(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ニッケル微粒子組成物、接合構造体及び接合方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20221025BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20221025BHJP
C22C 5/04 20060101ALI20221025BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20221025BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20221025BHJP
B22F 1/17 20220101ALI20221025BHJP
C22C 5/02 20060101ALI20221025BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20221025BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20221025BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20221025BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20221025BHJP
H01L 21/52 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
B22F1/00 M
C22C9/00
C22C5/04
C22C5/06 Z
C22C21/00 A
B22F1/17
C22C5/02
B22F1/054
B22F1/052
H01B1/22 A
H01B1/00 C
H01B1/00 F
H01L21/52 E
(21)【出願番号】P 2018063254
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2017073198
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(72)【発明者】
【氏名】千葉 将之
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岡村 一人
(72)【発明者】
【氏名】松原 典恵
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002741(WO,A1)
【文献】特開2016-188419(JP,A)
【文献】特開2016-069710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/00-33/02
B22F 9/00
H01B 1/00
H01B 1/14-1/24
H01L 21/52
C22C 5/02,5/04,5/06,
9/00,21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A及び成分Bを含有するニッケル微粒子組成物であって、
成分Aは、組成物乾燥体断面の走査型電子顕微鏡観察により測定される平均粒子径が30~200nmの範囲内であ
って、ニッケル元素を原子数濃度にして91%以上含有するニッケル微粒子であり、
成分Bは、以下の条件(i)~(iv)を具備するフィラー粒子、
(i)組成物乾燥体断面の走査型電子顕微鏡観察により測定される平均粒子径が0.5~100μmの範囲内である;
(ii)コア部及び前記コア部を被覆する被覆部から形成されている;
(iii)前記コア部は、ニッケルよりも熱伝導率が高く、かつ、銅、銀、金、白金、アルミニウム、ケイ素のうち1種又は2種以上の金属元素を含む;
(iv)前記被覆部は、ニッケル、パラジウム、金、銀のうち少なくとも1種類の元素、又は、これらの元素と前記コア部を構成する元素との合金を
原子数濃度にして90%以上含む;
であり、
組成物中に含まれるニッケル元素の総量と、前記成分Bのフィラー粒子のコア部の主要元素の重量比(ニッケル元素:主要元素)が5:95~80:20であり[ここで、コア部の主要元素とは、組成物乾燥体断面の任意のフィラー粒子のコア部の中心部分三点について、透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析(EDX)観察を行った際に、金属元素に占める平均の原子数濃度で50%以上観測される元素を意味する]、
前記成分Bの被覆部の平均厚さが0.001μm~1μmの範囲内であることを特徴とする、ニッケル微粒子組成物。
【請求項2】
前記成分Bの被覆部が銅元素を金属元素に占める原子数濃度にして1~30%の範囲内で含むことを特徴とする、請求項1に記載のニッケル微粒子組成物。
【請求項3】
前記成分Aのニッケル微粒子と前記成分Bのフィラー粒子の占める重量割合が、組成物全体に対して70~96重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のニッケル微粒子組成物。
【請求項4】
沸点が100~350℃の範囲内にある有機溶媒を含有し、前記有機溶媒の含有量が、組成物全体に対して4~30重量%の範囲内である、請求項3に記載のニッケル微粒子組成物。
【請求項5】
さらに、全粒子量に対して、0.1~2.5重量%の範囲内で有機バインダーを含有する、請求項3又は4に記載のニッケル微粒子組成物。
【請求項6】
二つの被接合部材が、請求項3~5のいずれか一項に記載のニッケル微粒子組成物中のニッケル微粒子及び被覆部を有するフィラー粒子に由来する接合層により接合されていることを特徴とする接合構造体。
【請求項7】
請求項3~5のいずれか一項に記載のニッケル微粒子組成物を、被接合部材の間に介在させて、還元性ガス雰囲気下で、200℃~400℃の範囲内の温度で加熱することにより、被接合部材の間に接合層を形成し、被接合部材同士を接合することを特徴とする、接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造に利用可能なニッケル微粒子組成物、それを用いた接合方法及び接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省電力化への取り組みのなかで、インバータなどの電力変換器における、電力変換効率の高効率化が進められている。その中でも、電力損失の低減が期待できる次世代のパワーデバイス半導体材料として、SiC(シリコンカーバイド)の実用化が検討されている。しかしながら、現行のSi(シリコン)パワーデバイスの駆動温度が125℃程度であるのに対して、SiCでは250℃以上が想定されるため、SiCを使用したパワー半導体チップと実装基板(以下、「被接合部材」ともいう)を接合する接合材料(以下、「接合材」ともいう。)には、250℃以上の高温領域での駆動時の信頼性が必要となる。
【0003】
従来、接合材としては、はんだ材料が使用されてきた。このはんだ材料については、2006年にEUにおいて施行されたRoHS指令により、鉛フリーのはんだ材料が求められているが、上記高温領域での駆動に耐えうる鉛フリーのはんだ材料やその代替材料は、得られていない。
【0004】
はんだ材料に代わり、金属微粒子を利用した接合材が検討されている。例えば特許文献1では、サブマイクロ~数マイクロメートルサイズの銀微粒子接合材を200℃で揮発性成分を揮散させ、300℃あるいは350℃で加熱することにより20~40MPa程度の接合強度が得られている。
【0005】
また、銀微粒子に替えて、より低コストである銅微粒子を用いる接合材も開示されている。例えば特許文献2には、粒径1~35nmの銅ナノ粒子と35~1000nmの銅粒子を含む接合材を水素中400℃5分間で加圧焼結させることにより、40MPa以上の高い接合強度を示す材料が提案されている。
【0006】
以上のように金属微粒子系接合材(「ナノシンター系接合材」ともいう。)の開発が進められているが、銀微粒子系(銀シンター系)は高コストであり、加えて冷熱サイクルなどの信頼性試験を実施するとボイドの粗大化や接合層脆化の問題がある。一方、銅微粒子系(銅シンター系)は低コストではあるものの、酸化による劣化が起こり、剥離やクラック等が発生する問題がある。
【0007】
そこで、本発明者は、低コストであり、かつ、酸化による劣化が起きにくく高い信頼性が期待できる、ニッケル(Ni)微粒子系の接合材を検討してきた。例えば、非特許文献1においては、90nmのNiナノ粒子を用いた接合材が、-40℃~+250℃の冷熱サイクル試験において、1000cyc経過後においても接合強度は10MPa以上を維持し、更に断面観察においてはクラックが観察されない、という高い信頼性を示すことを開示した。
【0008】
しかし、ニッケルは、熱伝導率が90.9W/m・Kであり、銀(420W/m・K)や銅(398W/m・K)と比較して低く、上記高温領域での駆動を担保するうえで重要な特性である、放熱性の更なる向上が期待されていた。
【0009】
また、接合材は実用上、被接合部材同士を接合し、その間の熱伝導を担うものであることから、接合層のみを取り出した単純な熱伝導性ではなく、接合構造体の状態で高い熱伝導性を示すことのできる材料を開発する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-236494号公報
【文献】特開2013-91835号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】スマートプロセス学会誌 Vol.4 No.4 190頁~195頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高信頼性と、接合状態での優れた熱伝導性を両立可能な接合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、粒子間焼結を起こす平均粒子径が30~200nmのニッケル微粒子と、接合層全体の体積収縮を少なくし、被接合部材との間の剥離を抑え、なおかつ高熱伝導性を確保するフィラー粒子とを含有するニッケル微粒子組成物により、上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
本発明のニッケル微粒子組成物は、次の成分A~B;
A)組成物乾燥体断面の走査型電子顕微鏡観察により測定される平均粒子径が30~200nmの範囲内であり、ニッケル元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含有するニッケル微粒子、
B)以下の条件(i)~(iv)を具備するフィラー粒子、
(i)組成物乾燥体の走査型電子顕微鏡による断面観察から算出される平均粒子径が0.5~100μmの範囲内である;
(ii)コア部及び前記コア部の表面を被覆する被覆部から形成されている;
(iii)前記コア部は金属元素の総量が原子数濃度にして50%以上である;
(iv)前記被覆部は、ニッケル、パラジウム、金、銀のうち少なくとも1種類の元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含む;
を含有することを特徴とする。ここで、金属元素に占める原子数濃度とは、金属とケイ素の原子数濃度の合計値を100%とした際の、注目する元素の含有率を示す。
【0015】
また、本発明のニッケル微粒子組成物は、前記成分Bのコア部が銅、銀、金、白金、アルミニウム、ケイ素のうち少なくとも1種類の元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明のニッケル微粒子組成物は、前記成分Bのコア部が銅元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含んでいてもよい。また、前記成分Bの被覆部が銅元素を金属元素に占める原子数濃度にして1~30%の範囲内で含んでいてもよい。
【0017】
また、本発明のニッケル微粒子組成物は、組成物中に含まれるニッケル元素の総量と、前記成分Bのフィラー粒子のコア部の主要元素の重量比(ニッケル元素:主要元素)が5:95~80:20であってもよい。ここで、コア部の主要元素とは、組成物乾燥体断面の任意のフィラー粒子中心部分三点について、透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析(EDX)観察を行った際に、金属元素に占める平均の原子数濃度で50%以上観測される元素のことを指す。
【0018】
また、本発明のニッケル微粒子組成物は、前記成分Bの被覆部の平均厚さが0.001μm~1μmの範囲内であってもよい。
【0019】
また、本発明のニッケル微粒子組成物は、前記成分Aのニッケル微粒子と前記成分Bのフィラー粒子の占める重量割合(固形分濃度)が組成物全体に対して70~96重量%の範囲内であることを特徴とする。
【0020】
本発明のニッケル微粒子組成物は、さらに、沸点100~350℃の範囲内にある有機溶媒を含有してもよく、前記有機溶媒の含有量が、組成物全体に対して4~30重量%の範囲内であってもよい。また、さらに、全粒子量に対して、0.1~2.5重量%の範囲内で有機バインダーを含有してもよい。
【0021】
また、本発明の接合構造体は、二つの被接合部材が、前記ニッケル微粒子組成物中のニッケル微粒子及び被覆部を有するフィラー粒子に由来する接合層により接合されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の接合方法は、前記ニッケル微粒子組成物を、被接合部材の間に介在させて、還元性ガス雰囲気下で、200~400℃の範囲内の温度で加熱することにより、被接合部材の間に接合層を形成、被接合部材同士を接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のニッケル微粒子組成物、接合方法によれば、ニッケル微粒子系の接合材の特長である、低コスト、高信頼性を維持しつつ、さらに、優れた熱伝導性を有する接合層を形成することが可能になる。そのため、例えば、250℃以上の高温領域での駆動時の信頼性が必要となる、SiCを使用したパワー半導体チップと実装基板を接合するための接合材として、好適に使用することができる。また、LEDと電極との接合といった、その他の放熱性が求められる接合構造体の製造にも使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
<ニッケル微粒子組成物>
本発明のニッケル微粒子組成物は、次の成分A、Bを含有する。
成分A)組成物乾燥体断面の走査型電子顕微鏡観察により測定される平均粒子径が30~200nmの範囲内であり、ニッケル元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含有するニッケル微粒子、
成分B)組成物乾燥体の走査型電子顕微鏡による断面観察から算出される平均粒子径が0.5~100μmの範囲内であるフィラー粒子であって、前記フィラー粒子はコア部および被覆部から形成され、前記コア部は金属元素の総量が原子数濃度にして50%以上であり、前記コア部の表面にニッケル、パラジウム、金、銀のうち少なくとも1種類の元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含む被覆部が形成されていることを特徴とするフィラー粒子。
以下に、成分A及び成分Bの形態例について説明する。
【0026】
(成分A:ニッケル微粒子)
成分Aは、ニッケルを含む金属元素を原子数濃度にして50%以上含有する微粒子であり、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が30~200nmの範囲内である。ここで、原子数濃度は、組成物乾燥体の断面を透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析を行うことで測定可能である。例えば、接合層を形成するために、本ニッケル微粒子組成物を300℃の温度で加熱して焼結させる場合は、成分Aの平均粒子径は30~100nmの範囲内であることが好ましく、350℃の温度で加熱して焼結させる場合は、成分Aの平均粒子径は30~160nmの範囲内であることが好ましい。成分Aの平均粒子径が30nm未満であると、成分Aどうしが凝集しやすくなり、成分Bとの均一な混合が困難となる。一方、成分Aの平均粒子径が200nmを超えると、ニッケル微粒子同士の、又は、ニッケル微粒子とフィラー粒子の間の焼結が不十分となり、信頼性、熱伝導性の低下を招く。
【0027】
成分Aの平均粒子径の測定は、組成物乾燥体の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより行う。組成物乾燥体は、例えばガラス基板に組成物を100μm以上の厚みで塗布し、100℃30分乾燥させることにより得られる。この乾燥体をエポキシ樹脂包埋した後に、追込み研磨とクロスセクションポリッシャ処理を行って断面出しを実施し、得られた断面サンプルの走査型電子顕微鏡による断面写真から、無作為に200個のニッケル微粒子を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算した時の粒子径(円相当粒子径)を算出し、平均粒子径を導く。なお、断面観察におけるニッケル微粒子の見分け方は、粒子中心部分三点について透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析を行い得られる構成元素の情報から確認できる。
【0028】
また、成分Aは、ニッケル元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含有する。この範囲であれば、これを用いて形成する接合層が、酸化劣化しにくいため、長期使用時において接合層内のクラック発生を抑制し、信頼性低下、熱伝導性低下を回避可能である。なお、金属元素に占める原子数濃度は、組成物乾燥体の断面を透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析を行うことで測定可能である。成分Aの製造方法に制限はなく、気相法、湿式法など様々な手法が利用できる。
【0029】
(成分B:フィラー粒子)
成分Bは、組成物乾燥体の走査型電子顕微鏡による断面観察から算出される平均粒子径が0.5~100μmの範囲内であるフィラー粒子であって、前記フィラー粒子はコア部および被覆部から形成される。コア部及び被覆部は、それぞれ、金属元素の総量が原子数濃度にして50%以上である。ここで、原子数濃度は、組成物乾燥体の断面を透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析を行うことで測定可能である。前記コア部には、ニッケル、パラジウム、金、銀のうち少なくとも1種類の元素を金属元素に占める原子数濃度にして50%以上含む被覆部が形成されている。
【0030】
成分Bは、接合する被接合体間に存在し、被接合体間の熱伝導を良好に行う観点、及び、加熱による接合層形成時の体積収縮を抑制するという観点から、組成物乾燥体の走査型電子顕微鏡による断面観察から算出される平均粒子径が0.5~100μmの範囲内であり、好ましくは、0.5~30μmである。成分Bの平均粒子径が0.5μm未満であると、加熱による接合層形成時において体積収縮が大きく、被接合体どうしが十分に接合しないため、信頼性や接合構造体としての熱伝導性の低下を招く。一方、成分Bの平均粒子径が100μmを超えると、被接合体への塗布性が悪化する、接合層厚みの調整が困難となるなどの不具合が生じる。
【0031】
成分Bの平均粒子径の測定は、組成物乾燥体の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより確認できる。成分Aと同様の方法で組成物乾燥体から粒子径(円相当粒子径)を算出し、平均粒子径を導く。
【0032】
成分Bのコア部は、熱伝導性を向上させるという観点から、ニッケルよりも熱伝導率が高い金属を用いることが好ましい。ここで金属には、ケイ素を含む。接合層を形成した際に優れた熱伝導性を発現させるため、熱伝導率が100W/m・K以上である材質が、より好ましい。
【0033】
成分Bのコア部を構成する成分としては、好ましくは、単体としての熱伝導率が100W/m・K以上である、例えば銅、銀、金、白金、アルミニウム、ケイ素などが挙げられ、これらのうち少なくとも1種類の元素をコア部に金属元素に占める原子数濃度として50%以上含むことが好ましい。ここで、金属元素に占める原子数濃度は、組成物乾燥体の断面を透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析を行うことで測定可能である。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよい。より好ましくは、高熱伝導性と低コストを並立させる観点から、コア部は、金属元素に占める原子数濃度として銅元素を50%以上含む材質によって形成されていることが好ましい。また、コア部が銅元素を原子数濃度にして50%以上含む材質である場合、銅元素以外の含有成分は限定しない。好ましくは、銅元素以外の成分としては、例えば、単体としての熱伝導率が100W/m・K以上である、銀、金、白金、アルミニウム、ケイ素である。コア部の形状は、例えば球状、多面体形状、繊維状、スパイク形状、フレーク形状など様々なものが利用できる。
【0034】
成分Bのコア部の製造方法は限定されず、市販品でもよい。例えば、福田金属箔粉工業社製銅粉(製品名:Cu-HWQ)、古河ケミカルズ社製銅粉(製品名:FMC-10C)などの市販品を好ましく利用できる。
【0035】
また、成分Bの被覆部は、ニッケル微粒子との間で金属拡散を促進する効果を有し、コア部とニッケル微粒子の間の接着を強化することで、結果として信頼性を向上させる効果を有する。更に、被接合部材との間で金属拡散を促し、コア部と被接合部材の接着を促進することができるため、ニッケル微粒子・コア部間、コア部・被接合部材間における効率的な熱伝導を達成でき、接合層単体のみならず、接合構造体としても高熱伝導性を実現可能となる。また、コア部の酸化を妨げる効果を有し、信頼性の向上に寄与する。なお、被覆部を構成する主要元素は、コア部を構成する主要元素とは異なる金属元素であることが好ましい。ここで、コア部又は被覆部の主要元素とは、組成物乾燥体断面の任意のフィラー粒子のコア部の中心部分三点、又は被覆部の三点について、透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析(EDX)観察を行った際に、金属元素に占める平均の原子数濃度で50%以上観測される元素のことを指す。
【0036】
成分Bの被覆部は、ニッケル、パラジウム、金、銀のうち少なくとも1種類の元素の含有量が、金属元素に占める原子数濃度にして50%以上である。この濃度を下回ると、ニッケル微粒子とフィラー粒子の間の接着や、被接合部材とフィラー粒子の間の接着が悪化するため、接合構造体としての熱伝導性、信頼性が低下する。ニッケル、パラジウム、金、銀のうち少なくとも1種類の元素の好ましい含有量は、原子数濃度にして60%以上である。被覆部の元素含有量は、透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析による点分析を被覆部の三点に対して実施し平均することにより得られる。なお、被覆部とコアの境界は、透過型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析によるライン分析で、被覆部の成分が原子数濃度にして40%を示すところと定義する。
【0037】
成分Bの被覆部を構成する好ましい元素は、ニッケル微粒子との相互拡散性に優れより高い信頼性が得られる点から、ニッケル又は金である。被覆部の外観形状は、球状、多面体形状、繊維状、スパイク形状、フレーク形状など様々なものが利用できる。
【0038】
また、前記含有率の条件が満たされるのであれば、被覆部は、コア部を構成する主要元素との間の合金であってもよい。例えば、コア部の主要元素が銅であり、被覆部に銅を含む場合、被覆部における銅の含有率は原子数濃度にして1~30%の範囲内が好ましい。銅の含有率が原子数濃度にして1%以上あると、被接合部材の銅電極との間の拡散が促進され、剥離が抑えられ、信頼性が向上する。被覆部における銅の含有率が原子数濃度にして30%を超えると、接合層の耐酸化性が低下し、信頼性の低下につながる。
【0039】
また、成分Bの被覆部の平均厚さは、0.001μm~1μmの範囲内であることが好ましい。被覆部の平均厚さがこの範囲内にあることにより、ニッケル微粒子と被覆部の間での金属拡散や被覆部と被接合部材間の接着が十分起こり、高信頼性、接合構造体としての高熱伝導性に寄与する。被覆部の平均厚さは、成分Bを含有する組成物乾燥体の透過型電子顕微鏡による断面観察から測定することができる。
【0040】
また被覆部は、ニッケル微粒子組成物中の成分Bのすべてのフィラー粒子に形成されていなくてもよいが、全フィラー粒子に対する数量にして50%以上のフィラー粒子のコア部に対して形成されていることが好ましい。フィラー粒子やコア部の数量は、組成物乾燥体の走査型電子顕微鏡による断面観察から数えることができる。さらに、被覆部は、必ずしもコア部表面の全面を被覆している必要はなく、被覆部に欠けがあってもよいが、被覆率が50%以上であることが好ましい。ここで、被覆率とは、フィラー粒子の被覆されている部分の外周長とコア部の外周長の比率を指し、組成物乾燥体の走査型電子顕微鏡による断面観察から算出することができる。
【0041】
成分Bの作製には、公知の様々な手法を用いることができる。例えば、コア部(粒子)の表面に、粉体めっき、スパッタリング、液相還元法などで被覆部を形成する方法が挙げられる。また、被覆部に合金を形成する場合、金属濃度の制御は、粉体めっきや液相還元法における金属イオンの添加濃度やプロセス時間制御、コア部との金属拡散などによって実施可能である。
【0042】
(重量比)
ニッケル微粒子組成物は、組成物中に含まれるニッケル元素の総量と、コア部の主要元素の重量比が5:95~80:20の範囲内であることが好ましい。ニッケル元素の総量とコア部の主要元素の重量比がこの範囲内にあることにより、接合層中に十分な熱伝導経路を形成することができるため、接合構造体としての熱伝導性向上に寄与する。上記範囲よりもニッケル元素の割合が大きくなると、接合層の形成時に、体積収縮が大きくなり、信頼性の低下、熱伝導性の低下がみられる傾向にある。また、コア部の主要元素の割合が大きくなると、ニッケル微粒子とフィラー粒子の間の接点数が少なくなる傾向にあるため、信頼性、熱伝導性が低下する。
なお、重量比は、例えば組成物乾燥体のICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、ICP-OES/ICP-AES)及び/又は走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析による粒子の断面観察により測定することができる。本手法では、例えばニッケル被覆フィラー粒子を用いた場合には、ニッケル微粒子とニッケル被覆膜の区別は出来ないが、接合構造体の熱伝導性は組成物内の総ニッケル元素量とコア部の主要元素量の比率に左右されるため、作用効果の発現に問題はない。
【0043】
ニッケル微粒子組成物におけるニッケル微粒子とフィラー粒子の合計含有量(固形分濃度)は、70~96重量%の範囲内であることが好ましく、85~95重量%の範囲内がより好ましい。含有量が70重量%未満であると、接合層の厚みが薄くなる場合があり、例えば塗布などを複数回繰り返す必要が生じてムラの原因となり、また十分な接合強度が得られない場合がある。一方、固形分濃度が96重量%を超えると、ペーストとしての流動性が失われ、塗布が困難になるなど使用性が低下する傾向にある。
【0044】
本実施の形態のニッケル微粒子組成物は、さらに、任意成分として、沸点100~350℃の範囲内にある有機溶媒を含有することができる。ニッケル微粒子組成物に含有される溶媒の沸点は、実使用上の観点から、150~260℃の範囲内が好ましい。使用する有機溶媒の沸点が100℃未満であると、長期安定性に欠ける傾向があり、350℃を超えると、加熱時に揮発せずに、接合層中に残炭が生じ、粒子どうしの焼結や金属間化合物の形成を阻害する傾向がある。ニッケル微粒子組成物は、高沸点の有機溶媒を添加後、濃縮し、ペーストの形態とすることが好ましい。
【0045】
沸点が100~350℃の範囲内にある溶媒として、例えば、アルコール系、芳香族系、炭化水素系、エステル系、ケトン系、エーテル系の溶媒が使用できる。アルコール系溶媒の例としては、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、イソボルニルシクロヘキサノールなどの炭素数7以上の脂肪族アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、テトラメチレングリコール、メチルトリグリコール等の多価アルコール類、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール等のテルピネオール類、さらにエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルメトキシブタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-フェノキシエタノール、1-フェノキシ-2-プロパノール等のエーテル基を有するアルコール類を挙げることができる。また、炭化水素系の溶媒として、例えば、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカンなどを挙げることができる。
【0046】
本実施の形態のニッケル微粒子組成物における有機溶媒の含有量は、組成物全体に対して4~30重量%の範囲内であることが好ましく、5~15重量%の範囲内が好ましい。接合材における有機溶媒の含有量が4重量%未満であると、流動性が低下して接合材としての使用性が低下する傾向にある。一方、有機溶媒の含有量が30重量%を超えると、例えば塗布などを複数回繰り返す必要が生じてムラの原因となり、また十分な接合強度が得られない傾向にある。
【0047】
また、本発明におけるニッケル微粒子組成物では、任意成分として、有機バインダーを含有することができる。有機バインダーは、成分Aのニッケル微粒子と成分Bのフィラー粒子とを連結させ、広範囲のネットワーク構造を作ることにより、高い接合強度を有する塊状の接合層の形成に寄与する。
【0048】
上記有機バインダーとしては、有機溶媒に溶解可能なバインダーであれば特に制限なく使用できるが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ナイロン樹脂、アセタール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらの中でも、ポリビニルアセタール樹脂が好ましく、特に、分子内に、アセタール基のユニットと、アセチル基のユニットと、水酸基のユニットとを有するポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0049】
また、上記有機バインダーは、成分A及び成分Bの沈降を抑制し、十分な分散状態に維持するため、分子量が30000以上のものが好ましく、100000以上のものがより好ましい。
【0050】
また、上記有機バインダーは、例えば、積水化学工業社製ポリビニルアセタール樹脂(エスレックBH-A;商品名)などの市販品を好ましく用いることができる。
【0051】
また、ニッケル微粒子組成物における上記有機バインダーの配合量は、全粒子量に対して、0.1~2.5重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.3~1.5重量%の範囲内であり、更に好ましくは0.5~1.2重量%である。ここで、「全粒子量」は、成分A及び成分Bの合計の重量を意味する。有機バインダーの配合量が上記範囲を超えると、成分A及び成分Bとの間の焼結が不十分になる傾向にあり、上記範囲を下回ると、配合の効果が得られない傾向にある。
【0052】
上記ニッケル微粒子組成物は、上記成分以外に、任意成分として、例えば増粘剤、チキソ剤、レベリング剤、界面活性剤などを含むことができる。
【0053】
(ニッケル微粒子組成物の調製)
ニッケル微粒子組成物は、成分Aのニッケル微粒子、成分Bのフィラー粒子と任意成分を、均質に混合することによって調製できる。混合方法は、特に限定されるものではなく、公知のミキサーなどの混合手段を用いることができる。
【0054】
(接合方法)
また、上記ニッケル微粒子組成物を、接合材として被接合部材の間に介在させて、還元性ガス雰囲気下で、例えば200~400℃の範囲内、好ましくは230~350℃の範囲内の温度で加熱することにより、被接合部材の間に接合層を形成し、被接合部材どうしを接合することができる。ここで、「還元性ガス雰囲気下」とは、水素ガスを含む雰囲気下、ギ酸を含む雰囲気下が挙げられる。好ましくは、還元効率の良い、水素ガスを含む雰囲気下である。
この接合方法(以下「本接合方法」という。)において、A成分どうし、又はA成分とB成分との間の焼結を進行させるためには、A成分及びB成分の被覆部表面を露出させることが必要であると考えられる。これらの表面に存在する有機物を揮発又は分解させ、かつ、不動態層を除去する加熱温度は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。一方、加熱温度が400℃を超えると、被接合部材としての半導体デバイス周辺にダメージを与える場合がある。
【0055】
本接合方法は、例えば、ペースト状の接合材を一対の被接合部材の片方又は両方の被接合面に塗布する工程(塗布工程)、被接合面どうしを貼り合せ、好ましくは温度200~400℃の範囲内、より好ましくは250~400℃の範囲内、更に好ましくは250~350℃の範囲内で加熱することにより、接合材を焼結させる工程(焼成工程)を含むことができる。
【0056】
塗布工程では、例えばスプレー塗布、インクジェット塗布、印刷等の方法を採用できる。接合材は、目的に応じて、例えばパターン状、アイランド状、メッシュ状、格子状、ストライプ状など任意の形状に塗布することができる。塗布工程では、塗布膜の厚みが、例えば50~200μmの範囲内となるように、接合材を塗布することが好ましい。このような厚みで塗布をすることで、接合部分の欠陥を少なくできるため、電気抵抗の上昇や接合強度の低下を防止できる。
【0057】
また、焼成工程では、被接合部材どうしを、加圧下又は無加圧下で行う。加圧下で行う場合、好ましくは40MPa以下で加圧する。40MPa以下又は無加圧下で製造することで、焼成工程を簡略化できる。
【0058】
以上の工程によって、二つの被接合部材が、ニッケル微粒子組成物中のニッケル微粒子及び被覆部を有するフィラー粒子に由来する接合層により接合されている接合構造体を製造できる。
【0059】
本接合方法は、例えば、Si系、SiC系の半導体材料の接合や、電子部品の製造工程で利用できる。ここで、電子部品としては、主に半導体装置、エネルギー変換モジュール部品などを例示できる。電子部品が半導体装置である場合、例えば、半導体素子の裏面と基板との間、半導体電極と基板電極との間、半導体電極と半導体電極との間、パワーデバイス若しくはパワーモジュールと放熱部材との間などの接合に適用できる。
【0060】
電子部品を接合させる際は、接合強度を高めるため、予め被接合面の片方又は両方に、Au,Cu,Pd,Ni,Ag,Cr,Ti、又は、それらの合金などの材質の接触層を設けておくことが好ましい。また、被接合面の材質が、SiCもしくはSiあるいはそれらの表面の酸化膜である場合は、Ti,TiW,TiN,Cr,Ni、Pd,V、又は、それらの合金などの材質の接触層を設けておくことが好ましい。
【0061】
以上の接合構造体において、ニッケルは空気中で金属表面に酸化ニッケルの酸化不動態膜を形成することで、一定以上の酸化進行を抑えることができるため、製造直後や製品としての使用後においても、クラックや接合界面剥離の発生が抑制可能であるという、高い接合信頼性を有する。信頼性は、例えばSiダイと放熱基板をニッケル微粒子組成物を用いて接合し、冷熱サイクル試験を大気条件下で実施し、ダイシェア強度の変化から評価することができる。
【0062】
本発明のニッケル微粒子組成物は、接合層中に分散された高熱伝導性を有するB成分のフィラー粒子による熱伝達経路の形成効果と、酸化耐性を有するニッケル微粒子と接合層収縮を抑制するフィラー粒子によるクラック抑制効果により、接合層全体の熱伝導性が向上する。また、フィラー粒子は、被覆部による被接合部材との接着促進効果と、接合層収縮抑制による被接合部材との界面剥離抑制効果を有するため、本発明のニッケル微粒子組成物を使用して得られる接合構造体は、界面剥離による断熱が発生せず、高い熱伝導性を示す。
【0063】
従って、本発明のニッケル微粒子組成物は、高信頼性と高熱伝導性を両立することが可能であり、高温領域で使用する各用途について、特に好適に使用することができる。例えば、250℃以上の高温領域での駆動時の信頼性が必要となる、SiCを使用したパワー半導体チップと実装基板を接合するための接合材として、好適に使用することができる。その他、Siを使用した半導体チップと実装基板との接合や、LEDと電極との接合等にも使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例によって制約されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0065】
[ニッケル微粒子スラリーの作製]
以下の手順に従いニッケル微粒子スラリーを作製した。なお、使用した試薬の分量や加熱処理時間などは表1及び表2に示した。
【0066】
[合成例1]
182重量部(910g)のオレイルアミンに、18.5重量部(92.5g)のギ酸ニッケル二水和物を加え、窒素ガスフロー下で、120℃で10分間加熱することでニッケル塩を溶解し、錯化反応液1を得た(以上、錯化反応工程)。この錯化反応液1に、121重量部(605g)のオレイルアミンを加え、マイクロ波を用いて180℃で10分間加熱することで、ニッケル微粒子スラリー1を得た(以上、加熱処理工程)。
【0067】
[スラリーの調製]
得られたニッケル微粒子スラリー1を100重量部分取し、これに20重量部のオクタン酸を加え、15分間撹拌した後、トルエンで洗浄し、ニッケルスラリー1(固形分濃度65.0重量%)を調製した(以上、ニッケルスラリー調製工程)。
試薬の分量並びにプロセス条件、並びにニッケルスラリー1の固形分濃度を、表1及び表2に示す。
【0068】
[合成例2~4]
各原料の重量部、反応温度、反応時間を表1及び表2の通りとした他は、合成例1と同様の方法で、錯化反応液2~4、ニッケル微粒子スラリー2~4、ニッケルスラリー2~4を得た。試薬の分量並びにプロセス条件、並びにニッケルスラリー2~4の固形分濃度を、表1及び表2に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
[ニッケルペーストの調製]
以下の手順に従いニッケルペーストを作製した。なお、使用した試薬名や分量などは表3及び表5に示した。
【0072】
[実施例1]
コア部となる銅粒子(古河ケミカルズ社製FMC-10C)に、還元法によりニッケルの被覆部を形成し、銅粒子のコア部と、ニッケルの被覆部を有するフィラー粒子を調製した。
次に、ニッケルスラリー1を100重量部、フィラー粒子を160重量部、溶剤としてヘキシルカルビトールを16.0重量部、バインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂(エスレックBH-A;積水化学工業社製)を1.23重量部のそれぞれを計量して混合し、60℃、100hPaで濃縮し、245重量部のニッケルペースト1(固形分濃度:93重量%)を得た。
【0073】
[実施例2~28、比較例1~4]
使用した原料の組成、フィラー粒子の被覆部の種類を表3及び表5の通りとした他は、実施例1と同様の方法でニッケルペーストを得た。比較例1のニッケルペーストでは、フィラー粒子として、被覆部を有しないニッケル粒子を、比較例2及び比較例3のニッケルペーストでは、フィラー粒子として、被覆部を有しない銅粒子を用いた。比較例4として、汎用の鉛フリーはんだ(スズ-銀-銅)を用いた。
【0074】
[熱伝導性測定用サンプルの作製]
ステンレス製マスク(マスク幅;10.0mm×長さ;10.0mm×厚さ;0.3mm)を用いて、ニッケルペーストを銅基板(10mm×10mm×1mmt)上に塗布して塗布膜を形成し、同じく銅基板(10mm×10mm×1mmt)で挟んだ。これを水素を3体積%混合した窒素ガスフロー下で焼成を行った。得られた焼成体を熱伝導性測定用サンプルとした。
【0075】
[熱伝導性の評価]
熱伝導性の評価は、前記熱伝導性測定用サンプルを用いてレーザーフラッシュ法により接合構造体の熱伝導率を測定し、測定値がはんだに比べて2倍以上である場合を◎、1.5倍以上2倍未満である場合を○、1.5倍未満である場合を×とした。
【0076】
[接合サンプルの作製]
ステンレス製マスク(マスク幅;2.0mm×長さ;2.0mm×厚さ;0.1mm)を用いて、試料を基板に塗布した。基板は、信頼性評価1ではNiめっきを施した銅貼りの窒化ケイ素基板(15mm×15mm×0.9mmt)を、信頼性評価2では銅貼りの窒化ケイ素基板(15mm×15mm×0.9mmt)を用いた。塗布膜を形成した基板に対して予備加熱を行った後、シリコンダイ(幅;2.0mm×長さ;2.0mm×厚さ;0.40mm)を搭載し、水素を3体積%混合した窒素ガスフロー下で焼成を行った。なお、シリコンダイは、Si基板(厚さ;0.40mm)の接合面に、Auをスパッタリングにより製膜したものである。
【0077】
[冷熱サイクル試験]
前項にて作製した接合サンプルを用いて、-40℃/200℃の冷熱サイクル試験を大気下で1,000サイクル実施した。各温度の保持時間は30分とした。
【0078】
[信頼性評価]
[ダイシェア強度測定]
冷熱サイクル試験後の接合サンプルの評価は試験片のダイシェア強度測定により行った。装置は接合強度試験機(デイジ・ジャパン社製、商品名;ボンドテスター4000)を用いた。ダイ側面からボンドテスターツールを、基板からの高さ50μm、ツール速度100μm/秒で押圧し、接合部がせん断破壊したときの荷重をせん断強度(ダイシェア強度)とした。せん断強度が20MPa以上を◎、10MPa以上20MPa未満を〇、10MPa未満を×と評価した。
【0079】
使用した原料、平均粒子径及び組成、フィラー粒子の性状、並びに熱伝導性の評価結果、信頼性の評価結果を、表3、表4、表5、表6に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
各実施例は、高熱伝導性のフィラー粒子を含有するニッケルペーストを使用することによって、フィラー粒子としてニッケル粒子を用いた比較例1や、フィラー粒子として被覆部を有しない銅粒子を用いた比較例2及び比較例3のニッケルペースト、汎用の鉛フリーはんだを用いた比較例4と比べて、接合構造体としての熱伝導性の向上が確認できた。また、各実施例の信頼性は、比較例1とほぼ同等であり、接合材料として好適に利用可能であることが確認できた。
【0085】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。