレクトロバブルスピニング法、または、ワイヤ固定電極法等がある。エレクトロバブルスピニング法は、溶液25に圧縮気体を供給し、発生した気泡に電圧を印加することにより気泡表面から溶液25を線状に飛ばし、ファイバ11を形成する方法であり、廣瀬製紙株式会社からその方法が紹介されている。ワイヤ固定電極法は、両端が固定されたワイヤに溶液を塗布し、ワイヤとコレクタとの間に電圧を印加することによりファイバ11を形成する方法である。このワイヤ固定電極法を用いたファイバ形成装置は、例えばエルマルコ株式会社から販売されている。
【0052】
支持体37上においてファイバ11同士が互いに接触しても接着しない、あるいは、接着してもその接着力が小さく抑えられるように、コレクタ52に向かう間に、紡糸ジェット69から溶媒26を多めに蒸発させることが好ましい。
【0053】
捕集されたファイバ11は弾力があるシート材16として支持体37とともに支持体巻取部58に送られる。ファイバシート10は、支持体37と重なった状態で巻芯68に巻かれる。巻芯68は巻取軸67から取り外された後に、支持体37からシート材16が分離される。このようにして得られたシート材16は長尺であるが、この後、例えば所望のサイズに切断してもよく、本例でも切断することにより例えば円形にしている。
【0054】
図5に示す温度調整装置81は、シート材16からファイバシート10を形成するためのものである。温度調整装置81は、収容部82と温調機構83とを備える。収容部82は、シート材16を内部に収容する。この例の収容部82には、シート材16を載置する載置台86が設けられているが、収容部82の構成は特に限定されず、市販の恒温槽などを用いてよい。温調機構83は、収容部82の内部の温度を調整し、これにより、内部に収容されたシート材16を加熱、冷却、あるいは一定の温度に保持する。なお、本実施形態では、温調機構83によって設定した収容部82の内部の温度を、シート材16の温度と見なしている。
【0055】
ファイバシート10は、シート材16から以下の方法で形成される。まず、シート材16を、フレーム(枠)87により保持する。フレーム87は、シート材16に、張力を付与する張力付与部材である。張力は、シート材16に対して、面方向(XY平面の方向)に付与する(張力付与工程)。張力は、シート材16に、しわ及びたるみが生じない程度に小さく抑え、シート材16の面積(XY平面に沿った表面の面積)ができるだけ変わらない程度とすることが好ましい。フレーム87は、中央にシート材16が露呈する状態でシート材16を保持する円形であるが、張力付与部材は、シート材16の面積を変えない程度の上記張力が付与できるものであれば、フレーム87に限定されない。ただし、張力付与部材は、後述の加熱と冷却とにおいてしわ及びたるみをより確実に生じさせないために、シート材16の周囲の一部を保持するよりも周囲全体を保持する方が好ましい。
【0056】
フレーム87に保持され、張力を付与された状態のシート材16を、収容部82に収容する。温調機構83により、収容部82を介してシート材16を加熱する。張力を付与した状態でシート材16を加熱し、温度が上昇したシート材16においてファイバ11同士を接着させ、ファイバシート10が得られる(加熱工程)。このように、張力付与工程は、加熱工程を有する。
【0057】
張力を付与した状態で加熱することにより、平均孔径DAが2μm以上20μm以下の範囲であり、かつ、所定空孔割合が90%以上であるファイバシート10が得られ、さらに、なす角θが20°未満となる。また、ファイバ11同士が接着することにより、例えばろ過などの使用中においてファイバ片の脱離が抑制される。なお、加熱工程の時間は、長いほどなす角θをより小さくできる。ただし、ファイバ11の溶けすぎを抑制する観点も考慮し、加熱工程の時間は、10秒以上1200秒以下の範囲内であることが好ましく、30秒以上900秒以下の範囲内であることがより好ましい。加熱工程の時間とは、シート材16の温度を設定した温度に保持する時間である。
【0058】
ここで、セルロース系ポリマー15の融点をTm(単位は℃)とし、ガラス転移点をTg(単位は℃)とする。加熱工程は、シート材16をTg以上Tm以下の温度に加熱することが好ましい。Tg以上の温度に加熱することにより、Tg未満の温度に加熱する場合と比べて、ファイバ11が軟化し、ファイバ11同士が融着(融解することにより接着)しやすくなる。また、Tm以下の温度に加熱することにより、Tmよりも高い温度に加熱する場合と比べて、ファイバ11の過度な溶けすぎにより空隙が無い膜状になったり、炭化することがより確実に防がれる。
【0059】
張力付与工程は、加熱工程の後に、冷却工程を有することが好ましい。すなわち、加熱工程で得られたファイバシート10を、張力が付与されている状態で冷却すること(冷却工程)が好ましい。これにより、ファイバシート10の所定空孔割合が加熱工程直後の状態により保持されやすい。そして、張力の解除は、冷却工程の後に行うことが好ましい。
【0060】
この例では、コレクタ52として循環移動するベルトを用いたが、コレクタはベルトに限定されない。例えば、コレクタは固定式の平板であってもよいし、円筒状の回転体としてもよい。平板や円筒体からなるコレクタの場合にも、シート材16をコレクタから容易に分離することができるように支持体37を用いることが好ましい。なお、回転体を用いる場合には、回転体の周面にファイバからなる筒状のシート材が形成されるため、紡糸後に回転体から筒状のシート材を抜き取り、所望の大きさ及び形状にカットすればよい。
【実施例
【0061】
[実施例1]~[実施例7]
シート材形成設備20と温度調整装置81とを用いて、ファイバシート10を製造し、実施例1~実施例7とした。用いたセルロース系ポリマー15は、表1の「ポリマー」欄に記載している。表1において、ポリマーとして用いたセルロースアシレートのアシル基がプロピオニル基である場合には「Pr」と記載し、ブタノイル基である場合には「Bu」と記載する。なお、表1の「アシル基含量」(単位は重量%)は、イーストマン ケミカル カンパニーのカタログ値をそのまま記載している。
【0062】
溶媒26は、いずれも前述の通りジクロロメタンとメタノールとの混合物であり、質量比は、ジクロロメタン:メタノール=87:13とした。溶液25におけるセルロース系ポリマー15の濃度は8質量%とした。この濃度は、セルロース系ポリマー15の質量をM1とし、溶媒26の質量をM2とするときに、{M1/(M1+M2)}×100で求めたものである。
【0063】
張力付与工程中に加熱工程を実施した。加熱工程において設定したシート材16の温度と、その温度に保持した時間とは、表1の「加熱工程」の「温度」欄と、「時間」欄とに記載する。ファイバ11の径の平均値は1.8μmであった。径の平均値は、走査型電子顕微鏡で撮像した画像から100本のファイバ11の径を測定し、平均値を算出することにより求めた。
【0064】
得られたファイバシート10について、ろ過精度と、ファイバ片の脱離とを評価した。評価方法及び評価基準は以下の通りである。評価結果は表1に示す。なお、実施例1で得られたファイバシート10の厚み方向における断面のSEM画像を、図6に示している。
【0065】
1.ろ過精度
平均粒子径10μmの架橋アクリル多分散粒子(綜研化学株式会社製)を純水に1質量%分散させ、ファイバシート10でろ過した。ろ過前後のそれぞれの液の粒度分布を、粒度分布測定装置(BECKMAN COULTER株式会社製)を用いて測定した。得られたろ過前後の粒度分布から、ファイバシート10の平均孔径DAよりも大きい粒子の捕捉率を[{(ろ過前の粒子数)-(ろ過後の粒子数)}/(ろ過前の粒子数)]×100%で算出し、以下の基準で評価した。AとBとは合格であり、CとDとは不合格である。
A;捕捉率が85%以上である。
B;捕捉率が75%以上85%未満である。
C;捕捉率が65%以上75%未満である。
D;捕捉率が65%以下である。
【0066】
2.ファイバ片の脱離
ファイバシート10をステンレスラインホルダ(アドバンテック株式会社製KS-47)に取り付け、純水を1L(リットル)ろ過した。ろ過後の液(ろ液)をグリッドフィルタで捕捉した。グリッドフィルタの捕捉側表面の全面を顕微鏡により観察し、ファイバ片の個数を数え、以下の基準で評価した。AとBとは合格であり、CとDとは不合格である。結果は表1の「ファイバ片の脱離」欄に示す。
A;ファイバ片の個数が0個以上5個以下であった。
B;ファイバ片の個数が6個以上10個以下であった。
C;ファイバ片の個数が11個以上20個以下であった。
D;ファイバ片の個数が21個以上であった。
【0067】
【表1】
【0068】
さらに、実施例1で得られたファイバシート10を使用し、遺伝子検査を行った。具体的には、実施例1で得られたファイバシート10によりヒト全血をろ過した後、ファイバシート10上に残った白血球細胞を使用し、特許4058508号公報の明細書段落[0057]~[0061]に記載される方法に従って遺伝子検査を行った。その結果、特許4058508号公報に記載される実施例と同様の結果が得られた。
【0069】
[比較例1]~[比較例4]
加熱工程を実施しない、あるいは加熱工程でのシート材16の温度を変更し、これらを比較例1~比較例3とした。また、張力付与工程が無い製造方法として比較例4を実施した。
【0070】
実施例と同様の方法及び基準で、ろ過精度とファイバ片の脱離との評価を行った。評価結果は表1に示す。なお、比較例2で得られたファイバシートの厚み方向における断面のSEM画像を、図7に示している。
【符号の説明】
【0071】
10 ファイバシート
10A 第1シート面
11,11a,11b,11c,・・・ ファイバ
12 空孔
15 セルロース系ポリマー
16 シート材
20 シート材形成設備
21 溶液調製部
22 シート材形成装置
25 溶液
26 溶媒
33a~33c 配管
36a~36c ノズル
37 支持体
38 ポンプ
41 保持部材
42 ノズルユニット
45 紡糸室
50 集積部
51 電源
52 コレクタ
53 テイラーコーン
56 コレクタ回転部
57 支持体供給部
57a 送出軸
58 支持体巻取部
60 モータ
61,62 ローラ
63 支持体ロール
64 巻芯
67 巻取軸
68 巻芯
69 紡糸ジェット
81 温度調整装置
82 収容部
83 温調機構
86 載置台
87 フレーム
L 距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7