(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 25/10 20060101AFI20221025BHJP
B32B 25/14 20060101ALI20221025BHJP
B29C 41/14 20060101ALI20221025BHJP
B29C 41/20 20060101ALI20221025BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20221025BHJP
A41D 19/04 20060101ALI20221025BHJP
B29K 19/00 20060101ALN20221025BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
B32B25/10
B32B25/14
B29C41/14
B29C41/20
A41D19/00 P
A41D19/04 B
B29K19:00
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2019532650
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2018027768
(87)【国際公開番号】W WO2019022092
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2017145395
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 徹也
(72)【発明者】
【氏名】牧野 邦彦
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-105722(JP,A)
【文献】特開2002-088542(JP,A)
【文献】特開2004-300596(JP,A)
【文献】特開2002-103355(JP,A)
【文献】特開平01-104634(JP,A)
【文献】特開2004-107813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 41/00-41/36;41/46-41/52
A41D 19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の一方の面から他方の面まで貫通して形成されたゴム層と、を備える積層体の製造方法であって、
浸漬用型上に支持された前記基材を、加熱した状態で、重合体ラテックスに接触させることで、前記重合体ラテックスを構成する重合体を前記基材に浸透させつつ、浸透した前記重合体を感熱凝固法により凝固させることにより、前記ゴム層を形成する凝固工程を備え、
前記重合体ラテックスを構成する重合体がニトリルゴムであり、
前記ゴム層は、前記基材を被覆する表面ゴム層を含み、
前記表面ゴム層の厚みは、0.01~3.00mmである積層体の製造方法。
【請求項2】
前記表面ゴム層の厚みが、0.03~2.0mmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面ゴム層の厚みが、0.16~2.0mmである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記凝固工程において、前記浸漬用型上に支持された前記基材を、30℃以上に加熱した状態で、前記重合体ラテックスを接触させる請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記凝固工程において、前記浸漬用型上に支持された前記基材を、45℃以上に加熱した状態で、前記重合体ラテックスを接触させる請求項1~4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記感熱凝固法において、感熱凝固剤としてシリコーンオイルを用いる請求項1~5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記重合体ラテックスがノニオン性界面活性剤を含有する請求項1~6のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の製造方法により得られる積層体を用いる保護手袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、重合体ラテックスから形成されるゴム層とを備える積層体に関する。また、本発明は、上記積層体を用いる保護手袋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工場での製造作業、軽作業、工事作業、農作業等の様々な用途で、繊維製手袋をゴムや樹脂等により被覆することで、耐溶剤性、グリップ性、耐摩耗性等を向上させた保護手袋が用いられている。
【0003】
このような保護手袋は、通常、人体と接触して使用されるものであるため、耐摩耗性などの機械的強度や耐久性に優れていることに加え、柔軟性に優れていることが求められている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、繊維製手袋に、凝固剤溶液を含浸させた後、ニトリルゴムを含むラテックス組成物を接触させてゴム層を形成してなる保護手袋が開示されている。しかしながら、特許文献1の技術により得られる保護手袋は、ゴム層が繊維製手袋の表面から裏面まで貫通するようにして形成された場合、保護手袋を実際に手に装着すると、裏面まで貫通したゴム層が手に接触することで、手に不快な感触を受けることとなり、装着時の快適性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、柔軟性および耐摩耗性に優れ、しかも装着時に疲労を感じにくく、装着時の快適性にも優れた積層体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような製造方法により得られた積層体を用いる保護手袋の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、浸漬用型上に支持された基材を、加熱させた状態で、重合体ラテックスに接触させることで、重合体ラテックスを構成する重合体を基材に浸透させ、浸透した重合体を凝固させることで、基材の一方の面から他方の面まで貫通したゴム層を形成することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、基材と、前記基材の一方の面から他方の面まで貫通して形成されたゴム層と、を備える積層体の製造方法であって、浸漬用型上に支持された前記基材を、加熱した状態で、重合体ラテックスに接触させることで、前記重合体ラテックスを構成する重合体を前記基材に浸透させつつ、浸透した前記重合体を凝固させることにより、前記ゴム層を形成する凝固工程を備える積層体の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の積層体の製造方法では、前記凝固工程において、前記浸漬用型上に支持された前記基材を、30℃以上に加熱した状態で、前記重合体ラテックスを接触させることが好ましい。
本発明の積層体の製造方法では、前記凝固工程において、前記浸漬用型上に支持された前記基材を、45℃以上に加熱した状態で、前記重合体ラテックスを接触させることがより好ましい。
本発明の積層体の製造方法において、前記重合体ラテックスを構成する重合体がニトリルゴムであることが好ましい。
本発明の積層体の製造方法において、前記重合体ラテックスがノニオン性界面活性剤を含有することが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、上記の製造方法により得られる積層体を用いる保護手袋の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟性および耐摩耗性に優れ、しかも装着時に疲労を感じにくく、装着時の快適性にも優れた積層体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、このような製造方法により得られた積層体を用いる保護手袋の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(A)は、ゴム層を形成する前の繊維基材の断面図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示す繊維基材にゴム層が積層されてなる保護手袋の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の積層体の製造方法は、基材と、前記基材の一方の面から他方の面まで貫通して形成されたゴム層と、を備える積層体の製造方法であって、
浸漬用型上に支持された前記基材を、加熱させた状態で、重合体ラテックスに接触させることで、前記重合体ラテックスを構成する重合体を前記基材に浸透させ、浸透した前記重合体を凝固させることにより、前記ゴム層を形成する凝固工程を備える。
【0014】
本発明の積層体は、基材とゴム層とを備える。本発明の積層体は、柔軟性が必要とされる用途に用いることができ、特に限定されないが、たとえば、基材として繊維基材を用いて、繊維基材とゴム層とを備える積層体として用いることが好ましく、作業用手袋、特に家庭用、農業用、漁業用および工業用などの保護手袋などの人体と接触して用いられるものとして用いることが特に好ましい。
以下においては、
図1(A)および
図1(B)を参照し、本発明の積層体の一実施形態として、繊維基材とゴム層とを有する保護手袋を例示して説明する。なお、
図1(A)は、ゴム層を形成する前の繊維基材の断面図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示す繊維基材に対して、重合体ラテックスが浸透しつつ凝固することで形成されたゴム層が設けられてなる保護手袋の断面図である。
【0015】
繊維基材としては、繊維製のものであればよく、特に限定されないが、綿、毛、麻、羊毛などの天然繊維、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ナイロンなどの合成繊維などを素材として用いることができ、これらの中でも、ナイロンを用いることが好ましい。また、繊維基材は、編まれたものであってもよいし、縫製されたものであってもよく、織布であっても、不織布であってもよい。
【0016】
繊維基材の厚み(後述する繊維基材の基材層平均厚みd)は、特に限定されないが、好ましくは0.05~3.00mm、より好ましくは0.10~2.00mm、さらに好ましくは0.15~1.5mmである。繊維基材の線密度は、特に限定されないが、好ましくは50~500デニールである。繊維基材のゲージ数は、特に限定されないが、好ましくは7~18ゲージである。ここで、ゲージ数は、1インチの間にある編機の針の数をいう。
【0017】
本発明の製造方法においては、繊維基材に対応した形状を有する浸漬用型上に繊維基材が支持された状態とし、繊維基材を加熱した状態としながら、重合体ラテックスに接触させることで、重合体ラテックスを構成する重合体を繊維基材に浸透させ、浸透した重合体を、繊維基材の熱により凝固させる方法、すなわち、感熱凝固法(感熱浸漬法)により、ゴム層を形成し、これにより、繊維基材と、繊維基材の一方の面から他方の面まで貫通して形成されたゴム層と、を備える積層体を製造するものである。
【0018】
たとえば、積層体の一例としての保護手袋を例示して説明すると、浸漬用型としての手袋型上に、手袋形状の繊維基材を被せた状態とし、手袋形状の繊維基材を加熱した状態とし、感熱凝固法により、すなわち、重合体ラテックス中に浸漬させることで、重合体ラテックスを構成する重合体を手袋形状の繊維基材に浸透させつつ、繊維基材の熱により、浸透した重合体を凝固させる方法により、重合体ラテックスを構成する重合体からなるゴム層を形成する。
【0019】
具体的には、積層体として保護手袋を製造する場合には、手袋型に被せた繊維基材を、加熱した状態で、重合体ラテックス中に浸漬させることで、重合体ラテックスを、手袋型に被せた繊維基材の表面(保護手袋の外面となる面)から、繊維基材を構成する繊維の間に浸透させ、重合体ラテックスが、加熱された繊維基材に接触することでゲル化および凝固を進行させ、これにより、繊維基材の一方の面から他方の面まで貫通するゴム層が形成される。この際には、繊維基材だけでなく手袋型も加熱しておいてもよく、特に、繊維基材を貫通して手袋型まで到達した重合体ラテックスが、手袋型の表面に沿ってより良好に凝固し、これにより、繊維基材の一方の面から他方の面まで貫通して形成されたゴム層をより適切に形成できるという観点より、繊維基材を手袋型に被せた状態にて、繊維基材を手袋型とともに加熱し、これを用いる方法が好ましい。
【0020】
特に、このような感熱凝固法によれば、加熱した繊維基材を、重合体ラテックス中に浸漬させることで、重合体ラテックスを、繊維基材内部まで十分に浸透させながら、繊維基材の熱の作用により、繊維基材内部まで十分に浸透させた重合体ラテックスを、適切にゲル化および凝固させることができるものである。そして、これにより、繊維基材の表面から、手袋型に被せた繊維基材の裏面(保護手袋の内面となる面)まで貫通したゴム層を適切に形成できるものである。具体的には、上記の感熱凝固法によれば、繊維基材のほぼ全体にわたり、繊維基材の表面から繊維基材の裏面まで貫通したゴム層を連続的に形成でき、これにより柔軟性に優れたものとすることができるものである。しかも、上記の感熱凝固法によれば、ゴム層を、繊維基材の表面においては、表面の凹凸が少なく、表面状態を滑らかなものとすることができ、これにより、耐摩耗性に優れたものとすることができ、さらには、繊維基材の裏面においても、ゴム層に起因する凹凸や凝集等の発生を有効に抑制できるため、得られる保護手袋を、実際に手に装着して使用する場合に、手にゴム層が接触しても、手への不快な感触(微小な突き刺しに起因する不快な感触)を低減することができ、これにより、装着時に疲労を感じにくく、装着時の快適性に優れたものとすることができるものである。
【0021】
本発明の積層体の一実施形態である保護手袋としては、たとえば、
図1(B)に示す構造を備えるものを例示することができる。ここで、
図1(B)は、
図1(A)に示す繊維基材に対して、重合体ラテックスが浸透しつつ凝固することで形成されたゴム層が設けられてなる保護手袋(積層体)の断面図である。
図1(B)に示す保護手袋においては、繊維基材の表面に、繊維基材を被覆する表面ゴム層が形成され、この表面ゴム層に連続して、繊維基材の繊維の隙間に浸透してなる浸透ゴム層が形成され、これらの表面ゴム層および浸透ゴム層が一体となってゴム層を形成している。
【0022】
なお、重合体ラテックスを凝固させて形成されるゴム層は、上記の感熱凝固法による凝固を複数回実施することで多層積層構造としてもよい。
【0023】
また、形成されるゴム層は、繊維基材のほぼ全体にわたり、繊維基材の表面から繊維基材の裏面まで貫通した状態で形成されればよいが、一部においては、このような貫通した状態となっていなくてもよい。
【0024】
なお、従来においては、繊維基材を貫通するゴム層を備える積層体を製造する方法として、繊維基材に、凝固剤溶液を付着させた後、凝固剤溶液が付着した繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体ラテックス中の重合体を凝固させることで、繊維基材上にゴム層を形成する方法(凝着浸漬法)が用いられている。しかしながら、このような従来の方法では、重合体が凝固する前に、重合体ラテックスが繊維基材から液垂れしてしまい、このような状態で重合体の凝固が進行してしまうと、形成されるゴム層は、部分的に繊維基材を貫通して、浸漬用型と接触した部分で不均一な形状のまま凝固してしまい、また、貫通した部分を中心として凝集して塊が形成されてしまい、結果として、得られる積層体を保護手袋等して使用する場合に、保護手袋等の内面(積層体の製造時に浸漬用型と接触する面)において、ゴム層の表面の凹凸が大きくなってしまったり、ゴム層が硬くなってしまったりすることで、耐久性および柔軟性に劣るものとなり、しかも、装着時に手にゴム層が接触することで、手に不快な感触を受けることとなり、装着者が疲労感を覚えるようになってしまい、装着時の快適性にも劣るという問題があった。
【0025】
これに対して、本発明によれば、繊維基材を貫通するゴム層を備える積層体を製造する方法として、上述した感熱凝固法を用いることにより、繊維基材のほぼ全体にわたり、繊維基材の表面から繊維基材の裏面まで貫通したゴム層を連続的に形成でき、さらには、繊維基材の表面においては、ゴム層に起因する凹凸や凝集等の発生を有効に抑制でき、表面状態を滑らかなものとすることができるため、得られる積層体について、柔軟性に優れ、しかも、実際に保護手袋等として手に装着して使用する場合に、手への不快な感触を低減することができ、装着時に疲労を感じにくく、装着時の快適性に優れたものとすることができる。
【0026】
なお、本発明の製造方法により得られる積層体の浸透ゴム層の厚みt1は、積層体を保護手袋等として用いた際の耐久性がより向上するという観点より、好ましくは0.05~1.0mm、より好ましくは0.10~0.8mm、より好ましくは0.15~0.70mmである。なお、ゴム層は、繊維基材を貫通した状態となっているため、通常、浸透ゴム層の厚みt1は、繊維基材の厚みと同等の厚みとなるが、ゴム層の一部が繊維基材を貫通していない状態となっている場合には(ゴム層の一部が繊維基材の一方の面から他方の面まで到達していない場合には)、浸透ゴム層の厚みt1は、一部が、繊維基材の厚みより薄いものとなっていてもよい。
【0027】
また、表面ゴム層の厚みt2は、積層体を保護手袋等として用いた際の耐久性がより向上するという観点より、好ましくは0.01~3.00mm、より好ましくは0.02~2.5mm、さらに好ましくは0.03~2.0mmである。
【0028】
さらに、表面ゴム層の厚みt2に対する浸透ゴム層の厚みt1の比(t1/t2)は、積層体を保護手袋等として用いた際の耐久性、柔軟性および装着時の快適性を高度にバランスさせるという観点より、0.5~0.2であればよく、好ましくは0.25~4.80、より好ましくは0.30~4.60である。
【0029】
また、積層体を保護手袋等として用いた際の耐久性、柔軟性および装着時の快適性を高度にバランスさせるという観点より、繊維基材の基材層平均厚みdに対する表面ゴム層の厚みt2の比(t2/d)は、好ましくは0.10~0.95であり、より好ましくは0.1~0.90、さらに好ましくは0.15~0.8である。また、積層体の全厚み(表面ゴム層の厚みt2と、繊維基材の基材層平均厚みdとの合計)は、好ましくは0.75~3.70mm、より好ましくは0.75~3.5mmである。なお、繊維基材は、そのミクロ構造においては、繊維の重なり度合いが密になっている部分と、繊維の重なり度合いが疎になっている部分とで、その厚みが異なる場合があるが、繊維基材の基材層平均厚みdは、繊維基材について、繊維の重なり度合いが密になっている部分の厚みを、その厚みとした平均値として、求めることとする。
【0030】
また、本発明の用いる重合体ラテックスを構成する重合体としては、特に限定されないが、天然ゴム;ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンを重合または共重合してなる共役ジエン系ゴム;等が挙げられ、これらの中でも、共役ジエン系ゴムが好ましい。共役ジエン系ゴムとしては、ニトリルを共重合してなるいわゆるニトリルゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム等が挙げられ、これらの中でも、ニトリルゴムが特に好ましい。
【0031】
ニトリルゴムとしては、特に限定されないが、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体および必要に応じて用いられる共重合可能なその他の単量体を共重合したものを用いることができる。
【0032】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、ニトリル基を有し、炭素数が、好ましくは3~18であるエチレン性不飽和化合物を用いることができる。このようなα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン置換アクリロニトリルなどが挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらのα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
ニトリルゴムにおけるα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは10~45重量%、より好ましくは20~40重量%であり、さらに好ましくは30~40重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、積層体を、より耐溶剤性に優れ、かつ、より風合いに優れたものとすることができる。さらには、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、このようなニトリルゴムを含む重合体ラテックスを用いて感熱凝固法によりゴム層を形成する場合に、ニトリルゴムがより良好にゲル化および凝固し、ゴム層がより良好に形成され、これにより、ゴム層が繊維基材を貫通してなる積層体を、保護手袋等として手に装着して使用する際に、手への不快な感触をより低減することができるようになり、装着時の快適性をより向上させることができる。
【0034】
また、ニトリルゴムとしては、ゴム弾性を付与するという観点より、共役ジエン単量体単位を含有するものが好ましい。共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4~6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3-ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3-ブタジエンが特に好ましい。なお、これらの共役ジエン単量体は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
共役ジエン単量体単位の含有割合は、ニトリルゴムを構成する全単量体単位に対して、好ましくは40~80重量%、より好ましくは52~78重量%である。共役ジエン単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、積層体を、耐溶剤性に優れ、かつ、風合いに優れたものとすることができる。
【0036】
また、ニトリルゴムは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体、および共役ジエン単量体単位を形成する単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体を含んでいてもよい。
【0037】
このような共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0038】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
【0039】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0040】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸-3-クロロ-2-リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸-2-リン酸エチル、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸などが挙げられる。
【0041】
これらの共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0042】
重合体ラテックスは、たとえば、上記の単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合することにより得ることができる。乳化重合に際しては、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。
【0043】
乳化重合に用いる乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられるが、感熱凝固をより適切に進行させるという観点より、ノニオン性界面活性剤が好ましい。特に、硝酸カルシウムなどの凝固剤を含む凝固剤溶液を使用した塩凝固の場合には、塩凝固を効率的に進行させるという観点より、乳化重合に用いる乳化剤としては、アニオン性界面活性剤が好適に用いられるが、本発明においては、感熱凝固をより適切に進行させるという観点より、ノニオン性界面活性剤が好ましく、曇点が常温以上、100℃以下の水溶性のノニオン性高分子が好ましい。ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルなどが挙げられる。
乳化重合に用いる乳化剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5~10重量部、より好ましくは1~8重量部である。
【0044】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が好ましい。ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などが挙げられ、これらの中でも、無機過酸化物または有機過酸化物が好ましく、無機過酸化物がより好ましく、過硫酸塩が特に好ましい。これらの重合開始剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01~2重量部、より好ましくは0.05~1.5重量部である。
【0045】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、たとえば、α-メチルスチレンダイマー;t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物;などが挙げられ、これらの中でも、メルカプタン類が好ましく、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。これらの分子量調整剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
分子量調整剤の使用量は、その種類によって異なるが、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1~1.5重量部、より好ましくは0.2~1.0重量部である。
【0046】
乳化重合は、通常、水中で行なわれる。水の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは80~500重量部、より好ましくは100~200重量部である。
【0047】
乳化重合に際し、必要に応じて、上記以外の重合副資材をさらに用いてもよい。重合副資材としては、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等が挙げられ、これらの種類、使用量とも特に限定されない。
【0048】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。
また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0049】
乳化重合する際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0~95℃であり、好ましくは5~70℃である。重合時間は、特に限定されないが、通常、5~40時間程度である。
【0050】
以上のように単量体を乳化重合し、所定の重合転化率に達した時点で、重合系を冷却したり、重合停止剤を添加したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する際の重合転化率は、通常、80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上である。
【0051】
重合停止剤は、通常、乳化重合において使用されているものであれば、特に限定されないが、その具体例としては、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩等のヒドロキシアミン化合物;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム;ハイドロキノン誘導体;カテコール誘導体;ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸及びこれらのアルカリ金属塩等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸化合物;等が挙げられる。
重合停止剤の使用量は、特に限定されないが、通常、使用する全単量体100重量部に対して、0.05~2重量部である。
【0052】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整してもよい。
【0053】
重合体ラテックスを構成する重合体の粒子の重量平均粒子径は、通常、30~1000nm、好ましくは50~500nm、より好ましくは70~200nmである。重合体の粒子の重量平均粒子径を上記範囲にすることにより、重合体ラテックスの粘度が適度なものとなって重合体ラテックスの取扱性がより向上するとともに、ゴム層を成形する際の成形性が向上してより均質なゴム層を有する積層体が得られるようになる。
【0054】
重合体ラテックスの固形分濃度は、通常、20~65重量%であり、好ましくは30~60重量%、より好ましくは35~55重量%である。この重合体ラテックスの固形分濃度を上記範囲にすることにより、ラテックスの輸送効率を向上させることができ、かつ、重合体ラテックスの粘度が適度なものとなって重合体ラテックスの取扱性が向上する。
【0055】
重合体ラテックスのpHは、通常、5~13であり、好ましくは7~10、より好ましくは7.5~9である。重合体ラテックスのpHを上記範囲にすることにより、機械的安定性が向上して重合体ラテックスの移送時における粗大凝集物の発生を抑制することができ、かつ、重合体ラテックスの粘度が適度なものとなって重合体ラテックスの取扱性が向上する。
【0056】
また、重合体ラテックスとしては、架橋剤、感熱凝固剤等の配合剤を配合したものを用いることが好ましい。すなわち、ラテックスの組成物として用いることが好ましい。尚、重合体ラテックスを前記のようにラテックス組成物として用いる場合には、前記の架橋剤、感熱凝固剤等の配合剤、後述する乳化剤、増粘剤等の配合剤を含有する状態での粘度が適度な範囲となるように調整するのが好ましい。
【0057】
架橋剤としては、硫黄系架橋剤を用いることが好ましい。硫黄系架橋剤としては、特に限定されないが、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、カプロラクタムジスルフィド、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらの架橋剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
また、架橋剤として硫黄を使用する場合には、架橋促進剤(加硫促進剤)や、酸化亜鉛を併用することが好ましい。
架橋促進剤(加硫促進剤)としては、特に限定されないが、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(2,4-ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2-(N,N-ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2-(2,6-ジメチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2-(4′-モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4-モルホリニル-2-ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3-ビス(2-ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられ、これらの中でも、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの架橋促進剤は、1種単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
感熱凝固剤としては、加熱により重合体ラテックスを凝固させる作用を示す化合物であればよく、特に限定されないが、エポキシ変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アルキルアラルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル;ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンおよびジオルガノポリシロキサンジオールなどのポリシロキサン;1,1-ジヒドロペルフルオロオクチルアクリレートポリマー、パーフルオロアルキルエチルアクリレート-アルキルアクリレート共重合体などのフロロアルキルエステル系重合体;などが挙げられる。重合体ラテックスに、感熱凝固剤を配合することにより、重合体ラテックスの感熱凝固をより適切に進行させることができる。
【0060】
重合体ラテックスに感熱凝固剤を配合する場合における、感熱凝固剤の配合量は、重合体ラテックス中に含まれる重合体100重量部に対し、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.1~8重量部、さらに好ましくは0.1~5重量部である。感熱凝固剤の配合量を上記範囲とすることにより、重合体ラテックスの感熱凝固をより適切に進行させることができる。なお、本発明において、感熱凝固剤は、加熱により重合体ラテックスを凝固させる作用を示す他、重合体ラテックスを増粘させるための増粘剤としての作用をも有する。そのため、重合体ラテックスの粘度を調整し、これにより、ゴム層が繊維基材を貫通してなる積層体をより適切に得るという観点からも、感熱凝固剤の配合量は上記範囲とすることが好ましい。なお、重合体ラテックスの25℃における粘度は、好ましくは500~20,000mPa・s、より好ましくは1,000~10,000mPa・sである。重合体ラテックスの25℃における粘度は、たとえば、B型粘度計を用いて、25℃、回転数6rpmの条件で測定することができる。
【0061】
また、重合体ラテックスには、重合体ラテックスの安定性をより高めるという観点より、乳化剤をさらに配合してもよい。乳化剤としては、乳化重合の場合と同様に、ノニオン性界面活性剤が好ましく、曇点が30℃以上、100℃以下の水溶性のノニオン性高分子が好ましく、曇点が45℃以上、90℃以下の水溶性のノニオン性高分子がより好ましい。
【0062】
重合体ラテックスに乳化剤を配合する場合には、重合体ラテックス中における配合した乳化剤の含有割合(重合体ラテックスの乳化重合に用いたものも含めた含有割合)は、好ましくは20~0.01重量%、より好ましくは15~0.02重量%、さらに好ましくは10~0.05重量%である。乳化剤の含有割合を上記範囲とすることにより、得られるラテックスの組成物を用いて感熱凝固法によりゴム層を形成する場合に、ゴム層がより良好に形成され、これにより、ゴム層が繊維基材を貫通してなる積層体を、保護手袋等として手に装着して使用する際に、手への不快な感触をより低減することができるようになり、装着時の快適性がより向上する。
【0063】
また、重合体ラテックスには、上述した感熱凝固剤に加えて、感熱凝固剤以外の増粘剤を適宜配合してもよい。このような増粘剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系化合物;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;ポリカルボン系酸化合物およびそのナトリウム塩;ポリエチレングリコールエーテル等のポリオキシエチレン誘導体;等が挙げられる。
【0064】
本発明の積層体を製造する方法としては、上述したように、浸漬用型上に支持した繊維基材を、加熱させた状態で、重合体ラテックスに接触させることで、繊維基材を構成する繊維の間に重合体ラテックスを十分に浸透させるとともに、加熱された繊維基材および浸漬用型に重合体ラテックスを接触させることでゲル化および凝固させ、必要に応じて乾燥させることにより、繊維基材の一方の面から他方の面まで貫通するゴム層を形成することができ、これにより、繊維基材とゴム層とからなる積層体を得る方法を用いる。また、ゴム層は、複数回積層させた多層構造であってもよい。繊維基材を重合体ラテックスに接触させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、予め、所望の形状の浸漬用型上に繊維基材を装着等によって支持した状態で、繊維基材を重合体ラテックスに浸漬させる方法などが挙げられる。なお、重合体ラテックスとして、架橋剤を添加したものを用いる場合には、重合体ラテックスとして、予め熟成(前加硫ともいう。)させたものを用いてもよい。
【0065】
繊維基材を支持する浸漬用型としては、特に限定されないが、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものを用いることができる。浸漬用型の形状は、最終製品の形状に合わせて、所望の形状とすればよい。たとえば、ゴム層を有する積層体が、保護手袋である場合には、繊維基材を被せる浸漬用型として、手首から指先までの形状を有する浸漬用型など、各種の手袋用の浸漬用型を用いることが好ましい。
【0066】
繊維基材を重合体ラテックスに接触させる際には、予め浸漬用型および繊維基材を加熱(予熱ともいう)しておき、浸漬用型上に支持された繊維基材を、加熱した状態で、重合体ラテックスに接触させる。重合体ラテックスに接触させる際における、浸漬用型上に支持された繊維基材の温度(予熱温度ともいう)は、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~95℃、さらに好ましくは45~90℃、特に好ましくは50~90℃である。浸漬用型上に支持された繊維基材の予熱温度を上記範囲とすることにより、重合体ラテックスに接触させる直前の浸漬用型上に支持された繊維基材の温度を以下の好ましい範囲とすることができる。重合体ラテックスに接触させる直前の浸漬用型上に支持された繊維基材の温度は、好ましくは25~100℃、より好ましくは35~95℃、さらに好ましくは40~90℃、特に好ましくは45~90℃である。浸漬用型上に支持された繊維基材の温度を上記範囲とすることにより、重合体ラテックスを用いて感熱凝固法によりゴム層を形成する場合に、ゴム層がより均一に形成され、これにより、ゴム層が繊維基材を貫通してなる保護手袋等の積層体を、手に装着した際に、手への不快な感触を低減することができるようになり、装着時の快適性がより向上する。
【0067】
また、繊維基材を重合体ラテックスに接触させた後、繊維基材に付着した重合体ラテックスを乾燥させることが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~80℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは5秒間~120分間、より好ましくは10秒間~60分間である。
【0068】
さらに、繊維基材を重合体ラテックスに浸漬させ、乾燥した後に、さらに繊維基材を重合体ラテックスに浸漬させ、複数回積層させた多層構造としてもよい。
【0069】
また、重合体ラテックスに架橋剤を配合した場合には、必要に応じて、加熱することにより架橋させてもよい。
【0070】
さらに、繊維基材を浸漬用型により支持した状態でゴム層を形成した場合には、ゴム層が形成された繊維基材を、浸漬用型から脱着することによって、積層体を得ることができる。脱着方法としては、手で浸漬用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。
このようにして、ゴム層を有する積層体の一例としての、繊維基材とゴム層とを有する積層体を得ることができる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0072】
浸透ゴム層の厚みt
1
、および表面ゴム層の厚みt
2
保護手袋(積層体)について、中指の先から12cmの掌部分のゴム層が積層された断面を、光学顕微鏡(製品名「VHX-200」、キーエンス社製)を用いて観察することで、浸透ゴム層の厚みt
1、および表面ゴム層の厚みt
2を測定した。具体的な測定方法について
図1を参照して説明すると、浸透ゴム層の厚みt
1は、繊維基材の表面から、浸透したゴムの最深部までの距離を、10カ所測定し、測定結果の数平均値を算出することにより求めた。また、表面ゴム層の厚みt
2は、繊維基材の表面から、ゴム層の表面までの距離を、10カ所測定し、測定結果の数平均値を算出することにより求めた。
【0073】
液垂れ
繊維基材をディップ成形用ラテックス組成物に浸漬させた状態から引き上げた後、繊維基材に付着したディップ成形用ラテックス組成物が、凝固するまでの間に、繊維基材から滴下した否かを目視にて確認することで、液垂れの有無を評価した。また、ディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた繊維基材について、引き上げた時点から、繊維基材に付着したディップ成形用ラテックス組成物が垂れ始めるまでの時間(ディップ成形用ラテックス組成物が重力により変形し始めるまでの時間)を計測した。
【0074】
裏抜け
保護手袋(積層体)について、繊維基材の一方の面から浸透したゴム層の少なくとも一部が、繊維基材を貫通しての他方の面まで到達しているか否かを目視にて確認することで、裏抜けの有無を評価した。
【0075】
装着性
装着性の評価は、保護手袋(積層体)を、実際に手に着用して清掃や運搬等の簡易的な作業した後、手に感じる疲労感をアンケートすることにより行った。10人を対象として実施し、着用時に疲労を感じた人数を集計し、装着時疲労度として以下の基準で評価した。
良好:疲労を感じた人数が3人未満
可:疲労を感じた人数が3人以上6人未満
不良:疲労を感じた人数が6人以上
【0076】
装着快適性
装着快適性の評価は、実施例及び比較例において製造した保護手袋を、実際に手に着用して清掃や運搬等の簡易的な作業した後、手に感じる不快な感触をアンケートすることにより行った。10人を対象として実施し、微小な突き刺しに起因する不快な感触を感じた人数を集計した。結果を表1に示す。
【0077】
柔軟性
保護手袋(積層体)を10人にそれぞれ着用してもらい、その柔軟性を下記の5段階の評価点で評価してもらい、評価点の平均値を求め、評価点の平均値が最も近いものを、各実施例における評価点とした(たとえば、平均値が4.1である場合には、「4:柔らかい」等とした。)。
5:非常に柔らかい
4:柔らかい
3:やや柔らかい
2:硬い
1:非常に硬い
【0078】
耐摩耗性
摩耗試験はEN388に記載の方法に則って、マーチンデール式摩耗試験機(製品名「STM633」、SATRA社製)を用いて評価を実施した。具体的には、保護手袋(積層体)について、所定の加重をかけながら摩擦を繰り返し、破損までの摩擦回数を得た。破損に至るまでの摩擦回数に従い、レベル0からレベル4までのレベルに分けられ、レベルが高いほど耐摩耗性に優れる。
LEVEL 4:回転数8,000回転以上
LEVEL 3:回転数2,000回転以上、8,000回転未満
LEVEL 2:回転数500回転以上、2,000回転未満
LEVEL 1:回転数100回転以上、500回転未満
LEVEL 0:回転数100回転未満
【0079】
実施例1
ディップ成形用ラテックス組成物の調製
重合体ラテックスとして、アクリロニトリル単位の含有割合が35重量%であるニトリルゴム(a)のラテックス(商品名「Nipol LX511A」、日本ゼオン社製、乳化剤:ノニオン性界面活性剤)を準備し、ラテックス中のニトリルゴム(a)100部に対して、それぞれ固形分換算で、乳化剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名「エマルゲン 709」、曇点56℃、花王社製)2.50部、感熱凝固剤としてのポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名「TPA 4380」、東芝シリコーン社製)0.3部、消泡剤(商品名「SM5512」、東レ・ダウコーニング社製)0.01部、コロイド硫黄(細井化学工業社製)1.00部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製)0.50部、酸化亜鉛1.50部、酸化チタン3.00部となるように、各配合剤の水分散液を調製し、調製した水分散液を添加し、ラテックス組成物を得た。なお、各配合剤の水分散液を添加する際には、ラテックスを撹拌した状態で、各配合剤の水分散液を所定の量をゆっくり添加した。その後、ラテックス組成物の固形分濃度を45重量%に調整し、次いで、温度30℃、48時間の条件で、熟成(前加硫ともいう。)を施すことで、B型粘度計を使用し、温度25℃、回転数6rpmの条件で測定される粘度が1,800mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。
【0080】
積層体(保護手袋)の製造
得られたディップ成形用ラテックス組成物を用いて、金属製手袋型に被せた手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、繊維基材の基材層平均厚みd:0.70mm、13ゲージ)に対して、感熱凝固法により、ゴム層を形成した。具体的には、金属製手袋型に被せた繊維基材を、76℃に予熱した後、上記のディップ成形用ラテックス組成物に2秒間浸漬し、ディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた後、上述した方法に従い、液垂れの評価を行った。なお、ディップ直前の繊維基材の温度は、75℃であった。その後、繊維基材に付着したディップ成形用ラテックス組成物を、温度80℃、30分間の条件で乾燥させることでゴム層を形成した。次いで、温度100℃、60分間の条件で熱処理を行う事で、ゴム層中のニトリルゴムに架橋処理を施し、ゴム層を形成した。次いで、ゴム層が形成された繊維基材を金属製手袋型から剥がすことで、保護手袋(積層体)を得た。得られた保護手袋(積層体)について、上述した方法に従い、浸透ゴム層の厚みt1の測定、表面ゴム層の厚みt2の測定、裏抜け、装着性(装着時疲労度)、装着快適性、柔軟性、および耐摩耗性の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
実施例2
繊維基材を被せた金属製手袋型をディップ成形用ラテックス組成物に浸漬する際に、金属製手袋型に被せた繊維基材の加熱温度(予熱温度)を、76℃から71℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。なお、ディップ直前の繊維基材の温度は、70℃であった。結果を表1に示す。
【0082】
実施例3
繊維基材を被せた金属製手袋型をディップ成形用ラテックス組成物に浸漬する際に、金属製手袋型に被せた繊維基材の加熱温度(予熱温度)を、76℃から56℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。なお、ディップ直前の繊維基材の温度は、55℃であった。結果を表1に示す。
【0083】
比較例1
重合体ラテックスとして、アクリロニトリル単位の含有割合が35重量%であるニトリルゴム(a)のラテックス(商品名「Nipol LX511A」、日本ゼオン社製)を準備し、ラテックス中のニトリルゴム(a)100部に対して、それぞれ固形分換算で、消泡剤(商品名「SM5512」、東レ・ダウコーニング社製)0.01部、コロイド硫黄(細井化学工業社製)1.00部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製)0.50部、酸化亜鉛1.50部、酸化チタン3.00部となるように、各配合剤の水分散液を調製し、調製した水分散液を添加し、ラテックス組成物を得た。
なお、各配合剤の水分散液を添加する際には、ラテックスを撹拌した状態で、各配合剤の水分散液を所定の量をゆっくり添加した。次いで、温度30℃、48時間の条件で、熟成(前加硫ともいう。)を施した。そして、熟成後のラテックス組成物に対して、増粘剤として、ポリアクリル酸ナトリウム(商品名「アロン A-7100」、東亜合成(株)製)を0.4重量%の割合でさらに添加し、B型粘度計を使用し、温度25℃、回転数6rpmの条件で測定される粘度が1,500mPa・sであるディップ成形用ラテックス組成物を得た。
【0084】
次いで、手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、繊維基材の基材層平均厚みd:0.70mm、13ゲージ)に対して、凝着浸漬法により、ゴム層を形成した。具体的には、金属製手袋型に被せた手袋形状の繊維基材を、42℃に加熱した後、凝固剤溶液としての硝酸カルシウムのメタノール溶液(硝酸カルシウム濃度:2.0重量%)に5秒間浸漬し、凝固剤溶液から引き上げた後、温度30℃、60秒間の条件で乾燥させた。その後、金属製手袋型に被せた繊維基材を、上記のディップ成形用ラテックス組成物に3秒間浸漬し、ディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた後、温度30℃、30分間の条件で乾燥させることでゴム層を形成した。なお、ディップ直前の繊維基材の温度は、23℃であった。次いで、温度100℃、60分間の条件で熱処理を行う事で、ゴム層中のニトリルゴムに架橋処理を施し、ゴム層を形成した。次いで、ゴム層が形成された繊維基材を金属製手袋型から剥がすことで、保護手袋(積層体)を得た。得られた保護手袋(積層体)について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、比較例1の保護手袋は、上述した方法により測定した浸透ゴム層の厚みt1は、繊維基材の基材層平均厚みd(0.70mm)よりも薄いものとなったが、部分的に裏抜けが発生しているものであった。
【0085】
比較例2
ディップ成形用ラテックス組成物を作製するためのニトリルゴムとして、ニトリルゴム(a)に代えて、アクリロニトリル単位の含有割合が27重量%であるニトリルゴム(b)(商品名「Nipol LX550L」、日本ゼオン社製)を使用した以外は、比較例1と同様にして、保護手袋(積層体)を得て、同様に評価を行った。なお、ディップ直前の繊維基材の温度は、22℃であった。結果を表1に示す。なお、比較例2の保護手袋は、上述した方法により測定した浸透ゴム層の厚みt1は、繊維基材の基材層平均厚みd(0.70mm)よりも薄いものとなったが、部分的に裏抜けが発生しているものであった。
【0086】
【0087】
表1に示すように、繊維基材を貫通するゴム層を備える積層体を製造する方法として、上述した感熱凝固法を用いた場合には、得られる積層体は、液垂れの発生が防止されてゴム層が良好に形成されたものであり、装着性、装着快適性、柔軟性および耐摩耗性に優れるものであった(実施例1~3)。
【0088】
一方、繊維基材を貫通するゴム層を備える積層体を製造する方法として、繊維基材に、凝固剤溶液を付着させた後、凝固剤溶液が付着した繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体ラテックス中の重合体を凝固させることで、繊維基材上にゴム層を形成する方法を用いた場合には、ゴム層を形成する際に重合体ラテックスの液垂れが発生してしまい、得られる積層体は、装着性および柔軟性がいずれも劣るものであった(比較例1,2)。特に、ディップ成形用ラテックス組成物を作製するためのニトリルゴムとして、アクリロニトリル単位の含有割合が比較的少ないものを用いた場合には、得られる積層体は、装着快適性にも劣るものであった(比較例2)。