(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】エアロゲル複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 9/42 20060101AFI20221025BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20221025BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C08J9/42 CER
C08J9/42 CEZ
B32B5/24
B05D7/24 302Y
(21)【出願番号】P 2020551731
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2018039218
(87)【国際公開番号】W WO2020084668
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高安 慧
(72)【発明者】
【氏名】牧野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】小竹 智彦
(72)【発明者】
【氏名】泉 寛之
(72)【発明者】
【氏名】岩永 抗太
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010551(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143364(WO,A1)
【文献】特開2018-130932(JP,A)
【文献】特開2018-118489(JP,A)
【文献】特開2018-118488(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038779(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
C04B 41/00- 41/91
C08G 77/00- 77/62
F16L 59/00- 59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有する基材と、該基材に付着したエアロゲルと、を備え、
前記エアロゲルが、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物であり、
前記シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合が
70%以上であ
り、
前記シランオリゴマーの重量平均分子量が200以上10000以下である、エアロゲル複合材料。
【請求項2】
前記シランオリゴマーがアルコキシ基を有し、
前記アルコキシ基の含有量が、前記シランオリゴマーの全量基準で2質量%以上60質量%以下である、請求項
1に記載のエアロゲル複合材料。
【請求項3】
前記ゾルがシリカ粒子を更に含有する、請求項1
又は2に記載のエアロゲル複合材料。
【請求項4】
前記シリカ粒子の平均1次粒子径が1~500nmである、請求項
3に記載のエアロゲル複合材料。
【請求項5】
前記多孔質構造における孔が連通孔であり、
前記孔の体積の合計が前記基材の全体積の50~99体積%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のエアロゲル複合材料。
【請求項6】
前記連通孔に前記エアロゲルが充填されている、請求項
5に記載のエアロゲル複合材料。
【請求項7】
前記多孔質構造を有する基材が、直径0.1~1000μmの繊維状物質からなるシートである、請求項1~
6のいずれか一項に記載のエアロゲル複合材料。
【請求項8】
前記繊維状物質に前記エアロゲルが付着している、請求項
7に記載のエアロゲル複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエアロゲル複合材料に関するものであり、更に詳しくは、建築用、極低温容器用、高温容器用等における断熱材として好適に使用されるエアロゲル複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、居住空間の快適性、及び、省エネルギーの要求が高まる中、断熱対象物の形状も複雑となり、また、断熱材の設置空間も狭小となる傾向にある。従って、それらに用いられる断熱材は、更なる断熱性能の向上と薄型化が求められている。
【0003】
従来の断熱材としては、ウレタンフォーム、フェノールフォーム等の発泡性の断熱材が知られている。しかし、これらの材料は空気よりも熱伝導率が高いために、更なる断熱性の向上のためには、空気よりも断熱性に優れる材料を開発しなければならない。
【0004】
空気より優れた断熱性を有する断熱材として、フォームを形成する空隙に、フロン又はフロン代替発泡剤等の使用により低熱伝導ガスを充填させた断熱材があるが、経時劣化による低熱伝導ガス漏出の可能性があり、断熱性能の低下が懸念される(例えば下記特許文献1)。
【0005】
また、無機繊維とフェノール樹脂バインダーとを用いた芯材を有する真空断熱材が知られている(例えば下記特許文献2)。しかし、真空断熱材では、経時劣化又は梱包袋の傷といった問題により断熱性能が著しく低下し、さらに、真空梱包する点から断熱材の柔軟性がなく曲面への施工ができないといった課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4084516号公報
【文献】特許第4898157号公報
【文献】米国特許第4402927号明細書
【文献】特開2011-93744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、常圧で最も低熱伝導の材料としてエアロゲルが知られている(例えば上記特許文献3)。エアロゲルは、微細多孔質の構造を有することにより、空気をはじめとする気体の移動が抑制されることで熱伝導が小さくなる。しかし、一般的なエアロゲルは、生産性に課題がある。
【0008】
例えば、エアロゲルを製造する方法として、アルコキシシランを加水分解し、重合して得られたゲル状化合物(アルコゲル)を、分散媒の超臨界条件下で乾燥する超臨界乾燥法が知られている(例えば特許文献3参照)。超臨界乾燥法は、アルコゲルと分散媒(乾燥に用いる溶媒)とを高圧容器中に導入し、分散媒をその臨界点以上の温度と圧力をかけて超臨界流体とすることにより、アルコゲルに含まれる溶媒を除去する方法である。しかし、超臨界乾燥法は高圧プロセスを要するため、超臨界に耐え得る特殊な装置等への設備投資が必要であり、なおかつ多くの手間と時間が必要である。
【0009】
そこで、アルコゲルを、高圧プロセスを要しない汎用的な方法を用いて乾燥する手法が提案されている。このような方法としては、例えば、ゲル原料として、モノアルキルトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランとを特定の比率で併用することにより、得られるアルコゲルの強度を向上させ、常圧で乾燥させる方法が知られている(例えば特許文献4参照)。しかしながら、このような常圧乾燥を採用する場合、アルコゲル内部の毛細管力に起因するストレスにより、ゲルが収縮する傾向がある。
【0010】
また、一般的なエアロゲルは、非常に脆く、取扱性が困難であるという課題もある。従来の断熱材のこのような問題を解決する手法として、エアロゲルと補強材とを用いたエアロゲルシートが考案されている。しかし、エアロゲル自体が脆いため、衝撃又は折り曲げ作業によりシートからエアロゲル(エアロゲル粉末等)が脱落するといった施工性の課題がある。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、製造が容易であり、乾燥時の体積収縮が抑制されたエアロゲルが付着することで優れた断熱性を有し、且つ、エアロゲルの脱落を抑制することが可能なエアロゲル複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のシランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルから、乾燥時の乾燥収縮が抑制されたエアロゲルが容易に得られることを見出し、また、当該エアロゲルが優れた断熱性及び柔軟性を有するため、多孔質構造を有する基材に付着することで、エアロゲルの脱落が少ない複合材料を形成できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
本開示は、多孔質構造を有する基材と、該基材に付着したエアロゲルと、を備え、上記エアロゲルが、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物であり、上記シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合が50%以上である、エアロゲル複合材料を提供する。
【0014】
本開示のエアロゲル複合材料において、上記シランオリゴマーの重量平均分子量は200以上10000以下であってよい。これにより、湿潤ゲルを乾燥する際の体積収縮が一層抑制される。なお、本明細書中、シランオリゴマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0015】
本開示のエアロゲル複合材料において、上記シランオリゴマーはアルコキシ基を有していてよく、上記アルコキシ基の含有量は、上記シランオリゴマーの全量基準で2質量%以上60質量%以下であってよい。これにより、乾燥時におけるエアロゲルの体積収縮が一層抑制される。
【0016】
本開示のエアロゲル複合材料において、上記ゾルはシリカ粒子を更に含有していてよい。これにより、更に優れた断熱性及び柔軟性が得られる。
【0017】
本開示のエアロゲル複合材料において、上記シリカ粒子の平均1次粒子径は1~500nmであってよい。これにより、断熱性及び柔軟性が更に向上しやすくなる。
【0018】
本開示のエアロゲル複合材料において、上記多孔質構造における孔は連通孔であってよく、上記孔の体積の合計は上記基材の全体積の50~99体積%であってよい。これにより,断熱性が更に向上しやすくなる。
【0019】
本開示のエアロゲル複合材料において、上記連通孔に上記エアロゲルが充填されていてよい。これにより、空気による熱伝導が抑制されて断熱性が更に向上しやすくなる。
【0020】
本開示のエアロゲル複合材料において、上記多孔質構造を有する基材は、直径0.1~1000μmの繊維状物質からなるシートであってよい。これにより、繊維による熱伝導が抑制でき、かつ、空隙が充分に確保されるためシートへの上記ゾルの含浸性が向上する。
【0021】
本開示のエアロゲル複合材料は、上記繊維状物質に上記エアロゲルが付着していている態様とすることができる。この場合、繊維状物質同士の交点に存在するエアロゲルによって繊維状物質間の熱伝導が抑制でき、断熱性が更に向上しやすくなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造が容易であり、乾燥時の体積収縮が抑制されたエアロゲルが付着することで優れた断熱性を有し、且つ、エアロゲルの脱落を抑制することが可能なエアロゲル複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)は、それぞれエアロゲル複合材料の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。「A又はB」とは、A及びBのいずれか一方を含んでいればよく、両方を含んでいてもよい。本実施形態で例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0025】
<エアロゲル複合材料>
本実施形態のエアロゲル複合材料は、多孔質構造を有する基材(多孔質基材)と、該基材に付着したエアロゲルと、を備える。上記エアロゲルは、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲル(上記ゾルに由来する湿潤ゲル)の乾燥物である。すなわち、上記エアロゲルは、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥してなる。また、本実施形態において、上記シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合は、50%以上である。
【0026】
本実施形態のエアロゲル複合材料は、例えば、多孔質基材と、多孔質基材の少なくとも一部を被覆するエアロゲル層と、を有するものであってよい。
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)は、エアロゲル複合材料の実施形態を示す断面図である。
図1(a)に示すエアロゲル複合材料100、
図1(b)に示すエアロゲル複合材料200及び
図1(c)に示すエアロゲル複合材料300は、多孔質基材10と、エアロゲル層20とを備えている。
図1(a)では、多孔質基材10の内部にエアロゲルが充填されていると共に、多孔質基材10の全体がエアロゲル層20に被覆されている。
図1(b)では、多孔質基材10の表面上にエアロゲル層20が配置されている。
図1(c)では、多孔質基材10の内部にエアロゲルが充填されており、当該エアロゲルが多孔質基材10の内部でエアロゲル層20を形成している。
【0027】
本実施形態のエアロゲル複合材料では、特定のシランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物であるエアロゲルを用いているため、断熱性と柔軟性とを両立することができる。特に、従来のエアロゲルでは、断熱性に優れるものの脆いため、取り扱い性が困難であるのに対し、本実施形態のエアロゲル複合材料では、上記特定のエアロゲルを用いることにより柔軟性が向上するため取り扱い性を向上させることができる。
【0028】
エアロゲル層の厚みは、例えば200μm以下とすることができ、100μm以下であってもよく、80μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、30μm以下であってもよい。エアロゲル層の厚みを200μm以下とすることで、粉落ちが容易に抑制されて取り扱い性がより向上する傾向がある。エアロゲル層の厚みは、例えば1μm以上とすることができ、3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよく、10μm以上であってもよい。
【0029】
本実施形態のエアロゲル複合材料の厚みは、例えば100mm以下であってもよく、10mm以下であってもよく、1mm以下であってもよい。エアロゲル複合材料の厚みを100mm以下とすることで、エアロゲル複合材料が切断され易く施工性が良好となる。
【0030】
(エアロゲル)
狭義には、湿潤ゲルに対して超臨界乾燥法を用いて得られた乾燥ゲルをエアロゲル、大気圧下での乾燥により得られた乾燥ゲルをキセロゲル、凍結乾燥により得られた乾燥ゲルをクライオゲルと称するが、本実施形態においては、湿潤ゲルのこれらの乾燥手法によらず、得られた低密度の乾燥ゲルを「エアロゲル」と称する。すなわち、本実施形態においてエアロゲルとは、広義のエアロゲルである「Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas(分散相が気体である微多孔性固体から構成されるゲル)」を意味するものである。一般的にエアロゲルの内部は、網目状の微細構造となっており、2~20nm程度のエアロゲル成分(エアロゲルを構成する粒子)が結合したクラスター構造を有している。このクラスターにより形成される骨格間には、100nmに満たない細孔がある。これにより、エアロゲルは、三次元的に微細な多孔性の構造を有している。なお、本実施形態におけるエアロゲルは、例えば、シリカを主成分とするシリカエアロゲルである。シリカエアロゲルとしては、例えば、有機基(メチル基等)又は有機鎖を導入した、いわゆる、有機-無機ハイブリッド化されたシリカエアロゲルが挙げられる。例えば、本実施形態におけるエアロゲル層は、エアロゲルにより構成される層である。エアロゲル層は、ポリシロキサン由来の構造を有するエアロゲルを含有する層であってもよい。
【0031】
本実施形態のエアロゲルは、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物である。すなわち、本実施形態のエアロゲルは、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥して得られる。上記縮合物は、加水分解生成物の縮合反応によって得られたものであってよい。
【0032】
エアロゲル層は、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物から構成される層であってもよい。すなわち、エアロゲル層は、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥してなる層で構成されていてもよい。
【0033】
なお、ゾルとは、ゲル化反応が生じる前の状態であって、本実施形態においては、シランオリゴマーの加水分解生成物を含むケイ素化合物が液体媒体中に溶解又は分散している状態を意味する。また、湿潤ゲルとは、液体媒体を含んでいながらも、流動性を有しない湿潤状態のゲル固形物を意味する。
【0034】
本実施形態のエアロゲルは、例えば、以下に示す製造方法で製造されたものであってよい。
【0035】
<エアロゲルの製造方法>
本実施形態のエアロゲルは、シランオリゴマーを加水分解して、当該シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルを生成するゾル生成工程と、ゾルをゲル化して、湿潤ゲルを得る湿潤ゲル生成工程と、湿潤ゲルを乾燥してエアロゲルを得る乾燥工程と、を備える製造方法により製造されたものであってよい。この製造方法において、シランオリゴマー中のケイ素原子の総数に対する、3個の酸素原子と結合したケイ素原子の割合は、50%以上である。
【0036】
本実施形態のエアロゲルの製造方法は、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄(及び、必要に応じて溶媒置換)する洗浄工程を更に備えていてもよい。なお、本実施形態では、ゾル生成工程及び湿潤ゲル生成工程において適切な触媒及び溶媒を用いることで、このような洗浄工程を省略してエアロゲルを製造することができる。洗浄工程の省略により、プロセスの簡略化及びコストの削減が達成できる。
【0037】
(ゾル生成工程)
ゾル生成工程は、シランオリゴマーを加水分解して、シランオリゴマーの加水分解生成物を含むゾルを生成する工程である。
【0038】
シランオリゴマーはシランモノマーの重合体であり、複数のケイ素原子が酸素原子を介して連結された構造を有する。本明細書中、シランオリゴマーは、1分子中のケイ素原子の数が2~100個の重合体を示す。シランオリゴマーは、例えば、後述するシランモノマーの一種又は二種以上の重合体であってよく、アルキルトリアルコキシシランを含むシランモノマーの重合体であることが好ましい。
【0039】
シランオリゴマーに含まれるケイ素原子は、1個の酸素原子と結合したケイ素原子(M単位)、2個の酸素原子と結合したケイ素原子(D単位)、3個の酸素原子と結合したケイ素原子(T単位)及び4個の酸素原子と結合したケイ素原子(Q単位)に区別することができる。M単位、D単位、T単位及びQ単位としては、それぞれ以下の式(M)、(D)、(T)及び(Q)が例示できる。
【0040】
【0041】
上記式中、Rはケイ素に結合する酸素原子以外の原子(水素原子等)又は原子団(アルキル基等)を示す。これらの単位の含有量に関する情報は、Si-NMRにより得ることができる。
【0042】
シランオリゴマーにおいて、ケイ素原子の総数に対するT単位の割合は、50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であり、100%であってもよい。
【0043】
シランオリゴマーは、上述の式(M)、(D)、(T)及び(Q)中のRとして、アルキル基又はアリール基を有していることが好ましい。
【0044】
アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、これらのうちメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0045】
アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基が好ましい。
【0046】
シランオリゴマーは加水分解性の官能基を有しており、ゾル生成工程では、この加水分解性の官能基が加水分解されて、シラノール基が生じると考えられる。加水分解性の官能基としては、アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられ、加水分解反応の反応速度の観点から、メチル基、エトキシ基が好ましい。
【0047】
加水分解性の官能基の含有量は、シランオリゴマーの全量基準で、例えば2質量%以上であってよく、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また、加水分解性の官能基の含有量は、シランオリゴマーの全量基準で、例えば60質量%以下であってよく、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。このようなシランオリゴマーによれば、乾燥工程における体積収縮を一層抑制できる。
【0048】
シランオリゴマーの重量平均分子量は、例えば200以上であってよく、好ましくは400以上、より好ましくは600以上である。また、シランオリゴマーの重量平均分子量は、例えば10000以下であってよく、好ましくは7000以下、より好ましくは5000以下である。このようなシランオリゴマーによれば、乾燥工程における体積収縮を一層抑制できる。なお、本明細書中、シランオリゴマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0049】
シランオリゴマーとしては市販品を用いてもよく、例えば、XR31-B1410、XC96-B0446(いずれも、モメンティブ社製)、KR-500、KR-515、X-40-9225、KC-89S(いずれも、信越化学工業株式会社製)、SR-2402、AY42-163(いずれも、東レ・ダウコーティング株式会社製)等が挙げられる。
【0050】
ゾル生成工程では、シランオリゴマー以外の他のケイ素化合物を更に加水分解に供してもよい。他のケイ素化合物としては、例えば、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するシランモノマーが挙げられる。加水分解性の官能基としては、シランオリゴマーが有する加水分解性の官能基として例示した基と同じ基が例示できる。縮合性の官能基としてはシラノール基が挙げられる。なお、シランモノマーは、シロキサン結合(Si-O-Si)を有さないケイ素化合物ということもできる。
【0051】
加水分解性の官能基を有するシランモノマーとしては、例えば、モノアルキルトリアルコキシシラン、モノアリールトリアルコキシシラン、モノアルキルジアルコキシシラン、モノアリールジアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシラン、モノアルキルモノアルコキシシラン、モノアリールモノアルコキシシラン、ジアルキルモノアルコキシシラン、ジアリールモノアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシラン、トリアリールモノアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトシシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0052】
縮合性の官能基を有するシランモノマーとしては、例えば、シランテトラオール、メチルシラントリオール、ジメチルシランジオール、フェニルシラントリオール、フェニルメチルシランジオール、ジフェニルシランジオール、n-プロピルシラントリオール、ヘキシルシラントリオール、オクチルシラントリオール、デシルシラントリオール、トリフルオロプロピルシラントリオール等が挙げられる。
【0053】
シランモノマーは、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる反応性基をさらに有していてもよい。反応性基としては、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。エポキシ基は、グリシドキシ基等のエポキシ基含有基に含まれていてもよい。
【0054】
加水分解性の官能基及び反応性基を有するシランモノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0055】
縮合性の官能基及び反応性基を有するシランモノマーとしては、例えば、ビニルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルメチルシランジオール、3-メタクリロキシプロピルシラントリオール、3-メタクリロキシプロピルメチルシランジオール、3-アクリロキシプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルメチルシランジオール、N-フェニル-3-アミノプロピルシラントリオール、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルシランジオール等が挙げられる。
【0056】
また、シランモノマーは2以上のケイ素原子を有していてもよく、このようなシランモノマーとしては、ビストリメトキシシリルメタン、ビストリメトキシシリルエタン、ビストリメトキシシリルヘキサン等が挙げられる。
【0057】
他のケイ素化合物としては、また、加水分解性の反応基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物(但し、T単位の割合が50%未満、又は、ケイ素原子の数が100個を超える)が挙げられる。加水分解性の反応基及び縮合性の官能基としては上記と同じ基が例示できる。
【0058】
上記ポリシロキサン化合物のうち、ヒドロキシアルキル基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(A)で表される構造を有するものが挙げられる。下記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、後述する一般式(1)及び式(1a)で表される構造をエアロゲルの骨格中に導入することができる。
【0059】
【0060】
式(A)中、R1aはヒドロキシアルキル基を示し、R2aはアルキレン基を示し、R3a及びR4aはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、nは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(A)中、2個のR1aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR2aは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(A)中、2個以上のR3aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR4aは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0061】
式(A)中、R1aとしては炭素数が1~6のヒドロキシアルキル基等が挙げられ、当該ヒドロキシアルキル基としてはヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。また、式(A)中、R2aとしては炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としてはエチレン基、プロピレン基等が挙げられる。また、式(A)中、R3a及びR4aとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(A)中、nは2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0062】
上記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物としては、市販品を用いることができ、X-22-160AS、KF-6001、KF-6002、KF-6003等の化合物(いずれも、信越化学工業株式会社製)、XF42-B0970、Fluid OFOH 702-4%等の化合物(いずれも、モメンティブ社製)などが挙げられる。
【0063】
上記ポリシロキサン化合物のうち、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(B)で表される構造を有するものが挙げられる。下記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、後述する一般式(2)又は(3)で表される橋かけ部を有するラダー型構造をエアロゲルの骨格中に導入することができる。
【0064】
【0065】
式(B)中、R1bはアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、R2b及びR3bはそれぞれ独立にアルコキシ基を示し、R4b及びR5bはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、mは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(B)中、2個のR1bは各々同一であっても異なっていてもよく、2個のR2bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR3bは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(B)中、mが2以上の整数の場合、2個以上のR4bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR5bも各々同一であっても異なっていてもよい。
【0066】
式(B)中、R1bとしては炭素数が1~6のアルキル基、炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルキル基又はアルコキシ基としてはメチル基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R2b及びR3bとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R4b及びR5bとしてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(B)中、mは2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0067】
上記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物は、特開2000-26609号公報、特開2012-233110号公報等にて報告される製造方法を適宜参照して得ることができる。
【0068】
また、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、メチルシリケートオリゴマー、エチルシリケートオリゴマー等のシリケートオリゴマーを用いることもできる。このようなシリケートオリゴマーとしては、例えば、メチルシリケート51、メチルシリケート53A、エチルシリケート40、エチルシリケート48(いずれも、コルコート株式会社製)等が挙げられる。
【0069】
なお、アルコキシ基は加水分解するため、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物はゾル中にて加水分解生成物として存在する可能性があり、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物とその加水分解生成物は混在していてもよい。また、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物において、分子中のアルコキシ基の全てが加水分解されていてもよいし、部分的に加水分解されていてもよい。
【0070】
ゾル生成工程で加水分解に供されるケイ素化合物のうち、上述のシランオリゴマーの割合は、例えば5質量%以上であってよく、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0071】
ゾル生成工程において、ケイ素化合物として上述のシランモノマーを更に用いる場合、当該シランモノマーの量は、シランオリゴマー100質量部に対して、2000質量部以下であってよく、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下である。また、シランモノマーの量は、シランオリゴマー100質量部に対して、例えば1質量部以上であってよく、好ましくは10質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。このような量のシランモノマーを用いることで、エアロゲルの柔軟性及び強靭性が向上し、乾燥工程における体積収縮が一層抑制されやすくなる傾向がある。
【0072】
ゾル生成工程において、ケイ素化合物として上述のポリシロキサン化合物を更に用いる場合、当該ポリシロキサン化合物の量は、シランオリゴマー100質量部に対して、100質量部以下であってよく、好ましくは50質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。ポリシロキサン化合物の添加により、エアロゲルの柔軟性及び強靭性が向上する場合がある。
【0073】
ゾル生成工程では、例えば、溶媒中でシランオリゴマーを含むケイ素化合物を加水分解することができる。溶媒はとしては、例えば、水、又は、水及びアルコールを含む混合溶媒を用いることができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、ゲル壁との界面張力を低減させる点で、表面張力が低くかつ沸点の低いアルコールであるメタノール、エタノール、2-プロパノール等が好適である。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0074】
洗浄工程を省略する観点からは、溶媒としては、水及びアルコールを含む混合溶媒が好ましい。このとき、水とアルコールとの混合比は特に限定されないが、例えば、水に対するアルコールの体積比(アルコール/水)は、1以上であってよく、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。また、上記体積比は、例えば100以下であってよく、50以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0075】
また、上記の混合溶媒には低表面張力の溶媒を更に添加することもできる。低表面張力の溶媒としては、20℃における表面張力が30mN/m以下のものが挙げられる。なお、当該表面張力は25mN/m以下であっても、又は20mN/m以下であってもよい。低表面張力の溶媒としては、例えば、ペンタン(15.5)、ヘキサン(18.4)、ヘプタン(20.2)、オクタン(21.7)、2-メチルペンタン(17.4)、3-メチルペンタン(18.1)、2-メチルヘキサン(19.3)、シクロペンタン(22.6)、シクロヘキサン(25.2)、1-ペンテン(16.0)等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン(28.9)、トルエン(28.5)、m-キシレン(28.7)、p-キシレン(28.3)等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン(27.9)、クロロホルム(27.2)、四塩化炭素(26.9)、1-クロロプロパン(21.8)、2-クロロプロパン(18.1)等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル(17.1)、プロピルエーテル(20.5)、イソプロピルエーテル(17.7)、ブチルエチルエーテル(20.8)、1,2-ジメトキシエタン(24.6)等のエーテル類;アセトン(23.3)、メチルエチルケトン(24.6)、メチルプロピルケトン(25.1)、ジエチルケトン(25.3)等のケトン類;酢酸メチル(24.8)、酢酸エチル(23.8)、酢酸プロピル(24.3)、酢酸イソプロピル(21.2)、酢酸イソブチル(23.7)、エチルブチレート(24.6)等のエステル類などが挙げられる(かっこ内は20℃での表面張力を示し、単位は[mN/m]である)。これらの中で、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)は低表面張力でありかつ作業環境性に優れている。上記の溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0076】
ゾル生成工程では、加水分解反応を促進させるため、溶媒中にさらに酸触媒を添加してもよい。
【0077】
酸触媒としては、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸;酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛等の酸性リン酸塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸等の有機カルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、得られるエアロゲルの耐水性がより向上する酸触媒としては有機カルボン酸が挙げられる。当該有機カルボン酸としては酢酸が挙げられるが、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸等であってもよい。また、洗浄工程を省略する観点からは、酸触媒として酢酸、ギ酸等を用いることが好ましい。
【0078】
酸触媒の添加量は特に限定されないが、例えば、ケイ素化合物の総量100質量部に対し、0.001~10質量部とすることができる。
【0079】
ゾル生成工程では、特許第5250900号公報に示されるように、溶媒中に界面活性剤、熱加水分解性化合物等を添加することもできる。但し、洗浄工程を省略する観点からは、界面活性剤及び熱加水分解性化合物は添加しないことが望ましい。
【0080】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0081】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物、ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物などを使用できる。ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物としては、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等が挙げられる。
【0082】
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、両イオン性界面活性剤としては、アミノ酸系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、アミンオキシド系界面活性剤等が挙げられる。アミノ酸系界面活性剤としては、例えば、アシルグルタミン酸等が挙げられる。ベタイン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。アミンオキシド系界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミンオキシドが挙げられる。
【0083】
これらの界面活性剤は、後述する湿潤ゲル生成工程において、反応系中の溶媒と、成長していくシロキサン重合体との間の化学的親和性の差異を小さくし、相分離を抑制する作用をすると考えられている。なお、本実施形態では、溶媒として水及びアルコールを含む混合溶媒を用いた場合、アルコールが界面活性剤による上記効果と同様の効果を奏すると考えられ、界面活性剤を添加しなくても湿潤ゲルを好適に生成することができる。
【0084】
熱加水分解性化合物は、熱加水分解により塩基触媒を発生して、反応溶液を塩基性とし、後述する湿潤ゲル生成工程でのゾルゲル反応を促進すると考えられている。よって、この熱加水分解性化合物としては、加水分解後に反応溶液を塩基性にできる化合物であれば、特に限定されず、尿素;ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の酸アミド;ヘキサメチレンテトラミン等の環状窒素化合物などを挙げることができる。これらの中でも、特に尿素は上記促進効果を得られ易い。
【0085】
ゾル生成工程では、熱線輻射抑制等を目的として、溶媒中にカーボングラファイト、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、銀化合物、チタン化合物等の成分を添加してもよい。また、ゾル生成工程では、後述するシリカ粒子を溶媒中に添加してもよい。
【0086】
ゾル生成工程の加水分解は、混合液中のケイ素化合物、酸触媒等の種類及び量にも左右されるが、例えば20~80℃の温度環境下で10分~24時間行ってもよく、50~60℃の温度環境下で5分~8時間行ってもよい。これにより、ケイ素化合物中の加水分解性官能基が十分に加水分解され、ケイ素化合物の加水分解生成物をより確実に得ることができる。
【0087】
ただし、溶媒中に熱加水分解性化合物を添加する場合は、ゾル生成工程の温度環境を、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制してゾルのゲル化を抑制する温度に調節してもよい。この時の温度は、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制できる温度であれば、いずれの温度であってもよい。例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合は、ゾル生成工程の温度環境は0~40℃とすることができるが、10~30℃であってもよい。
【0088】
ゾル生成工程では、シランオリゴマーを含むケイ素化合物が加水分解されて、ケイ素化合物の加水分解生成物を含むゾルが生成する。当該加水分解生成物は、ケイ素化合物が有する加水分解性の官能基の一部又は全部が加水分解されたものということもできる。
【0089】
(湿潤ゲル生成工程)
湿潤ゲル生成工程は、ゾル生成工程で得られたゾルをゲル化して、湿潤ゲルを得る工程である。本工程は、ゾルをゲル化し、その後熟成して湿潤ゲルを得る工程であってもよい。本工程では、ゲル化を促進させるため塩基触媒を用いることができる。
【0090】
塩基触媒としては、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸銅(II)、炭酸鉄(II)、炭酸銀(I)等の炭酸塩類;炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩類;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウム化合物;メタ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム等の塩基性燐酸ナトリウム塩;アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン類;モルホリン、N-メチルモルホリン、2-メチルモルホリン、ピペラジン及びその誘導体、ピペリジン及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体等の含窒素複素環状化合物類などが挙げられる。これらの中でも、水酸化アンモニウム(アンモニア水)は、揮発性が高く、乾燥後のエアロゲル中に残存し難いため耐水性を損ない難いという点、さらには経済性の点で優れている。また、洗浄工程を省略する観点からも、塩基触媒としては水酸化アンモニウム(アンモニア水)が好ましい。上記の塩基触媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0091】
塩基触媒を用いることで、ゾル中のケイ素化合物の脱水縮合反応又は脱アルコール縮合反応を促進することができ、ゾルのゲル化をより短時間で行うことができる。また、これにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。特に、アンモニアは揮発性が高く、エアロゲル中に残留し難いので、塩基触媒として水酸化アンモニウムを用いることで、より耐水性の優れたエアロゲルを得ることができる。
【0092】
塩基触媒の添加量は、ゾル生成工程で用いたケイ素化合物の総量100質量部に対し、0.1~10質量部とすることができるが、1~4質量部であってもよい。0.1質量部以上とすることにより、ゲル化をより短時間で行うことができ、10質量部以下とすることにより、耐水性の低下をより抑制することができる。
【0093】
湿潤ゲル生成工程におけるゾルのゲル化は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。ゲル化温度は、30~90℃とすることができるが、40~80℃であってもよい。ゲル化温度を30℃以上とすることにより、ゲル化をより短時間に行うことができ、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。また、ゲル化温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
【0094】
湿潤ゲル生成工程における熟成は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。熟成により、湿潤ゲルを構成する成分の結合が強くなり、その結果、乾燥時の収縮を抑制するのに十分な強度(剛性)の高い湿潤ゲルを得ることができる。熟成温度は、30~90℃とすることができるが、40~80℃であってもよい。熟成温度を30℃以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、熟成温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
【0095】
なお、ゾルのゲル化終了時点を判別することは困難な場合が多いため、ゾルのゲル化とその後の熟成とは、連続して一連の操作で行ってもよい。
【0096】
ゲル化時間と熟成時間は、ゲル化温度及び熟成温度により適宜設定することができる。ゲル化時間は10~120分間とすることができるが、20~90分間であってもよい。ゲル化時間を10分間以上とすることにより均質な湿潤ゲルを得易くなり、120分間以下とすることにより後述する洗浄工程から乾燥工程の簡略化が可能となる。なお、ゲル化及び熟成の工程全体として、ゲル化時間と熟成時間との合計時間は、4~480時間とすることができるが、6~120時間であってもよい。ゲル化時間と熟成時間の合計を4時間以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、480時間以下にすることにより熟成の効果をより維持し易くなる。
【0097】
得られるエアロゲルの密度を下げたり、平均細孔径を大きくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で高めたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で長くしてもよい。また、得られるエアロゲルの密度を上げたり、平均細孔径を小さくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で低くしたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で短くしてもよい。
【0098】
(洗浄工程)
洗浄工程は、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄する工程である。洗浄工程では、湿潤ゲル中の洗浄液を乾燥条件(後述の乾燥工程)に適した溶媒に置換する溶媒置換を更に行ってもよい。
【0099】
洗浄工程では、湿潤ゲル生成工程により得られた湿潤ゲルを洗浄する。当該洗浄は、例えば水又は有機溶媒を用いて繰り返し行うことができる。この際、加温することにより洗浄効率を向上させることができる。
【0100】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0101】
溶媒置換では、乾燥によるゲルの収縮を抑制するため、低表面張力の溶媒を用いることができる。しかし、低表面張力の溶媒は、一般的に水との相互溶解度が極めて低い。そのため、溶媒置換において低表面張力の溶媒を用いる場合、洗浄に用いる有機溶媒としては、水及び低表面張力の溶媒の双方に対して高い相互溶解性を有する親水性有機溶媒が挙げられる。なお、洗浄において用いられる親水性有機溶媒は、溶媒置換のための予備置換の役割を果たすことができる。上記の有機溶媒の中で、親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン等は経済性の点で優れている。
【0102】
洗浄に使用される水又は有機溶媒の量としては、湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換し、洗浄できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3~10倍の量とすることができる。
【0103】
洗浄における温度環境は、洗浄に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、メタノールを用いる場合は、30~60℃程度の加温とすることができる。
【0104】
溶媒置換では、乾燥工程におけるエアロゲルの収縮を抑制するため、洗浄した湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒に置き換える。この際、加温することにより置換効率を向上させることができる。置換用溶媒としては、具体的には、乾燥工程において、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥する場合は、後述の低表面張力の溶媒が挙げられる。一方、超臨界乾燥をする場合は、置換用溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール、ジクロロジフルオロメタン、二酸化炭素等、又はこれらを2種以上混合した溶媒が挙げられる。
【0105】
低表面張力の溶媒としては、20℃における表面張力が30mN/m以下の溶媒が挙げられる。なお、当該表面張力は25mN/m以下であっても、又は20mN/m以下であってもよい。低表面張力の溶媒としては、例えば、ペンタン(15.5)、ヘキサン(18.4)、ヘプタン(20.2)、オクタン(21.7)、2-メチルペンタン(17.4)、3-メチルペンタン(18.1)、2-メチルヘキサン(19.3)、シクロペンタン(22.6)、シクロヘキサン(25.2)、1-ペンテン(16.0)等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン(28.9)、トルエン(28.5)、m-キシレン(28.7)、p-キシレン(28.3)等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン(27.9)、クロロホルム(27.2)、四塩化炭素(26.9)、1-クロロプロパン(21.8)、2-クロロプロパン(18.1)等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル(17.1)、プロピルエーテル(20.5)、イソプロピルエーテル(17.7)、ブチルエチルエーテル(20.8)、1,2-ジメトキシエタン(24.6)等のエーテル類;アセトン(23.3)、メチルエチルケトン(24.6)、メチルプロピルケトン(25.1)、ジエチルケトン(25.3)等のケトン類;酢酸メチル(24.8)、酢酸エチル(23.8)、酢酸プロピル(24.3)、酢酸イソプロピル(21.2)、酢酸イソブチル(23.7)、エチルブチレート(24.6)等のエステル類などが挙げられる(かっこ内は20℃での表面張力を示し、単位は[mN/m]である)。これらの中で、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)は低表面張力でありかつ作業環境性に優れている。また、これらの中でも、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン等の親水性有機溶媒を用いることで、洗浄時の有機溶媒と兼用することができる。なお、これらの中でも、さらに後述する乾燥工程における乾燥が容易な点で、常圧での沸点が100℃以下の溶媒を用いてもよい。上記の溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0106】
溶媒置換に使用される溶媒の量としては、洗浄後の湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3~10倍の量とすることができる。
【0107】
溶媒置換における温度環境は、置換に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、ヘプタンを用いる場合は、30~60℃程度の加温とすることができる。
【0108】
本実施形態では、例えば、酸触媒として酢酸、ギ酸、プロピオン酸からなる群より選択される有機カルボン酸、溶媒として水及びアルコール(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-プロパノール、t-ブタノール等)を含む混合溶媒、塩基触媒として水酸化アンモニウムをそれぞれ選択することで、洗浄工程を省略できる。洗浄工程を省略した場合は、例えば、湿潤ゲル生成工程で得た湿潤ゲル中の溶媒を、乾燥工程で除去することにより、エアロゲルが製造される。
【0109】
(乾燥工程)
乾燥工程では、(必要に応じて洗浄工程を経た)湿潤ゲルを乾燥させることにより、エアロゲルを得ることができる。すなわち、上記ゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥してなるエアロゲルを得ることができる。
【0110】
乾燥の手法としては特に制限されず、公知の常圧乾燥、超臨界乾燥又は凍結乾燥を用いることができる。これらの中で、低密度のエアロゲルを製造し易いという観点からは、凍結乾燥又は超臨界乾燥を用いることができる。また、低コストで生産可能という観点からは、常圧乾燥を用いることができる。なお、本実施形態において、常圧とは0.1MPa(大気圧)を意味する。
【0111】
エアロゲルは、湿潤ゲルを、湿潤ゲル中の溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥することにより得ることができる。乾燥温度は、湿潤ゲル中の溶媒の種類により異なるが、特に高温での乾燥が溶媒の蒸発速度を速め、ゲルに大きな亀裂を生じさせる場合があるという点に鑑み、20~180℃とすることができる。なお、当該乾燥温度は60~120℃であってもよい。また、乾燥時間は、湿潤ゲルの容量及び乾燥温度により異なるが、4~120時間とすることができる。なお、生産性を阻害しない範囲内において臨界点未満の圧力をかけて乾燥を早めることも、常圧乾燥に包含されるものとする。
【0112】
エアロゲルは、また、湿潤ゲルを超臨界乾燥することによっても得ることができる。超臨界乾燥は、公知の手法にて行うことができる。超臨界乾燥する方法としては、例えば、湿潤ゲルに含まれる溶媒の臨界点以上の温度及び圧力にて溶媒を除去する方法が挙げられる。あるいは、超臨界乾燥する方法としては、湿潤ゲルを、液化二酸化炭素中に、例えば、20~25℃、5~20MPa程度の条件で浸漬することで、湿潤ゲルに含まれる溶媒の全部又は一部を当該溶媒より臨界点の低い二酸化炭素に置換した後、二酸化炭素を単独で、又は二酸化炭素及び溶媒の混合物を除去する方法が挙げられる。
【0113】
このような常圧乾燥又は超臨界乾燥により得られたエアロゲルは、さらに常圧下にて、105~200℃で0.5~2時間程度追加乾燥してもよい。これにより、密度が低く、小さな細孔を有するエアロゲルをさらに得易くなる。追加乾燥は、常圧下にて、150~200℃で行ってもよい。
【0114】
<エアロゲル>
本実施形態のエアロゲルは、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物である。本実施形態のエアロゲルとしては、例えば、以下の態様が挙げられる。これらの態様を採用することにより、断熱性と柔軟性とに更に優れるエアロゲルを得ることが容易となる。各々の態様を採用することで、各々の態様に応じた断熱性と柔軟性とを有するエアロゲルを得ることができる。
【0115】
(第一の態様)
本実施形態に係るエアロゲルは、下記一般式(1)で表される構造を有することができる。本実施形態に係るエアロゲルは、式(1)で表される構造を含む構造として、下記一般式(1a)で表される構造を有することができる。
【化4】
【化5】
【0116】
式(1)及び式(1a)中、R1及びR2はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にアルキレン基を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。なお、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。pは1~50の整数を示す。式(1a)中、2個以上のR1は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個以上のR2は各々同一であっても異なっていてもよい。式(1a)中、2個のR3は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個のR4は各々同一であっても異なっていてもよい。
【0117】
上記式(1)又は式(1a)で表される構造をエアロゲル成分としてエアロゲルの骨格中に導入することにより、低熱伝導率かつ柔軟なエアロゲルとなる。このような観点から、式(1)及び式(1a)中、R1及びR2としてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(1)及び式(1a)中、R3及びR4としてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としてはエチレン基、プロピレン基等が挙げられる。式(1a)中、pは2~30とすることができ、5~20であってもよい。
【0118】
(第二の態様)
本実施形態に係るエアロゲルは、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、かつ橋かけ部が下記一般式(2)で表される構造を有することができる。このようなラダー型構造をエアロゲル成分としてエアロゲルの骨格中に導入することにより、耐熱性と機械的強度を向上させることができる。なお、本実施形態において「ラダー型構造」とは、2本の支柱部(struts)と支柱部同士を連結する橋かけ部(bridges)とを有するもの(いわゆる「梯子」の形態を有するもの)である。本態様において、エアロゲルの骨格がラダー型構造からなっていてもよいが、エアロゲルが部分的にラダー型構造を有していてもよい。
【化6】
【0119】
式(2)中、R5及びR6はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(2)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のR5は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR6も各々同一であっても異なっていてもよい。
【0120】
上記の構造をエアロゲルの骨格中に導入することにより、例えば、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有する(すなわち、下記一般式(X)で表される構造を有する)エアロゲルよりも優れた柔軟性を有するエアロゲルとなる。シルセスキオキサンは、組成式:(RSiO
1.5)
nを有するポリシロキサンであり、カゴ型、ラダー型、ランダム型等の種々の骨格構造を有することができる。なお、下記一般式(X)にて示すように、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有するエアロゲルでは、橋かけ部の構造が-O-であるが、本実施形態に係るエアロゲルでは、橋かけ部の構造が上記一般式(2)で表される構造(ポリシロキサン構造)である。ただし、本態様のエアロゲルは、一般式(2)で表される構造に加え、さらにシルセスキオキサンに由来する構造を有していてもよい。
【化7】
【0121】
式(X)中、Rはヒドロキシ基、アルキル基又はアリール基を示す。
【0122】
支柱部となる構造及びその鎖長、並びに橋かけ部となる構造の間隔は特に限定されないが、耐熱性と機械的強度とをより向上させるという観点から、ラダー型構造としては、下記一般式(3)で表されるラダー型構造を有していてもよい。
【化8】
【0123】
式(3)中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、a及びcはそれぞれ独立に1~3000の整数を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としてはフェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(3)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のR5は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR6も各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(3)中、aが2以上の整数の場合、2個以上のR7は各々同一であっても異なっていてもよく、同様にcが2以上の整数の場合、2個以上のR8は各々同一であっても異なっていてもよい。
【0124】
なお、より優れた柔軟性を得る観点から、式(2)及び(3)中、R5、R6、R7及びR8(ただし、R7及びR8は式(3)中のみ)としてはそれぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としてはメチル基等が挙げられる。また、式(3)中、a及びcは、それぞれ独立に6~2000とすることができるが、10~1000であってもよい。また、式(2)及び(3)中、bは、2~30とすることができるが、5~20であってもよい。
【0125】
(第三の態様)
本実施形態に係るエアロゲルは、さらに強靱化する観点並びにさらに優れた断熱性及び柔軟性を達成する観点から、エアロゲル成分に加え、さらにシリカ粒子を含有していてもよい。エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有するエアロゲルを、エアロゲル複合体ということもできる。エアロゲル複合体は、エアロゲル成分とシリカ粒子とが複合化されていながらも、エアロゲルの特徴であるクラスター構造を有しており、三次元的に微細な多孔性の構造を有していると考えられる。
【0126】
エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有するエアロゲルは、上述のシランオリゴマーを含むケイ素化合物の加水分解生成物と、シリカ粒子と、を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物ということができる。したがって、第一の態様~第二の態様に関する記載は、本態様に係るエアロゲルに対しても適宜準用することができる。
【0127】
シリカ粒子としては、特に制限なく用いることができ、非晶質シリカ粒子等が挙げられる。非晶質シリカ粒子としては、溶融シリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子、コロイダルシリカ粒子等が挙げられる。これらのうち、コロイダルシリカ粒子は単分散性が高く、ゾル中での凝集を抑制し易い。なお、シリカ粒子としては、中空構造、多孔質構造等を有するシリカ粒子であってもよい。
【0128】
シリカ粒子の形状は特に制限されず、球状、繭型、会合型等が挙げられる。これらのうち、シリカ粒子として球状の粒子を用いることにより、ゾル中での凝集を抑制し易くなる。シリカ粒子の平均一次粒子径は、適度な強度及び柔軟性をエアロゲルに付与し易く、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲルが得易い観点から、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。シリカ粒子の平均一次粒子径は、シリカ粒子の固体熱伝導を抑制し易くなり、断熱性に優れるエアロゲルが得易くなる観点から、500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。これらの観点から、シリカ粒子の平均一次粒子径は、1~500nmであってもよく、5~300nmであってもよく、20~100nmであってもよい。
【0129】
本実施形態において、シリカ粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略記する。)を用いてエアロゲルを直接観察することにより得ることができる。ここでいう「直径」とは、エアロゲルの断面に露出した粒子の断面を円とみなした場合の直径を意味する。また、「断面を円とみなした場合の直径」とは、断面の面積を同じ面積の真円に置き換えたときの当該真円の直径のことである。なお、平均粒子径の算出に当たっては、100個の粒子について円の直径を求め、その平均を取るものとする。
【0130】
なお、シリカ粒子の平均粒子径は、原料からも測定することができる。例えば、二軸平均一次粒子径は、任意の粒子20個をSEMにより観察した結果から、次のようにして算出される。すなわち、通常固形分濃度が5~40質量%程度で、水中に分散しているコロイダルシリカ粒子を例にすると、コロイダルシリカ粒子の分散液に、パターン配線付きウエハを2cm角に切って得られたチップを約30秒浸した後、当該チップを純水にて約30秒間すすぎ、窒素ブロー乾燥する。その後、チップをSEM観察用の試料台に載せ、加速電圧10kVを掛け、10万倍の倍率にてシリカ粒子を観察し、画像を撮影する。得られた画像から20個のシリカ粒子を任意に選択し、それらの粒子の粒子径の平均を平均粒子径とする。
【0131】
シリカ粒子の1g当たりのシラノール基数は、耐収縮性に優れるエアロゲルを得易くなる観点から、10×1018個/g以上であってもよく、50×1018個/g以上であってもよく、100×1018個/g以上であってもよい。シリカ粒子の1g当たりのシラノール基数は、均質なエアロゲルが得易くなる観点から、1000×1018個/g以下であってもよく、800×1018個/g以下であってもよく、700×1018個/g以下であってもよい。これらの観点から、シリカ粒子の1g当たりのシラノール基数は、10×1018~1000×1018個/gであってもよく、50×1018~800×1018個/gであってもよく、100×1018~700×1018個/gであってもよい。
【0132】
上記ゾルに含まれるケイ素化合物の含有量は、良好な反応性をさらに得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、5質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよい。上記ゾルに含まれるケイ素化合物の含有量は、良好な相溶性をさらに得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、50質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよい。これらの観点から、上記ゾルに含まれるケイ素化合物の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、5~50質量部であってもよく、10~30質量部であってもよい。
【0133】
上記ゾルにシリカ粒子が含まれる場合、シリカ粒子の含有量は、適度な強度をエアロゲルに付与し易くなり、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲルが得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、1質量部以上であってもよく、4質量部以上であってもよい。シリカ粒子の含有量は、シリカ粒子の固体熱伝導を抑制し易くなり、断熱性に優れるエアロゲルが得易くなる観点から、ゾルの総量100質量部に対し、20質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよい。これらの観点から、シリカ粒子の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、1~20質量部であってもよく、4~15質量部であってもよい。
【0134】
(多孔質基材)
「多孔質基材」は、一般的に、孔(微細孔)が多く含まれる材料の総称であり、孔の大きさによってマイクロポーラス材料、メソポーラス材料及びマクロポーラス材料に分類されるが、本実施形態では、孔の大きさによらず「多孔質基材」と称する。多孔質基材としては、例えば、繊維状物質からなる基材、及び、3次元で複雑な骨格を形成している基材が挙げられる。具体的には、多孔質基材としては、不織布、多孔質構造を有する多孔質シート等が挙げられる。多孔質構造における孔(多孔質構造を構成する孔)は、連通孔であってもよい。連通孔とは、多孔質基材内部の孔(空隙)と多孔質基材表面の孔(空隙)とが結合している状態であり、2次元的又は3次元的に空隙のネットワークを形成している状態を意味する。連通孔にはエアロゲルが充填されていてもよい。
【0135】
上記孔のサイズは、基材の面方向(厚み方向に直交する方向)に沿って基材の任意の10箇所の断面を観察したときの、観察面における孔が作る形状の最大直線距離を示す。孔のサイズは、0.1~1000μmとすることができる。サイズが0.1μm以上であれば、ゾル塗液を容易に含浸させることができる。サイズが1000μm以下であれば、孔からのエアロゲルの脱落を容易に抑制できる。
【0136】
上記孔の体積の合計(空隙率、気孔率)は、上記基材の全体積の50~99体積%とすることができ、60~99体積%であってもよく、70~99体積%であってもよい。これにより、断熱性が更に向上し易くなる。多孔質構造における孔が連通孔である場合において孔の体積の合計が上記範囲を満たしていてもよい。孔の体積は、下記式に基づき得ることができる。
空隙率(体積%)=(1-基材の真の体積/基材の見かけ体積)×100
基材の真の体積:基材(基材を構成する材料)の密度と質量から算出した体積
基材の見かけ体積:基材の寸法から算出した体積
【0137】
多孔質基材を構成する材質としては、ビニル重合体、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、炭素等の有機多孔質体;ガラス、金属(例えばニッケル)、金属酸化物(例えばアルミナ)等の無機多孔質体などが挙げられる。ビニル重合体としては、ポリオレフィン類(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。多孔質基材を構成する材質としては、耐熱性に更に優れる点から、ガラス、金属又は金属酸化物(例えばアルミナ)を用いることができ、熱伝導率を更に低減する点から、ガラス又はアルミナを用いることができる。
【0138】
本実施形態のエアロゲル複合材料では、例えば、繊維状物質からなる基材、又は、3次元で複雑な骨格を形成している基材の空隙部分にエアロゲルが存在している。このような構造をとることにより、厚み方向に対する空気の移動が抑制され、断熱性が容易に向上する。さらに、固体の熱伝導の道筋は、エアロゲルを充填することにより高度に複雑化されるため熱伝導率の低減に効果がある。
【0139】
多孔質基材は、繊維状物質からなるシート(不織布、繊維シート等)であってもよい。このような多孔質基材においては、例えば、繊維状物質にエアロゲルが付着している。
【0140】
繊維状物質としては、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ビニロン、ポリオレフィン、ポリウレタン、レーヨン、炭素繊維等の有機繊維;ガラス、ロックウール、セラミック等の無機繊維;銅、鉄、ステンレス、金、銀、アルミニウム等の金属繊維などが挙げられる。繊維状物質としては、耐熱性に更に優れる点から、無機繊維を用いることができ、熱伝導率を更に低減する点から、ガラス、ロックウール又はセラミックを用いることができる。
【0141】
繊維状物質の直径(繊維径)は、0.1~1000μmとすることができ、0.1~100μmであってもよく、0.1~80μmであってもよい。これにより、繊維による熱伝導が容易に抑制でき、かつ、空隙が充分に確保されるためシートへの前記ゾルの含浸性が向上する。繊維状物質の直径は、顕微鏡で観察し、任意に選ばれる繊維10本の直径の平均値として測定することができる。
【0142】
<エアロゲル複合材料の製造方法>
エアロゲル複合材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法であってよい。
【0143】
エアロゲル複合材料は、例えば、シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルを多孔質基材又は多孔質基材の材料に含浸させる含浸工程を含む製造方法によって製造することができる。当該製造方法は、上述のエアロゲルの製造方法におけるゾル生成工程と湿潤ゲル生成工程との間に、含浸工程を設けた方法ということもできる。すなわち、当該製造方法は、シランオリゴマーを加水分解して、当該シランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルを生成するゾル生成工程と、ゾルを多孔質基材に含浸させる含浸工程と、ゾルをゲル化して、湿潤ゲルを得る湿潤ゲル生成工程と、湿潤ゲルを乾燥してエアロゲルを得る乾燥工程と、を備えるものであってよい。
【0144】
繊維状物質からなる多孔質基材を用いる場合は、予め繊維状物質をゾル中に分散させた後、上述の湿潤ゲル生成工程及び乾燥工程を行うことで、エアロゲルが付着した繊維状物質を作製し、これを抄造して不織布化することでエアロゲル複合材料とすることができる。
【0145】
上記エアロゲルが付着した繊維状物質では、繊維表面が有する官能基と、エアロゲル表面の官能基との化学的相互作用による結合、繊維表面とエアロゲルとの分子間相互作用による結合等の結合様式を限定するものではない。繊維表面の一部又は全体にエアロゲル粒子(エアロゲルを構成する粒子)が付着していてもよい。
【0146】
含浸工程は、例えば、ゾルを、多孔質基材に含浸させる又は多孔質基材の材料(例えば、不織布の原料繊維)に付着させる工程であってよい。含浸工程は、例えば、ゾル中に多孔質基材又はその材料を浸漬するディッピング法、又は、多孔質基材にゾルを塗布する塗布法が挙げられる。含浸方法は制限されず、多孔質基材の大きさ、形状、弾性率等の物理的性状に応じて好適な手法を選択できる。
【0147】
不織布の原料繊維へのゾルの処理方法については、例えば、上記ゾルが入った容器に繊維を入れ所定の時間加熱撹拌して繊維を表面処理する湿式法、及び、攪拌機で繊維を高速攪拌させながらゾルを添加して繊維表面を均一に処理する乾式法が挙げられる。繊維へのゾルの処理方法としては、特に制限されないが、ゾルが繊維表面に均一に処理し易いことから、湿式法を用いることができる。
【0148】
塗工方法(塗工機)としては、ダイコーター、コンマコータ、バーコータ、キスコータ、ロールコーター等が利用でき、多孔質基材の材質又は厚み、ゾル塗液の粘度又は塗布量等によって適宜使用される。
【0149】
多孔質基材の両面には、セパレーターを積層することができる。セパレーターを積層することにより、多孔質基材の搬送及びその他工程における未硬化ゾルの転写又は汚染を防止することができる。含浸工程においてセパレーターを積層する方法としては、例えば、ゾルを含浸した後に積層する方法が挙げられる。セパレーターとしては、例えば、ガラス不織布、ガラスクロス等の無機物繊維;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル等の有機繊維;ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド等からなる基材フィルム;離型紙;銅箔、アルミニウム箔等の金属箔を挙げることができる。なお、上記セパレーターには、マット処理、コロナ処理の他、離型処理を施してもよい。
【0150】
以上のとおり説明した本実施形態のエアロゲル複合材料は、特定のシランオリゴマーの加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物であるエアロゲル(上記ゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥してなるエアロゲル)と、多孔質構造を有する基材とを備えるものであり、優れた断熱性を有すると共に、従来では取扱いが困難であったエアロゲルのシート化及びボード化が可能である。このような利点から、本実施形態のエアロゲル複合材料は、極低温容器、宇宙分野、建築分野、自動車分野、家電分野、半導体分野、産業用設備等における断熱材としての用途等に適用できる。また、本実施形態のエアロゲル複合材料は、断熱材としての用途の他に、撥水用、吸音用、静振用、触媒担持用等として利用することができる。
【実施例】
【0151】
(実施例1)
[ゾル塗液1]
シランオリゴマーとして「XR31-B1410」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名)を100質量部、シランモノマーとしてテトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を50質量部、2-プロパノールを300質量部、及び、水を100質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.1質量部加え、25℃で4時間反応させた。これに、塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を80質量部加えてゾル塗液1を得た。
[エアロゲルシート1]
上記ゾル塗液1をバットに入れ、(縦)300mm×(横)200mm×(厚)3mmのガラス不織布(日本板硝子株式会社製、製品名:MGP BMS-5、繊維径:1.5μm、空隙率:90体積%)をゾル塗液1に載せて、ゾル塗液1を含浸させた。ゾル塗液1が充分にガラス不織布に含浸され、ガラス不織布がゾル塗液中に沈んだことを確認してから、60℃で30分ゲル化してエアロゲルシ-トを得た。その後、得られたエアロゲルシート(湿潤ゲル)を密閉容器に移し、60℃で12時間熟成した。その後、熟成したエアロゲルシートを常圧下にて、120℃で6時間乾燥することで、エアロゲルシート1を得た。
【0152】
(実施例2)
[ゾル塗液2]
シランオリゴマーとして「SR-2402」(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゾル塗液2を得た。
[エアロゲルシート2]
上記ゾル塗液2を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲルシート2を得た。
【0153】
(実施例3)
[ゾル塗液3]
シランオリゴマーとして「AY42-163」(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゾル塗液3を得た。
[エアロゲルシート3]
上記ゾル塗液3を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲルシート3を得た。
【0154】
(実施例4)
[ゾル塗液4]
シランオリゴマーとして「KC-89S」(信越化学工業株式会社製、製品名)を100質量部、2-プロパノールを200質量部、及び、水を50質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.15質量部加え、25℃で4時間反応させた。これに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を60質量部加えゾル塗液4を得た。
[エアロゲルシート4]
上記ゾル塗液4を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲルシート4を得た。
【0155】
(実施例5)
[ゾル塗液5]
シランオリゴマーとして「KR-500」(信越化学工業株式会社製、製品名)を100質量部、シランモノマーとしてテトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を100質量部、2-プロパノールを250質量部、及び、水を80質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.15質量部加え、25℃で4時間反応させた。これに、塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を90質量部加えゾル塗液5を得た。
[エアロゲルシート5]
上記ゾル塗液5を用いると共にガラス不織布ボーロイドGMU(オリベスト株式会社製、製品名、繊維径:13μm、空隙率:95体積%)を用いた他は実施例1と同様にして、エアロゲルシート5を得た。
【0156】
(実施例6)
[ゾル塗液6]
シランオリゴマーとして「KR-515」(信越化学工業株式会社製、製品名)を100質量部、シランモノマーとしてテトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を20質量部、ジメチルジエトキシシラン「KBE-22」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「DMDES」と略記)を20質量部、2-プロパノールを300質量部、及び、水を80質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.12質量部加え、25℃で4時間反応させた。これに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を90質量部加えゾル塗液6を得た。
[エアロゲルシート6]
上記ゾル塗液6を用いると共に、ガラス不織布に代えて多孔質ニッケルシート:セルメット(住友電工株式会社製、製品名、厚さ:1.4mm、ニッケル目付量:420g/m2、空隙率:97体積%)を用いた他は実施例1と同様にして、エアロゲルシート6を得た。
【0157】
(実施例7)
[ゾル塗液7]
シランオリゴマーとして「XR31-B1410」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名)を100質量部、ジメチルジエトキシシラン「KBE-22」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「DMDES」と略記)を70質量部、2-プロパノールを300質量部、及び、水を80質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.1質量部加え、25℃で4時間反応させた。これに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を80質量部加えゾル塗液7を得た。
[エアロゲルシート7]
フラスコにて、100質量部の上記ゾル塗液7に、100質量部のガラス繊維ECS03T-187(日本電気硝子株式会社製、製品名、繊維径:13μm)を加え、25℃で10分間200rpmで攪拌して、得られたガラス繊維分散ゾルを密閉容器に移し、60℃で8時間熟成させた。その後、乾燥工程を実施例1と同様に行い、エアロゲルが付着したガラス繊維が得られた。
得られたガラス繊維、水、及び、界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)0.1質量%からなる分散液を40L作製し、分散液を抄造装置に投入した。抄造装置として、回転翼付き攪拌機を備えた上部の抄造槽(容量30L)と下部の貯水槽(容量10L)からなり、抄造槽と貯水槽の間には多孔支持体が設けてある装置を用いた。まず、攪拌機を用いて、空気の微小気泡が発生するまで上記分散液を撹拌した。その後、所望の目付となるように質量を調整したガラス繊維を、空気の微小気泡が分散した分散液中に投入して攪拌することにより、エアロゲルが付着したガラス繊維が分散したスラリーを得た。次いで、貯水槽からスラリーを吸引し、多孔支持体を介して脱水して繊維抄造体とした。上記抄造体を熱風乾燥機にて150℃、2時間の条件下で乾燥させ、目付け100g/m2、空隙率90体積%のエアロゲルシート7を得た。
【0158】
(実施例8)
[ゾル塗液8]
シランオリゴマーとして「XR31-B1410」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製品名)を100質量部、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「MTMS」と略記)を200質量部、テトラエトキシシラン「KBE-04」(信越化学工業株式会社製、製品名、以下「TEOS」と略記)を50質量部、2-プロパノールを800質量部、及び、水を200質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.5質量部加え、25℃で4時間反応させた。これに塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を200質量部加え、ゾル塗液8を得た。
[エアロゲルシート8]
上記ゾル塗液8を用いると共に、ガラス不織布に代えて多孔質アルミナシート:AZP60(アスザック株式会社製、製品名、平均厚み:700μm、空隙率:60体積%)を用いた他は実施例1と同様にして、エアロゲルシート8を得た。
【0159】
(比較例1)
[ゾル塗液11]
シリカ粒子含有原料としてPL-2L(扶桑化学工業株式会社製、製品名、平均1次粒子径:20nm、固形分:20質量%)を100.0質量部、水を120.0質量部、メタノールを80.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部混合し、これにシリコン化合物としてメチルトリメトキシシランLS-530(信越化学工業株式会社製、製品名。以下『MTMS』と略記)60.0質量部及びジメチルジメトキシシランLS-520(信越化学工業株式会社製、製品名。以下『DMDMS』と略記)40.0質量部を加え、25℃で2時間反応させた。これに、塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を40.0質量部加えてゾル塗液11を得た。
[エアロゲルシート11]
上記ゾル塗液11を用いると共に、ガラス不織布に代えて、多孔質構造を有していないPETフィルム:G2(帝人デュポン株式会社製、製品名)を用い、上記ゾル塗液11をPETフィルムにバーコータでゾル塗液膜厚80μmとなるように塗布した。得られたエアロゲルシートを密閉容器に移し、60℃で12時間熟成した。その後、熟成したエアロゲルシートを水2000mLに浸漬し、30分かけて洗浄を行った。次に、メタノール2000mLに浸漬し、60℃で30分かけて洗浄を行った。メタノールによる洗浄を新しいメタノールに交換しながら更に2回行った。次に、メチルエチルケトン2000mLに浸漬し、60℃で30分かけて溶媒置換を行った。メチルエチルケトンによる洗浄を新しいメチルエチルケトンに交換しながら更に2回行った。洗浄及び溶媒置換されたエアロゲルシートを、常圧下にて、120℃で2時間乾燥することでPETコアエアロゲルシート(エアロゲルシート11)を得た。
【0160】
(比較例2)
ガラス不織布に代えて、多孔質構造を有していない薄板ガラス:OA-10G(日本電気硝子株式会社製、厚さ:150μm)を用い、上記ゾル塗液11を薄板ガラスにバーコータでゾル塗液膜厚80μmとなるように塗布した他は比較例1と同様にして、ガラスコアエアロゲルシート(エアロゲルシート12)を得た。
【0161】
<各種評価>
(熱伝導率測定)
以下の条件に従って、各実施例及び比較例で得られたエアロゲル複合材料について測定又は評価を行った。熱伝導率測定は、英弘精機株式会社製の熱伝導率測定装置HC-074を用いて行った。測定サンプルとして20cm×20cmのサンプルを用い、上下熱プレートの温度をそれぞれ30℃と10℃に設定して熱伝導率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0162】
(粉落ち性評価)
各実施例及び比較例で得られたエアロゲル複合材料(エアロゲルシート)の粉落ち性を評価した。評価は、同一種のエアロゲル複合材料を縦30cm×横30cm×高さ10~15mm厚となるように複数積層し、積層したエアロゲル複合材料の縦方向及び横方向の4辺をそれぞれ台の上から5回ずつ落としたときの粉落ち量を測定した。なお、落とす高さは台から5cmの高さとして、垂直に落下させることを粉落ち性の試験方法とした。結果を表1に示す。
【0163】
【符号の説明】
【0164】
10…多孔質基材、20…エアロゲル層、100,200,300…エアロゲル複合材料。