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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】積層体の加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20221025BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 B
H01L21/78 F
H01L27/146 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018214793
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020087973
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/077792(WO,A1)
【文献】特開2015-207604(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103358032(CN,A)
【文献】特開2017-028259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のイメージセンサーが分割予定ラインで区画され表面に複数形成されたウエーハの表面に透明な接着層を介してガラス基板が配設された積層体を個々のイメージセンサーチップに分割する積層体の加工方法であって、
積層体のガラス基板側から切削ブレードを位置付けて分割予定ラインに対応する領域を切削して接着層に達する切削溝を該ガラス基板に形成する切削溝形成工程と、
ウエーハの裏面側から該ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該ウエーハの分割予定ラインに対応する領域の内部に位置付けて照射し、該ウエーハの内部に連続的に改質層を形成すると共に該改質層から該接着層に達するクラックを形成して分割起点を形成する分割起点形成工程と、
少なくとも該切削溝形成工程の後、該積層体を収容する大きさの開口部を有するフレームに拡張テープを介して該積層体のガラス基板側を支持する積層体支持工程と、
該分割起点形成工程と該積層体支持工程とを実施した後、該拡張テープを拡張して該積層体を該分割起点に沿って形成する分割溝によって個々のイメージセンサーチップに分割する分割工程と、
該分割工程によって形成された該分割溝に水溶性樹脂を充填する水溶性樹脂充填工程と、
該水溶性樹脂が固化、又は半固化した状態で切削ブレードを該ウエーハの裏面に形成された該分割溝に位置付けて切削することにより該改質層を除去する改質層除去工程と、
該拡張テープの該拡張状態を維持した状態で洗浄水を該ウエーハの裏面から供給して該切削溝及び該分割溝に充填された水溶性樹脂を除去する水溶性樹脂除去工程と、
から少なくとも構成される積層体の加工方法。
【請求項2】
該分割工程を実施する前に予め該ウエーハの裏面に水溶性樹脂を被覆しておき、該分割工程によって該積層体を個々のイメージセンサーチップに分割する際に、該水溶性樹脂を該ウエーハの裏面から該分割溝に充填し該水溶性樹脂充填工程を実施する請求項1に記載の積層体の加工方法。
【請求項3】
該分割工程の完了後から該水溶性樹脂除去工程開始までの間のいずれかにおいて、該積層体と該フレームとの間にある拡張テープに熱を加えて収縮させて拡張状態を維持する請求項1に記載の積層体の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハの表面に透明な接着層を介してガラス基板が配設された積層体を個々のイメージセンサーチップに分割する積層体の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン等の半導体基板の上面に分割予定ラインによって区画されCMOS、CCD等のイメージセンサーが複数形成されたウエーハは、切削ブレードを回転可能に備えたダイシング装置、あるいは、レーザー光線を被加工物に集光して加工を施す集光器を備えたレーザー加工装置によって個々のイメージセンサーチップに分割され、デジタルカメラ、携帯電話、顕微鏡等に利用される。
【0003】
イメージセンサーは、ゴミ、キズ等によって撮像機能が低下することから、イメージセンサーが複数形成されたウエーハの上面にガラス等の透明体を配設して積層体を構成することにより、キズ等からイメージセンサーを保護するようにしている。
【0004】
例えば、上記積層体を個々のイメージセンサーチップに分割する手段として、ダイシング装置で分割する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。また、該積層体を個々のイメージセンサーチップに分割する別の手段として、該積層体の内部に、積層体に対して透過性を有するレーザー光線の集光点を位置付けて照射して改質層を形成し、該積層体に外力を付与して該改質層を分割起点として個々のイメージセンサーチップに分割する方法が提案されている(特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-103327号公報
【文献】特開2010-108992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された技術によって積層体を分割する場合は、該ウエーハ側におけるイメージセンサーチップの外周に欠けが生じて品質を招くという問題があり、また、上記特許文献2に記載された技術によって積層体を分割する場合は、該積層体を構成するウエーハの改質層から粉塵が落下して、品質の低下を招くという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、ウエーハの表面に透明な接着層を介してガラス基板が配設された積層体を個々のチップに分割する際に、上記した品質の低下を生じさせることのない積層体の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、複数のイメージセンサーが分割予定ラインで区画され表面に複数形成されたウエーハの表面に透明な接着層を介してガラス基板が配設された積層体を個々のイメージセンサーチップに分割する積層体の加工方法であって、積層体のガラス基板側から切削ブレードを位置付けて分割予定ラインに対応する領域を切削して接着層に達する切削溝を該ガラス基板に形成する切削溝形成工程と、ウエーハの裏面側から該ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該ウエーハの分割予定ラインに対応する領域の内部に位置付けて照射し、該ウエーハの内部に連続的に改質層を形成すると共に該改質層から該接着層に達するクラックを形成して分割起点を形成する分割起点形成工程と、少なくとも該切削溝形成工程の後、該積層体を収容する大きさの開口部を有するフレームに拡張テープを介して該積層体のガラス基板側を支持する積層体支持工程と、該分割起点形成工程と該積層体支持工程とを実施した後、該拡張テープを拡張して該積層体を該分割起点に沿って形成する分割溝によって個々のイメージセンサーチップに分割する分割工程と、該分割工程によって形成された該分割溝に水溶性樹脂を充填する水溶性樹脂充填工程と、該水溶性樹脂が固化、又は半固化した状態で切削ブレードを該ウエーハの裏面に形成された該分割溝に位置付けて切削することにより該改質層を除去する改質層除去工程と、該拡張テープの該拡張状態を維持した状態で洗浄水を該ウエーハの裏面から供給して該切削溝及び該分割溝に充填された水溶性樹脂を除去する水溶性樹脂除去工程と、から少なくとも構成される積層体の加工方法が提供される。
【0009】
該分割工程を実施する前に予め該ウエーハの裏面に水溶性樹脂を被覆しておき、該分割工程によって該積層体を個々のイメージセンサーチップに分割する際に、該水溶性樹脂を該ウエーハの裏面から該分割溝に充填し該水溶性樹脂充填工程を実施してもよい。また、該分割工程の完了後から該水溶性樹脂除去工程開始までの間のいずれかにおいて、該積層体と該フレームとの間にある拡張テープに熱を加えて収縮させて拡張状態を維持するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層体の加工方法によれば、積層体のガラス基板側から切削ブレードを位置付けて分割予定ラインに対応する領域を切削して接着層に達する切削溝を該ガラス基板に形成する切削溝形成工程と、ウエーハの裏面側から該ウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該ウエーハの分割予定ラインに対応する領域の内部に位置付けて照射し、該ウエーハの内部に連続的に改質層を形成すると共に該改質層から該接着層に達するクラックを形成して分割起点を形成する分割起点形成工程と、少なくとも該切削溝形成工程の後、該積層体を収容する大きさの開口部を有するフレームに拡張テープを介して該積層体のガラス基板側を支持する積層体支持工程と、該分割起点形成工程と該積層体支持工程とを実施した後、該拡張テープを拡張して該積層体を該分割起点に沿って形成する分割溝によって個々のイメージセンサーチップに分割する分割工程と、該分割工程によって形成された該分割溝に水溶性樹脂を充填する水溶性樹脂充填工程と、該水溶性樹脂が固化、又は半固化した状態で切削ブレードを該ウエーハの裏面に形成された該分割溝に位置付けて切削することにより該改質層を除去する改質層除去工程と、該拡張テープの該拡張状態を維持した状態で洗浄水を該ウエーハの裏面から供給して該切削溝及び該分割溝に充填された水溶性樹脂を除去する水溶性樹脂除去工程と、から少なくとも構成されるので、改質層から生じる塵が水溶性樹脂と共に円滑に外部に排出されると共に、積層体から分割されるイメージセンサーチップ(CMOS、CCD)の外周に欠けが生じることがなく、イメージセンサーの品質を低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態で被加工物となる積層体の構成を示す斜視図である。
図2】切削装置に対して積層体を保持する態様を示す斜視図である。
図3】切削溝形成工程の実施態様を示す斜視図である。
図4】(a)切削溝形成工程により切削溝が形成された積層体の斜視図、(b)切削溝が形成された積層体の一部拡大断面図である。
図5】積層体支持工程によって、積層体を、拡張テープTを介してフレームFに支持する態様を示す斜視図である。
図6】(a)分割起点形成工程の実施態様を示す斜視図、(b)分割起点形成工程により、積層体を構成するウエーハの内部に分割起点が形成された状態を示す一部拡大断面図である。
図7】(a)分割工程の実施態様を示す一部断面図、(b)分割工程によって個々のイメージセンサーチップに分割された積層体の斜視図、(c)個々のイメージセンサーチップに分割された積層体の一部拡大断面図である。
図8】(a)水溶性樹脂充填工程の実施態様を示す斜視図、(b)水溶性樹脂が充填された積層体の一部拡大断面図である。
図9】(a)改質層除去工程の実施態様を示す斜視図、(b)改質層が除去された積層体の一部拡大断面図である。
図10】水溶性樹脂除去工程の実施態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に基づき構成された積層体の加工方法に係る実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1を参照しながら、本実施形態において被加工物となる積層体について説明する。図1に示すように、まず、複数のイメージセンサー(CMOS)12が分割予定ライン14で区画され、表面10aに複数形成されたウエーハ10と、透明なガラス基板18を用意する、ウエーハ10、及びガラス基板18を用意したならば、ウエーハ10の表面10aに透明な接着剤(樹脂ボンド)Bを滴下して、ガラス基板18を貼り付ける。このようにして、ウエーハ10とガラス基板18とを、上記接着剤Bから構成される接着層Bを介して一体化して積層体20を形成する(図1の下段を参照。)。
【0014】
(切削溝形成工程)
上記したように積層体20を形成したならば、積層体20のガラス基板18側から切削溝を形成する切削溝形成工程を実施する。以下に、切削溝形成工程について、図2、及び図3を参照しながら説明する。
【0015】
先ず、積層体20を、ダイシング装置30(一部のみ示す。)に備えられる保持テーブル31の保持面31aに、ガラス基板18側を上方に向けて載置する。保持面31aは、通気性を有するポーラスセラミックにより形成され、図示しない吸引手段に接続されている。保持テーブル31に積層体20を載置したならば、該吸引手段を作動して、吸引保持する。
【0016】
図3に示すようにダイシング装置30は、スピンドルユニット32を備えている。スピンドルユニット32は、回転スピンドル33の先端部に固定され外周に切り刃を有する切削ブレード34と、切削ブレード34を保護するブレードカバー35とを備えている。切削ブレード34は、例えば、ガラス基板18の切削に適したレジンボンド砥石であり、直径が50mm、厚みが30μmに設定されている。切削ブレード34は、回転スピンドル33と共に回転可能に構成されており、例えば20,000rpmの速度で回転される。ブレードカバー35には、切削ブレード34に隣接する位置に切削水供給手段36が配設されており、切削水を切削ブレード34による積層体20の切削位置に向けて供給する。切削ブレード34によって切削を実施する際には、図示しないアライメント手段を用いて、切削ブレード34と、保持テーブル31に保持された積層体20の加工位置となる位置との位置合わせ(アライメント)を行う。該アライメント手段には、少なくとも図示しない照明手段、及び撮像手段が備えられ、透明なガラス基板18側から撮像されるウエーハ10の表面10aの分割予定ライン14を、ガラス基板18側から撮像、検出することが可能に構成されている。さらに、ダイシング装置30は、アライメント手段に、積層体20の表面高さ検出手段を備えており、アライメント時に該積層体20の表面の高さを検出する。
【0017】
該アライメント手段によるアライメントを実施したならば、回転スピンドル33と共に高速回転させられる切削ブレード34を、保持テーブル31に保持した積層体20の分割予定ライン14に対応した領域の外周端に位置付けて、切削ブレード34の下端位置を、ガラス基板18を完全に切削し、積層体20の接着層Bに達する高さ位置まで下降させて切り込ませ、積層体20を切削ブレード34に対して矢印Xで示すX軸方向(加工送り方向)に移動させる。この時の加工送り速度は、例えば、50mm/秒に設定される。これにより、図3に示すように、積層体20を構成するガラス基板18の分割予定ライン14に対応する領域を切削して切削溝100を形成する。そして、図示しない移動手段によって、積層体20を吸引保持する保持テーブル31を、X軸方向、及びX軸方向と直交する方向に適宜移動させながら、積層体20の所定方向における全ての分割予定ライン14に対し、上記した切削ブレード34により切削溝100を形成する。積層体20の所定方向における全ての分割予定ライン14に対応して切削溝100を形成したならば、保持テーブル31を90度回転させて、上記した所定方向に直交する方向において、分割予定ライン14に対応する領域に上記と同様にして切削溝100を形成する。これにより、図4(a)に示すように、ウエーハ10の全ての分割予定ライン14に対応する領域に切削溝100を形成する。この切削溝100は、図4(b)に示す積層体20の一部拡大断面図から理解されるように、積層体20のガラス基板18側から分割予定ラインに対応する領域を切削して接着層Bに達する溝であり、積層体20を完全に分割する溝ではない。以上のようにして、切削溝形成工程が完了する。
【0018】
(積層体支持工程・分割起点形成工程)
上記した切削溝形成工程を実施したならば、積層体支持工程、及び分割起点形成工程を実施する。以下に、図5図6を参照しながら、積層体支持工程と、分割起点形成工程とについて説明する。
【0019】
積層体支持工程を実施するに際し、図5に示すように、積層体20を収容する大きさの開口部を有するフレームFに、拡張テープTの外周部を貼着した支持部材を用意する。該支持部材を用意したならば、切削溝100が形成された積層体20を、ウエーハ10を上方に向けて、ガラス基板18側を拡張テープTの表面中央に貼着し支持する。拡張テープTは、伸縮性を有し、糊剤等により粘着性が付与されており、拡張テープTに配設された積層体20は、拡張テープTを介して環状のフレームFに保持される(図5の下段を参照。)。
【0020】
上記したように、積層体支持工程を実施したならば、分割起点形成工程を実施する。本実施形態において実施される分割起点形成工程は、図6(a)に示すレーザー加工装置40(一部のみを示す。)を使用して実施することができる。レーザー加工装置40によって実施される分割起点形成工程について、以下に説明する。
【0021】
図6(a)に示すように、レーザー加工装置40は、レーザー光線照射手段42を備えている。レーザー光線照射手段42は、図示しないレーザー光線発振器を含む光学系を備え、該レーザー光線発振器から発振されたレーザー光線LBを集光して照射する集光器42aを備える。レーザー光線照射手段42は、図6(b)に示すように、ウエーハ10に対して透過性を有する波長のレーザー光線LBの集光点を、ウエーハ10の分割予定ライン14に対応する領域の内部に位置付けて照射して連続的に改質層110aを形成するレーザー加工を実施する。レーザー光線照射手段42によって分割起点形成工程を実施する際には、まずフレームFに保持された積層体20を、レーザー加工装置40に備えられた図示しない保持テーブルに保持する。該保持テーブルに積層体20を保持したならば、図示しないアライメント手段を用いて、ウエーハ10の裏面10bの高さ位置を検出すると共に、集光器42aによって照射されるレーザー光線LBの照射位置と、ウエーハ10の表面10a側に形成された分割予定ライン14との位置合わせ(アライメント)を行う。該アライメント手段には、図示しない赤外線照明手段及び赤外線撮像手段が備えられ、表面10aの分割予定ライン14を、ウエーハ10の裏面10b側から撮像、検出することが可能に構成されている。
【0022】
該アライメント手段によるアライメントを実施したならば、集光器42aを、ウエーハ10の分割予定ライン14に対応した領域であって、加工を開始すべきウエーハ10の外周端位置の上方に位置付け、集光器42aから照射されるレーザー光線LBの集光点を、ウエーハ10の分割予定ライン14に対応する領域の内部に位置付ける。次いで、レーザー光線照射手段42を作動すると共に、図示しない移動手段によって積層体20を集光器42aに対して矢印Xで示すX軸方向(加工送り方向)に移動させる。これにより、図6(b)に示す積層体20の一部拡大断面図から理解されるように、ウエーハ10の所定の内部位置であって、分割予定ライン14に対応する位置に沿って改質層110aを連続的に形成すると共に、改質層110aから接着層Bに達するクラック110bを形成して分割の起点となる分割起点110を形成する。なお、図6(b)において、X軸方向は、図6(b)が記載された紙面に垂直な方向である。
【0023】
さらに、図示しない移動手段によって、積層体20を保持する保持テーブルを、X軸方向、及びX軸方向と直交するY軸方向に適宜移動させながら、所定方向における全ての分割予定ライン14に対応して、上記したレーザー光線照射手段42によって分割起点110を形成する。ウエーハ10の所定方向における全ての分割予定ライン14に対応して分割起点110を形成したならば、図示しない保持テーブルを90度回転させて、該所定方向に直交する方向においても、ウエーハ10の分割予定ライン14に対応する領域の内部に上記と同様のレーザー加工を実施して分割起点110を形成する。これにより、ウエーハ10の全ての分割予定ライン14に対応する領域に沿って分割起点110を形成する。以上により、本実施形態の積層体支持工程、及び分割起点形成工程が実施される。なお、上記した実施形態では、積層体支持工程を実施した後に、分割起点形成工程を実施したが、本発明では、必ずしも、分割起点形成工程の前に積層体支持工程を実施することに限定されず、分割起点形成工程を実施した後に、積層体支持工程を実施するものであってもよい。要するに、積層体支持工程は、少なくとも、上記した切削溝形成工程の後であって、後述する分割工程を実施する前のいずれかのタイミングで実施されればよい。
【0024】
なお、上記した分割起点形成工程におけるレーザー加工条件は、例えば、以下のように設定される。
波長 :1342nm
繰り返し周波数 :60kHz
平均出力 :1W
加工送り速度 :600mm/秒
【0025】
(分割工程)
上記したように、積層体20を、拡張テープTを介して環状のフレームFにより支持し、積層体20を構成するウエーハ10の分割予定ライン14に対応する領域の内部に沿って分割起点110を形成したならば、図7(a)に示す分割装置50を用いて積層体20に対して外力を付与し、積層体20のウエーハ10に形成されたイメージセンサー12を個々のイメージセンサーチップ12’に分割する分割工程を実施する。
【0026】
図7(a)に示す分割装置50は、積層体20を支持する環状のフレームFを保持するフレーム保持手段52と、フレーム保持手段52に保持されるフレームFに貼着された拡張テープTを拡張するテープ拡張手段56とを備えている。フレーム保持手段52は、環状のフレームFを保持すべく環状に形成されたフレーム保持部材52aと、フレーム保持部材52aの外周に配設された固定手段としての複数のクランプ52bとからなっている。フレーム保持部材52aの上面は平坦に形成され、フレームFが載置される。そして、フレーム保持部材52a上に載置されたフレームFは、クランプ52bによってフレーム保持部材52a上に固定される。このように構成されたフレーム保持手段52は、テープ拡張手段56によって上下方向に進退可能に支持されている。
【0027】
環状のフレーム保持部材52aの内側には、図示しない基台に固定された拡張ドラム58が配設されている。この拡張ドラム58は、フレームFの内径より小さくフレームFに装着された拡張テープTに支持される積層体20の外径より大きく設定される。図示の実施形態におけるテープ拡張手段56は、拡張ドラム58の周囲に複数配置され、フレーム保持部材52aを上下方向に進退可能とすべく、フレーム保持部材52aの下面に上端が連結されるピストンロッド56aと、ピストンロッド56aを上下方向に進退させるエアシリンダ56bとを備える。このように複数のピストンロッド56aとエアシリンダ56bとからなるテープ拡張手段56は、図7(a)にて実線で示すようにフレーム保持部材52aの上面を拡張ドラム58の上端と略同一高さとなる基準位置と、2点鎖線で示すようにフレーム保持部材52aの上面が拡張ドラムの上端から所定量下方の拡張位置に選択的に移動させ得る。
【0028】
図示の実施形態における分割装置50は概略以上のように構成されており、この分割装置50を用いて実施する分割工程についてより具体的に説明する。
【0029】
上述したように拡張テープTを介して積層体20を支持したフレームFを、フレーム保持部材52a上に載置し、クランプ52bによって固定したならば、テープ拡張手段56を構成する複数のエアシリンダ56bを作動して、フレーム保持部材52aを下降させる。従って、フレーム保持部材52a上に固定されているフレームFも下降するため、図7(a)にて2点鎖線で示すようにフレームFに装着された拡張テープTは、相対的に上昇する拡張ドラム58の上端縁に当接して拡張させられる(T’で示す。)。この結果、拡張テープT’に貼着されている積層体20には放射状に引張力が作用するので、分割予定ライン14に沿って形成された分割起点110に沿って積層体20が完全に破断され、分割溝120を形成する。このようにして、分割溝120が形成されたならば、テープ拡張手段56を作動して、拡張ドラム58の上端位置と、フレーム保持部材52aの上面とが一致する基準位置に戻す。ここで、拡張テープTは、上記分割工程によって一旦拡張されることにより、図7(b)に示すように、積層体20に対して引張力を作用した状態をある程度維持できる。このため、図7(c)に示す積層体20の一部拡大断面図から理解されるように、拡張ドラム58の上端位置と、フレーム保持部材52aの上面とが一致する基準位置に戻しても、分割溝120の隙間間隔を維持することができる。以上により、分割工程が完了する。なお、この際、積層体20の外周とフレームFの内側開口との間の領域にある拡張テープTを加熱することが好ましい。このようにすることで、当該領域にある拡張テープTが収縮し、積層体20に対する拡張状態をより確実に維持することができ、次工程以降においても、良好に分割溝120の隙間間隔を維持することができる。
【0030】
上記した分割工程によれば、ガラス基板18は予め切削溝100によって分割されており、該分割起点110に外力を付与することにより積層体20を個々のイメージセンサーチップ12’に分割できる。したがって、イメージセンサーチップ12’を構成するウエーハ10は、切削ブレードによって分割されていないため、外周に欠けが生じることはなく、イメージセンサーチップ12’の品質が低下することがない。
【0031】
(水溶性樹脂充填工程)
上記した分割工程を実施したならば、水溶性樹脂充填工程を実施する。図8を参照しながら、水溶性樹脂充填工程の実施態様について説明する。
【0032】
図8(a)に示すように、拡張テープTによって支持され、分割工程により分割溝120が形成された積層体20を、水溶性樹脂供給手段60の下方に位置付ける。水溶性樹脂供給手段60の下方に積層体20を位置付けたならば、水溶性樹脂供給手段60から、時間経過と共に固化する水溶性液状樹脂62(例えば、ポリビニルアルコール(PVA))を滴下する。積層体20には、上記したように、所定の隙間間隔が維持された分割溝120が形成されており、図8(b)に示す積層体20の一部拡大断面図から理解されるように、滴下された水溶性樹脂62が、分割溝120を介して、ガラス基板18側に形成された切削溝100にも供給され、切削溝100、及び分割溝120に対して水溶性樹脂62が充填されると共に、積層体20を構成するウエーハ10の裏面10bが水溶性樹脂62で被覆される。なお、水溶性樹脂は、上記したポリビニルアルコールに限定されず、水等の溶剤によって溶解する周知の水溶性樹脂であればよく、例えば、ポリビニルアセタール(酢酸ビニル共重合体も含む)、ポリビニルピロリドン等であってもよい。以上により、水溶性樹脂充填工程が完了する。
【0033】
(改質層除去工程)
上記したように、水溶性樹脂充填工程が完了したならば、改質層除去工程を実施する。以下に、図9を参照しながら、改質層除去工程の実施態様について説明する。
【0034】
上記した水溶性樹脂充填工程を終え、所定時間が経過することにより、分割溝120に充填された水溶性樹脂62は、半固化、又は固化する。この状態で、図9に示すダイシング装置70に搬送し、ダイシング装置70に備えられる図示しない保持テーブルに載置して保持する。
【0035】
図9に示すようにダイシング装置70は、スピンドルユニット71を備えている。スピンドルユニット71は、回転スピンドル72の先端部に固定され外周に切り刃を有する切削ブレード73と、切削ブレード73を保護するブレードカバー74とを備えている。切削ブレード73は、例えば、CMOSウエーハの切削に適した電鋳砥石であり、直径が50mm、厚みが40μmに設定されている。切削ブレード73は、回転スピンドル72と共に回転可能に構成されており、例えば20,000rpmの速度で回転される。ブレードカバー74には、切削ブレード73に隣接する位置に切削水供給手段75が配設されており、切削水を切削ブレード73による積層体20の切削位置に向けて供給する。切削ブレード73によって切削を実施する際には、図示しないアライメント手段を用いて、切削ブレード73と、積層体20の加工位置、すなわち分割溝120との位置合わせ(アライメント)を行う。該アライメント手段には、少なくとも図示しない照明手段、及び撮像手段が備えられ、ウエーハ10の裏面10b側から撮像されるウエーハ10に形成された分割溝120を撮像、検出することが可能に構成されている。さらに、ダイシング装置70は、アライメント手段に、積層体20の上面、すなわち、ウエーハ10の裏面10bの高さを検出する高さ検出手段を備えており、アライメント時に該積層体20の表面の高さを検出する。
【0036】
該アライメント手段によるアライメントを実施したならば、回転スピンドル72と共に高速回転させられる切削ブレード73を、積層体20を構成するウエーハ10の分割溝120に対応した外周端部に位置付けて、切削ブレード73の下端の高さ位置を、上記した分割起点形成工程においてウエーハ10の内部に形成した改質層110aの下端よりも所定量下方の高さになる位置に位置付ける。そして、積層体20を切削ブレード73に対して矢印Xで示すX軸方向(加工送り方向)に移動させる。この時の加工送り速度は、例えば、50mm/秒に設定される。これにより、図9(a)に示すように、積層体20を構成するウエーハ10の裏面10bにおいて、分割溝120を形成した領域に沿って、改質層110aが形成された領域を切削により除去して、切削溝130を形成する。そして、図示しない移動手段によって、積層体20を吸引保持する保持テーブル31を、X軸方向、及びX軸方向と直交するY軸方向に適宜移動させながら、積層体20の所定方向における全ての分割溝120に対し、上記した切削ブレード73により切削溝130を形成する。積層体20の所定方向における全ての分割溝120に対し改質層110aを除去する切削溝130を形成したならば、積層体20を90度回転させて、上記した所定方向に直交する方向においても、分割溝120に対応する位置に対し、上記と同様にして切削溝130を形成する。これにより、上記した分割工程によって形成された全ての分割溝120に沿って、切削溝130が形成される。図9(b)に示す積層体20の一部拡大断面図から理解されるように、この切削溝130が形成されることにより、分割起点形成工程によってウエーハ10の内部に形成された改質層110aが除去される。このようにして改質層110aが除去される際、分割溝120には水溶性樹脂62が充填されていることから、改質層110aから生じる塵が水溶性樹脂62と共に円滑に外部に排出される。以上により、改質層除去工程が完了する。なお、この改質層除去工程によって、切削溝100、及び分割溝120に充填されていた水溶性樹脂62は、改質層110aを除去する際に供給される切削水によってある程度除去されるが、切削溝100内に所定量残存する。
【0037】
上記した改質層除去工程が完了したならば、水溶性樹脂除去工程を実施する。以下に、図10を参照しながら、水溶性樹脂除去工程の実施態様について説明する。
【0038】
上記した改質層除去工程が完了したならば、フレームFによって支持された積層体20を、水洗手段80の下方に位置付ける。上記したように、該水溶性樹脂充填工程において、積層体20とフレームFとの間にある拡張テープTに熱が加えられていることから、拡張テープTの収縮によって拡張状態が維持されて、切削溝130の間隙が維持されている。この切削溝130が表出したウエーハ10の裏面10bに対し、水洗手段80から所定の圧力が付与された洗浄水Wを供給し、分割溝130からガラス基板18側に形成された切削溝100にかけて洗浄水Wを供給する。これにより、分割溝120、及び切削溝100に残存していた水溶性樹脂62を完全に除去する。以上により水溶性樹脂除去工程が完了し、ウエーハ10の表面10aに透明な接着層Bを介してガラス基板18が配設された積層体20が、個々のイメージセンサーチップ12’に分割される。
【0039】
上記したように、本実施形態によれば、積層体20をイメージセンサーチップ12’に分割する際に形成した改質層110aを、分割溝120に切削ブレード73を切り込ませて、水溶性樹脂62と共に除去している。これにより、改質層110aから生じる粉塵がイメージセンサーチップ12’の周囲に付着して品質を低下させることがない。また、改質層110aを除去する際に切削ブレード73を用いているが、切削ブレード73によって改質層110aを除去する際には、ウエーハ10は既に分割溝120によって個々のイメージセンサーチップ12’に分割されており、その分割溝120には、水溶性樹脂62が充填されてその間隙が維持されていることから、イメージセンサーチップ12’を構成するウエーハ10の外周に過度な負荷が掛かることがないため、欠け等が生じることも防止される。よって、上記したイメージセンサーチップ12’の品質が低下するという課題が解消される。
【0040】
本発明によれば、上記した実施形態に限定されず、種々の変形例が提供される。上記した実施形態では、分割工程が完了した際に、積層体20とフレームFとの間にある拡張テープTに対して熱を加えて収縮させて拡張テープTの拡張状態を維持するようにしたが、本発明はこれに限定されない。分割工程が完了した直後の拡張テープTは、分割工程により拡張された状態がしばらく維持されるため、分割工程から時間をおかずに水溶性樹脂充填工程を実施する場合は、拡張テープTに対する加熱を実施せず、改質層除去工程が完了した後、水溶性樹脂除去工程を実施する前に、積層体20とフレームFとの間にある拡張テープTに対して熱を加えて収縮させ、拡張テープTの拡張状態を維持するようにしてもよい。
【0041】
また、上記した実施形態では、分割工程を実施した後に、分割溝120が形成された状態の積層体20を水溶性樹脂供給手段60の下方に位置付けて、積層体20を構成するウエーハ10の裏面10bに水溶性樹脂62を供給して、分割溝120、切削溝100に水溶性樹脂62を充填したが、本発明はこれに限定されない、例えば、分割工程を実施する前に、ウエーハ10の裏面10b上に水溶性樹脂62を供給し、水溶性樹脂62の固化が始まる前に、分割工程を実施する。このようにすることでも、水溶性樹脂62が、分割工程によって形成される分割溝120に入り込み、切削溝100と分割溝120とに水溶性樹脂62を充填することができる。
【0042】
さらに、上記した実施形態では、ガラス基板18に切削溝100を形成する切削溝形成工程をダイシング装置30によって実施し、ウエーハ10の内部に形成した改質層110aを除去する改質層除去工程を別のダイシング装置70によって実施したが、本発明はこれに限定されず、切削溝形成工程、及び改質層除去工程をダイシング装置30、又はダイシング装置70のいずれか一方のみによって実施してもよい。その場合は、切削部位がガラス基板18であるか、ウエーハ10であるかに応じて、適宜切削ブレード34と、切削ブレード73とを、交換すればよい。
【符号の説明】
【0043】
10:ウエーハ
12:イメージセンサー
12’:イメージセンサーチップ
14:分割予定ライン
18:ガラス基板
20:積層体
30、70:ダイシング装置
34、73:切削ブレード
40:レーザー加工装置
42:レーザー光線照射手段
42a:集光器
50:分割装置
56:テープ拡張手段
60:水溶性樹脂供給手段
62:水溶性樹脂
100、130:切削溝
110:分割起点
110a:改質層
110b:クラック
120:分割溝
図1
図2
図3
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図10