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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ピッチ含有水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/02 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
D21H21/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018239846
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020100917
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田口 千草
(72)【発明者】
【氏名】田中 一平
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-319416(JP,A)
【文献】特開2016-083611(JP,A)
【文献】特開2003-221798(JP,A)
【文献】特開2003-155681(JP,A)
【文献】特開2011-026746(JP,A)
【文献】特表2019-535923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
B01D 21/00 - 21/34
C02F 1/00
C02F 1/52 - 1/56
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロピッチを含有する被処理水にポリマーを添加し、
添加後に直接ブランケット式沈降槽に上向流通水するピッチ含有水の処理方法であって、
該ポリマーは、
カチオン性モノマーとアニオン性モノマーおよび/またはノニオン性モノマーとの共重合物であり、
該カチオン性モノマーに由来する構造単位/該アニオン性モノマーに由来する構造単位/該ノニオン性モノマーに由来する構造単位の比率(mol%)が2~90/0~50/0~98で、これらの合計が100mol%となるものであって、かつ、
塩粘度が5~50mPa・sであることを特徴とするピッチ含有水の処理方法。
【請求項2】
前記被処理水は、明細書記載の方法で測定したマクロピッチ含有率が100個/m以下で、ミクロピッチ含有量が870μm/μL以上である請求項1に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項3】
前記ミクロピッチが粒子径0.5~150μmの疎水性懸濁物質であり、前記マクロピッチが粒子径150μmを超える疎水性懸濁物質である請求項2に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項4】
前記被処理水への前記ポリマーの添加量が1~10mg/Lである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項5】
前記ポリマーの添加に先立ち、前記被処理水に無機凝集剤を50~2500mg/L添加する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項6】
前記被処理水が製紙工程における余剰白水の紙料回収工程で得られる分離白水である請求項1ないし5のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項7】
前記ブランケット式沈降槽で得られた分離水を濾過処理する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項8】
ミクロピッチを含有する被処理水の処理装置であって、
該被処理水を通水する通水配管と、
該通水配管にポリマーをライン注入するポリマー添加手段と、
該通水配管の下流端に接続された、上向流通水方式のブランケット式沈降槽とを備え、
該ポリマーは、
カチオン性モノマーとアニオン性モノマーおよび/またはノニオン性モノマーとの共重合物であり、
該カチオン性モノマーに由来する構造単位/該アニオン性モノマーに由来する構造単位/該ノニオン性モノマーに由来する構造単位の比率(mol%)が2~90/0~50/0~98で、これらの合計が100mol%となるものであって、かつ、
塩粘度が5~50mPa・sであることを特徴とするピッチ含有水の処理装置。
【請求項9】
前記被処理水は、明細書記載の方法で測定したマクロピッチ含有率が100個/m以下で、ミクロピッチ含有量が870μm/μL以上である請求項8に記載のピッチ含有水の処理装置。
【請求項10】
前記ミクロピッチが粒子径0.5~150μmの疎水性懸濁物質であり、前記マクロピッチが粒子径150μmを超える疎水性懸濁物質である請求項9に記載のピッチ含有水の処理装置。
【請求項11】
前記ポリマー添加手段による前記被処理水への前記ポリマーの添加量が1~10mg/Lである請求項8ないし10のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理装置。
【請求項12】
前記ポリマー添加手段の前段に、前記被処理水に無機凝集剤を50~2500mg/L添加する無機凝集剤添加手段を備える請求項8ないし11のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理装置。
【請求項13】
前記被処理水が製紙工程における余剰白水の紙料回収工程で得られる分離白水である請求項8ないし11のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理装置。
【請求項14】
前記ブランケット式沈降槽で得られた分離水を濾過処理する濾過手段を備える請求項8ないし13のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ含有水の処理方法及び処理装置に関するものであり、特に製紙工程における分離白水中の粒子径150μm以下のミクロピッチを効率よく除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙製造工程におけるピッチとは、パルプ由来の樹脂成分や再生古紙中の合成粘着物質、製紙工程で使用される添加薬品に由来する有機物を主体とする疎水性の粘着性物質を示す。
ピッチは水中でコロイドとして存在しているが、大きなせん断力やpHの変化、水温の変化、薬剤の添加等でコロイド状態が破壊されることにより水中で析出し、微細なピッチ同士あるいは炭酸カルシウムなどの填料や微細繊維などと凝集物を形成することで、製品へのピッチ凝集物の混入、搾水不良、断紙等を引き起こすことがある。このため、ピッチに起因して、製品の品質及び不留り低下や、設備を停止して抄紙用具等を洗浄することによる生産性低下等の問題が発生する。
【0003】
近年、原料中への古紙配合率の増加や用水原単位の低減が進むにつれて、製紙工程に持ち込まれるピッチ量が増加し、ピッチ障害が多くなるとともに複雑化している。また、古紙の品質によって流入ピッチ量が激しく増減し、処理が安定しないという問題も生じている。
【0004】
ピッチ障害の防止方法としては、薬品による処理と機械的な処理が代表的である。
【0005】
薬品による処理では、合成ポリマーや、界面活性剤、無機凝集剤などが一般的に用いられる。
合成ポリマーの作用機構は、僅かな負電荷を持つピッチをカチオン性の合成ポリマーでパルプに定着させることであるが、荷電反応であるため疎水性が強いピッチに対しては定着作用が劣るという欠点がある。あるいはイオン性に関わらず合成ポリマーによる凝集作用により、フロックへピッチを取り込む方法もあるが、定着作用が弱いために十分な効果を示さない。
界面活性剤はピッチを水中に分散させることを目的に用いられるが、分散させたピッチが抄紙工程を循環することにより濃縮し、薬剤不足あるいはせん断力により薬剤とピッチの結合が剥がれることで、ピッチが粗大化し様々な障害を引き起こす問題がある。
また、無機凝集剤は至適pHがあるため、範囲外の水質においては作用が劣る。
【0006】
機械的な処理に適用される機器としては、パルプ化工程では例えば釜内洗浄機、回転式(真空/加圧)ドラム洗浄機、ディフュージョン洗浄機、ベルト洗浄機、プレス洗浄機などがある。また、抄紙工程では、例えばスクリーンやクリーナー、濾過式ディスクフィルター、加圧浮上装置、凝集沈殿装置などがある。
【0007】
図2は、直列多段に設置したディスクフィルター等の分離装置で紙料回収/ピッチ除去を行う場合の紙料回収工程を示す系統図である。ここで分離された固形物は原料として原質系で再利用される。一方、分離水については、上流側で得られる分離水は高濃度のため、余剰白水側に返送して再び分離して原料を回収するようにし、下流側で得られる分離水は低濃度のため、一部は原質系の濃度調整用に水回収されるが、残部は系外へ排出している場合がある。
【0008】
ここで、用水量のより一層の低減のためには、低濃度側の分離水(低濃度白水)についても、なるべく系外へ排出することなく水回収するべく、さらに高度処理して水回収し、原水側や原質系において再利用することが望まれる。
【0009】
しかし、図2のような紙料回収工程では既に分離しやすいピッチは上流側で原料と共に除去されており、低濃度白水には分離しにくいピッチが多く含まれることとなる。
すなわち、例えば、粒子径150μmを区切りに、これよりも大きなものをマクロピッチ、小さなものをミクロピッチとして分けた場合、通常、マクロピッチは機械的な固液分離処理が可能であるが、ミクロピッチは固液分離できない。
この要因としては、ミクロピッチは表面荷電が小さい傾向があり、凝集剤を添加しても凝集効果もしくは繊維への定着効果が得られにくく、水相と効率的に分離し得ないことが挙げられる。
このため、低濃度白水は、繊維質、マクロピッチ、ミクロピッチといった固形分のうち、ミクロピッチの含有比率が高濃度白水よりも非常に高くなっている。
【0010】
このように低濃度白水はミクロピッチの含有比率が高いことに加え、ピッチ等の固形分濃度が低いため、ピッチ同士あるいは繊維、填料との衝突機会(頻度)も少なく、これを機械的に分離しようとすると、高密度な凝集体を形成するための滞留時間が長く必要となり、装置が大型化してしまう。このようなことから、低濃度白水については機械的な分離処理は困難である。
【0011】
従来、ピッチ除去処理に関する技術については、種々提案がなされているが(例えば、特許文献1)、従来法はいずれも余剰白水や高濃度白水などを処理対象として、主として繊維質やマクロピッチを処理しているものであり、低濃度白水のように、繊維質やマクロピッチが既に固液分離により低減され、除去しにくいミクロピッチの含有比率が相対的に高い排水の処理については検討されていない。
【0012】
なお、ピッチ障害のリスクを評価する上でミクロピッチの定量が重要となるが、上記の通り、ミクロピッチは分離が困難であるため、ミクロピッチのみの分析は非常に難しく、有効な方法は提案されていなかった。しかし、本発明者は、ピッチの持つ疎水基を特徴的な蛍光染料を用いて染色し、観察画像から繊維を除去することで、マクロピッチのみを分離し、水相中のミクロピッチを定量することに成功し、本出願人より特許出願した(特許文献2)。これにより、ピッチ除去処理におけるミクロピッチの除去性能を評価することが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭61-6389号公報
【文献】特開2017-9564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来の機械的処理や凝集処理では除去困難なミクロピッチを、含有ピッチ量が少ない場合であっても、また、含有ピッチ量に変動があっても、効率的に分離除去することができるピッチ含有水の処理方法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、特定のポリマーを用い、ポリマー添加後短時間内に直接ブランケット式沈降槽に上向流通水することで、低濃度白水等のミクロピッチ含有比率が少なく、かつ含有ピッチ量が変動する被処理水中のミクロピッチを効率的に除去することができることを見出した。
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0016】
[1] ミクロピッチを含有する被処理水にポリマーを添加し、添加後に直接ブランケット式沈降槽に上向流通水するピッチ含有水の処理方法であって、該ポリマーは、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーおよび/またはノニオン性モノマーとの共重合物であり、該カチオン性モノマーに由来する構造単位/該アニオン性モノマーに由来する構造単位/該ノニオン性モノマーに由来する構造単位の比率(mol%)が2~90/0~50/0~98で、これらの合計が100mol%となるものであって、かつ、塩粘度が5~50mPa・sであることを特徴とするピッチ含有水の処理方法。
【0017】
[2] 前記被処理水は、明細書記載の方法で測定したマクロピッチ含有率が100個/m以下で、ミクロピッチ含有量が870μm/μL以上である[1]に記載のピッチ含有水の処理方法。
【0018】
[3] 前記ミクロピッチが粒子径0.5~150μmの疎水性懸濁物質であり、前記マクロピッチが粒子径150μmを超える疎水性懸濁物質である[2]に記載のピッチ含有水の処理方法。
【0019】
[4] 前記被処理水への前記ポリマーの添加量が1~10mg/Lである[1]ないし[3]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理方法。
【0020】
[5] 前記ポリマーの添加に先立ち、前記被処理水に無機凝集剤を50~2500mg/L添加する[1]ないし[4]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理方法。
【0021】
[6] 前記被処理水が製紙工程における余剰白水の紙料回収工程で得られる分離白水である[1]ないし[5]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理方法。
【0022】
[7] 前記ブランケット式沈降槽で得られた分離水を濾過処理する[1]ないし[6]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理方法。
【0023】
[8] ミクロピッチを含有する被処理水の処理装置であって、該被処理水を通水する通水配管と、該通水配管にポリマーをライン注入するポリマー添加手段と、該通水配管の下流端に接続された、上向流通水方式のブランケット式沈降槽とを備え、該ポリマーは、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーおよび/またはノニオン性モノマーとの共重合物であり、該カチオン性モノマーに由来する構造単位/該アニオン性モノマーに由来する構造単位/該ノニオン性モノマーに由来する構造単位の比率(mol%)が2~90/0~50/0~98で、これらの合計が100mol%となるものであって、かつ、塩粘度が5~50mPa・sであることを特徴とするピッチ含有水の処理装置。
【0024】
[9] 前記被処理水は、明細書記載の方法で測定したマクロピッチ含有率が100個/m以下で、ミクロピッチ含有量が870μm/μL以上である[8]に記載のピッチ含有水の処理装置。
【0025】
[10] 前記ミクロピッチが粒子径0.5~150μmの疎水性懸濁物質であり、前記マクロピッチが粒子径150μmを超える疎水性懸濁物質である[9]に記載のピッチ含有水の処理装置。
【0026】
[11] 前記ポリマー添加手段による前記被処理水への前記ポリマーの添加量が1~10mg/Lである[8]ないし[10]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理装置。
【0027】
[12] 前記ポリマー添加手段の前段に、前記被処理水に無機凝集剤を50~2500mg/L添加する無機凝集剤添加手段を備える[8]ないし[11]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理装置。
【0028】
[13] 前記被処理水が製紙工程における余剰白水の紙料回収工程で得られる分離白水である[8]ないし[11]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理装置。
【0029】
[14] 前記ブランケット式沈降槽で得られた分離水を濾過処理する濾過手段を備える[8]ないし[13]のいずれかに記載のピッチ含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、低濃度白水のような含有ピッチ量が少なく、また、含有ピッチ量の変動が大きい被処理水であっても、被処理水中に含まれるミクロピッチを効率的に分離除去することができる。
本発明は特に、製紙工程における紙料回収工程の分離白水、特に下流側の低濃度白水中のミクロピッチの除去に有効であり、低濃度白水からミクロピッチを効率的に除去して、その回収再利用を可能とし、系外への排水量を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明のピッチ含有水の処理装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
図2】一般的な製紙工程における紙料回収工程を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明のピッチ含有水の処理方法及び処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0033】
本発明のピッチ含有水の処理方法は、ミクロピッチを含有する被処理水に特定のポリマーを添加し、添加後に直接ブランケット式沈降槽に上向流通水することを特徴とする。
【0034】
本発明のピッチ含有水の処理装置は、ミクロピッチを含有する被処理水を通水する通水配管と、該通水配管に特定のポリマーをライン注入するポリマー添加手段と、該通水配管の下流端に接続された、上向流通水方式のブランケット式沈降槽とを備えることを特徴とする。
【0035】
本発明のピッチ含有水の処理方法及び処理装置で添加するポリマーは、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーおよび/またはノニオン性モノマーとの共重合物であり、カチオン性モノマーに由来する構造単位/アニオン性モノマーに由来する構造単位/ノニオン性モノマーに由来する構造単位の比率(mol%)が2~90/0~50/0~98で、これらの合計が100mol%となるものであって、かつ、塩粘度が5~50mPa・sのものである。
【0036】
[メカニズム]
本発明によれば、上記特定のポリマーを添加して添加後に直接ブランケット式沈降槽に上向流通水することにより、従来の機械的処理や凝集処理では除去困難なミクロピッチを効率的に除去することができる。
本発明によりミクロピッチを効率的に除去し得るメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推定される。
【0037】
特に、余剰白水からの紙料回収工程の分離白水、特に下流側の低濃度白水など、ピッチの濃度が低い水中では、ピッチ同士あるいは繊維、填料との衝突機会が少なく、凝集反応が進行しにくく、また凝集したフロックも高密度になりにくく、通常の凝集沈殿装置や加圧浮上装置による分離が困難であった。これに対して、本発明に従って、ブランケット式沈降槽の直前で特定のポリマーを添加すると共にブランケット式沈降槽の高濃度ブランケットに上向流通水することにより、余剰白水の(低濃度)分離白水に残留するピッチ、繊維、填料、またはこれらの凝集フロックが高濃度ブランケットと頻繁に衝突することになり、凝集反応の効率を向上させると共に、ポリマーが余剰白水の(低濃度)分離白水に残留するピッチ、繊維、填料、またはこれらの凝集フロックとの凝集反応に寄与しやすくなり、高密度な凝集フロックの形成が促進されるものと推定される。
【0038】
また、前述の通り、余剰白水の紙料回収工程(ディスクフィルターなど)の分離白水、特に多段処理の下流側からの低濃度白水は、既に繊維やマクロピッチの相当量が除去されてピッチ中のミクロピッチの含有割合が高くなっている。このような被処理水に特定のポリマーをブランケット式沈降槽の直前で添加することで、繊維やマクロピッチに消費されるポリマーの割合を低減することができ、ブランケット層のペレットへのポリマー付着が効率的に行われ、ブランケット層で十分にミクロピッチを除去することが可能となる。
しかも、水中のピッチが低濃度であることで、却ってポリマーとミクロピッチ以外の繊維やマクロピッチとの接触機会が低減することによっても、ミクロピッチの処理に関与するポリマーの割合が多くなり、ミクロピッチを効果的に分離することができる。
このようなことから、低濃度ピッチ含有水であっても、ブランケット法であれば安定処理が可能である。
なお、被処理水中の繊維はそれ自体がペレットの核になるか、或いはペレットに巻きついて粗大化を推進する。
【0039】
[被処理水]
本発明で処理対象とするミクロピッチを含む被処理水としては、特に製紙工程の余剰白水の紙料回収工程で得られる分離白水が挙げられ、本発明は特に、前述の低濃度白水からのミクロピッチの除去に好適である。
【0040】
即ち、抄紙工程ではピッチコントロール剤と呼ばれる合成ポリマーや、界面活性剤、無機凝集剤が用いられ、その作用はイオン結合による定着と、ピッチにアニオン荷電を持たせることによる分散がある。定着型ピッチコントロール剤が用いられる抄紙工程水中には、イオン結合できなかったノニオン性のミクロピッチが多く残留し、分散剤が用いられた抄紙工程水中にはアニオン化したミクロピッチが多く残留している。
このノニオン性、アニオン性のいずれのミクロピッチに対しても、ブランケット式沈降槽におけるスラッジブランケット層において、ピッチ同士あるいは繊維、填料との衝突機会を増加させることができるため、沈降分離しやすい凝集体の形成が促進される。
【0041】
よって、本発明では、特に、紙製造における抄紙工程からの余剰白水の紙料回収による低濃度白水が特に好適な被処理水となる。具体的には、図2における低濃度白水の送水系路であるA部、或いは、この送水系路から原質系に循環させる水を分離する分離部(例えば中継貯槽)であるB部、或いは残部の、従来系外へ排出している低濃度白水の送水系路であるC部における低濃度白水を処理対象水とすることが好ましく、特に従来、系外に排出している低濃度白水を本発明に従って処理することで、この低濃度白水から水回収を図ることができる。
【0042】
このような低濃度白水の水質の特徴として、原料変動の影響により、SS濃度およびミクロピッチ量の変動が大きいことが挙げられるが、本発明によれば、ブランケット式沈降槽におけるスラッジブランケット層での濾過作用により、ミクロピッチ含有量の変動が大きな水質に対しても良好な処理水を高速で得ることができる。
【0043】
このような低濃度白水等の、本発明で処理対象とするミクロピッチ含有水は、例えば、以下の方法で測定したマクロピッチ含有率が1000個/m以下、好ましくは100個/m以下、例えば0~100個/mの範囲で変動し、ミクロピッチ含有量が870μm/μL以上、好ましくは1300μm/μL以上、例えば1300~1300000μm/μLの範囲で変動するものが挙げられる。
【0044】
ここで、マクロピッチとは、製紙スラリー中に疎水基を染色する特定の蛍光染料を添加した際に染色され、蛍光顕微鏡によって観察測定された粒子径が150μmを超える疎水性懸濁物質であり、また、ミクロピッチとは、同じく蛍光顕微鏡によって観察測定された粒子径が0.5~150μmの疎水性懸濁物質をさす。
【0045】
<マクロピッチ含有率>
以下の方法でマクロピッチを定量評価する。
乾燥重量として20gの製紙スラリーを、円穴スクリーンの振動スクリーンを用いて下から一定の水を流しながら粗選する。粗選した原料は100メッシュの篩で受ける。その後、100メッシュの篩で受けた原料を0.15mmのスリットスクリーンを用いて下から一定の水を流しながら精選する。0.15mmのスリットに残った残渣は、ろ紙(Advantec製、No.2ろ紙、φ185mm)を用いて、円筒手すき機にてろ過する。ろ過残渣は平版乾燥器(PTI製)を用いて95℃、7分間乾燥する。乾燥したろ過残渣を純水で薄めた墨汁に完全に浸漬し、キムタオルで余分な墨汁を吸取り、5分間風乾させた後、再度平版乾燥器を用いて95℃、7分間乾燥する。粉末アルミナを残渣の上に均一に巻き、更に平版乾燥機にて95℃、10分間乾燥させる。乾燥後、粉末アルミナを刷毛で掃くと疎水性のピッチ上にはアルミナが残り、繊維には残らないことから、150μm以上の大きさのピッチが残渣上に浮き彫りになる。これを、画像解析ソフト(DOMAS、PTS製)を用いて150μm以上のピッチの個数を数え、1m2あたりのマクロピッチ含有率として定量評価する。
【0046】
<ミクロピッチ含有量>
前掲の特許文献2に記載の方法に準拠し、以下の方法でミクロピッチを定量評価する。
試料水に蛍光染料を添加し、染色されたピッチを含む試料水の蛍光顕微鏡による観察画像に対して、画像解析ソフトウェアを用いて、下記(a)~(e)の手順で画像解析処理を行う。
(a)カラー画像をグレースケール画像へ変換する変換処理
(b)前記グレースケール画像のノイズを除去し、白黒に2値化する2値化処理
(c)前記2値化処理後の画像の白色領域のうち、アスペクト比が0.2以下の粒子分の領域を除去する除去処理
(d)前記除去処理後の画像の白色領域の各粒子を球体へ概算し、体積(μm)の計測
ここで算出される体積(μm)は、同一条件下で試料水の一部を観察し、画像解析の過程で観察画像中のピッチ面積から各ピッチを球体とみなして体積を概算したものである。
(e)観察した面の面積比と試料水量とから試料水量当たりのミクロピッチ含有量を概算する。
【0047】
[ポリマー]
本発明で被処理水に添加するポリマー(以下、「本発明のポリマー」と称す場合がある。)は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーおよび/またはノニオン性モノマーとの共重合物であり、カチオン性モノマーに由来する構造単位(以下、「カチオン基」と称す場合がある。)/アニオン性モノマーに由来する構造単位(以下、「アニオン基」と称す場合がある。)/ノニオン性モノマーに由来する構造単位(以下、「ノニオン基」と称す場合がある。)の比率(mol%)が2~90/0~50/0~98で、これらの合計が100mol%となるものであって、かつ、塩粘度が5~50mPa・sのものである。
【0048】
即ち、本発明のポリマーは、カチオン性モノマーとノニオン性モノマーからなるカチオン性ポリマー或いはカチオン性モノマーとアニオン性モノマー又はカチオン性モノマーとノニオン性モノマーとアニオン性モノマーからなる両性ポリマーであり、前述の通り、定着型ピッチコントロール剤が用いられる抄紙工程水中には、イオン結合できなかったノニオン性のミクロピッチが多く残留し、分散剤が用いられた抄紙工程水中にはアニオン化したミクロピッチが多く残留していることから、これらノニオン性又はアニオン性のミクロピッチに対して有効に作用する。ピッチコントロールの観点から、本発明のポリマーは、カチオン基や疎水基を有するポリマーが望ましい。
【0049】
本発明のポリマーを構成するカチオン性モノマーとしては、下記一般式(I)で表されるような重合性不飽和二重結合を有する化合物が挙げられる。
【0050】
【化1】
【0051】
上記一般式(I)において、Rは水素原子又はCHであり、Aは酸素原子又はNHであり、Rはヒドロキシル基を置換基として有していてもよい炭素数2~4のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、Rは水素原子、ヒドロキシル基を置換基として有していてもよい炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基であり、Xはハロゲンイオン、スルホン酸イオン、メチル硫酸イオン又は水酸化物イオンである。
【0052】
上記一般式(I)において、Aとしては酸素原子がより好ましい。また、Rとしては、置換基を有さない炭素数2~4のアルキル基がより好ましく、エチル基がさらに好ましい。Rとしては、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。Rとしては、水素原子又は置換基を有さない炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。Xとしては、ハロゲンイオンがより好ましく、塩化物イオンがさらに好ましい。
【0053】
上記一般式(I)で表されるカチオン性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルのような(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル、その4級塩及び酸塩、並びに、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにその4級塩及び酸塩が挙げられる。
【0054】
(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル並びにその4級塩及び酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸ジメチルアミノエチル塩化メチル4級塩、アクリル酸ジメチルアミノエチル塩化ベンジル4級塩、アクリル酸ジメチルアミノエチル塩酸塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチル塩化メチル4級塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチル塩化ベンジル4級塩、及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル塩酸塩等が挙げられる。
【0055】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド並びにその4級塩及び酸塩としては、特に限定されないが、例えば、塩化アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩酸塩、塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、及びジメチルアミノプロピルメタクリルアミド塩酸塩等が挙げられる。
【0056】
これらのカチオン性モノマーは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
上述のカチオン性モノマーの中では、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル4級塩が好適であり、このうち、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル塩化メチル4級塩が好ましく、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドの単独、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドの単独、あるいはアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド及びメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドの組み合わせがさらに好ましい。
【0058】
本発明のポリマーを構成するアニオン性モノマーは、アニオン性を示し、他のモノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限されることなく使用できる。このようなアニオン性モノマーとしては、アニオン基を有し、かつ重合性不飽和二重結合を有するものが挙げられ、具体的には、不飽和酸またはその塩類等が挙げられる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸、メチルプロペン-スルホン酸、これらの酸の塩が挙げられる。塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのアニオン性モノマーは、1種又は2種以上を用いることができる。アニオン性モノマーとしては、これらの中でもアクリル酸が好適である。
【0059】
また、本発明のポリマーを構成するノニオン性モノマーとしては、カチオン基及びアニオン基を有さず、かつ重合性不飽和二重結合を有するものが挙げられ、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、及びダイアセトンアクリルアミド等のN置換低級アルキルアクリルアミド等が挙げられる。これらのノニオン性ビニルモノマーは1種又は2種以上を用いることができる。
これらのノニオン性モノマーの中では、(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0060】
本発明で用いる共重合ポリマーの組成比は、カチオン基/アニオン基/ノニオン基の比率として2~90mol%/0~50mol%/0~98mol%であり、これらの合計が100mol%となる。より好ましくは、カチオン基/アニオン基/ノニオン基の比率は2~50mol%/0~20mol%/30~98mol%である。上記範囲よりもカチオン基が多いと、繊維などアニオン性の懸濁物質との反応性が高まりピッチとの反応性が低下する。また、上記範囲よりもカチオン基が少ないと凝集性が弱いフロックを形成し固液分離性が低下する。また、ノニオン基を含むことでカチオン基およびアニオン基によるポリイオンコンプレックスがゲル化することを抑制し、好ましい。
【0061】
また、本発明のポリマーはスチレン基を有するモノマーを共重合させたものであってもよく、その場合、組成比はカチオン基/アニオン基/スチレン基/ノニオン基の比率が2~50mol%/0~20mol%/2~20mol%/10~98mol%(これらの合計で100mol%)となるように配合される。
【0062】
本発明のポリマーはミクロピッチの捕捉性および形成する繊維フロックの大きさの観点から、塩粘度が5~50mPa・sであり、50mPa・s未満であることが好ましく、5~30mP・sであることがより好ましい。
なお、塩粘度とは、4質量%NaCl溶液中にポリマーを0.5質量%溶解させた試料の25℃での粘度をいう。
塩粘度5~50mPa・sのポリマーは、ミクロピッチを相性よく捕捉することができる。また、このようなポリマーはそれ自体で粗大化して沈降性を得るには時間がかかるが、本発明では、ポリマーの反応が行われている間に、即ち、ポリマー添加後短時間内にブランケット式の沈降分離を行うことで、ピッチを捕捉したポリマーがブランケットを形成するペレットに付着して良好な沈降性を得ることができ、効率よく沈降分離を行うことができる。
また、予めポリマーが沈降槽内のペレットに付着して沈降性を得た状態で、未凝集で沈降槽に流入したピッチを捕捉することで効率よく沈降分離を行うことができる。
一方、塩粘度5mPa・s未満のポリマーでは、フロックの形成において十分な大きさのフロックを形成できず、沈降分離性に劣る。また、50mPa・s超のポリマーでは、ピッチの捕捉性に劣る。
【0063】
被処理水への本発明のポリマーの添加量は、ポリマー濃度として1~10mg/L、特に2~5mg/L程度とすることが好ましい。この範囲よりポリマー添加量が少な過ぎるとポリマーを添加したことによる前述のミクロピッチ分離効果を十分に得ることができず、多過ぎると系内汚れや後段の濾過装置の閉塞が懸念される。
【0064】
[他の凝集剤]
本発明においては、上記の本発明のポリマーと共に、本発明の効果を損なわない範囲でその他のポリマーや無機凝集剤を被処理水に添加してもよい。
例えば、他のカチオン性ポリマーとして、ジアリルジメチルアンモニウムハライド単位を有する重合体、ポリエチレンイミン及びエピクロロヒドリン単位を有する重合体からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを添加することができる。
また、疎水基を有するポリマーとしては、例えば、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコールなどを添加することができる。
無機凝集剤としては、例えばアルミニウム化合物が挙げられる。アルミニウム化合物は特に制限されないが、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミナゾル、珪酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム化合物等である。
他の無機凝集剤として、タルク、ベントナイト、カオリンなども用いることができる。
【0065】
これらは、処理対象の被処理水に対し有効成分の量が0.1~10,000mg/L、特に1~100mg/Lとなるように添加することが好ましい。
【0066】
特に、無機凝集剤を本発明のポリマーの添加に先立って添加して荷電中和を行い、微細フロックを形成することで、処理を安定化することができ、好ましい。即ち、余剰白水の紙料回収工程やその上流では、なるべくピッチが析出しないような条件で通水しているが、濃縮するなど水質条件が変わるとピッチが析出しやすくなる。そこで、本発明のポリマー添加の上流側で無機凝集剤を添加して、析出しやすい環境に調整してピッチを析出させた上で、本発明による処理で析出物を除去することで、処理を安定化することができ、より高度にピッチを除去することが可能となる。
この場合、無機凝集剤の添加量は被処理水に対して50~200mg/L、特に50~100mg/L程度とすることが好ましい。無機凝集剤の添加量が上記下限以上であれば、処理が安定化するが、上記上限を超えてもその添加効果は頭打ちとなり、徒に薬注量が増えて好ましくない。
【0067】
なお、無機凝集剤添加時には必要に応じてpH調整剤などの析出促進剤を添加する。
例えば、上記のアルミニウム系無機凝集剤の場合、酸又はアルカリのpH調整剤の添加で被処理水のpHを5~8、好ましくは5.5~7.5程度に調整することが好ましい。
【0068】
[ブランケット式沈降槽]
本発明では、被処理水に本発明のポリマーを添加した後、短時間内に、具体的には5分以内に直接ブランケット式沈降槽に上向流通水してミクロピッチを分離除去する。
【0069】
ここで、被処理水に本発明のポリマーを添加してから5分を超えた後にブランケット式沈降槽に通水しても前述の凝集体形成促進効果は十分には得られない。本発明のポリマーを添加してからブランケット式沈降槽に通水するまでの時間は5分以内であればよく、この時間は装置設備や作業性から通常3秒~5分、好ましくは10~60秒程度である。
【0070】
このように、本発明のポリマー添加後、短時間内に被処理水をブランケット式沈降槽に通水するために、本発明では被処理水をブランケット式沈降槽に送給する通水配管に本発明のポリマーをライン注入し、ポリマーがライン注入された被処理水をブランケット式沈降槽に上向流通水することが好ましい。
【0071】
以下、図1を参照してライン混合装置とブランケット式沈降槽とを有する本発明のピッチ含有水の処理装置を説明する。なお、図1は本発明のピッチ含有水の処理装置の実施の形態の一例を示すものであって、本発明のピッチ含有水の処理装置は、何ら図1に示すものに限定されない。例えば、図1には、無機凝集剤とpH調整剤添加のための反応槽が設けられているが、無機凝集剤添加のための反応槽とpH調整剤等の析出促進剤添加のための反応槽とを分けて設置してもよい。また、ライン注入の上流側に、混合槽となり得る貯槽が設けられていれば、これらの反応槽を省略することもできる。
【0072】
図1において、1は反応槽、2はブランケット式沈降槽、3は汚泥界面調整槽である。
【0073】
配管11からの被処理水(原水)は、反応槽1内で無機凝集剤とpH調整剤が添加されて凝集処理された後、配管12を経てブランケット式沈降槽2の底部に送給される。この通水配管12に注入配管13から本発明のポリマーがライン注入される。
これらの通水配管や注入配管の構造は、ライン注入された水が、ブランケット式沈降槽2内で均一な上向流として通水されるように沈降槽2に流入させることができる構造であればよく、特に限定されない。
【0074】
沈降槽2の大きさは、理論上の平均流速が、処理対象物質を十分に除去可能な流速以下(一般的には上向流の通水LV1~20m/h程度)となるように設計する。通水時のスラッジブランケット層の高さは、0.4~2.0mの範囲で維持されるのが好ましい。スラッジブランケット層の高さを維持もしくは制御する方法として、下記の(1)又は(2)のいずれかを採用することが好ましい。
(1)沈降槽2の底部に設置した汚泥引抜ポンプを間欠運転させ、定期的に排泥制御とする。間欠運転の制御は、タイマーを用いるか、もしくはスラッジブランケット層の高さを感知する機器と連動させ、ある設定高さに到達したら排泥する制御とする。
(2)図1のように、沈降槽2に接するように界面調整槽3を設置し、スラッジブランケット層がある高さに到達したら、溢れたスラッジブランケットが重力で界面調整槽3にこぼれ落ち、自動的にスラッジブランケット層の高さが維持される方式とする。この場合、界面調整槽3に堆積した汚泥は、界面調整槽3の底部に設置された図示しない汚泥引抜ポンプにより配管14を経て排泥される。この汚泥引抜ポンプの制御は、タイマーを用いるか、もしくはスラッジブランケット層の高さを感知する機器と連動させ、ある設定高さに到達したら排泥する制御とする。
【0075】
ブランケット式沈降槽2のスラッジブランケット層の流動性を確保するために、図1に示すようにスラッジブランケット層の中間高さ付近を緩速撹拌する撹拌羽根を設けてもよい。この羽根の翼端速度は0.2~5.0m/minがよい。
【0076】
本発明のポリマーは、図1に示すように、ブランケット式沈降槽2に被処理水が流入する直前の配管12もしくは沈降槽2のトラフ中に添加する構造とするのが好ましい。これは、本発明のポリマーの凝集作用が、反応槽1において形成した微細フロック同士の凝集に対してではなく、反応槽1において形成した微細フロックと沈降槽2内のスラッジブランケット中の凝集体との凝集に対して、主に働かせるためである。
【0077】
ブランケット式沈降槽2のスラッジブランケット層を上向流通水された処理水は被処理水中のミクロピッチが高度に除去された清澄な処理水であり、沈降槽2の上部に設置されたトラフから配管15を経て取水される。
スラッジブランケット層を形成するSSが処理水にリークすることを防止するために、スラッジブランケット層の界面高さとトラフの底部との間に、0.2m以上の距離を確保することが好ましい。
【0078】
[後段処理]
特に限定されるものではないが、本発明による処理は、ブランケット式沈降槽の後段に膜濾過や層濾過のような濾過装置を備える場合に、前段でミクロピッチ等を除去することでこれらの濾過装置の閉塞等を防止して安定処理を行うことができ、好ましい。
即ち、余剰白水の紙料回収工程からの低濃度白水を濾過すると濾過装置内で濃縮されることで析出した析出物により閉塞し易く、処理不良を引き起こす懸念がある。あるいは閉塞を防止するために頻繁に洗浄する必要が生じる。
このような濾過装置の前段で本発明による処理を行うことで、これらの問題を解消ないし軽減することができる。
【実施例
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0080】
なお、以下の実施例で用いた本発明のポリマーであるポリマーAの詳細は以下の通りである。
【0081】
<ポリマーA>
アクリルアミド/アクリル酸/アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/アクリル酸/アクリルアミド共重合物であって、カチオン基/アニオン基/ノニオン基の組成は20mol%/5mol%/75mol%であり、25℃の4質量%NaCl水溶液中に0.5質量%溶解させた溶液の粘度をブルックフィールド型粘度計で測定した値が15.5mPa.sである両性ポリマー
【0082】
また、以下の実施例において、ミクロピッチ含有量の測定は以下の方法で行った。
【0083】
<ミクロピッチ含有量の測定>
被処理水と処理水および汚泥スラリー試料各2mlに、疎水性蛍光染料(エキシトン社製Fluorol 555)の0.1重量%エタノール溶液を、染料濃度が0.01mg/Lとなるように添加し、ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。染色した試料水10μLを200μL用マイクロピペットで速やかに採取し、18mm×18mmのカバーガラスでプレパラートを作成し、蛍光顕微鏡を用いて下記条件にて観察し、CCDカメラで撮影した。
顕微鏡:蛍光ミラーユニット:オリンパス株式会社製U-FBW
蛍光源:ハロゲンランプ:オリンパス株式会社製U-HG LGPS)
CCDカメラ:オリンパス株式会社製DP73-SET-A
接眼レンズ:10倍
対物レンズ:10倍
シャッタースピード:1秒
視野絞り、開口絞り:共に開放
ハロゲンランプ強度:3
画像サイズ:1200×1600ピクセル
得られた画像データを画像解析計測ソフトウェア(三谷商事株式会社製WinROOF)にて画像解析した。解析処理は、下記(1)~(5)の順に行った。
(1)カラー画像をグレースケール画像へ変換する変換処理
(2)黒を0、白を100とした場合の前記グレースケール画像の明度が20以下の領域を黒色、20を超える領域を白色に2値化する2値化処理
(3)前記2値化処理後の画像の白色領域のうち、アスペクト比が0.2以下の粒子分の領域を除去する除去処理
(4)前記除去処理後の画像の白色領域の各粒子を球体へ概算し、体積(μm)の計測
(5)0.44μm/ピクセルとし、画像サイズとカバーガラスの面積比及び試料水量とから試料水量当たりのミクロピッチの体積としてミクロピッチ含有量の算出
【0084】
マクロピッチ含有率は前述の方法で測定した。
【0085】
[実施例1]
図1に示すピッチ含有水の処理装置を用いて、被処理水(原水)の処理を行った。
即ち、反応槽1で原水に無機凝集剤として硫酸バンドを添加すると共に、凝集pHを調整して凝集処理した後、ブランケット式沈降槽2に送水する通水配管12でポリマーAをライン注入した後、ブランケット式沈降槽2に上向流通水した。ブランケット式沈降槽2のスラッジブランケット層は汚泥界面調整槽3の汚泥引抜ポンプのタイマー制御で排泥制御することにより高さを制御した。
【0086】
処理条件は以下の通りである。
【0087】
<処理条件>
・原水:余剰白水をディスクフィルター分離した低濃度白水
・原水pH:3~4
・原水SS:50~100mg/L、平均80mg/L
・原水量:1.5~4.0m/h
・硫酸バンド添加量:150mg/L
・凝集pH:5.5~6.0(20%NaOHにより調整)
・ポリマーA添加量:5mg/L
・沈降槽の上向流通水LV:1.9~5.1m/h
・スラッジブランケット層高さ:0.45m
・汚泥引抜ポンプのタイマー制御:1分ON/9分OFF
・通水時間:60日間
【0088】
上記処理はポリマーAの添加後、15秒程度でブランケット式沈降槽に通水する条件となる。
【0089】
<結果・考察>
上記の方法により固液分離操作を行った処理前後の水及び汚泥中に存在するミクロピッチ含有量(μm/μL)を測定した結果を、原水のマクロピッチ含有率(個/m)と共に下記表1に示す。
表1に示す通り、経時的に原水中のマクロピッチ含有率やミクロピッチ含有量は変動し、ミクロピッチの含有量がときおり高くなる原水であったが、本発明によれば、処理水中のミクロピッチ含有量を安定して8700μm/μL以下に維持することができた。
【0090】
【表1】
【符号の説明】
【0091】
1 反応槽
2 ブランケット式沈降槽
3 汚泥界面調整槽
図1
図2