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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】構造体及び建築物の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20221025BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
E04B1/24 F
E04B1/58 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021017530
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120562
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2021-11-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】田川 浩
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】坂井 誠
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢二郎
(72)【発明者】
【氏名】上原 誠
(72)【発明者】
【氏名】西村 真
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-189830(JP,A)
【文献】特開2016-164452(JP,A)
【文献】特開2002-242988(JP,A)
【文献】特開2002-146905(JP,A)
【文献】特開2015-108242(JP,A)
【文献】特開2003-064768(JP,A)
【文献】特開2020-122358(JP,A)
【文献】特開2003-090144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/61
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁により構成される矩形構造に取り付けられ、建築物に設けられる構造体の設計方法であって、
前記構造体は、
前記矩形構造において隅角に位置する柱梁接合部に設けられ、長孔を有する接合部材と、
両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材を前記接合部材に結合する結合部材とを備え、
前記結合部材は、前記第1の貫通孔と前記長孔を貫通して、前記接合部材と前記ブレース部材とを結合し、
前記設計方法は、前記構造体が設けられていない前記建築物の弾性変形領域又は塑性変形領域内で、前記長孔内における前記結合部材の移動が完了するように、前記長孔の長軸方向長さ決定する、
構造体の設計方法
【請求項2】
柱と梁により構成される矩形構造に取り付けられ、建築物に設けられる構造体の設計方法であって、
前記構造体は、
前記矩形構造において隅角に位置する柱梁接合部に設けられ、第2の貫通孔を有する接合部材と、
両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材と、
前記ブレース部材を前記接合部材に結合する結合部材とを備え、
前記第2の貫通孔と前記第1の貫通孔のうち少なくとも一方は長孔であり、
前記結合部材は、前記第2の貫通孔と前記第1の貫通孔を貫通して、前記接合部材と前記ブレース部材とを結合し、
前記設計方法は、前記構造体が設けられていない前記建築物の弾性変形領域又は塑性変形領域内で、前記長孔内における前記結合部材の移動が完了するように、前記長孔の長軸方向長さ決定する、
構造体の設計方法
【請求項3】
前記接合部材は、矩形構造の対角に位置する柱梁接合部に設けられ、
前記長孔は複数であり、前記長孔の長軸は、対角に位置する柱梁接合部を繋ぐ直線と平行に決定される請求項1又は2に記載の構造体の設計方法
【請求項4】
前記接合部材は、矩形構造の対角に位置する柱梁接合部に設けられ、
前記長孔は1つであって前記ブレース部材とピン接合され、前記長孔の長軸は、対角に位置する柱梁接合部を繋ぐ直線と平行となるように決定される請求項1又は2に記載の構造体の設計方法
【請求項5】
前記設計方法は、前記矩形構造の設計仕様に基づいて決定される風荷重の大きさに基づいて、前記接合部材及び前記ブレース部材において互いに接触する面の摩擦係数を決定する請求項1から4のいずれかに記載の構造体の設計方法。
【請求項6】
前記結合部材は高力ボルトであって、前記接合部材及び前記ブレース部材において互いに接触する面の摩擦係数0.45未満に決定する請求項1から5のいずれかに記載の構造体の設計方法
【請求項7】
前記結合部材は普通ボルトであって、前記接合部材及び前記ブレース部材は、前記普通ボルトの支圧耐力又はせん断耐力によって接合される請求項1から5のいずれかに記載の構造体の設計方法
【請求項8】
前記結合部材は普通ボルトである請求項1から5及び7のいずれかに記載の構造体の設計方法
【請求項9】
前記ブレース部材は、その両端部において、平行に延びる2枚の板状部材を備え、前記第1の貫通孔は前記2枚の板状部材を貫通して設けられ、前記2枚の板状部材の間に前記接合部材が挿入される請求項1から8のいずれかに記載の構造体の設計方法
【請求項10】
矩形構造を構成する柱及び梁と、
前記矩形構造において隅角に位置する柱梁接合部に設けられ、長孔を有する接合部材と、
両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材と、
前記第1の貫通孔と前記長孔を貫通して、前記接合部材と前記ブレース部材とを結合する結合部材と
を備える建築物の設計方法であって、
前記ブレース部材及び前記結合部材が設けられていない前記建築物の弾性変形領域又は塑性変形領域内で、前記長孔内における前記結合部材の移動が完了するように、前記長孔の長軸方向長さ決定
建築物の設計方法
【請求項11】
矩形構造を構成する柱及び梁と、
前記矩形構造において隅角に位置する柱梁接合部に設けられ、第2の貫通孔を有する接合部材と、
両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材と、
前記ブレース部材を前記接合部材に結合する結合部材とを備える建築物の設計方法であって、
前記第2の貫通孔と前記第1の貫通孔のうち少なくとも一方は長孔であり、
前記結合部材は、前記第2の貫通孔と前記第1の貫通孔を貫通して、前記接合部材と前記ブレース部材とを結合し、
前記設計方法は、前記ブレース部材及び前記結合部材が設けられていない前記建築物の弾性変形領域又は塑性変形領域内で、前記長孔内における前記結合部材の移動が完了するように、前記長孔の長軸方向長さ決定
建築物の設計方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の変形を抑える構造体及び建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フレームの対角線上に位置するガセットプレートに固定され、筋交いとして用いられる座屈拘束ブレースが知られている。座屈拘束ブレースは、端部に接続された接合プレートと、貫通孔を有するエレクションピースとを備え、ガセットプレートは、貫通孔とスリットを備える。ガセットプレートとエレクションピースに形成された貫通孔には、各々ボルトが挿通されてナットと螺合し、これにより、エレクションピースがガセットプレートに固定される。座屈拘束ブレースの接合プレートは、ガセットプレートのスリットに挿入されて溶接固定される。これにより、座屈拘束ブレースがフレームに対して強固に取り付けられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6201068号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の座屈拘束ブレースは、フレームが変形を開始したと同時にフレームの変形に対抗する。しかしながら、座屈拘束ブレースによるフレームへの抗力が大きいため、フレームの変形開始と同時にブレースが変形に対抗すると、フレームにおいて座屈拘束ブレースが設けられていない部分に力が集中し、その部分が破損するおそれがある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、建築物の変形に応じて抗力を生じる構造体及び建築物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1の発明による構造体は、柱と梁により構成される矩形構造において対角に位置する柱梁接合部に設けられ、長孔を有する接合部材と、両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材を接合部材に結合する結合部材とを備え、結合部材は、第1の貫通孔と長孔を貫通して、接合部材とブレース部材とを結合することを特徴とする。
【0007】
本願第2の発明による構造体は、柱と梁により構成される矩形構造において対角に位置する柱梁接合部に設けられ、第2の貫通孔を有する接合部材と、両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材と、ブレース部材を接合部材に結合する結合部材とを備え、第2の貫通孔と第1の貫通孔のうち少なくとも一方は長孔であり、結合部材は、第2の貫通孔と第1の貫通孔を貫通して、接合部材とブレース部材とを結合することを特徴とする。
【0008】
長孔は複数であり、長孔の長軸は、対角に位置する柱梁接合部を繋ぐ直線と平行であることが好ましい。
【0009】
長孔は1つであってブレース部材とピン接合され、長孔の長軸は、対角に位置する柱梁接合部を繋ぐ直線と平行であることが好ましい。
【0010】
長孔の長軸方向長さは、構造体が設けられる建築物の弾性変形領域に基づいて決定されることが好ましい。
【0011】
結合部材は高力ボルトであって、接合部材及びブレース部材において互いに接触する面の摩擦係数は、0.45未満であってもよい。
【0012】
結合部材は普通ボルトであって、接合部材及びブレース部材は、普通ボルトの支圧耐力又はせん断耐力によって接合されてもよい。
【0013】
結合部材は普通ボルトであってもよい。
【0014】
ブレース部材は、その両端部において、平行に延びる2枚の板状部材を備え、第1の貫通孔は2枚の板状部材を貫通して設けられ、2枚の板状部材の間に接合部材が挿入されてもよい。
【0015】
本願第3の発明による建築物は、矩形構造を構成する柱及び梁と、矩形構造において対角に位置する柱梁接合部に設けられ、長孔を有する接合部材と、両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材と、第1の貫通孔と長孔を貫通して、接合部材とブレース部材とを結合する結合部材とを備えることを特徴とする。
【0016】
本願第4の発明による建築物は、矩形構造を構成する柱及び梁と、矩形構造において対角に位置する柱梁接合部に設けられ、第2の貫通孔を有する接合部材と、両端部に第1の貫通孔を有するブレース部材と、ブレース部材を接合部材に結合する結合部材とを備え、第2の貫通孔と第1の貫通孔のうち少なくとも一方は長孔であり、結合部材は、第2の貫通孔と第1の貫通孔を貫通して、接合部材とブレース部材とを結合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、建築物の変形に応じて抗力を生じる構造体及び建築物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態による構造体の正面図である。
図2】ガセットプレートの正面図である。
図3】第1のブレースの平面図である。
図4】スロットホール内におけるボルトの動きを概略的に示した図である。
図5】高力ボルトを用いた構造体の荷重変形曲線である。
図6】高力ボルトを用いた構造体の荷重変形曲線である。
図7】第2の実施形態による、普通ボルトを用いた構造体の荷重変形曲線である。
図8】普通ボルトを用いた構造体の荷重変形曲線である。
図9】第3の実施形態による構造体の正面図である。
図10】第4の実施形態による構造体の正面図である。
図11】第5の実施形態によるボルトの動きを概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1の実施形態による第1の構造体100について図1から6を用いて説明する。
【0020】
まず、第1の構造体100が設けられる柱10及び梁20について説明する。柱10は、角形鋼管から成り、鉛直方向に略並行に延びる右柱10rと左柱10lとを備える。主に第1の構造体100、柱10、及び梁20により建築物が構成される。梁20は、H鋼から成り、水平方向に略並行に延びる上梁20u及び下梁20bを備える。右柱10rは、図1の上方において上梁20uと直交するように溶接により接続され、左柱10lは、図1の下方において下梁20bと直交するように溶接により接続される。右柱10rと上梁20uとの接続部、及び左柱10lと下梁20bとの接合部を各々柱梁接合部101ru、101lbという。このようにして、右柱10r、左柱10l、上梁20u、及び下梁20bは矩形形状に接続され、これにより、矩形構造が形成される。右柱10rの柱芯Prと上梁20uの梁芯Buとの交点と、左柱10lの柱芯Plと下梁20bの梁芯Bbとの交点とを繋いだ直線を構造対角線Lとする。以下、上梁20u及び下梁20bが延びる方向をX軸方向、右柱10rと左柱10lが延びる鉛直方向をZ軸方向、上梁20u、下梁20b、右柱10r、及び左柱10lと直交する方向をY軸方向とする右手系座標を用いて説明する。また、X軸方向から見ることを側面視、Y軸方向から見ることを正面視、Z軸方向から見ることを平面視などという。
【0021】
第1の構造体100は、接合部材である左下ガセットプレート110と右上ガセットプレート120と、結合部材である高力ボルト115、125とを主に備える。
【0022】
左下ガセットプレート110は、所定の厚みを有する鋼板から成る。左下ガセットプレート110の厚み、すなわちY軸方向に対する長さは、後述される第1のブレース200が有する板状部材211、212の間隔よりもわずかに短く、板状部材211、212の間に左下ガセットプレート110を挿入可能な程度の長さである。図2を参照すると、左下ガセットプレート110は、長方形の右上角と左下角とを落として成る正面視六角形である。右上角と左下角とを落として形成された各端面を、各々、内側上端面110cと外側下端面110aという。左下ガセットプレート110の内側端面110iには、その全長、すなわちZ軸方向の全長に渡って、フランジ111が溶接される。フランジ111は、XY平面において長方形を成す鋼製の板であって、内側端面110iの全長と同じZ軸方向長さを有する。フランジ111の幅、すなわちY軸方向長さは、第1の構造体100に要求される耐力に応じて適宜選択される。
【0023】
左下ガセットプレート110において、正面及び背面、すなわちY軸と直交する2つの面のうち、少なくとも第1のブレース200と接触する面は、第1のブレース200との間の摩擦係数が所定の値となるように、加工される。この値、すなわち所定の摩擦係数については後述される。
【0024】
左下ガセットプレート110は、厚さ方向、すなわちY軸方向に貫通する複数の長孔(第2の貫通孔)112を備える。長孔112は、正面視長円形を有する。左下ガセットプレート110の底面110bは、下梁20bに溶接される。左下ガセットプレート110の外側端面110oは、左柱10lに溶接される。これにより、左柱10lと下梁20bとの柱梁接合部に、左下ガセットプレート110が取り付けられる。
【0025】
長孔112の数は、後述される第1のブレース200の取付孔の数に応じて決定されるところ、本実施形態では18個である。長孔112は、Y軸から見たときに3行6列を成し、かつ構造対角線L及び/又は構造対角線Lと平行な直線に、その長軸が一致するように設けられる。すなわち、本実施形態では、6つの長孔112が、それらの長軸が構造対角線Lと一致するように設けられ、他の6つの長孔112が、それらの長軸が構造対角線Lと平行かつ構造対角線LからZ軸正方向に所定距離だけ離れた直線と一致するように設けられ、さらに他の6つの長孔112が、それらの長軸が構造対角線Lと平行かつ構造対角線LからZ軸負方向に前記所定距離だけ離れた直線と一致するように設けられる。複数の長孔112に関して、構造対角線L上及び構造対角線Lと平行な直線上における間隔は各々等しい。長孔112の長軸長さ、すなわち構造対角線Lに沿う方向の長さは、第1の構造体100に求められる性能、例えば第1構造体100が設けられる層の階高又は建築物の塑性変形領域に応じて決定される。
【0026】
右上ガセットプレート120もまた、左下ガセットプレート110と同様の形状及び加工を有する。右上ガセットプレート120は、厚さ方向、すなわちY軸方向に貫通する複数の長孔122を備える。長孔122もまた、長孔112と同様の構成を有する。右上ガセットプレート120の底面120bは、上梁20uに溶接され、右上ガセットプレート120の外側端面120oは、右柱10rに溶接される。これにより、右柱10rと上梁20uとの柱梁接合部に、右上ガセットプレート120が取り付けられる。
【0027】
第1の構造体100が設けられる建築物では、予め工場で製作された柱梁接合部が工事現場に搬入され、建築物に取り付けられる。すなわち、左下ガセットプレート110と右上ガセットプレート120もまた、左柱10lと下梁20bとの接合部、及び右柱10rと上梁20uとの接合部に予め工場で溶接され、工事現場に搬入される。左下ガセットプレート110と右上ガセットプレート120を工事現場で柱10及び梁20に溶接する必要がない。
【0028】
次に、第1の構造体100に取り付けられる第1のブレース(ブレース部材)200について説明する。第1のブレース200は、いわゆる座屈拘束ブレースであって、その軸方向に対する引張力及び圧縮力に対して所定の降伏軸力を有し、その塑性変形範囲において制震部材として機能する。第1のブレース200は、その長手方向に直線状に延びる軸部材であり、両端部に下方取付部210、上方取付部220を備える。
【0029】
下方取付部210は、2枚の板状部材211、212を備える。2枚の板状部材211、212は略同じ形状であって、Y軸方向に所定の間隔dを開けて、第1のブレース200の下端からその軸方向に沿って延びる。間隔dは、前述の左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120の厚さよりもわずかに長く、板状部材211、212の間に左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120を挿入可能な程度の長さである。また、板状部材211、212は、その厚さ方向に貫通する複数の円孔である取付孔(第1の貫通孔)211a、212aを有する。
【0030】
本実施形態では18個である複数の取付孔211aは、Y軸から見たときに3行6列を成し、第1のブレース200の軸上、及び/又は第1のブレース200の軸と平行な直線上に並んで設けられる。より詳細には、1つの行を成す6つの取付孔211aが、それらの貫通軸が第1のブレース200の軸と直交するように設けられ、他の行を成す6つの取付孔211aが、それらの貫通軸が第1のブレース200の軸からZ軸正方向に所定距離だけ離れたねじれの位置であって、Z軸方向から見たときに第1のブレース200の軸と直交するように設けられ、さらに他の行を成す6つの取付孔211aが、それらの貫通軸が第1のブレース200の軸からZ軸負方向に前記所定距離だけ離れたねじれの位置であって、Z軸方向から見たときに第1のブレース200の軸と直交するように設けられる。同じ行に属する複数の取付孔211aに関して、XZ平面上において第1のブレース200の軸上又は第1のブレース200の軸と平行な直線上における間隔は各々等しい。取付孔212aもまた、取付孔211aと同様の構成を有し、対応する取付孔211aとY軸方向に対して同軸の孔を成す。
【0031】
前述した左下ガセットプレート110と同様に、2枚の板状部材211、212において互いに対向する平面は、左下ガセットプレート110との間の摩擦係数が所定の値(所定の摩擦係数)となるように、加工される。左下ガセットプレート110と板状部材211、212との間の所定の摩擦係数は、相対的に低い値が好ましく、例えば0.45未満が好ましく、あるいは0.1~0.4又は0.1~0.3が好ましく、より好ましくは0.15~0.35、さらに好ましくは0.2~0.35である。加工は、例えば亜鉛メッキ、黒皮(酸化皮膜)処理、新明丹塗装、磨き肌加工である。左下ガセットプレート110との間において、亜鉛メッキでは例えば摩擦係数0.1~0.3が得られ、黒皮処理では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られ、新明丹塗装では例えば摩擦係数0.15~0.25が得られ、磨き肌加工では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られる。
【0032】
第1のブレース200の下端は左下ガセットプレート110に取り付けられる。詳細には、取付孔211a及び取付孔212aが、左下ガセットプレート110の長孔112と一致する位置に置かれた後、取付孔211a、取付孔212a、及び長孔112全てに高力ボルト115を貫通させ、ナットで締め付けることにより、第1のブレース200が左下ガセットプレート110に固定、すなわち第1の構造体100に結合される。以上の構成により、下方取付部210と左下ガセットプレート110とが、低い摩擦力で摩擦接合される。
【0033】
上方取付部220もまた、下方取付部210と同様に、2枚の板状部材221、222と取付孔221a、222aを有する。板状部材221、222及び取付孔221a、222aの構成は、板状部材211、212及び取付孔211a、212aと同様であるため、説明を省略する。第1のブレース200の上端もまた、下端と同様に、上端の取付孔221a及び取付孔222aが、右上ガセットプレート120の長孔122と一致する位置に置かれた後、取付孔221a、取付孔222a、及び長孔122全てに高力ボルト125を貫通させ、ナットで締め付けることにより、右上ガセットプレート120に固定、すなわち第1の構造体100に結合される。以上の構成により、上方取付部220と右上ガセットプレート120とが、低い摩擦力で摩擦接合される。このように第1のブレース200を第1の構造体100に取り付ける態様を片流れ配置という。
【0034】
次に、図1及び図4から6を用いて、第1の構造体100の機能及び作用について説明する。第1の構造体100が変形、すなわち上梁20uが図1において左右に変位する前に、第1のブレース200が第1の構造体100に予めとりつけられ、かつ図4(A)(設置時)に示されるように、高力ボルト115、125は、長孔112、122内において重力方向下方に予め置かれているものとする。
【0035】
図1において上梁20uが左方に変位し、これにより第1のブレース200に圧縮力が作用する場合について説明する。第1のブレース200に圧縮力が作用すると、高力ボルト115と高力ボルト125には、第1のブレース200の軸方向へ互いに離れようとする力が働く。このとき、高力ボルト115は、長孔112内において重力方向下方に接触したまま固定され重力方向下方へ移動できないのに対し、高力ボルト125は、長孔122内において重力方向下方から上方に移動可能である(図4(A)参照)。ここで、前述のように、上方取付部220と右上ガセットプレート120とは低い摩擦力で摩擦接合されている。そこで、上方取付部220と右上ガセットプレート120との間の摩擦力よりも、地震力により加えられる力が小さいときには、第1の構造体100はわずかに変形しながらも、上方取付部220と右上ガセットプレート120とは摩擦力により互いに固定されて、第1のブレース200が圧縮力に抵抗する。上方取付部220と右上ガセットプレート120とが摩擦力により互いに固定されている期間、言い換えると、静止状態から軸力が摩擦力を超えて高力ボルト125が長孔122内において重力方向下方から上方に移動しはじめるときまでの期間が期間Aである。期間Aは、図5の破線51及び図6の破線61によって示される。図5の破線51及び図6の破線61は、第1のブレース200のみの地震力と層間変形の関係を示すものである。図5及び6の実線52は、建築物の躯体、本実施形態では、純ラーメン架構の躯体のみの地震力と層間変形の関係を示すものである。風によって建築物に生じる風荷重は地震力よりも小さく、図5の期間Aに示される地震力程度である。つまり、上方取付部220と右上ガセットプレート120とを低い摩擦力で摩擦接合することにより、第1の構造体100は、風荷重に対抗することが可能となる。上方取付部220と右上ガセットプレート120との間の摩擦力を調節することにより、期間Aの長さが調節されるとともに、対抗する風荷重の大きさが調節される。設計仕様に基づいて決定される風荷重の大きさに基づいて、上方取付部220と右上ガセットプレート120との間の摩擦力が決定される。
【0036】
そして、変形による軸力が摩擦力を超えると、高力ボルト125は、長孔122内において重力方向下方から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト125が、長孔122において重力方向上方に突き当たる(図4(B)参照)。高力ボルト125が長孔122において重力方向下方から移動開始した時から重力方向上方に突き当たるまでの期間が期間Bである。期間Bは、図5の破線51及び図6の破線61によって示される。期間Bにおいては、高力ボルト125は長孔122内を移動するのみであり、第1のブレース200には期間Aにおけるものと同等の圧縮力が作用しつづけているが、その圧縮力には変化がない。純ラーメン架構が期間Bにおいて増加する荷重を受け持つ。長孔122の長軸方向長さを調節することにより、期間Bの長さを調節できる。長孔122の長軸方向長さは、第1の構造体100に求められる性能に応じて、あるいは設計仕様に基づいて決定される期間Bに応じて決定される。
【0037】
高力ボルト125が長孔122の重力方向上方に突き当たっている状態においてさらに上梁20uが変位し続けると、左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120から第1のブレース200に圧縮力がさらに加えられる。そして、さらに圧縮力が加えられ続けて第1のブレース200の降伏軸力を超えると、第1のブレース200が降伏する。高力ボルト125が長孔122において重力方向上方に突き当たった時、つまり第1のブレース200に圧縮力が作用しはじめた時から、第1のブレース200が降伏するまでの期間が期間Cである。また、第1のブレース200が降伏した時以降の期間が期間Dである。期間C、Dは、図5の破線51及び図6の破線61によって示される。
【0038】
図1において上梁20uが右方に変位し、これにより第1のブレース200に引張力が作用する場合について説明する。第1のブレース200に引張力が作用すると、高力ボルト115と高力ボルト125には、第1のブレース200の軸方向へ互いに近づこうとする力が働く。このとき、高力ボルト125は、長孔122内において重力方向下方に接触したまま固定され、重力方向下方に移動できないのに対し、高力ボルト115は、長孔112内において、重力方向下方から上方に移動可能である(図4(A)参照)。ここで、前述のように、下方取付部210と左下ガセットプレート110とは低い摩擦力で摩擦接合されている。そこで、下方取付部210と左下ガセットプレート110との間の摩擦力よりも、地震力により加えられる力が小さいときには、第1の構造体100はわずかに変形しながらも、下方取付部210と左下ガセットプレート110とは摩擦力により互いに固定されて、第1のブレース200が引張力に抵抗する。一般に、風によって建築物に生じる風荷重は地震力よりも弱い。そのため、下方取付部210と左下ガセットプレート110とを摩擦接合することにより、第1の構造体100から第1のブレース200に風荷重が伝達されたときに、下方取付部210と左下ガセットプレート110がずれずに固定され、第1の構造体100から第1のブレース200とが風荷重に対抗する。下方取付部210と左下ガセットプレート110とが摩擦力により互いに固定されている期間、言い換えると、静止状態から軸力が摩擦力を超えて高力ボルト115が長孔112内において重力方向下方から上方に移動しはじめるときまでの期間が期間Aである。下方取付部210と左下ガセットプレート110との間の摩擦力を調節することにより、期間Aの長さが調節されるとともに、対抗する風荷重の大きさが調節される。言い換えると、設計仕様に基づいて決定される風荷重の大きさに基づいて、下方取付部210と左下ガセットプレート110との間の摩擦力が決定される。
【0039】
そして、変形による軸力が摩擦力を超えると、高力ボルト115は、重力方向下方から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト115が、長孔112において重力方向上方に突き当たる(図4(C)参照)。高力ボルト115が長孔112において重力方向下方から移動開始した時から重力方向上方に突き当たるまでの期間が期間Bである。期間Bにおいては、高力ボルト115は長孔112内を移動するのみであり、第1のブレース200には期間Aにおけるものと同等の引張力が作用しつづけているが、その引張力には変化がない。純ラーメン架構が期間Bにおいて増加する荷重を受け持つ。長孔112の長軸方向長さを調節することにより、期間Bの長さを調節できる。言い換えると、長孔112の長軸方向長さは、第1の構造体100に求められる性能に応じて、あるいは設計仕様に基づいて決定される期間Bに応じて決定される。
【0040】
高力ボルト115が長孔112の重力方向上方に突き当たっている状態においてさらに上梁20uが変位し続けると、左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120から第1のブレース200に引張力がさらに加えられる。そして、引張力が加えられ続けて第1のブレース200の降伏軸力を超えると、第1のブレース200が降伏する。高力ボルト115が長孔112において重力上方に突き当たった時、つまり第1のブレース200に引張力が作用しはじめた時から、第1のブレース200が降伏するまでの期間が期間Cである。第1のブレース200が降伏した時以降の期間が期間Dである。
【0041】
以上説明した第1の構造体100及び第1のブレース200の動きを、建築物の躯体の層間変形と地震力を用いて、以下に説明する。
【0042】
図5は、躯体のみ、第1の構造体100及び第1のブレース200を有する躯体、及び第1のブレース200における地震力と層間変形との関係を示す。図5に示される第1のブレース200の一態様は、第1のブレース200を比較的早期に躯体に作用させるものであり、長孔112、122の長軸方向長さは、比較的短く設定される。
【0043】
破線51は、第1のブレース200のみの地震力と層間変形の関係を示す。前述のように、期間Aでは、上梁20uの変位開始から、高力ボルト115、125は長孔112、122内において、第1のブレース200と第1の構造体100との間に生じている若干の静止摩擦により静止している。期間Bでは、高力ボルト115、125が長孔112、122において重力方向下方から移動開始し、重力方向上方に突き当たる。期間Cにおいて、上梁20uが図1の左方に変位して第1のブレース200に圧縮力が作用する場合、高力ボルト125が長孔122において重力上方に突き当たり、これにより第1のブレース200に軸方向の圧縮力が作用しはじめ、さらに圧縮力が加えられて第1のブレース200が降伏する。他方、期間Cにおいて、上梁20uが図1の右方に変位して第1のブレース200に引張力が作用する場合、高力ボルト115が長孔112において重力上方に突き当たり、これにより第1のブレース200に軸方向の引張力が作用しはじめ、さらに引張力が加えられて第1のブレース200が降伏する。期間Dでは、第1のブレース200が降伏している。
【0044】
実線52は、比較例であって、建築物の躯体、本実施形態では、純ラーメン架構の躯体のみの地震力と層間変形の関係を示す。躯体は、地震力が作用を開始してから層間変形しはじめ、弾性変形領域E内では連続的に層間変形し、弾性変形領域Eを超えると塑性変形領域Fに入る。
【0045】
一点鎖線53は、本実施形態による一実施例であって、第1の構造体100及び第1のブレース200を有する躯体における地震力と層間変形の関係を示す。本実施例は、レベル1の地震動に対して、層間変形角を1/200以内、かつ上部構造(基礎よりも上にある構造)を弾性限界以内とし、レベル2の地震動に対して、層間変形角を1/100以内、かつ層塑性率2.0以内を目標としている。ここで、レベル1の地震動は、当該建築物の耐用年数中に一度以上受ける可能性が大きい地震動をいい、この地震動に対して、主要構造体は概ね弾性的な挙動で応答することを目標として設計される。レベル2の地震動は、当該建築物の敷地において、過去及び将来にわたって最強と考えられる地震動をいい、主要構造体は、この地震動に対して建物が倒壊せず、あるいは外壁の脱落等の人命に損傷を与える可能性のある破損を生じないことを目標として設計される。本実施形態では、レベル2の地震動に対して、上部構造が弾性変形領域内にあるように、長孔112、122の長手方向長さを決定する。なお、本実施例による値は、破線51によって示される値と、実線52によって示される値とを加算したものである。
【0046】
期間Aにおいて、風荷重を受けた躯体は若干変形し、これにより第1の構造体100に荷重が加えられる。ここで、前述のように、上方取付部220と右上ガセットプレート120、及び下方取付部210と左下ガセットプレート110とは低い摩擦力で摩擦接合されている。そこで、地震力がわずかであるときには、第1の構造体100はわずかに変形しながらも、上方取付部220と右上ガセットプレート120、及び下方取付部210と左下ガセットプレート110とが摩擦力により互いに固定されて、第1のブレース200が引張力及び圧縮力に抵抗する。
【0047】
そして、変形による軸力が摩擦力を超えると、一点鎖線53は、期間Bに移行し、第1のブレース200に圧縮力が加えられた場合には、高力ボルト125は、長孔122内において重力方向下方から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト125が、長孔122内において重力方向上方に突き当たり、(図4(B)参照)、第1のブレース200に引張力が加えられた場合には、高力ボルト115は、長孔112内において重力方向下方から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト115が、長孔112内において重力方向上方に突き当たる(図4(C)参照)。この期間Bは、レベル1の地震力Q1に対応しているところ、第1のブレース200に加えられている軸力は変化しておらず、この期間に加えられる地震力に十分抵抗していない。建築物は、柱10及び梁20による純ラーメン架構をもって地震力Q1に対抗している。一般に第1のブレース200は高い剛性を有するため、第1のブレース200を組み込んだ建築物の固有周期は、組み込まれない建築物の固有周期とは大きく異なる。しかしながら、本実施例によれば、期間Bにおいて第1のブレース200が地震力に十分抵抗していないため、期間Bにおける建築物の固有周期を、第1のブレース200を組み込まれない建築物の固有周期に近い値とすることができる。これにより、建築物の応答、例えば応答変位量や応答加速度等を低減できる。
【0048】
さらに上梁20uが変位し続けると、一点鎖線53は、期間Cに移行する。この期間Cは、レベル2の地震力Q2に対応しており、地震力がレベル2地震力Q2に達するわずか前に、開始される。前述のように、長孔112、122の長さは、第1の構造体100に求められる性能に応じて決定されるところ、本実施例では、地震力がレベル2地震力Q2に達するわずか前に、高力ボルト115、125が、長孔112、122内において重力方向上方に突き当たるような長さに決定される。この長さは、建築物の構造及び地震力等をも考慮して決定される。本実施例による第1の構造体100及び第1のブレース200を備えない純ラーメン架構の建築物は、実線52に示されるように、レベル2の地震力Q2を受けると、塑性変形領域Fに入ることになる。しかしながら、本実施例による第1の構造体100及び第1のブレース200を備える建築物は、一点鎖線53に示されるように、レベル2の地震力Q2を受けても未だ弾性変形領域Eにある。これにより、レベル2地震動を受けても、建築物の残留変形量を抑えることができ、レベル2地震動を受けた後でも、建築物を解体することなく、使用し続けることができる。
【0049】
地震力Q2を超えた力が建築物に加えられると、第1のブレース200はさらに変形して塑性変形領域に入る(期間G)。他方、純ラーメン架構は未だ弾性変形領域Eにあり、期間G以降は、純ラーメン架構により地震力に対抗する。期間G内の地震力であれば、純ラーメン架構は未だ弾性変形領域Eにあるため、第1のブレース200を交換するのみで建築物を利用することが可能になる。そして、さらに大きな地震力が加えられると、純ラーメン架構は塑性変形領域Fに入る。
【0050】
図6は、躯体のみ、第1の構造体100及び第1のブレース200を有する躯体、及び第1のブレース200における地震力と層間変形との関係を示す。図6に示される第1のブレース200の一態様は、第1のブレース200を比較的遅く躯体に作用させるものであり、長孔112、122の長軸方向長さは、図5に示されるそれよりも長く設定される。実線52は、図5と同様であるため、説明を省略する。
【0051】
破線61は、第1のブレース200のみの地震力と層間変形の関係を示す。前述のように、期間Aでは、上梁20uの変位開始から、高力ボルト115、125は長孔112、122内において、第1のブレース200と第1の構造体100との間に生じている若干の静止摩擦により静止している。期間Bでは、高力ボルト115、125が長孔112、122において重力方向下方から移動開始し、重力方向上方に突き当たる。期間Cでは、上梁20uが図1の左方に変位する場合、高力ボルト125が長孔122において重力上方に突き当たった時から、第1のブレース200に軸方向の圧縮力が作用しはじめ、その後、第1のブレース200が降伏する。他方、上梁20uが図1の右方に変位する場合、高力ボルト115が長孔112において重力上方に突き当たった時から、第1のブレース200に軸方向の引張力が作用しはじめ、その後、第1のブレース200が降伏する。そして、期間Dでは、第1のブレース200が降伏している。本実施例では、長孔112、122の長さは、図5に示されるそれよりも長く設定されているため、本実施例による期間Bにおける層間変形角の範囲は、図5のそれよりも長い。
【0052】
一点鎖線63は、本実施形態による一実施例であって、第1の構造体100に第1のブレース200を組み込んだ躯体における地震力と層間変形の関係を示す。本実施例は、レベル1の地震動に対して、層間変形角を1/200以内、かつ上部構造を弾性限界以内とし、レベル2の地震動に対して、層間変形角を1/100以内、かつ層塑性率2.0以内を目標としている。なお、本実施例による値は、破線61によって示される値と、実線52によって示される値とを加算したものである。期間Aにおける挙動は図5と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
上方取付部220と右上ガセットプレート120、及び下方取付部210と左下ガセットプレート110との間に生じている摩擦力を、変形による軸力が超えると、一点鎖線63は、期間Hに移行し、上梁20uが図1の左方に変位して第1のブレース200に圧縮力が作用する場合、高力ボルト125は、長孔122内において重力方向下方から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト125が、長孔122内において重力方向上方に突き当たる(図4(B)参照)。上梁20uが図1の右方に変位して第1のブレース200に引張力が作用する場合、高力ボルト115は、長孔112内において重力方向下方から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト115が、長孔112内において重力方向上方に突き当たる(図4(C)参照)。この期間Hは、レベル1の地震力Q1に対応しているところ、第1のブレース200に加えられている軸力は変化しておらず、この期間に加えられる地震力に十分抵抗していない。建築物は柱10及び梁20による純ラーメン架構をもって地震力Q1に対抗している。一般に第1のブレース200は高い剛性を有するため、ブレース200を組み込んだ建築物の固有周期は、組み込まれない建築物の固有周期とは大きく異なる。しかしながら、本実施例によれば、期間Hにおいて第1のブレース200が地震力に十分抵抗していないため、期間Hにおける建築物の固有周期を、第1のブレース200を組み込まれない建築物の固有周期に近い値とすることができる。これにより、建築物の応答、例えば応答変位量や応答加速度等を低減できる。
【0054】
さらに上梁20uが変位すると期間Iに入る。期間Iでは、地震力がQ2を超えるが、高力ボルト115、125は長孔112、122の重力方向上方に未だ突き当たっておらず、純ラーメン架構に全ての地震力が加えられる。これにより、期間Iでは、純ラーメン架構が弾性変形領域Eを逸脱している。純ラーメン架構が弾性変形領域Eを逸脱して塑性変形領域Fに入ってからも地震力が加えられると、高力ボルト115、125が、長孔112、122内において重力方向上方に突き当たり(図4(B)、(C)参照)、第1のブレース200に荷重、すなわち軸力が加えられる。軸力は、上梁20uが図1の左方に変位する場合は軸方向の圧縮力であり、上梁20uが図1の右方に変位する場合は軸方向の引張力である。純ラーメン架構が弾性変形領域Eを逸脱してから、高力ボルト115、125が長孔112、122の重力方向上方に突き当たるまでの期間が期間Iである。さらに地震力が加えられ続けると、第1のブレース200が変形して、弾性変形領域から塑性変形領域に入る。高力ボルト115、125が長孔112、122の重力方向上方に突き当たってから第1のブレース200が弾性変形領域から塑性変形領域に入るときまでの期間が期間Jである。さらに地震力が加えられ、第1のブレース200が変形して、弾性変形領域から塑性変形領域に入る。第1のブレース200が塑性変形領域に入ってから後の期間を期間Kという。
【0055】
本実施例では、理論上は、第1のブレース200よりも先に純ラーメン架構が塑性変形領域Fに入るところ、現実の設計値は余裕値を見込んでいるため、現実に地震力が加えられた場合には、純ラーメン架構は塑性変形領域Fに入らないことがわかっている。そのため、本実施例のように第1の構造体100を構成すれば、純ラーメン架構の耐力を落として、架構のコストを削減し、経済設計とすることができる。
【0056】
本実施形態によれば、建築物の変形に応じて抗力を生じる構造体及び建築物を得る。
【0057】
近年、設計クライテリア(判断基準)に関しては、稀に発生するレベル1地震動よりも、極めて稀に発生するレベル2地震動を用いることがあり、これにより主構造部材の部材断面を決定することが多い。この場合、レベル1地震動により決定された部材断面よりも、レベル2地震動により決定された部材断面の方が大きくなり、躯体コストが増加する傾向がある。また、事業主の要望により高い耐震性能を求められる場合にも、同様に、部材断面が大きくなり、躯体コストが増加する傾向がある。しかしながら、本実施形態によれば、レベル1地震動を超える地震動をブレースが負担するため、主構造部材の部材断面を小さくすることができ、コストを低減できる。
【0058】
また、レベル2地震動より高い耐震性能が要求される場合であっても、第1の構造体100を用いて要求耐震性能を満たすことができ、柱梁等の主構造部材に特殊な構造を適用すること無く、ひいては特別な設計及び施工を行うこと無く対応可能である。さらに、本実施形態によれば、第1のブレース200を長期荷重及びレベル1地震動を受けたときには作用させずに、レベル2地震動を受けたときから作用させることができ、これにより、レベル2地震動を受けたときであっても、柱と梁を弾性変形範囲内に留めて、これらの残留変形量を小さく、つまり損傷を最低限にし、これらの復元力によって、大地震後も建物を使用可能にできる。すなわち、レベル2地震動以上の耐震性能を目標とする建築物に対して、本実施形態による第1の構造体100はより効果的である。
【0059】
本実施形態によれば、任意の地震動において、建物の層間変位量を低減することが可能である。
【0060】
また、一般に、長期荷重を負担するブレースは、耐火被覆を行うことが法令上求められているが、本実施形態による第1のブレース200は、長孔112、122を用いることにより、長期荷重を負担しないため、耐火被覆が不要となる。
【0061】
また、ブレースを取り付けた柱において一般的に生じる軸力の増加を抑制できる。本実施形態による第1の構造体100を備えない柱にブレースを取り付けると、変形当初からブレースに軸力が加えられ、これにより柱に引抜力が発生するため、この変形当初からの引抜力に対抗すべく設計を行う必要があった。しかしながら、本実施形態によれば、変形当初は長孔112、122内で高力ボルト115、125が移動して第1のブレース200に軸力が加えられないため、柱に生じる引抜力が小さくなり、変形当初からの引抜力に応じて設計する必要がない。また、これにより、第1のブレース200を適用可能な建築物の種類が増加する。
【0062】
本実施形態によれば、躯体及び第1のブレース200が塑性変形領域に入った後であっても、躯体及び第1のブレース200の双方が地震力に対抗して、地震力に対する応答変位と応答加速度を軽減できる。
【0063】
なお、第1のブレース200の下方取付部210、上方取付部220に長孔112を設け、左下、右上ガセットプレート110、120に取付孔211a、取付孔212aを各々設けてもよい。この場合、左下ガセットプレート110、右上ガセットプレート120、高力ボルト115、125、及び第1のブレース200が第1の構造体100を成す。
【0064】
なお、第1のブレース200の下方取付部210及び上方取付部220のいずれか一方のみに取付孔を設け、対応する左下ガセットプレート110又は右上ガセットプレート110のみに長孔を設けてもよい。このとき、長孔の構造対角線Lに沿う方向における長さを、下方取付部210及び上方取付部220の双方に長孔を設ける態様における長さの略倍とすることが好ましい。
【0065】
また、左下ガセットプレート110と板状部材211、212において互いに対向する面全てに摩擦加工する態様について説明したが、左下ガセットプレート110と板状部材211において互いに対向する面のみ、あるいは左下ガセットプレート110と板状部材212において互いに対向する面のみに摩擦加工を施してもよい。これにより、滑り耐力に関して広い調整範囲を得ることができる。
【0066】
次に、本発明の第2の実施形態による第2の構造体について図1~4、7、及び8を用いて説明する。特に説明がない限り、本実施形態において、第1の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。第2の構造体は、図1及び2において符号100を用いて示される。本実施形態では、左下ガセットプレート110、右上ガセットプレート120、下方取付部210(板状部材211、212)、上方取付部220(板状部材221、222)に摩擦係数を低くする加工を施さず、高力ボルト115、125の代わりに普通ボルトを用いる。以下、図1及び4に示されるボルト115、125を普通ボルト115、125であるとして説明する。これらの構成により、下方取付部210と左下ガセットプレート110とが、また、上方取付部220と右上ガセットプレート120とが、普通ボルト115、125の支圧耐力又はせん断耐力に期待して接合される。普通ボルト使用時は、高力ボルト使用時よりも低い軸力で締め付けられるため、摩擦係数を低くする加工を施さずとも、下方取付部210と左下ガセットプレート110との間、及び上方取付部220と右上ガセットプレート120との間に生じる摩擦力は、高力ボルト使用時よりも低くなる。
【0067】
第2の実施形態による第2の構造体100及び第1のブレース200の動きを、建築物の躯体の層間変形を考慮して説明する。
【0068】
図7は、躯体のみ、第2の構造体100及び第1のブレース200を有する躯体、及び第1のブレース200における地震力と層間変形との関係を示す。図7に示される第1のブレース200の一態様は、第1のブレース200を比較的早期に躯体に作用させるものであり、長孔112、122の長軸方向長さは、比較的短く設定されるとともに、上梁20uが変位し始めてから第1のブレース200が第2の構造体100に力を及ぼすまでの期間に応じて決定される。
【0069】
破線71は、第1のブレース200のみの地震力と層間変形の関係を示す。本実施形態では、荷重(地震力)が加えられると、上梁20uが図1の左方に変位して第1のブレース200に圧縮力が作用する場合、普通ボルト125が長孔122において重力方向下方から移動開始して、重力方向上方に突き当たる。他方、上梁20uが図1の右方に変位して第1のブレース200に引張力が作用する場合、普通ボルト115が長孔112において重力方向下方から移動開始して、重力方向上方に突き当たる。普通ボルト115、125が長孔112、122において移動開始してから重力方向上方に突き当たるまでの期間を期間B’という。普通ボルト115、125が長孔112、122において重力上方に突き当たって、第1のブレース200に圧縮力が作用しはじめた時から、第1のブレース200に軸力が加えられて降伏するまでの期間を期間C’という。第1のブレース200が降伏したとき以降を期間D’という。実線52は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0070】
一点鎖線73は、本実施形態による一実施例であって、第2の構造体100及び第1のブレース200を有する躯体における地震力と層間変形の関係を示す。一点鎖線73は、期間B’において、実線52と重なっている。本実施例は、レベル1の地震動に対して、層間変形角を1/200以内、かつ上部構造を弾性限界以内とし、レベル2の地震動に対して、層間変形角を1/100以内、かつ層塑性率2.0以内を目標としている。なお、本実施例による値は、破線71によって示される値と、実線52によって示される値とを加算したものである。
【0071】
期間B’において、普通ボルト115、125は、長孔112、122内において重力方向下方から上方に移動しはじめ、その後、普通ボルト115、125が、長孔112、122内において重力方向上方に突き当たる(図4(B)、(C)参照)。この期間B’は、レベル1の地震力Q1に対応しているところ、第1のブレース200は軸力を受けておらず、その機能を発揮していない。そのため、建築物は柱10及び梁20による純ラーメン架構をもって地震力Q1に対抗している。一般に第1のブレース200は高い剛性を有するため、第1のブレース200を組み込んだ建築物の固有周期は、組み込まれない建築物の固有周期とは大きく異なる。しかしながら、本実施例によれば、期間Bにおける建築物の固有周期を、第1のブレース200を組み込まれない建築物の固有周期に近い値とすることができる。これにより、建築物の応答、例えば応答変位量や応答加速度等を低減できる。
【0072】
さらに上梁20uが変位し続けると、一点鎖線73は、期間C’に移行し、左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120から第1のブレース200に引張力が作用する。この期間C’は、レベル2の地震力Q2に対応しており、地震力がレベル2地震力Q2に達するわずか前に、開始される。前述のように、長孔112、122の長さは、第2の構造体100に求められる性能に応じて決定されるところ、本実施例では、地震力がレベル2地震力Q2に達するわずか前に、普通ボルト115、125が、長孔112、122内において重力方向上方に突き当たるような長さに決定される。この長さは、建築物の構造及び地震力等をも考慮して決定される。本実施例による第2の構造体100及び第1のブレース200を備えない純ラーメン架構の建築物は、実線52に示されるように、レベル2の地震力Q2を受けると、塑性変形領域Fに入ることになる。しかしながら、本実施例による第2の構造体100及び第1のブレース200を備える建築物は、一点鎖線53に示されるように、レベル2の地震力Q2を受けても未だ弾性変形領域Eにある。これにより、レベル2地震動を受けても、建築物の残留変形量を抑えることができ、レベル2地震動を受けた後でも、建築物を解体することなく、使用し続けることができる。
【0073】
地震力Q2を超えた力が建築物に加えられると、第1のブレース200はさらに変形して塑性変形領域に入る(期間G’)。他方、純ラーメン架構は未だ弾性変形領域Eにあり、これ以降は、純ラーメン架構により地震力に対抗する。そして、さらに大きな地震力が加えられると、純ラーメン架構は塑性変形領域Fに入る。地震力が期間G’であれば、純ラーメン架構は未だ弾性変形領域Eにあるため、第1のブレース200を交換するのみで建築物を利用することが可能になる。
【0074】
図8は、躯体のみ、第2の構造体100及び第1のブレース200を有する躯体、及び第1のブレース200における地震力と層間変形との関係を示す。図8に示される第1のブレース200の一態様は、第1のブレース200を比較的遅く躯体に作用させるものであり、長孔112、122の長軸方向長さは、図7に示されるそれよりも長く設定される。実線52は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
破線81は、第1のブレース200のみの地震力と層間変形の関係を示す。期間B’では、上梁20uが図1の左方に変位して第1のブレース200に圧縮力が作用する場合、普通ボルト125が長孔122において重力方向下方から移動開始し、重力方向上方に突き当たる。他方、上梁20uが図1の右方に変位して第1のブレース200に引張力が作用する場合、普通ボルト115が長孔112において重力方向下方から移動開始して、重力方向上方に突き当たる。期間B’における層間変形角の範囲は、図7に示されるそれよりも長く設定され、純ラーメン架構の弾性変形領域Eにおける層間変形角の範囲よりも若干長い。つまり、理論上は、第1のブレース200よりも先に純ラーメン架構が塑性変形領域に入る。期間C’では、普通ボルト115、125が長孔112、122において重力上方に突き当たり、これにより第1のブレース200に圧縮力が作用しはじめ、さらに第1のブレース200に軸力が加えられて降伏する。期間D’では、第1のブレース200が降伏している。
【0076】
一点鎖線83は、本実施形態による一実施例であって、第2の構造体100及び第1のブレース200を有する躯体における地震力と層間変形の関係を示す。一点鎖線83は、期間B’において、実線52と重なっている。本実施例は、レベル1の地震動に対して、層間変形角を1/200以内、かつ上部構造を弾性限界以内とし、レベル2の地震動に対して、層間変形角を1/100以内、かつ層塑性率2.0以内を目標としている。なお、本実施例による値は、破線81によって示される値と、実線52によって示される値とを加算したものである。
【0077】
建築物に地震力が加えられて上梁20uが変位しはじめると、一点鎖線53は期間H’に移行し、普通ボルト115、125は、長孔112、122内において重力方向下方から上方に移動しはじめる。さらに上梁20uが変位すると、地震力がQ1及びQ2を超えるが、第1のブレース200には未だ軸力が加えられておらず、純ラーメン架構が弾性変形領域Eを逸脱する。普通ボルト115、125が重力方向上方に移動しはじめてから純ラーメン架構が弾性変形領域Eを逸脱するまでの期間を期間H’という。純ラーメン架構が弾性変形領域Eを逸脱して塑性変形領域Fに入ってからも地震力が加えられると、普通ボルト115、125が、長孔112、122内において重力方向上方に突き当たり(図4(B)、(C)参照)、第1のブレース200に軸力が加えられる。純ラーメン架構が弾性変形領域Eを逸脱してから、普通ボルト115、125が長孔112、122の重力方向上方に突き当たるまでの期間を期間I’という。さらに地震力が加えられ続けると、第1のブレース200が変形して、弾性変形領域から塑性変形領域に入る。普通ボルト115、125が長孔112、122の重力方向上方に突き当たったときから、第1のブレース200が塑性変形領域に入るときまでの期間を期間J’という。そして、第1のブレース200が塑性変形領域に入った後の期間を期間K’という。
【0078】
本実施例では、理論上は、第1のブレース200よりも先に純ラーメン架構が塑性変形領域Fに入るところ、現実の設計値は余裕値を見込んでいるため、現実に地震力が加えられた場合には、純ラーメン架構は塑性変形領域Fに入らないことがわかっている。そのため、本実施例のように第2の構造体100を構成すれば、純ラーメン架構の耐力を落として、架構のコストを削減し、経済設計とすることができる。
【0079】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得る。
【0080】
また、本実施形態では、普通ボルトを使用するため、高力ボルトについて求められるトルク管理といった施工手順が簡略化される。また、ボルト孔の形状が大きいため、第1のブレースを容易に取付けできる。
【0081】
なお、第1のブレース200の下方取付部210、上方取付部220に長孔112を設け、左下、右上ガセットプレート110、120に取付孔211a、取付孔212aを各々設けてもよい。この場合、左下ガセットプレート110、右上ガセットプレート120、普通ボルト115、125、及び第1のブレース200が第2の構造体100を成す。
【0082】
なお、第1のブレース200の下方取付部210及び上方取付部220のいずれか一方のみに取付孔を設け、対応する左下ガセットプレート110又は右上ガセットプレート110のみに長孔を設けてもよい。このとき、長孔の構造対角線Lに沿う方向における長さを、下方取付部210及び上方取付部220の双方に長孔を設ける態様における長さの略倍とすることが好ましい。
【0083】
次に、本発明の第3の実施形態による第3の構造体300について図9を用いて説明する。特に説明がない限り、本実施形態において、第1及び第2の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態では、接合部材及びブレース部材の構成が第1及び第2の実施形態と異なる。
【0084】
第3の構造体300は、第3のブレース(ブレース部材)350と、左下ガセットプレート310と、スプライスプレート330a~330hと、各々8本の高力ボルト315a~315hとを主に備える。左下ガセットプレート310及びスプライスプレート330a~330hが接合部材を成し、高力ボルト315a~315hが結合部材を成す。左下ガセットプレート310と、スプライスプレート330a~330hと、高力ボルト315a~315hとを左下ガセットプレート310等という。なお、第3の構造体300において、柱梁接合部101ruにも、柱梁接合部101lbと同様に、右上ガセットプレート320、スプライスプレート340、及び高力ボルト325が設けられる。これらの構成については、左下ガセットプレート310等と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
左下ガセットプレート310は、所定の厚みを有する2枚の鋼板310d、310eを直交するように組み合わせて成り、これにより構造対角線Lに沿う方向から見たときに十字型断面を有する。左下ガセットプレート310を成す2枚の鋼板310d、310eの厚みは、後述される第3のブレース350の下端部に設けられる下方十字型プレート351の鋼板351d、351eの厚みと略同じである。左下ガセットプレート310は、長方形の右上角を落として成る正面視六角形を成す。右上角を落として形成された各端面を、内側上端面310cという。左下ガセットプレート310の内側端面310iには、フランジが設けられてもよい。フランジの寸法は、第3の構造体300に要求される耐力に応じて適宜選択される。鋼板310d、310eは、その厚さ方向に貫通する円筒形の複数の円孔312を備える。左下ガセットプレート310の底面310bは、下梁20bに溶接される。左下ガセットプレート310の外側端面310oは、左柱10lに溶接される。これにより、左柱10lと下梁20bとの柱梁接合部101lbに、左下ガセットプレート310が取り付けられる。
【0086】
円孔312の数は、第3の構造体300に要求される性能に応じて決定されるところ、本実施形態では1列4個で4列を成し、合計16個である。円孔312は、構造対角線Lと平行な直線に、その中心軸が直交するように設けられる。16個の円孔312の中心軸と構造対角線Lとの距離は各々等しい。円孔312の直径は、第3の構造体300に求められる性能、例えば第3の構造体300が設けられる層の階高又は建築物の塑性変形領域に応じて決定される。
【0087】
第3の構造体300が設けられる建築物では、予め工場で製作された柱梁接合部が工事現場に搬入され、建築物に取り付けられる。すなわち、左下ガセットプレート310と右上ガセットプレート320もまた、左柱10lと下梁20bとの接合部、及び右柱10rと上梁20uとの接合部に予め工場で溶接され、工事現場に搬入される。左下ガセットプレート310と右上ガセットプレート320を工事現場で柱10及び梁20に溶接する必要がない。
【0088】
次に、第3の構造体300に取り付けられる第3のブレース350について説明する。第3のブレース350は、いわゆる座屈拘束ブレースであって、その軸方向に対する引張力及び圧縮力に対して所定の降伏軸力を有し、その塑性変形範囲において制震部材として機能する。第3のブレース350は、その長手方向に直線状に延びる軸部材であり、両端部に下方十字型プレート351、上方十字型プレート352を備える。なお、上方十字型プレート352の構成については、下方十字型プレート351と同様であるため、説明を省略する。
【0089】
下方十字型プレート351は、所定の厚みを有する2枚の鋼板351d、351eを直交するように組み合わせて成り、これにより構造対角線Lに沿う方向から見たときに十字型断面を有する。鋼板351d、351eは厚みを有する長方形の部材であって、厚さ方向に貫通する16個の長孔353を有し、第3のブレース350の下端からその軸方向に沿って延びる。長孔353の数は、第3の構造体300に要求される性能に応じて決定されるところ、本実施形態では1列4個で4列を成し、合計16個である。長孔353は、構造対角線Lと平行な直線に対して、その長手方向が平行かつ開口方向が直交するように設けられる。16個の長孔353と構造対角線Lとの距離は各々等しい。長孔353の長手方向長さは、第3の構造体300に求められる性能、例えば第3の構造体300が設けられる層の階高又は建築物の塑性変形領域に応じて決定される。
【0090】
下方十字型プレート351において、鋼板351dの正面及び背面、すなわちY軸と直交する2つの面、並びに鋼板351eの上面及び下面、すなわちZ軸正方向を向く面とZ軸負方向を向く面は、スプライスプレート330a~330hとの間で所定の摩擦係数を有するように加工される。摩擦係数は、相対的に低い値が好ましく、例えば0.45未満が好ましく、あるいは0.1~0.4が好ましく、より好ましくは0.15~0.35、さらに好ましくは0.2~0.35である。加工は、例えば亜鉛メッキ、黒皮(酸化皮膜)処理、新明丹塗装、磨き肌加工である。第3のブレース350との間において、亜鉛メッキでは例えば摩擦係数0.1~0.3が得られ、黒皮処理では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られ、新明丹塗装では例えば摩擦係数0.15~0.25が得られ、磨き肌加工では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られる。
【0091】
スプライスプレート330a~330hは、厚みを有する長方形の鋼製部材であって、左下ガセットプレート310の鋼板310d、310e及び下方十字型プレート351の鋼板351d、351eに跨がる程度の長さを有する。また、スプライスプレート330a~330hは、厚さ方向に貫通する8個の円筒孔331を各々有する。2枚のスプライスプレート330c、330dが、それらの左側半分で左下ガセットプレート310の鋼板310eを挟み、右側半分で下方十字型プレート351の鋼板351eを挟む。そして、高力ボルト315eが、左下ガセットプレート310の円孔312とスプライスプレート330c、330dの円筒孔331に貫通して、左下ガセットプレート310とスプライスプレート330c、330dとを締結する。他方、高力ボルト315eは、下方十字型プレート351の長孔353とスプライスプレート330c、330dの円筒孔331に貫通して、下方十字型プレート351とスプライスプレート330c、330dとを締結する。スプライスプレート330aもまた、スプライスプレート330cと同様に、スプライスプレート330aの裏に設けられたスプライスプレート330e(非図示)との間に左下ガセットプレート310の鋼板310dと、下方十字型プレート351の鋼板351dとを挟み、高力ボルト315eにより締結される。
スプライスプレート330bも同様に、スプライスプレート330bの裏に設けられたスプライスプレート330f(非図示)との間に左下ガセットプレート310の鋼板310dと、下方十字型プレート351の鋼板351dとを挟み、高力ボルト315eにより締結される。スプライスプレート330e、330f(非図示)も同様に、これらの間に左下ガセットプレート310の鋼板310e、下方十字型プレート351の鋼板351eとを挟み、高力ボルト315eにより締結される。このようにして、第3のブレース350が第3の構造体300に取り付けられる。
【0092】
スプライスプレート330a~330hにおいて鋼板351d、351eと接触する面は、鋼板351d、351eとの間で所定の摩擦係数を有するように加工される。摩擦係数は、相対的に低い値が好ましく、例えば0.45未満が好ましく、あるいは0.1~0.4が好ましく、より好ましくは0.15~0.35、さらに好ましくは0.2~0.35である。加工は、例えば亜鉛メッキ、黒皮(酸化皮膜)処理、新明丹塗装、磨き肌加工である。第3のブレース350との間において、亜鉛メッキでは例えば摩擦係数0.1~0.3が得られ、黒皮処理では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られ、新明丹塗装では例えば摩擦係数0.15~0.25が得られ、磨き肌加工では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られる。
【0093】
第3の構造体300及び第3のブレース350の動きは、第1の実施形態と同様であり、図5及び6に示されるため,説明を省略する。
【0094】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得る。
【0095】
なお、スプライスプレート330a~330h及び右上側のスプライスプレート340、並びに下方十字型プレート351、上方十字型プレート352に摩擦係数を低くする加工を施さず、高力ボルト315a~315iの代わりに普通ボルトを用いてもよい。スプライスプレート330a~330hと下方十字型プレート351及び上方十字型プレート352とが、また、スプライスプレート340と右上側の下方十字型プレート及び上方十字型プレートとが、普通ボルトの支圧又はせん断耐力に期待して接合される。普通ボルト使用時は、高力ボルト使用時よりも低い軸力で締め付けられるため、摩擦係数を低くする加工を施さずとも、各部材どうしの間に生じる摩擦力は、高力ボルト使用時よりも低くなる。
【0096】
なお、上方十字型プレート352と下方十字型プレート351について、両方に長孔353を設ける態様について説明したが、上方十字型プレート352と下方十字型プレート351のいずれか一方のみに長孔353を設けてもよい。このとき、長孔353の長手方向長さは、両方に長孔353が設けられる場合と比較して、略倍にしてもよい。
【0097】
なお、上方十字型プレート352と下方十字型プレート351について、長孔353を設ける態様について説明したが、上方十字型プレート352と下方十字型プレート351には長孔353でなく円形貫通孔を設け、左下ガセットプレート310と右上ガセットプレート320の両方、あるいはいずれか一方のみに長孔353を設けてもよい。この場合、第3の構造体300は、左下ガセットプレート310と、スプライスプレート330a~330hと、各々8本の高力ボルト315a~315iとから主に構成される。そして、いずれか一方のみに長孔353を設けるとき、長孔353の長手方向長さは、両方に長孔353が設けられる場合と比較して、略倍にしてもよい。
【0098】
次に、本発明の第4の実施形態による第4の構造体400について図10を用いて説明する。特に説明がない限り、本実施形態において、第1~第3の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態では、第4のブレース(ブレース部材)450a、450bがK型配置である点、及び第4のブレース450a、450bがピン接合によって第4の構造体400に接合されている点が他の実施形態と異なる。K型配置は、左右下方の隅角と、上梁の中間とにガセットプレートを設け、上梁の中間のガセットプレートと左右下方の隅角に設けたガセットプレートとの間に各々第4のブレース450a、450bを配置したものである。以下、他の実施形態と異なる点について主に説明する。
【0099】
第4の構造体400は、第4のブレース450a、450bと、接合部材である第4の左下ガセットプレート410、第4の右下ガセットプレート430、及び中上ガセットプレート420と、結合部材である左下ピン415、左上ピン425、右上ピン427、及び右下ピン435とを主に備える。
【0100】
第1の実施形態と比較して、第4の左下ガセットプレート410及び第4の右下ガセットプレート430は、その外形が、第1の左下ガセットプレート110及び第1の右上ガセットプレート120の外形と略同じあるいは対称形状である一方で、複数の長円孔でなく、1つの円孔412、432を各々有する。円孔412、432は、第4の左下ガセットプレート410及び第4の右下ガセットプレート430の厚さ方向、すなわちY軸方向に貫通する。第4の左下ガセットプレート410は、左下方の柱梁接合部101lbに取り付けられ、第4の右下ガセットプレート430は、右下方の柱梁接合部101rbに取り付けられる。
【0101】
中上ガセットプレート420は、厚みを有する長方形の板状部材であって、正面視左下及び右下の角部を落として成る正面視六角形を成す。左下及び右下の角部付近に、中上ガセットプレート420の厚さ方向、すなわちY軸方向に貫通する2つの円孔422l、422rが設けられる。
【0102】
第4のブレース450aは、ピン接合タイプのブレースであって、その一端から互いに平行に突出する2枚の鋼材451を備える。2枚の鋼材451は、同軸の2つの長円形貫通孔を有し、第4の左下ガセットプレート410、第4の右下ガセットプレート430、及び中上ガセットプレート420をそれらの厚さ方向に略隙間無く両側から挟みこむ程度の間隔を有する。第4のブレース450aの他端もまた、同様の鋼材451を備える。長円形貫通孔の幅は、円孔412、432の直径と略同じである。長円形貫通孔と円孔412には左下ピン415又は左上ピン425が貫通し、これにより、第4のブレース450aが第4の左下ガセットプレート410及び中上ガセットプレート420にピン接合される。第4のブレース450bもまた、第4のブレース450aと同様の構成を有し、長円形貫通孔と円孔412には右上ピン427又は右下ピン435が貫通し、これにより、第4のブレース450bが中上ガセットプレート420及び第4の右下ガセットプレート430にピン接合される。
【0103】
第4の左下ガセットプレート410及び第4の右下ガセットプレート430と第4のブレース450aとにおいて互いに接触する2つの面、第4のブレース450aと第4の左下ガセットプレート410及び第4の右下ガセットプレート430とにおいて互いに接触する2つの面、第4のブレース450bと中上ガセットプレート420及び第4の右下ガセットプレート430とにおいて互いに接触する2つの面、中上ガセットプレート420及び第4の右下ガセットプレート430と第4のブレース450bとにおいて互いに接触する2つの面は、接触する面どうしの間で所定の摩擦係数を有するように加工される。摩擦係数は、相対的に低い値が好ましく、例えば0.45未満が好ましく、あるいは0.1~0.4が好ましく、より好ましくは0.15~0.35、さらに好ましくは0.2~0.35である。加工は、例えば亜鉛メッキ、黒皮(酸化皮膜)処理、新明丹塗装、磨き肌加工である。亜鉛メッキでは例えば摩擦係数0.1~0.3が得られ、黒皮処理では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られ、新明丹塗装では例えば摩擦係数0.15~0.25が得られ、磨き肌加工では例えば摩擦係数0.2~0.35が得られる。
【0104】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得る。
【0105】
なお、第4のブレース450a及び第4のブレース450bの両端に長円形貫通孔を設ける態様について説明したが、第4のブレース450a及び第4のブレース450bの一端のみに長円形貫通孔を設けてもよい。このとき、長円形貫通孔の長手方向長さは、両端に長円形貫通孔が設けられる場合と比較して、略倍にしてもよい。第4のブレース450bについても同様である。
【0106】
なお、第4のブレース450aに長円形貫通孔を設ける態様について説明したが、第4のブレース450aに長円形貫通孔でなく円形貫通孔を設け、第4の左下ガセットプレート410及び中上ガセットプレート420の両方、あるいはいずれか一方のみに長円形貫通孔を設けてもよい。この場合、第4の構造体400は、第4の左下ガセットプレート410、第4の右下ガセットプレート430、及び中上ガセットプレート420と、左下ピン415、左上ピン425、右上ピン427、及び右下ピン435とから主に構成される。いずれか一方のみに長円形貫通孔を設けるとき、長円形貫通孔の長手方向長さは、両方に長円形貫通孔が設けられる場合と比較して、略倍にしてもよい。第4のブレース450b、第4の右下ガセットプレート430、及び中上ガセットプレート420についても同様である。
【0107】
次に、本発明の第5の実施形態による第5の構造体について図1及び11を用いて説明する。本実施形態において、第1~第4の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。第1の実施形態と比較して、本実施形態では、2枚のガセットプレートの両方に長孔が設けられず、一方のみに長孔が設けられ、他方には円孔が設けられている点、及び長孔の長軸方向長さが倍である点が異なるが、他の構成は同様である。第5の構造体が変形、すなわち上梁20uが図1において左右に変位する前に、第1のブレース200が第5の構造体に予めとりつけられ、かつ図11(A1)(A2)「設置時」に示されるように、高力ボルト115、125は、長孔112、122内において長手方向中央に予め置かれているものとする。
【0108】
まず、図11(A1)~(C1)を用いて、長孔112が左下ガセットプレート110のみに設けられ、図1において上梁20uが左方に変位し、これにより第1のブレース200に圧縮力が作用する態様について説明する。
【0109】
設置時において、高力ボルト115は、長孔112内において長手方向中央に予め置かれている(図11(A1)参照)。ここで、前述のように、下方取付部210と左下ガセットプレート110とは摩擦接合されている。そこで、下方取付部210と左下ガセットプレート110との間の摩擦力よりも、地震力により加えられる力が小さいときには、第5の構造体はわずかに変形しながらも、下方取付部210と左下ガセットプレート110とは摩擦力により互いに固定されて、第1のブレース200が圧縮力に抵抗する。下方取付部210と左下ガセットプレート110とが摩擦力により互いに固定されている期間、言い換えると、静止状態から軸力が摩擦力を超えて高力ボルト115が長孔112内において重力方向下方に移動しはじめるときまでの期間が期間Aである。
【0110】
そして、変形による軸力が摩擦力を超えると、高力ボルト115は、長孔112内において長手方向中央から下方に移動しはじめ、その後、高力ボルト115が、長孔112において重力方向下方に突き当たる(図11(B1)参照)。高力ボルト115が長孔112において長手方向中央から移動開始した時から重力方向下方に突き当たるまでの期間が期間Bである。期間Bにおいては、高力ボルト115は長孔112内を移動するのみであり、第1のブレース200には期間Aにおけるものと同等の圧縮力が作用しつづけているが、その圧縮力には変化がない。
【0111】
高力ボルト115が長孔112の重力方向下方に突き当たっている状態においてさらに上梁20uが変位し続けると、左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120から第1のブレース200に圧縮力がさらに加えられる。そして、さらに圧縮力が加えられ続けて第1のブレース200の降伏軸力を超えると、第1のブレース200が降伏する。高力ボルト115が長孔112において重力方向下方に突き当たった時、つまり第1のブレース200に圧縮力が作用しはじめた時から、第1のブレース200が降伏するまでの期間が期間Cである。また、第1のブレース200が降伏した時以降の期間が期間Dである。
【0112】
次に、図1において上梁20uが右方に変位し、これにより第1のブレース200に引張力が作用する場合について説明する。
【0113】
設置時において、高力ボルト115は、長孔112内において長手方向中央に予め置かれている(図11(A1)参照)。ここで、前述のように、下方取付部210と左下ガセットプレート110とは摩擦接合されている。そこで、下方取付部210と左下ガセットプレート110との間の摩擦力よりも、地震力により加えられる力が小さいときには、第5の構造体はわずかに変形しながらも、下方取付部210と左下ガセットプレート110とは摩擦力により互いに固定されて、第1のブレース200が引張力に抵抗する。下方取付部210と左下ガセットプレート110とが摩擦力により互いに固定されている期間、言い換えると、後述される、静止状態から軸力が摩擦力を超えて高力ボルト115が長孔112内において長手方向中央から上方に移動しはじめるときまでの期間が期間Aである。
【0114】
そして、変形による軸力が摩擦力を超えると、高力ボルト115は、長手方向中央から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト115が、長孔112において重力方向上方に突き当たる(図11(C1)参照)。高力ボルト115が長孔112において重力方向下方から移動開始した時から重力方向上方に突き当たるまでの期間が期間Bである。期間Bにおいては、高力ボルト115は長孔112内を移動するのみであり、第1のブレース200には期間Aにおけるものと同等の引張力が作用しつづけているが、その引張力には変化がない。
【0115】
高力ボルト115が長孔112の重力方向上方に突き当たっている状態においてさらに上梁20uが変位し続けると、左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120から第1のブレース200に引張力がさらに加えられる。そして、引張力が加えられ続けて第1のブレース200の降伏軸力を超えると、第1のブレース200が降伏する。高力ボルト115が長孔112において重力上方に突き当たった時、つまり第1のブレース200に引張力が作用しはじめた時から、第1のブレース200が降伏するまでの期間が期間Cである。また、第1のブレース200が降伏した時以降の期間が期間Dである。
【0116】
次に、図11(A2)~(C2)を用いて、長孔122が右上ガセットプレート120のみに設けられ、図1において上梁20uが左方に変位し、これにより第1のブレース200に圧縮力が作用する態様について説明する。
【0117】
設置時において、高力ボルト125は、長孔122内において長手方向中央に予め置かれている(図11(A2)参照)。ここで、前述のように、上方取付部220と右上ガセットプレート120とは摩擦接合されている。そこで、上方取付部220と右上ガセットプレート120との間の摩擦力よりも、地震力により加えられる力が小さいときには、第5の構造体はわずかに変形しながらも、上方取付部220と右上ガセットプレート120とは摩擦力により互いに固定されて、第1のブレース200が圧縮力に抵抗する。上方取付部220と右上ガセットプレート120とが摩擦力により互いに固定されている期間、言い換えると、静止状態から軸力が摩擦力を超えて高力ボルト125が長孔122内において重力方向上方に移動しはじめるときまでの期間が期間Aである。
【0118】
そして、変形による軸力が摩擦力を超えると、高力ボルト125は、長孔122内において長手方向中央から上方に移動しはじめ、その後、高力ボルト125が、長孔122において重力方向上方に突き当たる(図11(B2)参照)。高力ボルト125が長孔122において長手方向中央から移動開始した時から重力方向上方に突き当たるまでの期間が期間Bである。期間Bにおいては、高力ボルト125は長孔122内を移動するのみであり、第1のブレース200には期間Aにおけるものと同等の圧縮力が作用しつづけているが、その圧縮力には変化がない。
【0119】
高力ボルト125が長孔122の重力方向上方に突き当たっている状態においてさらに上梁20uが変位し続けると、左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120から第1のブレース200に圧縮力がさらに加えられる。そして、さらに圧縮力が加えられ続けて第1のブレース200の降伏軸力を超えると、第1のブレース200が降伏する。高力ボルト125が長孔122において重力方向上方に突き当たった時、つまり第1のブレース200に圧縮力が作用しはじめた時から、第1のブレース200が降伏するまでの期間が期間Cである。また、第1のブレース200が降伏した時以降の期間が期間Dである。
【0120】
図1において上梁20uが右方に変位し、これにより第1のブレース200に引張力が作用する場合について説明する。
【0121】
設置時において、高力ボルト125は、長孔122内において長手方向中央に予め置かれている(図11(A2)参照)。ここで、前述のように、上方取付部220と右上ガセットプレート120とは摩擦接合されている。そこで、上方取付部220と右上ガセットプレート120との間の摩擦力よりも、地震力により加えられる力が小さいときには、第5の構造体はわずかに変形しながらも、上方取付部220と右上ガセットプレート120とは摩擦力により互いに固定されて、第1のブレース200が引張力に抵抗する。上方取付部220と右上ガセットプレート120とが摩擦力により互いに固定されている期間、言い換えると、静止状態から軸力が摩擦力を超えて高力ボルト125が長孔122内において長手方向中央から上方に移動しはじめるときまでの期間が期間Aである。
【0122】
そして、変形による軸力が摩擦力を超えると、高力ボルト125は、長手方向中央から下方に移動しはじめ、その後、高力ボルト125が、長孔122において重力方向下方に突き当たる(図11(C2)参照)。高力ボルト125が長孔122において重力方向下方から移動開始した時から重力方向下方に突き当たるまでの期間が期間Bである。期間Bにおいては、高力ボルト115は長孔112内を移動するのみであり、第1のブレース200には期間Aにおけるものと同等の引張力が作用しつづけているが、その引張力には変化がない。
【0123】
高力ボルト125が長孔122の重力方向下方に突き当たっている状態においてさらに上梁20uが変位し続けると、左下ガセットプレート110及び右上ガセットプレート120から第1のブレース200に引張力がさらに加えられる。そして、引張力が加えられ続けて第1のブレース200の降伏軸力を超えると、第1のブレース200が降伏する。高力ボルト125が長孔122において重力下方に突き当たった時、つまり第1のブレース200に引張力が作用しはじめた時から、第1のブレース200が降伏するまでの期間が期間Cである。このように、第5の構造体が、第1の実施形態による第1の構造体100と同様に機能する。
【0124】
本実施形態によれば、一方のガセットプレートを長孔とすることのみで、第1の実施形態と同様の効果を得る。
【0125】
なお、長孔の長軸方向長さは、第1の実施形態と比較して倍でなくても良く、設計クライテリアに応じて適宜決定される。
【0126】
なお、いずれの実施形態においても、長孔112の正面視における形状は、長円に限定されず、矩形孔又は楕円孔など、高力ボルト及び普通ボルト115、125が構造対角線Lに沿ってその内部で移動可能な形状であればよい。また、長軸の位置、大きさ、及び数は上述のものに限定されず、要求される耐力、あるいはブレースの取付構造に応じて適宜決定される。
【0127】
なお、ブレースを構造体に取り付ける配置は、片流れ配置に限定されず、V型配置やK型配置など、ブレースが有効に機能する配置であればよい。V型配置は、左右上方の隅角と、下梁の中間とにガセットプレートを設け、下梁の中間のガセットプレートと左右上方の隅角に設けたガセットプレートとの間に各々ブレースを配置したものである。K型配置は、V型配置のブレースをXY平面に対して対称に配置したものであり、左右下方の隅角と、上梁の中間とにガセットプレートを設け、上梁の中間のガセットプレートと左右下方の隅角に設けたガセットプレートとの間に各々ブレースを配置したものである。さらに、ブレースの中間から左右下方(あるいは左右上方)の隅角に座屈止め鋼を配置した配置であってもよい。
【0128】
なお、いずれの実施形態においても、ブレースとして、座屈拘束ブレース以外のブレースを用いてもよい。
【0129】
いずれの実施形態においても、ガセットプレートとブレース双方に対して所定の摩擦係数を有する加工を施すとして説明したが、双方に加工するのでなく、いずれか一方のみを加工してもよい。
【0130】
なお、いずれの実施形態においても、柱10は角形鋼管に限定されず、梁20はH鋼に限定されない。これらの種類及び数は例示であって、前述したものに限定されず、他の種類及び数を採ってもよい。
【0131】
なお、本明細書および図中に示した各部材の大きさや数は例示であって、これらの大きさや数に限定されない。また、各部材の素材は例示であって、これらの素材に限定されない。
【0132】
ここに付随する図面を参照して本発明の実施形態が説明されたが、記載された発明の範囲と精神から逸脱することなく、変形が各部の構造と関係に施されることは、当業者にとって自明である。
【符号の説明】
【0133】
10 柱
10r 右柱
10l 左柱
20 梁
20u 上梁
20b 下梁
100 第1の構造体
101ru 柱梁接合部
101lb 柱梁接合部
110 左下ガセットプレート
110a 外側下端面
110b 底面
110c 内側上端面
110i 内側端面
110o 外側端面
111 フランジ
112 長孔
115 高力ボルト
120 右上ガセットプレート
125 高力ボルト
200 第1のブレース
210 下方取付部
211 板状部材
212 板状部材
211a 取付孔
212a 取付孔
220 上方取付部
221 板状部材
222 板状部材
221a 取付孔
222a 取付孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11