(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びにその正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221025BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221025BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01B33/12 A
(21)【出願番号】P 2018104375
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】山内 充
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-060759(JP,A)
【文献】特開2017-188218(JP,A)
【文献】特開2017-188219(JP,A)
【文献】国際公開第2011/122448(WO,A1)
【文献】特開2015-122299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケル複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケル複合酸化物が、一般式:Li
1+uNi
1-x-y-zCo
xMn
ySi
zO
2+α(ただし、式中のu、x、y及びzは、0.03≦u≦0.10、0.2≦x≦0.35、0.2≦y≦0.35、0.003≦z≦0.010、0≦α≦0.15)で表され、
X線回折の(003)面回折ピークの半価幅からScherrer式により求められる結晶子径が120nm以上、150nm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウムニッケル複合酸化物が、α-NaFeO
2型層状岩塩型酸化物からなる一次粒子、及び該一次粒子が凝集して構成された二次粒子とからなることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウムニッケル複合酸化物のレーザー散乱回折法による体積平均粒径MVが、5μm以上、20μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
一般式:Ni
1-a-b-cCo
aMn
bSi
c(OH)
2(ただし、式中のu、a、b及びcは、0.03≦u≦0.10、0.2≦a≦0.35、0.2≦b≦0.35、0.003≦c≦0.010)で表されるニッケル複合水酸化物とリチウム化合物とを混合し、ニッケル、コバルト、マンガン及びケイ素の物質量の和(Me)に対するリチウムの物質量(Li)の比(Li/Me)が1.03~1.10であるリチウム混合物を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた前記リチウム混合物を、酸素濃度18容積%以上の酸化性雰囲気中において900℃~1000℃の温度で焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程とを備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
ニッケル、コバルト、マンガン及びケイ素を含む金属塩水溶液が、各々の金属塩の混合水溶液であることを特徴とする請求項
4に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程における前記リチウム化合物が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、前記水酸化リチウムと炭酸リチウムとの混合物のいずれかであることを特徴とする請求項4
または5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1か
ら3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル複合酸化物を原料とするリチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び当該正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPCなどの小型情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。特に電気自動車用の電池は、高温から極低温までの広い温度域で用いられるため、このような広い温度域における高出力が必要である。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムイオンを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
リチウムイオン二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する二次電池として実用化が進んでいる。
【0004】
係るリチウムイオン二次電池の正極活物質として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)などのリチウム複合酸化物が提案されている。
【0005】
上記正極活物質中でも、近年、熱安定性に優れて高容量であるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)が注目されている。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物などと同じく層状結晶構造を有する化合物であり、遷移金属サイトにおいて、ニッケルとコバルトとマンガンを基本的に組成比1:1:1の割合で含んでいる。
【0006】
ところで、正極活物質中のコバルトの比率が小さくなると、この正極活物質を用いた二次電池の出力特性が低下する傾向にあり、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)は、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)と比較して、二次電池の正極抵抗が高くなり、高出力を得にくい。また、マンガンの比率が高くなると充放電を繰り返した際にマンガンが負極に溶出し耐久性(サイクル特性)を悪化させることが知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、前記一次粒子のアスペクト比が1~1.8であり、その粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質が提案されている。
この特許文献1によれば、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、導電性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記提案は、粒子表面の導電性を向上させ高い出力特性が得られるものの充放電を繰り返すことで添加元素が負極に溶出し耐久性を悪化させることが懸念される。
本発明は、これら事情を鑑みてなされたものであり、エネルギー密度を落とすことなく、高い出力特性と耐久性を両立することのできる正極活物質を提供し、さらに、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に製造することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、リチウムニッケル複合酸化物の電池特性の向上に関して鋭意検討した結果、リチウムニッケル複合酸化物を得る際に添加するケイ素量と焼成温度を制御することで、特定の結晶子径を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質となり、エネルギー密度を落とすことなく、高い出力特性と耐久特性が両立できるとの知見を得て、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明は、リチウムニッケル複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記リチウムニッケル複合酸化物が、一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2+α(ただし、式中のu、x、y及びzは、0.03≦u≦0.10、0.2≦x≦0.35、0.2≦y≦0.35、0.003≦z≦0.010、0≦α≦0.15)で表され、X線回折の(003)面回折ピークの半価幅からScherrer式により求められる結晶子径が120nm以上、150nm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0012】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるリチウムニッケル複合酸化物が、α-NaFeO2型層状岩塩型酸化物からなる一次粒子、及び該一次粒子が凝集して構成された二次粒子とからなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0013】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明におけるリチウムニッケル複合酸化物のレーザー散乱回折法による体積平均粒径MVが、5μm以上、20μm以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0014】
本発明の第4の発明は、一般式:Ni1-a-b-cCoaMnbSic(OH)2(ただし、式中のu、a、b及びcは、0.03≦u≦0.10、0.2≦a≦0.35、0.2≦b≦0.35、0.003≦c≦0.010)で表されるニッケル複合水酸化物とリチウム化合物とを混合し、ニッケル、コバルト、マンガン及びケイ素の物質量の和(Me)に対するリチウムの物質量(Li)との比(Li/Me)が1.03~1.10であるリチウム混合物を得る混合工程と、前記混合工程で得られた前記リチウム混合物を、酸素濃度18容積%以上の酸化性雰囲気中において900℃~1000℃の温度で焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程とを備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0015】
本発明の第5の発明は、第4の発明におけるニッケル複合水酸化物の製造方法が、非酸化性雰囲気下において、NH4
+の存在下のアルカリ水溶液に、反応水溶液のpHを、12.5~13.0の範囲の固定値に制御しながら、NH4
+供給体を含む溶液、アルカリ水溶液、およびニッケル、コバルト、マンガンを含む金属塩水溶液を連続的に加えて中和晶析処理を行いニッケル複合水酸化物の核粒子を得る核生成工程、反応槽内が酸素濃度2容積%以下の非酸化性雰囲気下となるまで不活性ガスを前記反応槽内に導入しながら、反応水溶液のpH(液温25℃基準)を11.0~12.5の範囲の固定値になるまでアルカリの供給のみを一時停止した後に、一時停止していたアルカリの供給を再開して前記固定値のpHを維持しながら、NH4
+供給体を含む溶液、アルカリ水溶液、およびニッケル、コバルト、マンガンを含む金属塩水溶液、ケイ素含有化合物溶液を連続的に加えて中和晶析処理を行い前記核生成工程で生成した核粒子を粒子成長させ、目的とする粒径のニッケル複合水酸化物粒子を得る粒子成長工程、前記粒子成長工程の終了後に行われる前記ニッケル複合水酸化物粒子に対する水洗処理工程、濾過処理工程、及び乾燥処理工程からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0016】
本発明の第6の発明は、第5の発明におけるニッケル、コバルト、マンガン及びケイ素を含む金属塩水溶液が、各々の金属塩の混合水溶液であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0017】
本発明の第7の発明は、第4~第6の発明における混合工程における前記リチウム化合物が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、前記水酸化リチウムと炭酸リチウムとの混合物のいずれかであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0018】
本発明の第8の発明は、第4~第7の発明におけるケイ素含有化合物溶液が、メタケイ酸ナトリウム水溶液であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0019】
本発明の第9の発明は、第1から第3の発明におけるリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極に用いることにより、エネルギー密度を落とすことなく高い出力特性と耐久性を有するリチウムイオン二次電池が得られる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、工業的規模の生産においても容易に実施することが可能であり、工業的価値はきわめて高いものといえる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態について、[1]リチウムイオン二次電池用正極活物質と[2]その製造方法、さらに該正極活物質を用いた[3]リチウムイオン二次電池について説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0022】
[1]リチウムイオン二次電池用正極活物質
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」という。)は、リチウムニッケル複合酸化物を含むものである。
【0023】
(1-1.組成)
正極活物質は、一般式(1):Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2(ただし、式中のu、x、y及びzは、0.03≦u≦0.10、0.2≦x≦0.35、0.2≦y≦0.35、0.003≦z≦0.010)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を含むものである。
【0024】
ここで、リチウム(Li)の過剰量を示すuは、0.03≦u≦0.10とする必要があり、これにより、二次電池に用いた際の良好な耐久性が得られる。uが0.03未満の場合であっても二次電池の容量は得られるが、Li量が十分でないため、良好な耐久性が得られない。一方、uが0.10を超える場合には、リチウムニッケル複合酸化物の作成時の焼成工程において余剰リチウムが増加し、二次電池の性能が低下する。
【0025】
ケイ素(Si)は、リチウムイオン導電性のあるリチウムシリケイトを形成することにより正極活物質の出力特性が向上する。
Siの添加量を示す添字zは、0.003≦z≦0.010の範囲とする必要があり、zが0.003未満の場合には、リチウムシリケイトの形成量が少ないため効果が少なく、出力特性の改善が不十分である。一方、zが0.010を超える場合には、Si添加による粒成長抑制効果により結晶構造が不安定化し、且つ充放電に寄与しないSiが増加するため、電池容量が低下する。
【0026】
コバルト(Co)は、結晶構造を安定化させる元素であり、マンガン(Mn)は熱安定性を示す元素である。Co及びMnの添加量を示す添字x及び添字yは、それぞれ0.2≦x≦0.35及び0.2≦y≦0.35とする必要がある。Co及びMnの添加量を所定の範囲内に収めることで、各元素の添加効果と電池容量とを両立させている。
【0027】
(1-2.結晶子径)
正極活物質の結晶子径は、120nm~150nmが好ましく、より好ましくは120nm~140nmである。正極活物質では、結晶子径を120nm~150nmとすることにより、正極活物質を構成するリチウムニッケル複合酸化物の結晶性を高くすると共に、二次電池の電解液が浸透可能な粒界や間隙を減少させず、電解液との接触率を維持することができる。正極活物質では、高い結晶性と電解液との接触率により、電池容量を増加させることが可能となる。
【0028】
正極活物質の結晶子径が120nm未満の場合では、結晶成長が不十分であり容量や出力が低下し、耐久性においてもマンガン(Mn)溶出が顕著となり低下する。一方、結晶子径が150nmを超えると、カチオンミキシングによる電池特性の低下だけでなく、充放電時の体積膨張収縮による割れや一次粒子同士の接点の減少による導電パスの切断の増加により、耐久性が低下する。
【0029】
正極活物質では、二次電池の正極を形成する際に高い充填性を得るために、平均粒径を、レーザー散乱回折法による体積基準において5μm~20μmとすることが好ましい。
【0030】
[2]リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」という。)は、少なくとも、混合工程及び焼成工程を有している。
混合工程では、ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物を所定の条件で混合してリチウム混合物を得る。
焼成工程では、混合工程で得られたリチウム混合物を所定の条件で焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得る。
即ち、正極活物質の製造方法では、少なくとも、上述した各工程を経ることにより、リチウムニッケル複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質を作成することができる。以下、正極活物質の製造方法について、工程ごとに詳細に説明する。
【0031】
(2-1.ニッケル複合水酸化物)
正極活物質の製造方法において用いられるニッケル複合水酸化物は、一般式(2):Ni1-a-b-cCoaMnbSic(OH)2(ただし、式中のu、a、b及びcは、0.03≦u≦0.10、0.2≦a≦0.35、0.2≦b≦0.35、0.003≦c≦0.010)で表されるものである。
【0032】
(2-2.ニッケル複合水酸化物の製造方法)
正極活物質の製造方法では、均一な組成のニッケル複合水酸化物を得るため、ニッケル、コバルト、マンガン及びケイ素を含む金属塩水溶液とアルカリ水溶液とを混合し、中和晶析によりニッケル複合水酸化物を得る晶析工程を備えることが好ましい。
中和晶析によって得られるニッケル複合水酸化物は、組成が均一であり、更に粒径や形骸等の粉体性状の制御が容易である。後述する焼成工程によって得られるリチウムニッケル複合酸化物の粉体性状は、原料であるニッケル複合水酸化物からほぼ継承される。
従って、正極活物質の製造方法では、晶析工程によってニッケル複合水酸化物の粉体性状を調整しておくことが好ましい。例えば、晶析工程において、ニッケル複合水酸化物の平均粒径を、レーザー散乱回折法による体積基準で5μm~20μmとなるように制御しておくことが好ましい。
【0033】
中和晶析は、公知の方法によって行われればよく、例えば、反応槽に貯めたNH4
+存在下のアルカリ水溶液を一定の温度に加温した後、ニッケル、コバルト、マンガンを含む金属塩水溶液とケイ素を含む金属塩水溶液とアンモニア水溶液を滴下し、その際反応槽内の液のpHが一定になるように水酸化ナトリウム水溶液を滴下して中和晶析させ、ニッケル複合水酸化物の粒子を得ることができる。
【0034】
より具体的には、反応槽に貯留したアンモニア濃度が5~20g/Lの範囲の一定値、pHが12.5~13.0の範囲の一定値に調整された溶液を、大気または酸素濃度が大気よりも低い雰囲気ガス下(通常、大気雰囲気下)で、30℃~50℃の範囲で一定温度に加温する。
次いで、ニッケル、コバルト、マンガンを含む金属塩水溶液を一定速度で一定量滴下して中和晶析処理を行わせる。この際、アンモニア水とアルカリ水溶液を同時に添加し、金属塩水溶液を滴下している間も上記のアンモニア濃度、pHが一定に維持されるようにする。この時に中和晶析により生成した水酸化物粒子は微細で製造する水酸化物粒子の核となるため、この工程を核生成工程と呼ぶこともある。
前記核生成工程が終了した後、反応槽の雰囲気を不活性ガスに切り替え、反応槽内雰囲気の酸素濃度を2容量%以下まで低下させる。同時に、系内pHが11.0~12.5の範囲の一定値になるまでアルカリ水溶液の供給のみを停止する。
酸素濃度および系内pHが目標値まで低下したら、その目標pHを維持できる速度でアルカリ水溶液の供給を再開する。同時に、目的とする添加量に合わせてケイ素金属塩水溶液の添加を行う。目的とする粒径までニッケルコバルトマンガンケイ素複合水酸化物粒子が成長したら、中和晶析を終了させる。核生成工程終了後、目標pHを下げ粒子を成長させるこの工程を粒子成長工程と呼ぶこともある。
粒子成長工程終了後、得られた複合水酸化物を固液分離し、水洗処理、濾過処理、乾燥処理を順に経て、所定組成のニッケルコバルトマンガンケイ素複合水酸化物粒子を得る。
【0035】
この複合水酸化物作成工程では、金属塩水溶液として個々の金属塩を含む水溶液を用い、各水溶液を個別に反応槽に供給してもよいが、組成をより均一なものとするため、予め目標とする金属元素組成となるような割合で各金属塩を混合した混合水溶液として供給することが好ましい。
また、中和晶析により得られた反応槽内の複合水酸化物を、固液分離後、乾燥させるが、複合水酸化物中の不純物を除去するため、得られた複合水酸化物を、乾燥前に水洗しておくことが好ましい。複合水酸化物の乾燥では、後工程での操作が容易になる程度に水分が除去できればよいので、必ずしも高温で乾燥する必要はない。乾燥温度は特に限定されないが、100℃以上、200℃以下とすることが好ましい。乾燥温度が100℃未満の場合には、残留水分を除去するために長時間を要し、また、乾燥温度が200℃より高い場合には、多くのエネルギーが必要となるため、乾燥温度が上記範囲を逸脱することは工業的に適当でない。乾燥時間は特に限定されず、後工程での操作が容易になる程度に水分が除去できればよい。
【0036】
(2-3.混合工程)
混合工程は、晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物とリチウム化合物を混合して、ニッケル、コバルト、マンガン、マグネシウムの原子数の和(Me)に対するリチウムの原子数(Li)の比(Li/Me)が1.03~1.10であるリチウム混合物を得る工程である。
Li/Meは、混合工程で得られるリチウム混合物のLi/Meが、ほぼリチウムニッケル複合酸化物のLi/Meとなり、焼成工程の前後で殆ど変化しない。従って、混合工程では、リチウム混合物のLi/Meが、得ようとするリチウムニッケル複合酸化物のLi/Meと同じになるように混合する。即ち、混合工程では、リチウムニッケル複合酸化物の組成を示す一般式(1)におけるuの値が0.03≦u≦0.10となるように、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物を混合する。
【0037】
リチウム化合物としては、特に限定されることはなく、たとえば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、又はこれらの混合物が、入手が容易であるという点で好ましい。混合工程では、特に、品質の安定性、混合の均一性、更には焼成温度を考慮すると、水酸化リチウム若しくは炭酸リチウムが好ましい。
混合工程では、ニッケル複合水酸化物とリチウム化合物の混合の際に、ニッケル複合水酸化物の形骸が破壊されない程度に均一に混合されればよく、一般的な混合機を使用することができる。そのような混合機としては、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダ等を用いることができる。
【0038】
(2-4.焼成工程)
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中において900℃~1000℃の温度で焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得る工程である。焼成工程では、焼成温度を900℃~1000℃とすることで、カチオンミキシングを抑制しながら、結晶子径が120nm~150nmのリチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。
焼成温度が900℃未満の場合には、ケイ素添加による粒成長抑制効果により結晶構造が不十分となり、電池に用いられた場合に十分な特性が得られない。一方、焼成温度が1000℃を超える場合には、カチオンミキシングが発生し、十分な電池性能が得られない。
【0039】
焼成工程では、焼成時間を、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物が十分に反応する時間とすればよいが、焼成温度での保持時間を2時間以上とすることが好ましく、3時間~24時間とすることがより好ましい。上記焼成温度における保持時間が2時間未満の場合には、ニッケル複合水酸化物中にリチウムが十分に拡散せず、未反応のリチウム化合物やニッケル複合水酸化物が残存したり、得られるリチウムニッケル複合酸化物粒子の結晶性が低下したり、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶性にムラが生じることがある。
なお、焼成工程では、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物との反応を均一に行わせる観点から、昇温速度を1℃/min~5℃/minとして、上記焼成温度まで昇温することが好ましい。更に、焼成工程では、リチウム化合物の融点付近の温度で、1時間~10時間程度保持することで、より反応を均一に行わせることができる。
【0040】
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気であればよいが、酸素濃度が18容量%~100容量%の雰囲気とすることが好ましく、所定酸素濃度の、酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。
即ち、焼成工程では、リチウム混合物の焼成を、水分や炭酸ガスが含まれていない大気又は酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満の場合には、リチウムニッケル複合酸化物の結晶性が低下することがある。
焼成工程に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気又は酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、焼成工程では、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガスの発生がない電気炉が好ましく、バッチ式又は連続式の電気炉の何れも好適に用いることができる。
【0041】
焼成工程によって得られたリチウムニッケル複合酸化物は、凝集又は軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、リチウムニッケル複合酸化物の凝集体又は焼結体を解砕することが好ましい。
焼成工程では、このような操作を行うことによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキング等により生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、例えば、ピンミルやハンマーミル等を使用することができる。なお、リチウムニッケル複合酸化物の凝集体又は焼結体の解砕を行う際には、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0042】
従って、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、少なくとも、混合工程及び焼成工程を有しており、各工程を経ることにより、高容量とサイクル特性及び高温保存特性を高い次元で両立させた、リチウムニッケル複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質を作成することができる。また、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、正極活物質粒子への表面処理工程等を追加することは無いので、従来法のように量産化により工程数を増加させる必要もなく、工業的規模においても容易で生産性を阻害することのないものであり、その工業的価値は極めて高いものといえる。
【0043】
[3]リチウムイオン二次電池
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水電解液等の、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素を備えるものである。なお、以下に説明するリチウムイオン二次電池は、当該二次電池の一例を示したにすぎず、当該二次電池に対し、種々の変更や改良を施すことは可能である。
【0044】
(3-1.構成部材)
<3-1-a.正極>
ここでは、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法により得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下の手順に従って、リチウムイオン二次電池の正極を作製する。
まず、上述した通りに得られた粉末状の正極活物質に、導電材及び結着剤を混合し、更に必要に応じて活性炭や、粘度調整等の溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。正極合材ペースト中の各原料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。例えば、溶剤を除いた正極合材ペースト中の固形分(正極合材)を100質量部とした場合には、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様にして、正極活物質の含有量を60質量部~95質量部とし、導電材の含有量を1質量部~20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部~20質量部とすることができる。
【0045】
次に、得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。また、必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上述の方法に限られることはなく、他の方法を適用してもよい。
【0046】
導電材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛や、アセチレンブラックやケッチェンブラック等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等を用いることができる。
また、ここでは、上述したように、必要に応じて、正極活物質、導電材及び結着剤を分散させた正極合材に、結着剤を溶解する溶剤を添加して正極合材ペーストとすることができる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0047】
<3-1-b.負極>
負極には、金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンを吸蔵及び脱離できる物質等の負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて、電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0048】
負極活物質としては、例えば、金属リチウムやリチウム合金等のリチウムを含有する物質;天然黒鉛、人造黒鉛等のリチウムイオンを吸蔵及び脱離できる物質;フェノール樹脂等の有機化合物焼成体;コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。
負極に用いる結着剤としては、正極に用いた結着剤と同様にして、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができる。また、上述した負極活物質及び結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0049】
<3-1-c.セパレータ>
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等の薄い膜であって、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、両極分離能及び電解質保持能を有する多孔質薄膜であれば、特に限定されることはない。
【0050】
<3-1-d.非水電解液>
非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、及びそれらの複合塩等を用いることができる。
更に、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤等を含んでいてもよい。
また、非水電解液の代わりに固体電解質を用いて二次電池を構成することも可能で有り、該リチウムイオン二次電池用正極活物質は、固体電解質を用いた場合でも優れた電池特性を発現することが予想される。
【0051】
(3-2.形態)
以上の通り説明した正極、負極、セパレータ、非水電解液で構成されるリチウムイオン二次電池は、円筒形、積層形等の種々の形状に形成することができる。
リチウムイオン二次電池は、何れの形状を採る場合であっても、正極及び負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、及び、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。
【0052】
(3-3.特性)
リチウムイオン二次電池は、上述した正極活物質を正極材料として用いているため、出力特性及び耐久性に優れている。しかも、リチウムイオン二次電池は、従来のリチウムニッケル系酸化物からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性や安全性において優れているといえる。
【0053】
(3-4.用途)
本実施形態の二次電池は、エネルギー密度を落とすことなく、高い出力特性と耐久性が両立できる。また、本実施形態の二次電池に用いられる正極活物質は、上記のような工業的な製造方法で得ることができる。本実施形態の二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。
【0054】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、従来のリチウムコバルト系酸化物あるいはリチウムニッケル系酸化物の正極活物質を用いた電池との比較においても、安全性に優れており、さらに容量、耐久性の点で優れている。そのため、小型化、高容量化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、ここでは、特に断りがない限り、正極活物質の製造及び二次電池の製造には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【実施例1】
【0056】
<1.正極活物質の作成>
反応槽(60L)内に水を半分の量まで入れて大気雰囲気中で撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定する。槽内液のpH値が液温25℃基準で12.8に、液中のアンモニア濃度が10g/Lになるように、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を添加し、反応初液とした。
ここに、金属元素モル比でニッケル:コバルト:マンガンの物質量比が50:20:30に、ニッケル、コバルト、マンガンの金属イオン濃度が合計2.0モル/Lとなるように調製した、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの金属塩混合水溶液を、130ml/分の割合で加えた。この時、金属塩混合水溶液の供給中も、pHおよびアンモニア濃度が前記pHおよびアンモニア濃度を維持するように25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を調整しつつ添加し続けた。この晶析操作を2分30秒間行った。
【0057】
その後、窒素ガスを流通させ反応槽内の酸素濃度を2容量%以下まで低下させながら、pH値が液温25℃基準で11.6(核成長pH)になるまで、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止し、pH値が11.6に到達した後、再度25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、加えてメタケイ酸ナトリウム水溶液を添加量に合わせて調整し供給を開始した。pH値を11.6に制御したまま、4時間晶析を継続し、晶析を終了させた。晶析の終了後、生成物を水洗、濾過、乾燥させ、Ni0.50Co0.20Mn0.30Si0.005(OH)2+α(0≦α≦0.5)で表されるケイ素を含むニッケル複合水酸化物粒子を得た。
【0058】
実施例1では、混合水溶液の供給終了後に、ニッケル複合水酸化物のスラリーからニッケル複合水酸化物を固液分離して水洗した。その後、水洗したニッケル複合水酸化物から、再度、ニッケル複合水酸化物を固液分離して乾燥し、粉末状のニッケル複合水酸化物を得た。
その後、Li/Me=1.05(u=0.05)となるように水酸化リチウムを秤量し、得られたニッケル複合酸化物とを混合して、リチウム混合物を得た。
実施例1では、得られたリチウム混合物を大気雰囲気中にて、940℃で12時間保持して焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。得られた正極活物質の結晶子径を、X線回折装置(PANalytical製 X‘Pert PRO)による測定から得られた(003)面半価幅から、Scherrerの計算式により結晶子径を求めた。また、ICP発光分光分析法により正極活物質の組成を確認した。
なお、実施例1では、得られた正極活物質の作成条件、並びに測定した組成及び結晶子径を表1にまとめた。
【0059】
<2.各電池の作製及び評価>
得られた正極活物質の評価は、2032型コイン電池(以下、「コイン型電池」という。)を作製し、コイン型電池で充放電容量と出力特性及び耐久性の評価を行った。
【0060】
(2-1.2032型コイン電池の作製)
コイン型電池は、ケースと、ケース内に収容された電極とから構成されている。ケースは、中空且つ一端が開口された正極缶と、正極缶の開口部に配置される負極缶とを有しており、負極缶を正極缶の開口部に配置すると、負極缶と正極缶との間に電極を収容する空間が形成されるように構成されている。電極は、正極、負極及びセパレータとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極が正極缶の内面に接触し、負極が負極缶の内面に接触するようにケースに収容されている。
なお、ケースはガスケットを備えており、ガスケットによって、正極缶と負極缶との間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケットは、正極缶と負極缶との隙間を密封してケース内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0061】
このコイン型電池を以下のようにして製作した。
まず、正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、及びポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極を作製した。その作製した正極を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。正極と、負極、セパレータ及び電解液とを用いて、コイン型電池を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
なお、負極には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。セパレータには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0062】
(2-2.充放電容量の測定)
実施例1では、作製したコイン型電池を24時間程度放置し、開路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0063】
(2-3.出力特性の測定)
実施例1では、コイン型電池を充電電位4.1VでSOC20%まで充電して、交流インピーダンス法により反応抵抗を測定し、出力特性の指標とした。反応抵抗が小さいほど出力特性に優れた二次電池と判断できる。
【0064】
(2-4.耐久性の測定)
実施例1では、上述した充放電試験を繰り返し、初期放電容量に対する、500回目の放電容量を測定することで、500サイクル後の容量維持率を算出した。
【0065】
(2-5.マンガン溶出の測定)
上述したサイクル特性評価試験後の電池を解体し、得られた負極の組成を分析しマンガン量を測定することで、溶出量を算出した。
なお、実施例1では、得られた正極活物質を用いて作製した各電池の電気的特性の評価結果をそれぞれ表2に示した。
【実施例2】
【0066】
焼成温度を910℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【実施例3】
【0067】
焼成温度を980℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【実施例4】
【0068】
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、z=0.003とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【実施例5】
【0069】
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、z=0.009とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【実施例6】
【0070】
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、u=0.03とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【実施例7】
【0071】
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、u=0.09とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0072】
(比較例1)
ケイ素を添加しない以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0073】
(比較例2)
焼成温度を880℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
【0074】
(比較例3)
焼成温度を1020℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
【0075】
(比較例4)
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、z=0.001とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0076】
(比較例5)
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、z=0.012とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0077】
(比較例6)
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、u=0.01とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0078】
(比較例7)
正極活物質を示す一般式:Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2・・・(1)において、u=0.12とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表1及び表2に示す通り、実施例1から実施例7では、一般式(1):Li1+uNi1-x-y-zCoxMnySizO2(ただし、式中のu、x、y及びzは、0.03≦u≦010、0.2≦x≦0.35、0.2≦y≦0.35、0.003≦z≦0.010)で表され結晶子径が120nm~150nmであるリチウムニッケル複合酸化物を作成したのに対し、比較例1から比較例7では、容量を維持し高い出力特性と耐久性が両立できていないことが分かる。
従って、これらの結果より、リチウムニッケル複合酸化物に規定量のケイ素を含み、結晶子径を成業してやることにより、正極活物質の出力特性と耐久性を向上するが明らかとなった。
【0082】
表1及び表2に示す通り、比較例1では、添加物を含まないリチウムニッケル複合酸化物単独の特性である。比較例2では、規定量内のケイ素を含むものの焼成温度が低いため結晶子径が小さく結晶構造が不十分となり十分な容量が得られず出力特性も悪化している。比較例3では、規定量内のケイ素を含むものの焼成温度が高いため結晶子径が大きく充放電に伴う体積変化に対応できず耐久性の改善がみられない。比較例4では、ケイ素添加量が少ないため出力特性の改善がみられない。比較例5では、ケイ素添加量が多いため充放電に寄与しないリチウムシリケイトが増え容量が低下している。比較例6では、Li/Meが低いため出力特性が悪化している。比較例7では、Li/Meが高いため余剰Liが増加し容量が低下している。