(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】高強度コラーゲンスポンジ
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20221027BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20221027BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20221027BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C08J9/00 Z
A61L27/24
A61L27/56
A61L27/58
(21)【出願番号】P 2018559125
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2017045955
(87)【国際公開番号】W WO2018123814
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2016254788
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日 平成28年7月28日 第8回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS 2016)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日 平成28年7月28日 第8回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS 2016)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】591071104
【氏名又は名称】株式会社高研
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】中田 研
(72)【発明者】
【氏名】菅野 岳
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-150648(JP,A)
【文献】国際公開第2001/057121(WO,A1)
【文献】特開平05-043734(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005778(WO,A1)
【文献】特開2008-079548(JP,A)
【文献】特開昭64-004629(JP,A)
【文献】特開平01-124461(JP,A)
【文献】特開昭62-268875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00
A61L 27/24
A61L 27/56
A61L 27/50
A61L 27/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、コラーゲンスポンジの製造方法:
(1)コラーゲンと溶媒とを混合したコラーゲン溶液を攪拌脱泡処理する工程;
(2)コラーゲン溶液を凍結乾燥処理する工程;
(3)凍結乾燥処理後のコラーゲン乾燥物を不溶化処理する工程、
ここで、該工程(1)が、以下の工程(1-1)及び工程(1-2)を含む、
(1-1)コラーゲンを溶媒に添加して攪拌脱泡処理することにより、コラーゲン溶液を調製する工程;及び
(1-2)(1-1)で得られたコラーゲン溶液を他の容器に注入、さらに、撹拌脱泡処理することにより、コラーゲン溶液中の気泡を低減させる工程、
製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)のコラーゲン溶液が、線維化工程を経ていないコラーゲン溶液である、請求項1に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
【請求項3】
前記コラーゲン溶液のpHが酸性である、請求項1又は2に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
【請求項4】
前記攪拌脱泡処理の公転遠心力が1G以上600G以下、自転遠心力が0.1G以上80G以下である、請求項1~3のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
【請求項5】
前記コラーゲン溶液がアテロコラーゲン溶液である、請求項1~4のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
【請求項6】
前記凍結乾燥処理は前記コラーゲン溶液を凍結させた後に減圧乾燥を行う処理である、請求項1~5のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
【請求項7】
前記不溶化処理は化学架橋剤による処理である、請求項1~6のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポア構造を有する多孔質構造体のコラーゲンスポンジに関し、より詳細にはいずれの方向においても強い引張強度を有するコラーゲンスポンジに関する。また本発明は、該コラーゲンスポンジの製造方法にも関する。さらに本発明は該コラーゲンスポンジを用いた軟骨組織の治療方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
膝関節の半月板は、関節内の大腿骨と下腿の脛骨の間にある線維性軟骨組織であり、大きな力学負荷が高い頻度で掛かる組織である。半月板の役割は、衝撃吸収、荷重分散、滑動性の向上、関節の安定等が挙げられる。半月板は、スポーツ外傷や日常生活動作での損傷を受けやすく、損傷により膝関節の痛みや運動制限をきたす。半月板は、外周部のみに血液が供給されている。血液の供給がある部分が断裂した場合には断裂部分が自然治癒することもあるが、通常は治療を必要とする。また血液の供給がない部分が断裂した場合には、断裂部分は自然治癒することはなく治療を必要とする。
【0003】
従来、半月板の損傷の治療としては、断裂部位や損傷状態に応じて、薬物療法や運動療法等の保存療法、手術治療が行われてきた。手術療法としては、半月板切除、又は部分切除術が行われてきた。しかしながら、これらの手術では一時的に痛みを緩和できるものの、半月板機能が損なわれたままとなり、変形性関節症等の原因となる。近年、内視鏡技術の進歩に伴い、関節鏡視下半月板縫合術が行われ、機能温存が計られるようになった。しかしながら、欠損のある損傷、複雑な損傷、変性断裂等は縫合術の適応とならず、半月板機能を修復できないという問題点がある。半月板に限らず、血管走行が少ないため自然治癒しがたい軟骨組織全般の治療において、このような問題点の解決が望まれている。
【0004】
上記問題の解決策として再生医療が盛んに研究されており、例えば、特許文献1は、「軟骨細胞を細胞培養用基材(コラーゲンスポンジ)上で培養して、その培養した細胞を基材ごと欠損部に埋植する方法」を開示している。しかしながら特許文献1では、細胞を基材に播種し、生体外にて一定期間培養した後に、組織欠損部に基材を埋植するため、細胞プロセッシングセンターなどの高度な設備の整った施設でしか実施できず、また安全性の担保が難しいことが問題である。
【0005】
特許文献2は、「移植片としてのコラーゲン基材」を開示している。しかしながら特許文献2では、該基材の表面及び内部にポア構造がなく、内部への細胞の浸潤が起こらず、周辺組織と接触する表面積が少なく組織との結合力が低いため、埋植部位に接合しにくく、脱落を防ぐために縫合糸等による長期的な固定が必要となる。
【0006】
コラーゲン由来の基材を力学負荷の掛かる組織に埋植された患者は、該基材が埋植部位に接合するまで安静にしなければならない。そこで、力学負荷の掛かる組織に埋植する基材には、埋植部位に接合しやすい構造であること、及び埋植された患者がすぐに日常生活に復帰できるように埋植する組織と同等の物性を持たせることが求められている。さらに、基材は生体内において、経時的に劣化及び変質すると考えられることから、患者の再手術を避けるためにも、生体に埋植した後に一定期間で分解されて正常な自家組織に置換されることが基材には求められている。
【0007】
米国では、半月板補填材として、Collagen Meniscus Implant(ReGene Biologics Inc.)が販売されている。該半月板補填材は、Nativeコラーゲンを原料としており、生体適合性が低いという問題がある。欧州ではACTIFIT(登録商標)(Orteq Ltd)が販売されているが、生分解性ポリウレタンからなり、細胞が浸潤するものの生着しにくいという問題がある。ACTIFIT(登録商標)は移植後半年から1年間程度で分解されるが、分解した部分には半月板が再生されず、欠損した状態が残ってしまう。生体適合性が高く、半月板欠損部に補填することで周囲の細胞が浸潤し、継時的に補填材が分解され、分解と並行して半月板組織が再建されるような補填材が切望されている。
【0008】
特許文献3は、「ひずみ10%負荷時に10~30kPaの応力を持ち、表面及び内部にポア構造を持ち、ポアの平均直径が50~400μmの範囲であり、並びにポアの直径の標準偏差がポアの平均直径の40%以下であるコラーゲンスポンジ」を開示する。特許文献3では、高濃度のアテロコラーゲン溶液のpHを中性とし、アテロコラーゲン線維を析出させた状態で、所望の形状へと成型し、コラーゲンスポンジを製造する方法が開示されている。特許文献3のコラーゲンスポンジは、圧縮強度は高いものの、コラーゲン線維の分散状態に濃淡が生じているため、引張強度が弱いものである。また、線維の配向に方向性があるコラーゲンスポンジは、一方向に対する物理的強度は高いものの、他方向に対する強度が弱くなる。
【0009】
またコラーゲン溶液を濃縮し、自然乾燥や中和・加温することにより、コラーゲン線維を形成させたコラーゲン構造体を作製し、当該コラーゲン構造体を凍結乾燥することによりスポンジ状にしたものが作製されている(特許文献4)。コラーゲンの線維形成は、pH、温度、塩濃度を生理的条件に調節した場合にのみ生じる。特許文献4のコラーゲンスポンジでは、コラーゲンが一定方向に配向した線維性の構造を有している。
【0010】
半月板のような力学負荷の掛かる組織は、力が掛かることにより欠損部の形状が変形することから、コラーゲンからなる補填材を補填するときは縫合が必要となっていた。しかしながら、コラーゲンからなる補填材は、体液や生理食塩水等の水分が浸潤すると、引張強度が著しく低くなり、欠損部に縫合しても縫合糸を通した部分から崩壊してしまうため縫合ができないという問題がある。近年主流となりつつある半月板の関節鏡視下手術では、関節鏡視下が生理食塩水で満たされ、補填材を縫合部に挿入する際には、補填材に縫合糸を通し、縫合糸を引っ張って生理食塩水で満たされたトラカール(挿管)内を通過させる。従来のコラーゲンスポンジは血液や体液、生理食塩水などの水分を含水すると引張強度が著しく低下し、縫い付けた縫合糸を引っ張ってトラカール中を通すことができないという問題があり、実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-79548号公報
【文献】特開平8-38592号公報
【文献】特許第5909610号公報
【文献】米国特許第5256418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、力学的強度に優れたコラーゲンスポンジ及び当該コラーゲンスポンジの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究した結果、コラーゲン溶液のpHを酸性にし、コラーゲン溶液を攪拌脱泡することにより、コラーゲン分子の分散が一様の状態にてコラーゲンスポンジを製造し得、製造されたコラーゲンスポンジは、ポア構造が均一であり、どの方向から力を加えられても概ね一定の物理的強度を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.ポア構造を有する多孔質構造体のコラーゲンスポンジであって、どの方向でも引張強度が1N以上5N以下である、コラーゲンスポンジ。
2.化学架橋剤により不溶化処理されている、前項1に記載のコラーゲンスポンジ。
3.前記ポアの平均直径が1μm以上50μm未満の範囲である、前項1または2に記載のコラーゲンスポンジ。
4.ひずみ10%負荷時に7kPa以上30kPa以下の応力を持つ、前項1~3のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジ。
5.酸性コラーゲン溶液の凍結乾燥体である、前項1~4のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジ。
6.撹拌脱泡処理されたコラーゲン溶液を凍結乾燥したポア構造を有する多孔質構造体に、化学架橋剤による不溶化処理が加えられた、引張強度が1N以上5N以下、応力がひずみ10%負荷時に7kPa以上30kPa以下であるコラーゲンスポンジ。
7.前記コラーゲン溶液が、線維化工程を経ていないコラーゲン溶液である、前項6に記載のコラーゲンスポンジ。
8.以下の工程を含む、コラーゲンスポンジの製造方法:
(1)コラーゲンと溶媒とを混合したコラーゲン溶液を攪拌脱泡処理する工程;
(2)コラーゲン溶液を凍結乾燥処理する工程;
(3)凍結乾燥処理後のコラーゲン乾燥物を不溶化処理する工程。
9.前記工程(2)のコラーゲン溶液が、線維化工程を経ていないコラーゲン溶液である、前項8に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
10.前記コラーゲン溶液のpHが酸性である、前項8又は9に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
11.前記工程(1)が、以下の工程(1-1)及び工程(1-2)を含む、前項8~10のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジの製造方法:
(1-1)コラーゲンを溶媒に添加して攪拌脱泡処理することにより、コラーゲン溶液を調製する工程;
(1-2)容器に注入したコラーゲン溶液を撹拌脱泡処理することにより、コラーゲン溶液中の気泡を低減させる工程。
12.前記攪拌脱泡処理の公転遠心力が1G以上600G以下、自転遠心力が0.1G以上80G以下である、前項8~11のいずれかに一に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
13.前項1~7のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジを基材とする、軟骨治療用補填材。
14.軟骨治療が線維性軟骨再生治療である、前項13に記載の軟骨治療用補填材。
15.軟骨治療が半月板再生治療である、前項13に記載の軟骨治療用補填材。
16.前項1~7のいずれかに記載のコラーゲンスポンジを軟骨に埋植する、軟骨の治療方法。
17.軟骨が線維性軟骨である前項16に記載の軟骨の治療方法。
18.線維性軟骨が半月板である、前項17に記載の軟骨の治療方法。
19.前記コラーゲン溶液が、アテロコラーゲン溶液である前項5~7のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジ。
20.前記コラーゲン溶液がアテロコラーゲン溶液である前項8~12のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジの製造方法。
21.コラーゲンスポンジの厚さが1mm以上10mm以下である、前項1~7のいずれか一に記載のコラーゲンスポンジ。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコラーゲンスポンジは、どの方向においても概ね一定の引張強度を有するものであり、湿潤下でも優れた引張強度を有するものである。本発明のコラーゲンスポンジは、体液や水分に曝されても、引張強度を維持することができ、欠損部に縫合しても縫合糸を通した部分から千切れて脱落することなく、組織への縫合に耐え組織に保持可能な物理的強度を有する。また圧縮強度にも優れていることから、内部のポア構造がつぶれずに、周囲の細胞が浸潤でき、移植した際に周囲の組織に負荷(物理的刺激)を掛けることもなく、軟骨組織欠損部への埋植の基材として用いられるのに好適である。本発明の製造方法によれば、優れた物理的強度を持つコラーゲンスポンジを、容易に製造することができる。また本発明の製造方法は、粘性の高い、高濃度のコラーゲン酸性溶液を大量に取り扱うことができることから、所望の大きさのコラーゲンスポンジを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】電子顕微鏡VHX-D510(株式会社キーエンス)の倍率100倍で、発明のコラーゲンスポンジの断面を撮影した画像である。画像の黒い部分がコラーゲンスポンジのポアである。(実施例2)
【
図2】電子顕微鏡VHX-D510(株式会社キーエンス)の倍率100倍で、従来のコラーゲンスポンジの断面を撮影した画像である。画像の黒い部分がコラーゲンスポンジのポアである。(実施例2)
【
図3】コラーゲンスポンジの引張強度の測定方法を説明する図である。(実施例2)
【
図4】本発明のコラーゲンスポンジと、従来のコラーゲンスポンジの引張強度を測定した結果をグラフで表す図である。(実施例2)
【
図5】(A1)走査型電子顕微鏡(SEM)(Hitachi SU6600, 7kV)の倍率100倍で、本発明のコラーゲンスポンジを撮影した画像である。(A2)走査型電子顕微鏡(SEM)(Hitachi SU6600, 10kV)の倍率100倍で、線維化工程を経たコラーゲンスポンジを撮影した画像である。(B1)走査型電子顕微鏡(SEM)(Hitachi SU6600, 7kV)の倍率10000倍で、本発明のコラーゲンスポンジを撮影した画像である。(B2)走査型電子顕微鏡(SEM)(Hitachi SU6600, 10kV)の倍率10000倍で、線維化工程を経たコラーゲンスポンジを撮影した画像である。(C1)透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL 1400Plus)の倍率20000倍で、本発明のコラーゲンスポンジを撮影した画像である。(C2)透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL 1400Plus)の倍率10000倍で、線維化工程を経たコラーゲンスポンジを撮影した画像である。(参考例1)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(コラーゲンスポンジ)
コラーゲンスポンジは、コラーゲンを材料とする、複数のポア構造を有する多孔質構造体である。本発明のコラーゲンスポンジは、軟骨治療の操作上求められる引張強度1N以上5N以下を有する。本発明のコラーゲンスポンジの引張強度は、好ましくは1.5N以上5N以下である。本発明のコラーゲンスポンジは、引張強度がどの方向にでも強く優れたものである。本発明のコラーゲンスポンジは、コラーゲン線維を形成していない状態のコラーゲン溶液を直接凍結乾燥処理することにより製造されることから、コラーゲン分子がランダムな配置でスポンジを形成していると考えられる。コラーゲン分子の配向が一方向ではなく、ランダムであることから、どの方向でも引張強度が優れている。尚、引張強度は、1N未満では軟骨治療において組織への縫合にて必要とされる強度を満たさない。また5Nを超えると、軟骨治療にて求められる応力(ひずみ10%負荷時の応力が7kPa以上30kPa以下)に影響を与える。また、どの方向でも引張強度が1N以上5N以下であることより、縫合により種々の方向に引っ張られたとしても縫合糸の穴の部分から千切れることなく組織に保持される。
【0018】
また本明細書における引張強度は、湿潤下のものであることが好ましい。湿潤下での引張強度が1N以上5N以下であることによって、溶液中又は生体内において、十分な強度、操作性を得ることができる。コラーゲンスポンジの湿潤下の引張強度は、コラーゲンスポンジを37℃の生理食塩水中に浸漬した後に、湿潤状態のまま引張強度を測定することにより評価することができる。引張強度試験は、いかなる方法によって行っても良く、常法に従って行うことができる。
【0019】
本明細書において、引張強度とは、湿潤した直径30mm、厚さ(高さ)5mmの円柱状の試験片を半径方向に引っ張ったときの破断時の力(N)である。コラーゲンスポンジを引っ張る場合は、コラーゲンスポンジに穴を空けてその穴に糸を通して引っ張ることができる。より具体的には、コラーゲンスポンジの平滑面の中心をとおる直線上で、中心から5mmの位置2カ所のそれぞれに、縫合糸を通し、縫合糸を通した状態で、試験片を生理食塩水で浸潤させ、試験片に通した両側の縫合糸を速度10mm/分で引っ張ったときの破断時(破断が始まった時)の力(N)を測定する(実施例2および
図3参照)。本発明のコラーゲンスポンジは、このように測定した場合の引張強度が、どの方向でも1N以上5N以下、好ましくは1.5N以上5N以下である。
【0020】
本発明のコラーゲンスポンジは、化学架橋剤により不溶化処理されているコラーゲンスポンジであり得る。不溶化処理により、コラーゲンスポンジの物理的な強度が高められ、移植した組織内での残存期間が延長する。不溶化処理を行うことにより、コラーゲン分子がランダムな配向で架橋され、コラーゲンスポンジのすべての方向における力学的強度が高められる。
【0021】
化学架橋剤による不溶化処理は、コラーゲン溶液の凍結乾燥体(以下、コラーゲン乾燥物ともいう。)の形状を崩すことなく、コラーゲン乾燥物全体と化学架橋剤とを接触させることにより行う。化学架橋剤としては、水溶性化学架橋剤や気化可能な化学架橋剤等が挙げられる。水溶性化学架橋剤による不溶化処理は、水溶性架橋化剤にコラーゲン乾燥物を浸漬することにより行うことができる。気化可能な化学架橋剤による不溶化処理は、密閉した容器にコラーゲン乾燥物と化学架橋剤(例えば、ホルマリン溶液)を入れることにより行うことができる。好ましい化学架橋剤は、水溶性化学架橋剤である。好ましい水溶性化学架橋剤については、後述するとおりである。
【0022】
本発明のコラーゲンスポンジは一様なポア構造を有する。ポアの平均直径は、1μm以上50μm未満の範囲、好ましくは5μm以上30μm以下の範囲である。また、本発明のコラーゲンスポンジのポアの直径の標準偏差は、20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは7μm以下である。本発明のコラーゲンスポンジにおいて、ポアの直径の標準偏差の値を、ポアの平均直径で除した値(ポアの直径の標準偏差の値/ポアの平均直径)は、0.7以下であり、好ましくは0.6以下である。なおポアの平均直径と標準偏差は、コラーゲンスポンジの表面から無作為に複数個(例えば100個)のポアを選択し、ポアの長径を測定し、この長径をポアの直径として、算出することができる。本発明のコラーゲンスポンジは従来のコラーゲンスポンジと比較して、ポアの平均直径が小さく、密なポア構造を有している。本発明のコラーゲンスポンジは、ポア構造が密であり一様であることから、どの方向においても高い引張強度を得ることができる。尚、平均直径が1μm以下では細胞が浸潤できないため、軟骨治療にて求められる性質が得られない。平均直径が50μm以上及び標準偏差が20μm以上、ポアの直径の標準偏差の値を、ポアの平均直径で除した値が0.7を超える場合も、引張強度及び応力が不均一となり、軟骨治療にて求められる性質が得られない。
【0023】
本発明のコラーゲンスポンジは、ひずみ10%負荷時に7kPa以上30kPa以下、好ましくは10kPa以上25kPa以下、より好ましくは15kPa以上20kPa以下の応力を持つ。この応力は圧縮強度と同義である。なお、ひずみ10%負荷時の応力は、本発明のコラーゲンスポンジを37℃の生理食塩水に浸漬して、小型卓上試験機EZ-S(株式会社島津製作所)を用いて測定する。本発明のコラーゲンスポンジは、優れた引張強度と、従来のコラーゲンスポンジと同程度の圧縮強度(応力)を併せ持つものである。軟骨治療にて求められる応力は7kPa以上30kPa以下であり、応力が7kPa以上であれば、埋植部位の周辺組織に圧縮され細胞が浸潤するためのポア構造が潰れることを防ぐことができる。また、コラーゲンスポンジの応力が30kPa以下であれば、埋植する組織よりコラーゲンスポンジの応力が上回ることを防ぐことができ、周囲の組織への物理的刺激を抑え、炎症などの原因となることを避けることができる。
【0024】
本発明のコラーゲンスポンジは、酸性コラーゲン溶液の凍結乾燥体であり得る。酸性コラーゲン溶液は、コラーゲンが溶媒に溶解されている酸性の溶液である。好ましいpHはpH1以上pH4.5以下であり、より好ましくは、pH2以上4以下であり、さらに好ましくはpH2.5以上3.5以下である。酸性コラーゲン溶液には、添加剤を含有してもよい。添加剤は、例えばコラーゲンの線維化を促進しないものが好適である。酸性コラーゲン溶液は、液全体が均一であり、コラーゲン分子の分散状態が均一の状態となり、コラーゲン原線維が形成されていない。酸性コラーゲン溶液の凍結乾燥体は、酸性コラーゲン溶液を凍結乾燥させた物であり、均一なポア構造を有し、より均一な圧縮強度及び引張強度を有し、どの方向からの引張にも強く、どの方向からの圧縮にも強い性質を有する。該凍結乾燥体は、コラーゲン線維は形成されておらず、コラーゲン分子の配向は一方向ではなく、ランダムである。
【0025】
本発明のコラーゲンスポンジの一態様は、撹拌脱泡処理されたコラーゲン溶液を凍結乾燥したポア構造を有する多孔質構造体に、化学架橋剤による不溶化処理が加えられた、引張強度が1N以上5N以下、応力がひずみ10%負荷時に7kPa以上30kPa以下であるコラーゲンスポンジである。撹拌脱泡処理されたコラーゲン溶液とは、コラーゲンと溶媒を攪拌脱泡により混合した均一なコラーゲン溶液であり、溶液中の気泡が低減されている溶液である。攪拌脱泡処理の詳細については後述する。
【0026】
前記コラーゲン溶液は、線維化工程を経ていないコラーゲン溶液であることが好ましい。コラーゲンは、pH、温度、塩濃度を生理的条件に調節すると線維化する。本明細書において線維化工程とは、コラーゲン溶液を生理的条件すなわち0.9%NaCl、リン酸緩衝生理食塩水pH7.4(PBS)、0.02MNa2HPO4などに平衡化する工程である。
【0027】
(コラーゲンスポンジの製造方法)
本発明のコラーゲンスポンジは、少なくとも以下の(1)~(3)の工程を含む製造方法により製造される。
(1)コラーゲンと溶媒とを混合したコラーゲン溶液を攪拌脱泡処理する工程。
(2)コラーゲン溶液を凍結乾燥処理する工程。
(3)凍結乾燥処理後の乾燥物を不溶化処理する工程。
【0028】
本発明のコラーゲンスポンジの材料として用いられるコラーゲンは、生体組織より採取された不溶性コラーゲン、例えばアキレス腱由来のテンドンコラーゲン、皮膚由来のコラーゲン、可溶性コラーゲン、可溶化コラーゲン、例えば酵素可溶化コラーゲン(アテロコラーゲン)、アルカリ可溶化コラーゲン、酸可溶性コラーゲン、塩可溶性コラーゲン等を用いることができるが、特にアテロコラーゲンが望ましい。コラーゲンが由来する動物種にも特に制限はなく、培養時にコラーゲンが熱変性を起こすことのない変性温度を持つコラーゲンであれば問題はない。具体的にはウシ、ブタ等哺乳動物由来、ニワトリ等の鳥類由来、マグロ、イズミダイ等の魚類由来等を用いることができる。またリコンビナントコラーゲンも用いることができる。本発明のコラーゲンスポンジの材料として用いられるコラーゲンは、コラーゲンの構成アミノ酸側鎖が化学修飾されていてもよい。具体的にはアセチル化、サクシニル化、フタール化等のアシル化、メチル化、エチル化等のアルキル化、エステル化等されたコラーゲンが挙げられる。
【0029】
工程(1)は、コラーゲンと溶媒を混合したコラーゲン溶液を攪拌脱泡処理すること含む。「コラーゲンと溶媒とを混合したコラーゲン溶液」とは、コラーゲンと溶媒が共存している溶液であればよく、コラーゲンと溶媒とを混合した直後であり、コラーゲンが溶媒に溶解していない状態であっても、コラーゲンを溶媒に溶解した状態であってもよい。工程(1)には、以下の工程(1-1)及び/又は工程(1-2)が含まれる。(1-1)コラーゲンを溶媒に添加して攪拌脱泡処理することにより、均一な高濃度のコラーゲン溶液を調製する工程、
(1-2)容器に注入したコラーゲン溶液を撹拌脱泡処理することにより、コラーゲン溶液中の気泡を低減させる工程、
好ましくは、工程(1)は、工程(1-1)及び工程(1-2)の両方が含まれる。
【0030】
また本発明においては、工程(2)に供するコラーゲン溶液中のコラーゲン分子の線維化を防ぐために、工程(1)の操作時にコラーゲン溶液が生理的条件下に入らないようにする必要がある。
【0031】
工程(1-1)では、コラーゲンと溶媒とを混合した混合物を攪拌脱泡処理することにより、コラーゲンを溶媒に溶解・混合し、均一な高濃度のコラーゲン溶液を調製することができる。コラーゲン溶液を調製するための溶媒は酸性のpHであればいかなるものであってもよいが、例えば、塩酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等を用いることができる。またコラーゲン溶液は、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えばコラーゲンの線維化を促進しないものが好適である。混合物を攪拌脱泡処理して調製されたコラーゲン溶液は、酸性のpHを有するものである。より具体的にはコラーゲン溶液のpHは、pH1以上4.5以下であり、好ましくはpH2以上4以下であり、さらに好ましくはpH2.5以上3.5以下である。工程(1-2)においても、コラーゲン溶液は、酸性のpHを有するものである。より具体的にはコラーゲン溶液のpHは、pH1以上4.5以下であり、好ましくはpH2以上4以下であり、さらに好ましくはpH2.5以上3.5以下である。成型時のコラーゲン溶液のpHを酸性にすることで、コラーゲン分子が溶液中に溶解し、液全体が均一の濃度となり、コラーゲン分子の分散状態が均一の状態となり、コラーゲン原線維を形成しない状態とすることができる。これにより、コラーゲンスポンジのポア構造をより均一にすることができ、圧縮強度及び引張強度もより均一なコラーゲンスポンジを製造し得る。従来は、高濃度のコラーゲン溶液のpHを中性とし、コラーゲンを析出させた状態でコラーゲンスポンジの製造に用いていたが、コラーゲンの分散状態に濃淡が生じて不均一となり、製造されたコラーゲンスポンジの引張強度が弱くなるといった欠点があった。
【0032】
本発明では、後述する工程(2)により、コラーゲン溶液を凍結乾燥してコラーゲン乾燥物を生成する。凍結乾燥の原料となるコラーゲン溶液のコラーゲン濃度は、50mg/ml以上110mg/ml以下、60mg/ml以上100mg/ml以下、70mg/ml以上90mg/ml以下、75mg/ml以上85mg/ml以下が好ましい。コラーゲン溶液のコラーゲン濃度が50mg/ml以上110mg/ml以下であれば、軟骨組織に類似した物性のコラーゲンスポンジを得ることができる。特に、アテロコラーゲンを用いる場合は70mg/ml以上90mg/ml以下が望ましい。50mg/ml以上110mg/ml以下のコラーゲン濃度の溶液を用いることにより、生体内の軟骨と物性の隔たりが小さくなり、軟骨細胞をコラーゲンスポンジに播種した後に移植を行う場合に、生体内の軟骨細胞、軟骨組織が受ける負荷を加えた培養を行うことも可能となる。なお本発明のコラーゲンの物理的強度は、不溶化処理によっても得ることができる。
【0033】
工程(1-2)では、コラーゲン溶液を均一化させ、コラーゲン溶液中の気泡を低減させる。コラーゲン溶液の気泡の低減は、撹拌脱泡処理により行うことができる。コラーゲン溶液は、所望の形状の容器又は型に充填させて攪拌脱泡処理を行うことができる。所望の形状の容器とは、コラーゲンスポンジ用成形容器であり、円柱や立方体等のコラーゲンスポンジの製造に適した形状である。コラーゲンスポンジの製造後、実際の使用時にさらに望ましい形状にカットして使用することもできるし、あるいは最初から望ましい形状の容器や型を用いてコラーゲンスポンジを製造することもできる。最初から望ましい形状の容器や型を用いる方法として、特に制限は無いが、軟骨欠損部にコラーゲンスポンジを移植する場合には、軟骨欠損部の形状に合わせて型を製造することが望ましい。具体的な方法としては患者自身のCTあるいはMRIのデータを元に光造形により欠損部の形状を持った型を作ることができる。
【0034】
本発明では、工程(1-1)において均一な高濃度のコラーゲン溶液を調製する手段として、また工程(1-2)においてコラーゲン溶液を均一化し、溶液中の気泡を低減させる手段として、攪拌脱泡処理を用いる。攪拌脱泡は、遊星運動に基づく公転自転式の攪拌脱泡装置を用いることにより行うことができる。公転自転式の攪拌脱泡装置の原理は、被処理物の入った容器を公転させながら自転させることにより、遠心力作用を利用して被処理物を外側に移動させ攪拌すると共に、混入する気体をその反対方向に押し出して脱泡するものである。更に、容器は公転しながら自転しているため、容器内の被処理物にらせん状に流れ(渦流)が発生し、攪拌作用を高める。高濃度のコラーゲン溶液は粘性が高く、均一な状態に調製することが難しいが、撹拌脱泡を行うことにより均一にすることが可能となる。
【0035】
公転自転式の攪拌脱泡装置において、容器は中心軸(自転軸)周りに自転しながら所定の公転軸周りを公転する。本発明において、容器の公転面と自転軸との間の角度は、40度~50度、好ましくは45度である。前記角度であることにより、良好に攪拌と脱泡が行われることとなる。容器の形状やその他の条件によって角度を適宜設定することも可能である。
【0036】
公転自転式の攪拌脱泡装置における、公転回転数、自転回転数、およびその比率は特に限定されない。公転遠心力は1G以上600G以下、好ましくは400G以上600G以下である。自転遠心力は、0.1G以上80G以下である。
また、コラーゲン溶液の粘性に応じて公転遠心力、自転遠心力、およびその比率を変更することもできる。公転遠心力が上記範囲内であれば、容器内のコラーゲン溶液に十分な遠心力を与えることができ、コラーゲン溶液から泡を効率的に除去することができる。また、自転遠心力が上記範囲内であれば、容器の自転によるコラーゲン溶液の攪拌効果が高く、コラーゲン分子が偏ることなく、分散されるため好ましい。高濃度のコラーゲン溶液について、公転自転式の攪拌脱泡ではなく一般的な遠心脱泡を行った場合は、脱泡できる遠心力ではコラーゲン分子が遠心作用により偏ってしまい、コラーゲン濃度及び凍結乾燥後の構造に斑が生じてしまう。
【0037】
装置の運転は、大気圧下で行われても良いが、脱泡を短時間で完全に行うために、減圧下で行われることが好ましい。容器は筒状容器が一般的であり、具体的には滅菌済みのステンレス製、ポリエチレン製、テフロン(登録商標)製などの筒状容器が用いられる。攪拌脱泡時の温度は4℃以上40℃以下、好ましくは4℃以上30℃未満である。攪拌脱泡時の温度を40℃以下にすることにより、コラーゲンの変性を防ぐことができる。攪拌脱泡時間は、コラーゲン溶液の粘性等の性状や容器の形状、大きさによって大きく変動するが、工程(1-1)では1分~30分程度で設定することができ、工程(1-2)では60秒~120秒、好ましくは90秒で設定することができる。コラーゲン分子の濃度勾配が生じるのを抑制するため、短時間で攪拌脱泡を行うことが好ましい。攪拌脱泡は、10~40秒程度の攪拌脱泡を複数回行ってもよく、例えば工程(1-1)の場合であれば、30秒を10回行うことにより、合計5分間の攪拌脱泡処理とすることもできる。
【0038】
(凍結乾燥工程)
撹拌脱泡後のコラーゲン溶液は速やかに凍結乾燥される(工程(2))。凍結乾燥前のコラーゲン溶液は、好ましくは線維化工程を経ていない溶液である。凍結乾燥を行うことにより、海綿構造を有するコラーゲン乾燥物が作製される。凍結乾燥方法は、まずコラーゲンスポンジ用成形容器にてコラーゲン溶液を凍結させた後、減圧乾燥を行うものであるが、自体公知の凍結乾燥の手法を用いることができる。凍結乾燥方法は、急速、緩慢凍結等があるが、凍結の方法によって乾燥物のポアサイズに違いが出るので、希望するポアサイズにできる凍結方法を選択する。例えば、急速に凍結乾燥すれば、ポアサイズは小さくなり、緩慢に凍結乾燥すれば、ポアサイズは大きくなる。ポアサイズは、細胞がコラーゲンスポンジの内部に浸潤でき、コラーゲンスポンジを出入りする体液により細胞の接着が妨げられないことが望ましい。よって、ポアサイズは、平均直径を1μm以上50μm未満、好ましくは5μm以上30μm以下にすることが望ましい。減圧乾燥は、減圧することにより凍結物の沸点を下げて、低い温度で凍結物の水分を昇華させることにより凍結物内を乾燥させる。本発明においては、減圧乾燥は開始時の温度を-40℃~-15℃とし、経時的に常温まで温度を上げることにより行うことができる。具体的には、-30℃に冷却した凍結乾燥機内に、コラーゲン溶液を充填した容器を静置し、該溶液を凍結させた後に、-30℃から常温まで経時的に温度を上げながら減圧乾燥を70~75時間行うことで所望のポアサイズを得ることができる。
【0039】
(不溶化処理工程)
本発明においては、工程(3)コラーゲン乾燥物の不溶化処理を行うことによって、コラーゲン乾燥物の物理的な強度を高め、移植した組織内でのコラーゲンスポンジの残存期間を調節することができる。不溶化処理を行う場合、コラーゲン乾燥物の形状を崩すことなく、またコラーゲン乾燥物の内部にまで均一に不溶化処理が必要である。本発明の不溶化処理としては、乾燥物の内部にまで不溶化処理が可能な、化学架橋化剤による処理、乾熱処理、γ線照射が望ましい。化学架橋化剤としては、水溶性化学架橋剤、気化可能な化学架橋剤等が挙げられる。不溶化処理を行うことにより、コラーゲンがランダムな配向で架橋することができ、コラーゲンスポンジの力学的強度を高めることができると考えられる。
【0040】
各不溶化処理の反応条件については、完成時の引張強度が1N以上5N以下及びひずみ10%負荷時の応力が7kPa以上30kPa以下となるよう調整する。乾熱処理は、完全に乾燥状態にした後に、120℃程度の加熱雰囲気下で30分以上放置することにより行うことができる。γ線照射処理は、膨潤しない程度に乾燥物に湿度を与えた後に、0.1kGy以上の照射によって行うことができる。水溶性化学架橋剤による不溶化処理は、水溶性化学架橋剤を含む水溶液に、コラーゲン乾燥物を浸漬することにより達成できる。例えば、グルタルアルデヒドであれば、0.5%の濃度のグルタルアルデヒドを含む水溶液に、コラーゲン乾燥物を浸漬する。また、気化可能な化学架橋剤による不溶化処理は、密閉した容器にコラーゲン乾燥物と化学架橋剤、例えば、ホルマリン溶液等を入れることにより密閉容器内で不溶化処理を行うことができる。水溶性化学架橋剤としては、例えば、アルデヒド化合物、エポキシ化合物等を挙げることができ、より好ましくはエポキシ化合物である。具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、アリルグリシジエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(EO) 5グリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ラウリルアルコール(EO) 15グリシジルエーテル、レソルシノールジグリシジエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンオリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトルポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等を使用することができる。最も好ましくは、エチレングリコールジグリシジルエーテルであり、コラーゲン乾燥物をエチレングリコールジグリシジルエーテル含有溶液に浸漬し、減圧脱泡(1分~1時間)した後、攪拌(1時間~48時間)する。その後、イオン交換水にて洗浄及び中和液にて未反応基の中和を行い、乾燥させる。
【0041】
本発明では、コラーゲンスポンジの物理的強度、特に応力が軟骨組織と同程度になるように不溶化処理を行う。軟骨組織の場合、日常生活においては、垂直方向の圧縮による変形率(ひずみ)が、10%程度であり、このときの応力が7~30kPaであることから、本基材の応力もひずみ10%のときに7~30kPaになるように不溶化処理条件を調節する。本発明のコラーゲンスポンジは生体適合性を有するものであるが、不溶化処理は、生体内で基材が早い段階で分解・吸収されてしまうことを防ぐ効果もある。
【0042】
(コラーゲンスポンジの用途)
本発明のコラーゲンスポンジは、軟骨治療に用いることができる。本発明のコラーゲンスポンジは、軟骨組織の補強材又は補填材として生体に埋植されるのに適している。本発明のコラーゲンスポンジは、そのまま生体内に埋植することもできるし、埋植前に細胞を播種し、培養した後に埋植することも可能である。培養する際には、生体の軟骨組織が受ける負荷と類似の負荷を加えながら培養することも可能である。本発明のコラーゲンスポンジは、埋植する軟骨組織と同等の引張強度と圧縮強度(応力)を有し、構造及び強度にむらがないものであることから、埋植周辺組織への力学的な負担を軽減でき、かつ、細胞が浸潤するためのポア構造を維持することができるものである。
【0043】
本発明のコラーゲンスポンジを用いて関節の治療を行う方法は特に限定されないが、一例を以下に説明する。まず治療を要する関節の周囲の皮膚面に小さな穴(例えば2~3箇所)を開け、関節にトラカールを挿入し、関節とトラカール内を生理食塩水で満たし、トラカール内に内視鏡を通して、直接手術部位にアクセスする。コラーゲンスポンジを含む補填材(補強材ともいう)に縫合糸を通して生理食塩水に浸す。補填材を生理食塩水に浸漬した状態で、補填材の縫合糸を引っ張ってトラカール内を通して補填材を関節内に運ぶ。関節の軟骨組織の損傷部位に補填材を埋植し、縫合糸で縫いつける。その後、関節からトラカール、内視鏡を抜き、皮膚面の穴を閉じる。
【0044】
本発明のコラーゲンスポンジは、関節軟骨、骨端軟骨、喉頭軟骨、鼻軟骨、肋軟骨、気管・気管支軟骨、関節円板、関節半月、関節唇、椎間円板、恥骨軟骨、耳介、外耳道、喉頭蓋軟骨などの全身の軟骨の補填に使用することが可能である。軟骨には、線維性軟骨、硝子様軟骨、弾性軟骨等がある。本発明のコラーゲンスポンジは、線維成分が重なってできた線維性軟骨の補填に使用することが好ましい。線維性軟骨としては、仙腸関節、顎関節、胸鎖関節、椎間円板、恥骨結合、関節半月、関節円板などが例示される。関節軟骨は力学負荷の掛かる組織であり、軟骨欠損の治療では自家軟骨の移植やフィブリンクロットの補填、損傷部の切除、人工関節の移植、投薬、未処置などが一般的な治療方法である。本発明のコラーゲンスポンジは、生体適合性が高く、移植時に抗原抗体反応を起こしにくい。また、貪食細胞などにより分解されて一定期間で消失する。軟骨の欠損部、特に半月板欠損部に補填することで周囲の細胞が浸潤し、継時的に補填材が分解され、分解と並行して組織が再建される補填材である。コラーゲンスポンジ中に浸潤した細胞は、生体外マトリクスを分泌し組織を再生する。コラーゲンスポンジ分解後も細胞と分泌されたマトリクスが残り、組織が再生した状態となる。
【0045】
本発明のコラーゲンスポンジは、特に半月板の補強材として用いるのに適している。半月板は大腿骨と脛骨の関節軟骨に挟まれた組織であり、上下から強い力が加わり、力に応じて形状が変化する。半月板の欠損部に、コラーゲンスポンジからなる補填材をプレスフィットするだけでは脱落してしまうため、縫合が必要となる。本発明のコラーゲンスポンジは、体液や水分に曝されても、引張強度を維持することができ、欠損部に縫合しても縫合糸を通した部分から千切れて脱落しないものであり、組織への縫合に耐えうる物理的強度を有するものである。すなわち、本発明のコラーゲンスポンジは、半月板を再建する治療(縫合術又は補填術)にて補填材として使用できるものである。本発明のコラーゲンスポンジは、圧縮強度も優れていることから、内部のポア構造がつぶれずに、周囲の細胞が浸潤でき、半月板に移植した際に周囲の組織に負荷(物理的刺激)を掛けることもない。
【0046】
ヒトの半月板は長さ約40mm、幅約8mm、厚さ1~4mmの三日月形である。半月板は、外縁部が、前角から後角に向かって線維が配向しており、中心から外向きに掛かる力に対して強く、内縁部が圧縮に強い組織である。従来は、全摘・全欠損した半月板の再建において、外縁部には自家腱が用いられ、内縁部は圧縮に耐えうる強度の補填材がなく未処置となっていた。本発明のコラーゲンスポンジは、特に、内縁部の全摘・全欠損・亜全摘・部分欠損を補填するための補填材として使用することが好ましい。内縁部の補填材としては、最大で長さ30mmの大きさが必要である。本発明のコラーゲンスポンジによれば、長さ30mmの大きさであっても、生体適合性が高く、均一のポア構造かつ圧縮強度があり、縫合できる引張強度のものを提供することが可能である。本発明のコラーゲンスポンジは、関節鏡視下手術に使用できるものである。血液、体液、生理食塩水などの水分を含浸させても、縫合に耐えうる強度を持つ。本発明のコラーゲンスポンジは、関節鏡視下手術において、生理食塩水を浸潤させたコラーゲンスポンジに縫合糸を通し、縫合糸を引っ張ってトラカールの中を通すことができ、生理食塩水に浸漬した状態で組織に縫合することができる。
【0047】
本発明のコラーゲンスポンジは、軟骨組織のうち特に半月板の治療に適している。従ってコラーゲンスポンジの形状は、厚さ(高さ)が1mm以上10mm以下、好ましくは3mm以上5mm以下であることが重要である。好ましくはコラーゲンスポンジの形状は、長さが1mm以上50mm以下、好ましくは5mm以上30mm以下であり、幅が1mm以上50mm以下、好ましくは5mm以上30mm以下である。また本発明のコラーゲンスポンジの形状は、各組織の欠損のサイズに併せて切断・加工できることから、複数の補填材をつなぎ合わせるといった作業が生じない。半月板の全摘・全欠損・亜全摘・部分欠損の補填に用いる場合は、円盤状、もしくは半月状であることが好ましい。本発明のコラーゲンスポンジを半月板の再生治療に用いた場合は、元通りの半月板のサイズに修復することができると考えられることから、変形性膝関節症になる可能性を低くおさえることができる。
【0048】
本発明のコラーゲンスポンジは椎間板の再生治療に用いることもできる。
【0049】
また本発明のコラーゲンスポンジは、従来行われている軟骨治療に適用されるのみならず、今後開発される軟骨治療、特に半月板再生治療、椎間板再生治療に用いることも可能である。
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
〔本発明のコラーゲンスポンジの製造〕
(1)ウシ真皮由来の酵素可溶化コラーゲン(アテロコラーゲン)を、塩酸に加え、さらにあわとり練太郎(登録商標)ARE-310(株式会社シンキー)を用いて、公転遠心力420G、自転遠心力25Gで、5分(30秒×10回)で、撹拌脱泡し、酸性のコラーゲン溶液(pH3)を得た。なお攪拌脱泡を10回に分けたのは、コラーゲン溶液の温度上昇を防ぐためである。本実施例では、攪拌脱泡30秒ごとに運転を停止し、コラーゲン溶液の温度をモニタリングし、30℃を超えていないことを確認した。該溶液中のコラーゲン濃度をケルダール法により測定し、溶液中のコラーゲン濃度が80mg/mlとなるように調節した。なお、80mg/mlより濃度が低い場合には、酵素可溶化コラーゲンを加えて、濃度を上げた。
コラーゲン濃度が80mg/mlのコラーゲン溶液7mlを、ポリアセタール製のカップに分注し、さらにあわとり練太郎(登録商標)ARE-310(株式会社シンキー)を用いて公転遠心力516G、自転遠心力0.14G(脱泡モード2200rpm)で、90秒で攪拌脱泡処理を行った。
【0052】
(2)攪拌脱泡後、コラーゲン溶液を分注したカップを棚に静置し、室温から-20℃に冷却し、コラーゲン溶液を凍結した後に、-30℃から常温まで経時的に温度を上げながら減圧乾燥を73時間行った。
【0053】
(3)凍結乾燥終了したコラーゲン乾燥物をポリアセタール製のカップより取り出し、必要な厚さに切断してから、完成時の引張強度が1N以上5N以下及びひずみ10%負荷時の応力が7kPa以上30kPa以下となるよう、架橋剤であるエチレングリコールジグリシジルエーテルを入れたPP製容器に入れ、減圧脱泡(10~20分間)、その後撹拌(30℃、18時間)することにより、不溶化処理を行った。
次に、不溶化処理後のコラーゲンスポンジを、イオン交換水を入れたPP製容器に移し替えて、撹拌(30℃、30分×10~15回)し、その後架橋剤の中和液を添加して撹拌(30℃、18時間)し、再度イオン交換水を入れたPP製容器に移し替えて、撹拌(30℃、30分×10~15回)することで、洗浄を行った。最後に、乾燥することにより、本発明のコラーゲンスポンジを得た。
【0054】
比較例として、特許文献3に記載の方法に基づき、コラーゲンを精製水に分散させたコラーゲン分散液を、撹拌脱泡処理ではなく、760G、20分間の遠心を行った後、凍結乾燥、不溶化処理を行うことにより、従来のコラーゲンスポンジを製造した。
【実施例2】
【0055】
〔コラーゲンスポンジのポア構造及び物理的強度の確認〕
実施例1で製造した本発明のコラーゲンスポンジと、従来のコラーゲンスポンジについて、走査型電子顕微鏡像(SEM像)、引張強度、圧縮強度を確認した。
【0056】
(1)本発明のコラーゲンスポンジ及び従来のコラーゲンスポンジの断面について、走査型電子顕微鏡により観察を行った。本発明のコラーゲンスポンジの断面を
図1(走査型電子顕微鏡像、Bar:100μm)、従来のコラーゲンスポンジの断面を
図2に示す。
図1から明らかなように、本発明のコラーゲンスポンジの表面の構造は一様であり、密なポア構造が認められた。一方、従来のコラーゲンスポンジの表面は一様ではあるが、本発明のコラーゲンスポンジと比較して個々のポアが大きく、コラーゲンのある部分とない部分(ポア)が明瞭であることが認められた。
【0057】
さらに本発明のコラーゲンスポンジ及び従来のコラーゲンスポンジの表面(走査型電子顕微鏡像)のポアの直径を測定した。コラーゲンスポンジの表面から無作為に1個のポアを選択し、ポアの長径を測定し、この長径をポアの直径とした。この操作を100個のポアに対して行い、ポアの平均直径および標準偏差を算出した。
【0058】
本発明のコラーゲンスポンジのポアの平均直径は11.85μmであり、ポアの直径の標準偏差は5.89μmであった。従来のコラーゲンスポンジのポアの平均直径は52.96μmであり、ポアの直径の標準偏差は24.22μmであった。また実施例1と同様の手法にて本発明のコラーゲンスポンジを作製し、本実施例と同様にしてポアの直径を測定したところ、9.97μm±4.85、15.01μm±6.99であった。一方、実施例1に比較例として記載したものと同様にして、従来のコラーゲンスポンジを作製し、ポアの直径を測定したところ、42.08μm±15.86、72.64μm±35.33であった。従って、本発明のコラーゲンスポンジのポアは、従来のものに比べて、サイズが小さいことが確認された。
【0059】
(2)本発明のコラーゲンスポンジ及び従来のコラーゲンスポンジの応力の測定を行った。日常生活において膝に掛かる負荷による半月板の変形度合(ひずみ10%)を参考に、担体をひずみ10%圧縮した時の応力を計測した。応力は、本発明のコラーゲンスポンジを37℃の生理食塩水に浸漬して、小型卓上試験機EZ-S(株式会社島津製作所)を用いて測定した。
【0060】
その結果、本発明のコラーゲンスポンジは、ひずみ10%負荷時に約10kPaであった。従来のコラーゲンスポンジは多数のむらがあり、ある箇所では、ひずみ10%負荷時に約18.7kPaであった。
【0061】
(3)
図3に記載の方法に沿って、本発明のコラーゲンスポンジ及び従来のコラーゲンスポンジの引張強度の測定を行った。まず、直径30mm、厚さ(高さ)が5mmの円柱状のコラーゲンスポンジの試験片を準備した。当該試験片の平滑面の中心をとおる直線上で、中心から5mmの位置2カ所のそれぞれに、縫合糸(2-0号)を通した。縫合糸を通した状態で、試験片を生理食塩水に浸漬した。試験片をデシケーターに入れて、真空ポンプをつなぎ、3分間脱気を行った。試験片に通した両側の縫合糸を小型卓上試験機EZ-S(株式会社島津製作所)に固定し、速度10mm/分で引っ張ったときの破断時(破断が始まった時)の力(N)を測定した。なお試験片の厚みは、ノギスにより計測した。
【0062】
結果を、
図4と以下の表1に示す。本発明のコラーゲンスポンジは、51個のすべての試験片において、1.5N以上の引張強度を有し、すべての方向において引張強度が強いことが確認された。一方、従来のコラーゲンスポンジは、引張強度の平均値が本発明のコラーゲンスポンジより低く、最小値が0.79Nであり、方向によっては、軟骨治療に必要な引張強度を満たさないことが示された。
【0063】
【実施例3】
【0064】
〔コラーゲンスポンジの生体内への埋入実験〕
実施例1で作製した本発明のコラーゲンスポンジをミニブタに埋植し、半月板欠損修復の有効性及び安全性を評価した。10~12ヶ月齢のミニブタ8頭8膝の内側半月前~中節部に3×8mmの欠損を作製し、欠損部に同サイズのコラーゲンスポンジを装填した補填群4膝と、非補填群4膝を術後6ヶ月にて比較検討した。肉眼的観察を欠損部組織修復、軟骨損傷、滑膜増生の有無につき、また組織学的観察を、欠損部修復組織量、修復組織像、サフラニンO染色性、半月板表面形状、半月板inner形状、周囲組織との接着につき、点数化による定量評価を行った。
【0065】
結果は、本発明のコラーゲンスポンジの補填群は、肉眼的観察にて有意に組織修復が良好であった。軟骨損傷や滑膜増生は両群ともに有意差を認めなかった。組織学的観察では本発明のコラーゲンスポンジの補填群が有意に良好であった。このことから、本発明のコラーゲンスポンジによるミニブタ半月板欠損修復の治療は、安全で有効であると考えられた。
【0066】
〔参考例1〕
線維化工程を経ていないコラーゲンスポンジと、線維化工程を経たコラーゲンスポンジとの構造の違いを確認した。
【0067】
線維化工程を経ていないコラーゲンスポンジとしては、本発明品を用いた。
【0068】
線維化工程を経たコラーゲンスポンジは、以下のようにして作製した。ウシ真皮由来の酵素可溶化コラーゲン(アテロコラーゲン)を塩酸に加えてコラーゲン溶液(11.0mg/mL、pH3.0)を調製した。コラーゲン溶液をメンブレンフィルター(ポアサイズ:1μm)でろ過した(最大気圧:4atom)。その後、ろ過して得られたコラーゲン溶液を中和してゲル化(線維化)した。具体的には、10cm×10cmのトレイにコラーゲン溶液を高さ1cmになるまで注いだ。トレイを密閉容器(容量:1L)に静置し、容器内にアンモニアガスを充填することで中和して、1時間後線維化したコラーゲンゲルの入ったトレイを容器から取り出した。得られたコラーゲンゲルを凍結乾燥、不溶化処理を行い、コラーゲンスポンジを作製した。
【0069】
線維化工程を経ていないコラーゲンスポンジ(本発明品)と、線維化工程を経たコラーゲンスポンジについて、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)により観察を行った(
図5)。線維化工程を経たコラーゲンスポンジでは、表面に凹凸が見られ、一定方向の線維状構造が確認された。一方、線維化工程を経ていないコラーゲンスポンジでは、表面は滑らかであり、線維状構造は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のコラーゲンスポンジは、どの方向においても概ね一定の引張強度を有するものであり、湿潤下でも優れた引張強度を有するものである。また圧縮強度にも優れていることから、軟骨組織欠損部への埋植の基材として用いられるのに好適である。本発明のコラーゲンスポンジによれば、関節鏡視下手術において、生理食塩水を浸潤させたコラーゲンスポンジに縫合糸を通し、縫合糸を引っ張ってトラカールの中を通すことができ、生理食塩水に浸漬した状態で組織に縫合することができる。また、本発明のコラーゲンスポンジによれば、元通りの半月板のサイズに修復することができると考えられることから、変形性膝関節症になる可能性を低くすることができ、有用である。さらに本発明のコラーゲンスポンジンは従来達成できなかった物理的強度を有することから、本発明のコラーゲンスポンジを用いて新たに軟骨再建治療を開発することも期待される。