(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】水素同位体が濃縮された水または水溶液の製造方法、水素同位体濃度が低減された水素ガスの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B01D 59/40 20060101AFI20221026BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20221026BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20221026BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221026BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20221026BHJP
【FI】
B01D59/40
H01M8/00 Z
H01M8/249
H01M8/10 101
H01M8/0656
(21)【出願番号】P 2019513716
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2018016440
(87)【国際公開番号】W WO2018194182
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017084386
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松島 永佳
(72)【発明者】
【氏名】小河 亮太
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158499(JP,A)
【文献】特開昭54-049498(JP,A)
【文献】特開2004-337843(JP,A)
【文献】特開2017-008341(JP,A)
【文献】特開2015-187552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 59/40
C01B 5/00
C25B 1/00
G21F 9/00
H01M 8/00
H01M 8/249
H01M 8/10
H01M 8/0656
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結し燃料電池(FCn、ここで、nは2以上の整数であって、水電気分解装置に一段目に連結した燃料電池をFC1とする。)を用い、かつ各燃料電池において独立して発電を行い、かつ水電気分解装置において水電気分解を行って、水素同位体を含有する水または水溶液(以下、水溶液AS
0)から、前記水溶液AS
0よりも水素同位体含有率が高い水または水溶液(AS
e)を製造する方法であって、
(we1)水電気分解装置において水溶液AS
0を水電気分解して水素ガス及び酸素ガスを得ること、
(fc1)前記電気分解で得られる水素ガスを燃料電池1(FC1)の負極側に供給し、水素ガス(HG
0)の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG
1)及び正極側で生成する水素同位体含有水(W
1)を回収すること、
(fc2)回収した水素ガス(HG
1)を燃料電池2(FC2)の負極側に供給し、水素ガス(HG
1)の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG
2)及び正極側で生成する水素同位体含有水(W
2)を回収すること、
(fc3)燃料電池2(FC2)の次に、燃料電池が連結されている場合は、順次、この操作を燃料電池n(FCn)まで繰返して、負極側で残りの水素ガス(HG
n)及び正極側で生成する水素同位体含有水(W
n)を回収すること(nは、3以上の整数)、
(we2)前記水電気分解装置から、電気分解後の、前記水溶液AS
0よりも水素同位体含有率が高い水または水溶液AS
eを回収すること、を含む、前記方法。
【請求項2】
FC1~FCnの正極側には、酸素ガスまたは酸素含有ガスが供給され、前記回収した水素同位体含有水W
1からW
nの少なくとも一部は前記水電気分解装置に供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記回収した水素同位体含有水W
1からW
nの少なくとも一部を前記水電気分解装置に水溶液AS
0と共に供給する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水素同位体含有水W
1からW
nの燃料電池からの回収は、燃料電池の正極側から排出される酸素ガスまたは酸素含有ガスに同伴させることで行う、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記水電気分解で得られる酸素ガスの少なくとも一部を、少なくとも一部の燃料電池の正極側に供給することを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記水電気分解で得られる酸素ガスの少なくとも一部は、FCnの正極側に供給され、FCnの正極側から排出される酸素ガスまたは酸素含有ガスは燃料電池n-1(FCn-1)の正極側に供給され、順次、FC1まで、排出された酸素ガスまたは酸素含有ガスの次の燃料電池への供給が繰り返される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(fc2)のFC
2から水素同位体含有率が水素ガスHG
0より低い水素ガスHG
2
を回収して水素ガスを併産することを含
む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
燃料電池2(FC2)の次に、燃料電池が連結されている場合であって、工程(fc3)のFCnから水素同位体含有率が水素ガスHG0より低い水素ガスHGnを回収して水素ガスを併産することを含む(ただし、nは3以上の整数)、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程(fc1)においてFC1の負極側に供給される水素ガスの量と、
工程(fc2)においてFC2又は
工程(fc3)においてFCnから回収される水素ガスの量の比は、100:0~50の範囲である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記水電気分解装置における水電気分解用の電力の少なくとも一部は、前記燃料電池において発電された電力により賄われる、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
少なくとも2つの直列に連結した燃料電池は、3~10個の燃料電池を直列に連結したものである、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液AS
0が、純水、アルカリ水溶液又は海水である、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結した燃料電池を含み、前記水電気分解装置は陰極室及び陽極室を有し、前記燃料電池はそれぞれ負極室及び正極室を有し、
前記水電気分解装置の陰極室から前記直列に連結した燃料電池の前記水電気分解装置に隣接する燃料電池の負極室に水素ガス流通手段を有し、
前記直列に連結した燃料電池は、上記水電気分解装置に隣接する燃料電池から順次連結する各燃料電池の負極室間に水素ガス流通手段を有し、
前記直列に連結した燃料電池は、上記水電気分解装置に隣接する燃料電池から順次連結する各燃料電池の正極室間に酸素ガスまたは酸素含有ガス流通手段を有し、かつ、
上記燃料電池より生成した水を上記水電気分解装置へ回収する流通手段を有する、
水素同位体が濃縮された水または水溶液の製造装置。
【請求項14】
同位体濃度が低減された水素ガスを併産するための、請求項
13に記載の製造装置。
【請求項15】
少なくとも2つの直列に連結した燃料電池は、3~10個の燃料電池を直列に連結したものである、請求項13~
14のいずれかに記載の製造装置。
【請求項16】
前記燃料電池は、固体高分子形燃料電池である、請求項13~
15のいずれかに記載の製造装置。
【請求項17】
前記水電気分解装置は、隣接する燃料電池と連結した酸素ガスまたは酸素含有ガス流通手段を有する、請求項13~
16のいずれかに記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素同位体が濃縮された水または水溶液の製造方法、水素同位体濃度が低減された水素ガスの製造方法及び製造装置に関する。より詳しくは、水素同位体含有水を含有する水または水溶液から、水素同位体が濃縮された水または水溶液を製造する方法、水素同位体濃度が低減された水素ガスの製造方法及び製造装置に関する。水素同位体が濃縮された水または水溶液の製造方法及び装置では、水素同位体濃度が低減された水素ガスを併産することも可能である。
関連出願の相互参照
本出願は、2017年4月21日出願の日本特願2017-084386号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
重水素やトリチウムの水素同位体は、核融合炉燃料の原料や医療材料として重要である。さらに福島原発事故に関わる汚染水は、トリチウムの効果的な分離方法が見つからず、今でも汚染水処理の最大の懸案事項となっている。
【0003】
水素同位体である重水素やトリチウムの分離濃縮技術としては、沸点の違いを利用した蒸留法、軽水素原子と交換置換による水-硫化水素交換法(GS法)、水電解法と白金触媒を使った化学交換法を組み合わせた(CECE法)などある(非特許文献1(東電提供資料)参照)。
【0004】
非特許文献1:http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/c130426_06-j
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中でも、水電解法は1933年にG.N.ルイスらが古い電解槽の水を連続的に電解して少量の重水を得たのに始まり、現在でも工業的にこの方法が採用されている。しかし福島原発では毎日大量の汚染水を処理する必要があり、その電力消費量は膨大となり、大規模生産には適していない。
【0006】
そこで電力消費の少ない革新的な電解法を提案することが、大規模な水素同位体を必要とする原子力産業や、さらには福島汚染水の問題解決に求められている。本発明は、水素同位体を含有する水の新たな濃縮技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
[1]
少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結し燃料電池(FCn、ここで、nは2以上の整数であって、水電気分解装置に一段目に連結した燃料電池をFC1とする。)を用い、かつ各燃料電池において独立して発電を行い、かつ水電気分解装置において水電気分解を行って、水素同位体を含有する水または水溶液(以下、水溶液AS0)から、前記水溶液AS0よりも水素同位体含有率が高い水または水溶液(ASe)を製造する方法であって、
(we1)水電気分解装置において水溶液AS0を水電気分解して水素ガス及び酸素ガスを得ること、
(fc1)前記電気分解で得られる水素ガスを燃料電池1(FC1)の負極側に供給し、水素ガス(HG0)の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG1)及び正極側で生成する水素同位体含有水(W1)を回収すること、
(fc2)回収した水素ガス(HG1)を燃料電池2(FC2)の負極側に供給し、水素ガス(HG1)の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG2)及び正極側で生成する水素同位体含有水(W2)を回収すること、
(fc3)燃料電池2(FC2)の次に、燃料電池が連結されている場合は、順次、この操作を燃料電池n(FCn)まで繰返して、負極側で残りの水素ガス(HGn)及び正極側で生成する水素同位体含有水(Wn)を回収すること(nは、3以上の整数)、
(we2)前記水電気分解装置から、電気分解後の、前記水溶液AS0よりも水素同位体含有率が高い水または水溶液ASeを回収すること、を含む、前記方法。
[2]
FC1~FCnの正極側には、酸素ガスまたは酸素含有ガスが供給され、前記回収した水素同位体含有水W1からWnの少なくとも一部は前記水電気分解装置に供給する、[1]に記載の方法。
[3]
前記回収した水素同位体含有水W1からWnの少なくとも一部を前記水電気分解装置に水溶液AS0と共に供給する、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
水素同位体含有水W1からWnの燃料電池からの回収は、燃料電池の正極側から排出される酸素ガスまたは酸素含有ガスに同伴させることで行う、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記水電気分解で得られる酸素ガスの少なくとも一部を、少なくとも一部の燃料電池の正極側に供給することを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記水電気分解で得られる酸素ガスの少なくとも一部は、FCnの正極側に供給され、FCnの正極側から排出される酸素ガスまたは酸素含有ガスは燃料電池n-1(FCn-1)の正極側に供給され、順次、FC1まで、排出された酸素ガスまたは酸素含有ガスの次の燃料電池への供給が繰り返される[5]に記載の方法。
[7]
前記工程(fc2)のFC2又は工程(fc3)のFCnから前記水素同位体含有率が水素ガスHG0より低い水素ガスHG2またはHGnを回収して水素ガスを併産することを含む(ただし、nは2以上の整数)、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結し燃料電池(FCn、ここで、nは2以上の整数であって、水電気分解装置に一段目に連結した燃料電池をFC1とする。)を用い、かつ各燃料電池において独立して発電を行い、かつ水電気分解装置において水電気分解を行うことを含む、水素同位体濃度が低減された水素ガスを製造する方法であって、
(we1)水電気分解装置において水素同位体を含有する水または水溶液を水電気分解して水素ガス(HG0)及び酸素ガスを得ること、
(fc1h)前記電気分解で得られる水素ガスHG0を燃料電池1(FC1)の負極側に供給し、水素ガスHG0の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG1)を回収すること、
(fc2h)回収した水素ガスHG1を燃料電池2(FC2)の負極側に供給し、水素ガスHG1の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG2)を回収すること、
(fc3h)燃料電池2(FC2)の次に、燃料電池が連結されている場合は、順次、この操作を燃料電池n(FCn)まで繰返して、負極側で残りの水素ガス(HGn)を回収して(nは、3以上の整数)、
水素ガスHG0よりも水素同位体濃度が低い水素ガスHG2またはHGnを得ること、
を含む、前記方法。
[9]
前記工程(fc1)においてFC1の負極側に供給される水素ガスの量と、前記工程(fc2)においてFC2又は前記工程(fc3)においてFCnから回収される水素ガスの量の比は、100:0~50の範囲である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記水電気分解装置における水電気分解用の電力の少なくとも一部は、前記燃料電池において発電された電力により賄われる、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
少なくとも2つの直列に連結した燃料電池は、3~10個の燃料電池を直列に連結したものである、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
前記水溶液AS0が、純水、アルカリ水溶液又は海水である、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結した燃料電池を含み、前記水電気分解装置は陰極室及び陽極室を有し、前記燃料電池はそれぞれ負極室及び正極室を有し、
前記水電気分解装置の陰極室から前記直列に連結した燃料電池の前記水電気分解装置に隣接する燃料電池の負極室に水素ガス流通手段を有し、
前記直列に連結した燃料電池は、上記水電気分解装置に隣接する燃料電池から順次連結する各燃料電池の負極室間に水素ガス流通手段を有し、
前記直列に連結した燃料電池は、上記水電気分解装置に隣接する燃料電池から順次連結する各燃料電池の正極室間に酸素ガスまたは酸素含有ガス流通手段を有し、かつ、
上記燃料電池より生成した水を上記水電気分解装置へ回収する流通手段を有する、
水素同位体が濃縮された水または水溶液の製造装置。
[14]
同位体濃度が低減された水素ガスを併産するための、[13]に記載の製造装置。
[15]
少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結した燃料電池を含み、前記水電気分解装置は陰極室及び陽極室を有し、前記燃料電池はそれぞれ負極室及び正極室を有し、
前記水電気分解装置の陰極室から前記直列に連結した燃料電池の前記水電気分解装置に隣接する燃料電池の負極室に水素ガス流通手段を有し、
前記直列に連結した燃料電池は、上記水電気分解装置に隣接する燃料電池から順次連結する各燃料電池の負極室間に水素ガス流通手段を有る、
水電気分解装置で得られた水素ガスより水素同位体が低減された水素ガスの製造装置。
[16]
少なくとも2つの直列に連結した燃料電池は、3~10個の燃料電池を直列に連結したものである、[13]~[15]のいずれかに記載の製造装置。
[17]
前記燃料電池は、固体高分子形燃料電池である、[13]~[16]のいずれかに記載の製造装置。
[18]
前記水電気分解装置は、隣接する燃料電池と連結した酸素ガスまたは酸素含有ガス流通手段を有する、[13]~[17]のいずれかに記載の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法及び装置においては、水電解及び燃料電池による発電を組み合わせて、水素同位体を含む水の水素同位体濃度を濃縮することができ、濃縮効率は高く、かつ燃料電池により発電された電気を水電解に利用することができることからシステム全体としての電力消費を抑制することができる。本発明においては、水素同位体濃度が低減された水素ガスを併産することも可能である。さらに、本発明の別の態様では、水素同位体濃度が低減された水素ガスを製造することができる方法及び装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図8】実施例5で用いた酸素順流型の本発明の装置の概略説明図である。
【
図9】実施例5で用いた酸素逆流型の本発明の装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<水素同位体濃縮水/水溶液の製造方法>
本発明は、少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結し燃料電池を用い、かつ各燃料電池において独立して発電を行い、かつ水電気分解装置において水電気分解を行って、水素同位体を含有する水または水溶液(以下、水溶液AS0)から、前記水溶液AS0よりも水素同位体含有率が高い水または水溶液(ASe)を製造する方法に関する。
【0011】
<水素同位体濃縮水/水溶液の製造装置>
さらに本発明は、少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの直列に連結した燃料電池を含む、水素同位体が濃縮された水または水溶液(水素同位体濃縮水/水溶液)の製造装置に関する。前記水電気分解装置は、陰極室及び陽極室を有し、前記燃料電池はそれぞれ負極室及び正極室を有する。
【0012】
本発明の製造装置の一態様の概略図を
図1に示す。
図1に示す装置は、1つの水電気分解装置(水電解槽)10及び直列に連結した燃料電池FC1、FC2、・・・FCnを含む。nは3以上の整数である。nの上限に制限はなく、例えば、10以下の整数であることができる。尚、
図1においては、FCnが示されているが、燃料電池はFC1及びFC2の2つの場合もある。燃料電池の連結様式が直列とは、燃料電池の間を流通する水素ガスの流れに沿って、複数の燃料電池が連結されることを意味する。複数の燃料電池の間の電気の流れに注目して直列に連結される意味ではない。複数の燃料電池は独立の条件で運転されるため電気的に直列に連結されることはない。
【0013】
水電解槽10は、図示はされていないが、電解槽内に陽極及び負極並びに陽極及び負極の間に設置された隔膜(例えば、イオン交換膜)を有する。水電解槽を構成する陽極、負極及び隔膜(例えば、イオン交換膜)の種類、構造、形状及び寸法などには特に制限はない。陽極及び負極には、図示しないが、外部電源が接続する。
【0014】
水電気分解装置としては、固体高分子型水電気分解装置、アルカリ型水電気分解装置等が知られているが、多量の水素ガスを発生できる点からアルカリ型水電気分解装置が適している。水電気分解装置を稼働させる際の温度は、例えば、20℃~70℃の範囲が適している。但し、この範囲に限定される意図ではない。電気分解においては、電流量を調整して水素の発生量を制御することができる。好ましい電流は、例えば、0.1~100Aの範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。なお、水電気分解装置は複数の装置を合わせて使用してもよい。
【0015】
陽極室には、水/水溶液を供給する流通手段及び電気分解により陽極で発生する酸素ガスを排出するための酸素ガス流通手段を有する。陰極室には、水素ガスを排出するための水素ガス流通手段を有し、陰極室には、水/水溶液を供給する流通手段を有することもできる。但し、
図1に示す装置は、水/水溶液を供給する流通手段は陽極室側に接続する。
【0016】
燃料電池FC1、FC2、・・・FCnは、電解質を挟んで両側に正極となる触媒層と負極となる触媒層とを有し、正極となる触媒層の外側に正極室、負極となる触媒層の外側に負極室を有する。電解質、正極及び負極の種類、構造、形状、寸法は、それぞれ特に制限はない。但し、正極となる触媒層に用いられる触媒は、水素イオンと酸素との水生成反応に比べて、水素同位体イオンと酸素との水生成反応を優先的に生じ得る材料であることが好ましい。そのような材料としては、白金やルテニウム等の貴金属、ニッケルやコバルト等の遷移金属およびその合金や酸化物等を挙げることができる。負極となる触媒層に用いられる触媒は、水素ガスの酸化反応に比べて、水素同位体を含む水素ガスの酸化反応を優先的に生じ得る材料であることが好ましい。そのような材料としては、白金やルテニウム等の貴金属、ニッケルやコバルト等の遷移金属およびその合金や酸化物等を挙げることができる。
【0017】
電解質は、水素イオンのみならず、水素同位体イオンの電解質内の拡散を容易に許容する材料であることが好ましい。そのような材料としては、プロトン導電性固体高分子膜やアニオン導電性固体高分子膜等を挙げることができる。
【0018】
正極室には、酸素ガス流通手段(供給側及び排出側)が接続され、負極室には、水素ガス流通手段(供給側及び排出側)が接続される。但し、本明細書においては、酸素ガス流通手段は、酸素ガス又は酸素含有ガスを流通させるための手段である。正極室には、図示していないが、水/水溶液を供給する流通手段(供給側及び排出側)をさらに設けることもできる。尚、水/水溶液の排出は、正極室から排出される酸素含有ガスに同伴させて行うこともできる。燃料電池に設けられた水/水溶液を供給する流通手段(供給側及び排出側)、酸素ガス流通手段(供給側及び排出側)、及び水素ガス流通手段(供給側及び排出側)は、それぞれ隣接する燃料電池、水電解槽又は外部と接続することができる。
図1においては、FC1が水電解槽と隣接しており、水電解槽に隣接するFC1の酸素ガス流通手段(供給側)は水電解槽の陽極室と接続し、FC1の水素ガス流通手段(供給側)が水電解槽の陰極室と接続する。FC1の水/水溶液を供給する流通手段(排出側)は、水電解槽とすることもできる。
【0019】
一方、FCnの水/水溶液を供給する流通手段(供給側)、酸素ガス流通手段(排出側)、及び水素ガス流通手段(排出側)が装置の外部と接続する。但し、各燃料電池への酸素ガス流通手段(供給側)は、隣接する水電解槽または隣接する燃料電池の酸素ガス流通手段(排出側)と接続せず、独立に、酸素ガス(例えば、空気)供給源と接続することもできる。
【0020】
直列に連結した燃料電池の間を接続する水素ガス流通手段は、隣接する燃料電池の負極室間を連絡する。直列に連結した燃料電池を接続する酸素ガス流通手段は、隣接する燃料電池の正極室間を連絡する。また、水または水溶液流通手段が、直列に連結した燃料電池の隣接する燃料電池の正極室間を接続するもできる。
【0021】
本発明の水素同位体濃縮水/水溶液の製造方法は、例えば、上記本発明の装置を用いて実施することができる。本発明の方法を、
図2を参照して説明する。
【0022】
(we1)水電気分解装置において水溶液AS0を水電気分解して水素ガス及び酸素ガスを得る。
(fc1)前記電気分解で得られる水素ガスを燃料電池1(FC1)の負極側に供給し、水素ガス(HG0)の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG1)及び正極側で生成する水素同位体含有水(W1)を回収する。
(fc2)回収した水素ガス(HG1)を燃料電池2(FC2)の負極側に供給し、水素ガス(HG1)の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG2)及び正極側で生成する水素同位体含有水(W2)を回収する。
(fc3)燃料電池2の次に、燃料電池が連結されている場合は、順次、この操作を燃料電池n(FCn)まで繰返して、負極側で残りの水素ガス(HGn)及び正極側で生成する水素同位体含有水(Wn)を回収する(nは、3以上の整数)。
(we2)前記水電気分解装置から、電気分解後の、前記水溶液AS0よりも水素同位体含有率が高い水または水溶液ASeを回収する。
【0023】
水電気分解装置において水溶液AS0を水電気分解して水素ガス及び酸素ガスを得るとともに、電気分解後の、前記水溶液AS0よりも水素同位体含有率が高い水または水溶液ASeを回収する。
【0024】
水溶液AS0は、水素同位体元素である重水素(D)又はトリチウム(T)を含む水を含有する水(水溶液)であることができる。水素同位体元素である重水素(D)を含む水は、H2O、HDO及び/又はD2Oを含有する。水素同位体元素であるトリチウム(T)を含む水は、H2O、HTO及び/又はT2Oを含有する。水溶液AS0中に含まれる水素同位体元素を含む水の(HDO及び/又はD2O、HTO及び/又はT2Oなど)の濃度は、特に制限はない。例えば、水素同位体元素が0.1~100atomic%の範囲であることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0025】
燃料電池の運転に関しては、固体高分子型水電気分解装置の場合、水溶液は電解質を含まない純水であることが好ましい。
【0026】
また、アルカリ型水電気分解装置の場合は、アルカリイオンの存在が必要であり、電解質を含む水であってよい。むしろ、電気抵抗を考慮すると、水溶液AS0又は水溶液AS0が供給される水電気分解の電解液は電解質を含有することが好ましい。水溶液AS0が純水である場合には、水溶液ASnに電解質を添加することができる。電解質は、腐食性等の不都合な反応性を有さないという観点から、例えば、アルカリ物質であることができ、アルカリ物質は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等であることが好ましい。電解質を含む水溶液は、海水であることもできる。また、ため池水であることもできる。電解質の濃度は、電解の条件等を考慮して適宜決定できる。
【0027】
水電気分解装置における水の電気分解の条件は特に制限はなく、水電解槽中の陽極で酸素分子、陰極で水素分子が生成する条件であればよい。水電気分解においては、水溶液に含まれる水素同位体元素を含む水は、水素同位体元素を含まない水(H2O)に比べて電気分解されにくい。しかし、水溶液に含まれる水素同位体元素を含む水が全く電気分解されない訳ではない。水電気分解において酸素分子と水素分子に分解される、軽水素と水素同位体元素との割合(H/Xと表記する(XはDまたはT)は、水素同位体元素の種類や電気分解の装置や運転条件により変動するが、1を超え、例えば、1.5~5の範囲である。H/Xが大きい程、電気分解における水素同位体の濃縮効果は高くなる。H/Xが2以上、好ましくは3以上で電気分解をすることが好ましい。電気分解後の水溶液中には水溶液AS0よりも高い濃度の水素同位体が含まれ、即ち、水素同位体が濃縮される。一方、電気分解により生成する水素ガス中の水素同位体濃度は、水溶液AS0よりも低くなる。しかし、水素ガスにも水素同位体は含まれ、水素同位体元素である重水素(D)を含む水の電解においては、H2以外に、HD及び/又はD2を含有する。水素同位体元素であるトリチウム(T)を含む水の電解においては、H2以外に、HT及び/又はT2を含有する。
【0028】
工程(fc1)においては、FC1の負極側に水電気分解で生成した水素ガスHG
0が供給される。この水素ガスには上記のように、水素同位体は含まれる。水素同位体を含む水素ガスは燃料電池において正極側の酸素と反応し水が生成する。燃料電池の正極及び負極における反応式は、
図2に例示する。燃料電池における酸素との反応性は、水素同位体元素の種類や燃料電池種類(電極及び電解質等)や運転条件により変動するが、一般に、軽水素(H)に比べて水素同位体元素Xの方が高い。例えば、反応性をX/Hと表示すると(XはDまたはT)は、X/Hは1を超え、例えば、1.5~5の範囲である。その結果、負極側に水素ガスが残存する場合、残存する水素ガスHG
1中の水素同位体元素の濃度は、HG
0中の水素同位体元素の濃度より低くなる。一方、燃料電池の正極側で生成する水に含まれる水素同位体元素の濃度は、HG
0中の水素同位体元素の濃度より高くなる。即ち、水素同位体元素は、水側に濃縮され、水素ガス中で低減する。
【0029】
工程(fc1)の次の工程である(fc2)においては、FC2に水素ガスHG1が供給されること以外、工程(fc1)におけるFC1における操作と同様である。FC2の負極側に水素ガスが残存する場合、残存する水素ガスHG2中の水素同位体元素の濃度は、HG1中の水素同位体元素の濃度より低くなる。また、一方、FC2の正極側で生成する水に含まれる水素同位体元素の濃度は、HG1中の水素同位体元素の濃度より高くなる。即ち、水素同位体元素は、水側に濃縮され、水素ガス中で低減する。この関係は、工程(fc3)においけるFCnまで続く。
【0030】
工程(fc1)におけるFC1の負極側に供給される水素ガスHG0の量と、(fc2)又は(fc3)においてFC2またはFCnから回収される水素ガスHG2又はHGnの量の比(HG0:HG2又はHGn)は、例えば、100:0~50の範囲であることができる。100:0は、FCnにおいて全ての水素ガスが消費されることを意味し、100:0超は、FCnにおいて水素ガスの一部が回収されることを意味する。各FCにおける水素ガスの消費は、各FCにおける発電量を調整することで調整できる。発電量の調整は、設定される電気的な外部負荷のコントロールによる。100:0超である場合、HGnに含まれる水素同位体元素の濃度は、HG0に含まれる水素同位体元素の濃度、接続される燃料電池の個数や燃料電池の運転条件等により異なるが、例えば、HG0に含まれる水素同位体元素の濃度の50%以下、好ましくは10%以下とすることができる。例えば、(fc2)のFC2又は(fc3)のFCnから水素同位体含有率が水素ガスHG0より低い水素ガスHG2またはHGnを回収して水素ガスを併産することができる。
【0031】
(fc1)~(fc3)において、任意の燃料電池FCn-1の負極側に供給される水素ガスの量と、FCn-1の負極側から回収される水素ガスの量の比(即ち、水素ガスの消費比率)は、特に制限はないが、例えば、100:10~90の範囲である(但し、nは3以上であり、nが2の場合、前記比は100:0~50の範囲である)。各FCにおける水素ガスの消費比率は、FC間で独立に設定することができる。
【0032】
FC1~FCnの正極側には、酸素ガスまたは酸素含有ガスが供給される。一方、水電気分解においては、上述のように酸素ガスも生成する。この酸素ガスの少なくとも一部は、少なくとも一部の燃料電池の正極側に供給することができる。燃料電池の正極側に供給する酸素ガスは、水電気分解で得られる酸素ガスのみならず、空気中の酸素ガスであることや、両者の混合物であることもできる。
図2の説明図においては、各燃料電池における酸素ガスの供給方法は、複数のオプションが記載されており、このなかの少なくとも一つを採用することができる。例えば、水電気分解で生成した酸素ガスをFC1からFCnに順次流通することもできるし、この酸素ガスにさらに空気を追加することもできる。あるいは、水電気分解で生成した酸素ガスは、酸素ガスのプール(図示せず)に一時保存し、そこからFC1からFCnの各燃料電池に独立に供給することもできる。
【0033】
例えば、水電気分解で得られる酸素ガスの少なくとも一部は、FCnの正極側に供給され、FCnの正極側から排出される酸素ガスまたは酸素含有ガスは燃料電池n-1(FCn-1)の正極側に供給され、順次、FC1まで、排出された酸素ガスまたは酸素含有ガスの次の燃料電池への供給が繰り返される。
【0034】
各燃料電池の正極側においては、上記のように水素同位体を含む水が生成する。この水は、回収される。回収方法には特に制限はないが、例えば、正極室に供給され、未消費の酸素ガスが正極室から排出される際にガスに同伴して排出、回収することができる。回収した水素同位体含有水W1からWnの少なくとも一部は、含まれる水素同位体の濃度によるが、水素同位体濃度が比較的高い場合(例えば、FC1やFC2からの回収水)、水素同位体濃縮水溶液としてASeに合流されることができる。あるいは、比較的水素同位体濃度が低い場合(例えば、FCnからの回収水)、AS0と共に水電気分解に供することもできる。
【0035】
水電気分解装置における水電気分解用の電力の少なくとも一部は、燃料電池において発電された電力により賄うことができる。但し、水電気分解用の電力は、燃料電池により発電された電力以外の電力であることもできる。
【0036】
少なくとも2つの直列に連結した燃料電池は、例えば、3~10個の燃料電池を直列に連結したものであることができ、直列に連結する燃料電池の数は、2、3、4、5、6、7、8、9、10個の何れであってもよい。また、各燃料電池には、並列に接続された1以上の燃料電池であっても良い。また、各燃料電池は、同じ種類の燃料電池であっても異なる種類の燃料電池であってもよい。
【0037】
本発明において、燃料電池は独立に発電できることを特徴とする。各燃料電池において、水電気分解装置から発生した水素ガスを独立した運転条件にて消費して発電し、同時に発生する水に水素同位体元素が濃縮させることになる。ここで、水素同位体元素の濃縮効果は、燃料電池を多段とすることにより相乗的に発現する。一方で、本発明の装置において、水電気分解装置における水素ガスの発生量(エネルギーの消費量に相当する)、各燃料電池における水素ガスの消費量(エネルギーの発生量に相当する)は、装置全体のエネルギー収支を設計するための重要な因子となる。本発明においては、各燃料電池におけるエネルギーの発生量を独立に制御することができ、本発明の目的である水素同位体元素の濃縮効果の最大と、エネルギー効率の最大を合わせて達成することができることになる。なお、各燃料電池におけるエネルギーの発生量は、例えば、電気抵抗の負荷の程度により調整することができる。
【0038】
燃料電池としては、例えば、リン酸型燃料電池、固体酸化物型燃料電池、固体高分子型燃料電池、アルカリ膜型燃料電池やアルカリ型燃料電池などを挙げることができる。例えば、固体高分子形燃料電池を用いる場合には、20~90℃の範囲の温度で発電できるので好しい。固体高分子形燃料電池を用いる場合には、特に、60~80℃の範囲の温度であることが好ましい。
【0039】
本発明の製造装置は、同位体濃度が低減された水素ガスを併産するために用いることもできる。例えば、燃料電池を三段直列に連結すると、同位体濃度は例えば、1/100倍程度にまで低減され、同位体濃度が低減された水素ガスは、高純度水素として他の用途に使用することができる。
【0040】
<水素同位体濃度低減水素ガスの製造方法>
本発明は、少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの水素ガスの流れに直列に連結し燃料電池(FCn、ここで、nは2以上の整数であって、水電気分解装置に一段目に連結した燃料電池をFC1とする。)を用い、かつ各燃料電池において独立して発電を行い、かつ水電気分解装置において水電気分解を行うことを含む、水素同位体濃度が低減された水素ガスを製造する方法を包含する。この製造方法は、
(we1)水電気分解装置において水素同位体を含有する水または水溶液を水電気分解して水素ガス(HG0)及び酸素ガスを得ること、
(fc1h)前記電気分解で得られる水素ガスHG0を燃料電池1(FC1)の負極側に供給し、水素ガスHG0の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG1)を回収すること、
(fc2h)回収した水素ガスHG1を燃料電池2(FC2)の負極側に供給し、水素ガスHG1の一部を負極で反応させ、負極側で残りの水素ガス(HG2)を回収すること、
(fc3h)燃料電池2(FC2)の次に、燃料電池が連結されている場合は、順次、この操作を燃料電池n(FCn)まで繰返して、負極側で残りの水素ガス(HGn)を回収して(nは、3以上の整数)、
水素ガスHG0よりも水素同位体濃度が低い水素ガスHG2またはHGnを得ることを含む。
【0041】
工程(we1)は、水素同位体濃縮水/水溶液の製造方法における工程(we1)は、同義である。
工程(fc1h)は、水素同位体濃縮水/水溶液の製造方法における工程(fc1)と、正極側で生成する水素同位体含有水(W1)を回収することを含まなくてもよいこと以外は、同義である。
工程(fc2h)は、水素同位体濃縮水/水溶液の製造方法における工程(fc2)と、正極側で生成する水素同位体含有水(W2)を回収することを含まなくてもよいこと以外は、同義である。
工程(fc3h)は、水素同位体濃縮水/水溶液の製造方法における工程(fc3)と、正極側で生成する水素同位体含有水(Wn)を回収することを含まなくてもよいこと以外は、同義である。
【0042】
尚、工程(fc2h)で回収される水素ガスHG2及び工程(fc3h)で回収される水素ガスHGnは水素ガスHG0よりも水素同位体濃度が低い。この点は水素同位体濃縮水/水溶液の製造方法における工程(fc2)で回収される水素ガスHG2及び工程(fc3)で回収される水素ガスHGnも同様である。
【0043】
水素ガスHG2及びHGnにおける水素同位体濃度の低減の度合は、水素ガスHG0の水素同位体濃度及び燃料電池FCnの構成や運転条件等により変動し、適宜制御することが可能である。
【0044】
<水素同位体濃度低減水素ガス製造装置>
本発明は、少なくとも1つの水電気分解装置及び少なくとも2つの直列に連結した燃料電池を含む、水素同位体濃度が低減された水素ガスの製造装置を包含する。
【0045】
この製造装置における水電気分解装置、水電気分解装置と燃料電池の間の水素ガス流通手段、及び燃料電池間の水素ガス流通手段は、水素同位体濃縮水/水溶液の製造装置における水電気分解装置、水電気分解装置と燃料電池の間の水素ガス流通手段、及び燃料電池間の水素ガス流通手段とそれぞれ同義である。
【0046】
本発明の水素同位体濃度低減水素ガス製造装置を用いて、水電気分解装置で得られた水素ガスより水素同位体が低減された水素ガスが製造される。この装置では、前記の水素同位体濃度低減水素ガスの製造方法を実施できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0048】
実施例1
実験方法:1段燃料電池
本実験では、アルカリ型水電解(AWE)と固体高分子型燃料電池(PEFC)を用いた。実験装置の概要を
図3に示す。
【0049】
AWEでは、陽極および陰極に円形状のニッケルメッシュ電極(実面積35cm2)を用い、電解前にアセトンおよびエタノールにて超音波洗浄を行った。陽極および陰極の間には隔膜を使用し、個々の電極で発生したガスが混ざらないようにした。電解液には水酸化カリウム水溶液(pH 15)を用い、重水素/軽水素(D/H)比が1:9となるよう重水(D2O)を添加し、アクリル製の電解槽に0.6L充填させた。電解中はポンプにて水電解槽内を循環させた。水電解は直流電源装置を用いて電流を1~5Aまで変化させ、一定電流・室温の条件下で運転させた。
【0050】
PEFCでは、正極・負極両電極に白金触媒(Pt担持量:0.52 mg/cm2)を使用した電極接合膜(50×50 mm)を用い、電解質膜にはNafion(NRE211)を使用した。AWEから発生した水素ガスを直接PEFCの負極に供給し、正極には酸素ボンベから純酸素ガスを供給した。室温にて発電を行った。PEFCは可変抵抗器(菊水電子工業社製、PLZ164W)に接続し、発電電流が一定になるように調整した。
【0051】
分離係数測定は、四重極質量分析計(ULVAC社製, Qulee HGM202, Q-Mass)を用いた。試料ガスはニードルバルブにて圧力を一定(10-5Pa)にし、検出器に供給した。検出器部分は温度を60℃に保ち、検出感度が外部環境に依存しない設計とした。水素同位体分離係数αは、PEFCで排出される発電前後の水素ガスをQ-Massにて分析し、両者の割合を式(1)にて求めた。結果を図に示す。
【0052】
【0053】
実施例2
実験方法:濃度依存性
PEFC単体での分離係数と水素同位体濃度(重水素)との関係を調べた。正極・負極両電極に白金触媒(Pt担持量:0.52 mg/cm2)を使用した電極接合膜(50×50 mm)を用い、電解質膜にはNafion(NRE211)を使用した。負極には軽水素ガスと重水素ガスの混合ガスを、正極には純酸素ガス(80 ml min-1)を供給した。このとき、軽水素ガス(H2)流量を20ml min-1に固定し、重水素ガス(D2)の流量をマスフロー制御装置にて調整しD/H比を10-5~10-3とした。PEFCは可変抵抗器(菊水電子工業社製、PLZ164W)に接続し、発電電流が一定になるように室温にて発電させた。
【0054】
分離係数測定は、Q-Massを用いた。試料ガスはニードルバルブにて圧力を一定(10
-5Pa)とし、検出器に供給した。検出器部分は温度を60℃に保ち、検出感度が外部環境に依存しない設計とした。水素同位体分離係数αは、発電前後でPEFCから排出される水素ガスをQ-Massにて分析し、両者の割合を式(2)にて求めた。結果を
図5に示す。
【0055】
【0056】
実施例3
実験方法:多段燃料電池
多段式燃料電池のモデルとして、1段のAWEと3段のPEFCからなる装置を作り検証実験を行った。実験装置の概要を
図6に示す。
AWEでは、陽極および陰極に円形状のニッケルメッシュ電極(実面積35cm
2)を用い、電解前にアセトンおよびエタノールにて超音波洗浄を行った。陽極および陰極の間には隔膜を使用し、個々の電極で発生したガスが混ざらないようにした。電解液には水酸化カリウム水溶液(pH 15)を用い、重水素/軽水素(D/H)比が1:9となるよう重水を添加し、アクリル製の電解槽に0.6L充填させた。電解中はポンプにて水電解槽内を循環させた。水電解は直流電源装置を用いて電流を5Aの一定電流とし、室温条件下で運転させた。
【0057】
PEFCでは、いずれの電池においても正極・負極両電極に白金触媒(Pt担持量 : 0.52 mg/cm2)を使用した電極接合膜(50×50 mm)を用い、電解質膜にはNafion(NRE211)を使用した。AWEから発生した水素ガスを一段目のPEFCの負極に供給し、一段目から排出された水素ガスは次段のPEFCの負極に逐次供給した。酸素ボンベから純酸素ガスを一段目の正極に供給し、一段目から排出された酸素ガスは次段のPEFCの正極に逐次供給した。各段のPEFCは独立した3つの可変抵抗器にそれぞれ接続し、発電電流が一定値になるよう調整した。PEFCをAWEに近い方からFC1、FC2、FC3とし、発電電流の総和が4.5Aになるよう以下の3条件について調べた。なお、作動温度は室温とした。
【0058】
(i)FC1= 1.2 A, FC2 = 0.6 A, FC3 = 1.7 A
(最後のPEFCの水素利用率が最大)
(ii)FC1= 2.7 A, FC2 = 1.2 A, FC3 = 0.6 A
(最初のPEFCの水素利用率が最大)
(iii)FC1= 1.5 A, FC2 = 1.5 A, FC3 = 1.5 A
(何れのPEFCの水素利用率も等しい)
【0059】
分離係数測定は、四重極質量分析計(ULVAC社製, Qulee HGM202, Q-Mass)を用いた。試料ガスはニードルバルブにて圧力を一定(10
-5Pa)にし、検出器に供給した。検出器部分は温度を60℃に保ち、検出感度が外部環境に依存しない設計とした。水素同位体分離係数αは、3段目のPEFCで排出される水素ガスをQ-Massにて分析し、両者の割合を式(3)にて求めた。結果を表1及び
図7に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
多段燃料電池の理論分離係数αは、水電解の分離係数をαAWE、FC1、FC2、FC3の分離係数をαFC1、αFC2、αFC3として、次のように定義した。
α=αAWE×αFC1×αFC2×αFC3
尚、αの計算においては、下記の条件を用いた。
・αAFEは別の実験結果より6.0とした。
・燃料電池の分離係数αFC1、αFC2、αFC3:
【0063】
1段燃料電池の結果より、αは水素利用率Uに比例するとし、α=3.1×U+0.93の近似式を利用。(
図4のグラフ中の点線に相当。)
さらに濃度依存性を考慮するため、流入ガス中のD/H比をXとし、α=20.075×X
0.188の近似式を利用(
図5のグラフの点線に相当)。
【0064】
濃度依存性結果から、濃度低下によるαの減少率は同程度であると仮定し、補正項としてαFC1、αFC2、αFC3に(20.075×X0.188)/(20.075×(1/540)0.188)を掛ける。但し、1/540は水電解後のガス中のD/H比、Xは燃料利用率の近似式から得たαから逆算した燃料電池流入前のD/H比である。
この条件で得られた前記(ii)の条件における燃料電池の分離係数αFC1は2.16、αFC2は1.78、αFC3は1.53であり、これらにαAWE 6.0を乗じた値が表1に示した理論分離係数α=35.30=6.0×2.16×1.78×1.53である。
【0065】
実施例4
同量の水素を発電に用いる場合、FCの数が多い程、分離係数・発電電力ともに優位になることを実証するために以下の実験を行った。
【0066】
KOH電解液 (5 M, 10 at%D2O)を3.0 Aで電解し、発生させた水素ガスを用いて、以下の3通りの実験を行った。燃料電池FCは実施例1で用いたものと同様である。結果を表2に示す。表2に示す結果から、同量の水素を発電に用いる場合、FCの数が多い程、分離係数・発電電力ともに優位になることがわかる。
【0067】
(1)燃料電池FCを1機用いて1.8 Aの電流量に設定して発電
(2)燃料電池FCを2機並列に用いて、それぞれ0.9 Aずつ発電(合計1.8 A)
(3)燃料電池FCを3機並列に用いて、それぞれ0.6 Aずつ発電(合計1.8 A)
【0068】
【0069】
実施例5
燃料電池への酸素ガスの導入方向の検討
燃料電池FCを2機用いて、酸素ガスの導入方向の違いによる分離係数の違いを測定した。酸素ガスの導入方向は、
図8に示す方向が酸素順流型であり、水素ガスと酸素ガスが同じ向きに順次燃料電池に供給される。
図8に示す酸素順流型では酸素ガスが、D濃度の高い水素ガスから順に燃料電池において反応する。
図9に示す方向が酸素逆流型であり、水素ガスと酸素ガスが逆向きに順次燃料電池に供給される。
図9に示す酸素逆流型では、酸素ガスが、D濃度の低い水素ガスから順に反応する。酸素極側への分離も期待できる酸素逆流型の分離係数がよくなることが予想される。この点を確認するために以下の実験を行った。
【0070】
実施例4と同様にKOH電解液 (5 M, 10 at%D
2O)を3.0 Aで電解し、発生させた水素ガスを用いた。燃料電池FCは実施例1で用いたものと同様である。結果を
図10-1及び
図10-2に示す。
図10-1のIon Currentの測定は、燃料電池から排出される排ガスを調べることで実施した。このためIon Currentの減少は、排ガス中の水素同位体Dの量の減少(燃料電池におけるD消費の増大)を意味する。
図10-1の結果から、酸素順流から酸素逆流になることで、燃料電池反応におけるD消費が増えたこと、即ち、酸素逆流型では、質量数3(m=3) の水素同位体を含む水素ガス(HD)と質量数4(m=4)の水素同位体を含む水素ガス(D
2)が、酸素順流型よりもより多く燃料電池で消費されたことが分かる。さらに
図10-2の結果から、酸素逆流型の方が、分離係数が15%程度よくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、水素同位体を含有する水の処理分野に有用である。