(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】非水系電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20221025BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221025BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221025BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221025BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019535676
(86)(22)【出願日】2018-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2018029618
(87)【国際公開番号】W WO2019031508
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017155379
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 晃一
(72)【発明者】
【氏名】金 呈▲民▼
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/166912(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極と、非水系電解液と、を備える非水系電解液二次電池であって、
前記正極活物質はリチウム遷移金属系化合物を含み、前記正極活物質は少なくともNi、Mn及びCoを含み、Mn/(Ni+Mn+Co)モル比は0より大きく、
0.28以下であり、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比は0.45以上であり、前記正極の極板密度が、3.0g/cm
3以上であり、前記非水系電解液が、モノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩を含
み、前記モノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩の合計含有量が、前記非水系電解液中の濃度として0.01質量%以上である、非水系電解液二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質が、下記式(I)で示されるリチウム遷移金属系化合物を含む、請求項1に記載の非水系電解液二次電池。
Li
1+xMO
2 ・・・(I)
(上記式(I)中、xは-0.05以上、0.06以下であり、Mは少なくともNi、Mn及びCoから構成される。)
【請求項3】
前記xが0.028以下である、請求項2に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項4】
前記Ni/(Ni+Mn+Co)モル比が0.55以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項5】
前記正極の極板密度が、3.2g/cm
3以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質がさらに硫酸塩を含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質に含まれる前記硫酸塩の量が、15μmol/g以上である請求項
6に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属系化合物は、未充電状態でNi平均価数が2.1以上である請求項1~
7のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項9】
前記リチウム遷移金属系化合物の水溶液のpHが、液温25℃基準で11以上である請求項1~
8のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質が、炭酸塩を10μmol/g以上含む請求項1~
9のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項11】
前記リチウム遷移金属系化合物のタップ密度が、1.8g/cm
3以上である請求項1~
10のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
含リチウム遷移金属酸化物を正極に用い、非水溶媒を電解液に用いるリチウム非水系電解液二次電池は、高いエネルギー密度を実現できることから、携帯電話、ラップトップコンピュータ等の小型電源から、自動車や鉄道、ロードレベリング用の大型電源まで広範な用途に適用されている。しかしながら、近年の非水系電解液二次電池に対する高性能化の要求はますます高まっており、各種特性の改善が強く要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩等を含有する電解液を用いた非水系電解液二次電池とすることで、大型の電池とした場合にも高容量で、長寿命、かつ高い出力を有する非水系電解液二次電池となることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ハイブリット自動車用や電気自動車用の電源として非水系電解質二次電池を用いる場合、出力特性とサイクル特性が極めて重要となるため、リチウム遷移金属系化合物の1次粒子の結晶の乱れを小さくすることで、結晶内部の抵抗を低減し、サイクル特性の良い高寿命な非水系電解質二次電池用正極活物質を安定して提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/055087号
【文献】特開2007-242288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の非水系電解液二次電池の特性改善への要求に対し、上記の従来技術では、非水系電解液二次電池の各種性能を高いレベルで併せ持つことが未だ達成されていない。例えば、特許文献1の非水系電解液二次電池では、さらなる電池容量や安全性の向上が求められ、特許文献2の非水系電解液二次電池では、高温保存後の容量維持率が低く、高温保存後の保存ガス量や金属溶出量が多いため、高温寿命の改善や安全性の向上が求められていた。特に、自動車用の大型電池などは、その使用環境により、モーターからの熱や太陽熱等の使用環境からの熱により電池自体が高温化に置かれる。そのため、高温下での高温特性に優れ(例えば、高温保存後の容量維持率が高く、高温保存後の保存ガス量が少ない)、安全性の高い(例えば、高温保存後の抵抗が低く、正極からの金属溶出が少なく、高温時の発熱量が少ない)非水系電解液二次電池が望まれていた。
【0007】
本発明は、非水系電解液二次電池において、高温保存後の容量維持率が高く、高温保存後の保存ガス量が少なく、高温保存後の抵抗が低く、正極からの金属溶出が少なく、高温時の発熱量が少ない非水系電解液二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の正極を用い、特定の化合物を含有する非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池とすることで、高温保存後の容量維持率が高く、高温保存後の保存ガス量が少なく、高温保存後の抵抗が低く、正極からの金属溶出が少なく、高温時の発熱量が少ない非水系電解液二次電池が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下に示す通りである。
[1]金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極と、非水系電解液と、を備える非水系電解液二次電池であって、
前記正極活物質はリチウム遷移金属系化合物を含み、前記正極活物質は少なくともNi、Mn及びCoを含み、Mn/(Ni+Mn+Co)モル比は0より大きく、0.32以下であり、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比は0.45以上であり、前記正極の極板密度が、3.0g/cm3以上であり、前記非水系電解液が、モノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩を含む、非水系電解液二次電池。
[2]前記正極活物質が、下記式(I)で示されるリチウム遷移金属系化合物を含む、[1]に記載の非水系電解液二次電池。
Li1+xMO2 ・・・(I)
(上記式(I)中、xは-0.05以上、0.06以下であり、Mは少なくともNi、Mn及びCoから構成される。)
[3]前記xが0.028以下である、[2]に記載の非水系電解液二次電池。
[4] 前記Mn/(Ni+Mn+Co)モル比が0.28以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[5] 前記Ni/(Ni+Mn+Co)モル比が0.55以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[6] 前記正極の極板密度が、3.2g/cm3以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[7] 前記正極活物質がさらに硫酸塩を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[8] 前記正極活物質に含まれる前記硫酸塩の量が、15μmol/g以上である[7]に記載の非水系電解液二次電池。
[9] 前記リチウム遷移金属系化合物は、未充電状態でNi平均価数が2.1以上である[1]~[8]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[10] 前記リチウム遷移金属系化合物の水溶液のpHが、液温25℃基準で11以上である[1]~[9]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[11]前記正極活物質が、炭酸塩を10μmol/g以上含む[1]~[10]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
[12]前記リチウム遷移金属系化合物のタップ密度が、1.8g/cm3以上である[1]~[11]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温保存後の容量維持率が高く、高温保存後の保存ガス量が少なく、高温保存後の抵抗が低く、正極からの金属溶出が少なく、高温時の発熱量が少ない非水系電解液二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は請求項に記載の要旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0012】
本発明の実施形態は、非水系電解液二次電池に関し、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極と、非水系電解液と、を備える。以下、各構成について説明する。
【0013】
[1.非水系電解液]
本発明の非水系電解液二次電池に用いる非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様に、電解質及びこれを溶解する非水溶媒を含有し、モノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩を含むことを主たる特徴とする。
【0014】
[1-1.モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩]
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、それぞれ、分子内に少なくとも1つのモノフルオロリン酸又はジフルオロリン酸構造を有する塩であれば、特に制限されない。モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩から選ばれる1種以上を含む電解液を用いることで、非水系電解液二次電池の耐久特性を改善することができる。また、後述する特定の正極を備えた非水系二次電池に適用することで、高温保存後の容量維持率が高く、高温保存後の保存ガス量が少なく、高温保存後の抵抗が低く、正極からの金属溶出が少なく、高温時の発熱量が少ない非水系電解液二次電池を得ることができる。
【0015】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩におけるカウンターカチオンは、特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、NR121R122R123R124(式中、R121~R124は、独立して、水素原子又は炭素数1以上12以下の有機基である)で表されるアンモニウム等が挙げられる。上記アンモニウムのR121~R124で表わされる炭素数1以上12以下の有機基は特に制限されず、例えば、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基、置換基を有していてもよい窒素原子含有複素環基等が挙げられる。中でもR121~R124は、独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又は窒素原子含有複素環基等が好ましい。カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、中でもリチウムが好ましい。
【0016】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩としては、モノフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム等が挙げられ、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムが好ましく、ジフルオロリン酸リチウムがより好ましい。
【0017】
モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩の合計含有量は、非水系電解液中の濃度として0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましく、0.5質量%以上であることが最も好ましい。また、8質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることが特に好ましく、1.5質量%以下が最も好ましい。モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩の合計含有量がこの範囲であれば、非水系電解液二次電池とした際に、高温保存後の容量が大きく、電池膨れや金属溶出量を抑制するため、高温寿命や安全性に優れ、非水系電解液二次電池の製造コストの増加を避けることができる。
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なお、本発明において、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、電解液内および電池内で生成したものも含む。
【0018】
[1-2.電解質]
非水系電解液に用いる電解質に制限は無く、非水系電解液二次電池に電解質として用いられるものであれば公知のものを任意に採用することができる。非水系電解液をリチウム二次電池に用いる場合には、通常は、電解質としてリチウム塩を用いる。
【0019】
電解質の具体例としては、
LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiSO3F、LiN(FSO2)2等の無機リチウム塩;
LiCF3SO3、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,3-ヘキサフルオロプロパンジスルホニルイミド、リチウム環状1,2-テトラフルオロエタンジスルホニルイミド、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2等の含フッ素有機リチウム塩;
リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート等の含ジカルボン酸錯体リチウム塩;
等が挙げられる。
【0020】
これらのうち、非水溶媒への溶解性・解離度、電気伝導度及び得られる電池特性の点から、LiPF6、LiBF4、LiSO3F、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートが好ましく、LiPF6、LiBF4が特に好ましい。
なお、本発明において、LiBF4、LiSO3F、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートは、電解液内および電池内で生成したものも含む。
【0021】
また、電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、特定の無機リチウム塩の2種を併用したり、無機リチウム塩と含フッ素有機リチウム塩とを併用したりすると、トリクル充電時のガス発生が抑制されたり、高温保存後の劣化が抑制されるので好ましい。特に、LiPF6とLiBF4との併用や、LiPF6、LiBF4等の無機リチウム塩と、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2等の含フッ素有機リチウム塩とを併用することが好ましい。
【0022】
更に、LiPF6とLiBF4とを併用する場合、電解質全体に対してLiBF4が0.01質量%以上、50質量%以下の比率で含有されていることが好ましい。上記比率は、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。一方、上限は、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。比率が上記範囲にあることにより、所望の効果を得やすくなり、また、LiBF4の低い解離度により、電解液の抵抗を高くすることを抑制する。
【0023】
一方、LiPF6、LiBF4等の無機リチウム塩と、LiSO3F、LiN(FSO2)2等の無機リチウム塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,3-ヘキサフルオロプロパンジスルホニルイミド、リチウム環状1,2-テトラフルオロエタンジスルホニルイミド、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2等の含フッ素有機リチウム塩や、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムトリ(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート等の含ジカルボン酸錯体リチウム塩等と、を併用する場合、電解質全体に占める無機リチウム塩の割合は、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。また、通常99質量%以下、好ましくは95質量%以下である。
【0024】
非水系電解液中における電解質の濃度は、本発明の効果を損なわない限り任意であるが、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上、より好ましくは0.8mol/L以上である。また、通常3mol/L以下、好ましくは2mol/L以下、より好ましくは1.8mol/L以下、更に好ましくは1.6mol/L以下の範囲である。電解質の濃度が上記範囲にあることにより、非水系電解液の電気伝導率が十分となり、また、粘度上昇による電気伝導率の低下すなわち非水系電解液二次電池の性能の低下を抑制する。
【0025】
[1-3.非水溶媒]
非水系電解液が含有する非水溶媒としては、従来から非水系電解液の溶媒として公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
通常使用される非水溶媒の例としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状及び環状カルボン酸エステル、鎖状エーテル、含リン有機溶媒、含硫黄有機溶媒、芳香族含フッ素溶媒等が挙げられる。
【0026】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。環状カーボネートの炭素数は、通常3以上6以下である。これらの中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートは、誘電率が高いため電解質が溶解し易く、非水系電解液二次電池にしたときにサイクル特性が良いという点で好ましい。
【0027】
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートを構成するアルキル基の炭素数は、1以上5以下が好ましく、特に好ましくは1以上4以下である。中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが電池特性向上の点から好ましい。
また、アルキル基の水素の一部をフッ素で置換した鎖状カーボネート類も挙げられる。フッ素で置換した鎖状カーボネートとしては、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2-フルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0028】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバル酸メチル、ピバル酸エチル等及びこれらの化合物の水素の一部をフッ素で置換した鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。フッ素で置換した鎖状カルボン酸エステルとしては、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル、トリフルオロ酢酸2,2,2-トリフルオロエチル等が挙げられる。
この中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、ピバル酸メチルが電池特性向上の点から好ましい。
【0029】
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びこれらの化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステル等が挙げられる。
これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。
【0030】
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、1,1-エトキシメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン及びこれらの化合物の水素の一部をフッ素で置換した鎖状エーテル等が挙げられる。
フッ素で置換した鎖状エーテルとしては、ビス(トリフルオロエトキシ)エタン、エトキシトリフルオロエトキシエタン、メトキシトリフルオロエトキシエタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-トリフルオロメチル-ペンタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-エトキシ-4-トリフルオロメチル-ペンタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-プロポキシ-4-トリフルオロメチル-ペンタン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、2,2-ジフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル等が挙げられる。
これらの中でも、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンがより好ましい。
【0031】
含リン有機溶媒としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸ジメチルエチル、リン酸メチルジエチル、リン酸エチレンメチル、リン酸エチレンエチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等及びこれらの化合物の水素の一部をフッ素で置換した含リン有機溶媒が挙げられる。フッ素で置換した含リン有機溶媒として、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)等が挙げられる。
【0032】
含硫黄有機溶媒としては、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル、エタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチル等及びこれらの化合物の水素の一部をフッ素で置換した含硫黄有機溶媒が挙げられる。
【0033】
芳香族含フッ素溶媒としては、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等が挙げられる。
【0034】
上記の非水溶媒の中でも、環状カーボネートであるエチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートを用いることが好ましく、更にこれらと鎖状カーボネートとを併用することが電解液の高い電導度と低い粘度を両立できる点から好ましい。
【0035】
非水溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。2種以上を併用する場合、例えば環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、非水溶媒中に占める鎖状カーボネートの好適な含有量は、通常20体積%以上、好ましくは40体積%以上、また、通常95体積%以下、好ましくは90体積%以下である。一方、非水溶媒中に占める環状カーボネートの好適な含有量は、通常5体積%以上、好ましくは10体積%以上、また、通常80体積%以下、好ましくは60体積%以下である。鎖状カーボネートの割合が上記範囲にあることにより、非水系電解液の粘度上昇を抑制し、また、電解質であるリチウム塩の解離度の低下による非水系電解液の電気伝導率低下を抑制する。なお、本明細書において、非水溶媒の体積は25℃での測定値であるが、エチレンカーボネートのように25℃で固体のものは融点での測定値を用いる。
【0036】
[1-4.その他の添加剤]
本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
非水系電解液に添加することのできる従来公知の添加剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、イソシアナト基(イソシアネート基)を有する化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、複数のエーテル結合を有する環状化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、ホウ酸塩、シュウ酸塩、フルオロスルホン酸塩等が例示できる。
以下、それぞれの添加剤について述べるが、これらの中には、上記で既に述べたものも含まれている場合がある。
【0038】
[1-4-1.炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート]
炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」と記載する場合がある)としては、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はなく、任意の不飽和カーボネートを用いることができる。なお、芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
【0039】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環又は炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。
【0040】
中でも、特に併用するのに好ましい不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネートが挙げられる。また、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートは更に安定な界面保護被膜を形成するので好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネーがより好ましく、ビニレンカーボネートがさらに好ましい。
【0041】
不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、80以上、より好ましくは85以上であり、また、好ましくは、250以下であり、より好ましくは150以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現されやすい。
【0042】
不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、不飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。不飽和環状カーボネートの配合量は、非水系電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、とくに好ましくは2質量%以下である。この範囲内であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が良好であり、ガス発生量が少なく、放電容量維持率が良好である。
【0043】
[1-4-2.フッ素含有環状カーボネート]
フッ素含有環状カーボネートとしては、通常炭素数2以上6以下のアルキレン基を有する環状カーボネートのフッ素化物、及びその誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネートのフッ素化物(以下、「フッ素化エチレンカーボネート」と記載する場合がある)、及びその誘導体が挙げられる。エチレンカーボネートのフッ素化物の誘導体としては、炭素数1以上4以下のアルキル基で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられる。中でもフッ素数1以上8以下のフッ素化エチレンカーボネート及びその誘導体が好ましい。
【0044】
フッ素含有環状カーボネートを添加することによって、この電解液を用いた電池において、高温保存特性、サイクル特性を向上することができる。
フッ素数1~8個のフッ素化エチレンカーボネート及びその誘導体としては、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(ジフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-4-フルオロエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-5-フルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5,5-ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0045】
中でも、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネートが、電解液に高イオン伝導性を与え、かつ安定な界面保護被膜を容易に形成しやすい点で好ましい。
フッ素化環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。フッ素化環状カーボネートの量(2種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更により好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上、最も好ましくは1.2質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下である。また、フッ素化環状カーボネートを非水溶媒として用いる場合の配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは10体積%以上であり、また、好ましくは50体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
上記の含有量で用いることで、高温保存特性、サイクル特性の向上効果を十分に得ることができると共に、不要なガス発生を抑制する
【0046】
[1-4-3.イソシアナト基を有する化合物]
非水系電解液は、イソシアナト基(イソシアネート基)を有する化合物を含有することができる。以下、「イソシアネート化合物」という場合がある。
イソシアネート化合物は、分子内に少なくとも1つのイソシアネート基を有する有機化合物であれば、特に制限されないが、イソシアネート基の数は、一分子中、好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上3以下、更に好ましくは1以上2以下である。
【0047】
イソシアネート化合物は、好ましくは、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、シクロアルキレン基、シクロアルキレン基とアルキレン基が連結した構造、芳香族炭化水素基、芳香族炭化水素基とアルキレン基が連結した構造、エーテル構造(-O-)、エーテル構造(-O-)とアルキレン基が連結した構造、カルボニル基(-C(=O)-)、カルボニル基とアルキレン基とが連結した構造、スルホニル基(-S(=O)-)、スルホニル基とアルキレン基とが連結した構造又はこれらがハロゲン化された構造等を有する化合物にイソシアネート基が結合した化合物であり、より好ましくは、直鎖状或いは分岐状のアルキレン基、シクロアルキレン基、シクロアルキレン基とアルキレン基が連結した構造、芳香族炭化水素基又は芳香族炭化水素基とアルキレン基が連結した構造にイソシアネート基が結合した化合物であり、更に好ましくは、シクロアルキレン基とアルキレン基が連結した構造にイソシアネート基が結合した化合物である。イソシアネート化合物の分子量は特に制限されない。分子量は、好ましくは80以上であり、より好ましくは115以上、更に好ましくは170以上であり、また、300以下であり、より好ましくは230以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対するイソシアネート化合物の溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現されやすい。イソシアネート化合物の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。また、市販品を用いてもよい。
【0048】
イソシアネート化合物としては、
イソシアナト基を1個有する化合物として、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ターシャルブチルイソシアネートなどのアルキルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネートなどのシクロアルキルイソシアネート、アリルイソシアネート、プロパルギルイソシアネートなどの不飽和イソシアネート、フェニルイソシアネート、トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、p-トルエンスルホニルイソシアネート等の芳香族イソシアネート;
【0049】
イソシアナト基を2個有する化合物として、モノメチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアナト-2-ブテン、トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ジイソシアン酸イソホロン、カルボニルジイソシアネート、1,4-ジイソシアナトブタン-1,4-ジオン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート等の化合物;
【0050】
イソシアナト基を3個有する化合物として、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン、4-イソシアナトメチル-1,8-オクタメチレンジイソシアネート、1,3,5-トリイソシアネートメチルベンゼン、1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキサ-1-イル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、分子内に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物から誘導される三量体化合物(たとえばビウレット、イソシアヌレート、アダクト及び二官能のタイプの変性ポリイソシアネート等)などの化合物;
等が挙げられる。
【0051】
これらのうち、t-ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、p-トルエンスルホニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ジイソシアン酸イソホロン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート等の化合物が保存特性向上の点から好ましく、シクロヘキシルイソシアネート、p-トルエンスルホニルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ジイソシアン酸イソホロン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナートがより好ましく、シクロヘキシルイソシアネート、p-トルエンスルホニルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ジイルビス(メチルイソシアネート)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイルビス(メチルイソシアネート)が更に好ましい。
【0052】
イソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
イソシアネート化合物の量(2種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。この範囲であれば、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性等を制御しやすい。
【0053】
[1-4-4.硫黄含有有機化合物]
硫黄含有有機化合物は、分子内に硫黄原子を少なくとも1つ有している有機化合物であれば、特に制限されないが、好ましくは分子内にS=O基を有している有機化合物であり、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状硫酸エステル、環状硫酸エステル、鎖状亜硫酸エステル及び環状亜硫酸エステルが挙げられる。ただしフルオロスルホン酸塩に該当するものは、後述する硫黄含有有機化合物ではなく、後述する電解質であるフルオロスルホン酸塩に包含されるものとする。
中でも、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状硫酸エステル、環状硫酸エステル、鎖状亜硫酸エステル及び環状亜硫酸エステルが好ましく、より好ましくはS(=O)2基を有する化合物である。
【0054】
更に好ましくは鎖状スルホン酸エステル及び環状スルホン酸エステルであり、環状スルホン酸エステルがより好ましい。鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状硫酸エステル、環状硫酸エステル、鎖状亜硫酸エステル及び環状亜硫酸エステルの具体的な化合物を以下に例示する。
【0055】
<鎖状スルホン酸エステル>
フルオロスルホン酸メチル及びフルオロスルホン酸エチル等のフルオロスルホン酸エステル。
メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチル、メタンスルホニルオキシ酢酸エチル等のメタンスルホン酸エステル。
ビニルスルホン酸メチル、ビニルスルホン酸エチル、ビニルスルホン酸アリル、ビニルスルホン酸プロパルギル、アリルスルホン酸メチル、アリルスルホン酸エチル、アリルスルホン酸アリル、アリルスルホン酸プロパルギル及び1,2-ビス(ビニルスルホニロキシ)エタン等のアルケニルスルホン酸エステル。
メタンジスルホン酸メトキシカルボニルメチル、メタンジスルホン酸エトキシカルボニルメチル、1,2-エタンジスルホン酸メトキシカルボニルメチル、1,2-エタンジスルホン酸エトキシカルボニルメチル、1,3-プロパンジスルホン酸メトキシカルボニルメチル、1,3-プロパンジスルホン酸エトキシカルボニルメチル、1,3-プロパンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル等のアルキルジスルホン酸エステル。
【0056】
<環状スルホン酸エステル>
1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、2-プロペン-1,3-スルトン、2-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、1,4-ブタンスルトン及び1,5-ペンタンスルトン等のスルトン化合物。
メチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート等のジスルホネート化合物。
1,2,3-オキサチアゾリジン-2,2-ジオキシド等の含窒素化合物。
1,2,3-オキサチアホスラン-2,2-ジオキシド等の含リン化合物。
【0057】
<鎖状硫酸エステル>
ジメチルスルフェート、エチルメチルスルフェート及びジエチルスルフェート等のジアルキルスルフェート化合物。
【0058】
<環状硫酸エステル>
1,2-エチレンスルフェート、1,2-プロピレンスルフェート、1,3-プロピレンスルフェート、1,2-ブチレンスルフェート、1,3-ブチレンスルフェート、1,4-ブチレンスルフェート、1,2-ペンチレンスルフェート、1,3-ペンチレンスルフェート、1,4-ペンチレンスルフェート及び1,5-ペンチレンスルフェート等のアルキレンスルフェート化合物。
【0059】
<鎖状亜硫酸エステル>
ジメチルスルファイト、エチルメチルスルファイト及びジエチルスルファイト等のジアルキルスルファイト化合物。
【0060】
<環状亜硫酸エステル>
1,2-エチレンスルファイト、1,2-プロピレンスルファイト、1,3-プロピレンスルファイト、1,2-ブチレンスルファイト、1,3-ブチレンスルファイト、1,4-ブチレンスルファイト、1,2-ペンチレンスルファイト、1,3-ペンチレンスルファイト、1,4-ペンチレンスルファイト及び1,5-ペンチレンスルファイト等のアルキレンスルファイト化合物。
【0061】
これらのうち、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル、プロパンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、プロパンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、ブタンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、ブタンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、1,4-ブタンスルトン、1,2-エチレンスルフェート、1,2-エチレンスルファイト、メタンスルホン酸メチル及びメタンスルホン酸エチルが初期効率向上の点から好ましく、プロパンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、プロパンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、ブタンジスルホン酸1-メトキシカルボニルエチル、ブタンジスルホン酸1-エトキシカルボニルエチル、1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、1,2-エチレンスルフェート、1,2-エチレンスルファイトがより好ましく、1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトンが更に好ましい。
【0062】
硫黄含有有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
硫黄含有有機化合物の含有量(2種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、特に好ましくは0.6質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以下、最も好ましくは1.0質量%以下である。この範囲にあると、電池の出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性等を制御しやすい。
【0063】
[1-4-5.リン含有有機化合物]
リン含有有機化合物は、分子内に少なくとも一つリン原子を有している有機化合物であれば、特に制限されない。リン含有有機化合物を含有する非水系電解液を用いた電池は、耐久特性を改善することができる。
【0064】
リン含有有機化合物としては、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、亜リン酸エステルが好ましく、より好ましくはリン酸エステル及びホスホン酸エステルであり、更に好ましくはホスホン酸エステルである。これらのエステルは、置換基を有していてもよい。
【0065】
リン含有有機化合物の具体例としては、
ジエチルビニルホスフェート、アリルジエチルホスフェート、プロパルギルジエチルホスフェート、トリビニルホスフェート、トリアリルホスフェート、トリプロパルギルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルジエチルホスフェート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、トリメチル ホスホノフォルメート、メチル ジエチルホスホノフォルメート、メチル ジプロピルホスホノフォルメート、メチル ジブチルホスホノフォルメート、トリエチル ホスホノフォルメート、エチル ジメチルホスホノフォルメート、エチル ジプロピルホスホノフォルメート、エチル ジブチルホスホノフォルメート、トリプロピル ホスホノフォルメート、プロピル ジメチルホスホノフォルメート、プロピル ジエチルホスホノフォルメート、プロピル ジブチルホスホノフォルメート、トリブチル ホスホノフォルメート、ブチル ジメチルホスホノフォルメート、ブチル ジエチルホスホノフォルメート、ブチル ジプロピルホスホノフォルメート、メチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、エチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、プロピル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、ブチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノフォルメート、トリメチル ホスホノアセテート、メチル ジエチルホスホノアセテート、メチル ジプロピルホスホノアセテート、メチル ジブチルホスホノアセテート、トリエチル ホスホノアセテート、エチル ジメチルホスホノアセテート、エチル ジプロピルホスホノアセテート、エチル ジブチルホスホノアセテート、トリプロピル ホスホノアセテート、プロピル ジメチルホスホノアセテート、プロピル ジエチルホスホノアセテート、プロピル ジブチルホスホノアセテート、トリブチル ホスホノアセテート、ブチル ジメチルホスホノアセテート、ブチル ジエチルホスホノアセテート、ブチル ジプロピルホスホノアセテート、メチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、エチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、プロピル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、ブチル ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノアセテート、アリル ジメチルホスホノアセテート、アリル ジエチルホスホノアセテート、2-プロピニル ジメチルホスホノアセテート、2-プロピニル ジエチルホスホノアセテート、トリメチル 3-ホスホノプロピオネート、メチル 3-(ジエチルホスホノ)プロピオネート、メチル 3-(ジプロピルホスホノ)プロピオネート、メチル 3-(ジブチルホスホノ)プロピオネート、トリエチル 3-ホスホノプロピオネート、エチル 3-(ジメチルホスホノ)プロピオネート、エチル 3-(ジプロピルホスホノ)プロピオネート、エチル 3-(ジブチルホスホノ)プロピオネート、トリプロピル 3-ホスホノプロピオネート、プロピル 3-(ジメチルホスホノ)プロピオネート、プロピル 3-(ジエチルホスホノ)プロピオネート、プロピル 3-(ジブチルホスホノ)プロピオネート、トリブチル 3-ホスホノプロピオネート、ブチル 3-(ジメチルホスホノ)プロピオネート、ブチル 3-(ジエチルホスホノ)プロピオネート、ブチル 3-(ジプロピルホスホノ)プロピオネート、メチル 3-(ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノ)プロピオネート、エチル 3-(ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノ)プロピオネート、プロピル 3-(ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノ)プロピオネート、ブチル 3-(ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスホノ)プロピオネート、トリメチル 4-ホスホノブチレート、メチル 4-(ジエチルホスホノ)ブチレート、メチル 4-(ジプロピルホスホノ)ブチレート、メチル 4-(ジブチルホスホノ)ブチレート、トリエチル 4-ホスホノブチレート、エチル 4-(ジメチルホスホノ)ブチレート、エチル 4-(ジプロピルホスホノ)ブチレート、エチル 4-(ジブチルホスホノ)ブチレート、トリプロピル 4-ホスホノブチレート、プロピル 4-(ジメチルホスホノ)ブチレート、プロピル 4-(ジエチルホスホノ)ブチレート、プロピル 4-(ジブチルホスホノ)ブチレート、トリブチル 4-ホスホノブチレート、ブチル 4-(ジメチルホスホノ)ブチレート、ブチル 4-(ジエチルホスホノ)ブチレート、ブチル 4-(ジプロピルホスホノ)ブチレートなどが挙げられる。
【0066】
リン含有有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
リン含有有機化合物の含有量(2種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上、特に好ましくは0.6質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1.2質量%以下、最も好ましくは0.9質量%以下である。この範囲であると、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性等を制御しやすい。
【0067】
[1-4-6.シアノ基を有する有機化合物]
シアノ基を有する有機化合物としては、ペンタンニトリル、オクタンニトリル、デカンニトリル、ドデカンニトリル、クロトノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、グルタロニトリル及び3,9-ビス(2-シアノエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,2,3-トリシアノプロパン、1,3,5-トリシアノペンタン、1,4,7-トリシアノヘプタン、1,2,4-トリシアノブタン、1,2,5-トリシアノペンタン、1,2,6-トリシアノヘキサン、1,3,6-トリシアノヘキサン、1,2,7-トリシアノヘプタンが挙げられる。
【0068】
シアノ基を有する有機化合物は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下の濃度で含有させる。この範囲にあると、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性等を制御しやすい。
シアノ基を有する有機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0069】
[1-4-7.ケイ素含有化合物]
ケイ素含有化合物は、分子内に少なくとも1つのケイ素原子を有する化合物であれば、特に制限されない。ケイ素含有化合物を含む電解液を使用することによって、非水系電解液二次電池の耐久特性を改善することができる。
ケイ素含有化合物としては、式(2-6)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0070】
式(2-6)中、R61、R62及びR63は、独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、
X61は、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個の原子を含む有機基である。
R61、R62及びR63は、好ましくは水素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0071】
X61は、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1個の原子を含む有機基であり、好ましくは、酸素原子又はケイ素原子を少なくとも含む有機基である。ここで、有機基とは、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1個以上の原子で構成された基のことを表す。有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、CN基、イソシアナト基、フルオロ基、アルキルスルホン酸基及びトリアルキルシリル基等が挙げられる。なお、1価の有機基の一部はフッ素原子で置換されていてもよい。また、有機基の炭素数は、1以上であることができ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また、15以下であることができ、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。
【0072】
これらのうち、アルキルスルホン酸基、トリアルキルシリル基、ホウ酸基、リン酸基及び亜リン酸基が好ましい。
ケイ素含有化合物としては、
ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(トリメトキシシリル)、ホウ酸トリス(トリエチルシリル)、ホウ酸トリス(トリエトキシシリル)、ホウ酸トリス(ジメチルビニルシリル)及びホウ酸トリス(ジエチルビニルシリル)等のホウ酸化合物; リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリエチルシリル)、リン酸トリス(トリプロピルシリル)、リン酸トリス(トリフェニルシリル)、リン酸トリス(トリメトキシシリル)、リン酸トリス(トリエトキシシリル)、リン酸トリス(トリフエノキシシリル)、リン酸トリス(ジメチルビニルシリル)及びリン酸トリス(ジエチルビニルシリル)等のリン酸化合物;
亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリエチルシリル)、亜リン酸トリス(トリプロピルシリル)、亜リン酸トリス(トリフェニルシリル)、亜リン酸トリス(トリメトキシシリル)、亜リン酸トリス(トリエトキシシリル)、亜リン酸トリス(トリフエノキシシリル)、亜リン酸トリス(ジメチルビニルシリル)及び亜リン酸トリス(ジエチルビニルシリル)等の亜リン酸化合物;
メタンスルホン酸トリメチルシリル、テトラフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル等のスルホン酸化合物;
ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、1,1,2,2-テトラメチルジシラン、1,1,2,2-テトラエチルジシラン、1,2-ジフェニルテトラメチルジシラン及び1,1,2,2-テトラフェニルジシラン等のジシラン化合物;
等が挙げられる。
【0073】
これらのうち、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、メタンスルホン酸トリメチルシリル、テトラフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、1,2-ジフェニルテトラメチルジシラン及び1,1,2,2-テトラフェニルジシランが好ましく、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)及びヘキサメチルジシランがより好ましい。
【0074】
なお、これらケイ素含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ケイ素含有化合物(2種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。この範囲であれば、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性等を制御しやすい。
【0075】
[1-4-8.芳香族化合物]
芳香族化合物としては、分子内に芳香環を少なくとも1つ有している有機化合物であれば、特に制限されない。
【0076】
芳香族化合物としては、例えば以下が挙げられる。
フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド、シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼン、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、酢酸2-フェニルエチル、酢酸3-フェニルプロピル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、フェニル酢酸2-フェニルエチル、フェニル酢酸3-フェニルプロピル、3-フェニルプロピオン酸メチル、3-フェニルプロピオン酸エチル、3-フェニルプロピオン酸2-フェニルエチル、3-フェニルプロピオン酸3-フェニルプロピル、メチルフェニルスルホネート、2-tert-ブチルフェニルメチルスルホネート、4-tert-ブチルフェニルメチルスルホネート、シクロヘキシルフェニルメチルスルホネート、トリメチルフェニルシラン、トリス(2-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(2-シクロヘキシルフェニル)ホスフェート、トリス(4-シクロヘキシルフェニル)ホスフェート、ジエチルフェニルホスホネート、ジエチルベンジルホスホネート、ジエチル-(4-フルオロベンジル)ホスホネート、2-フルオロフェニルアセテート、4-フルオロフェニルアセテート、2,4-ジフルオロアニソール、2-フルオロトルエン、3-フルオロトルエン、4-フルオロトルエン。
中でも好ましくはフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド、シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼン、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、フェニル酢酸2-フェニルエチル、4-tert-ブチルフェニルメチルスルホネート、シクロヘキシルフェニルメチルスルホネート、トリス(2-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(4-シクロヘキシルフェニル)ホスフェート、2,4-ジフルオロアニソール、2-フルオロトルエンが挙げられる。
【0077】
また上記に挙げた以外でも、
1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、2,3-ジヒドロ1,3-ジメチル-1-(2-メチル-2-フェニルプロピル)-3-フェニル-1H-インダン、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、2,3-ジヒドロ1,3-ジメチル-1-(2-メチル-2-フェニルプロピル)-3-フェニル-1H-インダン、2,2-ジフェニルブタン、3,3-ジフェニルペンタン、3,3-ジフェニルヘキサン、4,4-ジフェニルヘプタン、5,5-ジフェニルオクタン、6,6-ジフェニルノナン、1,1-ジフェニル-1,1-ジtert-ブチル-メタン、1,1-ジフェニルシクロヘキサン、1,1-ジフェニルシクロペンタン、1,1-ジフェニル-4-メチルシクロヘキサン。
1,3-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、2,2-ジフェニルブタン、3,3-ジフェニルペンタン、1,1-ジフェニル-1,1-ジtert-ブチル-メタン、1,1-ジフェニルシクロヘキサン、1,1-ジフェニルシクロペンタン、1,1-ジフェニル-4-メチルシクロヘキサン、1,3-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、2,2-ジフェニルブタン、1,1-ジフェニルシクロヘキサン、1,1-ジフェニル-4-メチルシクロヘキサン、1,3-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、1,1-ジフェニルシクロヘキサン、1,1-ジフェニル-4-メチルシクロヘキサン、1,3-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、1,1-ジフェニルシクロヘキサン、1,3-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-ベンゼン、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダン、1-フェニル-1,3,3-トリメチルインダンなどが例として挙げられる。
【0078】
芳香族化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。非水系電解液全量(100質量%)中、芳香族化合物の量(2種以上の場合は合計量)は、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2.5質量%以下である。上記範囲内にあることにより、本発明の効果が発現しやすく、電池の抵抗増大を防ぐことができる。
【0079】
[1-4-9.フッ素非含有カルボン酸エステル]
フッ素非含有カルボン酸エステルは前述のように溶媒として使用することも可能である。フッ素非含有カルボン酸エステルは、分子内にフッ素原子を有さないカルボン酸エステルであれば、特に制限されない。
【0080】
フッ素非含有鎖状カルボン酸エステルとしては、以下が挙げられる。
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸n-ブチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸n-プロピル、吉草酸n-ブチル、ピバル酸メチル、ピバル酸エチル、ピバル酸n-プロピル、ピバル酸n-ブチル。
これらの中でも電解液粘度低下によるイオン伝導度の向上の点から、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸n-ブチルがより好ましく、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸n-ブチルが更に好ましく、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピルが特に好ましい。
【0081】
フッ素非含有カルボン酸エステルは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
フッ素非含有カルボン酸エステルの量(二種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.6質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下で、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。また、フッ素非含有カルボン酸エステルを非水溶媒として用いる場合の配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは10体積%以上、更により好ましくは20体積%以上であり、また、50体積%以下で含有させることができ、より好ましくは45体積%以下、更に好ましくは40体積%以下である。このような範囲であれば、負極抵抗の増大を抑制し、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性を制御しやすい。
【0082】
[1-4-10.複数のエーテル結合を有する環状化合物]
複数のエーテル結合を有する環状化合物としては、分子内に複数のエーテル結合を有する環状化合物であれば、特に限定されない。複数のエーテル結合を有する環状化合物は、電池の高温保存特性の向上に寄与するものであり、非水系電解液二次電池において、耐久特性を改善することができる。
【0083】
複数のエーテル結合を有する環状化合物としては、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、などがあげられる。
複数のエーテル結合を有する環状化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。複数のエーテル結合を有する環状化合物の量(2種以上の場合は合計量)は、電解液100質量%中、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。上記範囲を満たした場合は、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性等を制御しやすい。
【0084】
[1-4-11.電解質である添加剤]
添加剤のうち、電解質としての役割を持つ添加剤として、下記のもの(ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩)が例示できる。これらの塩は、特に、リチウム塩であることが好ましい。
非水系電解液中における、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩の合計含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0085】
[1-4-11-1.ホウ酸塩]
ホウ酸塩は、分子内にホウ素原子を少なくとも1つ有している塩であれば、特に制限されない。ただしシュウ酸塩に該当するものは、ホウ酸塩ではなく、後述するシュウ酸塩に包含されるものとする。本発明の電池において、耐久特性を改善することができる。
【0086】
ホウ酸塩におけるカウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ルビジウム、セシウム、バリウム等が挙げられ、中でもリチウムが好ましい。
ホウ酸塩としては、リチウム塩が好ましく、含ホウ酸リチウム塩も好適に使用することができる。例えばLiBF4、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiBF3C3F7、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2等が挙げられる。中でも、LiBF4が初期充放電効率と高温サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。
【0087】
ホウ酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ホウ酸塩の量(2種以上の場合は合計量)は、0.05質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上であり、また、10.0質量%以下であることができ、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.0質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。この範囲内であると、電池負極の副反応が抑制され抵抗を上昇させにくい。
【0088】
[1-4-11-2.シュウ酸塩]
シュウ酸塩は、分子内に少なくとも1つのシュウ酸構造を有する化合物であれば、特に制限されない。本発明の電池において、耐久特性を改善することができる。
シュウ酸塩としては、式(9)で表される金属塩が好ましい。この塩は、オキサラト錯体をアニオンとする塩である。
【化2】
【0089】
式(9)中、M1は、周期表における1族、2族及びアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる元素であり、M2は、遷移金属、周期表の13族、14族及び15族からなる群より選ばれる元素であり、R91は、ハロゲン、炭素数1以上11以下のアルキル基及び炭素数1以上11以下のハロゲン置換アルキル基からなる群より選ばれる基であり、a及びbは正の整数であり、cは0又は正の整数であり、dは1~3の整数である。
M1は、シュウ酸塩を含む電解液をリチウム二次電池に用いたときの電池特性の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましく、リチウムが特に好ましい。
【0090】
M2は、リチウム二次電池に用いる場合の電気化学的安定性の点で、ホウ素及びリンが特に好ましい。
R91としては、フッ素、塩素、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ペンタフルオロエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、フッ素、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0091】
式(9)で表される金属塩としては、以下が挙げられる。
リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムビス(オキサラト)ボレート等のリチウムオキサラトボレート塩類;
リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート等のリチウムオキサラトホスフェート塩類;
これらのうち、リチウムビス(オキサラト)ボレート及びリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートが好ましく、リチウムビス(オキサラト)ボレートがより好ましい。
【0092】
シュウ酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
シュウ酸塩の量(2種以上の場合は合計量)は、0.001質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この範囲にあると、二次電池の出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温保存特性等を制御しやすい。
【0093】
[1-4-11-3.フルオロスルホン酸塩]
フルオロスルホン酸塩としては、分子内に少なくとも1つのフルオロスルホン酸構造を有している塩であれば、特に制限されない。本発明の電池において、耐久特性を改善することができる。
【0094】
フルオロスルホン酸塩におけるカウンターカチオンは、特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び、NR131R132R133R134(式中、R131~R134は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上12以下の有機基である)で表されるアンモニウム等が挙げられる。カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、中でもリチウムが好ましい。
【0095】
フルオロスルホン酸塩としては、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸ナトリウム、フルオロスルホン酸カリウム、フルオロスルホン酸ルビジウム、フルオロスルホン酸セシウム等が挙げられ、フルオロスルホン酸リチウムが好ましい。リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のフルオロスルホン酸構造を有するイミド塩もフルオロスルホン酸塩として使用することができる。
【0096】
フルオロスルホン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
フルオロスルホン酸塩の含有量(2種以上の場合は合計量)は、0.05質量%以上であることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上であり、また、10質量%以下であることができ、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この範囲内であると、電池中での副反応が少なく、抵抗を上昇させにくい。
【0097】
[2.非水系電解液二次電池]
本発明の一実施態様である非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、非水系電解液を含む。
【0098】
[2-1.非水系電解液]
非水系電解液としては、上述の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上述の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
【0099】
[2-2.負極]
以下に負極に使用される負極活物質について述べる。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0100】
<負極活物質>
負極活物質としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。
炭素質材料としては、(1)天然黒鉛、(2)人造黒鉛、(3)非晶質炭素、(4)炭素被覆黒鉛、(5)黒鉛被覆黒鉛、(6)樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。
【0101】
(1)天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性や充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状又は楕円体状の黒鉛が特に好ましい。
【0102】
(2)人造黒鉛としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の有機化合物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で黒鉛化し、必要に応じて粉砕及び/又は分級して製造されたものが挙げられる。この際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。また、ピッチの熱処理過程で分離したメソカーボンマイクロビーズを黒鉛化して得た人造黒鉛が挙げられる。更に一次粒子からなる造粒粒子の人造黒鉛も挙げられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズや、コークス等の黒鉛化可能な炭素質材料粉体とタール、ピッチ等の黒鉛化可能なバインダーと黒鉛化触媒を混合し、黒鉛化し、必要に応じて粉砕することで得られる、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合した黒鉛粒子が挙げられる。
【0103】
(3)非晶質炭素としては、タール、ピッチ等の易黒鉛化性炭素前駆体を原料に用い、黒鉛化しない温度領域(400~2200℃の範囲)で1回以上熱処理した非晶質炭素粒子や、樹脂などの難黒鉛化性炭素前駆体を原料に用いて熱処理した非晶質炭素粒子が挙げられる。
【0104】
(4)炭素被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の有機化合物である炭素前駆体を混合し、400~2300℃の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、非晶質炭素が核黒鉛を被覆している炭素黒鉛複合体が挙げられる。複合の形態は、表面全体または一部を被覆しても、複数の一次粒子を前記炭素前駆体起源の炭素をバインダーとして複合させたものであってもよい。また、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛にベンゼン、トルエン、メタン、プロパン、芳香族系の揮発分等の炭化水素系ガス等を高温で反応させ、黒鉛表面に炭素を堆積(CVD)させることでも炭素黒鉛複合体を得ることもできる。
【0105】
(5)黒鉛被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の易黒鉛化性の有機化合物の炭素前駆体を混合し、2400~3200℃程度の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、黒鉛化物が核黒鉛の表面全体又は一部を被覆している黒鉛被覆黒鉛が挙げられる。
【0106】
(6)樹脂被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、樹脂等を混合、400℃未満の温度で乾燥し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、樹脂等が核黒鉛を被覆している樹脂被覆黒鉛が挙げられる。
また、上記(1)~(6)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0107】
負極活物質として用いられる合金系材料としては、リチウムを吸蔵及び放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素(すなわち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズの単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0108】
<炭素質材料の物性>
負極活物質として炭素質材料を用いる場合、以下の物性を有するものであることが望ましい。
【0109】
(X線パラメータ)
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、通常0.335nm以上であり、また、通常0.360nm以下であり、0.350nm以下が好ましく、0.345nm以下が更に好ましい。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上であることが好ましく、中でも1.5nm以上であることが更に好ましい。
【0110】
(体積基準平均粒径)
炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上がさらに好ましく、7μm以上が特に好ましい。また、通常100μm以下であり、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。
体積基準平均粒径が上記範囲を下回ると、不可逆容量が増大して、初期の電池容量の損失を招くことになる場合がある。また、上記範囲を上回ると、塗布により電極を作製する際に、不均一な塗面になりやすく、電池製作工程上望ましくない場合がある。
【0111】
(BET比表面積)
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上であり、0.7m2・g-1以上が好ましく、1.0m2・g-1以上が更に好ましく、1.5m2・g-1以上が特に好ましい。また、通常100m2・g-1以下であり、25m2・g-1以下が好ましく、15m2・g-1以下が更に好ましく、10m2・g-1以下が特に好ましい。
BET比表面積の値がこの範囲を下回ると、負極材料として用いた場合の充電時にリチウムの受け入れ性が悪くなりやすく、リチウムが電極表面で析出しやすくなり、安定性が低下する可能性がある。一方、この範囲を上回ると、負極材料として用いた時に非水系電解液との反応性が増加し、ガス発生が多くなりやすく、好ましい電池が得られにくい場合がある。
【0112】
<負極の構成と作製法>
電極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることもできる。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。
また、合金系材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
【0113】
(電極密度)
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.2g・cm-3以上が更に好ましく、1.3g・cm-3以上が特に好ましい。また、2.2g・cm-3以下が好ましく、2.1g・cm-3以下がより好ましく、2.0g・cm-3以下が更に好ましく、1.9g・cm-3以下が特に好ましい。
集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲を上回ると、負極活物質粒子が破壊され、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し、単位容積当たりの容量が低下する場合がある。
【0114】
[2-3.正極]
<正極活物質>
本発明の一実施形態において、正極に使用される正極活物質はリチウム遷移金属系化合物を含み、該正極活物質は少なくともNi、Mn及びCoを含み、Mn/(Ni+Mn+Co)モル比は0より大きく、0.32以下であり、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比は0.45以上である。以下にリチウム遷移金属系化合物について述べる。
<リチウム遷移金属系化合物>
リチウム遷移金属系化合物とは、Liイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、本発明で用いられるリチウム遷移金属系化合物としては、以下の式(I)で表されるものが挙げられる。また、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが好ましい。ここで、層状構造に関してさらに詳しく述べる。層状構造を有するものの代表的な結晶系としては、LiCoO
2、LiNiO
2のようなα-NaFeO
2型に属するものがあり、これらは六方晶系であり、その対称性から空間群
【数1】
(以下「層状R(-3)m構造」と表記することがある。)に帰属される。
【0115】
ただし、層状LiMeO2とは、層状R(-3)m構造に限るものではない。これ以外にもいわゆる層状Mnと呼ばれるLiMnO2は斜方晶系で空間群Pm2mの層状化合物であり、また、いわゆる213相と呼ばれるLi2MnO3は、Li[Li1/3Mn2/3]O2とも表記でき、単斜晶系の空間群C2/m構造であるが、やはりLi層と[Li1/3Mn2/3]層及び酸素層が積層した層状化合物である。
【0116】
リチウム遷移金属系化合物は、下記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属系化合物を含むことが好ましく、下記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属系化合物であることがより好ましい。
Li1+xMO2 ・・・(I)
式(I)中、xは通常-0.20以上、0.50以下である。なかでも、xの下限値は-0.05以上であることが好ましく、-0.03以上であることがより好ましく、-0.02以上であることが特に好ましく、-0.01以上であることが最も好ましい。また、xの上限値は、0.1以下であることができ、0.06以下であることが好ましく、0.028以下であることがより好ましく、0.020以下であることがさらに好ましく、0.010以下であることが特に好ましく、0.005以下であることが最も好ましい。xが上記の範囲内であれば、電解液に含有されたモノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩との組み合わせによるガス発生抑制効果が十分に発現しやすく、十分な充放電容量が得られるため好ましい。
【0117】
さらに、式(I)中、Mは、少なくともNi、Mn及びCoから構成され、Mn/(Ni+Mn+Co)モル比は0より大きく、0.32以下である。
Mn/(Ni+Mn+Co)モル比の下限値は、0.05以上が好ましく、0.08以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましく、0.12以上が特に好ましく、0.14以上が最も好ましい。また、Mn/(Ni+Mn+Co)モル比の上限値は、0.28以下が好ましく、0.26以下がより好ましく、0.25以下がさらに好ましく、0.24以下が特に好ましく、0.23以下が最も好ましい。
Mn/(Ni+Mn+Co)モル比が上記の範囲内であれば、充放電に関与しないMnの比率が十分小さくなり、電池が高容量となるため好ましい。
【0118】
さらに、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比の下限値は0.45以上であり、0.50以上が好ましく、0.55以上がより好ましい。また、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比の上限値は、通常0.95以下であり、0.85以下であってよく、0.80以下が好ましく、0.75以下がより好ましく、0.70以下がさらに好ましく、0.68以下が特に好ましく、0.64以下が最も好ましい。
Ni/(Ni+Mn+Co)モル比が上記の範囲内であれば、充放電に関与するNiの比率が十分大きくなり、電池が高容量となるため好ましい。
【0119】
さらに、Co/(Ni+Mn+Co)モル比の下限値は、特に限定されないが、0.05以上が好ましく、0.08以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましく、0.15以上が特に好ましい。また、Co/(Ni+Mn+Co)モル比の上限値は、特に限定されないが、0.33以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.28以下がさらに好ましく、0.26以下が特に好ましく、0.24以下が最も好ましい。
Co/(Ni+Mn+Co)モル比が上記の範囲内であれば、充放電容量が大きくなるため好ましい。
【0120】
なお、上記組成式(I)においては、酸素量の原子比は便宜上2と記載しているが、多少の不定比性があってもよい。また、上記式(I)中のxは、リチウム遷移金属系化合物の製造段階での仕込み組成である。通常、市場に出回る電池は、電池を組み立てた後に、エージングを行っている。そのため、充放電に伴い、正極のLi量は欠損している場合がある。
また、リチウム遷移金属系化合物は、異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na,Mg,Al,K,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sb,Te,Ba,Ta,Mo,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Pb,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Bi,N,F,S,Cl,Br,I,As,Ge,P,Pb,Sb,Si及びSnの何れか1種以上の中から選択される。なかでも、Fe,Cu,W,Mo,Nb,V,Ta,Mg,Al,Ti,Zr,Zn,Ca,Be,B,Bi,Li,NaおよびKからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素であることが好ましい。
これらの異元素は、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれていてもよく、あるいは、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0121】
(リチウム遷移金属系化合物を含む正極活物質、又はリチウム遷移金属系化合物の物性)
(1)硫酸塩
正極活物質は硫酸塩を含んでいてもよい。正極活物質に含まれ得る硫酸塩の含有量は、特に限定されないが、15μmol/g以上であることがモノフルオロリン酸及び/又はジフルオロリン酸塩によるガス発生抑制効果が現れるため好ましい。
また、20μmol/g以上であることがより好ましく、25μmol/g以上であることがさらに好ましく、32μmol/g以上であることが特に好ましく、35μmol/g以上であることが最も好ましい。また、上限値としては、副反応によるガス発生が大きくなってしまうため100μmol/g以下であることが好ましく、80μmol/g以下であることがより好ましく、60μmol/g以下であることがさらに好ましく、50μmol/g以下であることが特に好ましく、30μmol/g以下であることが最も好ましい。
【0122】
なお、正極活物質に含有される硫酸塩は、例えば、水抽出イオンクロマトグラフ法により測定することができる。
【0123】
(2)Ni平均価数
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属系化合物は、未充電状態でのNi平均価数は特に限定されないが、2.1以上であることがNi比率を高めることができ、電池を高容量にすることができるため好ましい。また、2.3以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましく、2.55以上であることが特に好ましく、2.6以上であることが最も好ましい。また、上限値としては、活物質の構造安定性が低下するため3以下であることが好ましく、2.9以下であることがより好ましく、2.8以下であることが特に好ましく、2.7以下であることが最も好ましい。
【0124】
ここで、本発明におけるNi価数について詳しく説明する。
まず、リチウム遷移金属系化合物の組成式を下記組成式(I’)と書き換えた場合、M’は、Li、Ni及びMn、或いは、Li、Ni、Mn及びCoから構成される。
LiM’O2 ・・・(I’)
なお、上記式(I’)においては、酸素量の原子比は便宜上2と記載しているが、多少の不定比性があってもよい。不定比性がある場合、酸素の原子比は通常2±0.2の範囲、好ましくは2±0.15の範囲、より好ましくは2±0.12の範囲、さらに好ましくは2±0.10の範囲、特に好ましくは2±0.05の範囲である。
さらに、リチウム遷移金属系化合物は、前記式(I’)におけるM’サイト中の原子構成が下記式(II)で示されるものが特に好ましい。
M’=Liz/(2+z){(Ni(1+y)/2Mn(1-y)/2)1-xCox}2/(2+z) ・・・(II)
【0125】
ここで、リチウム遷移金属系化合物の好適組成であるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物におけるLi組成(z及びx)の化学的な意味について、以下により詳細に説明する。
前述のように層状構造は必ずしもR(-3)m構造に限られるものではないが、R(-3)m構造に帰属しうるものであることが電気化学的な性能面から好ましい。
上記リチウム遷移金属系化合物の組成式のx、y、zを求めるには、各遷移金属とLiを誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)で分析して、さらに水抽出イオンクロマトグラフ法により表面不純物のLiを分析して、上記リチウム遷移金属系化合物のLi/Ni/Mn/Coの比を求める事で計算される。
【0126】
構造的視点では、zに係るLiは、同じ遷移金属サイトに置換されて入っていると考えられる。ここで、zに係るLiによって、電荷中性の原理によりNiの平均価数が2価より大きくなる(3価のNiが生成する)。zはNi平均価数を上昇させるため、Ni価数(Ni(III)の割合)の指標となる。
なお、上記組成式から、z,z’の変化に伴うNi価数(m)を計算すると、Co価数は3価、Mn価数は4価であるとの前提で、
【数2】
となる。この計算結果は、Ni価数はzのみで決まるのではなく、x及びyの関数となっていることを意味している。z=0かつy=0であれば、xの値に関係なくNi価数は2価のままである。zが負の値になる場合は、活物質中に含まれるLi量が化学量論量より不足していることを意味し、あまり大きな負の値を有するものは本発明の効果が出ない可能性がある。一方、同じz値であっても、Niリッチ(y値が大きい)及び/又はCoリッチ(x値が大きい)な組成ほどNi価数は高くなるということを意味し、電池に用いた場合、レート特性や出力特性が高くなるが、反面、容量低下しやすくなる結果となる。このことから、z値の上限と下限はx及びyの関数として規定するのがより好ましいと言える。
【0127】
また、x値が0≦x≦0.1と、Co量が少ない範囲にあると、コストが低減されることに加え、高い充電電位で充電するように設計されたリチウム二次電池として使用した場合において、充放電容量やサイクル特性、安全性が向上する。
【0128】
(3)pH
リチウム遷移金属系化合物の水溶液のpHは、特に限定されないが、液温25℃基準で11以上であることが電解液に含有されたモノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩との組み合わせによるガス発生抑制効果が十分に発現しやすいため好ましい。また、液温25℃基準で11.2以上であることがより好ましく、11.4以上であることがさらに好ましく、11.6以上であることが特に好ましく、11.8以上であることが最も好ましい。また、上限値としては、副反応によるガス発生が小さくなるため、液温25℃基準で13以下であることが好ましく、12.7以下であることがより好ましく、12.4以下であることが特に好ましく、12以下であることが最も好ましい。
なお、上記のリチウム遷移金属系化合物のpHの測定方法としては、脱塩水50gをビーカーに秤量し、攪拌させながら試料5gを投入し、液温とpH値をモニタリングしながら、投入後10分経過後のpH値と液温を測定した数値を用いる。
【0129】
(4)炭酸塩
正極活物質は炭酸塩を含んでいてもよい。正極活物質に含まれ得る炭酸塩の含有量は、特に限定されないが、10μmol/g以上であることが電解液に含有されたモノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩との組み合わせによるガス発生抑制効果が十分に発現しやすいため好ましい。また、20μmol/g以上であることがより好ましく、40μmol/g以上であることがさらに好ましく、60μmol/g以上であることが特に好ましく、80μmol/g以上であることが最も好ましい。また、上限値としては、副反応によるガス発生が小さくなるため100μmol/g以下であることが好ましく、98μmol/g以下であることがより好ましく、96μmol/g以下であることが特に好ましく、94μmol/g以下であることが最も好ましい。
【0130】
なお、上記のリチウム遷移金属系化合物に含まれる炭酸塩の量は、例えば、水抽出イオンクロマトグラフ法により測定することができる。
【0131】
(5)タップ密度
正極活物質を構成するリチウム遷移金属系化合物は通常粉体であり、そのタップ密度は、特に限定されないが、1.8g/cm3以上であることが電池としたときの充放電容量が大きいため好ましい。また、2g/cm3以上であることがより好ましく、2.1g/cm3以上であることがさらに好ましく、2.2g/cm3以上であることが特に好ましく、2.3g/cm3以上であることが最も好ましい。また、上限値としては、出力特性が十分であるため4.0g/cm3以下であることが好ましく、3.8g/cm3以下であることがより好ましく、3.6g/cm3以下であることが特に好ましく、3.4g/cm3以下であることが最も好ましい。
【0132】
タップ密度の高いリチウム遷移金属系化合物を用いることにより、高密度の正極を形成することができる。リチウム遷移金属系化合物のタップ密度が上記範囲内にあると、正極形成時に必要な分散媒の量が適度なものとなるため、導電材やバインダーの量も適量となるため、正極へのリチウム遷移金属系化合物の充填率が制約されることなく、電池容量への影響も少なくなる。
【0133】
リチウム遷移金属系化合物のタップ密度の測定は、目開き300μmの篩を通過させて、20cm3のタッピングセルに試料を落下させてセル容積を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを200回行なって、その時の体積と試料の質量から密度を算出してもよい。
また、簡易的には10mLメスシリンダーに試料を落下させて容積を満たした後200回タッピングを行い、その時の体積と試料の質量から密度を算出してもよい。
【0134】
(6)表面被覆
上記のリチウム遷移金属系化合物の表面に、主体となるリチウム遷移金属系化合物を構成する物質とは異なる組成の物質(以後、適宜「表面付着物質」という)が付着したものを用いることもできる。表面付着物質の例としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0135】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させてリチウム遷移金属系化合物に含浸添加させた後に乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させてリチウム遷移金属系化合物に含浸添加させた後に加熱等により反応させる方法、リチウム遷移金属系化合物前駆体に添加して同時に焼成する方法等により、リチウム遷移金属系化合物表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることができる。
【0136】
リチウム遷移金属系化合物の表面に付着している表面付着物質の質量は、リチウム遷移金属系化合物の質量に対して、好ましくは0.1ppm以上であり、1ppm以上がより好ましく、10ppm以上が更に好ましい。また、好ましくは20%以下であり、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。
表面付着物質により、リチウム遷移金属系化合物表面での非水系電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができる。また、付着量が上記範囲内にあると、その効果を十分に発現することができ、リチウムイオンの出入りを阻害することなく抵抗も増加し難くなる。
【0137】
(7)形状
リチウム遷移金属系化合物の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状又は楕円球状であってもよい。
【0138】
(8)メジアン径d50
リチウム遷移金属系化合物のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
メジアン径d50は、好ましくは0.1μm以上であり、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましく、3μm以上が特に好ましく、また、好ましくは30μm以下であり、20μm以下がより好ましく、16μm以下が更に好ましく、15μm以下が特に好ましい。メジアン径d50が上記範囲内であると、高嵩密度品を得易くなり、さらに、粒子内のリチウムの拡散に時間がかからないため、電池特性が低下し難くなる。また、電池の正極作製すなわち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際には、スジ引き等も生じ難くなる。
【0139】
なお、異なるメジアン径d50をもつリチウム遷移金属系化合物を2種類以上、任意の比率で混合することで、正極作製時の充填性を更に向上させることもできる。
リチウム遷移金属系化合物のメジアン径d50の測定は、0.1質量%ヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液を分散媒として用い、粒度分布計(例えば、堀場製作所社製LA-920)を用いて、リチウム遷移金属系化合物の分散液に対して5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24に設定して測定する。
【0140】
(9)平均一次粒子径
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合、リチウム遷移金属系化合物の平均一次粒子径は、好ましくは0.01μm以上であり、0.05μm以上がより好ましく、0.08μm以上が更に好ましく、0.1μm以上が特に好ましく、また、好ましくは3μm以下であり、2μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましく、0.6μm以下が特に好ましい。上記範囲内であると、球状の二次粒子を形成し易くなり、粉体充填性が適度なものとなり、比表面積を十分確保できるため、出力特性等の電池性能の低下を抑制することができる。
なお、リチウム遷移金属系化合物の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0141】
(10)BET比表面積
リチウム遷移金属系化合物のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値が、好ましくは0.2m2・g-1以上であり、0.3m2・g-1以上がより好ましく、0.4m2・g-1以上が更に好ましく、また、好ましくは4.0m2・g-1以下であり、2.5m2・g-1以下がより好ましく、1.5m2・g-1以下が更に好ましい。BET比表面積の値が、上記範囲内であると、電池性能の低下を防ぎ易い。さらに、十分なタップ密度を確保でき、正極形成時の塗布性が良好となる。
【0142】
リチウム遷移金属系化合物のBET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて測定する。具体的には、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定する。該測定で求められる比表面積を、本発明におけるリチウム遷移金属系化合物のBET比表面積と定義する。
【0143】
(リチウム遷移金属系化合物を含む正極活物質の製造法)
リチウム遷移金属系化合物を含む正極活物質の製造法としては、本発明の要旨を超えない範囲で特には制限されないが、いくつかの方法が挙げられ、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。
特に球状ないし楕円球状の正極活物質を作製するには種々の方法が考えられるが、例えばその1例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作製回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して正極活物質を得る方法が挙げられる。
【0144】
また、別の方法の例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して正極活物質を得る方法が挙げられる。
【0145】
更に別の方法の例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して正極活物質を得る方法が挙げられる。
なお、遷移金属原料物質の選択において、硫酸塩、炭酸塩の使用量を調整することや焼成温度を調節することや洗浄の有無等で、上記説明した正極活物質の硫酸塩含有量、炭酸塩含有量を所望の値をすることができる。
【0146】
正極活物質に用いられるリチウム遷移金属系化合物は、上記の一種を単独で用いてもよく、二種以上をブレンドして用いてもよい。また、硫化物やリン酸塩化合物、その他のリチウム遷移金属複合酸化物等とブレンドしてもよい。硫化物としては、TiS2やMoS2などの二次元層状構造をもつ化合物や、一般式MexMo6S8(MeはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される化合物等が挙げられる。リン酸塩化合物としては、オリビン構造に属するものが挙げられ、一般的にはLiMePO4(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)で表され、具体的にはLiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4等が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLiMe2O4(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiMn2O4、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoVO4等が挙げられる。層状構造を有するものは、具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiNi1-xCoxO2、LiNi1-x-yCoxMnyO2、LiNi0.5Mn0.5O2、Li1.2Cr0.4Mn0.4O2、Li1.2Cr0.4Ti0.4O2、LiMnO2等が挙げられる。
【0147】
<リチウム二次電池用正極の構成と作製法>
リチウム二次電池用正極は、上述のリチウム遷移金属系化合物を含む正極活物質及び結着剤を含有する正極活物質の層を集電体上に形成してなるものである。
正極活物質の層は、通常、リチウム遷移金属系化合物を含む正極活物質と結着剤と更に必要に応じて用いられる導電材及び増粘剤等を、乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、或いはこれらの材料を液体媒体中に溶解又は分散させてスラリー状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより作製される。
【0148】
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等;炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。
なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0149】
正極活物質の層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であればよいが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。
なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0150】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、80質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、リチウム遷移金属系化合物を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう可能性がある一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる可能性がある。
【0151】
正極活物質層には、通常、導電性を高めるために導電材を含有させる。
その種類に特に制限はないが、具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などを挙げることができる。
なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正極活物質層中の導電材の割合は、通常0.01質量%以上、50質量%以下である。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0152】
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極材料であるリチウム遷移金属系化合物を含む正極活物質、結着剤、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒の例としてはN-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。
なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0153】
正極活物質層中の正極材料としてのリチウム遷移金属系化合物の含有割合は、通常10質量%以上、99.9質量%以下である。正極活物質層中のリチウム遷移金属系化合物の割合が多すぎると正極の強度が不足する傾向にあり、少なすぎると容量の面で不十分となることがある。
【0154】
また、正極活物質層の厚さは、通常10~200μm程度である。
ここで、本発明に係る正極の極板密度としては、3.0g/cm3以上である。また、3.2g/cm3以上であることが好ましく、3.3g/cm3以上であることがより好ましく、3.4g/cm3以上であることがさらに好ましく、3.6g/cm3以上であることが特に好ましい。また、上限値としては、入出力特性の低下が起こりづらいため4.2g/cm3以下であることが好ましく、4.1g/cm3以下であることがより好ましく、4.0g/cm3以下であることが特に好ましく、3.9g/cm3以下であることが最も好ましい。
正極の極板密度を上記範囲まで高めるには、塗布、乾燥後の正極活物質層をロールプレスにより圧密化することで実現可能である。所望の極板密度を得るには、ロールプレスの圧力を適宜調整すればよい。
【0155】
[2-4.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0156】
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いることが好ましい。
樹脂やガラス繊維のセパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0157】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上が更に好ましい。また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下が更に好ましい。
セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液二次電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0158】
更に、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましい。また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。
空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0159】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましい。また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0160】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状又は繊維形状のものが用いられる。
【0161】
セパレータの形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のもの等が用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着材を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着材として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0162】
セパレータの非電解液二次電池における特性を、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mlの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表されるため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方がフィルムの厚さ方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方がフィルムの厚さ方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは、フィルム厚さ方向の孔のつながり度合いである。本発明のセパレータのガーレ値が低ければ、様々な用途に使用することが出来る。例えば非水系リチウム二次電池のセパレータとして使用した場合、ガーレ値が低いということは、リチウムイオンの移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、好ましくは10~1000秒/100mlであり、より好ましくは15~800秒/100mlであり、更に好ましくは20~500秒/100mlである。ガーレ値が1000秒/100ml以下であれば、実質的には電気抵抗が低く、セパレータとしては好ましい。
【0163】
[2-5.電池設計]
<電極群>
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。
【0164】
電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましい。また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、更には、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0165】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0166】
<外装体>
本発明の非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えばニッケルメッキ鋼板、ステンレス、アルミウム又はその合金、マグネシウム合金、ニッケル、チタン等の金属類、又は樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。
特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0167】
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【0168】
<電池電圧>
本発明の非水系電解液二次電池は、通常、4.0V以上の電池電圧で使用される。好ましくは電池電圧が4.1V以上であり、更に好ましくは4.15V以上であり、最も好ましくは4.2V以上である。電池電圧を上昇させれば、電池のエネルギー密度を高めることができるからである。
一方で、電池電圧を上昇させると、正極の電位が上昇し、正極表面での副反応が増加するという問題が起きる。本発明の電池を使用することで、上記問題を解決することができるが、電圧が高すぎると正極表面での副反応量が多くなりすぎて電池特性を悪化させる。よって、電池電圧の上限は好ましくは5V以下であり、より好ましくは4.8V以下であり、最も好ましくは4.6V以下である。
【0169】
<本発明が効果を奏する理由>
本発明が効果を奏する理由については、未だ明らかではないが、以下のとおり推察される。
自動車用の電池の高容量化のためには、高容量のリチウム遷移金属系化合物を正極活物質として用いることが試みられている。このような高容量のリチウム遷移金属系化合物は、例えば、Mn量を少なくし、Ni量を多くすることで達成される。
しかしながら、このような正極電極では、非水系電解液二次電池とした際に、高温保存後の容量維持率が低く、高温保存後の保存ガス量や金属溶出量が増加し、高温保存後の抵抗が高く、高温時の発熱量が大きいという問題が見い出された。
【0170】
これについて、発明者らが検討したところ、以下のようなメカニズムが推察された。
つまり、Mn量を少なくし、Ni量を多くした場合、容量が大きくなるために充電時のリチウム遷移金属系化合物の結晶内のLi量が減少してしまうこととなる。この場合、リチウム遷移金属系化合物の結晶内で酸素原子が不安定となり活性化してしまう。このため、正極の酸化力が増加してしまうほか、表面の結晶構造が崩壊して岩塩構造に変化してしまうものと考えられる。酸化力が増加したリチウム遷移金属系化合物は電池中において非水系電解液を分解してしまい、ガス発生や金属溶出を起こしてしまい、高温時の発熱量が高くなっているものと推察された。また、リチウム遷移金属系化合物表面の結晶構造の崩壊は高温保存後の容量低下や抵抗増加を引き起こしているものと推察された。
【0171】
これに対し、発明者らは、正極の極板密度を一定以上に大きくし、特定のリン化合物を非水系電解液に含有させることで、リチウム遷移金属系化合物の結晶内の酸素原子の不安定化を抑制し、高温保存後の容量維持率の低下や非水系電解液の非水溶媒の分解によるガス発生量や金属溶出量を抑制し、高温保存後の抵抗を低下し、高温時の発熱量を低減できることを見い出した。
この理由についても未だ明らかでないが、本発明の特定のリン化合物は、分解していくとLiFとなり、このLiFがリチウム遷移金属系化合物の表面に現れることで、酸化力を増したリチウム遷移金属系化合物の表面と反応し、結晶内の酸素原子の不安定化を抑制し、高温保存後の容量維持率の低下や電解液の分解によるガス発生や金属溶出を抑制し、高温保存後の抵抗を低下し、高温時の発熱量を低減できるものと推察される。
【実施例】
【0172】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
本実施例に使用した化合物の略号を以下に示す。
化合物1:ジフルオロリン酸リチウム
【0173】
[非水系電解液二次電池の評価]
・初期充放電
25℃の恒温槽中、シート状の非水系電解液二次電池を0.05C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする。以下同様。)で4時間充電後、2.5Vまで0.2Cで定電流放電した。次いで0.2Cで所定の電圧まで定電流-定電圧充電と、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を1サイクルとする充放電サイクルを2サイクル行った。
さらに、4.0Vまで0.2Cで定電流-定電圧充電した後に、電池を45℃で42時間保管することで電池を安定させた。その後、25℃にて2.5Vまで定電流放電し、次いで所定の電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した。その後、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行い、このときの放電容量を保存前容量(A)とした。次に、所定の電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した。所定の電圧は通常4.2Vであり、4.3V又は4.4Vで行うこともできる。
【0174】
・保存試験
初期充放電後のセルを、85℃、24時間の条件で高温保存した。電池を十分に冷却させた後、エタノール浴中に浸して体積を測定し、保存試験前後の体積変化から発生ガス量を求め、これを保存ガス量とし、添加剤による保存ガス低減量の割合を「保存ガス抑制率」とした(例えば、実施例1の保存ガス抑制率(%)={(比較例1の保存ガス量-実施例1の保存ガス量)/比較例1の保存ガス量}×100)。このセルを25℃の恒温槽中で、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行ったときの放電容量を、保存後容量(B)とした。保存前容量(A)に対する保存後容量(B)の割合を、「保存後容量残存率」とした。
なお、保存後容量残存率は大きいほど好ましく、保存ガス量は、値が小さいほど、電池の膨れが小さく好ましいといえる。
・保存試験後の抵抗
保存試験後に4.2Vまで0.2Cで定電流-定電圧充電したのち、10mVの交流電圧(0.1Hz)をかけて測定した。これを「保存後抵抗」とし、添加剤による抵抗低減の割合を「抵抗抑制率」とした。
・保存試験後の金属溶出量
金属溶出量は負極上に析出した金属量を定量することで求めた。負極上に析出した金属量は、負極を酸分解した後、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法により、Ni、Mn及びCo量の合計の金属溶出量を分析した。ここで、添加剤による金属溶出低減量を「金属溶出抑制量」とした。
・発熱量の測定方法
初期充放電後のセルを4.5Vまで0.2Cで定電流-定電圧充電したのち、電池から正極を取り出し、電解液とともに測定用セルに入れてカルベ式熱量計で測定を行った。測定は1K/分で300℃まで昇温して行い、100℃から300℃の間の総発熱量と4.5Vまでの充電容量の割合を「単位容量当たり発熱量」とした。また、添加剤による発熱量低減の割合を「発熱抑制率」とした。
・タップ密度の測定方法
リチウム遷移金属系化合物のタップ密度の測定は、10mLメスシリンダーに試料を落下させて容積を満たした後200回タッピングを行い、その時の体積と試料の質量から密度を算出した。
・硫酸塩、炭酸塩の測定方法
正極活物質に含有される硫酸塩、炭酸塩は、水抽出イオンクロマトグラフ法により測定した。
・pHの測定方法
pH:脱塩水50gをビーカーに秤量し、攪拌させながら試料5gを投入して25℃で30分間撹拌した。その後、液温を25℃に維持したまま、pH値を測定した。
・Ni価数の測定方法
水抽出イオンクロマトグラフ法、及び誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で各遷移金属とLiの比を分析することにより算出した。
【0175】
〔実施例〕
[非水系電解液二次電池の作製]
<非水系電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物(容量比3:7)に、十分に乾燥させたLiPF6を1mol/L(非水系電解液中の濃度として)溶解させ、更に、十分に乾燥させたビニレンカーボネートを2質量%溶解させた非水系電解液を基準として、更に化合物1を1質量%(非水系電解液中の濃度として)溶解させた場合と化合物1を溶解させなかった場合の2種類の非水系電解液を調製した。
この非水系電解液を用いて下記の方法で非水系電解液二次電池を作製し、下記評価を実施した。
【0176】
<正極の作製>
正極活物質としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物は、NMC622(Li1.00Ni0.61Mn0.19Co0.20O2:Mn/(Ni+Mn+Co)モル比=0.19、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比=0.61、硫酸塩濃度=38μmоl/g、炭酸塩濃度91μmоl/g、Ni平均価数2.63、水溶液pH11.88、タップ密度2.39g/cm3)、NMC532(Li1.05Ni0.52Mn0.29Co0.20O2:Mn/(Ni+Mn+Co)モル比=0.29、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比=0.52、硫酸塩濃度=30μmоl/g、炭酸塩濃度16μmоl/g、Ni平均価数2.51、水溶液pH11.75、タップ密度:2.39g/cm3)、またはNMC111(Li1.05Ni0.34Mn0.33Co0.33O2:Mn/(Ni+Mn+Co)モル比=0.33、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比=0.34、硫酸塩濃度=14μmоl/g、炭酸塩濃度12μmоl/g、Ni平均価数2.15、水溶液pH11.12、タップ密度:1.55g/cm3)の3種類を用いた。各種正極活物質を94質量部、導電材としてのアセチレンブラックを3質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量部、分散剤としてのポリビニルピロリドンを0.07質量部とを、N-メチル-2-ピロリドン中で混合・スラリー化し、これを厚さ15μmのアルミニウム箔に均一に塗布、乾燥した後、ロールプレスを行い正極(この正極を以下、正極1と表記することがある。)とした。正極の極板密度は、ロールプレスの圧力を0~13kN/cmとすることで、2.4、2.8、3.0、3.2又は3.3g/cm3の5種類の正極密度の正極を作製した。
【0177】
<負極の作製>
グラファイト粉末49質量部に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)50質量部と、バインダーとしてスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度49質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に均一に塗布して乾燥し、ロールプレスして負極とした。
【0178】
<非水系電解液二次電池の製造>
上記の正極、負極、及びポリオレフィン製セパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層した。こうして得られた電池要素をアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、前述の非水系電解液を注入した後で真空封止し、シート状の非水系電解液二次電池を作製した。3種類の正極活物質組成、5種類の正極の極板密度、化合物1の有無による2種類の非水系電解液の組合せを表1の通りとして、実施例1~4及び比較例1~15の非水系電解液二次電池を作製した。
【0179】
【0180】
表2に保存後容量残存率、保存ガス抑制率を示す。表2から明らかなように、特定の組成の正極活物質を含み、特定の極板密度を有する正極を備える非水系電解液二次電池の非水系電解液に化合物1を添加すると、保存後容量残存率が向上し、保存ガス量が抑制されている。つまり、高温寿命に優れた非水系電解液二次電池が得られている。比較例6及び8では、容量残存率が極めて低く、有効数字二桁で“0.0%”であった。
【0181】
【0182】
表3に保存後抵抗と抵抗抑制率を示す。表3から明らかなように、特定の組成の正極活物質を含み、特定の極板密度を有する正極を備える非水系電解液二次電池の非水系電解液に化合物1を添加すると、保存後抵抗が低く抑えられている。電池内抵抗は充電時の電池発熱量に相関するため、高温保存後も充電時の発熱量が小さく安全性に優れた非水系電解液二次電池が得られている。
【0183】
【0184】
表4に単位容量当たり発熱量と発熱抑制率を示す。表4から明らかなように、特定の組成の正極活物質を含み、特定の極板密度を有する正極を備える非水系電解液二次電池の非水系電解液に化合物1を添加すると、単位容量当たり発熱量が低く抑えられている。つまり、発熱量が小さく安全性に優れた高容量の非水系電解液二次電池が得られている。
【0185】
【0186】
表5に金属溶出抑制量を示す。表5から明らかなように、特定の組成の正極活物質を含み、特定の極板密度を有する正極を備える非水系電解液二次電池の非水系電解液に化合物1を添加すると、金属溶出抑制効果が高くなっている。つまり、正極からの金属溶出が少なく安全性に優れた高容量の非水系電解液二次電池が得られている。
【0187】
【0188】
〔実施例5〕
[非水系電解液二次電池の作製]
<非水系電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物(容量比3:7)に、十分に乾燥させたLiPF6を1mol/L(非水系電解液中の濃度として)溶解させ、更に、十分に乾燥させたビニレンカーボネートを2質量%、化合物1を1質量%(非水系電解液中の濃度として)溶解させ、非水系電解液を調製した。
この非水系電解液を用いて下記の方法で非水系電解液二次電池を作製し、下記評価を実施した。
【0189】
<正極の作製>
正極活物質としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(Li1.00Ni0.61Mn0.19Co0.20O2:Mn/(Ni+Mn+Co)モル比=0.19、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比=0.61、硫酸塩濃度=38μmоl/g、炭酸塩濃度91μmоl/g、Ni平均価数2.63、水溶液pH11.88、タップ密度2.39g/cm3)90質量部、導電材としてのアセチレンブラックを7質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量部、分散剤としてのポリビニルピロリドンを0.07質量部とを、N-メチル-2-ピロリドン中で混合・スラリー化し、これを厚さ15μmのアルミニウム箔に均一に塗布、乾燥した後、ロールプレスを行い正極(この正極を以下、正極6と表記することがある。)とした。なお、正極6の極板密度は3.3g/cm3であった。
【0190】
<負極の作製>
実施例1~4及び比較例1~15と同様にして、実施例5、6、比較例16の各負極を作製した。
【0191】
<非水系電解液二次電池の製造>
実施例1~4及び比較例1~15と同様にして、実施例5、6、比較例16の各シート状の非水系電解液二次電池を作製した。
【0192】
〔比較例16〕
非水系電解液に化合物1を含有させなかったこと以外は実施例5と同様に非水系電解液二次電池を作製した。
表6に、実施例6および比較例16の保存後容量残存率と保存ガス量と保存試験後の金属溶出量を示す。
【0193】
〔実施例6〕
正極活物質としてリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(Li1.05Ni0.52Mn0.29Co0.20O2:Mn/(Ni+Mn+Co)モル比=0.29、Ni/(Ni+Mn+Co)モル比=0.52、硫酸塩濃度=30μmоl/g、炭酸塩濃度16μmоl/g、Ni平均価数2.51、水溶液pH11.75、タップ密度:2.39g/cm3)を用いたこと以外は実施例5と同様に正極(この正極を以下、正極7とすることがある。)を作製し、その正極を用いた以外は実施例5と同様に非水系電解液二次電池を作製した。なお、正極7の極板密度は3.3g/cm3であった。
【0194】
〔比較例17〕
上記の実施例6で用いた正極7を用いたこと以外は比較例16と同様に、非水系電解液二次電池を作製した。
表7に、実施例6および比較例17の保存後容量残存率と保存ガス抑制率と保存試験後の金属溶出量を示す。
【0195】
【0196】
【0197】
表6から明らかなように、特定の組成、硫酸塩を特定量含む正極活物質を含み、特定の極板密度を有する正極を備える非水系電解液二次電池の非水系電解液に化合物1を添加すると、保存後容量残存率が向上し、保存ガス量が抑制され、金属溶出量が低減している。つまり、高温寿命に優れ、高温時の発熱量が少ない非水系電解液二次電池が得られている。
表7から明らかなように、硫酸塩を含む正極を備える非水系電解液二次電池の非水系電解液に化合物1を添加すると、保存後容量残存率が向上し、保存ガス量が抑制され、金属溶出量が低減している。つまり、高温寿命に優れ、高温時の発熱量が少ない非水系電解液二次電池が得られている。