(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置、半導体レーザ装置の駆動方法及び駆動プログラム
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0687 20060101AFI20221026BHJP
H01S 5/024 20060101ALI20221026BHJP
G01N 21/39 20060101ALI20221026BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20221026BHJP
【FI】
H01S5/0687
H01S5/024
G01N21/39
G01N21/3504
(21)【出願番号】P 2019558913
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2018034924
(87)【国際公開番号】W WO2019116660
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017240868
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】粟根 悠介
(72)【発明者】
【氏名】西村 克美
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 享司
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101950(JP,A)
【文献】特開平11-233869(JP,A)
【文献】特開2011-108930(JP,A)
【文献】特開2014-078690(JP,A)
【文献】特開平03-079094(JP,A)
【文献】特開平07-273393(JP,A)
【文献】特開2005-085815(JP,A)
【文献】特開2013-164315(JP,A)
【文献】特開2014-225583(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0033697(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0329681(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子を温調する
温調モジュールと、
前記
温調モジュールの温度を検出する温度センサと、
前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記
温調モジュールへの供給信号を制御する温度制御装置とを備え、
前記温度制御装置は、
前記半導体レーザ素子の発振波数を一定とした場合の前記温度センサの目標温度と、前記温調モジュールへの供給信号との関係を示す関係データを格納する関係データ格納部と、
前記温調モジュールへの供給信号を取得する供給信号取得部と、
前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記温調モジュールへの供給信号を制御している状態で、周囲温度の変化による前記供給信号の変化を検出すると、前記供給信号の変化幅に応じて前記供給信号及び前記関係データから前記半導体レーザ素子の発振波数が一定となるように前記温度センサの目標温度を変更し、前記温度センサの検出温度が当該変更した目標温度になるように前記温調モジュールへの供給信号を制御する供給制御部とを備える、半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記供給制御部は、取得した前記供給信号の所定期間毎の平均値に応じて、前記関係データから前記
温調モジュールの目標温度を取得する、請求項
1記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記供給制御部は、取得した前記供給信号の平均値の変化幅が所定値未満の場合は、前記
温調モジュールの目標温度を変更しない、請求項
1記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記関係データ格納部は、前記半導体レーザの発振波数毎に、前記
温調モジュールへの供給信号と前記
温調モジュールの目標温度との関係を示す関係データを格納する、請求項
1記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記半導体レーザ素子は、複数の井戸層が多段に接続された多重量子井戸構造からなり、その量子井戸中に形成されるサブバンド間の光遷移により光を発生させる、請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記半導体レーザは、量子カスケードレーザである、請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
ガスに含まれる測定対象成分を分析するガス分析装置であって、
前記ガスが導入される測定セルと、
前記測定セルにレーザ光を照射する請求項1記載の半導体レーザ装置と、
前記測定セルを通過したレーザ光を検出する光検出器と、
前記光検出器の検出信号を用いて前記測定対象成分を分析する分析部とを有する、ガス分析装置。
【請求項8】
半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子を温調する
温調モジュールと、前記
温調モジュールの温度を検出する温度センサとを有する半導体レーザ装置において、前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記
温調モジュールへの供給信号を制御する駆動方法であって、
前記半導体レーザ装置は、前記半導体レーザ素子の発振波数を一定とした場合の前記温度センサの目標温度と、前記温調モジュールへの供給信号との関係を示す関係データを格納する関係データ格納部を有するものであり、
前記駆動方法は、
前記温調モジュールへの供給信号を取得し、
前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記温調モジュールへの供給信号を制御している状態で、周囲温度の変化による前記供給信号の変化を検出すると、前記供給信号の変化幅に応じて前記供給信号及び前記関係データから前記半導体レーザ素子の発振波数が一定となるように前記温度センサの目標温度を変更し、前記温度センサの検出温度が当該変更した目標温度になるように前記温調モジュールへの供給信号を制御する、半導体レーザ装置の駆動方法。
【請求項9】
半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子を温調する
温調モジュールと、前記
温調モジュールの温度を検出する温度センサと、前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記
温調モジュールへの供給信号を制御する制御装置とを備える半導体レーザ装置に用いられる駆動プログラムであって、
前記半導体レーザ素子の発振波数を一定とした場合の前記温度センサの目標温度と、前記温調モジュールへの供給信号との関係を示す関係データを格納する関係データ格納部としての機能と、
前記温調モジュールへの供給信号を取得する供給信号取得部としての機能、及び、
前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記温調モジュールへの供給信号を制御している状態で、周囲温度の変化による前記供給信号の変化を検出すると、前記供給信号の変化幅に応じて前記供給信号及び前記関係データから前記半導体レーザ素子の発振波数が一定となるように前記温度センサの目標温度を変更し、前記温度センサの検出温度が当該変更した目標温度になるように前記温調モジュールへの供給信号を制御する供給制御部としての機能をコンピュータに備えさせる、駆動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置、半導体レーザ装置の駆動方法及び駆動プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ装置を用いて、例えば排ガス中の測定対象成分の分析を行うガス分析装置がある(例えば特許文献1)。このガス分析装置は、測定対象成分の吸収波数に応じた発振波数のレーザ光を出射する半導体レーザ装置を有しており、その発振波数は、吸収波数±1cm-1の精度で設計されている。また、半導体レーザ装置は、その動作温度に応じて発振波数が変化するため、半導体レーザ装置を温調することによって、レーザ光の発振波数の変動が±0.01cm-1となるように制御されている。なお、所定の中心波数に対してレーザ光の発振波数の掃引を行うものでは、その中心波数の変動が±0.01cm-1となるように制御されている。
【0003】
上記の温調を行うため従来では、レーザ光を発する半導体レーザ素子を、ペルチェ素子を有する冷却モジュールに搭載している。そして、冷却モジュールに搭載された温度センサの検出温度を用いて、ペルチェ素子への供給電力を制御している。これにより、半導体レーザ素子の動作温度が調整されて、レーザ光の発振波数の変動が±0.01cm-1となるように制御されている。
【0004】
しかしながら、半導体レーザ素子とは別に設けられた温度センサにより半導体レーザ素子の温度を間接的に計測していることから、温度センサの検出温度を用いて温調したとしても、半導体レーザ素子の温度が温度センサの検出温度と同一になるとは限らない。つまり、ペルチェ素子を用いて温度センサを温調しているとしても、周囲温度の変化によって、半導体レーザ素子の温度が変化してしまう。その結果、レーザ光の発振波数に±0.01cm-1よりも大きい変動が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、半導体レーザ素子の発振波数が周囲温度の影響を受けて変動することを抑制することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る半導体レーザ装置は、半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子を温調する温調部と、前記温調部の温度を検出する温度センサと、前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記温調部への供給信号を制御する温度制御装置とを備え、前記温度制御装置は、前記温調部への供給信号に応じて、前記温調部の目標温度を変更することを特徴とする。なお、温調部への供給信号としては、温調部への供給電流、供給電圧又は供給電力が考えられる。
【0008】
周囲温度が変化した場合、温度センサの検出温度が目標温度となるように温調部への供給信号が変化する。このとき、半導体レーザ素子の温度は温度センサの検出温度とは異なっており、発振波数が変化することになる。本発明では、温度制御装置が温調部への供給信号に応じて温調部の目標温度を変更するので、周囲温度の変化による半導体レーザ素子の温度の変化を抑えることができ、半導体レーザ素子の発振波数が周囲温度の影響を受けて変動することを抑制することができる。
【0009】
温度制御装置の具体的な実施に態様としては、前記温度制御装置は、前記温調部への供給信号と前記温調部の目標温度との関係を示す関係データを格納する関係データ格納部と、前記温調部への供給信号を取得する供給信号取得部と、取得した前記供給信号に応じて、前記関係データから前記温調部の目標温度を取得し、当該取得した目標温度になるように前記温調部への供給信号を制御する供給制御部とを備えることが望ましい。この構成であれば、半導体レーザ素子の発振波数が周囲温度の影響を受けて変動することを抑制することができる。
【0010】
温調部を制御する場合には、その安定時においても供給信号が微小変動することが考えられる。この場合には、周囲温度が変化していないにもかかわらず、目標温度を変更してしまう恐れがある。このため、前記供給制御部は、取得した前記供給信号の所定期間毎の平均値に応じて、前記関係データから前記温調部の目標温度を取得することが望ましい。また、前記供給制御部は、取得した前記供給信号の平均値の変化幅が所定値未満の場合は、前記温調部の目標温度を変更しないことが望ましい。
【0011】
半導体レーザ素子の発振波数の設定値を変更して用いるような場合には、前記関係データ格納部は、前記半導体レーザの発振波数毎に、前記温調部への供給信号と前記温調部の目標温度との関係を示す関係データを格納する。
【0012】
また、本発明に係る半導体レーザ装置の駆動方法は、半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子を温調する温調部と、前記温調部の温度を検出する温度センサとを有する半導体レーザ装置において、前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記温調部への供給信号を制御する駆動方法であって、前記温調部への供給信号に応じて、前記温調部の目標温度を変更することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る半導体レーザの駆動プログラムは、半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子を温調する温調部と、前記温調部の温度を検出する温度センサと、前記温度センサの検出温度が所定の目標温度となるように前記温調部への供給信号を制御する制御装置とを備える半導体レーザ装置に用いられる駆動プログラムであって、前記温調部への供給信号に応じて、前記温調部の目標温度を変更する機能を前記制御装置に発揮させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上に述べた本発明によれば、温調部への供給信号に応じて、温調部の目標温度を変更するで、半導体レーザ素子の発振波数が周囲温度の影響を受けて変動することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る半導体レーザ装置が用いられる排ガス分析装置の全体模式図である。
【
図2】同実施形態に係る半導体レーザ装置の全体模式図である。
【
図3】同実施形態に係る半導体レーザ素子部の光導波方向に直交する断面図である。
【
図4】同実施形態に係る半導体レーザ素子部のA-A線断面図である。
【
図5】量子カスケードレーザの発光原理を示す図である。
【
図6】同実施形態に係る半導体レーザ装置の機能ブロック図である。
【
図7】同実施形態に係る周囲温度変化時の動作内容を示す模式図である。
【符号の説明】
【0016】
10 ・・・ガス分析装置
11 ・・・測定セル
12 ・・・光検出器
13 ・・・分析部
100・・・半導体レーザ装置
2 ・・・半導体レーザ素子
32 ・・・ペルチェ素子(温調部)
4 ・・・温度センサ
5 ・・・温度制御装置
51 ・・・関係データ格納部
52 ・・・供給信号取得部
53 ・・・供給制御部
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ装置について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
本実施形態の半導体レーザ装置100は、
図1に示すように、例えば内燃機関又は外燃機関から排出される排ガスや大気中の測定対象成分を分析するガス分析装置10に用いられるものである。ここで、ガス分析装置10は、排ガスが導入される多重反射型の測定セル11と、測定セル11にレーザ光を照射する半導体レーザ装置100と、測定セル11を通過したレーザ光を検出する光検出器12と、光検出器12の検出信号を用いて測定対象成分を分析する分析部13とを有している。
【0019】
具体的に半導体レーザ装置100は、測定対象成分の吸収波数に対して±1cm
-1程度の発振波数のレーザ光を射出するものであり、
図2に示すように、半導体レーザ素子2と、当該半導体レーザ素子2を温調する温調モジュール3と、当該温調モジュール3に設けられた温度センサ4と、当該温度センサ4の検出温度に基づいて温調モジュール3を制御する温度制御装置5とを備えている。
【0020】
半導体レーザ素子2は、例えば量子カスケードレーザ素子(QCL:Quantum Cascade Laser)であり、例えば中赤外(4μm~10μm)のレーザ光を発振する。この半導体レーザ素子2は、与えられた電流(又は電圧)によって、発振波数(発振波長)を変調(変える)ことが可能なものでもある。半導体レーザ素子2は、レーザ制御装置6によってその電流(又は電圧)が制御される。
【0021】
半導体レーザ素子2は、例えば、
図3及び
図4に示すように、分布帰還型レーザ(DFBレーザ:Distributed Feedback Laser)であり、半導体基板20上に設けられたクラッド層とコア層とから構成される光導波路2Aを備えている。この光導波路3Aにおいてクラッド層の屈折率とコア層の屈折率との違いにより光がコア層を通過する。
【0022】
具体的に半導体レーザ素子2は、半導体基板20の上面にバッファ層21、コア層22、上部クラッド層23及びキャップ層24がこの順に形成されたものである。また、これらの層21~24はいずれも同一方向に延在しており、その幅方向の側面が保護膜25に覆われることによって一方向に延びる光導波路2Aが形成される。なお、保護膜25は無機膜であり、例えばSiO2や、SiO2及びSi3N4の組み合わせであっても良い。
【0023】
バッファ層21及び上部クラッド層23はいずれもInPからなる層である。なお、バッファ層21とコア層22との間にInPからなる下部クラッド層を設けても良いし、バッファ層21をクラッド層として機能させてもよい。
【0024】
キャップ層24はInGaAsからなる層であり、その上面の一部(幅方向両側)は保護層25で覆われている。また、キャップ層24の上面の他の部分(幅方向中央部)は、上部電極26により覆われている。
【0025】
コア層22は、InGaAsからなる下部ガイド層221と、電流が注入されることにより光を発する活性層222と、InGaAsからなる上部ガイド層223とを有している。
【0026】
活性層222は、複数の井戸層を有する多重量子井戸構造からなるものであり、発光領域となる半導体層と、注入領域となる半導体層とが所定数交互に積層されて構成されている。なお、複数の井戸層は厚さが異なるものであってもよい。発光領域となる半導体層は、InGaAsとInAlAsとが交互に積層して構成されており、注入領域となる半導体層は、InGaAsとInAlAsとが交互に積層して構成されている。
【0027】
このように構成された半導体レーザ素子部は、
図5に示すように、複数の井戸層が多段接続されており、それら量子井戸中に形成されるサブバンド間の光学遷移により光を発する量子カスケードレーザである。なお、半導体レーザ2は、分布反射型レーザ(DBRレーザ)であってもよい。
【0028】
この半導体レーザ素子2においてコア層22と上部クラッド層23との間、つまり、上部ガイド層223上に回折格子2Bが形成されている(
図4参照)。この回折格子2Bは、上部ガイド層223に交互に形成された凹部及び凸部により構成されており、凹部及び凸部は上部ガイド層223の幅方向に延びている。この回折格子2Bにより所定の発振波数の光が強め合って選択的に増幅される。なお、所定の発振波数は、回折格子2Bのピッチにより規定される。
【0029】
半導体基板20の下面には下部電極37が設けられている。そして、上部電極26及び下部電極27にレーザ発振用の電流(又は電圧)を与えることによって、回折格子2Bにより規定された所定の発振波数のレーザ光が射出される。レーザ発振用の上部電極26及び下部電極27には電流源(又は電圧源)が接続されており、レーザ制御装置8がその電流源(又は電圧源)を制御する。
【0030】
レーザ制御装置6は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって半導体レーザ素子2の電流源(又は電圧源)を制御するものである。具体的にレーザ制御装置6は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによって半導体レーザ素子2の電流源(又は電圧源)を制御して、半導体レーザ素子2を連続発振(CW)させたり、パルス状に発振(パルス駆動)させたりすることができる。なお、パルス駆動させるものには、光検出器での検出信号が連続的となる疑似連続発振(疑似CW)も含む。
【0031】
温調モジュール3は、半導体レーザ素子2が一方面である表面に搭載される基板31と、当該基板31の他方面である裏面に吸熱面が接触して設けられる温調部たるペルチェ素子32とを有している。ペルチェ素子32は、電流によって発熱及び吸熱の制御ができる半導体素子であり、交互に配列された複数のN型半導体とP型半導体とを金属電極を用いて直列に接続し、これらを一対のセラミック基板によって挟んだ構成を有している。なお、温調モジュール3は、基板31を有することなく、ペルチェ素子32の吸熱側のセラミック基板上に半導体レーザ素子が搭載されるものであってもよい。また、温調部としては、コンプレッサーを用いたもの、電熱線を用いたもの、ファンを用いたもの、水冷方式のもの等を用いることができる。
【0032】
温度センサ4は、前記基板31の表面に設けられており、半導体レーザ素子2が搭載された基板31の温度を検出するものである。この温度センサ4は、例えばサーミスタである。本実施形態において、温度センサ4は半導体レーザ素子2から離間して設けられているが、半導体レーザ素子2に接触して設けられていても良い。
【0033】
本実施形態では、半導体レーザ素子2及び冷却モジュール3は、気密容器7内に収容されている。この気密容器7において半導体レーザ素子2の光出射部に対向する部位には、レーザ光を外部に導出するための光導出部71が形成されている。当該光導出部71には、光学窓部材8が設けられており、当該光学窓部材8は、光学窓部材8で反射したレーザ光が再度半導体レーザ素子2を戻らないように、若干(例えば2度)傾斜している。この半導体レーザ素子2及び冷却モジュール3などを収容した気密容器7により発光モジュールが構成される。
【0034】
温度制御装置5は、温度センサ4の検出温度に基づいてペルチェ素子32への供給電流、供給電圧又は供給電力をフィードバック制御するものである。具体的に温度制御装置5は、電流(又は電圧)制御信号を出力することによってペルチェ素子32の電流源(電圧源)を制御するものである。
【0035】
この温度制御装置5は、構造としては、CPU、メモリ、入出力インターフェース、AD変換器などを有する汎用乃至専用のコンピュータである。そして、温度制御装置5は、メモリに格納された駆動プログラムに基づいて、CPU及びその周辺機器が作動することにより、ペルチェ素子32への供給電力を制御する。
【0036】
具体的に温度制御装置5は、
図6に示すように、半導体レーザ素子2の発振波数を一定とした場合の温度センサ4の目標温度とペルチェ素子32の供給電力との関係を示す関係データを格納する関係データ格納部51と、ペルチェ素子32への供給電力を示す供給データを取得する供給データ取得部52と、ペルチェ素子32への供給電力をフィードバック制御する供給制御部53とを有している。
【0037】
関係データ格納部51は、半導体レーザ素子2の発振波数(発振波長λ1)を一定とした場合の温度センサ4の目標温度Tとペルチェ素子32の供給電力Pとの関係を示す関係データを格納している。
【0038】
この関係データの生成方法は、例えば以下である。
【0039】
供試体である半導体レーザ装置100の発光モジュールを恒温容器(図示しない)に収容して、周囲温度(外気温度)を例えば5℃から45℃まで変更し、その周囲温度において半導体レーザ素子2の発振波長が一定(λ1)となるように、ペルチェ素子32を制御する。
【0040】
各周囲温度において半導体レーザ素子2の発振波長が一定(λ1)となったときのペルチェ素子32の検出温度とそのときの供給電力を記録する。この供給電力は、ペルチェ素子32に供給する供給電流及び供給電圧を検出し、これら供給電流及び供給電圧から供給電力を算出する。
【0041】
これにより、半導体レーザ素子2の発振波長を一定(λ1)とした場合において、周囲温度が変化した際の目標温度と供給電力との関係が分かる。これを示す関係データを関係データ格納部51に格納する。ここで、関係データは、各目標温度の絶対値(T1、T2、T3、・・・)と各供給電力の絶対値(P1、P2、P3、・・・)との関係を示すものであってもよいし、基準となる目標温度(T1)に対する変化分(ΔT1(=T2-T1)、ΔT2(=T3-T1)、・・・)と、基準となる供給電力(P1)に対する変化分(ΔP1(=P2-P1)、ΔP2(=P3-P1)、・・・)との関係を示すものであってもよい。
【0042】
なお、1つの発振波長(λ1)だけでなく、異なる発振波長(λ2)の関係データを生成する場合には、上記と同じ作業を行う。なお、関係データは2つに限られず、複数の発振波長それぞれの関係データを持たせていてもよい。
【0043】
また、当該関係データに周囲温度も紐付けることによって、供給電力から周囲温度を検出することができる。つまり、ペルチェ素子32を周囲温度センサとして利用することもできる。
【0044】
供給データ取得部52は、温度センサ4の検出温度が一定の目標温度となるようにペルチェ素子32が制御されている状態で、当該ペルチェ素子32に供給される供給電流及び供給電圧を取得して、それら供給電流及び供給電圧を用いて供給電力を算出するものである。
【0045】
ここで、ペルチェ素子32に供給される供給電流は電流センサにより検出され、供給電圧は電圧センサにより検出される。なお、ペルチェ素子32が電流制御される場合には、当該電流制御の設定値を用いることができるし、ペルチェ素子32が電圧制御される場合には、当該電圧制御の設定値を用いることができる。供給データ取得部52は、算出した供給電力データを供給制御部53に出力する。
【0046】
供給制御部53は、関係データ格納部51から関係データを受け取るとともに、供給データ取得部52から供給電力データを受け取る。そして、供給制御部53は、供給電力データ及び関係データから、発振波数(発振波長)が一定となるように温度センサ4の目標温度を変更して、温度センサ4の検出温度が変更後の目標温度となるようにペルチェ素子32の供給電力を制御する。なお、供給制御部53は、取得した供給電力の変化幅が所定値未満の場合は、ペルチェ素子32の目標温度を変更しないように構成されている。ここで、所定値とは、周囲温度が変化しない場合に、目標温度となるようにペルチェ素子32が制御されている状態で生じる供給電力の変化幅と、周囲温度が変化した場合に生じる供給電力との変化幅とを区別するためのしきい値である。
【0047】
<半導体レーザ装置100の動作>
次に、半導体レーザ装置100の発振波数(発振波長)を一定にするための動作について
図7を参照して説明する。なお、以下に示す温度は説明のためのものであり、実際の数値とは異なる。
【0048】
例えば、周囲温度(外気温度)が27℃であり、温度センサ4の検出温度が25.0度となるようにペルチェ素子32を制御している状態で、半導体レーザ素子2を発振させているとする。このとき、実際の半導体レーザ素子2の温度が例えば70.0度であるとする。
【0049】
この状態で、レーザ制御装置6は、半導体レーザ素子2に与える電流(又は電圧)を制御して、半導体レーザ素子2から所定波数(所定波長)のレーザ光を射出させる(
図7(1)参照)。
【0050】
そして、周囲温度が27℃から30℃へ変化した場合には、温度制御装置5は、温度センサ4の検出温度が25℃となるようにペルチェ素子32を制御する。このとき、周囲温度変化によりペルチェ素子32への供給電力が増加し、半導体レーザ素子2が過度に冷却され、例えば69.6度に変化して発振波数(発振波長)が変動する(
図7(2)参照)。
【0051】
温度制御装置5の供給データ取得部52は、ペルチェ素子32の供給電力データを取得する。そして、温度制御装置5の供給制御部53は、供給電力データ及び関係データから、半導体レーザ素子2の発振波数(発振波長)が一定となるように目標温度を変更する。例えば、温度センサ4の目標温度を24.5℃となるように変更する。これにより、供給制御部53は、温度センサ4の検出温度が24.5℃となるようにペルチェ素子32の供給電力を制御する(
図7(3)参照)。
【0052】
<本実施形態の効果>
本実施形態の半導体レーザ装置100によれば、半導体レーザ素子2の発振波数(発振波長)を一定とした場合の、目標温度と、ペルチェ素子32の供供給電力との関係を用いて、半導体レーザ素子2の発振波数が一定となるように目標温度を変更するので、半導体レーザ素子2の発振波数が周囲温度の影響を受けて変動することを抑制することができる。
例えば、半導体レーザ装置100が排ガス中の測定対象成分を分析する場合は、半導体レーザ素子2自身が発生する熱の影響に加えて、サンプルガスである排ガスの温度影響や、大気の温度影響により半導体レーザ素子10の周囲温度が大きく変動する可能性がある。本発明を適用した半導体レーザ装置100は、半導体レーザ素子2の発振波数が周囲温度の影響を受けて変動することを抑制することができるので、排ガスを精度良く分析することができる。また、半導体レーザ装置100が大気中の汚染物質などを分析する場合は、例えば野外で数時間から数日に渡って連続して分析する可能性があり、大気の温度影響を受けやすい。本発明を適用した半導体レーザ装置100は、半導体レーザ素子2の発振波数が周囲温度の影響を受けて変動することを抑制することができるので、大気中の汚染物質を精度良く分析することができる。
【0053】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
【0054】
例えば、温度制御装置5の電力制御部53が供給電力データ及び関係データを用いて目標温度を変更するものであったが、それらのデータを用いて供給電力を調整するものであっても良い。例えば電力制御部53は、ΔWNcorr=a×Ppel+bの関係を用いて供給電力を調整する。なお、ΔWNcorrは、発振波数(発振波長の逆数)の補正量であり、Ppelは、ペルチェ素子32への供給電力である。係数a、bは、関係データに含まれる値又は関係データから求まる値である。
【0055】
前記実施形態の供給信号取得部は、温調部への供給電流又は供給電圧を示す供給信号を取得するものであってもよい。この場合、関係データ格納部には、半導体レーザ素子の発振波数を一定とした場合の、目標温度と、温調部の供給電流又は供給電圧との関係を示す関係データが格納されている。そして、供給制御部は、供給信号及び関係データから、発振波数(発振波長)が一定となるように温度センサ4の目標温度を変更して、温度センサ4の検出温度が変更後の目標温度となるように温調部の供給電流又は供給電圧を制御する。
【0056】
前記実施形態では、量子カスケードレーザ素子を有する半導体レーザ装置について説明したが、その他の半導体レーザ素子2を有するものであっても良い。
【0057】
温度制御装置5は、ペルチェ素子への供給電流及び供給電圧からペルチェ素子の抵抗値の変化を監視して、ペルチェ素子の劣化判断や寿命判断を行うものであっても良い。
【0058】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、半導体レーザ素子の発振波数が周囲温度影響を受けて変動することを抑制することができる。