(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、およびそれを用いた人工大理石の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/68 20060101AFI20221027BHJP
B29C 39/22 20060101ALI20221027BHJP
B29C 41/24 20060101ALI20221027BHJP
B29C 41/52 20060101ALI20221027BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20221027BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20221027BHJP
【FI】
B29C33/68
B29C39/22
B29C41/24
B29C41/52
B29C48/08
B29C48/92
(21)【出願番号】P 2020541312
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035112
(87)【国際公開番号】W WO2020050394
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2018168301
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
(72)【発明者】
【氏名】練苧 喬士
(72)【発明者】
【氏名】高藤 勝啓
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-298038(JP,A)
【文献】特開平4-364907(JP,A)
【文献】特開2011-104981(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0590311(KR,B1)
【文献】特開2013-227544(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132984(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084836(WO,A1)
【文献】特開2013-061502(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 39/00-39/44
B29C 41/00-41/52
B29C 48/00-48/96
C04B 26/00-26/28
C08L 29/04
G01N 21/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工大理石の原料となる原液を賦形装置に供給して固化して成型する際に、原液と賦形装置の間に配される離型フィルムであって、当該離型フィルムはポリビニルアルコールフィルムであり、かつ下記式(1)を満足することを特徴とする、人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム。
4.6×10
-3 ≧ Δn(MD)
0 - 1.4×10
-3 ≧ Δn(TD)
0 ≧ 1.0×10
-3 (1)
[式(1)中、Δn(MD)
0は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向中央部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、Δn(TD)
0は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向中央部における、幅方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示す。]
【請求項2】
下記式(2)~(4)を満足することを特徴とする、請求項1に記載の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム。
3.0×10
-3 ≧ Δn(MD)
1- Δn(MD)
0 ≧ 0.01×10
-3 (2)
3.0×10
-3 ≧ Δn(MD)
2- Δn(MD)
0 ≧ 0.01×10
-3 (3)
1.5×10
-3 ≧ |Δn(MD)
2 - Δn(MD)
1| (4)
[式(2)及び(3)中、Δn(MD)
0は、式(1)と同義であり、式(2)及び(4)中、Δn(MD)
1は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向の一方の端部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、式(3)及び(4)中、Δn(MD)
2は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向のもう一方の端部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示す。]
【請求項3】
10℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間が300秒以内である、請求項1または2に記載の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム。
【請求項4】
前記フィルムを構成するポリビニルアルコールのけん化度が64~93モル%である、請求項1~3のいずれかに記載の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム。
【請求項5】
前記人工大理石が、アクリル系ポリマーおよびポリエステル系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれかに記載の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム。
【請求項6】
前記フィルムの幅が1000mm以上である、請求項1~5のいずれかに記載の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルムを用いて、連続的に人工大理石を製造する、人工大理石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工大理石を賦形装置で固化・成型する際に、人工大理石と賦形装置の固着を防止するために、人工大理石と賦形装置の間に配される離型フィルムとして使用されるポリビニルアルコール離型フィルム、および当該フィルムを用いた人工大理石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成型品の成型方法の一つとして、プラスチック成型品の原料となる原液を、金型などの賦形装置に供給して固化・成型する方法が知られている。この方法において、当該プラスチックと賦形装置の材質との親和性が高いと、固化・成型が完了した後にプラスチック成型品を賦形装置から取り出すのが困難になって、生産速度の低下や製品の表面欠陥の増加を招く場合がある。その対策の一つとして、プラスチック成型品と賦形装置の間に離型フィルムを配することが、知られている。
【0003】
この離型フィルムに求められる特性としては、プラスチック成型品の固化・成型後に賦形装置から容易に取り出し可能であること、プラスチック成型品から容易に除去可能であること、プラスチック成型品の固化・成型工程における耐熱性を有すること、賦形装置の形状にフィットする柔軟性を有すること、プラスチック成型品の固化・成型工程における寸法変化に追随可能であること、などが挙げられる。
【0004】
アクリル系ポリマーやポリエステル系ポリマーを主成分とした人工大理石などの成型に対して、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)フィルムは上記の特性を兼ね備えていることから、好適に用いることができることが知られている(特許文献1)。
【0005】
生産性に優れた人工大理石の連続的な製造方法としては、特許文献1に開示されるような、金属製のエンドレスベルト上に貼り付けて連続的に供給されるPVA離型フィルムの上に、人工大理石の樹脂原料を供給した後、加熱炉内に搬送して硬化させる工程を含む人工大理石の製造方法が知られている。
【0006】
この製造方法において、PVA離型フィルムの吸湿により発生する端部のカールやフィルムの皺などにより、人工大理石の表面に皺が転写して形状不良となり、製品の品位の低下、加工、据付時の不具合に繋がる為、研削・研磨して皺を取り除く工程が必要となり、生産性を低下させる問題がある。特許文献1にはその対策として、用いるPVA離型フィルムの水分率と、人工大理石の樹脂原料を供給する工程における相対湿度における平衡水分率との差を、±0.5質量%以内に調整する技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、近年、人工大理石の生産性改善や大型製品への対応が求められており、上記のような水分率を調整したPVA離型フィルムを用いて広幅の人工大理石を製造した場合に、特に両端部に斜めに発生する皺により、硬化後の人工大理石の研削・研磨が必要となる問題がある事が明らかになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、広幅の人工大理石の製造においても、両端部に発生する皺やカールなどを抑制し、得られる人工大理石の表面形状の不良を防止でき、人工大理石を研削・研磨する工程を簡略化できる、人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、およびそれを用いた人工大理石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、
[1]人工大理石の原料となる原液を賦形装置に供給して固化して成型する際に、原液と賦形装置の間に配される離型フィルムであって、当該離型フィルムはポリビニルアルコールフィルムであり、かつ下記式(1)を満足することを特徴とする、人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、
4.6×10-3 ≧ Δn(MD)0 - 1.4×10-3 ≧ Δn(TD)0 ≧ 1.0×10-3 (1)
[式(1)中、Δn(MD)0は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向中央部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、Δn(TD)0は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向中央部における、幅方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示す。]
[2]下記式(2)~(4)を満足することを特徴とする、[1]の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、
3.0×10-3 ≧ Δn(MD)1- Δn(MD)0 ≧ 0.01×10-3 (2)
3.0×10-3 ≧ Δn(MD)2- Δn(MD)0 ≧ 0.01×10-3 (3)
1.5×10-3 ≧ |Δn(MD)2 - Δn(MD)1| (4)
[式(2)及び(3)中、Δn(MD)0は、式(1)と同義であり、式(2)及び(4)中、Δn(MD)1は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向の一方の端部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、式(3)及び(4)中、Δn(MD)2は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向のもう一方の端部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示す。]
[3]10℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間が300秒以内である、[1]または[2]の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、
[4]前記フィルムを構成するポリビニルアルコールのけん化度が64~93モル%である、[1]~[3]のいずれかの人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、
[5]前記人工大理石が、アクリル系ポリマーおよびポリエステル系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかの人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、
[6]前記フィルムの幅が1000mm以上である、[1]~[5]のいずれかの人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルム、
[7][1]~[6]のいずれかの人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルムを用いて、連続的に人工大理石を製造する、人工大理石の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の人工大理石成型用ポリビニルアルコール離型フィルムを用いれば、広幅の人工大理石の製造においても、両端部に発生する皺やカールなどを抑制することができる。したがって、得られる人工大理石の表面形状の不良を防止でき、人工大理石を研削・研磨する工程が簡略化できる。また、本発明の製造方法によれば、広幅の人工大理石を生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】PVA離型フィルムの機械流れ方向(MD)の複屈折率「Δn(MD)」の測定方法。
【
図2】PVA離型フィルムの幅方向(TD)の複屈折率「Δn(TD)」の測定方法。
【
図3】本発明で用いた人工大理石の製造装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
[PVA離型フィルム]
本発明の人工大理石成型用PVA離型フィルム(以下、単に「PVA離型フィルム」と略記することがある)は、下記式(1)を満足することが重要である。
4.6×10-3 ≧ Δn(MD)0 - 1.4×10-3 ≧ Δn(TD)0 ≧ 1.0×10-3 (1)
[式(1)中、Δn(MD)0は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向中央部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、Δn(TD)0は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向中央部における、幅方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示す。]
【0015】
広幅の人工大理石の製造においても、PVA離型フィルムが上記式(1)を満足することにより両端部に発生する皺やカールなどを抑制できる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のことを推定している。すなわち、PVA離型フィルムの機械流れ方向および幅方向の複屈折率はそれぞれ、PVA離型フィルムの厚み方向に対する機械流れ方向および幅方向の配向度に対応すると考えられ、複屈折率が高いほど配向度が高いと考えられる。そして、式(1)を満足することにより、人工大理石製造の際に加わる熱によるPVA離型フィルムの機械流れ方向と幅方向の収縮のバランスが、固化する際の人工大理石の収縮のバランスに適合するためではないかと推定される。
【0016】
本発明において、Δn(MD)0はΔn(TD)0より1.4×10-3以上大きい必要がある。この差が1.4×10-3未満である場合は、両端部に発生する皺やカールなどを抑制することが困難になる。Δn(MD)0とΔn(TD)0の差は、好ましくは1.6×10-3以上、より好ましくは1.8×10-3以上、さらに好ましくは2.0×10-3以上、特に好ましくは2.1×10-3以上である。一方、Δn(MD)0とΔn(TD)0の差の上限は、式(1)から明らかなように5.0×10-3以下である。この差が5.0×10-3を超える場合も、両端部に発生する皺やカールなどを抑制することが困難になる。Δn(MD)0とΔn(TD)0の差は、好ましくは4.5×10-3以下、より好ましくは4.0×10-3以下、さらに好ましくは3.5×10-3以下、特に好ましくは3.0×10-3以下である。
【0017】
本発明においてΔn(MD)0の上限は、式(1)から明らかなように、6.0×10-3以下である。Δn(MD)0が6.0×10-3を超える場合、Δn(MD)0とΔn(TD)0の差が1.4×10-3以上であっても、両端部に発生する皺やカールなどを抑制することが困難になる。Δn(MD)0の上限は、好ましくは5.5×10-3以下、より好ましくは5.0×10-3以下、さらに好ましくは4.5×10-3以下である。同様にΔn(TD)0が1.0×10-3未満の場合も、両端部に発生する皺やカールなどを抑制することが困難になる。Δn(TD)0の下限は、好ましくは1.2×10-3以上、より好ましくは1.4×10-3以上、さらに好ましくは1.6×10-3以上である。Δn(MD)0が上限を超える場合、あるいはΔn(TD)0が下限未満である場合に両端部に発生する皺やカールなどを抑制することが困難になる理由は必ずしも明確ではないが、人工大理石製造の際のPVA離型フィルムと人工大理石の収縮率の差が大きくなりすぎるためではないかと推定される。
【0018】
本発明において、PVA離型フィルムは下記式(2)~(4)を満足することが好ましい。
3.0×10-3 ≧ Δn(MD)1- Δn(MD)0 ≧ 0.01×10-3 (2)
3.0×10-3 ≧ Δn(MD)2- Δn(MD)0 ≧ 0.01×10-3 (3)
1.5×10-3 ≧ |Δn(MD)2 - Δn(MD)1| (4)
[式(2)及び(3)中、Δn(MD)0は、式(1)と同義であり、式(2)及び(4)中、Δn(MD)1は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向の一方の端部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、式(3)及び(4)中、Δn(MD)2は、ポリビニルアルコール離型フィルムの幅方向のもう一方の端部における、機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示す。]
【0019】
式(2)および(3)は、PVA離型フィルム端部における機械流れ方向の複屈折率の平均値が、PVA離型フィルム中央部におけるそれよりも0.01×10-3以上高く、かつ3.0×10-3以下であることが好ましいことを示している。また、式(4)は、PVA離型フィルムの両端部における機械流れ方向の複屈折率の平均値の差が、1.5×10-3以下であることが好ましいことを示している。PVA離型フィルムが上記式(2)~(4)を満足することにより、両端部に発生する皺やカールなどを抑制することがより容易となり、また両端部の皺の発生状況が均一化して、両端部における皺除去のための研磨量を両端部で均一化しやすくなる。
【0020】
式(2)および(3)において、Δn(MD)1とΔn(MD)0との差、およびΔn(MD)2とΔn(MD)0との差が3.0×10-3を超える、あるいは0.01×10-3未満の場合、両端部に発生する皺やカールなどが徐々に抑制しにくくなる傾向にある。Δn(MD)1とΔn(MD)0との差、およびΔn(MD)2とΔn(MD)0との差の上限は、2.6×10-3以下であることがより好ましく、2.3×10-3以下であることがさらに好ましく、2.3×10-3以下であることが特に好ましい。また、Δn(MD)1とΔn(MD)0との差、およびΔn(MD)2とΔn(MD)0との差の下限は、0.05×10-3以上であることがより好ましく、0.1×10-3以上であることがさらに好ましく、0.2×10-3以上であることが特に好ましい。
【0021】
上記式(4)において、Δn(MD)1とΔn(MD)2との差が1.5×10-3を超える場合、フィルム両端部のバランスが損なわれ、フィルムの一方の端部において、皺やカールが悪化する傾向を示す。Δn(MD)1とΔn(MD)2との差は、1.0×10-3以下であることがより好ましく、0.5×10-3以下であることがさらに好ましく、0.1×10-3以下であることが特に好ましい。Δn(MD)1とΔn(MD)2との差は、0であってもよい。
【0022】
本発明におけるPVA離型フィルムを構成するPVAとしては、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0023】
上記のビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものがより好ましいが、1種または2種以上のビニルエステル系モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0024】
このようなビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル系重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0025】
上記のビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合は、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0026】
PVAの重合度に特に制限はないが、200以上であることが好ましく、5000以下であることが好ましい。重合度が200未満の場合、フィルム強度が低下する傾向があり、重合度が5,000を超える場合、PVAの製造コストが高くなる傾向がある。PVAの重合度は、300~3,000の範囲内であることがより好ましい。ここで重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVA系重合体を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
重合度(Po) = ([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0027】
本発明において、PVAのけん化度は64~93モル%であることが好ましい。けん化度をこの範囲に調整することにより、固化した人工大理石からPVA離型フィルムを除去する際に、容易に剥離、あるいは溶解除去することが可能になる。PVAのけん化度は、70~91モル%であることがより好ましく、75~90モル%であることがさらに好ましい。ここでPVAのけん化度は、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル系モノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVAのけん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0028】
本発明におけるPVA離型フィルムは、PVAとして1種類のPVAを単独で用いてもよいし、重合度やけん化度あるいは変性度などが互いに異なる2種以上のPVAをブレンドして用いてもよい。
【0029】
PVA離型フィルムは、可塑剤を含まない状態では他のプラスチックフィルムに比べ剛直であり、衝撃強度等の機械的物性や二次加工時の工程通過性などが問題になることがある。それらの問題を防止するために、本発明のPVA離型フィルムには可塑剤を含有させることが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤の中でも、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。PVA離型フィルムにおける可塑剤の含有率としては、PVA離型フィルムに含まれるPVA100質量部に対して1~30質量部の範囲内であることが好ましく、3~25質量部の範囲内であることがより好ましく、5~20質量部の範囲内であることがさらに好ましい。上記の含有率が1質量部未満であると上記の問題が起きやすくなる傾向があり、30質量部を超えるとフィルムが柔軟になりすぎて、取り扱い性が低下する場合がある。
【0030】
本発明のPVA離型フィルムには、人工大理石からの剥離性や、PVA離型フィルム製造時のハンドリング性の向上などを目的として、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤の種類に特に制限はないが、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。
【0032】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。
【0033】
本発明のPVA離型フィルムは、可塑剤、界面活性剤以外に、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、着色剤、充填剤、防腐剤、防黴剤、他の高分子化合物などの成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有してもよい。PVA、可塑剤、界面活性剤の各質量の合計値が本発明のPVA離型フィルムの全質量に占める割合は、60~100質量%の範囲内であることが好ましく、80~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0034】
[PVA離型フィルムの完溶時間]
本発明のPVA離型フィルムは、10℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間が300秒以内であることが好ましい。完溶時間が300秒以内であることにより、硬化後の人工大理石からのPVA離型フィルムの溶解除去が可能となる。完溶時間は180秒以内であることがより好ましく、120秒以内であることがさらに好ましく、90秒以内であることが特に好ましい。一方、完溶時間の下限に特に制限はないが、完溶時間が短すぎるPVA離型フィルムでは、空気雰囲気中の水分の吸湿によるフィルム間のブロッキングやフィルム強度の低下などの問題が生じやすくなる傾向があることから、5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、20秒以上であることがさらに好ましく、30秒以上であることが特に好ましい。
【0035】
本発明において、PVA離型フィルムを10℃の水に浸漬した時の完溶時間は、以下のようにして測定することができる。
<1>PVA離型フィルムを20℃-65%RHに調整した恒温恒湿器に16時間以上置いて、調湿する。
<2>調湿したフィルムから、長さ40mm×幅10mmの長方形のサンプルを切り出し、50mm×50mmのプラスチック板に長さ35mm×幅23mmの長方形の窓(穴)を開けたもの2枚の間に、サンプルの長さ方向が窓の長さ方向に平行でかつサンプルが窓の幅方向ほぼ中央に位置するように挟み込んで固定する。
<3>500mlのビーカーに300mlの水を入れ、回転数280rpmで3cm長のバーを備えたマグネティックスターラーで攪拌しつつ、水温を10℃に調整する。
<4>上記<2>においてプラスチック板に固定したサンプルをマグネティックスターラーのバーに接触させないように注意しながら、ビーカー内に浸漬する。
<5>水に浸漬してから、水中に分散したサンプル片が完全に消失するまでの時間を測定する。
【0036】
上記の完溶時間は、使用するPVAの種類(重合度、けん化度、変性の種類や変性量など)、フィルムの厚み、可塑剤などの添加剤の種類と量、製膜方法やその条件などを適宜調整することによって容易に上記範囲とすることができる。具体的には、例えば、使用するPVAにおいて、重合度を下げる;けん化度を下げる;変性種(上記したビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマーに由来する構造単位の種類)としてより親水性のものを採用する;その変性量を多くするなどの調整を行うことによって、あるいは、PVA離型フィルムの厚みを薄くする;可塑剤としてより親水性のものを採用する;可塑剤の含有量を増やす;フィルムへの熱処理条件を弱めるなどの調整を行うことによって、上記の溶解時間を短くすることができる。
【0037】
本発明のPVA離型フィルムの厚みに特に制限はないが、厚みが厚すぎると賦形装置の形状にフィットしにくくなる傾向があることから、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。また厚みがあまりに薄い場合、PVA離型フィルムのハンドリング性や強度に問題が生じるおそれがあることから、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。なお、PVA離型フィルムの厚みは、任意の10箇所(例えば、PVA離型フィルムの長さ方向に引いた直線上にある任意の10箇所)の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0038】
本発明のPVA離型フィルムの長さに特に制限はないが、金属製のエンドレスベルト上にPVA離型フィルムを貼り付けて、その上に人工大理石の樹脂原料を供給して連続的に人工大理石を製造する方法などに用いる場合、生産性の観点より長尺であることが好ましい。具体的には、50m以上であることが好ましく、100m以上であることがより好ましく、200m以上であることがさらに好ましく、500m以上であることが特に好ましい。一方、PVA離型フィルムの長さの上限に特に制限はないが、当該長さは10000m以下であることが好ましい。
【0039】
本発明のPVA離型フィルムの幅は、本発明の効果がより顕著に得られることから、1000mm以上であることが好ましい。一方、PVA離型フィルムの幅の上限に特に制限はないが、当該幅は5000mm以下であることが好ましい。
【0040】
[PVA離型フィルムの製膜方法]
本発明において、PVA離型フィルムの製膜方法に特に制限はなく、PVAに溶媒、添加剤等を加えて均一化させた製膜原液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(製膜原液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVA系重合体フィルムを得る方法)、あるいはこれらの組み合わせにより製膜する方法や、押出機などを使用して上記製膜原液を得てこれをTダイなどから押出すことにより製膜する溶融押出製膜法など、任意の方法により製膜することができる。これらの中でも、流延製膜法および溶融押出製膜法が、均質なPVA離型フィルムを生産性よく得ることができるため、好ましい。
【0041】
以下、PVA離型フィルムの流延製膜法または溶融押出製膜法について説明する。
【0042】
PVA離型フィルムを流延製膜法または溶融押出製膜法にて製膜する場合、上記の製膜原液は金属ロールや金属ベルトなどの支持体の上へ膜状に流涎され、加熱されて溶媒が除去されることにより、固化してフィルム化する。固化したフィルムは支持体より剥離されて、必要に応じて乾燥ロール、乾燥炉などにより乾燥されて、さらに必要に応じて熱処理されて、巻き取られることにより、ロール状の長尺のPVA離型フィルムを得ることができる。
【0043】
乾燥途中のPVA離型フィルムの体積は、溶媒等の揮発により徐々に減少するため、フィルムに張力がかからない状態であれば、長さ、幅、共に収縮しようとするが、フィルムが支持体上に拘束されている状態では収縮できないため、乾燥の進展に伴い、長さ、幅方向に張力が発生し、それによりPVAの分子鎖の配向を生じる。
また、溶媒等の揮発はフィルムの表面で生じることから、乾燥途中ではフィルムの厚み方向に溶媒の含有率に分布を生じる。フィルム表面では溶媒が速やかに揮発するため、配向したPVA分子鎖が固定化されやすいが、フィルムの厚み方向の中央部付近では、溶媒の含有率が高いため、フィルム表面に比べPVA分子鎖の配向緩和が起きやすい。このため、フィルム表面の複屈折率は厚み方向の中央部付近に比べ高くなりやすい。
さらに、支持体から剥離された後の、支持体、乾燥ロール、搬送ロールの間の空中では、フィルムにかかる張力が高ければ機械流れ方向の配向が、張力が低ければ配向緩和が進行し、支持体およびロール間の滞留時間が長ければ、幅方向の配向緩和が進行する。
よって、支持体上での乾燥速度、すなわち支持体表面の温度や支持体との接触時間、支持体、乾燥ロール、搬送ロール間でフィルムにかかる張力、支持体、乾燥ロール、搬送ロール間の滞留時間、乾燥ロールあるいは乾燥炉の温度などを適切に調整することにより、機械流れ方向および幅方向の複屈折率が制御された本発明のPVA離型フィルムを得ることができる。
【0044】
上記の製膜原液の揮発分濃度(製膜時などに揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)は50~90質量%の範囲内であることが好ましく、55~80質量%の範囲内であることがより好ましい。揮発分濃度が50質量%未満であると、製膜原液の粘度が高くなり、製膜が困難となる場合がある。一方、揮発分濃度が90質量%を超えると、粘度が低くなり得られるフィルムの厚さ均一性が損なわれやすく、さらに揮発分濃度が高いほどPVA分子鎖の配向緩和が起きやすいため、複屈折率の制御が困難になるため好ましくない。
【0045】
製膜原液の調製方法に特に制限はなく、例えば、PVAと可塑剤、界面活性剤などの添加剤を溶解タンク等で溶解させる方法や、押出機を使用して含水状態のPVAを溶融混練する際に、可塑剤、界面活性剤などと共に溶融混練する方法などが挙げられる。
【0046】
製膜原液は、一般にTダイなどのダイのダイリップを通過して、金属ロールや金属ベルトなどの支持体の上へ膜状に流涎される。この際のドラフト比、すなわちダイリップを通過するときの、製膜原液の流れ方向の線速度に対する支持体表面の線速度の比は、2~60の範囲にあることが好ましい。ドラフト比をこの範囲に調整することにより、膜面が良好でかつ好ましい複屈折率を得やすくなる。ドラフト比が低すぎる場合、好ましい複屈折率を得るのが困難になる傾向がある。ドラフト比が高すぎる場合も、好ましい複屈折率を得るのが困難になる傾向があると共に、フィルムの厚みが幅方向にバラつきを生じやすくなる傾向にある。ドラフト比のより好ましい範囲は2~50であり、さらに好ましい範囲は3~40であり、特に好ましい範囲は4~30である。
【0047】
製膜原液を流涎する支持体の表面温度は40~120℃であることが好ましい。表面温度が40℃未満の場合、乾燥に要する時間が長くなり生産性が低下する傾向であり、120℃を超える場合は、発泡等の膜面の異常を生じやすくなる傾向、および複屈折率の調整が困難になる傾向がある。支持体の表面温度は50~110℃であることがより好ましく、60~105℃であることがさらに好ましい。
【0048】
支持体から剥離されたPVA離型フィルムは、必要に応じてさらに乾燥される。乾燥の方法に特に制限はなく、乾燥炉や乾燥ロールに接触させる方法が挙げられる。複数の乾燥ロールで乾燥させる場合は、フィルムの一方の面と他方の面を交互に乾燥ロールに接触させることが、両面を均一化させるために好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度は、40~110℃であることが好ましい。
【0049】
PVA離型フィルムに対して、必要に応じてさらに熱処理を行うことができる。熱処理を行うことにより、フィルムの強度、水溶性、複屈折率などの調整を行うことができる。熱処理の温度は、60~160℃であることが好ましい。
【0050】
PVA離型フィルムの製膜において、金属ロールや金属ベルトなどの支持体の上へ膜状に流涎されたフィルムは、製膜プロセスの進行に伴い揮発分を徐々に失っていき、それに従ってフィルムの体積も徐々に減少していく。この時、製膜プロセスにおけるトータルドロー比、すなわち製膜原液を流涎する支持体表面の流れ方向の線速度に対する、フィルムをロール状に巻き上げる巻取ロールの線速度の比が、フィルムの乾燥による長さ方向の収縮率より大きければ、フィルムに流れ方向の張力がかかり、それによりフィルム中のPVA分子の配向状況が影響を受ける。本発明におけるトータルドロー比の好ましい範囲は、1.00~1.90である。トータルドロー比が低すぎると、本発明の複屈折率を有するフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。トータルドロー比が高すぎる場合も、本発明の複屈折率を有するフィルムを得ることが難しくなる傾向があると共に、得られるフィルムの有効幅が減少する問題を生じやすい。トータルドロー比のより好ましい範囲は1.10~1.80であり、さらに好ましい範囲は1.2~1.7であり、特に好ましい範囲は1.25~1.60である。
【0051】
このようにして製造されたPVA離型フィルムは、円筒状のコアの上にロール状に巻き取られ、防湿包装されて、製品となる。
【0052】
[PVA離型フィルムの使用方法]
金型などの賦形装置で人工大理石を固化・成型する際に、原液と賦形装置の間に本発明のPVA離型フィルムを配すことにより、人工大理石を賦形装置から容易に取り外すことができ、かつPVA離型フィルムを人工大理石から容易に取り除くことができる。
【0053】
[人工大理石の製造方法]
本発明のPVA離型フィルムを用いて、連続的に人工大理石を製造する、人工大理石の製造方法も、本発明の一形態である。
【0054】
本発明において、必ずしも限定はされないが、人工大理石とはポリエステル系ポリマー、アクリル系ポリマー、ビスフェノール系ポリマー、ビニルエステル系ポリマー、エポキシポリマーなどの熱硬化性樹脂のプレポリマーに、有機、無機の充填剤や、重合触媒、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を配合した原液を、賦形装置にて硬化させた成型物である。
プレポリマーの中では、上記の通り、ポリエステル系ポリマー、アクリル系ポリマー、あるいは両者の混合物が、本発明の効果をより顕著に得られやすいことから、好ましい。すなわち、人工大理石が、アクリル系ポリマーおよびポリエステル系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好適な実施態様である。ポリエステル系ポリマーの中でも不飽和ポリエステル系ポリマーが好ましい。
【0055】
人工大理石に配合される充填剤は、必ずしも限定はされないが、アクリル系ポリマーやスチレン系ポリマー等の合成樹脂のビーズ、あるいは粉末などの有機充填剤、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、シリカ、タルク、クレー等の無機充填剤を使用することができる。
【0056】
重合触媒、架橋剤については、熱硬化性樹脂のプレポリマーを重合、架橋させることができるものを適宜選択できる。
【0057】
また、酸化防止剤、紫外線吸収剤以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で、抗菌剤、スリップ剤、離型剤などの添加剤を、必要に応じて配合できる。
【0058】
本発明のPVA離型フィルムを用いて連続的に人工大理石を製造する方法については、必ずしも限定されないが、例えば、1組のエンドレスベルトの向かい合う面の上にPVA離型フィルムを配して、その間に人工大理石の原料となる原液を連続的に注入し、ベルトを加熱炉に導入して連続的に硬化させる方法や、エンドレスベルトの上にPVA離型フィルムを貼り付けて、その上に人工大理石の原料となる原液を連続的に供給し、さらにその原液の上にもう一枚のPVA離型フィルムを置き、サイジングロールをPVA離型フィルムの上から原液に当てて厚み調整をしつつ、加熱炉に導入して連続的に硬化させる方法が挙げられる。
【0059】
硬化した人工大理石は、適当な長さに切り分けられ、必要に応じて表面が研磨される。PVA離型フィルムは、研磨の前に剥離してもよいし、研磨の際に人工大理石表面へ供給される冷却・潤滑用の水で膨潤・溶解させながら除去してもよい。研磨の際に除去することにより、PVA離型フィルムを剥離する手間を省くことができる。したがって、人工大理石を研磨することによりPVA離型フィルムを剥離する工程を有する人工大理石の製造方法が本発明の好適な実施態様である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、PVA離型フィルムおよび人工大理石の評価項目とその方法は、下記の通りである。
【0061】
(1)PVA離型フィルムの複屈折率
PVA離型フィルムの複屈折率は、以下の方法で測定することができる。
【0062】
(ア)機械流れ方向(MD)の複屈折率「Δn(MD)」
(i) PVA離型フィルムの機械流れ方向(MD)の任意の位置で、
図1の(a)に示すように、フィルムの幅方向(TD)における中央部(位置0とする)、および両端部から30mm以内の位置(位置1および2とする)からそれぞれ、MD×TD=2mm×10mmの大きさの細片を切り出し、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それを更に木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付ける。
【0063】
(ii) 次に、前記で採取した細片を、
図1の(b)に示すように(PETフィルムおよび木枠は図示せず)、細片の機械流れ方向(MD)と平行に10μm間隔でスライスし、
図1の(c)に示す観察用のスライス片(MD×TD=2mm×10μm)を10個作製する。このスライス片の中から、スライス面が平滑で且つスライス厚み斑のないスライス片5個を選び、それぞれをスライドガラス上に載せてマイクロスコープ(キーエンス社製)でスライス厚みを測定する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。
【0064】
(iii) 次いで、スライス面が観察できるように、スライス片を
図1の(d)のように倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとシリコーンオイル(屈折率1.04)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA-micro」(株式会社フォトニックラティス製)を用いてスライス片5個のレタデーションを測定する。
【0065】
(iv) 各スライス片のレタデーション分布を「PA-micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初のフィルムの表面に垂直な線αを引き、その線分α上でライン解析を行ってフィルムの厚み方向のレタデーション分布データを取得する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。また、スライス片上で線分αの通る位置が変わることによる誤差を抑えるため、線幅を300画素としてレタデーションの平均値を採用する。
【0066】
(v) 上記で得られたフィルムの厚み方向のレタデーション分布の値をマイクロスコープで測定した厚みで除してフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(MD)分布を求め、当該フィルムの厚み方向の複屈折率Δn(MD)分布の平均値を求める。さらに、スライス片5個について求めたそれぞれのフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(MD)分布の平均値を算出する。
【0067】
PVA離型フィルムの幅方向中央部における機械流れ方向の複屈折率の平均値がΔn(MD)0、PVA離型フィルムの幅方向の一方の端部における機械流れ方向の複屈折率の平均値がΔn(MD)1、PVA離型フィルムの幅方向のもう一方の端部における、機械流れ方向の複屈折率の平均値がΔn(MD)2、となる。
【0068】
(イ)幅方向(TD)の複屈折率「Δn(TD)」
(i) PVA離型フィルムの機械流れ方向(MD)の任意の位置で、
図2の(a)に示すように、フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=10mm×2mmの大きさの細片を切り出し、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それを更に木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付ける。
【0069】
(ii) 次に、前記で採取した細片を、
図2の(b)に示すように(PETフィルムおよび木枠は図示せず)、細片の幅方向(TD)と平行に10μm間隔でスライスし、
図2の(c)に示す観察用のスライス片(MD×TD=10μm×2mm)を10個作製する。このスライス片の中から、スライス面が平滑で且つスライス厚み斑のないスライス片5個を選び、それぞれをスライドガラス上に載せてマイクロスコープ(キーエンス社製)でスライス厚みを測定する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。
【0070】
(iii) 次いで、スライス面が観察できるように、スライス片を
図2の(d)のように倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとシリコーンオイル(屈折率1.04)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA-micro」(株式会社フォトニックラティス製)を用いてスライス片5個のレタデーションを測定する。
【0071】
(iv) 各スライス片のレタデーション分布を「PA-micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初のフィルムの表面に垂直な線βを引き、その線分β上でライン解析を行ってフィルムの厚み方向のレタデーション分布データを取得する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。また、スライス片上で線分βの通る位置が変わることによる誤差を抑えるため、線幅を300画素としてレタデーションの平均値を採用する。
【0072】
(v) 上記で得られたフィルムの厚み方向のレタデーション分布の値をマイクロスコープで測定した厚みで除してフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(TD)分布を求め、当該フィルムの厚み方向の複屈折率Δn(TD)分布の平均値を求める。スライス片5個について求めたそれぞれのフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(TD)分布の平均値を更に平均したものを、「Δn(TD)0」とする。
【0073】
(2)PVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間
前記[PVA離型フィルムの完溶時間]に記載された方法により、PVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間を求めた。
【0074】
(3)人工大理石表面の皺
後述する人工大理石の製造において、PVA離型フィルムを用いて人工大理石を連続的に製造した際の、人工大理石の両端部の表面に生じた皺を、以下の基準で評価した。
AA:人工大理石の両端部に、皺は認められず。
AB:人工大理石の片側の端部にのみ、研磨で容易に除去可能な皺あり。
BB:人工大理石の両側の端部に、研磨で容易に除去可能な皺あり。
CC:人工大理石の両側の端部に、研磨で容易に除去できない皺あり。
【0075】
<実施例1>
(1)PVA離型フィルムの製造
ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたPVA(けん化度88モル%、重合度1000)100質量部、グリセリン9質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部および水からなる揮発分率68質量%の製膜原液をTダイから第1乾燥ロール(表面温度80℃、周速11m/分)に膜状に吐出し、第1乾燥ロール上で、第1乾燥ロール非接触面の全体に85℃の熱風を吹き付けて乾燥し、次いで第1乾燥ロールから剥離して、PVA膜の一方の面と他方の面とが各乾燥ロールに交互に接触するように第2乾燥ロール以降の乾燥をロール表面温度約60℃で行い、最後に表面温度110℃の最終乾燥ロール(熱処理ロール)で熱処理を行った後、巻き取ってPVA離型フィルム(厚み35μm、幅1900mm)を得た。ダイリップにおける製膜原液の流れ方向の線速度に対する第1乾燥ロール表面の線速度の比、すなわちドラフト比は4.8であり、第1乾燥ロール表面の線速度に対するフィルムをロール状に巻き上げる巻取ロールの線速度の比、すなわちトータルドロー比は、1.41であった。
【0076】
得られたPVA離型フィルムの複屈折率を、まずフィルムの幅方向中央部において測定したところ、幅方向の複屈折率の厚み方向の平均値[Δn(TD)0]は1.9×10-3、機械流れ方向の複屈折率の厚み方向の平均値[Δn(MD)0]は4.2×10-3であった。次いでフィルムの流れ方向に向かって上から見た右側の端部を測定したところ、機械流れ方向の複屈折率の厚み方向の平均値[Δn(MD)1]は4.4×10-3であった。さらにフィルムの流れ方向に向かって上から見た左側の端部を測定したところ、機械流れ方向の複屈折率の厚み方向の平均値[Δn(MD)2]は4.4×10-3であった。
また、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間は、52秒であった。
【0077】
(2)人工大理石の製造
得られたPVA離型フィルムを20℃、65%RHの室内に2週間静置して、PVA離型フィルムに含まれる水分率を安定化させた。
前記室内環境のまま、エンドレスステンレスベルトの一端に上記のPVA離型フィルムを連続的に載せながらロールでニップしベルトにフィルムを貼り付けた後にアクリル系単量体混合物として、メタクリル酸メチル(MMA)285質量部、メタクリル樹脂(PMMA、商品名「パラビーズ」、クラレ社製)100質量部、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート(BG)15質量部、水酸化アルミニウム粉末(ハイジライト、昭和電工社製)600質量部を混合し、真空下で脱気して得たアクリル系単量体混合物を30℃に温調した後、定量ポンプでインラインミキサーに2.0kg/分で連続的に投入し、同時に重合開始剤ターシャリーブチルパーオキシネオデカノエート(商品名「パーブチルND」、日本油脂製)をアクリル系単量体混合物1kg当たり8gの割合で投入して混合した後、PVA離型フィルムを貼り付けたエンドレスステンレスベルトの上部から供給し液の厚みが11mmになるように板状に流延させ、さらにその上にPVA離型フィルムを載せて75℃一定温度とした
図3に示す温風循環式重合加熱炉内に連続的に搬送し重合硬化させて、アクリル人工大理石を得た。
【0078】
PVA離型フィルムを貼り付けたまま、得られたアクリル人工大理石の表面を観察したところ、両端部の皺はほぼ認められなかった。次いで、人工大理石表面からの水洗性評価として、PVA離型フィルムを貼り付けたまま、得られたアクリル人工大理石の表面を、水を噴霧しながら研磨した。その結果、容易にPVA離型フィルムを溶解除去することができた。上記の結果を表1に示す。
【0079】
<実施例2>
実施例1におけるPVAのケン化度を88モル%から99モル%に、第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の温度を85℃から95℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。なお、表1中の実施例2における完溶時間(sec)の「∞」は、PVA離型フィルムが脱イオン水中で完溶しなかったことを表す。
【0080】
<実施例3>
PVAを、無変性のけん化度88モル%のPVAから、アクリルアミドプロパンスルホン酸を4モル%共重合した変性ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたPVA(けん化度99モル%、重合度1000)に変更した以外は、実施例2と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0081】
<実施例4>
実施例1における第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風について、熱風を吹き付けるノズルを幅方向に3等分した時の、中央部を除く両端部のノズルについては熱風の温度を85℃から100℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0082】
<実施例5>
実施例1における第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風について、熱風を吹き付けるノズルを幅方向に3等分した時の、中央部を除く両端部のノズルの内、一方については熱風の温度を85℃から65℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0083】
<比較例1>
実施例1における第1乾燥ロールの表面温度を80℃から70℃、第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の温度を85℃から75℃に、第1乾燥ロール表面の線速度を実施例1の1/2に、トータルドロー比を1.01に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0084】
<比較例2>
実施例1におけるトータルドロー比を1.03に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0085】
<比較例3>
比較例2におけるトータルドロー比を1.33に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0086】
<比較例4>
比較例1におけるドラフト比を3.8に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVA離型フィルムを得た。実施例1と同様にして、得られたPVA離型フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間の測定、アクリル人工大理石表面の観察、および人工大理石表面からの水洗性評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0087】
【符号の説明】
【0088】
1 加熱炉
2 循環ブロワー
3 熱交換器
4、4’ ベルトプーリー
5 エンドレススレンレスベルト
6 仕切室
7 PVA離型フィルム(ベルト貼付用)
8 PVA離型フィルム(アクリル系単量体混合物揮散防止用)
9 アクリル系単量体混合物供給ホース
10 ニップロール