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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】光デジタル・アナログ変換器
(51)【国際特許分類】
   G02F 7/00 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
G02F7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018155199
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020030294
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-12-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】北 翔太
(72)【発明者】
【氏名】新家 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】納富 雅也
(72)【発明者】
【氏名】野崎 謙悟
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05039988(US,A)
【文献】米国特許第05822108(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0159369(US,A1)
【文献】特開平06-160654(JP,A)
【文献】特表2009-544061(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102621768(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0261346(US,A1)
【文献】北翔太ほか,低レイテンシ光デジタル/アナログ変換器の提案,第65回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,18a-B201-1,2018年03月05日
【文献】北翔太ほか,損失がスケールに対して減少する光デジタル/アナログ変換器の提案,第79回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,18p-212A-12,2018年09月05日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
G02B 6/12-6/14
H03M 1/00-1/88
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の光を、バイナリデータであるNビット電気デジタル信号(Nは2以上の整数)の各ビットに対応するN個の光に分岐させると共に、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して所定倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与する第1のスプリッタと、
この第1のスプリッタによって光強度差が付与されたN個の光を、それぞれ前記Nビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別に強度変調する光強度変調器と、
この光強度変調器によって強度変調されたN個の出力光を合流させて出力するコンバイナとを備え、
前記第1のスプリッタは、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して4倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与することを特徴とする光デジタル・アナログ変換器。
【請求項2】
請求項1記載の光デジタル・アナログ変換器において、
前記第1のスプリッタは、1:3の分岐比を有する(N-1)個のY分岐光導波路からなり、
各Y分岐光導波路は、最上流のY分岐光導波路を除く各Y分岐光導波路が、上流のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートから出力される光を入力とするように縦続接続され、
前記Nビット電気デジタル信号の最上位ビットから数えてj番目(jは1~N-1の整数)のビットに対応する光が、最上流からj番目のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が高い方の光出力ポートから出力され、前記最下位ビットに対応する光が、最下流のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートから出力されることを特徴とする光デジタル・アナログ変換器。
【請求項3】
請求項1または2記載の光デジタル・アナログ変換器において、
さらに、前記コンバイナによって合流する光の位相が同相となるように調整可能な第1の移相器を備えることを特徴とする光デジタル・アナログ変換器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光デジタル・アナログ変換器において、
前記コンバイナは、2入力1出力の複数のY合流光導波路を階層的に縦続接続した構成からなることを特徴とする光デジタル・アナログ変換器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光デジタル・アナログ変換器において、
さらに、前記コンバイナの出力光を電気信号に変換する光検出器を備えることを特徴とする光デジタル・アナログ変換器。
【請求項6】
単一の光を、バイナリデータであるNビット電気デジタル信号(Nは2以上の整数)の各ビットに対応するN個の光に分岐させると共に、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して所定倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与する第1のスプリッタと、
この第1のスプリッタによって光強度差が付与されたN個の光を、それぞれ前記Nビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別に強度変調する光強度変調器と、
この光強度変調器によって強度変調されたN個の出力光を合流させて出力するコンバイナと、
単一の光を2等分して、一方の出力光を前記第1のスプリッタに入力する第2のスプリッタと、
前記コンバイナの出力光と前記第2のスプリッタの他方の出力光とを合流させて出力するY合流光導波路と、
このY合流光導波路の出力光を電気信号に変換する光検出器と、
前記Y合流光導波路によって合流する光の位相が同相となるように調整可能な第2の移相器とを備えることを特徴とする光デジタル・アナログ変換器。
【請求項7】
単一の光を、バイナリデータであるNビット電気デジタル信号(Nは2以上の整数)の各ビットに対応するN個の光に分岐させると共に、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して所定倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与する第1のスプリッタと、
この第1のスプリッタによって光強度差が付与されたN個の光を、それぞれ前記Nビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別に強度変調する光強度変調器と、
この光強度変調器によって強度変調されたN個の出力光を合流させて出力するコンバイナと、
単一の光を2等分して、一方の出力光を前記第1のスプリッタに入力する第2のスプリッタと、
前記コンバイナの出力光と前記第2のスプリッタの他方の出力光とを合流させ2等分して出力するカプラと、
このカプラの一方の出力光を電気信号に変換する第1の光検出器と、
前記カプラの他方の出力光を電気信号に変換する第2の光検出器と、
前記第1、第2の光検出器から出力された2つの電気信号の差分を求める減算器と、
前記コンバイナの出力光と、前記第2のスプリッタの他方の出力光との位相差がπ/2となるように調整可能な第2の移相器とを備えることを特徴とする光デジタル・アナログ変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回路を用いた光デジタル・アナログ変換器(DAC)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気回路を用いたデジタル・アナログ変換器(DAC:Digital to Analog converter)は、既に様々な方式のものが提案されており、サンプリングレート、分解能、消費電力、サイズといった性能がそれぞれ異なる。つまり、適用対象によって異なる方式のDACを使い分けているのが現状である。例えば現状の市販品でサンプリングレートは1GS/s程度が高速とされており、分解能は16ビット以上が高分解能とされている。今後の通信または映像技術等の発展により、さらに高速かつ高分解能、低消費電力、小型なDACが要求されると考えられる。また高分解能なDACに要するレイテンシ(遅延)も今後のボトルネックになっていくことが予想される。
【0003】
以上のような要求に応え得るDACとして、光回路を用いた光DACが提案されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、従来の光DACは、一部が電気回路で動いているため、速度が電気回路に律速されてしまうという問題点があり、また膨大な素子や回路規模が必要になるという問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】L.Yang et al.,“Demonstration of a 3-bit optical digital-to-analog converter based on silicon microring resonators”,OPTICS LETTERS,Vol.39,No.19,pp.5736-5739,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、高速かつ高密度に実装可能な光DACを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光デジタル・アナログ変換器は、単一の光を、バイナリデータであるNビット電気デジタル信号(Nは2以上の整数)の各ビットに対応するN個の光に分岐させると共に、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して所定倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与する第1のスプリッタと、この第1のスプリッタによって光強度差が付与されたN個の光を、それぞれ前記Nビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別に強度変調する光強度変調器と、この光強度変調器によって強度変調されたN個の出力光を合流させて出力するコンバイナとを備え、前記第1のスプリッタは、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して4倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の光デジタル・アナログ変換器の1構成例において、前記第1のスプリッタは、1:3の分岐比を有する(N-1)個のY分岐光導波路からなり、各Y分岐光導波路は、最上流のY分岐光導波路を除く各Y分岐光導波路が、上流のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートから出力される光を入力とするように縦続接続され、前記Nビット電気デジタル信号の最上位ビットから数えてj番目(jは1~N-1の整数)のビットに対応する光が、最上流からj番目のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が高い方の光出力ポートから出力され、前記最下位ビットに対応する光が、最下流のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートから出力されることを特徴とするものである。
また、本発明の光デジタル・アナログ変換器の1構成例は、さらに、前記コンバイナによって合流する光の位相が同相となるように調整可能な第1の移相器を備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の光デジタル・アナログ変換器の1構成例において、前記コンバイナは、2入力1出力の複数のY合流光導波路を階層的に縦続接続した構成からなることを特徴とするものである。
また、本発明の光デジタル・アナログ変換器の1構成例は、さらに、前記コンバイナの出力光を電気信号に変換する光検出器を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の光デジタル・アナログ変換器は、単一の光を、バイナリデータであるNビット電気デジタル信号(Nは2以上の整数)の各ビットに対応するN個の光に分岐させると共に、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して所定倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与する第1のスプリッタと、この第1のスプリッタによって光強度差が付与されたN個の光を、それぞれ前記Nビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別に強度変調する光強度変調器と、この光強度変調器によって強度変調されたN個の出力光を合流させて出力するコンバイナと、単一の光を2等分して、一方の出力光を前記第1のスプリッタに入力する第2のスプリッタと、前記コンバイナの出力光と前記第2のスプリッタの他方の出力光とを合流させて出力するY合流光導波路と、このY合流光導波路の出力光を電気信号に変換する光検出器と、前記Y合流光導波路によって合流する光の位相が同相となるように調整可能な第2の移相器とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の光デジタル・アナログ変換器は、単一の光を、バイナリデータであるNビット電気デジタル信号(Nは2以上の整数)の各ビットに対応するN個の光に分岐させると共に、前記Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する光に対して所定倍の光強度を有するように、前記N個の光に光強度差を付与する第1のスプリッタと、この第1のスプリッタによって光強度差が付与されたN個の光を、それぞれ前記Nビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別に強度変調する光強度変調器と、この光強度変調器によって強度変調されたN個の出力光を合流させて出力するコンバイナと、単一の光を2等分して、一方の出力光を前記第1のスプリッタに入力する第2のスプリッタと、前記コンバイナの出力光と前記第2のスプリッタの他方の出力光とを合流させ2等分して出力するカプラと、このカプラの一方の出力光を電気信号に変換する第1の光検出器と、前記カプラの他方の出力光を電気信号に変換する第2の光検出器と、前記第1、第2の光検出器から出力された2つの電気信号の差分を求める減算器と、前記コンバイナの出力光と、前記第2のスプリッタの他方の出力光との位相差がπ/2となるように調整可能な第2の移相器とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1のスプリッタと光強度変調器とコンバイナとから光デジタル・アナログ変換器を構成することにより、低損失化と低レイテンシ化の両立を図ることができ、高速かつ高密度に実装可能な光デジタル・アナログ変換器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施例に係る光DACの構成を示すブロック図である。
図2図2は、ビット数と光DACの演算損失との関係を示す図である。
図3図3は、図1の光DACを実際に運用する具体的な構成のパターンを示す図である。
図4図4は、シミュレーションの対象となる光DACの構成を示すブロック図である。
図5図5は、図4の構成について各ビットの光信号強度の時間変化をシミュレーションで求めた結果を示す図である。
図6図6は、図4の構成について光検出器で検出される電気信号強度の時間変化をシミュレーションで求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係るNビット光DACの構成を示すブロック図である。Nビット光DAC100は、単一の連続レーザ光源(不図示)からの連続レーザ光をNビット電気デジタル信号(Nは2以上の整数)の各ビットに対応するN個の連続光に分岐させると共に、Nビット電気デジタル信号の最下位ビットを除く各ビットに対応する(N-1)個の連続光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する連続光に対して所定倍(本実施例では4倍)の光強度を有するように、各連続光に光強度差を付与する1:Nスプリッタ1と、1:Nスプリッタ1によって光強度差が付与されたN個の連続光をそれぞれNビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別に強度変調する光強度変調器2と、光強度変調器2によって強度変調されたN個の出力光を合流させて出力するN:1コンバイナ3と、N:1コンバイナ3によって合流する光の位相が同相となるように調整可能な移相器4とから構成される。図1の例では、N=4としている。
【0012】
1:Nスプリッタ1は、1:3の分岐比を有するY分岐光導波路10-1と、光入力ポートがY分岐光導波路10-1の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートに接続された、1:3の分岐比を有するY分岐光導波路10-2と、光入力ポートがY分岐光導波路10-2の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートに接続された、1:3の分岐比を有するY分岐光導波路10-3とから構成される。各Y分岐光導波路10-1~10-3の光入力ポートから入力された光の、2つの光出力ポートへの透過率Tは0.25/0.75である。
【0013】
このように、1:Nスプリッタ1は、最上流のY分岐光導波路を除く各Y分岐光導波路が、上流のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートから出力される光を入力とするように、1:3の分岐比を有する1入力2出力の(N-1)個のY分岐光導波路を縦続接続したものである。これにより、Nビット電気デジタル信号の最下位ビット(LSB:Least Significant Bit)を除く各ビットに対応する(N-1)個の連続光がそれぞれ隣接する下位ビットに対応する連続光に対して4倍の光強度を有するように、各連続光に光強度差を付与することができる。
【0014】
Nビット電気デジタル信号の最上位ビット(MSB:Most Significant Bit)から数えてj番目(jは1~N-1の整数)のビットに対応する光は、最上流からj番目のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が高い方の光出力ポートから出力される。LSBに対応する光は、最下流のY分岐光導波路の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートから出力される。
【0015】
光強度変調器2は、Nビット電気デジタル信号のビット毎に設けられるN個の可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)20-1~20-4から構成される。可変光減衰器20-1~20-4は、対応する電気デジタル信号のビット入力が“0”の場合は入力光を遮断し、ビット入力が“1”の場合は入力光を通過させる。これにより、N個の連続光が、それぞれNビット電気デジタル信号の対応するビットに応じて個別にオン/オフされる。
【0016】
可変光減衰器20-1は、Y分岐光導波路10-3の2つの光出力ポートのうち出力強度が低い方の光出力ポートに接続された光導波路5に設けられ、光導波路5を伝播する、LSBに対応する光を、8ビット電気デジタル信号のLSBに応じてオン/オフする。可変光減衰器20-2は、Y分岐光導波路10-3の2つの光出力ポートのうち出力強度が高い方の光出力ポートに接続された光導波路6に設けられ、光導波路6を伝播する、LSBから2番目のビットに対応する光を、8ビット電気デジタル信号の2番目のビットに応じてオン/オフする。
【0017】
可変光減衰器20-3は、Y分岐光導波路10-2の2つの光出力ポートのうち出力強度が高い方の光出力ポートに接続された光導波路7に設けられ、光導波路7を伝播する、LSBから3番目のビットに対応する光を、8ビット電気デジタル信号の3番目のビットに応じてオン/オフする。可変光減衰器20-4は、Y分岐光導波路10-1の2つの光出力ポートのうち出力強度が高い方の光出力ポートに接続された光導波路8に設けられ、光導波路8を伝播する、MSBに対応する光を、8ビット電気デジタル信号のMSBに応じてオン/オフする。
【0018】
N:1コンバイナ3は、2入力1出力の複数のY合流光導波路を階層的に縦続接続した構成からなる。具体的には、N:1コンバイナ3は、光導波路5と光導波路6のそれぞれの伝播光を等しい比率(合流比1:1)で合流させて出力するY合流光導波路30-1と、光導波路7と光導波路8のそれぞれの伝播光を等しい比率で合流させて出力するY合流光導波路30-2と、Y合流光導波路30-1とY合流光導波路30-2のそれぞれの出力光を等しい比率で合流させて出力するY合流光導波路30-3とから構成される。各Y合流光導波路30-1~30-3の2つの光入力ポートそれぞれから入力された光の、光出力ポートへの透過率Tは0.5である。
【0019】
移相器4は、光強度変調器2(可変光減衰器20-1~20-4)が通過状態のときに、N:1コンバイナ3の光出力強度が最大となるように(各Y合流光導波路30-1~30-3によって合流する光の位相が同相となるように)予め位相調整された複数の移相器40-1~40-5から構成される。具体的には、移相器40-1,40-2は、可変光減衰器20-1,20-2が通過状態のときに、Y合流光導波路30-1の光出力強度が最大となるように予め位相調整されている。移相器40-3,40-4は、可変光減衰器20-3,20-4が通過状態のときに、Y合流光導波路30-2の光出力強度が最大となるように予め位相調整されている。移相器40-5は、可変光減衰器20-1~20-4が通過状態のときに、Y合流光導波路30-3の光出力強度が最大となるように予め位相調整されている。
【0020】
このような移相器40-1~40-5の例としては、例えば熱光学効果により光導波路の屈折率を変化させて導波光の位相を制御するヒーター型の移相器、電気光学効果により光導波路の屈折率を変化させて導波光の位相を制御する移相器などがある。
【0021】
本実施例における演算損失Lossは次式のように定義することができる。
【0022】
【数1】
【0023】
式(1)において、Pout_maxはNビット電気デジタル信号の入力が全て“1”であった場合の最大光出力強度、Pinは光入力強度(本実施例ではPin=1に固定)、Aout_maxは光出力振幅であり,Pout_maxの2乗根である。
【0024】
上記のとおりNビット光DAC100への入力光(optical input)の強度をPin=1としたとき、Nビット光DAC100の光出力(optical output)の振幅Aout_maxは次式のようになる。
【0025】
【数2】
【0026】
ここで、TはY合流光導波路30-1~30-3の光強度透過率(理想的には0.5)である。式(2)を式(1)に代入して求めた、ビット数NとNビット光DACの演算損失Lossとの関係は図2のようになる。図2の200は本実施例のNビット光DAC100の演算損失Lossを示し、201は本実施例の1:Nスプリッタ1の代わりに、入力光をN等分する1:Nスプリッタと(N-1)個の固定光減衰器とを用いた場合のNビット光DACの演算損失Lossを示している。
【0027】
(N-1)個の固定光減衰器は、1:NスプリッタによってN等分された連続光のうち、Nビット電気デジタル信号のMSB以外のビットに対応する連続光に、ビット位置に応じた固定量の損失を付加する。具体的には、(N-1)個の固定光減衰器は、MSBから数えてi番目(i=2~Nの整数)のビットに対応する連続光に6×(i-1)[dB]の損失を付加する。
本実施例では、図2から明らかなように、1:Nスプリッタ1の代わりに、入力光をN等分する1:Nスプリッタと(N-1)個の固定光減衰器とを用いた場合のNビット光DACと比較して低損失であることが分かる。
【0028】
以上のように、本実施例では、低損失化と低レイテンシ化(合流側の光路長の最短化)の両立を実現することができ、高速かつ高密度に実装可能な光DACを実現することができる。
【0029】
図1の光DACを実際に運用する具体的な構成のパターンを図3(A)~図3(D)に示す。図3(A)は光出力のまま取り出す場合を示している。この場合、連続レーザ光源101からの連続レーザ光をNビット光DAC100に入力する。
【0030】
図3(B)はNビット光DAC100の光出力を単一の光検出器102で直接検波する場合を示している。この場合、Nビット光DAC100の光出力を光検出器102で光電変換することにより電気信号を得ることができる。
【0031】
図3(C)は特定振幅および位相の連続光をY合流光導波路105で足し合わせてから単一の光検出器106で直接検波する場合を示している。図3(C)の例では、連続レーザ光源101からの連続レーザ光を1:2スプリッタ103によって2等分して、一方の連続光をNビット光DAC100に入力し、他方の連続光をY合流光導波路105によってNビット光DAC100の出力光と合波する。このとき、移相器104については、Y合流光導波路105の光出力強度が最大となるように予め位相調整されている。
【0032】
図3(D)はいわゆるコヒーレント検波をする場合を示している。図3(D)の例では、連続レーザ光源101からの連続レーザ光を1:2スプリッタ107によって2等分して、一方の連続光をNビット光DAC100に入力し、他方の連続光を3dBカプラ(MMIカプラ)109によってNビット光DAC100の出力光と合流させる。移相器108については、Nビット光DAC100から3dBカプラ109に入力される出力光と、1:2スプリッタ107によって分岐された他方の連続光(参照光)との位相差がπ/2となるように予め調整しておけばよい。
【0033】
3dBカプラ109は、Nビット光DAC100の出力光と移相器108によって位相調整された参照光とを等しい比率で合流させ2等分して出力する。光検出器110,111は、それぞれ3dBカプラ109の2つの出力光を電気信号に変換する。減算器112は、光検出器110,111から出力された2つの電気信号の差分を求める。
図3(B)、図3(C)の直接検波の場合は二次関数の非線形な出力となるが、コヒーレント検波の場合は線形な出力となる。
【0034】
以下、本実施例の構成についてOptiwave社製のOptiSystemを用いたシミュレーション結果を示す。ここでは、図4の構成、すなわち図1図3(B)を組み合わせた構成についてのシミュレーション結果を示す。シミュレーションの共通条件は以下のとおりである。
【0035】
(I)レーザ光源101については、波長を1550nm、光強度を1mW、線幅を10MHz、初期位相を-90°とする。
(II)可変光減衰器20-1~20-4については、損失無しとし、LSBのビットレートを10Gbps、消光比無限大、立ち上がり時間および立ち下がり時間を0.05ビット(8ps)とする。各ビットの可変光減衰器20-1~20-4に電気デジタル信号“0000”から“1111”までを順次入力する。
(III)図4の構成で用いる光導波路およびカプラについては、損失無しとし、さらに光路長差による各ビットの光信号の伝搬遅延差および位相ずれも無しとする。したがって、常に同相で光が合流するため、図4の構成では、調整用の移相器40-1~40-5を省いている。
(IV)光検出器102については、変換効率を1A/Wとし、ノイズ無し、帯域無制限とする。
【0036】
図4の構成について、各ビットの光信号強度の時間変化をシミュレーションで求めた結果を図5に示す。図5の縦軸は各ビットの光信号強度、横軸は時間である。図5によれば、N:1コンバイナ3による合流の前に各ビット間で既に4倍(6dB)ずつ強度差がついていることが分かる。
【0037】
光検出器102で検出される電気信号強度Poutの時間変化をシミュレーションで求めた結果を図6に示す。図6によれば、可変光減衰器20-1~20-4に電気デジタル信号“0000”から“1111”までを順次入力することにより、Poutが徐々に増大することが分かる。ただし、前述したとおり直接検波なので2次関数状の出力となり、電気デジタル信号が“1111”のとき,Pout~673μWなので演算損失Loss~1.72dBであった。この電気信号強度Poutの値は、式(2)で得られる値と一致する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、電気デジタル信号を光回路を用いてアナログ信号に変換する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…1:Nスプリッタ、2…光強度変調器、3…N:1コンバイナ、4,40-1~40-5…移相器、5~8…光導波路、10-1~10-3…Y分岐光導波路、20-1~20-4…可変光減衰器、30-1~30-3…Y合流光導波路、100…Nビット光DAC、101…連続レーザ光源、102,106,110,111…光検出器、103,107…1:2スプリッタ、104,108…移相器、105…Y合流光導波路、112…減算器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6