(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20221027BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20221027BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20221027BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20221027BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20221027BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/01
C08L83/06
C09K5/14 E
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2019236990
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇則
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】塚田 淳一
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101402798(CN,A)
【文献】特開2007-70608(JP,A)
【文献】特開2015-71662(JP,A)
【文献】特開平9-151324(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098719(WO,A1)
【文献】特開平6-293861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09K 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(E)成分を含む、熱伝導性シリコーン樹脂組成物であり、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基の個数に対するケイ素原子に結合した水素原子の個数の比が0.1~2となる量
(C)熱伝導性充填材:2500~6000質量部
(D)付加反応触媒:触媒量、及び
(E)付加反応制御剤:0.01~1質量部
前記(C)熱伝導性充填材が、比表面積0.4m
2/g以下を有する酸化マグネシウムを(C)成分の総重量に対し20~50wt%で含み、且つ、水酸化アルミニウムを(C)成分の総重量に対し10~30wt%で含むことを特徴とする、熱伝導性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)熱伝導性充填材が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種をさらに含む、請求項1記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)熱伝導性充填材が、体積平均粒径1~90μmの酸化アルミニウムを(C)成分の総重量に対して20~70wt%となる量で含む、請求項2記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化マグネシウムの体積平均粒径が50~120μmである、請求項1~3のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
前記水酸化アルミニウムの体積平均粒径が1~50μmである、請求項1~4のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
(F)下記式(1)で表される、分子鎖片末端にトリアルコキシシリル基を有するジメチルポリシロキサン100~300質量部をさらに含有する、請求項1~5のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物
【化1】
(式中、R
5は互いに独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である)。
【請求項7】
(G)下記一般式(2):
R
6-(SiR
6
2O)
dSiR
6
3 (2)
(R
6は互いに独立に、炭素原子数1~8の、脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基であり、dは5~2000の整数である)
で表される、25℃における動粘度10~100000mm
2/sを有するオルガノポリシロキサン1~40質量部をさらに含有する、請求項1~6のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物。
【請求項8】
25℃における粘度600Pa・s以下50Pa・s以上を有する、請求項1~7のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項10】
比重3.1g/cm
3以下を有する、請求項9記載の硬化物。
【請求項11】
熱伝導率3.5W/m・K以上を有する、請求項9又は10記載の硬化物。
【請求項12】
AskerC硬度60以下を有する、請求項9~11のいずれか1項記載の硬化物。
【請求項13】
PETフィルムと、請求項9~12のいずれか1項記載の硬化物とを有する、熱伝導性シリコーン放熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝導性シリコーン樹脂組成物に関し、より詳細には、熱伝導による電子部品の冷却のために、発熱性電子部品の熱境界面とヒートシンク又は回路基板などの発熱散部材との界面に、好適に使用される熱伝達材料、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置され放熱に用いられる熱伝導性樹脂コンパウンドおよび熱伝導性樹脂成型体として利用され得る、熱伝導性シリコーン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話等の電子機器に使用されるCPU、ドライバICやメモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇はチップの動作不良、破壊を引き起こす。そのため、動作中のチップの温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
従来、電子機器等においては、動作中のチップの温度上昇を抑えるために、アルミニウムや銅等の熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されている。このヒートシンクは、そのチップが発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。
【0004】
チップから発生する熱をヒートシンクに効率よく伝えるために、ヒートシンクをチップに密着させる必要があるが、各チップの高さの違いや組み付け加工による公差があるため、柔軟性を有するシートや、グリースをチップとヒートシンクとの間に介装させ、このシート又はグリースを介してチップからヒートシンクへの熱伝導を実現している。
【0005】
シートはグリースに比べ、取り扱い性に優れており、熱伝導性シリコーンゴム等で形成された熱伝導シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)は様々な分野に用いられている。
【0006】
特開昭47-32400号公報(特許文献1)には、シリコーンゴム等の合成ゴム100質量部に酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物を100~800質量部配合した絶縁性組成物が開示されている。
【0007】
また、絶縁性を必要としない場所に用いられる放熱材料として、特開昭56-100849号公報(特許文献2)には、付加硬化型シリコーンゴム組成物にシリカ及び銀、金、ケイ素等の熱伝導性粉末を60~500質量部配合した組成物が開示されている。
【0008】
しかし、これらの熱伝導性材料は、いずれも熱伝導率が低く、また、熱伝導性を向上させるために熱伝導性充填材を多量に高充填すると、液状シリコーンゴム組成物の場合は流動性が低下し、ミラブルタイプのシリコーンゴム組成物の場合は可塑度が増加して、いずれも成形加工性が非常に悪くなるという問題があった。
【0009】
そこで、これを解決する方法として、特開平1-69661号公報(特許文献3)には、平均粒径5μm以下のアルミナ粒子10~30質量%と、残部が単一粒子の平均粒径10μm以上であり、かつカッティングエッジを有しない形状である球状コランダム粒子からなるアルミナを充填する高熱伝導性ゴム・プラスチック組成物が開示されている。また、特開平4-328163号公報(特許文献4)には、平均重合度6,000~12,000のガム状のオルガノポリシロキサンと平均重合度200~2,000のオイル状のオルガノポリシロキサンを併用したベースと球状酸化アルミニウム粉末500~1,200質量部からなる熱伝導性シリコーンゴム組成物が開示されている。
【0010】
シリコーン組成物の熱伝導率を上げるためには、ポリマーに対して熱伝導性充填材をより高充填する方法が一般的である。しかしながら、熱伝導性充填材は、酸化アルミナ(比重3.9)や、酸化亜鉛(比重5.6)に代表されるように、その比重がシリコーンポリマーと比較して大きいため、熱伝導率を高めるため、その充填量を増やせば増やすほど組成物の比重が大きくなる傾向がある。また酸化アルミニウムはモース硬度が9と非常に硬く、熱伝導性シリコーン組成物製造時にシェアがかかる際に、反応釜の内壁や攪拌羽の摩耗が進行しやすい。
【0011】
近年、リチウムイオンバッテリーが搭載される電気自動車はさらなる長距離走行を実現するために、車体全体の軽量化が課題となっている。また、人が直接身に着けるモバイル機器及びウェラブル機器においてもその重量は無視できない点となる。特開2011-89079号公報(特許文献5)では比重の小さな水酸化アルミニウムをシリコーンポリマーに充填した比重2.0のシリコーン組成物が開示されているが、熱伝導率が1.5W/m・K程度と低く、昨今の大容量化したデバイスから発生する熱を冷却するためには能力の不足が否めない。また水酸化アルミニウムのみでは、そのフィラー充填量を上げても、幅広い発熱体に適用できる熱伝導率が3.5W/m-Kを超えるような熱伝導性シリコーン樹脂組成物を得ることは非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開昭47-32400号公報
【文献】特開昭56-100849号公報
【文献】特開平1-69661号公報
【文献】特開平4-328163号公報
【文献】特開2011-89079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムとを比較すると、酸化マグネシウムのモース硬度は6であり、比重も3.65とアルミナより軽いため、上述したような問題を生じにくい。軽量化の観点では水酸化アルミニウムには劣るものの、熱伝導性の観点でいえば、酸化マグネシウムは、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムよりも優れた値を示す。したがって、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムを併用して熱伝導性充填材を構成した場合、酸化アルミニウム単独で同充填量を構成した場合よりも、熱伝導性を犠牲にすることなく、より軽量な熱伝導性シリコーン樹脂組成物を得ることができ、かつ反応釜の内壁や攪拌羽の摩耗の進行を抑制することが期待できる。
【0014】
しかし、酸化マグネシウムにおいては、吸湿性が高いという欠点がある。例えば、特開平5-239358号公報には、特定の水酸化マグネシウムを1100~1600℃で焼成して得られる酸化マグネシウムを配合した熱伝導性シリコーンゴム組成物が記載されているが、高い吸湿性を示した結果、強いアルカリ性を示す等の理由で、シリコーンゴムにクラッキングが生じやすく、著しい硬化劣化が懸念される。また、特開平7-292251号公報は、酸化マグネシウムの表面をシラザンで処理することで、耐湿性に優れた熱伝導性シリコーン樹脂組成物を記載している。しかし、酸化マグネシウムの粒径が1μmと非常に小さいため、充填量をあげても熱伝導率の向上が見込めない。また、粒径のより大きい粉を用いた際、上記のような表面処理方法が適切な有効性を示すかは言及されていない。従って、酸化マグネシウムを使用するにあたり、軽量化や設備の摩耗を抑える効果が期待されるなかで、高湿下での信頼性について確保する必要もある。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、熱伝導性が良好であり、軽量性を有し(即ち、体積当たりの重量が軽い)、及び、高湿下での信頼性を備えた熱伝導性シリコーン樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、比表面積が0.4m2/g以下である酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムとの配合比率を巧みに組み合わせて、より好ましくはこれらと酸化アルミニウムとの配合比率を巧みに組み合わせて、付加反応硬化型シリコーン樹脂組成物に高充填することによって、熱伝導性が良好であり、軽量(比重が軽い)であり、さらに高湿下での信頼性にも優れる熱伝導性シリコーン成形体を得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0017】
すなわち本発明は、下記(A)~(E)成分を含む、熱伝導性シリコーン樹脂組成物であり、
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中のアルケニル基の個数に対するケイ素原子に結合した水素原子の個数の比が0.1~2となる量
(C)熱伝導性充填材:2500~6000質量部
(D)付加反応触媒:触媒量、及び
(E)付加反応制御剤:0.01~1質量部
前記(C)熱伝導性充填材が、比表面積0.4m2/g以下を有する酸化マグネシウムを(C)成分の総重量に対し20~50wt%で含み、且つ、水酸化アルミニウムを(C)成分の総重量に対し10~30wt%で含むことを特徴とする、熱伝導性シリコーン樹脂組成物を提供する。
さらに本発明は上記熱伝導性シリコーン樹脂組成物を硬化してなる硬化物、及び該硬化物を有する熱伝導性シリコーン放熱シートを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱伝導性シリコーン樹脂組成物は、適度な粘度を有して取り扱い性が良好であり、成形性に優れる。また、該樹脂組成物から得られる成形体は、3.1g/cm3以下の比重を有して軽量であり、熱伝導率3.5W/m・K以上を有することができ、かつ、高湿試験後でも顕著な硬度上昇がみられず信頼性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
[アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の組成物の主剤となるものである。通常は、主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよい。硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0020】
ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の官能基としては、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。代表的なものは炭素原子数が1~10、特に代表的なものは炭素原子数が1~6の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基は全てが同一であることを限定するものではない。
【0021】
また、アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、及びシクロヘキセニル基等の炭素原子数2~8のものが挙げられる。中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特に好ましくはビニル基である。
【0022】
該オルガノポリシロキサンは25℃における動粘度、通常、10~100,000mm2/s、特に好ましくは500~50,000mm2/sの範囲を有するのがよい。前記粘度が低すぎると、得られる組成物の保存安定性が悪くなり、また高すぎると得られる組成物の伸展性が悪くなる場合がある。本発明において動粘度は、オストワルド粘度計により測定される値であればよい。
【0023】
該(A)オルガノポリシロキサンは、1種単独でも、粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
[オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分は、ケイ素原子に直接結合する水素原子(SiH)を一分子中に平均で2個以上、好ましくは2~100個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する。即ち、(B)成分中のSiHと(A)成分中のアルケニル基とが、後述する(D)白金族系触媒の存在下でヒドロシリル化反応して、架橋構造を有する3次元網目構造を与える。またSi-H基の数が平均して1個未満であると、硬化しない恐れがある。
【0025】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均構造式は、例えば以下のように表される。
【化1】
(式中、R
7は、互いに独立に、脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基あるいは水素原子である。但し、R
7のうち少なくとも2個は水素原子であり、nは1以上の整数である。)
【0026】
式(3)中、R7で示される、脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、好ましくは、炭素原子数1~10、特に好ましくは炭素原子数が1~6の炭化水素基である。たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、及びドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、及びビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、及びメチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の、炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基、及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基であるのがよい。また、R7は全てが同一であることを限定するものではない。
【0027】
(B)成分の量は、(A)成分中のアルケニル基の個数に対して(B)成分中のSiH基の個数の比が0.1~2となる量、好ましくは0.3~1.5モル、さらに好ましくは0.5~1となる量である。(B)成分量が上記下限値未満であると硬化しない恐れ、または硬化物の強度が不十分で成形体としての形状を保持出来ず取り扱えない場合がある。また上記上限値を超えると硬化物の柔軟性がなくなり、熱抵抗が著しく上昇してしまうため好ましくない。
【0028】
[熱伝導性充填材]
(C)成分は熱伝導性充填材である。本発明は、該(C)熱伝導性充填材として、特定の比表面積を有する酸化マグネシウムと、水酸化アルミニムとを特定の配合比率で有することを特徴とする。本発明シリコーン樹脂組成物における(C)熱伝導性充填材の配合量は、(A)成分100質量部に対して、2500~6000質量部であり、好ましくは3500~6000質量部である。熱伝導性充填材の量が上記下限値未満であると、得られるシリコーン樹脂組成物の熱伝導率が乏しくなり、また保存安定性に劣る組成物となることがある。また、上記上限値を超えると、熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の強度が低下するおそれがあり、硬化物として取り扱い性が困難となるため好ましくない。
【0029】
酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムの配合比率は、即ち、熱伝導性充填材として、比表面積0.4m2/g以下の酸化マグネシウムの量が(C)成分の総重量に対し20~50wt%であり、且つ、水酸化アルミニウムの量が(C)成分の総重量に対し10~30wt%である。
【0030】
酸化マグネシウムの配合率は、好ましくは23~45wt%であり、より好ましくは25~40wt%である。酸化マグネシウムの配合率が上記下限値未満では、得られる硬化物の熱伝導性が低くなり、また目的とする比重が得られず、軽量化が困難となる。酸化マグネシウムの配合率が上記上限値超では、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の粘度が上がり、硬化物の成形性が悪くなる。
【0031】
酸化マグネシウムは比表面積が0.4m2/g以下を有することを特徴とする。好ましくは0.3m2/g以下であり、さらに好ましくは0.2~0.01m2/g、より好ましくは0.1~0.01m2/gであるのがよい。酸化マグネシウムの比表面積が上記上限値より大きいと、高湿下において吸湿が生じやすく、酸化マグネシウムから水酸化マグネシウムへの変換が促進されるため、後述するシリコーン樹脂硬化物の高湿下での信頼性が著しく低下する。なお、本発明において、比表面積は、ガス吸着法により測定することができ、例えば島津製作所(株)の自動比表面積測定装置などで測定が可能である。
【0032】
酸化マグネシウムの体積平均粒径は30~120μmが好ましく、さらに好ましくは50~90μmであるのがよい。ここでの体積平均粒径とは、マイクロトラック(レーザー回折錯乱法)により粒体の体積分布を測定した際、この平均粒径を境に二つに分けた時、大きい側と小さい側が等量になる径を指す。なお、以下の本文中で記載される平均粒径は、すべてこの内容で定義される。
【0033】
水酸化アルミニウムの配合率は、上記の通り(C)成分の総重量に対して10~30wt%であり、好ましくは13~29wt%であり、より好ましくは15~25wt%である。水酸化アルミニウム配合率が上記下限値未満では、熱伝導性シリコーン樹脂組成物に軽量化の寄与を与えることは困難であり、上記上限値を超えると、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の熱伝導性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0034】
水酸化アルミニウムの体積平均粒径は2~50μmが好ましく、さらに好ましくは5~20μmである。体積平均粒径の測定方法は上記した通りである。水酸化アルミニウムの比表面積は特に制限されるものでなく通常0.1~5m2/gである。
【0035】
本発明の熱伝導性シリコーン樹脂組成物は、該(C)成分として、さらに酸化マグネシウムと水酸化アルミニウム以外の熱伝導性充填材を含む。該その他の熱伝導性充填材としては、従来公知のものが使用できるが、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、及び水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種が好ましく、熱伝導性、電気的絶縁性および価格などを総合的に考慮すると、酸化アルミニウムが特に好ましい。酸化アルミニウムの体積平均粒径は1~90μmが好ましく、より好ましくは10~70μmである。異なる体積平均粒径のものを1種または2種以上複合して用いても良い。酸化マグネシウムと水酸化アルミニウム以外の熱伝導性充填材の量は熱伝導性充填材の総重量が100wt%となる残量であればよい。例えば酸化アルミニウムの配合率は、好ましくは20~70wt%であり、より好ましくは30~50wt%である。
【0036】
本発明では、モース硬度の低い酸化マグネシウムと、水酸化アルミニウムとを併用しているため、酸化アルミニウム単独で熱伝導性充填材を構成した場合と比較して反応窯の摩耗が生じにくい。反応窯がアルミなどの金属製であった場合、絶縁体に対する導電成分のコンタミに繋がる事象となる。
【0037】
[付加反応触媒]
(D)成分は付加反応触媒であり、(A)成分のアルケニル基と、(B)成分のSiH基の付加反応を促進する。該触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる周知の白金族金属系触媒を用いればよい。例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。(D)成分の量は、所謂触媒量(すなわち、上記付加反応を進行させる有効量)で良く、通常、(A)成分に対する白金族金属元素の体積換算で0.1~1000ppm程度が良い。
【0038】
[付加反応制御剤]
本発明のシリコーン組成物は(E)付加反応制御剤を含む。該(E)成分は、付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤であればよく、特に制限されない。例えば、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オールなどのアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、及び有機クロロ化合物等が挙げられる。(E)成分の量は上記付加反応を制御できる有効量であればよいが、(A)成分100質量部に対して0.01~1質量部がよく、より好ましくは0.05~0.5質量部であるのがよい。
【0039】
[表面処理剤]
本発明のシリコーン樹脂組成物は更に(F)表面処理剤を含んでいてもよい。該(F)成分は組成物調製の際に、(C)熱伝導性充填材を(A)オルガノシロキサンから成るマトリックス中に均一に分散させるために機能する。(F)表面処理剤としては、下記一般式(1)で表される、分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサンが好ましい。
【化2】
(式中、R
5は、互いに独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である)
【0040】
組成物中に(F)成分の量は、(A)成分100質量部に対して100~300質量部、特に150~250質量部であることが好ましい。当該範囲で配合することにより、熱伝導性充填材をオルガノシロキサンから成るマトリックス中に均一に分散させることができる。(A)成分に対する(F)成分の割合が多くなると、オイル分離を誘発する可能性があるため好ましくない。また、(F)成分の割合が少ない場合、ポリオルガノシロキサンと熱伝導性充填材の濡れ性が低下し、組成物を形成できないおそれがある。
【0041】
[可塑剤]
本発明の組成物は更に可塑剤として(G)下記一般式(2)
R6-(SiR6
2O)dSiR6
3 (2)
(R6は、互いに独立に、炭素原子数1~8の、脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基であり、dは5~2000の整数である)
で表される、25℃における動粘度10~100,000mm2/sを有するオルガノポリシロキサンを含むことができる。
該成分は、熱伝導性組成物の粘度調整剤等の特性を付与するために適宜用いられればよく、特に限定されるものではない。1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記R6は互いに独立に、炭素原子数1~8の、脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及びオクチル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、及びキシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、及びメチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。代表的なものは炭素原子数1~10、特に代表的なものは炭素原子数1~6の一価炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基が挙げられる。特に好ましくはメチル基、及びフェニル基である。
【0043】
上記オルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、好ましくは10~100,000mm2/sであり、特に好ましくは100~10,000mm2/sであればよい。該動粘度が10mm2/sより低いと、得られる組成物の硬化物がオイルブリードを発生しやすくなる。該動粘度が100,000mm2/sよりも大きいと、得られる熱伝導性組成物は柔軟性が乏しくなるおそれがある。
【0044】
上記式(2)においてdは、オルガノポリシロキサンの動粘度が上述する範囲となる値であればよいが、好ましくは5~2000の整数であり、より好ましくは10~1000の整数である。
【0045】
本発明の組成物における(G)成分の量は特に制限されず、可塑剤として所望の効果が得られる量であればよいが、通常、(A)成分100質量部に対して、好ましくは1~40質量部であり、より好ましくは5~20質量部である。(G)成分量が上記範囲にあると、硬化前の熱伝導性組成物に良好な流動性、作業性を維持しやすく、また(C)成分の熱伝導性充填材を該組成物に充填するのが容易になる。
【0046】
[組成物の粘度]
本発明の樹脂組成物は未硬化の状態にて25℃における粘度600Pa・s以下、好ましくは500Pa・s以下、さらに好ましくは400Pa・s以下を有する。粘度の下限値は特に制限されないが、50Pa・s以上であり、好ましくは75Pa・s以上、さらに好ましくは100Pa・s以上であればよい。該粘度は、回転式レオメーター粘度計を用いて25℃で測定される。
【0047】
本発明の熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化方法は特に制限されるものでなく、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化条件と同様でよい。例えば、常温でも十分硬化するが必要に応じて加熱してもよい。好ましくは120℃×10分間で付加硬化させるのがよい。本発明の組成物から得られる硬化物(成形体)は、熱伝導性に優れる。組成物の成型方法は特に制限されないが、成形方法によっては、表面付近の架橋反応が促進されることで成型物を十分に取り扱うことができ、かつ内部の架橋密度を下げることにより良好な圧縮性と低熱抵抗が得られる。また、内部が架橋されるため、オイルブリード耐性をもった熱伝導性シリコーン成型物となる。
【0048】
[シリコーン熱伝導性成型物の製造方法]
上記本発明の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を樹脂フィルムなどの基材上に塗工し、硬化することで、シリコーン熱伝導性成型物を得ることができる。樹脂フィルムとしては、貼り合わせ後の熱処理に耐えうる、熱変形温度が100℃以上のもの、例えば、PET、PBTポリカーバネート製のフィルムから適時選択して用いることができる。樹脂フィルムにオルガノハイドロジェンポリシロキサンオイルを均一な厚さに塗布するコーティグ装置としては、後計量方式のブレードコータ、グラビアコータ、キスロールコータ、スプレイコータ等が使用される。
【0049】
[成形物の熱伝導率]
本発明における硬化物(成形体)の熱伝導率は、ホットディスク法により測定した25℃における測定値が3.5W/m・K以上であることが望ましく、好ましくは4.0W/m・K以上、より好ましくは4.5W/m・K以上である。熱伝導率が3.5W/m・K未満であると、発熱量の大きく、高い放熱性を必要とする発熱体に適用することが困難であり、成形体の適用範囲が狭まる。上限は制限されないが、通常、15W/m・K以下、特には10W/m・K以下である。また本発明の硬化物は、比重3.1g/cm3以下、好ましくは3.0g/cm3以下、特には2.6~3.0g/cm3を有することができ、軽量である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0051】
下記実施例及び比較例にて用いた(A)~(G)成分は以下の通りである。
(A)成分:
(A-1)下記式(4)で表され、動粘度400mm
2/sを有するオルガノポリシロキサン。
(A-2)下記式(4)で表され、動粘度5000mm
2/sを有するオルガノポリシロキサン。
【化3】
(上記式(4)において、Xはビニル基であり、nは粘度が上記値となる数である)
(B)成分:下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化4】
平均重合度:o=28、p=2
(C)成分:
(C-1)平均粒径1μmを有する酸化アルミニウム
(C-2)平均粒径10μmを有する酸化アルミニウム
(C-3)平均粒径8μmを有する水酸化アルミニウム
(C-4)平均粒径70μmを有する酸化アルミニウム
(C-5)平均粒径60μm及びBET0.05m
2/gを有する酸化マグネシウム
(C-6)平均粒径60μm及びBET0.2m
2/gを有する酸化マグネシウム
(C-7)平均粒径80μm及びBET0.5m
2/gを有する酸化マグネシウム
(D)成分:5%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液(付加反応触媒)
(E)成分:エチニルメチリデンカルビノール(付加反応制御剤)
(F)成分:下記式で表され、片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化5】
(G)成分:下記式で表される、ジメチルポリシロキサン(可塑剤)
【化6】
【0052】
[実施例1~6、比較例1~6]
上記(A)~(G)成分の配合量は、下記表1又は2に示す通りである。
上記(A)、(C)、(F)及び(G)成分をプラネタリーミキサーで60分間混練した。そこに(D)成分及び(E)成分を加え、さらにセパレータとの離型を促す内添離型剤(下記式(α))を有効量(5部)加え、さらに60分間混練した。そこにさらに(B)成分を加え、30分間混練し、熱伝導性シリコーン樹脂組成物を得た。尚、(A)成分中のアルケニル基の個数に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数の比(SiH/SiVi)は1.1である。
内点離型剤を下記に示す。
【化7】
各熱伝導性シリコーン樹脂組成物の25℃における粘度(Pa・s)を回転式レオメーター粘度計を用いて測定した。結果を下記表3及び4に示す。
【0053】
上記で得た各熱伝導性シリコーン樹脂組成物をPETフィルム2枚ではさんだ後、プレスで120℃、10分間硬化させることで、6mm厚の熱伝導性シリコーン成形体を得た。得られた成形体について下記の方法に従い、熱伝導率および比重の測定を行った。また85℃、85%Rh/1000時間エージング前後での硬度を比較して、成型物の信頼性を評価した。結果を下記表3及び4に示す。
【0054】
[評価方法]
(1)成型性:得られた熱伝導性シリコーン樹脂組成物の成型の際、金型に流し込む操作を容易に完了できた場合を「良好」、粘度が高すぎるため取り扱いが難しく、金型に流し込むことが困難であった場合を「不良」とした。
(2)熱伝導率:上記で得た6mm厚の成型物を2枚用いて、熱伝導率計(TPA-501、京都電子工業株式会社製の商品名)により熱伝導率を測定した。
(3)比重:水中置換法により測定した。
(4)高湿下での信頼性:AskerC硬度計で成形体の初期硬度を記録した。その後85℃/85%RHの条件で1000時間エージングした後、再度成形体の硬度を測定した。結果を表1に示す。変化量が30以上であると、シリコーンのクラッキングの作用が大きくなるため、信頼性が乏しい。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
上記表3及び4に示す通り、比較例1の組成物は、(C)成分である熱伝導性充填材の合計が2500質量部より小さい。該組成物から得られた成型物の熱伝導率は3.5Wを下回った。該成形品は、発熱量の大きな部品に適用できない。
比較例2の組成物は、用いた酸化マグネシウムの比表面積が0.4m2/gよりも大きい。該組成物から得られた成型物は、高温高湿下でエージング後に硬度が大きく上昇し、信頼性に劣った。
比較例3の組成物は、水酸化アルミニウムの割合が30wt%よりも大きい。得られる成形体は、熱伝導率が低下して3.5W/m・Kを下回った。特に、その他の組成が類似している実施例3の組成物と対比すると、水酸化アルミニウムの割合が大きいことにより熱伝導率が低下することを確認できる。
比較例4の組成物は、水酸化アルミニウムの割合が10wt%よりも小さい。得られる成形体は比重の上昇が大きく3.1g/cm3を超えた。特に、その他の組成が類似している実施例1と対比すると、水酸化アルミニウムの割合が少ないことにより比重の上昇が大きくなることを確認できる。
比較例5の組成物は、酸化マグネシウムの割合が20wt%よりも小さい。得られる成形体は比重の上昇が大きくなり3.1g/cm3を超えた。特に、その他の組成が類似している実施例5と対比すると、酸化マグネシウムの割合が少ないことにより比重の上昇が大きくなることを確認できる。
比較例6の組成物は、酸化マグネシウムの割合が50wt%よりも大きい。該熱伝導性シリコーン樹脂組成物は粘度が非常に高く、硬化物を得るための成型が困難であった。
【0060】
これに対し、上記表1及び2に示す通り、本発明の熱伝導性シリコーン樹脂組成物は取り扱い性が良く、成形性が良好であった。また、得られた成形体はいずれも熱伝導性が良好であり、比重が3.1g/cm3以下と軽量であり、熱伝導率3.5W/m・K以上と熱伝導性も良好であり、且つ高湿試験後でも顕著な硬度上昇がみられず信頼性にも優れる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の熱伝導性シリコーン樹脂組成物は熱伝導性が良好であり、軽量(比重が軽い)であり、さらに高湿下での信頼性にも優れる熱伝導性シリコーン成形体を与えることができる。該樹脂組成物は、熱伝導による電子部品の冷却のために使用される熱伝達材料、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置され放熱に用いられる熱伝導性樹脂コンパウンドおよび熱伝導性樹脂成型体等として好適である。