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特許7163964セルロース組成物、セルロース成形体及びセルロース組成物の製造方法、並びにセルロース成形体の靭性を改善する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】セルロース組成物、セルロース成形体及びセルロース組成物の製造方法、並びにセルロース成形体の靭性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/26 20060101AFI20221025BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20221025BHJP
   C08J 3/18 20060101ALI20221025BHJP
   B29C 48/00 20190101ALI20221025BHJP
【FI】
C08L1/26
C08L1/02
C08J3/18 CEP
B29C48/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020541110
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032351
(87)【国際公開番号】W WO2020049995
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018165160
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 和久
(72)【発明者】
【氏名】須藤 貴音
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336177(JP,A)
【文献】特表2013-533851(JP,A)
【文献】特開昭58-090507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
B29B7/30
B29C48/00-48/13
C08J3/00-3/28
C08J5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性セルロースエーテル:100質量部
(B)水不溶性セルロース類粒子:30~150質量部、及び
(C)水:300~1000質量部
を含み、水溶性セルロースエーテルの含有量が5~20質量%である塑性加工用のセルロース組成物。
【請求項2】
上記(B)成分の水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径が0.017~200μmである請求項1記載のセルロース組成物。
【請求項3】
上記(B)成分の水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径が17~200μmである請求項1又は2記載のセルロース組成物。
【請求項4】
上記(B)成分における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上である請求項1~3のいずれか1項記載のセルロース組成物。
【請求項5】
上記(B)成分における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.4~50%である請求項1~4のいずれか1項記載のセルロース組成物。
【請求項6】
上記(B)成分が、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が0.1~0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである請求項1~のいずれか1項記載のセルロース組成物。
【請求項7】
上記(A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~のいずれか1項記載のセルロース組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項記載のセルロース組成物を塑性加工、乾燥してなるセルロース成形体。
【請求項9】
(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末:100質量部と(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末:30~150質量部と(c)水:300~1000質量部とを混合してセルロース組成物を得る混合工程を有する、水溶性セルロースエーテルの含有量が5~20質量%である塑性加工用のセルロース組成物の製造方法。
【請求項10】
上記混合が混錬処理と押出成形処理を連続して行う混錬押出成形処理である請求項記載のセルロース組成物の製造方法。
【請求項11】
上記混合として、混錬処理と押出成形処理を連続して行う混錬押出成形処理を2回以上繰り返して行う請求項9又は10に記載のセルロース組成物の製造方法。
【請求項12】
上記混合工程が、上記(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末及び(c)水を混合し、水不溶性セルロース類粒子分散液を調製する工程と、該水不溶性セルロース類粒子分散液について水不溶性セルロース類粒子を粉砕する摩砕処理を施す工程と、摩砕処理後の水不溶性セルロース類粒子分散液に(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末を添加する工程を行った後に行われる請求項9~11のいずれか1項に記載のセルロース組成物の製造方法。
【請求項13】
上記セルロース組成物が、湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径が0.017~200μmの水不溶性セルロース類粒子を含むものである請求項12のいずれか1項記載のセルロース組成物の製造方法。
【請求項14】
上記セルロース組成物において、湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上である請求項13のいずれか1項記載のセルロース組成物の製造方法。
【請求項15】
上記(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0%であり、上記セルロース組成物における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上である請求項9~14のいずれか1項記載のセルロース組成物の製造方法。
【請求項16】
(A)水溶性セルロースエーテル:100質量部、(B)水不溶性セルロース類粒子:30~150質量部、及び(C)水:300~1000質量部を含むセルロース組成物において、上記(B)成分における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率を0.3%以上とすることを特徴とするセルロース組成物を成形し、乾燥して得られるセルロース成形体の靭性を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース組成物、セルロース成形体及びセルロース組成物の製造方法、並びにセルロース成形体の靭性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、バイオマス材料が注目されており、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の石油系高分子材料の一部をバイオマス材料に置き換えることで、石油系高分子材料の原料である石油資源の枯渇化を防ぎ、石油系高分子材料の生分解性を高めることで環境悪化の抑制を図ることが提唱されてきている。また、自動車、OA・電気電子分野をはじめとした様々な産業で利用される石油系高分子材料の品質の改善のためにバイオマス材料の添加が検討されてきている。
【0003】
例えば、特開2016-079311号公報(特許文献1)においては、(A)平均太さ10~200nmであり、多糖を高圧水流にて解繊してなるセルロースナノ繊維1~60質量%及び(B)ポリオレフィン樹脂99~40質量%からなる樹脂混合物100質量部に対し、(C)テルペンフェノール系化合物を0.2~30質量部含むことを特徴とするポリオレフィン樹脂組成物が提案されている。
【0004】
また、特開2017-025338号公報(特許文献2)においては、(A)化学修飾セルロースナノファイバー及び(B)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物であって、上記化学修飾セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂が下記の条件:(a)(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SPpOl)に対する(A)化学修飾セルロースナノファイバーの溶解パラメータ(SPcnf)の比率R(SPcnf/SPpOl)が0.87~1.88の範囲である、及び(b)(A)化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上であることを満たす繊維強化樹脂組成物が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2においては、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン樹脂等の石油資源を使用する樹脂を使用して、強度を維持しているため、生分解性に劣るという問題があった。
【0006】
ところで、セルロースは植物の細胞壁の主成分であって、地球上に最も存在量が多い高分子であることからバイオマス材料(再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)として注目されている。このセルロースの用途としては、製紙材料、木材製品、綿繊維の衣類、食品添加物、医薬品、化粧品、錠剤用コーティング剤、生分解性プラスチック添加剤、人口絹糸原料、写真フィルム、フィルタ材などがあるが、十分に利用されているとは言い難い状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-079311号公報
【文献】特開2017-025338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、環境負荷が小さく生分解性を有するセルロースを利用した新しいバイオマス材料となり、保形性に優れたセルロース組成物、セルロース成形体及びセルロース組成物の製造方法、並びにセルロース成形体の靭性を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、下記のセルロース組成物、セルロース成形体及びセルロース組成物の製造方法、並びにセルロース成形体の靭性を改善する方法を提供する。
1.
(A)水溶性セルロースエーテル:100質量部
(B)水不溶性セルロース類粒子:30~150質量部、及び
(C)水:300~1000質量部
を含み、水溶性セルロースエーテルの含有量が5~20質量%である塑性加工用のセルロース組成物。

上記(B)成分の水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径が0.017~200μmである1記載のセルロース組成物。
3.
上記(B)成分の水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径が17~200μmである1又は2記載のセルロース組成物。
4.
上記(B)成分における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上である1~3のいずれかに記載のセルロース組成物。
5.
上記(B)成分における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.4~50%である1~4のいずれかに記載のセルロース組成物。

上記(B)成分が、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が0.1~0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである1~のいずれかに記載のセルロース組成物。

上記(A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である1~のいずれかに記載のセルロース組成物。

1~のいずれかに記載のセルロース組成物を塑性加工、乾燥してなるセルロース成形体。

(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末:100質量部と(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末:30~150質量部と(c)水:300~1000質量部とを混合してセルロース組成物を得る混合工程を有する、水溶性セルロースエーテルの含有量が5~20質量%である塑性加工用のセルロース組成物の製造方法。
10
上記混合が混錬処理と押出成形処理を連続して行う混錬押出成形処理である記載のセルロース組成物の製造方法。
11.
上記混合として、混錬処理と押出成形処理を連続して行う混錬押出成形処理を2回以上繰り返して行う9又は10に記載のセルロース組成物の製造方法。
12
上記混合工程が、上記(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末及び(c)水を混合し、水不溶性セルロース類粒子分散液を調製する工程と、該水不溶性セルロース類粒子分散液について水不溶性セルロース類粒子を粉砕する摩砕処理を施す工程と、摩砕処理後の水不溶性セルロース類粒子分散液に(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末を添加する工程を行った後に行われる9~11のいずれかに記載のセルロース組成物の製造方法。
13
上記セルロース組成物が、湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径が0.017~200μmの水不溶性セルロース類粒子を含むものである12のいずれかに記載のセルロース組成物の製造方法。
14
上記セルロース組成物において、湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上である13のいずれかに記載のセルロース組成物の製造方法。
15.
上記(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0%であり、上記セルロース組成物における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上である9~14のいずれかに記載のセルロース組成物の製造方法。
16.
(A)水溶性セルロースエーテル:100質量部、(B)水不溶性セルロース類粒子:30~150質量部、及び(C)水:300~1000質量部を含むセルロース組成物において、上記(B)成分における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率を0.3%以上とすることを特徴とするセルロース組成物を成形し、乾燥して得られるセルロース成形体の靭性を改善する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セルロースを主成分としてなり保形性に優れる組成物となる。また、これを用いて成形し乾燥すると、柔軟性に富むセルロースからなるセルロース成形体を提供できる。また、本発明のセルロースを主成分として利用し、樹脂成分を含まないセルロース組成物から得られる材料は焼却に際して二酸化炭素が発生するがカーボンニュートラルなセルロースからなるため、環境への負荷が小さいバイオマス材料となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るセルロース組成物、セルロース成形体並びにセルロース組成物の製造方法について説明する。
【0012】
[セルロース組成物]
本発明に係るセルロース組成物は、
(A)水溶性セルロースエーテル、
(B)水不溶性セルロース類粒子及び
(C)水
を含むことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係るセルロース組成物は、
(A)水溶性セルロースエーテル、
(B)水不溶性セルロース類粒子、
(C)水及び
(D)多価アルコール及び/又はその誘導体類
からなる混錬物であることが好ましい。
【0014】
[(A)成分]
水溶性セルロースエーテルは、非イオン性であることが好ましく、例えばアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。
【0015】
アルキルセルロースとしては、メトキシ基の置換度(DS)が好ましくは1.3~2.9、より好ましくは1.5~2.0であるメチルセルロース等が挙げられる。なお、アルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度(DS)は、第十七改正日本薬局方のメチルセルロースに関する分析方法に準じて測定して得られた値を換算することによって測定することができる。
【0016】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)が好ましくは1.1~2.7、より好ましくは2.0~2.6であるヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。なお、ヒドロキシアルキルセルロースにおけるヒドロキシアルコキシ基の置換モル数は、第十七改正日本薬局方のヒドロキシプロピルセルロースに関する分析方法に準じて測定して得られた値を換算することによって測定することができる。
【0017】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、メトキシ基の置換度(DS)が好ましくは1.3~2.9、より好ましくは1.3~2.0、ヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)が好ましくは0.3~2.3、より好ましくは0.3~1.0であるヒドロキシエチルメチルセルロース、メトキシ基の置換度(DS)が好ましくは1.3~2.9、より好ましくは1.3~2.0、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が好ましくは0.1~0.6、より好ましくは0.1~0.3であるヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。なお、ヒドキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシアルコキシ基の置換モル数(MS)は、第十七改正日本薬局方のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)に関する分析方法に準じて測定して得られた値を換算することによって測定することができる。
【0018】
なお、DSは、置換度(degree of substitution)を表し、置換度(DS)とは、無水グルコース1単位当たりのアルコキシ基の平均個数のことをいう。
また、MSは、置換モル数(molar substitution)を表し、置換モル数(MS)とは、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシアルコキシ基の平均モル数のことをいう。
【0019】
水溶性セルロースエーテルの2質量%水溶液の20℃における粘度は、セルロース組成物の成形時における保形性の観点から、好ましくは3~300,000mPa・s、より好ましくは15~35,000mPa・s、更に好ましくは50~10,000mPa・sである。
【0020】
なお、水溶性セルロースエーテルの2質量%水溶液の20℃における粘度は、粘度が600mPa・s以上の場合においては、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定することができる(以下、同じ)。一方、粘度が600mPa・s未満の場合においては、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベローデ型粘度計を用いて測定することができる(以下、同じ)。
【0021】
また、セルロース組成物における水溶性セルロースエーテルの含有量は、セルロース組成物に可塑性と粘結性を与える観点から、5~20質量%であることが好ましい。
【0022】
[(B)成分]
水不溶性セルロース類粒子は、水に溶解はしないが分散性のある水不溶性セルロース類からなる粒子状のものであるならば特に制限されない。水不溶性セルロース類としては、例えば水不溶性セルロースエーテル、水不溶性セルロースエステル、セルロース類等が挙げられる。
【0023】
水不溶性セルロースエーテルとしては、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。エチルセルロースにおけるエトキシ基の置換度(DS)は、エチルセルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~0.3、より好ましくは0.2~0.3である。エチルセルロースにおけるエトキシ基の置換度(DS)は、第十七改正日本薬局方のメチルセルロースに関する分析方法に準じて測定して得られた値を換算することによって測定することができる。
【0024】
ヒドロキシエチルセルロースにおけるヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)は、ヒドロキシエチルセルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~0.3、より好ましくは0.2~0.3である。ヒドロキシエチルセルロースにおけるヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)は、第十七改正日本薬局方のヒドロキシプロピルセルロースに関する分析方法に準じて測定して得られた値を換算することによって測定することができる。
【0025】
カルボキシメチルセルロースにおけるカルボキシメチル基の置換度(DS)は、カルボキシメチルセルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~0.3、より好ましくは0.2~0.3である。カルボキシメチルセルロースにおけるカルボキシメチル基の置換度(DS)は、昭和43年8月20日第一工業製薬株式会社発行「セロゲン物語」第4章 CMCの分析方法 183~184ページに記載の方法やNMRによる分析によって測定することができる。
【0026】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点並びにセルロース成形体に靱性を与える観点から、好ましくは0.1~0.4、より好ましくは0.2~0.3である。低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、第十七改正日本薬局方の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに関する分析方法に準じて測定した値を換算することによって測定することができる。
【0027】
水不溶性セルロースエステルとしては、アセチル化セルロース、硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等が挙げられる。
【0028】
アセチル化セルロースにおけるアセチル基の置換度(DS)は、アセチル化セルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~1.3、より好ましくは0.2~1.0である。アセチル化セルロースにおけるアセチル基の置換度(DS)は、NMR装置による分析によって測定することができる。
【0029】
硝酸セルロースにおけるニトロ基の置換度(DS)は、硝酸セルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~0.3、より好ましくは0.2~0.3である。硝酸セルロースにおけるニトロ基の置換度(DS)は、NMR装置や赤外分光装置による分析によって測定することができる。
【0030】
硫酸セルロースにおけるスルホン酸基の置換度(DS)は、硫酸セルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~0.3、より好ましくは0.2~0.3である。硫酸セルロースにおけるスルホン酸基の置換度(DS)は、スルホン酸基の滴定又はNMR装置や赤外分光装置による分析によって測定することができる。
【0031】
リン酸セルロースにおけるリン酸基の置換度(DS)は、リン酸セルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~0.3、より好ましくは0.2~0.3である。リン酸セルロースにおけるリン酸基の置換度(DS)は、リン酸基の滴定又はNMR装置や赤外分光装置による分析によって測定することができる。
【0032】
セルロース類としては、セルロース、微結晶セルロース、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン1-オキシル)触媒を用いて酸化されたセルロース(以下、「TEMPO酸化セルロース」とも記載する。)等が挙げられる。
【0033】
TEMPO酸化セルロースにおけるカルボキシル基の置換度(DS)は、TEMPO酸化セルロースの摩砕性及び水に対する不溶性の観点から、好ましくは0.1~0.3、より好ましくは0.2~0.3である。TEMPO酸化セルロースにおけるカルボキシル基の置換度(DS)はカルボン酸の滴定によって測定することができる。また、TEMPO酸化セルロースは、ナトリウム塩であってもよい。
【0034】
水不溶性セルロース類粒子は、上述した水不溶性セルロース類粒子の2種以上を併用してもよい。また、水不溶性セルロース類粒子は、上述の水不溶性セルロースエーテルからなる粒子の混合物であってもよい。
【0035】
これらの水不溶性セルロース類粒子のうち、セルロース組成物に保形性を与え、セルロース成形体(乾燥成形体)に靱性を与える観点から、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる粒子が好ましい。
【0036】
(B)水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径は、0.017~200μmであることが好ましく、0.5~150μmであることがより好ましく、5~100μmであることが更に好ましい。なお、水不溶性セルロース類粒子の形状は繊維状であってもよい。
【0037】
なお、ここでいう体積基準の平均粒子径は、体積基準の算術平均径をいい、レーザー回折散乱法を測定原理とする湿式の粒度分布測定により測定されるものであり、例えば偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)、ミー散乱法、フラウンホーファー回折法を用いる湿式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)、ミー散乱法、フラウンホーファー回折法を用いる湿式粒度分布測定装置としては、LS13-320型装置(ベックマンコールター社製)等が挙げられる。ベックマンコールター社製のLS13-320型装置は、フラウンホーファー回折、ミー散乱理論、偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)理論を用いたマルチ光学系を備える装置であり、波長の異なるレーザー光を用いて、水平偏向と垂直偏向の光散乱パターンの情報とレーザー回折散乱光パターンの組み合わせ解析により、これらの光散乱パターンに対応する有効粒子径(μm)と、各有効粒子径の体積分率(%)が求められる装置である。
【0038】
セルロース組成物における水不溶性セルロース類粒子の添加量は、セルロース組成物の保形性の観点から、水溶性セルロースエーテル100質量部に対して好ましくは30~150質量部であり、より好ましくは50~150質量部である。
【0039】
[(C)成分]
水は、セルロース組成物の性能や乾燥して水分を除去した後のセルロース成形体の性能を阻害しない限り特に制限はないが、水道水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられる。
【0040】
セルロース組成物における水の添加量は、セルロース組成物の成形を容易に行えるようにすると共に保形性を確保する観点から、水溶性セルロースエーテル100質量部に対して、好ましくは300~1000質量部であり、より好ましくは500~800質量部である。
【0041】
[(D)成分]
本発明のセルロース組成物には、必要に応じてセルロース組成物の保形性やセルロース成形体の靱性を高める観点から添加剤として多価アルコール及び/又はその誘導体類を添加してもよい。
【0042】
多価アルコール及び/又はその誘導体類としては、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリンラウリルエステル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、市販のものを使用してもよい。
【0043】
セルロース組成物における添加剤の添加量は、セルロース組成物に保形性を付与し、セルロース成形体に可塑性を付与する観点から、水溶性セルロースエーテル100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは5~100質量部、更に好ましくは10~50質量部である。
【0044】
本発明のセルロース組成物によれば、水溶性セルロースエーテル及び水のみからなる組成物では達成できなかった成形後の保形性を確保することができる。
【0045】
ここで、本発明者らは、上記(B)水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率を0.3%以上とすることにより、水不溶性セルロース類粒子と、水溶性セルロースエーテルと、水のみからなるセルロース組成物であっても、他の高分子を添加することなく乾燥成形体(セルロース成形体)に十分な靱性を付与できることを見出した。
【0046】
即ち、本発明のセルロース組成物において、(B)成分(水不溶性セルロース類粒子)における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上であることが好ましく、0.3~50%がより好ましく、0.3~40%が更に好ましく、0.3~10%が特に好ましい。上記有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率を上記のような範囲とすることにより、本発明のセルロース組成物を成形し、乾燥して得られるセルロース成形体の靭性を改善することができる。
【0047】
なお、水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率は、偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)、ミー散乱法、フラウンホーファー回折法を用いる湿式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)を用いる湿式粒度分布測定装置としては、LS13-320型装置(ベックマンコールター社製)等が挙げられる。ベックマンコールター社製のLS13-320型装置は、フラウンホーファー回折、ミー散乱理論、偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)理論を用いたマルチ光学系を備える装置であり、波長の異なるレーザー光を用いて、水平偏向と垂直偏向の光散乱パターンの情報とレーザー回折散乱光パターンの組み合わせ解析により、これらの光散乱パターンに対応する有効粒子径(μm)と、各有効粒子径の体積分率(%)が求められる装置である。
なお、水不溶性セルロース類における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類の体積分率は、0.017~2000μmの粒子に対して定義される。
【0048】
[セルロース成形体]
本発明のセルロース組成物を成形し、乾燥することによってセルロース成形体を得ることができる。
【0049】
(セルロース組成物の成形工程)
本発明のセルロース組成物は、粘性及び可塑性を有する粘土状であり、かつ粘着性が低く抑えられているため、押出成形装置やプレス成形装置など各種の成形装置で成形加工が容易に行える。また、手作業によりセルロース組成物を手でひねったり伸ばしたりして成形することも可能である。
また、本発明のセルロース組成物は、保形性に優れるため、直方体、球形、リング形状、コの字型スタンド形状等、用途に応じて任意の形状に成形することができる。セルロース組成物を成形したものをセルロース組成物成形体という。
【0050】
(セルロース組成物の乾燥工程)
次に、上記のように成形したセルロース組成物成形体を乾燥して、セルロース組成物中の水分を除去しセルロース成形体を得る。
乾燥温度は、セルロース組成物成形体の乾燥が早くなるようにしつつ燃焼しないようにする観点から、好ましくは60~120℃である。また、乾燥時間は水不溶性セルロース類粒子や水溶性セルロースエーテルの過熱劣化を防ぐ観点から、好ましくは0.5~24時間である。
【0051】
上記乾燥が完了したセルロース成形体の含水率は、セルロース成形体における腐敗菌の増殖を防ぐ観点から、好ましくは10質量%以下、好ましくは0.1~5質量%である。
【0052】
なお、セルロース成形体の含水率は、上記乾燥後のセルロース成形体の質量を測定し、105℃にてセルロース成形体を恒量となるまで更に乾燥(追加乾燥)させ、追加乾燥後のセルロース成形体の質量を求めることにより、下記算出式から算出することができる。
含水率(%)={(追加乾燥前のセルロース成形体の質量)-(追加乾燥後のセルロース成形体の質量)}÷(追加乾燥前のセルロース成形体の質量)×100
【0053】
[セルロース組成物の製造方法]
本発明に係るセルロース組成物の製造方法は、(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末と(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末と(c)水とを混合してセルロース組成物を得る混合工程を有することを特徴とするものである。
【0054】
このとき、上記セルロース組成物が、湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径が0.017~200μmの水不溶性セルロース類粒子を含むものであることが好ましい。
【0055】
ここで、(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末は、上記(A)成分の要件を満たす成分の原料となる粉末である。
【0056】
(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末の乾式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径は、水への溶解性の観点から好ましくは20~300μm、より好ましくは25~250μm、更に好ましくは40~100μmである。
【0057】
なお、体積基準の平均粒子径は、体積基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当する径をいい、レーザー回折式粒度分布測定装置マスターサイザー3000(Malvern社製)を用いて乾式法にてFraunhofer(フラウンホーファー)回折理論により、乾式法にて分散圧2bar、散乱強度2~10%の条件で測定できる(以下、同じ)。
【0058】
水溶性セルロースエーテル原料粉末は、公知の方法により製造したものを用いてもよいし、市販のものを使用してもよい。
【0059】
(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末は、上記(B)成分の要件を満たす成分の原料となる粉末である。
【0060】
(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末の配合量は、(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末100質量部に対して30~150質量部であることが好ましく、50~150質量部であることがより好ましい。
【0061】
また、(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末を構成する水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径は、セルロース組成物における(B)成分の望ましい平均粒子径範囲とするために、0.017~200μmであることが好ましく、0.5~150μmであることがより好ましく、5~100μmであることが更に好ましい。なお、水不溶性セルロース類粒子原料粉末の形状は繊維状であってもよい。この場合の(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末は、公知の方法により製造したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。
【0062】
なお、本発明に係るセルロース組成物の製造方法において後述する混錬押出成形処理や摩砕処理を行う場合、(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末を構成する水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径はセルロース組成物の製造時における分散性の観点から、3~200μmであることが好ましく、30~100μmであることがより好ましく、40~60μmであることが更に好ましい。なお、水不溶性セルロース類粒子原料粉末の形状は繊維状であってもよい。
この場合の(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末は、公知の方法により製造したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。このような水不溶性セルロース類粒子原料粉末を水中に分散させた場合、一般的に、水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率は0%である。
【0063】
(c)水は、上記(C)成分の要件を満たすものである。
【0064】
(c)水の配合量は、(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末100質量部に対して、300~1000質量部であることが好ましく、500~800質量部であることがより好ましい。
また、添加する際の水の温度は、水溶性セルロースエーテル原料粉末の溶解性の観点から、好ましくは5~40℃である。
【0065】
なお、本発明のセルロース組成物の製造に当たっては、必要に応じてセルロース組成物の保形性やセルロース成形体の靱性を高める観点から添加剤として上記(D)成分の要件を満たす多価アルコール及び/又はその誘導体類を添加してもよい。
【0066】
また、本発明のセルロース組成物の製造方法において、上記混合がまず(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末と(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末とを混合し、次いで(c)水を添加し混合するようにしてもよいし、あるいはまず(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末及び(c)水を混合し、次いで(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末を添加し混合するようにしてもよい。
【0067】
また、本発明のセルロース組成物の製造方法において、上記混合が混錬処理と押出成形処理を連続して行う混錬押出成形処理であることが好ましい。
【0068】
このような混錬押出成形処理を行う混練押出成形装置としては、混錬、真空脱気、押出成形を連続して行うスクリュー式混練押出成形装置(FM-P20E型、宮▲崎▼鉄工株式会社製)等が挙げられる。
【0069】
混練押出成形装置における吐出温度は、水溶性セルロースエーテルの加熱による粘度変化を防ぐ観点から、40℃以下、好ましくは15~40℃である。
【0070】
また、混練押出成形装置における吐出速度は、押出成形時におけるセルロース組成物の周囲と内部の吐出速度差による形状変化を防ぐ観点から、好ましくは2~50cm/分である。混練押出成形装置におけるスクリュー回転数は、上記の吐出成形速度を維持する観点から、好ましくは10~30rpmである。
なお、混錬押出成形処理の回数は、特に制限されない。
【0071】
ここで、上述した本発明のセルロース組成物のうち、(B)成分(水不溶性セルロース類粒子)における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上であるセルロース組成物は、以下の方法(製造方法1、2、3、4、5)により製造することができる。
【0072】
(製造方法1)
上述した本発明のセルロース組成物の製造方法において、(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末の原料準備の段階で、予め所望の粒度分布を有するように、2種類以上の水不溶性セルロース類粒子粉末を混合し、水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上となるように粒度分布を調整した後、上記混合を行うことが好ましい。この場合、例えば2種類以上の水不溶性セルロース類粒子粉末のうち、1つをセルロースナノファイバー(CNF)粉末とし、それ以外を湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径30~100μmの水不溶性セルロース類粒子粉末とすることが好ましい。
【0073】
(製造方法2)
上述した本発明のセルロース組成物の製造方法において、(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末の原料準備の段階で水不溶性セルロース粒子原料粉末を予め乾式粉砕して、水不溶性セルロース類粒子の湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上となるように粒度分布を調整することが好ましい。
【0074】
この場合、乾式粉砕に要するエネルギーが過大になる場合もあるため、組成物調製段階で湿式粉砕することが好ましい。即ち、水不溶性セルロース類粒子原料粉末を湿式で粉砕すると、水不溶性セルロース類粒子原料粉末は水を吸収して膨潤するため、より粉砕されやすくなるのであり、以下に示す混錬工程や摩砕処理によりそれが達成されるため好ましい。
【0075】
(製造方法3)
セルロース組成物中の水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率は、上記混錬押出成形処理の回数により調整することができる。即ち、上述した本発明のセルロース組成物において、上記混錬押出成形処理を1回又は2回以上行って、湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上となった水不溶性セルロース類粒子成分を含むセルロース組成物を得るようにすることが好ましい。
【0076】
(製造方法4)
上述した本発明のセルロース組成物の製造方法において、(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末、(b)水不溶性セルロース類粒子原料粉末及び(c)水を含有するセルロース混合物について水不溶性セルロース類粒子を粉砕する摩砕処理を施す工程と、摩砕処理後のセルロール混合物を混錬してセルロース組成物を得る混錬工程とを行うことが好ましい。これにより、湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上となった水不溶性セルロース類粒子成分を含むセルロース組成物を得ることができる。
【0077】
摩砕処理の方法(摩砕方法)としては、例えば、回転する2枚の円盤状の摩砕砥石(グラインダー)の間に上記セルロース混合物を供給して該セルロース混合物にせん断力を作用させて摩砕する方法、スクリュー式の混錬機により上記セルロース混合物に回転するスクリューの圧縮せん断力を作用させて摩砕する方法、振動ボールミル、コロイドミル、ホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて上記セルロース混合物に高圧力をかけて摩砕する方法等が挙げられる。上記円盤状の摩砕砥石(グラインダー)を用いた装置としては、石臼式摩砕機(マスコロイダーMICK6-3、増幸産業株式会社製)等が挙げられる。この場合、2枚の摩砕砥石(グラインダー)を上下に砥石の平面部が接触するようにセットし、摩砕砥石(グラインダー)の回転数500~3000rpmでセルロース混合物を10~200回パスさせることにより、摩砕することができる。
【0078】
また、この場合の混錬工程は、上述した混錬処理と押出成形処理を連続して行う混錬押出成形処理により行われることが好ましい。更に、この場合も混錬押出成形処理を1回又は2回以上行ってもよい。
【0079】
(製造方法5)
上述した本発明のセルロース組成物の製造方法において、上記混合工程が、上記(b)水不溶性セルロース類原料粉末及び(c)水を混合し、水不溶性セルロース類粒子分散液を調製する工程と、該水不溶性セルロース類粒子分散液について水不溶性セルロース類粒子を粉砕する摩砕処理を施す工程と、摩砕処理後の水不溶性セルロース類粒子分散液に(a)水溶性セルロースエーテル原料粉末を添加する工程を行った後に行われるようにすることが好ましい。これにより、湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmの水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上となった水不溶性セルロース類粒子成分を含むセルロース組成物を得ることができる。
【0080】
水不溶性セルロース類粒子分散液についての摩砕処理は上記の方法でよい。
【0081】
また、この場合の混錬工程は、混錬処理と押出成形処理を連続して行う混錬押出成形処理により行われることが好ましい。更に、この場合も混錬押出成形処理を1回又は2回以上行ってもよい。
【0082】
なお、水不溶性セルロース類粒子の原料のセルロースは天然物であることから、原料粉末の物性が少しずつ異なっている場合がある。そのため、上記製造方法3、4、5において全く同じ処方で同じ製造条件で製造しても、セルロース組成物中の水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が変化することがあり、その結果、所望の靭性を有するセルロース成形体が得られない場合がある。
【0083】
そこで、上記製造方法3、4、5において、上記偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)を用いる湿式粒度分布測定装置により得られたセルロース組成物について水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率を測定し、その体積分率が好ましくは0.3%以上の所望の値であることを確認することが好ましい。
これにより、セルロース組成物を製造した後、セルロース成形体を作製してその靱性を確認するという手間を省くことができ、安定した性能を有するセルロース組成物を製造することが可能となる。
【0084】
なお、水不溶性セルロース類粒子の粒子径分布(体積分率基準)が所定の条件を満たさない場合は、上記摩砕処理や混錬押出成形処理を更に繰り返して行うことにより、水不溶性セルロース類粒子の粒子径分布(体積分率基準)を調整することが可能である。例えば、湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が所望の値を下回っていた場合には、所望の値になるまで上記混錬押出成形処理を更に行うことが好ましい。
【実施例
【0085】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
<使用材料明細>
(1)水溶性セルロースエーテル原料粉末:表1に記載
(2)水不溶性セルロース類粒子原料粉末:表2に記載
(3)水;水道水
【0087】
【表1】
【0088】
なお、表1中のHPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロース、HEMCはヒドロキシエチルメチルセルロース、MCはメチルセルロース、HECはヒドロキシエチルセルロースの略記である。
また、表1中の置換度(DS)はアルコキシ基の置換度、置換モル数(MS)はヒドロキシアルコキシ基の置換モル数である。
また、表1中の平均粒径は原料粉末の乾式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径である。
【0089】
【表2】
【0090】
なお、表2中のL-HPCは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの略記である。また、セルロースは日本製紙(株)製粉末セルロース(商品名:KCフロック(登録商標))、微結晶セルロースは旭化成(株)製結晶セルロース(商品名:セオラス(登録商標)PH-101)である。
また、表2中の置換度(DS)はアルコキシ基の置換度、置換モル数(MS)はヒドロキシアルコキシ基の置換モル数である。
また、表2中の平均粒径は原料粉末の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径である。
【0091】
(水不溶性セルロース類粒子原料粉末の湿式レーザー回折散乱法による体積基準の平均粒子径及び水不溶性セルロース類粒子原料粉末における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1.00μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率の測定方法)
水不溶性セルロース類粒子原料粉末0.01gを20℃の水100mLに分散させ、試料分散液を作成した。
作成した試料分散液を、湿式粒度分布測定装置(LS13-320型装置、ベックマンコールター社製)に、測定濃度として適正であることが表示されるまで注入した。その後、以下の設定条件で測定した。
(装置設定条件)
・ポンプ・スピード:39
・測定時間:90秒
・光学モデル(粒子屈折率):
・・分散媒(水)の屈折率:実数部1.333
・・試料の屈折率 :実数部1.40、虚数部0.00
【0092】
<セルロース組成物の製造>
表3に示す組成の原料を用いて、まず水溶性セルロースエーテル原料粉末と水不溶性セルロース類粒子原料粉末とを混合し、次いで20℃の水を添加して混合することにより、セルロース混合物を得た。このセルロース混合物について下記の測定方法によって水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1.00μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率を測定したところ、すべて0%であった。
【0093】
(セルロース組成物における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1.00μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率の測定方法)
セルロース混合物1.5gを20℃の水100mLに溶解させ、試料溶液を作成した。
作成した試料溶液を、湿式粒度分布測定装置(LS13-320型装置、ベックマンコールター社製)に、測定濃度として適正であることが表示されるまで注入した。その後、以下の設定条件で測定した。
(装置設定条件)
・ポンプ・スピード:39
・測定時間:90秒
・光学モデル(粒子屈折率):
・・分散媒(水)の屈折率:実数部1.333
・・試料の屈折率 :実数部1.40、虚数部0.00
【0094】
次に、得られたセルロース混合物について、スクリュー式混練押出成形装置(FM-P20E型、宮▲崎▼鉄工(株)製)を用いて、吐出温度20℃、吐出速度10cm/分、スクリュー回転数20rpmの条件で表3に示す処理回数の混練押出成形処理を行って、直径4mmの丸紐状(ロープ状)のセルロース組成物を製造した。製造したセルロース組成物について上記セルロース混合物の場合と同様にして湿式レーザー回折散乱法による水不溶性セルロース類粒子の粒子径分布測定用の試料溶液を調製し、湿式粒度分布測定装置(LS13-320型装置、ベックマンコールター社製)を用いて平均粒子径を測定した。また、上記セルロース混合物の場合と同様にして水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1.00μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率を測定した。
【0095】
<セルロース組成物及びセルロース成形体の評価>
上記のようにして得られたセルロース組成物を用いて以下の評価を行った。
(セルロース組成物の保形性)
上記直径4mmの丸紐状のセルロース組成物20gを丸めて直径4cmの球形に成形した。この球形のセルロース組成物を、2枚の鉄板(縦10cm×横10cm×厚さ0.3cm)の間に挟んで机上に置き、上部の鉄板の対角線の交点上に20kgの分銅を乗せて2分間放置した。その後、分銅と鉄板を取り除いてセルロース組成物の成形物の広がった外径をノギスで測定し、以下の式から外径変化率を求めた。
(外径変化率(%))=[(外径測定値(cm))÷4]×100
この場合、外径変化率が小さいほど、成形品の形状が変形しにくいことを意味し、保形性がよいことを示す。
【0096】
(セルロース成形体の靭性試験1)
上記直径4mmの丸紐状のセルロース組成物をリング状に成形し、80℃で2時間乾燥することにより、含水率5%の直径24cmのリング状のセルロース成形体を作製した。
作製したリング状のセルロース成形体を8の字になるようにねじったときにセルロース成形体における折れの発生有無を確認した。
【0097】
(セルロース成形体の靭性試験2)
上記セルロース組成物を肩幅12mm、足の長さ(針足長さ)5mm、厚み0.5mmのコの字型のスタンド(C型チャンネル形状)になるように成形した後、針径0.5mmのステープラ針(ステープル)状となるようにカットして、80℃で14時間乾燥することにより、含水率5%のステープラ用つづり針(ステープラ針)形状のセルロース成形体を作製した。このとき、ステープラ針形状のセルロース成形体において針足は肩の部分で90度に折れ曲がった状態にある。
このセルロース成形体の針足の部分を手の指で肩の部分側に押しつけるように(つまりステープラ針で紙などを綴じるときのように)折り曲げていき、当初の角度位置からの折り曲げ可能な角度(折り曲げ角度)を測定した。このとき、針足部分が全く折り曲げられない場合の折り曲げ角度は0度、肩の部分に接するまで折り曲げられた場合の折り曲げ角度は90度となる。
【0098】
表3に以上の結果を示す。
全ての実施例1のセルロース組成物は比較例1-1のセルロース組成物よりも保形性に優れているが、実施例1-15、1-16と比較例1-1を比較すると、湿式レーザー回折散乱法による所定の平均粒子径の水不溶性セルロース類粒子を含有するだけで、水溶性セルロースエーテル及び水のみからなる組成物(比較例1-1)よりも保形性が改善されることが分かった。
また、実施例1-1~1-8、1-12,1-13、1-15の実施例セルロース組成物において、水不溶性セルロース類粒子として低置換ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)を用い、かつ水溶性セルロースエーテルとしてメチルセルロース(MC)やヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用い、混錬押出成形処理を施した場合に、セルロース組成物の外径変化率がいずれも138%以下となり、より保形性に優れることが知見された。
また、実施例1-1~1-14のセルロース組成物において、水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1.00μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が0.3%以上となることによって、セルロース成形体の靭性が改善され、ねじりや折り曲げに耐えうることが知見された。
なお、実施例1-1と1-15の場合や実施例1-9~1-11の場合のように、混錬押出成形処理の回数が同じであっても、水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1.00μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率が異なり、ばらつく場合があった。この場合、セルロース組成物について偏光散乱強度差計測法(偏光差動散乱法、PIDS)、ミー散乱法、フラウンホーファー回折法を用いる湿式粒度分布測定装置を用いることにより、その体積分率を確認することができ、本発明のセルロース組成物を効率よく製造することが可能である。
【0099】
【表3】
【0100】
[実施例2]
以下の手順でセルロース組成物を製造した。
即ち、まず表4に示す原料組成のうち、水不溶性セルロース類粒子原料粉末と水(20℃)を混合して、水不溶性セルロース類粒子分散液を調製した。
次に、この水不溶性セルロース類粒子分散液について摩砕処理を行った。摩砕処理は、2枚のグラインダ(摩砕砥石:MKG-C6-80)を砥石の平面部が接触するように上下に配置した石臼式摩砕機(マスコロイダーMICK6-3、増幸産業株式会社製)を用いてグラインダ回転数1800rpmの条件で、水不溶性セルロース類粒子分散液を20回パスさせることにより行った(摩砕処理回数20回)。
次に、摩砕処理済の水不溶性セルロース類粒子分散液に水溶性セルロースエーテル原料粉末を添加、混合しセルロース混合物とし、このセルロース混合物についてスクリュー式混練押出成形装置(FM-P20E型、宮崎鉄工(株)製)を用いて、吐出温度20℃、吐出速度10cm/分、スクリュー回転数20rpmの条件で処理回数10回の混練押出成形処理を行って、直径4mmの丸紐状(ロープ状)のセルロース組成物を製造した。製造したセルロース組成物について実施例1と同様にして湿式レーザー回折散乱法による水不溶性セルロース類粒子の粒子径分布測定用の試料溶液を調製し、湿式粒度分布測定装置(LS13-320型装置、ベックマンコールター社製)を用いて平均粒子径を測定した。また、上記セルロース混合物の場合と同様にして水不溶性セルロース類粒子における湿式レーザー回折散乱法による有効粒子径が0.017~1.00μmである水不溶性セルロース類粒子の体積分率を測定した。
また、得られたセルロース組成物を用いて実施例1と同様の評価を行った。
【0101】
表4にその結果を示す。
本実施例においてもセルロース組成物の保形性、セルロース成形体の靭性に優れることが確認された。
【0102】
【表4】
【0103】
なお、これまで本発明を上記実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。