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特許7164518感光性有機電子デバイスの調製のための溶媒系
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  • 特許-感光性有機電子デバイスの調製のための溶媒系 図1
  • 特許-感光性有機電子デバイスの調製のための溶媒系 図2A
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  • 特許-感光性有機電子デバイスの調製のための溶媒系 図3B
  • 特許-感光性有機電子デバイスの調製のための溶媒系 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】感光性有機電子デバイスの調製のための溶媒系
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/42 20060101AFI20221025BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01L31/08 T
C08L65/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019515868
(86)(22)【出願日】2017-09-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 GB2017052820
(87)【国際公開番号】W WO2018055379
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】1616279.4
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ボヴォ,ジャンルカ
(72)【発明者】
【氏名】ヤコビ-グロス,ニール
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534606(JP,A)
【文献】特開2013-042085(JP,A)
【文献】特開2016-134464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0066950(US,A1)
【文献】国際公開第2016/034262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00-51/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型有機半導体、p型有機半導体および溶媒混合物を含む、配合物であって、前記溶媒混合物が、アルキル基およびアルコキシ基から選択される1個以上の置換基によって置換された芳香族炭化水素;ならびに無置換または置換ベンゾチアゾールを含み、前記芳香族炭化水素が、ベンゼンである、配合物。
【請求項2】
前記1個以上の置換基によって置換され芳香族炭化水素が、式(I)
【化1】

(式中、Rが出現するたびに独立に、C~Cアルキル基またはC~Cアルコキシ基を表し、nが、少なくとも1である。)によって表される、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記無置換または置換ベンゾチアゾールが、式(II)
【化2】

(式中、Rが出現するたびに独立に、C~Cアルキル基またはC~Cアルコキシ基を表し、Rが、H、C~Cアルキル基またはC~Cアルコキシ基を表し、mが、0、1、2、3または4である。)によって表される、請求項1又は2に記載の配合物。
【請求項4】
前記無置換または置換ベンゾチアゾールが、200~300℃の範囲の沸点を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項5】
前記1個以上の置換基によって置換された芳香族炭化水素が、前記溶媒混合物の合計体積に対して50~99.5体積%の含量範囲で存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項6】
前記無置換または置換ベンゾチアゾールが、前記溶媒混合物の合計体積に対して0.5~50体積%の含量範囲で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項7】
前記1個以上の置換基によって置換された芳香族炭化水素:前記無置換または置換ベンゾチアゾールの体積比が、70:30~99.5:0.5の範囲である、請求項1から6のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項8】
前記溶媒混合物が、アルキルベンゾエートまたはアリールベンゾエートから選択される溶媒を含まない、請求項1から7のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項9】
前記溶媒混合物が、前記1個以上の置換基によって置換された置換芳香族炭化水素および前記無置換または置換ベンゾチアゾールからなる、請求項1から8のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項10】
前記p型有機半導体が、共役有機ポリマーである、請求項1から9のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項11】
前記n型有機半導体が、フラーレンまたはフラーレン誘導体である、請求項1から10のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項12】
前記溶媒混合物が、前記1個以上の置換基によって置換された芳香族炭化水素および前記無置換または置換ベンゾチアゾールのみからなる、請求項1から11のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項13】
前記芳香族炭化水素における前記1個以上の置換基が、アルキル基である、請求項1から12のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項14】
前記1個以上の置換基によって置換された芳香族炭化水素が、1,2-ジアルキルベンゼンおよび1,2,4-トリアルキルベンゼンから選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項15】
アノード、カソードおよび前記カソードと前記アノードとの間にある光活性層を備える有機感光性電子デバイスを製造する方法であって、
溶液堆積法によって請求項1から14のいずれか一項に記載の配合物を塗布して、濡れたフィルムを形成すること、
前記濡れたフィルムを乾燥させて、前記光活性層を得ること、および、
前記光活性層を覆うように前記アノードおよび前記カソードのうちの他方を形成すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型およびn型有機半導体ならびに溶媒系を備える配合物、感光性有機電子デバイスを製造するための当該配合物の使用、ならびに、前記配合物の使用によって調製される感光性有機電子デバイス、特に有機光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
新規な有機感光性電子デバイスの開発には、有機感光性電子デバイスが高い柔軟性をもたらすものであり、低温真空堆積または溶液処理法の使用によって比較的低いコストで製造および処理することができるため、無機光電子デバイスの代替品として関心が強まっている。
【0003】
有機感光性電子デバイスの例として、有機光起電デバイス(OPV)、光電池および光検出器を挙げることができる。通常、このような有機感光性電子デバイスは、溶液からドナーとのアクセプターとのブレンドをフィルム状に堆積させることによって調製された、p-n接合を光活性層として含んでおり、入射放射線を電流に変換することができる。
【0004】
p型材料の典型例は、共役有機オリゴマーまたはポリマー(例えば、チオフェン、フェニレン、フルオレン、ポリアセチレン、ベンザチアジアゾールおよびこれらの組合せのオリゴマーまたはポリマー)であるが、フラーレンおよびフラーレン誘導体(例えば、C60PCBMおよびC70PCBM)は、n型材料として公知である(例えば、欧州特許出願公開第1447860(A1)号および米国特許出願公開第2012/205596号を参照されたい。)。
【0005】
国際公開第2013/029733号は、アルキル化テトラリン、アルキル化ナフタレンおよびアルキル化アニソールからなる群より選択されるp型有機半導体、n型有機半導体および溶媒を含む、配合物を開示している。
【0006】
有機光検出器デバイスの場合、有機光検出器デバイス上に入射するいかなる光子も存在しない状況下で有機光検出器デバイスを流れる電流は、暗電流として公知であるが、有機光検出器デバイスの検出限界に影響し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許出願公開第1447860(A1)号
【文献】米国特許出願公開第2012/205596号
【文献】国際公開第2013/029733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高効率の有機感光性電子デバイスを形成するための配合物を提供することが、本発明の一目的である。
【0009】
低い暗電流を伴う有機光検出器デバイスを形成するための配合物を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、本明細書において規定された特許請求の範囲の主題によって、上記課題を解決する。本発明の利点は、下記の部においてさらに詳細に説明される。
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、n型およびp型有機半導体を含む配合物中に特定の溶媒混合物を使用することにより、非常に良好な効率を伴って、光検出器デバイスの場合は低い暗電流も伴って、有機感光性デバイスを形成することができることを発見した。
【0012】
第1の態様において、本発明は、n型有機半導体、p型有機半導体および溶媒混合物を含む、配合物であって、溶媒混合物が、アルキル化芳香族炭化水素および無置換または置換ベンゾチアゾールを含む、配合物を提供する。
【0013】
第2の態様において、本発明は、アノード、カソードおよびカソードとアノードとの間にある光活性層を備える有機感光性電子デバイスを製造する方法であって、アノードおよびカソードのうちの一方を覆うように第1の態様の配合物を塗布して、濡れたフィルムを形成すること、濡れたフィルムを乾燥させて、光活性層を得ること、ならびに、光活性層を覆うようにアノードおよびカソードのうちの他方を形成することを含む、方法に関する。
【0014】
本明細書において使用されている、下に位置する層「を覆うような」層の形成は、当該層が、下に位置する層上に直接形成されていること、または、このようにして形成された層と、下に位置する層との間にある介在層上に形成されていることを意味する。介在層は存在しなくてもよいか、または1つ以上の介在層が存在してもよい。
【0015】
本発明の第3の態様は、上記第2の態様の方法によって製造された、アノード、カソードおよび光活性層を備える有機感光性電子デバイスに関する。
【0016】
本発明による配合物の好ましい実施形態および本発明に関する他の態様は、下記の記載および特許請求の範囲において記述されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】光検出器デバイスを概略的に示している、図である。
図2A】ベンジルベンゾエート溶媒を含有する比較用配合物を使用して形成された比較用デバイス、および、2-メチルベンゾチアゾール溶媒を含有する本発明の実施形態による配合物を使用して形成されたデバイスに関する、波長に対比させた外部量子効率のグラフである。
図2B図2Aのデバイスに関する、電圧に対比させた電流密度のグラフである。
図3A】4-t-ブチルピリジン溶媒を含有する比較用配合物を使用して形成された比較用デバイス、および、2-メチルベンゾチアゾール溶媒を含有する本発明の実施形態による配合物を使用して形成されたデバイスに関する、波長に対比させた外部量子効率のグラフである。
図3B図3Aのデバイスに関する、逆バイアス電圧に対比させた電流密度のグラフである。
図4】ベンジルベンゾエート、ブチルベンゾエート、プロピルベンゾエートまたはヘキシルベンゾエート溶媒を含有する比較用配合物を使用して形成された比較用デバイスに関する、波長に対比させた外部量子効率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明をより完全に理解するために、本発明の例示的な実施形態に関する下記の記述を参照する。
【0019】
半導体配合物
第1の態様において、本発明は、n型有機半導体、p型有機半導体および溶媒混合物を含む、配合物であって、溶媒混合物が、アルキル基およびアルコキシ基から選択される1個以上の置換基によって置換された芳香族炭化水素;ならびに無置換または置換ベンゾチアゾール含む、配合物に関する。
【0020】
芳香族炭化水素は、ベンゼン、好ましくは式(I)
【化1】
【0021】
(式中、Rが出現するたびに独立に、C~Cアルキル基またはC~Cアルコキシ基を表し、nが、少なくとも1であり、1、2または3であってもよい。)の化合物であってもよい。nが2以上である場合、2個のR基は、無置換であっても、または1個以上のC1~5アルキル基によって置換されていてもよい環を形成するように、連結されていてもよい。nが2以上である場合、R基のいずれもが、環を形成するように連結されていないことが、好ましい。当該Rまたは各Rは、好ましくは、メチルである。
【0022】
式(I)による化合物の具体例として、1,2-ジアルキルベンゼン(例えば、o-キシレン)、1,2,4-トリアルキルベンゼン(例えば、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリエチルベンゼン、1,2-ジメチル-4-エチルベンゼン)、1,2,3-トリアルキルベンゼン(例えば、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリエチルベンゼン)、インダンおよびインダンのアルキル置換誘導体ならびにテトラリンおよびテトラリンのアルキル置換誘導体を挙げることができる。
【0023】
無置換または置換ベンゾチアゾールは、式(II)
【化2】
【0024】
(式中、Rが出現するたびに独立に、C~Cアルキル基またはC~Cアルコキシ基を表し、Rが、H、C~CアルキルまたはC~Cアルコキシ基を表し、mが、0、1、2、3または4である。)によって表されてもよい。好ましくは、mは、0である。好ましくは、Rは、C~Cアルキル、より好ましくはメチルである。
【0025】
無置換または置換ベンゾチアゾールは、200~300℃、任意選択により200~250℃の範囲の沸点を有してもよい。
【0026】
置換芳香族炭化水素は、溶媒混合物の合計体積に対して50~99.5体積%、好ましくは70~99体積%の含量範囲で存在してもよい。
【0027】
無置換または置換ベンゾチアゾールは、溶媒混合物の合計体積に対して0.5~50体積%、好ましくは1~20体積%の含量範囲で存在してもよい。
【0028】
置換芳香族炭化水素:無置換または置換ベンゾチアゾールの体積比は、70:30~99.5:0.5の範囲または70:30~99:1の範囲または70:30~98:2の範囲でもよい。
【0029】
溶媒混合物が置換芳香族炭化水素および無置換または置換ベンゾチアゾールからなることが好ましいこともあるが、溶媒混合物は、1種以上のさらなる溶媒を含んでもよい。当該さらなる溶媒または各さらなる溶媒は、25℃および1atmにおいて液体であり、n型OSCとp型OSCとの片方もしくは両方または両方が、0.2mg/ml以上の可溶度で可溶である、材料から選択することができる。このようなさらなる溶媒は特に限定されず、当業者ならば適切に選択することができる。例示的なさらなる溶媒は、限定はないが、ナフタレン、直鎖状または環状ケトン(例えば、シクロヘキサノン)、脂肪族エーテル、脂肪族または芳香族アルコール、置換されていてもよいチオフェンおよび塩素化溶媒(例えば、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロベンゼンまたはクロロホルム)ならびにこれらの混合物を含む。しかしながら、環境親和性の観点から、溶媒混合物は、いかなる塩素化溶媒も含まないことが好ましい。存在する場合、さらなる溶媒は、合計溶媒体積に対して3体積%未満、より好ましくは2体積%未満の合計含量で含まれてもよい。
【0030】
溶媒混合物は、アリールベンゾエート、例えばベンジルベンゾエートを含まなくてもよい。溶媒混合物は、アルキルベンゾエートを含まなくてもよい。
【0031】
p型OSCは特に限定されず、有機ポリマー、オリゴマーおよび小分子を含む、当業者に公知で文献において記述されている電子供与性材料から適切に選択することができる。好ましい実施形態において、p型OSCは、ホモポリマーであっても、または交互コポリマー、ランダムコポリマーもしくはブロックコポリマーを含むコポリマーであってもよい、有機共役ポリマーを含む。非晶性または半結晶性共役有機ポリマーが、好ましい。さらに好ましくは、p型有機半導体は、一般的に2.1eV~1.1eVの間、好ましくは1.9eV~1.1eVの間、最も好ましくは1.7eV~1.1eVの間である狭いバンドギャップを有する、共役有機ポリマー。例示的なp型OSCポリマーとして、ポリアセン、ポリアニリン、ポリアズレン、ポリベンゾフラン、ポリフルオレン、ポリフラン、ポリインデノフルオレン、ポリインドール、ポリフェニレン、ポリピラゾリン、ポリピレン、ポリピリダジン、ポリピリジン、ポリトリアリールアミン、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリ(3-置換チオフェン)、ポリ(3,4-二置換チオフェン)、ポリセレノフェン、ポリ(3-置換セレノフェン)、ポリ(3,4-二置換セレノフェン)、ポリ(ビスチオフェン)、ポリ(テルチオフェン)、ポリ(ビスセレノフェン)、ポリ(テルセレノフェン)、ポリチエノ[2,3-b]チオフェン、ポリチエノ[3,2-b]チオフェン、ポリベンゾチオフェン、ポリベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリ(一置換ピロール)、ポリ(3,4-二置換ピロール)、ポリ-1,3,4-オキサジアゾール、ポリイソチアナフテン、これらの誘導体およびこれらのコポリマーを含む、共役炭化水素または複素環式ポリマーから選択されるポリマーを挙げることができる。p型OSCの好ましい例は、それぞれが置換されていてもよいポリフルオレンおよびポリチオフェンのコポリマー、ならびに、それぞれが置換されていてもよいベンゾチアジアゾール主体型繰返し単位およびチオフェン主体型繰返し単位を含むポリマーである。p型OSCは、複数の電子供与性材料の混合物からなってもよいと理解されている。
【0032】
p型OSCは好ましくは、式(III)
【化3】
【0033】
(式中、Rが出現するたびに独立に、Hまたは置換基である。)の繰返し単位を含む。
【0034】
各Rは、アルキル基に属する隣接していない1個以上の非末端炭素原子が、O、SまたはC=Oによって置きかえられてもよく、C1~20アルキルの1個以上のH原子が、Fによって置きかえられてもよい、C1~20アルキルと、無置換であってもよく、または1個以上の置換基によって置換されていてもよいアリール基またはヘテロアリール基、好ましくはフェニルと、フッ素とからなる群より独立に選択されてもよい。
【0035】
アリール基またはヘテロアリール基の置換基は、F、CN、NO、および、アルキル基に属する隣接していない1個以上の非末端炭素原子がO、SまたはC=Oによって置きかえられてもよいC1~20アルキルから選択されてもよい。
【0036】
本明細書において使用されている「非末端」は、直鎖状アルキル(n-アルキル)鎖のメチル基および分岐状アルキル鎖のメチル基ではない、炭素原子を意味する。
【0037】
好ましくは、各Rは、フッ素である。
【0038】
式(I)の繰返し単位を備えるポリマーは好ましくは、1個以上の共通繰返し単位を含むコポリマーである。1個以上の共通繰返し単位は、無置換であってもよいし、または1個以上の置換基によって置換されていてもよいC6~20単環式または多環式アリーレン繰返し単位と、無置換であってもよいし、または1個以上の置換基によって置換されていてもよい5~20員単環式または多環式ヘテロアリーレン繰返し単位とのうちの1つ以上を含むまたはこれらの1つ以上からなることができる。
【0039】
1個以上の共通繰返し単位は、式(IV)
【化4】
【0040】
(式中、Arが出現するたびに、アリーレン基またはヘテロアリーレン基であり、xが、少なくとも1であり、R17が出現するたびに独立に、置換基であり、yが出現するたびに独立に、0または正の整数であり、0、1、2、3または4であってもよく、2個のR17基が、環を形成するように連結されていてもよい。)を有し得る。
【0041】
各R17は、C1~20アルキルに属する隣接していない1個以上の非末端C原子が、O、S、COOまたはCOによって置きかえられていてもよい、直鎖状、分岐状または環状C1~20アルキルからなる群より独立に選択されてもよい。
【0042】
2個のR17基は、アルキレン基に属する隣接していない1個以上のC原子が、O、S、COOまたはCOによって置きかえられてもよい、C1~10アルキレン基を形成するように連結されていてもよい。
【0043】
xは、2であってもよい。
【0044】
各Arは独立に、チオフェン、フラン、セレノフェン、ピロール、ジアゾール、トリアゾール、ピリジン、ジアジンおよびトリアジン、好ましくはチオフェンからなる群より選択される5員または6員ヘテロアリーレン基、任意選択によりヘテロアリーレン基でもよい。
【0045】
式(IV)の繰返し単位は、式(IVa)
【化5】
【0046】
を有してもよい。
【0047】
これらのR17基は、2~5員架橋基を形成するように連結されていてもよい。架橋基は、式-O-C(R18-(式中、R18が出現するたびに独立に、Hまたは置換基である。)を有してもよい。置換基R18は、C1~20アルキルから選択されてもよい。好ましくは、各R18は、Hである。
【0048】
本明細書において記述されたポリマー状p型OSCは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された、約1×10~1×10の範囲、好ましくは1×10~5×10の範囲のポリスチレン当量数平均分子量(Mn)を有し得る。本明細書において記述されたポリマーのポリスチレン当量重量平均分子量(Mw)は、1×10~1×10、好ましくは1×10~1×10であってよい。
【0049】
n型OSCも特に限定されず、当業者に公知の電子求引性材料適切に選択することが可能であり、複数の電子求引性材料の混合物からなってもよい。n型OSCの例として、n型共役ポリマー、フラーレンおよびフラーレン誘導体を挙げることができる。好ましくは、n型OSCは、単一の種類であり、または、C60、C70、C76、C78、C84、C96、PCBM型フラーレン誘導体(フェニル-C61-酪酸メチルエステル(C60PCBM)、TCBM型フラーレン誘導体(例えば、トリル-C61-酪酸メチルエステル(C60TCBM)を含む)、ThCBM型フラーレン誘導体(例えば、チエニル-C61-酪酸メチルエステル(C60ThCBM)を含む、フラーレンおよび/もしくはフラーレン誘導体の混合物である。
【0050】
フラーレン誘導体は、式(V)
【化6】
【0051】
(式中、AがフラーレンのC-C基と一緒になって、無置換であってもよいし、または1個以上の置換基によって置換されていてもよい単環基または縮合環基を形成する。)を有し得る。
【0052】
例示的なフラーレン誘導体は、式(Va)、(Vb)および(Vc)
【化7】
【0053】
(式中、R~R15がそれぞれ独立に、Hまたは置換基である。)を含む。
【0054】
置換基R~R15は出現するたびに独立に、無置換であってもよいし、または1個以上の置換基によって置換されていてもよいアリールまたはヘテロアリール、任意選択によりフェニル、および、隣接していない1個以上の非末端C原子が、O、S、COまたはCOOによって置きかえられてもよく、1個以上のH原子が、Fによって置きかえられてもよい、C1~20アルキルからなる群より選択されてもよい。
【0055】
存在する場合、アリールまたはヘテロアリールの置換基は、隣接していない1個以上の非末端C原子が、O、S、COまたはCOOによって置きかえられてもよく、1個以上のH原子が、Fによって置きかえられてもよい、C1~12アルキルから選択することができる。
【0056】
フラーレン誘導体のさらなる例として、国際公開第2004/073082(A1)号、米国特許出願公開第2011/0132439(A1)、国際公開第2015/036075(A1)号および米国特許出願公開第2011/0132439(A1)号において開示されたフラーレン誘導体を挙げることができ、これらの内容は、参照により本明細書に組み込む。
【0057】
配合物中に存在するp型材料のn型材料に対する重量比は、10:1~1:10の範囲、より好ましくは4:1~1:4の範囲、特に好ましくは1:1~1:3の範囲でもよい。
【0058】
好ましくは、インク濃度、すなわち、溶媒混合物中のn型およびp型材料の濃度は、0.1~10.0w/v%の範囲、より好ましくは1.0~6w/v%の範囲である。
【0059】
配合物は、n型有機半導体、p型有機半導体および溶媒混合物の他にも、さらなる成分を含んでもよい。このような成分の例として、接着剤、消泡剤、脱気剤、粘度向上剤、希釈剤、補助剤、流動改善剤、着色料、染料または顔料、感光剤、安定剤、ナノ粒子、表面活性化合物、潤滑剤、湿潤剤、分散剤および阻害剤を挙げることができる。
【0060】
上記において指定された好ましい特徴は、特徴のうちの少なくともいくつかが互いに排他的である組合せを除いて、任意の組合せとして組み合わせることができることは、理解されよう。
【0061】
上記に規定の配合物は、非常に良好な性能を有する有機感光性デバイス、特に光検出器の光活性層を溶液堆積させるための出発物質として働く。
【0062】
有機感光性電子デバイスおよび当該有機感光性電子デバイスを製造するための方法
第2の実施形態において、本発明は、アノード、カソードおよびカソードとアノードとの間にある光活性層を備える有機感光性電子デバイスを製造するための方法であって、アノードおよびカソードのうちの一方を覆うように上記第1の実施形態による配合物を塗布して、濡れたフィルムを形成すること、濡れたフィルムを乾燥させて、光活性層を得ること、ならびに、光活性層を覆うようにアノードおよびカソードのうちの他方を形成することを含む、方法に関する。
【0063】
本発明による有機感光性電子デバイスの典型的な全体構造が、図1に概略的に図示されている。ここで、通常仕事関数が高い材料からなるアノード2は、可視光に対して透明な材料から製造された基材1上に堆積されている。典型的なアノード材料には、インジウムスズオキシド(ITO)およびインジウム亜鉛オキシド(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AlZnO)および金属(例えば、金)等の導電性金属酸化物が挙げられるが、従来、ガラスまたはプラスチックが基材材料として使用されている。アノード2と、金属(例えば、Ag、Ag:Mg)または金属酸化物から製造されていてもよいカソード4との間には、第1の実施形態による配合物の溶液堆積によって形成されたn型OSCとp型OSCとの混合物を含むまたは当該混合物からなり、バルクヘテロ接合を含む、光活性層3がある。接点5は、アノード2とカソード4との間に設けられており、接点5は、逆バイアスをデバイスに印加するための電圧源、および、例えば発生した光電流を測定するための検出器(例えば、逆バイアス電圧源と直列に配線された検出回路としての電流計または電流読出しデバイス)を含んでもよい。
【0064】
図1は、説明目的に役立つものにすぎず、例えば電子ブロッキング層(EBL)、正孔注入層(HIL)、電子注入層(EIL)、励起子ブロッキング層(XBL)、スペーサー層、接続層、正孔ブロッキング層(HBL)および電極の仕事関数を変えるための電極改質層等の1つ以上のさらなる層が、デバイス中に存在してもよいと理解すべきである。
【0065】
アノードは、図1に提示のように、基材上に支持されてもよく、配合物は、アノードを覆うように堆積させて、光活性層を形成し、続いて、カソードを形成することが可能であり、または、カソードは、基材上に支持されていてもよく、この場合、配合物は、カソードを覆うように堆積させて、光活性層を形成し、続いて、アノードを形成することが可能であることは、理解されよう。
【0066】
本発明による配合物は、限定されるわけではないが、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティング、ドクターブレードコーティング、ワイヤーバーコーティング、スリットコーティング、インクジェット印刷、活版印刷、吐出式印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセットリソグラフィ印刷およびフレキソ印刷を含む、任意の適切な溶液堆積法によって塗布することができる。
【0067】
OPDの活性層の吐出式印刷は、OPDを他の成分と一体化させるための簡便な付加製造法に至るまでの一段階である。ここで、インクの連続流が、基材からある規定の距離内に位置決めされたノズルから堆積される。所望のパターンが、ノズルおよび基材の相対的な移動によって作製される。
【0068】
ノズル吐出速度(溶液流量)、パターン密度(線形の間隔配置)、ノズル移動速度(線形速度)およびインク濃度の制御によって、光活性層フィルムの一様性を調整することができる。
【0069】
配合物を溶液堆積させて、濡れたフィルムを形成した後、溶媒混合物を乾燥させる。溶媒は、堆積した濡れたフィルムを、任意選択により50~200℃の範囲の温度に加熱することにより、および/または、減圧、任意選択により0.01~0.1mbarの範囲の圧力を、好ましくは濡れたフィルムが形成されたらすぐに施用することにより、周囲温度および周囲圧力における乾燥によって、濡れたフィルムから蒸発させることができる。
【0070】
溶媒の除去後に生成した光活性層の厚さは、好ましくは10nm~3μm、より好ましくは20nm~2μmである。
【0071】
光活性層は均一であってもよいし、または相分離していてもよく、相どうしがp型材料のn型材料に対する比が異なり得る異なる相を含有することができる。光活性層は、光活性層の厚さ全体にわたって、実質的に一様な比を有し得、または、p型材料のn型材料に対する比は、光活性層の厚さ全体にわたって、徐々にもしくは段階的に異なってもよい。
【0072】
第3の態様において、本発明は、アノード、カソード、および、カソードとアノードとの間に第1の実施形態による配合物から形成された光活性層を備える、有機感光性電子デバイス、または、第2の態様による方法によって形成された、有機感光性電子デバイスのそれぞれに関する。
【0073】
本発明の有機感光性デバイスの説明用の例が、図1に図示されている。
【0074】
有機感光性電子デバイスは、光起電デバイスもしくは太陽電池、光伝導体セルまたは光検出器であってよく、例えば、これらのそれぞれが、所望の目的に応じて、単一のデバイスとして動作することもできるし、またはアレイとして動作することもできる。光検出器の場合は、各光検出器が1個以上の光源を伴う、光検出器のアレイが使用されてもよい。本発明の利益を完全に活用するために、本発明の有機感光性電子デバイスは、好ましくは、有機フォトダイオードであり、有機フォトダイオードは、光導電モード(いわゆる逆バイアス電圧である外部電圧が印加される)で動作し、これにより、光起電モード(バイアス電圧が0の状態)で動作する太陽電池とは反対に光伝導体セルまたは光検出器として機能する。
【0075】
本明細書において記述された有機光検出器は、限定はないが、環境光の存在および/または明るさを検出することを含む、多種多様な用途に使用することもできるし、本明細書において記述された少なくとも1個の有機光検出器および少なくとも1個の光源を備えるセンサーに使用することもできる。光検出器は、光源から放出された光が光検出器に入射し、光の波長および/または明るさの変化を検出することができるように構成されることが可能である。本明細書において記述された光検出器のアレイは、単一の光源または2個以上の光源から放出された光を検出するように構成されることが可能である。センサーは、限定はないが、気体センサー、バイオセンサー、X線画像センサーまたはモーションセンサー、例えば、セキュリティ用途に使用されるモーションセンサー、近接センサーまたは指紋センサーであってよい。
【0076】
[実施例]
配合例
1,2,4-トリメチルベンゼン(溶媒A)と表1に記載の溶媒(溶媒B)との溶媒混合物として、n型有機半導体としてのフラーレンC70-IPHもしくはC70-IPB(63wt%)および構造式(1)を有するp型有機半導体ポリマー(37wt%)、または、n型有機半導体としてのフラーレンC70-PCBM(67wt%)および構造式(1)を有するp型有機半導体ポリマー(33wt%)を含む、配合物を調製した。
【化8】
【表1】
【0077】
デバイス例1~3
カソード/ドナー:アクセプター層/アノードという構造を有するデバイスを調製した。
【0078】
約900nmの厚さを有する光活性層を形成するように、インジウムスズオキシド(ITO)の層およびポリ(エチレンイミン)(PEIE)の層によってコーティングされたガラス基材上へのワイヤーバーコーティングによって、それぞれ配合例1~3をコーティングすることによって、デバイス例1~3を形成した。Heraeus,Inc.から入手できる正孔輸送材料のスピンコーティングによって、光活性層を覆うようにアノードを形成した。
【0079】
比較用デバイス1
配合例1の代わりに比較用配合物1を使用したことを除いて、デバイス例1~3を参照しながら記載のとおりにして、デバイスを調製した。
【0080】
図2Aを参照すると、1,2,4-トリメチルベンゼン(TMB)およびベンジルベンゾエート(BB)を含有する比較用配合物1を使用して形成された比較用デバイス1の外部量子効率は、それぞれ2-メチルベンゾチアゾール(2MBT)を含有する配合例1~3を使用して形成されたデバイス例1~3の効率と類似している。しかしながら、図2Bを参照すると、比較用デバイス1の暗電流は、デバイス例1~3のいずれの暗電流よりかなり高い。
【0081】
デバイス例4
カソード/ドナー:アクセプター層/正孔輸送層/アノードという構造を有するデバイスを調製した。
【0082】
約350nmの厚さを有する光活性層を形成するように、インジウムスズオキシド(ITO)の層およびポリ(エチレンイミン)(PEIE)の層によってコーティングされたガラス基材上へのスピンコーティングによって、配合例4を堆積させた。Solvayから入手できる正孔輸送材料のスピンコーティングによって、光活性層を覆うように正孔輸送層を形成した。銀ナノワイヤーのスピンコーティングによって、アノードを形成した。
【0083】
比較用デバイス2
配合例4の代わりに比較用配合物2を使用したことを除いて、デバイス例4を参照しながら記載のとおりにして、デバイスを調製した。
【0084】
沸点がより低い溶媒である4-tert-ブチルピリジンを使用して、比較用デバイス2を形成することにより、図3Aに提示のように、デバイス例4に比較して外部量子効率が非常に低くなるが、順方向バイアスをかけられたときには、図3Bに提示のように、3Vの逆バイアスにおける暗電流が高くなり、導電性が低下する。
【0085】
比較用デバイス3~6
それぞれプロピルベンゾエート(PB)、ブチルベンゾエート(BuB)、ヘキシルベンゾエート(HB)およびベンジルベンゾエート(BB)を含有する比較用配合物3~6が配合例4の代わりに使用されたことを除いて、デバイス例4を参照しながら記載のとおりにして、比較用デバイス3~6を調製した。
【0086】
図4を参照すると、2-メチルベンゾチアゾールに類似した可溶度および沸点を有する溶媒が、2-メチルベンゾチアゾールの代わりに使用されたにもかかわらず、比較用デバイス3~5の外部量子効率は低い。比較用配合物6は、ベンジルベンゾエートを含有する。この配合物から形成された比較用デバイス6の外部量子効率は比較的高いが、図2Bには、2-メチルベンゾチアゾールの代わりにベンジルベンゾエートを使用すると、比較的高い暗電流が生じることが示されている。
【0087】
驚くべきことに、例示的な配合物は、溶媒どうしが類似した沸点およびハンセン溶解度を有する比較用配合物より良好な外部量子効率および低い暗電流をもたらしている。
【0088】
本発明は、特定の例示的な実施形態に関して記述されてきたが、本明細書において開示された特徴の様々な修正形態、代替形態および/または組合せが、下記の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱することなく当業者には明らかであることは、理解されよう。
【符号の説明】
【0089】
1 基材層
2 アノード
3 光活性層
4 カソード
5 接点
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4