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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】軟磁性扁平粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20221027BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20221027BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H01F1/147 191
H01F1/20
H01F41/02 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020000368
(22)【出願日】2020-01-06
(62)【分割の表示】P 2015052940の分割
【原出願日】2015-03-17
(65)【公開番号】P2020057817
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-01-06
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前澤 文宏
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】山田 正文
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-332113(JP,A)
【文献】特開2005-243895(JP,A)
【文献】特開2002-93612(JP,A)
【文献】特開2008-50644(JP,A)
【文献】特開平10-261516(JP,A)
【文献】特開2005-116819(JP,A)
【文献】特開2005-123531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F1/12-1/38
B22F1/00-8/00
C22C1/04-1/05
C22C5/00-25/00
C22C27/00-28/00
C22C30/00-30/06
C22C33/02
C22C35/00-45/10
H05K9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Si-Al系合金からなり、マンガン含有量が0.1質量%以上1.0質量%以下の範囲であり、残部はすべて不可避不純物からなる原料粉末を、ガスアトマイズ法またはディスクアトマイズ法によって得る原料粉末作製工程、
前記原料粉末を扁平化する扁平加工工程、
及び
前記扁平加工された粉末を真空またはアルゴン雰囲気で、700~900℃で熱処理する工程
を含む、
平均粒径が43~60μmであり、扁平粉末の長手方向に磁場を印加して測定した保磁力Hcが106A/m以下であり、真密度に対するタップ密度の比が0.17以下であり、酸素含有量が0.47質量%以下である軟磁性扁平粉末を得るための、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電子デバイスに用いられる、ノイズ抑制用磁性シートに用いられる軟磁性扁平粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟磁性扁平粉末を含有する磁性シートは、電磁波吸収体、RFID(Radio Frequency Identification)用アンテナとして用いられてきた。また、近年では、デジタイザと呼ばれる位置検出装置にも用いられるようになってきている。このデジタイザには、例えば特開2011-22661号公報(特許文献1)のような電磁誘導型のものがあり、ペン形状の位置指示器の先に内蔵されるコイルより発信された高周波信号を、パネル状の位置検出器に内蔵されたループコイルにより読み取ることで指示位置を検出する。
【0003】
ここで、検出感度を高める目的で、ループコイルの背面には高周波信号の磁路となるシートが配置される。この磁路となるシートとしては、軟磁性扁平粉末を樹脂やゴム中に配向させた磁性シートや、軟磁性アモルファス合金箔を貼り合わせたものなどが適用される。磁性シートを用いる場合は、検出パネル全体を1枚のシートに出来るため、アモルファス箔のような貼り合せ部での検出不良などがなく優れた均一性が得られる。
【0004】
従来より、磁性シートには、Fe-Si-Al合金、Fe-Si合金、Fe-Ni合金、Fe-Al合金、Fe-Cr合金などからなる粉末を、アトライタ(アトリッションミル)などにより扁平化したものが添加されてきた。これは、高い透磁率の磁性シートを得るために、いわゆる「Ollendorffの式」からわかるように、透磁率の高い軟磁性粉末を用いること、反磁界を下げるため磁化方向に高いアスペクト比を持つ扁平粉末を用いること、磁性シート中に軟磁性粉末を高充填することが重要であるためである。特に高いアスペクト比は重要な因子と考えられており、多くの場合、最大のアスペクト比が得られるアトライタ加工条件が採用されている。
【0005】
例えば、特許第4636113号公報(特許文献2)に開示されているように、軟磁性扁平粉末の長径を大きくし、アスペクト比の高い扁平状の粉末を作製する方法として、有機溶媒が炭素数2~4の1価アルコールを用いて扁平加工を実施する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-22661号公報
【文献】特許第4636113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献2は、磁気特性の指標として保磁力を、アスペクト比の指標として、扁平状軟磁性合金粉末の50%粒子径D50(μm)、保磁力Hc(A/m)およびかさ密度BD(Mg/m)を用いて、式D50/(Hc+BD)≧1.5なる一定以上の粉末が、高い透磁率が得られるとしている。しかしながら、これらの数値は、いずれも加工状態によって大きく変動する数値である。センダストはSi、Al成分を多く含有するため、純Feと比べて非常に脆い粉末である。そのため加工が進みすぎるとD50は低下する傾向にある。逆に扁平粉のD50が大きくなるほど、薄片化するためには時間を要するため、加工が進まないとかさ密度は低下しない。
【0008】
また、保磁力は球状粉の状態が最も小さく、加工が進むにつれ増加する傾向にある。保磁力がこのような推移をする原因としては、加工に伴う結晶粒径の歪と、周辺の水分からの酸化による含有酸素量の増加と考えられる。前者は熱処理で改善することが可能であるが、後者は極微量の水分でも粉末の表面組織と反応するため、加工中の含有酸素量の増大を防ぐことは非常に困難である。以上の理由により、従来の扁平粉では得られる透磁率に限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで発明者らは、原料となる球状粉末の成分に着目し、マンガン含有量に応じて、保磁力、ひいては透磁率が変化することを見出した。その発明の要旨とするところは、
(1)Fe-Si-Al系合金からなる扁平粉末であって、平均粒径が43~60μm、扁平粉末の長手方向に磁場を印加して測定した保磁力Hcが106A/m以下、真密度に対するタップ密度の比が0.17以下、酸素含有量が0.6質量%以下、マンガン含有量が0.1質量%以上1.0質量%以下の範囲であり、残部はすべて不可避不純物からなることを特徴とする軟磁性扁平粉末。
【0010】
(2)ガスアトマイズ法またはディスクアトマイズ法による原料粉末作製工程と、前記原料粉末を扁平化する扁平加工工程と、前記扁平加工された粉末を真空またはアルゴン雰囲気で、700~900℃で熱処理する工程により、前記(1)に記載した軟磁性粉末を得ることを特徴とする軟磁性扁平粉末の製造方法にある。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明により、磁性シートとして用いる場合に、特に高い透磁率を実現できる軟磁性扁平粉末とこれを用いた高透磁率磁性シート、および、この軟磁性扁平粉末の製造方法を提供することができる。
【0012】
上述した条件を満足する軟磁性扁平粉末を用いることによって、透磁率が十分に高い電磁波吸収体用磁性シートを作成することが出来る。ここで、高周波における透磁率μは実数部μ’と虚数部μ’’によって複素透磁率(μ=μ’-jμ’’)で表すことができるが、μの最大値が大きいほどμ’’の値も大きくなる傾向にある。
【0013】
すなわち、Fe-Si-Al系合金からなる扁平粉末であって、平均粒径が43~60μm、扁平粉末の長手方向に磁場を印加して測定した保磁力Hcが106A/m以下、真密度に対するタップ密度の比が0.17以下、酸素含有量が0.6質量%以下、マンガン含有量が0.1質量%以上~1.0質量%以下の範囲であり、残部はすべて不可避不純物からなることを特徴とする軟磁性扁平粉末。上記の条件で軟磁性扁平粉末を製造することによって、透磁率の高い粉末を作製することができる。
【0014】
本発明は、上記軟磁性扁平粉末の製造方法であって、アトマイズ法で作製された軟磁性合金粉末を、扁平化する扁平加工工程と、不活性ガス中で熱処理する熱処理工程とを備える軟磁性扁平粉末の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
<原料球状粉末準備工程>
本発明の軟磁性扁平粉末は、軟磁性合金粉末を扁平化処理することで作製することができる。軟磁性合金粉末は、保磁力の値が低い粉末であることが好ましく、飽和磁化の値が高い粉末であることがより好ましい。一般的に、保磁力と飽和磁化の値が優れているのは、Fe-Si-Al系合金である。
【0016】
軟磁性合金粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法といった各種アトマイズ法によって作製される。軟磁性合金粉末の含有酸素量は、少ないほうがより好ましいため、ガスアトマイズ法による製造が好ましく、さらに不活性ガスを用いての製造がより好ましい。ディスクアトマイズ法による方法でも問題なく製造出来るが、量産性の観点からは、ガスアトマイズ法が優れている。本発明に用いられる軟磁性合金粉末の粒度は特に限定されないが、扁平後の平均粒径を調整する目的もしくは、含有酸素量の多い粉を除去する目的、その他、製造上の目的に応じて、分級されても良い。
【0017】
<扁平加工処理工程>
次に、上記軟磁性合金粉末を扁平化する。
扁平加工方法は、特に制限は無く、例えば、アトライタ、ボールミル、振動ミル等を用いて行うことができる。中でも、比較的扁平加工能力に優れるアトライタを用いることが好ましい。また、乾式で加工を行う場合は、不活性ガスを用いることが好ましい。湿式で加工する場合は、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の種類については特に限定されない。
【0018】
有機溶媒の添加量は、軟磁性合金粉末100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、200質量部以上であることがより好ましい。有機溶媒の上限は特に限定されず、求める扁平粉の大きさ・形状と、生産性のバランスに応じて適宜調整が可能である。酸素を低くするために、有機溶媒中の水分濃度は、有機溶媒100質量部に対して、0.002質量部以下での加工が好ましい。有機溶媒とともに扁平化助剤を用いてもよいが、酸化を抑えるために、軟磁性合金粉末100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましい。
【0019】
<熱処理工程>
次に、上記軟磁性扁平粉末を熱処理する。熱処理装置について特に制限は無いが、熱処理温度は700℃~900℃の条件で熱処理されることが好ましい。該当温度で熱処理を行うことによって、保磁力が低下し、高透磁率の軟磁性扁平粉末となる。また、熱処理時間について特に制限は無く、処理量や生産性に応じて適宜選択されるとよい。長時間の熱処理の場合、生産性が低下するため、5時間以内が好適である。
【0020】
本発明に用いられる軟磁性扁平粉末においては、酸化を抑えるために、真空中あるいは不活性ガス中で熱処理されることが好ましい。表面処理の観点から、窒素中ガス中で熱処理されてもよいが、その場合は保磁力の値が上昇し、透磁率は真空で熱処理された場合に比べて低下する傾向にある。
【0021】
<磁性シート製造工程>
また、磁性シートの製造方法も従来提案されている方法で可能である。例えば、トルエンに塩素化ポリエチレンなどを溶解したものに扁平粉末を混合し、これを塗布、乾燥させたものを各種のプレスやロールで圧縮することで製造可能である。
【0022】
平均粒径D50:43~60μm
軟磁性扁平粉末の平均粒径D50は43~60μmであることが好ましく、50~60μmであることがより好ましい。平均粒径が43μm未満では、アスペクト比の高い扁平粉が得られ難く、実部透磁率μ’が低くなる傾向がある。また、平均粒径が大きくなりすぎると、シート成型が困難になるため好ましくない。
【0023】
保磁力Hc:106A/m以下
軟磁性扁平粉末の長手方向に磁場を印可して測定した保磁力Hcは、106A/m以下であることが好ましく、90A/m以下であることがより好ましく、80A/m以下であることがさらに好ましい。本発明の請求範囲において、保磁力の値が低いほど、透磁率はより高くなる傾向にある。そのため保磁力の下限は特に限定されないが、製造条件上、40A/m以下とするのは困難である。
【0024】
真密度に対するタップ密度の比:0.17以下
軟磁性扁平粉末の、真密度に対するタップ密度の比は0.17以下であることが好ましく、0.11以下であることがより好ましい。タップ密度の下限は特に限定されないが、タップ密度は加工が進むほど単調低下する傾向にあり、長時間の加工は、平均粒径の低下と保磁力の上昇をもたらすため好ましくない。
【0025】
含有酸素濃度:0.6質量%以下
本発明の軟磁性扁平粉末の含有酸素濃度は、0.6質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。軟磁性扁平粉末中の酸素の存在形態は、粒界析出酸化物と粉末表面酸化物の2通りの形態があると考えられるが、どちらも保磁力の上昇をもたらす原因と考えられるため好ましくない。粒界析出酸化物量は原料軟磁性球状粉の準備工程と、扁平加工工程における酸化を抑えることで低くすることができる。
【0026】
また、粉末表面酸化物量は扁平加工工程と熱処理工程における酸化を抑えることで低くすることができる。Zenerによれば、定常粒成長のモデルにおいて、組織の結晶粒のサイズがそれ以上成長しないとき、粒成長の駆動力と微細な二次粒子によるピン止め力が等しくなっていて、結晶粒半径は(分散粒子の半径/分散粒子の相体積分率)の比に比例する。詳細は不明であるが、含有酸素量が少ないということは、熱処理時の粒成長を阻害する、酸化物のピン止め効果が発生しにくいために、保磁力が低くなり、磁気特性の面で有利になると考えられる。
【0027】
含有マンガン濃度:0.1質量%以上1.0質量%以下
本発明の軟磁性扁平粉末の含有酸素濃度は、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましい。上述のように、軟磁性扁平粉末中の酸素の存在形態は、粒界析出酸化物と粉末表面酸化物の2通りの形態があると考えられる。詳細は不明であるが、我々は下記のように考えている。含有マンガン濃度の小さい従来のセンダスト扁平粉では、Fe,Si,Al系の微細な酸化物が無数に存在する。対して、適切な濃度のマンガンを含有する扁平粉は、本来センダストに含有される酸素を優先的に吸着し、マンガン酸化物として存在する。ピン止め効果が発生しにくいために、保磁力が低くなり、磁気特性の面で有利になると考えられる。
【0028】
また、シート成型後の絶縁性を高めるなどの観点においては、表面処理された粉末が好適となる場合があり、本発明の扁平加工方法で製造された粉末について、熱処理工程中あるいは熱処理工程の前後において、表面処理工程を必要に応じて加えても良い。たとえば表面処理のために、活性ガスを微量に含む雰囲気下で熱処理されてもよい。
【0029】
また、従来から提案されているシアン系カップリング剤に代表される表面処理により、耐食性やゴムへの分散性を改善することも可能である。また、磁性シートの製造方法も従来提案されている方法で可能である。例えば、トルエンに塩素化ポリエチレンなどを溶解したものに扁平粉末を混合し、これを塗布、乾燥させたものを各種のプレスやロールで圧縮することで製造可能である。
【実施例
【0030】
以下、本発明について、実施例によって具体的に説明する。
(扁平粉末の作製)
ガスアトマイズ法あるいはディスクアトマイズ法により所定の成分の粉末を作製し150μm以下に分級した。ガスアトマイズは、アルミナ製坩堝を溶解に用い、坩堝下の直径5mmのノズルから合金溶湯を出湯し、これに高圧アルゴンを噴霧することで実施した。これを原料粉末としアトライタにより扁平加工した。アトライタは、SUJ2製の直径4.8mmのボールを使用し、原料粉末と工業エタノールとともに攪拌容器に投入し、羽根の回転数を300rpmとして実施した。工業エタノールの添加量は、原料粉末100質量部に対し、200~500質量部とした。扁平化助剤は、添加しないか、もしくは、原料粉末100質量部に対し、1~5質量部とした。扁平加工後に攪拌容器から取り出した扁平粉末と工業エタノールをステンレス製の皿に移し、80℃で24時間乾燥させた。このようにして得た扁平粉末を真空中あるいはアルゴン中で、700~900℃で2時間熱処理し、各種の評価に用いた。
【0031】
(扁平粉末の評価)
得られた扁平粉末の平均粒径、真密度、タップ密度、酸素含有量、窒素含有量、保磁力を評価した。平均粒径はレーザー回折法、真密度はガス置換法で評価した。タップ密度は、約20gの扁平粉末を、容積100cmのシリンダーに充填し、落下高さ10mmタップ回数200回の時の充填密度で評価した。保磁力は直径6mm、高さ8mmの樹脂製容器に扁平粉末を充填し、この容器の高さ方向に磁化した場合と、直径方向に磁化した場合の値を測定した。なお、扁平粉末は充填された円柱の高さ方向が厚さ方向となっているため、容器の高さ方向に磁化した場合が扁平粉末の厚さ方向、容器の直径方向に磁化した場合が扁平粉末の長手方向の保磁力となる。印加磁場は144kA/mで実施した。
【0032】
(磁性シートの作製および評価)
トルエンに塩素化ポリエチレンを溶解し、これに得られた扁平粉末を混合分散した。この分散液をポリエステル樹脂に厚さ100μm程度に塗布し常温常湿で乾燥させた。その後、130℃、15MPaの圧力でプレス加工し磁性シートを得た。磁性シートのサイズは150mm角で厚さは50μmである。なお、磁性シート中の扁平粉末の体積充填率はいずれも約50%であった。次に、この磁性シートを、外径7mm、内径3mmのドーナツ状に切り出し、インピーダンス測定器により、室温で1MHzにおけるインピーダンス特性を測定し、その結果から透磁率(複素透磁率の実数部:μ’)を算出した。さらに、得られた磁性シートの断面を樹脂埋め研磨し、その光学顕微鏡像から、長手方向の長さと厚さとをランダムに50粉末測定し、この長手方向の長さと厚さの比を平均してアスペクト比とした。以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこの実施例に特に限定されない。また、比較例は後述の表1に示す条件を適宜異ならせ作製した。表1に評価結果を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】

表1、2に示すように、No.1~21は本発明例であり、No.22~40は比較例である。
【0035】
表2に示す比較例No.22は水アトマイズで原料粉を作製している。そのため扁平粉の含有酸素量が高くなるために透磁率の値が向上しない。比較例No.23は扁平化助剤が過剰に添加されている影響で加工時間が延び、結果的に含有酸素量が高くなるため、透磁率の値が向上しない。比較例No.24は大気雰囲気下で熱処理されていて、含有酸素量が高くなるため、透磁率の値が向上しない。比較例No.25は含有酸素量が高く、透磁率の値が向上しない。
【0036】
比較例No.26~28は本発明例と比較して、原料粉量/溶媒量比が高い。そのために平均粒径が向上せず、透磁率が向上しない。比較例No.29は長時間の加工により平均粒径が低下している上に、含有酸素量が増大しているために透磁率が向上しない。比較例No.30は平均粒径が向上せず、透磁率が増大しない。比較例No.31は熱処理されておらず、保磁力が低下しないため透磁率が向上しない。
【0037】
比較例No.32~33は本発明例と比較して、熱処理温度が低く、保磁力が低下しないため、透磁率が向上しない。比較例No.34は本発明例と比較して、熱処理温度が高く、粉末の凝集によるタップ密度比および保磁力の増大により、透磁率が向上しない。比較例No.35は本発明例と比較して、加工時間が短く十分に扁平化していないため、透磁率が向上しない。比較例No.36は窒素雰囲気下で熱処理されており、保磁力が高いため、透磁率が向上しない。
【0038】
比較例No.37は本発明例と比較して含有マンガン量が少なく、保磁力が低下せず、透磁率が向上しない。また、比較例No.38は本発明例と比較して含有マンガン量が過剰であり、保磁力が低下せず、透磁率が向上しない。比較例No.39は本発明例と比較して保磁力が高く、透磁率が向上しない。
【0039】
比較例No.40は本発明例と比較してD50が大きい。そのためシート形成が困難となり、扁平粉末の配向性が低下し透磁率が低くなる。これに対して、本発明例No.1~21は、本発明に係る条件を満足する軟磁性扁平粉末であり、この軟磁性扁平粉末を用いることによって、透磁率が十分に高い電磁波吸収体用磁性シートを製造することが出来る極めて優れた効果を奏することが分かる。