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特許7164938流量制御装置、流量制御方法、及び、流量制御装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】流量制御装置、流量制御方法、及び、流量制御装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017147801
(22)【出願日】2017-07-31
(65)【公開番号】P2019028747
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-06-16
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】安田 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト ビル
(72)【発明者】
【氏名】ローリー パトリック
(72)【発明者】
【氏名】グンドラック マックス
(72)【発明者】
【氏名】オーウェン ライアン
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】中里 翔平
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-531069(JP,A)
【文献】特開2004-280688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に設けられた流体抵抗と、
流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、
前記流体抵抗、及び、前記下流側バルブの間における前記流路の容積中の圧力を測定する下流側圧力センサと、
前記流体抵抗を流れる第1流量を算出する第1流量算出部と、
第1流量、及び、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量から算出される換算流量に基づいて、前記下流側バルブから流出する第2流量を算出する第2流量算出部と、
設定流量と、第2流量とに基づいて前記下流側バルブを制御する流量制御部と、
前記下流側バルブが閉鎖されている状態において、第1流量と第2流量とを比較して異常の有無を診断する診断部と、を備えたことを特徴とする流量制御装置。
【請求項2】
前記第2流量算出部が、
下流側圧力の時間変化量を算出する変化量算出部と、
第1流量と下流側圧力の時間変化量から算出される換算流量の差に基づいて、第2流量を算出する流量演算部と、を備えた請求項1記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記流体抵抗よりも上流側に設けられた上流側バルブと、
前記上流側バルブ、及び、前記流体抵抗の間における前記流路の容積中の圧力を測定する上流側圧力センサと、
設定圧力と、前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力とに基づいて前記上流側バルブを制御する圧力制御部と、をさらに備えた請求項1記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記第1流量算出部が、上流側圧力、及び、下流側圧力に基づいて前記流体抵抗を流れる第1流量を算出するように構成された請求項3記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記流体抵抗を流れる第1流量に応じた検出信号を出力する流量検出機構をさらに備え、
前記第1流量算出部が、前記流量検出機構の出力する検出信号に基づいて第1流量を算出するように構成された請求項1記載の流量制御装置。
【請求項6】
流路に設けられた流体抵抗と、流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、前記流体抵抗、及び、前記下流側バルブの間における前記流路の容積中の圧力を測定する下流側圧力センサと、を備えた流量制御装置を用いた流量制御方法であって、
前記流体抵抗を流れる第1流量を算出する第1流量算出ステップと、
第1流量、及び、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量から算出される換算流量に基づいて、前記下流側バルブから流出する第2流量を算出する第2流量算出ステップと、
設定流量と、第2流量とに基づいて前記下流側バルブを制御する流量制御ステップと、
前記下流側バルブが閉鎖されている状態において、第1流量と第2流量とを比較して異常の有無を診断する診断ステップと、を備えることを特徴とする流量制御方法。
【請求項7】
流路に設けられた流体抵抗と、流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、前記流体抵抗、及び、前記下流側バルブの間における前記流路の容積中の圧力を測定する下流側圧力センサと、を備えた流量制御装置に用いられるプログラムであって、
前記流体抵抗を流れる第1流量を算出する第1流量算出部と、
第1流量、及び、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量から算出される換算流量に基づいて、前記下流側バルブから流出する第2流量を算出する第2流量算出部と、
設定流量と、第2流量とに基づいて前記下流側バルブを制御する流量制御部と、
前記下流側バルブが閉鎖されている状態において、第1流量と第2流量とを比較して異常の有無を診断する診断部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする流量制御装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造装置に用いられる流体の流量を制御するための流量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスにおいて、例えばエッチングチャンバ内に導入される各種ガスの流量を制御するためにマスフローコントローラとよばれる各種流体機器と制御機構がパッケージ化された流量制御装置が用いられている。
【0003】
例えばマスフローコントローラは、流路に対して設けられた流量センサと、流量センサの下流側に設けられたバルブと、流量センサで測定される測定流量が目標値である設定流量となるように前記バルブの開度を制御する流量制御部と、を備えたものがある(特許文献1参照)。
【0004】
このようなマスフローコントローラには、設定流量に対してバルブの下流側を流れている実際のガスの流量ができる限り早く追従するように応答速度を向上させることが求められる。
【0005】
しかしながら、近年、半導体製造プロセスにおいて求められる応答速度は非常に厳しく、上述したような流量制御系を有するマスフローコントローラでは対応することが難しくなりつつある。この原因について本願発明者らが鋭意検討を行ったところ、以下に説明するような原理的な問題があることを見出した。
【0006】
すなわち、前述したマスフローコントローラでは、バルブよりも上流側で測定される流量がフィードバックされて、バルブが制御されており、流量センサによる流量の測定点と、バルブによる流量の制御点は、流量センサとバルブの設置間隔分だけずれている。
【0007】
例えば流量センサが層流素子等の流体抵抗を具備している場合、測定点となる流体抵抗と制御点となるバルブとの間の内部容積に設定流量を実現するために必要な圧力が実現されるようにガスを流出入させるには、流体抵抗の作用によって所定時間が必要となる。
【0008】
このため、制御点で起こった流量の変化が、流量センサのある測定点に表れるようになるまでには時間遅れが発生する。したがって、バルブは、制御点では所定時間前の流量の情報に基づいて常に開度が制御され続けるので、応答速度には必然的に限界が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-280688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述したような問題を鑑みてなされたものであり、制御点であるバルブにおける実際の流量を従来よりも小さい時間遅れで得ることができ、測定点と制御点を一致させることで応答速度を大幅に向上させることができる流量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係る流量制御装置は、流路に設けられた流体抵抗と、流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、前記流体抵抗、及び、前記下流側バルブの間における前記流路の容積中の圧力を測定する下流側圧力センサと、前記流体抵抗を流れる第1流量を算出する第1流量算出部と、第1流量、及び、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量に基づいて、前記下流側バルブから流出する第2流量を算出する第2流量算出部と、設定流量と、第2流量とに基づいて前記下流側バルブを制御する流量制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る流量制御方法は、流路に設けられた流体抵抗と、流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、前記流体抵抗、及び、前記下流側バルブの間における前記流路の容積中の圧力を測定する下流側圧力センサと、を備えた流量制御装置を用いた流量制御方法であって、前記流体抵抗を流れる第1流量を算出する第1流量算出ステップと、第1流量、及び、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量に基づいて、前記下流側バルブから流出する第2流量を算出する第2流量算出ステップと、設定流量と、第2流量とに基づいて前記下流側バルブを制御する流量制御ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、下流側圧力の時間変化量は、前記流体抵抗、及び、前記下流側バルブの間における前記流路の容積に流入する流体の流量と、前記容積から流出する流体の流量の差に基づいて決定される。
【0014】
したがって、前記第2流量算出部は、前記容積から流出する流体の流量である前記下流側バルブから流出する第2流量は、前記容積に流入する流体の流量である第1流量と、下流側圧力の時間変化量からが算出することができる。
【0015】
このようにして、制御点となる下流側バルブでの流量である第2流量について時間遅れをほとんど発生させずに得られるので、前記流量制御部は、制御点と測定点を一致させて前記下流側バルブを制御でき、従来よりも例えば過渡応答時における応答速度を向上させることができる。
【0016】
第2流量算出部の具体的な構成としては、前記第2流量算出部が、下流側圧力の時間変化量を算出する変化量算出部と、第1流量と下流側圧力の時間変化量から算出される換算流量の差に基づいて、第2流量を算出する流量演算部と、を備えるものが挙げられる。
【0017】
前記下流側バルブによって第2流量が設定流量で安定した後は前記流体抵抗の上流側の圧力変動が生じても第2流量が変動しにくいロバストな制御を実現できるようにするには、前記流体抵抗よりも上流側に設けられた上流側バルブと、前記上流側バルブ、及び、前記流体抵抗の間における前記流路の容積中の圧力を測定する上流側圧力センサと、設定圧力と、前記上流側圧力センサで測定される上流側圧力とに基づいて前記上流側バルブを制御する圧力制御部と、をさらに備えたものであればよい。
【0018】
前記流体抵抗の前後で発生する差圧によって前記第1流量算出部が正確な第1流量を算出できるようにしつつ、センサ数の増加を抑えられるようにするには、前記第1流量算出部が、上流側圧力、及び、下流側圧力に基づいて前記流体抵抗を流れる第1流量を算出するように構成されたものであればよい。
【0019】
流量制御装置だけで内部の異常を自己診断できるようにするには、前記下流側バルブが閉鎖されている状態において、第1流量と第2流量とを比較して異常の有無を診断する診断部をさらに備えたものであればよい。
【0020】
本発明における第1流量を得るための別の具体的な実施態様としては、前記流体抵抗を流れる第1流量に応じた検出信号を出力する流量検出機構をさらに備え、前記第1流量算出部が、前記流量検出機構の出力する検出信号に基づいて第1流量を算出するように構成されたものが挙げられる。
【0021】
例えば既存の流量制御装置に対してプログラムをアップデートするだけで、本発明に係る流量制御装置と同様の効果を享受できるようにするには、流路に設けられた流体抵抗と、流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、前記流体抵抗、及び、前記下流側バルブの間における前記流路の容積中の圧力を測定する下流側圧力センサと、を備えた流量制御装置に用いられるプログラムであって、前記流体抵抗を流れる第1流量を算出する第1流量算出部と、第1流量、及び、前記下流側圧力センサで測定される下流側圧力の時間変化量に基づいて、前記下流側バルブから流出する第2流量を算出する第2流量算出部と、設定流量と、第2流量とに基づいて前記下流側バルブを制御する流量制御部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする流量制御装置用プログラムを用いればよい。
【0022】
なお、流量制御装置用プログラムは、電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD,HDD,フラッシュメモリ等の記録媒体に記録されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明に係る流量制御装置によれば、流量の制御点である下流側バルブで実際に流れている第2流量を第1流量と下流側圧力の時間変化量に基づいて得ることができ、流量の測定点と制御点を一致させて制御することにより、応答速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る流量制御装置を示す模式図。
図2】第1実施形態の流量制御装置の制御動作について示すフローチャート。
図3】本発明の第2実施形態に係る流量制御装置を示す模式図。
図4】本発明の第3実施形態に係る流量制御装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1実施形態に係る流量制御装置100について図1及び図2を参照しながら説明する。
【0026】
第1実施形態の流量制御装置100は、例えば半導体製造プロセスにおいてエッチングチャンバに対してガスを設定流量で供給するために用いられるものである。ここで、設定流量は、ある流量値から別の流量値へ階段状に立ち上がる、あるいは、立ち下がるステップ信号である。このステップ信号に対して例えば製造される半導体の品質を満たすように所定時間内に追従するように、この流量制御装置100は構成してある。
【0027】
すなわち、流量制御装置100は、図1に示すように、流路に設けられたセンサ、バルブからなる流体機器と、当該流体機器の制御を司る制御器COMと、を備えている。
【0028】
流路に対して上流側から順番に供給圧センサP0、上流側バルブV1、上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2、下流側バルブV2が設けてある。ここで、流体抵抗Rは例えば層流素子であり、その前後に流れるガス流量に応じた差圧を発生する。
【0029】
供給圧センサP0は、上流側から供給されるガスの圧力をモニタリングするためのものである。なお、供給圧センサP0については供給圧が安定していることが保証されている場合等には、省略してもよい。
【0030】
上流側圧力センサP1は、流路において上流側バルブV1と流体抵抗Rとの間における容積である上流側容積内にチャージされているガスの圧力である上流側圧力を測定するものである。
【0031】
下流側圧力センサP2は、流路において流体抵抗Rと下流側バルブV2との間における容積である下流側容積VLにチャージされているガスの圧力である下流側圧力を測定するものである。
【0032】
このように上流側圧力センサP1と下流側圧力センサP2は、上流側バルブV1、流体抵抗R、下流側バルブV2で形成される2つの容積の圧力をそれぞれ測定している。また、別の表現をすると、上流側圧力センサP1と下流側圧力センサP2は、流体抵抗Rの前後に配置されたそれぞれの容積内の圧力を測定するものである。
【0033】
上流側バルブV1、及び、下流側バルブV2は、第1実施形態では同型のものであり、例えばピエゾ素子によって弁体が弁材に対して駆動されるピエゾバルブである。上流側バルブV1は、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力に基づいて上流側容積内の圧力を制御する。一方、流体機器において最も下流側に設けられている下流側バルブV2は、流体機器から流出するガス流量全体を制御するものである。
【0034】
次に制御器COMについて詳述する。
【0035】
制御器COMは、例えばCPU、メモリ、A/D・D/Aコンバータ、入出力手段を具備するいわゆるコンピュータであって、メモリに格納されている流量制御装置用プログラムが実行されて各種機器が協業することにより、少なくとも第1流量算出部1、第2流量算出部2、流量制御部3、圧力制御部4としての機能を発揮する。
【0036】
第1流量算出部1は、上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2とともにいわゆる差圧式の流量センサを構成するものである。つまり、第1流量算出部1は、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力を入力として、流体抵抗Rを流れるガス流量である第1流量を算出し、出力するものである。ここで、第1流量算出部1で用いられる流量の算出式は既存のものを用いることができる。第1流量算出部1で算出される第1流量は、連続的に変化するものであるが、下流側バルブV2の制御により実現される当該下流側バルブV2を通過している実際の流量に対して所定の時間遅れが発生している。
【0037】
第2流量算出部2は、第1流量算出部1で算出される第1流量と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力とに基づいて、下流側バルブV2から流出するガス流量である第2流量を算出し、出力する。より具体的には、第2流量算出部2は、流体抵抗Rと下流側バルブV2との間の下流側容積VLに対して流入するガス流量である第1流量と、下流側容積VLから流出するガス流量である第2流量の差の定数倍が、下流側圧力の時間変化量と等しいことに基づいて第2流量を算出している。
【0038】
すなわち、第2流量算出部2は、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力の時間変化量を算出する変化量算出部21と、第1流量と下流側圧力の時間変化量に基づいて第2流量を算出する流量演算部22とを備えている。
【0039】
以下では第2流量が第1流量と下流側圧力の時間変化量に基づいて算出できる点について説明する。
【0040】
下流側圧力をP、下流側容積VLの体積をV、ガスの温度をT、気体定数をR,質量をnとした場合、気体の状態方程式からP=nRT/Vとなる。この式について時間微分を取ると、
【0041】
【数1】
また、質量の時間微分は単位時間当たりに下流側容積VLに流出入するガス流量と比例関係にあるので、第1流量をQ、第2流量をQ、定数をaとすると、
【0042】
【数2】
各式から第2流量Qについて、解くと、
【0043】
【数3】
ここで、AはR、T、V、aをまとめた関数であり、下流側圧力の時間変化量に対して関数Aを乗じた値は、換算流量である。この式から、実測される値である第1流量と下流側圧力の時間変化量である時間微分に基づいて、第2流量を算出可能であることが分かる。
【0044】
第1実施形態では、変化量算出部21は、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力の時間変化量として時間微分を算出する。なお、時間微分は、下流側圧力の時系列データから差分を取ることで算出できる。
【0045】
流量演算部22は、例えば予め実験等で求めておいた定数Aと、入力される第1流量Qと変化量算出部21から入力される下流側圧力の時間微分から第2流量を算出し、流量制御部3に対して出力する。
【0046】
流量制御部3は、ユーザによって設定される設定流量と、第2流量算出部2から入力される第2流量に基づいて下流側バルブV2を制御する。すなわち、流量制御部3は、設定流量と第2流量の偏差が小さくなるように、下流側バルブV2から流出するガス流量である第2流量のフィードバックによって下流側バルブV2を制御する。
【0047】
一方、圧力制御部4はユーザによって設定される設定圧力と、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力に基づいて上流側バルブV1を制御する。すなわち、圧力制御部4は、設定圧力と上流側圧力の偏差が小さくなるように上流側圧力のフィードバックによって上流側圧力を制御する。ここで、設定圧力は、第2流量が設定流量で安定した場合において流体抵抗Rの前後において保たれるべき圧力差に基づいて設定される。
【0048】
次に下流側バルブV2が全閉されており、第2流量がゼロの状態から所定の流量へと変化させる場合の制御動作例について図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0049】
設定流量の値がゼロの間(ステップS0)は、流量制御部3は下流側バルブV2を全閉状態で維持し、下流側バルブV2からガスが流出しないようにする(ステップS1)。
【0050】
一方、圧力制御部4は上流側容積内の圧力が設定圧力となるように上流側バルブV1の開度を制御し、当該上流側容積内へとガスを流入させる(ステップS2)。
【0051】
設定流量がゼロから所定値にステップ状に変化すると(ステップS3)、流量制御部3は、流体抵抗Rの差圧から第1流量、及び、下流側圧力の時間変化量から算出される制御点での流量である第2流量が、設定流量の所定値となるように下流側バルブV2を開放する(ステップS4)。なお、第1流量は、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力を入力として、流体抵抗Rを流れる流量である。
【0052】
ここで、下流側バルブV2が開放されると下流側容積VLからガスが流出するので、下流側圧力は低下し、下流側圧力の時間変化量が発生する(ステップS5)。すなわち、ガスが流れ始める過渡応答状態では、第2流量は第1流量とは異なる値であり、下流側圧力の時間変化量が加味された値となっている。
【0053】
第2流量に基づくフィードバック制御が行われると(ステップS6)、流量の測定点と制御点が一致しているので、下流側バルブV2における流量の変化が下流側バルブV2の開度制御に即座に反映される。したがって、短時間で第2流量が設定流量の所定値で安定することになる(ステップS7)。
【0054】
第2流量が設定流量の所定値で安定している場合には、下流側容積VLに流出入するガスの量はつりあっている状態なので、下流側圧力の時間変化量はほぼゼロとなる(ステップS8)。つまり、第2流量は実質的に第1流量と等しく、流量制御部3は下流側バルブV2を第1流量によるフィードバック制御を行っていることになる(ステップS9)。このように流量制御部3は、流体抵抗Rの前後の差圧に基づいて算出される第1流量と、下流側圧力の時間変化量の差で算出される第2流量に基づいて下流側バルブV2の開度を制御しているので、下流側容積VL内に圧力変化が生じている場合と、下流側容積VL内の圧力が安定している場合とで自然にフィードバックされる流量が変化する。すなわち、流量制御部3による流量制御は、第2流量制御から第1流量制御へ自然に切り替わっているとも言える。
【0055】
また、圧力制御部4は流量制御部3とは独立して上流側バルブV1の開度を制御しており、第2流量が設定流量の所定値で安定している間は、上流側バルブV1の開度変化により下流側バルブV2から流出する流量が一定に保たれるように制御されていることになる(ステップS10)。
【0056】
このように構成された第1実施形態の流量制御装置100によれば、下流側バルブV2から流出する流量である第2流量を、実測している第1流量と下流側圧力の時間変化量から算出できる。そして、制御点である下流側バルブV2での流量である第2流量をフィードバックして下流側バルブV2を制御しているので、実際の流量とフィードバックされている流量との間に時間遅れが生じず、設定流量の変化に対する追従速度を従来よりも向上させることができる。すなわち、半導体製造プロセスにおいて求められている応答速度を実現できるようになる。
【0057】
また、上流側バルブV1によって流体抵抗Rの上流側の圧力が常に設定圧力で保たれるように制御されるので、圧力変動が生じにくく、下流側バルブV2の制御によって第2流量が設定流量で安定した後はその流量を保ち続けやすい。つまり、下流側バルブV2から流出するガス流量の制御についてロバスト性を高めることができる。
【0058】
次に本発明の第2実施形態について図3を参照しながら説明する。なお、第1実施形態で説明した部材には同じ符号を付すこととする。
【0059】
第2実施形態では、流量制御装置100は、外部センサを付加することなく、自身の具備するセンサの情報から自身の状態を診断する機能である自己診断機能を有している。すなわち、図3に示すように、下流側バルブV2が閉鎖されている状態において、第1流量と第2流量とを比較して異常の有無を診断する診断部5をさらに備えている。下流側バルブV2が閉鎖されている状態であれば、下流側容積VLからのガスの流出は存在しないので、各センサに故障等が生じていなければ第1流量と第2流量には差がほとんど生じない。したがって、診断部5は第1流量と第2流量の差が所定閾値を超えている場合には、上流側圧力センサP1、下流側圧力センサP2、又は、下流側バルブV2のいずれかに故障が発生していると診断するように構成されている。
【0060】
このように第2実施形態の流量制御装置100によれば、内部から得られる各種流量を比較することで流体機器に故障等の異常が発生しないかどうかを診断できる。
【0061】
次に本発明の第3実施形態について図4を参照しながら説明する。
【0062】
第3実施形態の流量制御装置100では、第1流量の算出原理が第1実施形態とは異なっている。具体的には、第3実施形態の流量制御装置100は、流体抵抗Rの前後に設けられた圧力センサの測定値を用いるのではなく、別途流量を測定するための流量検出機構Fを設け、第1流量算出部1はこの流量検出機構Fの出力に基づいて第1流量を算出するように構成してある。
【0063】
すなわち、第3実施形態では流量検出機構Fとして、流体抵抗Rの前後を跨ぐように分岐させて設けられた細管F1と、当該細管F1に巻き回された2つの伝熱コイルF2と、各伝熱コイルF2を所定の温度に保つように構成されたブリッジ回路からなる流量検出器F3を具備している。各伝熱コイルF2に印加される電圧は細管F1を流れる流体の流量に応じて変化する。第1流量算出部1は、流量検出器F3から出力される電圧の差に基づいて第1流量を算出する。すなわち、第3実施形態では、流量検出機構Fと第1流量算出部1によって熱式の流量センサが構成されるようにしてある。
【0064】
このようなものであっても、第1流量と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力の時間変化量に基づいて下流側バルブV2において実際に流れている流量である第2流量を算出し、この第2流量に基づいて時間遅れを発生させずに流量制御を行うことができる。
【0065】
その他の実施形態について説明する。
【0066】
流量制御装置が、上流側バルブを備えておらず、上流側圧力センサ、流体抵抗、下流側圧力センサ、下流側バルブのみを流体機器として備えているものであってもよい。すなわち、流体抵抗の上流側の圧力を一定に保つ圧力制御を行わずに、第1実施形態で説明したような第2流量に基づく流量のフィードバック制御を下流側バルブで行うようにしてもよい。このようなものであっても、流量の測定点と制御点を一致させることにより、応答速度を向上させるという効果は得ることができる。
【0067】
流量制御装置が制御する流体はガスに限られず、液体であっても構わない。
【0068】
下流側バルブが、変位センサを備えており、弁座に対する弁体の位置、すなわち、開度を検出できるようにしてもよい。また、流量制御部は、例えば設定流量と、第2流量の偏差に基づいて現在達成すべき目標開度を算出し、変位センサで検出される検出開度が目標開度となるように下流側バルブを制御するように構成してもよい。このようなものであれば、第2流量によって時間遅れを発生させずに下流側バルブのある制御点での実際の流量を得て、かつ、変位センサの検出開度に基づいて下流側バルブの開度自体を高速で制御できるので、設定流量に対して実際に下流側バルブを通過する流量をさらに高速で追従させることが可能となる。
【0069】
また、下流側バルブの現在の開度が検出でき、第2流量によって下流側バルブを実際に通過している流量を得られるので、開度と実際に流れている第2流量との関係も正確に把握することができる。したがって、例えば何らかの故障や詰まり等が発生して、ある開度において実現されるべき流量からごくわずかに変化しただけでも異常として検出することが可能となる。すなわち、診断部が、変位センサの検出開度と第2流量とに基づいて流量制御装置内の自己診断を行うように構成すれば、従来よりも高精度な診断が可能となる。
【0070】
なお、上流側バルブも変位センサを備え、上流側バルブの開度を検出できるようにしてもよい。
【0071】
また、本発明に係る流量制御装置によってごく短時間で実現される流量を例えばチャンバ等へそのまま供給できるようにするには、下流側バルブを流路においてチャンバの導入口の近傍に配置すればよい。
【0072】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、実施形態の変形を行っても良いし、各実施形態の一部又は全体をそれぞれ組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0073】
100・・・流量制御装置
V1 ・・・上流側バルブ
V2 ・・・下流側バルブ
P1 ・・・上流側圧力センサ
P2 ・・・下流側圧力センサ
R ・・・流体抵抗
VL ・・・下流側容積
1 ・・・第1流量算出部
2 ・・・第2流量算出部
21 ・・・変化量算出部
22 ・・・流量演算部
3 ・・・流量制御部
4 ・・・圧力制御部
5 ・・・診断部
図1
図2
図3
図4