IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図1
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図2
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図3
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図4
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図5
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図6
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図7
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図8
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図9
  • 特許-電気化学デバイス用電極の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20221025BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019513702
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2018016318
(87)【国際公開番号】W WO2018194159
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/016084
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/016079
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】瀬良 祐介
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀之
(72)【発明者】
【氏名】三國 紘揮
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-049158(JP,A)
【文献】特開2006-032237(JP,A)
【文献】G. B. APPETECCHI et al.,Journal of Power Sources,2010年,195(11),pp.3668-3675
【文献】Anne-Laure PONT et al.,Journal of Power Sources,2009年,188(2),pp.558-563
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極集電体の少なくとも一方の主面上に電極活物質を含む電極活物質層が設けられた電極前駆体を用意する工程と、
前記電極前駆体の前記電極活物質層に、
下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、
リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩と、
融点が250℃以下である溶融塩と、
分散媒と、
を含有するスラリを加える工程と、
前記電極活物質層に加えられた前記スラリから揮発成分を除去して、電極合剤層を形成する工程と、
を備える、電気化学デバイス用電極の製造方法。
【化1】

[式(1)中、Xは対アニオンを示す。]
【請求項2】
前記電解質塩のアニオンが、PF 、BF 、N(FSO 、N(CFSO 、B(C 、及びClO からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の電気化学デバイス用電極の製造方法。
【請求項3】
前記溶融塩の含有量が、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、10~80質量%である、請求項又はに記載の電気化学デバイス用電極の製造方法。
【請求項4】
前記分散媒がアセトンを含む、請求項のいずれか一項に記載の電気化学デバイス用電極の製造方法。
【請求項5】
前記ポリマの含有量に対する前記分散媒の含有量の質量比が6以下である、請求項のいずれか一項に記載の電気化学デバイス用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス用電極及びその製造方法、電気化学デバイス、並びにポリマ電解質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有するエネルギーデバイスであり、その特性を活かして、ノートパソコン、携帯電話等のポータブル機器、電気自動車の電源などに使用されている。
【0003】
現在、主に用いられているリチウムイオン二次電池は、正極と負極との間にセパレータを挟み、セパレータには有機電解液が含浸されている。このようなリチウムイオン二次電池では、有機電解液が可燃性であるため、異常が発生し電池の温度が上昇した場合、発火する可能性がある。リチウムイオン二次電池において、高エネルギー密度化及び大型化に着手する上で、安全性を向上させることが重要であり、リチウムイオン二次電池の構成から発火等の事態を避けることが求められている。
【0004】
このようなことから、発火等の原因となり得る有機電解液を使用しない構成のリチウムイオン二次電池の開発が進められている。中でも、固体電解質の開発が盛んである。しかし、固体電解質を電解質層として用いる場合、固体電解質の流動性の低さから、固体電解質と電極合剤層に含まれる電極活物質との間で界面が形成され難い傾向にある。これを解消する手段の1つとして、電極合剤層のイオン導電性を向上させることが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン電池において、電極合剤層に無機固体電解質を加える方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-191547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法で使用される無機固体電解質は、柔軟性に乏しく、正極及び負極における電極合剤層内部の空隙の形に合わせた形状変化が困難であるため、所望の電池特性が得られないことがある。また、界面形成性を向上させるために無機固体電解質の添加量を増加した場合には、相対的に電極内の電極活物質比率が低下するため、電池特性が低下する傾向にある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電極合剤層に固体電解質を加えて電池を作製した場合であっても、電池特性を高めることが可能な電気化学デバイス用電極及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような電気化学デバイス用電極を用いた電気化学デバイスを提供することを目的とする。さらに、本発明は、電極合剤層のイオン導電性を向上させることが可能なポリマ電解質組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、電極集電体と、電極集電体の少なくとも一方の主面上に設けられた電極合剤層と、を備え、電極合剤層が、電極活物質と、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマ(以下、単に「ポリマ」という場合がある。)と、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩(以下、単に「電解質塩」という場合がある。)と、融点が250℃以下である溶融塩(以下、単に「溶融塩」という場合がある。)と、を含有する、電気化学デバイス用電極である。
【0010】
【化1】
[式(1)中、Xは対アニオンを示す。]
【0011】
本発明の第1の態様の電気化学デバイス用電極によれば、電極合剤層において、電極活物質とポリマとの間で良好な界面が形成されるため、電極合剤層に固体電解質を加えて電池を作製した場合であっても、電池特性を高めることができる。
【0012】
電解質塩のアニオンは、PF 、BF 、N(FSO 、N(CFSO 、B(C 、及びClO からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。電解質塩はリチウム塩であってよい。
【0013】
溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、10~80質量%であってよい。
【0014】
電気化学デバイス用電極は正極であってよい。すなわち、電極集電体は正極集電体であってよく、電極合剤層は正極合剤層であってよく、電極活物質は正極活物質であってよい。
【0015】
電気化学デバイス用電極は負極であってよい。すなわち、電極集電体は負極集電体であってよく、電極合剤層は負極合剤層であってよく、電極活物質は負極活物質であってよい。負極活物質は黒鉛を含んでいてよい。負極活物質が黒鉛を含む場合、電解質塩はLiN(FSOを含むことが好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様は、上述の電気化学デバイス用電極を備える、電気化学デバイスである。電気化学デバイスは二次電池であってよい。
【0017】
本発明の第3の態様は、電極集電体の少なくとも一方の主面上に電極活物質を含む電極活物質層が設けられた電極前駆体を用意する工程と、電極前駆体の電極活物質層に、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩と、融点が250℃以下である溶融塩と、分散媒と、を含有するスラリを加える工程と、電極活物質層に加えられたスラリから揮発成分を除去して、電極合剤層を形成する工程と、を備える、電気化学デバイス用電極の製造方法である。
【0018】
【化2】
[式(1)中、Xは対アニオンを示す。]
【0019】
電解質塩のアニオンは、PF 、BF 、N(FSO 、N(CFSO 、B(C 、及びClO からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0020】
溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、10~80質量%であってよい。
【0021】
分散媒はアセトンを含んでいてよい。ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比(「分散媒の含有量」/「ポリマの含有量」)は6以下であってよい。
【0022】
本発明の第4の態様は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩と、融点が250℃以下である溶融塩と、を含有する、ポリマ電解質組成物である。
【0023】
【化3】
[式(1)中、Xは対アニオンを示す。]
【0024】
電解質塩のアニオンは、PF 、BF 、N(FSO 、N(CFSO 、B(C 、及びClO からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。電解質塩は、リチウム塩であってよい。
【0025】
溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、10~80質量%であってよい。
【0026】
ポリマ電解質組成物は分散媒をさらに含有していてもよい。分散媒はアセトンを含んでいてよい。ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比は6以下であってよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電極合剤層に固体電解質を加えて電池を作製した場合であっても、電池特性を高めることが可能な電気化学デバイス用電極及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、このような電気化学デバイス用電極を用いた電気化学デバイスが提供される。さらに、本発明によれば、電極合剤層のイオン導電性を向上させることが可能なポリマ電解質組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係る電気化学デバイスを示す斜視図である。
図2図1に示した電気化学デバイスの電極群を示す分解斜視図である。
図3】(a)は一実施形態に係る電気化学デバイス用電極(正極)を説明するための図2のI-I線矢視断面図であり、(b)は他の実施形態に係る電気化学デバイス用電極(正極)を示す模式断面図である。
図4】(a)は一実施形態に係る電気化学デバイス用電極(負極)を説明するための図2のII-II線矢視断面図であり、(b)は他の実施形態に係る電気化学デバイス用電極(負極)を示す模式断面図である。
図5】第2実施形態に係る電気化学デバイスの電極群を示す分解斜視図である。
図6】(a)は他の実施形態に係る電気化学デバイス用電極(バイポーラ電極)を説明するための図2のIII-III線矢視断面図であり、(b)は他の実施形態に係る電気化学デバイス用電極(バイポーラ電極)を示す模式断面図である。
図7】(a)は実施例1-1で作製した正極の走査型電子顕微鏡像であり、(b)は図7(a)に示す正極におけるエネルギー分散型X線分析によるコバルトの分布を示す像であり、(c)は図7(a)に示す正極におけるエネルギー分散型X線分析による硫黄の分布を示す像である。
図8】実施例1-1及び比較例1-1で作製した二次電池の電池性能評価を示すグラフである。
図9】(a)は実施例3-1で作製した正極の走査型電子顕微鏡像であり、(b)は実施例3-2で作製した正極の走査型電子顕微鏡像である。
図10】(a)は実施例3-3で作製した正極の走査型電子顕微鏡像であり、(b)は実施例3-4で作製した正極の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。各図における構成要素の大きさは概念的なものであり、構成要素間の大きさの相対的な関係は各図に示されたものに限定されない。
【0030】
本明細書における数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0031】
本明細書中、「電極」とは、正極又は負極を意味する。電極集電体、電極合剤層、電極活物質、電極活物質層、電極前駆体等の他の類似の表現においても同様である。
【0032】
本明細書中、略称として以下を用いる場合がある。
[EMI]:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン
[DEME]:N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオン
[Py12]:N-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン
[Py13]:N-メチル-N-プロピルピロリジニウムカチオン
[PP13]:N-メチル-N-プロピルピペリジニウムカチオン
[FSI]:ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン
[TFSI]:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン
[f3C]:トリス(フルオロスルホニル)カルボアニオン
[BOB]:ビスオキサレートボラートアニオン
[P(DADMA)][Cl]:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)クロライド
[P(DADMA)][TFSI]:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
【0033】
[第1の態様(電気化学デバイス用電極)、第2の態様(電気化学デバイス)、及び第3の態様(電気化学デバイス用電極の製造方法)]
図1は、第1実施形態に係る電気化学デバイスを示す斜視図である。電気化学デバイスは、二次電池であってよい。以下、二次電池の態様について説明する。
【0034】
図1に示すように、二次電池1は、電気化学デバイス用電極及び電解質層から構成される電極群2と、電極群2を収容する袋状の電池外装体3とを備えている。電気化学デバイス用電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。電気化学デバイス用電極(正極及び負極)には、それぞれ正極集電タブ4及び負極集電タブ5が設けられている。正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、それぞれ正極及び負極が二次電池1の外部と電気的に接続可能なように、電池外装体3の内部から外部へ突き出している。
【0035】
電池外装体3は、例えば、ラミネートフィルムで形成されていてよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムと、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等の金属箔と、ポリプロピレン等のシーラント層とがこの順で積層された積層フィルムであってよい。
【0036】
図2は、図1に示した二次電池1における電極群2の一実施形態を示す分解斜視図である。図2に示すように、電極群2Aは、正極6と、電解質層7と、負極8とをこの順に備えている。正極6は、正極集電体9と、正極集電体9の少なくとも一方の主面上に設けられた正極合剤層10とを備えている。正極集電体9には、正極集電タブ4が設けられている。負極8は、負極集電体11と、負極集電体11の少なくとも一方の主面上に設けられた負極合剤層12とを備えている。負極集電体11には、負極集電タブ5が設けられている。
【0037】
図3(a)は、図2のI-I線矢印断面図である。正極6(第1の電気化学デバイス用電極13A)は、図3(a)に示すように、正極集電体9と、正極集電体9の少なくとも一方の主面上に設けられた正極合剤層10と、を備える。
【0038】
図3(b)は、他の実施形態に係る第1の電気化学デバイス用電極を示す模式断面図である。図3(b)に示すように、第1の電気化学デバイス用電極13Bは、正極集電体9と、正極合剤層10と、電解質層7と、をこの順に備えている。
【0039】
第1の電気化学デバイス用電極13Aは、正極集電体9を備える。正極集電体9は、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等で形成されていてよい。正極集電体9は、具体的には、例えば、孔径0.1~10mmの孔を有するアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等であってよい。正極集電体9は、上記以外にも、電池の使用中に溶解、酸化等の変化を生じないものであれば、任意の材料で形成されていてよく、また、その形状、製造方法等も制限されない。
【0040】
正極集電体9の厚さは、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってよい。正極集電体9の厚さは、100μm以下、50μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0041】
第1の電気化学デバイス用電極13Aは、正極合剤層10を備える。正極合剤層10は、一実施形態において、正極活物質と、特定のポリマと、特定の電解質塩と、特定の溶融塩と、を含有する。
【0042】
正極合剤層10は、正極活物質を含有する。正極活物質は、例えば、リチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属リン酸塩等のリチウム遷移金属化合物であってよい。
【0043】
リチウム遷移金属酸化物は、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等であってよい。リチウム遷移金属酸化物は、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等に含有されるMn、Ni、Co等の遷移金属の一部を、1種若しくは2種以上の他の遷移金属、又はMg、Al等の金属元素(典型元素)で置換したリチウム遷移金属酸化物であってもよい。すなわち、リチウム遷移金属酸化物は、LiM又はLiM(Mは少なくとも1種の遷移金属を含む)で表される化合物であってもよい。リチウム遷移金属酸化物は、具体的には、Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O、LiNi1/2Mn1/2、LiNi1/2Mn3/2等であってもよい。
【0044】
リチウム遷移金属酸化物は、エネルギー密度をさらに向上させる観点から、下記式(A)で表される化合物であってよい。
LiNiCo 2+e (A)
[式(A)中、Mは、Al、Mn、Mg、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、a、b、c、d、及びeは、それぞれ0.2≦a≦1.2、0.5≦b≦0.9、0.1≦c≦0.4、0≦d≦0.2、-0.2≦e≦0.2、かつb+c+d=1を満たす数である。]
【0045】
リチウム遷移金属リン酸塩は、LiFePO、LiMnPO、LiMn 1-xPO(0.3≦x≦1、MはFe、Ni、Co、Ti、Cu、Zn、Mg、及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である)等であってよい。
【0046】
正極活物質の含有量は、正極合剤層全量を基準として、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよい。正極活物質の含有量は、正極合剤層全量を基準として、99質量%以下であってよい。
【0047】
正極合剤層10は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマを含有する。
【0048】
【化4】
【0049】
一般式(1)中、Xは対アニオンを示す。ここで、Xとしては、例えば、BF (テトラフルオロボラートアニオン)、PF (ヘキサフルオロホスファートアニオン)、N(FSO (ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、[FSI])、N(CFSO (ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、[TFSI])、C(SOF) (トリス(フルオロスルホニル)カルボアニオン、[f3C])、B(C (ビスオキサレートボラートアニオン、[BOB])、BF(CF、BF(C、BF(C、BF(C、C(SOCF 、CFSO、CFCOO、RCOO(Rは、炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等が挙げられる。これらの中でも、Xは、好ましくはBF 、PF 、[FSI]、[TFSI]、及び[f3C]からなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくは[TFSI]又は[FSI]である。
【0050】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの粘度平均分子量Mv(g・mol-1)は、特に制限されないが、好ましくは1.0×10以上、より好ましくは1.0×10以上である。また、ポリマの粘度平均分子量は、好ましくは5.0×10以下、より好ましくは1.0×10以下である。
【0051】
本明細書において、「粘度平均分子量」とは、一般的な測定方法である粘度法によって評価することができ、例えば、JIS K 7367-3:1999に基づいて測定した極限粘度数[η]から算出することができる。
【0052】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマは、イオン伝導性の観点から、一般式(1)で表される構造単位のみからなるポリマ、すなわちホモポリマであることが好ましい。
【0053】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマは、下記一般式(2)で表されるポリマであってよい。
【0054】
【化5】
【0055】
一般式(2)中、nは300~4000であり、Yは対アニオンを示す。Yは、Xで例示したものと同様のものを用いることができる。
【0056】
nは、300以上、好ましくは400以上、より好ましくは500以上である。また、4000以下、好ましくは3500以下、より好ましくは3000以下である。また、nは、300~4000、好ましくは400~3500、より好ましくは500~3000である。
【0057】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの製造方法は、特に制限されないが、例えば、Journal of Power Sources 2009,188,558-563に記載の製造方法を用いることができる。
【0058】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマ(X=[TFSI])は、例えば、以下の製造方法によって得ることができる。
【0059】
まず、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)クロライド([P(DADMA)][Cl])を脱イオン水に溶解し、撹拌して[P(DADMA)][Cl]水溶液を作製する。[P(DADMA)][Cl]は、例えば、市販品をそのまま用いることができる。次いで、別途、Li[TFSI]を脱イオン水に溶解し、Li[TFSI]を含む水溶液を作製する。その後、[P(DADMA)][Cl]に対するLi[TFSI]のモル比(Li[TFSI]のモル数/[P(DADMA)][Cl]のモル数)が1.2~2.0になるように、2つの水溶液を混合して2~8時間撹拌し、固体を析出させ、得られた固体をろ過回収する。脱イオン水を用いて固体を洗浄し、12~48時間真空乾燥することによって、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマ([P(DADMA)][TFSI])を得ることができる。
【0060】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの含有量は、ポリマ、後述の電解質塩、及び後述の溶融塩の合計量を基準として、5~50質量%であってよい。ポリマの含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。また、ポリマの含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0061】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの含有量は、特に制限されないが、正極合剤層全量基準として、0.5質量%以上であってよい。また、ポリマの含有量は、正極合剤層全量基準として、25質量%以下であってよい。
【0062】
正極合剤層10は、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩を含有する。電解質塩は、通常のイオン電池用の電解液の電解質塩として使用されるものを使用することができる。電解質塩のアニオンは、ハロゲン化物イオン(I、Cl、Br等)、SCN、BF 、BF(CF、BF(C、BF(C、BF(C、PF 、ClO 、SbF 、[FSI]、[TFSI]、N(CSO 、BPh 、B(C 、[f3C]、C(CFSO 、CFCOO、CFSO、CSO、[BOB]、RCOO(Rは、炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってよい。これらの中でも、電解質塩のアニオンは、好ましくはPF 、BF 、[FSI]、[TFSI]、[BOB]、及びClO からなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくは[TFSI]又は[FSI]、さらに好ましくは[FSI]である。
【0063】
リチウム塩は、LiPF、LiBF、Li[FSI]、Li[TFSI]、Li[f3C]、Li[BOB]、LiClO、LiBF(CF)、LiBF(C)、LiBF(C)、LiBF(C)、LiC(SOCF、LiCFSOO、LiCFCOO、LiRCOO(Rは、炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0064】
ナトリウム塩は、NaPF、NaBF、Na[FSI]、Na[TFSI]、Na[f3C]、Na[BOB]、NaClO、NaBF(CF)、NaBF(C)、NaBF(C)、NaBF(C)、NaC(SOCF、NaCFSOO、NaCFCOO、NaRCOO(Rは、炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0065】
マグネシウム塩は、Mg(PF、Mg(BF、Mg[FSI]、Mg[TFSI]、Mg[f3C]、Mg[BOB]、Mg(ClO、Mg[BF(CF、Mg[BF(C)]、Mg[BF(C)]、Mg[BF(C)]、Mg[C(SOCF、Mg(CFSOO)、Mg(CFCOO)、Mg(RCOO)(Rは、炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0066】
カルシウム塩は、Ca(PF、Ca(BF、Ca[FSI]、Ca[TFSI]、Ca[f3C]、Ca[BOB]、Ca(ClO、Ca[BF(CF、Ca[BF(C)]、Ca[BF(C)]、Ca[BF(C)]、Ca[C(SOCF、Ca(CFSOO)、Ca(CFCOO)、Ca(RCOO)(Rは、炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0067】
これらの中でも、解離性及び電気化学的安定性の観点から、好ましくはリチウム塩、より好ましくはLiPF、LiBF、Li[FSI]、Li[TFSI]、Li[f3C]、Li[BOB]、及びLiClOからなる群より選ばれる少なくとも1種、さらに好ましくはLi[TFSI]又はLi[FSI]、特に好ましくLi[FSI]である。
【0068】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマに対する電解質塩の質量比(電解質塩の質量/一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの質量)は、特に制限されないが、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.2以上である。また、質量比は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下である。質量比が0.1以上であると、イオンキャリア濃度が充分となり、イオン伝導度がより向上する傾向にある。質量比が1.0以下であると、電解質の柔軟性がより向上する傾向にある。
【0069】
電解質塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び後述の溶融塩の合計量を基準として、5~30質量%であってよい。電解質塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、より好ましくは10質量%以上である。また、溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、より好ましくは25質量%以下である。
【0070】
電解質塩の含有量は、特に制限されないが、正極合剤層全量基準として、0.1質量%以上であってよい。また、電解質塩の含有量は、正極合剤層全量基準として、15質量%以下であってよい。
【0071】
正極合剤層10は、融点が250℃以下である溶融塩を含有する。溶融塩は、カチオンとアニオンとから構成されるものである。溶融塩は、融点が250℃以下であれば、特に制限されずに、通常のイオン液体又は柔粘性結晶(プラスチッククリスタル)を使用することができる。
【0072】
なお、本明細書において、「イオン液体」は、30℃で液体である溶融塩、すなわち、融点が30℃以下である溶融塩を意味し、「柔粘性結晶」は30℃で固体である溶融塩、すなわち、融点が30℃より高い溶融塩を意味する。
【0073】
イオン液体は、30℃で液体である溶融塩であれば、特に制限されることなく、使用することができる。具体的には、例えば、カチオンとして、[EMI]、[DEME]、[Py12]、[Py13]、又は[PP13]と、アニオンとして、PF 、BF 、[FSI]、[TFSI]、又は[f3C]とを組み合わせたもので、30℃で液体のものが挙げられる。より具体的には、[EMI][TFSI](融点:-15℃)、[DEME][TFSI](融点:-83℃)、[EMI][FSI](融点:-13℃)、[DEME][FSI](融点:<25℃)、[Py13][FSI](融点:-10℃)等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。また、後述の柔粘性結晶と組み合わせて使用してもよい。
【0074】
イオン液体の融点は、特に制限されないが、好ましくは25℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。融点が25℃以下であると、室温(例えば、25℃)以下においても、イオン伝導度が低下し難い傾向にある。イオン液体の融点の下限は、特に制限されないが、-150℃以上、-120℃以上、又は-90℃以上であってよい。
【0075】
柔粘性結晶は、30℃で固体であり、融点が250℃以下である溶融塩であれば、特に制限されることなく、使用することができる。具体的には、カチオンとして、[EMI]、[DEME]、[Py12]、[Py13]、又は[PP13]と、アニオン成分として、PF 、BF 、[FSI]、[TFSI]、又は[f3C]との組み合わせたもので、30℃で固体のものが挙げられる。より具体的には、[Py12][TFSI](融点:90℃)、[Py12][FSI](融点:205℃)、[DEME][f3C](融点:69℃)、[Py13][f3C](融点:177℃)、[PP13][f3C](融点:146℃)等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。また、前述のイオン液体と組み合わせて使用してもよい。柔粘性結晶は、融点が80℃以上であると、通常の電池使用時に液漏れをより抑制できる傾向にある。したがって、柔粘性結晶を用いることによって、単一セル内に電極が直列に積層されたバイポーラ電極を有する電池を実現することが可能となり得る。
【0076】
溶融塩のカチオンは、イオン伝導度の観点から、好ましくは[EMI]、[DEME]、[Py12]、又は[Py13]、より好ましくは[EMI]である。溶融塩のアニオンは、イオン伝導度の観点から、好ましくは[FSI]又は[TFSI]、より好ましくは[FSI]である。溶融塩は、イオン伝導度の観点から、[EMI][FSI]、[DEME][FSI]、[Py12][FSI]、[Py13][FSI]、[EMI][TFSI]、[DEME][TFSI]、[Py12][TFSI]、又は[Py13][TFSI]を含むことが好ましく、[EMI][FSI]を含むことがより好ましい。
【0077】
柔粘性結晶の融点は、250℃以下であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。融点が250℃以下であると、イオン伝導度が高まる傾向にある。溶融塩の融点の下限は、特に制限されないが、例えば、80℃以上とすることができる。
【0078】
溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、10~80質量%であってよい。溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。また、溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0079】
溶融塩の含有量は、特に制限されないが、正極合剤層全量基準として、0.5質量%以上であってよい。また、溶融塩の含有量は、正極合剤層全量基準として、25質量%以下であってよい。
【0080】
正極合剤層10は、導電剤、バインダ等をさらに含有していてもよい。
【0081】
導電剤は、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック等であってよい。
【0082】
導電剤の含有量は、正極合剤層全量を基準として、1~15質量%であってよい。
【0083】
バインダは、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、フッ素ゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリアクリル酸、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂;これら樹脂を主骨格として有する共重合体の樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)などであってよい。
【0084】
バインダの含有量は、正極合剤層全量を基準として、1~15質量%であってよい。
【0085】
正極合剤層10の厚さは、特に制限されないが、10μm以上、20μm以上、又は30μm以上であってよい。正極合剤層10の厚さは、100μm以下、80μm以下、又は60μm以下であってよい。
【0086】
正極合剤層10の合剤密度は、1g/cm以上であってよい。
【0087】
電解質層7は、一実施形態において、固体電解質と、電解質塩と、溶融塩と、を含有する。電解質層7としては、例えば、当該成分を含有する電解質組成物をシート状に形成したもの(電解質シート)を用いることができる。
【0088】
固体電解質としては、例えば、ポリマ電解質、無機固体電解質等が挙げられる。ポリマ電解質及び無機固体電解質は、特に制限されず、通常のイオン電池用のポリマ電解質及び無機固体電解質として使用されるものを用いることができる。
【0089】
上述した一般式(1)で表される構造単位を有するポリマは、ポリマ電解質としての性質を有し得る。そのため、当該ポリマは、ポリマ電解質として、好適に用いることができる。
【0090】
無機固体電解質は、LiLaZr12(LLZ)等であってよい。
【0091】
電解質塩及び溶融塩は、上述した正極合剤層に含有される電解質塩及び溶融塩と同様のものであってよい。
【0092】
電解質組成物は、必要に応じて、ホウ酸エステル、アルミン酸エステル等のリチウム塩解離能を有する添加剤などをさらに含有していてもよい。
【0093】
電解質層7として予めシート状に形成された電解質シートを用いる場合、電解質シートは、酸化物粒子と、バインダと、電解質塩と、イオン液体と、を含有する電解質組成物をシート状に形成したものであってもよい。
【0094】
酸化物粒子は、例えば、無機酸化物の粒子である。無機酸化物は、例えば、Li、Mg、Al、Si、Ca、Ti、Zr、La、Na、K、Ba、Sr、V、Nb、B、Ge等を構成元素として含む無機酸化物であってよい。酸化物粒子は、SiO、Al、AlOOH、MgO、CaO、ZrO、TiO、LiLaZr12、及びBaTiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子であってもよい。酸化物粒子は極性を有するため、電解質層7中の電解質の解離を促進し、電池特性を高めることができる。
【0095】
バインダ、電解質塩、及びイオン液体は、上述した正極合剤層に含有されるバインダ、電解質塩、及びイオン液体と同様のものであってよい。
【0096】
電解質層7の厚さは、強度を高め安全性を向上させる観点から、5~200μmであってよい。
【0097】
図4(a)は、図2のII-II線矢印断面図である。負極8(第2の電気化学デバイス用電極14A)は、図4(a)に示すように、負極集電体11と、負極集電体11の少なくとも一方の主面上に設けられた負極合剤層12と、を備える。
【0098】
図4(b)は、他の実施形態に係る第2の電気化学デバイス用電極を示す模式断面図である。図4(b)に示すように、第2の電気化学デバイス用電極14Bは、負極集電体11と、負極合剤層12と、電解質層7と、をこの順に備えている。電解質層7は、上述した第1の電気化学デバイス用電極における電解質層7と同様であるので、以下では説明を省略する。
【0099】
第2の電気化学デバイス用電極14Aは、負極集電体11を備える。負極集電体11は、銅、ステンレス鋼、チタン、ニッケル等で形成されていてよい。負極集電体11は、具体的には、圧延銅箔、孔径0.1~10mmの孔を有する銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等であってもよい。負極集電体11は、上記以外の任意の材料で形成されていてもよく、また、その形状、製造方法等も制限されない。
【0100】
負極集電体11の厚さは、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってよい。負極集電体11の厚さは、100μm以下、50μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0101】
第2の電気化学デバイス用電極14Aは、負極合剤層12を備える。負極合剤層12は、一実施形態において、負極活物質と、特定のポリマと、特定の電解質塩と、特定の溶融塩と、を含有する。
【0102】
負極合剤層12は、負極活物質を含有する。負極活物質は、二次電池等の通常のエネルギーデバイスの分野の負極活物質として使用されるものを使用することができる。負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属化合物、炭素材料、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。これらの中でも、負極活物質は、炭素材料であることが好ましい。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人工黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、非晶質炭素、炭素繊維などが挙げられる。負極活物質は、黒鉛を含むことが好ましい。
【0103】
負極活物質の含有量は、負極合剤層全量を基準として、60質量%以上、65質量%以上、又は70質量%以上であってよい。負極活物質の含有量は、負極合剤層全量を基準として、99質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0104】
負極合剤層12は、正極合剤層10に含有される、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩と、融点が250℃以下である溶融塩と、を含有する。これらの含有量は、正極合剤層10と同様である。
【0105】
負極活物質が黒鉛を含む場合、電解質塩は、Li[FSI]を含むことが好ましい。負極活物質が黒鉛を含み、かつ電解質塩がLi[FSI]を含むことによって、得られる二次電池の電池特性がより向上する傾向にある。
【0106】
負極合剤層12は、上述した正極合剤層10に含有される導電剤、バインダ等をさらに含有していてもよい。これらの含有量は、正極合剤層10と同様である。
【0107】
負極合剤層12の厚さは、特に制限されないが、10μm以上、15μm以上、又は20μm以上であってよい。負極合剤層12の厚さは、50μm以下、45μm以下、又は40μm以下であってよい。
【0108】
負極合剤層12の合剤密度は、1g/cm以上であってよい。
【0109】
続いて、上述した二次電池1の製造方法について説明する。第1実施形態に係る二次電池1の製造方法は、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)を製造する第1の工程と、第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)を製造する第2の工程と、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)と第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)との間に電解質層7を設ける第3の工程と、を備える。
【0110】
上述の第1の工程における第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)の製造方法は、正極集電体の少なくとも一方の主面上に正極活物質を含む正極活物質層が設けられた正極前駆体を用意する工程と、正極前駆体の正極活物質層に、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩と、融点が250℃以下である溶融塩と、分散媒と、を含有するスラリを加える工程と、正極活物質層に加えられたスラリから揮発成分を除去して、正極合剤層を形成する工程と、を備える。正極合剤層は、揮発成分(分散媒)が除去されることから、電極活物質、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩で構成され得る。
【0111】
正極前駆体における正極活物質層は、例えば、正極活物質、導電剤、バインダ等を含む材料を分散媒に分散させた正極活物質層形成用スラリを調製し、当該正極活物質層形成用スラリを正極集電体9に塗布・乾燥することによって作製することができる。分散媒は、特に制限されないが、水、アルコールと水との混合溶媒等の水系溶剤、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤であってよい。
【0112】
次いで、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩を含む材料を分散媒に分散させたスラリ(正極合剤層形成用スラリ)を調製し、当該スラリを正極活物質層に加える。スラリを加える方法としては、特に制限されず、滴下、塗布、印刷等が挙げられる。分散媒は、ポリマが溶解するものであれば特に制限されないが、アセトン、エチルメチルケトン、γ-ブチロラクトン等であってよい。これらの中でも、分散媒はアセトンを含むことが好ましい。
【0113】
スラリにおけるポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量に対するポリマの含有量、電解質塩の含有量、及び溶融塩の含有量は、上述の正極合剤層10におけるポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量に対するポリマの含有量、電解質塩の含有量、及び溶融塩の含有量と同様であってよい。
【0114】
ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比は、6以下であってよい。ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比は、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5以下である。ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比が6以下であると、正極合剤層のポリマ充填性をより向上させることができ、より良好なイオン伝導性を得ることができる傾向にある。ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.1以上、0.5以上、1以上、又は2以上であってよい。
【0115】
その後、正極活物質層に加えられたスラリから揮発成分を除去して、正極合剤層10を形成する。揮発成分を除去する方法としては、特に制限されず、通常用いられる方法で行うことができる。
【0116】
第2の工程における第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)は、上述の第1の工程における第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)と同様の製造方法によって作製することができる。すなわち、第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)の製造方法は、負極集電体の少なくとも一方の主面上に負極活物質を含む負極活物質層が設けられた負極前駆体を用意する工程と、負極前駆体の負極活物質層に、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩と、融点が250℃以下である溶融塩と、分散媒と、を含有するスラリを加える工程と、負極活物質層に加えられたスラリから揮発成分を除去して、負極合剤層を形成する工程と、を備える。負極合剤層は、揮発成分(分散媒)が除去されることから、電極活物質、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩で構成され得る。
【0117】
電解質層7は、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)の正極合剤層10側及び第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)の負極合剤層12側の少なくともいずれか一方に塗布により形成される。電解質層7は、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)の正極合剤層10側及び第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)の負極合剤層12側の両方に塗布により形成されていてもよい。この場合、例えば、電解質層7が設けられた正極6(すなわち、第1の電気化学デバイス用電極13B)と、電解質層7が設けられた負極8(すなわち、第2の電気化学デバイス用電極14B)とを、電解質層7同士が接するように積層することで、二次電池1を作製することができる。
【0118】
第3の工程では、他の実施形態において、電解質層7は、電解質層7に用いる材料を混練し、分散媒に分散させて電解質シート形成用スラリを得た後、この電解質シート形成用スラリを用いて、基材上に塗布し、分散媒を除去することによって作製することができる。分散媒は、アセトン、エチルメチルケトン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤であってよい。この場合、第3の工程では、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)、電解質層7及び第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)を、例えば、ラミネートにより積層することで二次電池1を作製することができる。このとき、電解質層7が、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)の正極合剤層10側かつ第2の電気化学デバイス用電極14A(負極8)の負極合剤層12側に位置するように、すなわち、正極集電体9、正極合剤層10、電解質層7、負極合剤層12、及び負極集電体11がこの順で配置されるように積層する。
【0119】
正極6の正極合剤層10上に電解質層7を形成する方法(すなわち、第1の電気化学デバイス用電極13Bの製造方法)は、例えば、電解質層7に用いる材料を分散媒に分散させて電解質層形成用スラリを得た後、この電解質層形成用スラリを正極合剤層10上にアプリケータを用いて塗布する方法が挙げられる。分散媒は、アセトン、エチルメチルケトン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤であってよい。電解質層7に用いる材料を分散媒に分散させる場合、予め電解質塩を溶融塩に溶解させてから、他の材料とともに分散媒に分散させてもよい。
【0120】
負極8の負極合剤層12に電解質層7を形成する方法(すなわち、第2の電気化学デバイス用電極14Bの製造方法)は、正極6の正極合剤層10上に電解質層7を形成する方法と同様であってよい。
【0121】
次に、第2実施形態に係る二次電池について説明する。図5は、第2実施形態に係る二次電池の電極群を示す分解斜視図である。図5に示すように、第2実施形態における二次電池が第1実施形態における二次電池と異なる点は、電極群2Bが、バイポーラ電極15をさらに備えている点である。すなわち、電極群2Bは、正極6と、第1の電解質層7と、バイポーラ電極15と、第2の電解質層7と、負極8とをこの順に備えている。
【0122】
バイポーラ電極15は、バイポーラ電極集電体16と、バイポーラ電極集電体16の負極8側の面に設けられた正極合剤層10と、バイポーラ電極集電体16の正極6側の面に設けられた負極合剤層12とを備えている。
【0123】
図6(a)は、図5のIII-III線矢視断面図である。バイポーラ電極15は、第3の電気化学デバイス用電極を構成する。すなわち、図6(a)に示すように、第3の電気化学デバイス用電極17Aは、バイポーラ電極集電体16と、バイポーラ電極集電体16の一方の面上に設けられた正極合剤層10と、バイポーラ電極集電体16の他方の面上に設けられた負極合剤層12と、を備えるバイポーラ電極部材である。
【0124】
図6(b)は、他の実施形態に係る第3の電気化学デバイス用電極(バイポーラ電極部材)を示す模式断面図である。図6(b)に示すように、第3の電気化学デバイス用電極17Bは、バイポーラ電極集電体16と、バイポーラ電極集電体16の一方の面上に設けられた正極合剤層10と、正極合剤層10のバイポーラ電極集電体16と反対側に設けられた第2の電解質層7と、バイポーラ電極集電体16の他方の面上に設けられた負極合剤層12と、負極合剤層12のバイポーラ電極集電体16と反対側に設けられた第1の電解質層7と、を備えている。
【0125】
バイポーラ電極集電体16は、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等であってよく、アルミニウムと銅又はステンレス鋼と銅とを圧延接合してなるクラッド材等であってよい。
【0126】
第1の電解質層7と第2の電解質層7とは、互いに同種であっても異種であってもよい。
【0127】
[第4の態様(ポリマ電解質組成物)]
ポリマ電解質組成物は、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質塩と、融点が250℃以下である溶融塩と、を含有する。ポリマ電解質組成物は、電極合剤層に適用することによって、電極合剤層のイオン導電性を向上させることが可能となる。そのため、ポリマ電解質組成物は、電極合剤層形成用として好適に用いることができる。ポリマ電解質組成物は、分散媒をさらに含有していてもよい。
【0128】
ポリマ、電解質塩、及び溶融塩は、上述の正極合剤層10におけるポリマ、電解質塩、及び溶融塩で例示したものと同様であってよい。ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量に対するポリマの含有量、電解質塩の含有量、及び溶融塩の含有量は、上述の正極合剤層10におけるポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量に対するポリマの含有量、電解質塩の含有量、及び溶融塩の含有量で例示した数値と同様であってよい。
【0129】
分散媒は、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)を製造する第1の工程のスラリ(正極合剤層形成用スラリ)で分散媒として例示したものと同様であってよい。ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比は、第1の電気化学デバイス用電極13A(正極6)を製造する第1の工程のポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比で例示した数値と同様であってよい。
【実施例
【0130】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0131】
1.二次電池の作製及び評価-1
[二次電池用電極及び二次電池の作製]
<正極前駆体の作製>
Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O(正極活物質)80質量部、アセチレンブラック(導電剤、商品名:HS-100、平均粒径48nm(製造元カタログ値)、電気化学工業株式会社)10質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(バインダ、商品名:クレハKFポリマ#1120、固形分:12質量%、株式会社クレハ)83質量部、及びN-メチル-2-ピロリドン(分散媒、NMP)2.5質量部を混合して正極活物質層形成用スラリを調製した。この正極活物質層形成用スラリを正極集電体(厚さ20μmのアルミニウム箔)上の両面(両方の主面)に塗布し、120℃で乾燥後、圧延して、片面塗布量60g/m、合剤密度2.3g/cmの正極活物質層を形成し、正極前駆体を作製した。
【0132】
<負極前駆体の作製>
LiTi12(負極活物質)88質量部、アセチレンブラック(導電剤、商品名:HS-100、平均粒径48nm(製造元カタログ値)、電気化学工業株式会社)5質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(バインダ、商品名:クレハKFポリマ#9130、固形分:13質量%、株式会社クレハ)54質量部、及びN-メチル-2-ピロリドン(分散媒、NMP)23質量部を混合して負極活物質層形成用スラリを調製した。この負極活物質層形成用スラリを負極集電体(厚さ20μmのアルミニウム箔)上の両面に塗布し、120℃で乾燥後圧延して、片面塗布量67g/m、合剤密度1.8g/cmの負極活物質層を形成し、負極前駆体を作製した。
【0133】
<ポリマ[P(DADMA)][TFSI]の合成>
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)クロライドの対アニオンClを[TFSI]に変換することによって合成した。
【0134】
[P(DADMA)][Cl]水溶液(20質量%水溶液、Aldrich社製)100質量部を、蒸留水500質量部で希釈し、希釈ポリマ水溶液を作製した。次に、Li[TFSI](キシダ化学株式会社製)43質量部を水100質量部に溶解し、Li[TFSI]水溶液を作製した。これを希釈ポリマ水溶液に滴下し、2時間撹拌することによって白色析出物を得た。析出物をろ過によって分離し、400質量部の蒸留水で洗浄後、再度ろ過を行った。洗浄及びろ過は5回繰り返した。その後、105℃の真空乾燥によって水分を蒸発させ、[P(DADMA)][TFSI]を得た。[P(DADMA)][TFSI]の粘度平均分子量は、2.11×10g・mol-1であった。
【0135】
粘度平均分子量Mvは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を標準物質として用いて、ウベローデ粘度計を使用して25℃におけるポリマの粘度[η]を測定した後、[η]=KMv(ここで、Kは拡張因子を示し、その値は、温度、ポリマ、及び溶媒性質に依存する。)に基づき、算出した。
【0136】
<スラリの調製>
得られたポリマ8質量部に対して、電解質塩としてLi[TFSI]を2質量部、溶融塩として[Py12][TFSI](関東化学株式会社製、融点:90℃)を10質量部、及び分散媒としてアセトンを24質量部加えて撹拌し、スラリA(電極合剤層形成用スラリ)を得た。スラリAの溶融塩の含有量は、ポリマ、電解質塩、及び溶融塩の合計量を基準として、50質量%であった。スラリAのポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比は3であった。また、得られたポリマ8質量部に対して、電解質塩としてLi[TFSI]を2質量部、溶融塩として[Py12][TFSI]を10質量部、及び分散媒としてアセトンを16質量部加えて撹拌し、スラリB(電解質シート形成用スラリ)を得た。
【0137】
<電解質シートの調製>
スラリBをφ16mmのSUS板上に滴下し、40℃で2時間乾燥させ、アセトンを揮発させた。その後、60℃で1.0×10Pa以下(0.1気圧以下)の減圧下で10時間乾燥し、厚さ400μmの電解質シートを得た。
【0138】
(実施例1-1)
<正極の作製>
上記で作製した正極前駆体の正極活物質層に、スラリAをドクターブレード法にて、ギャップ200μmで塗布することによって加えた。その後、真空デシケータを用いて、0.05MPa減圧及び大気圧開放を10回繰り返すことによって、揮発成分を除去して正極合剤層を作製し、正極合剤層を備える正極を得た。
【0139】
<負極の作製>
上記で作製した負極前駆体の負極活物質層に、スラリAをドクターブレード法にて、ギャップ200μmで塗布することによって加えた。その後、真空デシケータを用いて、0.05MPa減圧及び大気圧開放を10回繰り返すことによって、揮発成分を除去して負極合剤層を作製し、負極合剤層を備える負極を得た。
【0140】
<電解質層の作製>
得られた正極の正極合剤層に、スラリBをドクターブレード法にて、ギャップ250μmで塗布した。真空デシケータを用いて、0.05MPa減圧及び大気圧開放を10回繰り返し、60℃、12時間真空乾燥することによって、正極合剤層上に、厚さ30μmの電解質層を有する正極を得た。同様にして、負極の負極合剤層上に、厚さ30μmの電解質層を有する負極を得た。
【0141】
<二次電池の作製>
上記で作製した電解質層を有する正極及び負極を、コイン型電池を作製するため、φ15mmに打ち抜いた。電解質層同士が接するように、正極及び負極を重ねて、CR2032型のコインセル容器内に配置した。得られた積層体を、絶縁性のガスケットを介して電池容器上部をかしめて密閉することによって、実施例1の二次電池を得た。なお、電池作製はアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0142】
[走査型電子顕微鏡による分析]
実施例1で作製した正極について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、エネルギー分散型X線分析(EDX)によるコバルト及び硫黄の分布を分析した。分析結果を図7に示す。
【0143】
図7(a)は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影した、実施例1で作製した正極のある一カ所の断面像である。図7(a)に示すように、正極は、正極集電体30と、正極集電体30の少なくとも一方の主面上に設けられた正極合剤層20と、を備えている。図7(a)に示す箇所の面分析(元素マッピング)の結果を、図7(b)及び(c)に示す。面分析は、SEMに付属のエネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)によって行った。図7(b)における色の淡い(白い)箇所は、コバルトが存在している箇所である。コバルトは、正極活物質であるLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oに由来する。図7(c)における色の淡い(白い)箇所は、硫黄が存在している箇所である。硫黄は、[P(DADMA)][TFSI]、Li[TFSI]、及び[Py12][TFSI]の[TFSI]に由来する。図7(c)に示すように、ポリマ等の成分が正極物質に均一に分散されており、ポリマ等の成分と正極物質との間で界面が形成していることが示唆された。
【0144】
[電池性能評価]
上記の方法で作製した二次電池を用いて電池性能の評価を行った。充放電装置(東洋システム株式会社、商品名:TOSCAT-3200)を用いて、50℃、0.05Cで充放電測定を実施した。なお、Cは「電流値[A]/設計理論容量[Ah]」を意味し、1Cは電池を1時間で満充電又は満放電するための電流値を示す。結果を表1に示す。放電容量はその値が大きいほど電池特性に優れるといえる。
【0145】
(比較例1-1)
<二次電池の作製>
上記で作製した正極前駆体、電解質シート、及び負極前駆体を、正極活物質層と負極活物質層とが電解質シートに接するように、この順に重ねて、CR2032型のコインセル容器内に配置した。得られた積層体を、絶縁性のガスケットを介して電池容器上部をかしめて密閉することによって、比較例1の二次電池を得た。なお、電池作製はアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。得られた二次電池について、実施例1と同様に、電池性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
図8は、実施例1及び比較例1で作製した二次電池の電池性能評価を示すグラフである。実施例1の二次電池は、比較例1の二次電池に比べて、放電容量が約2倍であり、電池特性に優れていることが判明した。これらの結果から、本発明の電気化学デバイス用電極が、電極合剤層に固体電解質を加えて電池を作製した場合であっても、電池特性を高めることが可能であることが確認された。
【0148】
2.二次電池の作製及び評価-2
[二次電池用電極及び二次電池の作製]
<正極前駆体の作製>
Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O(正極活物質)66質量部、アセチレンブラック(導電剤、商品名:Li400、平均粒径48nm(製造元カタログ値)、電気化学工業株式会社)4質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(バインダ、商品名:クレハKFポリマ#1120、固形分:12質量%、株式会社クレハ)14質量部、及びN-メチル-2-ピロリドン(分散媒、NMP)15質量部を混合して正極活物質層形成用スラリを調製した。この正極活物質層形成用スラリを正極集電体(厚さ20μmのアルミニウム箔)上の主面に塗布し、120℃で乾燥後、圧延して、片面塗布量120g/m、合剤密度2.7g/cmの正極活物質層を形成し、正極前駆体を作製した。
【0149】
<負極前駆体の作製>
黒鉛(負極活物質)52質量部、カーボンナノチューブ(導電剤、商品名:VGCF、繊維径150nm(製造元カタログ値)、昭和電工株式会社)0.4質量部、高純度黒鉛(導電剤、商品名:JSP、平均粒径7μm(製造元カタログ値)、日本黒鉛株式会社)1.4質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(バインダ、商品名:クレハKFポリマ#9130、固形分:13質量%、株式会社クレハ)21.8質量部、及びN-メチル-2-ピロリドン(分散媒、NMP)24.4質量部を混合して負極活物質層形成用スラリを調製した。この負極活物質層形成用スラリを負極集電体(厚さ10μmの銅箔)上の主面に塗布し、80℃で乾燥後圧延して、片面塗布量60g/m、合剤密度1.6g/cmの負極活物質層を形成し、負極前駆体を作製した。
【0150】
<ポリマ[P(DADMA)][FSI]の合成>
Li[TFSI]の代わりにLi[FSI]を用いた以外は、上記ポリマ[P(DADMA)][TFSI]の合成と同様にして、[P(DADMA)][FSI]を合成した。
【0151】
<スラリの調製>
ポリマとして上述で合成した[P(DADMA)][TFSI]又は[P(DADMA)][FSI]、電解質塩としてのLi[FSI]、溶融塩として[Py13][FSI](関東化学株式会社製)又は[EMI][FSI](関東化学株式会社製)、及び分散媒としてアセトンを、表2に示す質量部で撹拌し、スラリC~G(電極合剤層形成用スラリ)を調製した。
【0152】
【表2】
【0153】
<電解質シートの作製>
Li[TFSI]を電解質塩として用い、イオン液体である[DEME][TFSI]に、電解質塩の濃度が1.5mol/Lとなるように溶解させて、Li[TFSI]のイオン液体溶液を調製した。得られたイオン液体溶液、SiO粒子、バインダ(商品名:クレハKFポリマ#8500、株式会社クレハ)、及びNMPをそれぞれ43質量部、23質量部、34質量部、及び143質量部を混合して電解質シート形成用スラリを調製した。この電解質シート形成用スラリを支持フィルム上の主面に塗布し、80℃で乾燥して、厚さ20μmの電解質シートを作製した。二次電池の作製のため、得られた電解質シートを円型に打ち抜いた。
【0154】
(実施例2-1)
<正極及び負極の作製>
上記で作製した正極前駆体の正極活物質層及び負極前駆体の負極活物質層に、スラリCをドクターブレード法にて、ギャップ150μmで塗布することによって加えた。その後、60℃、12時間真空乾燥することによって、揮発成分(分散媒)を除去し、正極合剤層及び負極合剤層を作製して、正極合剤層を備える正極及び負極合剤層を備える負極を得た。二次電池の作製のため、得られた正極及び負極を円型に打ち抜いた。
【0155】
<二次電池の作製>
円型に打ち抜かれた正極、電解質シート、及び負極をこの順に重ねて、CR2032型のコインセル容器内に配置した。得られた積層体を、絶縁性のガスケットを介して電池容器上部をかしめて密閉することによって、実施例2-1の二次電池を得た。
【0156】
(実施例2-2)
スラリCをスラリDに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、実施例2-2の二次電池を得た。
【0157】
(実施例2-3)
スラリCをスラリEに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、実施例2-3の二次電池を得た。
【0158】
(実施例2-4)
スラリCをスラリFに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、実施例2-4の二次電池を得た。
【0159】
(実施例2-5)
スラリCをスラリGに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、実施例2-5の二次電池を得た。
【0160】
(比較例2-1)
スラリCを正極前駆体の正極活物質層及び負極前駆体の負極活物質層に塗布しなかった以外は、実施例2-1と同様にして、比較例2-1の二次電池を得た。
【0161】
[電池性能評価]
上記の方法で作製した実施例2-1~2-5及び比較例2-1の二次電池を用いて電池性能の評価を行った。25℃での充放電容量を充放電装置(東洋システム株式会社、商品名:TOSCAT-3200)を用いて、以下の充放電条件下で測定した。結果を表3に示す。放電容量はその値が大きいほど電池特性に優れるといえる。
(1)終止電圧4.2V、0.05Cで定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、0.05Cで終止電圧2.7Vまで定電流(CC)放電するサイクルを1サイクル行い、0.05Cの充電容量及び放電容量を求めた。なお、Cは「電流値[A]/設計理論容量[Ah]」を意味し、1Cは電池を1時間で満充電又は満放電するための電流値を示す。
(2)次いで、終止電圧4.2V、0.05Cで定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、0.2Cで終止電圧2.7Vまで定電流(CC)放電するサイクルを1サイクル行い、0.2Cの放電容量を求めた。
(3)次いで、終止電圧4.2V、0.05Cで定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、0.5Cで終止電圧2.7Vまで定電流(CC)放電するサイクルを1サイクル行い、0.5Cの放電容量を求めた。
【0162】
【表3】
【0163】
実施例2-1~2-5の二次電池は、比較例2-1の二次電池に比べて、電池特性に優れていることが判明した。これらの結果から、本発明の電気化学デバイス用電極が、電極合剤層に固体電解質を加えて電池を作製した場合であっても、電池特性を高めることが可能であることが確認された。
【0164】
3.二次電池の作製及び評価-3
[二次電池用電極及び二次電池の作製]
<正極前駆体の作製>
Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O(正極活物質)66質量部、アセチレンブラック(導電剤、商品名:Li400、平均粒径48nm(製造元カタログ値)、電気化学工業株式会社)4質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(バインダ、商品名:クレハKFポリマ#1120、固形分:12質量%、株式会社クレハ)14質量部、及びN-メチル-2-ピロリドン(分散媒、NMP)15質量部を混合して正極活物質層形成用スラリを調製した。この正極活物質層形成用スラリを正極集電体(厚さ20μmのアルミニウム箔)上の主面に塗布し、120℃で乾燥後、圧延して、片面塗布量120g/m、合剤密度2.7g/cmの正極活物質層を形成し、正極前駆体を作製した。その後、ラミネート型セル作製のために電極を加工した。
【0165】
<負極前駆体の作製>
黒鉛(負極活物質)52質量部、カーボンナノチューブ(導電剤、商品名:VGCF、繊維径150nm(製造元カタログ値)、昭和電工株式会社)0.4質量部、高純度黒鉛(導電剤、商品名:JSP、平均粒径7μm(製造元カタログ値)、日本黒鉛株式会社)1.4質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(バインダ、商品名:クレハKFポリマ#9130、固形分:13質量%、株式会社クレハ)21.8質量部、及びN-メチル-2-ピロリドン(分散媒、NMP)24.4質量部を混合して負極活物質層形成用スラリを調製した。この負極活物質層形成用スラリを負極集電体(厚さ10μmの銅箔)上の主面に塗布し、80℃で乾燥後圧延して、片面塗布量60g/m、合剤密度1.6g/cmの負極活物質層を形成し、負極前駆体を作製した。その後、ラミネート型セル作製のために電極を加工した。
【0166】
<スラリの調製>
ポリマとして上述で合成した[P(DADMA)][TFSI]、電解質塩としてのLi[FSI]、溶融塩として[EMI][FSI](関東化学株式会社製)、及び分散媒としてアセトンを、表4に示す質量部で撹拌し、スラリH~K(電極合剤層形成用スラリ)を調製した。
【0167】
【表4】
【0168】
<電解質シートの作製>
Li[FSI]を電解質塩として用い、イオン液体である[Py13][FSI]に、電解質塩の濃度が1.5mol/Lとなるように溶解させて、Li[FSI]のイオン液体溶液を調製した。得られたイオン液体溶液、SiO粒子、バインダ(商品名:クレハKFポリマ#8500、株式会社クレハ)、及びNMPをそれぞれ43質量部、23質量部、34質量部、及び143質量部を混合して電解質シート形成用スラリを調製した。この電解質シート形成用スラリを支持フィルム上の主面に塗布し、80℃で乾燥して、厚さ20μmの電解質シートを作製した。
【0169】
(実施例3-1)
<正極及び負極の作製>
上記で作製した正極前駆体の正極活物質層及び負極前駆体の負極活物質層に、スラリHをドクターブレード法にて、ギャップ150μmで塗布することによって加えた。その後、60℃、12時間真空乾燥することによって揮発成分(分散媒)を除去し、正極合剤層及び負極合剤層を作製して、正極合剤層を備える正極及び負極合剤層を備える負極を得た。
【0170】
<二次電池の作製>
正極、電解質シート、及び負極をこの順に重ねて、ラミネート型セルを作製し、実施例3-1の二次電池を得た。
【0171】
(実施例3-2)
スラリHをスラリIに変更した以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-2の二次電池を得た。
【0172】
(実施例3-3)
スラリHをスラリJに変更した以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-3の二次電池を得た。
【0173】
(実施例3-4)
スラリHをスラリKに変更した以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-4の二次電池を得た。
【0174】
[電池性能評価]
上記の方法で作製した実施例3-1~3-4の二次電池を用いて電池性能の評価を行った。25℃での充放電容量を充放電装置(東洋システム株式会社、商品名:TOSCAT-3200)を用いて、5℃、0.05Cで充放電測定を行った。放電容量は、終止電圧4.2V、0.05Cで定電流定電圧(CCCV)充電を行った後、0.05Cで終止電圧2.7Vまで定電流(CC)放電するサイクルを1サイクル行うことによって求めた。なお、Cとは「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。結果を表5に示す。放電容量はその値が大きいほど電池特性に優れるといえる。
【0175】
【表5】
【0176】
[走査型電子顕微鏡による分析]
実施例3-1~3-4で作製した正極について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、二次電池の断面を分析した。分析結果を図9及び図10に示す。
【0177】
図9(a)及び(b)並びに図10(a)及び(b)は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影した、実施例3-1~3-4で作製した正極のある一カ所の断面像である。図9及び図10に示すように、正極は、正極集電体30と、正極集電体30の少なくとも一方の主面上に設けられた正極合剤層20と、を備えている。図9に示す断面像と図10に示す断面像との対比から、スラリに使用されるアセトンが減少するにつれて、正極合剤層のポリマ充填性が向上する傾向にあることが観察された。
【0178】
実施例3-1~3-4の二次電池は、いずれも電池特性に優れていた。これらの結果から、本発明の電気化学デバイス用電極が、電極合剤層に固体電解質を加えて電池を作製した場合であっても、電池特性を高めることが可能であることが確認された。一方で、ポリマの含有量に対する分散媒の含有量の質量比が小さくなるにつれて、正極合剤層にポリマをより充分に充填することができ、より良好なイオン伝導性を得ることができる傾向にあることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明によれば、電極合剤層に固体電解質を加えて電池を作製した場合であっても、電池特性を高めることが可能な電気化学デバイス用電極及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、このような電気化学デバイス用電極を用いた電気化学デバイスが提供される。さらに、本発明によれば、電極合剤層のイオン導電性を向上させることが可能なポリマ電解質組成物が提供される。
【符号の説明】
【0180】
1…二次電池、2,2A,2B…電極群、3…電池外装体、4…正極集電タブ、5…負極集電タブ、6…正極、7…電解質層、8…負極、9、30…正極集電体、10、20…正極合剤層、11…負極集電体、12…負極合剤層、13A,13B…第1の電気化学デバイス用電極、14A,14B…第2の電気化学デバイス用電極、15…バイポーラ電極、16…バイポーラ電極集電体、17A,17B…第3の電気化学デバイス用電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10