(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】酸化鉄粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20221027BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C09C3/06
(21)【出願番号】P 2021565623
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020046993
(87)【国際公開番号】W WO2021125231
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019230279
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】阿相 英孝
(72)【発明者】
【氏名】高石 大吾
(72)【発明者】
【氏名】稲田 博文
(72)【発明者】
【氏名】荒川 裕也
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174405(JP,A)
【文献】特開2014-216034(JP,A)
【文献】特開昭55-158130(JP,A)
【文献】特開平01-210466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-49/08
C09C 3/06
C01G 1/00-23/08
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10ー99/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄の一次粒子の凝集体と、前記凝集体の表面の少なくとも一部を被覆するシリカからなる被覆層と、を有する酸化鉄粒子を含み、
前記酸化鉄の一次粒子には、Alが固溶しており、かつ、表面にアルミナ粒子が点在しており、
前記凝集体は、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有し、
Siの含有量が、Al、Si及びFeの合計含有量に対して、8モル%~50モル%である酸化鉄粉末。
【請求項13】
表面にアルミナ粒子が点在しており、かつ、Alが固溶している酸化鉄の一次粒子が凝集し、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している凝集体を準備する工程と、
前記凝集体とアルコキシシランとを混合する工程とを含み、
前記混合する工程では、Siの使用量が、Al、Si及びFeの総使用量に対して、8モル%~50モル%となるように混合する、酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項14】
前記準備する工程は、第一鉄塩及び第二鉄塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩と、アルミニウム源と、塩基とを混合して、共沈法により前駆体を製造する工程と、
前記前駆体を焼成する工程と、を含み、
前記前駆体を製造する工程では、Alの使用量が、Al及びFeの総使用量に対して、10モル%~80モル%となるように混合し、
前記前駆体を焼成する工程では、600℃~1200℃で焼成する、請求項13に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項16】
前記金属塩は、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、及び塩化鉄(II)からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記アルミニウム源は、硝酸アルミニウムであり、
前記塩基は、炭酸水素アンモニウムである、請求項14又は請求項15に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項17】
前記金属塩は、硫酸鉄(II)であり、
前記アルミニウム源は、硫酸アルミニウムであり、
前記塩基は、炭酸水素ナトリウムである、請求項14又は請求項15に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
【請求項18】
前記混合する工程では、前記Siの使用量が、Al、Si及びFeの総使用量に対して、10モル%~45モル%となるように混合する、請求項13~請求項17のいずれか1項に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤色酸化鉄の粉末は、例えば、アスファルト、陶磁器、プラスチック、化粧品等の分野において、着色剤として用いられている。着色剤として用いる場合には、より鮮やかな色を発現すること、すなわち、高い彩度が要求される。製造過程においては、高温環境下に曝される場合があり、そのような環境下に曝されても、高い彩度を保持できることが要求される。
【0003】
酸化鉄粉末に関して、例えば、特開2015-86126号公報には、Al含有量が20モル%~60モル%であって、平均粒子径が0.03μm~0.2μmであり、粒子形状が粒状であり、結晶構造が2種類のヘマタイト構造又はヘマタイト構造とコランダム構造を持つことを特徴とする酸化鉄粒子粉末が記載されている。特開2004-43208号公報及びHideki Hashimoto, et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 20282-20289には、鉄化合物及びアルミニウム化合物を混合し、鉄化合物及びアルミニウム化合物の混合物にクエン酸及びエチレングリコールを添加してゲルを生成させ、ゲルを熱分解し得られた熱分解生成物を焼成することによって製造されるAl置換ヘマタイトが記載されている。Hideki Hashimoto, et al. Dyes and Pigments 95 (2012) 639-643には、鉄酸化細菌によって製造されるチューブ状鉄酸化物を加熱することによって得られる赤色顔料が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2015-86126号公報、特開2004-43208号公報、Hideki Hashimoto, et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 20282-20289、及びHideki Hashimoto, et al. Dyes and Pigments 95 (2012) 639-643に記載されている酸化鉄粉末は、彩度が高いとはいえない。また、高温環境下に曝すと退色する傾向にあり、耐熱性が不十分であった。
【0005】
そこで、本開示の一態様によれば、彩度が高く、耐熱性に優れ、かつ、均一な酸化鉄粉末及びその製造方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>酸化鉄の一次粒子の凝集体と、凝集体の表面の少なくとも一部を被覆するシリカからなる被覆層と、を有する酸化鉄粒子を含み、酸化鉄の一次粒子には、Alが固溶しており、かつ、表面にアルミナ粒子が点在しており、凝集体は、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有し、Siの含有量が、Al、Si及びFeの合計含有量に対して、8モル%~50モル%である酸化鉄粉末。
<2>被覆層の平均厚さは、3nm~12nmである、<1>に記載の酸化鉄粉末。
<3>酸化鉄粒子の平均直径は0.3μm~2μm、平均厚さは0.15μm~0.8μmである、<1>又は<2>に記載の酸化鉄粉末。
<4>酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は10nm~50nmである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<5>アルミナ粒子の平均粒子径は、3nm~9nmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<6>Alの含有量が、Al及びFeの合計含有量に対して、10モル%~80モル%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<7>L*a*b*表色系における彩度c*が60~80である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<8>L*a*b*表色系における明度L*が48~54である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<9>L*a*b*表色系におけるa*が35~40である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<10>L*a*b*表色系におけるb*が46~55である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<11>加熱する前の彩度をA、1000℃で3時間加熱した後の彩度をBとしたとき、A-Bが3以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の酸化鉄粉末。
<12>表面にアルミナ粒子が点在しており、かつ、Alが固溶している酸化鉄の一次粒子が凝集し、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している凝集体を準備する工程と、凝集体とアルコキシシランとを混合する工程とを含み、混合する工程では、Siの使用量が、Al、Si及びFeの総使用量に対して、8モル%~50モル%となるように混合する、酸化鉄粉末の製造方法。
<13>準備する工程は、第一鉄塩及び第二鉄塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩と、アルミニウム源と、塩基とを混合して、共沈法により前駆体を製造する工程と、前駆体を焼成する工程と、を含み、前駆体を製造する工程では、Alの使用量が、Al及びFeの総使用量に対して、10モル%~80モル%となるように混合し、前駆体を焼成する工程では、600℃~1200℃で焼成する、<12>に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
<14>前駆体を焼成する工程では、最高到達温度までの昇温速度を0.1℃/分~200℃/分とし、最高到達温度で0.1時間~48時間保持する、<13>に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
<15>金属塩は、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、及び塩化鉄(II)からなる群より選択される少なくとも1種であり、アルミニウム源は、硝酸アルミニウムであり、塩基は、炭酸水素アンモニウムである、<13>又は<14>に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
<16>金属塩は、硫酸鉄(II)であり、アルミニウム源は、硫酸アルミニウムであり、塩基は、炭酸水素ナトリウムである、<13>又は<14>に記載の酸化鉄粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、彩度が高く、耐熱性に優れ、かつ、均一な酸化鉄粉末及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、実施例1におけるシリカ被覆処理前の粉末に含まれる粒子の構造を示す低倍率の走査型透過電子顕微鏡の二次電子像である。
【
図1B】
図1Bは、実施例1におけるシリカ被覆処理前の粉末に含まれる粒子の構造を示す高倍率の走査型透過電子顕微鏡の二次電子像である。
【
図2】
図2は、比較例1における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、左が、比較例2における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、中央が、比較例2における酸化鉄粉末を1000℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、比較例2における酸化鉄粉末を1200℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、左が、実施例1における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、中央が、実施例1における酸化鉄粉末を1100℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、実施例1における酸化鉄粉末を1200℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、左が、実施例4における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、中央が、実施例4における酸化鉄粉末を1100℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、実施例4における酸化鉄粉末を1200℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、左が、比較例2における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、比較例2における酸化鉄粉末を粉砕処理した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、左が、実施例4における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、実施例4における酸化鉄粉末を粉砕処理した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一態様である酸化鉄粉末及びその製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本開示の酸化鉄粉末は、酸化鉄の一次粒子の凝集体と、凝集体の表面の少なくとも一部を被覆するシリカからなる被覆層と、を有する酸化鉄粒子を含み、酸化鉄の一次粒子には、Alが固溶しており、かつ、表面にアルミナ粒子が点在しており、凝集体は、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有し、Siの含有量が、Al、Si及びFeの合計含有量に対して、8モル%~50モル%である。
【0013】
本開示の酸化鉄粉末は、上記構成により、彩度が高く、均一であり、かつ、耐熱性に優れる。
【0014】
本開示の酸化鉄粉末は、酸化鉄粒子を構成する凝集体が、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有しているため、分散性が高く、酸化鉄粒子同士の凝集が少ないため、彩度が高いと考えられる。また、本開示の酸化鉄粉末は、酸化鉄粒子がシリカからなる被覆層を有しているため、酸化鉄粒子同士の焼結が進行しにくく、加熱しても彩度が低下しにくいものと考えられる。また、本開示の酸化鉄粉末は、Siの含有量が、Al、Si及びFeの合計含有量に対して8モル%~50モル%であるため、酸化鉄の一次粒子の凝集体の表面が適度にシリカで被覆され、均一性に優れると考えられる。
【0015】
これに対して、特開2015-86126号公報には、Al含有量が20モル%~60モル%であって、平均粒子径が0.03μm~0.2μmであり、粒子形状が粒状であり、結晶構造が2種類のヘマタイト構造又はヘマタイト構造とコランダム構造を持つことを特徴とする酸化鉄粒子粉末が記載されている。特開2015-86126号公報に記載されている酸化鉄粉末は、Fe2+及びAl3+を含む溶液を、炭酸塩を含むアルカリ溶液に添加して、50℃未満の温度で熟成または空気酸化することにより得られるアルミニウム含有含水酸化鉄粒子を洗浄・乾燥し、次いで、700~1050℃の温度範囲で焼成することにより得られる。この方法で製造される酸化鉄粉末を構成する酸化鉄粒子は、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有しておらず、表面にアルミナ粒子が存在しない。特開2015-86126号公報には、塗布膜の色調が赤味a*25.0~40.0、黄味b*25.0~35.0、彩度C*35.0~50.0と記載されており、彩度が低い。また、特開2015-86126号公報では、耐熱性に着目していない。
【0016】
また、特開2004-43208号公報及びHideki Hashimoto, et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 20282-20289には、鉄化合物及びアルミニウム化合物を混合し、鉄化合物及びアルミニウム化合物の混合物にクエン酸及びエチレングリコールを添加してゲルを生成させ、ゲルを熱分解し得られた熱分解生成物を焼成することによって製造されるAl置換ヘマタイトが記載されている。すなわち、特開2004-43208号公報及びHideki Hashimoto, et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 20282-20289に記載されているAl置換ヘマタイトは、錯体重合法で製造されたものである。Alが固溶しており、かつ、表面にアルミナ粒子が点在している酸化鉄の一次粒子が凝集し、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している凝集体と、上記Al置換ヘマタイトとは、構造が全く異なる。
【0017】
さらに、Hideki Hashimoto, et al. Dyes and Pigments 95 (2012) 639-643には、鉄酸化細菌によって製造されるチューブ状鉄酸化物を加熱することによって得られる赤色顔料が記載されている。この赤色顔料を構成する酸化鉄粒子は、シリケートに被覆されたヘマタイトがチューブ壁面に析出した構造を有している。Hideki Hashimoto, et al. Dyes and Pigments 95 (2012) 639-643には、L*が47.3、a*が34.1、b*が34.6であると記載されており、彩度が低い。また、Hideki Hashimoto, et al. Dyes and Pigments 95 (2012) 639-643に記載されている赤色顔料は、耐熱性に関して不十分である。
【0018】
[酸化鉄粉末]
本開示の酸化鉄粉末は、酸化鉄の一次粒子の凝集体と、凝集体の表面の少なくとも一部を被覆するシリカからなる被覆層と、を有する酸化鉄粒子を含む。本開示の酸化鉄粉末は、上記酸化鉄粒子以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0019】
酸化鉄の一次粒子は、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、ヘマタイト(α-Fe2O3)の一次粒子であることが好ましい。すなわち、酸化鉄粒子は、ヘマタイト粒子であることが好ましい。本開示の酸化鉄粉末は、ヘマタイト粒子以外に、リモナイト粒子、マグネタイト粒子、ウスタイト粒子、マグヘマイト粒子等の他の粒子を含んでいてもよい。また、本開示の酸化鉄粉末は、他の粒子を一種単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。彩度の高い酸化鉄粉末を得る観点から、本開示の酸化鉄粉末は、ヘマタイト粒子を、酸化鉄粉末の全質量に対して90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、98質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0020】
酸化鉄粒子の形状としては、例えば、円盤状、球状及び平板状が挙げられる。円盤状とは、平面視において円形であり、かつ、厚みを有する形状を意味する。円形とは、真円及び楕円以外に、変則的な円の形状も包含する概念である。上記粒子の形状は、彩度のより高い酸化鉄粉末を得る観点から、円盤状であることが好ましい。具体的には、酸化鉄粒子の平均直径は0.3μm~2μm、平均厚さは0.15μm~0.8μmであることが好ましく、平均直径0.6μm~1.6μm、平均厚さ0.18μm~0.75μmであることがより好ましい。
【0021】
酸化鉄粒子の平均直径及び平均厚さは、走査型電子顕微鏡を用いて、例えば、以下の方法で測定される。まず、走査型電子顕微鏡(製品名「JSM-6701F」、JEOL社製)を用いて、酸化鉄粉末を観察する。観察視野に含まれる各粒子について、最も長い径を直径とし、最も厚い箇所を厚さとして測定する。測定で得られた複数の直径の値から、最大値と最小値を抽出し、最大値と最小値に基づいて平均値を算出し、算出した値を平均直径とする。同様に、測定で得られた複数の厚さの値から、最大値と最小値を抽出し、最大値と最小値に基づいて平均値を算出し、算出した値を平均厚さとする。
【0022】
酸化鉄粒子は、酸化鉄の一次粒子の凝集体と、凝集体の表面の少なくとも一部を被覆するシリカからなる被覆層と、を有する。
【0023】
(酸化鉄の一次粒子の凝集体)
酸化鉄の一次粒子の凝集体とは、酸化鉄の一次粒子同士が凝集した構造体のことである。本開示では、凝集体が、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している。凝集体の内部に存在する孔は、他の孔と連通する連通孔であってもよく、凝集体を貫通する貫通孔であってもよい。
【0024】
酸化鉄粉末に含まれる酸化鉄粒子が、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している凝集体を有するか否かは、酸化鉄粒子から、シリカからなる被覆層を除去した後、得られた粉末を解析することにより確認することができる。具体的には、以下の方法で確認することができる。
【0025】
まず、酸化鉄粉末をフッ化水素酸又は水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液に浸漬させる。次に、純水で洗浄し、乾燥させる。乾燥させて得られた粉末について、窒素吸着法により、細孔径分布を測定する。dV/d(logD)微分細孔容積分布に特徴的なピークが見られた場合には、酸化鉄粉末に含まれる酸化鉄粒子が、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している凝集体を有すると判断する。
【0026】
酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は10nm以上であればよい。彩度のより高い酸化鉄粉末を得る観点から、酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は55nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、35nm以下であることがさらに好ましく、25nm以下であることが特に好ましい。
【0027】
酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は、走査型透過電子顕微鏡を用いて、例えば以下の方法で測定される。
【0028】
まず、走査型透過電子顕微鏡(製品名「JEM-2100F」、JEOL社製)を用いて、酸化鉄粉末を観察する。凝集体を形成している個々の粒子を一次粒子とし、走査型透過電子顕微鏡を一次粒子が画像解析できる倍率に調整して画像を撮影する。撮影した画像の中から選択した複数の一次粒子について、最大径を測定する。測定で得られた複数の最大径の値から、最大値と最小値を抽出し、最大値と最小値に基づいて平均値を算出し、算出した値を平均粒子径とする。
【0029】
酸化鉄の一次粒子には、Alが固溶しており、かつ、表面にアルミナ粒子が点在している。酸化鉄の一次粒子にAlが固溶しているか否かは、X線回折装置を用いて、以下の方法で確認することができる。
【0030】
X線回折装置を用いて、酸化鉄粉末に含まれるヘマタイトの格子定数を算出する。算出した格子定数を、既知のヘマタイト及びコランダムの格子定数と比較する。算出した格子定数が、既知のヘマタイトの格子定数よりも短い場合に、酸化鉄の一次粒子にAlが固溶していると判断する。また、算出した格子定数を、既知のヘマタイト及びコランダムの格子定数と比較することにより、Al固溶量を算出する。
【0031】
酸化鉄の一次粒子に固溶しているAlの固溶量は特に限定されないが、0.5モル%~20モル%であることが好ましく、1モル%~15モル%であることがより好ましい。
【0032】
また、酸化鉄の一次粒子の表面にアルミナ粒子が点在しているか否かは、走査型透過電子顕微鏡を用いて確認することができる。
【0033】
アルミナ粒子が点在しているということは、アルミナ粒子が、1か所に凝集することなく、近接するアルミナ粒子同士が互いに離れて存在していることを意味する。また、酸化鉄の一次粒子の表面にアルミナ粒子が存在しているということは、酸化鉄の一次粒子の表面にアルミナ粒子が付着していることを意味する。
【0034】
本開示では、酸化鉄の一次粒子に、Alが固溶しているため、酸化鉄粉末の彩度が高いと考えられる。また、本開示では、酸化鉄の一次粒子の表面にアルミナ粒子が点在しているため、高温加熱によって酸化鉄粉末の彩度が低下するのを抑制することができると考えられる。
【0035】
アルミナ粒子の平均粒子径は、酸化鉄の一次粒子の平均粒子径よりも小さいことが好ましく、3nm~9nmであることがより好ましく、3nm~6nmであることがさらに好ましい。
【0036】
アルミナ粒子の平均粒子径は、走査型透過電子顕微鏡を用いて、例えば以下の方法で測定される。
【0037】
まず、走査型透過電子顕微鏡(製品名「JEM-2100F」、JEOL社製)を用いて、酸化鉄粉末を観察する。凝集体を形成している個々の粒子を一次粒子とし、走査型透過電子顕微鏡を一次粒子の表面に点在しているアルミナ粒子が画像解析できる倍率に調整して画像を撮影する。撮影した画像の中から選択した複数のアルミナ粒子について、最大径を測定する。測定で得られた複数の最大径の値から、最大値と最小値を抽出し、最大値と最小値に基づいて平均値を算出し、算出した値をアルミナ粒子の平均粒子径とする。
【0038】
(被覆層)
酸化鉄粒子は、凝集体の表面の少なくとも一部を被覆するシリカからなる被覆層を有する。被覆層は、凝集体の表面の一部のみを被覆していてもよく、凝集体の表面全体を被覆していてもよい。凝集体の表面とは、酸化鉄の一次粒子の表面であり、酸化鉄の一次粒子の表面にアルミナ粒子が存在している部分については、アルミナ粒子の表面である。
【0039】
本開示の酸化鉄粉末は、酸化鉄粒子が被覆層を有するため、耐熱性に優れるだけでなく、強度も高い。例えば、本開示の酸化鉄粉末に対して粉砕処理を行っても、多孔質構造を有している凝集体が破壊されにくく、彩度の低下が抑制される。
【0040】
被覆層の平均厚さは、3nm~12nmであることが好ましく、3nm~9nmであることがより好ましい。
【0041】
被覆層の平均厚さは、走査型透過電子顕微鏡を用いて、例えば以下の方法で測定される。
【0042】
まず、走査型透過電子顕微鏡(製品名「JEM-2100F」、JEOL社製)を用いて、酸化鉄粉末を観察する。被覆層が画像解析できる倍率に調整する。観察視野内において、非晶質部分の最大厚さと最小厚さを測定する。最大厚さと最小厚さに基づいて平均値を算出し、算出した値を被覆層の平均厚さとする。
【0043】
本開示の酸化鉄粉末は、Siの含有量が、Al、Si及びFeの合計含有量に対して、8モル%~50モル%である。彩度がより高く、かつ、耐熱性により優れた酸化鉄粉末を得る観点から、Siの含有量は10モル%~45モル%であることが好ましく、20モル%~40モル%であることがより好ましい。Siの含有量が8モル%未満であると、耐熱性に劣る。一方、Siの含有量が50モル%を超えると、シリカが偏在して均一性に劣る。
【0044】
本開示の酸化鉄粉末は、Alの含有量は、Al及びFeの合計含有量に対して、10モル%~80モル%であることが好ましく、15モル%~50モル%であることがより好ましく、20モル%~40モル%であることがさらに好ましい。
【0045】
本開示の酸化鉄粉末は、L*a*b*表色系における明度L*が48以上であることが好ましく、51以上であることがより好ましい。明度L*の上限値は特に限定されないが、54以下であることが好ましい。
【0046】
本開示の酸化鉄粉末は、L*a*b*表色系におけるa*が35以上であることが好ましく、36以上であることがより好ましい。明度a*の上限値は特に限定されないが、40以下であることが好ましい。
【0047】
本開示の酸化鉄粉末は、L*a*b*表色系におけるb*が46以上であることが好ましく、49以上であることがより好ましい。明度b*の上限値は特に限定されないが、55以下であることが好ましい。
【0048】
本開示の酸化鉄粉末は、L*a*b*表色系における彩度c*が60以上であることが好ましく、61以上であることがより好ましい。彩度c*の上限値は特に限定されないが、80以下であることが好ましい。
【0049】
L*、a*及びb*は、分光測色計を用いて、以下の方法で測定される。
【0050】
酸化鉄粉末について、分光測色計(製品名「CM-5」、コニカミノルタ社製、光源(イルミナント):CIE標準光源D65、標準観測者(視野角):2度視野)を用いてCIE1976L*a*b*表色系の座標値(L*値、a*値及びb*値)を測定する。測定の際には、粉末測定用シャーレを用いる。酸化鉄粉末をシャーレに充填し、固めた後に測定する。
【0051】
彩度c*は、a*及びb*の値から、下記式に基づいて、算出される値である。
c*=((a*)2+(b*)2)1/2
【0052】
本開示の酸化鉄粉末は、耐熱性の観点から、1000℃で3時間加熱した後の彩度が50以上であることが好ましく、55以上であることがより好ましい。
【0053】
また、本開示の酸化鉄粉末は、加熱する前の彩度をA、1000℃で3時間加熱した後の彩度をBとしたとき、A-Bが3以下であることが好ましく、AよりもBが大きいことがより好ましい。本開示の酸化鉄粉末では、加熱する前の彩度よりも、1000℃で3時間加熱した後の彩度の方が高い場合がある。これは、本開示の酸化鉄粉末を1000で3時間加熱することにより、酸化鉄の一次粒子の表面に点在しているアルミナ粒子が溶解して、酸化鉄にAlがさらに固溶し、Al固溶量が増加したからであると考えられる。
【0054】
[組成物]
本開示の酸化鉄粉末は、他の成分と混合して組成物としてもよい。すなわち、本開示の組成物は、上記酸化鉄粉末を含む。組成物は、液状媒体と混合された液体組成物であってもよく、固体状媒体と混合された固体組成物であってもよい。
【0055】
本開示の酸化鉄粉末と混合可能な成分として、例えば、ガラスが挙げられる。本開示の酸化鉄粉末とガラスとを含むガラス組成物は、焼結することにより、ガラス焼結体とすることができる。ガラス焼結体とする場合には、強度の観点から、ガラス組成物に含まれるガラスの含有量は、ガラス組成物の全量に対して50質量%以上であることが好ましい。また、酸化鉄粉末の含有量は、ガラス組成物の全量に対して25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
[用途]
本開示の酸化鉄粉末は、彩度が高く、耐熱性に優れるため、例えば、着色剤として用いることができる。着色剤は、例えば、陶磁器、琺瑯、絵画、アスファルト、プラスチック、化粧品、車両等に適用される。
【0057】
また、本開示の酸化鉄粉末は、リチウムイオン電池電極材料、触媒担体、磁性材料、光電極等の分野においても利用可能である。
【0058】
[陶磁器]
本開示の酸化鉄粉末は、特に、陶磁器に適用することができる。
本開示の陶磁器は、基材と、基材上に設けられ、上記酸化鉄粉末を含む釉薬組成物により形成される釉薬層と、を含むことが好ましい。釉薬層は、基材上に直接設けられてもよく、基材と釉薬層との間に他の層が設けられてもよい。また、釉薬層上には、ハードコート層等の他の層が設けられてもよい。
【0059】
基材は、例えば、カオリン、粘土、陶石、長石等の窯業原料と、水と、を含む基材用組成物を、ボールミル等の粉砕機を用いて細かくした後、成形し、焼結することにより形成することができる。
【0060】
釉薬層は、例えば、上記酸化鉄粉末と、水と、を含む釉薬組成物を基材上に付与し、焼結することにより形成することができる。釉薬組成物には、上記酸化鉄粉末以外の成分として、珪砂、粘土、石灰、長石、亜鉛華等の釉薬原料が含まれていることが好ましい。
【0061】
本開示の酸化鉄粉末は、耐熱性に優れるため、基材上に付与した後に焼結されても、高い彩度で着色することができ、色鮮やかな陶磁器を得ることができる。
【0062】
[酸化鉄粉末の製造方法]
本開示の酸化鉄粉末の製造方法は、表面にアルミナ粒子が点在しており、かつ、Alが固溶している酸化鉄の一次粒子が凝集し、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している凝集体を準備する工程(準備工程)と、凝集体とアルコキシシランとを混合する工程(混合工程)とを含む。混合工程では、Siの使用量が、Al、Si及びFeの総使用量に対して、8モル%~50モル%となるように混合する。
【0063】
(凝集体を準備する準備工程)
準備工程では、アルコキシシランと混合させる凝集体を準備する。凝集体は、酸化鉄の一次粒子が凝集したものであり、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有している。また、酸化鉄の一次粒子は、表面にアルミナ粒子が点在しており、かつ、Alが固溶している。
【0064】
準備工程は、第一鉄塩及び第二鉄塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩と、アルミニウム源と、塩基とを混合して、共沈法により前駆体を製造する工程と、前駆体を焼成する工程と、を含むことが好ましい。前駆体を焼成すると、上記多孔質構造を有している凝集体が得られる。なお、アルコキシシランと混合させる凝集体は市販品であってもよい。
【0065】
共沈法とは、目的とする複数種の金属イオンを含む溶液に塩基を添加することで、複数種の難溶性塩を同時に析出させるという粉体の作製方法のひとつである。塩基としては、例えば、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水(液体)、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられるが、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、塩基は、炭酸水素アンモニウム又は炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。
【0066】
凝集体は、具体的には、以下の方法で製造することができる。
【0067】
まず、第一鉄塩及び第二鉄塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩を純水に溶解させ、金属塩水溶液とする。第一鉄塩は2価の鉄の塩を意味し、第二鉄塩は、3価の鉄の塩を意味する。第一鉄塩としては、硫酸鉄(II)及び塩化鉄(II)が挙げられる。第二鉄塩としては、硝酸鉄(III)及び塩化第二鉄(III)が挙げられる。中でも、金属塩は、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、及び塩化鉄(II)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0068】
金属塩水溶液中の金属塩の合計濃度は、鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、0.2mol・dm-3~0.8mol・dm-3であることが好ましく、0.3mol・dm-3~0.7mol・dm-3であることがより好ましい。
【0069】
次に、金属塩水溶液と、アルミニウム源とを混合する。アルミニウム源としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、及び酢酸アルミニウムが挙げられる。中でも、アルミニウム源は、硝酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムであることが好ましい。このとき、Alの使用量が、Al及びFeの総使用量に対して、10モル%~80モル%となるように混合する。
【0070】
次に、塩基を加えて、懸濁液を得る。懸濁液を10分~2時間撹拌する。撹拌後、懸濁液を10分~6時間静置する。その後、吸引濾過して、乾燥させると、前駆体が得られる。
【0071】
得られた前駆体を焼成する。焼成温度は600℃~1200℃であることが好ましく、650℃~900℃であることがより好ましい。焼成において、最高到達温度までの昇温速度は0.1℃/分~200℃/分であることが好ましく、5℃/分~50℃/分であることがより好ましい。また、最高到達温度での保持時間は、0.1時間~48時間であることが好ましく、1時間~5時間であることがより好ましい。
【0072】
より鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得る観点から、本開示の酸化鉄粉末の製造方法では、金属塩は、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、及び塩化鉄(II)からなる群より選択される少なくとも1種であり、アルミニウム源は、硝酸アルミニウムであり、塩基は、炭酸水素アンモニウムであることが好ましい。
【0073】
また、より鮮やかな赤色の酸化鉄粉末を得ることができ、かつ、工業的な観点から、本開示の酸化鉄粉末の製造方法では、金属塩は、硫酸鉄(II)であり、アルミニウム源は、硫酸アルミニウムであり、塩基は、炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。
【0074】
(凝集体とアルコキシシランとを混合する混合工程)
混合工程では、準備工程で得られた凝集体と、アルコキシシランとを混合する。凝集体は、あらかじめ溶媒に分散させておくことが好ましい。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、アルコール系溶媒が挙げられる。分散装置としては、超音波照射装置を用いることが好ましい。分散時間は、例えば、1分~1時間である。
【0075】
アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが挙げられる。中でも、アルコキシシランは、テトラエトキシシランであることが好ましい。
【0076】
凝集体と、アルコキシシランとを混合する際、耐熱性の観点から、Siの使用量が、Al、Si及びFeの総使用量に対して、8モル%~50モル%となるように混合することが好ましい。耐熱性の観点から、Siの使用量は10モル%~45モル%であることがより好ましく、20モル%~40モル%であることがさらに好ましい。
【0077】
また、凝集体と、アルコキシシランとを混合する際、塩基性触媒を用いることが好ましく、塩基性触媒としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。中でも、塩基性触媒はアンモニア水であることが好ましい。
【0078】
凝集体と、アルコキシシランとを混合した後、混合液を1時間~5時間撹拌する。撹拌後、混合液を静置し、混合液中の溶媒を揮発させる。このとき、混合液の入った容器を60℃~90℃に加温することにより、溶媒の揮発を促すことが好ましい。混合液中の溶媒を揮発させると、本開示の酸化鉄粉末が得られる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
<実施例1>
硝酸鉄9水和物を水に溶解させ、0.5mol・dm-3硝酸鉄水溶液を調製した。硝酸鉄水溶液100mlに、硝酸アルミニウム9水和物を加えた。このとき、Alの使用量が、Al及びFeの総使用量に対して、30モル%となるように、硝酸鉄9水和物と硝酸アルミニウム9水和物の使用量を調整した。さらに、金属イオンの12倍モル量(1.2モル)の炭酸水素アンモニウムを、水溶液を撹拌しながら徐々に加えた。
【0081】
その後、水溶液を200rpmで15分間撹拌した。撹拌後、1時間静置した。得られた懸濁液を、3Lの純水と、50mLのソルミックスA-7(日本アルコール販売株式会社製)を用いて吸引濾過し、真空乾燥させて、前駆体を得た。前駆体の色は全て茶色であった。前駆体を10℃/minの昇温速度で加熱し、700℃で2時間保持した後、放冷した。これにより、シリカ被覆処理前の粉末を得た。
【0082】
図1A及び
図1Bは、実施例1におけるシリカ被覆処理前の粉末に含まれる粒子の構造を示す走査型透過電子顕微鏡の二次電子像である。シリカ被覆処理前の粉末を、走査型透過電子顕微鏡(製品名「JEM-2100F」、JEOL社製)を用いて観察したところ、酸化鉄の一次粒子が凝集して凝集体を形成しており、凝集体は、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有していることが分かった。凝集体の平均直径は0.4μm~0.9μmであり、平均厚さは0.2μm~0.3μmであった。酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は、20nm~40nmであった。酸化鉄の一次粒子の表面には、アルミナ粒子が点在しており、アルミナ粒子の平均粒子径は5nmであった。また、酸化鉄の一次粒子にAlが固溶していることが分かった。また、シリカ被覆処理前の粉末の組成は仕込み組成とほぼ同じであった。
【0083】
次に、シリカ被覆処理前の粉末1gと、ソルミックスA-7(日本アルコール販売株式会社製)10gとを混合した。超音波照射装置(製品名「Yamato 2510」、Branson社製)を用いて、20分間分散処理を行った。その後、テトラエトキシシラン0.31mL、10質量%アンモニア水1.5mLを加え、3時間撹拌した。このとき、Siの使用量が、Al、Si及びFeの総使用量に対して、9モル%となるように、テトラエトキシシランの使用量を調整した。撹拌後、80℃に設定したホットスターラーの上で溶媒が完全に揮発するまで加熱した。これにより、酸化鉄粉末を得た。
【0084】
得られた酸化鉄粉末に含まれる酸化鉄粒子の平均直径及び平均厚さは、シリカ被覆処理前の粉末における凝集体とほぼ同じであった。粒子の平均直径及び平均厚さは、走査型電子顕微鏡(製品名「JSM-6701F」、JEOL社製)を用いて測定した。
【0085】
得られた酸化鉄粉末に含まれる粒子の被覆層の平均厚さは1nmであった。被覆層の平均厚さは、走査型透過電子顕微鏡(製品名「JEM-2100F」、JEOL社製)を用いて測定した。
【0086】
<実施例2~実施例4、比較例1、比較例2>
Al、Si及びFeの合計含有量に対するSiの含有量が表1に記載の値になるように、Al、Si及びFeの総使用量に対するSiの使用量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、酸化鉄粉末を得た。
【0087】
<比較例3>
市販品として、酸化鉄(III)(ナカライテスク社製)を用いた。市販品の粉末に含まれる粒子の平均直径は0.06μm~0.3μmであった。また、市販品の粉末を、走査型電子顕微鏡(製品名「JSM-6701F」、JEOL社製)を用いて観察したところ、酸化鉄の一次粒子は凝集しているが、内部及び表面に孔を有する多孔質構造を有していなかった。また、市販品の粉末には、Alは固溶しておらず、酸化鉄の一次粒子の表面にアルミナ粒子は存在していなかった。
【0088】
<比較例4>
実施例1におけるシリカ被覆処理前の粉末を、市販品に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、酸化鉄粉末を得た。
【0089】
<比較例5>
Al、Si及びFeの合計含有量に対するSiの含有量が表1に記載の値になるように、Al、Si及びFeの総使用量に対するSiの使用量を変更したこと以外は、比較例4と同様の方法で、酸化鉄粉末を得た。
【0090】
実施例及び比較例で得られた酸化鉄粉末について、L*、a*、b*を測定するとともに、耐熱性、強度及び均一性の評価を行った。
【0091】
[L*、a*及びb*]
実施例及び比較例の酸化鉄粉末について、分光測色計(製品名「CM-5」、コニカミノルタ社製、光源(イルミナント):CIE標準光源D65、標準観測者(視野角):2度視野)を用いてCIE1976L*a*b*表色系の座標値(L*値、a*値及びb*値)を測定した。測定の際には、粉末測定用シャーレを用いた。
【0092】
[彩度c*]
彩度c*は、a*及びb*の値から、下記式に基づいて、算出した。
c*=((a*)2+(b*)2)1/2
【0093】
[耐熱性]
実施例及び比較例の酸化鉄粉末から、それぞれ0.3gを秤量し、評価サンプルとした。評価サンプルを昇温温度10℃/分で加熱し、1000℃で3時間保持した。放冷後、評価サンプルのL*、a*及びb*を測定し、彩度c*を算出した。L*、a*及びb*の測定方法は、上記のとおりである。加熱処理前の値と比較して、加熱処理後の値の低下度合いが小さいほど、耐熱性が良いと判断した。同様に、1100℃で3時間保持した場合、1200℃で3時間保持した場合、及び1300℃で3時間保持した場合の評価も行った。測定結果及び算出結果を表1に示す。表1中、「-」は未測定である。
【0094】
[強度]
実施例及び比較例の酸化鉄粉末から、それぞれ0.3gを秤量し、評価サンプルとした。評価サンプルをアルミナ乳鉢に入れ、10分間粉砕処理を行った。粉砕処理後、評価サンプルのL*、a*及びb*を測定し、彩度c*を算出した。L*、a*及びb*の測定方法は、上記のとおりである。粉砕処理前の値と比較して、粉砕処理後の値の低下度合いが小さいほど、強度が高いと判断した。測定結果及び算出結果を表1に示す。表1中、「-」は未測定である。
【0095】
[均一性]
実施例及び比較例の酸化鉄粉末について、走査型電子顕微鏡(製品名「JSM-6701F」、JEOL社製)又は走査型透過電子顕微鏡(製品名「JEM-2100F」、JEOL社製)を用いて顕微鏡画像を得た。顕微鏡画像より、シリカからなる被覆層が凝集体の表面に均一に形成されているか否かを確認した。均一に形成されている場合には、「G(良い)」と判定し、均一に形成されていない場合には、「NG(悪い)」と判定した。具体的には、シリカ粒子が観察される場合には、均一性を「NG」と判定した。表1中、「-」は未測定である。
【0096】
【0097】
表1に示すように、実施例1~実施例4の酸化鉄粉末は、彩度が高く、かつ、均一であり、1000℃で3時間加熱しても高い彩度を維持しており、耐熱性に優れることが分かった。また、実施例1~実施例4の酸化鉄粉末は、粉砕処理を行っても、彩度が大きく低下することなく、鮮やかな赤色が確認され、強度に優れることが分かった。
【0098】
一方、比較例1の酸化鉄粉末は、Siの含有量が、Al、Si及びFeの合計含有量に対して50モル%を超えており、均一性に劣ることが分かった。
【0099】
図2は、比較例1における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図2に示すように、比較例1における酸化鉄粉末には、球状のシリカ粒子が多数含まれていることが分かった。
【0100】
比較例2の酸化鉄粉末は、粒子がシリカからなる被覆層を有しおらず、1000℃で3時間加熱すると、彩度が低下し、耐熱性が不十分であることが分かった。
【0101】
市販品である比較例3の酸化鉄粉末は、彩度が低く、かつ、1000℃で3時間加熱すると、彩度が大きく低下し、耐熱性に劣ることが分かった。
【0102】
比較例4及び比較例5の酸化鉄粉末は、粒子がシリカからなる被覆層を有しているが、彩度が低く、かつ、1000℃で3時間加熱すると、彩度が低下し、耐熱性に劣ることが分かった。
【0103】
図3は、左が、比較例2における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、中央が、比較例2における酸化鉄粉末を1000℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、比較例2における酸化鉄粉末を1200℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図4は、左が、実施例1における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、中央が、実施例1における酸化鉄粉末を1100℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、実施例1における酸化鉄粉末を1200℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図5は、左が、実施例4における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、中央が、実施例4における酸化鉄粉末を1100℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、実施例4における酸化鉄粉末を1200℃で3時間加熱した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【0104】
図3に示すように、比較例2における酸化鉄粉末では、1000℃で3時間加熱すると、酸化鉄粒子同士が焼結して粒成長していることが分かった。これに対して、
図4に示すように、実施例1における酸化鉄粉末では、1100℃で3時間加熱しても、酸化鉄粒子が加熱前の構造を保持していることが分かった。また、
図5に示すように、実施例4における酸化鉄粉末では、1200℃で3時間加熱しても、酸化鉄粒子が加熱前の構造を保持していることが分かった。
【0105】
図6は、左が、比較例2における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、比較例2における酸化鉄粉末を粉砕処理した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図7は、左が、実施例4における酸化鉄粉末の走査型電子顕微鏡写真であり、右が、実施例4における酸化鉄粉末を粉砕処理した後の粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【0106】
図6に示すように、比較例2における酸化鉄粉末では、粉砕処理を行うと、酸化鉄粉末の形状が崩れることが分かった。これに対して、
図7に示すように、実施例4における酸化鉄粉末では、粉砕処理を行っても、酸化鉄粒子が粉砕処理前の形状を保持していることが分かった
【0107】
<実施例100>
硫酸鉄7水和物を水に溶解させ、0.5mol・dm-3硫酸鉄水溶液を調製した。硫酸鉄水溶液100mlに、硫酸アルミニウム16水和物を加えた。このとき、Alの使用量が、Al及びFeの総使用量に対して、30モル%となるように、硫酸鉄7水和物と硫酸アルミニウム16水和物の使用量を調整した。水溶液を50℃に設定した恒温水槽で加熱し,金属イオンの12倍モル量(0.6モル)の炭酸水素ナトリウムを、水溶液を撹拌しながら徐々に加えた。その後、水溶液を200rpmで15分間撹拌した。得られた懸濁液を、実施例1と同様に洗浄し乾燥させることで、シリカ被覆処理前の粉末を得た。さらに、シリカ被覆処理前の粉末に対して、実施例1と同様の方法でシリカ被覆処理を行うことにより、酸化鉄粉末を得た。
【0108】
実施例100の酸化鉄粉末について、実施例1と同様の評価を行った。その結果、実施例100の酸化鉄粉末は、彩度が高く、かつ、均一であり、1000℃で3時間加熱しても高い彩度を維持しており、耐熱性に優れることが分かった。また、実施例100の酸化鉄粉末は、粉砕処理を行っても、彩度が大きく低下することなく、鮮やかな赤色が確認され、強度に優れることが分かった。
【0109】
また、実施例100に対して、炭酸水素ナトリウムを炭酸水素アンモニウムに変更して作製した酸化鉄粉末(実施例101)、撹拌速度を200rpmから100rpmに変更して作製した酸化鉄粉末(実施例102)、炭酸水素ナトリウムを炭酸水素アンモニウムに変更し、かつ、撹拌速度を200rpmから100rpmに変更して作製した(実施例103)のいずれの場合にも、実施例100の酸化鉄粉末と同様の結果が得られた。
【0110】
なお、2019年12月20日に出願された日本国特許出願2019-230279号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。