(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】導電体の製造方法、導電体、超伝導送電線、超伝導磁石装置及び超伝導磁気シールド装置
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20221028BHJP
C01G 1/00 20060101ALI20221028BHJP
【FI】
H01B13/00 565Z
H01B13/00 Z
C01G1/00 S
(21)【出願番号】P 2020553147
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040192
(87)【国際公開番号】W WO2020080279
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018194258
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 :14th European Conference on Applied Superconductivity 開催日 :令和1年9月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1:ウェブサイトへの掲載による公開 :2019年度春季第98回低温工学・超電導学会研究発表会講演概要 掲載年月日 :令和1年5月23日 掲載アドレス :https://csj.or.jp/conference/2019s/3A.pdf 2:集会名 :2019年度春季第98回低温工学・超電導学会研究発表会 開催日 :令和1年5月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100187388
【氏名又は名称】樋口 天光
(72)【発明者】
【氏名】山本 明保
(72)【発明者】
【氏名】植村 俊己
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
C01G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含む出発材料の少なくとも表面に、以下の組成式(化1)で表される第1化合物を含む第1層を形成する導電体の製造方法において、
(AE
1-xA
x)(Fe
1-yTM
y)
2(As
1-zP
z)
2・・・(化1)
(a)前記出発材料を、第1元素及び第2元素を含む第1気体に接触させ、前記出発材料に含まれる鉄と、前記第1気体に含まれる前記第1元素及び前記第2元素とを反応させることにより、前記出発材料の少なくとも表面に前記第1層を形成する工程、
を有し、
前記AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記xは、0≦x<1を満たし、
前記yは、0≦y<0.5を満たし、
前記zは、0≦z<0.8を満たし、
前記第1元素は、前記AEを含み、
前記第2元素は、ヒ素を含み、
前記xが0<x<1を満たすとき、前記第1元素は、更に前記Aを含み、
前記yが0<y<0.5を満たすとき、前記出発材料は、更に前記TMを含み、且つ、前記(a)工程では、前記出発材料に含まれる前記TM及び鉄と、前記第1気体に含まれる前記第1元素及び前記第2元素とを反応させることにより、前記出発材料の少なくとも表面に前記第1層を形成し、
前記zが0<z<0.8を満たすとき、前記第2元素は、更にリンを含む、導電体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電体の製造方法において、
前記(a)工程では、前記第1元素及び前記第2元素を含む固体原料と前記出発材料とを加熱し、前記固体原料を加熱することにより前記第1気体を発生させ、発生した前記第1気体に、加熱された状態の前記出発材料を接触させる、導電体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の導電体の製造方法において、
前記(a)工程では、前記固体原料を第1温度に加熱し、前記出発材料を第2温度に加熱し、前記固体原料を前記第1温度に加熱することにより前記第1気体を発生させ、発生した前記第1気体に、前記第2温度に加熱された状態の前記出発材料を接触させる、導電体の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の導電体の製造方法において、
前記(a)工程では、前記固体原料を700℃以上の第3温度に加熱し、前記出発材料を700℃以上の第4温度に加熱し、前記固体原料を前記第3温度に加熱することにより前記第1気体を発生させ、発生した前記第1気体に、前記第4温度に加熱された状態の前記出発材料を接触させる、導電体の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の導電体の製造方法において、
(b)前記(a)工程の前に、前記出発材料と前記固体原料とを、気密可能な容器内に配置する工程、
(c)前記(b)工程の後、前記(a)工程の前に、前記容器内を真空状態にするか、又は、前記容器内の雰囲気を不活性ガスにより置換する工程、
を有する、導電体の製造方法。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の導電体の製造方法において、
(d)前記(a)工程の後、第3元素を含む第2気体又は第1液体に前記第1層を接触させることにより、前記第1層に含まれる前記AEの一部を前記第3元素により置換する工程、
を有し、
前記第3元素は、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む、導電体の製造方法。
【請求項7】
請求項2乃至6のいずれか一項に記載の導電体の製造方法において、
(e)前記(a)工程の後、第4元素を含む第3気体又は第2液体に前記第1層を接触させることにより、前記第1層に含まれるヒ素の一部を前記第4元素により置換する工程、
を有し、
前記第4元素は、リンを含む、導電体の製造方法。
【請求項8】
鉄を含む出発材料の少なくとも表面に、以下の組成式(化1)で表される第1化合物を含む第1層を形成する導電体の製造方法において、
(AE
1-xA
x)(Fe
1-yTM
y)
2(As
1-zP
z)
2・・・(化1)
(a)前記出発材料を、第1元素を含む第1気体に接触させ、前記出発材料に含まれる鉄と、前記第1気体に含まれる前記第1元素とを反応させることにより、前記出発材料の少なくとも表面に、鉄とヒ素とを含む第2化合物を含む第2層を形成する工程、
(b)前記(a)工程の後、前記出発材料を、第2元素を含む第2気体に接触させ、前記第2層に含まれる前記第2化合物と、前記第2気体に含まれる前記第2元素とを反応させることにより、前記出発材料の少なくとも表面に前記第1層を形成する工程、
を有し、
前記AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記xは、0≦x<1を満たし、
前記yは、0≦y<0.5を満たし、
前記zは、0≦z<0.8を満たし、
前記第1元素は、ヒ素を含み、
前記第2元素は、前記AEを含み、
前記xが0<x<1を満たすとき、前記第2元素は、更に前記Aを含み、
前記yが0<y<0.5を満たすとき、前記出発材料は、更に前記TMを含み、且つ、前記(a)工程では、前記出発材料に含まれる前記TM及び鉄と、前記第1気体に含まれる前記第1元素とを反応させることにより、前記出発材料の少なくとも表面に、前記TM及び鉄とヒ素とを含む前記第2化合物を含む前記第2層を形成し、
前記zが0<z<0.8を満たすとき、前記第1元素は、更にリンを含む、導電体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の導電体の製造方法において、
前記(a)工程では、前記第1元素を含む第1固体原料と前記出発材料とを加熱し、前記第1固体原料を加熱することにより前記第1気体を発生させ、発生した前記第1気体に、加熱された状態の前記出発材料を接触させ、
前記(b)工程では、前記第2元素を含む第2固体原料と前記出発材料とを加熱し、前記第2固体原料を加熱することにより前記第2気体を発生させ、発生した前記第2気体に、加熱された状態の前記出発材料を接触させる、導電体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の導電体の製造方法において、
(c)前記(b)工程の後、第3元素を含む第3気体又は第1液体に前記第1層を接触させることにより、前記第1層に含まれる前記AEの一部を前記第3元素により置換する工程、
を有し、
前記第3元素は、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む、導電体の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の導電体の製造方法において、
(d)前記(b)工程の後、第4元素を含む第4気体又は第2液体に前記第1層を接触させることにより、前記第1層に含まれるヒ素の一部を前記第4元素により置換する工程、
を有し、
前記第4元素は、リンを含む、導電体の製造方法。
【請求項12】
金属鉄を主成分として含む第1層と、
前記第1層と積層された第2層と、
を有し、
前記第2層は、以下の組成式(化1)で表される第1化合物を含み、
(AE
1-xA
x)(Fe
1-yTM
y)
2(As
1-zP
z)
2・・・(化1)
前記AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、
前記xは、0≦x<1を満たし、
前記yは、0≦y<0.5を満たし、
前記zは、0≦z<0.8を満たす、導電体。
【請求項13】
請求項12に記載の導電体において、
前記第1層と前記第2層との間に介在する介在物を有し、
前記介在物は、組成式Fe
2Asで表される第2化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄を含む、導電体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の導電体において、
前記第2層は、超伝導性を有する、導電体。
【請求項15】
請求項14に記載の導電体において、
第1面及び前記第1面と反対側の第2面よりなる線状形状又は板状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材を有し、
前記第1層は、前記基材の前記第1面又は前記第2面の表面層である、導電体。
【請求項16】
請求項14に記載の導電体において、
第3面及び前記第3面と反対側の第4面よりなる板状形状をそれぞれ備え、且つ、金属鉄をそれぞれ主成分として含む複数の基材を有し、
前記第1層は、前記複数の基材の各々の前記第3面又は前記第4面の表面層であり、
前記複数の基材は、前記複数の基材の各々の厚さ方向に積層されている、導電体。
【請求項17】
請求項15に記載の導電体を備えた超伝導送電線において、
前記基材は、線状形状を備えている、超伝導送電線。
【請求項18】
請求項15又は16に記載の導電体を備えた超伝導磁石装置。
【請求項19】
請求項15又は16に記載の導電体を備えた超伝導磁気シールド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体の製造方法、導電体、超伝導送電線、超伝導磁石装置及び超伝導磁気シールド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄系超伝導体の臨界温度Tcは、例えば58K程度であり、銅酸化物系超伝導体の臨界温度に次いで高い。また、鉄系超伝導体の上部臨界磁場Hc2は、例えば100Tよりも大きく、銅酸化物系超伝導体の上部臨界磁場に次いで大きい。そのため、鉄系超伝導体は、強磁場を発生させる超伝導磁石装置等、強磁場応用が期待されている。
【0003】
このような鉄系超伝導体として、鉄(Fe)とヒ素(As)等の第15族元素との化合物である鉄ニクタイドが知られており、鉄ニクタイドとして、(AE,A)(Fe,TM)2(As,Pn)2(AEはアルカリ土類金属元素、Aはアルカリ金属元素、TMは遷移金属元素、Pnはニクトゲン元素)が知られている。このうち、BaFe2As2は、上記した(AE,A)(Fe,TM)2(As,Pn)2の一組成であり、Ba122とも称される。
【0004】
非特許文献1には、鉄系超伝導体であるBa(Fe1-xCox)2As2単結晶の上部臨界磁場Hc2の異方性が、2程度であり、銅酸化物系超伝導体の異方性よりも小さいことが記載されている。そのため、鉄系超伝導体の焼結体よりなる超伝導バルク体については、隣り合う2個の結晶粒の各々の配向方向のなす角度が0°から離れた場合でも、当該2個の結晶粒の間の界面を横切って流れる臨界電流密度が大きく減少することはない。従って、鉄系超伝導体の焼結体よりなる超伝導バルク体については、超伝導バルク体を形成する際に、結晶粒の配向方向を制御する必要がないので、大型の超伝導バルク体を容易に形成することができる。
【0005】
特開2017-82318号公報(特許文献1)には、化学式AA’Fe4As4で表される鉄系化合物において、AはCaであり、A’はK、Rh及びCsから選ばれる少なくとも1つの元素であり、又は、AはSr及びEuから選ばれる少なくとも一つの元素であり、A’はRb及びCsから選ばれる少なくとも1つの元素であり、AFe2As2層とA’Fe2As2層とが交互に積層した結晶構造を有し、結晶構造の空間群は、単純正方晶P4/mmmである技術が開示されている。
【0006】
特開2014-227329号公報(特許文献2)には、鉄系超伝導材料において、ThCr2Si2の結晶構造を持つ鉄系超伝導体と、BaXO3(XはZr、Sn、Hf、Tiのうち1種又は2種以上を表す)で示される粒径30nm以下のナノ粒子とを有し、ナノ粒子が1×1021m-3以上の体積密度で分散している技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-82318号公報
【文献】特開2014-227329号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】A. Yamamoto et al., “Small anisotropy, weak thermal fluctuations, and high field superconductivity in Co-doped iron pnictide Ba(Fe1-xCox)2As2”, Applied Physics Letters 94 (2009) 062511
【文献】A. S. Sefat et al., “Superconductivity at 22 K in Co-Doped BaFe2As2 Crystals”, Physical Review Letters 101 (2008) 117004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような(AE,A)(Fe,TM)2(As,Pn)2(AEはアルカリ土類金属元素、Aはアルカリ金属元素、TMは遷移金属元素、Pnはニクトゲン元素)については、生成機構が明らかになっていない。そのため、例えば大気圧よりも減圧されていない雰囲気下で、基材の表面層上に、(AE,A)(Fe,TM)2(As,P)2(AEはアルカリ土類金属元素、Aはアルカリ金属元素、TMは遷移金属元素)を主成分とし、且つ、厚膜形状の超伝導体よりなる導電層を形成することは、困難である。
【0010】
また、上記した課題は、基材の表面層上に、(AE,A)(Fe,TM)2(As,P)2(AEはアルカリ土類金属元素、Aはアルカリ金属元素、TMは遷移金属元素)を主成分とし、且つ、厚膜形状であるが、超伝導性を有しない導電層を形成する場合にも共通する課題である。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下でも、基材の表面層上に、(AE,A)(Fe,TM)2(As,P)2(AEはアルカリ土類金属元素、Aはアルカリ金属元素、TMは遷移金属元素)を主成分とし、且つ、厚膜形状の導電層を有する導電体を形成することができる導電体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0013】
本発明の一態様としての導電体の製造方法は、鉄を含む出発材料の少なくとも表面に、以下の組成式(化1)で表される第1化合物を含む第1層を形成する導電体の製造方法である。
(AE1-xAx)(Fe1-yTMy)2(As1-zPz)2・・・(化1)
AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、xは、0≦x<1を満たし、yは、0≦y<0.5を満たし、zは、0≦z<0.8を満たす。当該導電体の製造方法は、出発材料を、第1元素及び第2元素を含む第1気体に接触させ、出発材料に含まれる鉄と、第1気体に含まれる第1元素及び第2元素とを反応させることにより、出発材料の少なくとも表面に第1層を形成する(a)工程を有する。第1元素は、AEを含み、第2元素は、ヒ素を含み、xが0<x<1を満たすとき、第1元素は、更にAを含み、yが0<y<0.5を満たすとき、出発材料は、更にTMを含み、且つ、(a)工程では、出発材料に含まれるTM及び鉄と、第1気体に含まれる第1元素及び第2元素とを反応させることにより、出発材料の少なくとも表面に第1層を形成し、zが0<z<0.8を満たすとき、第2元素は、更にリンを含む。
【0014】
また、他の一態様として、(a)工程では、第1元素及び第2元素を含む固体原料と出発材料とを加熱し、固体原料を加熱することにより第1気体を発生させ、発生した第1気体に、加熱された状態の出発材料を接触させてもよい。
【0015】
また、他の一態様として、(a)工程では、固体原料を第1温度に加熱し、出発材料を第2温度に加熱し、固体原料を第1温度に加熱することにより第1気体を発生させ、発生した第1気体に、第2温度に加熱された状態の出発材料を接触させてもよい。
【0016】
また、他の一態様として、(a)工程では、固体原料を700℃以上の第3温度に加熱し、出発材料を700℃以上の第4温度に加熱し、固体原料を第3温度に加熱することにより第1気体を発生させ、発生した第1気体に、第4温度に加熱された状態の出発材料を接触させてもよい。
【0017】
また、他の一態様として、当該導電体の製造方法は、(a)工程の前に、出発材料と固体原料とを、気密可能な容器内に配置する(b)工程と、(b)工程の後、(a)工程の前に、容器内を真空状態にするか、又は、容器内の雰囲気を不活性ガスにより置換する(c)工程と、を有してもよい。
【0018】
また、他の一態様として、当該導電体の製造方法は、(a)工程の後、第3元素を含む第2気体又は第1液体に第1層を接触させることにより、第1層に含まれるAEの一部を第3元素により置換する(d)工程を有し、第3元素は、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素を含んでもよい。
【0019】
また、他の一態様として、当該導電体の製造方法は、(a)工程の後、第4元素を含む第3気体又は第2液体に第1層を接触させることにより、第1層に含まれるヒ素の一部を第4元素により置換する(e)工程を有し、第4元素は、リンを含んでもよい。
【0020】
また、本発明の一態様としての導電体の製造方法は、鉄を含む出発材料の少なくとも表面に、以下の組成式(化1)で表される第1化合物を含む第1層を形成する導電体の製造方法である。
(AE1-xAx)(Fe1-yTMy)2(As1-zPz)2・・・(化1)
AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、xは、0≦x<1を満たし、yは、0≦y<0.5を満たし、zは、0≦z<0.8を満たす。当該導電体の製造方法は、出発材料を、第1元素を含む第1気体に接触させ、出発材料に含まれる鉄と、第1気体に含まれる第1元素とを反応させることにより、出発材料の少なくとも表面に、鉄とヒ素とを含む第2化合物を含む第2層を形成する(a)工程と、(a)工程の後、出発材料を、第2元素を含む第2気体に接触させ、第2層に含まれる第2化合物と、第2気体に含まれる第2元素とを反応させることにより、出発材料の少なくとも表面に第1層を形成する(b)工程と、を有する。第1元素は、ヒ素を含み、第2元素は、AEを含み、xが0<x<1を満たすとき、第2元素は、更にAを含み、yが0<y<0.5を満たすとき、出発材料は、更にTMを含み、且つ、(a)工程では、出発材料に含まれるTM及び鉄と、第1気体に含まれる第1元素とを反応させることにより、出発材料の少なくとも表面に、TM及び鉄とヒ素とを含む第2化合物を含む第2層を形成し、zが0<z<0.8を満たすとき、第1元素は、更にリンを含む。
【0021】
また、他の一態様として、(a)工程では、第1元素を含む第1固体原料と出発材料とを加熱し、第1固体原料を加熱することにより第1気体を発生させ、発生した第1気体に、加熱された状態の出発材料を接触させ、(b)工程では、第2元素を含む第2固体原料と出発材料とを加熱し、第2固体原料を加熱することにより第2気体を発生させ、発生した第2気体に、加熱された状態の出発材料を接触させてもよい。
【0022】
また、他の一態様として、当該導電体の製造方法は、(b)工程の後、第3元素を含む第3気体又は第1液体に第1層を接触させることにより、第1層に含まれるAEの一部を第3元素により置換する(c)工程を有し、第3元素は、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素を含んでもよい。
【0023】
また、他の一態様として、当該導電体の製造方法は、(b)工程の後、第4元素を含む第4気体又は第2液体に第1層を接触させることにより、第1層に含まれるヒ素の一部を第4元素により置換する(d)工程を有し、第4元素は、リンを含んでもよい。
【0024】
本発明の一態様としての導電体は、金属鉄を主成分として含む第1層と、第1層と積層された第2層と、を有し、第2層は、以下の組成式(化1)で表される第1化合物を含む。
(AE1-xAx)(Fe1-yTMy)2(As1-zPz)2・・・(化1)
AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、xは、0≦x<1を満たし、yは、0≦y<0.5を満たし、zは、0≦z<0.8を満たす。
【0025】
また、他の一態様として、当該導電体は、第1層と第2層との間に介在する介在物を有し、介在物は、組成式Fe2Asで表される第2化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄を含んでもよい。
【0026】
また、他の一態様として、第2層は、超伝導性を有してもよい。
【0027】
また、他の一態様として、当該導電体は、第1面及び第1面と反対側の第2面よりなる線状形状又は板状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材を有し、第1層は、基材の第1面又は第2面の表面層であってもよい。
【0028】
また、他の一態様として、当該導電体は、第3面及び第3面と反対側の第4面よりなる板状形状をそれぞれ備え、且つ、金属鉄をそれぞれ主成分として含む複数の基材を有し、第1層は、複数の基材の各々の第3面又は第4面の表面層であり、複数の基材は、複数の基材の各々の厚さ方向に積層されていてもよい。
【0029】
本発明の一態様としての超伝導送電線は、当該導電体を備え、基材は、線状形状を備えている。
【0030】
本発明の一態様としての超伝導磁石装置は、当該導電体を備えている。
【0031】
本発明の一態様としての超伝導磁気シールド装置は、当該導電体を備えている。
【発明の効果】
【0032】
本発明の一態様を適用することで、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下でも、基材の表面層上に、(AE,A)(Fe,TM)2(As,P)2(AEはアルカリ土類金属元素、Aはアルカリ金属元素、TMは遷移金属元素)を主成分とし、且つ、厚膜形状の導電層を有する導電体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施の形態の導電体の一例を示す一部断面を含む斜視図である。
【
図2】実施の形態の導電体の一例を示す断面図である。
【
図3】実施の形態の導電体の他の例を示す断面図である。
【
図4】実施の形態の第1変形例の導電体の一部断面を含む斜視図である。
【
図5】実施の形態の第2変形例の導電体の一部断面を含む斜視図である。
【
図6】実施の形態の導電体の製造工程の一部を示すプロセスフロー図である。
【
図7】実施の形態の導電体の製造工程中の一部断面を含む斜視図である。
【
図8】実施の形態の導電体の製造工程中の断面図である。
【
図9】実施の形態の導電体の製造工程中の断面図である。
【
図10】実施の形態の導電体の製造工程中の断面図である。
【
図11】実施の形態の変形例の導電体の製造工程の一部を示すプロセスフロー図である。
【
図12】実施の形態の変形例の導電体の製造工程中の断面図である。
【
図13】実施の形態の変形例の導電体の製造工程中の断面図である。
【
図14】比較例及び実施例1乃至3の導電体の表面のXRD法によるθ-2θスペクトルを示すグラフである。
【
図15】実施例4及び5の導電体の表面のXRD法によるθ-2θスペクトルを示すグラフである。
【
図16】実施例4の導電体の電気抵抗の温度依存性を示すグラフである。
【
図17】実施例4の導電体の電気抵抗の温度依存性を示すグラフである。
【
図18】実施例5の導電体の電気抵抗の温度依存性を示すグラフである。
【
図19】実施例8の導電体の表面付近での断面の反射電子(BSE)像を示す写真である。
【
図20】実施例8の導電体の別の例の表面付近での断面の反射電子(BSE)像を示す写真である。
【
図21】実施例9の導電体を形成する前の純Feワイヤよりなる出発材料の写真である。
【
図22】
図21に示した出発材料をAsを含む気体に接触させた後の出発材料の写真である。
【
図23】
図22に示した出発材料をBaを含む気体に接触させて実施例9の導電体が形成された後の出発材料の写真である。
【
図24】実施例10の導電体の表面付近での断面の反射電子(BSE)像を示す写真である。
【
図25】
図24の写真をトレースすることにより実施例10の導電体の表面付近での断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0036】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0037】
更に、実施の形態で用いる図面においては、構造物を区別するために付したハッチング(網掛け)を図面に応じて省略する場合もある。
【0038】
なお、以下の実施の形態においてA~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。
【0039】
(実施の形態)
<導電体>
始めに、本発明の一実施形態である実施の形態の導電体について説明する。
【0040】
図1は、実施の形態の導電体の一例を示す一部断面を含む斜視図である。
図1では、導電体の一部を除去して透視した状態を示し、導電体のうち除去された部分を二点鎖線で示している。
図2は、実施の形態の導電体の一例を示す断面図である。
【0041】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態の導電体10は、層11と、層11と積層された層12と、を有する。
【0042】
層11は、金属鉄を主成分として含む。ここで、金属鉄とは、例えば酸化鉄等の、鉄原子と鉄以外の元素の原子とがイオン結合又は共有結合した化合物ではなく、鉄原子同士が金属結合した金属であって、且つ、鉄を主成分として含有、即ち重量分率で50%以上の鉄を含有する金属を意味する。また、層11が、金属鉄を主成分として含む、とは、層11が重量分率で50%以上の金属鉄を含むことを意味する。
【0043】
層12は、以下の組成式(化2)で表される化合物を含む。
(AE1-xAx)(Fe1-yTMy)2(As1-zPz)2・・・(化2)
AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。即ち、AEは、アルカリ土類金属元素のうち少なくとも一種の元素であり、Aは、アルカリ金属元素のうち少なくとも一種の元素であり、TMは、遷移金属元素のうち少なくとも一種の元素である。また、上記組成式(化2)において、xは、0≦x<1を満たし、yは、0≦y<0.5を満たし、zは、0≦z<0.8を満たす。なお、上記組成式(化2)は、上記組成式(化1)と同一の化合物を表す。
【0044】
このような場合、後述する
図6乃至
図10を用いて説明するように、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下でも、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を主成分として含む基材の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10を容易に形成することができる。
【0045】
上記組成式(化2)で表される化合物において、xがx=0を満たし、yがy=0を満たし、zがz=0を満たすとき、上記組成式(化2)で表される化合物は、以下の組成式(化3)で表される。
AEFe2As2・・・(化3)
AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。
【0046】
また、上記組成式(化3)で表される化合物において、AEがBaであるとき、上記組成式(化3)で表される化合物は、以下の組成式(化4)で表される。
BaFe2As2・・・(化4)
【0047】
以下では、上記組成式(化4)で表される化合物を、Ba122と称する。Ba122の結晶構造は、複数のFe2As2層と、複数のBa層とを有し、Fe2As2層とBa層とが交互に積層されている。
【0048】
例えば、上記組成式(化2)においてxがx>0を満たすか、又は、yがy>0を満たすとき、即ち、上記組成式(化3)で表される化合物に含まれるAEの一部がAにより置換されたか、又は、上記組成式(化3)で表される化合物に含まれるFeの一部がTMにより置換されたとき、上記組成式(化2)で表される化合物は、常温よりも低い臨界温度よりも更に低い温度に冷却された状態で、超伝導性を有する。これにより、本実施の形態の導電体を、超伝導体としての各種の用途に用いることができる。
【0049】
上記組成式(化4)で表される化合物(Ba122)に含まれるBaの一部がKにより置換される場合、Ba122に電荷担体としての正孔が導入されることにより、Ba122が超伝導性を有し、超伝導性を有するBa122の臨界温度Tcは、例えば38K程度である。また、上記組成式(化4)で表される化合物(Ba122)に含まれるFeの一部がCoにより置換される場合、Ba122に電荷担体としての電子が導入されることにより、Ba122が超伝導性を有し、超伝導性を有するBa122の臨界温度Tcは、例えば27K程度である。
【0050】
図1及び
図2に示すように、好適には、本実施の形態の導電体10は、面13a及び面13aと反対側の面13bよりなる板状形状又はテープ線材のような線状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材13を有し、層11は、基材13の面13a又は面13bの表面層である。
【0051】
これにより、各種の体積及び各種の形状を有する鉄部材として、各種の汎用的な鉄板を用いることができるので、導電体の製造コストを低減することができる。
【0052】
図3は、実施の形態の導電体の他の例を示す断面図である。
図3に示すように、本実施の形態の導電体10は、層11と層12との間に介在する介在物14を有してもよく、介在物14は、以下の組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含んでもよい。
Fe
2As・・・(化5)
【0053】
後述する
図6乃至
図10を用いて説明するように、本実施の形態の導電体の製造方法により導電体10を製造する場合において、ヒ素を含む固体原料を加熱することによりヒ素を含む気体を発生させ、発生したヒ素を含む気体に、加熱された状態の鉄を含む出発材料を接触させる際に、出発材料に含まれる鉄と、気体に含まれるヒ素とが反応することにより、層11と層12との間に、上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含む介在物14が形成されることがある。言い換えれば、層11と層12との間に、上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含む介在物14が形成されている場合、導電体10が、本実施の形態の導電体の製造方法により製造されたものであることが分かる。
【0054】
後述する
図24及び
図25を用いて説明するように、好適には、層11と層12との間に介在する介在物14は、層14bと、層14cと、を含む。層14cは、層14bと層12との間に配置されている。層14bは、層本体14dと、層本体14d中に分散配置された複数の粒子14eと、を含む。層14cは、ヒ素が固溶した鉄を含み、層本体14dは、上記組成式(化5)で表される化合物を含み、粒子14eは、ヒ素が固溶した鉄を含む。このような場合、出発材料13cの表面に上記組成式(化2)で表される層12を容易に形成することができるので、例えば長尺の導電体を容易に製造することができる。
【0055】
本実施の形態の導電体10が超伝導性を有する場合、本実施の形態の導電体10を超伝導線材として備えた送電線を、超伝導送電線10aとして用いることができる。即ち、本実施の形態の導電体10が超伝導性を有する場合、本実施の形態の導電体10を備えた超伝導送電線10aを実現することができる。
【0056】
また、本実施の形態の導電体10が超伝導性を有する場合、本実施の形態の導電体10を超伝導線材としてコイル状に巻回してなる超伝導コイルを、超伝導磁石装置10bとして用いることができる。即ち、本実施の形態の導電体10が超伝導性を有する場合、本実施の形態の導電体10を備えた超伝導磁石装置10bを実現することができる。
【0057】
また、本実施の形態の導電体10が超伝導性を有する場合、本実施の形態の導電体10を超伝導線材としてコイル状に巻回してなる超伝導コイルを、超伝導磁気シールド装置10cとして用いることができる。即ち、本実施の形態の導電体10が超伝導性を有する場合、本実施の形態の導電体10を備えた超伝導磁気シールド装置10cを実現することができる。
【0058】
<導電体の変形例>
次に、本実施の形態の導電体の各種の変形例について説明する。
【0059】
図4は、実施の形態の第1変形例の導電体の一部断面を含む斜視図である。
図4では、導電体の一部を除去して透視した状態を示し、導電体のうち除去された部分を二点鎖線で示している。
【0060】
図4に示すように、本第1変形例の導電体10は、線状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材13を有し、層11は、基材13の表面層である。また、層12は、層11と積層されている。
【0061】
これにより、各種の体積及び各種の形状を有する鉄部材として、各種の汎用的な鉄ワイヤを用いることができるので、導電体の製造コストを低減することができる。
【0062】
本第1変形例の導電体10が超伝導性を有する場合、本第1変形例の導電体10を超伝導線材として備えた送電線を、超伝導送電線10aとして用いることができる。また、本第1変形例の導電体10が超伝導性を有する場合、本第1変形例の導電体10を超伝導線材としてコイル状に巻回してなる超伝導コイルを、超伝導磁石装置10b又は超伝導磁気シールド装置10cとして用いることができる。
【0063】
図5は、実施の形態の第2変形例の導電体の一部断面を含む斜視図である。
図5では、導電体の一部を除去して透視した状態を示し、導電体のうち除去された部分を二点鎖線で示している。
【0064】
図5に示すように、本第2変形例の導電体10は、面13a(
図2参照)及び面13aと反対側の面13b(
図2参照)よりなる板状形状をそれぞれ備え、且つ、金属鉄をそれぞれ主成分として含む複数の基材13を有し、層11は、複数の基材13の各々の面13a又は面13bの表面層であり、複数の基材13は、複数の基材13の各々の厚さ方向に積層されている。また、複数の基材13の各々において、層12は、層11と積層されている。
【0065】
このような場合、薄い鉄板をそれぞれ有する複数の導電体を厚さ方向に積層することにより、基材としての厚い鉄板の表面に層12を形成することができるので、導電体の製造コストを増大させずに基材の体積を容易に増加させることができる。
【0066】
また、本第2変形例の導電体10が超伝導性を有する場合、本第2変形例の導電体10よりなる超伝導バルク体を、超伝導磁石装置10b又は超伝導磁気シールド装置10cとして用いることができる。即ち、本第2変形例の導電体10が超伝導性を有する場合、本第2変形例の導電体10を備えた超伝導磁石装置10b又は超伝導磁気シールド装置10cを実現することができる。
【0067】
本第2変形例の導電体10が超伝導性を有する場合、本第2変形例の導電体10を超伝導線材として備えた送電線を、超伝導送電線10aとして用いることができる。また、本第2変形例の導電体10が超伝導性を有する場合、本第2変形例の導電体10を超伝導線材としてコイル状に巻回してなる超伝導コイルを、超伝導磁石装置10b又は超伝導磁気シールド装置10cとして用いることができる。
【0068】
<導電体の製造方法>
次に、本実施の形態の導電体の製造方法を説明する。本実施の形態の導電体の製造方法は、鉄を含む出発材料の少なくとも表面に、上記組成式(化2)で表される化合物を含む層を形成するものである。また、上記組成式(化2)において、AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。即ち、AEは、アルカリ土類金属元素のうち少なくとも一種の元素であり、Aは、アルカリ金属元素のうち少なくとも一種の元素であり、TMは、遷移金属元素のうち少なくとも一種の元素である。また、上記組成式(化2)において、xは、0≦x<1を満たし、yは、0≦y<0.5を満たし、zは、0≦z<0.8を満たす。
【0069】
なお、本実施の形態の導電体の製造方法は、出発材料に含まれる鉄とヒ素及びBaとを同時に反応させる点で、出発材料に含まれる鉄とヒ素とを反応させることにより、鉄とヒ素とを含む化合物を形成した後、鉄とヒ素とを含む化合物とBaとを反応させる実施の形態の導電体の製造方法と異なる。
【0070】
図6は、実施の形態の導電体の製造工程の一部を示すプロセスフロー図である。
図7は、実施の形態の導電体の製造工程中の一部断面を含む斜視図である。
図7では、出発材料の一部を除去して透視した状態を示し、出発材料のうち除去された部分を二点鎖線で示している。
図8乃至
図10は、実施の形態の導電体の製造工程中の断面図である。
【0071】
まず、出発材料13cと固体原料15とを用意する(
図6のステップS1)。
【0072】
このステップS1では、
図7に示すように、鉄を含む出発材料13cを用意する。鉄を含む出発材料13cとして、面13a及び面13aと反対側の面13b(
図2参照)よりなる板状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材13を、用意する。上記組成式(化2)においてyが0<y<0.5を満たすとき、出発材料13cは、更にTMを含む。前述したように、上記組成式(化2)におけるTMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。
【0073】
好適には、出発材料13cとして、例えば炭素等の不純物の含有量の少ない純鉄を用いることができる。これにより、上記組成式(化2)で表される化合物を含む層12(後述する
図9参照)を容易に形成することができる。
【0074】
また、このステップS1では、
図8に示すように、第1元素E1及び第2元素E2を含む固体原料15を用意する。第1元素E1は、上記組成式(化2)におけるAEを含み、第2元素E2は、ヒ素(As)を含む。前述したように、上記組成式(化2)におけるAEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。
【0075】
第1元素E1がAEを含み、第2元素E2がヒ素を含むとき、固体原料15として、例えば組成式BaAs2で表される固体原料を用いることができる。固体原料15として、BaAs2で表される固体原料を用いる場合、第1元素E1に対する第2元素E2のモル比が2になり、上記組成式(化4)で表される化合物の組成に等しくなるので、Ba122を含む層12を容易に形成することができる。なお、固体原料15中でBaとAsとが反応していてもよく、BaとAsとが反応していなくてもよい。
【0076】
また、上記組成式(化2)においてxが0<x<1を満たすとき、第1元素E1は、更に上記組成式(化2)におけるAを含み、上記組成式(化2)においてzが0<z<0.8を満たすとき、第2元素E2は、更にリン(P)を含む。前述したように、上記組成式(化2)におけるAは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。
【0077】
次に、
図8に示すように、出発材料13cと固体原料15とを、気密可能な容器16内に配置する(
図6のステップS2)。
【0078】
このステップS2では、固体原料15が出発材料13cから離隔している状態か、固体原料15が出発材料13cと離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cとは混合されていない状態か、固体原料15が出発材料13cから離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cと分離されている状態か、又は、固体原料15が配置された領域が出発材料13cが配置された領域と分離されている状態で、出発材料13cと固体原料15とを配置する。
【0079】
次に、
図8に示すように、容器16内を真空状態にするか、又は、容器16内の雰囲気を不活性ガスにより置換する(
図6のステップS3)。不活性ガスとして、例えばアルゴン(Ar)等の第18族元素よりなる希ガスを用いることができる。
【0080】
次に、
図9に示すように、出発材料13cを、第1元素E1及び第2元素E2を含む気体G1に接触させる(
図6のステップS4)。
【0081】
このステップS4では、第1元素E1及び第2元素E2を含む固体原料15と出発材料13cとを加熱し、固体原料15を加熱することにより気体G1を発生させ、発生した気体G1に、加熱された状態の出発材料13cを接触させ、出発材料13cに含まれる鉄と、気体G1に含まれる第1元素E1及び第2元素E2とを反応させることにより、
図9に示すように、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11上に、層12を形成する。なお、上記組成式(化2)においてyが0<y<0.5を満たすとき、ステップS4では、出発材料13cに含まれるTM及び鉄と、気体G1に含まれる第1元素E1及び第2元素E2とを反応させることにより、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11上に、層12を形成する。
【0082】
このような場合、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10を容易に形成することができる。
【0083】
前述したように、ステップS2を行った後、ステップS4を行う前は、固体原料15が出発材料13cから離隔している状態か、固体原料15が出発材料13cと離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cとは混合されていない状態か、固体原料15が出発材料13cから離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cと分離されている状態か、又は、固体原料15が配置された領域が出発材料13cが配置された領域と分離されている状態である。そのため、ステップS4では、出発材料13cの表面を拡散するか、又は、出発材料13cの表面から内部に拡散した第1元素E1及び第2元素E2と、出発材料13cに含まれる鉄とが反応することにより、初めて層12が形成されることになる。従って、本実施の形態の導電体の製造方法は、鉄、第1元素E1及び第2元素E2を含む粉末を加熱することにより、粉末から発生した気体に含まれる第1元素E1及び第2元素E2を、粉末に含まれる鉄と反応させる方法とは、全く異なる。また、後述するように、長尺のワイヤとしての導電体を形成する場合には、本実施の形態の導電体の製造方法は、粉末から発生した気体に含まれる第1元素E1及び第2元素E2を、粉末に含まれる鉄と反応させる方法に比べ、長尺のワイヤとしての導電体を極めて容易に形成することができる。
【0084】
好適には、ステップS4では、固体原料15を、熱処理温度としての温度T1に加熱し、出発材料13cを、熱処理温度としての温度T2に加熱し、固体原料15を温度T1に加熱することにより気体G1を発生させ、発生した気体G1に、温度T2に加熱された状態の出発材料13cを接触させる。なお、温度T1と温度T2とは、互いに等しくてもよく、互いに異なってもよい。また、気体G1に代えて、液体を発生させ、発生した液体に、出発材料13cを接触させてもよい。
【0085】
このような場合、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を更に容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10を更に容易に形成することができる。
【0086】
或いは、好適には、ステップS4では、固体原料15を700℃以上の温度T1に加熱し、出発材料13cを700℃以上の温度T2に加熱し、固体原料15を温度T1に加熱することにより気体G1を発生させ、発生した気体G1に、温度T2に加熱された状態の出発材料13cを接触させる。このような場合も、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を更に容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10を更に容易に形成することができる。なお、温度T1と温度T2とは、互いに等しくてもよく、互いに異なってもよい。
【0087】
なお、ステップS4では、出発材料13cを、第1元素E1及び第2元素E2を含む気体G1に接触させることができればよいので、例えば容器16とは別に設けられ、且つ、内部が容器16内と連通した容器(図示は省略)内に固体原料15を配置し、当該容器内で例えば固体原料15を加熱することにより気体G1を発生させ、発生した気体G1を容器16内に供給し、供給された気体G1に、加熱された状態の出発材料13cを接触させてもよい。
【0088】
また、ステップS4では、ヒ素を含む固体原料15を加熱することによりヒ素を含む気体G1を発生させ、発生したヒ素を含む気体G1に、加熱された状態の鉄を含む出発材料13cを接触させる際に、出発材料13cを加熱する温度T2によっては、出発材料13cに含まれる鉄と、気体G1に含まれるヒ素とが反応することにより、
図10に示すように、層11と層12との間に、上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含む介在物14が形成されることがある。従って、層11と層12との間に上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含む介在物14が形成されている場合、導電体10が、本実施の形態の導電体の製造方法により製造されたものであることが分かる。
【0089】
好適には、ステップS4の後、第3元素E3を含む気体G2(
図9参照)又は第3元素E3を含む液体L1(
図9参照)に層12を接触させることにより、層12に含まれるAEの一部を第3元素E3により置換する(
図6のステップS5)。第3元素E3は、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む。
【0090】
ステップS4にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、第1元素E1がAを含まず、且つ、xがx=0を満たす場合でも、ステップS4の後、ステップS5を行うことにより、上記組成式(化2)で表される化合物において、xが0<x<1を満たすようにすることができる。なお、ステップS4にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、第1元素E1がAを含み、且つ、xが0<x<1を満たす場合でも、ステップS5を行うことができる。
【0091】
好適には、ステップS4の後、第4元素E4を含む気体G3(
図9参照)又は第4元素E4を含む液体L2(
図9参照)に層12を接触させることにより、層12に含まれるヒ素の一部を第4元素E4により置換する(
図6のステップS6)。第4元素E4は、リンを含む。
【0092】
ステップS4にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、zがz=0を満たす場合でも、ステップS4の後、ステップS6を行うことにより、上記組成式(化2)で表される化合物において、zが0<z<0.8を満たすようにすることができる。なお、ステップS4にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、zが0<z<0.8を満たす場合でも、ステップS6を行うことができる。
【0093】
また、
図6では、ステップS4の後、ステップS5、ステップS6を順次行う場合を例示しているが、ステップS4の後、ステップS5とステップS6とを行う順番は任意であり、或いは、ステップS5とステップS6とを同時に行ってもよい。
【0094】
例えば、基材13として、線状形状又は板状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材13を用い、基材13が巻回された送り出しリールと、基材13が巻き取られる巻き取りリールとを容器16内に設けるか、又は、送り出しリールと巻き取りリールとの間に容器16を設け、送り出しリール及び巻き取りリールを一定速度で回転させ、送り出しリールから送り出された基材13が、容器16内の一定位置を一定速度で通過する際に、基材13の表面に層12を形成し、表面に層12が形成された基材13が、巻き取りリールに巻き取られるようにする。このようにして、例えば実施の形態の導電体の第1変形例で説明したような、線状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材13を有し、層11は、基材13の表面層であるような、長尺のワイヤとしての導電体を形成することができる。
【0095】
<導電体の製造方法の変形例>
次に、本実施の形態の導電体の製造方法の変形例を説明する。本変形例の導電体の製造方法は、出発材料に含まれる鉄と、ヒ素とを反応させることにより、鉄とヒ素とを含む化合物を形成した後、鉄とヒ素とを含む化合物と、Baとを反応させることにより、層12を形成する点で、出発材料に含まれる鉄とヒ素及びBaとを同時に反応させる導電体の製造方法と異なる。
【0096】
後述する実施例8を用いて説明するように、実施の形態の導電体の製造工程では、出発材料13cを、Ba及びAsを含む気体G1(
図9参照)に接触させたときのBa122の生成過程において、第1段階で、出発材料13cに含まれる鉄と、気体G1に含まれるヒ素と、が反応することにより、ヒ素が固溶した鉄即ち(Fe,As)が形成され、第2段階で、ヒ素が固溶した鉄即ち(Fe,As)と、気体G1に含まれるヒ素と、が反応することにより、主としてFe
2Asが形成され、第3段階として、Fe
2AsとBaとAsとが反応することにより、BaFe
2As
2(Ba122)が形成されると考えられる。即ち、Ba122の生成過程の前半部分では、Baはあまり反応に寄与していないと考えられる。従って、出発材料13cを、Ba及びAsを含む気体G1(
図9参照)に接触させることに代えて、出発材料13cを、まずAsを含む気体に接触させ、出発材料に含まれる鉄と、ヒ素とを反応させることにより、鉄とヒ素とを含む化合物を形成した後、鉄とヒ素とを含む化合物と、Baとを反応させることによっても、層12を形成することができると考えられる。これにより、導電体の製造工程中において同時に制御するパラメータの数を削減することができるので、上記組成式(化2)で表される層12を含む導電体を再現性良く製造することができる。
【0097】
本変形例の導電体の製造方法も、実施の形態の導電体の製造方法と同様に、鉄を含む出発材料の少なくとも表面に、上記組成式(化2)で表される化合物を含む層を形成するものである。また、上記組成式(化2)において、AEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Aは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、TMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。即ち、AEは、アルカリ土類金属元素のうち少なくとも一種の元素であり、Aは、アルカリ金属元素のうち少なくとも一種の元素であり、TMは、遷移金属元素のうち少なくとも一種の元素である。また、上記組成式(化2)において、xは、0≦x<1を満たし、yは、0≦y<0.5を満たし、zは、0≦z<0.8を満たす。
【0098】
図11は、実施の形態の変形例の導電体の製造工程の一部を示すプロセスフロー図である。
図12及び
図13は、実施の形態の変形例の導電体の製造工程中の断面図である。
【0099】
まず、出発材料13cと固体原料15aと固体原料15bとを用意する(
図11のステップS11)。
【0100】
このステップS11では、
図12に示すように、鉄を含む出発材料13cを用意する。鉄を含む出発材料13cとして、例えば側周面13dを含む線状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材13を、用意する。上記組成式(化2)においてyが0<y<0.5を満たすとき、出発材料13cは、更にTMを含む。前述したように、上記組成式(化2)におけるTMは、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。
【0101】
好適には、出発材料13cとして、例えば炭素等の不純物の含有量の少ない純鉄を用いることができる。これにより、後述するステップS14において説明するように、出発材料13cに含まれる鉄と、ヒ素と、を含む化合物を含む層14a(
図12参照)を容易に形成することができる。
【0102】
また、このステップS11では、
図12に示すように、少なくともヒ素(As)を含む第5元素E5を含む固体原料15aを用意する。即ち、固体原料15aは、少なくともヒ素を含む。
【0103】
固体原料15aが少なくともヒ素を含むものであればよいので、固体原料15aとして、第5元素E5、及び、後述する上記組成式(化2)におけるAEを含む第6元素E6、を含む固体原料15aを用いることができ、このような場合、例えば組成式BaAs2で表される固体原料を用いることができる。固体原料15aとして、BaAs2で表される固体原料を用いる場合、出発材料13cに含まれる鉄と、固体原料15aに含まれるヒ素と、を含む化合物を含む層14aを容易に形成することができる。なお、固体原料15a中でBaとAsとが反応していてもよく、BaとAsとが反応していなくてもよい。
【0104】
また、このステップS11では、
図13に示すように、少なくとも上記組成式(化2)におけるAEを含む第6元素E6を含む固体原料15bを用意する。前述したように、上記組成式(化2)におけるAEは、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。第6元素E6がAEを含むとき、固体原料15bとして、例えば金属単体バリウム(Ba)等Baを含む固体原料を用いることができる。また、カリウム(K)を添加するときは、バリウムとカリウムとの合金を含む固体原料、又は、金属単体バリウム及び金属単体カリウムを一緒に載置した状態での固体原料を用いることができる。
【0105】
また、上記組成式(化2)においてxが0<x<1を満たすとき、第6元素E6は、更に上記組成式(化2)におけるAを含み、上記組成式(化2)においてzが0<z<0.8を満たすとき、第5元素E5は、更にリン(P)を含む。前述したように、上記組成式(化2)におけるAは、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素である。
【0106】
次に、
図12に示すように、
図6のステップS2と同様のステップを行って、出発材料13cと固体原料15aとを、気密可能な容器16内に配置する(
図11のステップS12)。
【0107】
このステップS12では、固体原料15aが出発材料13cから離隔している状態か、固体原料15aが出発材料13cと離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cとは混合されていない状態か、固体原料15aが出発材料13cから離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cと分離されている状態か、又は、固体原料15aが配置された領域が出発材料13cが配置されている領域と分離されている状態で、出発材料13cと固体原料15aとを配置する。
【0108】
次に、図示は省略するものの、
図6のステップS3と同様のステップを行って、容器16内を真空状態にするか、又は、容器16内の雰囲気を不活性ガスにより置換する(
図11のステップS13)。不活性ガスとして、例えばアルゴン(Ar)等の第18族元素よりなる希ガスを用いることができる。
【0109】
次に、
図12に示すように、出発材料13cを、第5元素E5を含む気体G4に接触させる(
図6のステップS14)。
【0110】
このステップS14では、第5元素E5を含む固体原料15aと出発材料13cとを加熱し、固体原料15aを加熱することにより気体G4を発生させ、発生した気体G4に、加熱された状態の出発材料13cを接触させ、出発材料13cに含まれる鉄と、気体G4に含まれる第5元素E5とを反応させることにより、
図12に示すように、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11上に、出発材料13cに含まれる鉄と、固体原料15aに含まれるヒ素と、を含み、且つ、上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含む層14aを形成する。なお、上記組成式(化2)においてyが0<y<0.5を満たすとき、ステップS14では、出発材料13cに含まれるTM及び鉄と、気体G4に含まれる第5元素E5とを反応させることにより、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11上に、TM及び鉄とヒ素とを含む化合物を形成する。
【0111】
このような場合、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10(
図13参照)を容易に形成することができる。
【0112】
前述したように、ステップS12を行った後、ステップS14を行う前は、固体原料15aが出発材料13cから離隔している状態か、固体原料15aが出発材料13cと離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cとは混合されていない状態か、固体原料15aが出発材料13cから離隔してはおらず接触しているものの出発材料13cと分離されている状態か、又は、固体原料15aが配置された領域が出発材料13cが配置されている領域と分離されている状態である。そのため、ステップS14では、出発材料13cの表面を拡散するか、又は、出発材料13cの表面から内部に拡散した第5元素E5と、出発材料13cに含まれる鉄とが反応することにより、初めて層14aが形成されることになる。従って、本変形例の導電体の製造方法は、鉄及び第5元素E5を含む粉末を加熱することにより、粉末から発生した気体に含まれる第5元素E5を、粉末に含まれる鉄と反応させる方法とは、全く異なる。
【0113】
次に、
図13に示すように、出発材料13cを、第6元素E6を含む気体G5に接触させる(
図6のステップS15)。
【0114】
このステップS15では、
図11のステップS12と同様に、出発材料13cと固体原料15bとを、気密可能な容器16内に配置した後、
図11のステップS13と同様に、容器16内を真空状態にするか、又は、容器16内の雰囲気を不活性ガスにより置換する。そして、第6元素E6を含む固体原料15bと出発材料13cとを加熱し、固体原料15bを加熱することにより気体G5を発生させ、発生した気体G5に、加熱された状態の出発材料13cを接触させ、層14a(
図12参照)に含まれ、且つ、上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄と、気体G5に含まれる第6元素E6と、を反応させることにより、
図13に示すように、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11上に、上記組成式(化2)で表される化合物を含む層12を形成する。
【0115】
このような場合、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10を容易に形成することができる。
【0116】
好適には、ステップS14では、固体原料15aを、熱処理温度としての温度T3に加熱し、出発材料13cを、熱処理温度としての温度T4に加熱し、固体原料15aを温度T3に加熱することにより気体G4を発生させ、発生した気体G4に、温度T4に加熱された状態の出発材料13cを接触させる。なお、温度T3と温度T4とは、互いに等しくてもよく、互いに異なってもよい。また、気体G4に代えて、液体を発生させ、発生した液体に、出発材料13cを接触させてもよい。
【0117】
このような場合、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、層14aを更に容易に形成することができる。
【0118】
また、好適には、ステップS15では、固体原料15bを、熱処理温度としての温度T5に加熱し、出発材料13cを、熱処理温度としての温度T6に加熱し、固体原料15bを温度T5に加熱することにより気体G5を発生させ、発生した気体G5に、温度T6に加熱された状態の出発材料13cを接触させる。なお、温度T5と温度T6とは、互いに等しくてもよく、互いに異なってもよい。また、気体G5に代えて、液体を発生させ、発生した液体に、出発材料13cを接触させてもよい。
【0119】
このような場合、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を更に容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10を容易に形成することができる。また、出発材料13cを、Asを含む気体G4(
図12参照)に接触させる際の温度等の条件、及び、出発材料13cを、Baを含む気体G5(
図13参照)に接触させる際の温度等の条件、を個別に制御することができるので、層12を有する導電体10を再現性良く製造することができる。
【0120】
或いは、好適には、ステップS14では、固体原料15aを840~900℃の温度T3に加熱し、出発材料13cを840~900℃の温度T4に加熱し、固体原料15aを温度T3に加熱することにより気体G4を発生させ、発生した気体G4に、温度T4に加熱された状態の出発材料13cを接触させる。温度T3及び温度T4が840℃以上の場合、温度T3及び温度T4が840℃未満の場合に比べ、層11上に鉄とヒ素とを含む融液が発生しやすくなること等により、層11と層14aとの間の密着性が向上し、層14aの品質が向上する。また、温度T3及び温度T4が900℃以下の場合、温度T3及び温度T4が900℃を超える場合に比べ、層14aに含まれるヒ素が気化しにくくなること又は層11上で鉄とヒ素とを含む融液が発生する量が多くなり過ぎないこと等により、層14aの品質が向上する。従って、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、層14aを更に容易に形成することができる。なお、温度T3と温度T4とは、互いに等しくてもよく、互いに異なってもよい。
【0121】
或いは、好適には、ステップS15では、固体原料15bを700~840℃の温度T5に加熱し、出発材料13cを700~840℃の温度T6に加熱し、固体原料15bを温度T5に加熱することにより気体G5を発生させ、発生した気体G5に、温度T6に加熱された状態の出発材料13cを接触させる。温度T5及び温度T6が700℃以上の場合、温度T5及び温度T6が700℃未満の場合に比べ、固体原料15bに含まれるAEが気化しやすくなること等により、層12を容易に形成することができる。また、温度T5及び温度T6が840℃以下の場合、温度T5及び温度T6が840℃を超える場合に比べ、鉄とヒ素とを含む融液が発生しにくくなり、層14a及び層12に含まれるヒ素が気化しにくくなること等により、層12を容易に形成することができる。従って、大気圧よりも減圧されていない雰囲気下であっても、各種の体積及び各種の形状を有する鉄を含む基材13の表面層としての層11上に、例えば10μm以上の厚膜形状を有する層12を更に容易に形成することができ、層11と層12とを有する導電体10を更に容易に形成することができる。なお、温度T5と温度T6とは、互いに等しくてもよく、互いに異なってもよい。
【0122】
また、ステップS14又はステップS15では、出発材料13cを、第5元素E5を含む気体G4又は第6元素E6を含む気体G5に接触させることができればよいので、例えば容器16とは別に設けられ、且つ、内部が容器16内と連通した容器(図示は省略)内に固体原料15a又は固体原料15bを配置し、当該容器内で例えば固体原料15a又は固体原料15bを加熱することにより気体G4又は気体G5を発生させ、発生した気体G4又は気体G5を容器16内に供給し、供給された気体G4又は気体G5に、加熱された状態の出発材料13cを接触させてもよい。
【0123】
また、ステップS15では、出発材料13cを加熱する温度T6によっては、
図13に示すように、層11と層12との間に、上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含む層14aが介在物14として残留することがある。従って、層11と層12との間に上記組成式(化5)で表される化合物、又は、ヒ素が固溶した鉄、を含む介在物14が形成されている場合、導電体10が、本変形例の導電体の製造方法又は実施の形態の導電体の製造方法により製造されたものであることが分かる。
【0124】
後述する
図24及び
図25を用いて説明するように、好適には、ステップS15では、層12を形成するとともに、層14aを残留させることにより層11と層12との間に介在物14として配置された層14bを形成し、層14bと層12との間に配置された層14cを形成する。層14cは、ヒ素が固溶した鉄を含む。このような場合、出発材料13cの表面に上記組成式(化2)で表される層12を容易に形成することができるので、例えば長尺の導電体を容易に製造することができる。
【0125】
また、後述する
図24及び
図25を用いて説明するように、好適には、ステップS15にて形成される層14bは、層本体14dと、層本体14d中に分散配置された複数の粒子14eと、を含む。層本体14dは、上記組成式(化5)で表される化合物を含み、粒子14eは、ヒ素が固溶した鉄を含む。このような場合、出発材料13cの表面に上記組成式(化2)で表される層12を容易に形成することができるので、例えば長尺の導電体を容易に製造することができる。
【0126】
好適には、ステップS15の後、
図6のステップS5と同様に、第3元素E3を含む気体G2(
図13参照)又は第3元素E3を含む液体L1(
図13参照)に層12を接触させることにより、層12に含まれるAEの一部を第3元素E3により置換する(
図11のステップS16)。第3元素E3は、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む。
【0127】
ステップS15にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、第6元素E6がAを含まず、且つ、xがx=0を満たす場合でも、ステップS15の後、ステップS16を行うことにより、上記組成式(化2)で表される化合物において、xが0<x<1を満たすようにすることができる。なお、ステップS15にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、第6元素E6がAを含み、且つ、xが0<x<1を満たす場合でも、ステップS16を行うことができる。
【0128】
好適には、ステップS15の後、
図6のステップS6と同様に、第4元素E4を含む気体G3(
図13参照)又は第4元素E4を含む液体L2(
図13参照)に層12を接触させることにより、層12に含まれるヒ素の一部を第4元素E4により置換する(
図11のステップS17)。第4元素E4は、リンを含む。
【0129】
ステップS15にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、zがz=0を満たす場合でも、ステップS15の後、ステップS17を行うことにより、上記組成式(化2)で表される化合物において、zが0<z<0.8を満たすようにすることができる。なお、ステップS15にて形成された層12に含まれ、且つ、上記組成式(化2)で表される化合物において、zが0<z<0.8を満たす場合でも、ステップS17を行うことができる。
【0130】
また、
図6では、ステップS15の後、ステップS16、ステップS17を順次行う場合を例示しているが、ステップS15の後、ステップS16とステップS17とを行う順番は任意であり、或いは、ステップS16とステップS17とを同時に行ってもよい。
【0131】
本変形例の導電体の製造方法でも、実施の形態の導電体の製造方法と同様に、送り出しリールから送り出された基材13が、容器16内の一定位置を一定速度で通過する際に、基材13の表面に層12を形成し、表面に層12が形成された基材13が、巻き取りリールに巻き取られるようにすることにより、長尺のワイヤとしての導電体を形成することができる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例に基づいて本実施の形態を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0133】
(比較例及び実施例1乃至3)
比較例及び実施例1乃至3の導電体を形成した。比較例及び実施例1乃至3の導電体において、上記組成式(化2)即ち上記組成式(化4)で表される化合物が形成されたか否かを、表1に示す。表1では、上記組成式(化4)で表される化合物が形成された場合を○で示し、上記組成式(化4)で表される化合物が形成されなかった場合を×で示している。なお、実施例1乃至3の導電体は、実施の形態の導電体の製造方法により形成されたものであり、出発材料に含まれる鉄とヒ素及びBaとを同時に反応させたものである。
【0134】
【0135】
表1に示すように、比較例の導電体では、上記組成式(化4)で表される化合物即ちBa122を形成できなかったが、実施例1乃至3の導電体では、上記組成式(化4)で表される化合物を形成することができた。以下、詳細について説明する。
【0136】
[導電体の形成]
まず、出発材料13c(
図7参照)と固体原料15(
図8参照)とを用意した。
【0137】
出発材料13cとして、板状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材、即ち純Fe板を用意した。具体的には、純Fe板として、レーザー加工機を用いて、10mmの長さ、3mmの幅、及び、0.5mmの厚さを有する板状形状に純Fe板を加工したものを、用いた。
【0138】
また、固体原料15として、BaAs2よりなる固体原料を用意した。具体的には、アルゴン(Ar)雰囲気下で、モル比でBa:As=1:2になるように単体金属を秤量し、ボールミルを用いて混合した。そして、混合された単体金属をペレット状に成型して固体原料15を得た。
【0139】
次に、出発材料13cと固体原料15とを、気密可能な容器16(
図8参照)内に配置し、容器16内を真空状態にした。
【0140】
具体的には、BaAs2よりなる固体原料15と、純Fe板よりなる出発材料13cと、をステンレス鋼よりなる管(ステンレス管)内に配置し、内部に固体原料15と出発材料13cとが配置されたステンレス管を石英管中に真空状態で封入した。
【0141】
次に、出発材料13cと固体原料15とを加熱処理することにより、出発材料13cを、Ba及びAsを含む気体G1(
図9参照)に接触させた。具体的には、Ba及びAsを含む固体原料15を、熱処理温度としての温度T1で加熱し、出発材料13cを、熱処理温度としての温度T2で加熱し、固体原料15を温度T1で加熱することにより気体G1を発生させ、発生した気体G1に、温度T2で加熱された状態の出発材料13cを接触させた。そして、出発材料13cに含まれる鉄と、気体G1に含まれるBa及びAsとを反応させることにより、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11(
図9参照)上に、層12(
図9参照)を形成した。
【0142】
ここで、温度T2を温度T1と等しくし、温度T1がそれぞれ600℃、700℃、800℃、900℃である場合を、比較例、実施例1、実施例2、実施例3とした。
【0143】
[X線回折法による評価]
形成された比較例及び実施例1乃至3の導電体について、X線回折(X‐ray diffraction:XRD)法による評価を行った。
図14は、比較例及び実施例1乃至3の導電体の表面のXRD法によるθ-2θスペクトルを示すグラフである。
図14では、測定されたθ-2θスペクトルに加えて、Ba122のθ-2θスペクトルとして知られているものを表示している。
【0144】
図14に示すように、熱処理温度としての温度T1が600℃である比較例の導電体のXRD法によるθ-2θスペクトルにおいては、Fe
2Asに起因するピークは観測されたものの、Ba122に起因するピークは観測されなかった。そのため、温度T1が600℃の場合、基材13に含まれる鉄と気体G1に含まれるヒ素とが反応してFe
2Asが生成するものの、Ba122は生成しないことが明らかになった。
【0145】
一方、熱処理温度としての温度T1がそれぞれ700℃、800℃、900℃である実施例1、実施例2、実施例3の導電体のXRD法によるθ-2θスペクトルにおいては、Ba122に起因するピークが観測された。そのため、温度T1が700~900℃の場合、Ba122が生成することが明らかになった。
【0146】
即ち、ステップS4において、固体原料15を700℃以上の温度T1に加熱し、出発材料13cを700℃以上の温度T2に加熱し、固体原料15を温度T1に加熱することにより気体G1を発生させ、発生した気体G1に、温度T2に加熱された状態の出発材料13cを接触させることにより、上記組成式(化2)で表される化合物を含む層12が形成されることが明らかになった。
【0147】
また、温度T1が700~900℃の範囲では、温度T1の上昇に伴って、Fe2Asに起因するピークの強度が減少し、且つ、Ba122に起因するピークの強度が増加し、温度T1が900℃の場合、Fe2Asに起因するピークは観測されず、Ba122に起因するピークの強度は最大となった。そのため、温度T1が700~900℃の範囲では、温度T1の上昇に伴って、Ba122の含有量に対するFe2Asの含有量の割合が減少し、温度T1が900℃の場合、略単相のBa122が得られた。
【0148】
更に、
図14に示すように、実施例3(900℃)の導電体のθ-2θスペクトルにおいては、実施例2(800℃)の導電体のθ-2θスペクトル、及び、実施例1(700℃)の導電体のθ-2θスペクトルに比べて、Ba122の(110)面に相当するピークの強度が強くなっていた。そのため、Ba122は、例えばその結晶粒がc軸方向に優先成長したと考えられる。
【0149】
なお、Ba122の格子定数については、実施例1(700℃)、実施例2(800℃)及び実施例3(900℃)のいずれにおいても、熱処理温度としての温度T1が700~900℃の場合、測定された格子定数a及びcについては、それぞれ非特許文献2に記載された格子定数a及びcの値である、0.3963nm、1.3022nmに略近い値が得られた。従って、格子定数a及びcの測定値からも、実施例1乃至3において、Ba122が得られたと考えられる。
【0150】
以上の結果より、実施例1乃至3の導電体において、Fe板にバリウム及びヒ素を含む気体を接触させることにより、Ba122を形成できることが明らかになった。
【0151】
(実施例4及び5並びに実施例6乃至8)
実施例4及び5の導電体を形成した。実施例4及び5の導電体において、上記組成式(化2)で表される化合物が形成されたか否かを、表2に示す。表2では、上記組成式(化2)で表される化合物が形成された場合を○で示している。なお、実施例4及び5の導電体も、実施例1乃至3の導電体と同様に、出発材料に含まれる鉄とヒ素及びBaとを同時に反応させたものである。
【0152】
【0153】
まず、固体原料としてBa0.6K0.4As2を用いたこと以外は、実施例3と同様の条件により、実施例4の導電体を形成した。その結果、上記組成式(化2)で表される化合物として、Ba0.6K0.4Fe2As2(表2では「(Ba,K)Fe2As2」と表記)を形成することができた。
【0154】
実施例4では、固体原料15として、Ba0.6K0.4As2よりなる固体原料を用意した。具体的には、アルゴン(Ar)雰囲気下で、モル比でBa:K:As=0.6:0.4:2になるように単体金属を秤量し、ボールミルを用いて混合した。そして、混合された単体金属をペレット状に成型して固体原料15を得た。
【0155】
なお、固体原料中のBaとKとの組成比は6:4であるが、蒸気となって、鉄板と反応するため、固溶したBaとKとの組成比は厳密には6:4と異なる虞がある。そのため、表2では、「(Ba,K)Fe2As2」と表記している。
【0156】
また、詳細な説明は省略するが、上記組成式(化2)において、AEが、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Aが、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、xが、0<x<1を満たし、第1元素E1が、更にAを含む、各種の組成である場合も、同様に、上記組成式(化2)で表される化合物を形成することができた。
【0157】
一方、出発材料としてFe0.92Co0.08を用いたこと以外は、実施例3と同様の条件により、実施例5の導電体を形成した。その結果、上記組成式(化2)で表される化合物として、Ba(Fe0.92Co0.08)2As2を形成することができた。
【0158】
実施例5では、出発材料13cとして、円板状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材、即ちFe、Co混合ペレットを用意した。具体的には、Fe、Co混合ペレットとして、アルゴン(Ar)雰囲気下で、モル比でFe:Co=0.92:0.08になるように単体金属を秤量し、錠剤成型器を用いて、7mmの直径、及び、0.5mmの厚さを有する円板状形状に加工したものを、用いた。なお、実施例5では、固体原料は、BaAs2のままであった。
【0159】
なお、詳細な説明は省略するが、上記組成式(化2)において、TMが、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、yが、0<y<0.5を満たし、出発材料が、更にTMを含む、各種の組成である場合も、同様に、上記組成式(化2)で表される化合物を形成することができた。
【0160】
[X線回折法による評価]
形成された実施例4及び5の導電体について、XRD法による評価を行った。
図15は、実施例4及び5の導電体の表面のXRD法によるθ-2θスペクトルを示すグラフである。
図15では、測定されたθ-2θスペクトルに加えて、実施例4及び5と同条件(実施例3と同条件)で、且つ、KもCoも含有しない実施例(便宜上実施例6と称する。)のθ-2θスペクトル、及び、Ba122のθ-2θスペクトルとして知られているものを、表示している。なお、
図15では、実施例6のθ-2θスペクトルを「Non doped」と表記し、Ba122のθ-2θスペクトルとして知られているものを、「BaFe
2As
2 data」と表記している。
【0161】
図15に示すように、実施例4についても、実施例3(実施例6)と同様に、略単相のBa122、即ち(Ba,K)Fe
2As
2が得られた。また、
図15に示すように、実施例5についても、実施例3(実施例6)と同様に、略単相のBa122、即ちBa(Fe
0.92Co
0.08)
2As
2が得られた。
【0162】
[電気抵抗測定による評価]
形成された実施例4及び5の導電体について、電気抵抗測定による評価を行った。
図16及び
図17は、実施例4の導電体の電気抵抗の温度依存性を示すグラフである。
図18は、実施例5の導電体の電気抵抗の温度依存性を示すグラフである。
図16乃至
図18の横軸は、温度を示し、
図16乃至
図18の縦軸は、電気抵抗を300Kにおける電気抵抗で規格化した値を示す。
図17は、0~300Kの温度範囲を示す
図16のグラフのうち超伝導転移付近の温度範囲である35~40Kの温度範囲を示し、
図18は、超伝導転移付近の温度範囲である15~30Kの温度範囲を示す。
【0163】
図16及び
図17に示すように、実施例4の導電体については、約38Kで明瞭な超伝導転移が観測された。また、図示は省略するが、零磁場冷却(Zero-Field Cooling:ZFC)した実施例4の導電体に対して5Kで1Oeの磁場を印加して40Kまで昇温した際の磁化の温度依存性を測定したところ、約37Kで超伝導転移のオンセットが観測された。従って、実施例4の導電体、即ち(Ba,K)Fe
2As
2が超伝導性を有することが明らかになった。
【0164】
また、
図18に示すように、実施例5の導電体については、約25Kで明瞭な超伝導転移が観測された。従って、実施例5の導電体、即ちBa(Fe
0.92Co
0.08)
2As
2が超伝導性を有することが明らかになった。
【0165】
ここで、固体原料中のBaとKとの組成比を6:4以外の組成にしたこと以外は、実施例1乃至3のいずれかと同様の条件により、互いに異なる複数のBaとKとの組成比を有する導電体である実施例7の導電体を形成した。従って、実施例6及び7の導電体も、実施例1乃至3の導電体と同様に、出発材料に含まれる鉄とヒ素及びBaとを同時に反応させたものである。そして、実施例4及び実施例7の導電体について、XRD法により結晶軸の長さを解析し、解析された結晶軸の長さから実施例4及び実施例7の導電体におけるBaとKとの組成比を推定した。その結果、合成条件によってBaとKとの組成比は異なり、BaとKとの原子数の和に対するKの原子数であるKドープ量は、20~60%であることが分かった。即ち、AがKである場合に、上記組成式(化2)で表される化合物が容易に合成される好適なxの範囲は、0.2≦x≦0.6であることが明らかになった。
【0166】
[走査型電子顕微鏡による評価]
温度T1が800℃であること以外は実施例4と同様の条件で形成された実施例8の導電体について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による評価を行い、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectrometry:EDX)による元素マッピングと超伝導体部分の組成分析を行った。従って、実施例8の導電体も、実施例1乃至3の導電体と同様に、出発材料に含まれる鉄とヒ素及びBaとを同時に反応させたものである。
【0167】
図19は、実施例8の導電体の表面付近での断面の反射電子(Backscattered electron:BSE)像を示す写真である。
図19における右側の部分が、鉄を主成分とする層11であり、
図19における左側の部分が、上記組成式(化2)で表される層12である。なお、
図19では、便宜上、層11を「鉄」と表記し、層12即ち超伝導体部分を「反応層」と表記し、「鉄」と「反応層」との間の境界を白色の破線で示している。
【0168】
元素マッピングの図示は省略するものの、「反応層」の部分には、Ba、As及びKが分布しており、Kが添加されたBa122、即ち(Ba,K)Fe2As2が生成されていることが確認された。
【0169】
次に、
図19において、「No.1」、「No.2」及び「No.3」と表記された3つの測定箇所における組成分析を行った。その結果を、表3に示す。なお、「No.1」及び「No.2」の測定箇所は、「反応層」即ち超伝導体部分に配置され、「No.3」の測定箇所は、「鉄」に配置されている。また、表3における組成分析結果は、Ba、K、Fe及びAsの各元素の含有量の合計が100になるように表示されている。
【0170】
【0171】
表3に示すように、「No.1」及び「No.2」、即ち「反応層」に配置された測定箇所において、Ba、K、Fe及びAsのいずれもが検出され、凡そ(Ba+K):Fe:A=1:2:2の関係が成り立つ。そのため、「反応層」の部分がBa122であることが確認された。また、「No.3」、即ち「反応層」から白色の破線を超えて「鉄」側に配置された測定箇所において、Ba及びKのいずれも全く検出されず、Asがわずかしか検出されず、Feが主として検出される。そのため、「鉄」の部分が鉄であることが確認された。
【0172】
以上の結果より、Fe板にBa、K及びAsを含む気体を接触させることにより、Kが添加されたBa122を形成できることが明らかになった。
【0173】
なお、詳細な説明は省略するが、上記組成式(化2)において、zが、0<z<0.8を満たし、第2元素E2が、更にリンを含む、各種の組成である場合も、同様に、上記組成式(化2)で表される化合物を形成することができた。
【0174】
図20は、実施例8の導電体の別の例の表面付近での断面の反射電子(BSE)像を示す写真である。
図20の最下層(1を付した部分)は、ヒ素が固溶した鉄を含む層であり、
図20の中間層(2を付した部分)は、Fe
2AsとBa122とを含む層であり、
図20の最上層(3を付した部分)は、Ba122を含む層12である。詳細な説明は省略するが、各層の組成については、
図19を用いて説明した場合と同様に、EDXにより確認された。
【0175】
図20では、便宜上、最下層を「(Fe,As)」と表記し、中間層を「Fe
2As & Ba122」と表記し、最上層を「Ba122」と表記し、最下層と中間層との間の境界、及び、中間層と最上層との間の境界を、白色の実線で示している。また、
図20の最上層側が、出発材料13cの表面側であり、
図20の最下層側が、出発材料13cの中心側であり、As及びBaは、
図20の最上層側から
図20の最下層側に向かって拡散したことになる。このような場合、出発材料13cを、Ba及びAsを含む気体G1(
図9参照)に接触させたときのBa122の生成過程については、
図20の最下層がBa122の生成過程の第1段階を示し、
図20の中間層がBa122の生成過程の第2段階を示し、
図20の最上層がBa122の生成過程の第3段階を示している、と考えられる。
【0176】
即ち、出発材料13cを、Ba及びAsを含む気体G1(
図9参照)に接触させたときのBa122の生成過程において、
図20の最下層(1を付した部分)に「(Fe,As)」と表記したように、第1段階で、出発材料13cに含まれる鉄と、気体G1に含まれるヒ素と、が反応することにより、ヒ素が固溶した鉄即ち(Fe,As)が形成されたと考えられる。また、第2段階で、
図20の中間層(2を付した部分)に「Fe
2As & Ba122」と表記したように、ヒ素が固溶した鉄即ち(Fe,As)と、気体G1に含まれるヒ素と、が反応することにより、主としてFe
2Asが形成されたと考えられる。また、第3段階で、
図20の最上層(3を付した部分)に「Ba122」と表記したように、Fe
2AsとBaとAsとが反応することにより、BaFe
2As
2(Ba122)が形成されたと考えられる。
【0177】
(実施例9及び10)
実施例9及び10の導電体を形成した。実施例9及び10の導電体では、上記組成式(化4)で表される化合物を形成することができた。なお、実施例9及び10の導電体は、実施の形態の変形例の導電体の製造方法により製造されたものであり、出発材料に含まれる鉄と、ヒ素とを反応させることにより、鉄とヒ素とを含む化合物を形成した後、鉄とヒ素とを含む化合物と、Baとを反応させたものである。以下、詳細について説明する。
【0178】
[導電体の形成]
まず、出発材料13c(
図12参照)と、固体原料15a(
図12参照)と、固体原料15b(
図13参照)と、を用意した。
【0179】
出発材料13cとして、線状形状を備え、且つ、金属鉄を主成分として含む基材、即ち純Feワイヤを用意した。具体的には、純Feワイヤとして、1.45mmの直径、及び、20mmの長さを有するものを、用いた。
【0180】
また、固体原料15aとして、BaAs2よりなる固体原料を用意した。具体的には、アルゴン(Ar)雰囲気下で、モル比でBa:As=1:2になるように単体金属を秤量し、ボールミルを用いて混合した。そして、混合された単体金属をペレット状に成型して固体原料15aを得た。また、固体原料15bとして、金属単体バリウム(Ba)よりなる固体原料を用意した。
【0181】
次に、出発材料13cと固体原料15aとを、気密可能な容器16(
図8参照)内に配置し、容器16内を真空状態にした。
【0182】
具体的には、BaAs2よりなる固体原料15aと、純Feワイヤよりなる出発材料13cと、をステンレス鋼よりなる管(ステンレス管)内に配置し、内部に固体原料15aと出発材料13cとが配置されたステンレス管を石英管中に真空状態で封入した。
【0183】
次に、出発材料13cと固体原料15aとを加熱処理することにより、出発材料13cを、Asを含む気体G4(
図12参照)に接触させた。具体的には、Ba及びAsを含む固体原料15aを、熱処理温度としての温度T3で加熱し、出発材料13cを、熱処理温度としての温度T4で加熱し、固体原料15aを温度T3で加熱することにより気体G4を発生させ、発生した気体G4に、温度T4で加熱された状態の出発材料13cを接触させた。そして、出発材料13cに含まれる鉄と、気体G4に含まれるAsとを反応させることにより、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11(
図12参照)上に、鉄とヒ素とを含む化合物を含む層14a(
図12参照)を形成した。
【0184】
次に、出発材料13cと固体原料15bとを加熱処理することにより、出発材料13cを、Baを含む気体G5(
図13参照)に接触させた。具体的には、出発材料13cと固体原料15bとを、気密可能な容器16内に配置し、容器16内を真空状態にした。次に、Baを含む固体原料15bを、熱処理温度としての温度T5で加熱し、出発材料13cを、熱処理温度としての温度T6で加熱し、固体原料15bを温度T5で加熱することにより気体G5を発生させ、発生した気体G5に、温度T6で加熱された状態の出発材料13cを接触させた。そして、層14aに含まれる化合物と、気体G5に含まれるBaとを反応させることにより、出発材料13cとしての基材13の少なくとも表面層である層11(
図13参照)上に、層12(
図13参照)を形成した。
【0185】
ここで、温度T4を温度T3と等しくし、温度T6を温度T5と等しくし、温度T5を800℃とし、温度T3がそれぞれ750℃、900℃である場合を、実施例9、実施例10とした。
【0186】
実施例9の導電体を形成する前の純Feワイヤよりなる出発材料の写真を、
図21に示す。
図21に示した出発材料をAsを含む気体に接触させた後の出発材料の写真を、
図22に示す。
図22に示した出発材料をBaを含む気体に接触させて実施例9の導電体が形成された後の出発材料の写真を、
図23に示す。なお、
図21乃至
図23における出発材料と一緒に撮影された方眼紙の最小目盛は1mmである。
【0187】
図21に示すように、実施例9の導電体を形成する前の純Feワイヤは、金属光沢を有していた。次に、純FeワイヤにAsを含む気体を接触させることにより、純Feワイヤの表面に、Fe
2As又はAsが固溶したFeが形成されたが、
図22に示すように、一部は金属光沢を有していた。次に、純FeワイヤにBaを含む気体を接触させることにより、純Feワイヤの表面に、Ba122が形成されたが、
図23に示すように、黒色の層が形成された。また、詳細な説明は省略するが、後述する
図24及び
図25を用いて説明した場合と同様に、
図23の層がBa122を含むものであることが、EDXにより確認された。
【0188】
一方、実施例10の導電体については、SEMによる評価を行い、EDXによる元素マッピングと超伝導体部分の組成分析を行った。
図24は、実施例10の導電体の表面付近での断面の反射電子(BSE)像を示す写真である。
図24の左側が、出発材料の表面側であり、
図24の右側が、出発材料の中心側である。
図25は、
図24の写真をトレースすることにより実施例10の導電体の表面付近での断面を模式的に示す図である。なお、
図25のうち領域RG1が、
図24の写真に表示された領域に対応している。また、
図25では、理解を簡単にするために、層本体14dのハッチングを省略している。
【0189】
図24及び
図25に示すように、実施例10の導電体は、層11と、層14bと、層14cと、層12と、よりなる4層構造を有していた。層14bは、層11と層12との間に配置され、層14cは、層14bと層12との間に配置されていた。また、層14bは、母相としての層本体14dと、層本体14d中に分散配置された複数の粒子14eと、を含んでいた。なお、層14bは、前述した
図12を用いて説明した層14aが残留したものと考えられる。また、前述した
図10及び
図13を用いて説明した介在物14は、層14bと、層14cと、を含むことになる。
【0190】
EDXによる組成分析を行ったところ、層12において、Ba、Fe及びAsのいずれもが検出され、それらの元素の存在割合(原子数比)は、百分率で、Ba:Fe:As=13.3%:52.0%:34.7%であり、Ba:Fe:A=1:2:2の関係に近いことから、層12がBa122、即ちBaFe2As2を含むものであると考えられる。また、層14cにおいて、Fe及びAsが検出され、それらの元素の存在割合(原子数比)は、百分率で、Fe:As=92.5%:7.5%であり、Fe:As=2:1の関係から遠く離れていることから、層14cが、Asが固溶したFeを含むものであると考えられる。
【0191】
また、層14bに含まれる層本体14dにおいて、Fe及びAsが検出され、それらの元素の存在割合(原子数比)は、百分率で、Fe:As=67.8%:32.2%であり、Fe:As=2:1の関係に近いことから、層本体14dがFe2Asを含むものであると考えられる。また、層14bに含まれる粒子14eにおいて、Fe及びAsが検出され、それらの元素の存在割合(原子数比)は、百分率で、Fe:As=92.1%:7.9%であり、Fe:As=2:1の関係から遠く離れていることから、粒子14eがAsが固溶したFeを含むものであると考えられる。
【0192】
なお、図示は省略するが、出発材料13cを、Asを含む気体G4(
図12参照)に接触させた後であって、出発材料13cを、Baを含む気体(
図13参照)に接触させる前は、実施例10の導電体は、層11と、層14cと、層本体14dと層本体14d中に分散配置された複数の粒子14eとを含む層14bと、よりなる3層構造を有していた。層14cは、層11と層14bとの間に配置されていた。即ち、
図12に示した層14aは、層14cと、層14bと、を含んでいた。
【0193】
従って、900℃の温度で出発材料13cをAsを含む気体G4(
図12参照)に接触させたとき、層11に含まれるFeと、気体G4に含まれるAsと、が反応することにより、Asが固溶したFeが形成して融解し、融解したAsが固溶したFeが900℃から温度を下降させる際に相分離することにより、Fe
2Asを含む層本体14dと、Asが固溶したFeを含む粒子14eと、を含む層14bが形成されたと考えられる。また、次に、800℃の温度で出発材料13cをBaを含む気体G5(
図13参照)に接触させたとき、層14bの層本体14dに含まれるFe
2Asと、気体G5に含まれるBaと、が反応することにより、Ba122、即ちBaFe
2As
2が形成され、一部のFe
2Asが、Asが固溶したFeに還元されたと考えられる。
【0194】
なお、詳細な説明は省略するが、出発材料13cを、Asを含む気体G4(
図12参照)に接触させる際の温度が、840~900℃の範囲内で且つ900℃以外の場合も、出発材料13cを、Asを含む気体G4に接触させる際の温度が、900℃である場合と、同様の結果が得られた。また、次に、出発材料13cを、Baを含む気体G5(
図13参照)に接触させる際の温度が、700~840℃の範囲内で且つ800℃以外の場合も、出発材料13cを、Baを含む気体G5に接触させる際の温度が、800℃である場合と、同様の結果が得られた。
【0195】
以上の結果より、実施例9及び10の導電体において、出発材料13cに含まれる鉄と、ヒ素とを反応させることにより、鉄とヒ素とを含む化合物を形成した後、鉄とヒ素とを含む化合物と、Baとを反応させる場合でも、出発材料に含まれる鉄と、ヒ素と、Baとを同時に反応させる場合と同様に、Ba122を形成できることが明らかになった。
【0196】
また、実施例9及び10では、出発材料13cを、Asを含む気体G4(
図12参照)に接触させる際の温度等の条件、及び、出発材料13cを、Baを含む気体G5(
図13参照)に接触させる際の温度等の条件、を個別に制御することができ、導電体の製造工程中において同時に制御するパラメータの数を削減することができるので、層12を有する導電体10を再現性良く製造することができる。
【0197】
なお、詳細な説明は省略するが、上記組成式(化2)において、AEが、Ba及びSrからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、xが、0<x<1を満たし、Aが、K及びNaからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、第6元素E6が、更にAを含む、各種の組成である場合も、同様に、層12に含まれる化合物として、上記組成式(化2)で表される化合物を形成することができた。また、上記組成式(化2)において、yが、0<y<0.5を満たし、出発材料が、更にTMを含み、TMが、Cr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも一種の元素である、各種の組成である場合も、同様に、上記組成式(化2)で表される化合物を形成することができた。また、上記組成式(化2)において、zが、0<z<0.8を満たし、第5元素E5が、更にリンを含む、各種の組成である場合も、同様に、層12に含まれる化合物として、上記組成式(化2)で表される化合物を形成することができた。
【0198】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0199】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0200】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明は、導電体の製造方法、導電体、超伝導送電線、超伝導磁石装置及び超伝導磁気シールド装置に適用して有効である。
【符号の説明】
【0202】
10 導電体
10a 超伝導送電線
10b 超伝導磁石装置
10c 超伝導磁気シールド装置
11、12 層
13 基材
13a、13b 面
13c 出発材料
13d 側周面
14 介在物
14a、14b、14c 層
14d 層本体
14e 粒子
15、15a、15b 固体原料
16 容器
G1、G2、G3、G4、G5 気体
L1、L2 液体