(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】積層体、積層体の製造方法および炭化珪素多結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20221025BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20221025BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B33/02
H01L21/304 621D
(21)【出願番号】P 2018239031
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】北川 泰三
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031527(JP,A)
【文献】特開平11-199323(JP,A)
【文献】特開2002-033291(JP,A)
【文献】特開平08-017745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 33/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが300μm~10mmであり、熱膨張係数が4.0×10
-6(/K)~5.0×10
-6(/K)のカーボン基板と、
前記カーボン基板に成膜する、厚みが300μm~700μmの炭化珪素多結晶膜と、
前記炭化珪素多結晶膜に成膜する、厚みが50μm~200μmであり、熱膨張係数が4.0×10
-6(/K)~5.0×10
-6(/K)のカーボン膜と、
を備える積層体。
【請求項2】
厚みが300μm~10mmであり、熱膨張係数が4.0×10
-6(/K)~5.0×10
-6(/K)のカーボン基板に、化学蒸着によって厚みが300μm~700μmの炭化珪素多結晶膜を成膜する第1成膜工程と、
前記炭化珪素多結晶膜に、化学蒸着によって、厚みが50μm~200μmであり、熱膨張係数が4.0×10
-6(/K)~5.0×10
-6(/K)のカーボン膜を成膜する第2成膜工程と、
を含む、積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法により製造した前記積層体の、前記カーボン基板および前記カーボン膜を燃焼させて除去する燃焼除去工程を含む、炭化珪素多結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記燃焼除去工程後、前記炭化珪素多結晶基板の表面を研磨する研磨工程を含む、請求項3に記載の炭化珪素多結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、積層体の製造方法および炭化珪素多結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(以下、「SiC」とする場合がある)は、ケイ素(以下、「Si」とする場合がある)と炭素で構成される化合物半導体材料である。SiCは、絶縁破壊電界強度がSiの10倍、バンドギャップがSiの3倍と優れているだけでなく、デバイスの作製に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であることなどから、Siの限界を超えるパワーデバイス用材料として期待されている。
【0003】
しかしながら、SiC半導体は、広く普及するSi半導体と比較し、大面積のSiC単結晶基板が得られず、工程も複雑であることから、Si半導体と比較して大量生産ができず、高価であった。
【0004】
SiC半導体のコストを下げるため、様々な工夫が行われてきた。例えば、特許文献1には、SiC基板の製造方法であって、少なくとも、マイクロパイプの密度が30個/cm2以下のSiC単結晶基板とSiC多結晶基板を準備し、前記SiC単結晶基板と前記SiC多結晶炭化珪素基板とを貼り合わせる工程を行い、その後、SiC単結晶基板を薄膜化する工程を行うことで、SiC多結晶基板上にSiC単結晶層を形成した基板を製造することが記載されている。
【0005】
更に、特許文献1には、SiC単結晶基板とSiC多結晶基板とを貼り合わせる工程の前に、SiC単結晶基板に水素イオン注入を行って水素イオン注入層を形成する工程を行い、SiC単結晶基板とSiC多結晶基板とを貼り合わせる工程の後、SiC単結晶基板を薄膜化する工程の前に、350℃以下の温度で熱処理を行い、SiC単結晶基板を薄膜化する工程を、水素イオン注入層にて機械的に剥離する工程とするSiC基板の製造方法が記載されている。
【0006】
このような方法により、1つのSiC単結晶のインゴットから、より多くのSiC基板が得られるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記記載の方法で製造されたSiC基板は、その大部分がSiC多結晶基板である。そのため、SiC多結晶基板とSiC単結晶基板とを貼り合わせたSiC基板の反りの大きさは、SiC多結晶基板の反りの大きさが支配的となる。そのため、カーボン支持基板より分離したSiC多結晶膜の反りが大きいと、このようなSiC多結晶膜をダイオードやトランジスタのデバイス製造工程で使用する際、反りに起因する歩留まりが悪化していた。また、SiC多結晶基板とSiC単結晶基板とを貼り合わせた後のデバイス製造工程において、SiC基板の反りが大きいと、フォトリソグラフィ工程におけるパターン形成不良や、イオン注入工程におけるイオン侵入深さが不均一となる等の問題が生じる。そのため、SiC多結晶膜の反りは小さいことが求められる。
【0009】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、例えば、化学的気相成長法(以下、「CVD法」とする場合がある)によってカーボン支持基板上に窒素ドーピングガスとともにSiC多結晶膜を成膜した後、カーボン支持基板からSiC多結晶膜を分離することでSiC多結晶基板を製造する方法において、SiC多結晶膜の熱膨張係数(4.3~4.5)×10-6(/K)と異なる熱膨張係数を持つカーボン支持基板を用いると、SiC多結晶膜の成膜後の冷却時におけるSiC多結晶膜とカーボン支持基板との体積収縮差により、SiC多結晶膜内に発生した応力不均衡に起因し、SiC多結晶基板の反りが大きくなるという課題を解決することで、反りを低減した高導電率のSiC多結晶基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、CVD法によってカーボン支持基板上にSiC多結晶膜を成膜する工程において、SiC多結晶膜の熱膨張係数(4.3~4.5)×10-6(/K)と異なる熱膨張係数を持つカーボン支持基板を用いても、SiC多結晶膜を成膜後に、所定の厚み以上のカーボン膜を成膜することで、SiC多結晶基板の反りを低減させることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の積層体は、厚みが300μm~10mmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)のカーボン基板と、前記カーボン基板に成膜する、厚みが300μm~700μmの炭化珪素多結晶膜と、前記炭化珪素多結晶膜に成膜する、厚みが50μm~200μmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)のカーボン膜と、を備える。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の積層体の製造方法は、厚みが300μm~10mmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)のカーボン基板に、化学蒸着によって厚みが300μm~700μmの炭化珪素多結晶膜を成膜する第1成膜工程と、前記炭化珪素多結晶膜に、化学蒸着によって、厚みが50μm~200μmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)のカーボン膜を成膜する第2成膜工程と、を含む。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の炭化珪素多結晶基板の製造方法は、上記の積層体の製造方法により製造した前記積層体の、前記カーボン基板および前記カーボン膜を燃焼させて除去する燃焼除去工程を含む。
【0014】
前記燃焼除去工程後、前記炭化珪素多結晶基板の表面を研磨する研磨工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層体、積層体の製造方法および炭化珪素多結晶基板の製造方法によれば、高い導電率を損なうことなく、SiC多結晶基板の反りを低減できる。そのため、横型のダイオード用SiC基板に加え、縦型のダイオード用SiC基板として、デバイス製造工程に供することが可能で、炭化珪素多結晶基板の反りが小さいことでフォトリソグラフィ工程におけるパターン形成不良や、イオン注入工程におけるイオン侵入深さの不均一等を抑制することができ、歩留まりの向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の積層体の一例である積層体100の概略断面図である。
【
図2】
図1とは異なる本発明の積層体の一例である積層体110の概略断面図である。
【
図3】反りの発生した、炭化珪素多結晶膜を成膜したカーボン基板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[積層体]
本発明の積層体は、以下に説明するカーボン基板と、炭化珪素多結晶膜と、カーボン膜と、を備える。
【0019】
〈カーボン基板〉
カーボン基板は、その厚みが300μm~10mmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)の基板である。基板としてカーボンを用いることにより、Si基板のような化学蒸着処理中に熱による軟化や形状の変化等が発生しないため、成膜中のSiC多結晶膜の反りが発生しない。また、カーボンであれば、燃焼によってSiC多結晶膜を容易に分離することができる。
【0020】
カーボン基板は、その厚みが300μm未満の場合には、成膜したSiC多結晶膜の内部応力により、カーボン基板にSiC多結晶膜が成膜した状態で反りが発生し、不具合を招来するおそれがある。また、厚みが10mmよりも厚いと、成膜装置のチャンバ-へ設置できる基板の数が少なくなるため、一度の成膜処理によってSiC多結晶膜を化学蒸着させることのできるカーボン基板の枚数が少なくなり、生産性が低下するおそれがある。基板の厚みが300μm~10mmであれば、上記のような反りが発生せず、また、生産性を維持することができる。
【0021】
また、カーボン基板は、その熱膨張係数が、4.0×10-6(/K)未満の場合には、カーボン基板としての黒鉛が等方性黒鉛ではなくなって、方位依存性を持ち、膨張によってカーボン基板自体の形状が変わって、SiC多結晶膜が割れるおそれがある。また、熱膨張係数が5.0×10-6(/K)を超えると、成膜したSiC多結晶膜の反りが大きくなるおそれや、クラックが発生するおそれがある。カーボン基板の熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)であることによって、このようなSiC多結晶膜の割れ、反り、クラックの発生を抑制することができる。
【0022】
〈炭化珪素多結晶膜〉
炭化珪素多結晶膜は、カーボン基板に成膜する、厚みが300μm~700μmの膜である。例えば、後述する積層体の製造方法により、カーボン基板へ化学蒸着によってSiC多結晶膜を成膜することができる。
【0023】
炭化珪素多結晶膜の厚みは、SiC基板に用いる多結晶膜として一般的なものであり、300μm~700μmから外れた厚みの場合には、SiC単結晶基板の貼り合わせや、SiC単結晶基板の薄膜化に不具合が生じるおそれがある。また、炭化珪素多結晶膜の膜厚については、デバイス作製工程からの要求もあり、例えば炭化珪素多結晶膜が薄い場合、製造プロセスやハンドリングで割れや曲がりが発生するおそれがある。また、炭化珪素多結晶膜が厚い場合、デバイス作製後に不要な多結晶膜を除去する際に、加工量が多く経済性が悪くなるおそれがある。
【0024】
〈カーボン膜〉
カーボン膜は、炭化珪素多結晶膜に成膜する、厚みが50μm~200μmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)の膜である。SiC多結晶膜をカーボン基板とカーボン膜で挟むことにより、カーボン基板とSiC多結晶膜の熱膨張係数が異なることに起因する、カーボン基板を分離した後のSiC多結晶膜の反りを緩和することができる。また、カーボン膜であれば、カーボン基板と同様に、燃焼によってSiC多結晶膜を容易に分離することができる。
【0025】
カーボン膜は、その厚みが50μm未満の場合には、SiC多結晶膜の反りを緩和する効果が十分に得られないおそれがある。また、厚みが200μmよりも厚いと、カーボン膜の成膜に時間がかかり、生産性が低下するおそれや、カーボン膜が厚くなりすぎることにより、SiC多結晶膜に反りが発生するおそれがある。カーボン膜の厚みが50μm~200μmであれば、SiC多結晶膜の反りを十分に緩和することができ、また、生産性も維持することができる。
【0026】
また、カーボン膜は、その熱膨張係数をカーボン基板の熱膨張係数とほぼ同様とする。すなわち、カーボン膜の熱膨張係数を4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)とし、ほぼ同程度の熱膨張係数のカーボンでSiC多結晶膜を挟むことにより、カーボン基板を分離した後のSiC多結晶膜の反りを緩和することができる。
【0027】
なお、積層体におけるSiC多結晶膜の平面の大きさは、直径4インチまたは6インチのいずれでもよい。例えば、後述する積層体の製造方法において、直径4インチまたは6インチのカーボン基板へ化学蒸着によってSiC多結晶膜を成膜することにより、このようなSiC多結晶膜を得ることができる。
【0028】
(その他の構成)
本発明の積層体は、上記の他、その他の構成を備えることができる。例えば、カーボン基板やカーボン膜を燃焼させるための炉内に設置できることを条件として、SiC多結晶膜とカーボン膜からなる複合層を1層のみならず、2層、3層、4層以上と、複数層繰り返し備えてもよい。
【0029】
[積層体の製造方法]
次に、上記した本発明の積層体について、その製造方法の一態様を説明する。かかる製造方法は、以下に説明する第1成膜工程と、第2成膜工程と、を含む。
【0030】
〈第1成膜工程〉
本工程は、厚みが300μm~10mmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)のカーボン基板に、化学蒸着によって厚みが300μm~700μmの炭化珪素多結晶膜を成膜する工程である。カーボン基板の厚み、熱膨張係数、およびSiC多結晶膜の厚みについては、積層体の項目にて説明したとおりである。
【0031】
SiC多結晶膜は、CVD法により化学蒸着させることで成膜される。例えば、カーボン基板を成膜装置の反応炉内に固定し、減圧状態でAr等の不活性ガスを流しながら炉内を反応温度まで昇温させる。反応温度に達したら、不活性ガスを止め、原料ガスおよびキャリアガス等を流すことで、カーボン基板に成膜されたSiC多結晶膜を得ることができる。
【0032】
より具体的には、加熱した、SiC多結晶膜の熱膨張係数と異なるカーボン基板に、1200~1700℃の温度に加熱した、SiC多結晶膜の成分を含む原料ガスやキャリアガス等の混合ガスを供給し、大気圧下においてカーボン基板の表面や気相での化学反応を所定時間行うことにより、SiC多結晶膜を堆積する方法が挙げられる。
【0033】
(原料ガス)
原料ガスとしては、SiC多結晶膜を成膜することができれば、特に限定されず、一般的に使用されるSi系原料ガスやC系原料ガスを用いることができる。Si系原料ガスとしては、例えば、シラン(SiH4)を用いることができるほか、モノクロロシラン(SiH3Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、テトラクロロシラン(SiCl4)などのエッチング作用があるClを含む、塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることもできる。また、C系原料ガスとしては、例えば、メタン(CH4)やプロパン(C3H8)アセチレン(C2H2)等の炭化水素ガスを用いることができる。また、上記のほか、トリクロロメチルシラン(CH3Cl3Si)、トリクロロフェニルシラン(C6H5Cl3Si)、ジクロロメチルシラン(CH4Cl2Si)、ジクロロジメチルシラン((CH3)2SiCl2)、クロロトリメチルシラン((CH3)3SiCl)等のSiとCとを両方含むガスも、原料ガスとして用いることができる。
【0034】
(キャリアガス)
キャリアガスとしては、成膜を阻害することなく、原料ガスを基板へ展開することができれば、一般的に使用されるキャリアガスを用いることができる。例えば、熱伝導率に優れ、SiCに対してエッチング作用がある水素(H2)を用いることができる。
【0035】
(その他のガス)
また、これらの原料ガスおよびキャリアガスと同時に、第3のガスとして、目標とする導電率に見合う量の不純物ドーピングガスを同時に供給することもできる。例えば、導電型をn型とする場合には窒素(N2)ガス、p型とする場合にはトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いることができる。
【0036】
〈第2成膜工程〉
本工程は、炭化珪素多結晶膜に、化学蒸着によって、厚みが50μm~200μmであり、熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)のカーボン膜を成膜する工程である。カーボン膜の厚みおよび熱膨張係数については、積層体の項目にて説明したとおりである。
【0037】
カーボン膜は、CVD法により化学蒸着させることで成膜される。例えば、SiC多結晶膜が成膜したカーボン基板を成膜装置の反応炉内に固定し、減圧状態でAr等の不活性ガスを流しながら炉内を反応温度まで昇温させる。反応温度に達したら、不活性ガスを止め、原料ガスおよびキャリアガス等を流すことで、SiC多結晶膜に成膜されたカーボン膜を得ることができる。
【0038】
より具体的には、加熱されたSiC多結晶膜が成膜したカーボン基板に対し、1200~1700℃の温度に加熱した、カーボン膜の成分を含む原料ガスやキャリアガス等の混合ガスを供給し、大気圧下においてSiC多結晶膜の表面や気相での化学反応を所定時間行うことにより、カーボン膜を堆積する方法が挙げられる。
【0039】
例えば、第1成膜工程により得た、SiC多結晶膜が成膜したカーボン基板を成膜装置の反応炉内に固定し、第2成膜工程を開始することができる。また、第1成膜工程の条件からSi系原料ガスの供給を止めることにより、第1成膜工程から連続して第2成膜工程を行うことができる。
【0040】
(原料ガス)
原料ガスとしては、カーボン膜を成膜することができれば、特に限定されず、一般的に使用されるC系原料ガスを用いることができる。例えば、メタン(CH4)やプロパン(C3H8)アセチレン(C2H2)等の炭化水素ガスを用いることができる。
【0041】
(キャリアガス)
キャリアガスとしては、カーボン膜の成膜を阻害することなく、原料ガスをSiC多結晶膜へ展開することができれば、一般的に使用されるキャリアガスを用いることができる。例えば、第1成膜工程と同様に、水素(H2)を用いることができる。
【0042】
(その他のガス)
また、これらの原料ガスおよびキャリアガスと同時に、第3のガスとして、例えば、エッチングガスとしてHClガスを用いることができる。SiC多結晶膜を成膜する際に、原料ガスやキャリアガスの種類と比率が適当でないと、Si粒が一部生成し、単一なSiC多結晶膜とならない場合があるため、Si粒が生成しないようエッチングガスを原料ガス、キャリアガスと同時に好適な比率で供給することができる。
【0043】
〈その他の工程〉
本発明の積層体の製造方法は、上記した工程以外にも、他の工程を含むことができる。例えば、成膜装置内の基板ホルダーにカーボン基板を複数枚セットする工程や、セットしたカーボン基板を加熱する工程、化学蒸着前のカーボン基板に、成膜を阻害するような何らかの反応が生じないよう、基板を不活性雰囲気下とするべく、アルゴン等の不活性ガスを流通させる工程等が挙げられる。
【0044】
[炭化珪素多結晶基板の製造方法]
次に、本発明の炭化珪素多結晶基板の製造方法について、その一態様を説明する。かかる製造方法は、以下に説明する燃焼除去工程を含む。
【0045】
〈燃焼除去工程〉
本工程は、上記の積層体の製造方法により製造した積層体の、カーボン基板およびカーボン膜を燃焼させて除去する工程である。これにより、カーボン基板およびカーボン膜が消滅して、炭化珪素多結晶膜が残り、これが炭化珪素多結晶基板となる。
【0046】
カーボン基板およびカーボン膜の燃焼除去は、空気中で加熱する等の適宜な方法で行うことができる。加熱条件としては、例えば大気雰囲気下にて1000℃程度に加熱する条件が挙げられる。
【0047】
〈研磨工程〉
本発明の炭化珪素多結晶基板の製造方法は、燃焼除去後、炭化珪素多結晶基板の表面を研磨する研磨工程を含んでもよい。炭化珪素多結晶基板は、例えば半導体の製造に用いられる基板とするのであれば、半導体製造プロセスで使用できる面精度が必要となる。そこで、本工程により、炭化珪素多結晶基板の表面を平滑化することが好ましい。
【0048】
例えば、炭化珪素多結晶基板をダイアモンドスラリーでラップ処理し、ダイアモンドとアルミナとの混合スラリーでハードポリッシュした後に、シリカスラリー(コロイダルシリカ、pH11)でポリッシュするという工程を経て、炭化珪素多結晶基板の表面を平滑化することができる。
【0049】
(その他の工程)
本発明の炭化珪素多結晶基板の製造方法は、上記の工程以外にも、他の工程を含むことができる。例えば、炭化珪素多結晶膜によって完全に被覆されたカーボン基板を燃焼除去させるため、燃焼除去工程の前に炭化珪素多結晶膜の一部を除去してカーボン基板を露出させる露出工程や、研磨工程後の炭化珪素多結晶基板を洗浄する洗浄工程等が挙げられる。
【0050】
露出工程としては、具体的には、ダイアモンドやC-BN(立方晶BN)砥粒を用いたシングルワイヤソーで炭化珪素多結晶膜の外周端部の一部を切断する方法や、研磨ホイールで炭化珪素多結晶膜の外周端部の一部を削り落とすことにより、カーボン基板を露出させることができる。
【0051】
以下、
図1~3を参照しつつ、SiC多結晶基板に反りが発生する要因、およびその反りを本発明によって低減できる理由について、説明する。
【0052】
図3は、炭化珪素多結晶膜を成膜したカーボン基板の概略断面図である。カーボン基板200は、カーボン基板10に対し、上記したCVD法等によってSiC多結晶膜20が成膜したものである。SiC多結晶膜20を成膜後、カーボン基板200が室温へ冷却される際に、体積収縮の影響を受けてカーボン基板200が変形する場合がある。例えば、カーボン基板10の熱膨張係数とSiC多結晶膜20の熱膨張係数が異なることにより、カーボン基板10が側面において内側へ圧縮される方向への内部応力が、SiC多結晶膜20のそれよりも大きくなる場合がある。この場合のように、SiC多結晶膜20よりもカーボン基板10の方の体積収縮率が大きいと、カーボン基板10の表面11は内側へ凹み、SiC多結晶膜20の表面21は外側へ出っ張る状態に変形するような反りが発生する場合がある(
図3(a))。この状態で、燃焼除去工程によってカーボン基板10を燃焼除去すると、残ったSiC多結晶膜20の反りが完全に回復せずに、反りのあるSiC多結晶基板となる場合がある。
【0053】
一方で、カーボン基板10の熱膨張係数とSiC多結晶膜20の熱膨張係数が異なることにより、SiC多結晶膜20が側面において内側へ圧縮される方向への内部応力が、カーボン基板10のそれよりも大きくなる場合がある。この場合のように、カーボン基板10よりもSiC多結晶膜20の方の体積収縮率が大きいと、カーボン基板10の表面11は外側へ出っ張り、SiC多結晶膜20の表面21は内側へ凹む状態に変形するような反りが発生する場合がある(
図3(b))。この状態で、燃焼除去工程によってカーボン基板10を燃焼除去すると、残ったSiC多結晶膜20の反りが完全に回復せずに、反りのあるSiC多結晶基板となる場合がある。
【0054】
図1は、本発明の積層体の一例である積層体100の概略断面図である。積層体100は、カーボン基板10に対し、上記したCVD法等によってSiC多結晶膜20が成膜し、さらにSiC多結晶膜20に対し、カーボン膜30が成膜したものである。積層体100についても、カーボン膜30を成膜後、積層体100が室温へ冷却される際に、体積収縮の影響を受ける。ただし、カーボン基板10とカーボン膜30の熱膨張係数がほぼ同様であることにより、冷却の際の反りの発生を抑制または緩和することができる。
【0055】
例えば、カーボン基板10の熱膨張係数とSiC多結晶膜20の熱膨張係数が異なることにより、カーボン基板10が側面において内側へ圧縮される方向への内部応力が、SiC多結晶膜20のそれよりも大きくなる場合がある。この場合のように、SiC多結晶膜20よりもカーボン基板10の方の体積収縮率が大きくても、カーボン膜30が側面において内側へ圧縮される方向への内部応力が、SiC多結晶膜20のそれよりも大きくなるため、SiC多結晶膜20の両面にあるカーボン基板10とカーボン基板30が応力のバランスをとることができる。これにより、カーボン基板10の表面11が内側へ凹む状態に変形するような反りの発生を抑制または緩和することができる。そのため、燃焼除去工程によってカーボン基板10およびカーボン膜30を燃焼除去しても、残ったSiC多結晶膜20が、後工程に影響するような大幅に反った状態とはならない。
【0056】
また、カーボン基板10の熱膨張係数とSiC多結晶膜20の熱膨張係数が異なることにより、SiC多結晶膜20が側面において内側へ圧縮される方向への内部応力が、カーボン基板10のそれよりも大きくなる場合がある。この場合についても同様に、カーボン基板10よりもSiC多結晶膜20の方の体積収縮率が大きくても、カーボン膜30が側面において内側へ圧縮される方向への内部応力が、SiC多結晶膜20のそれよりも小さくなるため、SiC多結晶膜20の両面にあるカーボン基板10とカーボン基板30が応力のバランスをとることができる。これにより、カーボン基板10の表面11が外側へ出っ張る状態に変形するような反りの発生を抑制または緩和することができる。そのため、燃焼除去工程によってカーボン基板10およびカーボン膜30を燃焼除去しても、残ったSiC多結晶膜20が、後工程に影響するような大幅に反った状態とはならない。
【0057】
図2は、
図1とは異なる本発明の積層体の一例である積層体110の概略断面図である。積層体110は、カーボン基板10の全面に対し、上記したCVD法等によってSiC多結晶膜20が成膜し、さらにSiC多結晶膜20の全面に対し、カーボン膜30が成膜したものである(
図2(a))。これに対し、露出工程によってSiC多結晶膜20の外周端部を除去してカーボン基板10を露出させたものが、
図2(b)に示す積層体110である。
【0058】
積層体110のように、カーボン基板10のおもて面とうら面の両方にSiC多結晶膜20が成膜し、さらにカーボン膜30が成膜したものであっても、積層体100の場合と同様に、カーボン基板10とカーボン膜30が応力のバランスをとることにより、反りの発生を抑制または緩和することができる。そのため、燃焼除去工程によってカーボン基板10およびカーボン膜30を燃焼除去しても、残ったSiC多結晶膜20が、後工程に影響するような大幅に反った状態とはならない。
【0059】
なお、
図3の場合において、カーボン基板10とSiC多結晶膜20の熱膨張係数に大きな差がなく、応力の不均衡が生じない場合には、成膜後に冷却される際においても大きな反りは発生しない。
図1、2の場合についても同様に、カーボン基板10、SiC多結晶膜20およびカーボン膜30の熱膨張係数に大きな差がなく、応力の不均衡が生じない場合には、成膜後に冷却される際においても大きな反りは発生しない。
【実施例】
【0060】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例および比較例によって限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
熱CVD装置の反応管内に、直径4インチまたは6インチ、厚み500μm、熱膨張係数4.9×10-6(/K)のカーボン基板10を1枚ずつ固定し、炉内へArガスを流入させながら排気ポンプにより炉内を減圧化した後、1350℃まで加熱し、その後、Arガスを停止させた。次いで、原料ガスとして、SiCl4、CH4、ドーピングガスとしてN2、キャリアガスとしてH2を混合した混合ガスを190l/minの流量で所定の時間反応管内へ流入させ、化学蒸着を行うことで、厚みが約500μmのSiC多結晶膜20を成膜させた(第1成膜工程)。
【0062】
次いで、原料ガスのうちSiCl4の流入のみを停止させ、他のガスの流入は維持した状態の混合ガスを、190l/minの流量で所定の時間反応管内へ流入させることで、SiC多結晶膜20の上に厚みが約50μmのカーボン膜10を成膜させ、積層体110を得た(第2成膜工程)。その後、ガスの流入を全て停止させて冷却した。
【0063】
得られたカーボン膜の熱膨張係数をレーザ熱膨張計により測定したところ、5.0×10
-6(/K)であった。また、SiC多結晶膜20の外周端部を除去して、カーボン基板10を露出させ、
図2(b)に示す積層体110とした(露出工程)。その後、燃焼除去工程によって積層体110のカーボン基板10およびカーボン膜30を大気雰囲気下の約1000℃で燃焼除去することで(燃焼除去工程)、SiC多結晶膜20を分離し、SiC多結晶基板を得た。SiC多結晶基板の反りについて、SiC多結晶基板の表面の中心線上を斜入射型光学測定器により測定し、得られた測定値の最大値と最小値との差を反り量とした。測定は5点とし、中心、円周端部、および中心と円周端部との間にあり、中心からの距離と円周端部からの距離が同じ地点について、測定した。結果として、反り量は、4インチのSiC多結晶基板で33μm、6インチのSiC多結晶基板では41μmであった。
【0064】
[実施例2]
カーボン基板10の熱膨張係数を4.8×10-6(/K)とし、カーボン膜30の成膜厚みを約80μmとした以外は、実施例1と同様の条件として成膜を実施し、積層体110を得た。得られたカーボン膜30の熱膨張係数は4.8×10-6(/K)であった。また、実施例1と同様の工程により得られたSiC多結晶基板の反り量は、4インチのSiC多結晶基板で36μm、6インチのSiC多結晶基板では45μmであった。
【0065】
[実施例3]
カーボン基板10の熱膨張係数を5.0×10-6(/K)とし、カーボン膜30の成膜厚みを約100μmとした以外は、実施例1と同様の条件として成膜を実施し、積層体110を得た。得られたカーボン膜30の熱膨張係数は4.8×10-6(/K)であった。また、実施例1と同様の工程により得られたSiC多結晶基板の反り量は、4インチのSiC多結晶基板で31μm、6インチのSiC多結晶基板では39μmであった。
【0066】
[比較例1]
カーボン基板10の熱膨張係数を4.8×10-6(/K)とし、カーボン膜の成膜厚みを約10μmとした以外は、実施例1と同様の条件として成膜等を実施し、積層体110と同様にカーボン基板10のおもて面とうら面にSiC多結晶膜およびカーボン膜が成膜した積層体を得た。得られたカーボン膜の熱膨張係数は4.9×10-6(/K)であった。また、実施例1と同様の工程により得られたSiC多結晶基板の反り量は、4インチのSiC多結晶基板で140μm、6インチのSiC多結晶基板では190μmであった。
【0067】
[比較例2]
カーボン基板10の熱膨張係数を4.9×10-6(/K)とし、カーボン膜の成膜厚みを約30μmとした以外は、実施例1と同様の条件として成膜等を実施し、比較例1と同様の積層体を得た。得られたカーボン膜の熱膨張係数は4.8×10-6(/K)であった。また、実施例1と同様の工程により得られたSiC多結晶基板の反り量は、4インチのSiC多結晶基板で80μm、6インチのSiC多結晶基板では120μmであった。
【0068】
[比較例3]
カーボン基板10の熱膨張係数を3.5×10-6(/K)とし、カーボン膜の成膜厚みを約50μmとした以外は、実施例1と同様の条件として成膜等を実施し、比較例1と同様の積層体を得た。得られたカーボン膜の熱膨張係数は4.9×10-6(/K)であった。また、実施例1と同様の工程により得られたSiC多結晶基板の反り量は、4インチのSiC多結晶基板で190μm、6インチのSiC多結晶基板では250μmであった。
【0069】
[比較例4]
カーボン基板10の熱膨張係数を5.5×10-6(/K)とし、カーボン膜の成膜厚みを約50μmとした以外は、実施例1と同様の条件として成膜等を実施し、比較例1と同様の積層体を得た。得られたカーボン膜の熱膨張係数は4.8×10-6(/K)であった。また、実施例1と同様の工程により得られたSiC多結晶基板の反り量は、4インチのSiC多結晶基板で220μm、6インチのSiC多結晶基板では310μmであった。
【0070】
上記の実施例1~3および比較例1~4における、カーボン基板、SiC多結晶膜およびカーボン膜の熱膨張係数、カーボン膜の厚み、SiC多結晶基板の反り量について、これらの結果を表1に示す。なお、表1のSiC多結晶基板の熱膨張係数に幅があるのは、結晶粒の配向に起因して、熱膨張係数を測定する方向で値が変化するためである。
【0071】
【0072】
SiC多結晶基板とSiC単結晶基板とを貼り合わせた後のデバイス製造工程において、フォトリソグラフィ工程におけるパターン形成や、イオン注入工程におけるイオン侵入深さの均一性を考慮すると、SiC多結晶基板の反り量は50μm以下であることが好ましい。実施例1~3の結果より、カーボン基板、SiC多結晶基板およびカーボン膜の、厚みや熱膨張係数を所定範囲に設定することにより、4インチおよび6インチのいずれの大きさのSiC多結晶基板においても、反り量を50μm以下に抑えることができた。
【0073】
一方で、比較例1~4の結果より、カーボン基板の熱膨張係数が4.0×10-6(/K)~5.0×10-6(/K)の範囲に該当しない場合や、カーボン膜の厚みが薄い場合には、SiC多結晶基板の反りを十分に抑制することができなかった。
【0074】
[まとめ]
以上より、本発明であれば、SiC多結晶基板の反りを低減することができるため、横型および縦型のダイオード用SiC基板としてデバイス製造工程に供することが可能である。また、フォトリソグラフィ工程におけるパターン形成不良や、イオン注入工程におけるイオン侵入深さの不均一等を抑制することができ、歩留まりの向上が期待できる。
【符号の説明】
【0075】
10 カーボン基板
11 カーボン基板10の表面
20 炭化珪素多結晶膜(SiC多結晶膜)
21 炭化珪素多結晶膜20の表面
30 カーボン膜
100 積層体
110 積層体
200 炭化珪素多結晶膜が成膜したカーボン基板