(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ベンジル化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 211/49 20060101AFI20221025BHJP
C07C 233/25 20060101ALI20221025BHJP
C07C 271/22 20060101ALI20221025BHJP
C07C 269/06 20060101ALI20221025BHJP
C07K 1/06 20060101ALI20221025BHJP
C07C 215/68 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C07C211/49
C07C233/25
C07C271/22
C07C269/06
C07K1/06 ZNA
C07C215/68 CSP
(21)【出願番号】P 2019527739
(86)(22)【出願日】2018-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2018025303
(87)【国際公開番号】W WO2019009317
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2017132233
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018031229
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】長屋 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】石田 まりこ
(72)【発明者】
【氏名】安田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】半田 道玄
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-004749(JP,A)
【文献】特開2003-104964(JP,A)
【文献】特表2004-504297(JP,A)
【文献】特開平06-001765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a
は、鎖状脂肪族炭化水素基を表し、
R
bは、
鎖状脂肪族炭化水素基、
又は-C(O)R
c
(式中、R
cは、
メチル基を表す。)を表し、
-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表
し、
但し、
Yが、-NHRを表す場合には、
nが、1又は2であり、少なくとも1つの-NR
a
R
b
が、ベンゼン環上の-CH
2
Yのメタ位に置換する。]
で表される化合物。
【請求項2】
式(I):
【化2】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ
鎖状脂肪族炭化水素基を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
-NR
aR
b中の炭素原子の総数が、22~200である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
-NR
aR
b中の炭素原子の総数が、40~80である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項5】
nが、1又は2であり、少なくとも1つの-NR
aR
bが、ベンゼン環上の-CH
2Yのメタ位に置換する、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
nが、1である、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
Yが、ヒドロキシ基である、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
Yが、-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
Rが、水素原子である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項11】
3-ジフィチルアミノ-ベンジルアルコ-ルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項12】
3-(アミノメチル)-N,N-ジドコシルアニリンである、請求項9に記載の化合物。
【請求項13】
R
b
が、-C(O)R
c(式中、R
cは、
メチル基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数が、22~80である、請求項1に記載の化合物
。
【請求項14】
nが、1であり、-NR
aR
bが、ベンゼン環上の-CH
2Yのメタ位に置換する、請求項1
又は1
3に記載の化合物。
【請求項15】
Yが、ヒドロキシ基である、請求項1
、13
及び14のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミド又はN-トリアコンチル-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミドである、請求項
15に記載の化合物。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれか1項に記載の化合物を含む、アミノ酸又はペプチド中のカルボキシ基を保護するための試薬。
【請求項18】
請求項1~
16のいずれか1項に記載の化合物を含む、アミノ酸又はペプチド中のC末端を保護するための試薬。
【請求項19】
下記工程(1)及び(2)を含む、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチドを製造するための方法。
(1)
式(I):
【化3】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a
は、鎖状脂肪族炭化水素基を表し、
R
bは、
鎖状脂肪族炭化水素基、
又は-C(O)R
c
(式中、R
cは、
メチル基を表す。)を表し、
-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物と、アミノ酸又はペプチドとを結合させる工程。
(2)
工程(1)で得られた、化合物とアミノ酸又はペプチドとの結合物を、沈殿又は分液する工程。
【請求項20】
下記工程(1)及び(2)を含む、請求項
19に記載の方法。
(1)
式(I):
【化4】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ
鎖状脂肪族炭化水素基を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物と、アミノ酸又はペプチドとを結合させる工程。
(2)
工程(1)で得られた、化合物とアミノ酸又はペプチドとの結合物を、沈殿又は分液する工程。
【請求項21】
下記工程(1)~(4)を含む、ペプチドを製造するための方法。
(1)
式(I):
【化5】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a
は、鎖状脂肪族炭化水素基を表し、
R
bは、
鎖状脂肪族炭化水素基、
又は-C(O)R
c
(式中、R
cは、
メチル基を表す。)を表し、
-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物を、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドのC末端と縮合し、アミノ酸又はペプチドを得る工程。
(2)
工程(1)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端の保護基を、除去する工程。
(3)
工程(2)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程。
(4)
工程(3)で得られたペプチドを、沈殿又は分液する工程。
【請求項22】
下記工程(1)~(4)を含む、請求項
21に記載の方法。
(1)
式(I):
【化6】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ
鎖状脂肪族炭化水素基を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表されるベンジル化合物を、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドのC末端と縮合し、アミノ酸又はペプチドを得る工程。
(2)
工程(1)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端の保護基を、除去する工程。
(3)
工程(2)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程。
(4)
工程(3)で得られたペプチドを、沈殿又は分液する工程。
【請求項23】
工程(4)の後に、C-保護ペプチドのC末端保護基を除去する工程を含む、請求項
21又は
22に記載の方法。
【請求項24】
さらに、下記工程(5)~(7)の繰り返しを1以上含む、請求項
21又は
22に記載の方法。
(5)
工程(4)で得られたペプチドのN末端の保護基を除去する工程。
(6)
工程(5)で得られたペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程。
(7)
工程(6)で得られたペプチドを沈殿又は分液する工程。
【請求項25】
工程(7)の後に、C-保護ペプチドのC末端保護基を除去する工程を含む、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
式(II):
【化7】
[式中、
R
a
は、鎖状脂肪族炭化水素基を表し、
R
bは、
鎖状脂肪族炭化水素基、
又は-C(O)R
c
(式中、R
cは、
メチル基を表す。)を表し、
-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表し、
Zは、-O-X又は-NR-X(式中、Xはアミノ酸又はペプチドを表し、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)]
で表される、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
【請求項27】
R
a及びR
bが、独立して、それぞれ
鎖状脂肪族炭化水素基である、請求項
26に記載の、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
【請求項28】
Zにおける-O又は-NRが、アミノ酸又はペプチド中のカルボキシ基と結合した、請求項
26又は
27に記載の、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
【請求項29】
Zにおける-O又は-NRが、アミノ酸又はペプチド中のC末端のカルボキシ基と結合した、請求項
26又は
27に記載の、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なベンジル化合物及び当該化合物を用いるペプチドの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドの液相合成においては、しばしば生成物の単離及び精製が問題となっている。近年、その生成物の単離精製を簡便に行うための方法として、有機タグと呼ばれる(疑似固相保護基又はアンカーとも呼ばれる)長鎖脂肪族基が導入された保護基を用いる合成方法が知られるようになった。
有機タグの一つの例としては、2,4-ビス(2’,3’-ジヒドロフィチルオキシ)ベンンジルアルコール化合物が挙げられる。この有機タグを用いると、ペプチドを多段階で合成する際に、各工程の中間体を単離することなく、抽出及び分液のみを経て最終生成物へと導くことができる(特許文献1)。
また、有機タグのその他の例としては、3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコール化合物が挙げられる。この有機タグを用いると、反応後に溶媒組成を変化させることにより、ペプチドの単離及び精製を、濾過及び洗浄だけで行うことができる(特許文献2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/029794号
【文献】国際公開第2007/122847号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chem.Commun.,46,8219-8221(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペプチドの合成では、保護基の付加及び脱離を適宜繰り返しながら、合成を進めることが一般的である。上記の有機タグを用いたペプチド合成の際には、ペプチドと有機タグの結合を維持したまま、その他の保護基の付加及び脱離を行う必要がある(本明細書では、それら保護基を「一時保護基」と呼ぶ)。しかし、これまでの有機タグの課題として、例えばペプチドのN末端の一時保護基を塩基性条件で脱保護すると、副反応として分子内環化反応が生じ、有機タグが脱離することが明らかとなっている。その副反応を回避する手法として、N末端の一時保護基として、Boc基等の酸性条件で脱保護できる保護基を用いることが知られている(非特許文献1)。その際、有機タグは、高い酸安定性を有することが望ましいが、従来の有機タグの酸安定性は十分とは言えなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、酸性条件下で高い安定性を有する有機タグを提供すべく鋭意検討を重ねた結果、ベンジル基を含有する特定の構造を有する化合物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を提供することを含むものである。
【0007】
[1]
式(I):
【化1】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、-C(O)R
c又は-S(O)
2R
c(式中、R
cは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物。
[2]
式(I):
【化2】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される、[1]に記載の化合物。
[3]
-NR
aR
b中の炭素原子の総数が、22~200である、[1]又は[2]に記載の化合物。
[4]
-NR
aR
b中の炭素原子の総数が、40~80である、[1]又は[2]に記載の化合物。
[5]
nが、1又は2であり、少なくとも1つの-NR
aR
bが、ベンゼン環上の-CH
2Yのメタ位に置換する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の化合物。
[6]
nが、1である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の化合物。
[7]
Yが、ヒドロキシ基である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の化合物。
[8]
Yが、-NHR(Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の化合物。
[9]
Rが、水素原子である、[8]に記載の化合物。
[10]
3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルである、[7]に記載の化合物。
[11]
3-ジフィチルアミノ-ベンジルアルコ-ルである、[7]に記載の化合物。
[12]
3-(アミノメチル)-N,N-ジドコシルアニリンである、[9]に記載の化合物。
[13]
R
a及びR
bのうちの1つが、-C(O)R
c(式中、R
cは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数が、22~80である、[1]に記載の化合物。
[14]
R
aが、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基であり、R
bが、-C(O)R
c(式中、R
cは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数が、22~80である、[1]に記載の化合物。
[15]
nが、1であり、-NR
aR
bが、ベンゼン環上の-CH
2Yのメタ位に置換する、[1]、[13]及び[14]のいずれか1つに記載の化合物。
[16]
Yが、ヒドロキシ基である、[1]及び[13]~[15]のいずれか1つに記載の化合物。
[17]
N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミド又はN-トリアコンチル-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミドである、[16]に記載の化合物。
[18]
[1]~[17]のいずれか1つに記載の化合物を含む、アミノ酸又はペプチド中のカルボキシ基を保護するための試薬。
[19]
[1]~[17]のいずれか1つに記載の化合物を含む、アミノ酸又はペプチド中のC末端を保護するための試薬。
[20]
下記工程(1)及び(2)を含む、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチドを製造するための方法。
(1)
式(I):
【化3】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、-C(O)R
c又は-S(O)
2R
c(式中、R
cは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物と、アミノ酸又はペプチドとを結合させる工程。
(2)
工程(1)で得られた、化合物とアミノ酸又はペプチドとの結合物を、沈殿又は分液する工程。
[21]
下記工程(1)及び(2)を含む、[20]に記載の方法。
(1)
式(I):
【化4】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物と、アミノ酸又はペプチドとを結合させる工程。
(2)
工程(1)で得られた、化合物とアミノ酸又はペプチドとの結合物を、沈殿又は分液する工程。
[22]
下記工程(1)~(4)を含む、ペプチドを製造するための方法。
(1)
式(I):
【化5】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、-C(O)R
c又は-S(O)
2R
c(式中、R
cは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物を、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドのC末端と縮合し、アミノ酸又はペプチドを得る工程。
(2)
工程(1)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端の保護基を、除去する工程。
(3)
工程(2)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程。
(4)
工程(3)で得られたペプチドを、沈殿又は分液する工程。
[23]
下記工程(1)~(4)を含む、[22]に記載の方法。
(1)
式(I):
【化6】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物を、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドのC末端と縮合し、アミノ酸又はペプチドを得る工程。
(2)
工程(1)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端の保護基を、除去する工程。
(3)
工程(2)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程。
(4)
工程(3)で得られたペプチドを、沈殿又は分液する工程。
[24]
工程(4)の後に、C-保護ペプチドのC末端保護基を除去する工程を含む、[22]又は[23]に記載の方法。
[25]
さらに、下記工程(5)~(7)の繰り返しを1以上含む、[22]又は[23]に記載の方法。
(5)
工程(4)で得られたペプチドのN末端の保護基を除去する工程。
(6)
工程(5)で得られたペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程。
(7)
工程(6)で得られたペプチドを沈殿又は分液する工程。
[26]
工程(7)の後に、C-保護ペプチドのC末端保護基を除去する工程を含む、[25]に記載の方法。
[27]
式(II):
【化7】
[式中、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、-C(O)R
c又は-S(O)
2R
c(式中、R
cは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表し、
Zは、-O-X又は-NR-X(式中、Xはアミノ酸又はペプチドを表し、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)]
で表される、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
[28]
R
a及びR
bが、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基である、[27]に記載の、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
[29]
Zにおける-O又は-NRが、アミノ酸又はペプチド中のカルボキシ基と結合した、[27]又は[28]に記載の、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
[30]
Zにおける-O又は-NRが、アミノ酸又はペプチド中のC末端のカルボキシ基と結合した、[27]又は[28]に記載の、有機タグで保護されたアミノ酸又はペプチド。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ペプチド合成等において、酸性条件下で高い安定性を有する有機タグとして使用可能な化合物が提供される。また本発明により、当該化合物を有機タグとして用いる高効率なペプチドの製造方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。文中、単数形により表現されているものについては、技術的に矛盾しない限り、単一物のみを用いる態様のみではなく、複数物を用いてもよいことが当業者には理解されるだろう。
なお、本明細書中、「n-」はノルマル、「i-」はイソ、「s-」及び「sec-」はセカンダリー、「t-」及び「tert-」はターシャリー、「Boc」はターシャリーブトキシカルボニル、「Cbz」はベンジルオキシカルボニル、「Fmoc」は9-フルオレニルメトキシカルボニル、「Me」はメチル、「Bu」はブチルを意味する。
【0010】
「ハロゲン原子」とは、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0011】
「C1-6アルキル基」とは、炭素数が1乃至6個である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。
【0012】
「C1-6アルコキシ基」とは、炭素数が1乃至6個である直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基を意味し、具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0013】
「C1-6アルコキシカルボニル基」とは、炭素原子が1乃至6個である直鎖又は分岐鎖状のアルコキシカルボニル基を意味し、具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基、n-ヘキシルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0014】
「モノC1-6アルキルアミノ基」とは、1個の前記「C1-6アルキル基」がアミノ基に結合した基を意味し、具体例としては、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、モノ-n-プロピルアミノ基、モノイソプロピルアミノ基、モノ-n-ブチルアミノ基、モノイソブチルアミノ基、モノ-t-ブチルアミノ基、モノ-n-ペンチルアミノ基、モノ-n-ヘキシルアミノ基などが挙げられる。
【0015】
「ジC1-6アルキルアミノ基」とは、同一又は異なる2個の前記「C1-6アルキル基」がアミノ基に結合した基を意味し、具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジ-t-ブチルアミノ基、ジ-n-ペンチルアミノ基、ジ-n-ヘキシルアミノ基、N-エチル-N-メチルアミノ基、N-メチル-N-n-プロピルアミノ基、N-イソプロピル-N-メチルアミノ基、N-n-ブチル-N-メチルアミノ基、N-イソブチル-N-メチルアミノ基、N-t-ブチル-N-メチルアミノ基、N-メチル-N-n-ペンチルアミノ基、N-n-ヘキシル-N-メチルアミノ基、N-エチル-N-n-プロピルアミノ基、N-エチル-N-イソプロピルアミノ基、N-n-ブチル-N-エチルアミノ基、N-エチル-N-イソブチルアミノ基、N-t-ブチル-N-エチルアミノ基、N-エチル-N-n-ペンチルアミノ基、N-エチル-N-n-ヘキシルアミノ基などが挙げられる。
【0016】
「モノC1-6アルキルアミノカルボニル基」とは、1個の前記「C1-6アルキル基」がアミノカルボニル基に結合した基を意味し、具体例としては、モノメチルアミノカルボニル基、モノエチルアミノカルボニル基、モノ-n-プロピルアミノカルボニル基、モノイソプロピルアミノカルボニル基、モノ-n-ブチルアミノカルボニル基、モノイソブチルアミノカルボニル基、モノ-t-ブチルアミノカルボニル基、モノ-n-ペンチルアミノカルボニル基、モノ-n-ヘキシルアミノカルボニル基などが挙げられる。
【0017】
「C1-6アルキルカルボニルアミノ基」とは、1個の前記「C1-6アルキル基」がカルボニルアミノ基に結合した基を意味し、具体例としては、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、n-プロピルカルボニルアミノ基、イソプロピルカルボニルアミノ基、n-ブチルカルボニルアミノ基、イソブチルカルボニルアミノ基、t-ブチルカルボニルアミノ基、n-ペンチルカルボニルアミノ基、n-ヘキシルカルボニルアミノ基などが挙げられる。
【0018】
「C3-6シクロアルキル基」とは、炭素数が3乃至6個であるシクロアルキル基を意味し、具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0019】
「C3-6シクロアルコキシ基」とは、炭素原子を3乃至6個有するシクロアルコキシ基を意味し、具体例としては、シクロプロポキシ基、シクロブチトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0020】
「C2-6アルケニル基」とは、炭素数が2乃至6個である直鎖又は分岐鎖状のアルケニル基を意味し、具体例としては、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基などが挙げられる。
【0021】
「C2-6アルキニル基」とは、炭素数が2乃至6個である直鎖又は分岐鎖状のアルキニル基を意味し、具体例としては、エチニル基、1-プロピニル基などが挙げられる。
【0022】
「C7-10アラルキル基」とは、炭素数が7乃至10個であるアラルキル基を意味し、具体例としては、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、1-ナフチルプロピル基などが挙げられる。
【0023】
「C6-14アリール基」とは、炭素原子を6乃至14個有する、芳香族炭化水素基を意味し、その具体例としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、ビフェニル基などが挙げられる。
【0024】
「C6-14アリールオキシ基」とは、炭素原子を6乃至14個有する、アリールオキシ基を意味し、具体例としては、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、1-アントラセニルオキシ基、2-アントラセニルオキシ基、9-アントラセニルオキシ基、ビフェニルオキシ基などが挙げられる。
【0025】
「トリC1-6アルキルシリルオキシ基」とは、同一又は異なる3個の前記「C1-6アルキル基」がシリルオキシ基に結合した基を意味し、具体例としては、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、t-ブチルジメチルシリルオキシ基、ジ-t-ブチルイソブチルシリルオキシ基などが挙げられる。
【0026】
「5-10員複素環基」とは、環を構成する原子の数が5乃至10個であり、かつ環を構成する原子中に、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子からなる群より単独に若しくは異なって選ばれる1乃至4個のヘテロ原子を含有する単環系又は縮合環系の複素環基を意味する。この複素環基は飽和、部分不飽和、不飽和のいずれであってもよく、具体例としては、ピロリジニル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロチエニル基、ピペリジル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、ピロール基、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、アゼパニル基、オキセパニル基、チエパニル基、アゼピニル基、オキセピニル基、チエピニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリニル基、ピラジニル基、モルホリニル基、チアジニル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾイミダゾリル基、プリニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、クロメニル基、イソクロメニル基などが挙げられる。
【0027】
「脂肪族炭化水素基」とは、直鎖状、分岐鎖状又は環状の、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、具体例としては、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、アラキル基、ベヘニル基、オレイル基、イソステアリル基、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデシル基(以下、2,3-ジヒドロフィチル基ということもある。)、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-2-エニル基(以下、フィチル基ということもある。)等が挙げられる。
【0028】
「芳香族炭化水素基」とは、単環又は複数の環から構成される炭化水素基であり、少なくとも一つの環が芳香族性を示す基を意味し、具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、インデニル基、フェナセニル基、インダニル基等が挙げられる。
【0029】
「芳香族複素環基」とは、芳香族性を示す単環又は複数の環から構成される複素環基を意味し、具体例としては、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、フラニル基、チオフェニル基、オキサゾイル基、イソオキサゾイル基、オキサジアゾイル基、チアゾイル基、イソチアゾイル基、チアジアゾイル基、ピロリル基、ピラゾイル基、イミダゾイル基、トリアゾイル基、テトラゾイル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、キノリニル基、シンナニル基、キノキサリニル基等が挙げられる。
【0030】
「置換基を有していてもよい」とは、無置換であるか、又は任意の数の任意の置換基で置換されていることを意味する。
【0031】
上記の「任意の置換基」としては、本発明が対象とする反応に悪影響を与えない置換基であれば特に種類は限定されない。
【0032】
「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」における「置換基」としては、例えば、C6-14アリール基、C6-14アリールオキシ基、5-10員複素環基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルコキシ基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、アミノ基、モノC1-6アルキルアミノ基、N-アセチルアミノ基、ジC1-6アルキルアミノ基、ハロゲン原子、C1-6アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、N-メチルカルバモイル基、N-フェニルカルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、モノC1-6アルキルアミノカルボニル基、C1-6アルキルカルボニルアミノ基、トリC1-6アルキルシリルオキシ基、t-ブチルジフェニルシリルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、C6-14アリール基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルコキシ基又はジC1-6アルキルアミノ基であり、より好ましくは、C1-6アルコキシ基である。
【0033】
「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」及び「置換基を有していてもよい芳香族複素環基」における「置換基」としては、例えば、C1-6アルキル基、C3-6シクロアルキル基、C6-14アリール基、C6-14アリールオキシ基、5-10員複素環基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、C3-6シクロアルコキシ基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、アミノ基、モノC1-6アルキルアミノ基、N-アセチルアミノ基、ジC1-6アルキルアミノ基、ハロゲン原子、C1-6アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、N-メチルカルバモイル基、N-フェニルカルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基等が挙げられ、好ましくは、C1-6アルコキシ基、又はジC1-6アルキルアミノ基であり、より好ましくは、C1-6アルコキシ基である。
【0034】
文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及したすべての刊行物及び特許は、例えば、記載された発明に関連して使用されうる刊行物に記載されている、構築物及び方法論を記載及び開示する目的で、参照として本明細書に組み入れられる。
【0035】
本発明は、ベンジル基を含有する特定の構造を有する化合物(以下、「本発明化合物」ともいう)を提供する。
【0036】
本発明の一実施態様では、本発明化合物は、下記式(I)で表される化合物である。
式(I):
【化8】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、-C(O)R
c又は-S(O)
2R
c(式中、R
cは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物。
【0037】
「-NRaRb中の炭素原子の総数」とは、Ra及びRbがそれぞれ有する炭素原子数の合計であり、RaとRbのうちの少なくとも一つが置換基を有している場合は、その置換基中の炭素原子数も含まれる。
【0038】
Ra及びRbは、好ましくは、独立して、それぞれ脂肪族炭化水素基又は-C(O)Rc(式中、Rcは、水素原子又は脂肪族炭化水素基を表す。)である。
【0039】
Ra及びRbのうちの1つが、-C(O)Rc(式中、Rcは、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)の場合、-NRaRb中の炭素原子の総数は、22以上であり、好ましくは22~200であり、より好ましくは40~80である。
【0040】
nは、1~5の整数であり、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
【0041】
-NRaRbの置換位置は限定されないが、酸安定性の観点から、少なくとも1つの-NRaRbがベンゼン環上のメタ位に結合することが好ましい。誤解を避けるために説明するが、メタ位とは式(I)で表される化合物の-CH2Y基に対するメタ位を意味する。したがって、式(I)で表される化合物の-CH2Y基に対するメタ位は2つ存在するから、例えば、nが2である場合は、-NRaRbが2つのメタ位のうちの少なくともいずれか一方に又はその両方に結合することが好ましく、nが1である場合には、-NRaRbが2つのメタ位のうちのいずれか一方に結合することが好ましい。
【0042】
Yは、好ましくはヒドロキシ基、又は-NH2(すなわち、Rが水素原子)であり、より好ましくはヒドロキシ基である。
【0043】
脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状の、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは直鎖上の飽和脂肪族炭化水素基又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基である。
【0044】
本発明の別の実施態様では、本発明化合物は、下記式(I)で表される化合物である。
式(I):
【化9】
[式中、
Yは、ヒドロキシ基又は-NHR(式中、Rは水素原子又はC
1-6アルキル基を表す。)を表し、
R
a及びR
bは、独立して、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、-NR
aR
b中の炭素原子の総数は、22以上であり、
nは、1~5の整数を表す。]
で表される化合物。
【0045】
「-NRaRb中の炭素原子の総数」とは、Ra及びRbがそれぞれ有する炭素原子数の合計であり、RaとRbのうちの少なくとも一つが置換基を有している場合は、その置換基中の炭素原子数も含まれる。
【0046】
Ra及びRbは、好ましくは、独立して、それぞれ脂肪族炭化水素基である。
【0047】
-NRaRb中の炭素原子の総数は、22以上であり、好ましくは22~200であり、より好ましくは40~80である。
【0048】
nは、1~5の整数であり、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
【0049】
-NRaRbの置換位置は限定されないが、酸安定性の観点から、少なくとも1つの-NRaRbがベンゼン環上のメタ位に結合することが好ましい。誤解を避けるために説明するが、メタ位とは式(I)で表される化合物の-CH2Y基に対するメタ位を意味する。したがって、式(I)で表される化合物の-CH2Y基に対するメタ位は2つ存在するから、例えば、nが2である場合は、-NRaRbが2つのメタ位のうちの少なくともいずれか一方に又はその両方に結合することが好ましく、nが1である場合には、-NRaRbが2つのメタ位のうちのいずれか一方に結合することが好ましい。
【0050】
Yは、好ましくはヒドロキシ基、又は-NH2(すなわち、Rが水素原子)であり、より好ましくはヒドロキシ基である。
【0051】
脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状の、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは直鎖上の飽和脂肪族炭化水素基又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基である。
【0052】
本発明化合物は、有機合成反応において、好ましくはペプチド合成等において、カルボキシ基等、すなわち、アミノ酸又はペプチドのC末端等の保護基(有機タグ)として導入され得る。したがって、本発明化合物は、アミノ酸又はペプチド中のカルボキシ基を保護するための試薬、又は、アミノ酸又はペプチド中のC末端を保護するための試薬に含まれ得る。好ましくは、アミノ酸又はペプチド中のカルボキシ基を保護するための試薬、或いは、アミノ酸又はペプチド中のC末端を保護するための試薬は、本発明化合物からなる。
【0053】
本発明化合物は、Y基を介して、保護を意図する化合物と結合できる。すなわち、Yがヒドロキシ基、又は-NHRである本発明化合物は、アミノ酸又はペプチドのC末端と結合して、これを保護できる。
【0054】
本発明化合物が導入された化合物は、好ましくは、酸性条件下でも高い安定性を有する。酸性条件下での高い安定性とは、例えば、強酸の共存する条件下で安定であることを意味する。例えば、本発明化合物が導入された化合物は、トリフルオロ酢酸又は塩化水素の有機溶媒溶液中でも、高い安定性を有する。好ましくは、本発明化合物が導入された化合物は、本発明化合物が導入された化合物に対し10質量倍量の4M塩化水素/1,4-ジオキサンが存在する条件下でも安定である。
【0055】
式(I)で表される化合物は、以下に示す方法によって合成することができる。しかしながら、下記製造法は一般的な製造法の一例を示すものであり、化合物の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0056】
原料化合物は、特に述べられない限り、市販品として容易に入手できるか、或いは、公知の方法又はそれに準ずる方法に従って製造することができる。
【0057】
式(I)で表される化合物は、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、再結晶、溶媒による洗浄などを行うことにより高純度のものを得ることができる。
【0058】
また、各反応において、原料化合物がヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基等を有する場合、これらの基に有機合成等で一般的に用いられるような保護基が導入されていてもよく、その場合、反応後に必要に応じて保護基を除去することにより目的化合物を得ることができる。
【0059】
式(I)で表される化合物は、例えば、以下の工程により製造することができる。
【0060】
【化10】
[式中のR
1は、水素原子又はOR
2基(式中、R
2は水素原子又はC
1-6アルキル基等を表す。)を表し、他の記号は、前記と同義である。]
【0061】
工程(a)
当該工程は、化合物(III)をアルキル化、アシル化又はスルホニル化させることにより、化合物(IV)を製造する工程である。
【0062】
当該工程は、反応に悪影響を及ぼさない溶媒中、塩基の存在下、化合物(III)と、Ra又はRbに対応する基を有するハロゲン化物(塩化物、臭化物、又はヨウ化物)と反応させることより行われる。
【0063】
化合物(III)をアルキル化する場合の塩基としては、例えば、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、亜硝酸ナトリウム等が挙げられ、なかでも、炭酸カリウムが好ましい。
【0064】
化合物(III)をアルキル化する場合、反応に悪影響を及ぼさない溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)が挙げらる。好ましくは、アミド類であり、より好ましくはN-メチルピロリジノンである。
【0065】
化合物(III)をアルキル化する場合、反応温度は、通常0℃~使用する溶媒の沸点の範囲の任意の温度であり、好ましくは60℃~溶媒の沸点の範囲であり、また、反応時間は、通常1~120時間であり、好ましくは1~72時間である。
【0066】
化合物(III)をアシル化又はスルホニル化する場合の塩基としては、例えば、脂肪族アミン(例えば、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン)、芳香族アミン(例えば、ピリジン)等が挙げられる。好ましくは、脂肪族アミンであり、より好ましくはN,N-ジイソプロピルエチルアミンである。
【0067】
化合物(III)をアシル化又はスルホニル化する場合、反応に悪影響を及ぼさない溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、或いはそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、ハロゲン化炭化水素類であり、より好ましくはジクロロメタンである。
【0068】
化合物(III)をアシル化又はスルホニル化する場合、反応温度は、通常0℃~使用する溶媒の沸点の範囲の任意の温度であり、好ましくは10℃~溶媒の沸点の範囲であり、また、反応時間は、通常1~24時間であり、好ましくは1~5時間である。
【0069】
工程(b)
当該工程は、化合物(IV)を還元することにより、化合物(V)を製造する工程である。当該反応は、還元反応であり、還元剤を用いる方法により行うことができる。
【0070】
当該還元反応に用いる還元剤としては、例えば、金属水素化物(水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ジブチルアルミニウム、水素化アルミニウム、水素化アルミニウムリチウム等)等が挙げられる。なかでも、水素化アルミニウムリチウムが好ましい。
【0071】
当該反応は、反応に悪影響を及ぼさない溶媒中で行われる。そのような溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、或いはそれらの混合物が挙げられる。なかでも、テトラヒドロフランが好ましい。
【0072】
反応温度は、通常0℃~100℃であり、好ましくは10℃~40℃であり、また、反応時間は、通常1~24時間であり、好ましくは1~5時間である。
【0073】
工程(c)
当該工程は、化合物(V)をアミノ化することにより、化合物(VI)を製造する工程である。
【0074】
当該工程は、例えばフタルイミド、フタルイミドカリウム塩を用いたアミノ化反応、その後、必要に応じての例えばヒドラジン一水和物を用いた反応、により行うことができる。
【0075】
当該工程は、例えば臭化アセチル、三臭化リン、トリフェニルホスフィン/臭素等を用いたブロモ化反応、その後、RNH2との反応、により行うこともできる。
【0076】
当該反応は、反応に悪影響を及ぼさない溶媒中で行われる。そのような溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン等)が挙げられる。なかでも、芳香族炭化水素類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類が好ましく、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルムがより好ましい。
【0077】
反応温度は、通常、0℃~使用する溶媒の沸点の範囲の任意の温度であり、好ましくは10℃~溶媒の沸点の範囲であり、また、反応時間は、通常1~24時間であり、好ましくは1~5時間である。
【0078】
式(I)で表される化合物を用いた有機タグの導入及び脱離反応、並びにその有機タグ導入工程を含むペプチドの製造は、以下の方法で実施することができる。
【0079】
〔有機タグの導入及び脱離反応〕
式(I)で表される化合物は、有機合成反応、好ましくはペプチド合成等において、アミノ酸又はペプチド中の、C末端官能基(カルボキシ基、カルボキサミド基、チオール基など)及び側鎖官能基(以下、C末端等という)を保護するための試薬として使用することができ、好ましくは、カルボキシ基の保護基として導入される。保護するための試薬として使用する場合には、保護される置換基と反応させる目的で活性化したり、等価体に変換して反応させることもできる。
【0080】
式(I)で表される化合物は、各種有機化合物を保護するための試薬(有機タグ化合物)として使用できる。例えば、以下の工程(i)~(iv)を含む方法により有機タグが結合した化合物(有機タグ結合体)を製造することができる。
【0081】
工程(i):溶解工程
本工程は、式(I)で表される化合物を可溶性溶媒に溶解する工程である。
【0082】
溶媒としては、一般的な有機溶媒を反応に用いることができるが、溶媒における化合物の溶解度が高い程、優れた反応性が期待できるため、式(I)で表される化合物の溶解度が高い溶媒を選択することが好ましい。そのような溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン等)、非極性有機溶媒(1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等)が挙げられる。これらの溶媒は2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。また、式(I)で表される化合物が溶解し得る限り、上記ハロゲン化炭化水素類や非極性有機溶媒に、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル等)、ケトン類(アセトン、2-ブタノン等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)を適宜の割合で混合して用いてもよい。
【0083】
工程(ii):結合工程
本工程は、上記工程(i)で得られた可溶性溶媒に溶解された式(I)で表される化合物と、反応基質とを結合させる工程である。
【0084】
ここで反応基質とは、例えば保護すべきアミノ酸等の-COOHを有する物質であり、反応基質の使用量は、本発明化合物1モルに対し、1~10モル使用することができ、好ましくは1~5モルである。
【0085】
反応は、反応に悪影響を及ぼさない溶媒中で行われる。縮合剤を添加することにより、Yがヒドロキシ基の場合はエステル結合が、Yが-NHRの場合は、アミド結合が形成される。
【0086】
縮合剤としては、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(PyBop(登録商標))、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、O-ベンゾトリアゾール-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロボレート(HBTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)等が挙げられる。
【0087】
縮合剤の使用量は、式(I)で表される化合物1モルに対して、1~10モル使用することができ、好ましくは1~5モルである。
【0088】
反応に悪影響を及ぼさない溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、ハロゲン化炭化水素類等(クロロホルム、ジクロロメタン等)或いはそれらの混合物が挙げられ、なかでも、ジクロロメタン、テトラヒドロフランが好ましい。
【0089】
反応温度は、通常-10℃~30℃、好ましくは0℃~20℃であり、また、反応時間は、通常1~30時間である。
【0090】
本工程において、添加剤及び塩基は、反応を妨げない限り適宜使用することができる。
【0091】
適宜の添加剤としては、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-トリアゾール-5-カルボン酸エチルエステル(HOCt)、1-ヒドロキシ-7-ジベンゾトリアゾール(HOAt)、(ヒドロキシイミノ)シアノ酢酸エチル(OxymaPure)等が挙げられる。
【0092】
添加剤の使用量は、本発明化合物1モルに対して、好ましくは0.01~5モル使用することができ、好ましくは0.1~2モルである。
【0093】
適宜の塩基は、特に制限は無いが、その例としては、脂肪族アミン(例えば、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン)、芳香族アミン(例えば、ピリジン)等が挙げられる。好ましくは、脂肪族アミンであり、より好ましくはN,N-ジイソプロピルエチルアミンである。
【0094】
塩基の使用量は、式(I)で表される化合物1モルに対して、好ましくは0.1~50モル使用することができ、好ましくは1~5モルである。
【0095】
反応の進行の確認は一般的な液相有機合成反応と同様の方法を使用できる。すなわち、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)等を用いて反応を追跡することができる。
【0096】
工程(iii):精製工程
本工程は、上記工程(ii)で得られた結合物、又は該結合物を可溶性溶媒に溶解させ、所望の有機合成反応を行った後に得られる生成物、を単離するために、該結合物又は該生成物が溶解している溶媒を変化させ(例えば、溶媒組成の変更、溶媒の種類の変更)、沈殿又は分液操作を行う工程である。すなわち、結合物が溶解するような条件下にて反応を行い、反応後、溶媒を留去後、溶媒置換することによって結合物を沈殿化し、分液操作を行うことで不純物を除去する。置換溶媒としては、例えば溶解にはハロゲン化溶媒やシクロペンチルメチルエーテル等を用いて、沈殿化にはメタノールやアセトニトリル等の極性有機溶媒を用いる。
【0097】
工程(iv):脱保護工程
本工程は、上記工程(iii)の沈殿化により単離された結合物又は生成物から、最終的に式(I)で表される化合物由来の有機タグを除去し、目的物を得る工程である。
【0098】
有機タグのみを選択的に除去したい場合、好適には、その脱保護は水素添加反応により行われる。使用する試薬としては、パラジウム炭素等が挙げられ、具体例としては、10%カーボン粉末PEタイプ、5%カーボン粉末STDタイプ、5%カーボン粉末NXタイプ、5%カーボン粉末AERタイプ、5%カーボン粉末PEタイプ、ASCA-2、5%アルミナ粉末、CGS-10DR,SGS-1-DR,BNA-5Dが挙げられる。なかでも、5%カーボン粉末PEタイプが好ましい。パラジウム炭素の使用量は、反応を妨げない限り特に制限はないが、反応基質の質量に対して、好ましくは0.01質量倍量~2質量倍量であり、より好ましくは0.1質量倍量~1質量倍量である。
【0099】
反応温度は、通常0℃~80℃、好ましくは0℃~30℃であり、また、反応時間は、通常1~48時間である。
【0100】
[ペプチドの製造]
有機タグ導入工程を含む、以下の工程(1)~(4)を含む方法を実施することにより、ペプチドを製造することができる。
【0101】
工程(1):C末端保護工程
当該工程は、式(I)で表される化合物を、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドのC末端と縮合し、C-保護アミノ酸又はC-保護ペプチド、すなわち、ベンジル化合物付加体を得る工程である。例えば、上述した有機タグ導入工程に準じて実施することができる。
【0102】
本明細書において「N-保護アミノ酸」及び「N-保護ペプチド」とは、アミノ基が保護されており、カルボキシ基が無保護のアミノ酸及びペプチドを意味し、これらは「P-AA-OH」と表示される(ここで、Pはアミノ基の保護基であり、場合により「一時保護基」ともいう。)。
【0103】
【化11】
(式中、Pはアミノ基の保護基を、AAはアミノ酸由来の基を示し、Y’はO又はNRを示す。他の記号は上記と同義である。)
【0104】
式(I)で表される化合物によって保護されたアミノ酸又はペプチドの残基数は、特に限定されないが、好ましくは20残基以下であり、より好ましくは10残基以下であり、さらに好ましくは4残基以下である。
【0105】
本発明に従い保護されうるアミノ酸は、アミノ基とカルボキシ基の両方の官能基を持つ有機化合物であり、好ましくはα-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸又はδ-アミノ酸であり、より好ましくはα-アミノ酸又はβ-アミノ酸であり、さらに好ましくはα-アミノ酸である。
【0106】
本発明に従い保護されうるペプチドを構成するアミノ酸は、例えば、上記アミノ酸である。
【0107】
α-アミノ酸の立体構造は特に限定されないが、好ましくはL体である。
【0108】
式(I)で表される化合物とN-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドとのC末端での縮合反応は、上述の有機タグ結合体の製造工程(ii):結合工程と同様の縮合剤及び/又は添加剤の存在下、実施することができる。
【0109】
本工程に用いる溶媒としては、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン等)、非極性有機溶媒(1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等)が挙げられる。これらの溶媒は2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。なかでも、ジクロロメタンが好ましい。溶媒の使用量は、反応を妨げない限り制限は無いが、反応基質の質量に対して、好ましくは1~100質量倍量であり、より好ましくは2~50質量倍量である。
【0110】
反応温度は、通常-10~40℃、好ましくは0~30℃であり、また、反応時間は、通常1~72時間である。
【0111】
工程(2):N末端の脱保護工程
当該工程は、上記工程(1)で得られたアミノ酸又はペプチドのN末端の保護基を除去する工程である。
【0112】
N末端の保護基としては、ペプチド化学等の技術分野で一般的に用いられる後述のアミノ基の保護基が使用可能である。t-ブトキシカルボニル基(以下、Boc基ともいう。)、ベンジルオキシカルボニル基、及び/又は9-フルオレニルメトキシカルボニル基(以下、Fmoc基ともいう。)が好適に用いられる。
【0113】
脱保護条件は、保護基の種類により適宜選択されるが、有機タグの除去とは異なる条件が好ましい。例えば、Fmoc基の場合は、塩基で処理することにより脱保護が行なわれ、Boc基の場合は、酸で処理することにより脱保護が行われる。当該反応は、反応に悪影響を及ぼさない溶媒中で行われる。
【0114】
使用される塩基としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピペリジン等が挙げられる。
使用される酸としては、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
【0115】
その場合の溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、或いはそれらの混合物が挙げられる。
【0116】
工程(3):ペプチド鎖伸長工程
当該工程は、工程(2)で得られたN-末端が脱保護されたアミノ酸又はペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程である。
【0117】
当該工程は、上述の有機タグ導入工程で使用される縮合剤、添加剤等を使用することができ、ペプチド化学の分野において一般的に用いられるペプチド合成条件下で行うことができる。
【0118】
工程(4):精製工程
当該工程は、上述の有機タグ導入反応における工程(iii)と同様にして行うことができる。
【0119】
ペプチドの製造において、工程(4)で得られたN-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドに対して、下記工程(5)~(7)を所望の回数繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長することができる。
(5)精製工程で得られたペプチドのN末端の保護基を除去する工程、
(6)上記工程(5)で得られた、ペプチドのN末端に、N-保護アミノ酸又はN-保護ペプチドを縮合させる工程、及び
(7)上記工程(7)で得られたペプチドを沈殿又は分液する工程。
いずれも、上記工程(2)~(4)と同様の操作で実施することができる。
【0120】
ペプチドの製造において、工程(4)又は工程(7)の精製工程の後に、C末端がベンジル化合物で保護されたペプチドのC末端を脱保護する工程をさらに含めることができる。当該工程は、例えば、上述の有機タグ結合体の製造工程(iv):脱保護工程に準じて行うことができる。
【0121】
有機合成反応又はペプチド合成反応が多工程を含む場合には、次工程の反応に影響を及ぼさない範囲で、精製工程を適宜省略することも可能である。
【0122】
各反応において、反応基質がヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、又はカルボニル基を有する場合(特に、アミノ酸又はペプチドが側鎖に官能基を有する場合)、これらの基にペプチド化学等で一般的に用いられるような保護基が導入されていてもよく、その場合、反応後に必要に応じて保護基を除去することにより目的化合物を得ることができる。
【0123】
反応基質中のヒドロキシ基の保護基としては、例えば、C1-6アルキル基(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル)、フェニル基、トリチル基、C7-10アラルキル基(例えば、ベンジル)、ホルミル基、C1-6アルキル-カルボニル基(例えば、アセチル、プロピオニル)、ベンゾイル基、C7-10アラルキル-カルボニル基(例えば、ベンジルカルボニル)、2-テトラヒドロピラニル基、2-テトラヒドロフラニル基、シリル基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、t-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジエチルシリル)、C2-6アルケニル基(例えば、1-アリル)等が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、C1-6アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)、C1-6アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ)、ニトロ基等から選ばれる1~3個の置換基で置換されていてもよい。
【0124】
反応基質中のアミノ基の保護基としては、例えば、ホルミル基、C1-6アルキル-カルボニル基(例えば、アセチル、プロピオニル)、C1-6アルコキシ-カルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、Boc基)、ベンゾイル基、C1-6アラルキル-カルボニル基(例えば、ベンジルカルボニル)、C7-14アラルキルオキシ-カルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル、Fmoc基)、トリチル基、フタロイル基、N,N-ジメチルアミノメチレン基、シリル基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、t-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジエチルシリル)、C1-6アルケニル基(例えば、1-アリル)等が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、C1-6アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ)、ニトロ基等から選ばれる1~3個の置換基で置換されていてもよい。
【0125】
反応基質中のカルボキシ基の保護基としては、例えば、C1-6アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル)、C1-6アラルキル基(例えば、ベンジル)、フェニル基、トリチル基、シリル基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルフェニルシリル、t-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジエチルシリル、t-ブチルジフェニルシリル)、C1-6アルケニル基(例えば、1-アリル)等が挙げられる。これらの基は、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、C1-6アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ)、ニトロ基等から選ばれる1~3個の置換基で置換されていてもよい。
【0126】
反応基質中のカルボニル基の保護基としては、例えば、環状アセタール(例えば、1,3-ジオキサン)、非環状アセタール(例えば、ジ-C1-6アルキルアセタール)等が挙げられる。
【0127】
保護及び脱保護は、一般的に知られている保護基を用いて、保護・脱保護反応(例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス第4版(Protective Groups in Organic Synthesis, Fourth edition)、グリーン(T.W.Greene)著、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレイテッド(John Wiley & Sons Inc.)(2006年)など参照)を行うことにより実施することができる。
【実施例】
【0128】
以下に合成例、参考合成例、試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明を実施する際には、本発明の精神から逸脱しない範囲でいかなる変更又は改変を加えてもよく、そのような変更物又は改変物も本発明の範囲内に包含される。
【0129】
実施例中、(v/v)は(体積/体積)を意味する。また、本明細書において、アミノ酸等を略号で表示する場合、各表示は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号又は当技術分野において慣用されている略号に基づくものである。
【0130】
プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)は、特に記述が無い場合は、JNM-ECP300;日本電子(JEOL)社製、又はJNM-ECX300;日本電子(JEOL)社製を用い、テトラメチルシランを内部標準として、300MHzで測定した。測定結果は、テトラメチルシランを内部標準(0.0ppm)としたシグナルの化学シフトδ(単位:ppm)(分裂パターン、積分値)を表す。
【0131】
分裂パターンの記載において「s」はシングレット、「d」はダブレット、「t」はトリプレット、「q」はカルテット、「quint」はクインテット、「sextet」はセクステット、「septet」はセプテット、「dd」はダブレット オブ ダブレット、「dt」はダブレット オブ トリプレット、「td」はトリプレット オブ ダブレット、「dq」はダブレット オブ カルテット、「qd」はカルテット オブ ダブレット、「tt」はトリプレット オブ トリプレット、「ddd」はダブレット オブ ダブレット オブ ダブレット、「m」はマルチプレット、「br」はブロード、「J」はカップリング定数、「CDCl3」は重クロロホルムを意味する。
【0132】
質量分析(MS)は、特に記載が無い場合は、MALDI-TOF-MS;Bruker社製を用いた。マトリックスは、特に記載がない場合は、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)又は2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を用いた。
【0133】
シリカゲルカラムクロマトグラフィーでの精製は、特に記述がない場合は、山善製Hi-Flashカラム、メルク製シリカゲル60又は富士シリシア化学製PSQ60Bを用いた。
【0134】
合成例1:3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルの合成
【0135】
【化12】
(i)3-アミノ安息香酸メチル(5.02g,33.2mmol)、1-ブロモドコサン(38.7g,99.2mmol)、ヨウ化カリウム(1.65g,9.9mmol)及び炭酸カリウム(22.9g,165.7mmol)をN-メチルピロリジノン(100.2g)に懸濁させ、110℃で2日間撹拌した。反応液を室温に戻して、クロロホルム(100mL)を加えた後、ろ過で不溶物を除いた。得られたろ液を濃縮し、酢酸エチル(250mL)を加え、析出した固体を沈殿させた。得られた固体を酢酸エチル(280mL)で洗浄及びろ過し、得られた固体を減圧乾燥し、3-ジドコシルアミノ-安息香酸メチル(26.24g,収率102.8%)を白色固体として得た。
(ii)水素化アルミニウムリチウム(2.49g,65.5mmol)にテトラヒドロフラン(144g)を加えて懸濁させた後、3-ジドコシルアミノ-安息香酸メチル(24.54g,31.9mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液に水(3.64mL)を滴下してクエンチした後、セライトろ過で不溶物を除いた。ろ液を濃縮した後、メタノール(400mL)を滴下して沈殿物を析出させて、白色固体(19.27g)を得た。このうち5.01gをシルカゲルクロマトグラフィー(へキサン/酢酸エチル=90/10)で精製し、3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ル(3.55g,収率59.4%)を白色固体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.76-0.92(m,6H),1.00-1.37(m,80H),3.11-3.30(m,4H),4.62(d,2H,J=6.0Hz),6.47-6.65(m,2H),7.09-7.26(m,1H)
【0136】
合成例2:3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルとFmoc-MePhe-OHとの縮合
【0137】
【0138】
3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ル(0.41g,0.55mmol)とFmoc-MePhe-OH(0.33g,0.817mmol)をジクロロメタン(8mL)に溶解させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.17g,0.86mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(7.9mg,0.07mmol)を加え、混合物を室温下で撹拌した。原料消失を確認後、メタノール(16mL)を加えて沈殿物を析出させて、縮合体(0.58g,0.51mmol,収率93.5%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1145.92(M+Na)+
【0139】
合成例3:3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルとFmoc-Phe-OHとの縮合
【0140】
【0141】
表題化合物を、3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルから、合成例2に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率86.8%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1131.87(M+Na)+
【0142】
合成例4:3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルとFmoc-Pro-OHとの縮合
【0143】
【0144】
表題化合物を、3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルから、合成例2に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率94.5%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1081.89(M+Na)+
【0145】
合成例5:3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルとFmoc-Val-OHとの縮合
【0146】
【0147】
表題化合物を、3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルから、合成例2に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率84.7%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1083.83(M+Na)+
【0148】
合成例6:3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルとFmoc-Ser(Bzl)-OHとの縮合
【0149】
【0150】
表題化合物を、3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルから、合成例2に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率79.3%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1162.37(M+Na)+
【0151】
合成例7:3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルとFmoc-Asp(OBzl)-OHとの縮合
【0152】
【0153】
表題化合物を、3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ルから、合成例2に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率91.9%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1190.22(M+Na)+
【0154】
合成例8:Fmoc-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)の脱Fmoc化に続く、Boc-Val-OHとの縮合
【0155】
【0156】
(i)Fmoc-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(0.65g,0.61mmol)をジクロロメタンに溶解させ、ピペリジン(1.35g,15.8mmol)を氷冷下で滴下して、混合物を1時間撹拌した。これを室温まで戻して1時間撹拌した後、アセトニトリル(52.0g)を加えて沈殿物を析出させ、H-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(0.55g,収率107%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;859.76(M+Na)+
(ii)得られたH-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(100.0mg,0.12mmol)をジクロロメタン(2.0g)に溶解させ、室温下でBoc-Val-OH(40.0mg,0.18mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(30.0mg,0.18mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(2.0mg,0.02mmol)を加え、混合物を室温で1時間撹拌した。原料消失を確認後、メタノール(4mL)を加えて沈殿物を析出させて、Boc-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(86.5mg,収率70.0%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1058.94(M+Na)+
【0157】
合成例9:Boc-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)の脱Boc化に続く、Fmoc-Thr(tBu)-OHとの縮合
【0158】
【0159】
(i)Boc-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(200.0mg,0.19mmol)をジクロロメタン(164.0g)に溶解させ、4M塩化水素/1,4-ジオキサン(2.0g)を氷冷下で滴下して、混合物を3時間撹拌した。反応液を減圧濃縮することにより、HCl・H-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;958.84(M+Na)+
(ii)得られたHCl・H-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)をジクロロメタンに溶解させ、氷冷下でFmoc-Thr(tBu)-OH(160mg,0.40mmol)、COMU(170.0mg,0.40mmol)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(125.0mg,0.96mmol)を加えた。これを室温に戻して撹拌した後、メタノール15.0g)を加えて沈殿物を析出させ、Fmoc-Thr(tBu)-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(228mg,収率90.0%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1338.02(M+Na)+
【0160】
合成例10:Fmoc-Thr(tBu)-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)の脱Fmocに続く、Fmoc-Tyr(tBu)-OHとの縮合
【0161】
【0162】
(i)Fmoc-Thr(tBu)-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(201mg,0.18mmol)をジクロロメタンに溶解させ、ピペリジン(200mg,2.35mmol)を室温下で滴下して、混合物を4時間撹拌した。アセトニトリル(16.0g)を加えて沈殿物を析出させ、H-Thr(tBu)-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(152.0mg,収率91.3%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1115.97(M+Na)+
(ii)得られたH-Thr(tBu)-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(121mg,0.11mmol)をジクロロメタンに溶解させ、氷冷下でFmoc-Tyr(tBu)-OH(60.6mg,0.13mmol)、COMU(60.2mg,0.14mmol)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(35.0mg,0.27mmol)を加えて、混合物を1時間撹拌した。これを室温に戻した後、メタノール(16.0g)を加えて沈殿物を析出させ、Fmoc-Tyr(tBu)-Thr(tBu)-Val-Pro-OBzl(3-N(C22H45)2)(159.7mg,収率94.1%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1557.21(M+Na)+
【0163】
合成例11:3-ジフィチルアミノ-ベンジルアルコ-ルの合成
【0164】
【化22】
(i)3-アミノ安息香酸メチル(0.63g,4.2mmol)、フィチルブロミド(4.49g,12.5mmol)、及び炭酸カリウム(2.88g,20.8mmol)をN-メチルピロリジノン(21mL)に懸濁させ、混合物を室温で24時間撹拌した。反応液にクロロホルム(12.5mL)を加えた後、ろ過で不溶物を除いた。得られたろ液に、水(12mL)を加え分液した。有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-ジフィチルアミノ-安息香酸メチル(2.92g,収率98.7%)を橙色液体として得た。
(ii)水素化アルミニウムリチウム(0.14g,3.6mmol)にテトラヒドロフラン(10mL)を加えて懸濁させた後、3-ジフィチルアミノ-安息香酸メチル(1.31g,1.9mmol)を加えて、混合物を室温で8時間撹拌した。反応液に水(0.20mL)、10%水酸化ナトリウム水溶液(0.15mL)、及び水(0.45mL)を順次滴下してクエンチした後、これをセライトろ過し、クロロホルムで洗浄した。ろ液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-ジフィチルアミノ-ベンジルアルコ-ル(0.43g,32.9%)を黄色液体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.83-0.88(m,24H),1.06-1.54(m,38H),1.68-1.70(m,6H),1.97(t,2H,J=7.5Hz),2.06(t,2H,J=7.5Hz),3.88(d,4H,J=5.7Hz),4.61(d,2H,J=6.0Hz),5.19(t,H,J=5.7Hz),6.61-6.71(m,3H),7.18(t,1H,J=7.8Hz)
MASS(TOF-MS)m/z;702.74(M+Na)+
【0165】
合成例12:3-ジフィチルアミノ-ベンジルアルコ-ルとFmoc-MePhe-OHとの縮合
【0166】
【0167】
3-ジフィチルアミノ-ベンジルアルコ-ル(0.25g,0.37mmol)、及びFmoc-MePhe-OH(0.22g,0.56mmol)をジクロロメタン(5mL)に溶解させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.11g,0.58mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(5.1mg,0.04mmol)を加え、混合物を室温下で3時間撹拌した。反応液を、1M塩酸(5mL)、及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5mL)で順次洗浄した。有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、縮合体(0.38g,収率97.2%)を橙色液体として得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1085.86(M+Na)+
【0168】
合成例13:N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミドの合成
【0169】
【化24】
(i)3-アミノ安息香酸メチル(0.20g,1.3mmol)、2,3-ジヒドロフィチルブロミド(0.72g,2.0mmol)、ヨウ化カリウム(0.067g,0.41mmol)、及び炭酸カリウム(0.55g,4.0mmol)をN-メチルピロリジノン(3.0mL)に懸濁させ、混合物を80℃で19時間撹拌した後、100℃で7時間撹拌した。反応液を室温に戻してクロロホルム(4.0mL)を加えた後、ろ過で不溶物を除いた。得られたろ液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-(2’,3’-ジヒドロフィチル)アミノ安息香酸メチル(0.42g,収率72.6%)を黄色液体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.83-0.97(m,15H),1.08-1.58(m,24H),3.07-3.18(m,2H),3.67(s,1H),3.89(s,1H),6.74-6.78(m,1H),7.18-7.35(m,3H)
(ii)3-(2’,3’-ジヒドロフィチル)アミノ安息香酸メチル(1.11g,2.58mmol)をジクロロメタン(22mL)に溶解させ、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.6mL,15.5mmol)、塩化アセチル(0.55mL,7.74mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(0.030g,0.25mmol)を加え、混合物を室温で3時間撹拌した。反応液に水(22mL)を加えて分液し、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(22mL)で洗浄した。得られた有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-(N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)アセトアミド)安息香酸メチル(1.07g,収率87.3%)を黄色液体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.80-0.87(m,15H),1.06-1.56(m,24H),1.82(s,3H),3.67-3.76(m,2H),3.95(s,3H),7.36(d,1H,J=7.8Hz),7.51(t,1H,J=7.8Hz),7.84(s,1H),8.03(d,1H,J=7.8Hz)
(iii)3-(N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)アセトアミド)安息香酸メチル(0.90g,1.91mmol)をテトラヒドロフラン(14mL)に溶解させ、水素化ホウ素リチウム(83.5mg,3.83mmol)を加え、混合物を室温で3時間撹拌した。さらに、水素化ホウ素リチウム(85.7mg,3.93mmol)を加えこれを2時間撹拌した。さらに、水素化ホウ素リチウム(89.9mg,4.13mmol)を加えこれを18時間撹拌した。その後、水素化ホウ素リチウム(86.0mg,3.95mmol)、及びメタノール(1.0mL)を加えこれを2時間撹拌した。反応液に4質量%塩酸(18mL)、及びクロロホルム(9mL)を加えて分液した。有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミド(0.80g,収率93.7%)を無色液体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.80-0.87(m,15H),1.00-1.57(m,24H),1.83(s,3H),3.61-3.81(m,2H),4.75(s,2H),7.07(d,1H,J=7.5Hz),7.18(s,1H),7.34(d,1H,J=7.5Hz),7.40(t,1H,J=7.5Hz)
MASS(TOF-MS)m/z;446.46(M+H)+
【0170】
合成例14:N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミドとFmoc-MePhe-OHとの縮合
【0171】
【0172】
N-(2’,3’-ジヒドロフィチル)-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミド(0.56g,1.25mmol)、及びFmoc-MePhe-OH(0.75g,1.88mmol)をジクロロメタン(12mL)に溶解させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.36g,1.88mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(14.9mg,0.12mmol)を加え、混合物を室温下で3時間撹拌した。反応液を、8質量%塩酸(6mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(6mL)、及び塩化ナトリウム水溶液(6mL)で順次洗浄した。有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、縮合体(0.84g,収率81.2%)を無色液体として得た。
MASS(TOF-MS)m/z;851.63(M+Na)+
【0173】
合成例15:N-トリアコンチル-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミドの合成
【0174】
【化26】
(i)3-アミノ安息香酸メチル(0.70g,4.63mmol)、トリアコンチルブロミド(3.48g,6.94mmol)、ヨウ化カリウム(23.3mg,1.41mmol)、及び炭酸カリウム(1.60g,11.6mmol)をN-メチルピロリジノン(14.0mL)に懸濁させ、混合物を110℃で17時間撹拌した。反応液を室温に戻してクロロホルム(70mL)を加えた後、ろ過で不溶物を除いた。ろ液を濃縮後、シリカゲルでろ過し、ヘキサンで洗浄した。得られたろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-トリアコンチルアミノ安息香酸メチル(0.93g,収率35.0%)を黄色固体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.88(t,3H,J=6.9Hz),1.21-1.31(m,54H),1.60-1.65(m,2H),3.13(t,2H,J=7.1Hz),3.89(s,3H),6.76(dd,1H,J=7.9,2.6Hz),7.20(t,1H,J=7.9Hz),7.25(brd,1H),7.34(d,1H,J=7.9Hz)
(ii)3-トリアコンチルアミノ安息香酸メチル(0.88g,1.55mmol)をジクロロメタン(17.7mL)に溶解させ、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.58mL,9.3mmol)、塩化アセチル(0.25mL,3.5mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(0.020g,0.16mmol)を加え、混合物を40℃で3時間撹拌した。この溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.79mL,4.6mmol)、及び塩化アセチル(0.12mL,1.7mmol)を加え同温度で1.5時間撹拌した。反応液に水(18mL)を加えて分液し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(17mL)で洗浄した。得られた有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-(N-(トリアコンチル)アセトアミド)安息香酸メチル(0.38g,収率39.6%)を黄色固体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.88(t,3H,J=6.8Hz),1.23-1.25(m,54H),1.60-1.65(m,2H),1.45-1.50(m,2H),1.82(s,3H),3.69(t,2H,J=7.7Hz),3.95(s,3H),7.36(brd,1H,J=7.8Hz),7.51(t,1H,J=7.8Hz),7.84(t,1H,J=1.8Hz),8.03(brd,1H,J=7.8Hz)
(iii)3-(N-(トリアコンチル)アセトアミド)安息香酸メチル(0.33g,0.54mmol)をテトラヒドロフラン(18mL)に溶解させ、水素化ホウ素リチウム(0.069g,3.15mmol)を加え、混合物を室温で3時間撹拌した。その後、水素化ホウ素リチウム(0.069g,3.15mmol)を加え、混合物を17時間撹拌した。この溶液に水素化ホウ素リチウム(0.071g,3.26mmol)、及びメタノール(0.2mL)を加え4時間撹拌した。反応液に4質量%塩酸(18mL)、及びクロロホルム(100mL)を加え、分液した。有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、N-トリアコンチル-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミド(0.16g,収率50.4%)を白色固体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.88(t,3H,J=6.6Hz),1.23-1.30(m,54H),1.45-1.51(m,2H),1.82(s,3H),3.67(t,2H,J=7.7Hz),4.74(d,2H,J=5.1Hz),7.07(d,1H,J=7.5Hz),7.17(s,1H),7.34(d,1H,J=7.5Hz),7.40(t,1H,J=7.5Hz)
MASS(TOF-MS)m/z;586.79(M+H)+
【0175】
合成例16:N-トリアコンチル-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミドとFmoc-MePhe-OHとの縮合
【0176】
【0177】
N-トリアコンチル-N-(3-ヒドロキシメチルフェニル)アセトアミド(0.15g,0.26mmol)、及びFmoc-MePhe-OH(0.15g,0.38mmol)をジクロロメタン(3.0mL)に溶解させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.077g,0.40mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(10.6mg,0.087mmol)を加え、混合物を室温下で3時間撹拌した。その後、Fmoc-MePhe-OH(0.052g,0.13mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.030g,0.16mmol)を加え、これを1.5時間撹拌した。反応液にメタノール(12mL)を加えて沈殿物を析出させて、縮合体(0.22g,収率87.4%)を白色固体として得た。
MASS(TOF-MS)m/z;991.72(M+Na)+
【0178】
合成例17:3-(アミノメチル)-N,N-ジドコシルアニリンの合成
【0179】
【化28】
(i)3-ジドコシルアミノ-ベンジルアルコ-ル(1.61g,2.18mmol)、フタルイミド(0.48g,3.27mmol)、及びトリフェニルホスフィン(0.86g,3.26mmol)をテトラヒドロフラン(32.2g)に溶解させ、0℃にてアゾジカルボン酸ジイソプロピル(0.66g,3.26mmol)のテトラヒドロフラン溶液(8.1g)を加えて、混合物を室温で21時間撹拌した。反応液にメタノール(10.0g)を加え濃縮した後、メタノール(32.0g)を加えた。この溶液を濃縮して沈殿物を析出させてろ過し、N-(3-(ジドコシルアミノ)ベンジル)フタルイミド(1.91g,収率101.1%)を黄色固体として得た。
(ii)N-(3-(ジドコシルアミノ)ベンジル)フタルイミド(1.91g,2.20mmol)及びヒドラジン一水和物(2.20g,43.9mmol)をテトラヒドロフラン(28.7g)に溶解させ、混合物を加熱還流下4時間撹拌した。反応液を室温に戻した後、濃縮し、メタノール(50g)を加えた。析出した固体をろ過し、3-(アミノメチル)-N,N-ジドコシルアニリン(1.45g,収率89.3%)を黄色固体として得た。
1H-NMR(CDCl
3)
δppm:0.88(t,6H,J=6.9Hz),1.06-1.43(m,80H),3.24(t,4H、J=7.8Hz),3.78(s,2H),6.50-6.57(m,3H),7.16(t,1H,J=8.0Hz)
MASS(TOF-MS)m/z;739.98(M+H)+
【0180】
合成例18:3-(アミノメチル)-N,N-ジドコシルアニリンとFmoc-MePhe-OHとの縮合
【0181】
【0182】
3-(アミノメチル)-N,N-ジドコシルアニリン(0.40g,0.54mmol)及びFmoc-MePhe-OH(0.33g,0.82mmol)をジクロロメタン(8.0mL)に溶解させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.16g,0.84mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(9.1mg,0.074mmol)を加え、混合物を室温下で23時間撹拌した。反応液にメタノール(16mL)を加えて沈殿物を析出させて、縮合体(0.50g,収率82.4%)を黄色固体として得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1122.93(M+H)+
【0183】
参考合成例1:3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールとFmoc-MePhe-OHとの縮合
【0184】
【0185】
3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコール(0.402g,0.530mmol)及びFmoc-MePhe-OH(0.321g,0.799mmol)をジクロロメタン(8mL)に溶解させ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.162g,0.844mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(8.4mg,0.069mmol)を加え、混合物を室温下で撹拌した。原料消失確認後、メタノール(16mL)を加えて沈殿物を析出させて、縮合体(0.576g,0.505mmol,収率95.2%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1162.93(M+Na)+
【0186】
参考合成例2:3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールとFmoc-Phe-OHとの縮合
【0187】
【0188】
表題化合物を、3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールから、参考合成例1に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率95.7%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1148.96(M+Na)+
【0189】
参考合成例3:3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールとFmoc-Pro-OHとの縮合
【0190】
【0191】
表題化合物を、3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールから、参考合成例1に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率94.3%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1098.90(M+Na)+
【0192】
参考合成例4:3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールとFmoc-Val-OHとの縮合
【0193】
【0194】
表題化合物を、3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールから、参考合成例1に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率89.5%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1100.82(M+Na)+
【0195】
参考合成例5:3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールとFmoc-Ser(Bzl)-OHとの縮合
【0196】
【0197】
表題化合物を、3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールから、参考合成例1に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率90.9%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1179.08(M+Na)+
【0198】
参考合成例6:3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールとFmoc-Asp(OBzl)-OHとの縮合
【0199】
【0200】
表題化合物を、3,5-ビス(ドコシルオキシ)ベンジルアルコールから、参考合成例1に記載したものと同様の手順に従って合成し、縮合体(収率90.2%)を得た。
MASS(TOF-MS)m/z;1207.12(M+Na)+
【0201】
試験例1:合成例2~7の縮合体と参考合成例1~6の縮合体の、酸に対する安定性の比較
【0202】
試験化合物
合成例2~7及び参考合成例1~6で合成した、アミノ酸に本発明化合物又は特許文献1に記載の有機タグを導入した化合物(以下、それぞれを合成例化合物2~7及び参考合成例化合物1~6という。)を、試験化合物として使用した。
【0203】
試験方法
各試験化合物に、10質量倍量の4M塩化水素/1,4-ジオキサンを加え、混合物を25℃、40℃で撹拌した。各時間の経過後におけるHPLCのピーク面積を測定し、総面積における各試験化合物の割合(面積%)を求め、合成例化合物についての結果と参考合成例化合物についての結果とを比較した(表1~6)。なお、各時間における面積%は0時間の面積%を100とした比率で記載した。
【0204】
HPLC測定条件
装置: 島津LC-20A
カラム: Poroshell 120 EC-C18(2.7μm、3.0×100mm)
カラムオーブン温度: 40℃
溶離液: A:0.01%酢酸アンモニウム水溶液、B:テトラヒドロフラン
A/B=25/75(0-5min)、25/75-5/95(5-15min)、5/95(15-20min)、v/v
溶離液速度: 0.5mL/min
検出波長: 230nm
【0205】
試験結果
合成例化合物2~9では、参考合成例化合物1~8と比較して、面積%の低下が抑制された。また、40℃においては、合成例化合物の場合と参考合成例化合物の場合との面積%の差はより顕著であった。
【0206】
【0207】
Pheでの比較
【表2】
*化合物が溶解しなかったため、データなし
【0208】
【0209】
Valでの比較
【表4】
*化合物が溶解しなかったため、データなし
【0210】
Serでの比較
【表5】
*化合物が溶解しなかったため、データなし
【0211】
Aspでの比較
【表6】
*化合物が溶解しなかったため、データなし
【0212】
試験例2:合成例12、14、16、及び18の縮合体と参考合成例1の縮合体の、酸に対する安定性の比較
【0213】
試験化合物
合成例12、14、16、及び18並びに参考合成例1で合成した、Fmoc-MePhe-OHに本発明の有機タグ又は特許文献1に記載の有機タグを導入した化合物(以下、ぞれぞれを合成例化合物12、14、16、及び18並びに参考合成例化合物1という。)を、試験化合物として使用した。
【0214】
試験方法
各試験化合物に、10質量倍量の4M塩化水素/1,4-ジオキサンを加え、混合物を25℃、40℃で撹拌した。各時間の経過後におけるHPLCのピーク面積を測定し、総面積における各試験化合物の割合(面積%)を求め、合成例化合物についての結果と参考合成例化合物についての結果とを比較した(表7~10)。なお、各時間における面積%は0時間の面積%を100とした比率で記載した。なお、参考合成例化合物1については、試験例1で得られた結果を使用した。
【0215】
- 合成例化合物18は、HPLC測定条件1で分析した。
HPLC測定条件1
装置: 島津LC-20A
カラム: Poroshell 120 EC-C18(2.7μm、3.0×100mm)
カラムオーブン温度: 40℃
溶離液: A:0.01%酢酸アンモニウム水溶液、B:テトラヒドロフラン
A/B=25/75(0-5min)、25/75-5/95(5-15min)、5/95(15-20min)、v/v
溶離液速度: 0.5mL/min
検出波長: 230nm
【0216】
- 合成例化合物12、14、及び16は、HPLC測定条件2で分析した。
HPLC測定条件2
装置: 島津LC-20A
カラム: Poroshell 120 EC-C18(2.7μm、3.0×100mm)
カラムオーブン温度: 40℃
溶離液: A:0.01%酢酸アンモニウム水溶液、B:テトラヒドロフラン
A/B=50/50(0-5min)、50/50-5/95(5-15min)、5/95(15-20min)、v/v
溶離液速度: 0.5mL/min
検出波長: 230nm
【0217】
試験結果
合成例化合物12、14、16、及び18では、参考合成例化合物1と比較して、面積%の低下が抑制された。
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
試験例1及び2により、本発明化合物を導入した化合物は、酸性条件における安定性が高いことが確認された。したがって、本発明化合物は、汎用性の高い有機ダグ又は保護化試薬として使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0223】
ペプチド合成等において、酸性条件下で高い安定性を有する有機タグとして使用可能なベンジル化合物を提供することができる。また、当該ベンジル化合物を有機タグとして用いることにより、ペプチドの高効率な製造方法も提供することができる。
【0224】
本出願は、日本で出願された特願2017-132233号及び特願2018-031229号を基礎としており、それらの内容は本明細書にすべて包含される。