(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】熱電変換モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/34 20060101AFI20221025BHJP
H01L 35/16 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01L35/34
H01L35/16
(21)【出願番号】P 2018037204
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2020-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・平成29年9月15日、北東北女性研究者 研究・交流フェア 2017
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】福井 輝美
(72)【発明者】
【氏名】大住 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 友里恵
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健
(72)【発明者】
【氏名】藤代 博之
(72)【発明者】
【氏名】谷口 晴香
(72)【発明者】
【氏名】笹原 隆太
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/033891(WO,A1)
【文献】特開2010-232554(JP,A)
【文献】特開平10-012935(JP,A)
【文献】特表2015-510251(JP,A)
【文献】特表2010-525568(JP,A)
【文献】特開2013-219128(JP,A)
【文献】特開2013-219095(JP,A)
【文献】特開2017-157786(JP,A)
【文献】特開2013-138166(JP,A)
【文献】特開2015-133374(JP,A)
【文献】特開2015-015366(JP,A)
【文献】特開2008-108795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/34
H01L 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型の熱電変換粒子を含む第1のペーストおよびn型の熱電変換粒子を含む第2のペーストを準備する工程と、
前記第1および第2のペーストをそれぞれモジュール本体の所定箇所に塗布する工程と、
前記各ペーストを塗布したモジュール本体を乾燥および焼成する工程と、を含み、
前記p型の熱電変換粒子および前記n型の熱電変換粒子は、BiTe系であり、前記p型の熱電変換粒子の融点と前記n型の熱電変換粒子の融点との差が50℃以内であり、
前記焼成工程における焼成温度Tは、前記p型の熱電変換粒子の融点または前記n型の熱電変換粒子の融点のいずれかをTm℃と表したとき、0.6Tm≦T≦0.7Tmであることを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記各ペーストの塗布は、スクリーン印刷により行なうことを特徴とする請求項1記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記p型の熱電変換粒子は、Bi(
2-x)Sb
xTe
3(1.5≦x≦1.7)の組成を有し、
前記n型の熱電変換粒子は、Bi
2Te
(3-y)Se
y(0.1≦y≦0.8)の組成を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型、n型の2種類の熱電変換材料を用いて温度差により起電力を生じさせる熱電変換モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換モジュールは、電極上に設けられたp型、n型それぞれの熱電変換素子と各熱電変換素子を接続する熱源側の電極とで構成される。熱電変換モジュールの作製の際には、熱電変換材料の粉体を用いて、例えば圧縮により成形体を作製し、成形体を焼結させて得られたバルクの熱電変換素子を切出し、電極に接合する。したがって、p型、n型それぞれのバルクの熱電変換素子が焼成、加工される。
【0003】
一方、一般的ではないもののバルクの熱電変換素子を作製しない方法も知られている。特許文献1には、CaMn系の熱電変換粒子を用いた熱電変換材料の原料ゾルを用意し、熱電変換材料の塊の表面に付着させ、塊の表面に付着した原料ゾルをゲル化させる方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、事前にアニール処理されたBiTe系熱電半導体粒子を含むポリマーによる組成物を支持体上に塗布し、80~150℃の加熱温度で乾燥して塗膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5250762号公報
【文献】特許第6127041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、熱電変換モジュールの作製には、基本的にp型、n型それぞれのバルクの熱電変換素子を焼成し、加工することが必要になる。しかしながら、バルク体はある程度の厚みを伴うことから熱電変換モジュールの高密度化は難しい。また、p型、n型それぞれについて熱電変換素子を焼成すると2つの工程分の手間やコストがかかる。また、バルク体は加工性が悪く、加工のコスト増加を招く。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、p型とn型の熱電変換素子を同時焼成でき、低コスト化が可能になる熱電変換モジュールの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、p型の熱電変換粒子を含む第1のペーストおよびn型の熱電変換粒子を含む第2のペーストを準備する工程と、前記第1および第2のペーストをそれぞれモジュール本体の所定箇所に塗布する工程と、前記各ペーストを塗布したモジュール本体を焼成する工程と、を含み、前記p型の熱電変換粒子の融点と前記n型の熱電変換粒子の融点との差が50℃以内であることを特徴としている。
【0009】
これにより、p型とn型のペーストを同時焼成でき、低コスト化が可能になる。ペーストを用いているため、バルクのような加工工程を省くことができ、コストを低減できる。また、例えば、量産されている熱電変換素子の破砕品を粉砕してペースト化することも可能である。
【0010】
(2)また、本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、前記各ペーストの塗布は、スクリーン印刷により行なうことを特徴としている。このようにスクリーン印刷によりペーストを塗布することで熱電変換材料の高密度化が可能であり、出力密度が高い熱電変換モジュールを製造できる。
【0011】
(3)また、本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、前記焼成の工程における焼成温度Tは、前記p型の熱電変換粒子の融点または前記n型の熱電変換粒子の融点のいずれかをTm℃と表したとき、0.6Tm≦T≦0.7Tmであることを特徴としている。これにより、同時焼成で各ペーストに含まれる熱電変換粒子が焼結し、熱電変換素子を形成できる。
【0012】
(4)また、本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、前記p型の熱電変換粒子および前記n型の熱電変換粒子は、BiTe系であることを特徴としている。これにより、室温近傍で優れた熱電特性が得られる。
【0013】
(5)また、本発明の熱電変換モジュールの製造方法は、前記p型の熱電変換粒子は、Bi(2-x)SbxTe3(1.5≦x≦1.7)の組成を有し、前記n型の熱電変換粒子は、Bi2TeySe(3-y)(0.1≦y≦0.8)の組成を有することを特徴としている。これにより、バルクの熱電変換素子に対して同等の熱電特性が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、p型とn型のペーストを同時焼成でき、低コスト化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る熱電変換モジュールを示す模式図である。
【
図2】各条件に対する電気抵抗率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(熱電変換モジュールの製造方法)
本発明の熱電変換モジュールの製造方法では、熱電変換粒子を含むペーストを用いる。ペーストを用いることでバルクを加工する必要が無くなりコストを低減できる。
【0018】
熱電変換モジュールの製造に当たっては、まず、p型の熱電変換粒子を含むペースト(第1のペースト)およびn型の熱電変換粒子を含むペースト(第2のペースト)のを準備する。p型の熱電変換粒子およびn型の熱電変換粒子は、BiTe系であることが好ましい。これにより、室温近傍で優れた熱電特性が得られる。
【0019】
例えば、p型の熱電変換粒子として、Bi(2-x)SbxTe3(1.5≦x≦1.7)の組成を有するものを用い、n型の熱電変換粒子として、Bi2TeySe(3-y)(0.1≦y≦0.8)の組成を有するものを用いることができる。これにより、バルクの熱電変換素子に対して同等の熱電特性が得られる。基本的に原料を配合、予備乾燥等して熱電変換材料を用意すればよいが、例えば、量産されている熱電変換素子の破砕品を粉砕してペースト化することも可能である。
【0020】
これらの組成うち、p型の熱電変換粒子の融点とn型の熱電変換粒子の融点との差が50℃以内である組み合わせを選択する。これにより、後述のようにp型とn型のペーストを同時焼成でき、低コスト化が可能になる。それぞれの熱電変換粒子は、例えばエチルセルロースの熱可塑性セルロースエーテル等のバインダーおよびBCA(ブチルカルビトールアセテート)等の有機溶剤と混合し、ペーストを作製する。熱電変換素子の電気抵抗率を低下させるために、さらにガラスフリットを添加してもよい。
【0021】
次に、p型、n型の熱電変換粒子を含むペーストをそれぞれモジュール本体の所定箇所に塗布する。各ペーストの塗布は、スクリーン印刷により行なうことが好ましい。スクリーン印刷でペーストを塗布することで、細かいパターニングが可能になり、薄い層状の熱電変換素子を形成できる。そして、熱電変換モジュールを薄く緻密にすることができる。その結果、熱電変換材料の高密度化が可能となり、出力密度が高い熱電変換モジュールを製造できる。このようにして熱電変換モジュールの用途がさらに広がる。
【0022】
このように各ペーストを塗布したモジュール本体を焼成する。焼成の工程における焼成温度T℃は、p型の熱電変換粒子の融点またはn型の熱電変換粒子の融点のいずれかをTm℃と表したとき、0.6Tm≦T≦0.7Tmであることが好ましい。これにより、同時焼成で各ペーストに含まれる熱電変換粒子が焼結し、層状の熱電変換素子を形成できる。
【0023】
(熱電変換モジュールの構成)
図1は、熱電変換モジュール100を示す模式図である。
図1に示すように、熱電変換モジュール100は、基板110、p型に接続する基板側電極120、n型に接続する基板側電極130、p型熱電変換素子140、n型熱電変換素子150、熱源側電極160および絶縁層170を備えている。
【0024】
p型熱電変換素子140は、例えば、p型熱電変換材料Bi(2-x)SbxTe3(1.5≦x≦1.7)で形成された層状の焼結体であり、塗布したペーストを焼成することで形成される。n型熱電変換素子150は、例えば、n型熱電変換材料Bi2TeySe(3-y)(0.1≦y≦0.8)で形成された層状の焼結体であり、塗布したペーストを焼成することで形成される。p型およびn型の熱電変換素子の厚さは、例えば、30μmである。
【0025】
p型熱電変換素子140およびn型熱電変換素子150の一方の主面には、熱源側電極160が接合され、p型熱電変換素子140とn型熱電変換素子150とを電気的に接続している。p型熱電変換素子140の他方の主面には基板側電極120が接合され、n型熱電変換素子150の他方の主面側には基板側電極130が接合されている。また、p型熱電変換素子140および基板側電極120と、n型熱電変換素子150および基板側電極130との間には、絶縁層170が設けられている。主面とは、層形状で最も広い面を指す。電極は、Ag,Cu,Pt,Au,Pd,Ni等のいずれかまたはその合金等で形成できる。
【0026】
熱電変換モジュール100において、p型熱電変換素子140およびn型熱電変換素子150の熱源側と基板側との間に高低の温度差が発生すると、p型熱電変換素子140では熱源側電極160側から基板側電極120側に正孔が移動し、n型熱電変換素子150では熱源側電極160側から基板側電極130側に電子が移動する。これにより、ゼーベック効果による温度差に応じた起電力がp型、n型の基板側電極120、130間に発生する。
【0027】
(実施例)
熱電変換素子の性能指数Zは、ゼーベック係数S,電気抵抗率ρ,熱伝導率κを用いて以下の数式で表される。
【数1】
【0028】
ゼーベック係数は、ΔTに対する発生電圧(熱起電力)ΔVの比である。
【数2】
数式(1)に用いられるS、ρおよびκは互いに依存しており、いずれかが変動すると他の2つも変動する。特にSとρは連動の度合いが大きい。しかし、比較対象の間でゼーベック係数が大きく異ならない前提では、電気抵抗率を測定することで熱電変換の性能を確認することができる。
【0029】
上記の製造方法に沿ってp型およびn型の熱電変換素子の同時焼成が可能となる組合せおよび焼成条件を検討した。具体的には、複数の条件で熱電変換モジュールを作製し、電気抵抗率を測定することで得られた熱電変換モジュールが十分な性能を有するか否かを確認した。電気抵抗率ρは、真空中で直流四端子法にて抵抗を測定するとともに、各試料の熱電変換素子膜の断面形状を測定し、これらと熱電変換素子膜の長さから算出した。
【0030】
p型およびn型の熱電変換材料としては、それぞれ焼結温度が近いBi0.5Sb1.5Te3およびBi2Te2.7Se0.3を採用した。熱電変換粒子を含むペーストを作製する際には、バインダーとしてエチルセルロースを用い、熱電変換素子に11wt%含有されるようにガラスフリット(融点400℃近傍)を添加した。得られたp型およびn型のペーストをモジュール本体にスクリーン印刷で塗布し、各焼成温度、各キープ時間で焼成した。焼成温度は、融点×60%~70%(実力値)すなわち融点613~650℃に対する400℃を含むように決定した。
【0031】
以下の表は、各材料の無次元性能指数ZTを含めたp型、n型のそれぞれの熱電変換材料の特性を示している。
【表1】
【0032】
実験計画法に基づき、以下の直交表に示す4因子、3水準の組み合わせで条件を決定し、実験を行なった。
【表2】
【0033】
図2は、実験計画法により得られた各条件に対する電気抵抗率を示すグラフである。
図2に示すように、予備乾燥温度は120℃、昇温速度は18℃/min、焼成温度は400℃、キープ時間は10分が最適であることを確認できた。ただし、予備乾燥温度、昇温速度、キープ時間については各水準に大きな差は確認できなかった。焼成温度については、400℃、450℃の場合の抵抗値が500℃の場合の1/3以下であった。特に焼成温度としては、上記の実施例においては400℃~450℃が好ましいことを確認できた。
【符号の説明】
【0034】
100 熱電変換モジュール
110 基板
120 p型に接続する基板側電極
130 n型に接続する基板側電極
140 p型熱電変換素子
150 n型熱電変換素子
160 熱源側電極
170 絶縁層