(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂、樹脂組成物、水性塗工液、保護層及び感熱記録媒体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20221025BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20221025BHJP
C08F 8/16 20060101ALI20221025BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20221025BHJP
B41M 5/42 20060101ALI20221025BHJP
B41M 5/44 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C08L29/04 Z
C08F216/06
C08F8/16
C09D129/04
B41M5/42 220
B41M5/44 220
(21)【出願番号】P 2018124755
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2017130210
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒田 真由佳
(72)【発明者】
【氏名】万代 修作
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】井久保 智史
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-036028(JP,B1)
【文献】特開2011-084738(JP,A)
【文献】特開2015-038168(JP,A)
【文献】特開2016-113484(JP,A)
【文献】特開昭49-087811(JP,A)
【文献】特公昭42-013013(JP,B1)
【文献】Tohei Moritani et al.,Functional modification of poly(vinylalcohol) by copolymerization: 1. Modification with carboxylic monomers,POLYMER,1997年,Volume 38 Number 12,p.2933-2945
【文献】櫻田一郎, 川嶋憲治,アクリル酸メチルと醋酸ビニルとの共重合物の組成並びに構造について,高分子化学,1951年,8巻 74号,p.142-149,https://doi.org/10.1295/koron1944.8.74_142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08F 216/06
C08F 8/16
C09D 129/04
B41M 5/44
B41M 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基およびラクトン環を含有するポリビニルアルコール系樹脂
であって、カルボキシル基の変性率が0.1~20モル%、ラクトン環の変性率が0.1~20モル%であり、ラクトン環変性率(モル%)/カルボキシル基変性率(モル%)の値が、0.3~2であ
るポリビニルアルコール系樹脂、及び架橋剤を含有することを特徴とする
樹脂組成物。
【請求項2】
前記ラクトン環の炭素数が3~10であることを特徴とする請求項1
に記載の樹脂組成物脂。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、60~100モル%であることを特徴とする請求項1又は2記載の
樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の
樹脂組成物を含有することを特徴とする水性塗工液。
【請求項5】
請求項
4記載の水性塗工液から形成されることを特徴とする保護層。
【請求項6】
請求項
5記載の保護層を少なくとも1層有することを特徴とする感熱記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基およびラクトン環を含有するポリビニルアルコール系樹脂に関するものであり、更に、かかるポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤を含有する樹脂組成物、及びかかるポリビニルアルコール系樹脂又は樹脂組成物を含有する水性塗工液、かかる水性塗工液から形成される保護層、及びかかる保護層を含有する感熱記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と略記する。)は、優れた水溶性、界面特性(分散性、保護コロイド性等)、皮膜特性(造膜性、強度、耐油性等)等を利用して、分散剤、乳化剤、懸濁剤、繊維加工剤、紙加工剤、バインダー、接着剤、フィルム等に広く用いられている。
かかる水溶性を利用し、溶剤不要の水性塗工液として、感熱記録媒体の保護層等に好適に用いられている。
【0003】
感熱記録媒体は、支持基材上に、例えばロイコ染料、顕色剤及び分散剤を含む水分散液を塗工・乾燥して形成された感熱発色層を有しており、加熱によりロイコ染料と顕色剤が溶融して混ざり合い、反応して発色する。更に、感熱発色層の上には、保護層が設けられ、感熱発色層を、水や油などの汚れなどから保護している。
しかしながら、PVA系樹脂は水溶性であるため耐水性に乏しいため、水にさらされたり、高湿度下に置かれたりするような用途に適用する際にはPVA系樹脂の耐水性が必要であり、そのため、PVA系樹脂の耐水化の検討が種々行われている。
【0004】
PVA系樹脂の耐水化として、架橋剤を配合することが有効であり、架橋剤との反応性を高めるため、PVA系樹脂として、各種の変性PVA系樹脂が提案されている。
中でも、高い反応性を有することから、カルボキシル基を含有するPVA系樹脂が用いられている。また、カルボキシル基含有PVA系樹脂は、エポキシ系化合物と反応するため、架橋剤としてポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン樹脂が広く用いられている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-013470号公報
【文献】特開2013-220589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2で得られるカルボキシル基含有PVA系樹脂であっても、更なる耐水性の向上のためには、まだまだその最適化検討の余地があった。
そこで、本発明は、このような背景下において、架橋剤と反応させて得られる架橋構造体の耐水性に優れるPVA系樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに、本発明者等は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、カルボキシル基とラクトン環の変性率を特定の比率とすることにより、耐水性に優れる表面保護等を提供することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂において、ラクトン環変性率(モル%)/カルボキシル基変性率(モル%)の値が、0.3~2であることを特徴とするポリビニルアルコール系樹脂に関するものである。
【0009】
また、本発明では、前記PVA系樹脂と架橋剤との樹脂組成物、かかる樹脂組成物を用いてなる水性塗工液、かかる水性塗工液から形成される保護層、更には、かかる保護層を有する感熱記録媒体をも提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPVA系樹脂は、耐水性に優れた表面保護層等を提供することができるものであり、例えば、感熱記録媒体の保護層とした場合などに、耐水性に優れるため、使用時あるいは保管時等に水に濡れたとしても、保護層が溶解し、記録面同士が貼り付いてしまうこともない感熱記録媒体を提供することができるものである。
【0011】
本発明においては、ラクトン環の存在により、PVA系樹脂全体の親水・疎水の均衡が従来よりも疎水側に傾く。そのため、架橋剤との距離が縮まりやすくなり、結果的にカルボキシル基と架橋剤との反応性を高めることができ、本発明の効果が得られるものと推測される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
〔カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂〕
本発明に用いられるPVA系樹脂は、ラクトン環構造とカルボキシル基とを特定比率で含有するものである。
ラクトン環変性率(モル%)/カルボキシル基変性率(モル%)の値は0.3~2、好ましくは0.5~1.9、更に好ましくは0.7~1.7、殊には1.0~1.5である。かかる比率はこれまでのカルボキシル基含有PVA系樹脂と比べても大きな数値となるものである。かかる比率が小さすぎると親水性が高く、架橋剤との反応性が悪くなり、耐水性が低下する傾向があり、大きすぎると架橋点が少なくなり耐水性が低下する傾向がある。
【0014】
本発明のカルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂のカルボキシル基の変性率は0.1~20モル%が好ましく、更には0.1~10モル%、特には0.5~5モル%が好ましい。かかるカルボキシル基の変性率が少なすぎると、架橋剤と共に用いた場合に耐水性が低下する傾向があり、逆に多すぎると塗工液とした際に塗工が困難となる傾向がある。
【0015】
また、ラクトン環の変性率は、0.1~20モル%が好ましく、更には0.1~10モル%、特には0.5~5モル%が好ましい。かかるラクトン環の変性率が少なすぎると架橋剤との相溶性が低下する傾向があり、逆に多すぎると塗工液とした際に塗工が困難となる傾向がある。
【0016】
ラクトン環は、例えば、炭素数3~10のものが挙げられ、例えば、α-アセトラクトン(C=2)、β-プロピオラクトン(C=3)、γ-ブチロラクトン(C=4)およびδ-バレロラクトン(C=5)などが挙げられる。
中でも、本発明の効果が得られやすい点から、炭素数4のγ-ブチロラクトンが好ましい。
【0017】
本発明のPVA系樹脂のカルボキシル基及びラクトン環の変性率は、NMRを用いて測定する。
即ち、1H-NMR測定において、溶媒:重水、測定温度50℃、積算回数16回、400Hzで、Bruker社製の「AVANCE III HD」を用いて測定する。
【0018】
例えば、カルボキシル基はカルボン酸又はその塩として存在し、ラクトン環は炭素数4である場合において、各チャートの帰属について主なものを以下に示す。
【0019】
【化1】
[
1H-NMR]
1:2.4~2.7ppm
2:2.4~2.9ppm
3:2.9~3.35ppm
上記で測定したNMRのピーク面積により、各構造の変性率を算出する。
【0020】
また、カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726準拠)は通常60~100モル%、好ましくは70~99モル%、特に好ましくは80~98モル%、更に好ましくは90~95モル%である。かかるケン化度が小さすぎると水溶性が低下する傾向がある。
【0021】
また、カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂の重合度(JIS K 6726準拠)は通常200~4000、好ましくは300~3000、特に好ましくは1000~2000である。かかる重合度が大きすぎると水溶液の粘度が上昇する傾向があり、小さすぎると耐水性が低下する傾向がある。
【0022】
本発明のPVA系樹脂の製造方法は、例えば、(1)カルボキシル基を有する不飽和単量体及びビニルエステル系化合物より共重合体を得た後、該共重合体をケン化する方法において、ケン化終了時に酢酸などの酸を添加する方法、(2)カルボキシル基を有するアルコールやカルボキシル基を有し、かつアルデヒドあるいはチオール等の官能基を有する化合物を連鎖移動剤として共存させてビニルエステル系化合物を重合した後に、アルカリ金属水酸化物等の触媒でケン化する方法において、ケン化終了時に酢酸などの酸を添加する方法、(3)上記の(1)又は(2)の方法でケン化し、カルボキシル基含有PVA系樹脂を製造した後にPVA系樹脂水溶液を作製し、酢酸などの酸を添加する方法等が挙げられるが、(1)又は(3)の方法が樹脂の製造面、性能面から実用的である。
【0023】
また、本発明においては、カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂の中でも、ビニルエステル系単量体との重合性が高く得られやすい点でマレイン酸変性PVA系樹脂、イタコン酸変性PVA系樹脂が好ましく、更には取扱いの点でマレイン酸変性PVA系樹脂が好ましい。
【0024】
以下、(1)の方法について更に具体的に説明する。
上記カルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、エチレン性不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、等)、又はエチレン性不飽和カルボン酸モノエステル(マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル、等)、又はエチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル(マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、等)、又はエチレン性不飽和カルボン酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸、等)、あるいは(メタ)アクリル酸等の単量体、及びこれらの塩が挙げられ、エチレン性不飽和カルボン酸モノエステル又はその塩が好適に使用される。
中でも、ビニルエステル単量体との反応性の点でエチレン性不飽和カルボン酸モノエステルが好ましく、更にはマレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルが好ましく、特にはマレイン酸モノアルキルエステルが好ましい。
【0025】
また、ビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独又は併用で用いることができるが、実用性の点で特に酢酸ビニルが好ましい。
【0026】
本発明においては、カルボキシル基を有する不飽和単量体及びビニルエステル系化合物との重合の際に上記の如きカルボキシル基を有する単量体、ビニルエステル系化合物以外に、飽和カルボン酸のアリルエステル(ステアリン酸アリル、ラウリン酸アリル、ヤシ油脂肪酸アリル、オクチル酸アリル、酪酸アリル等)、α-オレフィン(エチレン、プロピレン、α-ヘキセン、α-オクテン、α-デセン、α-ドデセン、α-ヘキサデセン、α-オクタデセン等)、アルキルビニルエーテル(プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、テトラデシルビニルエーテル、ヘキサデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等)、アルキルアリルエーテル(プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル、オクチルアリルエーテル、デシルアリルエーテル、ドデシルアリルエーテル、テトラデシルアリルエーテル、ヘキサデシルアリルエーテル、オクタデシルアリルエーテル等)、更には、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アリルスルホン酸塩、エチレン性不飽和スルホン酸塩、スチレン、塩化ビニルなどの(ビニルエステルと)共重合しうる単量体を10モル%以下、好ましくは5%以下存在せしめて重合を行なっても良い。共重合するに当たっては特に制限はなく、公知の重合方法が任意に用いられるが、普通メタノールあるいはエタノール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。
【0027】
かかる方法において単量体の仕込み方法としては、まずビニルエステル系化合物の全量と前記カルボキシル基含有不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的に又は分割的に添加する方法、一括仕込みする方法等任意の手段を用いて良い。共重合反応は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行なわれる。又、反応温度は50℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0028】
上記の如くして得られた共重合体は、次にケン化されてカルボキシル基含有PVA系樹脂となる。ケン化に当たっては、共重合体をアルコールや酢酸エステルまたはこれらの混合溶媒に溶解しアルカリ触媒の存在下に行なわれる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられ、また、酢酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。アルコール中の共重合体の濃度は通常20~50重量%の範囲から選ばれる。ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いて行われる。かかる触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して通常1~100ミリモル当量である。
【0029】
上記のケン化反応を停止する際に、酢酸などの酸を多く添加することによりカルボン酸基の一部がラクトン環構造となり、本発明のPVA系樹脂が得られる。
酸の添加量としては、ケン化触媒の投入量や目標のケン化度により変化するが、PVA系樹脂100重量部に対して、例えば、0.01~10重量部、好ましくは0.05~5重量部、特に好ましくは0.1~3重量部である。
酸としては、例えば、硝酸、塩酸、リン酸などが用いられるが、安全性の点から酢酸が好ましい。
また、酸を添加した後のpHは、10.0以下が好ましく、より好ましくは1.0~7.0、さらに好ましくは1.5~5.0であり、特に好ましくは2.0~4.5である。かかるpHが高すぎると本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。
【0030】
〔架橋剤〕
本発明においては、上記カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂と架橋剤を含有して樹脂組成物とする。
本発明で用いられる架橋剤としては、例えば、ポオキサゾリン基を有する化合物、グリオキザール誘導体、メチロール誘導体、エピクロルヒドリン誘導体などのエポキシ化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン、ヒドラジド誘導体、カルボジイミド誘導体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐水性の点で、エポキシ化合物が好ましく、更にはエピクロルヒドリン誘導体が特に好ましい。更に、エピクロルヒドリン誘導体としては、ポリアミドポリアミンにエピクロロヒドリンを付加した化合物(以下、ポリアミドポリアミン-エピクロロヒドリン系樹脂と表記することがある。)が特に好ましい。
【0031】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、上記のカルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂と架橋剤を含有するものである。
本発明の樹脂組成物における、架橋剤の含有量はカルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂100重量部に対して、0.5~50重量部であることが好ましく、特には1~25重量部、更には2~15重量部であることが好ましい。
かかる架橋剤の含有量が多すぎても少なすぎても耐水性が低下する傾向がある。
【0032】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果に影響がない程度に、カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂と架橋剤以外の成分を含んでも良く、例えば、有機又は無機フィラー、アクリル系エマルション、界面活性剤、滑剤などが挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物の混合方法としては、(i)カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂水溶液と架橋剤の水溶液を混合する方法、(ii)カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂水溶液に固体状の架橋剤を配合する方法、(iii)架橋剤の水溶液に固体状のカルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂を配合する方法などが挙げられる。中でも、均一混合が容易な点から(i)の方法が好ましい。
【0034】
〔水性塗工液〕
本発明の水性塗工液は、上記の樹脂組成物及び水を含有するものである。
かかる水性塗工液の固形分濃度は、通常0.1~50重量%、好ましくは1~20重量%とすることが好ましく、かかる濃度が低すぎると、本発明の効果を充分に発揮できない傾向があり、逆に高すぎると塗工液の粘度が高くなるため、塗工が困難になる傾向がある。
【0035】
また、塗工液のpHとしては10.0以下が好ましく、より好ましくは1.0~7.0、さらに好ましくは1.5~5.0、特に好ましくは2.0~4.5である。pHが高すぎると本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。pHを調整する場合には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、クエン酸、酒石酸、蓚酸、酢酸などの有機酸、あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどの塩基性化合物でpH調整すればよい。
【0036】
本発明においては、更に、水性塗工液に必要に応じて熱可塑性樹脂、顔料、その他添加剤等を配合することもできる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物などが挙げられ、中でも耐水性の点からアクリル系樹脂が好ましい。
上記の熱可塑性樹脂の配合量は、塗工液の固形分全体の通常10~70重量%、好ましくは20~60重量%である。
上記顔料としては、例えば、ナイロン樹脂フィラー、尿素・ホルマリン樹脂フィラー、デンプン粒子等の有機顔料が挙げられ、その他の添加剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パラフィンワックス等の滑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、蛍光染料、剥離剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0037】
〔保護層〕
本発明の保護層は、上記の水性塗工液から形成されるものである。かかる水性塗工液を、各種基材などに塗工して水分を除去することにより、保護層となる。水分を除去する場合には、通常水性塗工液を塗工した後に乾燥するわけであるが、かかる乾燥条件としては、通常は5~150℃、さらには30~120℃、特には50~110℃の温度条件で行うことが好ましく、0.01~60分、さらには0.1~30分、特には0.2~20分の乾燥時間で行うことが好ましい。
かかる保護層の厚みは、通常0.01~100μm、好ましくは0.05~20μm、特に好ましくは0.1~10μmである。かかる厚みが厚すぎると乾燥に時間がかかり、不効率となる傾向があり、薄すぎると耐水性が低下する傾向がある。
塗工量としては、通常0.1~20g/m2、好ましくは0.2~15g/m2、特に好ましくは0.3~10g/m2である。
【0038】
本発明の保護層は、感熱記録媒体の保護層として好適に用いられ、本発明の水性塗工液を感熱発色層の上に塗工して、乾燥することにより形成される。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、各種用途に用いることもできるが、上述の通り感熱記録媒体の保護層として非常に有用であり、以下、感熱記録媒体について説明する。
【0040】
〔感熱発色層〕
感熱記録媒体には、基材上に感熱発色層が設けられるのであるが、かかる感熱発色層は、バインダー(例えば、PVA系樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン類、ラテックス類等)にさらに発色性物質と顕色剤を配合した水溶液(発色液)を得た後、該水溶液を基材に塗工することにより形成させることができる。
この時の発色性物質や顕色剤は水溶液中ではブロッキングするのでビーズミル、ボールミル、ビスコミル等で0.1~5μm程度に粉砕される。
【0041】
上記の発色性物質としては、例えば、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-フタリド、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド[クリスタルバイオレットラクトン]、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジエチルアミノフタリド、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-クロロフタリド、3-ジメチルアミノ-6-メトキシフルオラン、7-アセトアミノ-3-ジエチルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-5,7-ジメチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-5,7-ジメチルフルオラン、3,6-ビス-β-メトキシエトキシフルオラン、3,6-ビス-β-シアノエトキシフルオラン等のトリフェニルメタン系染料のロイコ体が挙げられる。
【0042】
また、顕色剤は前記発色性物質と加熱時反応して発色するもので常温以上、好ましくは70℃以上で液化もしくは気化するものが好ましく、例えば、フェノール、p-メチルフェノール、p-ターシャリーブチルフェノール、p-フェニルフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、4,4’-イソプロピリデンジフェノール[ビスフェノールA]、4,4’-セカンダリーブチリデンジフェノール、4,4’-シクロヘキシリデンジフェノール、4,4’-イソプロピリデンビス(2-ターシャリーブチルフェノール)、4,4’-(1-メチル-n-ヘキシリデン)ジフェノール、4,4’-イソプロピリデンジカテコール、4,4’-ペンジリデンジフェノール、4,4-イソプロピリデンビス(2-クロロフェノール)、フェニル-4-ヒドロキシベンゾエート、サリチル酸、3-フェニルサリチル酸、5-メチルサリチル酸、3,5-ジ-ターシャリーブチルサリチル酸、1-オキシ-2-ナフトエ酸、m-オキシ安息香酸、4-オキシフタル酸、没食子酸などが挙げられる。
【0043】
感熱発色層を設けるに当たっては上記のバインダー、発色性物質と顕色剤を配合した水溶液をロールコーター法、エヤードクター法、ブレードコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、ゲートロール法、カーテンコーター法等任意の塗工手段で基材に塗工すればよく、塗工液の固形分は10~60重量%程度とすればよく、該水溶液の塗工量は、乾燥重量で0.1~20g/m2程度である。
【0044】
また、必要に応じて感熱発色層の下にアンダーコート層を設けても良く、アンダーコート層は、公知のPVA系樹脂の他、澱粉、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カゼイン、アクリル酸エステル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体系ラテックスなどの水溶性及び水分散性樹脂や上記で述べた顔料を各々単独あるいは2種以上配合して塗工すればよい。アンダーコート層の塗工に際しては、保護層と同様の塗工方法、塗工液の濃度や塗工量が採用される。
【0045】
〔感熱記録媒体〕
本発明の感熱記録媒体は、基材上に任意の感熱発色層を有し、その上に本発明の保護層用の水性塗工液を塗工して乾燥したものである。
得られる感熱記録媒体は、基材/(アンダーコート層)/感熱発色層/保護層の層構成となる。他に中間層、バック層などを設けてもよい。
【0046】
基材としては、通常、紙(マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙、一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷用紙、上・中・下級紙、新聞用紙、剥離紙、カーボン紙、ノンカーボン紙、グラシン紙など)やプラスチックフィルム(ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム及びこれらの積層体等)などが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0048】
実施例1
〔カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂(1)の作製〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル100部、メタノール26部、マレイン酸モノメチル0.1部(酢酸ビニル総量に対して0.09モル%)を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で60℃まで上昇させてから、重合触媒としてt-ブチルパーオキシネオデカノエート(半減期が1時間になる温度が65℃)を0.001モル%(酢酸ビニル総量に対して)投入し、重合を開始した。重合開始直後にマレイン酸モノメチル2.2部(酢酸ビニル総量に対して2モル%)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート0.008モル%(酢酸ビニル総量に対して)を重合速度に合わせて連続追加し、酢酸ビニルの重合率が73%となった時点で、4-メトキシフェノールを0.01部及び希釈・冷却用メタノールを58部添加して重合を終了した。重合終了時における残存活性触媒量は、反応液総量に対して2ppmであった。
続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度40%に調整して水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して30ミリモルとなる割合で混合し、温度を40~50℃にてケン化反応を行った。ケン化反応により固化した樹脂をカットし、70℃で乾燥し、カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂(1)を得た。
【0049】
〔カルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂(1a)の作製〕
上記で得られたカルボキシル基およびラクトン環を含有するPVA系樹脂(1)の10%水溶液100部を作製し、酢酸を加えて、pHを2.6にした、pH調整済みPVA系樹脂水溶液を得た。
かかる水溶液を乾燥させ、カルボキシル基変性率0.90モル%、ラクトン環変性率1.10モル%のPVA系樹脂(1a)を得た。酢酸ビニル成分のケン化度は94モル%、平均重合度は1700であった。
【0050】
〔NMR測定〕
下記の条件でNMR測定を行って、PVA系樹脂(1a)のラクトン環の変性率及びカルボキシル基の変性率を測定した。
1H-NMR測定において、溶媒として重水を用い、PVA系樹脂(1a)の5重量%重水溶液を調整し、測定温度50℃、積算回数16回で、Bruker社製の「AVANCE III HD」を用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0051】
〔キャストフィルムの作製〕
PVA系樹脂(1a)水溶液100部に、ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン樹脂(四日市合成社製 EPA-SK01)の10%水溶液10部を加えて、水性塗工液として、10cm×10cmの型枠が形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、水性塗工液を流しいれて、23℃、50%RHで3日間乾燥させ、膜厚100μmのキャストフィルムを得た。
得られたキャストフィルムについて、以下の評価を行った。
【0052】
〔耐水性評価〕
得られたキャストフィルムを70℃、5分間熱処理をした後、80℃の水に1時間浸漬して、フィルムの溶出率(%)を測定した。なお、溶出率(%)の算出にあたっては、水浸漬前のフィルムの乾燥重量(X1)および水浸漬後のフィルムの乾燥重量(X2)(いずれもg)を求め、下式にて溶出率(%)を算出した。結果を表1に示す。
溶出率(%)=[(X1―X2)/X1]×100
【0053】
実施例2
実施例1において、PVA系樹脂として、pHを4.0とした以外は実施例1と同様にし、カルボキシル基変性率0.92モル%、ラクトン環変性率1.08モル%のPVA系樹脂(1b)を得た。得られたPVA系樹脂(1b)を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
実施例3
実施例1において、PVA系樹脂として、pHを4.1とした以外は実施例1と同様にし、カルボキシル基変性率0.94モル%、ラクトン環変性率1.06モル%のPVA系樹脂(1c)を得た。得られたPVA系樹脂(1c)を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
実施例4
実施例1において、PVA系樹脂として、pHを5.0とした以外は実施例1と同様にし、カルボキシル基変性率1.06モル%、ラクトン環変性率0.94モル%のPVA系樹脂(1d)を得た。得られたPVA系樹脂(1d)を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
実施例1において、PVA系樹脂として、水酸化ナトリウムを加えて、pHを9とした以外は実施例1と同様にし、カルボキシル基変性率1.56モル%、ラクトン環変性率0.44モルモル%のPVA系樹脂(1e)を得た。得られたPVA系樹脂(1e)を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
本発明のPVA系樹脂を用いた実施例1~4は、溶出率が小さく耐水性に優れるものであった。一方、カルボキシル基の含有比率の大きいPVA系樹脂を用いた比較例1は、溶出率が大きく、耐水性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の樹脂組成物は、例えば、感熱記録媒体の保護層とした場合などに、耐水性に優れるため、使用時あるいは保管時等に水に濡れたとしても、保護層が溶解することがない感熱記録媒体を提供することができるものである。