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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/685 20190101AFI20221025BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221025BHJP
   B29C 48/84 20190101ALI20221025BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20221025BHJP
   B29C 48/53 20190101ALI20221025BHJP
【FI】
B29C48/685
C08J5/18
B29C48/84
B29C48/08
B29C48/53
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019064567
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020163627
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 忠
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184734(JP,A)
【文献】特開平10-309745(JP,A)
【文献】特開2013-059897(JP,A)
【文献】特開2010-069676(JP,A)
【文献】特開2010-111127(JP,A)
【文献】特開昭59-067030(JP,A)
【文献】特開2003-266520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 - 48/96
B29C 45/00 - 45/84
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレット状の樹脂を、単軸の押出機に供給する供給工程、及び供給された前記樹脂を前記押出機により押出す押出工程を含む、光学フィルムの製造方法であって、
前記押出機は、バレル、及び前記バレル内に設けられたスクリューを含み、前記押出工程は、前記スクリューを回転させることにより前記樹脂を前記バレルの上流側から下流側へ押し出すことを含み、
前記バレルは、上流から順に、供給部、圧縮部、及び計量部をこの順に含み、
前記バレルは、前記供給部におけるその内壁に溝を有し、
前記供給部における、前記バレル内壁の温度Tは、下記式(1):
Tg+90℃≦T≦Tg+180℃ ・・・(1)
を満たし、但しTgは前記樹脂のガラス転移温度であり、
前記温度Tにおける、前記供給部におけるバレル内壁材料であって前記溝を有しない表面形状を有するものと、前記ペレットとの、動摩擦係数μが、0.50以下であり、
前記スクリューは、前記供給部におけるそのシャフトの内部に空隙を有し、前記押出工程はさらに、前記空隙に流体を存在させ、前記流体を介して、前記供給部における前記シャフトの表面温度T を、下記式(2):
Tg-10℃≦T ≦Tg+60℃ ・・・(2)
を満たす範囲に調節することを含む、製造方法。
【請求項2】
前記供給部における前記バレル内壁であって前記溝以外の部分の算術平均粗さが0.5μm以上10μm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溝が、前記押出機の軸方向と平行な方向に延長する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂が、脂環式構造含有重合体、セルロース系重合体、ポリエチレンテレフタレート系重合体、アクリル系重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される重合体を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムの製造方法の一つに、溶融押出成形による製造方法がある。一般的な溶融押出成形の工程は、樹脂を押出機に供給する供給工程、及び供給された樹脂を押出機により押出す押出工程を含む。供給工程において供給される樹脂としては、ペレット等の取り扱いが容易な形状の固体の樹脂が用いられる。押出工程においては、押出機内で樹脂を溶融させ、溶融状態の樹脂を押出機から押し出す。これをさらにダイ等の成形装置に通し、それにより樹脂をフィルムの形状に成形する。
【0003】
一般的な押出機の例としては、単軸押出機及び二軸押出機が挙げられる。溶融押出成形による光学フィルムの製造においては特に、樹脂のせん断による変性を抑制することができ、且つ簡便な装置としうるという観点から、単軸押出機が好ましく用いられる。一般的な単軸押出機は、円筒形の内腔を有するバレル、及びバレル内に設けられたスクリューを含み、スクリューの回転により樹脂をバレルの上流側から下流側に押し出す構造を有している。
【0004】
光学フィルムの材料となる樹脂としては、様々な樹脂が挙げられ、近年様々な新しい樹脂が提案されている。例えば、高い耐熱性、耐屈曲性等の良好な性質を有する樹脂として、結晶性を有する脂環式構造含有重合体を含む樹脂が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/016442号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学フィルムの材料として近年提案されている新しい樹脂の中には、従来に無い特性を有するものがある。例えば、上に述べた、結晶性を有する脂環式構造含有重合体を含む樹脂のペレットを、単軸押出機で押出す場合、バレル内壁とペレットとの間の摩擦係数が小さいことに起因して、スクリューによる押出しが不十分となり、押出工程の実施が困難となり得る。具体的には、樹脂の流速が不安定になる、樹脂のブロッキングによりスクリューへのトルクが過大となり押出の操作が中断されてしまう、といった不具合が生じ得る。
【0007】
従って、本発明の目的は、摩擦係数が小さい樹脂ペレットであっても円滑な押出を行うことができ、良好な光学フィルムの製造を効率的に行うことができる、光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため検討した結果、本発明者は、押出工程において使用する押出機及び押出の条件として特定のものを採用することにより、前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
【0009】
〔1〕 ペレット状の樹脂を、単軸の押出機に供給する供給工程、及び供給された樹脂を前記押出機により押出す押出工程を含む、光学フィルムの製造方法であって、
前記押出機は、バレル、及び前記バレル内に設けられたスクリューを含み、前記押出工程は、前記スクリューを回転させることにより前記樹脂を前記バレルの上流側から下流側へ押し出すことを含み、
前記バレルは、上流から順に、供給部、圧縮部、及び計量部をこの順に含み、
前記バレルは、前記供給部におけるその内壁に溝を有し、
前記供給部における、前記バレル内壁の温度Tは、下記式(1):
Tg+90℃≦T≦Tg+180℃ ・・・(1)
を満たし、但しTgは前記樹脂のガラス転移温度であり、
前記温度Tにおける、前記供給部におけるバレル内壁材料であって前記溝を有しない表面形状を有するものと、前記ペレットとの、動摩擦係数μが、0.50以下である、製造方法。
〔2〕 前記供給部における前記バレル内壁であって前記溝以外の部分の算術平均粗さが0.5μm以上10μm以下である、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 前記スクリューが、前記供給部におけるそのシャフトの内部に空隙を有し、前記押出工程は、前記空隙に流体を存在させ、前記流体を介して、前記供給部における前記シャフトの表面温度Tを、下記式(2):
Tg-10℃≦T≦Tg+60℃ ・・・(2)
を満たす範囲に調節することを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 前記溝が、前記押出機の軸方向と平行な方向に延長する、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕 前記樹脂が、脂環式構造含有重合体、セルロース系重合体、ポリエチレンテレフタレート系重合体、アクリル系重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される重合体を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、摩擦係数が小さい樹脂ペレットであっても円滑な押出を行うことができ、良好な光学フィルムの製造を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の製造方法に用いる押出機の一例を概略的に示す側面図である。
図2図2は、図1に示す押出機100の、供給部120F内のある位置における、中心軸130AXに垂直な面に沿った断面図である。
図3図3は、動摩擦係数μの測定装置を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
〔1.光学フィルムの製造方法の概要〕
本発明の光学フィルムの製造方法は、ペレット状の樹脂を、単軸の押出機に供給する供給工程、及び供給された樹脂を押出機により押出す押出工程を含む。押出機は、バレル、及びバレル内に設けられたスクリューを含む。押出工程は、スクリューを回転させることにより樹脂をバレルの上流側から下流側へ押し出すことを含む。
【0014】
本発明の製造方法に用いる押出機、及びそれを用いた供給工程及び押出工程の例を、図1図2を参照して説明する。
図1は、本発明の製造方法に用いる押出機の一例を概略的に示す側面図である。図2は、図1に示す押出機100の、供給部120F内のある位置における、中心軸130AXに垂直な面に沿った断面図である。図1においては、図示の便宜のため、押出機100の構成要素のうち、スクリュー130以外の部材はスクリュー130の中心軸130AXを通る面で切断した縦断面を示す。
【0015】
図1において、押出機100は、バレル120、バレル120の上流部分に設けられたホッパー110、及びバレル120の内部に設けられたスクリュー130を含む。
【0016】
ホッパー110は、バレル120の上流部分の樹脂投入口121に嵌合した状態で設けられる。ホッパー110の上部開口111から投入された樹脂のペレット201は、ホッパー110の下部開口112から流出し、樹脂投入口121からバレル120内に流入し、これにより供給工程が達成される。供給されたペレット201は、バレル120及びスクリュー130による押出工程に供される。
【0017】
スクリュー130は、シャフト131と、シャフトの周囲に設けられたブレード132とを備える。スクリュー130が、中心軸130AXを中心に回転することにより、バレル120内のペレット201が、バレル内の上流から下流に押し出される。ブレード132は、らせん状の構造を有し、従ってスクリュー130の回転によりバレル120の内容物を下流に押し出すことができる。図1の例では、スクリュー130のブレード132のらせんのピッチは一定である。
【0018】
押出機のバレル120内には、スクリュー130のシャフト131の太さにより、供給部120F、圧縮部120C、及び計量部120Mが、上流側からこの順に規定される。供給部120Fは、供給工程によりバレル内に供給されたペレット201を、圧縮部に供給する部分であり、圧縮部120Cは、ペレット201を加圧し且つ加熱し、それによりペレット201を均一な溶融樹脂にする部分であり、計量部120Mは、溶融樹脂を、押出機よりさらに下流の工程に一定の流速で押し出す部分である。
【0019】
圧縮部120Cにおいては、シャフト131は、上流側で細く下流側で太いテーパー形状である。圧縮部120Cでは、スクリュー130がこのようなテーパー形状のシャフト131を備え、且つブレード132のらせんのピッチが一定であることにより、樹脂が下流に押し出されるのに伴い樹脂が圧縮される。供給部120Fから、樹脂を一定の供給速度で安定的に圧縮部に供給し、且つ圧縮部において圧縮とバレル120の外側からの適切な加熱を行うことにより、ペレット状の樹脂を均一に加熱し溶融させることができる。その結果、空気の混入等が少なく且つ未溶融のゲル等の混入が少ない、良好な溶融状態の樹脂の押出を達成することができる。
【0020】
供給部120F及び計量部120Mにおいては、シャフト131は、一定の太さを有する。かかる一定の太さのシャフトを備える構成は、一定の流速で押出を行うことを意図した構成である。例えば計量部120Mでは、シャフト131の太さが一定であり、且つブレード132のらせんのピッチが一定であることにより、一定の流速で樹脂をバレル吐出口129から押出すことができる。
【0021】
〔押出工程における製造方法の特徴〕
本発明の光学フィルムの製造方法では、押出工程に用いるバレルとして、供給部におけるその内壁に溝を有するものを用いる。
加えて、押出工程に際して、供給部における、バレル内壁の温度Tは、下記式(1):
Tg+90℃≦T≦Tg+180℃ ・・・(1)
を満たすよう調整される。式(1)中、Tgは樹脂のガラス転移温度である。
さらに、本発明の製造方法では、温度Tにおける、供給部におけるバレル内壁材料であって溝を有しない表面形状を有するものと、ペレットとの、動摩擦係数μが、0.5以下である。
【0022】
供給部では、圧縮部における適切な圧縮及び加熱を達成するため、樹脂のペレットを一定の流速で下流に押出し、圧縮部に安定的に供給することが求められる。温度Tが式(1)を満たすことにより、供給部における樹脂のバレル及びスクリューへの溶着等の不所望な現象を低減することができるので、それにより円滑な押出を達成することが期待される。しかしながら、光学フィルムの材料として近年提案されている新しい樹脂の中には、ペレット状に成形した場合において、式(1)を満たす範囲のTで、バレル内壁表面を構成する金属材料等の材料との動摩擦係数(動摩擦係数μに対応)が、従来用いられている樹脂に比べて非常に低い0.5以下といった値となる場合がある。そのようなペレットを押出す場合、バレル内壁とペレットとの間の摩擦係数が小さいことに起因して、圧縮部への円滑な押出しが困難となり得る。本発明者が見出したところによれば、このような場合において、バレル供給部におけるバレル内壁に溝を有することにより、円滑な押出が可能になる。
【0023】
式(1)に関し、温度Tは、(Tg+90)℃、好ましくは(Tg+110)℃以上、より好ましくは(Tg+130)℃以上であり、(Tg+180)℃以下、好ましくは(Tg+175)℃以下、より好ましくは(Tg+170)℃以下である。温度Tが前記好ましい範囲内であることにより、供給部における樹脂のバレル及びスクリューへの溶着等の不所望な現象を、さらに良好に低減することができる。
【0024】
押出工程に際しての、圧縮部におけるバレル内壁の温度T、及び計量部におけるバレル内壁の温度Tは、特に限定されず、押出工程の実施に適した温度に適宜調整しうる。具体的には、圧縮部におけるバレル内壁の温度Tは、好ましくは(Tg+120)℃以上、より好ましくは(Tg+140)℃以上であり、好ましくは(Tg+210)℃以下、より好ましくは(Tg+200)℃以下である。計量部におけるバレル内壁の温度Tは、好ましくは(Tg+120)℃以上、より好ましくは(Tg+140)℃以上であり、好ましくは(Tg+210)℃以下、より好ましくは(Tg+200)℃以下である。
【0025】
バレル内壁の温度は、バレルの外側からの、加熱装置による加熱により調整しうる。図1の例を参照して具体的に説明すると、バレル120の供給部120F、圧縮部120C、及び計量部120Mのそれぞれにおいて、バレルの外側に、適切な加熱装置(不図示)を配置し、それによりバレルを加熱することにより、バレル内壁の温度を所望の温度に昇温しうる。さらに、熱電対等の温度測定装置をバレル内壁表面又はその近傍に設け、バレル内壁の温度をモニターし、モニターされた温度に基づいて加熱装置の出力を調整することにより、バレル内壁の温度を所望の値に調整することができる。
【0026】
供給部内壁の溝の形状及び向きは、供給部での円滑な押出を達成できる任意の向きとしうる。例えば、溝は直線状でもよく、曲線状でもよい。直線状の溝の場合、その向きは例えばバレルの中心軸と並行な方向としうる。かかる向きの直線状の溝を採用した場合、摩擦係数の低いペレットの円滑な押出を行うことができ、且つ、溝内にペレットが詰まりにくく、さらに、バレルのメンテナンスにおいて、溝内部に詰まった樹脂の除去を容易に行うことができる。
【0027】
図1図2の例では、バレル120は、その供給部120Fの内壁に溝122を有する。溝122は、その長さ方向がスクリュー130の中心軸130AXに平行な方向に延長する。溝122は、図2に示す通りバレル120の内壁の周方向において均等になるよう、8本設けられている。この例において、溝122の長さは、供給部120Fの全長にわたる長さであるが、本発明はこれに限られず、溝の長さは、供給部の一部のみにわたる長さでもよく、供給部から圧縮部にわたる長さであってもよい。溝の効果発現の観点からは、溝の長さは、供給部の全長にわたる長さであることが好ましい。図1~2の例では、溝の断面形状は、幅122W及び深さ122Dを有する矩形の形状であるが、本発明はこれに限られず、溝の断面形状は、半円形、U字型の任意の形状としうる。溝122の幅122W及び深さ122Dのそれぞれは、ペレットの円滑な押出を行うことができるよう適宜調整しうる。例えば、ペレットの長径の平均値に対して0.5~1.5倍程度としうる。
【0028】
バレルを構成する材料は、通常はステンレス鋼等の金属であり、特に、HCrステンレス鋼(表面に硬質クロムめっき処理を施したステンレス鋼)が、耐圧性及び表面における耐擦傷性等の観点から好ましい。また、バレル内部観察のため、バレルの一部が、硬質ガラス、石英ガラス等の透明な材料であってもよい。
【0029】
バレルの内部の寸法は、押出工程に適した寸法を適宜選択しうる。例えば、内径40mmのスクリューを使用する場合のバレルの長さLは、1,120~1,360mmとしうる。バレルの径Dに対するバレルの長さLの比即ちL/Dは、28~34としうる。
【0030】
本発明の製造方法において、動摩擦係数μは、0.50以下であり、0.40以下、あるいは0.30以下といった値としうる。μがこのように小さい値であっても、本発明によれば、円滑な押出が可能であり、従って円滑な光学フィルムの製造を行いうる。動摩擦係数μの下限は、特に限定されないが例えば0.1以上としうる。
【0031】
動摩擦係数μは、温度Tにおける動摩擦係数であり、且つ、供給部におけるバレル内壁材料であって溝を有しない表面形状を有するものと、ペレットとの動摩擦係数である。「供給部におけるバレル内壁材料」とは、供給部におけるバレル内壁そのもの、またはペレットとの動摩擦係数の測定において供給部におけるバレル内壁と同等の性質を有する材料である。例えば、バレルの内壁の大部分がHCrステンレス鋼により構成されている場合、HCrステンレス鋼の板材を、「供給部におけるバレル内壁材料」として使用しうる。また、「供給部におけるバレル内壁材料であって溝を有しない表面形状を有するもの」とは、供給部におけるバレル内壁材料であって、溝を有しない他は、供給部におけるバレル内壁の表面と同等の表面粗さを有するものである。表面粗さは、算術平均粗さにより規定しうる。バレルの内壁の表面の算術平均粗さRaは、好ましくは0.8~1.6μmとしうるので、「供給部におけるバレル内壁材料であって溝を有しない表面形状を有するもの」の算術平均粗さRaも、それと同等のものとしうる。表面粗さは、粗さ測定器(例えば、ミツトヨ製 小型表面粗さ測定器 サーフテストSJ310)にて測定しうる。
【0032】
動摩擦係数μの測定は、本発明の実施に用いるペレット、及び供給部におけるバレル内壁材料であって溝を有しない表面形状を有するものを用いた測定系において測定しうる。動摩擦係数μの測定系を、図3を参照して説明する。図3は、動摩擦係数μの測定装置を概略的に示す縦断面図である。図3において、測定装置300は、円盤状の回転テーブル310、回転テーブル310の上面に載置された円盤状の金属板320、及び金属板320の上側に設置されたプローブ330を備える。回転テーブル310は、ベース311と、金属板320を把持する把持子312とを備え、複数の把持子312は中心軸310AXに向かって付勢された状態で金属板320に圧接され、それにより金属板320は回転テーブル310に固着される。回転テーブル310はさらにシャフト313を備える。適切な回転装置(不図示)により、シャフト313を介して回転テーブル310に回転力を与えると、回転テーブルは中心軸310AXを中心に回転する。測定装置300はさらに温度調整装置(不図示)を含み、それにより、金属板320の温度が一定の所望の温度に保たれる。金属板320は、供給部におけるバレル内壁材料であって溝を有しない表面形状を有するものに相当する。プローブ330は、ペレット201を収容する円筒331、及び円筒331の内部に設置された荷重トランスデューサー332を備え、これらにより、ペレット201を、金属板320に対して一定の圧力で接触させる。金属板320の温度を温度Tに保ち、回転テーブル310を軸310AXを中心に回転させ、トランスデューサー332でペレット201に圧力を加え、圧力とシャフト313へのトルクとを測定し、これらの測定結果から、動摩擦係数μを求めることができる。
【0033】
押出工程に用いるスクリューは、供給部におけるそのシャフトの内部に空隙を有するものとしうる。本発明の製造方法において、押出工程は、空隙に流体を存在させ、流体を介してスクリューのシャフトの表面温度Tを、下記式(2):
Tg-10℃≦T≦Tg+60℃ ・・・(2)
を満たす範囲に調節することを含むことが好ましい。
【0034】
上に述べたTの調節に加え、Tの調節を行うと、供給部におけるバレル内壁の温度とは独立して、供給部におけるスクリュー表面の温度も、ペレットの押出に適した温度に調整することができ、それにより、さらに円滑に押出を行うことができる。Tの下限は、好ましくは(Tg-10)℃、より好ましくは(Tg-5)℃としうる。Tの上限は、好ましくは(Tg+60)℃、より好ましくは(Tg+55)℃としうる。
【0035】
シャフト内の空隙に存在させる流体の例としては、熱媒体油及び水等の熱媒体が挙げられる。流体として、水等の沸点の低い物質を用いる場合、常圧では所望の加熱温度において気化しうる。その場合、当該流体は、加圧した状態で用いるか、蒸気の状態で用いる。熱媒体油の例としては、シリコーン油、フッ素系不活性液体、合成系有機熱媒体油等が挙げられる。温度Tは、適切な温度測定手段により測定しうる。例えば、シャフト表面に熱電対を接触させることにより測定しうる。より具体的には、装置の操作に先立って又は装置の操作中に、バレルに設けた開閉可能な窓を通してシャフト表面に熱電対を接触させ、温度Tを測定しうる。
【0036】
図1図2の例では、スクリュー130は、供給部120Fに対応する位置であって、且つ中心軸130AXに沿った位置に、空隙139を有する。空隙139は、スクリュー130の根元に開口し、そこからヒーター等の温度調節装置(不図示)と連通する構成としうる。熱媒体としての流体は、空隙139内に単に充填してもよく、空隙139と温度調節装置とを循環するよう流通させてもよい。温度調節装置において流体の温度を調節することにより、温度Tを所望の温度に調節することができる。空隙139の長さは、供給部120Fの全長にわたる長さであるが、本発明はこれに限られず、空隙の長さは、供給部の一部のみにわたる長さでもよく、供給部から圧縮部にわたる長さであってもよい。空隙の効果発現の観点からは、空隙の長さは、供給部の全長にわたる長さであることが好ましい。
【0037】
〔押出工程より下流の工程〕
押出工程において溶融され押し出された樹脂を、さらに、バレル吐出口に連結されたダイ等の適切な装置に通し、フィルム状の形状に成形することにより、溶融押出成形による光学フィルムの製造を達成することができる。樹脂を連続的に供給することにより、溶融押出成形による光学フィルムの製造を連続的に行うことができ、その結果、光学フィルムとして長尺状のフィルムを得ることができる。「長尺状」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、例えば5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。フィルムの幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば100,000倍以下としうる。
【0038】
本発明の製造方法では、押出工程が、上記特定の特徴を有することにより、摩擦係数が小さい樹脂ペレットであっても円滑な押出を行うことができ、良好な光学フィルムの製造を効率的に行うことができる。具体的には、樹脂として、高い耐熱性、耐屈曲性等の良好な性質を有する一方、動摩擦係数μが小さく、供給部における安定した樹脂の搬送が困難である樹脂を材料として採用した場合であっても、かかる樹脂を、供給部から圧縮部へ円滑に押し出し、空気の混入等が少なく且つ未溶融のゲル等の混入が少ない、良好な溶融状態の樹脂の押出を達成することができる。かかる円滑な押出により溶融樹脂をダイに供給し、成形を行うことにより、良好な光学フィルムの製造を効率的に行うことができる。
【0039】
〔ペレット状の樹脂〕
本発明の製造方法においては、光学フィルムの材料として、ペレット状の樹脂を使用する。「ペレット状」の樹脂とは、供給工程において固体である、粒状の形状の樹脂である。ペレットの具体的な形状は、ストランドを切断して得られる概略円筒形の形状が一般的であるが、本発明はこれに限られず、任意の形状のペレットを使用しうる。例えば、球形、楕円球形、直方体といった各種の形状、及びこれらの混合物としうる。また例えば、樹脂をこれらの形状に成形する際に生じた破砕物を、ペレットの範疇に含めてもよい。
【0040】
ペレットの寸法は、本発明の製造方法に適した寸法に適宜調整しうる。適切な流動性を得る観点及び取扱いの容易さの観点から、ペレットの寸法は、その長径の数平均で、2mm~5mmであることが好ましい。
【0041】
本発明において用いるペレット状の形状を有する樹脂は、重合体と、必要に応じて含みうる任意成分とを含むものとしうる。樹脂を構成する重合体の例としては、脂環式構造含有重合体、セルロース系重合体、ポリエチレンテレフタレート系重合体、アクリル系重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される重合体が挙げられる。
【0042】
脂環式構造含有重合体の例としては、結晶性を有する脂環式構造含有重合体、及び非結晶性の脂環式構造含有重合体が挙げられる。この中でも特に、結晶性を有する脂環式構造含有重合体を、本発明の製造方法において好ましく用いうる。即ち、結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、高い耐熱性、耐屈曲性等の良好な性質を有する一方、かかる重合体を含む樹脂のペレットは、金属等の他の材料との摩擦係数が、従来用いられている樹脂に比べて非常に低い場合がある。そのようなペレットを採用した場合、従来の光学フィルムの製造方法においては押出工程の実施が困難であったが、本発明の製造方法を適用することにより、そのような樹脂のペレットでも、容易に押出工程を実施することができる。したがって、結晶性を有する脂環式構造含有重合体を含む樹脂のペレットを材料として本発明の製造方法に適用することにより、結晶性を有する脂環式構造含有重合体の好ましい性質を享受しながら、且つ、良好な光学フィルムの製造を効率的に行うことができる。
【0043】
ここで、結晶性を有する重合体とは、融点Mpを有する重合体をいう。また、融点Mpを有する重合体とは、すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点Mpを観測することができる重合体をいう。
【0044】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる光学フィルムが得られ易いことから、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物等であって、結晶性を有するもの。
【0045】
具体的には、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましく、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0046】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0047】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、光学フィルムを製造するよりも前においては、結晶化していなくてもよい。しかし、光学フィルムが製造された後においては、当該光学フィルムに含まれる結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、通常、結晶化していることにより、高い結晶化度を有することができ、それに基づく耐熱性等の有利な効果を得ることができる。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0048】
前記のような結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、例えば、国際公開第2016/067893号に記載の方法により、製造しうる。
【0049】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。このような重量平均分子量を有する重合体は、機械的強度、成形加工性及び耐熱性のバランスに優れる。
【0050】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体の融点Mpは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Mpを有する結晶性を有する重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた光学フィルムを得ることができる。
【0051】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体のガラス転移温度Tgは、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは170℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲にある重合体は、高温下での使用における変形及び応力が生じ難く、耐熱性に優れる。
【0052】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.4以下、特に好ましくは3.3以下である。分子量分布が前記範囲の下限値以上であることにより、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下であることにより、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、光学フィルムの安定性を高めることができる。
【0053】
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、溶媒としてシクロヘキサン(樹脂が溶解しない場合にはトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)により、ポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の値で測定しうる。または、重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたGPCにより、ポリスチレン換算の値で測定しうる。
【0054】
ペレットを構成する樹脂における、結晶性を有する脂環式構造含有重合体の割合は、耐熱性及び耐屈曲性に特に優れた光学フィルムを得る観点から、所望の割合に調整しうる。かかる割合は、好ましくは80重量%~100重量%、より好ましくは90重量%~100重量%、更に好ましくは95重量%~100重量%、特に好ましくは98重量%~100重量%である。
【0055】
セルロース系重合体の例としてはトリアセチルセルロース(Tg(ガラス転移温度):160~180℃)が挙げられる。ポリエチレンテレフタレート系重合体の例としてはポリエチレンテレフタレート(Tg:70℃、Tc:250~255℃)が挙げられる。アクリル系重合体の例としてはポリメタクリル酸メチル(Tg:90℃)、ポリメタクリル酸エチル(Tg:100℃)が挙げられる。
【0056】
ペレットを構成する樹脂は、前記した重合体に組み合わせて、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例としては、無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;及び帯電防止剤が挙げられる。これらの任意の成分としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、本発明の効果を顕著に発揮させる観点からは、任意の成分の含有割合は少ないことが好ましい。例えば、任意の成分の合計の割合は、重合体の100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましく、10重量部以下が更に好ましく、5重量部以下が特に好ましい。また、樹脂に含まれる任意の成分が少ないことにより、任意の成分のブリードアウトを抑制することができる。
【0057】
〔光学フィルム〕
本発明の製造方法により得られる光学フィルムは、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置、タッチパネル付き表示装置、太陽電池等といった各種の光学的な装置を構成する部材として有用に用いうる。
【実施例
【0058】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0059】
〔評価方法〕
(分子量の測定方法)
重合体の重量平均分子量及び数平均分子量を、テトラヒドロフランを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算値として38℃(ジシクロペンタジエンの開環重合体及びその水素化物)において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8320GPCを用いた。
【0060】
(ガラス転移温度及び融点の測定)
示差操作熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して試料のガラス転移温度Tg及び融点Mpをそれぞれ求めた。
【0061】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
オルトジクロロベンゼン-d/トリクロロベンゼン-d(混合比(重量基準)1/2)を溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0062】
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率を、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定した。
【0063】
(表面粗さ)
表面粗さは、粗さ測定器(ミツトヨ製 小型表面粗さ測定器 サーフテストSJ310)にて測定した。
【0064】
〔製造例1:結晶性を有する脂環式構造含有重合体を含む樹脂の製造〕
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び、1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0065】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750及び28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0066】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0067】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間、水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0068】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点Mpは262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。水素化物の重量平均分子量は、27,000~32,000の範囲内であった。
【0069】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合した後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。二軸押出機を用いた熱溶融押出し成形により、樹脂をストランド状の成形体にした後、ストランドカッターにて細断して、結晶性の脂環式構造含有重合体を含む樹脂(a1)のペレットを得た。この樹脂(a1)は、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としてジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む樹脂である。
【0070】
前記の二軸押出機の運転条件は、以下のとおりであった。
・バレル設定温度=270℃~280℃。
・ダイ設定温度=250℃。
・スクリュー回転数=145rpm。
・フイーダー回転数=50rpm。
【0071】
〔実施例1〕
製造例1で得た樹脂(a1)のペレットを、溶融押出成形機に供給した。溶融押出成形機は、図1図2に概略的に示す押出機100、及びその下流に接続されたTダイを備えるものであった。
【0072】
押出機100としては、単軸可視化押出機(プラスチック工学研究所製、バレル内径D=40mm、バレル内長L=1200mm(即ちL/D=30))を用いた。
【0073】
押出機のバレル120内には、そのスクリュー130のシャフト131の太さにより供給部120F、圧縮部120C、及び計量部120Mが規定され、これらの長さは、それぞれ、400mm、400mm及び400mmであった。
【0074】
押出機100のバレル120としては、その供給部120Fの内壁に溝122を有するものを用いた。溝122は、その長さ方向がスクリュー130の中心軸130AXと平行に延長し、図2に示す通りバレル120の内壁の周方向において均等になるよう、8本設けた。溝122の長さは、供給部120Fの全長にわたる長さであり、溝122の幅122Wは1mmであり、深さ122Dは0.5mmであった。バレル120の内壁は、一部分はバレル内観察のための、硬質ガラス(パイレックス(登録商標))製の観察窓であり、それ以外の大部分(面積80%以上)は、HCrステンレス鋼であった。バレル120の内壁であって溝122及び観察窓部分以外の部分の算術平均粗さRaは、1.2μmであった。
【0075】
押出機100のホッパー110に、ペレット201を投入した。スクリュー130を30rpmで回転させることにより、ペレット201を、バレル120の上流側から下流側に押し出す、押出工程を実施した。バレル120、及びスクリュー130内の空隙139に充填された熱媒体油(合成系有機熱媒体油、松村石油製、商品名「バーレルサーム300」)を一定の温度に調整することにより、ペレット201を加熱し溶融させた。温度は、供給部120Fにおけるバレル内壁温度Tを230℃、圧縮部120Cにおけるバレル内壁温度Tを270℃、計量部120Mにおけるバレル内壁温度Tを285℃とした。各部におけるバレル内壁温度の調整は、バレル外側に設けた加熱装置によりバレルを加熱し、バレル内壁表面近傍に設けた熱電対によりバレル内壁の温度をモニターし、モニターされた温度に基づいて加熱装置の出力を調整することにより行った。また、空隙139内の熱媒体油の温度を120℃に調整し、それにより供給部120Fにおけるシャフト131の表面温度Tを112℃とした。シャフト131の表面温度Tは、押出機の操作に先立って、バレル120に設けた開閉可能な窓を通してシャフト131表面に熱電対を接触させることにより測定した。溶融された樹脂はバレル吐出口129から吐出された。吐出された樹脂をダイに供給し、ダイからフィルムの形状に押し出すことにより、光学フィルムを連続的に製造した。
【0076】
押出工程において、押出の状態を、下記の観点から観察し評価した。評価結果を表2に示す。
(A)供給部120Fにおける樹脂の溶着の有無
(B)スクリュー過負荷(トルク60N・m超)による押出機停止の有無
(C)バレル吐出口129から吐出された樹脂中における未溶融ゲルの有無
(D)押し出し量(kg/hr)
(E)押出状況の総合評価:(A)~(C)の全てが「無し」であれば、「良好」と評価。それ以外は「不良」と評価。
【0077】
さらに、図3に概略的に示す測定装置を用いて、動摩擦係数μの測定を行った。図3において、測定装置300は、円盤状の回転テーブル310、回転テーブル310の上面に載置された円盤状の金属板320、及び金属板320の上側に設置されたプローブ330を備える。複数の把持子312を、中心軸310AXに向かって付勢された状態で金属板320に圧接し、それにより金属板320を回転テーブル310に固着した。金属板320としては、ペレット201に対する摩擦係数の発現に関し、押出工程において用いたバレル120の内壁と同等の材質のものを選択した。即ち、回転テーブル320としては、SUS304の上面に硬質クロムめっき処理を施したものを用いた。回転テーブル320の上面の算術平均粗さRaは1.2μmであり、ビッカース硬度は約1,100Hvであった。温度調整装置(不図示)を用い、金属板320の温度をT(即ち実施例1の場合230℃)に保った。円筒331内に、層をなす程度の量のペレット201を入れ、その上部にトランスデューサー332をセットし、ペレット201の層と金属板320の上面との界面に、2Nの圧力を加えた。この状態で、回転テーブル310を、周速0.03cm/sで回転させた。この状態で、軸部342へのトルクを測定することにより、動摩擦係数μを測定した。
【0078】
〔実施例2~3、比較例1、及び比較例4〕
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルムの製造及び評価並びに摩擦係数の測定を行った。結果を表2に示す。
・供給部120Fにおけるバレル内壁温度T、並びに空隙139内の熱媒体油の温度及び供給部におけるスクリューシャフト表面温度Tを、表1に示す通り変更した。摩擦係数の測定に際しての回転テーブル320の温度は、供給部120Fにおけるバレル内壁温度Tと同じ温度とした。
【0079】
〔比較例2〕
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルムの製造及び評価並びに摩擦係数の測定を行った。結果を表2に示す。
・供給部120Fにおけるバレル内壁温度T、並びに空隙139内の熱媒体油の温度及び供給部におけるスクリューシャフト表面温度Tを、表1に示す通り変更した。摩擦係数の測定に際しての回転テーブル320の温度は、供給部120Fにおけるバレル内壁温度Tと同じ温度とした。
・バレル120として、その内壁に溝122を有さないものを用いた。
【0080】
〔比較例3〕
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルムの製造及び評価並びに摩擦係数の測定を行った。結果を表2に示す。
・供給部120Fにおけるバレル内壁温度Tを、表1に示す通り変更した。摩擦係数の測定に際しての回転テーブル320の温度は、供給部120Fにおけるバレル内壁温度Tと同じ温度とした。
・空隙139内の熱媒体油の温度の調節を行わなかった。
・バレル120として、その内壁に溝122を有さないものを用いた。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
1)ペレットが溶融してしまい、測定ができなかった。
2)一定の押出量での押出ができなかったので、押出量の測定ができなかった。
【0083】
実施例及び比較例の結果から明らかな通り、バレル内壁とペレットとの摩擦係数が0.5以下と低い場合における押出でも、供給部におけるバレル内壁の温度を特定の範囲に調整し、それによりバレル内壁に接するペレットの温度を特定の範囲に測定し、且つバレルとしてその内壁に溝を有するものを使用することにより、スクリューの回転を押出のための力として良好にペレットに伝達し、良好な押出を達成することができる。
【符号の説明】
【0084】
100:押出機
110:ホッパー
111:上部開口
112:下部開口
120:バレル
120C:圧縮部
120F:供給部
120M:計量部
121:樹脂投入口
122:溝
122D:深さ
122W:幅
129:吐出口
130:スクリュー
130AX:中心軸
131:シャフト
132:ブレード
139:空隙
201:ペレット
300:測定装置
310:回転テーブル
310AX:中心軸
311:ベース
312:把持子
313:シャフト
320:金属板
330:プローブ
331:円筒
332:荷重トランスデューサー
図1
図2
図3