(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】インクジェット印刷を行う錠剤向けのコーティング用組成物、これを用いた水性インクによる印字を有する錠剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 101/26 20060101AFI20221027BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20221027BHJP
A61K 9/44 20060101ALI20221027BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20221027BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20221027BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221027BHJP
A61J 3/06 20060101ALI20221027BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221027BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20221027BHJP
【FI】
C09D101/26
C09D129/04
A61K9/44
A61K9/48
A61K47/38
A61K47/32
A61J3/06 Q
B41M5/00 132
B41M5/00 110
B41M5/00 120
C09D11/54
(21)【出願番号】P 2019106514
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】小林 絢
(72)【発明者】
【氏名】星野 貴史
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-100519(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061989(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199201(WO,A1)
【文献】特開2002-3366(JP,A)
【文献】特開2013-253030(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0132823(US,A1)
【文献】特開2016-172708(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102885798(CN,A)
【文献】特開2017-165723(JP,A)
【文献】特開2016-008294(JP,A)
【文献】特開2008-055696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D 11/00- 13/00
C09D101/00-201/10
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/32- 47/69
A61J 1/00- 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールと、溶媒とを少なくとも含み、前記水溶性セルロースエーテルと前記ポリビニルアルコールとの質量比が99.0:1.0から55.0:45.0であるインクジェット印刷を行う
錠剤向けのコーティング用組成物。
【請求項2】
前記水溶性セルロースエーテルが、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選ばれる請求項1に記載のインクジェット印刷を行う
錠剤向けのコーティング用組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールが、74.0モル%
以上のけん化度を有する請求項1又は請求項2に記載のインクジェット印刷を行う
錠剤向けのコーティング用組成物。
【請求項4】
前記溶媒が、水及び炭素数1~3の低級アルコールからなる群から選ばれる請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット印刷を行う
錠剤向けのコーティング用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング用組成物を、被覆対象物にコーティングしてコーティング層を形成するコーティング工程と、
前記コーティング層に水性インクを用いたインクジェット印刷を行うことにより、水性インクによる印字を備える
錠剤を得る印刷工程と
を少なくとも含む水性インクによる印字を備える
錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記被覆対象物が、活性成分を少なくとも含む芯部であ
る請求項5に記載の水性インクによる印字を備える
錠剤の製造方法。
【請求項7】
前記水性インクが、顔料を含有する請求項
6に記載の水性インクによる印字を備える
錠剤の製造方法。
【請求項8】
2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールとを少なくとも含み、前記水溶性セルロースエーテルと前記ポリビニルアルコールとの質量比が99.0:1.0から55.0:45.0であるコーティング層と、
前記コーティング層上に水性インクによる印字と
を少なくとも備える
錠剤。
【請求項9】
前記水溶性セルロースエーテルが、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選ばれる請求項
8に記載の
錠剤。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコールが、74.0モル%
以上のけん化度を有する請求項
8又は請求項
9に記載の
錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷を行う製剤向けのコーティング用組成物、これを用いた水性インクによる印字を有する製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場で取り扱われる製剤の調剤過誤や服薬ミス、偽造薬の混入を防止する一方で、服薬コンプライアンス向上のため、視覚的識別性に優れた剤形の開発が望まれている。識別性を高める代表的な剤形としては、例えば刻印錠が挙げられるが、刻印部の摩損性や刻印錠にフィルムコーティングを施した際、刻印が埋まり判別しづらくなるといった課題が残る。
【0003】
これらの問題を回避するため、医療用製剤に対しバーコードや商品名、商品コードの印刷を行い、識別性を向上する方法等が知られており、接触型(例えば、オフセット印刷、グラビア印刷)及び非接触型(例えば、インクジェット方式、UVレーザー方式)の印刷法が知られている。例えば、インクジェット方式を採用する錠剤印刷装置を用いることにより、錠剤の表面に圧力を加えることなく、鮮明に画像を印刷することができる。
【0004】
インクジェット印刷に用いられるインクの種類には染料インクと顔料インクがある。染料インクは、色素がインク液中に溶解しているため、容器や液ライン中での分離や沈殿は少ないが、光による退色する欠点がある。一方で顔料インクは、染料インクに比較して変色・退色が起こりにくいため、耐光性の高い医療用製剤を得るには顔料インクの使用が望ましい。例えば、顔料インクを用いた医薬品錠剤印刷用のインク組成物としては、少なくとも、可食性顔料、水、低級アルコール、分散剤及び可塑剤を含有することを特徴とするインク組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1におけるインク組成物においては、インクの組成によっては、印字する製剤の表面に対するインクの馴染みが悪い場合や、滲んでしまう場合があった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、インクの馴染みが良く、インクの滲みが抑えられ光沢性に優れるインクジェット印刷を行う製剤向けのコーティング用組成物、これを用いた水性インクによる印字を有する製剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、水溶性セルロースエーテルとポリビニルアルコールを特定の比率で配合したコーティング用組成物を使用することにより、コーティングされた製剤のインクジェット印刷時において、インクの馴染みが良く、インクの滲みが抑えられ、光沢性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
本発明の1つの態様によれば、2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールと、溶媒とを少なくとも含み、前記水溶性セルロースエーテルと前記ポリビニルアルコールとの質量比が99.0:1.0~55.0:45.0であるインクジェット印刷を行う錠剤向けのコーティング用組成物が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上述のインクジェット印刷を行う錠剤向けのコーティング用組成物を、被覆対象物にコーティングしてコーティング層を形成するコーティング工程と、前記コーティング層に水性インクを用いたインクジェット印刷を行うことにより、水性インクによる印字を備える錠剤を得る印刷工程とを少なくとも含む水性インクによる印字を備える錠剤の製造方法が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールとを少なくとも含み、前記水溶性セルロースエーテルと前記ポリビニルアルコールとの質量比が99.0:1.0~55.0:45.0であるコーティング層と、前記コーティング層上に水性インクによる印字とを少なくとも備える錠剤が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コーティングされた製剤のインクジェット印刷時において、インクの馴染みが良く、インクの滲みが抑えられ、光沢性に優れる、水性インクによる印字を有する錠剤を簡便に提供することができる。また、インクの馴染みが良好であるため、印刷後の乾燥時間の短縮が期待できる。更には、水溶性セルロースエーテルを用いることにより、コーティング時にポリビニルアルコールの粘着性や付着性を低減することができ、スプレー速度の改善効果も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールと、溶媒とを少なくとも含み、前記水溶性セルロースエーテルと前記ポリビニルアルコールとの質量比が99.0:1.0~55.0:45.0であるインクジェット印刷を行う製剤向けのコーティング用組成物について説明する。
【0010】
水溶性セルロースエーテルは、セルロースの水酸基の一部をエーテル化した非イオン性の高分子である。水溶性セルロースエーテルとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。
アルキルセルロースとしては、メチルセルロース等が挙げられる。メチルセルロースにおけるメトキシ基の含有量は、好ましくは26.0~33.0質量%、より好ましくは27.5~31.5質量%である。メチルセルロースにおけるメトキシ基の含有量は、第十七改正日本薬局方のメチルセルロースに関する分析方法に準じて測定できる。
【0011】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシ基の含有量は、好ましくは53.4~80.5質量%、より好ましくは60.0~70.0質量%である。ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシ基の含有量は、第十七改正日本薬局方のヒドロキシプロピルセルロースに関する分析方法に準じて測定できる。
【0012】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」とも記載する)等が挙げられる。HPMCにおけるメトキシ基の含有量は、良好なコーティング層(被膜、フィルム)を付与する観点から、好ましくは16.5~30.0質量%であり、より好ましくは28.0~30.0質量%である。また、HPMCにおけるヒドロキシプロポキシ基の含有量は、良好なコーティング層(被膜、フィルム)を付与する観点から、好ましくは4.0~32.0質量%であり、より好ましくは7.0~12.0質量%である。HPMCにおけるヒドロキシプロポキシ基及びメトキシ基の含有量は、第十七改正日本薬局方の「ヒプロメロース Hypromellose ヒドロキシプロピルメチルセルロース」の項に記載の定量法によって測定できる。
【0013】
水溶性セルロースエーテルとしては、良好なコーティング層(被膜、フィルム)を付与する観点から、メトキシ基の含有量が好ましくは16.5~30.0質量%であり、ヒドロキシプロポキシ基の含有量が好ましくは4.0~32.0質量%であるHPMC等のヒドロキシアルキルアルキルセルロースが好ましい。
【0014】
水溶性セルロースエーテルの2質量%水溶液の20℃における粘度は、2.0~50.0mPa・s、好ましくは2.0~25.0mPa・s、より好ましくは5.0~7.0mPa・sである。2.0mPa・s未満では、水溶性セルロースエーテルの重合度が極端に低下するためコーティング層(被膜、フィルム)としての強度を保持できないおそれがある。一方、50.0mPa・sを超えると、水溶性セルロースエーテルのコーティング用組成物における濃度を低く抑えなければならず、コーティング操作に長時間を有するため効率的な生産を行うことができない。水溶性セルロースエーテルの2質量%水溶液の20℃における粘度は、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定方法の毛細管粘度計法に従い、ウベローデ型粘度計を用いて測定することができる。
【0015】
水溶性セルロースエーテルは、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、水溶性セルロースエーテルは、市販のものを用いることができる。
【0016】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも記載する。)におけるけん化度は、コーティング層(被膜、フィルム)の防湿性の観点から、好ましくは74.0モル%以上、より好ましくは78.0~99.5モル%、更に好ましくは85.0~89.0モル%である。PVAのけん化度は、JIS K6726(1994)に記載のけん化度の測定方法に従い測定することができる。
【0017】
ポリビニルアルコールにおける4質量%水溶液の20℃における粘度は、良好なコーティング層(被膜、フィルム)を付与する観点から、好ましくは2.0~100.0mPa・s、より好ましくは3.0~50.0mPa・sである。ポリビニルアルコールにおける4質量%水溶液の20℃における粘度は、JIS K6726に記載の粘度測定方法に従い測定することができる。
【0018】
ポリビニルアルコールは、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、ポリビニルアルコ―ルは、市販のものを用いることができる。
【0019】
コーティング用組成物中における水溶性セルロースとポリビニルアルコールの質量比は、99.0:1.0~55.0:45.0、好ましくは98.0:2.0~75.0:25.0、より好ましくは97.0:3.0~90.0:10.0である。水溶性セルロースエーテルが55.0未満であると、初期のインクの馴染みに劣り、インクの滲みを低減することができない。また、ポリビニルアルコールが45.0超過であると、インクの滲みを低減することができない。
【0020】
溶媒としては、水、炭素数1~3の低級アルコール等が挙げられ、水と炭素数1~3の低級アルコールの混合溶媒等であってもよい。水としては、精製水等が挙げられる。炭素数1~3の低級アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。溶媒としては、コーティング時における安全性及び操作性の観点から、水が好ましい。
【0021】
溶媒は、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、溶媒は、市販のものを用いることができる。コーティング用組成物における溶媒の含有量は、コーティング時における操作性及び作業性の観点から、水溶性セルロースエーテルとPVAの総質量100質量部に対して、好ましくは200~1500質量部、より好ましくは800~1400質量部である。
【0022】
コーティング用組成物には、必要に応じて、添加剤を含めてもよい。添加剤としては、可塑剤、滑択剤、光沢化剤、界面活性剤、着色剤、可食性顔料、甘味料、コーティング剤、消泡剤等が挙げられる。
可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、クエン酸トリエチル等が挙げられる。
滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸等が挙げられる。
光沢化剤としては、カルナウバロウ、シェラック、ミツロウ、硬化油、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0023】
界面活性剤としては、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ショ糖脂肪酸エステル、マクロゴール400、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等が挙げられる。
着色剤としては、黄酸化鉄、三二酸化鉄(赤色)、オレンジエッセンス、褐色酸化鉄、カラメル、軽質無水ケイ酸、食用青色5号、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用青色2号、タルク、フルオレセインナトリウム、緑茶末、ビタミンC、食用レーキ色素、カロチノイド系色素、フラボノイド系色素、キノン系色素等が挙げられる。
【0024】
可食性顔料としては、カーボンブラック、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色40号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄等が挙げられる。
甘味料としては、アセスルファムカリウム、スクラロース、パラチノース、マルトース、キシリトール等が挙げられる。
コーティング剤としては、アラビアゴム、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルエチルセルロース等が挙げられる。
消泡剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ジメチルポリシロキサン、二酸化ケイ素混合物、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0025】
コーティング用組成物における添加剤の含有量は、特に限定されないが、水溶性セルロースエーテルとPVAの総質量100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは0~100質量部である。
【0026】
コーティング用組成物は、2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールと、溶媒、必要に応じて添加剤を混合することにより、コーティング用組成物を得る工程により製造することができる。
2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールと、溶媒と、必要に応じての添加剤の混合は、特に制限されない。例えば、水溶性セルロースエーテル及びポリビニルアルコールの「ままこ」の形成やゲル化を防ぐ観点から、ポリビニルアルコールと溶媒を混合することにより、ポリビニルアルコール溶液を得る工程と、前記ポリビニルアルコール溶液と水溶性セルロースを混合する工程を少なくとも含むコーティング用組成物の製造方法を用いることが好ましい。
【0027】
ポリビニルアルコールと溶媒を混合することにより、ポリビニルアルコール溶液を得る工程においては、好ましくは20~30℃の溶媒にポリビニルアルコールを分散したのちに、好ましくは50~80℃まで加温し、混合することにより、ポリビニルアルコールを溶解して、ポリビニルアルコール溶液を得ることが好ましい。
また、前記ポリビニルアルコール溶液と水溶性セルロースを混合することにより、コーティング用組成物を得る工程においては、好ましくは70~90℃の前記ポリビニルアルコール溶液に水溶性セルロースエーテルを分散したのちに、好ましくは15~30℃まで冷却し、混合することにより、水溶性セルロースエーテルを溶解してコーティング用組成物を得ることが好ましい。
【0028】
2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールと、溶媒と、必要に応じての添加剤の混合は、撹拌機を用いて行うことができる。混合時間は、2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールを溶媒に溶解させることができれば特に制限されない。
【0029】
次に、前述のインクジェット印刷を行う製剤向けのコーティング用組成物を、被覆対象物にコーティングしてコーティング層を形成するコーティング工程と、前記コーティング層に水性インクを用いたインクジェット印刷を行うことにより、水性インクによる印字を有する製剤を得る印字工程とを少なくとも含む水性インクによる印字を有する製剤の製造方法について説明する。
【0030】
まず、水性インクによる印字を有する製剤の製造方法におけるコーティング工程について説明する。被覆対象物は、好ましくは、活性成分を少なくとも含む芯部又はカプセルの成形ピンである。具体的には、好ましくは、前記コーティング工程としては、活性成分を少なくとも含む芯部に、前述のコーティング用組成物をコーティングすることにより行われる場合と、カプセルの成形ピンに前述のコーティング用組成物をコーティングすることにより行われる場合である。
【0031】
はじめに、活性成分を少なくとも含む芯部に、前述のコーティング用組成物をコーティングすることにより行われる場合について説明する。
活性成分としては、経口投与可能な活性成分であれば特に限定されるものではないが、医薬品に用いられる薬物、並びに栄養機能食品、特定保健用食品及び機能性表示食品等の健康食品に用いられる活性成分等が挙げられる。
【0032】
医薬品に用いられる薬物としては、中枢神経系薬物、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質、鎮咳・去たん剤、抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛消炎剤、利尿剤、自律神経作用薬、抗マラリア剤、止潟剤、向精神剤、ビタミン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0033】
中枢神経系薬物としては、ジアゼパム、イデベノン、ナプロキセン、ピロキシカム、インドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン及びクロルジアゼポキシド等が挙げられる。
循環器系薬物としては、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ピンドロール、カプトプリル、硝酸イソソルビト、塩酸デラプリル、塩酸メクロフェノキサート、塩酸ジルチアゼム、塩酸エチレフリン、ジギトキシン及び塩酸アルプレノロール等が挙げられる。
【0034】
呼吸器系薬物としては、アムレキサノクス、デキストロメトルファン、テオフィリン、プソイドエフェドリン、サルブタモール及びグアイフェネシン等が挙げられる。
消化器系薬物としては、2-[〔3-メチル-4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-2-ピリジル〕メチルスルフィニル]ベンゾイミダゾール及び5-メトキシ-2-〔(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンゾイミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンゾイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、塩酸ピレンゼピン、パンクレアチン、ビサコジル及び5-アミノサリチル酸等が挙げられる。
【0035】
抗生物質としては、塩酸タランピシリン、塩酸バカンピシリン、セファクロル及びエリスロマイシン等が挙げられる。
鎮咳・去たん剤としては、塩酸ノスカピン、クエン酸カルベタペンタン、クエン酸イソアミニル及びリン酸ジメモルファン等が挙げられる。
抗ヒスタミン剤としては、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン及び塩酸プロメタジン等が挙げられる。
解熱鎮痛消炎剤としては、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、スルピリン、アスピリン及びケトプロフェン等が挙げられる。
利尿剤としては、カフェイン等が挙げられる。
【0036】
自律神経作用薬としては、リン酸ジヒドロコデイン及びdl-塩酸メチルエフェドリン、硫酸アトロピン、塩化アセチルコリン、ネオスチグミン等が挙げられる。
抗マラリア剤としては、塩酸キニーネ等が挙げられる。
止潟剤としては、塩酸ロペラミド等が挙げられる。
向精神剤としては、クロルプロマジン等が挙げられる。
ビタミン類及びその誘導体としては、ビタミンA、ビタミンB1、フルスルチアミン、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸カルシウム及びトラネキサム酸等が挙げられる。
【0037】
健康食品に用いられる活性成分としては、前記ビタミン類及びその誘導体、ミネラル、カロテノイド、アミノ酸及びその誘導体、植物エキス並びに健康食品素材等が挙げられる。
【0038】
ミネラルとしては、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、銅、セレン、クロム、硫黄、ヨウ素等が挙げられる。
カロテノイドとしては、β-カロチン、α-カロチン、ルテイン、クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、リコペン、アスタキサンチン、マルチカロチン等が挙げられる。
アミノ酸としては、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸及び酸性アミノ酸アミド等が挙げられる。
酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸等が挙げられる。
塩基性アミノ酸としては、リシン、アルギニン及びヒスチジン等が挙げられる。
【0039】
中性アミノ酸としては、アラニン及びグリシン等の直鎖状の脂肪族アミノ酸、バリン、ロイシン及びイソロイシン等の分岐状の脂肪族アミノ酸、セリン及びトレオニン等のヒドロキシアミノ酸、システイン及びメチオニン等の含硫アミノ酸、フェニルアラニン及びチロシン等の芳香族アミノ酸、トリプトファン等の複素環式アミノ酸及びプロリン等のイミノ酸等が挙げられる。
酸性アミノ酸アミドとしては、アスパラギン及びグルタミン等が挙げられる。
アミノ酸誘導体としては、アセチルグルタミン、アセチルシステイン、カルボキシメチルシステイン、アセチルチロシン、アセチルヒドロキシプロリン、5-ヒドロキシプロリン、グルタチオン、クレアチン、S-アデノシルメチオニン、グリシルグリシン、グリシルグルタミン、ドーパ、アラニルグルタミン、カルニチン及びγ-アミノ酪酸等が挙げられる。
【0040】
植物エキスとしては、アロエ、プロポリス、アガリクス、高麗人参、イチョウ葉、ウコン、クルクミン、発芽玄米、椎茸菌糸体、甜茶、甘茶、メシマコブ、ごま、にんにく、マカ、冬虫夏草、カミツレ及びトウガラシ等が挙げられる。
健康食品素材としては、ローヤルゼリー、食物繊維、プロテイン、ビフィズス菌、乳酸菌、キトサン、酵母、グルコサミン、レシチン、ポリフェノール、動物魚介軟骨、スッポン、ラクトフェリン、シジミ、エイコサペンタエン酸、ゲルマニウム、酵素、クレアチン、カルニチン、クエン酸、ラズベリーケトン、コエンザイムQ10、メチルスルホニルメタン及びリン脂質結合大豆ペプチド等が挙げられる。
【0041】
活性成分の使用量は、製剤の種類に応じて適宜決定することができる。活性成分は、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、活性成分は、市販のものを用いることができる。
【0042】
活性成分を少なくとも含む芯部には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑択剤(凝集防止剤)、流動化剤、着色剤、医薬化合物の溶解補助剤等の添加剤を配合してもよい。
賦形剤としては、白糖、乳糖、マンニトール、グルコース等の糖類、でんぷん、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、グルコース、白糖、乳糖、麦芽糖、デキストリン、ソルビトール、マンニトール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類(例えば、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000等)、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、でんぷん(コーンスターチ等)等が挙げられる。
【0043】
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポリビニルピロリドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。
滑択剤(凝集防止剤)としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
流動化剤としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、酸化チタン等が挙げられる。
着色剤としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用青色1号、食用青色2号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号等が挙げられる。
医薬化合物の溶解補助剤としては、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0044】
添加剤の使用量は、製剤の種類等に応じて適宜決定することができる。添加剤は、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、添加剤は、市販のものを用いることができる。
【0045】
活性成分を少なくとも含む芯部の形状(剤形)は、特に限定されず、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、カプセル剤等の経口固形製剤等が挙げられるが、その中でも特に錠剤が好ましい。
錠剤としては、素錠、糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠(多層フィルムコーティング錠を含む)、腸溶性コーティング錠、有核錠(圧縮被包錠)等が挙げられる。
また、活性成分を少なくとも含む芯部には、必要に応じて、コーティング用組成物をコーティングする前に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のコーティング基剤を用いて、アンダーコーティングの処理を行ってもよい。
活性成分を少なくとも含む芯部へのコーティングは、コーティング装置等を用いて行うことができる。コーティング装置としては、パンコーティング装置、ドラムタイプコーティング装置、流動層コーティング装置、撹拌流動コーティング装置等が挙げられる。
また、コーティング装置に付帯するスプレー装置としては、エアースプレー、エアレススプレー、3流体スプレー等が挙げられるが、いずれを用いてもよい。
また、コーティング後、必要に応じて乾燥してもよい。
【0046】
活性成分を少なくとも含む芯部の表面にコーティングされるコーティング用組成物の被覆量は、製剤の種類、形、大きさ、表面状態、製剤中に含まれる薬物及び添加剤の性質等に応じて適宜決定することができる。例えば、活性成分を少なくとも含む芯部の形状(剤形)が錠剤である場合においては、錠剤100質量部に対して、好ましくは1~10質量部であり、更に好ましくは1~7質量部であり、特に好ましくは2~6質量部である。
【0047】
また、錠剤におけるコーティング層の厚みは、均一な連続被膜(層)の形成の観点から、好ましくは20~30μmである。錠剤におけるコーティング層の厚みは、デジタルマイクロスコープVHX-2000(株式会社キーエンス)を用いて測定することができる。
【0048】
次に、カプセルの成形ピンに前述のインクジェット印刷を行う製剤向けのコーティング用組成物をコーティングすることにより行われる場合について説明する。
カプセルの成形ピンへの前述のコーティング用組成物のコーティングは、前述のコーティング用組成物にカプセルの成形ピンを浸漬して引き上げることにより行うことができる。
カプセルの成形ピンへの前述のコーティング用組成物のコーティングは、グアーガム、キサンタンガム等のゲル化剤を含むコーティング用組成物に5~20℃のピンを浸漬する冷ピン法と、ゲル化剤を含まないコーティング用組成物に40~95℃のピンを浸漬するピン加熱法のどちらを用いてもよい。
その後、カプセルの成形ピンに付着した組成物を乾燥させてコーティング層(被膜、フィルム)を成形し、次いでピン上に成形されたコーティング層(被膜、フィルム)を外し、切断、嵌合することによりカプセルを製造することができる。
【0049】
次に、水性インクによる印字を有する製剤の製造方法における印字工程について説明する。水性インクは公知のものを用いることができ、例えば、水性インクは、着色剤(色素)と、炭素数1~3の低級アルコール及び水の混合物である溶剤とを少なくとも含む。
着色剤は、可食性であることが好ましい。着色剤としては、顔料、染料等が挙げられる。
顔料としては、植物炭末色素、カーボンブラック、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用赤色40号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄等が挙げられる。
植物炭末色素としては、竹炭色素、スギ炭色素、ヤシ殻炭色素等が挙げられる。
染料としては、食用合成色素、食用天然色素等が挙げられる。
【0050】
着色剤は、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、着色剤は、市販のものを用いることができる。水性インクにおける着色剤の含有量は、コーティング用組成物により形成されたコーティング層へのマーキング性能の観点から、好ましくは5~15質量%である。
【0051】
炭素数1~3の低級アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。炭素数1~3の低級アルコールは、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。また、炭素数1~3の低級アルコールは、市販のものを用いることができる。水性インクにおける炭素数1~3の低級アルコールの含有量としては、水性インクの安定性及び乾燥性の観点から、好ましくは5~60質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0052】
水としては、精製水等が挙げられる。水性インクにおける水としては、水性インクの安全性及び操作性の観点から、好ましくは25~90質量%、より好ましくは50~80質量%である。
【0053】
水性インクを用いたインクジェット印刷は、公知の方法により、行うことができる。
また、インクジェット印刷前に、本発明の効果を損なわない範囲においてコーティング層(被膜、フィルム)の上に、光沢化剤を用いてコーティング処理を行ってもよい。光沢化剤としては、カルナバロウ、サラシミツロウ等が挙げられる。
【0054】
上述のようにして、前述のコーティング用組成物により形成されたコーティング層と、前記コーティング層上に水性インクによる印字とを少なくとも備える製剤を製造することができる。製剤として、例えば、錠剤、カプセルが挙げられる。前述のコーティング用組成物により形成されたコーティング層は、溶媒等の揮発成分が除去されるため、2質量%水溶液の20℃における粘度が2.0~50.0mPa・sである水溶性セルロースエーテルと、ポリビニルアルコールとを少なくとも含み、前記水溶性セルロースエーテルと前記ポリビニルアルコールとの質量比が99.0:1.0から55.0:45.0であるコーティング層となる。
例えば、活性成分を少なくとも含む芯部と、前記芯部の上の当該コーティング層と、当該コーティング層上に水性インクによる印字とを少なくとも備える製剤を製造できる。また、当該コーティング層がカプセルシェルであり、当該カプセルシェルの上に水性インクによる印字とを少なくとも備えるカプセルを製造できる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
ポリビニルアルコール(けん化度88.0モル%、4質量%水溶液の20℃における粘度5.30mPa・s、日本酢ビ・ポバール社製)1.5gを、270gの精製水に撹拌機(ラボスターラ(LT-400D)、ヤマト科学社製)を用いて25℃、560rpmで2分間撹拌することにより水に分散した後、60℃、560rpmで6分間撹拌することにより精製水に溶解してポリビニルアルコールの水溶液を調製した。
調製したポリビニルアルコールの水溶液を撹拌機(ラボスターラ(LT-400D)、ヤマト科学社製)を用いて80℃、560rpmで撹拌しながら、HPMC(2質量%水溶液の20℃における粘度:5.91mPa・s、メトキシ基の含有量28.8質量%、ヒドロキシプロポキシ基の含有量8.8質量%)28.5gを添加し80℃、560rpmで3分間撹拌することにより水に分散した後、20℃、560rpmで5分間撹拌することによりHPMCを溶解して、インクジェット印刷を行う製剤向けのコーティング用組成物を製造した。
得られたコーティング用組成物を用いて、下記のコーティング条件の下、素錠100質量部に対して固形分(HPMC及びPVA)で3質量部になるまでコーティングを行い、コーティング用組成物の噴霧を行わずに30分間、同一装置内にて給気温度を50~60℃、パン回転数を18rpmとして乾燥を行うことにより、素錠上にコーティング層を形成した。
【0056】
<素錠の組成>
乳糖:80.7質量%(Pharmatose® 200M、DFEPh arma社製)
コーンスターチ:9.0質量%(コーンスターチ、日本食品化工株式会社製)
HPMC:2.9質量%(20℃における2質量%水溶液の粘度5.91mPa・s、メトキシ基の含有量28.9質量%、ヒドロキシプロポキシ基の含有量8.9%)
軽質無水ケイ酸:3.9質量%(アドソリダー(登録商標)101、フロイント産業社製)
低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「L-HPC」とも記載する。):3.0質量%(ヒドロキシプロポキシ基11質量%)
ステアリン酸マグネシウム:0.5質量%(ステアリン酸マグネシウム、太平化学産業社製)
<錠剤の形状と質量>
錠剤形状:直径8.0mm、曲率半径6.5 mm
錠剤質量:190mg/錠
【0057】
<コーティング条件>
装置:通気式パンコーティング装置(HICOATERFZ LABO、コーティングパンの内径30cm、フロイント産業社製)
素錠の仕込み量:1kg
給気温度:50~60℃
排気温度:25~30℃
吸気エアー量:0.6m3/min
パン回転数:18rpm
スプレー速度:5.0~6.0g/min
スプレーエアー圧:150kPa
ノズル径 1.0mm
【0058】
素錠上におけるコーティング層に対し、下記の条件にて、インクの馴染み、滲み及び光沢度を評価した。なお、インクの馴染みについては、接触角及びその変化率を考察することにより、インクの滲みについては、液滴の接地幅の変化率を考察することにより、評価した。また、コーティング被膜の厚みは、25μmであった。なお、光沢度は印字前のコーティング層に対して評価した。
【0059】
<厚み測定条件>
装置:デジタルマイクロスコープVHX-2000(株式会社キーエンス)
なお、測定手法としては、錠剤断面を観察することにより、コーティング被膜の厚みを測定した。
【0060】
<水性インクの組成>
表1~2に記載。なお、竹炭色素としては、共立食品株式会社製の「食用色素 黒」を使用した。
【0061】
<接触角の測定条件>
装置:接触角・表面張力測定装置FTA1000(ファーストテンオングストロームFirstTen Angstroms社製)
液滴サイズ:2μL
測定時間:50秒
気温:25℃
湿度:40%
なお、「初期の接触角」とは、液滴と錠剤のコーティング層が初めに接触した時点において測定された接触角のことをいう。すなわち、0秒後における接触角である。また、接触角変化率は、以下の式により、算出される。
接触角の変化率=(初期の接触角-測定終了時の接触角)×100/初期の接触角
更に、「初期の液滴の接地幅」とは、液滴と錠剤のコーティング層が初めに接触した時点において測定された液滴の接地幅のことをいう。すなわち、0秒後における液滴の接地幅である。また、液滴の接地幅の変化率は、以下の式により、算出される。
液滴の接地幅の変化率
=(測定終了時の液滴の接地幅-初期の液滴の接地幅)×100/初期の液滴の接地幅
【0062】
<接触角の評価基準>
以下、各評価基準に基づき、「◎」は「良好」、「○」は「普通」、「×」は「不良」と判定した。
初期の接触角
◎:80°以上
○:60°以上80°未満
×:60°未満
接触角の変化率
◎:20%以上
○:16%以上20%未満
×:16%未満
初期の液滴の接地幅
◎:0.65μm以下
○:0.65μm超過0.75μm以下
×:0.75μm超過
液滴の接地幅の変化率
◎:20%未満
○:20%以上21%未満
×:21%以上
【0063】
<光沢度の測定条件>
装置:デジタル光沢度計GM-26D(村上色彩技術研究所)
入射角:60°
<光沢度の評価基準>
◎:4.5以上
○:4.0以上4.5未満
×:4.0未満
【0064】
実施例2~3並びに比較例1~3
コーティング用組成物の組成を表1に記載される組成に変更すること以外は、実施例1と同様にインクジェット印刷を行う製剤向けのコーティング用組成物を製造し、素錠に対してコーティングを行い、インクの馴染み、滲み及び光沢度の評価を行った。結果を表1~2に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
コーティング層が水溶性セルロースエーテルとPVAを所定の質量比で含む実施例1、2及び3においては、インクの馴染みが良好であり、滲みが抑えられる結果となり、光沢性も良好であった。
一方、コーティング層が水溶性セルロースエーテルとPVAを含むものの、その質量比が特定の範囲外である比較例1においては、インク接着後の馴染み及び光沢性は良好であるものの、初期のインクの馴染みや、インク接着後の継時的な滲みは劣る結果となった。また、コーティング層が水溶性セルロースエーテルのみを含む比較例2においては、液滴の接地幅の変化率は良好であったため、インクの滲みは抑えられているものの、接触角の変化率が小さく、インクの馴染みが劣る結果となった。更に、コーティング層がPVAのみを含む比較例3においては、初期の接触角が小さく、すぐに馴染んでしまい、また、初期の液滴接地幅が大きいため、滲んでしまう結果となり、更に光沢性も十分でなかった。
そして、実施例1、2及び3より、水溶性セルロースエーテルの質量比が高まるにつれて、インクの馴染みがより改善されることが知見された。