(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】液晶光変調器、液晶表示装置、およびホログラフィ装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1333 20060101AFI20221027BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20221027BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
G02F1/1333
G02F1/1343
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2018196241
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻生 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】青島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 数馬
(72)【発明者】
【氏名】東田 諒
(72)【発明者】
【氏名】船橋 信彦
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-048631(JP,A)
【文献】特開平03-077921(JP,A)
【文献】特開2000-305105(JP,A)
【文献】特表2017-518539(JP,A)
【文献】特開平03-002826(JP,A)
【文献】特開2001-133750(JP,A)
【文献】特開平05-113578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0221287(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1333
G02F 1/1343
G02F 1/13
G02F 1/1368
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、透明電極膜と、液晶層と、x方向とy方向とに二次元配列した画素毎に設けられた画素電極と、前記画素電極のそれぞれに接続する駆動回路を有する回路基板と、を上から順に備える液晶光変調器であって、
前記液晶層の厚さがx方向に隣り合う画素間中心で最小となるように、前記透明電極膜は、下面に、x方向に傾斜した傾斜面を有する凸部がy方向に沿って形成され
、
xy面視で、前記凸部の前記傾斜面の少なくとも一部が、x方向に隣り合う前記画素電極に挟まれた領域と重複していることを特徴とする液晶光変調器。
【請求項2】
透明基板と、透明電極膜と、液晶層と、x方向とy方向とに二次元配列した画素毎に設けられた画素電極と、前記画素電極のそれぞれに接続する駆動回路を有する回路基板と、を上から順に備える液晶光変調器であって、
前記液晶層の厚さが隣り合う画素間中心で最小となるように、前記透明電極膜は、下面に、傾斜面を有する凸部が形成されていると共に、前記凸部に囲まれた凹部が前記画素毎に設けられ
、
xy面視で、前記凸部の前記傾斜面の少なくとも一部が、隣り合う前記画素電極に挟まれた領域と重複していることを特徴とする液晶光変調器。
【請求項3】
前記透明電極膜は、下面の前記凸部に挟まれた凹部の底がxy面に水平な平面であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶光変調器。
【請求項4】
前記凸部は、前記傾斜面よりもxy面に水平寄りに傾斜した面を前記傾斜面に前記画素間中心と反対側で隣接してさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶光変調器。
【請求項5】
前記透明電極膜は、下面の凹凸による高低差の最大値が、前記凸部の最大幅以下である請求項1ないし請求項
4のいずれか一項に記載の液晶光変調器。
【請求項6】
前記透明基板は、下面に、前記透明電極膜の下面の凹凸に対応した凹凸を形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項
5のいずれか一項に記載の液晶光変調器。
【請求項7】
前記画素の配列ピッチが、少なくともx方向において、4μm以下である請求項1ないし請求項
6のいずれか一項に記載の液晶光変調器。
【請求項8】
前記透明電極膜は、下面の凹凸による高低差の最大値が、前記液晶層の最大厚さの20%以上70%以下である請求項1ないし請求項
7のいずれか一項に記載の液晶光変調器。
【請求項9】
垂直配向方式である請求項1ないし請求項
8のいずれか一項に記載の液晶光変調器。
【請求項10】
前記回路基板が結晶シリコンで形成された前記駆動回路を備え、
前記画素電極が金属電極材料からなる請求項1ないし請求項
9のいずれか一項に記載の液晶光変調器。
【請求項11】
前記回路基板が、透明な基板、および前記基板上に薄膜トランジスタで形成された前記駆動回路を備え、
前記画素電極が透明電極材料からなる請求項1ないし請求項
9のいずれか一項に記載の液晶光変調器。
【請求項12】
請求項1ないし請求項
11のいずれか一項に記載の液晶光変調器と、前記液晶光変調器の上側に配置された偏光子と、を備え、上方から光を照射されて、上方に画像を表示する液晶表示装置。
【請求項13】
請求項
11に記載の液晶光変調器と、前記液晶光変調器の上側と下側に配置された2つの偏光子と、を備え、上方または下方の一方から光を照射されて、他方に画像を表示する液晶表示装置。
【請求項14】
請求項
12または請求項
13に記載の液晶表示装置と、前記液晶表示装置に光を照射する光源と、前記液晶表示装置の液晶光変調器の駆動回路および対向電極に接続する電源と、を備えるホログラフィ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶光変調器、ならびにこの液晶光変調器を用いた液晶表示装置およびホログラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)は、画素として光学素子(光変調素子)をマトリクス状に二次元配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ディスプレイ技術、記録技術、レーザー加工等の分野で広く利用されている。空間光変調器は、例えば、液晶や磁気光学材料を光学素子に適用して光の偏光方向を変化させる(旋光させる)もの、あるいは、画素毎に可動式の微小なミラーを備えて光の反射方向を変化させるDMD(Digital Mirror Device)方式のものが開発されている。中でも、旋光角が大きい、すなわち光変調度が高く、また、比較的容易に製造することができる液晶が広く適用されており、高精細な液晶ディスプレイ(LCD)を得るために、画素の微細化について研究されている。
【0003】
ここで、液晶による光学素子(液晶光学素子)について、
図4を参照して簡潔に説明する。
図4に模式的に示すように、液晶光学素子1は、液晶層20と、液晶層20に垂直方向の電圧を印加する一対の電極3,4と、液晶層20の上下にそれぞれ接触して設けられた配向膜21,22と、を備える。電極3,4から電圧を印加されて電界Eが液晶層20に発生すると、棒状の液晶分子2の向きが変化する。
図4(a)、(b)に示す液晶光学素子1は垂直配向(VA:Vertical Alignment)方式であり、無電界状態では液晶分子2が配向膜21,22に対して垂直に起立し、垂直方向の電界E(
図4(b)では、下向きの矢印で表す)によって液晶分子2が倒れる。そして、液晶分子2が垂直に起立した液晶層20を透過した光Lは変調せず、一方、液晶分子2が水平に倒れた液晶層20を透過した光Lは、偏光の向きが回転して出射する。なお、液晶分子2は長さが数nmであり、
図4および後記の
図34においては誇張して表される。
図4においては、電極3,4を透明電極材料で形成して液晶光学素子1が光を透過する構成とし、2枚の偏光子82,81を液晶光学素子1の上下で互いにクロスニコル配置して、上方からの自然光(非偏光)L
uPを、偏光子82を透過させて1つの偏光成分の光Lとして、液晶光学素子1に入射する。電圧を印加されていない液晶光学素子1から出射した光は、偏光子(検光子)81で遮られて暗(黒)表示となり、電圧を印加されている液晶光学素子1から出射した光は、偏光の向きが90°回転しているので偏光子81を透過して明(白)表示となる。なお、電界Eが弱いと液晶分子2の傾斜角が小さく、光Lの旋光角が90°未満となるので、偏光子81で一部が遮られて中間調表示となる。
【0004】
このような液晶光学素子1を光学素子とする空間光変調器(以下、液晶光変調器と称する)110は、一例として、アクティブマトリクス駆動方式の空間光変調器として
図3に示す回路構成を有する。そのために、液晶光変調器110は、
図34に模式的に示すように、液晶層20の上側に透明基板105を土台として全面に設けられた透明電極膜である対向電極104に対し、液晶層20の下側に画素毎に画素電極103を間に絶縁層6を挟んで設け、さらにその下側に、画素電極103に接続する駆動回路7を形成されたSi基板(図示省略)を備える。すなわち、液晶光変調器110はLCOS(Liquid Crystal On Silicon)-SLMで、上方から入射された光が、透明基板105、対向電極104、液晶層20を透過して、金属電極材料からなる画素電極103で反射して上方へ出射する反射型の空間光変調器であり、光が液晶層20を往復して透過する(例えば、特許文献1)。LCOS型の液晶光変調器は、平面視で画素電極103と重複して駆動回路7や駆動回路7に接続する配線71,72,73を配置することができ、さらに駆動回路7のトランジスタ7tがMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)で形成されるので、画素の微細化が数μmピッチにまで実現されている。
【0005】
液晶光変調器110は、信号線71と走査線72によって選択された画素の画素電極103が+(正)または-(負)(
図34では+)の電位となって、GND(0V)に接続された対向電極104との間に垂直方向の電界Eが発生するので、対向電極104と特定の画素電極103に挟まれた領域で液晶分子2の向きが変化する。ただし、画素電極103が間隔を空けて設けられているので、電界Eの発生しない領域が画素間の境界線に沿って存在する。このような平面視において画素電極103のない領域は、非開口部として、例えば格子状のブラックマトリクスで遮光される。なお、液晶光変調器は、一般に交流(AC)電源で駆動されるので、1フレーム毎に、発生する電界が上向きと下向きの交互に入れ替わる。
【0006】
空間光変調器は、電子ホログラフィ装置等への適用のために、画素サイズ(ピッチ)のいっそうの微細化(狭ピッチ化)が要求され、具体的には十分な視域角が得られるように4μm未満とすることが望まれている。しかし、液晶光変調器においては、画素が微細化すると、電界のクロストークが発生し易く、表示のコントラストが低下する。詳しくは、画素毎に区画された画素電極103に対して対向電極104は広く形成されているので、
図34に示すように、明表示の画素111,113の画素電極103から、ある程度外側へ広がって斜め方向に対向電極104へ向かう弱い電界E
Lも発生する。そして、画素ピッチが狭いと、電界E
Lが、非開口部を越えて隣の暗表示の画素112の開口部まで到達する。さらに、隣り合う画素電極103,103の間隙も狭くなるので、画素111,113の画素電極103から、対向電極104と同電位(0V)の画素112の画素電極103へ、面内方向に電界E
IP(横電界)が漏れる。これらの漏れ電界E
L,E
IPによって、画素112においても液晶分子2が傾斜する。その結果、画素112は、開口部においても完全な暗表示(0%)とならない、黒浮きと呼ばれる状態となる。このような液晶光変調器110の暗表示の画素の黒浮きを防止するためには、光源の輝度を低減すればよいが、明表示の画素の輝度が低下することになって望ましくない。
【0007】
液晶光変調器における電界クロストークを抑制するために、隣り合う画素電極間の電位差がより小さくなるように、各画素の映像信号を逐次補正する駆動手段が開示されている(例えば、特許文献2)。特許文献2では、ある画素への印加電圧と隣接画素への電圧差を検出し、その電位差が予め定められた閾値よりも大きい場合には、予め作成した補正テーブルを用いて隣接画素への印加電圧を変更する構成が示される。
【0008】
また、一方向に隣り合う画素の間隙に、液晶層を仕切る壁を誘電体で形成して設けた液晶光変調器が開示されている(非特許文献1)。誘電体壁を隔てた暗表示の画素の開口部への隣の画素からの漏れ電界が抑制されるので、暗表示の質を向上させる(0%により近付ける)ことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4643786号公報
【文献】特許第5045278号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Yoshitomo Isomae, Yosei Shibata, Takahiro Ishinabe, Hideo Fujikake, "Design of 1-μm-pitch liquid crystal spatial light modulators having dielectric shield wall structure for holographic display with wide field of view", Optical Review, Volume 24, Issue 2, pp 165-176, April 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2に記載した液晶光変調器の駆動方法では、液晶光変調器の固有の補正データを予め用意する必要がある。例えば液晶光変調器の生産時に、テスト用信号を表示しながら最適な補正量を決定して作成することになり、また、液晶光変調器の種類毎に作成する必要がある。さらに、横電界を抑制することはできるが、対向電極へ向かって広がる斜め方向の漏れ電界を抑制することはできない。
【0012】
非特許文献1に記載した液晶光変調器は、誘電体壁が厚さ1~数μmの液晶層と同じ厚さであるので、画素のピッチが数μm以下になると幅が1μm未満に狭くなって、アスペクト比が1超~10程度となる。液晶光変調器の製造において、このような微小かつ高アスペクト比の部材を精度よく形成し、1画素ずつ仕切られた間隙に液晶を均一に封入することは困難である。したがって、液晶密度の不均一性や誘電体壁形状の寸法誤差によるコントラストのばらつきが増大する虞がある。
【0013】
本発明は前記問題点に鑑み創案されたものであり、画素が微細で高コントラストな表示が可能な液晶表示装置、さらに視域角が十分に広いホログラフィ装置、これらの液晶表示装置等を構成する液晶光変調器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明に係る液晶光変調器は、透明基板と、透明電極膜と、液晶層と、x方向とy方向とに二次元配列した画素毎に設けられた画素電極と、前記画素電極のそれぞれに接続する駆動回路を有する回路基板と、を上から順に備える。そして液晶光変調器は、前記液晶層の厚さがx方向に隣り合う画素間中心で最小となるように、前記透明電極膜の下面に、x方向に傾斜した傾斜面を有する凸部をy方向に沿って形成され、xy面視で、前記凸部の前記傾斜面の少なくとも一部が、x方向に隣り合う前記画素電極に挟まれた領域と重複している構造とする。または、液晶光変調器は、前記液晶層の厚さが隣り合う画素間中心で最小となるように、前記透明電極膜の下面に、傾斜面を有する凸部を形成されていると共に、前記凸部に囲まれた凹部が前記画素毎に設けられ、xy面視で、前記凸部の前記傾斜面の少なくとも一部が、隣り合う前記画素電極に挟まれた領域と重複していてもよい。
【0015】
かかる構成により、液晶光変調器は、画素間において、対向電極である透明電極膜の凸部が電界をブロックするので、暗表示の画素の開口部への電界の漏れが抑制される。
【0016】
本発明に係る液晶表示装置は、前記液晶光変調器と、前記液晶光変調器の上側に配置された偏光子と、を備え、上方から光を照射されて、上方に画像を表示する。あるいは本発明に係る液晶表示装置は、前記液晶光変調器と、前記液晶光変調器の上側と下側に配置された2つの偏光子と、を備え、上方または下方の一方から光を照射されて、他方に画像を表示する。かかる構成により、液晶表示装置は、明表示の画素の隣の暗表示の画素を十分に暗くすることができる。
【0017】
本発明に係るホログラフィ装置は、前記液晶表示装置と、前記液晶表示装置に光を照射する光源と、前記液晶表示装置の液晶光変調器の駆動回路および対向電極に接続する電源と、を備える。かかる構成により、ホログラフィ装置は、暗表示の画素が黒浮きすることなく表示される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る液晶光変調器および液晶表示装置によれば、画素が微細であっても高コントラストな表示が可能となる。本発明に係るホログラフィ装置によれば、視域角を広く表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る液晶光変調器の構造を説明する外観図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る液晶光変調器の構造を説明する断面図である。
【
図4】液晶光変調器における液晶光学素子の動作を説明する模式図であり、(a) は電圧非印加時、(b)は電圧印加時である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る液晶光変調器の対向電極の形状を説明する外観 図である。
【
図6】本発明に係る液晶光変調器の製造方法における、対向電極の形成工程を模式 的に説明する断面図である。
【
図7】本発明に係る液晶光変調器の動作を説明する模式図であり、
図1に示す液晶 光変調器の断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態の変形例に係る液晶光変調器の対向電極の形状を説明 する外観図である。
【
図9】本発明の第1実施形態の変形例に係る液晶光変調器の対向電極の形状を説明 する外観図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る液晶表示装置の構造を説明する外観図である。
【
図11】本発明に係るホログラフィ装置の構造を説明する模式図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る液晶光変調器の構造を説明する断面図である 。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る液晶光変調器の対向電極の形状を説明する外 観図である。
【
図14】本発明の第2実施形態の変形例に係る液晶光変調器の対向電極の形状を説 明する外観図である。
【
図15】本発明の第2実施形態の変形例に係る液晶光変調器の対向電極の形状を説 明する外観図である。
【
図16】本発明の第2実施形態の変形例に係る液晶光変調器の対向電極の形状を説 明する断面図である。
【
図17】本発明の第3実施形態に係る液晶光変調器の構造を説明する外観図である 。
【
図18】本発明の別の実施形態に係る液晶表示装置の構造を説明する外観図である 。
【
図19】実施例の画素電極と対向電極の形状、およびシミュレーションの観測位置 を説明する平面図である。
【
図20】第1実施形態に係るセル厚1μmのサンプルの電位分布と液晶配向である 。
【
図21】セル厚1μmの比較例のサンプルの電位分布と液晶配向である。
【
図22】セル厚1μmのサンプルの反射率の二次元分布図であり、(a)は第1実 施形態に係るサンプル、(b)は第1実施形態の変形例に係るサンプル、(c)は比 較例である。
【
図23】第1実施形態に係るセル厚1.5μmのサンプルの電位分布と液晶配向で ある。
【
図24】セル厚1.5μmの比較例のサンプルの電位分布と液晶配向である。
【
図25】セル厚1.5μmのサンプルの反射率の二次元分布図であり、(a)は第 1実施形態に係るサンプル、(b)は比較例である。
【
図26】第1実施形態および比較例に係るサンプルの反射率分布である。
【
図27】明表示と暗表示の画素の中心における反射率およびコントラスト比の、対 向電極の凸部の高さ依存性を表すグラフである。
【
図28】第2実施形態に係るセル厚1μm、対向電極の凸部の幅300nmのサン プルの電位分布と液晶配向である。
【
図29】第2実施形態に係るセル厚1μm、対向電極の凸部の幅400nmのサン プルの電位分布と液晶配向である。
【
図30】第2実施形態に係るセル厚1μm、対向電極の凸部の幅600nmのサン プルの電位分布と液晶配向である。
【
図31】第2実施形態に係るセル厚1μmのサンプルの反射率の二次元分布図であ り、対向電極の凸部の幅が(a)は300nm、(b)は400nm、(c)は60 0nmである。
【
図32】第1、第2実施形態に係るセル厚1μm、対向電極の凸部の高さ300n mのサンプル、およびセル厚1μmの比較例のサンプルの反射率分布である。
【
図33】明表示と暗表示の画素の中心における反射率およびコントラスト比の、対 向電極の凸部の幅依存性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る液晶光変調器および液晶表示装置を実現するための形態について、図を参照して説明する。図面に示す液晶光変調器およびその要素は、説明を明確にするために、大きさや位置関係等を誇張していることがあり、また、形状を単純化していることがある。
【0021】
〔第1実施形態:液晶光変調器〕
本発明の第1実施形態に係る液晶光変調器10は、画素(液晶光学素子)がX方向とY方向とに二次元配列され、
図1および
図2に示すように、液晶層20、液晶層20を上下から挟む、対向電極(透明電極膜)4と画素毎に設けられた画素電極3、画素電極3に接続する駆動回路7(
図3参照)を形成されたSi基板(回路基板)70、ならびに最上層の透明基板5を備え、対向電極4の下面には、画素毎に凹みを有するように凹凸が形成されている。液晶光変調器10はさらに、液晶層20の上下にそれぞれ接触して設けられた配向膜21,22、Si基板70上でY方向に延設した信号線(ソース線)71ならびにX方向に延設した走査線(ゲート線)72および共通電極線(コモン線)73(適宜まとめて、配線71,72,73)、Si基板70への光を遮る遮光膜74、画素電極3および配線71,72,73の層間等を絶縁する絶縁層6を備える。すなわち、液晶光変調器10は、上から順に、透明基板5、対向電極4、配向膜21、液晶層20、配向膜22、画素電極3、絶縁層6ならびに遮光膜74および配線71,72,73、Si基板70を備える。なお、
図1では、液晶層20および配向膜22は透明として、配向膜22と液晶層20との界面を破線で表す。また、
図1は画素中心を含むY方向に沿った断面を示し、
図2は画素中心を含むX方向に沿った断面を示す。液晶光変調器10は、上方から入射された光を反射して上方へ出射し、その際に選択された画素において光の偏光方向を変化させる反射型の空間光変調器である。
【0022】
また、液晶光変調器10は、アクティブマトリクス駆動方式の空間光変調器であり、一例として、
図3に示すように、画素毎の駆動回路7がトランジスタ7tおよび蓄積容量7cを備える。トランジスタ7tは、ソースが信号線71に、ゲートが走査線72に、ドレインが液晶光学素子1の画素電極3の側に接続する。蓄積容量7cは、端子の一方がトランジスタ7tのドレインおよび液晶光学素子1に接続し、他方が共通電極線73を経由してGNDに接続する。
【0023】
液晶光変調器10の画素は、平面(XY面を指す)視が矩形で、本実施形態においてはY方向に長い長方形であるが、これに限られず、液晶光変調器10の用途等に応じて、アスペクト比1~3程度に設計される。画素のサイズ(ピッチ)は、液晶光変調器10の用途等に応じて設計されるが、少なくともX方向長(短辺長)pXが4μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。特に、液晶光変調器10が電子ホログラフィ装置に適用される場合には、視域角を大きくするために画素(pX,pY)が小さいことが好ましい。以下、本実施形態に係る液晶光変調器を構成する各要素を詳細に説明する。
【0024】
(液晶層)
液晶層20は、液晶材料からなり、ねじれネマティック(TN:Twisted Nematic)方式や垂直配向(VA:Vertical Alignment)方式等の液晶ディスプレイの表示装置に適用される公知の材料が挙げられる。液晶層20は、比較的視野角が広く、暗表示に優れたVA方式が好ましく、そのために、負の誘電率異方性を有する液晶(n型液晶)が適用される。液晶層20は、
図4を参照して前記したように、無電界状態(初期状態)では液晶分子2が垂直(Z方向)に起立し、垂直方向の電界Eによって液晶分子2が倒れる。このような液晶分子2の向きは、主に配向膜21,22によって制御される。液晶層20の厚さ(セル厚)dは、所望の光学特性が得られるように、液晶材料等に応じて0.5~5μm程度の範囲で設計され、セル厚dが小さいほど、液晶光変調器10の応答速度が高速になる。一方、セル厚dが画素サイズに対して大きいと、斜め方向の漏れ電界E
L(
図34参照)が強くなり、対向電極4の下面の形状と併せても電界の漏れを十分に抑制することが困難になる。具体的には、セル厚dは、2μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましく、また、X方向長(短辺長)p
Xの1.5倍以下であることが好ましく、1倍以下であることがさらに好ましい。本実施形態において、セル厚dは、最大となる画素中心における液晶層20の厚さとする。
【0025】
なお、詳しくは後記液晶表示装置の動作として説明するように、液晶層20は、液晶分子2の光学的異方性により、
図4(b)に示すように液晶分子2が傾斜している(非垂直である)時に、透過する光の偏光成分による位相差δが生じる。したがって、
図4(b)に示す液晶層20を透過した直線偏光は、位相差δがπの整数倍の場合を除き、円偏光(位相差δがπ/2の奇数倍のとき)や楕円偏光となる。なお、
図4(b)では簡潔に、90°旋光した直線偏光を示している。液晶層20は、最大駆動電圧印加により液晶分子2が完全に倒れた状態(
図4(b)参照)において、位相差δがπとなることが好ましく、本実施形態に係る液晶光変調器10は反射型の空間光変調器であるので、位相差δが半分のπ/2となるセル厚dであることが好ましい。
【0026】
(画素電極)
画素電極3は、選択した画素に限定して液晶層20に垂直方向の電界を発生させるために、画素毎に設けられ、絶縁層6を貫通するコンタクト部(図示省略)でSi基板70の表層に形成された駆動回路7に接続する。画素電極3は、互いに間隙lgX,lgY(適宜まとめて、間隙lg)を空けて設けられるため、本実施形態では、平面視形状が画素よりも一回り小さな矩形に形成されている。平面視で、画素において画素電極3が設けられた領域を開口部、その外側の領域を非開口部と称する。隣り合う画素電極3,3の間隙lgが広いほど、明表示の画素とその隣の暗表示の画素の画素電極3,3間での漏れ電界(横電界)EIPが抑制され易い。一方で、間隙lgが広いと、画素電極3の平面視サイズが小さくなり、画素の開口率が低くなる。したがって、間隙lgは、セル厚dや対向電極4の下面の凸部4rの形状と併せて、画素の開口率を確保しつつ、漏れ電界EIPがより抑制されるように設計されることが好ましい。
【0027】
液晶光変調器10は反射型の空間光変調器であり、画素電極3は、光を透過しなくてよいので、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr,Pt,Ru等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成され、また、前記金属や合金の2種類以上を積層してもよい。特に、最上層には、配向膜22との密着性のよい材料を適用することが好ましい。また、画素電極3は、上方から入射した光に対して反射率が高くなるように、光反射率の高い材料を十分な厚さで備えることが好ましく、その上に必要に応じて厚さ1~10nmの密着性のよい材料を積層してもよい。金属電極材料は、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等により所望の平面視形状に加工される。
【0028】
(対向電極)
対向電極4は、液晶光変調器10のすべての画素で共有されている電極であり、一体に連続した膜として設けられる。また、対向電極4は、液晶層20に対面する下面が凹凸面であり、
図5に下面を上に向けて示すように、四角錐の4側面の二等辺三角形を内壁面とする凹部が画素毎に形成され、画素中心に凹頂点を有する。したがって、対向電極4は、X方向、Y方向のそれぞれにおける画素間中心線(
図5に一点鎖線で表す)上に凸稜線を有し、画素間中心で液晶層20の厚さが最小となる。言い換えると、対向電極4の下面の凹凸は、画素中心の凹頂点を囲むように、X方向、Y方向のそれぞれに沿った畝状の凸部4rを画素間に有する。この凸部4rは、傾斜面を有し、断面形状が、底辺を上(透明基板5の側)に向けた二等辺三角形となる。
【0029】
対向電極4が、画素間中心で突出するように形成されていることにより、後記するように電界の漏れが抑制される。この効果を十分に得るために、凸部4rの高さ(凹凸による高低差の最大値)hが、セル厚dの20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、大きいほど効果が高い。ただし、凸部4rの高さhがセル厚dの70%を超えて大きくなっても効果がそれ以上には向上し難いので、70%以下であることが好ましい。また、凸部4rの高さhが大きくなると、凸部4rのアスペクト比(凸部4rの幅w
rに対する高さhの比)が高くなって、対向電極4の凹凸を形成し難くなり、さらに、対向電極4の下面の勾配(2h/w
r)が急に(垂直に近く)なるので、これを被覆する配向膜21も形成し難くなる場合がある。凸部4rの幅w
rとは、最大幅である断面視での二等辺三角形の底辺の長さであり、本実施形態においては画素長p
X,p
Yと一致して、X方向における幅w
rXとY方向における幅w
rYとが異なる(w
rX=p
X、w
rY=p
Y)。また、後記するように、液晶層20の液晶分子2は、無電界状態では、配向膜21,22の膜面に垂直に起立する。したがって、凸部4rのアスペクト比が高いと、対向電極4の下面の勾配(2h/w
r)が急になるので、対向電極4(凸部4r)の近傍で液晶分子2が大きく傾斜して、暗表示が十分に暗くならない。また、凸部4rの高さhが大きいと開口部における対向電極4の高低差h
a(
図1参照)が大きくなり、この開口部高低差h
aがセル厚d比で大きい場合、画素電極3-対向電極4間距離、および液晶層20の厚さについて、画素中心と開口部周縁との相対的な差が大きくなる。そのため、電圧印加時に、光路長の短い開口部周縁で旋光角が小さくなったり、画素中心部で電界が弱くなって液晶分子2が十分な傾斜角で倒れなかったりして、明表示の画素(開口部)内で輝度のムラを生じることになる。具体的には、凸部4rのアスペクト比が1以下(h≦w
r)であることが好ましく、1/2以下(2h≦w
r)であることがより好ましく、1/3以下(3h≦w
r)であることがさらに好ましい。なお、対向電極4は、最薄部である画素中心で、必要な導電性を確保することのできる厚さとする。
【0030】
対向電極4は、液晶光変調器10の光の入射側に設けられるため、光を透過するように、透明電極材料で形成される。透明電極材料は、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン-酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In2O3)等の公知の導電性酸化物からなる。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により成膜され、後記するように、ナノインプリントリソグラフィ(NIL)とエッチングによって表面(下面)に凹凸を形成される。または、PEDOT/PSS(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene) / poly(4-styrenesulfonate))等の導電性高分子を適用して、金型で直接に凹凸を転写して成型することもできる。
【0031】
(配向膜)
配向膜21および配向膜22は、液晶分子2の向きを制御するために、液晶層20の上下に接触して設けられる。配向膜21,22は、ポリイミド等の有機膜やSi酸化物(SiOx)等の無機膜であり、表示方式に対応した公知の材料が適用され、数十~100nm程度の膜厚に形成される。対向電極4を被覆して形成される配向膜21は、対向電極4の下面の凹凸に沿って一様な厚さに形成される。一方、配向膜22は、表面(液晶層20に接する面)が平坦に形成されることが好ましい。本実施形態では、VA方式として、配向膜21,22は、初期状態で液晶分子2を膜面に垂直に起立させるように、疎水基を導入したポリイミドやSiOx(x=1~2程度)等が適用される。配向膜21,22は、さらに必要に応じて、電圧印加時に液晶分子2が所定の方向へ倒れるように、表面(液晶層20に接触する面)に配向処理を施されていてもよい。例えば、ポリイミドは、塗布法によって成膜された後にUV照射によって配向処理され、SiOxは、斜方蒸着によって成膜と同時に配向処理される。
【0032】
(透明基板)
透明基板5は、対向電極4および配向膜21を形成するための土台であり、Si基板70と共に、液晶層20を支持するための土台である。透明基板5は、液晶光変調器10の光の入射側に設けられるため、光を透過するように、公知の透明基板材料が適用される。具体的には、SiO2(酸化ケイ素、ガラス)、サファイア、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。
【0033】
(Si基板)
Si基板70は、駆動回路7や画素電極3等を形成するための土台であり、さらに駆動回路7の材料である。また、透明基板5と共に、液晶層20を支持するための土台である。本実施形態では、トランジスタ7tがMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)で形成されるため、Si基板70は、単結晶シリコン基板を材料とすることが好ましく、駆動回路7の構成等に応じて、n型Si基板やp型Si基板を適用することができる。また、蓄積容量7cは、Si基板70の表層のSiとその上に形成した絶縁膜とpoly-Si膜の3層構造とすることができる。
【0034】
(配線、遮光膜)
信号線71、走査線72、および共通電極線73は、駆動回路7に入力して画素を選択するためにSi基板70上に設けられ、画素電極3と同様に一般的な金属電極材料で形成され、エッチングやダマシン法等の公知の半導体の配線形成方法で形成される。遮光膜74は、Si基板70に光が入射しないように、必要に応じて、平面視で画素電極3が設けられない領域に設けられ、ここでは、信号線71と共に金属電極材料で同じ層に形成されている。
【0035】
(絶縁層)
絶縁層6は、Si基板70上に設けられて、配線71,72,73や画素電極3の間を絶縁する。さらに、絶縁層6は、液晶層20の下面を平坦化するように、画素電極3,3間を埋めて設けられることが好ましい。絶縁層6は、半導体素子等に設けられる公知の無機絶縁材料が適用でき、具体的には、SiO2やAl2O3等の酸化膜やSi3N4やMgF2等が挙げられ、2種類以上の材料を適用されてもよい。
【0036】
(液晶光変調器の製造方法)
本実施形態に係る液晶光変調器は、公知のLCOS型の液晶光変調器と同様の製造方法において、対向電極の形成時に表面(下面)に凹凸を形成する工程を追加して製造することができる。液晶光変調器の製造方法は、透明基板5上に対向電極4および上側の配向膜21を形成する対向基板工程と、Si基板70上に駆動回路7、配線71,72,73、画素電極3および下側の配向膜22を形成する回路基板工程と、を個別に行い、その後、これらの透明基板5とSi基板70を、配向膜21,22同士が対面するように重ね合わせ、間に液晶材料を封入して液晶層20を形成するセル組立工程を行う。以下、各工程の詳細について一例を説明する。
【0037】
対向基板工程について、
図6を参照して説明する。本工程においては、
図6も含め、液晶光変調器10における下側を上として説明する。透明基板5上に、ITO等の導電性酸化物を、対向電極4の凸部4rを有する部分(画素間中心)の厚さよりも厚く成膜する。この導電性酸化物膜(図中、符号「4」を付す)上に熱硬化樹脂の塗料を塗布し、形成された樹脂膜RMに、
図6(a)に示すように金型(モールド)MLを押し付けて、金型MLの転写面形状を樹脂膜RMの表面に転写する。そして、金型MLを押し付けた状態で加熱して樹脂膜RMを硬化させた後、金型MLを樹脂膜RMから離型する。これにより、樹脂膜RMの表面に、対向電極4に対応した凹凸形状が形成される。なお、樹脂膜RMにUV硬化樹脂を適用して、加熱に代えてUV照射により樹脂膜RMを硬化させてもよい。そのため、石英等のUV透過率の高い材料で形成された金型MLを使用し、あるいは透明基板5および対向電極(導電性酸化物膜)4のUV透過率が十分に高い場合には、透明基板5の側からUV照射することができる。
【0038】
図6(b)、(c)に示すように、樹脂膜RMの上から異方性エッチングを行って、樹脂膜RMを完全に除去し、さらにその下の導電性酸化物膜を部分的に除去する。これにより、エッチング前の樹脂膜RMの表面の凹凸形状が導電性酸化物膜の表面に転写されて、対向電極4が形成される。必要に応じて、その次に、または樹脂膜RMを形成する前の導電性酸化物膜に、アニール処理を施してもよい。
【0039】
配向膜21を対向電極4の凹凸面上に形成する。配向膜21の材料に応じて、凹凸面であっても均一な厚さで成膜することのできる方法を適用する。有機膜を適用する場合には、例えばスピンコート法で膜材料を対向電極4上に塗布し、乾燥させる。その後、必要に応じて、配向処理を施す。
【0040】
回路基板工程について説明する。ここでは、Si基板70にn型Si基板(n-sub)を適用する。まず、駆動回路7のトランジスタ7tおよび蓄積容量7cを形成する領域(アクティブ領域)外のSiO2の埋込みを行い、次に、p型不純物イオンを注入して、p-wellを画素毎に形成する。蓄積容量7cを形成する領域に、n型不純物イオンを注入して表層に蓄積容量7cの下側の端子を形成し、その上に絶縁膜を形成する。一方、トランジスタ7tを形成する領域に、ゲート酸化膜を形成する。次に、poly-Si膜で、トランジスタ7tのゲートと蓄積容量7cの上側の端子を形成する。n型不純物イオンを注入して、トランジスタ7tのソースおよびドレインとしてn+拡散層を形成する。また、p型不純物イオンを注入して、p-wellをGNDに接続するためのp+拡散層を形成する。
【0041】
Si基板70上に層間絶縁膜(絶縁層6)を成膜して、この層間絶縁膜の、蓄積容量7cの上下の端子、トランジスタ7tのソース、ドレイン、ゲート、およびp+拡散層のそれぞれの上にホール(孔)を形成する。金属電極材料を成膜して層間絶縁膜のホールに埋め込み、さらに層間絶縁膜を成膜して、ホールやトレンチ(溝)を形成して金属電極材料を埋め込む。このように、絶縁膜の成膜および加工と金属電極材料の成膜とを繰り返して、トランジスタ7tのソースに接続する信号線71、ゲートに接続する走査線72、蓄積容量7cの下側の端子に接続する共通電極線73を形成し、また、トランジスタ7tのドレインと蓄積容量7cの上側の端子とを接続する配線(接続部)を形成する。さらにこの接続部を層間絶縁膜の表面で露出させて、画素電極3を接続するコンタクト部とする。また、信号線71等と共に遮光膜74を形成する。必要に応じて最後に、または途中で、表面を平坦化処理する。
【0042】
層間絶縁膜上にさらに絶縁膜を画素電極3の厚さに成膜し、フォトリソグラフィとエッチングで画素電極3の形状のトレンチを形成して底にコンタクト部を露出させる。この上から金属電極材料を成膜してトレンチに埋め込んで画素電極3を形成する。その上に、配向膜22を、配向膜21と同様に、材料に応じた方法で均一な厚さに形成する。
【0043】
セル組立工程について説明する。液晶材料の封入方法は、液晶材料等に応じた方法が適用され、VA方式では、一般に液晶滴下充填(ODF:one drop fill)法が適用される。まず、Si基板70の配向膜22を形成した面上の周縁(画素を二次元配列した領域の外側)に、セル厚dに対応した厚さの枠状のシール材(図示せず)をUV硬化型樹脂等で形成し、シール材の枠内に液晶材料を滴下する。真空中で、Si基板70の上に、シール材および液晶材料(液晶層20)を挟んで、配向膜21を下に向けて透明基板5を貼り合わせ、シール材を硬化させて密着させ、液晶層20を封止する。
【0044】
(液晶光変調器の動作)
本発明に係る液晶光変調器の動作について、
図7、および適宜
図4を参照して説明する。明表示の画素11,13においては、画素電極3が+または-(
図7では+)の電位となって、GND(0V)に接続された対向電極4との間に垂直方向の電界Eが発生する。同時に、
図34を参照して前記したように、画素電極3から外側(非開口部)へ広がって斜め方向に対向電極4へ向かう弱い電界E
Lも発生する。しかし、液晶光変調器10では、対向電極4が、画素間中心において突出して形成されているため、この対向電極4の凸部4rで斜め方向の漏れ電界E
Lがブロックされて、凸部4rの向こう側の暗表示の画素12にまでは到達し難い。さらに、凸部4rによって、非開口部における対向電極4、画素電極3間の距離が短く、低抵抗になるため、凸部4rが、画素11,13の画素電極3から電位0Vの画素12の画素電極3へ向かう電界E
IPをトラップして、この電界E
IPを弱くする。
【0045】
このように、明表示の画素11,13の隣の(間に挟まれた)暗表示の画素12の開口部への、液晶層20の液晶分子2を傾斜させる漏れ電界E
L,E
IPの発生が抑制される。したがって、画素12の開口部は、液晶分子2の意図しない傾斜が抑制され、クロスニコル配置の偏光子81,82によって十分な暗表示を得ることができる(
図4(a)参照)。
【0046】
(液晶光変調器の変形例)
本実施形態に係る液晶光変調器10において、対向電極4の下面は、X方向にのみ凹凸が形成されていてもよい。すなわち、
図8に示すように、Y方向に沿った畝状の凸部4rを形成された対向電極4Aを適用することができる。Y方向においては、画素長p
Yが十分に長いので、対向電極4Aが平坦でも、暗状態の画素の画素中心近傍まで漏れ電界E
L,E
IPが到達し難い。さらに、Y方向の漏れ電界E
L,E
IPを抑制するために、Y方向の間隙l
gYが広くなるように画素電極3の形状を設計することが好ましい。このような一方向に沿った凸部4rを有する対向電極4Aによれば、画素電極3-対向電極4間距離が画素中心の一点に偏って大きくなく、さらに開口部高低差h
aが小さいので、明表示の画素内のムラが抑制され、また、製造が容易である。また、凸部4rのY方向の幅w
rYをX方向に合わせてもよい(p
X=w
rX=w
rY<p
Y)。すなわち、
図9に示すように、画素中心にY方向に沿った水平な凹稜線を有する、二等辺三角形と等脚台形を2面ずつ内壁面とする、寄棟屋根の形状の凹部を下面に有する対向電極4Bを適用することができる。このような対向電極4Bを備えることで、X,Y方向共に漏れ電界E
L,E
IPが抑制され、さらに、
図8に示す前記変形例と同様に、開口部高低差h
aが小さく、明表示の画素内のムラが抑制される。
【0047】
〔液晶表示装置〕
本発明の第1実施形態およびその変形例に係る液晶光変調器10は、一般的な反射型の液晶光変調器と同様に液晶表示装置に使用される。
図10に示すように、本発明の実施形態に係る液晶表示装置100は、液晶光変調器10、および液晶光変調器10の上側に配置された偏光板(偏光子)81を備え、偏光板81の上方から光を照射されて、同じく偏光板81の上方に画像を表示する。液晶表示装置100はさらに、液晶光変調器10と偏光板81の間に位相差板83を備えることが好ましい。また、液晶光変調器10の画素の非開口部を遮光するように、格子状のブラックマトリクスを備えてもよい(図示せず)。フルカラー表示装置とする場合には、ブラックマトリクスと共にカラーフィルタを備える(図示せず)。カラーフィルタおよびブラックマトリクスは、液晶光変調器10の透明基板5上に配置されてもよいし、対向電極4の形成前に透明基板5の下面に形成されていてもよい。液晶表示装置100に照射する光は、外光やレーザー光等、用途に応じて選択される。
【0048】
偏光板81は、外部から入射された自然光を1つの偏光成分の光(1つの向きの直線偏光)として液晶光変調器10に入射するとともに、液晶光変調器10から出射した光から、前記の向きの偏光を透過して表示させる。液晶表示装置100においては、偏光板81は、透過軸を90°(Y方向)(吸収軸を0°)にして配置され、振動方向90°の直線偏光を透過させる。
【0049】
位相差板83は、液晶層20による光の位相差を補償するために設けられ、λ/2位相差板(1/2波長板)やλ/4位相差板(1/4波長板)が適用される。液晶は、その液晶分子の光学的異方性のために、液晶分子の向きによって屈折率が変化する。具体的には、液晶層20は、
図4(a)に示すように液晶分子2が垂直方向のときには、偏光成分による位相差δが0であるのに対し、液晶分子2が傾斜していると位相差を生じる。ここでは、
図4(b)に示すように液晶分子2が水平方向のときには、位相差δをλ/4とする。本実施形態においては、液晶層20に位相差が生じている状態で明表示されるので、角度による位相差変化を生じ、視野角が狭くなる。そこで、液晶層20による位相差を位相差板83で補償することが好ましい。ここでは、位相差板83は、λ/4位相差板とし、遅相軸を45°にして配置される。
【0050】
(液晶表示装置の動作)
本実施形態に係る液晶表示装置の動作について説明する。まず、暗状態の画素1(
図4(a)参照)における動作を説明する。上方から入射した自然光は、偏光板81によってY方向の直線偏光となり、この直線偏光が位相差板83によって、左回りの円偏光に変換される。この円偏光が、透明基板5および対向電極4を透過して、液晶層20に進入する。液晶層20は液晶分子2が垂直方向であるため、左回りの円偏光はそのままの状態で透過し、画素電極3に到達する。左回りの円偏光は、画素電極3で反射する際に右回りの円偏光となって、再び液晶層20を透過し、さらに対向電極4および透明基板5を透過して、位相差板83に進入する。位相差板83は、右回りの円偏光をX方向の直線偏光に変換するため、直線偏光が偏光板81で遮光されて出射しない。
【0051】
次に、明状態の画素1(
図4(b)参照)における動作を説明する。暗状態の画素1と同様に、液晶層20には上方から左回りの円偏光が進入し、液晶層20は左回りの円偏光をX方向の直線偏光に変換して透過させる。直線偏光は、画素電極3で反射する際に状態が変化せず、下方から再び液晶層20に進入する。そして、液晶層20はX方向の直線偏光を左回りの円偏光に戻し、位相差板83がY方向の直線偏光に変換するため、直線偏光が偏光板81を透過して出射する。
【0052】
このように、反射型の液晶光変調器10を備える液晶表示装置100は、1枚の偏光板81を備えて、自然光を入射して、明表示に選択した画素から光を取り出すことができる。さらに液晶表示装置100は、位相差板83を備えることにより、視野角を広く表示することができる。
【0053】
〔ホログラフィ装置〕
本発明の実施形態に係る液晶表示装置100は、ホログラフィ装置に使用することができる。
図11に示すように、本発明の実施形態に係るホログラフィ装置200は、液晶表示装置100と、液晶表示装置100の液晶光変調器10を駆動する駆動部91と、液晶表示装置100に光を照射する光源装置92と、液晶表示装置100からの出射光を再生像VIとする出力光学系96を備える。駆動部91は、電界Eを発生させる電源を備え、外部からの信号により信号線71および走査線72を選択する。光源装置92は、レーザー光源93およびコリメータレンズ94を備え、液晶表示装置100に平行光を照射する。出力光学系96は、液晶表示装置100の寸法や再生する像VIの寸法等に応じて、レンズやマイクロレンズを二次元配列したレンズアレイを1ないし複数備える(
図11では2つのレンズを示す)。
【0054】
図11に示すホログラフィ装置200は、入射光と出射光の光路が一致しないように、液晶表示装置100に入射光が少し傾斜して入射されるように光源装置92が配置され、これに合わせて出力光学系96が配置されている。液晶表示装置100の入射面に垂直に光を照射する(入射角0°)場合には、光源装置92または出力光学系96がビームスプリッタ(ハーフミラー)を備えて、入射光または出射光を反射させる構成とする。
【0055】
以上のように、本発明の第1実施形態およびその変形例に係る液晶光変調器によれば、微細化した画素を備え、かつ電界クロストークが抑制されるため、暗表示の画素に黒浮きを生じず、高コントラストに表示される液晶表示装置が得られる。そして、高精細な液晶表示装置を使用したホログラフィ装置によれば、明るい再生像が広い視域角で得られる。
【0056】
〔第2実施形態:液晶光変調器〕
第1実施形態およびその変形例に係る液晶光変調器は、対向電極の液晶層側の面全体が傾斜面であるため、暗表示の質を向上させようと対極電極の凸部を高く形成すると、画素の中心と開口部周縁とで画素電極-対向電極間距離の差が大きくなって、明表示の画素における輝度ムラが大きくなり、実効的な開口部が縮小される。そこで、第1実施形態と同様に暗表示の画素の黒浮きを防止しつつ、明表示の画素の輝度ムラを抑制する。以下、第2実施形態に係る液晶光変調器について説明する。第1実施形態(
図1~9参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0057】
図12に示すように、本発明の第2実施形態に係る液晶光変調器10Aは、対向電極(透明電極膜)4Cを除いて、
図1および
図2に示す第1実施形態に係る液晶光変調器10と同一の構造である。さらに対向電極4Cは、下面の形状が異なる以外は、第1実施形態の対向電極4と同一の構造である。
【0058】
(対向電極)
対向電極4Cは、液晶層20に対面する下面が凹凸面であり、
図13に下面を上に向けて示すように、四角錐台の4側面の等脚台形を内壁面とし、上底面を底面とする凹部が画素毎に形成されている。したがって、X方向、Y方向のそれぞれにおける画素間中心線(
図13に一点鎖線で表す)上に凸稜線を有し、一方、画素中心を内包する水平面を有する。言い換えると、対向電極4Cの下面の凹凸は、第1実施形態と同様に、X方向、Y方向のそれぞれに沿った畝状の凸部4rを画素間に有し、この凸部4rの断面形状は、底辺を上(透明基板5の側)に向けた二等辺三角形となる。ただし、本実施形態では、凸部4rの幅w
rX,w
rYが、それぞれ画素長p
X,p
Yよりも短く(p
X>w
rX、p
Y>w
rY)、また、X,Y方向で同じ長さとする(w
rX=w
rY=w
r)。
【0059】
本実施形態においても、対向電極4Cが、画素間中心で突出するように形成されていることにより、電界の漏れが抑制される(
図7参照)。一方で、凸部4rが画素全体に形成されずに、対向電極4Cの下面が画素中央部に水平面を有しているので、凸部4rの高さhが大きくても開口部高低差h
aが小さく、明表示の画素内のムラが抑制される。特に好ましくは、凸部4rの幅w
rが画素電極3,3の間隙l
g以下(w
r≦l
g)、すなわち、凸部4rが非開口部に限定して設けられ、対向電極4Cの下面が開口部全体において水平面で開口部高低差h
aが0である。このような対向電極4Cによれば、凸部4rのアスペクト比が高くても、無電界時に、開口部における対向電極4Cの近傍の液晶分子2が傾斜しない。したがって、対向電極4Cや配向膜21の形成が困難にならない範囲で、凸部4rの高さhを大きく設計することができる。すなわち、第1実施形態と同様に、凸部4rのアスペクト比が1以下(h≦w
r)であることが好ましい。また、凸部4rが間隙l
gを超える幅w
r(w
r>l
g)で開口部に及んで設けられる場合には、アスペクト比1/2以下(2h≦w
r)であることがより好ましく、1/3以下(3h≦w
r)であることがさらに好ましい。また、凸部4rは、X方向とY方向とで幅w
rX,w
rYが異なっていてもよい。
【0060】
(液晶光変調器の変形例)
本実施形態に係る液晶光変調器10Aにおいても、対向電極4Cの下面は、X方向にのみ凹凸が形成されていてもよい。すなわち、
図14に示すように、Y方向に沿った畝状の凸部4rを形成された対向電極4Dを適用することができる。また、
図15に示すように、凸部4rの頂部にも水平面を備えて、断面形状を等脚台形としてもよい。このような対向電極4Eの凸部4rの頂部の幅は、幅w
rよりも小さいものとし、凸部4rの傾斜面(対向電極4Eの下面)の勾配が2以下となるように、(w
r-h)以下であることが好ましい。また、凸部4rの頂部の幅は、画素電極3,3の間隙l
gよりも小さいことが好ましい。
【0061】
さらに別の変形例として、
図16に示すように、高アスペクト比で幅(w
r1X,w
r1Y)の狭い凸部4r
1を、比較的アスペクト比が低く画素中心まで設けられた凸部4r
2に積み重ねた2段構造の凸部4rを形成された対向電極4Fを適用することができる。凸部4r
1は、画素間中心上に凸稜線を有し、幅w
r1X,w
r1Y(適宜まとめて、幅w
r1)が画素長p
X,p
Yよりも小さく(w
r1X<p
X、w
r1Y<p
Y)、好ましくは画素電極3,3の間隙l
g以下(w
r1≦l
g)、すなわち非開口部に限定して設けられる。凸部4r
2は、第1実施形態の対向電極4(
図5参照)の凸部4rのように、四角錐の4側面で構成され、画素中心に凹頂点を有する。対向電極4Fは、当該対向電極4Fおよび配向膜21の形成を困難にすることなく凸部4rの高さhを大きく設計することができて、電界の漏れを抑制する効果を高くし、かつ、開口部における下面の勾配が緩いので、無電界時に対向電極4Fの近傍の液晶分子2が傾斜しない。そのために、対向電極4Fは、凸部4r
1のアスペクト比が1以下であることが好ましく、凸部4r
2のアスペクト比が1/2以下(下面の勾配が1以下)であることが好ましく、1/3以下(下面の勾配が2/3以下)であることがより好ましい。
【0062】
第2実施形態およびその変形例の対向電極4C,4D,4E,4Fは、第1実施形態と同様に、透明電極材料をナノインプリントリソグラフィとエッチングによって加工して形成することができる。
【0063】
第2実施形態およびその変形例に係る液晶光変調器10Aは、第1実施形態に係る液晶光変調器10と同様に、液晶表示装置100に使用され(
図10参照)、さらにこの液晶表示装置100は、ホログラフィ装置200に使用することができる(
図11参照)。
【0064】
以上のように、本発明の第2実施形態およびその変形例に係る液晶光変調器によれば、第1実施形態と同様に、微細化した画素を備えて、暗表示の画素に黒浮きを生じず、高コントラストに表示される液晶表示装置が得られ、さらに、実効的な開口率が広くなり、明表示の画素が高輝度となる。
【0065】
〔第3実施形態:液晶光変調器〕
第1、第2実施形態およびその変形例に係る液晶光変調器は、反射型の空間光変調器であるが、透過型の空間光変調器とすることもできる。以下、第3実施形態に係る液晶光変調器について説明する。第1、第2実施形態(
図1~16参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0066】
本発明の第3実施形態に係る液晶光変調器10Bは、
図17に示すように、液晶層20、液晶層20を上下から挟む、対向電極(透明電極膜)4Eと画素毎に設けられた画素電極3A、画素電極3Aに接続する駆動回路7(
図4参照)を上に備える透明基板5B、ならびに最上層の透明基板5Aを備える。液晶光変調器10Bはさらに、液晶層20の上下にそれぞれ接触して設けられた配向膜21,22、透明基板5B上でY方向に延設した信号線71ならびにX方向に延設した走査線72および共通電極線73A(適宜まとめて、配線71,72,73A)と、画素電極3Aおよび配線71,72,73Aの層間等を絶縁する絶縁層6を備える。本実施形態に係る液晶光変調器10Bは、下方から入射された光を透過して上方へ出射し、その際に選択された画素において光の偏光方向を変化させる透過型の空間光変調器である。そのため、液晶光変調器10Bにおいては、画素電極3Aが、光を透過するように透明電極材料で形成される。そして、Si基板70に代えて透明基板5Bを備え、透明基板5B上に駆動回路7(トランジスタ7t、蓄積容量7c)が形成される。また、液晶層20は、1回(片道で)透過した光を90°旋光させる厚さdであることが好ましい。
【0067】
対向電極4Eは、第2実施形態の変形例で説明した通りの形状である(
図15参照)。本実施形態においては、被成膜面に凹凸を形成された透明基板5Aに、透明電極材料を一様な厚さに成膜して対向電極4Eが形成されている。画素電極3Aは、対向電極4Eと同様に、導電性酸化物で形成され、公知の方法により成膜、フォトリソグラフィおよびエッチング等により所望の平面視形状に加工される。本実施形態において、画素電極3Aは、トランジスタ7tを形成される領域を避けて形成され、矩形の1隅を切欠いた平面視形状とする。
【0068】
透明基板5A、および下側の透明基板5Bは、第1実施形態の透明基板5と同様に公知の透明基板材料が適用される。また、透明基板5Aは、前記したように対向電極4E側の面に凹凸が形成されるため、透明な樹脂を適用してもよく、あるいはガラス基板等に樹脂を積層してもよい。一方、透明基板5Bは、駆動回路7、特にトランジスタ7tの半導体材料を形成するための耐熱性を有する材料を適用する。
【0069】
トランジスタ7tは、薄膜トランジスタ(TFT)からなり、TFTの半導体材料として、酸化物半導体、アモルファスシリコン(a-Si)、多結晶シリコン(poly-Si)等が挙げられる。トランジスタ7tは、微細化のために、比較的高い電子移動度を示す酸化物半導体やpoly-Siを適用することが好ましい。液晶光変調器10Bにおいて、トランジスタ7tは画素の隅に配置され、この領域には光が入射しないように構成される。蓄積容量7cは、画素電極3Aの下の層間絶縁膜(絶縁層6)を、さらにその下に形成した共通電極線73Aと画素電極3Aとで挟んだ積層構造とする。ここでは、画素の開口率を低下させないように、共通電極線73Aが透明電極材料で形成されているが、配置等によっては金属電極材料を適用されていてもよい。信号線71および走査線72は、平面視で画素間(非開口部)に配置される。
【0070】
(液晶光変調器の製造方法)
本実施形態に係る液晶光変調器は、公知の透過型の液晶光変調器と同様の製造方法において、対向電極の成膜前に、透明基板5Aの表面(下面)に凹凸を形成する工程を追加して製造することができる。液晶光変調器の製造方法は、透明基板5A上に対向電極4Eおよび上側の配向膜21を形成する対向基板工程と、透明基板5B上に駆動回路7、配線71,72,73A、画素電極3Aおよび下側の配向膜22を形成する回路基板工程と、を個別に行い、その後、これらの透明基板5Aと透明基板5Bを、配向膜21,22同士が対面するように重ね合わせ、間に液晶材料を封入して液晶層20を形成するセル組立工程を行って完成となる。セル組立工程は、第1実施形態と同様である。以下、対向基板工程および回路基板工程の詳細について一例を説明する。
【0071】
対向基板工程について説明する。本実施形態においては、透明基板5Aの表面(下面)を加工して凹凸形状を形成する。透明基板5Aは、第1実施形態の対向電極4の形成と同様に、ナノインプリントリソグラフィとエッチングによって加工して形成することができる(
図6参照)。あるいは、樹脂材料を適用して、金型で直接に凹凸を転写して成型することもできる。透明基板5Aの形成後、その凹凸面上に導電性酸化物を成膜して対向電極4Eを形成する。対向電極4E上に、第1実施形態と同様に、配向膜21を材料に応じた方法で均一な厚さに形成する。
【0072】
回路基板工程について説明する。透明基板5B上に非晶質Si(a-Si)をCVD法等で成膜し、600℃程度のアニール処理でa-Si膜をpoly-Siに結晶化する。poly-Si膜を加工して、トランジスタ7tのソースとドレインを形成する。その上に絶縁膜を成膜して、トランジスタ7tのゲート絶縁膜とする。ゲート絶縁膜上に、金属電極材料を成膜、加工して、トランジスタ7tのゲートおよび走査線72を形成する。また、透明電極材料を成膜、加工して共通電極線73Aを形成する。ゲートの上からトランジスタ7tのpoly-Si膜に不純物を注入する。次に、層間絶縁膜を成膜して、コンタクトホールを形成する。層間絶縁膜上に金属電極材料を成膜、加工して、信号線71を形成する。さらに層間絶縁膜を成膜して、コンタクトホールを形成する。層間絶縁膜上に透明電極材料を成膜、加工して、画素電極3Aを形成する。その上に、配向膜22を形成する。
【0073】
本実施形態に係る液晶光変調器10Bの動作は、
図7を参照して説明した第1実施形態と同様である。また、対向電極4Eに代えて、対向電極4,4A~4D,4Fを適用することができる。
【0074】
〔液晶表示装置〕
本発明の第3実施形態に係る液晶光変調器10Bは、一般的な透過型の液晶光変調器と同様に液晶表示装置に使用される。
図18に示すように、本発明の実施形態に係る液晶表示装置100Aは、液晶光変調器10B、ならびに、液晶光変調器10Bの上側に配置された偏光板(偏光子)81および下側に配置された偏光板(偏光子)82を備え、偏光板82の下方から光を照射されて、偏光板81の上方に画像を表示する。あるいは、液晶表示装置100Aは、上方から光を照射されて、下方に画像を表示することもできる。液晶表示装置100Aはさらに、液晶光変調器10Bと偏光板81,82とのそれぞれの間に位相差板83,84を備えることが好ましい。また、液晶光変調器10Bの画素の非開口部を遮光するように、格子状のブラックマトリクスを備えてもよい(図示せず)。フルカラー表示装置とする場合には、ブラックマトリクスと共にカラーフィルタを備える(図示せず)。カラーフィルタおよびブラックマトリクスは、液晶光変調器10Bの表示側に配置する。液晶表示装置100Aに照射する光は、外光やレーザー光等、用途に応じて選択される。
【0075】
偏光板81,82は共に、液晶表示装置100の偏光板81と同様の構造であり、液晶表示装置100Aにおいては、互いにクロスニコル配置する。上側すなわち光の出射側の偏光板81は、透過軸を90°(Y方向)(吸収軸を0°)にして配置され、振動方向90°の直線偏光を透過させる。一方、下側の偏光板82は、透過軸を0°(X方向)(吸収軸を90°)にして配置され、振動方向0°の直線偏光を透過させる。位相差板83,84は共に、液晶表示装置100の位相差板83と同様の構造であり、同じくλ/4位相差板(1/4波長板)を適用する。位相差板83は遅相軸を45°にして、位相差板84は遅相軸を135°にして、それぞれ配置される
【0076】
(液晶表示装置の動作)
本実施形態に係る液晶表示装置の動作について説明する。まず、暗状態の画素1(
図4(a)参照)における動作を説明する。下方から入射した自然光は、偏光板82によってX方向の直線偏光となり、この直線偏光が位相差板84によって、右回りの円偏光に変換される。この円偏光が、透明基板5Bおよび画素電極3A等を透過して、液晶層20に進入する。液晶層20は液晶分子2が垂直方向であるため、右回りの円偏光はそのままの状態で透過し、対向電極4Eおよび透明基板5Aを透過して、位相差板83に進入する。位相差板83は、右回りの円偏光をX方向の直線偏光に変換するため、直線偏光が偏光板81で遮光されて出射しない。
【0077】
次に、明状態の画素1(
図4(b)参照)における動作を説明する。暗状態の画素1と同様に、液晶層20には下方から右回りの円偏光が進入し、ここでは、液晶層20は右回りの円偏光を左回りの円偏光に変換して透過させる。そして、位相差板83が左回りの円偏光をY方向の直線偏光に変換するため、直線偏光が偏光板81を透過して出射する。
【0078】
このように、透過型の液晶光変調器10Bを備える液晶表示装置100Aは、2枚の偏光板81,82を両側に備えて、自然光を入射して、明表示に選択した画素から光を取り出すことができる。さらに液晶表示装置100Aは、位相差板83,84を備えることにより、視野角を広く表示することができる。なお、液晶光変調器10Bは、一方の面に反射膜を設けたり、透明基板5Bを反射基板としたりして、反射型の液晶光変調器として、液晶表示装置100(
図10参照)に使用されてもよい。
【0079】
〔ホログラフィ装置〕
本発明の実施形態に係る液晶表示装置100Aは、液晶表示装置100と同様に、
図11に示すホログラフィ装置200に使用することができる。本実施形態では、光源装置92と出力光学系96が、間に液晶表示装置100Aを挟んで正対して配置される。
【実施例】
【0080】
本発明の効果を確認するために、シミュレーションにより、本発明の第1、第2実施形態に係る液晶光変調器を模擬したサンプルの光出力特性を観察した。
【0081】
サンプルは、共通の仕様として、下から順に、Si基板、SiO
2膜、膜厚100nmのAl(画素電極)、垂直配向膜、VA液晶(液晶層)、垂直配向膜、ITO膜(対向電極)、ガラス基板とした。対向電極(ITO膜)の厚さは、最薄部で20nmとした。また、
図19で座標平面上に示すように、画素サイズ(ピッチ)は1μm×2μm(p
X=1μm、p
Y=2μm)とし、画素電極(同図に太線枠で表す)は0.58μm×1.58μm(l
g=0.42μm)とした。サンプル毎に液晶層の厚さおよび対向電極の形状を変えて、シミュレーションを実行した。シミュレーション上、膜厚100nmのAl(画素電極)の反射率は100%とみなして計算した。
【0082】
(実施例1)
図5に示す対向電極(w
rX=p
X=1μm、w
rY=p
Y=2μm)を備えた液晶光変調器(
図1参照)のサンプルについて観察した。表1に示すように、液晶層の厚さ(画素中心における厚さ、セル厚d)を1μmとし、対向電極の凸部の高さ(高低差)hを100nmから900nmまで100nm刻みで変化させたサンプル(No.1~9)、セル厚dを1.5μm、対向電極の凸部の高さhを500nmとしたサンプル(No.11)、セル厚dを2μm、対向電極の凸部の高さhを500nmとしたサンプル(No.12)を設定した。なお、対向電極の下面の稜線を、
図19に破線で表す。
【0083】
また、
図8に示す対向電極(w
rX=p
X=1μm、w
rY=0)を備えた液晶光変調器のサンプルについて観察した。セル厚dを1μm、対向電極の凸部の高さhを300nmとしたサンプル(No.10)を設定した。さらに、凸部のない厚さ20nmの対向電極(h=0、w
r=0)を備えた液晶光変調器のサンプル(
図34参照)を比較例1~3として、セル厚dを1μm、1.5μm、2μm(Ref.1,2,3)に設定した。
【0084】
【0085】
図19に示すように、対角線上に2画素ずつ、ON(印加電圧5V)、OFF(0V)として、液晶シミュレータ(LCDMaster、シンテック社製)を用いて、電位分布と液晶配向を求めた。さらに、サンプルの上方にクロスニコル配置した2枚の偏光板を介在させて波長633nmのレーザー光を入射したときの反射率の平面分布を求めた。
【0086】
No.3(h=300nm)および比較例1について、電位分布と液晶配向を、
図20および
図21に示す。また、No.3、No.10、および比較例1について、反射率の二次元分布図を
図22(a)、(b)、(c)に示す。No.11および比較例2について、電位分布と液晶配向を
図23および
図24に、反射率の二次元分布図を
図25(a)、(b)に示す。また、No.3、No.10、No.11、No.12、および比較例1~3について、反射率の分布を
図26に示す。
【0087】
電位分布と液晶配向は、OFFとONの画素の各中心を通るX方向に沿った(Y=1.0μm、
図19の一点鎖線上)断面におけるものを示し、さらに対向電極と画素電極を点線で表す。電位分布図の等電位線は、0.5V刻みであり、一部に電位(単位:V)を付す。反射率分布は、前記一点鎖線上の分布である。
【0088】
No.1~10および比較例1(h=0)より、暗表示(OFF)と明表示(ON)の各画素の中心(X=0.5μm、1.5μm)における反射率およびコントラスト比の凸部の高さ依存性のグラフを
図27に示す。なお、明表示の画素における反射率は、線形グラフでも表す。
【0089】
対向電極が平坦な比較例1では、
図21に示すように暗表示の画素で電界クロストークを生じ、
図22(c)に示すように暗表示の画素が十分に暗くならなかった。これに対して、対向電極に凸部が形成されているNo.3およびNo.10は、
図20に示すように暗表示の画素で斜め方向、横方向の双方で電界クロストークが抑制され、
図22(a)、(b)に示すように暗表示の画素が暗くなった。さらに、
図26に示すように、対向電極の凸部の有無による暗表示の画素における反射率の違いは明らかである。また、
図27に示すように、対向電極の凸部の高さhが大きいほど、暗表示の画素が暗くなって0%に近付いた。一方で、明表示の画素も暗くなったが、コントラスト比としては向上した。なお、No.3とNo.10とで、X方向における反射率の分布にほとんど違いが見られなかった。
【0090】
d=1.5μmのNo.11および比較例2についても、d=1μmのNo.3および比較例1と同様の傾向が確認された。ただし、比較例2は、
図24および
図25(b)に示すように、比較例1よりも電界クロストークが大きく、暗表示の画素が明るかった。そのため、対向電極の凸部の高さhがセル厚比でNo.3以上のNo.11でも、
図23および
図25(a)に示すように、暗表示の画素の電界クロストークが十分に抑制されず、比較例2よりは十分に暗いものの、No.3には及ばなかった。さらに、d=2μmのNo.12および比較例3では、電界クロストークがいっそう大きくなり、
図26に示すように、対向電極に凸部を設けることによって一定の効果があるものの、暗表示の画素が十分に暗くならなかった。
【0091】
ここで、
図26に示すように、No.3、No.10、No.11、No.12は、明表示の画素において、中心(X=1.5μm)をピークとする反射率の位置依存性が比較例1~3よりも大きかった。これは、対向電極の形状により、液晶層の厚さすなわち光路長が画素中心で最大になるような勾配を有するので、液晶分子の状態(向き)が同じであれば反射光の旋光角が画素中心寄りほど大きくなることによると推測される。さらに、セル厚dの大きいNo.11およびNo.12は、暗表示の画素においても、中心(X=0.5μm)をピークに反射率が高かった。なお、それぞれ同じセル厚dの比較例2,3は、反射率が画素中央でほぼ最小となる平坦な分布を示した。これは、対向電極の凸部の傾斜面が急(XZ面において45°)なために、無電界状態において、対向電極近傍の液晶分子が傾斜して配向し、特に、2面または4面の傾斜面で両側から挟まれている対向電極の凹頂点や凹稜線に近い領域、すなわち画素中心寄りの液晶分子が影響を受け易いことによると考えられる。また、前記したように、液晶層の厚さが勾配を有するので反射光の旋光角が画素中心寄りほど大きい。No.11およびNo.12は、電界クロストークが十分に抑制されずに画素中心でもある程度の液晶分子が漏れ電界で傾斜したと推測される。これらが合わさり、No.11およびNo.12は、暗表示の画素においても、画素中心に近いほど反射率が高いという位置依存性を示したと推測される。
【0092】
(実施例2)
図13に示す対向電極を備えた液晶光変調器(
図12参照)の、セル厚dを1μm、対向電極の凸部の高さhを300nmとして、幅w
r(=w
rX=w
rY)を300nm、400nm、600nmとしたサンプル(No.13,14,15)を設定した(表1参照)。前記実施例1と同様に、電位分布と液晶配向、反射率の平面分布を求めた。No.13,14,15について、電位分布と液晶配向を
図28,29,30に、反射率の二次元分布図を
図31(a)、(b)、(c)に示す。
【0093】
No.13,14,15、No.3(w
r=1μm)、および比較例1(w
r=0)について、反射率の分布を
図32(a)に示し、また、明表示の画素(X=1.0~2.0μm)における反射率の分布を、画素中心(X=1.5μm)を1に換算して
図32(b)に示す。また、前記実施例1と同様に、暗表示(OFF)と明表示(ON)の各画素の中心(X=0.5μm、1.5μm)における反射率およびコントラスト比の凸部の幅依存性のグラフを
図33に示す。なお、明表示の画素における反射率は、線形グラフでも表す。
【0094】
図28~30および
図20に示すように、対向電極の凸部の幅w
rを狭く形成しても、電界クロストークの抑制の効果にほとんど違いがなかった。そして、No.13,14,15は、画素中央に液晶層の厚いまとまった領域を有するので、
図31および
図32に示すように、明表示の画素の明るい領域が、No.3,10(
図22(a)、(b)参照)よりも広かった。特に、
図32(b)に示すように、対向電極の凸部の幅w
rが画素電極の間隙l
gと同等以下のNo.13,14は、比較例1以上に明るい領域が広かった。一方で、
図32(a)および
図33に示すように、対向電極の凸部の幅w
rが狭いほど、暗表示の画素において中心(X=0.5μm)の反射率が高くなり、コントラストが低下した。ただし、No.13,14,15は、開口部における周縁では反射率が十分に低く、画素の開口部全体としては十分に暗く表示された。これは、液晶層において、厚さ方向中心部等、画素電極や対向電極の表面の配向膜からの距離の離れた領域では、配向膜による配向規制力が弱く、液晶分子が起立した状態を維持し難く、弱い電界でも向きが変化し易いことによると推測される。対向電極の凸部のない領域は、画素電極-対向電極間距離が最大(=セル厚d)となり、厚さ方向中心部で、画素電極、対向電極のいずれの側の配向膜からも配向規制され難い。ただし、画素の開口部における周縁等は、対向電極の凸部の傾斜面上の配向膜からの距離が近いので、配向規制力が十分に働く。したがって、対向電極の凸部の幅w
rが狭いほど、配向規制力の弱い領域が画素中心で広くなって、明表示の画素からの弱い漏れ電界で傾斜する液晶分子が多くなり、反射率が高くなったと考えられる。
【0095】
以上、本発明の液晶光変調器、液晶表示装置、およびホログラフィ装置を実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
100,100A 液晶表示装置
10,10A,10B 液晶光変調器
1 液晶光学素子、画素
200 ホログラフィ装置
20 液晶層
2 液晶分子
21,22 配向膜
3,3A 画素電極
4,4A~4F 対向電極(透明電極膜)
5,5A 透明基板
5B 透明基板
6 絶縁層
70 Si基板(回路基板)
7 駆動回路
81,82 偏光板(偏光子)
83,84 位相差板