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特許7165936トレーニング装置、画像処理方法、プログラム、および情報記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】トレーニング装置、画像処理方法、プログラム、および情報記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20221028BHJP
   G09B 23/28 20060101ALI20221028BHJP
   G09B 19/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G09B23/28
G09B19/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018077822
(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2019184930
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】大屋 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 成志
【審査官】前地 純一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-155510(JP,A)
【文献】特開2012-073490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
G09B 17/00-19/26
G09B 23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光剤が塗布されたカテーテルが挿入される器官モデルを照射するための光源と、
前記光源からの照射光をカットし、かつ、前記カテーテルからの蛍光を透過するフィルタと、
前記フィルタの透過光を撮像するためのカメラと、
前記透過光に基づく画像を表示するためのモニタと、
前記カメラから出力されるデータを用いて画像処理を行なうためのコンピュータとを備え、
前記コンピュータは、
前記カテーテルからの蛍光量に基づいて、前記カテーテルを認識するための画像処理を実行し、
前記画像処理後のデータに基づいて、前記カテーテルを表示または非表示するように構成されている、トレーニング装置。
【請求項2】
前記光源は、前記器官モデルに対して、前記カメラが配置されている側に配置されている、請求項1に記載のトレーニング装置。
【請求項3】
前記光源は、前記器官モデルに対して、前記カメラが配置されている側の反対側に配置されている、請求項1に記載のトレーニング装置。
【請求項4】
前記光源から前記カテーテルに対する光の照射方向を変更するための調節装置をさらに備える、請求項1~3のいずれかに記載のトレーニング装置。
【請求項5】
光源を用いて蛍光剤が塗布されたカテーテルが挿入される器官モデルを照射するステップと、
前記光源からの照射光をカットして前記カテーテルからの蛍光を透過するステップと、
前記カテーテルが挿入される器官のモデルからの透過光を、蛍光を透過するフィルタを介して撮影することによって得られた、前記カテーテルからの蛍光量に基づいて、前記カテーテルを認識するための画像処理を実行するステップと、
前記画像処理後のデータに基づいて、前記カテーテルを表示または非表示とするステップとを含む、画像処理方法。
【請求項6】
画像処理方法をコンピュータに実現させるためのプログラムであって、前記プログラムは前記コンピュータに、
光源を用いて蛍光剤が塗布されたカテーテルが挿入される器官モデルを照射するステップと、
前記光源からの照射光をカットして前記カテーテルからの蛍光を透過するステップと、
前記カテーテルが挿入される器官のモデルからの透過光を、蛍光を透過するフィルタを介して撮影することによって得られた、前記カテーテルからの蛍光量に基づいて、前記カテーテルを認識するための画像処理を実行するステップと、
前記画像処理後のデータに基づいて、前記カテーテルを表示または非表示とするステップとを実行させる、プログラム。
【請求項7】
請求項に記載のプログラムを格納した、コンピュータ読取可能な情報記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血管内治療のためのトレーニングに関し、より特定的には、放射線を用いることなくトレーニングを提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルを用いた手術はX線の投影下で行なわれる。当該手術のトレーニングも、X線透過装置を用いて行なわれる。例えば、特開2014-170075号公報(特許文献1)は、「液体が循環する環境を簡単に構成するとともに、X線撮影に基づく訓練も実施可能な構成とすることによって、より現実のインターベンション手技に近い訓練を効率的且つ良好に行うことができるトレーニング装置」を開示している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-170075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線の投影下でトレーニングを行うと、トレーニングを受けている医師が被曝するという問題がある。そこで、X線造影を行なうことなく手術のトレーニングが可能な技術が必要とされている。
【0005】
発明者らは、X線造影の代わりに、カテーテルを使用する手術のトレーニング手法として、蛍光造影を用いる手法を考案した。X線造影の場合、造影剤のX線吸収係数とガイドワイヤー(以下、単に「ワイヤー」ということもある。)のX線吸収係数は大きな差がない。そのため、ガイドワイヤーは造影剤と共に黒い影として写り、カメラの画像で確認できず、このことが、カテーテルのトレーニングの意義となる。他方、蛍光造影の場合、蛍光造影剤とガイドワイヤーとの吸収係数が異なるため、カテーテルが明りょうに画像に映る。そのため、トレーニングの効果が高まりにくくなる可能性もある。したがって、カテーテルのトレーニングにおいて、X線による被曝がなくトレーニングの効果が高まるような技術が必要とされている。
【0006】
本開示は上述のような問題点を解決するためになされたものであって、ある局面における目的は、X線による被曝がなくトレーニングの効果が高まるような技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある実施の形態に従うと、トレーニング装置が提供される。このトレーニング装置は、蛍光剤が塗布されたカテーテルが挿入される器官モデルを照射するための光源と、光源からの照射光をカットし、かつ、カテーテルからの蛍光を透過するフィルタと、フィルタの透過光を撮像するためのカメラと、透過光に基づく画像を表示するためのモニタと、カメラから出力されるデータを用いて画像処理を行なうためのコンピュータとを備える。コンピュータは、カテーテルからの蛍光量に基づいて、カテーテルを認識するための画像処理を実行し、画像処理後のデータに基づいて、カテーテルを表示または非表示するように構成されている。
【0008】
ある局面において、光源は、器官モデルに対して、カメラが配置されている側に配置されている。係る構成により、カメラは、器官モデルからの反射光を撮像する。この場合、器官モデルの造影剤に蛍光剤が含まれている場合、カテーテルに蛍光剤が塗布されていても撮影されないので、カテーテルの挿入のトレーニングの効果が高まり得る。
【0009】
ある局面において、光源は、器官モデルに対して、カメラが配置されている側の反対側に配置されている。係る構成により、カメラは、器官モデルからの透過光を撮像できる。例えばガイドワイヤーのように光を透過しない部材が器官モデルに挿入された場合、当該部材は影として撮影されるに過ぎない。したがって、画像処理によってカテーテルを非表示にすることもできるので、目的に応じたトレーニングの機会を提供することができる。
【0010】
ある局面において、トレーニング装置は、カテーテルの内部に挿入されるガイドワイヤーをさらに備える。ガイドワイヤーの表面に、蛍光剤が塗布されている。このような構成によれば、ガイドワイヤーを操作するトレーニングを提供できる。
【0011】
ある局面において、上記構成に加えて、トレーニング装置は、カメラから出力されるデータを用いて画像処理を行なうためのコンピュータをさらに備える。コンピュータは、データから白黒画像を表示するためのデータを生成する。モニタは、生成されたデータに基づいて白黒画像を表示する。
【0012】
ある局面において、トレーニング装置は、光源からカテーテルに対する光の照射方向を変更するための調節装置をさらに備える。照射方向を変えられるので、血管モデルの分岐等を推定し易くなる。
【0013】
さらに他の実施の形態に従うと、カテーテルが提供される。このカテーテルの表面には蛍光剤が塗布されており、蛍光剤の塗布膜の表面には、親水性のコーティングが施されている。
【0014】
他の実施の形態に従うと、画像処理方法が提供される。この画像処理方法は、光源を用いて蛍光剤が塗布されたカテーテルが挿入される器官モデルを照射するステップと、光源からの照射光をカットしてカテーテルからの蛍光を透過するステップと、カテーテルが挿入される器官のモデルからの透過光を、蛍光を透過するフィルタを介して撮影することによって得られた、カテーテルからの蛍光量に基づいて、カテーテルを認識するための画像処理を実行するステップと、画像処理後のデータに基づいて、カテーテルを表示または非表示とするステップとを含む。
【0015】
他の実施の形態に従うと、画像処理方法をコンピュータに実現させるためのプログラムが提供される。このプログラムは、コンピュータに、光源を用いて蛍光剤が塗布されたカテーテルが挿入される器官モデルを照射するステップと、光源からの照射光をカットしてカテーテルからの蛍光を透過するステップと、カテーテルが挿入される器官のモデルからの透過光を、蛍光を透過するフィルタを介して撮影することによって得られた、カテーテルからの蛍光量に基づいて、カテーテルを認識するための画像処理を実行するステップと、画像処理後のデータに基づいて、カテーテルを表示または非表示とするステップとを実行させる。
【0016】
さらに他の実施の形態に従うと、上記のプログラムを格納した、コンピュータ読取可能な情報記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
ある局面において、X線造影を用いることなく、蛍光剤が塗布されたカテーテルやガイドワイヤーを用いて器官モデルへの挿入のトレーニングを行うことができるので、被曝を防ぐことができる。
【0018】
この発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解されるこの発明に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ある実施の形態に従うトレーニングシステムの構成を表わす図である。
図2】トレーニングシステムにおいて光が照射される一態様を表わす図である。
図3】カテーテルに蛍光剤が塗布されている状態を表わす図である。
図4】トレーニングシステムによる処理の手順を表わすフローチャートである。
図5】コンピュータの構成を表わすブロック図である。
図6】本開示に係る技術思想を適用した場合の画像を表わす図である。
図7】ガイドワイヤーが器官モデルに挿入された状態を励起光源で照射してカメラ150によって撮影された蛍光画像を表わす図である。
図8】コンピュータ100において白黒反転された画像を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0021】
[技術思想]
まず、本実施の形態に係る技術思想について説明する。本実施の形態では、血管を模した器官モデルの蛍光造影を行なうことにより、カテーテル、ガイドワイヤーその他の細長い部材を器官モデルに挿入する際のトレーニングの機会を提供するものである。当該部材は中空(ストロー状)または中実のいずれであってもよい。ある局面において、蛍光造影剤が塗布されたガイドワイヤーが器官モデルに挿入される。さらに、蛍光剤が塗布されたカテーテルがそのガイドワイヤーに沿って挿入され得る。たとえば、薄い濃度の蛍光造影剤が塗布されたガイドワイヤーに沿って器官モデルに挿入されたカテーテルを用いて、それよりも濃い濃度の蛍光造影剤を用いて撮像を行なう。蛍光造影剤は水溶性であることが望ましい。撮像データが入力されるコンピュータは、蛍光カメラで撮像した画像の白黒反転処理をリアルタイムで行ない、ガイドワイヤー部分に相当する蛍光輝度値(一定値以下の輝度値)の非表示(マスク処理)を行なう。本実施の形態におけるカテーテルは、血管内治療のためのトレーニング用のカテーテルである。血管内治療の対象としては、心臓、腎臓、肝臓、脳、足等の血管が含まれる。
【0022】
[システム構成]
図1を参照して、実施の形態に従うシステム10について説明する。図1は、ある実施の形態に従うシステム10の構成を表わす図である。システム10は、コンピュータ100と、光源110と、水槽120と、フィルタ140と、カメラ150と、駆動装置160とを備える。水槽120には、器官モデルの一例としての血管モデル130が配置されている。光源110の姿勢(例えば、照射方向)は、駆動装置160によって変更可能である。駆動装置160は、コンピュータ100あるいは操作パネル(図示しない)の操作によって制御され、光源110の姿勢を制御する。
【0023】
光源110は、ある局面において励起光源であり、LED(Light Emitting Diode)アレイとして構成され得る。光源110から発せられる光は、水槽120を照射する。水槽120を透過した光は、フィルタ140を透過する。ある局面において、フィルタ140は、励起光フィルタとして構成され得る。フィルタ140は、少なくとも、光源110からの照射光をカットできるものが望ましい。フィルタ140からの光は、カメラ150によって撮影される。カメラ150からの画像信号は、コンピュータ100に入力される。
【0024】
血管モデル130は、ある局面において、励起光および蛍光を透過する素材からなり、透明であってよく、半透明であってもよい。また、別の局面において、血管モデル130は、着色されていてもよいし、無色でもよい。システム10では、特定の波長の光を受けて別の波長の光を発する蛍光物質が使用され得る。システム10は、励起波長の光のみを照射し、蛍光波長のみを検出することで、S/N比の高い信号を検出することができる。蛍光観察では、観察対象のみを光らせて監察を行うことができるため、検出能が高くなる。複数の血管を模した血管モデル130が水槽120に配置される場合には、各カテーテルの各々に異なった蛍光色素を用いることにより、各カテーテルを高感度に検出することができる。
【0025】
ある局面において、蛍光色素は、例えば、フルオレセインナトリウム(C2010Na)、フルオレセイン・イソチオシアネート(Fluorescein isothiocyanate:FITC)等が使用され得る。光源110は、一般的な励起光源の波長である488nmの波長を有する光を発する。フィルタ140は、例えば、510nmの波長を有する光のみを透過する。
【0026】
図2を参照して、システム10の具体的構成について説明する。システム10は、励起光源111,112,113と、水槽120と、フィルタ140と、カメラ150とを備える。励起光源111は、LEDアレイである。励起光源112,113は、フェイルセイフ用に予備的に設けられ得る。水槽120には、複数の血管モデル130が配置されている。ある局面において、水槽120に満たされている溶液の屈折率と、血管モデル130の屈折率とは、実質的に同じである。これにより、溶液中の血管モデル130の透明度が高くなる。
【0027】
各血管モデル130は、ワイヤー132、カテーテル131その他の部材が挿入されるように構成されている。カテーテル131の表面には、蛍光塗料が塗布されている。さらに、蛍光塗料の表面には、親水性コーティングが施されている。ある局面において、カテーテル131は、励起光および蛍光を透過する素材からなり、透明であってよく、半透明であってもよい。また、別の局面において、カテーテル131は、着色されていてもよい。カテーテル131は、ワイヤー132に沿って血管モデル130に挿入され得る。ワイヤー132にも蛍光塗料が塗布されている。少なくとも、カテーテル131の表面に塗布されている蛍光塗料の輝度は、ワイヤーの表面に塗布されている蛍光塗料の輝度よりも高いことが望ましい。なお、ワイヤーごとに、蛍光塗料の輝度は異なり得る。輝度としては、トレーニングのためのワイヤーを隠すための輝度と、ワイヤーを目立たせるための輝度とがある。トレーニングの局面としては、造影剤が血管モデル130に注入される前の状態のトレーニングと、造影剤が血管モデルに注入された後の状態のトレーニングとがある。ワイヤーに塗布される蛍光塗料の輝度は、造影剤の濃度に応じて決定され得る。
【0028】
ある局面において、システム10を用いたトレーニングとして、まず、トレーニングの開始前に、カテーテル131が挿入される前の血管モデル130が撮影される。この撮影によって得られた画像は、所謂マスク像として使用される。その後、トレーニングが開始されると、蛍光剤が塗布されたガイドワイヤーが、血管モデル130に挿入され、その状態で励起光源111または励起光源112,113が発光する。いずれの励起光源を発光させるかは、トレーニングの対象によって異なる。例えば、造影剤の流路(血管)が投影されないことが望ましいトレーニングが行なわれる場合、血管モデル130の画像の輝度と溶液の領域の輝度とが同程度になることが望ましい。この場合、システム10のコントローラは、励起光源112,113をそれぞれ制御して、反射光の明るさが均一となるように、血管モデル130と溶液とを照射し得る。この時の撮影条件は、システム10に保存される。カメラ150が、その反射光を撮影すると、撮像信号は、コンピュータ100に入力される。
【0029】
その後、造影剤が注入されると、システム10は、保存しておいた撮影条件を用いて、励起光源112,113に、血管モデル130と溶液とを照射させる。カメラ150が、その照射による反射光を撮影すると、撮像信号は、コンピュータ100に入力される。コンピュータ100は、これらの撮像信号の差分を算出し得る。
【0030】
別の局面において、カメラ150からの信号が入力されると、コンピュータ100は、撮像された画像の白黒反転処理を実行する。さらに、コンピュータ100は、カテーテル131に相当する蛍光輝度値(一定値以下の輝度値)を非表示に(マスク処理)する。これにより、カテーテル131を見にくくすることができる。なお、X線撮影による画像の白黒の輝度は、適宜、反転され得る。したがって、本実施の形態に従う蛍光観察の場合も、X線撮影の場合と同様に、画像の白黒の輝度は、随時反転されてもよい。
【0031】
ある局面において、光が、血管モデル130に対してカメラ150の反対側にある励起光源111から発せられて、カメラ150が血管モデル130の内部に挿入されたカテーテルを撮像した場合、カメラ150による撮影方向を向いたカテーテル131の外面は、励起光源111からの光によって殆ど照射されない。したがって、カテーテル131の外側に蛍光剤が塗布されていても、蛍光は、カメラ150のある方でも観測されず、カテーテル131は黒い影として撮影され得る。別の局面において、光が、カメラ150と同じ側にある励起光源112,113から発せられると、カテーテル131の外側に塗布された蛍光剤によって蛍光が発せられ、カメラ150は、カテーテル131の像を撮影することができる。このようにカテーテル131に対する光の当て方によって撮像結果が異なるので、目的に応じて照射方向を、励起光源111と励起光源112,113との間で切り換えることができる。
【0032】
例えば、カテーテルを使用する現実の手術において、造影剤を入れる前に透視を行なって得られる画像と、造影剤を入れた後に透視を行なって得られる画像とがあり、各画像の見え方は異なる。これと同様に、トレーニングの局面において、トレーニングの対象によってカメラ150によって得られる画像データが異なるのが望ましい。
【0033】
ある局面において、カメラ150は、蛍光剤が塗布されて、ガイドワイヤー(例えば、ワイヤー132)が挿入されたカテーテル131が挿入される器官のモデル(例えば、血管モデル130)からの透過光を、蛍光を透過するフィルタを介して撮影する。コンピュータ100のCPUは、撮影によって得られた画像データを白黒反転する。CPUは、ガイドワイヤーの画像の輝度値の色を、ガイドワイヤーの周囲の色に変更する処理を行い、処理後のデータに基づく画像をモニタに表示する。
【0034】
ある局面において、画像処理方法をコンピュータに実現させるためのプログラムは、コンピュータ100に、蛍光剤が塗布されて、ガイドワイヤーが挿入されたカテーテルが挿入される器官のモデルからの透過光を、蛍光を透過するフィルタを介してカメラ150に撮影させて、撮影後の信号の入力を受けるステップと、撮影によって得られた画像データを白黒反転するステップと、ガイドワイヤーの画像の輝度値の色を、ガイドワイヤーの周囲の色に変更する処理を行うステップと、処理後のデータに基づく画像をモニタに表示するステップとを実行させる。
【0035】
ここで、励起光源の位置による相違について、ガイドワイヤーを用いて説明する。ある局面において、透明な血管内の内腔を蛍光造影で観察する際には、励起光源110,111および励起光源112,113は、いずれも同じ効果をもたらす。すなわち、励起光源110,111のような透過照明と、励起光源112,113のような反射照明とは、例えば、透明な血管内の内腔を蛍光造影で観察する場合には、いずれの照明も同様な効果をもたらす。
【0036】
別の局面において、(蛍光剤が塗布されていない)ガイドワイヤーがモデルに挿入されて、上記の観察が行なわれる場合において、励起光源110,111のような透過照明が使用されると、ガイドワイヤーは、蛍光を発しないため、影として撮影される。他方、励起光源112,113のような反射照明が使用されると、ガイドワイヤーよりもカメラ150側に蛍光造影剤が存在する場合、蛍光色素のためにガイドワイヤーは見えず、カメラ150によって撮影されない。この場合、励起光源112,113のような反射照明による照射方向の角度により、ガイドワイヤーの影の出方が変わり得る。
【0037】
励起光源112,113のような反射照明が使用された場合、ガイドワイヤーに塗布された蛍光色素が蛍光を発する。これに対して、励起光源110,112のような透過照明が使用されると、ガイドワイヤーの外周面のうちカメラ側の部分には励起光が当たらないため、蛍光色素は必ずしも光らない。そこで、ガイドワイヤーの視認性に応じて、励起光源110,111または励起光源112,113の光量あるいは照射角が制御されることが望ましい。
【0038】
反射照明時のガイドワーヤーに塗布した蛍光物質の発光量は、状態が変わってもほぼ同じ蛍光量を示す。そこで、この特長を生かして、輝度情報から画像処理(閾値処理など)を行なうことにより、ガイドワイヤーの存在する部位を認識することができる。当該部位を認識した後、周囲の蛍光と同じ光量に色を変えることにより、当該部位を画像に写り込まなくする事ができる。また、少しだけ当該部位を表示することや強調して当該部位を表示することも可能になる。逆に、透過照明を使用した場合に、ガイドワイヤーのうち光らない部分を認識して、ガイドワイヤーに周辺の色を付けて表示することで、当該部分を映り込まなくしたり、強調することも可能となる。
【0039】
これらはコンピュータによる画像処理として実現できるので、ガイドワイヤーの挿入のためのトレーニング等として様々な表示が可能となる。また、蛍光造影剤の光量とガイドワイヤーの蛍光量を同じにする必要もないので、トレーニングの条件を容易に設定でき、また、簡便に表示することもできる。
【0040】
なお、上記の説明では、ガイドワイヤーの例が示されているが、ガイドワイヤーに限られず、カテーテルやステントの場合も同様である。
【0041】
図3を参照して、カテーテル131の構成について説明する。図3は、ある局面に従うカテーテルの断面構造を表わす図である。カテーテル131の外面には蛍光塗料310が塗布されている。蛍光塗料310の表面には親水性コーティングが施されている。このような構造により、カテーテル131は蛍光を発するので、光源110から発せられて水槽120を透過した光のうち白色光をフィルタでカットすることにより、蛍光部分を撮像することができる。そして、撮像によって得られた画像の白黒がコンピュータのプロセッサによって反転され得る。これにより、トレーニーに視認されない方がトレーニングの観点から望ましいもの(例えば、ガイドワイヤーの像等)が視認されにくくなるので、トレーニングの効果が高まり得る。
【0042】
別の局面において、ガイドワイヤーがカテーテル131の内部に挿入されている状態がカメラ150によって撮影されると、ガイドワイヤーの部分は黒く撮影される。
【0043】
[動作手順]
図4を参照して、ある局面に従うシステム10の動作手順について説明する。
【0044】
ステップS410にて、システム10のユーザは、生体の器官モデル(例えば、血管モデル130)を水槽120にセットし、水槽120に溶液を入れる。
【0045】
ステップS415にて、ユーザは、光源110をオンにして光の照射を開始する。光源110から発せられた照射光は、水槽120を通り、フィルタ140を通ってカメラ150に入射する。照射光の一部は、蛍光塗料310が塗布された血管モデル130に照射され、照射光の残りは、溶液を透過してフィルタ140に入射する。光源110からの光が血管モデル130に照射されると、血管モデル130は蛍光を発する。蛍光は、フィルタ140に入射する。フィルタ140は、光源110からの照射光の波長をカットし、蛍光はそのまま透過させる。フィルタ140からの光は、カメラ150に入射する。
【0046】
ステップS420にて、カメラ150は、器官モデル(血管モデル130)の画像を撮影する。ある局面において、カメラ150は、励起光源111からの光が水槽120を透過した照射した状態を撮影する。別の局面において、カメラ150は、励起光源112,113から照射された光が血管モデル130や水槽120によって反射された状態を撮影し得る。これらの撮影によって取得された画像信号は、コンピュータ100にそれぞれ入力される。コンピュータ100は、各画像信号について、2値化処理、ノイズ除去処理等を行ない、さらに、白黒反転処理等の画像処理を行なう。
【0047】
ステップS425にて、コンピュータ100は、上記画像処理によって得られた画像をモニタ8に表示する。
【0048】
ステップS430にて、コンピュータ100は、画像のデータを記憶装置に保存する。
ステップS435にて、トレイニーは、蛍光剤が塗布されたガイドワイヤーを器官モデル(例、血管モデル130)に挿入する。
【0049】
ステップS440にて、コンピュータ100は、ガイドワイヤーが器官モデル(血管モデル130)に挿入された状態を撮影し、データを記憶装置に保存する。コンピュータ100は、そのデータを用いて上記の画像処理を行なって得られたデータに基づいて、モニタに画像を表示し得る。画像は、白黒およびカラーのいずれであってもよい。
【0050】
ステップS443にて、コンピュータ100は、ガイドワイヤーの画像認識処理、認識されたガイドワイヤーの部位の非表示処理、他の部位の強調表示処理とを実行する。例えば、コンピュータ100は、ガイドワイヤーに相当する部分(例えば、蛍光輝度値が一定値以下である領域)を非表示にする。
【0051】
ステップS445にて、指導者またはトレイニーは、光の照射方向を変更するか否かを判断する。例えば、別のカテーテルを血管モデル130のうちの別の血管モデルに挿入する場合に、その部位に応じて光源110からの光を当該別の血管モデルに照射する必要がある。その場合、適切なトレーニングのためには、血管モデルを通らない照射光がフィルタ140によって適切にカットされるように、その別の血管モデルが、光源110とカメラ150との間に適切に配置されていることが望ましい。指導者またはトレイニーが光の照射方向を変更すると判断すると(ステップS445にてYES)、ステップS420に戻り、再び、撮像以降の操作または動作が実行される。そうでない場合には(ステップS445にてNO)、ステップS450にて、次のトレーニングが行なわれる。
【0052】
ステップS450にて、トレイニーは、蛍光剤が塗布されたカテーテル131をガイドワイヤーに沿って器官モデルに挿入する。光源110からの照射光は、ガイドワイヤーが挿入されたカテーテル131と、溶液とを照射する。溶液を透過した光はフィルタ140でカットされ、カテーテル131から発せられる蛍光は、フィルタ140を透過してカメラ150に入射する。
【0053】
ステップS455にて、カメラ150は、器官モデルに挿入されたカテーテル131を撮像し、撮像データは、コンピュータ100に入力される。コンピュータ100は、撮像データを記憶装置に保存する。
【0054】
ステップS458にて、コンピュータ100は、カテーテル131の画像認識処理、認識されたガイドワイヤーの部位の非表示処理、他の部位の強調表示処理とを実行する。カテーテル131の表面に塗布されている蛍光造影剤の濃度は、血管モデル130の表面に塗布された蛍光造影剤の濃度よりも薄い。したがって、血管モデル130の表面の蛍光造影剤が溶液に溶けるまでは、光源110からの照射光は血管モデル130を照射しているように見え、カテーテル131はトレイニーには見えにくい。
【0055】
ステップS460にて、指導者またはトレイニーは、光の照射方向を変更するか否かを判断する。指導者またはトレイニーは、光の照射方向を変更すると判断すると(ステップS460にてYES)、トレイニーは、ステップS450の動作を再び実行する。別の局面において、トレイニーは、ステップS420に戻って、別のカテーテル131の挿入からトレーニングを継続してもよい。そうでない場合には(ステップS460にてNO)、トレイニーはトレーニングを終了する。
【0056】
図5を参照して、コンピュータ100の構成を説明する。図5は、ある局面に従うコンピュータ100のハードウェア構成を表わすブロック図である。
【0057】
コンピュータ100は、主たる構成要素として、複数の命令を有するプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)1と、コンピュータ100のユーザによる指示の入力を受けるマウス2およびキーボード3と、CPU1によるプログラムの実行により生成されたデータ、又はマウス2若しくはキーボード3を介して入力されたデータを揮発的に格納するRAM4と、データを不揮発的に格納するハードディスク5と、光ディスク駆動装置6と、モニタ8と、通信インターフェイス7とを備える。各構成要素は、相互にバスによって接続されている。光ディスク駆動装置6には、CD-ROM9その他の光ディスクが装着される。通信インターフェイス7は、USB(Universal Serial Bus)インターフェイス、有線LAN(Local Area Network)、無線LAN、Bluetooth(登録商標)インターフェイス等を含むが、これらに限られない。
【0058】
コンピュータ100における処理は、各ハードウェアおよびCPU1により実行されるソフトウェアによって実現される。このようなソフトウェアは、ハードディスク5に予め格納されている場合がある。また、ソフトウェアは、CD-ROM9その他のコンピュータ読み取り可能な不揮発性のデータ記録媒体に格納されて、プログラム製品として流通している場合もある。あるいは、当該ソフトウェアは、インターネットその他のネットワークに接続されている情報提供事業者によってダウンロード可能なプログラム製品として提供される場合もある。このようなソフトウェアは、光ディスク駆動装置6その他のデータ読取装置によってデータ記録媒体から読み取られて、あるいは、通信インターフェイス7を介してダウンロードされた後、ハードディスク5に一旦格納される。そのソフトウェアは、CPU1によってハードディスク5から読み出され、RAM4に実行可能なプログラムの形式で格納される。CPU1は、そのプログラムを実行する。
【0059】
図5に示されるコンピュータ100を構成する各構成要素は、一般的なものである。したがって、本実施の形態に係る最も本質的な部分は、コンピュータ100に格納されたプログラムであるともいえる。コンピュータ100の各ハードウェアの動作は周知であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【0060】
なお、データ記録媒体としては、CD-ROM、FD(Flexible Disk)、ハードディスクに限られず、磁気テープ、カセットテープ、光ディスク(MO(Magnetic Optical Disc)/MD(Mini Disc)/DVD(Digital Versatile Disc))、IC(Integrated Circuit)カード(メモリカードを含む)、光カード、マスクROM、EPROM(Electronically Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュROMなどの半導体メモリ等の固定的にプログラムを担持する不揮発性のデータ記録媒体でもよい。
【0061】
ここでいうプログラムとは、CPU1により直接実行可能なプログラムだけでなく、ソースプログラム形式のプログラム、圧縮処理されたプログラム、暗号化されたプログラム等を含み得る。
【0062】
本実施の形態に係るシステム10は、ある局面において、C型アームを備える。C型アームの上部にフィルタ140とカメラ150とが設けられている。C型アームの下部には、光源110が設けられている。光源110とフィルタ140との間には、水槽120が配置され得る。C型アームを駆動することにより、水槽120に対する照射光の入射位置および入射角を変更することができる。また、照射光の入射位置および角度をさまざまに変更することで、血管モデルの分岐部分を推定することもできる。このようにして、水槽120を固定した状態で、様々な場所にある血管モデルに対するカテーテルの導入のトレーニングを提供することができる。
【0063】
図6は、本開示に係る技術思想を適用した場合の画像を表わす図である。図6(A)は、蛍光剤が塗布された器官モデルの一例に白色光を照射した状態を撮影した画像である。図6(B)は、蛍光剤が塗布された器官モデルの一例に、励起光源の波長(例えば、488nm)を照射した状態で撮影した画像である。前述のFITCが蛍光剤として使用されている。蛍光フィルタは、例えば、510nmの波長を有する光のみを透過する。器官モデルの内部に注入される造影剤にも蛍光剤が含まれている。器官モデルにガイドワイヤーが挿入され、さらに、蛍光剤が塗布されたカテーテルが器官モデルに挿入されるた場合、ガイドワイヤーの吸収係数と、造影剤の吸収係数とが異なるため、ガイドワイヤーが明確に映りカテーテルが容易に視認され、トレーニングの効果が減殺され得る。そこで、カテーテルを視認しにくくするために、蛍光を照射した後に撮像して得られた画像のデータに対して白黒反転処理を行なう。
【0064】
図6(C)は、図6(B)で示される画像のデータを用いて白黒反転処理を行なった後の状態を表わす図である。図6(B)に示される画像がリアルタイムで撮影されてコンピュータ100に入力されると、CPU1は、リアルタイムで白黒反転処理を行ない、さらに、ガイドワイヤーに相当する部分の蛍光輝度値(一定値以下の輝度値)を非表示とする(マスク処理する)。その結果、ガイドワイヤーが視認されなくなりカテーテルの位置も認識されなくなるので、トレーニング効果が高まり得る。
【0065】
図7および図8を参照して、ある実施の形態に従って取得された画像について説明する。図7は、ガイドワイヤーが器官モデルに挿入された状態を励起光源で照射してカメラ150によって撮影された蛍光画像を表わす図である。図8は、コンピュータ100において白黒反転された画像を表わす図である。
【0066】
図7に示されるように、ガイドワイヤーが挿入された器官モデルを励起光源で照射すると、造影剤が注入される前は、ガイドワイヤーが視認される。その後、蛍光色素を含む造影剤が注入されると、その蛍光色素のため、図8に示されるように、ガイドワイヤーが視認されなくなり、ガイドワイヤーの挿入のためのトレーニングを実現することができる。
【0067】
以上のようにして、本実施の形態によれば、X線造影を用いることなくカテーテルのトレーニングを行うことができるので、トレイニーの被曝を防ぐことができる。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
10 システム、100 コンピュータ、110,111,112,113 光源、120 水槽、130 血管モデル、131 カテーテル、140 フィルタ、150 カメラ、160 駆動装置、310 蛍光剤、320 親水性コーティング。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8